以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機の骨子図であって、この自動変速機1は、車両に搭載され、主たる構成要素として、エンジンの出力軸2に連結されたトルクコンバータ3と、トルクコンバータ3の出力側に入力軸4を介して連結され、トルクコンバータ3からの動力が入力される変速機構9とを有し、これらが入力軸4の軸心上に配置されて変速機ケース5に収容されている。
トルクコンバータ3は、エンジンの出力軸2に連結されたケース3aと、ケース3a内に固設されたポンプ3bと、ポンプ3bに対向配置されてポンプ3bにより作動油を介して駆動されるタービン3cと、ポンプ3bとタービン3cとの間に介設され、かつ、変速機ケース5にワンウェイクラッチ3dを介して支持されてトルク増大作用を行うステータ3eと、ケース3aとタービン3cとの間に設けられ、ケース3aを介してエンジンの出力軸2とタービン3cとを直結するロックアップクラッチ90とによって構成されている。そして、タービン3cの回転が入力軸4を介して変速機構9側に伝達されるようになっている。
また、トルクコンバータ3と変速機構9との間には、トルクコンバータ3を介してエンジンにより駆動される機械式オイルポンプ6が配置されると共に、変速機構9には、変速機構9からの動力を駆動輪(図示せず)側へ出力する出力ギヤ7が入力軸4の軸心上に配置されている。
変速機構9は、該変速機構9を構成する摩擦締結要素として、ロークラッチ40、ハイクラッチ50、LRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80を有し、出力ギヤ7の駆動源側であるトルクコンバータ3側に、ロークラッチ40及びハイクラッチ50が配置され、出力ギヤ7の反駆動源側である反トルクコンバータ3側にLRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80がトルクコンバータ3側からこの順序で配置されている。
変速機構9はまた、入力軸4の軸心上に、第1、第2、第3プラネタリギヤセット(以下、「第1、第2、第3ギヤセット」という)10、20、30を有し、これらが変速機ケース5内における出力ギヤ7の反トルクコンバータ3側において、トルクコンバータ3側からこの順序で配置されている。
第1、第2、第3ギヤセット10、20、30のうち、第1ギヤセット10と第2ギヤセット20はシングルピニオン型であって、サンギヤ11、21と、これらのサンギヤ11、21に噛み合った各複数のピニオン12、22と、これらのピニオン12、22をそれぞれ支持するキャリヤ13、23と、ピニオン12、22に噛み合ったリングギヤ14、24とで構成されている。
また、第3ギヤセット30はダブルピニオン型であって、サンギヤ31と、サンギヤ31に噛み合った複数の第1ピニオン32aと、第1ピニオン32aに噛み合った第2ピニオン32bと、これらのピニオン32a、32bを支持するキャリヤ33と、第2ピニオン32bに噛み合ったリングギヤ34とで構成されている。
そして、第3ギヤセット30のサンギヤ31に入力軸4が直接連結されていると共に、第1ギヤセット10のサンギヤ11と第2ギヤセット20のサンギヤ21とが結合されて、ロークラッチ40の出力部材41に連結されており、また、第2ギヤセット20のキャリヤ23にハイクラッチ50の出力部材51が連結されている。
また、第1ギヤセット10のリングギヤ14と第2ギヤセット20のキャリヤ23とが結合されて、これらと変速機ケース5との間にLRブレーキ60が配設され、第2ギヤセット20のリングギヤ24と第3ギヤセット30のリングギヤ34とが結合されて、これらと変速機ケース5との間に26ブレーキ70が配設され、さらに、第3ギヤセット30のキャリヤ33と変速機ケース5との間にR35ブレーキ80が配設されている。そして、第1ギヤセット10のキャリヤ13に、出力ギヤ7が連結されている。
ここで、本実施形態に係る自動変速機1のLRブレーキ60及びロックアップクラッチ90について説明する。
LRブレーキ60は、図2に示すように、LRブレーキ60の締結時における応答性を向上させるため、クラッチクリアランス(締結用ピストンとリテーニングプレートとの間の寸法から全摩擦板の厚さの総和を減じた値)を調整する機能を有するタンデム式の油圧アクチュエータ61を備えている。
