以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のガソリンエンジンの制御装置の概略構成図である。このエンジンの制御装置にエンジンEGR制御装置が含まれている。
エンジン1はガソリンエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう。)で、図示しない車両に搭載されている。エンジン1には、吸気通路4、排気通路11を備える。上記の吸気通路4は、吸気管4a、吸気コレクタ4b、吸気マニホールド4cで構成される。
吸気コレクタ4bのすぐ上流の吸気管4aにはアクセルペダルの踏込量に応動する電子制御のスロットル装置を備える。スロットル装置は、スロットルバルブ5と、スロットルバルブ5を駆動するモータ(回転電機)6により構成されている。吸入空気は吸気管4aを経てスロットルバルブ5によって調量される。調量された空気は吸気コレクタ4bに蓄えられ、この吸気コレクタ4bから吸気マニホールド4cを介して各気筒のシリンダ7(燃焼室)に分配供給される。実施形態は電子制御のスロットル装置の場合であるが、スロットルバルブとアクセルペダルとがワイヤーにより連結されたものであってよい。
燃料噴射弁8が吸気マニホールド4cに、点火プラグ9がシリンダ7に直接臨んでそれぞれ設けられ、燃料噴射弁8から燃料が吸気マニホールド4c(吸気ポート)に噴射される。噴射された燃料は、スロットルバルブ5によって調量された空気と混合してガスとなり、このガスを点火プラグ9で着火して燃焼させる。燃焼するガスはピストン10を押し下げる仕事をした後、排気通路11に排出される。燃料噴射弁8を設ける位置は吸気マニホールドに限らない。シリンダ7に直接臨ませて燃料噴射弁を設けるものであってよい。
排気通路11は、各気筒のシリンダ7からの排気が流入する排気マニホールド11a、この排気マニホールド11aの集合部に接続される排気管11bで構成される。排気中にはHC、CO、NOxの有害三成分を含むので、これらを全て浄化するため排気マニホールド11aの集合部にマニホールド触媒12を、それよりも下流の排気管11bにメイン触媒13を備えている。メイン触媒13は例えば車両の床下に設けられる。これら各触媒12,13は例えば三元触媒で構成される。排気管11bの末端にはマフラー19を備えている。
エンジン1には、さらにターボ過給機21を備える。ターボ過給機21は、排気管11bに設けられるタービン22と、吸気管4aに設けられるコンプレッサ23と、これらタービン22,コンプレッサ23を接続する軸24とで構成される。上記タービン22は排気管11bを流れる排気のエネルギにより回転し、タービン22と同軸のコンプレッサ23を駆動する。コンプレッサ23はエアクリーナ18を介して吸入される空気を圧縮する。圧縮されて大気圧を超える加圧空気は、吸気コレクタ4bへと送られる。ターボ過給機21を働かせることで、目標過給圧を得ることができる。
ターボ過給機21には、タービン22をバイパスするバイパス通路24と、このバイパス通路24を開閉する常閉のウェイストゲートバルブ25を備える。ウェイストゲートバルブ25はモータ(回転電機)26により駆動する。例えば、過給圧センサ45により検出される実過給圧が目標過給圧より高くなったときには、モータ26を駆動することによりウェイストゲートバルブ25を開いてタービン22に流入する排気の一部を、タービン22をバイパスさせて流す。これによって、タービン回転速度がウェイストゲートバルブ25を開く前より低下し、タービン22と同軸のコンプレッサ回転速度も低下する。コンプレッサ回転速度が低下すると実過給圧が低下してゆき目標過給圧と一致する。実過給圧が目標過給圧と一致するタイミングでウェイストゲートバルブ25の開度を保持させる。
コンプレッサ23下流側の吸気管4aには、インタークーラ27を備える。インタークーラ27はコンプレッサ23により圧縮された空気を冷却するためのものである。コンプレッサ23による空気圧縮によって温度上昇した空気がインタークーラ27によって冷却されることで、過給効率を高めることができる。
さて、ターボ過給機21を備えているガソリンエンジン1においても、過給域におけるノッキングの抑制のため、大量のEGR(排気再循環)を行うといった要求がある。この要求に応えるため、本実施形態では、新たにロープレッシャループEGR装置14を設ける。ロープレッシャループEGR(以下「LP−EGR」という。)装置14は、EGR通路15、EGR通路15に介装されるEGRクーラ16、EGR通路15を開閉するEGR弁17(例えばバタフライ弁)、EGR弁17を駆動するモータ(回転電機)18で構成される。
上記のEGR通路15は、タービン22下流の排気管、具体的にはマニホールド触媒12とメイン触媒13の間の排気管11bから分岐され、コンプレッサ23上流の吸気管4aに合流している。このように、EGR通路15がタービン22下流の排気管11bとコンプレッサ23上流の吸気管4aとを連通する場合には、タービン下流の排気管圧力とコンプレッサ上流の吸気管圧力との差圧でガス(排気の一部)がEGR弁17を流れることになる。タービン下流の排気管圧力とコンプレッサ上流の吸気管圧力との差圧は例えば1kPa程度ときわめて小さいので、LP−EGR装置と呼ばれる。以下では、LP−EGR装置のEGR弁を「LP−EGR弁」という。また、LP−EGR弁17を開いてLP−EGRを行う運転領域を「LP−EGR領域」、LP−EGR弁を全閉に保持する運転領域を「非LP−EGR領域」という。LP−EGR装置そのものはディーゼルエンジンにおいて公知であるが、本実施形態では、ターボ過給機21を備えるガソリンエンジン1にLP−EGR装置14を採用している。
上記のEGRクーラ16はLP−EGR弁17上流のEGR通路15に設けられる。EGRクーラ16はEGR通路15を流れるガス(排気の一部)を冷却するものである。このため、LP−EGR領域では冷却されたガスがLP−EGR弁17を流れる。
ここで、ターボ過給機21を備えるガソリンエンジン1にLP−EGR装置14を新たに採用した理由を説明する。ターボ過給機を備えないガソリンエンジンに適用され、比較的高温の排気の一部を吸気コレクタ4bに流入させるEGR装置がある。このEGR装置では、排気通路11と吸気コレクタ4bの間の比較的大きな差圧(負圧)でEGR弁をガスが流れるので、ハイプレッシャループEGR(以下「HP−EGR」という。)装置と呼ばれる。
ターボ過給機を備えるガソリンエンジンにHP−EGR装置を適用することを考える。まず、過給していないときには吸気コレクタ4bに大気圧より低い圧力(負圧)が発達し、排気圧との差圧が大きくなるので、EGR弁を開けばガス(EGRガス)を吸気コレクタ4bに吸い込ませることができる。しかしながら、ターボ過給機による過給の開始で吸気コレクタ4bの圧力は、負圧から大気圧へ、大気圧からさらに大気圧を超える圧力へと高くなっていく。吸気コクレタ4bの圧力が大気圧を超える圧力へと高くなると、排気圧との差圧が小さくなってしまう。吸気コレクタ4bにおいて大気圧を超える圧力とは過給圧のことであり、過給圧が高くなるほど、排気圧との差圧がさらに小さくなる。排気圧との差圧が小さくなると、特に大量のEGRガスを吸気コレクタ4bに吸い込ませることができなくなる。
