JP2016110774A - 絶縁体組成物及びこれを用いた高柔軟電線 - Google Patents
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Abstract
【課題】柔軟性を有するだけなく、加工性に優れた絶縁体組成物及びこれを用いた高柔軟電線を提供する。【解決手段】絶縁体組成物は、(A)エチレン共重合体及び変性樹脂と、(B)エチレンアクリルゴム及び酢酸ビニルゴムの少なくともいずれか一方と、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(C)シランカップリング処理された水酸化アルミニウムを80〜140質量部と、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(D)滑剤を0.5〜4質量部とを含有する。そして、エチレン共重合体と変性樹脂が質量部で20:20〜77:3の関係を満たし、(A)成分と(B)成分が質量部で(A):(B)=40:60〜80:20の関係を満たす。高柔軟電線は、当該絶縁体組成物と、絶縁体組成物によって被覆される金属導体とを備える。【選択図】図17
Description
本発明は、電気自動車等の車両に配索される電線に用いられる絶縁体組成物及びこの絶縁体組成物を絶縁体とする高柔軟電線に関する。
電気自動車用のワイヤーハーネス等の電線は、短い経路内で大きく曲げられて配索されることがある。また、電気自動車に用いられる電線は外径が大きいことから、ワイヤーハーネスのプロテクタに対し大きな曲げ応力を伴って配索されることがある。そのため、このような電線は柔軟性を備えることが要求され、従来、柔軟なシリコーンゴムを絶縁体としたものが使用されている。ところが、シリコーンゴムを用いた電線は耐熱性を有する反面、酸に対して弱いと共に強度が低いことから使用部位が限定され、汎用性に乏しいという問題がある。
これまで電線に柔軟性を付与する方法としては、金属導体を細径化することもなされていた。しかし、金属導体を細径化するには導体を加工する必要が生じるため、製造コストが上昇する要因となっていた。また、金属導体を細径化した場合には、振動によって断線する場合があった。このため金属導体を細径化せず、金属導体を被覆する絶縁体を柔軟化することがなされている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の電線では、金属導体を被覆する絶縁体として、エチレン共重合体にエラストマーを混合し、さらに金属水酸化物を添加した架橋樹脂組成物を用いている。
ワイヤーハーネスに使用される電線には、電線加工性(皮むき性)が要求される。皮むき性とは、電線切断後に端子を圧着するために、絶縁体を所定の長さに皮むきすることをいう。そして、皮むき性が良好でない場合には導体と端子との接触不良を起こす可能性があることから、電線には高い加工性(皮むき性)が要求される。ただ、絶縁体の柔軟性を高めた場合には伸びも向上するが、絶縁体が伸びすぎると皮むき時に所定の皮むきの寸法が得られず、接触不良が発生するという問題がある。
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、柔軟性を有するだけなく、加工性に優れた絶縁体組成物及びこれを用いた高柔軟電線を提供することにある。
本発明の第1の態様に係る絶縁体組成物は、(A)エチレン共重合体及び変性樹脂と、(B)エチレンアクリルゴム及び酢酸ビニルゴムの少なくともいずれか一方と、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(C)シランカップリング処理された水酸化アルミニウムを80〜140質量部と、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(D)滑剤を0.5〜4質量部とを含有する。そして、エチレン共重合体と変性樹脂が質量部で20:20〜77:3の関係を満たし、(A)成分と(B)成分が質量部で(A):(B)=40:60〜80:20の関係を満たす。
本発明の第2の態様に係る絶縁体組成物は、第1の態様に係る絶縁体組成物の引張伸び率が50〜350%である。
本発明の第3の態様に係る絶縁体組成物は、第1又は第2の態様に係る絶縁体組成物において、滑剤は、ステアリン酸、シリコーン系滑剤とベヘン酸亜鉛との混合物、ベヘン酸亜鉛と脂肪酸エステルとの混合物、シリコーン系滑剤とステアリン酸との混合物、脂肪酸エステルとステアリン酸との混合物、ベヘン酸亜鉛とポリエチレン系滑剤との混合物、及びポリエチレン系滑剤とステアリン酸との混合物からなる群より選ばれる一つである。
本発明の第4の態様に係る高柔軟電線は、第1乃至第3のいずれかの態様に係る絶縁体組成物と、絶縁体組成物によって被覆される金属導体とを備える。
本発明の絶縁体組成物は、曲げに対する良好な柔軟性及び加工性を有するだけなく、高い耐液性及び機械特性(強度、摩耗性)を有している。そのため、この絶縁体組成物を絶縁体として電線に用いることにより、良好な柔軟性及び加工性、並びに高い耐液性及び機械特性を有した電線とすることができる。そして、このような電線は耐久性が高く、車両に対して好適に配索することが可能となる。
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
本発明者は、高柔軟電線に用いるため、種々の材料に対して柔軟性、強度(引張破断強さ)、耐液性(バッテリー液)、耐液性(ガソリン)及び耐熱性を検討した。表1はこの検討結果であり、材料としてEVA等の樹脂材料、HNBR等のゴム材料及びエラストマー材料を選択し、それぞれに対して上述した特性を検討した結果を示す。
ここで、表1における柔軟性は、ショアDの硬さが32以下であり、かつ、ショアAの硬さが85以下の場合は「○」と評価し、この範囲外の場合は「×」と評価している。強度(引張破断強さ)は、ASTM D638に基づき測定した結果であり、引張破断強さが10.3MPa以上の場合は「○」と評価し、10.3MPa未満の場合は「×」と評価している。
なお、表1における耐液性(バッテリー液)については、次のように評価した。まず、各樹脂からJIS K6251に準拠する引張試験片6個を作成した。そのうち3つを50℃のバッテリー液に20時間浸した。そして、バッテリー液に浸した試験片3つと浸していない試験片3つの引張試験を行い、以下の式より、浸漬前の試験片の伸び率に対する浸漬後の試験片における伸び率の平均比率(%)を求めた。浸漬後の変化率が50%以上の場合は「○」と評価し、50%未満の場合は「×」と評価している。