LRブレーキ60は、外周部が変速機ケース5の内周面に形成されたスプライン5aに係合された複数枚の固定側摩擦板62aと、内周部が回転部材としてのハブ部材85の外周面に形成されたスプライン85aに係合された複数枚の回転側摩擦板62bとが交互に配置されてなる摩擦板セット62を有し、ハブ部材85は、図1に示す第1ギヤセット10のリングギヤ14と第2ギヤセット20のキャリヤ23とに結合されている。
摩擦板セット62の反トルクコンバータ側(以下、反トルクコンバータ側(図の左側)を「後方」、トルクコンバータ側(図の右側)を「前方」とする)には、固定側摩擦板62aと同様に変速機ケース5のスプライン5aに係合され、スナップリング86により後方に対して抜け止めされたリテーニングプレート63が配設されている。
摩擦板セット62の前方には、LRブレーキ60、具体的には固定側摩擦板62aと回転側摩擦板62bとを締結するための締結用ピストン64と、締結用ピストン64を摩擦板セット62側へ移動させてクラッチクリアランスを調整するためのクリアランス調整用ピストン65とが順に配設されている。
クリアランス調整用ピストン65は、変速機ケース5に設けられたシリンダ5b内にシール部材87a、87b、87cを介して軸方向に移動可能に嵌合され、締結用ピストン64は、クリアランス調整用ピストン65の内側に設けられたシリンダ65a内にシール部材88a、88bを介してクリアランス調整用ピストン65に対して軸方向に相対移動可能に嵌合されている。
変速機ケース5のシリンダ5b内におけるクリアランス調整用ピストン65の背部には、前記シリンダ5bとクリアランス調整用ピストン65とによってクリアランス調整用油圧室(以下、「クリアランス調整室」という)66が油密的に形成され、クリアランス調整用ピストン65のシリンダ65a内における締結用ピストン64の背部には、前記シリンダ65aと締結用ピストン64とによって締結用油圧室(以下、「締結室」という)67が油密的に形成されている。
クリアランス調整室66には、変速機ケース5に設けられた油路5cが接続されており、該油路5cは、変速機ケース5の下方に配設されたコントロールバルブユニット(不図示)に通じている。前記コントロールバルブユニットは、前記油路5cを通じてクリアランス調整室66に所定の油圧を供給できるようになっている。
締結室67には、クリアランス調整用ピストン65の外周面部65bに設けられた開口部65cを介して、変速機ケース5に設けられた油路5dが接続されており、該油路5dは、前記コントロールバルブユニットに通じている。前記コントロールバルブユニットはまた、前記油路5dを通じて締結室67に所定の油圧を供給できるようになっている。なお、前記油路5dと開口部65cとの接続部はシール部材87b、87cによってシールされている。
LRブレーキ60ではまた、クリアランス調整用ピストン65における外周面部65bの周方向の複数箇所に径方向外方へ延びる前側ばね受け部65dが設けられると共に、これと対向するように、リテーニングプレート63の外周部の前面に周方向の複数箇所に後側ばね受け部89が別部材を固着することにより設けられており、互いに対向する前側、後側ばね受け部65d、89間に、クリアランス調整用ピストン65のリターンスプリング68が装着されている。
また、LRブレーキ60には、変速機ケース5に、クリアランス調整室66に油圧が供給されたときにクリアランス調整用ピストン65の摩擦板セット62側への移動を所定位置で規制してクラッチクリアランスがほぼゼロとされるゼロクリアランス状態にするためのストッパとしてのスナップリング69が設けられている。
LRブレーキ60は、解放状態では、締結室67及びクリアランス調整室66から油圧が排出されてクリアランス調整用ピストン65が締結用ピストン64と共にリターンスプリング68の付勢力により反摩擦板セット62側に移動されている。
そして、LRブレーキ60の締結時、解放状態でクリアランス調整室66に油圧を供給すると、図2に示すように、クリアランス調整用ピストン65がリターンスプリング68の付勢力に抗してスナップリング69に当接するまで摩擦板セット62側に移動すると共に、クリアランス調整用ピストン65のシリンダ65a内でシール部材88a、88b等の摩擦等により締結用ピストン64も摩擦板セット62側に移動する。
クリアランス調整用ピストン65がスナップリング69に当接すると、締結用ピストン64は締結のためのストロークが終了して、摩擦板セット62、具体的には固定側摩擦板62a及び回転側摩擦板62bを押圧することなく該摩擦板62a、62bに接した状態もしくはほぼ接した状態であるゼロクリアランス状態となる。
