JP2016072568A - 電気機械変換素子及び液滴吐出ヘッド - Google Patents

電気機械変換素子及び液滴吐出ヘッド Download PDF

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【課題】ペロブスカイト型結晶構造を有する電気機械変換膜により十分な歪変位が得られる電気機械変換素子を提供する。【解決手段】基板又は下地膜上に直接又は間接的に形成された第1電極405などの下部電極と、前記下部電極上に形成されnをある正の整数として{n00}面に優先配向されたPZT膜406などのペロブスカイト結晶構造を有する圧電体からなる電気機械変換膜と、前記電気機械変換膜上に形成された第2電極407などの上部電極とを備える電気機械変換素子において、前記電気機械変換膜が、Nをある正の整数として{N00}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの形状が非対称でかつ二以上の屈曲した点を有する形状になっているものである。【選択図】図1

Description

本発明は、圧電体からなる電気機械変換膜を備えた電気機械変換素子、その電気機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッドに関するものである。
従来、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像形成装置として、画像形成用の液体であるインクの液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置が知られている。上記液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出するノズルと、このノズルに連通する液室と、液室内の液体に圧力を発生させる圧力発生手段とを備える。この圧力発生手段としては、例えば液室の壁面の一部を構成する振動板に、圧電体からなる電気機械変換膜を有するピエゾ方式の電気機械変換素子を設けたものが知られている。この電気機械変換素子が電圧の印加によって変形することにより、電気機械変換素子が設けられた振動板の液室側の表面が変位し、液室内の液体に圧力を発生させることができる。
上記電気機械変換素子としては、下部電極、電気機械変換膜及び上部電極などを積層させた構成が知られている。この電気機械変換膜の材料として、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)などのペロブスカイト結晶構造を有するものが一般的に用いられている。ペロブスカイト結晶構造を有する電気機械変換膜は自発分極性を有する強誘電体である。強磁性体では、自発分極軸方向と電界方向とを一致させると自発分極軸方向に伸びる歪変位(圧電効果による歪変位)が得られる。
特許文献1には、係るペロブスカイト結晶構造を有する電気機械変換膜において、(100)面の結晶配向性を高く(結晶配向率80[%]以上)して自発分極軸方向を揃え、その方向に電界を形成させることで上記電気機械変換素子の圧電効果による歪変位を大きくできることが記載されている。また、この電気機械変換膜において、分極ドメインを回転させる、ドメイン回転の効果を利用することで、上記電気機械変換素子の歪変位をさらに大きくできることが記載されている。分極ドメインとは、電気機械変換膜において、自発分極軸方向が揃った領域のことである。
さらに、上記歪変位を大きくするために、上記ペロブスカイト結晶構造を有する電気機械変換膜において、θ−2θ法による測定により優先配向させた面に平行な面で得られた回折強度のピークの形状を非対称にすると有効であることが経験的に分かっている。回折強度のピークとは、測定で得られた回折強度曲線の凸部をいう。
しかしながら、上記ペロブスカイト結晶構造を有する電気機械変換膜において、θ−2θ法による測定により優先配向させた面に平行な面で得られた回折強度のピークの形状を非対称な形状としても、歪変位を十分に大きくできないことが分かった。
上記ペロブスカイト結晶構造を有する電気機械変換膜において、結晶の配向性を評価するためにθ−2θ法による測定とともにロッキングカーブ法による測定がよく用いられる。本発明者らは、θ−2θ法による測定で回折強度が最大となる位置においてロッキングカーブ法による測定をして得られた回折強度のピークの形状が、歪変位を大きくする上で重要な判断基準になることを見出した。
本発明は以上の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、ペロブスカイト型結晶構造を有する電気機械変換膜により十分な歪変位が得られる電気機械変換素子を提供することである。
本発明は、基板又は下地膜上に直接又は間接的に形成された下部電極と、前記下部電極上に形成されnをある正の整数として{n00}面に優先配向されたペロブスカイト結晶構造を有する圧電体からなる電気機械変換膜と、前記電気機械変換膜上に形成された上部電極とを備える電気機械変換素子において、前記電気機械変換膜が、Nをある正の整数として{N00}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの形状が非対称でかつ二以上の屈曲した点を有する形状になっているものであることを特徴とするものである。
本発明によれば、ペロブスカイト型結晶構造を有する電気機械変換膜により十分な歪変位を得ることができる。
本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの概略構成の一例を示す断面図。 {100}面に優先配向させたPZT膜における、X線回折のθ-2θ法による測定で得られた{200}面における回折強度のピークの一例。 {100}面に優先配向させたPZT膜において、X線回折のθ-2θ法による測定で得られた回折強度のピークの形状の非対称性の度合いについて説明するグラフ。 90[°]ドメイン回転についての説明図。 {100}面に優先配向させたPZT膜において、{200}面でロッキングカーブ法による測定をして得られた回折強度曲線の例。 第1酸化物層にPbTiO3を用いた場合のPZT膜の結晶構造の模式図。 同液滴吐出ヘッドの電気機械変換素子の概略構成の一例を示す断面図。 分極処理装置の概略構成の一例を示す斜視図。 P−Eヒステリシス曲線を示すグラフ。 分極処理の原理の説明図。 同液体吐出ヘッドを複数個配置した構成例を示す断面図。 同液滴吐出ヘッドを用いたインクジェット記録装置の一例を示す斜視図。 同インクジェット記録装置の機構部を側面から見た説明図。
以下、本発明を画像形成装置(液滴吐出装置)としてのインクジェット記録装置に使用される液滴吐出ヘッドの一構成要素である電気機械変換素子に適用した実施形態を説明する。
なお、以下の説明において、{hkl}面は、圧電体の結晶における自発分極の方向は考慮しない対称性から(hkl)面及びその(hkl)面に等価な複数の結晶面を代表するものとして表している。また、{hkl}面は、(hkl)面及びその(hkl)面に等価な複数の結晶面のいずれか一つの結晶面であってもよいし、(hkl)面及びその(hkl)面に等価な複数の結晶面から選択された複数の結晶面であってもよい。例えば、上記ペロブスカイト結晶構造を有する電気機械変換膜において、{100}面は、(100)面とその(100)面に等価な他の5つの結晶面とを含む複数の結晶面のいずれか一つ又は複数を表している。また、本明細書において、回折強度のピークとは、X線回折の測定によって得られた回折強度曲線の凸部を指し、回折強度の最大値を指すものではない。
インクジェット記録装置は、騒音が極めて小さくかつ高速印字が可能であり、更には画像形成用の液体であるインクの自由度があり、安価な普通紙を使用できるなど多くの利点がある。そのために、インクジェット記録装置は、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像形成装置として広く展開されている。
インクジェット記録装置において使用する液滴吐出ヘッドは、画像形成用の液滴(インク滴)を吐出するノズルと、ノズルに連通する加圧液室と、加圧液室内のインクを吐出するための圧力を発生する圧力発生手段とを備えている。本実施形態における圧力発生手段は、加圧液室の壁面の一部を構成する振動板と、その振動板を変形させる圧電体からなる薄膜の電気機械変換膜を有する電気機械変換素子と、を備えたピエゾ方式の圧力発生手段である。この電気機械変換素子は、所定の電圧が印加されることにより自らが変形し、加圧液室に対して振動板の表面を変位させることで加圧液室内の液体に圧力を発生させる。この圧力により、加圧液室に連通したノズルから液滴(インク滴)を吐出させることができる。
上記電気機械変換膜を構成する圧電体は、電圧の印加によって変形する圧電特性を有する材料である。この圧電体として、本実施形態では、ペロブスカイト結晶構造を有する三元系金属酸化物であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti1−x)O)を用いている。このPZTからなる電気機械変換膜(以下「PZT膜」という。)を有する電気機械変換素子に駆動電圧を印加したときの振動モードとしては、前述のように複数種類の振動モードがある。例えば、圧電定数d33による膜厚方向の変形を伴う縦振動モード(プッシュモード)や、圧電定数d31によるたわみ変形を伴う横振動モード(ベンドモード)がある。更には、膜の剪断変形を利用したシェアモード等もある。
