JP2017039959A - Cu−Ti系銅合金板材およびその製造方法並びに通電部品 - Google Patents

Cu−Ti系銅合金板材およびその製造方法並びに通電部品 Download PDF

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Abstract

【課題】Cu−Ti系銅合金板材において、幅の狭い試験片で評価される180°曲げ加工性、および実装部品に近い形状の試験片で把握される厳しい評価基準での耐久性を向上させる。
【解決手段】Ti:2.0〜4.0質量%を含有するCu−Ti系銅合金の板材であって、板面に平行な観察面において、平均結晶粒径が3.0〜25.0μm、粒界反応相の最大幅が1.5μm以下であり、かつ結晶粒界の1つの交点からその隣の交点までの粒界部分を1つの「粒界セグメント」と定義するとき、方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合が60%以下である金属組織を有する銅合金板材。
【選択図】図3

Description

本発明は、コネクタ、リレー、スイッチなどの通電部品に適した耐疲労特性に優れるCu−Ti系銅合金板材であって、特に従来のCu−Ti系銅合金板材の耐疲労特性レベルでは103〜104回で疲労限に達してしまうような厳しい条件下での耐疲労特性を改善し、かつ電子部品の小型化にも対応可能な優れた180°曲げ加工性を有する板材、およびその製造方法に関する。また、その銅合金板材を材料に用いた通電部品に関する。
電気・電子部品を構成する通電部品に使用される材料には、「強度」、「曲げ加工性」、「耐応力緩和特性」に優れることが要求される。また、特にコネクタ、リレー、スイッチなどの可動部を有する通電部品には繰り返しの応力負荷に耐え得る「耐疲労特性」も重要となる。
Cu−Ti系銅合金は、銅合金中でCu−Be系銅合金に次ぐ高強度を有し、Cu−Be系銅合金を凌ぐ耐応力緩和性を有する。また、コストと環境負荷の点でCu−Be系銅合金より有利である。このためCu−Ti系銅合金(例えばC1990;Cu−3.2質量%Ti合金)は、一部のCu−Be系銅合金の代替材としてコネクタ材などに使用されている。
Cu−Ti系銅合金では、Tiの変調構造(スピノーダル構造)を利用して強度を向上させることができる反面、板材の製造過程で粗大な粒状析出物が生成しやすく、また結晶粒界から粒界反応相が生成しやすいという問題がある。図1に、従来一般的なCu−Ti系銅合金板材の圧延方向に垂直な断面の金属組織写真(SEM写真)を例示する。記号Aで示すような粒状析出物と、記号Bで示すような層状の粒界反応相が多く見られる。これらの第二相のうち特に粒界反応相は、疲労特性や曲げ加工性に大きな影響を及ぼす。
これまでCu−Ti系銅合金の特性を改善するために、上記粒状析出物や粒界反応相などの第二相の生成状態を制御する研究が行われている。例えば、特許文献1には、直径1μm以上の介在物が2〜41個/1000μm2(2×103〜41×103個/mm2)であるCu−Ti系銅合金が示されている。特許文献2には、直径1μm以上の第二相粒子の面積率が0〜0.16%であるCu−Ti系銅合金が示されている。特許文献3には、粒内に存在するCu−Ti系化合物の面積率が、粒界に存在するCu−Ti系化合物の面積率よりも大きいCu−Ti系銅合金が示されている。特許文献4には、直径0.5μm以上の第二相粒子が0.04〜0.11個/μm2(4×104〜11×104個/mm2)であるCu−Ti系銅合金が示されている。特許文献5には、板厚方向に垂直な断面において、粒界反応型析出物の最大幅が0.5μm以下であり、直径100nm以上の粒状析出物の密度が105個/mm2以下であるCu−Ti系銅合金板材が示されている。
特開2005−187885号公報 特開2011−202218号公報 特開2011−195881号公報 特開2012−97308号公報 特開2014−185370号公報
コネクタなどのばね材に用いられる銅合金板材は180°U字曲げを施して使用されることが多い。特に民生用電子機器では抜き挿しの動作が繰り返される場合の耐久性向上ニーズが高まっており、180°U字曲げを施した実装部品に近い形状の試験片による耐疲労特性の評価が望まれている。しかし、これまで銅合金板材の耐疲労特性の評価は、プーリー試験やナイフエッジ式試験など、平板状試料による評価が主流であり、上記のような実装形状を反映した耐久性は十分に把握されていないのが現状である。また今後は、部品の一層の小型化に対応できるよう、曲げ加工性の更なる改善も望まれる。
発明者らの検討によれば、180°U字曲げ部を有する実装部品に近い形状の試験片において、従来のCu−Ti系銅合金板材の耐久性レベルでは103回から104回程度で疲労限を迎えるような負荷を付与する厳しい条件での評価手法が、上記耐久性向上ニーズに応えるために有効であることがわかった。また、曲げ加工性についても細い幅の小型部品に加工したときの曲げ加工性をより適切に評価できる180°曲げ試験方法を実施することが必要であると考えられた。特許文献1〜5をはじめとする従来の第二相制御技術では、上記耐久性向上ニーズおよび曲げ加工性向上ニーズに十分に応えることはできない。本発明は、Cu−Ti系銅合金において、上述のような実装部品に近い形状の試験片で把握される厳しい評価基準での耐久性を改善し、かつ部品の小型化に対応し得る曲げ加工性を改善することを目的とする。
発明者らの詳細な研究によれば、上述のような厳しい耐久性および曲げ加工性を同時に付与するためには、生成する粒界反応相の最大幅を制限すること、および特定の方位差を有する結晶の粒界に析出する粒界反応相の生成量を制限することが極めて有効であることがわかった。また、それを実現するための製造方法として、以下の手法が極めて有効であることを見出した。
(i)熱間圧延において920℃以上の高温域で60%以上の圧下率を稼ぐとともに、その高温域で材料とロールの摩擦を高めて材料全体に大きなせん断力を加えることにより、鋳造組織中の偏析相の破壊・分断を促進させ、かつ、できるだけ高温状態から水冷する。