平均比率(%)=(浸漬後の試験片の伸び率−浸漬前の試験片の伸び率)/(浸漬前の試験片の伸び率)×100
平均比率(%)=(浸漬後の試験片の伸び率−浸漬前の試験片の伸び率)/(浸漬前の試験片の伸び率)×100
また、耐液性(ガソリン)については、ISO6722に準拠して測定した。具体的には、まず、ガソリンへの浸漬前に試験サンプルの外径を測定した。次に、試験サンプルをガソリンに浸漬し、30分間放置した。浸漬後、ガソリンから試験サンプルを取り出して表面に付着しているガソリンを拭き取り、浸漬前と同じ箇所で外形を測定した。そして、以下の式より、ガソリンへの浸漬前の外径に対する浸漬後の外径の変化率(%)を求めた。ガソリンへの浸漬前の外径に対する浸漬後の外径の変化率が15%以下の場合を「○」と評価し、15%を超えた場合を「×」と評価した。
変化率(%)=(浸漬後の外径−浸漬前の外径)/(浸漬前の外径)×100
変化率(%)=(浸漬後の外径−浸漬前の外径)/(浸漬前の外径)×100
耐熱性については、まず、JIS3号形で厚さが1mmのダンベル状試験片を作成した。次に、試験片を170℃、180℃、190℃のオーブンにそれぞれ投入して加熱し、加熱後の試験片をJIS K6251に規定に準じて引張伸び率を測定した。この際、各加熱温度における試験片の引張伸び率が100%以下となる加熱時間を求めた。そして、各試験片における加熱温度と引張伸び率が100%以下となる加熱時間とをアレニウスプロットすることにより、10000時間後の推定寿命を予測した。10000時間後の推定寿命が150℃以上の場合を「○」と評価し、150℃未満の場合を「×」と評価した。
表1において、「EVA」は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(商品名「EV270」(三井・デュポンポリケミカル(株))を示す。「EEA」は、エチレン−エチルアクリレート共重合体(商品名「NUC−6520」(日本ユニカー(株))を示す。「EMA」は、エチレン−メチルアクリレート共重合体(商品名「エルバロイ(登録商標)AC1125」(三井・デュポンポリケミカル(株))を示す。「LDPE」は低密度ポリエチレン(商品名「LD400」(日本ポリエチレン(株))を示す。
また、表1において、「HNBR」は水素化ニトリルゴムを示す。「AEM」は、エチレンアクリルゴム(商品名「VAMAC(登録商標)−DP」(デュポン(株))を示す。「EPDM」はエチレンプロピレンジエンモノマー共重合体(商品名「EPT3045H」(三井化学(株))を示す。「フッ素ゴム」は、商品名「AFRAS150CS」(旭硝子(株)製)を用いている。「シリコーンゴム」は、商品名「DY32−6066」(東レ(株)製)を用いている。「CSM」は、クロロスルホン化ポリエチレン(商品名「TS430」(東ソー(株))を示す。「CM」は、塩素化ポリエチレン(商品名「エラスレン(登録商標)302NA」(昭和電工(株))を示す。
「スチレン系エラストマー」は商品名「セプトン(登録商標)2063」((株)クラレ製)を用いており、「ポリウレタン系エラストマー」は商品名「クラミロン(登録商標)U8165」((株)クラレ製)を用いている。「ポリエステル系エラストマー」は商品名「ペルプレン(登録商標)P−40H」(東洋紡(株)製)を用いている。
表1に示すように、樹脂材料は機械的強度に優れる反面、柔軟性に劣る傾向がある。また、ゴム材料は柔軟性に優れる反面、機械的強度や耐液性に課題がある場合がある。そして、樹脂材料及びゴム材料において、高い耐熱性を有する材料は限られている。フッ素ゴムは強度及び耐薬品性に優れるが、高柔軟電線に用いるにはコストが高いため実用的ではない。さらに、エラストマー材料は柔軟性には優れているが、耐熱性に劣る傾向がある。
そのため、本発明者は上述の特性を考慮した樹脂材料の選択を行い、選択した樹脂材料にゴム材料を配合すると共に、目的とする柔軟性を備えるように配合比を特定した。その結果、柔軟性を維持しながらも高い耐液性、耐摩耗性及び耐熱性を備えた絶縁体組成物に到達したものである。
本実施形態に係る絶縁体組成物は、樹脂材料としてのエチレン共重合体と、ゴム材料としてのエチレンアクリルゴム及び酢酸ビニルゴムの少なくともいずれか一方とを含有する。本実施形態の絶縁体組成物は、樹脂材料として比較的高い耐熱性を持ち、柔軟性が高いエチレン共重合体と、機械的強度は劣るが耐熱性及び柔軟性が高いエチレンアクリルゴム及び酢酸ビニルゴムの少なくともいずれか一方とを配合する。これにより、柔軟性を維持しつつも高い耐液性、耐摩耗性及び耐熱性を備えた絶縁体組成物を得ることができる。
ここで、本発明者は、電線の柔軟性を得るために、絶縁体組成物と導体との密着力について調査した。具体的には、表2に示す材料Aを混練して得た絶縁体組成物を金属導体に押出成形して被覆した。さらに、得られた被覆電線に対し電子線架橋処理(750kV×16Mrad)を行い、絶縁体を構成する樹脂の架橋を行うことにより、電線サンプルを作製した。なお、金属導体としては、まず外径が0.32mmの純銅の素線を19本撚り合わせて撚線を作製し、さらに当該撚線を26本撚り合わせた、外径が9.1mmの撚線を使用した。さらに絶縁体の厚さは1.4mmとなるようにし、得られる電線サンプルの外径が11.9mmとなるように調整した。また、絶縁体は、その内周部が金属導体の素線間に食い込む充実押出により作製した。
表2において、「EEA」は、エチレン−エチルアクリレート共重合体(商品名「レクスパール(登録商標)EEA A1150」(日本ポリエチレン(株))を示す。「AEM」は、エチレンアクリルゴム(商品名「VAMAC(登録商標)−DP」(デュポン(株))を示す。水酸化アルミニウムは、日本軽金属(株)製BF013を使用した。
次に、得られた電線サンプルを180度に屈曲し、屈曲回数が異なる複数の電線サンプルを作製した。そして、屈曲した電線サンプルに対し、柔軟性と密着力を評価した。具体的には、柔軟性は、長さ400mmの屈曲した電線サンプル1を、図1に示すように100mm/minの速度で曲げ、曲げRが40となるところの最大曲げ応力をロードセル2で測定した。なお、測定の際、電線サンプル1は符号3の箇所でロードセル2及び支持台4に固定した。
密着力は、まず、長さ75mmの屈曲した電線サンプル1を、図2(a)に示すように、絶縁体1aを端部から25mm除去し、金属導体1bを露出させた試験サンプルを作製した。次に、図2(b)に示すように、金属導体1bのみが貫通し、絶縁体1aが貫通しない穴部を有した試験台5に試験サンプルの金属導体1bを貫通させた。そして、金属導体1bを250mm/minの速度で引っ張り、絶縁体1aが金属導体1bから完全に剥離するまでの最大応力を測定した。図3は、屈曲回数が異なる各電線サンプルの柔軟性と密着力との関係を示す。なお、図3は、各電線サンプルに対し、柔軟性と密着力を6回ずつ測定した結果の平均値を示す。