一方、LP−EGR装置では、タービン下流の相対的に低い排気管圧力とコンプレッサ上流の吸気管圧力との微小な差圧(1kPa程度)でガス(EGRガス)がEGR通路15を流れるので、過給圧の影響を受けることがない。つまり、ターボ過給機21を備えるガソリンエンジン1にLP−EGR装置14を追加することで、ターボ過給機21による過給中にあっても大量のEGRガスを吸気通路に導入できる。
さらに説明すると、図2に本実施形態の過給域とLP−EGR領域とを重ねて示す。図2において、吸気コレクタ4bの圧力が大気圧となる場合を破線のラインで示している。本実施形態では、吸気コレクタ4bの圧力が大気圧より高くなる領域(破線より上の領域)が過給域、吸気コレクタ4bの圧力が大気圧以下となる領域(破線より下の領域)が非過給域である。一方、LP−EGR領域は全体としてほぼ等脚台形状であり、本実施形態では過給域の中にLP−EGR領域が大きく生じている。
このため、本実施形態では、運転領域が次のように4つの領域に区分される。
〈1〉過給域かつLP−EGR領域(B−C−D−Eで囲まれた領域)
〈2〉過給域かつ非LP−EGR領域(ハッチングで示す領域)
〈3〉非過給域かつLP−EGR領域(A−B−E−Fで囲まれた領域)
〈4〉非過給域かつ非LP−EGR領域
ここで、図2において等脚台形の角をA,C,D,Fとし、等脚台形と破線が交わる点をB,Eとしている。また、破線の両端をG,Jとし、G−H−Iのラインを全負荷時のラインとしている。なお、LP−EGR領域は、全体としてほぼ等脚台形状である場合に限られるものでない。エンジン、ターボ過給機、LP−EGR装置14の仕様が異なれば、LP−EGR領域の形状が違ったものとなり得る。
図1に示したように、本実施形態ではさらに、コンプレッサ23をバイパスするバイパス通路31を備える。バイパス通路31には、モータ(回転電機)33により駆動されるリサーキュレーションバルブ32が設けられている。このバルブ32は、車両減速のためスロットルバルブ5が閉じられた際に、スロットルバルブ5からコンプレッサ23までの吸気管4aに閉じ込められた加圧空気をコンプレッサ23上流側に再循環(リサーキュレーション)させるためのものである。一方、車両減速時以外の運転域でターボ過給機21により過給が行われている場合には、バルブ32が基本的に全閉保持され、コンプレッサ23の上流側の空気(EGRガスを含む)の全てがコンプレッサ23に導かれる。
ここで、リサーキュレーションバルブ32が必要となる理由はディーゼルエンジンとガソリンエンジンとでスロットルバルブの扱いが異なることによるものである。すなわち、ディーゼルエンジンでは、スロットルバルブは常時開かれており、必要な場合に限って閉じられる。一方、ガソリンエンジンでは、スロットルバルブ5は、吸気コレクタ4bのすぐ上流に設けられ、アクセルペダルの踏込量に応動してその開度が変化する。
このような違いにより、ガソリンエンジンでは、ターボ過給機21により過給をしている状態から車両を減速させるためにアクセルペダルを戻すと、これに応動してスロットルバルブ開度が一定量、ステップ的に小さくなる。このスロットルバルブ開度の急な減少でスロットルバルブ5からコンプレッサ23までの吸気管4a内に存在する加圧空気の行き場がなくなる。その上、車両減速時からのコンプレッサ23の稼働によって、スロットルバルブ5からコンプレッサ23までの吸気管4aの圧力がさらに上昇する。すると、コンプレッサ下流で圧力の高くなった空気はコンプレッサ23に向かって逆流する。そして、逆流する加圧空気がコンプレッサ23を通過して上流に逃れる際にコンプレッサ23から音(騒音)が発生する。このような車両減速時に発生する騒音は車両室内の静粛性に影響する。そこで、過給域からの車両減速時にはバルブ32を全閉状態から開状態へと切換え、コンプレッサ上流の加圧空気を、コンプレッサ23をバイパスしてコンプレッサ上流に解放(リサーキュレーション)することで、車両減速時の騒音の発生を防止するのである。
次に、LP−EGR装置14を用いてLP−EGR制御を行う場合のEGR率を単に「EGR率」というとすると、燃焼室7内のEGR率の目標値(以下、「目標EGR率」という。)のマップ特性は図3に示したようになっている。すなわち、図3のように、全体としてほぼ等脚台形状のLP−EGR領域を大きく2つに分け、高負荷側の領域で10%、低負荷側の領域で20%としている。ここで、本実施形態ではEGR率は次式で定義される値である。
EGR率=LP−EGR弁流量/(新気量+LP−EGR弁流量)
…(1)
(1)式の新気量はエアフローメータ42により検出される空気量のこと、(1)式のLP−EGR弁流量はLP−EGR弁17を流れるガス量のことである。LP−EGR弁流量は、LP−EGR弁前後差圧と、LP−EGR弁開口面積Segrとで定まる。
高負荷側の領域で低負荷側の領域より目標EGR率を小さくしている理由は次の通りである。すなわち、高負荷側においてもターボ過給機により新気をシリンダ7に押し込めることができれば、高負荷側でも低負荷側と同じに目標EGR率を20%にすることができる。しかしながら、実際にはターボ過給機により新気をシリンダ7に押し込むにしても、押し込むことのできる新気量には限界がある。一方、高負荷側では低負荷側より大きなエンジントルクを発生させる必要がある。そこで、高負荷側では低負荷側よりノッキングが生じない範囲で目標EGR率を小さくし、その小さくした分だけシリンダ7内での燃焼状態をよくすることで、低負荷側よりも大きなエンジントルクが得られるようにするのである。なお、図3では、目標EGR率を2段階で設定しているが、目標EGR率を2段階に設定する場合に限定されるものでない。目標EGR率を3段階以上に、あるいは連続的に目標EGR率を変化させるものであってよい。
図1に示したように、燃料噴射弁8及び点火プラグ9に加えて、LP−EGR弁17、ウェイストゲートバルブ25、リサーキュレーションバルブ32を制御するため、エンジンコントローラ41を備える。エンジンコントローラ41はマイクロプロセッサ、ROM及びRAM等の周辺機器を備えたコンピュータユニットとして構成されている。エンジンコントローラ41には、エアフローメータ42、アクセルセンサ43、クランク角センサ44、過給圧センサ45からの信号が入力する。ここで、エアフローメータ42は吸気管4a内に流入する空気量(質量流量)を検出する。アクセルセンサ43はアクセルペダルの踏込量(アクセル開度)及びその変化量を検出する。クランク角センサ44はエンジン回転速度を検出する。過給圧センサ45は吸気コレクタ4bの圧力(実過給圧)を検出する。
エンジンコントローラ41で行われるLP−EGR制御を、図4のフローチャートを参照して説明する。図4のフローチャートは目標LP−EGR弁開度を算出するためのものである。図4のフローは一定時間毎(たとえば10ms毎)に実行する。
ステップ1では、LP−EGR許可フラグ=1であるか否かをみる。LP−EGR許可フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)は、エンジンの回転速度Neとエンジン負荷から定まるエンジンの運転点が図2に示したLP−EGR領域にあるときにゼロから1に切換わるフラグである。LP−EGR許可フラグ=1であるときにはLP−EGRを行わせるためステップ2〜5に進む。