(ii)時効処理の最高材料到達温度を400〜700℃の範囲とし、時効処理時間を、時効処理温度に応じて厳密にコントロールする。
本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明では、質量%で、Ti:2.0〜4.0%、Ni:0〜1.5%、Co:0〜1.0%、Fe:0〜0.5%、Sn:0〜1.2%、Zn:0〜2.0%、Mg:0〜1.0%、Zr:0〜1.0%、Al:0〜1.0%、Si:0〜1.0%、P:0〜0.1%、B:0〜0.05%、Cr:0〜1.0%、Mn:0〜1.0%、V:0〜1.0%であり、前記元素のうちSn、Zn、Mg、Zr、Al、Si、P、B、Cr、MnおよびVの合計含有量が3.0%以下であり、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金板材であって、板面に平行な観察面において、平均結晶粒径が3.0〜25.0μm、粒界反応相の最大幅が1.5μm以下であり、かつ結晶粒界の1つの交点からその隣の交点までの粒界部分を1つの「粒界セグメント」と定義するとき、方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合が60%以下である金属組織を有し、圧延方向の0.2%耐力が800MPa以上、導電率が11.0%IACS以上である銅合金板材が提供される。板厚は例えば0.03〜1.0mmとすることができ、特に0.05〜0.3mmの薄板材は通電部品の小型化に有用である。
上記銅合金板材は優れた180°曲げ性を有する。具体的には、長手方向が圧延方向(LD)および圧延直角方向(TD)である1mm幅の曲げ試験片をそれぞれ採取してJIS Z2248:2014の巻付け法に従い180°曲げ試験を行ったとき、割れが発生しない最小曲げ半径MBRと板厚tとの比MBR/tの値がLD、TDとも1.0以下となる曲げ加工性を有するものが好適な対象となる。
隣接する結晶粒の方位差は、後方散乱電子回折像(Electron Backscatter diffraction Pattern:EBSP)に基づく結晶粒方位分布マップ(OIM像)の測定(以下、EBSP法という。)によって求めることができる。具体的には、板面(圧延面)に平行な観察面について、電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)によりEBSP法で結晶粒方位分布マップを測定し、結晶方位差が35〜55°である結晶粒の境界線をSEM像の上に重ねて表示させることにより、当該SEM視野中の個々の粒界セグメントがそれぞれ「方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメント」に該当するかどうかを判別することができる。
粒界反応相は、Cu母相の結晶粒界から結晶粒内に向かって、Cu相と互いに層を形成しながら層状に成長するCu−Ti系金属間化合物の析出相であり、β−Cu4Ti相を主体とするものであると考えられる。この粒界反応相は結晶粒界に沿って存在し、かつCu相と交互に層状構造を形成しているので、金属組織観察において他のタイプの第二相と識別することができる。
粒界反応相の最大幅、および方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合は、以下のようにして定めることができる。
〔粒界反応相の最大幅の特定方法〕
板面に平行な観察面のSEM観察において200μm×200μm(40000μm2)の矩形領域が設定できる観察視野を無作為に12視野選択する。各観察視野において、矩形領域内(境界を含む)に観察される全ての粒界反応相について、結晶粒界に対して直角方向の長さを測定し、全12視野での上記測定値の最大値を、粒界反応相の最大幅(μm)とする。
〔方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合の特定方法〕
板面に平行な観察面のSEM観察において200μm×200μm(40000μm2)の矩形領域が設定できる観察視野を無作為に12視野選択する。1つの観察視野において、矩形領域内(境界を含む)に全部または一部が存在する粒界セグメントのうち、方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントをEBSP法により抽出し、それらを「35〜55°粒界セグメント」と呼び、その数をn0(個)とする。35〜55°粒界セグメントのうち、結晶粒界に対して直角方向の長さが0.5μmを超えるサイズの粒界反応相を矩形領域内(境界を含む)に有している粒界セグメントの数n1(個)をカウントする。この作業を上記12視野について行い、全12視野における前記n0の総和をN0(個)、前記n1の総和をN1(個)とするとき、N1/N0×100で表される値を「方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合(%)」とする。
上記銅合金板材の製造方法として、上記化学組成の銅合金板材を、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理の工程を上記の順に有する工程にて製造するに際し、
熱間圧延工程において、加熱温度を960℃以下とし、920℃以上で行う圧延パスで水分含有量97.0質量%以上の潤滑液を使用し、920℃以上での合計圧延率を60%以上とし、熱間圧延最終パス温度を下記(1)式のTs(℃)以上とし、その最終パス後にTs−100℃で表される温度以上の高温から水冷を開始し、
溶体化処理工程において、加熱保持温度を750〜900℃の範囲とし、
時効処理工程において、最高到達材料温度TMAX(℃)を400〜700℃の範囲内とし、400℃以上TMAX以下の温度域での保持時間tA(min)と下記(2)式で定義されるX値の関係が下記(3)式を満たす条件で時効処理を施す、