図3より、電線サンプル1における絶縁体1aと金属導体1bの密着力が低い場合には、電線サンプル1の柔軟性が良好となることが分かる。つまり、絶縁体1aと金属導体1bの密着力が低ければ曲げたときの応力が逃げやすく、柔軟性が良好になると推測する。逆に密着力が高い電線においては、曲げたときの応力が逃げずに、柔軟性が得られなかったと推測する。
次に、本発明者は、電線の柔軟性を得るために、絶縁体の押出方法について検討した。具体的には、表3に示す材料Bを混練して得た絶縁体組成物を金属導体に押出成形して被覆した。さらに、得られた被覆電線に対し電子線架橋処理(750kV×16Mrad)を行い、絶縁体を構成する樹脂の架橋を行うことにより、電線サンプルを作製した。なお、金属導体は上述の密着力と柔軟性を測定した電線サンプルと同じものを使用した。ここで、絶縁体の押出方法としては、図4(a)のように、絶縁体1aaの内周部が金属導体の素線間に食い込む充実押出と、図4(b)のように、絶縁体1abの内周部が金属導体の素線間に食い込まないチューブ押出とを実施した。そして、充実押出により得られた電線サンプルと、チューブ押出により得られた電線サンプルとに対し、上述の柔軟性と密着力を測定し、その結果を図5に示す。
表3において、「EVM」は、エチレンと酢酸ビニルとのゴム状共重合体(商品名「レバプレン(登録商標)700」(ランクセス社)を示す。「EMA」は、エチレン−メチルアクリレート共重合体(商品名「エルバロイ(登録商標)AC1125」(三井・デュポンポリケミカル(株))を示す。「変性LLDPE」は、直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖に極性基を導入した化合物(商品名「モディック(登録商標)LLDPE M545」(三菱化学(株))を示す。シランカップリング処理水酸化アルミニウムは、日本軽金属(株)製BF013STVを使用した。
図5に示すように、絶縁体と金属導体との密着力が高い充実押出に比べ、これらの密着力が低いチューブ押出は、柔軟性が良好となる。つまり、絶縁体の押出方法を変えることで、絶縁体と金属導体との密着力を低下させ、柔軟性を向上させることが可能となる。
ここで、上述の表2に示す材料Aを用いて作成した電線サンプルについて、加工性(皮むき性)を評価したところ、絶縁体のちぎれが発生し、皮むき寸法が不十分となるという問題が発生した。「絶縁体のちぎれ」とは、図6に示すように、皮むきの際、絶縁体がうまく切れず、その一部が残存してしまう現象であり、端子を圧着する際に導体と端子との接続不良を起こす原因となる。また、「皮むき寸法」とは、電線の切断面1cから絶縁体1aのちぎれ部までの寸法10を指している。そのため、ちぎれ部の基部から先端部までの寸法11が大きいと皮むき寸法が不十分となってしまう。そのため、皮むき寸法はワイヤーハーネスに使用する電線において重要な要素である。
そこで本発明者は、十分な皮むき寸法を確保するために、絶縁体の伸び率を低減させることに着眼した。絶縁体の伸び率を低減させる方策として、難燃剤を多く配合すること等が考えられるが、摩耗性の低下が想定される。そのため、絶縁体の伸び率を低減させる方策として、変性樹脂を加えることを検討した。
具体的には、表4に示す材料を混練して得た絶縁体組成物を金属導体に押出成形して被覆した。さらに、得られた被覆電線に対し電子線架橋処理(750kV×16Mrad)を行い、絶縁体を構成する樹脂の架橋を行うことにより、電線サンプル1−1〜1−3を作製した。なお、金属導体としては、外径が0.32mmの純銅の素線を37本撚り合わせ、外径が2.25mmの撚線を使用した。さらに、絶縁体の厚さは0.7mmとなるようにし、得られる電線サンプルの外径が3.65mmとなるように調整した。また、絶縁体は、その内周部が金属導体の素線間に食い込む充実押出により作製した。
表4において、「EEA」は、エチレン−エチルアクリレート共重合体(商品名「NUC−6520」(日本ユニカー(株))を示す。「AEM」は、エチレンアクリルゴム(商品名「VAMAC(登録商標)−DP」(デュポン(株))を示す。「変性EEA」は、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸の三元共重合体(商品名「BONDINE(登録商標)LX4110」(アルケマ社)を示す。シランカップリング処理水酸化アルミニウムは、日本軽金属(株)製BF013STVを使用した。
得られた各組成の電線サンプルに対し、絶縁体の引張伸び率、絶縁体のちぎれ寸法、および皮むき寸法精度を測定した。絶縁体の引張伸び率は、まず、電線サンプルから金属導体を抜き、絶縁体だけの管状サンプルを作製した。そして、管状サンプルを引張速度200mm/minの速度で引っ張り、破断するまでの伸び率を測定した。なお、図7は、各電線サンプルに対して伸び率を6回ずつ測定した結果の平均値を示す。
絶縁体のちぎれ寸法は、まず電線サンプルの皮むきを行った。具体的には、シュロニガージャパン(株)製同軸ケーブル用ストリップ装置CS5500を用い、皮むき寸法の狙い値を5mmとし、皮むき刀を入れる深さを3.05mmとして、電線サンプルの皮むきを行った。なお、電線サンプルにおける金属導体の外径は2.25mmであるが、導体の素線などを傷つけないように、皮むき刀を入れる深さを高めに設定した。皮むき刀を入れる深さが高めの場合、絶縁体の内部まで皮むき刀が入らず、絶縁体がちぎれ易くなる。そして、図6に示すように、皮むき刀が入った部分から絶縁体のちぎれ部の先端までの寸法11を絶縁体のちぎれ寸法とし、その長さを測定した。なお、図8は、各電線サンプルに対して絶縁体のちぎれ寸法を50回ずつ測定した結果の平均値を示す。
皮むき寸法精度は、電線サンプルの切断面1cから絶縁体1aのちぎれ部までの寸法10を50サンプル測定し、そのばらつきCpを次の計算式より求めた。そして、ばらつきCpが1.67以上を「良」と判断した。
Cp=(規格幅)/(6×寸法10の標準偏差)
Cp=(規格幅)/(6×寸法10の標準偏差)
図7は変性樹脂の添加量と絶縁体の引張伸び率との関係を示し、図8は変性樹脂の添加量と絶縁体のちぎれ寸法との関係を示し、図9は変性樹脂の添加量と皮むき寸法精度との関係を示す。図7〜図9に示すように、変性樹脂を添加することで、絶縁体の引張伸び率は減少し、その結果、絶縁体のちぎれ寸法も短くなり、皮むき寸法精度も改善することが分かる。そして、電線の加工性(皮むき性)を向上させるには、エチレン共重合体とエチレンアクリルゴムの合計100質量部に対して変性樹脂を3質量部以上添加する必要があることが分かる。