上記PZT膜を有する電気機械変換素子は、後述のように、半導体プロセスやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の技術を利用し、Si基板に加圧液室及び電気機械変換素子を直接作り込むことができる。これにより、電気機械変換素子を、加圧液室内に圧力を発生させる薄膜の圧電アクチュエータとして形成することができる。
次に、本発明の一実施形態に係る電気機械変換素子としての圧電アクチュエータ400を備えた液滴吐出ヘッドの構造の一例を説明する。
図1は本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの概略構成の一例を示す断面図である。本実施形態の液滴吐出ヘッドは、基板401、振動板402、ノズル板403、加圧液室(圧力室)404、下部電極としての第1電極405、電気機械変換膜としてのPZT膜406、上部電極としての第2電極407などを備える。加圧液室404は、基板401に形成された隔壁部401aと、振動板402と、ノズル板403とで囲まれるように形成され、ノズル板403のノズル403aに連通している。
基板401の材料としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、通常100[μm]以上600[μm]以下の範囲の厚みを持つことが好ましい。基板401の表面としては、{100}面、{110}面、{111}面と3種あるが、半導体産業では一般的に{100}面、{111}面が広く使用されており、本実施形態においては、表面が主に{100}面である単結晶基板を主に使用した。
図1に示すような加圧液室404を作製していく場合、エッチングを利用してシリコン単結晶基板を加工していくが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。異方性エッチングとは、結晶構造の複数種類の面に対してエッチング速度が互いに異なる性質を利用したものである。例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、{100}面に比べて{111}面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、{100}面では約54[°]の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、{110}面では深い溝をほることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができることが分かっている。本実施形態では、表面が{110}面である単結晶基板を使用することも可能である。但し、この場合、マスク材であるSiOもエッチングされてしまうということが挙げられるため、この点も留意して利用している。
振動板402は、PZT膜406によって発生した力を受けて変形して表面が変位することにより、加圧液室404の液体に圧力を発生させてノズル403aから液滴を吐出させるため、所定の強度を有したものであることが好ましい。振動板402の材料としては、Si、SiO、SiをCVD(Chemical Vapor Deposition)法により作製したものが挙げられる。
更に、振動板402の材料としては、第1電極405及びPZT膜406の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。特に、PZT膜406は一般的に材料としてPZTが使用される。そのため、振動板402は、線膨張係数8×10−6[1/K]に近い線膨張係数すなわち5×10−6[1/K]以上10×10−6[1/K]以下の線膨張係数を有した材料が好ましい。さらには、振動板402は、7×10−6[1/K]以上9×10−6[1/K]以下の線膨張係数を有した材料がより好ましい。
振動板402の具体的な材料は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等である。これらをスパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。膜厚としては0.1[μm]以上10[μm]以下が好ましく、0.5[μm]以上3[μm]以下がさらに好ましい。この範囲より小さいと加圧液室404の加工が難しくなり、この範囲より大きいと下地が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる。
また、振動板402は引張応力あるいは圧縮応力を持つ複数の膜を減圧(LP:Low Pressure)CVDにより積層させることで構築されていることが望ましい。その理由は、次のとおりである。単層膜の振動板402の場合、材料として例えばSOIウェハが挙げられる。この場合、ウェハのコストが非常にかかり、また曲げ剛性を揃えようとしたときに任意の膜応力に設定できない。一方、積層の振動板402の場合、その積層構成を最適化することにより、振動板402の剛性と膜応力とを所望の値に設定する自由度を得ることができる。そのため、振動板402の全体の剛性と応力の制御とを、積層化と膜厚及び積層構成との組み合わせで実現できる。
従って、圧電アクチュエータ(圧電素子)を構成する電極層及び強誘電体層の材料及び膜厚に適時対応できる。そして、圧電アクチュエータ(圧電素子)の焼成温度による振動板402の剛性及び応力の変動が少なく安定した振動板402が得られることから、液滴吐出特性を高精度にでき、かつ安定した液滴吐出ヘッドを実現できる。
下部電極としての第1電極405は、金属材料の層である。金属材料としては従来から高い耐熱性と低い反応性を有する白金(Pt)が用いられているが、鉛に対しては十分なバリア性を持つとはいえない場合もあり、イリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金膜も挙げられる。白金(Pt)を使用する場合には、その下地(特にSiO)との密着性が悪いために、Ti、TiO、Ta、Ta、Ta等を先に積層することが好ましい。第1電極405の作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜が一般的である。第1電極405の膜厚としては、0.02[μm]以上0.1[μm]以下が好ましく、0.05[μm]以上0.1[μm]以下がさらに好ましい。また、PZT膜406の変形の経時的な疲労特性に対する懸念から、第1電極405とPZT膜406との間にルテニウム酸ストロンチウムなどの導電性酸化物からなる第1酸化物層408を積層することが好ましい。
第1酸化物層408は、その上に作製するPZT膜406の配向にも影響する。このため、PZT膜406の優先配向させたい面方位に応じて、第1酸化物層408の材料を適宜選択する必要がある。本実施形態においては、PZT膜406の{100}面に優先配向させたいため、第1酸化物層408の材料にはLaNiO、TiO、チタン酸鉛(PbTiO)などを選択する。第1酸化物層408の膜厚は、20[nm]以上80[nm]以下が好ましく、30[nm]以上50[nm]以下がさらに好ましい。この膜厚範囲よりも薄くなると初期変位や変位劣化において十分な特性が得られない。また、この範囲を超えると、その後で成膜するPZT膜406の絶縁耐圧が非常に悪くなりリークが起きやすくなる。
上部電極としての第2電極407も、上記第1電極405と同様に白金(Pt)などの金属材料を用い、白金の膜とPZT膜406との間に、密着性確保の目的で第2酸化物層409を設けてもよい。第2酸化物層409は、例えばルテニウム酸ストロンチウムなどの導電性酸化物を積層して構成される。
PZT膜406は、ペロブスカイト結晶構造を有する圧電体であり、ジルコン酸鉛(PbZrO)とPbTiOの固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53Ti0.47)O、一般PZT(53/47)と示される。PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
これら材料は一般式ABOで記述され、A=Pb、Ba、Sr、B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x,Ba)(Zr,Ti)O、(Pb)(Zr,Ti,Nb1−x−y)O、これはAサイトのPbを一部Baで置換した場合およびBサイトのZr、Tiを一部Nbで置換した場合である。このような置換は、2価の元素であれば可能であり、PZTの変形特性(変位特性)の応用に向けた材料改質で行なわれる。その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。作製方法としては、スパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコータにて作製することができる。この場合は、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。
PZT膜406をゾルゲル法により作製した場合、例えば出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得ことで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定化剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどを適量添加しても良い。下地基板の全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になる。
