JP2016079472A - 銅合金板材の製造方法並びにその板材および通電部品 - Google Patents
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Abstract
Description
得られた鋳片を、850〜950℃の範囲に加熱保持する鋳片加熱工程、
前記加熱後の鋳片を、600℃から400℃までの滞在時間:1min以上、600℃以下での合計圧延率:20%以上、最終パス温度:400〜550℃を満たす条件で熱間圧延した後、400〜300℃の平均冷却速度が5℃/sec以上となるように急冷する熱間圧延工程、
圧延率30%以上で圧延する冷間圧延工程、
前記冷間圧延後の板材を550〜600℃の範囲に加熱し、550〜600℃での保持時間:0.4h以上、550〜600℃における最高到達温度から400℃までの冷却所要時間:2.0h以上、550℃から400℃までの平均冷却速度:80℃/h以下好ましくは10〜80℃/hを満たす条件で熱処理する中間焼鈍工程、
圧延率5〜95%で圧延する仕上冷間圧延工程、
200〜400℃で加熱する低温焼鈍工程、
を上記の順に有する銅合金板材の製造方法が提供される。
Mg−1.18(P−Fe/3.6)≧0.03 …(2)
ただし、(2)式の元素記号Mg、P、Feの箇所にはそれぞれの元素の含有量を質量%で表した値が代入される。
また、上記の合金元素のうち、Sn、Ni、Zn、Si、Co、Cr、B、Zr、Ti、Mn、Vは任意含有元素である。
Mg固溶率(%)=固溶Mg量(質量%)/トータルMg含有量(質量%)×100 …(1)
ここで、固溶Mg量とは、倍率10万倍のTEM観察でのEDX分析により求まるCuマトリクス部分の平均Mg濃度(質量%)を意味する。Fe−P系化合物およびMg−P系化合物の粒子径は、TEMにより観測される粒子の長径を意味する。
以下、合金元素の化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
Feは、Pとの化合物を形成しマトリクス中へ微細析出することにより、強度向上および耐応力緩和特性の向上に寄与する元素である。これらの効果を十分に発揮させるために0.05%以上のFe含有量を確保する。ただし過剰のFe含有は導電率の低下を招く要因となるので、2.50%以下の範囲に制限する。1.00%以下であることがより好ましく、0.50%以下であることがさらに好ましい。
Mg−1.18(P−Fe/3.6)≧0.03 …(2)
ここで、(2)式の元素記号Mg、P、Feの箇所にはそれぞれの元素の含有量を質量%で表した値が代入される。そのMg含有量は、後述(1)式のトータルMg含有量と同じものである。(2)式左辺は、化合物を形成しないフリーのMg存在量(質量%)を示す指標である。(2)式左辺によって算出されるフリーのMg存在量は、理論上、Cuマトリクス中の固溶Mg量に相当すると考えられる。しかしながら、後述のように実測される固溶Mg量は、上記の理論上のフリーのMg存在量より少なくなる場合も多い。実際の固溶Mg量を十分に確保するうえで、(2)式左辺の指標によって表されるフリーのMg存在量が0.03%以上となるようMg含有量を調整することがより効果的である。
Sn:0.50%以下、Ni:0.30%以下、Zn:0.30%以下、Si:0.10%以下、Co:0.10%以下、Cr:0.10%以下、B:0.10%以下、Zr:0.10%以下、Ti:0.10%以下、Mn:0.10%以下、V:0.10%以下
ただし、これらの任意含有元素の合計含有量は0.50%以下とすることが好ましい。
〔Mg固溶率〕
本発明では、耐応力緩和特性を向上させるために、Cuマトリクス中に固溶するMgの作用を利用する。MgはCuより原子半径が大きいため、コットレル雰囲気の形成や、空孔との結合によるマトリクス内の空孔減少をもたらし、これらの作用が転移の動きを阻害して耐応力緩和特性を向上させると考えられる。
Mg固溶率(%)=固溶Mg量(質量%)/トータルMg含有量(質量%)×100 …(1)
ここで、「固溶Mg量(質量%)」は上述の実測に基づく固溶Mg量であり、「トータルMg含有量(質量%)」は当該銅合金板材の化学組成として表示されるMg含有量(質量%)である。上記Mg固溶率の上限は特に規定する必要はなく、100%に近い値であっても構わないが、通常、95%以下の値となる。本発明で規定する合金組成および製造条件に従うことによってMg固溶率47%以上の組織状態に調整することが可能である。なお、たわみ方向がTDの耐応力緩和特性を安定して改善するには、Mg固溶率を47%以上とするだけでは不十分であり、Fe−P化合物の微細粒子がCuマトリクスに分散した金属組織であることを要する。