上述のように、樹脂材料及びゴム材料に変性樹脂を添加することで、電線の加工性(皮むき性)が改善することが分かったが、変性樹脂を添加することで材料が硬くなる、つまり柔軟性が低下してしまう。そのため、柔軟性を得るためのゴム材料の添加比率の最適化を試みた。具体的には、表5に示す材料を混練して得た絶縁体組成物をそれぞれ金属導体に押出成形して被覆した。さらに、得られた被覆電線に対し電子線架橋処理(750kV×16Mrad)を行い、絶縁体を構成する樹脂の架橋を行うことにより、電線サンプル2−1〜2−5を作製した。なお、金属導体としては、外径が0.32mmの純銅の素線を37本撚り合わせ、外径が2.25mmの撚線を使用した。さらに、絶縁体の厚さは0.7mmとなるようにし、得られる電線サンプルの外径が3.65mmとなるように調整した。また、絶縁体は、その内周部が金属導体の素線間に食い込む充実押出により作製した。
表5において、「EEA」は、エチレン−エチルアクリレート共重合体(商品名「NUC−6520」(日本ユニカー(株))を示す。「AEM」は、エチレンアクリルゴム(商品名「VAMAC(登録商標)−DP」(デュポン(株))を示す。「変性EEA」は、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸の三元共重合体(商品名「BONDINE(登録商標)LX4110」(アルケマ社)を示す。シランカップリング処理水酸化アルミニウムは、日本軽金属(株)製BF013STVを使用した。
そして、サンプル2−1〜2−5の材料を混練して得た絶縁体組成物のショアDの硬さを測定した。さらに、得られた各組成の電線サンプルに対し、電線柔軟性及び密着力を測定した。電線柔軟性は、まず電線サンプルを、長さLが100mmとなるように切断した。次に図13に示すように、電線サンプル20の両端を支持台21に載置した。そして、電線サンプル20の中央を速度100mm/分の速度で押したときの反力を、フォースゲージを用いて測定した。なお、密着力は、上述と同様の方法で測定した。
図10は変性樹脂の添加量と絶縁体の硬さ(ショアD)との関係を示す。図10に示すように、サンプル2−1〜2−3より変性樹脂の添加量を増加させると硬さが向上することが分かる。しかし、図10に示すように、サンプル2−3〜2−5よりゴム材料の添加量を増加させると硬さが低下することが分かる。そのため、ゴム材料の添加比率を上げることで、絶縁体を柔軟化できることが分かる。
図11はゴム材料の添加量と電線柔軟性との関係を示し、図12はゴム材料の添加量と密着力との関係を示す。図11に示すように、ゴム材料の添加量を増加させたとしても、必ずしも電線の柔軟性が向上するわけではない。つまり、図12に示すように、単にゴム材料の添加量を増加させた場合、絶縁体と金属導体との密着力が上昇するため、電線の柔軟性は向上しない場合がある。
このように、電線の柔軟性を得るためには、絶縁体組成物の柔軟化も重要であるが、絶縁体組成物と導体との密着性についても十分に考慮する必要があることが分かる。そして、絶縁体組成物と導体との密着性は、上述のように、押出方法を変えることでも劇的に変化させることができるが、絶縁体組成物に含まれる滑剤によっても低減させることができる。そのため、柔軟性を得るための滑剤の種類とその添加量について検討した。具体的には、表6及び表7に示す材料を混練して得た絶縁体組成物をそれぞれ金属導体に押出成形して被覆した。さらに、得られた被覆電線に対し電子線架橋処理(750kV×16Mrad)を行い、絶縁体を構成する樹脂の架橋を行うことにより、電線サンプル3−1〜3−16を作製した。なお、金属導体としては、外径が0.32mmの純銅の素線を37本撚り合わせ、外径が2.25mmの撚線を使用した。さらに、絶縁体の厚さは0.7mmとなるようにし、得られる電線サンプルの外径が3.65mmとなるように調整した。また、絶縁体は、その内周部が金属導体の素線間に食い込む充実押出により作製した。
表6及び表7において、「EMA」は、エチレン−メチルアクリレート共重合体(商品名「エルバロイ(登録商標)AC1125」(三井・デュポンポリケミカル(株))を示す。「EVM」は、エチレンと酢酸ビニルとのゴム状共重合体(商品名「レバプレン(登録商標)700」(ランクセス社)を示す。「変性LLDPE」は、直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖に極性基を導入した化合物(商品名「モディック(登録商標)LLDPE M545」(三菱化学(株))を示す。シランカップリング処理水酸化アルミニウムは、日本軽金属(株)製BF013STVを使用した。
また、シリコーン系滑剤としては、旭化成ワッカーシリコーン(株)製GENIOPLAST(登録商標)Pellet Sを使用した。ベヘン酸亜鉛としては、(株)サンエース製SCI−ZNBを使用した。脂肪酸エステルとしては、理研ビタミン(株)製リケスター(登録商標)EW−100を使用した。ポリエチレン系滑剤としては、三井化学(株)製ハイワックス(登録商標)400Pを使用した。ステアリン酸としては、花王(株)製ルナックS−50Vを使用した。
得られた各組成の電線サンプルに対し、密着力及び絶縁体の引張強度を測定した。密着力は、上述と同様の方法で測定した。絶縁体の引張強度は、まず電線サンプルから金属導体を引き抜き、絶縁体だけの管状サンプルを作成した。そして、管状サンプルをJIS K7161に準じて、引張試験を200mm/minの速度で実施することにより測定した。
図14は、各滑剤における添加量と密着力との関係を示す。また、図15は、各滑剤における添加量と絶縁体の引張強度との関係を示す。図14に示すように、ステアリン酸が最も密着力の低減効果があることが分かる。また、0.5質量部(phr)以上添加することで、密着力の低減効果が現れる。ただ、図15に示すように、ステアリン酸の添加量が増加すると引張強度が低下するため、絶縁体の強度を維持する観点から、ステアリン酸の添加量は4質量部(phr)以下であることが好ましい。また、密着力の低減効果を得る観点から、ステアリン酸の添加量は0.5質量部(phr)以上であることが好ましい。
