この発明に係る噛み合い式係合機構の一例を図6に示している。図6に示す噛み合い式係合機構1は、ブレーキとして機能するものであって、ギヤなどに連結された環状の第1回転部材2と、図示しないケースに軸線方向に移動可能に連結された環状のベースリング3および環状の第1ピストン4とを備えている。図6に示す例では、軸線方向において第1回転部材2、ベースリング3、第1ピストン4の順に配置されている。このベースリング3の外周面には、外側に向けて突出した第1突起部5が形成されている。図示しないケースには、ベースリング3の軸線方向に沿った溝が形成されており、その溝に第1突起部5が係合している。したがって、ベースリング3は、軸線方向に移動可能であり、かつ回転することができないようにケースに係合されている。第1ピストン4にもベースリング3と同様に、外周面から外側に向けて突出した第2突起部6が形成されており、ケースに形成された溝にその第2突起部6が係合している。したがって、第1ピストン4は、軸線方向に移動可能であり、かつ回転することができないようにケースに係合されている。
ベースリング3の外周面には、更に、棒状の係合部材7がピン8により揺動可能に連結されている。この係合部材7は、一方の端部が第1ピストン4に連結され、他方の端部が後述する第2ドグ歯の間に差し込まれる第1ドグ歯9として形成されており、その第1ドグ歯9は、歯先に近づくに連れて幅が広くなるように形成されている。すなわち、第1ドグ歯9の側面は、長手方向に対して傾斜している。
つぎに、上述した各部材2,3,4の形状について図1を参照して説明する。なお、図1には、噛み合い式係合機構1が係合した状態を示し、またケースに形成された溝を模式的に示している。図1に示すベースリング3の外周面には、係合部材7の揺動を制限するストッパー10が連結されている。このストッパー10は、後述するように噛み合い式係合機構1を解放させる際に係合部材7が所定角度、揺動したときに接触するように形成されている。また、係合部材7の長手方向が、ベースリング3の軸線方向に対して傾斜した場合に、係合部材7の側面に弾性力を作用させる第1バネ11が設けられている。具体的には、ベースリング3における第1ピストン4に対向した面から突出して座面12が形成されており、その座面12と係合部材7の側面との間に第1バネ11が配置されている。
また、図1に示す第1ピストン4は、図示しない油圧アクチュエータによりベースリング3側に押圧され、かつ油圧アクチュエータによる押圧力に対向した弾性力が図示しないリターンスプリングにより付与されるように構成されている。この第1ピストン4におけるベースリング3に対向した側面には、係合部材7の端部に係合する第1溝13が形成されている。具体的には、係合部材7の長手方向とベースリング3の軸線方向とが一致する場合に、係合部材7の端部が第1溝13に係合するように構成されている。すなわち、円周方向におけるピン8の位置に一致するように第1ピストン4に第1溝13が形成されている。
さらに、図1に示す第1回転部材2におけるベースリング3に対向した側面には、軸線方向に突出した複数の第2ドグ歯14が形成されている。この第2ドグ歯14の円周方向における間隔は、係合部材7が所定角度揺動した場合であっても、第1ドグ歯9が抜け出ることができる幅に形成されている。また、第2ドグ歯14における円周方向に向いた側面は、第1ドグ歯9の側面と面接触するように形成されている。すなわち、係合部材7における長手方向に対する第1ドグ歯9の側面の傾斜角度と、第1回転部材2における軸線方向に対する第2ドグ歯14の側面の傾斜角度とが同一に形成されている。なお、後述するように係合部材7が揺動した場合に、第1ドグ歯9の先端面が第1回転部材2に接触しないように、第1ドグ歯9の先端面に対向する第1回転部材2の側面が形成されている。
上述したように構成された噛み合い式係合機構1の作用について説明する。図1に示すように噛み合い式係合機構1は、係合時に、第1ピストン4がベースリング3側に移動しており、係合部材7の端部と第1溝13とが係合している。また、第1ドグ歯9が、第2ドグ歯14に噛み合っている。この状態で第1回転部材2にトルクが伝達されると、第1ドグ歯9が第2ドグ歯14に接触する面に、係合部材7を揺動させる荷重が作用する。一方、係合部材7の端部が第1ピストン4の第1溝13に係合し、かつ第1ピストン4は、回転できないようにケースに連結されている。したがって、係合部材7を揺動させる荷重が第1ドグ歯9に入力された場合であっても、その反力を第1ピストン4が受けるので、係合部材7が揺動しない。そのため、第1回転部材2とベースリング3および第1ピストン4とが円周方向で一体化され、第1回転部材2の回転が停止させられる。
