この発明は、エンジンと発電機能のあるモータとを動力源とし、かつモータの動力のみによって走行するEV走行を選択できるハイブリッド車の振動を制御する装置である。そのハイブリッド車の駆動系統の一例を簡単に説明すると、図4はいわゆる2モータタイプのハイブリッド車を模式的に示している。エンジン1が出力した動力を第1モータ(MG1)2側と駆動輪3側とに分割する動力分割機構4が設けられている。動力分割機構4は、要は、3つの回転要素を備えた差動機構によって構成され、より具体的には、遊星歯車機構によって構成され、例えばサンギヤに第1モータが連結され、キャリヤにエンジン1のトルクが入力され、リングギヤから駆動輪3に向けてトルクを出力するように構成することができる。
EV走行を可能にし、またEV走行時にエンジン1を引き摺ることによる動力損失を低減するために、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)5の回転を止めるブレーキ機構6が設けられている。動力分割機構4が遊星歯車機構などの差動機構によって構成されている場合、第1モータ2が走行のためのトルクを出力すると、エンジン1の出力軸5には負回転方向(エンジン1の本来の回転方向とは反対方向)のトルクが作用する。このトルクをブレーキ機構6によって受けて出力軸5の負方向の回転を止めるように構成されている。したがって、ブレーキ機構6は摩擦ブレーキやドグクラッチなどの正逆両方向の回転を止める構成であってもよく、あるいは一方向クラッチであってもよい。
ブレーキ機構6と前記動力分割機構4との間に、エンジントルクの振動を抑制するダンパ7が設けられている。ダンパ7は、例えば前述した特許文献1に記載されているようなバネダンパであって、駆動側のプレートと従動側のプレートとの間にコイルバネが配置され、これらのプレートにトルクが作用して各プレートが相対的にねじれることによりコイルバネが圧縮されて振動を低減するように構成されている。また、そのコイルバネとして長さやばね定数が異なる複数種類のコイルバネが設けられており、したがってダンパ7は捻り角とトルクとの関係すなわちねじれ特性が一定でなく変化するように構成されている。その例を図5に示してあり、ここに示す例は、ばね定数が3段階(K1 <K2 <K3 )に変化する例である。なお、ここで説明している具体例では、前述したように、第1モータ2が出力する走行のためのトルクが前記出力軸5もしくはブレーキ機構6に掛かるから、第1モータ2が出力したトルクは、ダンパ7に対して捻り角を増大させるトルクもしくは減少させるトルクとして作用する。したがって、第1モータ2のトルクによってダンパ7の捻り角を変化させてダンパ7のねじれ特性を変更することができる。図5には第1モータ2のトルクによる捻り角の変化の方向を併記してある。なお、図5において、第1モータ2のトルク(MG1トルク)の負領域とは、第1モータ2が前記負回転方向に回転して出力するトルクの領域であり、正領域とは、第1モータ2が正回転方向に回転して出力するトルクの領域である。
上記のダンパ7には、ブレーキ機構6によってエンジン1の出力軸5の回転を止めている状態では、駆動輪(タイヤ)3側からの振動が入力される。その振動は駆動輪3の回転アンバランスや路面の凹凸などに起因する振動である。ダンパ7は、上述したようにねじれ特性が変化するので、ダンパ7あるいは駆動系統の全体の共振点がダンパ7のばね定数に応じて変化する。図6は、駆動輪3側から入力される振動の周波数をタイヤ回転数周波数で表し、ばね定数を多様に変化させた場合における、そのタイヤ回転数周波数と、駆動輪3側から所定のトルクを入力した場合のサージレベル(振動加速度)との関係を示した図である。なお、ばね定数は捻り角の単位角度当たりのトルクに置き換えることができる。図6に示すように、上述したダンパ7を使用した駆動系統では、ダンパ7のばね定数が大きくなるのに従って共振点が高周波数側に変化する。