次に、上述の滑剤の組み合わせについても検討した。具体的には、表8及び表9に示す材料を混練して得た絶縁体組成物をそれぞれ金属導体に押出成形して被覆した。さらに、得られた被覆電線に対し電子線架橋処理(750kV×16Mrad)を行い、絶縁体を構成する樹脂の架橋を行うことにより、電線サンプル4−1〜4−10を作製した。なお、金属導体としては、外径が0.32mmの純銅の素線を37本撚り合わせ、外径が2.25mmの撚線を使用した。さらに、絶縁体の厚さは0.7mmとなるようにし、得られる電線サンプルの外径が3.65mmとなるように調整した。また、絶縁体は、その内周部が金属導体の素線間に食い込む充実押出により作製した。なお、表8及び表9におけるEMA、EVM、変性LLDPE、シランカップリング処理水酸化アルミニウム、シリコーン系滑剤、ベヘン酸亜鉛、脂肪酸エステル、ポリエチレン系滑剤、ステアリン酸は、サンプル3−1〜3−16と同じものを使用した。
得られた各組成の電線サンプル4−1〜4−10に対し、上述と同様の方法で密着力を測定した。図16に示すように、滑剤の組み合わせとしては、シリコーン系滑剤とベヘン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛と脂肪酸エステル、シリコーン系滑剤とステアリン酸、脂肪酸エステルとステアリン酸、ベヘン酸亜鉛とポリエチレン系滑剤、ポリエチレン系滑剤とステアリン酸が好ましいことが分かる。
次に、難燃剤としての金属水酸化物の配合比と、電線柔軟性及び強度との関係を検討した。まず、表10及び表11に示す材料を混練して得た絶縁体組成物をそれぞれ金属導体に押出成形して被覆した。さらに、得られた被覆電線に対し電子線架橋処理(750kV×16Mrad)を行い、絶縁体を構成する樹脂の架橋を行うことにより、電線サンプル5−1〜5−14を作製した。なお、金属導体としては、外径が0.32mmの純銅の素線を37本撚り合わせ、外径が2.25mmの撚線を使用した。さらに、絶縁体の厚さは0.7mmとなるようにし、得られる電線サンプルの外径が3.65mmとなるように調整した。また、絶縁体は、その内周部が金属導体の素線間に食い込む充実押出により作製した。
表10及び表11において、EEAは、エチレン−エチルアクリレート共重合体(商品名「NUC−6520」(日本ユニカー(株))を示す。「AEM」は、エチレンアクリルゴム(商品名「VAMAC(登録商標)−DP」(デュポン(株))を示す。さらに、水酸化アルミニウムとしては、商品名「BF013」(日本軽金属(株))を用い、水酸化マグネシウムとしては、商品名「キスマ(登録商標)5A」(協和化学(株))を用いた。
そして、得られた電線サンプルに対し、電線柔軟性及び難燃性を評価した。電線柔軟性の評価は、上述の図13に示す方法により行った。難燃性の評価は、各電線サンプルを45度の角度でドラフト内に設置し、ISO6722に規定される難燃試験に準拠して行った。すなわち、金属導体の断面積が2.5mm2以下の電線サンプルの場合は、電線サンプルの下端にブンゼンバーナーの内炎部を15秒間接触させた後ブンゼンバーナーから外した。また、金属導体の断面積が2.5mm2を超える電線サンプルの場合は、電線サンプルの下端にブンゼンバーナーの内炎部を30秒間接触させた後ブンゼンバーナーから外した。そして、電線サンプルからブンゼンバーナーを外した後、絶縁体上の炎が70秒以内に全て消え、電線サンプルの絶縁体が燃焼せずに50mm以上残ったものを「○」と評価した。電線サンプルからブンゼンバーナーを外した後に70秒を超えて燃え続けるか、電線サンプルの絶縁体の焼け残りが50mm未満のものを「×」と評価した。電線柔軟性及び難燃性の評価結果を表10及び表11に合わせて示す。
表10より、難燃剤が水酸化アルミニウムである場合、水酸化アルミニウムの配合比が樹脂材料としてのEEAとゴム材料としてのAEMの合計100質量部に対し80〜140質量部の範囲内であれば、難燃性と電線柔軟性とを両立することが可能となる。また、表11より、難燃剤が水酸化マグネシウムである場合、水酸化マグネシウムの配合比がEEA及びAEMの合計100質量部に対し60〜140質量部の範囲内であれば、難燃性と電線柔軟性とを両立することが可能となる。
上述の検討結果より、本実施形態の絶縁体組成物は、(A)樹脂材料としてのエチレン共重合体及び変性樹脂と、(B)ゴム材料としてのエチレンアクリルゴム及び酢酸ビニルゴムの少なくともいずれか一方と、(C)難燃剤としてのシランカップリング処理された水酸化アルミニウムと、(D)滑剤とを含有するものである。
エチレン共重合体としては、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
変性樹脂としては、得られる絶縁体組成物の伸び率を低減させることができれば特に限定されない。変性樹脂としては、例えば、エチレン−エチルアクリレート共重合体に無水マレイン酸を共重合させたエチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸の三元共重合体、直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖に極性基を導入した樹脂、無水マレイン酸をポリプロピレン系樹脂にグラフト共重合したマレイン酸変性樹脂、変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(変性EVA)などを用いることができる。変性樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
また、エチレンアクリルゴムとしては、アクリル酸エチル又は他のアクリル酸エステル類とエチレンとのゴム状共重合体を用いることができる。酢酸ビニルゴムとしては、エチレンと酢酸ビニルとのゴム状共重合体(EVM)を用いることができる。
エチレン共重合体と変性樹脂は、質量部で20:20〜77:3の関係を満たすことが好ましい。エチレン共重合体が20質量部未満で、かつ、変性樹脂が20質量部を超える場合には、強度が低下し、電線の耐久性が不十分となる恐れがある。また、エチレン共重合体が77質量部を超え、かつ、変性樹脂が3質量部未満の場合には、加工性(皮むき性)が不十分となる恐れがある。
(A)エチレン共重合体及び変性樹脂と、(B)エチレンアクリルゴム及び酢酸ビニルゴムの少なくともいずれか一方が、質量部で(A):(B)=40:60〜80:20の関係を満たすことが好ましい。樹脂成分である(A)成分が40質量部未満であり、かつ、ゴム成分である(B)成分が60質量部を超える場合には、強度が低下し、電線の耐久性が不十分となる恐れがある。また、(A)成分が80質量部を超え、かつ、(B)成分が20質量部未満の場合には、柔軟性が不十分となる恐れがある。