ステップ2〜5はLP−EGR領域で目標LP−EGR弁開度を算出する部分である。まず、ステップ2では、エンジン回転速度Neとエンジン負荷から前述の図3を内容とするマップを検索することにより、目標EGR率Megr[%]を算出する。図3に示したように目標EGR率はエンジン回転速度Neとエンジン負荷をパラメータとするマップ上に予め定められている。
ステップ3では、この目標EGR率Megrから図5を内容とするテーブルを検索することにより、基本LP−EGR弁開度voEGR0を算出する。図5に示したように基本LP−EGR弁開度は目標EGR率が大きくなるほど大きくなる値である。本実施形態では、目標EGR率が10%と20%しか採り得ないので、目標EGR率が10%のとき基本LP−EGR弁開度は所定値aに、目標EGR率が20%のとき基本LP−EGR弁開度は所定値bになる。
ステップ4では、エンジン回転速度Neとエンジン負荷から図6を内容とするマップを検索することにより、トリミング係数Ktrm[無名数]を算出する。トリミング係数は1.0を中心とする値である。図6に示したように、LP−EGR領域のうち、低回転速度低負荷側の領域に1.1が、高回転速度高負荷側の領域に0.9が、残りの領域に1.0が入っている。トリミング係数が1.0を超えるときには目標LP−EGR弁開度が増大する側に、トリミング係数が1.0を下回るときには目標LP−EGR弁開度が減少する側に補正される。
ステップ5では、基本LP−EGR弁開度voEGR0にトリミング係数Ktrmを乗算することによって、つまり次式により目標LP−EGR弁開度voEGRを算出する。
voEGR=voEGR0×Ktrm …(2)
上記のトリミング係数Ktrmは、吸入空気量Qa(エンジン負荷)とエンジン回転速度Neが相違しても、目標EGR率が得られるようにするためのものである。
上記トリミング係数Ktrmの役割について具体的に説明する。たとえばエンジン回転速度Neが一定の条件でみると、図7に示したように吸入空気量Qaに対してLP−EGR弁17の前後差圧が変化する。これは吸入空気量Qaが多くなるほど排気温度が高くなり、排気温度が高くなるほどEGR通路15の分岐部の排気圧が2次関数的に大きくなるためである。図7より、吸入空気量Qaが相対的に小さい低負荷側では相対的に小さな差圧しか得られず、吸入空気量Qaが相対的に大きい高負荷側では相対的に大きな差圧が得られる。このことは、低負荷側ではLP−EGR弁流量が相対的に小さく(LP−EGR弁をEGRガスが流れにくく)、高負荷側ではLP−EGR弁流量が相対的に大きく(LP−EGR弁をEGRガスが流れ易く)なることを意味する。いま、吸入空気量Qaが相対的に小さい低負荷と吸入空気量Qaが相対的に大きい高負荷の中間の吸入空気量Qaを適合時の吸入空気量として選択し、適合時の吸入空気量をQ1としたとする。このとき、適合時の吸入空気量Q1より小さな低負荷側では、適合時のLP−EGR弁流量よりLP−EGR弁流量が少なくなる。LP−EGR弁流量が少なくなると、実EGR率が目標EGR率から外れて小さくなってしまう。そこで、図6に示したように、低負荷側では1.1のトリミング係数を与えてLP−EGR弁開度を増大補正することで、低負荷側でも実EGR率が目標EGR率から外れて小さくならないようにする。
また、適合時の吸入空気量Q1より高負荷側では、適合時のLP−EGR弁流量よりLP−EGR弁流量が多くなる。LP−EGR弁流量が多くなると、実EGR率が目標EGR率から外れて大きくなってしまう。そこで、図6に示したように、高負荷側では0.9のトリミング係数を与えてLP−EGR弁開度を減少補正することで、高負荷側でも実EGR率が目標EGR率から外れて大きくならないようにする。
本実施形態では、LP−EGR領域を3つに区分し、領域毎に1つのトリミング係数を与えている(つまり段階的に3つの異なるトリミング係数を与えている)が、この場合に限定されるものでない。段階的に4つ以上の異なるトリミング係数を与えるものであっても、また無段階にトリミング係数を与えるものであってもよい。
図4のステップ1で、LP−EGR許可フラグ=0であるときにはステップ6に進み、目標LP−EGR弁開度voEGRにゼロを入れる。これによって、LP−EGR弁17を全閉状態とする。
図示しないフローでは、この目標LP−EGR弁開度voEGRが得られるようLP−EGR弁アクチュエータであるモータ18に信号を出力する。
さて、LP−EGR装置14においては、特にLP−EGR弁17の前後差圧が小さい低回転速度側や低負荷側で、LP−EGR弁流量を大きくすることができない。上記LP−EGR弁17の前後差圧を、以下「LP−EGR弁前後差圧」という。あるいは単に「前後差圧」ともいう。
ここで、「LP−EGR弁前後差圧」とは、EGR通路15の分岐部の排気圧と、EGR通路15の合流部の吸気圧との差の圧力からEGRクーラ16の流路抵抗に伴う圧力損失分を差し引いた値、つまり次式により算出される値である。
ΔP=(Pa−Pb)−ΔP1 …(3)
ただし、Pa:EGR通路の分岐部の排気圧、
Pb:EGR通路の合流部の吸気圧、
ΔP:LP−EGR弁前後差圧、
ΔP1:EGRクーラの流路抵抗に伴う圧力損失分、
このため、本実施形態では、EGR通路15の合流部(EGR通路15から吸気コンプレッサ上流の吸気管4aへのEGRガス流出口)より上流の吸気管4aに常開の差圧デバイス51を設け、この差圧デバイス51をアクチュエータ52によって駆動する。ここで、差圧デバイス51としてはバタフライ弁のような絞弁で構成する。そして、アクチュエータ52に与える制御量に応じて差圧デバイス51の開度(以下、「差圧デバイス開度」という。)を調整することで、LP−EGR弁前後差圧を制御する。これによって、LP−EGR弁流量を調整する。
例えば、エンジン1の同じ運転条件において、差圧デバイス開度を基本開度より小さくし吸入空気量を減少させたとする。これによって、EGR通路の合流部の吸気圧Pbが基本開度のときより低下するため、上記(3)式よりLP−EGR弁前後差圧ΔPが上昇する。一方、エンジン1の同じ運転条件において、差圧デバイス開度を基本開度より大きくし吸入空気量を増加させたとする。これによって、EGR通路の合流部の吸気圧Pbが基本開度のときより上昇するため、上記(3)式よりLP−EGR弁前後差圧ΔPが低下する。これより、LP−EGR弁前後差圧ΔPを上昇させるには差圧デバイス開度を基本開度より小さくし、LP−EGR弁前後差圧ΔPを低下させるには差圧デバイス開度を基本開度より大きくすればよいことがわかる。
この場合、エンジン1の運転条件によっては、実際のLP−EGR弁前後差圧が予め定めた目標前後差圧より大きく乖離することがある。この実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より大きく乖離する場合としては、次のような場合である。すなわち、図13で後述するように、車両の加速によって非LP−EGR領域からLP−EGR領域へと移行する場合や、図14で後述するように、車両の減速によって非LP−EGR領域からLP−EGR領域へと移行する場合である。