銅合金板材の製造方法が提供される。
Ts=151.5×ln[Ti]+620.5 …(1)
ここで、lnは自然対数、[Ti]は質量%で表される当該合金のTi含有量である。
X=exp((694−TMAX)/28) …(2)
0.20≦tA/X≦1.0 …(3)
また本発明では、上記銅合金板材を材料に用いた通電部品が提供される。
本発明によれば、Cu−Ti系銅合金板材において、180°U字曲げ部を有する試料を用いた厳しい評価手法で判定される耐久性を向上させることができた。また、幅1mmの試験片で評価される厳しい180°曲げ試験にてR/t=1の180°曲げがLD、TDいずれの方向においても可能であるという、優れた曲げ加工性を付与することができた。従って本発明は、特にコネクタ、スイッチ、リレー等の可動部分を有する通電部品の耐久性向上および小型化に寄与するものである。
一般的なCu−Ti系銅合金板材の金属組織を例示したSEM写真。 耐久性を評価するための試験片の形状を例示した図。 荷重付与回数と荷重低下率の関係を例示したグラフ。
《合金組成》
本発明ではCu−Tiの2元系基本成分に、必要に応じてNi、Co、Feや、その他の合金元素を配合したCu−Ti系銅合金を採用する。以下、合金組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
Tiは、強度上昇および耐応力緩和性向上に寄与する元素であり、ここではTi含有量2.0%以上の合金を対象とする。2.5%以上であることがより好ましい。過剰なTi含有は、熱間加工性や冷間加工性を低下させる要因となる他、溶体化処理の適正温度域を狭める要因ともなるので、Ti含有量は4.0%以下とする。3.5%以下に管理してもよい。
Ni、Co、Feは、Tiとの金属間化合物を形成して強度の向上に寄与するので、必要に応じてこれらの1種以上を添加することができる。特に、Cu−Ti系銅合金の溶体化処理においては、これらの元素の金属間化合物が結晶粒の粗大化を抑制するので、より高温域での溶体化処理が可能になり、Tiを十分に固溶させる上で有利となる。これら1種以上を添加する場合の含有量は、Ni:0.05%以上、Co:0.05%以上、Fe:0.05%以上とすることがより効果的であり、Ni:0.1以上、Co:0.1%以上、Fe:0.1%以上とすることが更に効果的である。ただし、Fe、Co、Niを過剰に含有させると、粗大な粒状析出物が形成しやすくなり、耐久性の低下を招く。したがってNi、Co、Feの1種以上を添加する場合は、Ni:1.5%以下、Co:1.0%以下、Fe:0.5%以下の範囲とする。Ni:0.25%以下、Co:0.25%以下、Fe:0.25%以下の範囲に管理してもよい。
Snは、固溶強化作用と耐応力緩和性の向上作用を有するので、必要に応じて積極的に添加してもよい。0.1%以上のSn含有量を確保することが効果的である。ただし、過剰のSn含有は鋳造性と導電率の低下を招くので、Snを含有させる場合は1.2%以下とする。0.5%以下あるいは0.25%以下の範囲に管理してもよい。
Znは、はんだ付け性および強度を向上させる作用を有する他、鋳造性を改善させる作用もあるので、必要に応じて積極的に添加してもよい。0.1%以上のZn含有量を確保することが効果的であり、0.3以上とすることが一層効果的である。ただし、過剰のZn含有は導電性や耐応力腐食割れ性の低下要因となりやすいので、Zn含有量は2.0%以下とし、1.0%以下あるいは0.5%以下の範囲に管理してもよい。
Mgは、耐応力緩和性の向上作用と脱S作用を有するので、必要に応じて積極的に添加してもよい。0.01%以上のMg含有量を確保することが効果的であり、0.05%以上とすることがより効果的である。ただし、Mgは酸化されやすい元素であり、過剰添加は鋳造性が損なう要因となるので、Mgを含有させる場合は1.0%以下の含有量とし、0.5%以下の範囲で調整することが一層好ましい。通常、0.1%以下とすればよい。
その他の元素として、Zr:1.0%以下、Al:1.0%以下、Si:1.0%以下、P:0.1%以下、B:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mn:1.0%以下、V:1.0%以下の1種以上を含有させることができる。例えば、ZrとAlはTiとの金属間化合物を形成することができ、SiはTiとの析出物を生成できる。Cr、Zr、Mn、Vは不可避的不純物として存在するS、Pbなどと高融点化合物を形成しやすく、また、Cr、B、P、Zrは鋳造組織の微細化効果を有し、熱間加工性の改善に寄与しうる。Zr、Al、Si、P、B、Cr、Mn、Vの1種以上を含有させる場合は、各元素の作用を十分に得るためにこれらの総量が0.01%以上となるように含有させることが効果的である。
ただし、Zr、Al、Si、P、B、Cr、Mn、Vを多量に含有させると、熱間または冷間加工性に悪影響を与え、かつコスト的にも不利となる。したがって、前述のSn、Zn、Mgと、Zr、Al、Si、P、B、Cr、Mn、Vの合計含有量は3.0%以下に抑えることが望ましく、2.0%以下あるいは1.0%以下の範囲に規制することができ、0.5%以下の範囲に管理しても構わない。経済性を加味したより合理的な上限規制としては、例えばZr:0.2%以下、Al:0.15%以下、Si:0.2%以下、P:0.05%以下、B:0.03%以下、Cr:0.2%以下、Mn:0.1%以下、V:0.2%以下の規制を設けることができる。
《金属組織》
従来一般的なCu−Ti系銅合金板材には、図1に示したように「粒状析出物」と「粒界反応相」が観察される。本発明に従うCu−Ti系銅合金板材にもこれらの第二相は観察されるが、そのうち「粒界反応相」の最大幅および存在形態が後述のように厳しく制限されていることに特徴がある。なお、Cu−Ti系銅合金の強化機構は主として変調構造(スピノーダル構造)によるものである。変調構造自体は析出相とは異なり光学顕微鏡やSEMでは観測されない。
〔粒状析出物〕
