以下、実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明は例示である。
図1は、実施形態に係るエンジン1の構成を示している。エンジン1のクランクシャフト15は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。ここで、エンジン1の燃料は、本実施形態ではガソリンであるが、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよく、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている(図1では、1つのみ示す)。エンジン1は、多気筒エンジンである。シリンダブロック12及びシリンダヘッド13の内部には、図示は省略するが冷却水が流れるウォータージャケットが形成されている。各シリンダ11内には、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されたピストン16が摺動自在に嵌挿されている。ピストン16は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。
本実施形態では、燃焼室17の天井部170(シリンダヘッド13の下面)は、吸気ポート18の開口部180が設けられかつ、シリンダ11の中央に向かって登り勾配となった吸気側斜面171と、排気ポート19の開口部190が設けられかつ、シリンダ11の中央に向かって登り勾配となった排気側斜面172と、吸気側斜面171と排気側斜面172とが連結する谷部173とを備えて構成されている。燃焼室17は、ペントルーフ型の燃焼室である。尚、谷部173は、ペントルーフの稜部であり、シリンダ11のボア中心を通る場合、及び通らない場合の両方があり得る。また、ピストン16の頂面160は、天井部170の吸気側斜面171及び排気側斜面172に対応するように、吸気側及び排気側のそれぞれにおいて、ピストンの中央に向かって登り勾配となった吸気側斜面161及び排気側斜面162によって、三角屋根状に隆起している。吸気側斜面161は、吸気側斜面171と対向し、排気側斜面162は、排気側斜面172と対向する。吸気側斜面161と排気側斜面162とは稜部163(図3参照)において連結されている。稜部163は、谷部173と対向している。これにより、このエンジン1の幾何学的圧縮比は、15以上の高い圧縮比に設定されている。また、ピストン16の頂面160には、凹状のキャビティ164が形成されている。ピストン16の頂面160の形状については、後で詳述する。
図1には1つのみ示すが、シリンダ11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成されている。吸気ポート18の開口部180は、シリンダヘッド13の吸気側斜面171に、エンジン出力軸(つまり、クランクシャフト15)の方向に並んで設けられ、吸気ポート18は、この開口部180を通じて燃焼室17に連通している。2つの吸気ポート18の開口部180は、シリンダ11のボア中心に対して対称に配設されていると共に、吸気ポート18のスロート部の軸線は、シリンダ11のボア中心に対して対称となるように設けられている。同様に、シリンダ11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成されている。排気ポート19の開口部190は、シリンダヘッド13の排気側斜面172に、エンジン出力軸の方向に並んで設けられ、排気ポート19は、この開口部190を通じて燃焼室17に連通している。2つの排気ポート19の開口部190は、シリンダ11のボア中心に対して対称に配設されている。
吸気ポート18は、吸気通路181に接続されている。吸気通路181には、図示は省略するが、吸気流量を調節するスロットル弁が介設されている。排気ポート19は、排気通路191に接続されている。排気通路191には、図示は省略するが、1つ以上の触媒コンバータを有する排気ガス浄化システムが配設されている。触媒コンバータは、三元触媒を含む。