例えば、車両の加速によって非LP−EGR領域からLP−EGR領域へと移行する場合に、エンジンの運転条件に応じた排気温度(=ベース排気温度)はステップ的に上昇する(図13の最下段の一点鎖線参照)。一方、このベース排気温度に対して、実際の排気温度は一次遅れで応答する(図13の最下段の実線参照)。すると、ステップ的に上昇するベース排気温度に対応する前後差圧(=目標前後差圧)に対して、実際のLP−EGR弁前後差圧が一次遅れで応答する。これによって実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧と一致するまでの期間で実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より乖離する。
このように差圧センサにより検出される実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より小さい期間では、LP−EGR弁流量が目標流量よりも小さくなってしまう。これに対処するには、差圧センサにより検出される実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より小さい期間で、LP−EGR弁前後差圧ΔPが上昇するように差圧デバイス開度を小さくなる側に補正することである。
また、車両の減速によって非LP−EGR領域からLP−EGR領域へと移行する場合に、エンジンの運転条件に応じた排気温度(=ベース排気温度)はステップ的に低下する(図14の最下段の一点鎖線参照)。一方、このベース排気温度に対して、実際の排気温度は一次遅れで応答する(図14の最下段の実線参照)。すると、ステップ的に低下するベース排気温度に対応する前後差圧(=目標前後差圧)に対して、実際のLP−EGR弁前後差圧が一次遅れで応答する。これによって実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧と一致するまでの期間で実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より乖離する。
このように実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より大きい期間では、LP−EGR弁流量が目標流量よりも大きくなってしまう。これに対処するには、LP−EGR弁前後差圧を検出する差圧センサを設ける。そして、差圧センサにより検出される実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より大きい期間で、LP−EGR弁前後差圧ΔPが低下するように差圧デバイス開度を大きくなる側に補正することである。
しかしながら、差圧センサの出力はエンジン1の排気圧の脈動の影響を受けて変動する。このエンジン1の排気圧の脈動の影響を受けて、実際のLP−EGR弁流量が目標流量を外れることがある。例えば、実際にはLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より大きいのに、センサ出力により得られる前後差圧が目標前後差圧より小さかったとする。この場合には、実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より上昇するように差圧デバイス開度が小さくなる側に補正されてしまう。つまり、実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より上昇するため、実際のLP−EGR弁流量が目標流量を外れて大きくなる。実際のLP−EGR弁流量が目標流量を外れて大きくなると、実際のEGR率が目標EGR率より大きくなる。図8に示したように、点火時期を目標EGR率が大きくなるほど進角側に設定しているので、実際のEGR率が目標EGR率より大きくなると、点火時期の進角が足りないことになり、燃焼室7内での燃焼状態が悪化する。
一方、実際にはLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より小さいのに、センサ出力により得られる前後差圧が目標前後差圧より大きかったとする。この場合には、実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より低下するように差圧デバイス開度が大きくなる側に補正されてしまう。つまり、実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より低下するため、実際のLP−EGR弁流量が目標流量を外れて小さくなる。実際のLP−EGR弁流量が目標流量を外れて小さくなると、実際のEGR率が目標EGR率より小さくなる。図8に示したように、目標EGR率が大きくなるほど進角側に設定しているので、実際のEGR率が目標EGR率より小さくなると、点火時期の遅角が足りないことになり、ノッキングが生じ得る。
そこで本発明の第1実施形態では、タービン22下流の排気管11bの排気温度を検出する温度センサ(排気温度検出手段)を設け、この検出される排気温度に基づいて差圧デバイス開度を補正する。
差圧センサにより、LP−EGR弁前後差圧を検出する場合、具体的には上記(3)式のEGR通路15の分岐部の排気圧Paを検出している。このEGR通路15の分岐部の排気圧PaとEGR通路の分岐部の排気温度とは強く相関する一方で、EGR通路の分岐部の排気温度はEGR通路15の分岐部の排気圧Paと相違して、エンジン1の排気圧の脈動の影響を受けにくい。そこで、EGR通路15の分岐部の排気圧に代えて、EGR通路15の分岐部の排気温度を用いることとしたものである。
この場合、温度センサを設ける位置としては、EGR通路15の分岐部(タービン22下流の排気管11bからEGR通路15へのEGRガス流入口)やこれに近接した位置とすることが考えられる。
ただし、温度センサを設ける位置はこの位置に限定されるものでない。例えば、スペースの関係でEGR通路15の分岐部やこれに近接した位置に温度センサを設けることが困難であることがある。この場合には、タービン22下流の排気管11bであって、EGR通路15の分岐部より上流の排気管11bに温度センサを設け、この温度センサ出力に基づいてEGR通路15の分岐部の排気温度を推定することであってよい。
また、既設の温度センサ48を流用することであってよい。すなわち、本実施形態では、ターボ過給機21を制御するため、タービン22下流の排気管11bであって、EGR通路15の分岐部より上流の排気管11bに既設の温度センサ48が設けられている。そこで本実施形態では、この既設の温度センサ48を流用することで、新たに温度センサを追加して設けることによるコストアップを回避する。
このように、EGR通路15の分岐部より上流の排気管11bに温度センサを新たに設けたり、既設の温度センサ48を流用したりするときには、温度センサ48の取り付け位置からEGR通路15の分岐部までの間で温度低下が生じる。このため、温度センサの取り付け位置でEGR通路15の分岐部の排気温度を推定するのでは、上記温度低下分だけの誤差が生じる。しかしながら、この温度低下分は予め知り得る。よって、EGR通路15の分岐部上流の排気管11bに新たに温度センサを追加して設けたり、既設の温度センサ48を流用したりすることであっても、EGR通路15の分岐部の排気温度を精度良く推定(算出)することができる。
本実施形態は、既設の温度センサ48によりEGR通路15の分岐部の排気温度を検出する場合であるが、この場合に限定されるものでもない。例えば、EGR通路15の分岐部の排気温度をエンジンの運転条件より算出する場合であってよい。