PZT膜406の膜厚としては、0.5[μm]以上5[μm]以下が好ましく、さらに好ましくは1[μm]以上2[μm]以下がよい。PZT膜406の膜厚が好適な範囲より小さいと、図1に示すような加圧液室404の加工が難しくなる。また、PZT膜406の膜厚が上記好適な範囲より大きいと、下地の振動板402が変形変位しにくくなり液滴の吐出が不安定になるほか、十分な変位を発生することができなくなる。また、PZT膜406の膜厚が上記好適な範囲より大きいと、何層も積層させていくため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなる。
ABO型のペロブスカイト構造を採るPZTの結晶の単位格子の形は、Bサイトに入る原子であるTiとZrとの比率によって変化する。Tiの比率を大きくするとPZTの結晶格子は正方晶となり、Zrの比率を大きくするとPZTの結晶格子は菱面体晶となる。また、ZrとTiとの組成比率を調整すると、X線回折のθ-2θ法による測定で得られる回折強度のピークのうち、PZT膜406の{200}面に対応する回折強度のピークにおいて回折強度が最大となる位置(2θ)が変わってくる。
θ-2θ法は、X線回折としてよく用いられる測定法の1つである。θ-2θ法では、測定する試料基板面に対しθの角度でX線を入射させ、試料から反射してくるX線のうち、入射X線方向に対して2θの角度のX線を検出し、θを変化させたときの回折強度の変化を調べる。X線による回折では、ブラッグの条件(2dsinθ=nλ(λ:X線の波長、d:結晶面間隔、n:整数))を満足するときに回折強度が高くなるが、そのときの結晶面間隔(格子定数)と上記の2θとは対応関係にある。したがって、回折強度が高くなる2θの値に基づいて、X線が入射したサンプルの結晶構造を把握することができる。
図2は、X線回折のθ-2θ法による測定で得られる回折強度のピークのうち、PZT膜406の{200}面に対応する回折強度のピークの一例を示すグラフである。基板401の裏面をエッチング等により掘り加工する場合、堀加工した箇所に拘束物がない状態において、2θの範囲が44.45[°]以上44.75[°]以下になるようにすることが好ましい。PZT膜406において、{100}面に優先配向させる場合、2θをこの範囲内にするためには、Ti/(Zr+Ti)で表されるZrとTiとの組成比率を0.45以上0.55以下にすることが好ましい。また、ZrとTiとの組成比率を0.48以上0.52以下にすることがさらに好ましい。
ZrとTiとの組成比率が上記下限値(0.45)より小さくなると、後述するドメイン回転の効果が十分でなくなるため、電気機械変換素子の歪変位を十分確保できなくなる。また、ZrとTiとの組成比率が上記上限値(0.55)より大きくなると、圧電効果が十分でなくなるため、やはり電気機械変換素子の歪変位を十分確保できなくなる。
また、ZrとTiとの組成比率により、X線回折のθ-2θ法による測定で得られる回折強度のピークの形状において、非対称が大きくなったり小さくなったりする。図3は、{100}面に優先配向させたPZT膜において、X線回折のθ-2θ法による測定で得られた回折強度のピークの形状の非対称性の度合いについて説明するグラフである。
図3(a)は、回折強度のピークの形状(図中G)の非対称性が大きい場合の一例である。この場合、PZT膜の結晶構造は、正方晶のa軸ドメイン構造と、c軸ドメイン構造と、菱面体晶、斜方晶、擬似立方晶のいずれかの構造との3つに帰属する。図中Gに示す回折強度のピークは、図中Hに示す正方晶のa軸ドメイン構造のものと、図中Jに示す正方晶のc軸ドメイン構造のものと、図中Iに示す菱面体晶、斜方晶、擬似立方晶のいずれかの構造のものを合わせたものである。正方晶のa軸ドメイン構造の回折強度のピーク位置と、正方晶のc軸ドメイン構造の回折強度のピーク位置とが大きく離れているのは、a軸とc軸の長さの差が大きいためである。また、正方晶のa軸ドメイン構造の回折強度のピークの最大値に対し、正方晶のc軸ドメイン構造の回折強度のピークの最大値が小さくなっているのは、PZT膜の膜厚方向において正方晶のa軸ドメイン構造の割合が多いからである。
一方、図3(b)は、回折強度のピークの形状(図中K)の非対称性が小さい場合の一例である。この場合、PZT膜の結晶構造は、正方晶のaドメインと、c軸ドメイン構造との2つに帰属する。図中Gに示す回折強度のピークは、図中Kに示す正方晶のa軸ドメイン構造のものと、図中Lに示す正方晶のc軸ドメイン構造のものを合わせたものである。正方晶のa軸ドメイン構造の回折強度のピーク位置と、正方晶のc軸ドメイン構造の回折強度のピーク位置とが近くなっているのは、a軸とc軸の長さの差が小さいためである。また、正方晶のa軸ドメイン構造の回折強度のピークの最大値と正方晶のc軸ドメイン構造の回折強度のピークの最大値とがほぼ同じになっているのは、PZT膜の膜厚方向において正方晶のa軸ドメイン構造と正方晶のc軸ドメイン構造との比率がほぼ同じためである。
図4は、PZT膜の結晶構造の一例を模式的に表した図である。図中矢印は分極の向きを示している。図4(a)に示すように、実際の結晶は、方位の異なる分極を持つ領域からなる。図中において、図中の垂直方向に電界が形成されるとすると、分極方向が、図中の垂直方向である領域が正方晶のa軸ドメイン、水平方向である領域が正方晶のc軸ドメインである。なお、正方晶は、a軸とb軸の長さが等しくc軸のみ異なる。正方晶においては、a軸方向とb軸方向とは等価なので[100]方向および[010]方向とその逆方向の自発分極からなるドメインをa軸ドメインと呼び、[001]方向とその逆方向の自発分極からなるドメインをc軸ドメインと呼ぶ。
ドメインとドメインとの境界は、ドメイン壁と呼ばれる。このドメイン壁には、c軸ドメイン同士がドメイン壁によって隔てられた境界を有する180[°]ドメイン壁と、a軸ドメインとc軸ドメインとがドメイン壁によって隔てられた境界を有する90[°]ドメイン壁が存在する。図4(a)において、図中点線Sで示す領域は、180[°]ドメイン壁構造である。また、図中点線Rで示す領域は、90[°]ドメイン壁構造である。180[°]ドメイン壁構造の領域では、電圧を印加して電界を形成したときに、a軸ドメインの分極の向きが反転(180[°]ドメイン回転)する。
図4(b)は、図4(a)の図中点線Rで示す領域を拡大したものである。90[°]ドメイン壁構造の領域では、正方晶のc軸ドメインに対してa軸方向に電界を形成すると、c軸ドメインの分極方向がa軸方向に変化し、ドメイン方向が90°回転する(90[°]ドメイン回転)という現象が生じる。c軸ドメインが90°回転してa軸ドメインになるので、a軸ドメインとc軸ドメインとの境界であるドメイン壁が移動する。
c軸方向からa軸方向への90[°]ドメイン回転は、c軸ドメインがa軸ドメインに接している90[°]ドメイン壁構造の領域でないと起こらない。つまり、c軸ドメイン同士が接している領域に対し、a軸方向に電界を形成しても90[°]ドメイン回転は起こらない。これは、電圧を印加して電界を形成した時には、まず、a軸ドメインが圧電効果による歪を生じ、この歪が90[°]ドメイン壁を介して隣接するc軸ドメインに伝わることでc軸ドメインの分極方向が電界形成方向に回転するからである。
圧電効果による歪に比べて、90°ドメイン回転などの非180[°]ドメイン回転による歪は大きくなる。つまり、電気機械変換素子において非180[°]ドメイン回転を効率よく生じさせることができれば、電気機械変換素子の歪変位を向上させることができる。なお、本明細書において、単に「ドメイン回転の効果」という場合は、非180[°]ドメイン回転の効果のことを指す。
図3(a)に示すような回折強度のピークの形状の非対称性が大きいPZT膜を用いた場合には、図3(b)に示すような非対称性が小さいPZT膜を用いた場合と比べて、電気機械変換素子の歪変位が非常に大きくなることが分かっている。これは、正方晶と菱面体晶との異なる結晶構造を混在させることで、非180[°]ドメイン壁の密度を高くし、非180[°]ドメイン回転を効率よく生じさせることができるためと考えられている。
θ-2θ法は、測定する膜の基板面上のある点での膜厚方向において、結晶面の間隔がどのように分布しているかを判断するために用いる。このため、上記基板面上のある点から基板面水平方向に微小に移動した点では、膜厚方向において結晶面の間隔がどのように分布しているか判断することはできない。これを判断するためには、さらにロッキングカーブ法による測定を行う必要がある。なお、ロッキングカーブ法は、X線の入射角度と検出器の角度(2θ)はθ-2θ法による測定で回折強度が最大となる位置に固定し、試料基板面と入射X線の角度(ω)のみをθ付近で微小に変化させて回折強度を測定するものである。
{100}面に優先配向させたPZT膜において、図3(a)に示すようにX線回折のθ-2θ法による測定で得られた回折強度のピークの形状の非対称性が大きくなったものについて、ロッキングカーブ法による測定を行った。図5は、このようなPZT膜において、{200}面でロッキングカーブ法による測定をして得られた回折強度曲線の例である。図中、PZT膜の測定面へのX線入射角を横軸に、測定面から反射されてくる回折X線の回折強度を縦軸にしている。
図5(a)に示す回折強度曲線は、回折強度のピークの形状において非対称性が小さくなったものの例である。正規分布のような形状になっている。図5(b)に示す回折強度曲線は、回折強度のピークの形状において、非対称性が大きくかつ2以上の屈曲点を有するものの例を示す。図5(b)では、点Aおよび点Bで屈曲した形状をしている。図5(c)に示す回折強度曲線は、回折強度のピークの形状において非対称性が大きくかつ2以上の極大点をもつものの例である。図5(c)では、点Cおよび点Dにおいて極大となり、点Cおよび点Dに挟まれた点Eにおいて極小となる形状をしている。