さらに、図2に示すゼロクリアランス状態で締結室67に油圧を供給すると、締結用ピストン64が摩擦板セット62、具体的には固定側摩擦板62a及び回転側摩擦板62bを押し付けて、変速機ケース5に固定されたリテーニングプレート63と締結用ピストン64との間に摩擦板62a、62bが挟み込まれて相対回転不能になることで、LRブレーキ60が締結された締結状態となる。
一方、LRブレーキ60の解放時には、締結状態で締結室67から油圧を排出すると、締結用ピストン64が摩擦板62a、62bに接した状態もしくはほぼ接した状態で締結用ピストン64による押圧力が解除されて、LRブレーキ60がゼロクリアランス状態となる。
さらに、図2に示すゼロクリアランス状態でクリアランス調整室66からも油圧を排出すると、クリアランス調整用ピストン65がリターンスプリング68の付勢力により反摩擦板セット62側に移動する。このとき、シール部材88a、88b等の摩擦等により、締結用ピストン64は、クリアランス調整用ピストン65との位置関係を保持したまま、該クリアランス調整用ピストン65と共に右側に移動して、LRブレーキ60が解放状態となる。
したがって、次にLRブレーキ60を締結するときには、クリアランス調整室66に油圧を供給すれば、締結用ピストン64はゼロクリアランス状態となり、ゼロクリアランス状態で締結室67に油圧を供給すれば、油圧の供給とほぼ同時に摩擦板62a、62bを押圧し、LRブレーキ60が応答性良く締結されることとなる。
ロックアップクラッチ90は、図3に示すように、同心状に配置されたクラッチハブ91及びクラッチドラム92と、該ハブ91とドラム92との間に配設され、これらに交互に係合された複数の摩擦板93と、複数の摩擦板93を押圧するピストン94とを有している。
クラッチドラム92は、摩擦板93が係合されて軸方向に延びる外側円筒部92aと、外側円筒部92aのエンジン側から径方向に延びる底部92bと、底部92bの内方側から反エンジン側に軸方向に延びる内側円筒部92cとを備え、底部92bがケース3aの内面に溶接により固着されてケース3aに結合されている。
ピストン94は、クラッチドラム92の内側円筒部92cの内周面に嵌合され、クラッチドラム92の内側円筒部92cとピストン94との間に環状のシール部材95aが介装されている。
ピストン94は、クラッチドラム92の内側円筒部92cに嵌合される軸方向に延びる円筒部94aと、該円筒部94aのエンジン側から径方向の内方側に延びる油圧受け部94bとを備えると共に、円筒部94aの反エンジン側に径方向の外方側に延びる押圧部94cを備えている。
ピストン94の背部、すなわちピストン94とケース3aとの間には、ロックアップクラッチの締結用油圧が供給される油圧室96が形成されている。油圧室96に所定の締結用油圧が供給されたとき、ピストン94により複数の摩擦板93がリテーナ97側に押し付けられ、ロックアップクラッチ90が締結される。
ロックアップクラッチ90はまた、ピストン94の反エンジン側に配設されたプレート部材98を備えており、プレート部材98は、ピストン94との間に遠心バランス室99を形成している。プレート部材98は、ケース3aに固定されており、径方向の外周側の端部にシール部材95bを備えている。このシール部材95bは、ピストン94の円筒部94aとプレート部材98との間をシールする。
プレート部材98とピストン94との間に形成された遠心バランス室99に作動油を導入することで、遠心バランス室99内の作動油に作用する遠心力によって、油圧室96内の作動油に作用する遠心力をキャンセルして、ロックアップクラッチ90の解放状態においてピストン94が締結方向に移動することを抑制することができる。
遠心バランス室99は、ポンプ3bとタービン3cとの間で動力を伝達するための動力伝達用作動油が充填されたケース内圧室と連通し、遠心バランス室99には、前記ケース内圧室から作動油の一部が導入されるようになっている。
ロックアップクラッチ90の締結時には、油圧室96に所定の締結用油圧を供給すれば、締結用油圧によりピストン94が押圧されてロックアップクラッチ90が締結され、ケース3aを介してエンジンの出力軸2とタービン3cとが直結される。
また、ロックアップクラッチ90では、該ロックアップクラッチ90の締結時に摩擦板93及びリテーナ97等がピストン94による押圧力を受けて弾性変形した状態で摩擦板93が締結されており、該ロックアップクラッチ90が解放されるときに油圧室96からロックアップクラッチの締結用油圧が排出されると摩擦板93及びリテーナ97等の弾性復元力によってピストン94が解放方向に移動し、ピストン94による押圧力がほぼゼロとなる位置、すなわちクラッチクリアランスがほぼゼロとなる位置にシール部材95a等によって保持されるようになっている。