エンジンコントローラ41で実行されるこの制御を図9のフローチャートを参照して説明する。図9のフローは、差圧デバイス51の目標開度[deg]を算出するためのもので、図4のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップ11では、LP−EGR許可フラグ=1であるか否かをみる。図13で後述するように車両の加速によって非LP−EGR領域からLP−EGR領域へと移行する場合、図14で後述するように車両の減速によって非LP−EGR領域からLP−EGR領域へと移行する場合に、LP−EGR許可フラグがゼロから1に切換わる。LP−EGR許可フラグ=1であるときには差圧デバイス51を制御するためステップ12〜17に進む。
ステップ12では、エンジン回転速度Ne[rpm]とエンジントルク[Tm]から、図10を内容とするマップ検索することにより、差圧デバイス51の基本開度θ01[deg]を算出する。ここで、上記のエンジントルクはエンジン回転速度Neとアクセル開度から所定のマップを検索することにより求めればよい。
上記の差圧デバイス51は例えばバタフライ弁である。このため、差圧デバイス51が採り得る最大開度は90degである。このとき差圧デバイス51が全開位置となる。一方、差圧デバイス51が採り得る最小開度は0degである。このとき差圧デバイス51が全閉位置となる。
図10に示したように差圧デバイス51の基本開度θ01はエンジン回転速度Neが一定の条件でエンジントルクが大きくなるほど、例えば10,30,50,70degと大きくなる値である。これは、エンジントルクが大きくなるほど吸入空気量を増大させる必要があるためである。
また、図10に示したように差圧デバイス51の基本開度θ01はエンジントルクが一定の条件でエンジン回転速度Neが高くなるほど、例えば10,30,50,70degと大きくなる値である。これは、エンジンン回転速度Neが高くなるほど、吸入空気の供給遅れが出ないように吸入空気量を増大させる必要があるためである。
ステップ13では、エンジン回転速度Neとエンジントルクから、図11を内容とするマップを検索することにより、ベース排気温度Tbase[℃](所定温度)を算出する。
ここで、「ベース排気温度」とは、EGR通路15の分岐部の排気温度の目標値(つまり目標排気温度)のことである。このベース排気温度は、エンジントルクとエンジン回転速度Neを相違させて適合により求めることになる。スロットルバルブ開度を一定とすれば、差圧デバイス51の基本開度θ01により吸入空気量が定まり、その吸入空気量によりベース排気温度Tbaseが定まる。よって、図11に示したようにベース排気温度Tbaseの概略の傾向は、図10に示した差圧デバイス51の基本開度θ01の概略の傾向と同じである。すなわち、図11に示したようにベース排気温度Tbaseはエンジン回転速度Neが一定の条件でエンジントルクが大きくなるほど、例えば100,200,300,400℃と高くなる値である。また、ベース排気温度Tbaseはエンジントルクが一定の条件でエンジン回転速度Neが高くなるほど、例えば100,200,300,400℃と高くなる値である。
ステップ14では、温度センサ48により検出される、タービン22下流の排気管11bの実際の排気温度を、EGR通路15の分岐部の実際の排気温度(この実際の排気温度を、以下「実排気温度」という。)Treal[℃]として読み込む。上記のように温度センサ48の取り付け位置からEGR通路15の分岐部までの間に無視できない温度低下分があるときには、温度センサ検出値から温度低下分を差し引いた値を実排気温度としてやればよい。
ステップ15では、EGR通路15の分岐部の目標温度としてのベース排気温度Tbaseと、実排気温度Trealの差を差排気温度ΔT[℃]として、つまり次式により差排気温度ΔTを算出する。
ΔT=Tbase−Treal …(4)
ステップ16では、この差排気温度ΔTから、図12を内容とするテーブルを検索することにより、差圧デバイス51の開度補正係数Hkai1[無名数]を算出する。
ステップ17では、差圧デバイス51の開度補正係数Hkai1を上記の基本開度θ01に乗算することによって、つまり次式により差圧デバイス51の目標開度θ[deg]を算出する。
θ=θ01×Hkai1 …(5)
図12に示したように、まず差排気温度ΔTがゼロ(実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseと一致する)のとき、差圧デバイス51の開度補正係数Hkai1は1.0である。開度補正係数Hkai1=1.0であるときには、(5)式より差圧デバイスの基本開度θ01がそのまま差圧デバイスの目標開度θとなる。つまり、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseと一致するときには、差圧デバイス51の開度補正は行われない。
次に、差排気温度ΔTがゼロでない場合を説明すると、差排気温度ΔTが正の値であるか負の値であるかによって、開度補正係数Hkai1の値が相違する。すなわち、差圧デバイス51の開度補正係数Hkai1は基本的に正の値であるが、図12に示したように、差排気温度ΔTが正の値であるとき、差圧デバイス51の開度補正係数Hkai1は1.0より小さくなる正の値である。差排気温度ΔTが正の値である(実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより低い)とき、1.0より小さくなる正の値である開度補正係数Hkai1によって差圧デバイスの基本開度θ01が小さくなる側に補正される。
実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより低いときに、差圧デバイスの基本開度θ01を小さくなる側に補正する理由は次の通りである。すなわち、車両の加速によって非LP−EGR領域からLP−EGR領域へと移行する場合に、ステップ的に上昇するベース排気温度Tbaseに対して、実排気温度Trealが一次遅れで応答する。このため、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseと一致するまでの期間で、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより低くなる。実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより低くなる期間で実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より小さくなり、実際のLP−EGR弁流量が目標流量より低下する。このLP−EGR弁流量の低下を避けるには、LP−EGR弁前後差圧を大きくする側に補正することであり、そのためには上記(3)式より、EGR通路15の合流部の吸気圧を低下させることである。EGR通路15の合流部の吸気圧を低下させるには差圧デバイスの基本開度θ01を小さくなる側に補正すれば吸入空気量が減ってEGR通路15の合流部の吸気圧が低下することになるためである。