さらに、図5(a)〜(c)の特性を有するPZT膜を用いた電気機械変換素子において、それぞれ歪変位を測定した。その結果、図5(b)、(c)に示す特性を有するPZT膜を用いた場合、図5(a)に示す特性を有するPZT膜を用いた場合と比べて歪変位が大きくなることが分かった。
{100}面に優先配向させるPZT膜において、図1に示す第1酸化物層408の材料としてPbTiOを用いた場合に、図5(b)、(c)に示す、非対称性を有する回折強度のピークの形状が得られやすくなった。これは以下のような理由によるものと考えられる。
図6は、PZT膜406の結晶構造を模式的に示す図である。図6(a)は、PZT膜406の下地の層表面の凹凸が大きい場合、図6(b)は、PZT膜406の下地の層表面の凹凸が小さい場合をそれぞれ示す。なお、図中矢印Jは、PZT膜406の結晶の成長方向を示す。
第1酸化物層408としてPbTiOを用いた場合、第1酸化物層408の結晶構造は正方晶のa軸ドメイン構造と、正方晶のc軸ドメイン構造とからなり、第1酸化物層408の層表面の凹凸は大きくなる。つまり、PZT膜406の結晶構造は図6(a)に示すようになる。第1酸化物層408との界面にあるPZT膜406の層406aは下地の影響を受けるので、正方晶のa軸ドメイン構造と、正方晶のc軸ドメイン構造との2つの結晶構造になる可能性が高い。この層では、層表面の凹凸はやはり大きくなる。しかし、PZT膜406が成長していくにつれ、この層表面の凹凸が徐々に緩和されていく。第2酸化膜層409の界面付近のPZT膜406の層406bでは、層表面の凹凸は微小になっている。この層の結晶構造は、正方晶のa軸ドメイン構造406aと、正方晶のc軸ドメイン構造406bと、菱面体晶、斜方晶、擬似立方晶のいずれかの構造406cとからなる。
一方、図6(b)に示すように、下地の層表面の凹凸が小さい場合、PZT膜406の全ての層において、結晶構造は正方晶のa軸ドメイン構造406aと、正方晶のc軸ドメイン構造406bと、菱面体晶、斜方晶、擬似立方晶のいずれかの構造406cとからなる。つまり、PZT膜406の上部に位置する層と下部に位置する層とで、層表面の凹凸の程度に大きな差が生じない。
PZT膜において、層406aと層406bとで、層表面の凹凸の程度に大きな差が生じると、この差によるわずかな結晶格子のゆがみなどの影響で、図5(b)、(c)に示すように回折強度のピークの形状の非対称性が大きく、2以上の屈曲点もしくは極大点を有するようになると考えられる。一方、PZT膜において、層406aと層406bとで、層表面の凹凸の程度に大きな差がないと、図5(a)に示すように回折強度のピークの形状の非対称性が小さく正規分布のような形状になると考えられる。
図5(b)、(c)に示す特性を有するPZT膜の場合、上述したように、膜の上部と下部とで層表面の凹凸の程度に大きな差が生じ、結晶格子にゆがみが発生していると考えられる。詳細はよく分かっていないが、結晶格子にこのようなゆがみが発生すると、非180[°]ドメイン壁の密度が高くなり、ドメイン回転の効果を高めることができると考えられている。図5(b)、(c)に示す特性を有するPZT膜を用いた場合に電気機械変換素子の歪変位が大きくなったのは、ドメイン回転の効果による歪変位が大きくなったためと考えられる。
図5(b)において、2つの屈曲点のうち、回折強度が大きい方の点(図中点A)での回折強度をI{200}_max、他方の点(図中点B)での回折強度をI{200}_2ndとしたときに、I{200}_2nd/I{200}_maxが0.5以上0.99以下であることが好ましく、0.8以上0.9以下であることがさらに好ましい。
また、2つの屈曲点のうち、回折強度が大きい方の点(図中点A)での膜表面と入射X線の角度をω_max、他方の点(図中点B)での膜表面と入射X線の角度をω_2ndとしたときに、|ω_max−ω_2nd|が2[°]以上20[°]以下であることが好ましく、5[°]以上15[°]以下であることがさらに好ましい。
図5(c)において、2つの極大点のうち、回折強度が大きい方の点(図中点C)での回折強度をI{200}_max_2、他方の点(図中点D)での回折強度をI{200}_2nd_2としたときに、I{200}_2nd_2/I{200}_max_2が0.5以上0.99以下であることが好ましく、0.7以上0.9以下であることがさらに好ましい。2つの極大点に挟まれた極小点(図中点E)での回折強度をI{200}_min_2としたときに、I{200}_min_2/I{200}_max_2が0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。
また、2つの極大点のうち、回折強度が大きい方の点での試料基板面と入射X線の角度をω_max、他方の点での試料基板面と入射X線の角度をω_2ndとしたときに、|ω_max_2−ω_2nd_2|が2[°]以上20[°]以下であることが好ましく、5[°]以上15[°]以下であることがさらに好ましい。
I{200}_2nd/I{200}_max、I{200}_2nd_2/I{200}_max_2、I{200}_min_2/I{200}_max_2を、上で規定した下限値(それぞれ0.5、0.5、0.3)よりも小さくなると、局所的に歪変位が大きくなる。このため、電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、PZT膜406にクラック等の欠陥が発生する可能性が高くなる。連続駆動によってこのような欠陥が発生すると、初期の歪変位に対し駆動後の歪変位が低下する。また、I{200}_2nd/I{200}_maxおよびI{200}_2nd_2/I{200}_max_2を、上で規定した上限値(いずれも、0.99)よりも大きくなると、ドメイン回転の効果が小さくなり電気機械変換素子において十分な歪変位が得られない。
また、|ω_max−ω_2nd|および|ω_max_2−ω_2nd_2|を、上で規定した下限値(いずれも2[°])よりも小さくなると、PZT膜の結晶構造のゆがみが小さくなるので、ドメイン回転の効果が小さくなり電気機械変換素子において十分な歪変位が得られない。|ω_max−ω_2nd|および|ω_max_2−ω_2nd_2|が上で規定した上限値(いずれも20[°])よりも大きくなると、PZT膜の結晶構造のゆがみが大きくなるので、ドメイン回転による歪変位を大きくできる。しかし、電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、PZT膜406にクラック等の欠陥が発生する可能性が高くなり、初期の歪変位に対し駆動後の歪変位が低下する。
図5(b)、(c)に示すような非対称性を有する場合は、半値幅(FWHM)は、6[°]以上16[°]以下にあることが好ましく、さらに好ましくは8°以上12°以下になる。半値幅が下限値(6[°])より小さくなると、PZT膜の結晶構造のゆがみが小さくなるので、90[°]ドメイン回転の効果が小さくなり電気機械変換素子において十分な歪変位が得られない。また、半値幅が上限値(16[°])よりも大きくなると、PZT膜の結晶構造のゆがみが大きくなるので、ドメイン回転による歪変位を大きくできる。しかし、電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、PZT膜406にクラック等の欠陥が発生する可能性が高くなり、初期の歪変位に対し駆動後の歪変位が低下する。ここで、半値幅とは、ロッキングカーブ法による測定で試料基板面と入射X線の角度(ω)をスキャンさせたときに得られた回折強度のピークにおいて、回折強度が最大値の半分の値になるωの幅をいう。
I{hkl}を、h、k、lを任意の正の整数とし、ある{hkl}面に対応する回折強度のピークにおいて回折強度を積分した値とする。また、ΣI{hkl}を、I{hkl}の総和とする。ΣI{hkl}に対するI{hkl}の比率ρ{hkl}(=I{hkl}/ΣI{hkl})は、{hkl}面における配向度を示している。ρ{hkl}は、0.75以上であることが好ましく、0.85以上であることがさらに好ましい。ρ{hkl}が0.75よりも小さくなると、圧電効果による歪変位が十分得られないので電気機械変換素子の変位量が十分に確保できなくなる。
ここで、絶縁保護膜や引き出し配線を含めた電気機械変換素子の詳細構造について説明する。
図7は、絶縁保護膜や引き出し配線を含めた素子構成の概略構成を示す図である。第1絶縁保護膜500は図中点線Fで示す領域にコンタクトホールを有しており、第1電極405および第1酸化物層408が第5電極(共通電極配線)501と、第2電極407および第2酸化物層409が第6電極(個別電極配線)502とそれぞれ導通した構成となっている。また、第5電極501および第6電極502を保護する第2絶縁保護膜503が形成されている。第2絶縁保護膜503の一部は開口していて、開口には電極パッドが設けられている。第5電極用に作製された電極パッドを第5電極パッド504、第6電極用に作製された電極パッドを第6電極パッド505としている。
第1絶縁保護膜500は、成膜・エッチング工程による電気機械変換素子へのダメージを防ぐ保護膜としての役割があるとともに、大気中の水分が透過するのを防ぐ役割もある。第1絶縁保護膜500の膜厚は薄くする必要があるが、これは膜厚を厚くすると振動板の振動変位を著しく阻害され、吐出性能の低い液滴吐出ヘッドになるからである。このため、第1絶縁保護膜500には、酸化物,窒化物,炭化物など緻密な無機材料を選定するのが好ましい。なお、有機材料は、膜厚を厚くしないと十分な保護性能が得られないので第1絶縁保護膜500の材料としては適さない。
