以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のガソリンエンジンの制御装置の概略構成図である。
エンジン1はガソリンエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう。)で、図示しない車両に搭載されている。エンジン1には、吸気通路4、排気通路11を備える。上記の吸気通路4は、吸気管4a、吸気コレクタ4b、吸気マニホールド4cで構成される。
吸気コレクタ4bのすぐ上流の吸気管4aにはアクセルペダルの踏込量に応動する電子制御のスロットル装置を備える。スロットル装置は、スロットルバルブ5と、スロットルバルブ5を駆動するモータ(回転電機)6により構成されている。吸入空気は吸気管4aを経てスロットルバルブ5によって調量される。調量された空気は吸気コレクタ4bに蓄えられ、この吸気コレクタ4bから吸気マニホールド4cを介して各気筒のシリンダ7(燃焼室)に分配供給される。実施形態は電子制御のスロットル装置の場合であるが、スロットルバルブとアクセルペダルとがワイヤーにより連結されたものであってよい。
燃料噴射弁8が吸気マニホールド4cに、点火プラグ9がシリンダ7に直接臨んでそれぞれ設けられ、燃料噴射弁8から燃料が吸気マニホールド4c(吸気ポート)に噴射される。噴射された燃料は、スロットルバルブ5によって調量された空気と混合してガスとなり、このガスを点火プラグ9で着火して燃焼させる。燃焼するガスはピストン10を押し下げる仕事をした後、排気通路11に排出される。燃料噴射弁8を設ける位置は吸気マニホールドに限らない。シリンダ7に直接臨ませて燃料噴射弁を設けるものであってよい。
排気通路11は、各気筒のシリンダ7からの排気が流入する排気マニホールド11a、この排気マニホールド11aの集合部に接続される排気管11bで構成される。排気中にはHC、CO、NOxの有害三成分を含むので、これらを全て浄化するため排気マニホールド11aの集合部にマニホールド触媒12を、それよりも下流の排気管11bにメイン触媒13を備えている。メイン触媒13は例えば車両の床下に設けられる。これら各触媒12,13は例えば三元触媒で構成される。排気管11bの末端にはマフラー19を備えている。
エンジン1には、さらにターボ過給機21を備える。ターボ過給機21は、排気管11bに設けられるタービン22と、吸気管4aに設けられるコンプレッサ23と、これらタービン22,コンプレッサ23を接続する軸24とで構成される。上記のタービン22は排気管11bを流れる排気のエネルギにより回転し、タービン22と同軸のコンプレッサ23を駆動する。コンプレッサ23はエアクリーナ18を介して吸入される空気を圧縮する。圧縮されて大気圧を超える加圧空気は、吸気コレクタ4bへと送られる。ターボ過給機21を働かせることで、目標過給圧を得ることができる。
ターボ過給機21には、タービン22をバイパスするバイパス通路24と、このバイパス通路24を開閉する常閉のウェイストゲートバルブ25を備える。ウェイストゲートバルブ25はモータ(回転電機)26により駆動する。例えば、過給圧センサ45により検出される実過給圧が目標過給圧より高くなったときには、モータ26を駆動することによりウェイストゲートバルブ25を開いてタービン22に流入する排気の一部を、タービン22をバイパスさせて流す。これによって、タービン回転速度がウェイストゲートバルブ25を開く前より低下し、タービン22と同軸のコンプレッサ回転速度も低下する。コンプレッサ回転速度が低下すると実過給圧が低下してゆき目標過給圧と一致する。実過給圧が目標過給圧と一致するタイミングでウェイストゲートバルブ25の開度を保持させる。
コンプレッサ23下流側の吸気管4aには、インタークーラ25を備える。インタークーラ25はコンプレッサ23により圧縮された空気を冷却するためのものである。コンプレッサ23による空気圧縮によって温度上昇した空気がインタークーラ25によって冷却されることで、過給効率を高めることができる。
さて、ターボ過給機21を備えているガソリンエンジン1においても、過給域においてノッキングの抑制のため、大量のEGR(排気再循環)を行いたい要求がある。この要求に応えるため、本実施形態では、新たにロープレッシャループEGR装置14を設ける。ロープレッシャループEGR装置14は、EGR通路15、EGR通路15に介装されるEGRクーラ16、EGR通路15を開閉するEGR弁17(例えばバタフライ弁)、EGR弁17を駆動するモータ(回転電機)18で構成される。
上記のEGR通路15は、タービン22下流の排気管、具体的にはマニホールド触媒12とメイン触媒13の間の排気管11bから分岐され、コンプレッサ23上流の吸気管4aに合流している。このように、EGR通路15がタービン22下流の排気管11bとコンプレッサ23上流の吸気管4aとを連通する場合には、タービン下流の排気圧とコンプレッサ上流の吸気圧との差圧でガス(排気の一部)がEGR弁17を流れることになる。タービン下流の排気圧とコンプレッサ上流の吸気圧との差圧は例えば1kPa程度ときわめて小さいので、ロープレッシャループEGR(以下「LP−EGR」という。)装置と呼ばれる。以下では、LP−EGR装置のEGR弁を「LP−EGR弁」という。また、LP−EGR弁17を開いてLP−EGRを行う運転領域を「LP−EGR領域」、LP−EGR弁を全閉に保持する運転領域を「非LP−EGR領域」という。LP−EGR装置そのものはディーゼルエンジンにおいて公知であるが、本実施形態では、ターボ過給機21を備えるガソリンエンジン1に対して新たにLP−EGR装置14を採用している。
上記のEGRクーラ16はLP−EGR弁17上流のEGR通路15に設けられる。EGRクーラ16はEGR通路15を流れるガス(排気の一部)が一定の温度になるまで冷却するものである。このため、LP−EGR領域では一定温度まで冷却されたガスがLP−EGR弁17を流れる。