Cu−Ti系銅合金の母相(マトリックス)中に観察される粒状析出物としては、添加する合金元素の種類に応じてNi−Ti系、Co−Ti系、Fe−Ti系などの金属間化合物も存在しうるが、量的にはCu−Ti系金属間化合物であるα相が大部分を占める。
〔粒界反応相〕
粒界反応相は脆弱な部分であり、疲労破壊や曲げ割れの起点あるいは伝播経路として作用する。そのため、粒界反応相の生成量はできるだけ少ないことが望ましいと考えられている。しかし、180°U字曲げ部を有する試験片により評価される厳しい耐久性や、幅の狭い試験片で評価される厳しい180°曲げ加工性を改善するには、単に粒界反応相の生成量を低減するだけでは不十分であり、結晶粒界でのクラックの発生や伝播をより効果的に防ぐ手法を採用することが求められる。そこで発明者らは、クラックの発生や伝播に関して、結晶粒界を「粒界反応相の影響が大きい粒界」と「粒界反応相の影響が小さい粒界」に分別し、「粒界反応相の影響が大きい粒界」に存在する粒界反応相を制限するという思想に基づいて検討を進めてきた。その結果、「粒界反応相の影響が大きい粒界」として「方位差が35〜55°である結晶の粒界」を取り上げることができ、その種の粒界での粒界反応相の生成を抑制することが上述の厳しい耐久性や曲げ加工性を安定して改善する上で極めて有効であるという知見を得た。また同時に、粒界反応相の最大幅、すなわち粒界反応相が生じている結晶粒界に対して直角方向の最大長さを規制することも重要であることが確認された。
具体的には、板面に平行な観察面において、方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち、幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合が60%以下であることが、上述の厳しい耐久性や曲げ加工性の改善に極めて有効である。上記個数割合は少ないほど好ましいが、0%にすることは困難であり、通常は10〜60%の範囲にあれば高い改善効果が得られる。ここで、粒界セグメントとは、結晶粒界の1つの交点からその隣の交点までの粒界部分を意味する。結晶粒界上のある位置における粒界反応相の幅は、その位置での結晶粒界の接線に対して直角方向に測定した粒界反応相の長さに相当する。ある粒界セグメントの端部(すなわち結晶粒界の交点)に粒界反応相が存在している場合は、その端部での当該結晶粒界の接線に対して直角方向に測定した粒界反応相の長さが、当該粒界セグメントに関しての、その交点に存在する粒界反応相の幅となる。ある粒界セグメントの一端から他端まで結晶粒界上の位置を移動しながら、その粒界セグメントに生じている粒界反応相の幅を測定していったとき、粒界反応相の幅が0.5μmを超える部分が存在していれば、その粒界セグメントは「幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメント」に該当する。ただし、粒界セグメントの一部が前述の観察視野に設けた矩形領域の境界線で切断されている粒界セグメントについては、その矩形領域内(境界を含む)の部分に限定して粒界反応相の幅を測定すればよい。
方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち、幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合の具体的測定方法は前述した通りである。
また、板面に平行な観察面において、粒界反応相の最大幅が1.5μm以下であることも重要である。それを超えるサイズの粒界反応相がいずれかの粒界に存在すると、厳しい評価方法による耐久性や曲げ加工性を十分改善することが困難である。粒界反応相の最大幅は1.0μm以下であることがより好ましい。
粒界反応相の最大幅の具体的測定方法は前述した通りである。
〔平均結晶粒径〕
結晶粒の微細化は曲げ加工性や耐疲労特性に有利となる反面、耐応力緩和特性に不利となる。種々検討の結果、平均結晶粒径は3.0〜25.0μmの範囲に調整することが望ましく、5.0〜20.0μmに管理してもよい。平均結晶粒径のコントロールは主として溶体化処理によって行うことができる。ここで、平均結晶粒径は、板面(圧延面)に平行な観察面の金属組織観察において、300μm×300μm以上の視野で圧延方向に直角に線を引き100個以上の結晶粒の粒径をJIS H0501の切断法によりで測定することによって求めることができる。
《特性》
〔導電率〕
通電部品に使用するためには、11.0%IACS以上の導電率を有することが望ましく、12.0%IACS以上であることがさらに好ましい。上述の化学組成および金属組織によって前記導電率を満たすことができる。
〔強度〕
LDの0.2%耐力は800MPa以上であることが望ましく、810MPa以上であることがより好ましい。一方、過度に強度を高めると180°U字曲げ部でのクラック発生を招きやすくなり、耐久性を低下させる要因となる場合がある。LDの0.2%耐力は1000MPa以下の範囲で調整することが好ましい。970MPa以下あるいは930MPa以下の範囲に管理してもよい。LDの引張強さについては820〜980MPaの範囲であることが望ましい。
〔曲げ加工性〕
通電部品の小型化ニーズを考慮して、ここでは幅の狭い曲げ試験片を用いた厳しい評価方法で板材の曲げ加工性を評価する。具体的には、1mm幅の試験片を板材から採取してJIS Z2248:2014の巻付け法による180°曲げ試験を行ったとき、割れが発生しない最小曲げ半径MBRと板厚tとの比MBR/tの値が、LD、TDいずれの方向においても1.0以下となる曲げ加工性を具備しているものが好適な対象となる。「LDの曲げ加工性」は長手方向がLDの試験片により評価される曲げ加工性であり、曲げ軸はTDである。「TDの曲げ加工性」は長手方向がTDの試験片により評価される曲げ加工性であり、曲げ軸はLDである。
〔耐疲労特性〕
耐疲労特性は一般に平板状試験片によって評価されるが、ここでは上述のように、180°U字曲げ加工部を有する試験片を用いて、より実装状態に近い耐久性を把握する。具体的には、例えば後述の実施例に示す方法が適用できる。