Fe−P系化合物は原子割合でFeが最も多く含まれ、次いでPが多く含まれる化合物であり、Fe2Pを主体とするものである。Fe−P系化合物のうち、粒子径が50nm未満の微細粒子は、Cuマトリクス中に分布することによって強度向上や耐応力緩和特性の向上に寄与する。しかし、粒子径が50nm以上の粗大粒子は、強度向上や耐応力緩和特性の向上に対する寄与が少ない。また、粗大化の程度が進むと曲げ加工性を低下させる要因となる。
Mg−P系化合物は原子割合でMgが最も多く含まれ、次いでPが多く含まれる化合物であり、Mg3P2を主体とするものである。Mg−P系化合物のうち、粒子径が100nm未満の微細粒子は、Cuマトリクス中に分布することによって強度向上や耐応力緩和特性の向上に寄与する。ただし、耐応力緩和特性に関しては固溶Mgの存在が有効であり、粒子径が100nm未満のMg−P系化合物を多量に存在させることは固溶Mgの減少を招くことにもなるので、本発明において、微細なMg−P系化合物を多量に存在させることは必ずしも好ましいとは限らない。一方、粒子径が100nm以上のMg−P系化合物粒子は、強度向上や耐応力緩和特性の向上に対する寄与が少ないだけでなく、曲げ加工性を低下させる大きな要因となることがわかった。種々検討の結果、粒子径が100nm以上のMg−P系化合物の存在密度は10.00個/10μm2以下に制限する必要があり、5.00個/10μm2以下であることがより好ましい。
上記の化学組成、Mg固溶率および金属組織を有する銅合金板材において、以下の特性を有するものが提供できる。
(a)導電率が65%IACS以上、好ましくは70%IACS以上、
(b)圧延方向をLD、圧延方向と板厚方向の両方に対して垂直な方向をTDと呼ぶとき、JIS Z2241に従うLDの0.2%耐力が450N/mm2以上、
(c)JIS Z3110に従う90°W曲げ試験において曲げ軸をLD(B.W.)、曲げ半径Rと板厚tの比R/tを0.5とする条件にて割れが観測されない曲げ加工性、
(d)片持ち梁方式の応力緩和試験において長手方向がLDに一致し、TDの幅が0.5mmである試験片を用い、たわみ変位の付与方向をTDとする方法でLDの0.2%耐力の80%の負荷応力を加え、150℃で1000時間保持した場合の応力緩和率が35%以下、好ましくは30%以下。
このような特性を有する銅合金板材は、音叉端子など、特に素材の板面に平行な方向のたわみ変位が付与される通電部材に適するものである。
なお、上記応力緩和試験は、日本電子材料工業会標準規格EMAS−1011に示される片持ち梁方式において、たわみ変位の付与方向をTDとして実施すればよい。
Mg固溶率、Fe−P系化合物、Mg−P系化合物に関する上記各規定を満たし、上述の特性を呈する銅合金板材を工業的に安定して量産するための手法として、本発明では以下の製造方法を開示する。
上記規定に従う化学組成の銅合金の溶融物をモールド(鋳型)で凝固させ、凝固後の冷却過程における700〜300℃の平均冷却速度を30℃/min以上として鋳片を製造する。この平均冷却速度は鋳片の表面温度に基づくものである。700〜300℃の温度域ではFe−P系化合物およびMg−P系化合物が生成する。この温度域を上記より遅い冷却速度で冷却すると、極めて粗大なFe−P系化合物およびMg−P系化合物が多量に生成する。その場合、微細なFe−P系化合物が分散し、かつMg固溶率が前述の範囲にある板材を得ることが極めて難しくなる。鋳造方式としてはバッチ式鋳造、連続鋳造のいずれを適用することも可能である。鋳造後は必要に応じて鋳片表面の面削が実施される。
鋳造工程で得られた鋳片を850〜950℃の範囲に加熱保持する。この温度範囲での保持時間は20min以上とすることが望ましく、30min以上とすることがより好ましい。この保持により鋳造組織の均質化が進行し、また粗大なFe−P系化合物およびMg−P系化合物の固溶化が進行する。この熱処理は熱間圧延工程での鋳片加熱時に行うことができる。