図4に示すハイブリッド車は、更に、第2モータ8を備えている。第2モータ8は、前述した第1モータ2と同様に発電機能のあるモータであって、上記の動力分割機構4から駆動輪3にトルクを伝達する経路の所定箇所に連結されている。すなわち、第2モータ8は駆動輪3に伝達されるトルクを増加あるいは減少させるように構成されている。前述した第1モータ2およびこの第2モータ8とは、図示しないインバータを介してバッテリなどの蓄電装置に接続されている。これら各モータ2,8は相互に電力を授受できるように構成されており、第1モータ2で発電した電力を第2モータ8に供給して第2モータ8がモータとして機能し、また反対に第2モータ8で発電した電力を第1モータ2に供給して第1モータ2をモータとして機能させるように構成されている。また、各モータ2,8に蓄電装置から給電してこれらがモータとして機能し、EV走行するように構成されている。なお、図4における符号9は終減速機となっているデファレンシャルギヤを示す。
上述したブレーキ機構6の係合や解放の制御、各モータ2,8のトルクなどの動作状態を電気的に制御する電子制御装置(ECU)10が設けられている。ECU10はマイクロコンピュータを主体にして構成され、入力されたデータや予め格納されているデータなどを使用して、予め記憶しているプログラムに従って演算を行い、演算の結果を制御指令信号としてブレーキ機構6や各モータ2,8もしくは前記インバータに出力するように構成されている。その入力信号は、EV走行の実行や不実行の状態、第1モータ2の出力トルク、アクセル開度もしくはスロットル開度、アクセルペダルやブレーキペダルの操作量、車速、駆動輪3の回転数などである。
EV走行状態では、エンジン1が停止しているので、ダンパ7は駆動輪3側から伝達される振動(トルク変動)を吸収するように動作する。したがって、そのばね定数(ねじれ特性)に応じて共振点が決まる。この発明の一例である振動制御装置は、このようなEV走行時の振動を低減し、あるいは共振などによる過度な振動を抑制するように、ダンパ7のばね定数(ねじれ特性)を制御するように構成されている。その制御は、具体的には上記のECU10によって行われる。その制御の一例を図1にフローチャートで示してある。図1に示すルーチンは、ハイブリッド車が走行している際に繰り返し実行され、先ず、EV走行中か否かが判断される(ステップS1)。EV走行は、二つのモータ2,8が走行のための動力を出力している状態、もしくは第2モータ8が走行のための動力を出力している状態であり、したがってこれらのモータ2,8の制御状態に基づいて判断することができる。またEV走行は車速やアクセル開度などに応じて設定されるから、ステップS1の判断は車速やアクセル開度に基づいて行うことができる。また、ステップS1では、前記出力軸5の回転をブレーキ機構6によって止めることができるか否かの判断に置き換えてもよく、あるいはそれら二つの判断を同時に行ってもよい。
ステップS1で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。これに対してステップS1で肯定的に判断された場合には、その時点で設定されるばね定数、および共振が生じる車速が求められる(ステップS2)。EV走行しているので、振動は駆動輪3側から伝達されるトルクの変動が要因となる。その場合、ダンパ7は第1モータ2のトルクによってねじれるから、前述した図5および図6に示す関係があることにより、ダンパ7の捻り角およびそれに伴うばね定数は第1モータ2のトルクに基づいて推定あるいは求めることができる。そして、推定もしくは算出されたばね定数での共振点は図6に示す関係に基づいて求めることができる。また一方、駆動輪3が回転することに伴う回転1次周波数と車速との関係は、使用している駆動輪3の外径などに基づいて予め求めておくことができる。その例を図2に示してある。なお、図2には前述した図6と同様の図を併記してある。したがって、ばね定数に基づく共振点が求められると、共振が生じる車速や、サージレベル(すなわち振動)が設計上予め定めた許容値を超える(NGとなる)共振点を含む所定の周波数範囲である共振帯の車速を図2に基づいて求めることができる。
このように求められた共振帯の下限車速Aと上限車速Bとを定め、現時点の車速Vがそれらの車速範囲に入っているか否か(A<V<Bか否か)が判断される(ステップS3)。この判断は、現時点の車速で共振が生じるか否か、あるいは振動が許容範囲を超えるか否かの判断に相当する。このステップS3で否定的に判断された場合には、振動低減のための制御を新たに行う必要がないので、リターンする。
