以下、本発明を自動変速機のトルクコンバータに適用した実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る流体伝動装置の断面図であり、図2は、図1に示す流体伝動装置の要部を拡大した断面図である。本発明の実施形態に係る流体伝動装置としてのトルクコンバータ1は、自動変速機に組み込まれるものであり、図1及び図2に示すように、その外殻を形成するケース10を有している。
ケース10は、その駆動源側であるエンジン側の面を構成するフロントカバー11の径方向中央部に固設された連結部12を介して駆動源としてのエンジン、具体的にはエンジンの出力軸であるクランクシャフト(不図示)に連結されている。これにより、トルクコンバータ1全体は、エンジンにより駆動されるようになっている。
なお、以下の説明では、便宜上、エンジン側(図の右側)を前方、反エンジン側(図の左側)を後方とする。
前記トルクコンバータ1は、主たる構成要素として、入力部材としてのポンプ20と出力部材としてのタービンとステータとで形成されるドーナツ状のトーラスT、ワンウェイクラッチOWC、ロックアップクラッチ(以下、適宜「クラッチ」という)60及びロックアップダンバ(以下、適宜「ダンパ」という)LDを有し、これらがケース10内に収納されていると共に、ケース10内には動力伝達用流体としての作動油が充満されるようになっている。
なお、図1において、トーラスTの構成部材であるポンプ20、タービン及びステータ、ワンウェイクラッチOWC、及びダンパLDについては、発明の理解を容易にするために詳細な図示を省略している。
ポンプ20は、ケース10の反エンジン側の面を構成するポンプシェル21を有し、ポンプシェル21は、その外周部が後方へ膨出して形成され、その内部に、周方向に所定間隔を隔てて多数のブレード(不図示)が配設されている。ポンプ20は、ケース10と一体的に回転し、ポンプシェル21の内面とブレードとによってケース10内に充満されている作動油を軸心周りに旋回しながら後方から前方へ向う流れを発生させるようになっている。
ポンプシェル21の内周端部には、自動変速機の変速機構側に延びるポンプスリーブ23が結合され、ポンプスリーブ23の先端がトルクコンバータ1の後方に配設されたギヤ式オイルポンプ(不図示)に係合されている。これにより、前記クランクシャフトの回転によってケース10及びポンプスリーブ23を介して前記オイルポンプが駆動されるようになっている。
前記タービンは、ポンプシェル21のエンジン側に配置されたタービンシェル(不図示)と、該タービンシェルの内周端部に結合されたタービンハブ30とを有し、ポンプ20の前方に対向配置されてケース10内に回転自在に収納されている。
前記タービンシェルは、その外周部が前方へ膨出して形成され、その内部に、周方向に所定間隔を隔てて多数のブレード(不図示)が配設されている。ポンプシェル21のブレードが配設された外周部と前記タービンシェルのブレードが配設された外周部とが対向配置されることにより、ポンプ20の回転によって生じた作動油の流れが前記タービンシェルに導入され、前記タービンシェルの内面とブレードとによって内方へ向かう作動油の流れが形成され、この作動油の流れが該ブレードを押圧することにより、前記タービンが周方向の力を受け、ポンプ20と同方向に駆動されるようになっている。
そして、この駆動力は、前記タービンに連結された自動変速機の変速機構側に延びるタービンシャフト25により、変速機構へ伝達されるようになっている。前記タービンは、タービンハブ30の内周端部がタービンシャフト25にスプライン嵌合されることによりタービンシャフト25に連結されている。
前記ステータは、ポンプ20と前記タービンとの対向部の内側に配設され、周方向に所定間隔を隔てて設けられた多数のブレード(不図示)を備えており、前記ブレードは、全体として一体化した構成とされている。前記ブレードは、ポンプ20のブレードの内周側の端部と前記タービンのブレードの内周側の端部との間に配置され、これにより、前記タービンを駆動した作動油の流れが前記タービン側から導入されて前記ステータの各ブレードの間を通過する作動油の流れが形成されるようになっている。
そして、この作動油の流れが、ポンプシェル21の内面に内周側から導入されてポンプシェル21の内面とブレードとによる後方から前方へ向う作動油の流れとなり、ポンプ20、前記タービン及び前記ステータの各ブレードの間を通過して循環する作動油の流れが形成され、トルクコンバータ1の全体として、この循環流が形成されるドーナツ状の空間、即ちトーラスTが形成されるようになっている。
ワンウェイクラッチOWCは、前記ステータを支持して該ステータによるトルク増大作用を実現させるものであり、前記ステータの内側に配設されている。ワンウェイクラッチOWCは、インナレース36の内周面が当該自動変速機の変速機ケースから延びるステータシャフト24にスプライン嵌合されることによりステータシャフト24に組み付けられるようになっている。