ロックアップクラッチ90は、該ロックアップクラッチ90の解放状態においてクラッチクリアランスがほぼゼロとなる位置にピストン94が保持されることにより、該ロックアップクラッチ90の締結時に応答性良く締結することができるようになっている。
以上の構成によって、前記自動変速機1は、ロークラッチ40、ハイクラッチ50、LRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80の締結状態の組み合わせにより、図4に示すように、N(ニュートラル)、D(前進)、R(後退)の各レンジと、Dレンジでの1〜6速とが形成されるようになっている。
図4では、ロークラッチ40、ハイクラッチ50、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80について締結状態を〇印で示し、LRブレーキ60についてクリアランス調整室66及び締結室67に油圧が供給された油圧供給状態を〇印で示している。
また、図4では、本実施形態に係る自動変速機1のニュートラルアイドル制御時の摩擦締結要素の締結状態の組み合わせについても示している。Dレンジで1速の変速段での停車時に所定のニュートラル条件の成立により変速機構9がニュートラル状態とされるニュートラルアイドル制御時には、ロークラッチ40及びLRブレーキ60が締結される1速の状態から、LRブレーキ60の締結室67から油圧が排出された状態とされる。
また、自動変速機1は、図5に示すように、ロークラッチ40、ハイクラッチ50、LRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80に油圧を選択的に供給して各変速段を形成するための油圧制御回路100を有し、油圧制御回路100は、ロークラッチ40、ハイクラッチ50、LRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80の各摩擦締結要素の締結制御を行うための摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101、ロックアップクラッチ90の締結制御を行うためのロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ102等を備えている。
また、自動変速機1には、油圧制御回路100における各ソレノイドバルブを制御して運転状態に応じた変速段を形成する制御装置としてのコントロールユニット150が備えられ、コントロールユニット150には、当該車両の車速を検出する車速センサ151からの信号、運転者によるアクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ152からの信号、運転者の選択により選択されたレンジを検出するレンジセンサ153からの信号、エンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ154からの信号、タービン3cの回転数を検出するタービン回転数センサ155からの信号、運転者によるブレーキペダルの踏込みを検出するブレーキスイッチ156からの信号等が入力されるようになっている。
そして、コントロールユニット150は、これらの信号に基づいて、油圧制御回路100における摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101、ロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ102及び該油圧制御回路100に含まれるその他のソレノイドバルブに制御信号を出力して、所定の摩擦締結要素に選択的に油圧を供給して運転状態に応じた変速段を形成するようになっている。なお、コントロールユニット150は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
前記コントロールユニット150は、車両の発進時に、ロックアップクラッチ90を締結するように制御すると共に車両の発進時に締結される所定の摩擦締結要素を締結するように制御し、車両の発進時に、運転者による発進要求レベルが所定値未満であるときは、発進要求レベルが所定値以上であるときよりも前記所定の摩擦締結要素を緩やかに締結するように制御する。