ここで、ターボ過給機21を備えるガソリンエンジン1にLP−EGR装置14を新たに採用した理由を説明する。ターボ過給機を備えないガソリンエンジンに適用され、比較的高温の排気の一部を吸気コレクタ4bに流入させるEGR装置がある。このEGR装置では、排気通路11と吸気コレクタ4bの間の比較的大きな差圧(負圧)でEGR弁をガスが流れるので、ハイプレッシャループEGR(以下「HP−EGR」という。)装置と呼ばれる。
ターボ過給機を備えるガソリンエンジンにHP−EGR装置を適用することを考える。まず、過給していないときには吸気コレクタ4bに大気圧より低い圧力(負圧)が発達し、排気圧との差圧が大きくなるので、EGR弁を開けばガス(EGRガス)を吸気コレクタ4bに吸い込ませることができる。しかしながら、ターボ過給機による過給の開始で吸気コレクタ4bの圧力は、負圧から大気圧へ、大気圧からさらに大気圧を超える圧力へと高くなっていく。吸気コクレタ4bの圧力が大気圧を超える圧力へと高くなると、排気圧との差圧が小さくなってしまう。吸気コレクタ4bにおいて大気圧を超える圧力とは過給圧のことであり、過給圧が高くなるほど、排気圧との差圧がさらに小さくなる。排気圧との差圧が小さくなると、特に大量のEGRガスを吸気コレクタ4bに吸い込ませることができなくなる。
一方、LP−EGR装置では、タービン下流の相対的に低い排気圧とコンプレッサ上流の吸気圧との微小な差圧(1kPa程度)でガス(EGRガス)がLP−EGR弁17を流れるので、過給圧の影響を受けることがない。つまり、ターボ過給機21を備えるガソリンエンジン1にLP−EGR装置14を追加した構成とすることで、ターボ過給機21による過給中にあっても大量のEGRガスを吸気通路に導入できることとなった。
さらに説明すると、図2に本実施形態の過給域とLP−EGR領域とを重ねて示す。図2において、吸気コレクタ4bの圧力が大気圧となる場合を破線のラインで示している。本実施形態では、吸気コレクタ4bの圧力が大気圧より高くなる領域(破線より上の領域)が過給域、吸気コレクタ4bの圧力が大気圧以下となる領域(破線より下の領域)が非過給域である。一方、LP−EGR領域は全体としてほぼ等脚台形状であり、本実施形態では過給域の中にLP−EGR領域が大きく生じている。
このため、本実施形態では、運転領域が次のように4つの領域に区分される。
〈1〉過給域かつLP−EGR領域(B−C−D−Eで囲まれた領域)
〈2〉過給域かつ非LP−EGR領域(ハッチングで示す領域)
〈3〉非過給域かつLP−EGR領域(A−B−E−Fで囲まれた領域)
〈4〉非過給域かつ非LP−EGR領域
ここで、図2において等脚台形の角をA,C,D,Fとし、等脚台形と破線が交わる点をB,Eとしている。また、破線の両端をG,Jとし、G−H−Iのラインを全負荷時のラインとしている。なお、LP−EGR領域は、全体としてほぼ等脚台形状である場合に限られるものでない。エンジン、ターボ過給機、LP−EGR装置14の仕様が異なれば、LP−EGR領域の形状が違ったものとなり得る。
図1に示したように、本実施形態ではさらに、コンプレッサ23をバイパスするバイパス通路31を備える。バイパス通路31には、モータ(回転電機)33により駆動されるリサーキュレーションバルブ32が設けられている。このバルブ32は、車両減速のためスロットルバルブ5が閉じられた際に、スロットルバルブ5からコンプレッサ23までの吸気管4aに閉じ込められた加圧空気をコンプレッサ23上流側に再循環(リサーキュレーション)させるためのものである。一方、車両減速時以外の運転域でターボ過給機21により過給が行われている場合には、バルブ32が基本的に全閉保持され、コンプレッサ23の上流側の空気(EGRガスを含む)の全てがコンプレッサ23に導かれる。
ここで、リサーキュレーションバルブ32が必要となる理由はディーゼルエンジンとガソリンエンジンとでスロットルバルブの扱いが異なることによるものである。すなわち、ディーゼルエンジンでは、スロットルバルブは常時開かれており、必要な場合に限って閉じられる。一方、ガソリンエンジンでは、スロットルバルブ5は、吸気コレクタ4bのすぐ上流に設けられ、アクセルペダルの踏込量に応動してその開度が変化する。
このような違いにより、ガソリンエンジンでは、ターボ過給機21により過給をしている状態から車両を減速させるためにアクセルペダルを戻すと、これに応動してスロットルバルブ開度が一定量、ステップ的に小さくなる。このスロットルバルブ開度の急な減少でスロットルバルブ5からコンプレッサ23までの吸気管4a内に存在する加圧空気の行き場がなくなる。その上、車両減速時からのコンプレッサ23の稼働によって、スロットルバルブ5からコンプレッサ23までの吸気管4aの圧力がさらに上昇する。すると、コンプレッサ下流で圧力の高くなった空気はコンプレッサ23に向かって逆流する。そして、逆流する加圧空気がコンプレッサ23を通過して上流に逃れる際にコンプレッサ23から音(騒音)が発生する。このような車両減速時に発生する騒音は車両室内の静粛性に影響する。そこで、過給域からの車両減速時にはバルブ32を全閉状態から開状態へと切換え、コンプレッサ上流の加圧空気を、コンプレッサ23をバイパスしてコンプレッサ上流に解放(リサーキュレーション)することで、車両減速時の騒音の発生を防止するのである。
次に、LP−EGR装置14を用いてLP−EGR制御を行う場合のEGR率を「LP−EGR率」というとすると、目標LP−EGR率のマップ特性は図3に示したようになっている。すなわち、図3のように、全体としてほぼ等脚台形状のLP−EGR領域を大きく2つに分け、高負荷側の領域で10%、低負荷側の領域で20%としている。