これに対してステップS3で肯定的に判断された場合には、車速の変化が速いか否かの判断を行う。具体的には、スロットル開度が全開でないか否か(WOTでないか否か)、アクセル開度の変化が緩やかか否か、ブレーキ操作量の変化もしくは操作速度が緩やかか否かなどが判断される(ステップS4)。これらの判断は、しきい値を実験やシミュレーションなどによって予め定めておき、検出された操作量などとしきい値とを比較して行えばよい。車速の変化が設計上想定されている以上であることによりステップS4で否定的に判断された場合には、実際の車速が上記の共振帯の車速を速やかに通過し、振動低減のための制御を新たに行う必要がないと考えられるので、特に制御を行うことなくリターンする。
ステップS4で肯定的に判断された場合には、ダンパ7のばね定数を変更するために第1モータ2のトルクを制御するとした場合に、そのトルク制御に伴う駆動トルクの変動を抑制するように第2モータ8のトルクを変化させることができるか否かが判断される(ステップS5)。前述した動力分割機構4が遊星歯車機構によって構成されている場合、ダンパ7の正回転方向のばね定数を増大させるように第1モータ2のトルクを負回転方向に増大させると、エンジン1の出力軸5がブレーキ機構6によって固定されていることにより、動力分割機構4から出力されるトルクが増大する。また反対に、ダンパ7の負回転方向のばね定数を増大させるように第1モータ2のトルクを正回転方向に増大させると、動力分割機構4から出力されるトルクが低下する。このような駆動トルクの変動を抑制するために第2モータ8のトルクが増大もしくは減少させられる。その場合、蓄電装置から電力を出力し、あるいは出力量を減少させ、もしくは充電を行うことになる。これに対して、蓄電装置の充電残量(SOC)によっては放電あるいは充電が制限され、それに伴って第2モータ8のトルク制御が制限される。ステップS5ではこのような第2モータ8についての制御が制限されているか否かが判断される。したがって、第2モータ8のトルク制御を行う余力がないことによりステップS5で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。
一方、第2モータ8のトルク制御が可能であってステップS5で肯定的に判断された場合には、ダンパ7のばね定数を変更し、それに伴って共振点あるいは共振帯を高周波数側もしくは低周波数側に変更する(ステップS6)。例えば、第1モータ2が負回転方向のトルクを出力し、かつ第2モータ8が正回転方向のトルクを出力するいわゆる両駆動モードでEV走行し、その車速がある程度高車速であれば、第1モータ2の出力トルクが大きいことにより共振点が高車速側になっている。この状態で実際の車速が共振帯の車速に入らないように共振点を低下させるとすれば、第1モータ2の出力トルク(負回転方向のトルク)を低下させる。その状態を図3に示してある。前述したように、第1モータ2のトルクを正回転方向に増大するように(負回転方向のトルクを低減するように)変化させると、動力分割機構4から駆動輪3に向けて出力されるトルクが低下する。このようなトルクの低下を補うように第2モータ8の出力トルクを増大させる。その制御量は、第1モータ2の電流値や動力分割機構4におけるギヤ比などに基づいて求めることができる。
共振点を変化させるための第1モータ2のトルクを低下させることがあり、その場合、第1モータ2のトルクに応じてトルクの低下勾配(トルクレート)を設定する(ステップS7)。具体的には、第1モータ2のトルクの絶対値を「0」程度の予め定めた小さいトルクに低下させる場合には、トルクレートを予め定めた小さい値に設定し、これとは反対に第1モータ2のトルクを前記予め定めた小さいトルクにまで低下させない場合には、トルクレートの低下制御を実行しない。このようなトルクレートの制御は、いわゆるガタ音を防止するためである。すなわち、第1モータ2のトルクを低下させることにより、ダンパ7においてコイルスプリングを挟み付ける力が小さくなり、その挟み付ける力よりも、正負に変化する加振力が大きくなると、急激にねじれが解放されてガタ音が発生する可能性がある。このような事態を回避もしくは抑制するために、トルクレートを緩やかにする。
以上、この発明の具体例を説明したが、この発明は上述した具体例に限定されないのであって、この発明では、特許請求の範囲に記載されている構成を逸脱しない種々の構成を採用してよい。