一方、図12に示したように、差排気温度ΔTが負の値であるとき、差圧デバイス51の開度補正係数Hkai1は1.0より大きくなる正の値である。差排気温度ΔTが負の値である(実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより高い)とき、1.0より大きくなる正の値である開度補正係数Hkai1によって差圧デバイスの基本開度θ01が大きくなる側に補正される。
実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより高いときに、差圧デバイスの基本開度θ01を大きくなる側に補正する理由は次の通りである。すなわち、車両の減速によって非LP−EGR領域からLP−EGR領域へと移行する場合に、ステップ的に低下するベース排気温度Tbaseに対して、実排気温度Trealが一次遅れで応答する。このため、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseと一致するまでの期間で、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより高くなる。実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより高くなる期間で実際のLP−EGR弁前後差圧が目標前後差圧より大きくなり、実際のLP−EGR弁流量が目標流量より増加する。このLP−EGR弁流量の増加を避けるには、LP−EGR弁前後差圧を小さくする側に補正することであり、そのためには上記(3)式より、EGR通路15の合流部の吸気圧を上昇させることである。EGR通路15の合流部の吸気圧を上昇させるには差圧デバイスの基本開度θ01を大きくなる側に補正すれば吸入空気量が増えてEGR通路15の合流部の吸気圧が上昇することになるためである。
一方、図9のステップ11で、非LP−EGR領域にあることよりLP−EGR許可フラグ=0であるときには差圧デバイスの開度補正は必要ないと判断し、ステップ18に進む。ステップ18では差圧デバイス51を初期状態に戻すため、差圧デバイス51の目標開度θに最大開度θmax[deg]を入れる。これによって、差圧デバイス51を全開状態(初期状態)とする。
このように算出した差圧デバイス51の目標開度θは、図示しないフローにより、差圧デバイス51のアクチュエータ52に出力する。
図13は、アクセルペダルを一定量踏み増しして加速を行うことで非LP−EGR領域からLP−EGR領域に移行する場合に、各パラメータがどのように変化するのかをモデルで示すタイミングチャートである。また、図14は、アクセルペダルを一定量戻して減速を行うことで非LP−EGR領域からLP−EGR領域に移行する場合に、各パラメータがどのように変化するのかをモデルで示すタイミングチャートである。
ここで、車両の加速による非LP−EGR領域からLP−EGR領域への移行時や車両の減速による非LP−EGR領域からLP−EGR領域への移行時を考えるのは次の理由からである。すなわち、実排気温度Trealがベース排気温度から大きく乖離することになる運転条件は車両の加速による非LP−EGR領域からLP−EGR領域への移行時や車両の減速による非LP−EGR領域からLP−EGR領域への移行時であるためである。
なお、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより大きく乖離することになる運転条件はこれらの場合に限られない。例えば、LP−EGR領域内において、目標EGR率が小さい値から大きい値へとステップ的に変化する場合や、この逆に目標EGR率が大きい値から小さい値へとステップ的に変化する場合にも、実排気温度がベース排気温度から乖離する。したがって、これらの場合にも、本発明の適用がある。
上記の各パラメータとは、図13,図14において上からアクセル開度、目標LP−EGR弁開度、差圧デバイス51の開度補正係数Hkai、差圧デバイス開度、EGR率、LP−EGR弁前後差圧、EGR通路15の分岐部の排気温度である。本実施形態の場合を実線で、比較例の場合(本実施形態の差圧デバイス51の開度補正がない場合)を破線で重ねて示している。
まず、図13から説明する。図13最上段に示したように、アクセル開度をt1のタイミングで所定値ACC1から一定量踏み増しし、t3のタイミングから所定値ACC2を維持したとする。このとき、目標LP−EGR弁開度は、図13第2段目に示したように、ゼロから所定値voEGR1へとステップ的に大きくなる。
ベース排気温度Tbaseは、図13最下段に一点鎖線で重ねて示したようにt1のタイミングで所定値Tb1から増加し、t3のタイミングより所定値Tb2を維持する。一方、温度センサ48により検出される実排気温度Trealは、図13最下段に実線で示したように変化する。すなわち、ステップ的に上昇するベース排気温度Tbaseに対してほぼ一次遅れで変化し、t4のタイミングでベース排気温度Tbaseと一致している。
ベース排気温度Tbaseに対応するLP−EGR弁前後差圧(=目標前後差圧)は図13第6段目に一点鎖線で重ねて示したようにステップ的に上昇する。また、ベース排気温度Tbaseに対応するEGR率(=目標EGR率)は図13第5段目に一点鎖線で重ねて示したようにゼロからステップ的に上昇する。
この場合に、比較例では、実際のLP−EGR弁前後差圧(以下、「実前後差圧」という。)が、一次遅れで上昇する実排気温度Trealに対応するものとなる。すなわち、比較例の実前後差圧は図13第6段目に破線で重ねて示したように目標前後差圧に対して一次遅れで上昇する。比較例の実前後差圧が目標前後差圧に対して一次遅れで上昇すると、比較例の実際のEGR率(以下「実EGR率」という。)が、図13第5段目に破線で重ねて示したように、目標EGR率に対して一次遅れで上昇する。このように比較例の実EGR率が目標EGR率に対して一次遅れで上昇するのでは、実EGR率が目標EGR率と一致するまでの期間で実EGR率の不足が生じる。実EGR率の不足が生じるとノッキングが生じ得る。
なお、目標LP−EGR弁開度をゼロから正の値へと切換え(LP−EGR弁を開き)EGRガスをEGR通路15に流しても、EGRガスが吸気管4a、吸気コレクタ4b、吸気マニホールド4cを通って実際に燃焼室7に到達するまでには時間的遅れがある。このため、目標LP−EGR弁開度をゼロから正の値へと切換えたタイミングで実EGR率がゼロから正の値へと大きくなることはない。実際には目標LP−EGR弁開度をゼロから正の値へと切換えたタイミングより所定の時間遅れの後に実EGR率がゼロから正の値へと大きくなる。しかしながら、こうしたEGRガスの時間的な供給遅れを無視したほうが、理解が容易であるため、目標LP−EGR弁開度をゼロから所定値へと切換えたタイミングで実EGR率がゼロから所定値へと大きくなるものとしている。
一方、本実施形態では、図13第4段目に一点鎖線で示したように、差圧デバイスの基本開度θ01がt1のタイミングより算出される。すなわち、基本開度θ01はt1のタイミングで最大開度θmaxより減少し、t3のタイミングで、所定値ACC2とそのときのエンジン回転速度Neに応じた所定値θ011へと減少する。その後は所定値θ011を維持する。