前記ステータは、トーラスT内の作動油の流れにより一方向の回転力を受けたときに、ワンウェイクラッチOWCが空転することにより自由に回転し、また、他方向の回転力を受けたときに、ワンウェイクラッチOWCがロックすることにより固定される。このとき、トルク増大作用が発生し、エンジンからポンプ20に入力されたトルクが増大されて、前記タービンからタービンシャフト25に出力される。
トーラスT内に供給される作動油は、ステータシャフト24とタービンシャフト25との間に形成された油路24aを通じてケース10内に供給され、ポンプスリーブ23とステータシャフト24との間に形成された油路23aを通じてケース10内から排出される。
一方、前記クラッチ60は、同心状に配置されたクラッチハブ61及びクラッチドラム62と、該ハブ61とドラム62との間に配設され、これらに交互に係合された複数の摩擦板63と、複数の摩擦板63を押圧するピストン65とを有している。
クラッチドラム62は、摩擦板63が係合されて軸方向に延びる外側円筒部62aと、外側円筒部62aのエンジン側から径方向に延びる底部62bと、底部62bの内方側から反エンジン側に軸方向に延びる内側円筒部62cとを備え、底部62bがフロントカバー11の内面に溶接により固着されてケース10に結合されている。
フロントカバー11にはまた、クラッチドラム62の内周側、且つタービンハブ30の外周側に該フロントカバー11に沿って径方向に延びる油路構成部材40が溶接により固着されている。なお、油路構成部材40とフロントカバー11との溶接は、例えば周方向の複数箇所において行われる。
クラッチ60のピストン65は、クラッチドラム62の内側円筒部62cと油路構成部材40の外周部41との間に嵌合されており、クラッチドラム62の内側円筒部62cとピストン65との間に環状のシール部材46が介装され、油路構成部材40の外周部41とピストン65との間に環状のシール部材47が介装されている。
ピストン65は、クラッチドラム62の内側円筒部62cに嵌合される軸方向に延びる外側円筒部71と、外側円筒部71のエンジン側から径方向の内方側に延びる油圧受け部72と、油圧受け部72の内方側から反エンジン側に軸方向に延び、油路構成部材40の外周部41に嵌合される内側円筒部73とを備えると共に、外側円筒部71の反エンジン側に径方向の外方側に延びる押圧部74を備えている。
ピストン65の背部、すなわちピストン65とケース10、具体的にはフロントカバー11との間には、ロックアップクラッチの締結用流体圧としての締結用油圧が供給される流体圧室としての油圧室4が形成されている。
油圧室4に、タービンシャフト25の内部に設けられた油路25aから、フロントカバー11とその内面に固着された油路構成部材40との間に設けられた油路40a等を通って所定の締結用油圧で作動油が供給されたとき、ピストン65により複数の摩擦板63がリテーナ68側に押し付けられ、該クラッチ60が締結される。
油路構成部材40のフロントカバー11側の面には、略径方向に延びる複数の溝部42が形成されており、該溝部42によって油路構成部材40とフロントカバー11との間に油圧室4に連通する油路40aが形成されている。
図1にはまた、トルクコンバータ1を備えた自動変速機の油圧制御回路の一部が示されており、前記油圧制御回路100は、オイルポンプ101の吐出圧が、各種バルブを含む所定の油圧回路102を経由して、変速機構の各摩擦締結要素、トルクコンバータ1の作動油が充填されたケース内圧室2及びロックアップクラッチ60の油圧室4などに供給されるようになっている。
図1に示すように、油圧制御回路100は、油路25a、40a等を通じてクラッチ60の油圧室4に供給される油圧を制御するロックアップクラッチ用リニアソレノイドバルブ103を備え、該ソレノイドバルブ103は、後述するコントロールユニット150からの制御信号によって作動し、元圧ポートaに入力される油圧を所定の油圧に調整して出力ポートbに出力し、あるいは両ポートを遮断して出力ポートbをドレンポートcに連通させるように動作する。このようにして、クラッチ60の油圧室4に締結用油圧を供給する、あるいは締結用油圧を排出することができるようになっている。
また、油路構成部材40の内周部43とタービンハブ30との間にはシールリング81が介装され、シールリング81は、タービンハブ30の外周面に形成されたシールリング用溝部内に装着されている。
前記クラッチ60はまた、ピストン65の反エンジン側に配設されたプレート部材50を備えており、プレート部材50は、ピストン65との間にバランス室6を形成している。バランス室6は、ピストン65を挟んで油圧室4の反対側に形成されている。