シリンダヘッド13には、吸気弁21及び排気弁22が、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構により、排気弁22は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動される。吸気弁21及び排気弁22は所定のタイミングで往復動して、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を開閉し、シリンダ11内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、図示は省略するが、それぞれ、クランクシャフト15に駆動連結された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有し、これらのカムシャフトはクランクシャフト15の回転と同期して回転する。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、この例では、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)23、24を、少なくとも含んで構成されている。尚、吸気弁駆動機構及び/又は排気弁駆動機構は、VVT23、24と共に、弁リフト量を変更可能なリフト可変機構を備えるようにしてもよい。リフト可変機構は、リフト量を連続的に変更可能なCVVL(Continuous Variable Valve Lift)としてもよい。尚、吸気弁21及び排気弁22を駆動する動弁機構は、どのようなものであってもよく、例えば油圧式や電磁式の駆動機構を採用してもよい。
シリンダヘッド13には、燃焼室17内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁6が取り付けられている。つまり、エンジン1は、直噴エンジンである。燃料噴射弁6は、天井部170の谷部173に設けられ、図2に示すように、シリンダ11のボア中心に対して、エンジン出力軸方向の一側(図2における紙面左側であり、これは、この実施形態ではエンジン1において反トランスミッション側の、いわゆるエンジン前側に相当する)に、ずれて配設されている。燃料噴射弁6はまた、その噴射軸心が、シリンダ11の軸心に沿うように配設されて、噴射先端が、燃焼室17内に臨んでいる。燃料噴射弁6は、キャビティ164に対向するように設けられている。燃料噴射弁6は、このキャビティ164内に向かって、燃料を噴射する。
燃料噴射弁6は、詳細は後述するが、図2に概念的に示すように、燃焼室17内(つまり、キャビティ164内)に、(可燃)混合気層と、その周囲の断熱ガス層とが形成可能に構成されている。燃料噴射弁6は、例えば外開弁式の燃料噴射弁としてもよい。外開弁式の燃料噴射弁は、リフト量を調整することにより、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。本願出願人が先に出願した特願2013−242597号に開示しているように、この外開弁式の燃料噴射弁の特性を利用して、多段噴射を基本とした燃料噴射態様を、適宜制御することにより、燃料噴霧の進行方向への飛散距離及び燃料噴霧の噴射軸心に対する広がりを調整することができるため、圧縮上死点付近のタイミングで燃料を噴射することにより、キャビティ164の中央部に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成することが可能である。また、外開弁式の燃料噴射弁に限らず、VOC(Valve Covered Orifice)ノズルタイプのインジェクタも、ノズル口に発生するキャビテーションの度合い調整することにより、噴口の有効断面積を変更して、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。従って、外開弁式の燃料噴射弁と同様に、圧縮上死点付近のタイミングで噴射する燃料噴霧の進行方向への飛散距離及び燃料噴霧の噴射軸心に対する広がりを調整することにより、キャビティ164内の中央部に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成することが可能である。
また、ヒータによって所定の温度まで加熱した燃料を、高圧雰囲気の燃焼室17内に噴射することにより、燃料を超臨界状態とすることによっても、キャビティ164内の中央部に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成することが可能である。この技術は、燃焼室17内に噴射した燃料を瞬時に気化させることによって燃料噴霧のペネトレーションが短くなり、図2に示すように、キャビティ164内における燃料噴射弁6の近傍に、混合気層を形成するものである。尚、燃料噴射弁は、例えば複数の噴口を有するマルチホールタイプの燃料噴射弁において、燃料を加熱するヒータを備えて構成される。また、この構成以外の燃料噴射弁であってもよい。こうした燃料噴射弁の構成は、公知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