〔耐応力緩和特性〕
耐応力緩和特性は、車載用コネクタなどの用途では特に重要となる。後述の応力緩和特性の評価方法において、長手方向がTDである試験片を200℃で1000h保持した場合の応力緩和率が5%以下であることが好ましく、4%以下であることが一層好ましい。
《製造方法》
上述の特性を具備するCu−Ti系銅合金板材は、熱間圧延、溶体化処理、時効処理を有する工程で製造することができる。より具体的には、例えば下記の工程を例示することができる。
「溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→溶体化処理→時効処理→仕上冷間圧延→低温焼鈍」
なお、上記工程中には記載していないが、溶解・鋳造後には必要に応じて均熱処理(又は熱間鍛造)が行われ、熱間圧延後には必要に応じて面削が行われ、各熱処理後には必要に応じて酸洗、研磨、あるいは更に脱脂が行われる。また、用途に応じて「時効処理」の前に「中間冷間圧延」を追加してもよい。以下、各工程について説明する。
〔溶解・鋳造〕
連続鋳造、半連続鋳造等により鋳片を製造すればよい。Tiの酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気または真空溶解炉で行うのがよい。
〔熱間圧延〕
熱間圧延では、できるだけ高温で大きな圧延率を稼ぎ、かつ材料全体に大きなせん断力を加えて鋳造組織中の偏析相の破壊・分断を促進させること、熱間圧延最終パスをα相の固溶度線以上の温度で終えること、および最終パス終了後はできるだけ高温状態から水冷することが極めて効果的である。
熱間圧延前の加熱温度は960℃以下とする。それより高いと鋳造組織に起因して融点が低下している部分が存在すると、その部分が溶融する恐れがあり、熱間割れを招く要因となる。加熱温度範囲は930〜960℃、加熱時間は2h以上とすることが好ましい。材料表面温度が920℃以上であるうちに合計圧延率60%以上、より好ましくは65%以上の圧下を付与する。すなわち、920℃以上での合計圧延率を60%以上、より好ましくは65%以上とする。920℃以上での合計圧延率の上限については設備能力等により制限を受けるので特に規定する必要はないが、通常、95%以下の範囲で良好な結果が得られる。この温度域で大きな加工度を稼ぐことによって、鋳造組織のデンドライト樹間に生じやすいTiの濃化部分を破壊、分断し、粗大な第二相粒子に成長しやすい核源を十分に消失させる。920℃以上での合計圧延率が60%に満たないと、最終的に粗大な粒界反応相が生成するので、材料の強度、曲げ加工性、耐久性(耐疲労特性)を十分に向上させることが困難となる。920℃以上の温度域で行う熱間圧延パスのうち、最も圧下率の大きい熱間圧延パスでの圧下率(最大圧下率)を15%以上とすることがより効果的である。特に、920℃以上の温度域で行う各熱間圧延パスでの圧下率の平均値(平均圧下率)を15%以上とすることがより好ましい。
熱間圧延最終パス温度は下記(1)式のTs(℃)以上とする。
Ts=151.5×ln[Ti]+620.5 …(1)
ここで、lnは自然対数を意味し、[Ti]の箇所には質量%で表される当該合金のTi含有量の値が代入される。
このTsはCu−Ti二元合金におけるα相の固溶度線温度(℃)を示す指標であり、上記(1)式により精度良く近似される。通常、固溶度線より低温側の固溶度線近傍の温度域では核形成は起こりにくいが、加工歪が加わった場合にはその温度域で核形成が起こりやすい。一旦、その温度域で核形成が起こってしまうと、高温であるためにその後の成長も速い。従って、粗大な析出物の存在量を減じるためには、Ts以上の温度で熱間圧延を終了することが極めて有効である。熱間圧延での合計圧延率は60%以上95%以下の範囲で設定すればよい。
なお、ある板厚t0(mm)からある板厚t1(mm)までの圧延率は、下記(4)式により求まる。後述の各工程における圧延率も同様である。
圧延率(%)=(t0−t1)/t0×100 …(4)
ある1回の圧延パスでの圧下率は、その圧延パス前の板厚をt0(mm)、その圧延パス前の板厚をt1(mm)としたときに上記(4)式により算出される圧延率(%)を意味する。
また、この高温域で材料全体に大きなせん断力を加えるためには、圧延ロールと材料間の摩擦力を利用して、材料表面に付与する引張応力成分を増大させることが極めて有効であることがわかった。
一般に圧延加工では、ロールと接触する表面近くでは引張応力状態、板厚中央に近い部分では圧縮応力状態となり、材料の表層部と内部とで異なる方向の応力が負荷される。このうち引張応力は主としてロールと材料の摩擦力によって生じる。この摩擦力はロール寿命低下などの要因となるため、通常の熱間圧延操業では潤滑液を使用して摩擦力の低減を図っている。熱間圧延用の潤滑液としては、一般に冷却能力と難燃性の点から水に水溶性潤滑成分(ソリュブルオイル)を数%加えたもの使用される。
最終的な板材製品において、粗大な粒界反応相の存在が厳しく制限された本発明に従う組織状態を実現するためには、この摩擦力を積極的に利用し、材料の表面近くに生じる引張応力を増大させることが極めて有効である。引張応力の増大によって表層部と内部の応力方向の差が大きくなり、材料全体に大きなせん断力を加わるため、鋳造組織中の偏析相の破壊・分断が促進される。種々検討の結果、水にソリュブルオイル等の潤滑成分を添加して水分含有量が97.0質量%以上となるように潤滑成分の配合量を制限した潤滑液を使用することが、本発明に従う組織状態の板材製品を得るうえで非常に効果的である。水分含有量が98.0質量%以上の潤滑液を使用することがより好ましく、99.0質量%以上のものが一層好ましい。潤滑液は水分含有量100%(すなわち水)とすることもできるし、例えば水分含有量99.8質量%以下の範囲に管理することもできる。潤滑液中の水分含有量は加熱乾燥式水分計によって測定できる。