高負荷側の領域で低負荷側の領域より目標LP−EGR率を小さくしている理由は次の通りである。すなわち、高負荷側においてもターボ過給機により新気をシリンダ7に押し込めることができれば、高負荷側でも低負荷側と同じに目標LP−EGR率を20%にすることができる。しかしながら、実際にはターボ過給機により新気をシリンダ7に押し込むにしても、押し込むことのできる新気量には限界がある。一方、高負荷側では低負荷側より大きなエンジントルクを発生させる必要がある。そこで、高負荷側では低負荷側よりノッキングが生じない範囲で目標LP−EGR率を小さくし、その小さくした分だけシリンダ7内での燃焼状態をよくすることで、低負荷側よりも大きなエンジントルクが得られるようにするのである。なお、図3では、目標LP−EGR率を2段階で設定しているが、目標LP−EGR率を2段階に設定する場合に限定されるものでない。目標LP−EGR率を3段階以上に、あるいは連続的に目標LP−EGR率を変化させるものであってよい。
次に、上記目標LP−EGR率が得られるように目標LP−EGR弁開度を定める必要がある。ここで、本実施形態ではLP−EGR率は次式で定義される値である。
LP−EGR率=LP−EGR弁流量/(新気量+LP−EGR弁流量)
…(1)
(1)式の新気量はエアフローメータ42により検出される空気量のこと、(1)式のLP−EGR弁流量はLP−EGR弁17を流れるガス量のことである。LP−EGR弁流量は、LP−EGR弁前後差圧と、LP−EGR弁開口面積とで定まる。ここで、「LP−EGR弁前後差圧」とは、図4に示したA点の排気圧と、図4に示したB点の吸気圧との差の圧力からEGRクーラ16の流路抵抗に伴う圧力損失分を差し引いた値、つまり次式により算出される値である。
ΔP=(A点の排気圧−B点の吸気圧)−ΔP1 …(2)
ただし、ΔP:LP−EGR弁前後差圧、
ΔP1:EGRクーラの流路抵抗に伴う圧力損失分、
上記の図4はLP−EGR装置14の簡易モデル図である。図4において「A点」とは排気管11bからEGR通路15が分岐する点(EGR通路の分岐部)のこと、「B点」とは吸気管4aにEGR通路15が合流する点(EGR通路の合流部)のことである。図4の簡易モデル図では、メイン触媒13、EGRクーラ16とも流路抵抗となる要素であるので、いずれもオリフィスとして記載している。
上記の(1)式、(2)式より、適合時のA点の排気圧に対して目標LP−EGR率が得られるように、目標LP−EGR弁開度を設定することになる。
この場合、B点はスロットルバルブ5やコンプレッサ23よりさらに上流でエアクリーナ18の近くにあるため、B点の吸気圧は大気圧付近にあってそれほど変化しない。これに対し、A点の排気圧は変化する。これは、エンジンの運転条件に応じて排気温度が変化し、この排気温度の変化を受けてEGR通路の分岐部下流の排気管11b全体の圧力損失が変化するためである。このことは、理論的にも次のように説明できる。すなわち、理想気体の状態方程式PV=mRTをPについて解くと、次式が得られる。
P=mRT/V …(3)
ただし、R:ガス定数、
m:ガスの質量、
(3)式より圧力Pは温度Tに比例する。つまり、A点の排気温度(T)が変化すると、A点の排気圧(P)が変化するわけである。
このため、運転条件の相違でA点の排気圧が目標LP−EGR弁開度適合時の排気圧より低くなると、上記の(2)式よりLP−EGR弁前後差圧ΔPが小さくなる。LP−EGR弁前後差圧ΔPが適合時より小さくなると、エンジンコントローラ41が行っている、差圧センサ46(EGR弁前後差圧検出手段)により検出されるLP−EGR弁前後差圧に基づく故障診断に影響を与える。
これについて説明すると、エンジンコントローラ41には故障診断機能を有すると共に、エンジンコントローラ41が行う各種の故障診断に必要となるデータをモニターするためのセンサを設けている。そのセンサの一つにLP−EGR弁17の前後差圧を検出する差圧センサ46(図1参照)がある。エンジンコントローラ41の有する故障診断機能では、LP−EGR領域になると差圧センサ46により検出されるLP−EGR弁前後差圧ΔPに基づいて、EGRクーラ16に詰まりが生じたか否かを診断するようにしている。
EGRクーラ16に詰まりが生じたか否かを診断する理由は、デポジットによりEGRクーラ16が詰まりEGR通路15が完全にふさがれると、LP−EGRを行うことができなくなるためである。過給域でかつLP−EGR領域で過給を行いつつLP−EGRを行うことによって、吸気効率を高めながらもノッキングを回避しているのであるから、LP−EGR領域でLP−EGRを行うことができないとノッキングが生じ得る。そこで、差圧センサ46により検出されるLP−EGR弁前後差圧ΔPとクライテリア下限を比較し、LP−EGR弁前後差圧ΔPがクライテリア下限を下回る場合に、EGRクーラ16に詰まりが生じたと診断する。そして、その診断結果を不揮発性メモリに記憶させておく。車両の定期検診時などにその診断結果を出力して、ドライバにEGRクーラ16の新品への交換を促すわけである。
EGRクーラ16に詰まりが生じる原因は主にデポジットである。すなわち、排気中に含まれる未燃燃料、エンジンオイルあるいはそれらの不完全燃焼生成物がLP−EGR領域でEGRクーラ16を流れ、EGRクーラ16内に徐々に堆積する。この堆積物がデポジットで、デポジットによりEGR通路15が完全に塞がれることで、LP−EGRを行い得なくなるわけである。なお、デポジットはEGR弁17にも堆積し、EGR弁17の閉固着などを引き起こすのであるが、ここでは考えない。すなわち、本実施形態では、EGRクーラ16に詰まりが生じているか否かの故障診断を行うときには、EGR弁17に堆積するデポジットについては問題ないものとする。