また、第1ドグ歯9と第2ドグ歯14との接触面は、軸線方向に対して傾斜しており、第1ドグ歯9にトルクが入力されると、ベースリング3を第1回転部材2側に引き寄せる方向の分力が生じる。したがって、噛み合い式係合機構1を係合させた状態を維持する際に、第1ピストン4には、リターンスプリングの弾性力のみが作用する。そのため、油圧アクチュエータには、弾性力以上の押圧力が生じる程度の油圧が供給される。
図1に示すように各ドグ歯9,14が噛み合い、かつ第1回転部材2にトルクが入力された状態で、油圧アクチュエータの油圧を低下させると、まず、第1ピストン4がリターンスプリングに押圧されてベースリング3から離隔する。すると、第1ドグ歯9に作用するトルクに抗した反力が係合部材7に作用しなくなるので、係合部材7がピン8を中心として揺動する。その状態を図2に示している。
係合部材7が所定角度揺動すると、第1ドグ歯9に作用するトルクに応じた軸線方向の分力の向きは、第1回転部材2からベースリング3を離隔させる方向になる。このように第1回転部材2からベースリング3を離隔させる方向の分力が生じる程度に、係合部材7が揺動したときに、係合部材7の側面に上記のストッパー10が接触するように設けられている。したがって、係合部材7とストッパー10とが接触することにより、係合部材7がそれ以上揺動することができないので、第1ドグ歯9に作用するトルクに応じた軸線方向の分力により、ベースリング3が第1回転部材2から離隔する。なお、係合部材7が揺動することにより第1バネ11が圧縮される。その状態を図3に示している。
そして、ベースリング3が押圧されて第1回転部材2から離隔することにより、第1ドグ歯9と第2ドグ歯14との噛み合いが解消されて、噛み合い式係合機構1が解放される。また、係合部材7の長手方向が、ベースリング3の軸線方向に沿うように第1バネ11の弾性力により揺動する。その状態を図4に示している。
図4に示すように噛み合い式係合機構1が解放されているときには、係合部材7の端部と、第1ピストン4に形成された第1溝13との円周方向における位置が一致している。したがって、その状態で油圧アクチュエータに油圧を供給して第1ピストン4をベースリング3側に移動させることにより、係合部材7と第1溝13とが係合する。第1ピストン4を更にベースリング3側に押圧すると、係合部材7を介してベースリング3が第1回転部材2側に向けて押圧される。その状態を図5に示している。このようにベースリング3が第1回転部材2に向けて移動することにより、第1ドグ歯9と第2ドグ歯14とが噛み合う。つまり、噛み合い式係合機構1が係合する。その際に、第1回転部材2にトルクを入力すると、上述したようにベースリング3を第1回転部材2側に引き寄せるように軸線方向の分力が生じる。すなわち、噛み合い式係合機構1を係合させる過渡期には、油圧アクチュエータの押圧力に加えて、第1ドグ歯9に作用するトルクに応じた軸線方向の分力が作用する。
上述した噛み合い式係合機構1は、係合してトルクを伝達している際には、第1回転部材2とベースリング3とを離隔させる方向の荷重が作用しない。したがって、係合状態を維持する際には、油圧アクチュエータによる押圧力は、リターンスプリングの弾性力以上であればよく、その荷重の大きさは比較的小さい。そのため、油圧アクチュエータの受圧面積を小さくすることができる。すなわち、油圧アクチュエータの容積を小さくすることができる。また、噛み合い式係合機構1を係合させる過渡期には、油圧アクチュエータによる押圧力に加えて、第1ドグ歯9に作用するトルクに応じた分力が、各ドグ歯9,14を噛み合わせる方向に作用する。したがって、噛み合い式係合機構1を係合させる過渡期においても、油圧アクチュエータによる押圧力を低くすることができるので、上記と同様に油圧アクチュエータの容積を小さくすることができる。その結果、噛み合い式係合機構1を係合させる際に供給する油量を低減することができるので、係合開始から係合完了までの時間を短くすることができる。