また、前記コントロールユニット150は、車両の発進時に、運転者による発進要求レベルが所定値以上であるときは、ロックアップクラッチ90に供給される油圧を一定圧に保持することによりロックアップクラッチ90を変速機構9の入力トルクの変動が抑制されるように制御しつつ前記所定の摩擦締結要素を締結するように制御する。
図6は、本発明の実施形態に係る自動変速機の車両発進時における制御を説明するためのタイムチャートである。図6に示すタイムチャートでは、車両の停車中に、Dレンジが選択されると共にブレーキがONにされ、且つエンジンがアイドリング状態とされ、自動変速機1についてはニュートラルアイドル制御が行われてロークラッチ40が締結されると共にLRブレーキ60のクリアランス調整室66にのみ油圧が供給され、ロックアップクラッチ90に油圧が供給されていない状態から、車両が発進する状態を示している。
図6に示すように、コントロールユニット150は、時間t1においてブレーキペダルの踏込みが解除されてブレーキがONからOFFにされると、ニュートラルアイドル制御を終了し、LRブレーキ60の締結室67に油圧を供給するように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力する。LRブレーキ60の締結室67への油圧供給は、図6のLRブレーキ締結室油圧において実線で示すように、締結用油圧より低い所定圧まで第1の所定勾配で油圧を高めるように行われ、前記所定圧で所定時間保持した後に締結用油圧に高めるように行われる。
LRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了するまでに時間t2において運転者によってアクセルペダルが踏み込まれて、アクセル開度がOFFからONになる車両の発進時には、運転者による発進要求レベルを検出し、運転者による発進要求レベルに応じてLRブレーキ60及びロックアップクラッチ90を締結するように制御する。
本実施形態では、運転者による発進要求レベルとしてアクセル開度を用い、アクセル開度が所定値α以上である場合を運転者による発進要求(加速要求)が大であると検出し、アクセル開度が所定値α未満である場合を運転者による発進要求が小であると検出して、発進要求レベルに応じてLRブレーキ60及びロックアップクラッチ90を締結するように制御する。
車両の発進時に、図6のアクセル開度及び発進要求において実線で示すように、アクセル開度が所定値α以上である発進要求が大であるときは、図6のLRブレーキ締結室油圧において実線で示すように、LRブレーキ60の締結室67に供給する油圧を、締結用油圧より低い所定圧まで第1の所定勾配で高め、前記所定圧で所定時間保持した後に締結用油圧に高めるように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力する。
ロックアップクラッチ90については、図6のロックアップクラッチ圧において実線で示すように、変速機構9の入力トルクの変動が抑制されるようにロックアップクラッチ締結抑制制御を行い、締結用油圧よりも低い一定圧を供給するようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ102に制御信号を出力する。これにより、図6において符号アで示すようにアクセルペダルの踏込みに応じてエンジン回転数が過剰に上昇することを抑制することができる。
そして、時間t3においてLRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了すると、ロックアップクラッチ一定圧保持制御を終了してロックアップクラッチ90の通常制御を行い、ロックアップクラッチ90に締結用油圧を供給してロックアップクラッチ90を締結するようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ102に制御信号を出力する。LRブレーキ60が締結されると、ロックアップクラッチ90の通常制御を行う。
一方、車両の発進時に、図6のアクセル開度及び発進要求において一点鎖線で示すように、アクセル開度が所定値α未満である発進要求が小であるときは、図6のLRブレーキ締結室油圧において一点鎖線で示すように、発進要求が大であるときよりもLRブレーキ60を緩やかに締結するLRブレーキ締結抑制制御を行う。コントロールユニット150は、LRブレーキ60の締結室67に供給する油圧を、締結用油圧より低い前記所定圧まで前記第1の所定勾配よりも小さい第2の所定勾配で高め、前記所定圧で所定時間保持した後に締結用油圧に高めるように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力する。