プレート部材50は、ピストン65の油圧受け部72に略沿って径方向に延びる外側プレート部51と、外側プレート部51の内周側から反エンジン側に軸方向に延びる円筒部52と、円筒部52の反エンジン側から径方向の内方側に延びる内側プレート部53とを備え、内側プレート部53が油路構成部材40に溶接により固着されることによりケース10に固定されている。内側プレート部53と油路構成部材40との溶接は、例えば周方向の複数箇所において行われる。
プレート部材50は、外側プレート部51の径方向の外周側の端部にシール部材55を備え、該シール部材55は、ピストン65の外側円筒部71とプレート部材50の外側プレート部51との間をシールする。
また、内側プレート部53の径方向の内周側の端部であるプレート部材50の内周部54とタービンハブ30との間にシールリング83が介装され、該シールリング83は、タービンハブ30の外周面に形成されたシールリング用溝部内に装着されている。
このようにして配設されたプレート部材50とピストン65の油圧受け部72との間に、前記バランス室6が形成されている。バランス室6に作動油を導入することで、バランス室6内の作動油に作用する遠心力によって、油圧室4内の作動油に作用する遠心力をキャンセルするようになっている。
バランス室6は、図2に示すように、ピストン65の外側円筒部71に設けられた連通孔75を介してケース内圧室2と連通し、ポンプ20と前記タービンとの間で動力を伝達するための作動油が充填されたケース内圧室2から作動油の一部が導入されるようになっている。
なお、ケース内圧室2は、ケース10内において油圧室4及びバランス室6、並びにそれらに接続される油路40aを除く空間をいい、本実施形態では、ケース10内においてプレート部材50より反エンジン側の空間及びピストン65の外側円筒部71より径方向外側の空間によって形成されている。
バランス室6はまた、タービンハブ30に設けられた径方向に貫通する連通孔35及びタービンシャフト25に設けられた径方向に貫通する連通孔26を介して、タービンシャフト25の内部の外側の油路25bに連通し、バランス室6内の作動油は連通孔35、26を通じて排出されるようになっている。
タービンシャフト25の内部には、軸方向に貫通する油穴27が設けられており、油穴27は、該油穴27に内嵌されたパイプ部材28によって、油圧室4に連通する内側の油路25aと、バランス室6に連通する外側の油路25bとに仕切られている。
さらに、ダンパLDは、クラッチ60を締結するときのショックを吸収するための複数のダンパスプリング(不図示)を有し、該ダンパスプリングの一端が前記クラッチ60のクラッチハブ61に連結され、該ダンパスプリングの他端が前記タービンに連結されている。
ダンパLDは、クラッチ60が締結されるときに、フロントカバー11の回転、即ち前記クランクシャフトの回転が該クラッチ60を介して該ダンパLDに入力され、該ダンパLDのダンパスプリングを圧縮しながら、前記タービンに伝達されるようになっている。
ここで、トルクコンバータ1の作用を説明すると、先ず、クラッチ60の非締結時には、エンジンのクランクシャフトと一体的に回転するポンプ20により、トーラスT内で循環する作動油を介して前記タービンが駆動され、タービンシャフト25を介して変速機構に動力が伝達されることになる。その場合に、前記ステータのトルク増大作用が得られる速度比においては、エンジンの出力トルクが増大されて変速機構へ出力される。
また、クラッチ60の締結時には、油路25a、40a等を介してクラッチ60の油圧室4に所定の締結用油圧を供給すれば、締結用油圧によりピストン65が押圧されてクラッチ60が締結され、ケース10と前記タービンとが前記ダンパLDを介して連結されることになり、エンジン出力トルクは、前記クランクシャフトからケース10、クラッチ60及びダンパLDを介して直接前記タービンに伝達されることになる。この場合、動力は作動油を介することなく変速機構へ伝達されることにより、クラッチ60の非締結時よりトルク伝達効率が向上し、エンジンの燃費性能が向上する。
クラッチ60を締結する際はまた、クラッチ60の締結時のショックを抑制するため、油圧室4に供給する作動油の油圧を制御して一旦スリップ状態とし、その後に完全に締結することが行われており、クラッチ60の複数の摩擦板63が接触し始めてトルクの伝達が開始されたときに、ダンパLDのダンパスプリングが圧縮されることによりトルク伝達開始時のショックが吸収されることになる。
また、クラッチ60では、クラッチ60の締結時に摩擦板63及びリテーナ68等がピストン65による押圧力を受けて弾性変形した状態で摩擦板63が締結され、クラッチ60が解放されるときに油圧室4からロックアップクラッチの締結用油圧が排出されると摩擦板63及びリテーナ68等の弾性復元力によってピストン65が解放方向に移動されるようになっている。