シリンダヘッド13には、点火プラグ7が取り付けられている。点火プラグ7は、図2に示すように、天井部170の谷部173に設けられ、シリンダ11のボア中心に対してエンジン出力軸方向の他側(つまり、エンジン後側)にずれて配設されている。点火プラグ7は、先端が燃料噴射弁6に近づく方向に、シリンダ11の軸線に対し傾いて配設されている。これにより、燃料噴射弁6と点火プラグ7とは、シリンダ11のボア中心近傍に、互いに近接して配設される。
このエンジン1は、前述したように、幾何学的圧縮比εが15以上に設定されている。幾何学的圧縮比は、40以下とすればよく、特に20以上35以下が好ましい。エンジン1は圧縮比が高いほど膨張比も高くなる構成から、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジン1でもある。このエンジン1は、基本的には全運転領域でシリンダ11内に噴射した燃料を圧縮着火により燃焼させるよう構成されており、高い幾何学的圧縮比は、圧縮着火燃焼を安定化する。
燃焼室17は、シリンダ11の内周面と、ピストン16の頂面160と、シリンダヘッド13の下面(天井部170)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されている。冷却損失を低減すべく、これらの区画面に、遮熱層を設けることによって、燃焼室17が遮熱化されている。遮熱層は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。また、燃焼室17を直接区画する壁面ではないが、吸気ポート18や排気ポート19における、燃焼室17の天井部170側の開口近傍のポート壁面に遮熱層を設けてもよい。
これらの遮熱層は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。
また、遮熱層は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、遮熱層の熱容量を小さくして、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化するようにすることが好ましい。
前記遮熱層は、例えば、母材上にZrO2等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングして形成すればよい。このセラミック材料の中には、多数の気孔を含んでいてもよい。このようにすれば、遮熱層の熱伝導率及び容積比熱をより低くすることができる。
本実施形態では、前記の燃焼室の遮熱構造に加えて、シリンダ11内(つまり、燃焼室17内)においてガス層による断熱層を形成することで、冷却損失を大幅に低減するようにしている。
具体的には、燃焼室17内の外周部に新気を含むガス層が形成されかつ中心部に混合気層が形成されるように、圧縮行程以降において燃料噴射弁6の噴射先端からキャビティ164内に燃料を噴射させることにより、図2に示すように、燃料噴射弁6の近傍の、キャビティ164内の中心部に混合気層が形成されかつ、その周囲に新気を含むガス層が形成されるという、成層化が実現する。尚、ここでいう混合気層は、可燃混合気によって構成及び形成される層であり、可燃混合気は、例えば当量比φ=0.1以上の混合気としてもよい。ガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて、既燃ガス(EGRガス)を含んでいてもよい。尚、ガス層に少量の燃料が混じっても問題はなく、ガス層が断熱層の役割を果たせるように混合気層よりも燃料リーンであればよい。
前記のようにガス層と混合気層とが形成された状態で燃料が圧縮着火燃焼すれば、混合気層とシリンダ11の壁面との間のガス層により、混合気層の火炎のシリンダ11の壁面への接触が抑制され、そのガス層が断熱層となって、シリンダ11の壁面からの熱の放出を抑えることができるようになる。この結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
尚、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて図示熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン1では、高圧縮比化に伴う高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に効率よく変換している。すなわち、エンジン1は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、図示熱効率を大幅に向上させているということができる。