前記加熱後の鋳片を、600℃から400℃までの滞在時間:1min以上、600℃以下での合計圧延率:20%以上、最終パス温度:400〜550℃を満たす条件で熱間圧延する。600℃から400℃までの滞在時間とは、熱間圧延中の材料の板幅中央部における表面温度が600℃から400℃まで低下するのに要する所要時間を意味する。Fe−P系化合物が析出しやすい温度域は、Mg−P系化合物が析出しやすい温度域よりも高温域にある。熱間圧延時に600〜400℃での滞在時間を1min以上確保することにより、その温度域でFe−P化合物の析出をMg−P系化合物の析出よりも優先して進行させ、合金中に含まれるPをできるだけFe−P系化合物の析出に消費させてしまう。それにより、その後の冷却過程でMg−P系化合物の生成量が低減され、固溶Mgの残存量を増大させることができる。また、熱延最終パス温度を400〜550℃とし、かつ400〜600℃の間に行われる1回または複数回の圧延パスにおける合計圧延率を20%以上確保することにより、Fe−P系化合物の析出形態を微細化させる。400〜600℃での圧延率が20%を下回ると粗大なFe−P系化合物が残存しやすく、耐応力緩和特性の向上が不十分となりやすい。熱延最終パス温度は400℃以上500℃未満の範囲とすることがより好ましく、具体的には例えば400℃以上490℃以下、あるいは410℃以上480℃以下といった範囲に管理することができる。なお、熱間圧延1パス目の温度(初回パス温度)は例えば850〜950℃の範囲に設定すればよい。
圧延率R(%)=(h0−h1)/h0×100 …(3)
従って、上記の「600℃以下での合計圧延率」は、600℃以下で行われる最初の圧延パスに供する材料の板厚をh0(mm)、最終パス後の板厚をh1(mm)として上記(3)式を適用することにより求まる。
前記の熱間圧延工程によって得られた板材(熱延板)を圧延率30%以上、より好ましくは35%以上で冷間圧延する。この工程で付与される冷間加工歪によって、次工程の焼鈍でFe−P系化合物の析出処理を極めて短時間で行うことができ、Fe−P系化合物の微細化に有効となる。冷間圧延率の上限は目標板厚および冷間圧延機のミルパワーによって適宜設定することができる。通常、95%以下の圧延率とすればよく、80%以下あるいは70%以下の範囲で設定してもよい。
本発明では、上記の冷間圧延工程と後述の仕上冷間圧延工程の間で、時効処理を兼ねた中間焼鈍を1回で済ませる。複数回の中間焼鈍により析出形態を入念に調整すれば所望の組織状態を得ることは比較的容易であると考えられるが、そのような手法は量産材の製造コスト上昇を招く要因となる。発明者らは詳細な検討の結果、以下に示すように、中間焼鈍を1回で済ませる合理的な手法を見出した。すなわち、前記冷間圧延後の板材を550〜600℃の範囲に加熱し、550〜600℃での保持時間を0.4h以上好ましくは0.5h以上確保する。550〜600℃での保持時間は、材料温度が550〜600℃の間に維持されている温度である。この保持時間が不足するとFe−P系化合物の析出が不十分となる。この保持時間の上限は特に規定しないが、通常5h以内とすればよく、3h以内に設定してもよい。
上記において、最高到達温度を保持温度として加熱保持する場合は、「最高到達温度から400℃までの冷却所要時間」を定めるための開始時期は最高到達温度からの降温が始まる時点とする。焼鈍時の材料温度は板材の板幅方向(すなわち圧延直角方向)中央部における表面温度によって把握することができる。
上記の中間焼鈍の後、最終的な板厚調整や更なる強度向上のために、圧延率5〜95%の範囲で仕上冷間圧延を行う。過剰に高い圧延率に設定すると材料中の歪量が増加し、曲げ加工性が低下するため、圧延率は95%以下の範囲で設定する。90%以下とすることがより好ましく、70%以下とすることが一層好ましい。ただし、強度向上の効果を十分に得るためには5%以上の圧延率を確保することが望ましく、20%以上の圧延率を確保することがより好ましい。
低温焼鈍は一般に連続焼鈍炉またはバッチ式焼鈍炉で行われる。いずれの場合も材料の物温が200〜400℃となるように加熱保持する。これにより、歪みが緩和され、導電率が向上する。また、曲げ加工性および耐応力緩和特性も向上する。加熱温度が200℃より低い場合は歪みの緩和効果が十分に得られず、特に仕上冷間圧延の加工率が高い場合には曲げ加工性の改善が難しい。加熱温度が400℃を超えると材料の軟化が生じやすく、好ましくない。保持時間は連続焼鈍の場合は3〜120sec、バッチ焼鈍の場合は10min〜24h程度とすればよい。
Mg固溶率(%)=固溶Mg量(質量%)/トータルMg含有量(質量%)×100 …(1)
なお、トータルMg含有量はICP発光分光分析法により供試材から採取した試料に含まれるMg含有量を測定する方法で求めた。
0.2%耐力は、JIS Z2241に従って、LDの引張試験により測定した。0.2%耐力450N/mm2以上を合格とした。