前述したように、前記クラッチ60がバランス室6を有する場合、クラッチ60の解放時に油圧室4から締結用油圧を排出した場合に、ピストン65が解放方向へ付勢されて移動されることによってクラッチ60の締結時の応答性が低下し得るが、本実施形態では、クラッチ60の解放時に油圧室4に所定の油圧を供給することで、かかる問題を回避する。
図3に示すように、トルクコンバータ1を備えた自動変速機は、変速機構の各摩擦締結要素に油圧を選択的に供給して各変速段を形成すると共にトルクコンバータ1のケース内圧室2やクラッチ60の油圧室4に油圧を供給するための油圧制御回路100を有し、油圧制御回路100は、各摩擦締結要素の締結制御を行うための摩擦締結要素用ソレノイドバルブ104、クラッチ60の締結制御を行うためのロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103等を備えている。
また、前記自動変速機には、油圧制御回路100における各ソレノイドバルブを制御して運転状態に応じた変速段を形成する制御装置としてのコントロールユニット150が備えられ、コントロールユニット150には、当該車両の車速を検出する車速センサ151からの信号、運転者によるアクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ152からの信号、運転者の選択により選択されたレンジを検出するレンジセンサ153からの信号、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ154からの信号、タービンの回転数を検出するタービン回転数センサ155からの信号等が入力されるようになっている。
そして、コントロールユニット150は、これらの信号に基づいて、油圧制御回路100における摩擦締結要素用ソレノイドバルブ104、ロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103及び該油圧制御回路100に含まれるその他のソレノイドバルブに制御信号を出力して、所定の摩擦締結要素に選択的に油圧を供給して運転状態に応じた変速段を形成すると共にクラッチ60を制御するようになっている。なお、コントロールユニット150は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
本実施形態では、前記コントロールユニット150は、クラッチ60の締結条件の成立時に油圧室4に締結用油圧を供給し、クラッチ60の締結条件の不成立時に油圧室4に所定の油圧を供給するようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103を制御する。
また、コントロールユニット150は、クラッチ60の締結条件の不成立時に、クラッチ60を介してポンプ20と前記タービンとの間で動力が伝達されると、油圧室4に供給する前記所定の流体圧を低下させるようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103を制御する。
図4は、ロックアップクラッチの制御動作を示すフローチャートである。ロックアップクラッチ60の制御動作は、コントロールユニット150によって実行され、図4に示すように、コントロールユニット150では、車速センサ151、アクセル開度センサ152、レンジセンサ153、エンジン回転数センサ154、タービン回転数センサ155などから読み込まれた各種信号に基づいて、ロックアップクラッチ60が締結制御中であるか否かが判定され(ステップS1)、ロックアップクラッチ60の締結条件が成立してロックアップクラッチ60の締結制御中であるか否かが判定される。
ロックアップクラッチ60の締結条件として、本実施形態では、前記自動変速機が搭載された車両の車速が所定車速、例えば10km/h以下であると共にアクセルペダルが踏み込まれてアクセルがONであり、且つD(前進)レンジが選択されていることが用いられる。
ステップS1での判定結果がYESの場合、すなわちロックアップクラッチ60の締結条件が成立してロックアップクラッチ60の締結制御中である場合、運転状態に応じたロックアップクラッチ60の締結制御を行うように、具体的には油圧室4に所定の締結用油圧を供給するようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103に制御信号を出力する(ステップS2)。なお、運転状態に応じてロックアップクラッチ60をスリップ制御するようにしてもよい。
一方、ステップS1での判定結果がNOの場合、すなわちロックアップクラッチ60の締結条件が成立せずにロックアップクラッチ60の締結制御中でない場合、ロックアップクラッチ60の非締結制御への移行時であるか否かが判定される(ステップS3)。ステップS3では、ロックアップクラッチ60の締結条件の成立時から不成立時への移行時であるか否かが判定され、ロックアップクラッチ60の締結条件が成立した状態から成立しなくなった最初であるか否かが判定される。