このような混合気層とガス層とを燃焼室17内に形成するために、燃料を噴射するタイミングにおいては、燃焼室17内のガス流動は弱いことが望ましい。そのため、吸気ポートは、燃焼室17内でスワールが生じない、又は、生じ難いようなストレート形状を有していると共に、タンブル流もできるだけ弱くなるように、構成されている。
次に、燃焼室を構成するピストンの頂面の形状について、図を参照しながらさらに詳細に説明をする。図3は、ピストン16の頂面の形状を示す斜視図である。図3における紙面右手前が吸気側、紙面左奥が排気側であり、紙面左手前がエンジン出力軸方向の一側(つまり、エンジン前側)、紙面右奥がエンジン出力軸方向の他側(つまり、エンジン後側)である。
前述したように、ピストン16の頂面160は、図3に示すように、吸気側斜面161と、排気側斜面162とがそれぞれ、ピストン16の中央に向かって登り勾配となって構成されており、これにより、ピストン16の頂面160は、エンジン出力軸における一方の側から、エンジン出力軸に沿う方向にピストン16を見たときに、両側それぞれから中央部に向かって次第に隆起した三角屋根状を成している。排気側斜面162は、相対的に凹んだバルブリセス162aと、相対的に突出した島状部162bとを有している。バルブリセス162aは、開動作を行うときの排気弁22との干渉を避けるための部分である。バルブリセス162aは、平面視で排気弁22の外形よりも少し大きい形状をしている。天井部170の排気側斜面172には2つの排気弁22が近接して設けられ且つ排気弁22のバルブヘッドの外形は円形状であるので、バルブリセス162aは、2つの円が部分的に重なり合ったような形状をしている。バルブリセス162aがこのような形状に形成された結果、排気側斜面162のうち稜部163とは反対側の部分であって2つの排気弁22のバルブヘッドの間に相当する部分に略三角形状の島状部162bが形成される。
一方、吸気側斜面161は、排気側斜面162のような凹凸はなく、実質的に平坦な面である。吸気側斜面161は、バルブリセスが形成されていないというよりはむしろ、全面がバルブリセスである。つまり、吸気側斜面161の高さは、ピストン16が上死点に位置するときでも、開動作を行う吸気弁21と干渉しない高さとなっている。
稜部163は、尖鋭な形状ではなく、湾曲したR面となっており、吸気側斜面161と排気側斜面162とを滑らかに連結している。稜部163は、エンジン出力軸方向に延びている。
ピストン16の頂面160の稜線付近における、エンジン出力軸方向の両側端部165は、図2にも示すように、頂面160に向かってピストン径が縮小するように湾曲している。この湾曲は、シリンダヘッド13の天井部170の湾曲形状に対応して設けられている。これは、エンジン1の幾何学的圧縮比を高くする上で有利な構成である。
前述したように、ピストン16の頂面160にはキャビティ164が凹陥している。キャビティ164は、図2に示すように、開口縁から凹陥するに従い、その大きさが次第に縮小するように設けられており、キャビティ164は、ピストン16の頂面160に連続する側壁1641と、側壁1641に連続する底壁1642とから構成されている。図2に示すように、ピストン16の中心を通る縦断面において、キャビティ164は、バスタブのような形状を有している。側壁1641は、ピストン16の頂面160及び底壁1642とは異なる角度を有しており、ピストン16の頂面160と側壁1641との間、及び、側壁1641と底壁1642との間には、それぞれR面が設けられている。
キャビティ164は、図3に示すように、略楕円形状の開口縁を有する。この楕円は、広義の楕円であり、オーバル形状や長円形状も含む。キャビティ164はまた、図2に示すように、その中心位置(より正確には、キャビティ164の最大幅に相当する箇所において吸気側の端縁と排気側との端縁との中点でかつ、エンジン出力軸方向の一側の端縁と他側の端点との中点である中心位置)が、燃料噴射弁6の噴射軸心に一致するように設けられている。これは、前述したように、キャビティ164内の中心部に混合気層を形成する上で有利な構成である。前述したように、燃料噴射弁6の噴射軸心は、エンジン出力軸方向の一側にずれているため、キャビティ164もまた、ピストン16の頂面160において、ピストン16の中心に対し、エンジン出力軸方向の一側にずれて位置することになる。