つぎに、この発明における他の実施例について説明する。図7は、その実施例を説明するための図である。図7に示す例では、有底円筒状に形成された第2ピストン15の内側に、第1円筒部材16が収容され、その第1円筒部材16の内側に第2円筒部材17が収容されている。なお、第1円筒部材16と第2円筒部材17とは軸線方向に一体化されるとともに、相対回転することができるように構成されている。第2ピストン15には、外周側に突出した回転止め部材18が形成されている。この回転止め部材18は、図示しないケースに形成された第2ピストン15の軸線方向に沿う溝に係合している。また、回転止め部材18は、更に第2ピストン15の底面から内側に突出するように設けられており、第2ピストン15の半径方向における第2円筒部材17が収容されている位置まで形成されている。なお、第2ピストン15は、図示しない油圧アクチュエータにより、後述する回転部材側に押圧され、その押圧力に対向した弾性力がリターンスプリングにより付与されている。
図7に示す第1円筒部材16の端面には、軸線方向に突出した複数の第3ドグ歯19が形成されている。この第3ドグ歯19は、第1円筒部材16の円周方向に所定の間隔を空けて形成されている。また、第2円筒部材17の端面にも、軸線方向に突出した複数の第4ドグ歯20が形成されており、その第4ドグ歯20は、第2円筒部材17の円周方向に所定の間隔を空けて形成されている。
この第3ドグ歯19と第4ドグ歯20とは、図8に示すように各円筒部材16,17の軸線方向に対して傾斜して形成されている。また、円周方向における一方を向いた第3ドグ歯19の歯面19aの傾斜した方向と、円周方向における同一方向を向いた第4ドグ歯20の歯面20aの傾斜した方向とは、軸線方向を挟んで反対方向に形成されている。同様に円周方向における他方を向いた第3ドグ歯19の歯面19bの傾斜した方向と、円周方向における同一方向を向いた第4ドグ歯20の歯面20bの傾斜した方向とは、軸線方向を挟んで反対方向に形成されている。また、後述する第5ドグ歯の側面に面接触する第3ドグ歯19の歯面19aの傾斜角度は、その歯面19aと円周方向で同一方向を向いた第4ドグ歯20の歯面20aの傾斜角度以上に形成され、第5ドグ歯の側面に面接触する第4ドグ歯20の歯面20bの傾斜角度は、その歯面20bと円周方向で同一方向を向いた第3ドグ歯19の歯面19bの傾斜角度以上に形成されている。なお、この発明における「第2ドグ歯」は、上記第3ドグ歯および第4ドグ歯の双方を含むものである。
図8は、その噛み合い式係合機構1が係合している状態を示す図である。図8に示す例では、第1円筒部材16および第2円筒部材17を挟んで、第2ピストン15とは反対側に図示しないギヤなどに連結された第2回転部材21が設けられており、その第2回転部材21には、第3ドグ歯19および第4ドグ歯20と噛み合う複数の第5ドグ歯22が形成されている。この第5ドグ歯22の側面は、上述した第2ドグ歯14の側面と同様に第2回転部材21の軸線方向に対して傾斜して形成されている。具体的には、歯先側の幅が広くなるように第5ドグ歯22の側面が傾斜している。
また、第1円筒部材16における第2回転部材21に対向した端面に上記第3ドグ歯19が形成され、第2円筒部材17における第2回転部材21に対向した端面に上記第4ドグ歯20が形成されている。さらに、第1円筒部材19における第2ピストン15の底面に対向した端面には、軸線方向に突出した第3突起部23が形成されており、その第3突起部23と円周方向で係合する第2溝24が第2ピストン15の底面に形成されている。同様に第2円筒部材17における第2ピストン15の底面に対向した端面には、軸線方向に突出した第4突起部25が形成させており、その第4突起部25と円周方向で係合する第3溝26が第2ピストン15の底面に形成されている。なお、上記第2溝24と第3溝26とは円周方向に所定の間隔を空けて形成されており、その間に回転止め部材18が位置している。
そして、第3突起部23と回転止め部材18との間に円周方向に伸縮する第2バネ27が挟まれており、第4突起部25と回転止め部材18との間に円周方向に伸縮する第3バネ28が挟まれている。なお、第3突起部23が第2バネ27に押圧されることにより、第1円筒部材16が所定量以上回転することを抑制するように、円周方向における回転止め部材18に対向した第2溝24の側面が、第1円筒部材16側に突出して形成されている。また、第4突起部25が第3バネ28に押圧されることにより、第2円筒部材17が所定量以上回転することを抑制するように、円周方向における回転止め部材18に対向した第3溝26の側面が、第2円筒部材17側に突出して形成されている。