また、第1絶縁保護膜500の材料としては、下地となる電極材料、電気機械変換膜材料および振動板材料との密着性が高いものを選定する必要がある。第1絶縁保護膜500の成膜法としては、プラズマCVD法やスパッタ法は電気機械変換素子を損傷する可能性があるので好ましくなく、蒸着や原子層堆積法(ALD法)などが好ましい。ALD法は、使用できる材料の選択肢が広がる点についてものでより好ましい。例えば、セラミックス材料に用いられるAl,ZrO,Y,Ta,TiOなどが使用できる。これらの材料を用いてALD法により成膜を行うことで、膜密度が非常に高く、成膜・エッチング工程中のダメージを良好に抑制できる薄膜の作製が可能となる。
第1絶縁保護膜500の膜厚は20[nm]以上100[nm]以下の範囲とするのが好ましい。第1絶縁保護膜500の膜厚を100[nm]よりも厚くした場合には、上述したように吐出性能の低い液滴吐出ヘッドになる。一方、第1絶縁保護膜500の膜厚を20[nm]より薄くした場合には、保護層としての機能が不足し電気機械変換素子の性能が低下してしまう。
第1絶縁保護膜500を二層にする構成も可能である。例えば、一層目の絶縁保護膜を薄くし、二層目の絶縁保護膜を厚くした場合、振動板402の振動変位が阻害されないようにするために、第1酸化物層408付近において、二層目の絶縁保護膜を開口にする。このとき二層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物,窒化物,炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができるので、半導体デバイスで一般的に用いられるSiOを用いることができる。成膜には、CVD法,スパッタ法など任意の成膜法の使用が可能だが、電極形成部などパターン形成部での段差被覆が必要であることを考慮すると、等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。
二層目の絶縁保護膜の膜厚は、第5電極501と第6電極502に印加される電圧により形成される電界によって絶縁破壊されない範囲にする必要がある。第1絶縁保護膜500の下地における表面の状態やピンホール等を考慮すると、膜厚は200[nm]以上は必要であり、さらに500[nm]以上にするのが好ましい。
第5電極501および第6電極502には、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Irのいずれかから成る金属電極材料を用いるのが好ましい。作製方法としては、例えば、スパッタ法、スピンコート法を用いて成膜した後、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。膜厚としては、0.1[μm]以上20[μm]以下が好ましく、0.2[μm]以上10[μm]以下がさらに好ましい。膜厚が0.2[μm]より小さいと、膜の抵抗が大きくなって電極に十分な電流を流すことができなくなることから、液滴吐出ヘッドの吐出が不安定になる。一方、膜厚が10[μm]より大きいと電極を作成するためのプロセス時間が長くなる。
第5電極501および第6電極502の、コンタクトホール部(10[μm]×10[μm])での接触抵抗は、第5電極501では10[Ω]以下、第6電極502では1[Ω]以下が好ましい。また、第5電極501では5[Ω]以下、第6電極502では0.5[Ω]以下とすることがさらに好ましい。第5電極501および第6電極502の接触抵抗が上述した上限値(それぞれ、10[Ω]、1[Ω])を超えると、電極に十分な電流を供給することが出来なくなり、液滴吐出ヘッドの吐出性能が低下する。
第2絶縁保護膜503には、第6電極502や第5電極501を保護する保護層としての役割がある。第2絶縁保護膜503の材料としては、任意の無機材料、有機材料の使用が可能であるが、透湿性の低い材料を選定するようにしたほうがよい。例えば、無機材料であれば、酸化物、窒化物または炭化物、有機材料であればポリイミド、アクリル樹脂またはウレタン樹脂などが挙げられる。ただし、有機材料は膜厚を厚くする必要があり後述するパターニングには適さないので、無機材料を選定するのが好ましい。無機材料の中でも特に、半導体デバイスにおいてAl配線上に形成させる実績の多いSiを用いることが好ましい。また、第2絶縁保護膜503の膜厚は200[nm]以上とすることが好ましく、500[nm]以上にするのがさらに好ましい。膜厚を薄くすると、十分なパシベーション機能を発揮できなくなり、第6電極502や第5電極501の腐食による断線が発生しやすくなるなど液滴吐出ヘッドの信頼性の低下につながる。
電気機械変換素子上およびその周囲の振動板402上には、開口部を設けるようにすることが好ましい。これは、上述の第1絶縁保護膜500において、個別液室領域を薄くしていることと同様の理由である。これにより、液滴吐出ヘッドの吐出性能および信頼性を高めることが可能になる。第1絶縁保護膜500、第2絶縁保護膜503で圧電素子が保護されているため、開口部の形成にはフォトリソグラフィおよびドライエッチングを用いることが可能である。
第5電極パッド504および第6電極パッド505の面積は、50×50[μm]以上になっていることが好ましく、100×300[μm]以上になっていることがさらに好ましい。第5電極パッド504および第6電極パッド505の面積が50×50[μm]よりも小さい場合、十分な分極処理ができなくなることから、電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、初期の歪変位に対して駆動後の歪変位が徐々に低下してしまうなど、耐久性の点での問題がある。
作製された圧電素子に対し分極処理装置を用いて分極処理を行った。図8は、分極処理装置の概略構成を示す図である。分極処理装置は、コロナ電極600とグリッド電極601、およびサンプルをセットするステージ602などを具備している。コロナ電極600にはコロナ電源603、グリッド電極601にはグリッド電極電源604が接続されている。ステージ602には温調機能が付加されている。この温調機能によって、最大350[℃]くらいまで温度をかけながら分極処理を行うことが出来る。また、ステージ602は接地されている。コロナ電極600に高い電圧を印加したときに、コロナ放電600により発生するイオンや電荷等が下部に設置されたサンプルに効率よく降り注ぐように、グリッド電極601にはメッシュ加工が施されている。コロナ電極600やグリッド電極601に印加される電圧や、サンプルと各電極との間の距離を変えることによって、コロナ放電の強弱を調整することが可能である。
分極処理による分極の状態については、図9に示すP−Eヒステリシスループから判断している。電気機械変換膜に±150[kV/cm]の電界強度かけてヒステリシスループを測定する。図9において、最初の0[kV/cm]時の分極をPindとし、+150[kV/cm]の電圧印加後0[kV/cm]まで戻したときの0[kV/cm]時の分極をPrとする。PrからPindを引いた値(Pr−Pind)を分極率と定義し、この分極率から分極状態の良し悪しを判断している。
図9(a)に示すように、分極処理を行う前は、分極率が約15[μC/cm]であるが、図9(b)に示すように、分極処理を行った後は、分極率が約2[μC/cm]となっている。分極率が10[μC/cm]以下となっていることが好ましく、5[μC/cm]以下となっていることがさらに好ましい。分極率が10[μC/cm]以上であると、電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、初期の歪変位に対して駆動後の歪変位が徐々に低下してしまうなど、耐久性の点での問題がある。上述した方法でコロナ放電の強弱を調整することにより、所望の分極率を得ることができる。
図10に示すように、コロナ電極600を用いてコロナ放電させる場合、大気中の分子がイオン化されて陽イオンが発生する。この陽イオンが電極の第5電極パッド504(図7参照)を介して電気機械変換素子400に流れ込み電荷を蓄積させる。図7に示す電気機械変換素子400において、上部電極である第2電極407と下部電極である第1電極405に蓄積された電荷量の差により電気機械変換素子の上下に電位差が生じることで、分極処理が行われると考えられている。分極処理に必要な電荷量Qは、1E−8[C]以上であることが好ましく、4E−8[C]以上とするのがさらに好ましい。電荷量Qが1E−8[C]に満たないと分極処理が十分に行われないので、電気機械変換素子をアクチュエータとして連続駆動させたときに、十分な歪変位特性が得られなくなる。
次に、本発明に係る実施形態におけるより具体的な実施例について、比較例とともに説明する。
[実施例1]
基板としての6インチシリコンウェハ上に、振動板としてSiO膜(膜厚:約1.0[μm])を形成した。このSiO膜上に、スパッタ法により350[℃]でTi膜(膜厚:約20[nm])成膜し、RTA(急速熱処理)により750[℃]で熱酸化した。引き続き、第1電極(下部電極)としてPt膜(膜厚:約160[nm])をスパッタ法により約300[℃]で成膜した。Ti膜を熱酸化したTiO膜は、SiO膜とPt膜との間の密着層としての役割を持つ。
次に、PZT膜の下地層となる第1酸化物層であるPbTiO(PT)層の材料としてPb:Ti=1:1の組成比で調合したPT塗布液を準備した。また、PZT膜の材料としてPb:Zr:Ti=115:49:51の組成比で調合した溶液であるPZT前駆体塗布液を準備した。具体的なPZT前駆体塗布液の合成は次のように行った。まず、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することで、PZT前駆体塗布液を合成した。このPZT濃度は0.5[mol/l]にした。PT塗布液に関してもPZT前駆体塗布液と同様に合成した。