ロックアップクラッチ90については、図6のロックアップクラッチ圧において一点鎖線で示すように、ロックアップクラッチ90に締結用油圧を供給してロックアップクラッチ90を締結するようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ102に制御信号を出力する。
そして、時間t4においてLRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了すると、LRブレーキ締結抑制制御を終了すると共にロックアップクラッチ90の通常制御を行う。
このように、コントロールユニット150は、車両の発進時に、ロックアップクラッチ90を締結するように制御すると共に車両の発進時に締結されるLRブレーキ60を締結するように制御し、運転者による発進要求レベルが所定値α未満であるときは、発進要求レベルが所定値以上であるときよりもLRブレーキ60の締結室67に油圧を緩やかに供給してLRブレーキ60を緩やかに締結するように制御する。
また、コントロールユニット150は、車両の発進時に、運転者による発進要求レベルが所定値α以上であるときは、ロックアップクラッチ90を変速機構9の入力トルクの変動が抑制されるように制御しつつLRブレーキ60を締結するように制御する。
図7は、本発明の実施形態に係る自動変速機の車両発進時における制御動作を示すフローチャートである。図7に示すように、車両の停車中に、Dレンジが選択されると共にブレーキがONにされ、且つエンジンがアイドリング状態とされ、自動変速機1についてはニュートラルアイドル制御が行われてロークラッチ40が締結されると共にLRブレーキ60のクリアランス調整室66にのみ油圧が供給され、ロックアップクラッチ90に油圧が供給されていない状態で、コントロールユニット150では、各種信号に基づいて、ブレーキペダルの踏込みが解除されてブレーキがOFFにされたか否かが判定される(ステップS1)。
ステップS1での判定結果がNOの場合、すなわちブレーキがONのままである場合、ステップS1が繰り返されるが、ステップS1での判定結果がYESになると、すなわちブレーキがOFFにされると、ステップS2においてアクセルペダルが踏み込まれてアクセルがONであるか否かが判定される(ステップS2)。
ステップS2での判定結果がYESの場合、すなわちアクセルがONである場合、次に発進要求レベルが所定値以上であるか否かが判定される(ステップS3)。本実施形態では、発進要求レベルとしてアクセル開度が用いられ、アクセル開度が所定値α以上であるか否かが判定される。
ステップS3での判定結果がYESの場合、すなわち発進要求レベルが所定値α以上である場合、LRブレーキ締結室油圧供給通常制御を行い(ステップS4)、LRブレーキ60の締結室67に供給する油圧を、締結用油圧より低い所定圧まで第1の所定勾配で高め、前記所定圧で所定時間保持した後に締結用油圧に高めるように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力する。
また、ロックアップクラッチ締結抑制制御を行い(ステップS5)、変速機構9の入力トルクの変動が抑制されるように締結用油圧よりも低い一定圧を供給するようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ102に制御信号を出力する。そして、LRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了したか否かが判定される(ステップS6)。
一方、ステップS3での判定結果がNOの場合、すなわち発進要求レベルが所定値α未満である場合、LRブレーキ締結室油圧供給抑制制御を行う(ステップS7)。発進要求レベルが所定値α以上であるときよりもLRブレーキ60を緩やかに締結するように制御し、LRブレーキ60の締結室67に供給する油圧を、締結用油圧より低い前記所定圧まで前記第1の所定勾配よりも小さい第2の所定勾配で高め、前記所定圧で所定時間保持した後に締結用油圧に高めるように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力する。