本実施形態の絶縁体組成物は、難燃性を付与するために難燃剤として金属水酸化物を含有する。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO3・Mg(OH)2・nH2O)、水和珪酸アルミニウム(ケイ酸アルミニウム水和物,Al2O3・3SiO2・nH2O)、水和珪酸マグネシウム(ケイ酸マグネシウム五水和物,Mg2Si3O8・5H2O)等の水酸基又は結晶水を有する金属化合物を挙げることができる。金属水酸化物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。この中でも金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが特に好ましい。
金属水酸化物としての水酸化アルミニウムの配合量は、樹脂材料としての(A)成分と、ゴム材料としての(B)成分との合計100質量部に対して、80〜140質量部とすることが好ましい。水酸化アルミニウムが80質量部未満の場合には十分な難燃性を付与することができない恐れがあり、140質量部を超えると電線に必要な柔軟性が得られない恐れがある。
また、金属水酸化物は樹脂材料への相溶性を考慮して表面処理がなされたものが好ましい。金属水酸化物への表面処理としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、又はステアリン酸、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸、脂肪酸金属塩等を用いて行うことができる。この中でも、本実施形態の絶縁体組成物は、シランカップリング剤を用いて表面処理を施した金属水酸化物を用いることが好ましく、シランカップリング処理された水酸化アルミニウムを用いることが特に好ましい。シランカップリング処理された水酸化アルミニウムを用いることで、耐摩耗性と耐熱性を両立することが可能となる。
シランカップリング処理する際のシランカップリング剤としては、特に限定されるものではない。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルエトキシシラン及びビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シランなどのビニルシラン類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;γ−アミノプロピルトリメトシキシラン;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン;γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。この中でも、高い耐摩耗性を付与しコストが低いという観点から、金属水酸化物の表面にビニルシリル基を付与するビニルシラン系のシランカップリング剤が好ましい。また、このようなシランカップリング剤の使用量も特に限定されないが、例えば金属水酸化物に対して0.1〜5質量%の範囲で用いることが好ましく、0.3〜1質量%の範囲で用いられることが特に好ましい。
本実施形態の絶縁体組成物は、電線の導体と絶縁体との密着性を低減し、柔軟性を向上させるため、滑剤を含有する。滑剤としては、シリコーン系滑剤、ベヘン酸亜鉛、脂肪酸エステル、ポリエチレン系滑剤及びステアリン酸からなる群より選ばれる少なくとも一つを使用することができるが、この中でもステアリン酸が好ましい。上述のように、ステアリン酸は特に密着力の低減効果が高いため、柔軟性をより向上させることが可能となる。
また、滑剤は複数種を組み合わせて使用してもよい。滑剤の組み合わせとしては、例えば、シリコーン系滑剤とベヘン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛と脂肪酸エステル、シリコーン系滑剤とステアリン酸、脂肪酸エステルとステアリン酸、ベヘン酸亜鉛とポリエチレン系滑剤、ポリエチレン系滑剤とステアリン酸の組み合わせが、密着力低減効果が高いため好ましい。そのため、本実施形態において、滑剤は、ステアリン酸、シリコーン系滑剤とベヘン酸亜鉛との混合物、ベヘン酸亜鉛と脂肪酸エステルとの混合物、シリコーン系滑剤とステアリン酸との混合物、脂肪酸エステルとステアリン酸との混合物、ベヘン酸亜鉛とポリエチレン系滑剤との混合物、及びポリエチレン系滑剤とステアリン酸との混合物からなる群より選ばれる一つであることが好ましい。
なお、滑剤の添加量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.5〜4質量部であることが好ましい。滑剤の添加量が0.5質量部未満の場合には、密着力低減効果が不十分となる恐れがある。また、滑剤の添加量が4質量部を超える場合には、ブリードアウトが生じる恐れがある。なお、ブリードアウトとは、材料の表面から添加剤等が染み出してくる現象であり、電線をワイヤーハーネスに加工する際に加工設備に堆積して電線の表面に傷等が生じる主要因となる現象である。
本実施形態の絶縁体組成物には、以上の必須成分に加えて、本実施形態の効果を妨げない範囲で種々の添加剤を配合することができる。添加剤としては、難燃助剤、酸化防止剤、金属不活性剤、老化防止剤、充填剤、補強剤、紫外線吸収剤、安定剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。
図17は、本実施形態の高柔軟電線30の一例を示す。高柔軟電線30は、金属導体31を、上述の絶縁体組成物からなる絶縁体32で被覆することにより形成されている。
金属導体31は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。そして金属導体31は、導体径や導体の材質などについて特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。金属導体31の材料としては、銅、銅合金及びアルミニウム、アルミニウム合金等の公知の導電性金属材料を用いることができる。
次に、本実施形態の高柔軟電線の製造方法について説明する。高柔軟電線30の絶縁体32は、上述の材料を混練することにより調製されるが、その方法は公知の手段を用いることができる。例えば、予めヘンシェルミキサー等の高速混合装置を用いてプリブレンドした後、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等の公知の混練機を用いて混練することにより、絶縁体32を構成する絶縁体組成物を得ることができる。