キャビティ164は、稜部163を横切って吸気側斜面161及び排気側斜面162に亘って形成されている。これにより、稜部163は、キャビティ164を挟んで2つに分割される。また、キャビティ164の開口縁が略楕円形状であり且つ、吸気側斜面161及び排気側斜面162は下り勾配なので、吸気側斜面161及び排気側斜面162の一部はそれぞれ、キャビティ164によって抉られる。吸気側斜面161及び排気側斜面162におけるキャビティ164の開口縁は、両側の稜部163から次第に下方に窪むように湾曲した形状となっている。さらに、キャビティ164が前述のようにシリンダ11のボア中心からずれて設けられることに伴い、吸気側斜面161及び排気側斜面162におけるキャビティの開口縁もまた、図2に示すように、ボア中心に対称となるのではなく、エンジン出力軸方向の一側にずれることになる。それに加え、エンジン出力軸方向の一側の稜部163が相対的に短くかつ、エンジン出力軸方向の他側の稜部163が相対的に長くなる。
このように、シリンダヘッド13の天井部170に対応させて、ピストン16の頂面160を隆起させた構成においては、スキッシュエリアが大きくなる。詳しくは、燃焼室17は、図2に示すように、シリンダヘッド13の天井部170とピストン16のスキッシュ164とで囲まれた主燃焼室174と、シリンダヘッド13の天井部170とピストン16の頂面160とで挟まれたスキッシュエリア175とを有している。さらに、スキッシュエリア175には、シリンダヘッド13の谷部173とピストン16の稜部163との間の稜部スキッシュ176(図4参照)と、シリンダヘッド13の吸気側斜面171及び排気側斜面172とピストン16の吸気側斜面161及び排気側斜面162との間の斜面スキッシュエリア177(図5参照)とが含まれる。尚、斜面スキッシュエリア177を吸気側と排気側とで区別するときには、吸気側斜面171と吸気側斜面161との間の斜面スキッシュエリア177を吸気側スキッシュエリア177aと称し、排気側斜面172と排気側斜面162との間の斜面スキッシュエリア177を排気側スキッシュエリア177bと称する。稜部スキッシュエリア176は、キャビティ164を挟んで2箇所に形成される。吸気側スキッシュエリア177aと排気側スキッシュエリア177bとは、キャビティ164を挟んで対向する位置に配置されている。
スキッシュエリア175においては、圧縮行程の終盤(上死点近傍)に、キャビティ164の方へ向かうスキッシュ流が発生する。スキッシュ流は、キャビティ164の開口縁からスキッシュ164内へ流入する。ピストン16の吸気側斜面161及び排気側斜面162におけるキャビティ164の開口縁は、前述の如く、下方に窪むように湾曲しているので、斜面スキッシュエリア177のスキッシュ流は、比較的低い位置からキャビティ164内に流入する。一方、稜部163におけるキャビティ164の開口縁は、比較的高い位置に位置しているので、稜部スキッシュ176のスキッシュ流は、比較的高い位置からキャビティ164内に流入する。
ここで、図6に示すように、稜部スキッシュ176’の隙間が狭い場合には、稜部スキッシュ176’のスキッシュ流Sが強くなる。スキッシュ流Sは、キャビティ164内に流入するときに拡散するが、スキッシュ流Sの流れが強い場合には、キャビティ164内においてもスキッシュエリアでの流れ方向と同じ方向へ進む成分が多くなる。つまり、稜部スキッシュ176’からのスキッシュ流Sは、谷部173に沿ってキャビティ164の中央に向かって進んでいき、反対側の稜部スキッシュ176’からのスキッシュ流Sとキャビティ164の略中央で衝突する。2つのスキッシュ流Sは、略同一平面上の流れであり且つ比較的高い位置で衝突するので、衝突後に下降流となる。この下降流は、燃料噴霧及び混合気をキャビティ164の底壁1642に押し付けるように作用する。その結果、キャビティ164の底壁1642の近傍で燃焼が発生し、ピストン16へ伝達する熱量が増加してしまう。特に、2つのスキッシュ流Sが衝突する部分の近傍には、燃料噴射弁6の噴口が位置するので、燃料噴射弁6から噴射された燃料噴霧は、下降流に乗りやすい。
それに対し、図4に示すように、稜部スキッシュ176の隙間G1が広くなっている。具体的には、図5に示す排気側スキッシュエリア177bの隙間G2よりも広くなっている。尚、排気側スキッシュエリア177bの隙間G2とは、排気側斜面162のうち島状部162bと天井部170の排気側斜面172との隙間である。このように、稜部スキッシュ176の隙間G1を広くすることにより、稜部スキッシュ176からのスキッシュ流Sが弱くなる。それにより、稜部スキッシュ176からのスキッシュ流Sの大部分が、キャビティ164内に流入するときに拡散し、該スキッシュ流Sに起因する下降流が抑制される。尚、この例では、稜部スキッシュ176の隙間G1は、排気側斜面162のうちバルブリセス162aと天井部170の排気側斜面172との隙間よりも広い。