EGRクーラ16に詰まりが生じたか否かの診断は次のように行う。すなわち、EGRクーラ16にどの程度の詰まりが生じたときに、詰まりが生じたと診断するかを予め定めておく。例えば吸入空気量Qaが一定の条件で、EGRクーラ16の圧力損失分が新品時のEGRクーラ16の圧力損失分の2倍になった場合に、EGRクーラ16に詰まりが生じたと診断する。すると、EGRクーラ16に詰まりが生じたと診断するときのLP−EGR弁前後差圧ΔPthは次式で与えられる。
ΔPth=(A点の排気圧−B点の吸気圧)−ΔP1old …(4)
ただし、ΔP1old:詰まりが有るときのEGRクーラの圧力損失分、
このため、(4)式のΔPthを改めてクライテリア下限として定め、実際のLP−EGR弁前後差圧がこのクライテリア下限を下回った場合に、EGRクーラ16に詰まりが生じたと診断することができる。
また、LP−EGR領域でLP−EGR弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断を行うことが考えられる。LP−EGR弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断を行う理由は、次の通りである。すなわち、EGR通路15に亀裂が生じるなど何らかの原因でLP−EGR弁流量が限界値を超えてオーバーフローしたのでは、実EGR率が目標EGR率から離れて大きくなる。この実EGR率の目標EGR率からの乖離によってシリンダ7内の燃焼が不安定となり、失火したりエンストしたりする。そこで、差圧センサ46により検出されるLP−EGR弁前後差圧ΔPとクライテリア上限を比較し、LP−EGR弁前後差圧ΔPがクライテリア上限を超える場合に、LP−EGR弁流量がオーバーフローしていると診断する。そして、その診断結果を不揮発性メモリに記憶させておく。車両の定期検診時などにその診断結果を出力して、LP−EGR装置の点検や部品の交換を促すわけである。
LP−EGR弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断も、差圧センサ46により検出されるLP−EGR弁前後差圧ΔPに基づいて行う。すなわち、吸入空気量Qaが一定の条件で、LP−EGR弁流量がオーバーフローしているときのLP−EGR弁前後差圧をクライテリア上限として定めておく。そして、差圧センサ46により検出される実際のLP−EGR弁前後差圧ΔPがこのクライテリア上限を超える場合に、LP−EGR弁流量がオーバーフローしていると診断する。
さて、エンジンの運転条件の相違により排気温度が変化し、この排気温度の変化により図4の簡易モデル図に示したA点の排気圧が変化する。排気温度の低下でA点の排気圧が目標LP−EGR弁開度適合時より低下すると、低下する前にはLP−EGR弁前後差圧がクライテリア下限を超えていたのに、A点の排気圧の低下によってLP−EGR弁前後差圧がクライテリア下限を下回ることがある。つまり、排気温度が低下する前にはLP−EGR弁前後差圧がクライテリア下限を超えていたことからEGRクーラ16に詰まりがあると診断されなかった。それなのに、排気温度の低下に伴うA点の排気圧の低下後にはLP−EGR弁前後差圧がクライテリア下限を下回ることからEGRクーラ16に詰まりがあると診断される。排気温度の低下前にはEGRクーラに詰まりがなく、システム自体に異常はなかったのであるから、排気温度の低下後になされた詰まりがあるとの診断は誤診である。
一方、排気温度の上昇でA点の排気圧が目標LP−EGR弁開度適合時より上昇すると、上昇する前にはLP−EGR弁前後差圧がクライテリア上限未満であったのに、A点の排気圧の上昇によってLP−EGR弁前後差圧がクライテリア上限を超えることがある。つまり、排気温度が上昇する前にはLP−EGR弁前後差圧がクライテリア上限未満であったことからLP−EGR弁流量がオーバーフローしていると診断されなかった。それなのに、排気温度の低下に伴うA点の排気圧の上昇後にはLP−EGR弁前後差圧がクライテリア上限を超えていることからLP−EGR弁流量がオーバーフローしていると診断される。排気温度の低下前にはLP−EGR弁流量がオーバーフローしておらず、システム自体に異常はなかったのであるから、排気温度の低下後になされた、LP−EGR弁流量がオーバーフローしているとの診断は誤診である。
こうした誤診が生じないようにする対策として、A点の排気圧を圧力センサにより検出し、A点の排気圧が許容範囲内に入っている場合にだけLP−EGR弁前後差圧が適正範囲にあると判断して故障診断を許可する。一方、A点の排気圧が許容範囲を外れた場合にはLP−EGR弁前後差圧が適正範囲にないと判断して故障診断を禁止することが考えられる。しかしながら、A点の排気圧を検出する圧力センサを設けることによって別の問題が生じる。すなわち、圧力センサは排気脈動の影響を受けると共に応答性が悪い。圧力センサの検出値から排気脈動の影響を排除するには高度のフィルタリング技術が必要となる。また、そもそもA点の排気圧とB点の吸気圧との差圧は1kPa程度と極く小さい。この極く小さな差圧を精度良く検出するには高価な圧力センサが必要となり、上記高度のフィルタリング技術の必要と相まってコストがアップしてしまう。
ここで、A点の圧力変化は、排気の温度変化に起因する圧力変化であるので、A点の排気圧と強く相関する排気温度がA点やA点より下流の排気管11bにあるはずであると本発明の発明者が考えた。そこで本発明の発明者は、A点の排気圧に相関する排気温度として、まずA点の排気温度を採り、実験してみたところ、A点の排気温度はA点の排気圧に必ずしも相関しないことがわかった。これについて説明すると、図4の簡易モデル図に示したようにA点より下流の排気管11bの位置としてC,Dの各点を採用する。C点はメイン触媒13の直ぐ出口の、D点はマフラー19内の点である。