また、ロックアップクラッチ締結通常制御を行い(ステップS8)、ロックアップクラッチ90に締結用油圧を供給してロックアップクラッチ90を締結するようにロックアップクラッチ用ソレノイドバルブ102に制御信号を出力する。そして、LRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了したか否かが判定される(ステップS6)。
また、ステップS2での判定結果がNOの場合、すなわちアクセルがOFFである場合、LRブレーキ締結室油圧供給通常制御を行い(ステップS9)、LRブレーキ60の締結室67に供給する油圧を、締結用油圧より低い前記所定圧まで前記第1の所定勾配で高め、前記所定圧で所定時間保持した後に締結用油圧に高めるように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力する。そして、ロックアップクラッチ90を締結するロックアップクラッチ締結制御を行うことなく、LRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了したか否かが判定される(ステップS6)。
ステップS6での判定結果がNOの場合、すなわちLRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了していない場合、ステップS6が繰り返されるが、ステップS6での判定結果がYESになると、すなわちLRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了すると、ロックアップクラッチ90の通常制御を行う(ステップS10)。
LRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了したときに、ロックアップクラッチ締結抑制制御が行われているときはロックアップ締結通常制御を行い、ロックアップクラッチ90に締結用油圧を供給してロックアップクラッチ90を締結するように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力する。また、ロックアップクラッチ締結通常制御が行われているときは、ロックアップクラッチ締結通常制御を継続するように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力する。
一方、LRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了したときに、ロックアップクラッチ締結制御が行われていないときは、継続してロックアップクラッチ締結制御を行わない。
このように、本実施形態では、車両の発進時に、運転者による発進要求レベルが所定値α未満であるときは、発進要求レベルが所定値α以上であるときよりも車両の発進時に締結されるLRブレーキ60を緩やかに締結することにより締結ショックを抑制することができる。さらに、LRブレーキ60を緩やかに締結するのは運転者による発進要求レベルが所定値未満のときであるため、運転者の発進要求が実現されない状態を回避できる。従って、車両の発進時に、運転者の発進要求を実現させつつ締結ショックを抑制することができる。
また、車両の発進時に、運転者による発進要求レベルが所定値α以上であるときは、ロックアップクラッチ90を変速機構9の入力トルクの変動が抑制されるように制御しつつ車両の発進時に締結されるLRブレーキ60を締結するように制御することにより、LRブレーキ60を締結する際の変速機構9の入力トルクの変動による締結ショックを抑制することができる。
車両の発進時に、ロックアップクラッチ90に供給される油圧を一定圧に保持することによりロックアップクラッチ90を変速機構9の入力トルクの変動が抑制されるように制御することにより、ロックアップクラッチ90の締結用油圧より低い一定圧に保持して、車両の発進時にエンジン回転数が過剰に上昇することを抑制することができる。
また、ロックアップクラッチ90は、締結用油圧の非供給時にクラッチクリアランスがほぼゼロとされるものであることにより、締結用油圧が供給されたときに応答性良く締結されるロックアップクラッチを用いる場合に、締結ショックが生じることを抑制することができる。