図8に示す噛み合い式係合機構1の作用について説明する。図8に示すように噛み合い式係合機構1は、係合時に、第2ピストン15が第2回転部材21側に移動しており、各突起部23,25と各溝24,26とが係合している。また、各ドグ歯19,20と第5ドグ歯22とが噛み合っている。その状態で、トルクが図8に示す矢印の方向に作用すると、第3ドグ歯19と第5ドグ歯22とが面接触し、第4ドグ歯20と第5ドグ歯22とが点接触する。上述したように第5ドグ歯22の側面に面接触する第3ドグ歯19の歯面19aの傾斜角度が、円周方向におけるその歯面19aと同一方向を向いた第4ドグ歯20の歯面20aの傾斜角度よりも大きい。したがって、図8に示すように各ドグ歯19,20が噛み合っているときには、第2回転部材21側に引き寄せられる方向に第1円筒部材16に作用する荷重が、第2回転部材21から離隔させる方向に第2円筒部材17に作用する荷重以上となる。なお、その際の円周方向に作用する分力は、各突起部23,25を介して第2ピストン15により受け持たれる。上記のように各円筒部材16,17に軸線方向に作用する荷重の合力は、第2回転部材21から各円筒部材16,17が離隔する方向に作用しない。したがって、油圧アクチュエータには、リターンスプリングのバネ力以上の押圧力を第2ピストン15に作用させる程度の油圧が供給される。
図8に示す状態で、油圧アクチュエータからオイルを排出すると、リターンスプリングのバネ力により第2ピストン15が、各円筒部材16,17から離隔する方向に移動する。したがって、各溝24,26から各突起部23,25が抜け出る。その際に、第2回転部材21にトルクが入力されると、第1円筒部材16が回転し、第2バネ27が圧縮される。これは、第2溝24から第3突起部23が抜け出ることにより、第2ピストン15が受けていた反力が作用しなくなるためである。一方、第2円筒部材17は、第2ピストン15から突出した壁面に接触したままになり、回転方向の反力を第2ピストン15が受けているので回転しない。したがって、第4ドグ歯20には、入力トルクに応じた軸線方向における各円筒部材16,17を離隔させる方向の分力が作用する。その結果、第1円筒部材16と第2円筒部材17とが第2回転部材21から離隔する。図9は、各円筒部材16,17が第2回転部材21から離隔する過渡期の状態を示している。
各ドグ歯19,20が第5ドグ歯22と噛み合わなくなり、噛み合い式係合機構1が解放されると、各円筒部材16,17には、回転方向の荷重が作用しなくなる。そのため、図10に示すように各バネ27,28の弾性力により各円筒部材16,17が回転させられ、各突起部23,25と各溝24,26との円周方向における位置が一致させられる。
ついで、噛み合い式係合機構1を係合させる過程での状態について図11を参照して説明する。図11に示すように、まず、油圧アクチュエータにより第2ピストン15を各円筒部材16,17側に押圧して、各突起部23,25と各溝24,26とを係合させる。第2ピストン15を更に押圧すると、各円筒部材16,17が、第2ピストン15と一体になって第2回転部材21側に移動して、各ドグ歯19,20と第5ドグ歯22とが噛み合う。その際に第2回転部材21にトルクを入力することにより、各円筒部材16,17を第2回転部材21側に引き寄せる方向の荷重が作用する。すなわち、噛み合い式係合機構1を係合させる過渡期には、油圧アクチュエータの押圧力に加えて、各ドグ歯19,20に作用するトルクに応じた軸線方向の分力が作用する。
図7ないし図11に示す噛み合い式係合機構も、図1ないし図6に示す噛み合い式係合機構と同様に、係合状態を維持する際には、油圧アクチュエータによる押圧力は、リターンスプリングの弾性力以上であればよく、その荷重の大きさは比較的小さい。そのため、油圧アクチュエータの受圧面積を小さくすることができる。すなわち、油圧アクチュエータの容積を小さくすることができる。また、噛み合い式係合機構を係合させる過渡期には、油圧アクチュエータによる押圧力に加えて、各ドグ歯19,20に作用するトルクに応じた分力が、各円筒部材16,17を第1回転部材21側に引き寄せる方向に作用する。したがって、噛み合い式係合機構を係合させる過渡期においても、油圧アクチュエータによる押圧力を低くすることができるので、上記と同様に油圧アクチュエータの容積を小さくすることができる。その結果、噛み合い式係合機構を係合させる際に供給する油量を低減することができるので、係合開始から係合完了までの時間を短くすることができる。