曲げ加工性は、JIS H3110に示される治具を用いて、曲げ軸をLD(B.W.)、曲げ半径Rと板厚tの比R/tを0.5とする条件でW曲げ試験を行い、曲げ加工部を光学顕微鏡により倍率50倍で観察して割れが認められないものを○(良好)、それ以外を×(不良)と評価した。
応力緩和率は、板厚0.64mmの供試材からワイヤーカットにてLDの長さが100mm、TDの幅が0.5mmの細長い試験片を切り出し、これを日本電子材料工業会標準規格EMAS−1011に示される片持ち梁方式の応力緩和試験にかけることによって求めた。ただし、試験片は、たわみ変位の方向がTDとなるように、0.2%耐力の80%に相当する負荷応力を付与した状態でセットし、150℃で1000時間保持後の応力緩和率を測定した。このようにして求めた応力緩和率を「たわみ方向がTDの応力緩和率」と呼ぶ。たわみ方向がTDの応力緩和率35%以下を合格と判定した。
調査結果を表3に示す。
Claims (4)
- 質量%で、Fe:0.05〜2.50%、Mg:0.03〜1.00%、P:0.01〜0.20%、Sn:0〜0.50%、Ni:0〜0.30%、Zn:0〜0.30%、Si:0〜0.10%、Co:0〜0.10%、Cr:0〜0.10%、B:0〜0.10%、Zr:0〜0.10%、Ti:0〜0.10%、Mn:0〜0.10%、V:0〜0.10%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成の銅合金の溶融物をモールドで凝固させ、凝固後の冷却過程における700〜300℃の平均冷却速度を30℃/min以上として鋳片を製造する鋳造工程、
得られた鋳片を、850〜950℃の範囲に加熱保持する鋳片加熱工程、
前記加熱後の鋳片を、600℃から400℃までの滞在時間:1min以上、600℃以下での合計圧延率:20%以上、最終パス温度:400〜550℃を満たす条件で熱間圧延した後、400〜300℃の平均冷却速度が5℃/sec以上となるように急冷する熱間圧延工程、
圧延率30%以上で圧延する冷間圧延工程、
前記冷間圧延後の板材を550〜600℃の範囲に加熱し、550〜600℃での保持時間:0.4h以上、550〜600℃における最高到達温度から400℃までの冷却所要時間:2.0h以上、550℃から400℃までの平均冷却速度:80℃/h以下を満たす条件で熱処理する中間焼鈍工程、
圧延率5〜95%で圧延する仕上冷間圧延工程、
200〜400℃で加熱する低温焼鈍工程、
を上記の順に有する銅合金板材の製造方法。 - 前記の鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程、中間焼鈍工程、仕上冷間圧延工程、および低温焼鈍工程を上記の順に有する製造手順により、下記(1)式により定まるMg固溶率が47%以上、粒子径50nm以上のFe−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下、かつ粒子径100nm以上のMg−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下である金属組織とする請求項1に記載の銅合金板材の製造方法。
Mg固溶率(%)=固溶Mg量(質量%)/トータルMg含有量(質量%)×100 …(1)
ここで、固溶Mg量とは、倍率10万倍のTEM観察でのEDX分析により求まるCuマトリクス部分の平均Mg濃度(質量%)を意味する。 - 請求項1に記載の製造方法により得られる銅合金板材であって、下記(1)式により定まるMg固溶率が47%以上、粒子径50nm以上のFe−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下、かつ粒子径100nm以上のMg−P系化合物の存在密度が10.00個/10μm2以下である金属組織を有する銅合金板材。
Mg固溶率(%)=固溶Mg量(質量%)/トータルMg含有量(質量%)×100 …(1)
ここで、固溶Mg量とは、倍率10万倍のTEM観察でのEDX分析により求まるCuマトリクス部分の平均Mg濃度(質量%)を意味する。 - 請求項3に記載の銅合金板材から加工された部品であって、前記銅合金板材の圧延方向と板厚方向の両方に対して垂直な方向(TD)に由来する部品内の方向に負荷応力が付与された状態で使用される通電部品。
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