本実施形態では、運転者による発進要求レベルとして比較的簡単に検出することができるアクセル開度を用い、車両の発進時に、アクセル開度を検出し、検出したアクセル開度が所定値未満であるときは、アクセル開度が所定値以上であるときよりもLRブレーキ60を緩やかに締結しているが、発進要求レベルとして、アクセルペダルの踏込速度、アクセル開度に対応するスロットルバルブ開度、アクセルペダルの踏込速度に対応するスロットルバルブ開速度などのアクセル開度に関連する値を用いるようにしてもよい。また、発進要求レベルとして、エンジン回転数、タービン回転数、変速機の出力回転数、車速の変化速度又は変化量などを検出して用いることも可能である。かかる場合においても、発進要求レベルを比較的簡単に検出することができる。なお、アクセル開度を含むアクセル開度に関連する値を適宜組み合わせて用いることも可能である。
また、本実施形態では、発進要求レベルが所定値未満であるときは、LRブレーキ60の締結室67に供給する油圧を、発進要求レベルが所定値以上であるときの第1の所定勾配よりも小さい第2の所定勾配で高め、発進要求レベルが所定値以上であるときよりもLRブレーキ60を緩やかに締結しているが、LRブレーキ60を締結するまでの時間、すなわち締結用油圧に高めるまでの時間を、発進要求レベルが所定値以上であるときよりも長くしたり、LRブレーキ60の締結量を所定量で規制したり、すなわちLRブレーキ60の締結室67に供給する油圧を所定圧で規制したりすることで、発進要求レベルが所定値以上であるときよりもLRブレーキ60を緩やかに締結することも可能である。
また、発進要求レベルが所定値以上である場合、ロックアップクラッチ締結抑制制御としてロックアップクラッチ90に締結用油圧よりも低い一定圧を供給しているが、ロックアップクラッチ90を変速機構9の入力トルクの変動が抑制されるようにロックアップクラッチ90に油圧を供給することなくロックアップクラッチ90を解放するようにしてもよい。
本実施形態では、ニュートラルアイドル制御が行われてロークラッチ40が締結されると共にLRブレーキ60のクリアランス調整室66にのみ油圧が供給され、ロックアップクラッチ90に油圧が供給されていない車両の停車中からの車両の発進時における自動変速機1の制御について説明しているが、Nレンジが選択され、ロークラッチ40が解放されると共にLRブレーキ60のクリアランス調整室66にのみ油圧が供給され、ロックアップクラッチ90に油圧が供給されていない車両の停車中からの車両の発進時における自動変速機の制御についても同様に行うことができる。
この場合、NレンジからDレンジが選択されると共にブレーキペダルの踏込みが解除されてブレーキがONからOFFにされると、先ずロークラッチ40に油圧を供給するように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力し、ロークラッチ40への油圧供給が完了すると、前述した実施形態と同様に、LRブレーキ60の締結室67に油圧を供給するように摩擦締結要素用ソレノイドバルブ101に制御信号を出力する。
そして、LRブレーキ60の締結室67への油圧供給が完了するまでに、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれて、アクセル開度がOFFからONになる車両の発進時には、発進要求レベルが所定値以上であるときよりもLRブレーキ60を緩やかに締結するように制御する。
また、本実施形態では、LRブレーキ60が、2つのピストンを有するタンデム式の油圧アクチュエータ61を備えてクリアランス調整室66と締結室67を有するように構成され、車両の停車中に、クリアランス調整室66にのみ油圧が供給されてLRブレーキ60が半締結状態とされているが、LRブレーキを、1つのピストンのみを有すると共に油圧室のみを有するように構成し、車両の停車中に、LRブレーキをスリップ制御してLRブレーキを半締結状態にすることも可能である。前記LRブレーキのスリップ制御は、変速機ケース5と回転部材85との差回転を目標値に維持するようにフィードバック制御によって行うことができる。
この場合においても、車両の発進時に、運転者による発進要求レベルが所定値未満であるときは、発進要求レベルが所定値以上であるときよりもLRブレーキ60を緩やかに締結するように制御することで、本実施形態と同様の効果を奏することができる。
なお、本実施形態では、本発明に係る車両の発進時に締結される所定の摩擦締結要素として、図1に骨子を示す自動変速機1のLRブレーキ60に適用したものであるが、その他の摩擦締結要素にも適用することができ、また変速機構の構成の異なる自動変速機にも同様に適用することができる。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。