熱間圧延最終パス終了後の冷却過程でも、第二相の生成をできるだけ防止する必要がある。熱間圧延最終パス終了後の冷却過程では、加工歪の導入を伴わないので、固溶度線温度近傍での第二相の生成はほとんど起こらないと考えてよい。しかし、固溶度線からの温度差が大きくなると析出が活発に起こるようになる。種々検討の結果、Ts−100℃で表される温度を下回ると第二相の生成が問題となる場合がある。従って、熱間圧延最終パス終了後は、材料表面温度がTs−100℃で表される温度以上の高温であるときに水冷を開始する。水冷方法は、熱間圧延材を搬送するテーブル上で材料表面に十分な量の冷却水を接触させる方法や、巻き取ったコイルを水槽中に浸漬させる方法などが採用できる。それらの水冷手法によって、水冷開始温度から200℃までの平均冷却速度を20℃/sec以上とすることができ、50℃/sec以上に管理することもできる。水冷開始温度はTs−50℃で表される温度以上の高温とすることがより好ましい。
〔冷間圧延〕
最終製品の板厚を考慮して、溶体化処理前の段階で適宜冷間圧延を実施することができる。中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延を実施してもよい。溶体化処理に供する板材の冷間圧延率は、90%以上とすることが効果的である。
〔溶体化処理〕
溶体化処理の加熱保持温度は750〜900℃の範囲とする。この温度域においてα相を十分に固溶させることができる。900℃を超えると結晶粒が粗大化しやすい。750℃未満ではα相の固溶が不十分となりやすい。750〜900℃での保持時間は5sec〜5minの範囲で設定すればよい。溶体化処理の保持温度、保持時間によって最終製品の平均結晶粒径を調整することができる。溶体化処理の冷却過程では、550℃から300℃までの平均冷却速度が100℃/sec以上となるように急冷することが望ましい。
〔時効処理〕
時効処理は400〜700℃の範囲に材料を加熱して行う。Cu−Ti系銅合金では、この温度範囲で変調構造(スピノーダル構造)の形成による顕著な強度上昇作用が得られる。しかし、この範囲は同時に粒界反応相が形成されやすい温度域と重なる。そのため、従来Cu−Ti系の高強度銅合金において粒界反応相の形成を抑制することは難しかった。発明者らは詳細な検討の結果、時効処理に供するCu−Ti系銅合金材料として、上述の熱間圧延工程により粗大な第二相粒子へと成長しやすい核源を十分に消失させた組織状態としておいた溶体化処理材を用いた場合、最高到達材料温度TMAX(℃)を400〜700℃の範囲内とし、400℃以上TMAX以下の温度域での保持時間tA(min)と下記(2)式で定義されるX値の関係が下記(3)式を満たす条件で時効処理を施すことによって、粒界反応相の成長を顕著に抑制させながら0.2%耐力800MPa以上の高強度化が可能となることを見いだした。最高到達材料温度TMAX(℃)は420〜500℃の範囲に管理してもよい。
X=exp((694−TMAX)/28) …(2)
0.20≦tA/X≦1.0 …(3)
粒界反応相の析出が進行しにくい組織状態となっているので、比較的高温・長時間の時効処理が可能となるが、最高到達材料温度TMAXに応じて、時効処理時間を厳しく制限する必要がある。
最高到達材料温度TMAXが700℃を上回る場合や、加熱保持時間tAが(3)式中のtA/X≦1.0を外れて長時間となる場合は、粒界反応相が過剰に成長しやすく、粒界反応相の析出形態が上述所望の状態に適正化された金属組織が得られない。その場合は耐久性や180°曲げ加工性の改善が不十分となる。最高到達材料温度TMAXが400℃を下回る場合や、加熱保持時間tAが(3)式中の0.20≦tA/Xを外れて短時間となる場合は、高強度化が不十分となる。ここで、加熱保持時間tA(min)は、材料温度が400℃以上TMAX(℃)以下にある時間を意味する。なお、従来一般的なCu−Ti系銅合金の熱間加工方法では、粗大な第二相粒子へと成長しやすい核源が十分に消失されていないので、そのような材料に本発明で規定する上述の条件での時効処理を適用した場合には、比較的短時間の時効処理時間にて高強度化は可能であっても、本発明で意図する耐久性や180°曲げ加工性の改善はできない。
最高到達材料温度TMAXは420〜550℃の範囲とすることがより好ましい。また、(3)式中のtA/X値については、上限に関してはtA/X≦0.9であることがより好ましく、下限に関しては0.4≦tA/Xであることがより好ましい。
時効処理中の表面酸化を極力抑制する場合には、水素、窒素またはアルゴン雰囲気を使うことができる。
〔仕上冷間圧延〕
時効処理後には、板厚調整や強度レベル調整などを目的として、必要に応じて仕上冷間圧延を行うことができる。仕上冷間圧延率は、例えば5〜15%の範囲で調整すればよい。
〔低温焼鈍〕
仕上冷間圧延後には、板材の残留応力の低減や曲げ加工性の向上、空孔やすべり面上の転位の低減による耐応力緩和特性向上を目的として、低温焼鈍を施すことができる。加熱温度150〜430℃、加熱時間5〜3600secの範囲で条件設定すればよい。仕上冷間圧延を省略した場合は、通常、この低温焼鈍も省略される。
表1に示す銅合金を溶製し、縦型半連続鋳造機を用いて鋳造した。得られた鋳片を表2に示す種々の条件で熱間圧延した。市販のソリュブルオイルを水に添加して潤滑液を作製した。潤滑液の水分含有量は加熱乾燥式水分計(エー・アンド・デイ社製ML−50)を用いて測定した。一部の実施例(No.6)では潤滑液として水を使用した。鋳片の加熱時間は4hとした。熱間圧延後の水冷は、得られたコイルを水槽に浸漬する方法で行った。このときの水冷開始温度から200℃までの平均冷却速度は50℃/sec以上であった。鋳片からのトータルの熱間圧延率は約90%である。920℃以上における各圧延パスでの圧下率の平均値(920℃以上での平均圧下率)は、本発明例においていずれも15%以上であった。熱間圧延後、表層の酸化層を機械研磨により板の表裏それぞれ約0.5mmを除去(面削)し、厚さ10mmの圧延板を得た。次いで、圧延率95〜98%で冷間圧延を行った後、表3に示す条件で溶体化処理を施した。溶体化処理の加熱保持後は水冷を行い、550℃から300℃までの平均冷却速度を100℃/sec以上とした。その後、表3に記載の条件で仕上冷間圧延および低温焼鈍を行って最終板厚0.20mmの供試材を得た。