そして、A点の排気圧の変化に対して、A,C,Dの各点の排気温度がどのように変化するのかを計測した結果をタイミングチャートにしたのが図5である。図5上段に示したようにA点の排気圧がt1のタイミングから上昇し、t2のタイミングで一定値に落ち着くとき、図5下段に示したようにA点の排気圧の変化(応答)と強く相関するのはA点ではなくC点の排気温度の変化(応答)であった。すなわち、A点の排気温度は、A点の排気圧が変化を開始するt1のタイミングより前のタイミングで早くも上昇し、A点の排気圧が一定値に落ち着くt2のタイミングより前のタイミングで一定値に落ち着いている(図5下段の破線参照)。一方、D点の排気温度は、A点の排気圧が変化を開始するt1のタイミングより遅れたタイミングで上昇し、A点の排気圧が一定値に落ち着くt2のタイミングより遅れたタイミングで一定値に落ち着いている(図5下段の一点鎖線参照)。これに対して、C点の排気温度は、A点の排気圧が変化を開始するt1のタイミングと同じタイミングで上昇し、A点の排気圧が一定値に落ち着くt2のタイミングと同じタイミングで一定値に落ち着いている(図5下段の実線参照)。このように、実験によるとA点の排気圧の変化(応答)とC点の排気温度の変化(応答)とが強く相関していることが新たに判明したのである。このことは、A点より下流の排気管11bにオリフィス(13)がある場合には、A点の排気圧の代用として、オリフィス出口であるC点の排気温度を用いることができることを示している。この場合、圧力センサよりも温度センサのほうが排気圧の脈動の影響を受けにくいというメリットもある。
上記のようにA点の排気圧の変化(応答)とC点の排気温度の変化(応答)とが強く相関する理由は次の通りである。すなわち、A点より下流の排気管11bを流れる排気流れは一様でなく、A点より下流の排気管11にオリフィス(13)があればその部分で流れがよどむ(排気の流れがオリフィスで律せられる)。図4の簡易モデル図では、メイン触媒13がオリフィスとして機能することから、排気流れがよどむC点の排気温度がA点より下流の排気管11b全体の温度を律していると考えられるためである。
そこで本発明の第1実施形態では、メイン触媒13の出口温度(分岐部下流の排気管11bの排気温度)を温度センサ47(図1参照)(排気温度検出手段)により検出する。そして、検出した排気温度が許容範囲内に入っている場合にだけLP−EGR弁前後差圧が適正範囲にあると判断して故障診断(EGRクーラに詰まりがあるか否かの故障診断、LP−ERG弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断)を許可する。一方、検出した排気温度が許容範囲を外れた場合にはLP−EGR弁前後差圧が適正範囲にないと判断して故障診断(EGRクーラに詰まりがあるか否かの故障診断、LP−ERG弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断)を禁止する。
本実施形態では、A点下流の排気管11bを流れる排気の流速を、メイン触媒13が律速する要素として機能したために、メイン触媒出口温度がA点の排気圧と強い相関を持つことを見出した。A点下流の排気管11bに配置する触媒等の構成が異なれば、A点下流の排気管11bを流れる排気の流速を律速する要素が異なってくる。このため、A点下流の排気11bに配置する触媒等の構成(仕様)が決まれば、その決まった構成に対して、A点の排気圧と強く相関する排気温度を、A点下流の排気管11bから探すことになる。
さらに図6を参照して本実施形態を説明すると、図6はエンジン回転速度Neを一定としたときのLP−EGR弁前後差圧の特性図である。図6においては横軸に吸入空気量Qaを、縦軸にLP−EGR弁前後差圧ΔPを採っている。図6に示したように、吸入空気量Qaの増加と共に排気温度が上昇するとき、LP−EGR弁前後差圧は2次関数的に大きくなる特性である。
いま、メイン触媒出口温度が例えば500℃の基準温度であるときのLP−EGR弁前後差圧の特性がαの曲線であったとする。LP−EGR弁17などのLP−EGR装置14の製作バラツキによって実際のLP−EGR弁前後差圧の特性はバラツク。そこで、基準温度に対してある幅を有する許容温度幅(許容範囲)を設ける。その許容範囲の下限値(下限温度)をTA、許容範囲の上限値(上限温度)をTBとすると、メイン触媒出口温度が下限値TA、上限値TBのときのLP−EGR弁前後差圧の特性がそれぞれクライテリア下限β、クライテリア上限γの各曲線となる。
ここで、LP−EGR領域においてEGRクーラ16に詰まりが生じていると診断される前には、LP−EGRの実行中にノッキングが生じないように上記の上限値TAを定める。また、LP−EGR領域においてLP−EGR弁流量がオーバーフローしていると診断される前には、シリンダ7内での失火やエンストが生じないように上記の上限値TBを定める。このようにTA、TBを設定しておけば、メイン触媒出口温度が下限値TA以上で上限値TB以下の許容範囲にある限り、例えば吸入空気量Qaが所定値Q1であるとき、LP−EGR弁前後差圧はΔPβとΔPγの適正範囲に収まる。ここで、ΔPβは吸入空気量が所定値Q1であるときのクライテリア下限、ΔPγは吸入空気量が所定値Q1であるときのクライテリア上限である。吸入空気量Qaが所定値Q1であるときに、LP−EGR弁前後差圧ΔPが適正範囲に収まっている限り、LP−EGRの実行中にノッキングが生じることはないし、シリンダ7内の失火やエンストが生じることもない。
一方、メイン触媒出口温度が許容範囲を外れ例えば200℃と低い場合、許容範囲の下限値TAからの温度低下分だけA点の排気圧が小さくなる。すると、LP−EGR弁前後差圧の特性がδの曲線へと移るため、吸入空気量Qaが所定値Q1と同じでも、LP−EGR弁前後差圧はΔPδとなり、クライテリア下限ΔPβより小さくなる。これによって、EGRクーラ16に詰まりが生じているとの誤診断が生じる。