これらの塗布液を用いて、最初にPT層をスピンコートにより成膜し、その後、ホットプレートにより120[℃]で乾燥を行った。そして、PZT膜をスピンコートにより成膜し、ホットプレートにより乾燥(120[℃])と熱分解(400[℃])を行った。このPZT前駆体溶液の塗布、乾燥及び熱分解の処理を3回繰り返して3層形成した。3層目の熱分解処理の後に、結晶化のための熱処理(温度730[℃])をRTA(急速熱処理)にて行った。この結晶化の熱処理が終わったときのPZT膜の膜厚は240[nm]であった。このPZT前駆体溶液の塗布、乾燥、熱分解及び結晶化の熱処理の工程を合計8回(24層)実施し、約2.0[μm]の膜厚のPZT膜を得た。
次に、上記PZT膜上に、第2酸化物層としてSrRuO膜(膜厚:40[nm])、第2電極(上部電極)としてPt膜(膜厚:125[nm])をそれぞれスパッタ法により成膜した。そして、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、その後、フォトリソグラフィーおよびエッチングによって図10に示すようなパターン形成をした。なお、エッチングには、サムコ製のICPエッチング装置を用いた。
パターン作成に続き、ALD法により第1絶縁保護膜としてのAL膜(膜厚:50[nm])に成膜した。AL膜の原材料として、ALにはシグマアルドリッチ社のTMAを、Oにはオゾンジェネレーターによって発生させたものを用いた。そして、AL、Oを交互に積層させることによりAL膜の成膜を進めた。第1絶縁保護膜には、エッチングによってコンタクトホール部を形成した。そして、スパッタ法により第5電極、第6電極としてのAL層をそれぞれ成膜し、フォトリソグラフィーおよびエッチングによってパターン形成をした後、プラズマCVDにより第2絶縁保護膜としてのSi層(膜厚:500[nm])を成膜した。最後に、アルカリ溶液(KOH溶液あるいはTMHA溶液)による異方性ウェットエッチングにより基板に加圧液室を形成した。以上より、電気機械圧電素子としての圧電アクチュエータ(薄膜PZTアクチュエータ)を備えた液滴吐出ヘッドを作製した。
この後、コロナ帯電処理により分極処理を行った。コロナ帯電処理にはφ50[μm]のタングステンのワイヤーを用いている。分極処理条件としては、処理温度80[℃]、コロナ電圧9[kV]、グリッド電圧2.5[kV]、処理時間30[s]、コロナ電極とグリッド電極との間の距離4[mm]、グリッド電極とステージとの間の距離4[mm]として行った。また、2つある第6電極パッド間の距離は80[μm]とした。
[実施例2]
振動板としてSiO膜の上に成膜したTi膜の膜厚を約50[nm]にしたこと、PZT膜の成膜後の熱分解温度を350℃にしたこと以外は実施例1と同じ方法で液滴吐出ヘッドを作製した。
[実施例3]
振動板としてSiO膜の上に成膜したTi膜の、膜厚を約50[nm]、成膜温度を500℃にしたこと、PZT膜の成膜後の熱分解温度を350℃にしたこと以外は実施例1と同じ方法で液滴吐出ヘッドを作製した。
[実施例4]
振動板としてSiO膜の上に成膜したTi膜の成膜温度を500[℃]、PZT膜の成膜後における、乾燥温度を140[℃]、熱分解温度を350℃にしたこと以外は実施例1と同じ方法で液滴吐出ヘッドを作製した。
[実施例5]
振動板としてSiO膜の上に成膜したTi膜の、膜厚を約50[nm]、成膜温度を500℃にしたこと以外は実施例1と同じ方法で液滴吐出ヘッドを作製した。
[実施例6]
振動板としてSiO膜の上に成膜したTi膜の成膜温度を500[℃]、PZT膜の成膜後における乾燥温度を140[℃]とした以外は実施例1と同じ方法で液滴吐出ヘッドを作製した。
[比較例1]
振動板としてSiO膜の上に成膜したTi膜の成膜後、第1酸化物層としてのPbTiO層の代わりに、下地層となるTiO層をスパッタ法により5[nm]成膜した以外は実施例1と同じ方法で液滴吐出ヘッドを作製した。
実施例1〜6及び比較例1の液滴吐出ヘッドに対し、基板の裏面側を掘加工した状態で、電気機械変換素子の初期状態および耐久性試験直後の状態における歪変位(圧電定数)について評価を行った。耐久性試験は、初期の圧電定数の評価後に、1010回電圧の印加を繰り返すものである。圧電定数は、電圧の印加によって150[kV/cm]の電界を形成させたときの電気機械変換素子の歪変形量を、基板の裏面側からレーザードップラー振動計によって計測し、シミュレーションによる合わせ込みを行うことにより算出した。さらに、基板の裏面側を掘加工した状態で、X線回折を用いて実施例1〜6及び比較例1のPZT膜についての結晶性評価を行った。
実施例1〜6及び比較例1において、X線回折のθ-2θ法による測定により、{100}面における配向率はいずれも80[%]以上であった。つまり、実施例1〜6及び比較例1のいずれのPZT膜も、{100}面に優先配向した膜であることを確認した。
実施例1〜6及び比較例1の電気機械変換素子のPZT膜について、{200}面でロッキングカーブ法による測定をして得られた回折強度の分析結果について表1に示す。回折強度のピークの形状については、図5(a)〜(c)に示す形状のいずれに該当するかで示した。さらに、実施例1〜6及び比較例1の電気機械変換素子について、圧電定数の測定も行ったが、これについても表1に示す。
Figure 2016072568
ロッキングカーブ法により得られた回折強度のピークの形状は、実施例1〜3については図5(b)、実施例4〜6については図5(c)に示すものになった。実施例1〜3について、|ω_max−ω_2nd|が2[°]以上20[°]以下、I{200}_2nd/I{200}_maxが0.5以上0.99以下になった。実施例4〜6について、|ω_max_2−ω_2nd_2|が2[°]以上20[°]以下、I{200}_2nd_2/I{200}_max_2が0.5以上0.99以下、I{200}_min_2/I{200}_max_2が0.3以上になった。また、実施例1〜6における初期および耐久性試験後の圧電定数は、いずれも−120〜−160[pm/V]の範囲で、一般的なセラミックス焼結体と同等の圧電定数が得られることを確認した。
一方、比較例1については、ロッキングカーブ法により得られた回折強度のピークの形状は、図5(a)に示すものになった。回折強度のピークの形状が図5(a)に示す形状のPZT膜を用いた電気機械変換素子では、前述したようにドメイン回転の効果が十分に得られないため、歪変位が低くなったと考えられる。
実施例3では、実施例1,2に対し、|ω_max−ω_2nd|が大きくなっている。また、実施例4では、実施例5,6に対し、|ω_max_2−ω_2nd_2|が大きくなっている。圧電定数については、実施例3、4では、初期の圧電定数が他の実施例と比べて大きくなっている。一方、実施例3、4では、初期の圧電定数に対する耐久性試験直後の圧電定数の低下の比率((初期の圧電定数−耐久性試験直後の圧電定数)/初期の圧電定数)は、他の実施例と比べて若干高くなっている。|ω_max−ω_2nd|や|ω_max_2−ω_2nd_2|を大きくしていくと、電気機械変換素子の耐久性が徐々に低下することが確認できた。
ただし、実施例3、4では、耐久性試験直後の圧電定数は実施例1〜6でほぼ同じ値になっている。つまり、PZT膜の|ω_max−ω_2nd|や|ω_max_2−ω_2nd_2|が2[°]〜20[°]の範囲であれば、初期の圧電定数を高くするとともに、電気機械変換素子をアクチュエータとして連続動作させた後も良好な圧電定数を維持できることが確認できた。
ここで、PZT膜を有する圧電アクチュエータを備えた液体吐出ヘッドを複数個配置した構成例について説明する。図11は、上記図1で示したPZT膜406を有する圧電アクチュエータを備えた液体吐出ヘッドを複数個配置した構成例を示す断面図である。図11の構成例によれば、電気機械変換素子としての圧電アクチュエータを簡便な製造工程でバルクセラミックスと同等の性能を持つように形成できる。更に、その後の加圧液室の形成のための裏面からのエッチング除去と、ノズル孔を有するノズル板の接合とを行うことで、複数の液体吐出ヘッドが一括形成することができる。なお、図11中には液体供給手段、流路、流体抵抗についての図示を省略した。
実施例1〜6で作製した電気機械変換素子を用いて図11に示す構成の液体吐出ヘッドを作製し、インクの吐出評価を行った。この評価では、粘度を5[cp]に調整したインクを用い、単純Push波形により−10〜−30[V]の印加電圧を加えて、ノズル孔からのインクの吐出状況を確認した。その結果、実施例1〜6のいずれにおいても、全てのノズル孔から良好にインクの吐出ができていることが確認できた。
次に、本発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドを搭載した画像形成装置(液滴吐出装置)としてのインクジェット記録装置について説明する。