各供試材について、以下の項目を調査した。
〔平均結晶粒径〕
供試材の板面(圧延面)を研磨したのちエッチングし、その面を光学顕微鏡で観察し、300μm×300μmの視野において100個以上の結晶粒の粒径をJIS H0501の切断法により上述の方法で測定した。
〔粒界反応相の析出形態〕
供試材の板面を番手1500(JIS R6010:2000に規定される粒度P1500)の耐水研磨紙で研磨したのち、表面に研磨ひずみを入れないために振動研磨法により仕上げ研磨を行って観察面を得た。日本電子社製のFESEM(電界放出形走査電子顕微鏡)を使用して、前述の「方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合の特定方法」に記載した方法に従いSEMおよびEBSP法を利用して200μm×200μm(40000μm2)の矩形領域を有する無作為に選択した12視野についての観察を行い、上記の粒界セグメントの個数割合を求めた。また、上記12視野の観察に際して、上述の「粒界反応相の最大幅の特定方法」に従いSEM像より粒界反応相の最大幅を測定し、その最大幅の測定値に基づいて1.5μmを超える粒界反応相の有無を判定した。なお、SEM像において粒界反応相は結晶粒界から粒内方向に成長している層状組織として観察され、幅0.5μmを超える粒界反応相を明確に確認することができる。
〔導電率〕
JIS H0505に従って各供試材の導電率を測定した。
〔引張強さ、0.2%耐力〕
各供試材からLDの引張試験片(JIS 5号)を採取し、n=3でJIS Z2241の引張試験行い、n=3の平均値によって引張強さおよび0.2%耐力を定めた。
〔曲げ加工性〕
供試材の板材から長手方向がLDの曲げ試験片およびTDの曲げ試験片(いずれも幅1mm)を採取し、JIS Z2248:2014の巻付け法に従い180°曲げ試験を行った。曲げ部の内側の曲げ半径Rは板厚tと同じ(R/t=1)とした。試験後の試験片について曲げ軸に垂直な断面を光学顕微鏡にて100倍の倍率で観察することにより、180°曲げ加工部の外側表面における割れ発生の有無を調べた。この試験で割れの発生が認められなかった試験片はMBR/tの値が1.0以下であると判定される。各供試材のLD、TDとも試験数n=3で実施し、n=3のうち1つでも割れが発生した場合を×評価(割れあり)、1つも割れが発生しなかった場合を○評価(割れなし)とした。
〔耐久回数〕
供試材をプレス加工して実際の通電部品に近い形状の試験片を作製して疲労試験に供した。その試験片の形状を図2に示す。この試験片は、板厚0.20mmの板からTDを長手方向とする幅1.4mmの材料を打抜き、これに180°U字曲げを含む曲げ加工を施したものに相当する。図2中の矢印で示す位置に、一定の押込み量にて繰り返し荷重Pを負荷した。押込み量は、初期荷重20Nを付与したときの変位量に設定した。この押込み量にて繰り返し荷重を付与し、1000回毎に荷重を測定し、初期荷重の50%以下となった回数を耐久回数とした。初期荷重の50%を基準とする理由は、SEMにて試験片表面を観察したとき、初期荷重の50%以下となった試験片にクラックが観測されるからである。試験数n=5とし、それらの中で最も悪い耐久回数を当該板材の成績値として採用した。この試験において耐久回数が10000回以上となるものは、従来一般的なCu−Ti系銅合金と比べ、電子機器に実装された通電部品としての繰り返しの抜き挿しやスイッチング動作について、耐久性が顕著に改善されていると判断できる。
〔応力緩和率〕
各供試材から長手方向がTDの曲げ試験片(幅10mm)を採取し、試験片の長手方向における中央部の表面応力が0.2%耐力の80%の大きさとなるようにアーチ曲げした状態で固定した。上記表面応力は次式により定まる。
表面応力(MPa)=6Etδ/L0 2
ただし、
E:弾性係数(MPa)
t:試料の厚さ(mm)
δ:試料のたわみ高さ(mm)
この状態の試験片を大気中200℃の温度で1000時間保持した後の曲げ癖から次式を用いて応力緩和率を算出した。
応力緩和率(%)=(L1−L2)/(L1−L0)×100
ただし、
0:治具の長さ、すなわち試験中に固定されている試料端間の水平距離(mm)
1:試験開始時の試料長さ(mm)
2:試験後の試料端間の水平距離(mm)
この応力緩和率が5.0%以下のものは、車載用コネクタとして高い耐久性を有すると評価される。
これらの結果を表4、表5に示す。
本発明に従う銅合金板材は、幅1.5μmを超えるサイズの粒界反応相が観察されず、かつ方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合が60%以下であった。これらはいずれも、1mm幅でR/t=1となる180°曲げにおいてLD、TDとも割れが発生しない優れた曲げ加工性を有するとともに、上記の疲労試験による耐久回数が10000回以上という優れた耐久性を呈した。導電率、0.2%耐力、曲げ加工性、応力緩和率についても良好であった。