さらに本実施形態では、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseに対して一次遅れで上昇するt1からt4までの期間で、差排気温度ΔTが正の値で算出される。差排気温度Δが正の値であると、差圧デバイスの開度補正係数Hkai1が、図13第3段目に実線で示したように、t1のタイミングから、1.0より小さい正の値で算出される。この1.0より小さい正の値の開度補正係数Hkai1により基本開度θ01を補正することで、差圧デバイスの目標開度θが算出される。すると、差圧デバイスの目標開度θが、図13第4段目に実線で示したように、t1のタイミングより、最大開度θmaxから所定値θ012へと小さくされ、t2のタイミングからは所定値θ011へと近づく値で算出される。
このように、本実施形態では、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより低くなる期間で実前後差圧が比較例の場合より大きくなり、図13第6段目に実線で示したように、本実施形態の実前後差圧がt1のタイミングより目標前後差圧と一致する。これによって、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより低くなる期間での実EGR率の不足を解消してノッキングが生じることを回避することができる。言い換えると、本実施形態では、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより低くなる期間で目標前後差圧が得られるように、差圧デバイスの基本開度θ01を開度補正係数Hkai1で補正するのである。
次に、図14を説明する。図14最上段に示したように、アクセル開度をt11のタイミングで所定値ACC3から一定量戻し、t13のタイミングから所定値ACC4を維持したとする。このとき、目標LP−EGR弁開度は、図14第2段目に示したように、ゼロから所定値voLP−EGR2へとステップ的に大きくなる。
ベース排気温度Tbaseは、図14最下段に一点鎖線で重ねて示したようにt11のタイミングで所定値Tb3から減少し、t13のタイミングより所定値Tb4を維持する。一方、温度センサ48により検出される実排気温度Trealは、図14最下段に実線で示したように変化する。すなわち、ステップ的に低下するベース排気温度Tbaseに対してほぼ一次遅れで変化し、t14のタイミングでベース排気温度Tbaseと一致している。
ベース排気温度Tbaseに対応するLP−EGR弁前後差圧(=目標前後差圧)は図14第6段目に一点鎖線で重ねて示したようにステップ的に低下する。また、ベース排気温度Tbaseに対応するEGR率(=目標EGR率)は図14第5段目に一点鎖線で重ねて示したようにゼロからステップ的に上昇する。
この場合に、比較例では、実前後差圧が、一次遅れで低下する実排気温度Trealに対応するものとなる。すなわち、比較例の実前後差圧は図14第6段目に破線で重ねて示したように目標前後差圧に対して一次遅れで低下する。比較例の実前後差圧が目標前後差圧に対して一次遅れで低下すると、比較例の実LP−EG率が、図14第5段目に破線で重ねて示したように、目標EGR率に対して一次遅れで低下する。このように比較例の実EGR率が目標EGR率に対して一次遅れで低下するのでは、実EGR率が目標EGR率と一致するまでの期間で実EGR率の過剰が生じる。実EGR率の過剰が生じると燃焼室7内の燃焼状態が悪化する。
なお、目標LP−EGR弁開度をゼロから正の値へと切換え(LP−EGR弁を開き)EGRガスをEGR通路15に流しても、EGRガスが吸気管4a、吸気コレクタ4b、吸気マニホールド4cを通って実際に燃焼室7に到達するまでには時間的遅れがある。このため、目標LP−EGR弁開度をゼロから正の値へと切換えたタイミングで実EGR率がゼロから正の値へと大きくなることはない。実際には目標LP−EGR弁開度をゼロから正の値へと切換えたタイミングより所定の時間遅れの後に実EGR率がゼロから正の値へと大きくなる。しかしながら、こうしたEGRガスの時間的な供給遅れを無視したほうが、理解が容易であるため、図14においても目標LP−EGR弁開度をゼロから所定値へと切換えたタイミングで実EGR率がゼロから所定値へと大きくなるものとしている。
一方、本実施形態では、図14第4段目に一点鎖線で示したように、差圧デバイスの基本開度θ01がt11のタイミングより算出される。すなわち、基本開度θ01はt11のタイミングで最大開度θmaxより減少し、t13のタイミングで、所定値ACC4とそのときのエンジン回転速度Neに応じた所定値θ013へと減少する。その後は所定値θ013を維持する。
さらに本実施形態では、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseに対して一次遅れで低下するt11からt14までの期間で、差排気温度ΔTが負の値で算出される。差排気温度Δが負の値であると、差圧デバイスの開度補正係数Hkai1が、図14第3段目に実線で示したように、t11のタイミングから、1.0より大きい正の値で算出される。この1.0より大きい正の値の開度補正係数Hkai1で基本開度θ01を補正することで、差圧デバイスの目標開度θが算出される。すると、差圧デバイスの目標開度θが、図14第4段目に実線で示したように、t11のタイミングより、最大開度θmaxから所定値θ014へと小さくされ、t12のタイミングからは所定値θ013へと近づく値で算出される。
このように、本実施形態では、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより高くなる期間で実前後差圧が比較例の場合より小さくなり、図14第6段目に実線で示したように、本実施形態の実前後差圧がt11のタイミングより目標前後差圧と一致する。これによって、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより高くなる期間での実EGR率の過剰を解消して、燃焼室7内で燃焼が悪化することを回避することができる。言い換えると、本実施形態では、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより高くなる期間でも目標前後差圧が得られるように、差圧デバイスの基本開度θ01を開度補正係数Hkai1で補正するのである。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態は、ターボ過給機21と、EGR通路15と、EGR弁17とを備えている上記ターボ過給機21は吸気管4aに設けたコンプレッサ23と排気管11bに設けたタービン22とを有して吸気を過給する。上記EGR通路15はタービン下流の排気管11bからコンプレッサ上流の吸気管4aに排気の一部をEGRガスとして循環させる。上記LP−EGR弁17(EGR弁)はLP−EGR領域(EGR領域)でEGR通路15を流れるEGRガス量を調整する。本実施形態では、さらに差圧デバイス51と、温度センサ48(排気温度検出手段)と、差圧デバイス制御手段(41)とを備える。上記差圧デバイス51はEGR弁17の前後差圧を調整する。上記温度センサ48はタービン22下流の排気管11bの排気温度を検出する。上記差圧デバイス制御手段(41)はLP−EGR領域で前記検出される排気温度に基づいて差圧デバイス51を制御する。タービン下流の排気管11bの排気温度は、タービン下流の排気管11bの排気圧と相違して、エンジン1の排気圧の脈動の影響を受けにくい。本実施形態では、エンジン1の排気圧の脈動の影響を受けにくい排気温度に基づいて差圧デバイス51を制御するため、EGR弁流量が目標流量となるようにすることができる。