また、メイン触媒出口温度が許容範囲を外れ例えば800℃と高い場合、許容範囲の上限値TBからの温度上昇分だけA点の排気圧が大きくなる。すると、LP−EGR弁前後差圧の特性がεの曲線へと移るため、吸入空気量Qaが所定値Q1と同じでも、LP−EGR弁前後差圧はΔPεとなり、クライテリア上限ΔPγより大きくなる。これによって、LP−EGR弁流量がオーバーフローしているとの誤診断が生じる。
そこで本実施形態では、メイン触媒出口温度が予め定めた許容範囲から外れた場合にはLP−EGR領域であっても上記2つの故障診断とも禁止するのである。
図1に示したように、燃料噴射弁8及び点火プラグ9に加えて、LP−EGR弁17、ウェイストゲートバルブ25、リサーキュレーションバルブ32を制御するため、エンジンコントローラ41を備える。エンジンコントローラ41はマイクロプロセッサ、ROM及びRAM等の周辺機器を備えたコンピュータユニットとして構成されている。エンジンコントローラ41には、エアフローメータ42、アクセルセンサ43、クランク角センサ44、過給圧センサ45、差圧センサ46、温度センサ47からの信号が入力する。ここで、エアフローメータ42は吸気管4a内に流入する空気量(質量流量)を検出する。アクセルセンサ43はアクセルペダルの踏込量(アクセル開度)及びその変化量を検出する。クランク角センサ44はエンジン回転速度を検出する。過給圧センサ45は吸気コレクタ4bの圧力(実過給圧)を検出する。差圧センサ46はLP−EGR弁前後差圧を検出する。温度センサ47はメイン触媒13の出口温度を検出する。
エンジンコントローラ41で行われる2つの故障診断を、以下のフローチャートを参照して説明する。まず図7のフローチャートは、故障診断許可フラグを設定するためのものである。図7のフローは一定時間毎(たとえば10ms毎)に実行する。ここでは、故障診断許可フラグは2つの故障診断(EGRクーラに詰まりがあるか否かの故障診断、LP−ERG弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断)に共通に使用される。
エンジンの回転速度Neとエンジン負荷から定まるエンジンの運転点が図2に示したLP−EGR領域にあるか否かをみる。上記のエンジン負荷としては、例えば基本噴射パルス幅Tp[ms]を用いればよい。基本噴射パルス幅Tpは、燃料噴射弁8に与える燃料噴射パルス幅Ti[ms]を算出する際の基本値で、エンジン回転速度Ne[rpm]と吸入空気量Qa[l/min]に基づいて算出されている。エンジンの運転点が図2に示したLP−EGR領域にないときにはステップ4に進み、故障診断許可フラグ(エンジンの始動時にゼロに初期設定)=0とする。
ステップ1でエンジンの運転点が図2に示したLP−EGR領域にあるときにはステップ2に進み、温度センサ47により検出されるメイン触媒出口温度Tmain[℃]が許容範囲にあるか否かをみる。ここで、許容範囲の下限値TA[℃]、許容範囲の上限値TB[℃]は予め定めておく。メイン触媒出口温度Tmainが下限値TA以上でかつ上限値TB以下(許容範囲)にあれば、LP−EGR弁前後差圧が適正範囲にあると判断する。このときには故障診断を許可するためステップ2よりステップ3に進み、故障診断許可フラグ=1とする。
ステップ2でメイン触媒出口温度Tmainが下限値TA未満であるかまたはメイン触媒出口温度Tmainが上限値TBを超えているときにはLP−EGR弁前後差圧が適正範囲にないと判断する。このときには故障診断を許可しない(禁止する)ためステップ4に進み、故障診断許可フラグ=0とする。このようにして設定される故障診断許可フラグの値はメモリに保存する。
本実施形態では、メイン触媒出口温度を温度センサ47により検出しているが、メイン触媒出口温度を算出(推定)により求めるものであってよい。メイン触媒出口温度を算出するには公知の手法を用いればよい。例えば、ウェイストゲートバルブ25のすぐ下流の排気管11bには、ウェイストゲートバルブ25の開度補正のために温度センサを設けている(図示していない)。この温度センサ位置で排気温度がステップ的に変化したとすると、メイン触媒出口温度は、このステップ変化した排気温度に対して、ほぼ一次の応答遅れをもって変化するものとみなすことができる。このため、ウェイストゲートバルブ25のすぐ下流の温度センサにより検出される排気温度に対して一次遅れの処理を施した値を、メイン触媒出口温度として簡易に求めることができる。この場合、ウェイストゲートバルブ25のすぐ下流の排気温度も、簡易にはエンジン回転速度Neとエンジン負荷をパラメータとするマップを参照して求めることができる。以上のメイン触媒出口温度の算出方法では、排気管からの放熱やタービン仕事に伴う排気エネルギの減少などを無視した。実際には、ウェイストゲートバルブ以降で、排気管11bからの放熱、タービン22のする仕事、触媒12,13の通過によって排気の熱が奪われてゆく。そこで、排気管11bからの放熱による温度低下分、タービン22のする仕事によって温度低下する分、触媒12,13の通過に伴う温度低下分を個別に求めるか予め設定しておく。そして、ウェイストゲートバルブ25のすぐ下流の温度センサにより検出される排気温度に対してそれぞれの温度低下分を加味することによって、メイン触媒出口温度をより精度良く求めるようにしてもかまわない。
次に、図8,図9のフローチャートは故障診断フラグ(EGRクーラ詰まりフラグ、オーバーフローフラグ)を設定するためのものである。図8,図9のフローは一定時間毎(たとえば10ms毎)に図7のフローに続けて実行する。ここで、図8のフローはEGRクーラ16に詰まりが生じているか否かの故障診断を、図9のフローはLP−EGR弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断を行うためのものである。