ステップS3での判定結果がYESの場合、すなわちロックアップクラッチ60の非締結制御への移行時である場合、ロックアップクラッチ60に締結用油圧より低い第1所定油圧を供給するようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103に制御信号を出力する(ステップS4)。前記第1所定油圧は、締結用油圧より低い所定の一定圧に設定され、ロックアップクラッチ60の解放時にバランス室6に導入された作動油に作用する遠心力に対応するように予め設定される。
ロックアップクラッチ60に前記第1所定油圧が供給されると、ロックアップクラッチ60にスリップが発生したか否かが判定され(ステップS5)、ロックアップクラッチ60の締結条件が成立していないロックアップクラッチ60の解放時にロックアップクラッチ60を介して動力が伝達されたか否かが判定される。ロックアップクラッチ60にスリップが発生したか否かは、タービン回転数の変化に基づいて判定することができ、タービン回転数が急激に上昇したときにスリップが発生したと判定することができる。なお、ロックアップクラッチ60のスリップ判定は、エンジン回転数とタービン回転数との差回転の変化などによって判定することも可能である。
ステップS5での判定結果がNOの場合、すなわちロックアップクラッチ60にスリップが発生していない場合、ステップS1、S3が繰り返されるが、次のステップS3では、ロックアップクラッチ60の非締結制御への移行時ではなくステップS3での判定結果がNOとなるので、ロックアップクラッチ60に前記第1所定油圧が供給された状態で、ステップS5においてロックアップクラッチ60にスリップが発生したか否かが判定される。
次に、ステップS5での判定結果がYESになると、すなわちロックアップクラッチ60にスリップが発生すると、ロックアップクラッチ60に供給される油圧が所定の下限値以上であるか否か判定される(ステップS6)。ロックアップクラッチ60に供給される油圧は、ゼロより高い所定の下限値が予め設定されている。
ステップS6での判定結果がYESの場合、すなわちロックアップクラッチ60に供給される油圧が所定の下限値以上である場合、ロックアップクラッチ60に供給される油圧を所定圧低減させるようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103に制御信号を出力する(ステップS7)。前記第1所定油圧が供給されている場合、所定圧低減させて第2所定油圧を供給するように制御する。
そして、ステップS1、S3、S5が繰り返され、ステップS5での判定結果がNOの場合、すなわちロックアップクラッチ60にスリップが発生しなくなった場合、前記第2所定油圧の供給を継続するようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103に制御信号を出力するが、ステップS5での判定結果がYESの場合、すなわちロックアップクラッチ60にスリップがまだ発生している場合、ステップS6においてロックアップクラッチ60に供給される油圧が所定の下限値以上であるか否か判定される。
ステップS6での判定結果がYESの場合、すなわちロックアップクラッチ60に供給される油圧が所定の下限値以上である場合、ロックアップクラッチ60に供給される油圧をさらに所定圧低減させるようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103に制御信号を出力する(ステップS7)。前記第2所定油圧が供給されている場合、所定圧低減させて第3所定油圧を供給するように制御する。
ロックアップクラッチ60にスリップが発生している場合に、ステップS6の判定結果がYESの場合、すなわちロックアップクラッチ60に供給される油圧が所定の下限値以上である場合、ステップS7において順次ロックアップクラッチ60に供給される油圧を順次所定圧低減させるように制御するが、ステップS6での判定結果がNOになると、すなわちロックアップクラッチ60に供給される油圧が所定の下限値より小さくなると、そのときロックアップクラッチ60に供給されている油圧を維持するように制御する。
図5は、ロックアップクラッチの制御の一例を説明するためのタイムチャートである。図5に示すように、ロックアップクラッチ60の締結条件が成立してロックアップクラッチ60が締結制御中である場合、ロックアップクラッチ60の締結制御判定がON状態とされ、ロックアップクラッチ60に供給される油圧の指示圧は運転状態に応じた締結用油圧P0に設定される。
そして、時間t1において、ロックアップクラッチ60の締結条件が成立しなくなってロックアップクラッチ60が締結制御中でなくなると、ロックアップクラッチ60の締結制御判定がOFF状態され、ロックアップクラッチ60に供給される油圧の指示圧は、締結用油圧より低い第1供給油圧P1に設定される。