実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより高いときには、タービン22下流の排気管11bの実際の排気圧がベース排気温度Tbaseに対応する、タービン22下流の排気管11bの排気圧より上昇する。これによって、実際のLP−EGR弁前後差圧がベース排気温度Tbaseのときより大きくなり、実際のLP−EGR弁流量が目標流量より上昇する。このとき、本実施形態では、差圧デバイス制御手段(41)が、LP−EGR弁前後差圧が小さくなるように差圧デバイス51を制御する。これによって、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより高いときであっても、実際のLP−EGR弁流量を減らして目標流量を得ることができる。
実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより低いときには、タービン22下流の排気管11bの実際の排気圧がベース排気温度Tbaseに対応する、タービン22下流の排気管11bの排気圧より低下する。これによって、実際のLP−EGR弁前後差圧がベース排気温度Tbaseのときより小さくなり、実際のLP−EGR弁流量が目標流量より低下する。このとき、本実施形態では、差圧デバイス制御手段(41)が、LP−EGR弁前後差圧が大きくなるように差圧デバイス51を制御する。これによって、実排気温度Trealがベース排気温度Tbaseより低いときであっても、実際のLP−EGR弁流量を増やして目標流量を得ることができる。
本実施形態では、差圧デバイス51を、EGR通路の合流部(EGR通路からコンプレッサ上流の吸気管へのEGRガス流出口)より上流の吸気管4aに設けるので、簡単な構成でEGR弁前後差圧を調整することができる。
本実施形態では、温度センサ48(排気温度検出手段)が、EGR通路15の分岐部(タービン下流の排気管からEGR通路へのEGRガス流入口)より上流の排気管11bに設けられている。これによって、排気温度検出手段をEGR通路15の分岐部に近接して設けることができない場合であっても、EGR通路15の分岐部の排気温度を精度良く求めることができる。
(第2実施形態)
図15は第2実施形態のガソリンエンジンの概略構成図で、第1実施形態の図15と置き換わるものである。図1と同一部分には同一の符号を付している。第1実施形態では、LP−EGR弁前後差圧を調整するため、EGR通路15の合流部より上流の吸気管4aに常開の差圧デバイス51を設け、この差圧デバイス51をアクチュエータ52で駆動する。一方、第2実施形態は、LP−EGR弁前後差圧を調整するため、EGR通路15の分岐部(タービン22下流の排気管11bからEGR通路15へのEGRガス流入口)より下流の排気管11bに常開の差圧デバイス55を設け、この差圧デバイス55をアクチュエータ56で駆動するものである。
図16のフローは、第2実施形態の差圧デバイス55の目標開度[deg]を算出するためのもので、図4のフローに続けて、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。第1実施形態の図9のフローと同一部分には同一の符号を付している。
第1実施形態の図9のフローと相違する部分はステップ21,22,23である。まず、ステップ21では、エンジン回転速度Ne[rpm]とエンジントルク[Tm]から、図17を内容とするマップ検索することにより、差圧デバイス55の基本開度θ02[deg]を算出する。
上記差圧デバイス55の構成は第1実施形態の差圧デバイス51と同様である。例えば差圧デバイス55はバタフライ弁である。このため、差圧デバイス55が採り得る最大開度は90degである。このとき差圧デバイス55が全開位置となる。一方、差圧デバイス55が採り得る最小開度は0degである。このとき差圧デバイス55が全閉位置となる。
図17に示したように差圧デバイス55の基本開度θ02はエンジン回転速度Neが一定の条件でエンジントルクが大きくなるほど、例えば10,30,50,70degと大きくなる値である。これは、エンジントルクが大きくなるほど排気量を増大させる必要があるためである。
また、図10に示したように差圧デバイス55の基本開度θ02はエンジントルクが一定の条件でエンジン回転速度Neが高くなるほど、例えば10,30,50,70degと大きくなる値である。これは、エンジンン回転速度Neが高くなるほど、排気の排出遅れが出ないように排気量を増大させる必要があるためである。
ステップ22では、差排気温度ΔTから、図18を内容とするテーブルを検索することにより、差圧デバイス55の開度補正係数Hkai2[無名数]を算出する。
ステップ23では、差圧デバイス55の開度補正係数Hkai2を上記の基本開度θ02に乗算することによって、つまり次式により差圧デバイス55の目標開度θ[deg]を算出する。
θ=θ02×Hkai2 …(6)
図18に示したように、差圧デバイス55の開度補正係数Hkai2の内容は、第1実施形態の差圧デバイス51の開度補正係数Hkai1と同様である。
ただし、図18に示したように、差排気温度ΔTが同じでも、差圧デバイス55の開度補正係数Hkai2のほうが、第1実施形態の差圧デバイス51の開度補正係数Hkai1よりも大きくなる。これは、排気側に差圧デバイス55を設けたほうが、EGR通路15の分岐部の排気温度への影響が大きいので、その分、開度補正係数Hkai2を大きくするためである。
このように第2実施形態でも、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。すなわち、タービン下流の排気管11bの排気温度は、タービン下流の排気管11bの排気圧と相違して、エンジン1の排気圧の脈動の影響を受けにくい。第2実施形態でも、エンジン1の排気圧の脈動の影響を受けにくい排気温度に基づいて差圧デバイス51を制御するため、EGR弁流量が目標流量となるようにすることができる。
第2実施形態では、差圧デバイス55は、EGR通路の分岐部(タービン下流の排気管から前記EGR通路へのEGRガス流入口)より下流の排気管11bに設けるので、簡単な構成でEGR弁前後差圧を調整することができる。
実施形態では、EGR通路からコンプレッサ上流の吸気管へのEGRガス流出口より上流の吸気管に差圧デバイスを設ける場合と、EGR通路からコンプレッサ上流の吸気管へのEGRガス流出口より上流の吸気管に差圧デバイスを設ける場合とを説明した。本発明はこの2つの各場合に限定されるものでない。例えば、EGR通路からコンプレッサ上流の吸気管へのEGRガス流出口より上流の吸気管に第1差圧デバイスを、EGR通路からコンプレッサ上流の吸気管へのEGRガス流出口より上流の吸気管に第2差圧デバイスをそれぞれ設ける場合であってよい。
実施形態では、ガソリンエンジンにLP−EGR装置を適用する場合で説明したが、この場合に限られるものでなく、ディーゼルエンジンにLP−EGR装置を適用する場合にも本発明の適用がある。