図12は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の一例を示す斜視図であり、図13は、同インクジェット記録装置の機構部を側面から見た説明図である。本実施形態のインクジェット記録装置は、記録装置本体81の内部に印字機構部82等を収納している。印字機構部82は、主走査方向に移動可能なキャリッジと、キャリッジに搭載した液滴吐出ヘッド94へ画像形成用の液体であるインクを供給する液体カートリッジとしてのインクカートリッジ95等で構成されている。また、装置本体81の下方部には、前方側から多数枚の記録媒体としての用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができる。また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。そして、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持している。このキャリッジ93には、複数のインク吐出口としてのノズルを主走査方向と交差する方向に配列し液滴吐出方向を下方に向けるように、複数の液滴吐出ヘッド94が装着されている。複数の液滴吐出ヘッド94は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びブラック(Bk)の各色の液滴を吐出するヘッド(インクジェットヘッド)である。また、キャリッジ93には、液滴吐出ヘッド94に各色の液体(インク)を供給するための各インクカートリッジ95が交換可能に装着されている。
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有している。この多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッド94へ供給される液体(インク)をわずかな負圧に維持している。また、本実施形態では各色に対応させて4個の液滴吐出ヘッド94を用いているが、各色の液滴を吐出する複数のノズルを有する1個の液滴吐出ヘッドを用いてもよい。
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100が張装されている。このタイミングベルト100はキャリッジ93に固定されており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
一方、給紙カセット84にセットした用紙83をヘッド94の下方側に搬送するために、給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、ガイド部材103と、搬送ローラ104と、先端コロ106とを備えている。給紙ローラ101及びフリクションパッド102は、給紙カセット84から用紙83を分離給装し、ガイド部材103は用紙83を案内する。また、搬送ローラ104は、給紙された用紙83を反転させて搬送する。先端コロ106は、搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を液滴吐出ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109が設けられている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112が設けられている。さらに、用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115,116とが配設されている。
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、液滴吐出ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段で液滴吐出ヘッド94がキャッピングされ、吐出口であるノズルを湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。これにより、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、このインクジェット記録装置においては本発明の前述の実施形態及び実施例1〜6で作製した液滴吐出ヘッドを搭載している。従って、振動板の駆動不良によるインク滴の吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
本実施形態では、{100}面に優先配向させたPZT膜の結晶構造において、{200}面でロッキングカーブ法による測定をして得られた回折強度曲線を例に、ピークの形状が上述した特徴を有するとき電気機械変換素子の歪変位を大きくできることを述べた。しかし、このことはこの例に限るものではない。{n00}面(nはある正の整数)に優先配向させたペロブスカイト結晶構造を有する電気機械変換膜の結晶構造において、{n00}面と平行な{N00}面(Nはある正の整数)でロッキングカーブ法による測定をして得られた回折強度のピークの形状に上述した特徴があれば、電気機械変換素子の歪変位を大きくできる。
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
基板又は下地膜上に直接又は間接的に形成された第1電極405などの下部電極と、前記下部電極上に形成されnをある正の整数として{n00}面に優先配向されたPZT膜406などのペロブスカイト結晶構造を有する圧電体からなる電気機械変換膜と、前記電気機械変換膜上に形成された第2電極407などの上部電極とを備える電気機械変換素子において、前記電気機械変換膜が、Nをある正の整数として{N00}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの形状が非対称でかつ二以上の屈曲した点を有する形状になっているものである。
上記電気機械変換膜の上部と下部で層表面の凹凸の程度に差が生じている場合、上記回折強度のピークの形状が、非対称でかつ二以上の屈曲した点を有する形状が得られた。一方、上記電気機械変換膜の上部と下部で層表面の凹凸の程度に差が生じていない場合、非対称でかつ二以上の屈曲した点を有する形状が得られなかった。したがって、上記回折強度のピークの形状が、非対称でかつ二以上の屈曲した点を有する形状であれば、上記電気機械変換膜の上部と下部で層表面の凹凸の程度に差が生じていると考えられる。上記電気機械変換膜の上部と下部で層表面の凹凸の程度に差が生じていると、上記電気機械変換膜の結晶構造にわずかなゆがみが生じる。このゆがみが生じると、上記電気機械変換膜においてドメイン回転の効果が高められることが経験的に分かっている。このドメイン回転に効果が高められることにより、上記電気機械変換膜を用いた電気機械変換素子の歪変位を大きくすることができる。
(態様B)
基板又は下地膜上に直接又は間接的に形成された第1電極405などの下部電極と、前記下部電極上に形成された{100}面に優先配向されたPZT膜406などのペロブスカイト結晶構造を有する圧電体からなる電気機械変換膜と、前記電気機械変換膜上に形成された第2電極407などの上部電極とを備える電気機械変換素子において、前記電気機械変換膜が、{200}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの形状が非対称でかつ二箇所の屈曲した点を有する形状になっていて、前記屈曲した点のうち、回折強度が大きい方の点の回折強度をI{200}_max、他方の点での回折強度をI{200}_2ndとしたときに、I{200}_2nd/I{200}_maxが0.5以上0.99以下になっているものである。
I{200}_2nd/I{200}_maxが上で規定した下限値(0.5)よりも小さくなると、上記電気機械変換膜の結晶構造のゆがみが局所的に生じる。局所的に結晶格子のゆがみが生じると、ドメイン回転の効果により上記電気機械変換膜を用いた電気機械変換素子の歪変位が局所的に大きくなる。このため、上記電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、上記電気機械変換膜にクラック等の欠陥が発生する可能性が高くなる。連続駆動によってこのような欠陥が発生すると、初期の歪変位に対し駆動後の歪変位が低下する。また、I{200}_2nd/I{200}_maxが、上で規定した上限値(0.99)よりも大きくなると、ドメイン回転の効果が小さくなり電気機械変換素子において十分な初期の歪変位が得られない。I{200}_2nd/I{200}_maxを上記範囲とすることで、上記電気機械変換素子の初期の歪変位を十分に大きくできるとともに、連続駆動させた後も歪変位が大きく低下しないようにすることができる。
(態様C)
態様Bにおいて、前記電気機械変換膜が、前記屈曲した点のうち、回折強度が大きい方の点における試料基板面と入射X線の角度をω_max、他方の点における試料基板面と入射X線の角度をω_2ndとしたときに、|ω_max−ω_2nd|が2[°]以上20[°]以下になっているものである
|ω_max−ω_2nd|を、上で規定した下限値(2[°])よりも小さくなると、上記電気機械変換膜における結晶構造のゆがみが小さくなる。このため、ドメイン回転の効果が小さくなり、上記電気機械変換素子において十分な歪変位が得られない。また、|ω_max−ω_2nd|が上で規定した上限値(20[°])よりも大きくなると、上記電気機械変換膜の結晶構造のゆがみが大きくなり、ドメイン回転による歪変位を非常に大きくできる。しかし、上記電気機械変換膜の結晶構造のゆがみが非常に大きくなると、上記電気機械変換膜にクラック等の欠陥が発生する可能性が高くなり、上記電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、初期の歪変位に対し駆動後の歪変位が低下する。|ω_max−ω_2nd|を上記範囲とすることで、上記電気機械変換素子の初期の歪変位を十分に大きくできるとともに、連続駆動させた後も歪変位が大きく低下しないようにすることができる。
(態様D)