図8のフローから説明すると、ステップ11では、故障診断許可フラグ(図7のフローにより設定済み)=1であるか否かをみる。故障診断許可フラグ=1であるときには故障診断を行わせるためステップ12に進み、エアフローメータ42により検出される吸入空気量Qa[l/min]と所定値Qth[l/min]を比較する。所定値Qthは故障診断を行わせるか否かを判定するための閾値で、予め設定しておく。吸入空気量Qaが所定値Qth未満である場合には、故障診断領域にないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
吸入空気量Qaが所定値Qth未満である場合を非故障診断領域としているのは次の理由による。すなわち、図6にも示したように、吸入空気量Qaが所定値Qth未満の領域では、吸入空気量Qaに対するLP−EGR弁前後差圧の変化が小さいため、クライテリア下限βとクライテリア上限γとが近い値となってしまう。実際のLP−EGR弁前後差圧がこのクライテリア下限βとクライテリア上限γの間に入っているか否かを判定するのでは判定精度が低下するので、判定精度が低下する流量域では故障診断を行わせないためである。
一方、吸入空気量Qaが所定値Qth以上であるときには、故障診断領域にあると判断し、ステップ13〜18に進む。ステップ13〜18はLP−EGR領域でEGRクーラ16に詰まりが生じているか否かの故障診断を行う部分である。
まず、ステップ13では故障診断経験フラグ1をみる。後述するように、故障診断経験フラグ1は、EGRクーラ16に詰まりが生じているか否かの故障診断を経験したときに1となるフラグである。ここでは、故障診断経験フラグ1=0であるとしてステップ14に進む。ステップ14では、吸入空気量Qaから図10を内容とするテーブルを検索することにより、クライテリア下限β[kPa]を算出する。図10に示したように、クライテリア下限βは吸入空気量Qaが大きくなるほど2次関数的に大きくなる値である。
ステップ15では、差圧センサ46により検出されるLP−EGR弁前後差圧ΔP[kPa]とクライテリア下限βを比較し、LP−EGR弁前後差圧ΔPがクライテリア下限β未満であるときにはEGRクーラ16に詰まりが生じていると判断する。このときにはステップ16に進んでEGRクーラ詰まりフラグ=1とする。一方、ステップ15でLP−EGR弁前後差圧ΔPがクライテリア下限β以上であるときにはEGRクーラ16に詰まりが生じていないと判断し、ステップ17に進んでEGRクーラ詰まりフラグ=0とする。これでEGRクーラ16に詰まりが生じているか否かの故障診断を終了するので、ステップ18で故障診断経験フラグ1=1とする。この故障診断経験フラグ1と上記EGRクーラ詰まりフラグの2つのフラグの値は不揮発性メモリに記憶させる。
ステップ18での故障診断経験フラグ1=1により、次回以降はステップ14以降に進むことができない。これはEGRクーラ16に詰まりが生じているか否かの故障診断を1回だけで終わらせるためである。
一方、ステップ11で故障診断許可フラグ=0であるときには故障診断を行わせないため、そのまま今回の処理を終了する。これによって、EGRクーラ16に詰まりが生じているとの誤診断を防止することができる。
図9のフローに移ると、ステップ21,22の操作は図8のステップ11,12の操作と同じである。すなわち、ステップ21では、故障診断許可フラグ(図7のフローにより設定済み)=1であるか否かをみる。故障診断許可フラグ=1であるときには故障診断を行わせるためステップ22に進み、エアフローメータ42により検出される吸入空気量Qa[l/min]と所定値Qth[l/min]を比較する。吸入空気量Qaが所定値Qth未満である場合には、故障診断領域にないと判断し、そのまま今回の処理を終了する。
一方、吸入空気量Qaが所定値Qth以上であるときには、故障診断領域にあると判断し、ステップ23〜28に進む。ステップ23〜28はLP−EGR領域でLP−EGR弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断を行う部分である。
まず、ステップ23では、故障診断経験フラグ2をみる。後述するように、故障診断経験フラグ2は、LP−EGR弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断を経験したときに1となるフラグである。ここでは、故障診断経験フラグ2=0であるとしてステップ24に進む。ステップ24では、吸入空気量Qaから図10を内容とするテーブルを検索することにより、クライテリア上限γ[kPa]を算出する。図10に示したように、クライテリア上限γは吸入空気量Qaが大きくなるほど2次関数的に大きくなる値である。
なお、図10に示したクライテリア下限、クライテリア上限の各特性はあるエンジン回転速度Neのときの特性である。エンジン回転速度Neが相違すれば、クライテリア下限、クライテリア上限の実際の値が相違することが考えられる。エンジン回転速度の相違を考慮するときには次のようにすればよい。すなわち、代表的なエンジン回転速度毎に図10に示したのと同様にしてクライテリア下限、クライテリア上限の特性を予めテーブルにして作成しておく。そして、エンジン回転速度が代表的なエンジン回転速度の間にあるときには補間計算によって、クライテリア下限、クライテリア上限を算出する。
ステップ25では、差圧センサ46により検出されるLP−EGR弁前後差圧ΔP[kPa]とクライテリア上限γを比較し、LP−EGR弁前後差圧ΔPがクライテリア上限γを超えているときにはLP−EGR弁流量がオーバーフローしていると判断する。このときにはステップ26に進んでオーバーフローフラグ=1とする。一方、ステップ25でLP−EGR弁前後差圧ΔPがクライテリア上限γ以下であるときにはLP−EGR弁流量がオーバーフローしていないと判断し、ステップ27に進んでオーバーフローフラグ=0とする。これでLP−EGR弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断を終了するので、ステップ28で故障診断経験フラグ2=1とする。この故障診断経験フラグ2と上記オーバーフローフラグの2つのフラグの値は不揮発性メモリに記憶させる。