また、このエンジン1は、前述のように、燃焼室17内で成層化を実施している。その観点においても、稜部スキッシュ176からのスキッシュ流Sに起因する下降流を抑制することが有効である。つまり、成層化を実現するためには、燃焼室17、特に、キャビティ164(主燃焼室174)内でのガス流動が弱いことが好ましい。稜部スキッシュ176からのスキッシュ流Sに起因する下降流を抑制することによって、キャビティ164内でのガス流動を抑制することができる。
また、排気側スキッシュエリア177bの隙間G2が狭くなっているので、排気側スキッシュエリア177bからのスキッシュ流Sにより、キャビティ164内のタンブル流Tを弱めることができる。詳しくは、吸気ポート18から流入した吸気は、排気側で下降流となり、ピストン16の頂面160に沿って吸気側へ向きを変え、キャビティ164内に流入し、キャビティ164の内面に案内され、吸気側で上昇流となり、天井部170近傍で排気側へ方向を変え、縦渦の旋回流、即ち、タンブル流T(図5参照)となる。ここで、天井部170の近傍では、タンブル流Tは吸気側から排気側へ向かう流れとなっているので、燃料噴霧及び混合気がキャビティ164の排気側の側壁1641へ到達しやすくなっている。それに対し、排気側スキッシュエリア177bからのスキッシュ流Sは、天井部170の近傍のタンブル流Tと対向する向きに流れる。つまり、該スキッシュS流は、天井部170の近傍のタンブル流Tを弱めるように作用する。その結果、キャビティ164の排気側の側壁1641に到達する燃料噴霧及び混合気を低減することができる。
一方、吸気側スキッシュエリア177aの隙間G3は、排気側スキッシュエリア177bの隙間G2よりも広く(且つ)なっている。吸気側スキッシュエリア177aからのスキッシュ流Sは、タンブル流Tとの関係で言えば、タンブル流Tを助長する方向に作用する。吸気側スキッシュエリア177aの隙間G3を広くすることによって、吸気側スキッシュエリア177aからのスキッシュ流Sが弱くなるので、該スキッシュ流Sがタンブル流Tを助長することを抑制することができる。尚、この例では、吸気側スキッシュエリア177aの隙間G3は、稜部スキッシュ176の隙間G1よりも狭い。
以上のように、エンジン1の燃焼室構造は、谷部173で連結された吸気側斜面171及び排気側斜面172を含む天井部170を有し、ペントルーフ型の燃焼室17の一部を区画するシリンダヘッド13と、稜部163で連結され、天井部170の吸気側斜面171及び排気側斜面172と対向する吸気側斜面161及び排気側斜面162を含む頂面160を有し、シリンダ11に内挿されるピストン16と、天井部170の谷部173に設けられた燃料噴射弁6とを備え、ピストン16の頂面160には、凹陥するキャビティ164が稜部163を横切って吸気側斜面161及び排気側斜面162に亘って形成され、ピストン16の頂面160とシリンダヘッド13の天井部170との間にはスキッシュエリア175が形成され、スキッシュエリア175において、シリンダヘッド13の谷部173とピストン16の稜部163との隙間G1は、シリンダヘッド13の排気側斜面172とピストン16の排気側斜面162との隙間G2よりも広くなっている。
この構成によれば、スキッシュ流Sが比較的高い位置からキャビティ164内に流入し、キャビティ164で下降流を発生させる傾向にある稜部スキッシュエリア176の隙間G1を、排気側スキッシュエリア177bの隙間G2よりも広くすることによって、稜部スキッシュエリア176からのスキッシュ流Sを弱めて、キャビティ164内での下降流の発生を抑制することができる。それに加えて、排気側スキッシュエリア177bからのスキッシュ流Sを相対的に強くすることによって、キャビティ164内でのタンブル流Tを弱めることができる。その結果、キャビティ164の内壁に到達する燃料噴霧及び混合気を低減することができる。これらによって、冷却損失を低減することができる。さらに、キャビティ164内でのガス流動を弱めることができるので、燃焼室17の成層化に有利になる。
続いて、ピストン16の変形例について説明する。図7に変形例1に係るピストンの斜視図を示す。変形例1に係るピストン216は、図3に示すピストン16と異なり、吸気側の斜面にも島状部が設けられている。