そして、本実施形態の高柔軟電線において、金属導体31を絶縁体32で被覆する方法も公知の手段を用いることができる。例えば絶縁体32は、一般的な押出成形法により形成することができる。そして、押出成形法で用いる押出機としては、例えば単軸押出機や二軸押出機を使用し、スクリュー、ブレーカープレート、クロスヘッド、ディストリビューター、ニップル及びダイスを有するものを使用することができる。
そして、絶縁体32の絶縁体組成物を調製する場合には、樹脂材料及びゴム材料が十分に溶融する温度に設定された二軸押出機に、エチレン共重合体及びゴム材料を投入する。この際、金属水酸化物及び滑剤、さらには必要に応じて、難燃助剤や酸化防止剤などの他の成分も投入する。そして、樹脂材料及びゴム材料等はスクリューにより溶融及び混練され、一定量がブレーカープレートを経由してクロスヘッドに供給される。溶融した樹脂材料及びゴム材料等は、ディストリビューターによりニップルの円周上へ流れ込み、ダイスにより導体の外周上に被覆された状態で押し出されることにより、金属導体31の外周を被覆する絶縁体32を得ることができる。
本実施形態の絶縁体組成物は、(A)エチレン共重合体及び変性樹脂と、(B)エチレンアクリルゴム及び酢酸ビニルゴムの少なくともいずれか一方と、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(C)シランカップリング処理された水酸化アルミニウムを80〜140質量部と、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(D)滑剤を0.5〜4質量部とを含有する。そして、エチレン共重合体と変性樹脂が質量部で20:77〜20:3の関係を満たし、(A)成分と(B)成分が質量部で(A):(B)=40:60〜80:20の関係を満たす。このような絶縁体組成物は、曲げに対する良好な柔軟性と加工性(皮むき性)を有するだけなく、高い耐液性及び機械的強度を有する。そのため、この絶縁体組成物を絶縁体として電線に用いることにより、車両への配索を良好に行うことができる。しかも、本実施形態の絶縁体組成物は強度及び耐熱性が高いことから、耐久性が向上した電線とすることができる。
さらに、本実施形態の絶縁体組成物は、引張伸び率が50〜350%であることが好ましい。引張伸び率が50%以上であることにより電線の柔軟性が確保でき、車両の内部において短い経路内で大きく曲げられて配索することが可能となる。また、引張伸び率が350%以下であることにより、絶縁体のちぎれが減少し、加工性(皮むき性)を向上させることができる。なお、引張伸び率は、JIS K6251(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方)に準じて求めることができる。
本実施形態の高柔軟電線30は、上述の絶縁体組成物と、絶縁体組成物によって被覆される金属導体31とを備える。このような高柔軟電線30は、良好な柔軟性及び加工性、並びに高い耐液性、耐摩耗性及び耐熱性を有した絶縁体組成物によって絶縁体32が形成されている。そのため、曲げに対する良好な柔軟性を有すると共に、ガソリン等に対する耐液性及び断線等に対する耐摩耗性を有した電線となる。さらに、高柔軟電線30は、高い耐熱性も有しているため、高温部品としての内燃機関やモーター、コンバーター等の近傍に配設することが可能である。その結果、高柔軟電線30は、電気自動車等の車両への配索に好適に用いることができる。また、高柔軟電線3は、高い耐電圧性を有するため、高圧電線としても好適に用いることができる。
なお、本実施形態の高柔軟電線30において、絶縁体32は、充実押出により形成されてもよく、またチューブ押出により形成されてもよい。上述のように、本実施形態の絶縁体組成物は滑剤を含有しているため、金属導体31と絶縁体32との密着力が低減している。そのため、いずれの押出方法でも良好な柔軟性を得ることができる。ただ、より高い柔軟性が必要な場合には、絶縁体32はチューブ押出により形成されることが好ましい。
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[試験サンプルの作成]
以下の実施例では、まず、表12〜表14に示す材料を溶融混練して得た絶縁体組成物を金属導体に押出成形して被覆した。さらに、得られた被覆電線に対し電子線架橋処理(750kV×16Mrad)を行い、絶縁体を構成する樹脂の架橋を行った。これにより、電線サンプル6−1〜6−16、7−1〜7−16及び8−1〜8−8を作製した。なお、金属導体としては、外径が0.32mmの純銅の素線を37本撚り合わせ、外径が2.25mmの撚線を使用した。さらに、絶縁体の厚さは0.7mmとなるようにし、得られる電線サンプルの外径が3.65mmとなるように調整した。また、絶縁体は、その内周部が金属導体の素線間に食い込む充実押出により作製した。
以下の実施例では、まず、表12〜表14に示す材料を溶融混練して得た絶縁体組成物を金属導体に押出成形して被覆した。さらに、得られた被覆電線に対し電子線架橋処理(750kV×16Mrad)を行い、絶縁体を構成する樹脂の架橋を行った。これにより、電線サンプル6−1〜6−16、7−1〜7−16及び8−1〜8−8を作製した。なお、金属導体としては、外径が0.32mmの純銅の素線を37本撚り合わせ、外径が2.25mmの撚線を使用した。さらに、絶縁体の厚さは0.7mmとなるようにし、得られる電線サンプルの外径が3.65mmとなるように調整した。また、絶縁体は、その内周部が金属導体の素線間に食い込む充実押出により作製した。
表12〜表14において、「EEA」は、エチレン−エチルアクリレート共重合体(商品名「NUC−6520」(日本ユニカー(株))を示す。「AEM」は、エチレンアクリルゴム(商品名「VAMAC(登録商標)−DP」(デュポン(株))を示す。「変性EEA」は、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸の三元共重合体(商品名「BONDINE(登録商標)LX4110」(アルケマ社)を示す。「EMA」は、エチレン−メチルアクリレート共重合体(商品名「エルバロイ(登録商標)AC1125」(三井・デュポンポリケミカル(株))を示す。「EVM」は、エチレンと酢酸ビニルとのゴム状共重合体(商品名「レバプレン(登録商標)700」(ランクセス社)を示す。「変性LLDPE」は、直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖に極性基を導入した化合物(商品名「モディック(登録商標)LLDPE M545」(三菱化学(株))を示す。「EVA」は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(商品名「UBEポリエチレン(登録商標)VZ732」(宇部丸善ポリエチレン(株))を示す。シランカップリング処理水酸化アルミニウムは、日本軽金属(株)製BF013STVを使用した。