ロックアップクラッチ60の締結条件が成立しなくなってロックアップクラッチ60が締結制御中でない場合には、ロックアップクラッチ60の非締結制御時にスリップが発生したか否かが判定され、ロックアップクラッチ60を介してポンプ20と前記タービンとの間で動力が伝達されているかが判定される。
時間t2において、ロックアップクラッチ60の非締結制御時にスリップが発生して、ロックアップクラッチの非締結制御時のスリップ判定がスリップが発生していないOFF状態からスリップが発生したON状態にされると、ロックアップクラッチ60に供給していた油圧を所定圧低減させる。時間t2前に第1所定油圧P1に設定されている場合、所定圧低減させて第2所定油圧P2に設定する。
図5では、時間t2において第1所定油圧P1から第2所定油圧P2に低減させることで、ロックアップクラッチ60にスリップが発生していないが、スリップがまだ発生している場合、第2所定油圧からさらに所定圧低減させる。ロックアップクラッチ60にスリップが発生している場合、ロックアップクラッチ60に供給される油圧を所定圧ずつ低減させるように制御されるが、所定の下限値PMINより小さくなるとそのときの油圧を維持するように制御される。
このように、本実施形態に係るトルクコンバータ1は、ロックアップクラッチ60の締結条件の不成立時に油圧室4に所定の油圧を供給する油圧供給手段を備えている。なお、前記油圧供給手段は、ロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ103及びコントロールユニット150によって構成されている。
これにより、ロックアップクラッチ60の解放時に、油圧室4に供給された所定の油圧によって、バランス室6内の作動油に作用する遠心力によってピストン65が解放方向へ付勢されて移動されることを抑制することができると共に、ロックアップクラッチ60を締結する際に油圧室4に締結用油圧を供給するときにロックアップクラッチ60を応答性良く締結することができる。
また、ロックアップクラッチ60の締結条件の不成立時に、ロックアップクラッチ60を介してポンプ20と前記タービンとの間で動力が伝達されると、油圧室4に供給する前記所定の油圧を低下させる。これにより、ロックアップクラッチ60の解放時に、油圧室4に供給された油圧によってロックアップクラッチ60が締結されることを抑制することができる。
また、ロックアップクラッチ60の締結条件の成立時から不成立時への移行時に、油圧室4に供給する油圧をロックアップクラッチ60の締結条件の成立時の締結用油圧から前記所定の油圧に制御することにより、ロックアップクラッチ60の締結時から解放時への移行時に、バランス室6内の作動油に作用する遠心力によってピストン65が解放方向へ付勢されて移動されることを抑制することができる。
本実施形態では、バランス室6に、ケース内圧室2から作動油が供給されているが、これに限定されるものでなく、例えば油圧室4から作動油を供給するようにしてもよく、またタービンシャフト25に設けられた油路から作動油を供給するようにしてもよい。
また、本実施形態では、ロックアップクラッチ60の締結条件の不成立時に締結用油圧より低い所定の油圧が供給されているが、前記所定の油圧として、ロックアップクラッチ60の締結条件の成立時の締結用油圧と同一若しくはそれより高い一定圧を供給するようにしてもよく、またエンジン回転数やタービン回転数に応じて可変制御するようにしてもよい。前記所定の油圧は、ロックアップクラッチ60の解放時に、バランス室6で発生する遠心油圧の影響を低減できる油圧に適宜設定される。
前述した実施形態では、ロックアップクラッチ60の締結条件の不成立時にロックアップクラッチ60の非締結制御時の全期間に亘ってロックアップクラッチ60に所定の油圧が供給されているが、ロックアップクラッチ60の締結制御から非締結制御への移行時から所定期間の間にロックアップクラッチ60に所定の油圧を供給するようにしてもよく、またロックアップクラッチ60の締結制御から非締結制御への移行後にロックアップクラッチ60への所定の油圧の供給を開始するようにしてもよい。
また、前述した実施形態では、ロックアップクラッチ60を締結状態から解放状態へ移動させた場合について記載しているが、ロックアップクラッチ60をスリップ制御状態から解放状態へ移動させる場合についても、前記実施形態と同様に制御することで、同様の効果を得ることができる。また、流体伝動装置としてトルクコンバータについて記載されているが、ポンプからタービンに流体を介して動力を伝達するその他の流体伝動装置についても同様に適用することができる。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。