ピストン216の頂面2160は、中央に向かって登り勾配となった吸気側斜面2161及び排気側斜面2162とを含んでいる。これにより、ピストン216の頂面2160は、中央部に向かって次第に隆起した三角屋根状を成している。吸気側斜面2161と排気側斜面2162とは、稜部2163で連結されている。また、頂面2160においては、稜部2163を横切ってキャビティ2164が形成されている。
排気側斜面2162は、図3に示す排気側斜面162と同様の形状をしている。すなわち、排気側斜面2162は、バルブリセス2162aと島状部2162bとを有している。
一方、吸気側斜面2161は、図3に示す吸気側斜面161と異なり、バルブリセス2161aと島状部2161bとを有している。バルブリセス2161aは、開動作を行うときの吸気弁21との干渉を避けるための部分であり、2つの円が部分的に重なり合ったような形状をしている。島状部2161bは、吸気側斜面2161のうち稜部2163とは反対側の部分であって2つの吸気弁21のバルブヘッドの間に相当する部分において、略三角形状に形成されている。
稜部2163は、図3に示す稜部163と同様の形状をしている。すなわち、稜部2163は、一様に湾曲したR面となっている。
このピストン216においても、シリンダヘッド13の谷部173とピストン216の稜部2163との隙間G1は、シリンダヘッド13の排気側斜面172とピストン216の排気側斜面2162(島状部2162b)との隙間G2よりも広くなっている。また、隙間G2は、シリンダヘッド13の吸気側斜面171とピストン216の吸気側斜面2161(島状部2161b)との隙間G3よりも狭くなっている。尚、隙間G1は、隙間G3よりも広くなっている。
尚、この例では、排気側斜面172と排気側斜面2162のバルブリセス2162aとの隙間をG2とし、吸気側斜面171と吸気側斜面2161のバルブリセス2161aとの隙間をG3とした場合であっても、隙間G1>隙間G3>隙間G2の関係が成立している。
図8に変形例2に係るピストンの斜視図を示す。変形例2に係るピストン316は、図3に示すピストン16と異なり、排気側の斜面に島状部が設けられていない。
ピストン316の頂面3160は、中央に向かって登り勾配となった吸気側斜面3161及び排気側斜面3162とを含んでいる。これにより、ピストン316の頂面3160は、中央部に向かって次第に隆起した三角屋根状を成している。吸気側斜面3161と排気側斜面3162とは、稜部3163で連結されている。また、頂面3160においては、稜部3163を横切ってキャビティ3164が形成されている。
排気側斜面3162は、図3に示す排気側斜面162のような凹凸はなく、実質的に平坦な面である。排気側斜面3162は、バルブリセスが形成されていないというよりはむしろ、全面がバルブリセスである。つまり、排気側斜面3162の高さは、ピストン316が上死点に位置するときでも、開動作を行う排気弁22と干渉しない高さとなっている。
吸気側斜面3161は、図3に示す吸気側斜面161と同様に、実質的に平坦な面である。吸気側斜面3161の高さは、ピストン316が上死点に位置するときでも、開動作を行う吸気弁21と干渉しない高さとなっている。
稜部3163は、図3に示す稜部163と同様の形状をしている。すなわち、稜部3163は、一様に湾曲したR面となっている。
このピストン316においても、シリンダヘッド13の谷部173とピストン316の稜部3163との隙間G1は、シリンダヘッド13の排気側斜面172とピストン316の排気側斜面3162との隙間G2よりも広くなっている。また、隙間G2は、シリンダヘッド13の吸気側斜面171とピストン316の吸気側斜面3161との隙間G3よりも狭くなっている。尚、隙間G1は、隙間G3よりも広くなっている。
図9に変形例3に係るピストンの斜視図を示す。変形例3に係るピストン416は、図3に示すピストン16と異なり、稜部が島状部で構成されている。
ピストン416の頂面4160は、中央に向かって登り勾配となった吸気側斜面4161及び排気側斜面4162とを含んでいる。これにより、ピストン416の頂面4160は、中央部に向かって次第に隆起した三角屋根状を成している。吸気側斜面4161と排気側斜面4162とは、稜部4163で連結されている。また、頂面4160においては、稜部4163を横切ってキャビティ4164が形成されている。
排気側斜面4162は、図3に示す排気側斜面162と同様の形状をしている。すなわち、排気側斜面4162は、バルブリセス4162aと島状部4162bとを有している。