また、全ての試験サンプルの絶縁体組成物は、滑剤としてステアリン酸を1質量部とポリエチレン系滑剤(ポリエチレン系ワックス)を2質量部含有している。ステアリン酸としては、花王(株)製ルナックS−50Vを使用した。また、ポリエチレン系滑剤としては、三井化学(株)製ハイワックス(登録商標)400Pを使用した。
[評価]
<引張強度>
JIS K7161に準じて、各試験サンプルから絶縁体のみをサンプリングし、引張試験を200mm/minの速度で実施した。この際、引張強度が10MPa以上の場合を「○」と評価し、10MPa未満の場合を「×」と評価した。
<引張強度>
JIS K7161に準じて、各試験サンプルから絶縁体のみをサンプリングし、引張試験を200mm/minの速度で実施した。この際、引張強度が10MPa以上の場合を「○」と評価し、10MPa未満の場合を「×」と評価した。
<耐摩耗性>
耐摩耗性は、テープ摩耗性によって評価した。具体的には、長さ900mmの試験サンプルを固定し、JIS R6251に規定する150番Gの摩耗テープを試験サンプルに接触させ、摩耗テープに対して1500gの重りを加える。この状態で1500mm/minの速度で摩耗テープを移動させ、試験サンプルが摩耗して金属導体と摩耗テープとが接触するまでの摩耗テープの長さを測定した。接触までの長さが330mm以上の場合を「○」と評価し、330mm未満の場合を「×」と評価した。
耐摩耗性は、テープ摩耗性によって評価した。具体的には、長さ900mmの試験サンプルを固定し、JIS R6251に規定する150番Gの摩耗テープを試験サンプルに接触させ、摩耗テープに対して1500gの重りを加える。この状態で1500mm/minの速度で摩耗テープを移動させ、試験サンプルが摩耗して金属導体と摩耗テープとが接触するまでの摩耗テープの長さを測定した。接触までの長さが330mm以上の場合を「○」と評価し、330mm未満の場合を「×」と評価した。
<耐液性>
耐液性(ガソリン)の評価はISO6722に準拠して行った。すなわち、ガソリンへの浸漬前に試験サンプルの外径を測定した。次に、試験サンプルをガソリンに浸漬し、30分間放置した。浸漬後、ガソリンから試験サンプルを取り出して表面に付着しているガソリンを拭き取り、浸漬前と同じ箇所で外形を測定した。そして、以下の式より、ガソリンへの浸漬前の外径に対する浸漬後の外径の変化率(%)を求めた。ガソリンへの浸漬前の外径に対する浸漬後の外径の変化率が15%以下の場合を「○」と評価し、15%を超えた場合を「×」と評価した。
変化率(%)=(浸漬後の外径−浸漬前の外径)/(浸漬前の外径)×100
耐液性(ガソリン)の評価はISO6722に準拠して行った。すなわち、ガソリンへの浸漬前に試験サンプルの外径を測定した。次に、試験サンプルをガソリンに浸漬し、30分間放置した。浸漬後、ガソリンから試験サンプルを取り出して表面に付着しているガソリンを拭き取り、浸漬前と同じ箇所で外形を測定した。そして、以下の式より、ガソリンへの浸漬前の外径に対する浸漬後の外径の変化率(%)を求めた。ガソリンへの浸漬前の外径に対する浸漬後の外径の変化率が15%以下の場合を「○」と評価し、15%を超えた場合を「×」と評価した。
変化率(%)=(浸漬後の外径−浸漬前の外径)/(浸漬前の外径)×100
<電線柔軟性>
まず、被覆電線からなる試験サンプルを、長さLが100mmとなるように切断した。次に図13に示すように、試験サンプルの両端を支持台21に載置した。そして、試験サンプルの中央を速度100mm/分の速度で押したときの反力を、フォースゲージを用いて測定した。フォースゲージの値が6.50N以下の場合を「○」と評価し、6.50Nを超えた場合を「×」と評価した。
まず、被覆電線からなる試験サンプルを、長さLが100mmとなるように切断した。次に図13に示すように、試験サンプルの両端を支持台21に載置した。そして、試験サンプルの中央を速度100mm/分の速度で押したときの反力を、フォースゲージを用いて測定した。フォースゲージの値が6.50N以下の場合を「○」と評価し、6.50Nを超えた場合を「×」と評価した。
本実施形態に係る試験サンプル6−3〜6−13、7−3〜7−13及び8−3〜8−7については、上述の全ての評価において良好な結果となった。これに対し、その他の試験サンプルについては、少なくとも引張強度又は皮むき性が不十分な結果となった。
以上、本発明を実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
30 高柔軟電線
31 金属導体
32 絶縁体
31 金属導体
32 絶縁体
Claims (4)
- (A)エチレン共重合体及び変性樹脂と、
(B)エチレンアクリルゴム及び酢酸ビニルゴムの少なくともいずれか一方と、
(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(C)シランカップリング処理された水酸化アルミニウムを80〜140質量部と、
(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(D)滑剤を0.5〜4質量部と、
を含有し、
エチレン共重合体と変性樹脂が質量部で20:20〜77:3の関係を満たし、(A)成分と(B)成分が質量部で(A):(B)=40:60〜80:20の関係を満たすことを特徴とする絶縁体組成物。 - 前記絶縁体組成物の引張伸び率が50〜350%であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁体組成物。
- 前記滑剤は、ステアリン酸、シリコーン系滑剤とベヘン酸亜鉛との混合物、ベヘン酸亜鉛と脂肪酸エステルとの混合物、シリコーン系滑剤とステアリン酸との混合物、脂肪酸エステルとステアリン酸との混合物、ベヘン酸亜鉛とポリエチレン系滑剤との混合物、及びポリエチレン系滑剤とステアリン酸との混合物からなる群より選ばれる一つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁体組成物。
- 請求項1乃至3のいずれか一項に記載の絶縁体組成物と、
前記絶縁体組成物によって被覆される金属導体と、
を備えることを特徴とする高柔軟電線。
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