ステップ28での故障診断経験フラグ2=1により、次回以降はステップ24以降に進むことができない。これはLP−EGR弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断を1回だけ行わせるためである。
一方、ステップ21で故障診断許可フラグ=0であるときには故障診断を行わせないため、そのまま今回の処理を終了する。これによって、LP−EGR弁流量がオーバーフローしているとの誤診断を防止することができる。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
エンジンの運転条件の相違で排気温度が低下したり上昇したりする。排気温度の低下によりA点(EGR通路の分岐部)の排気圧が適合時のA点の排気圧より低下したときには、その排気圧の低下分だけ差圧センサ46により検出されるLP−EGR弁前後差圧ΔPが小さくなる。ここで、LP−EGR弁前後差圧ΔPがクライテリア下限βを下回る場合に故障であるとの故障診断を行うことがある。この場合に、排気温度の低下によりA点の排気圧が低下したときにまで差圧センサ46により検出されるEGR弁前後差圧ΔPに基づいて故障診断を行ったのでは、誤診断が生じ得る。一方、排気温度の上昇によりA点(EGR通路の分岐部)の排気圧が適合時の分岐部の排気圧より上昇したときには、その排気圧の上昇分だけ差圧センサ46により検出されるEGR弁前後差圧ΔPが大きくなる。ここで、LP−EGR弁前後差圧ΔPがクライテリア上限γを超える場合に故障であるとの故障診断を行うことがある。この場合に、排気温度の上昇によりA点の排気圧が上昇したときにまで差圧センサ46により検出されるEGR弁前後差圧ΔPに基づいて故障診断を行ったのでは、誤診断が生じ得る。こうした誤診断を回避するには、A点の排気圧を検出し、検出した排気圧が予め定めた許容範囲から外れた場合にLP−EGR領域であっても故障診断を禁止することである。しかしながら、A点に排気圧を検出する圧力センサを設けても、圧力センサは排気脈動の影響を受ける上、応答性が悪いため、排気圧が予め定めた許容範囲から外れたか否かの判定精度が悪い。一方、本実施形態では、A点の排気圧と相関する、C点の排気温度(EGR通路の分岐部より下流の排気温度)を検出し、この検出したC点の排気温度が許容温度を外れて低くなったり高くなったりしたとき、故障診断を禁止する。C点の排気温度を検出する温度センサ47は、排気温度の脈動の影響を受けないので、EGR弁前後差圧が適正範囲にあるかの判定精度を向上できる。
本実施形態では、EGR通路15にEGRクーラ16を備える場合に、故障診断手段が、差圧センサ46により検出されるLP−EGR弁前後差圧とクライテリア下限との比較に基づいてEGRクーラ16に詰まりが生じたか否かの故障診断を行う。この場合に、排気温度の低下によりA点の排気圧が低下したときにまで差圧センサにより検出されるLP−EGR弁前後差圧に基づいて故障診断を行ったのでは、EGRクーラに詰まりが生じていないのにEGRクーラに詰まりが生じているとの誤診断が生じ得る。一方、本実施形態では、A点の排気圧と相関する、C点の排気温度(EGR通路の分岐部より下流の排気温度)を検出し、この検出したC点の排気温度が許容温度を外れて低くなったとき、EGRクーラに詰まりが生じているか否かの故障診断を禁止する。C点の排気温度を検出する温度センサ47は、排気温度の脈動の影響を受けないので、EGR弁前後差圧が適正範囲にあるかの判定精度が向上する。これによって、EGRクーラ16に詰まりが生じているとの誤診断を回避できる。
本実施形態では、故障診断手段が、差圧センサ46により検出されるLP−EGR弁前後差圧とクライテリア上限との比較に基づいてLP−EGR弁流量がオーバーフローしているか否かの故障診断を行う。この場合に、排気温度の上昇によりA点の排気圧が上昇したときにまで差圧センサにより検出されるLP−EGR弁前後差圧に基づいて故障診断を行ったのでは、LP−EGR弁流量がオーバーフローしていないのにオーバーフローしているとの誤診断が生じ得る。一方、本実施形態では、分岐部の排気圧と相関する、C点の排気温度(EGR通路の分岐部より下流の排気温度)を検出し、この検出したC点の排気温度が許容温度を外れて低くなったとき、EGRクーラに詰まりが生じているか否かの故障診断を禁止する。C点の排気温度を検出する温度センサ47は、排気温度の脈動の影響を受けないので、EGR弁前後差圧が適正範囲にあるかの判定精度が向上する。これによって、LP−EGR弁流量がオーバーフローしているとの誤診断を回避できる。
実施形態では、EGR通路15の分岐部下流の排気管11bにメイン触媒13を有するものを前提としたために、分岐部の排気圧と分岐部の排気温度が強くは相関しないこととなり、メイン触媒出口の温度を検出する場合で説明したが、この場合に限られるものでない。EGR通路15の分岐部下流の排気管11bにメイン触媒13を有さないものを前提とするものにも本発明を適用できる。EGR通路15の分岐部下流の排気管11bにメイン触媒13を有さないものを前提とする場合には、分岐部の排気圧と分岐部の排気温度が強く相関するので、EGR通路の分岐部の排気温度を検出するか推定すればよい。
実施形態では、ガソリンエンジンにLP−EGR装置を適用する場合で説明したが、この場合に限られるものでなく、ディーゼルエンジンにLP−EGR装置を適用する場合にも本発明の適用がある。