吸気側斜面4161は、図3に示す吸気側斜面161と同様の形状をしている。吸気側斜面4161は、図3に示す吸気側斜面161と同様に、実質的に平坦な面である。吸気側斜面4161の高さは、ピストン416が上死点に位置するときでも、開動作を行う吸気弁21と干渉しない高さとなっている。
稜部4163は、図3に示す稜部163と異なり、排気側斜面4162のバルブリセス4162aから段差状に隆起する島状に形成されている。稜部4163は、吸気側斜面4161からも段差状に隆起している。ただし、稜部4163の表面は、一様に湾曲したR面となっている。
このピストン416においても、シリンダヘッド13の谷部173とピストン416の稜部4163との隙間G1は、シリンダヘッド13の排気側斜面172とピストン416の排気側斜面4162(島状部4162b)との隙間G2よりも広くなっている。また、隙間G2は、シリンダヘッド13の吸気側斜面171とピストン416の吸気側斜面4161との隙間G3よりも狭くなっている。尚、隙間G1は、隙間G3よりも広くなっている。
尚、この例では、排気側斜面172と排気側斜面4162のバルブリセス4162aとの隙間をG2とした場合であっても、隙間G1>隙間G3>隙間G2の関係が成立している。
図10に変形例4に係るピストンの斜視図を示す。変形例4に係るピストン516は、図3に示すピストン16と異なり、吸気側の斜面にも島状部が設けられていると共に、稜部が島状部で構成されている。
ピストン516の頂面5160は、中央に向かって登り勾配となった吸気側斜面5161及び排気側斜面5162とを含んでいる。これにより、ピストン516の頂面5160は、中央部に向かって次第に隆起した三角屋根状を成している。吸気側斜面5161と排気側斜面5162とは、稜部5163で連結されている。また、頂面5160においては、稜部5163を横切ってキャビティ5164が形成されている。
排気側斜面5162は、図3に示す排気側斜面162と同様の形状をしている。すなわち、排気側斜面5162は、バルブリセス5162aと島状部5162bとを有している。
吸気側斜面5161は、図3に示す吸気側斜面161と異なり、バルブリセス5161aと島状部5161bとを有している。バルブリセス5161aは、開動作を行うときの吸気弁21との干渉を避けるための部分であり、2つの円が部分的に重なり合ったような形状をしている。島状部5161bは、吸気側斜面5161のうち稜部5163とは反対側の部分であって2つの吸気弁21のバルブヘッドの間に相当する部分において、略三角形状に形成されている。
稜部5163は、図3に示す稜部163と異なり、排気側斜面5162のバルブリセス5162aから段差状に隆起する島状に形成されている。稜部5163は、吸気側斜面5161のバルブリセス5161aからも段差状に隆起している。ただし、稜部5163の表面は、一様に湾曲したR面となっている。
このピストン516においても、シリンダヘッド13の谷部173とピストン516の稜部5163との隙間G1は、シリンダヘッド13の排気側斜面172とピストン516の排気側斜面5162(島状部5162b)との隙間G2よりも広くなっている。また、隙間G2は、シリンダヘッド13の吸気側斜面171とピストン516の吸気側斜面5161(島状部5161b)との隙間G3よりも狭くなっている。尚、隙間G1は、隙間G3よりも広くなっている。
尚、この例では、排気側斜面172と排気側斜面5162のバルブリセス5162aとの隙間をG2とし、吸気側斜面171と吸気側斜面5161のバルブリセス5161aとの隙間をG3とした場合であっても、隙間G1>隙間G3>隙間G2の関係が成立している。
以上、様々な変形例で示したように、バルブリセスが形成されているか否かにかかわらず、少なくとも天井部170の排気側斜面171とピストンの排気側斜面との隙間のうち最も狭い部分(島状部が形成された部分)において、隙間G1>隙間G2の関係が成立している。ただし、天井部170の排気側斜面171とピストンの排気側斜面との隙間のうち最も広い部分(例えば、バルブリセスが形成された部分)において、隙間G1>隙間G2の関係が成立していてもよい。
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
例えば、ピストン16の構成は一例に過ぎず、これに限定されるものではない。例えば、キャビティ164がオフセットして配置されているが、キャビティ164がボア中心に配置されていてもよい。また、バルブリセスや島状部の形状も任意に設定することができる。