これに対し、比較例No.21〜23は時効処理時間tAが(3)式の規定を外れて過大であったので、方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントに占める幅0.5μmを超える粒界反応相が存在するものの割合が高くなり、曲げ加工性および耐久性の改善が不十分であった。No.24は熱間圧延で920℃以上での圧下を行っておらず、また固溶度線温度を表すTsより低温で熱間圧延最終パスを終えたことにより粗大な粒界反応相が生成し、十分な曲げ加工性および耐久性が得られなかった。No.25は時効温度が低すぎ、またNo.28はTi含有量が少なすぎたので、これらはいずれもTiの変調構造による高強度化が不十分であり、強度不足に起因して耐久性が低かった。No.26は時効温度が高すぎたので、幅1.5μmを超える粒界反応相が生成し、粒界反応相が生成した方位差35〜55°の粒界の割合も高く、曲げ加工性および耐久性が低かった。No.27は熱間圧延で920℃以上の温度域での圧延率が不足したので幅1.5μmを超える粒界反応相が生成し、曲げ加工性および耐久性に劣った。No.29はTi含有量が多すぎたので熱間圧延で割れが生じ、その後の工程を中止した。No.30はFe含有量が多すぎ、No.32はCo含有量が多すぎ、No.34はNi含有量が多すぎたので、これらはいずれも幅1.5μmを超える粒界反応相が生成し、曲げ加工性および耐久性に劣った。No.31は熱間圧延での鋳片加熱温度が高すぎたので局部的な溶融に起因して熱間圧延で割れが生じ、その後の工程を中止した。No.33は熱間圧延で920℃以上の温度域での圧延率が不足したので幅1.5μmを超える粒界反応相が生成し、時効処理時間tAも(3)式の規定を外れて過大であったため、粒界反応相が生成した方位差35〜55°の粒界の割合が高く、曲げ加工性および耐久性が大きく劣った。No.35は溶体化処理温度が高すぎたので結晶粒が粗大化し、その結果、十分な曲げ加工性および耐久性が得られなかった。No.36は熱間圧延の最終パス温度がTsより低かったので最終的に幅1.5μmを超える粒界反応相が生成し、曲げ加工性および耐久性に劣った。No.37は熱間圧延時の潤滑液として潤滑成分(油分)の多いものを使用したため鋳造組織中の濃縮Tiの破壊、分断が不十分となり、最終的に幅1.5μmを超える粒界反応相が生成し、曲げ加工性および耐久性に劣った。No.38は時効処理時間tAが(3)式の規定を外れて短かったので、強度が不足し、またそれに伴って耐久性も低かった。
図3に、本発明例No.1と比較例No.21について、耐久回数と荷重低下率の関係を例示する。本発明に従えば耐久性が大幅に向上することがわかる。

Claims (7)

  1. 質量%で、Ti:2.0〜4.0%、Ni:0〜1.5%、Co:0〜1.0%、Fe:0〜0.5%、Sn:0〜1.2%、Zn:0〜2.0%、Mg:0〜1.0%、Zr:0〜1.0%、Al:0〜1.0%、Si:0〜1.0%、P:0〜0.1%、B:0〜0.05%、Cr:0〜1.0%、Mn:0〜1.0%、V:0〜1.0%であり、前記元素のうちSn、Zn、Mg、Zr、Al、Si、P、B、Cr、MnおよびVの合計含有量が3.0%以下であり、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有する銅合金板材であって、板面に平行な観察面において、平均結晶粒径が3.0〜25.0μm、粒界反応相の最大幅が1.5μm以下であり、かつ結晶粒界の1つの交点からその隣の交点までの粒界部分を1つの「粒界セグメント」と定義するとき、方位差が35〜55°である結晶の粒界セグメントのうち幅0.5μmを超える粒界反応相が存在する粒界セグメントの個数割合が60%以下である金属組織を有し、圧延方向の0.2%耐力が800MPa以上、導電率が11.0%IACS以上である銅合金板材。
  2. 長手方向が圧延方向(LD)および圧延直角方向(TD)である1mm幅の曲げ試験片をそれぞれ採取してJIS Z2248:2014の巻付け法に従い180°曲げ試験を行ったとき、割れが発生しない最小曲げ半径MBRと板厚tとの比MBR/tの値がLD、TDとも1.0以下となる曲げ加工性を有する請求項1に記載の銅合金板材。
  3. 質量%で、Ti:2.0〜4.0%、Ni:0〜1.5%、Co:0〜1.0%、Fe:0〜0.5%、Sn:0〜1.2%、Zn:0〜2.0%、Mg:0〜1.0%、Zr:0〜1.0%、Al:0〜1.0%、Si:0〜1.0%、P:0〜0.1%、B:0〜0.05%、Cr:0〜1.0%、Mn:0〜1.0%、V:0〜1.0%であり、前記元素のうちSn、Zn、Mg、Zr、Al、Si、P、B、Cr、MnおよびVの合計含有量が3.0%以下であり、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成の銅合金板材を、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理の工程を上記の順に有する工程にて製造するに際し、
    熱間圧延工程において、加熱温度を960℃以下とし、920℃以上で行う圧延パスで水分含有量97.0質量%以上の潤滑液を使用し、920℃以上での合計圧延率を60%以上とし、熱間圧延最終パス温度を下記(1)式のTs(℃)以上とし、その最終パス後にTs−100℃で表される温度以上の高温から水冷を開始し、
    溶体化処理工程において、加熱保持温度を750〜900℃の範囲とし、
    時効処理工程において、最高到達材料温度TMAX(℃)を400〜700℃の範囲内とし、400℃以上TMAX以下の温度域での保持時間tA(min)と下記(2)式で定義されるX値の関係が下記(3)式を満たす条件で時効処理を施す、
    銅合金板材の製造方法。
    Ts=151.5×ln[Ti]+620.5 …(1)
    ここで、lnは自然対数、[Ti]は質量%で表される当該合金のTi含有量である。
    X=exp((694−TMAX)/28) …(2)
    0.20≦tA/X≦1.0 …(3)
  4. 前記熱間圧延工程において、920℃以上での合計圧延率を60%以上95%以下とする、請求項3に記載の銅合金板材の製造方法。
  5. 前記熱間圧延工程において、最も圧下率の大きい熱間圧延パスでの圧下率(最大圧下率)を15%以上とする、請求項3または4に記載の銅合金板材の製造方法。
  6. 前記時効処理工程において、最高到達材料温度TMAX(℃)を420〜500℃の範囲内とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載の銅合金板材の製造方法。
  7. 請求項1または2に記載の銅合金板材を材料に用いた通電部品。
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