基板又は下地膜上に直接又は間接的に形成された第1電極405などの下部電極と、前記下部電極上に形成されたPZT膜406などのペロブスカイト結晶構造を有する圧電体からなる電気機械変換膜と、前記電気機械変換膜上に形成された第2電極407などの上部電極とを備える電気機械変換素子において、前記電気機械変換膜が、{200}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの形状が非対称でかつ二以上の極大点を有する形状になっているものである。
上記回折強度のピークの形状が、非対称でかつ二以上の極大点を有する上記電気機械変換膜では、上記電気機械変換膜の上部と下部で層表面の凹凸の程度に差が生じていることになる。上記電気機械変換膜の上部と下部で層表面の凹凸の程度に差が生じていると、上記電気機械変換膜の結晶構造にわずかなゆがみが生じる。このゆがみが生じることにより、上記電気機械変換膜においてドメイン回転の効果を高めることができる。このドメイン回転に効果を高めることにより、上記電気機械変換膜を用いた電気機械変換素子の歪変位を大きくすることができる。
(態様E)
態様Dにおいて、前記電気機械変換膜が、前記極大点は二箇所であり、前記電気機械変換膜が、二箇所の前記極大点のうち、回折強度が大きい方の点での回折強度をI{200}_max_2、他方の点での回折強度をI{200}_2nd_2としたときに、I{200}_2nd_2/I{200}_max_2が0.5以上0.99以下になっているものである。
I{200}_2nd_2/I{200}_max_2が上で規定した下限値(0.5)よりも小さくなると、上記電気機械変換膜の結晶構造のゆがみが局所的に生じる。局所的に結晶格子のゆがみが生じると、ドメイン回転の効果により上記電気機械変換膜を用いた電気機械変換素子の歪変位が局所的に大きくなる。このため、上記電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、上記電気機械変換膜にクラック等の欠陥が発生する可能性が高くなる。連続駆動によってこのような欠陥が発生すると、初期の歪変位に対し駆動後の歪変位が低下する。また、I{200}_2nd_2/I{200}_max_2が、上で規定した上限値(0.99)よりも大きくなると、ドメイン回転の効果が小さくなり電気機械変換素子において十分な初期の歪変位が得られない。I{200}_2nd_2/I{200}_max_2を上記範囲とすることで、上記電気機械変換素子の初期の歪変位を十分に大きくできるとともに、連続駆動させた後も歪変位が大きく低下しないようにすることができる。
(態様F)
態様Eにおいて、前記電気機械変換膜が、二箇所の前記極大点に挟まれた極小点での回折強度をI{200}_min_2としたときに、I{200}_min_2/I{200}_max_2が0.3以上になっているものである。
I{200}_min_2/I{200}_max_2が上で規定した下限値(0.3)よりも小さくなると、上記電気機械変換膜の結晶構造のゆがみが局所的に生じる。局所的に結晶格子のゆがみが生じると、ドメイン回転の効果により上記電気機械変換膜を用いた電気機械変換素子の歪変位が局所的に大きくなる。このため、上記電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、上記電気機械変換膜にクラック等の欠陥が発生する可能性が高くなる。連続駆動によってこのような欠陥が発生すると、初期の歪変位に対し駆動後の歪変位が低下する。I{200}_min_2/I{200}_max_2を上記範囲とすることで、連続駆動させた後も歪変位が大きく低下しないようにすることができる。
(態様G)
態様EまたはFのいずれかにおいて、前記電気機械変換膜が、二箇所の前記極大点のうち、回折強度が大きい方の点での試料基板面と入射X線の角度をω_max、他方の点での試料基板面と入射X線の角度をω_2ndとしたときに、|ω_max_2−ω_2nd_2|が2[°]以上20[°]以下になっているものである。
|ω_max_2−ω_2nd_2|を、上で規定した下限値(2[°])よりも小さくなると、上記電気機械変換膜における結晶構造のゆがみが小さくなる。このため、ドメイン回転の効果が小さくなり、上記電気機械変換素子において十分な歪変位が得られない。また、|ω_max_2−ω_2nd_2|が上で規定した上限値(20[°])よりも大きくなると、上記電気機械変換膜の結晶構造のゆがみが大きくなり、ドメイン回転による歪変位を非常に大きくできる。しかし、上記電気機械変換膜の結晶構造のゆがみが非常に大きくなると、上記電気機械変換膜にクラック等の欠陥が発生する可能性が高くなり、上記電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、初期の歪変位に対し駆動後の歪変位が低下する。|ω_max_2−ω_2nd_2|を上記範囲とすることで、上記電気機械変換素子の初期の歪変位を十分に大きくできるとともに、連続駆動させた後も歪変位が大きく低下しないようにすることができる。
(態様H)
態様B〜Gのいずれか一において、前記電気機械変換膜が、{200}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの半値幅が6[°]以上16[°]以下になっているものである。
半値幅が下限値(6[°])より小さくなると、PZT膜の結晶構造のゆがみが小さくなるので、ドメイン回転の効果が小さくなり上記電気機械変換素子において十分な歪変位が得られない。また、半値幅が上限値(16[°])よりも大きくなると、上記電気機械変換膜の結晶構造のゆがみが非常に大きくなるので、ドメイン回転による効果により、上記電気機械変換素子の初期の歪変位が非常に大きくなる。しかし、電気機械変換素子を圧電アクチュエータとして連続駆動させたときに、上記電気機械変換膜の結晶構造のゆがみが非常に大きいとクラック等の欠陥が発生する可能性が高くなり、上記電気機械変換素子において、初期の歪変位に対し駆動後の歪変位が低下する。半値幅を上記範囲とすることで、上記電気機械変換素子の初期の歪変位を十分に大きくできるとともに、連続駆動させた後も歪変位が大きく低下しないようにすることができる。
(態様I)
態様A〜Hのいずれか一において、前記電気機械変換膜の結晶構造が、前記下部電極と隣接している近傍では正方晶のaドメインと、正方晶のcドメインとからなり、前記上部電極と隣接している近傍では正方晶のaドメインと、正方晶のcドメインと、菱面体晶、斜方晶若しくは擬似立方晶のいずれかとからなる。
上記下部電極と隣接している近傍、および上記上部電極と隣接している近傍における上記電気機械変換膜の結晶構造がこのようになっていると、上記電気機械変換膜の上部と下部とで層表面の凹凸の程度に大きな差が生じ、結晶格子にゆがみが発生する。結晶格子にゆがみが発生すると、ドメイン回転の効果による歪が大きくなることが経験的に分かっている。これにより、上記電気機械変換膜の歪変位を大きくすることができる。
(態様J)
態様A〜Iのいずれか一において、前記電気機械変換膜がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなり、前記電気機械変換膜における亜鉛(Zr)に対するチタン(Ti)の組成比(Ti/(Zr+Ti))が0.45以上0.55以下である。
ZrとTiとの組成比率が上記下限値(0.45)より小さくなると、後述するドメイン回転の効果が十分でなくなるため、電気機械変換素子の歪変位を十分確保できなくなる。また、ZrとTiとの組成比率が上記上限値(0.55)より大きくなると、圧電効果が十分でなくなるため、やはり電気機械変換素子の歪変位を十分確保できなくなる。ZrとTiとの組成比率を上記範囲とすることで、上記電気機械変換素子の初期の歪変位を十分に大きくできる。
(態様K)
液滴を吐出するノズルと、該ノズルに連通する加圧室と、該加圧室内の液体に圧力を発生させる圧力発生手段とを備えた液滴吐出ヘッドにおいて、前記圧力発生手段として、態様A〜Jのいずれかの電気機械変換素子を備えた。
94 液滴吐出ヘッド
401 基板
402 振動板
403 ノズル版
404 加圧液室
405 第1電極
406 PZT膜
407 第2電極
408 第1酸化物層
409 第2酸化物層
特開2008−192868号公報

Claims (11)

  1. 基板又は下地膜上に直接又は間接的に形成された下部電極と、
    前記下部電極上に形成されnをある正の整数として{n00}面に優先配向されたペロブスカイト結晶構造を有する圧電体からなる電気機械変換膜と、
    前記電気機械変換膜上に形成された上部電極とを備える電気機械変換素子において、
    前記電気機械変換膜が、Nをある正の整数として{N00}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの形状が非対称でかつ二以上の屈曲した点を有する形状になっているものであることを特徴とする電気機械変換素子。
  2. 基板又は下地膜上に直接又は間接的に形成された下部電極と、
    前記下部電極上に形成された{100}面に優先配向されたペロブスカイト結晶構造を有する圧電体からなる電気機械変換膜と、
    前記電気機械変換膜上に形成された上部電極とを備える電気機械変換素子において、
    前記電気機械変換膜が、{200}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの形状が非対称でかつ二箇所の屈曲した点を有する形状になっていて、前記屈曲した点のうち、回折強度が大きい方の点の回折強度をI{200}_max、他方の点での回折強度をI{200}_2ndとしたときに、I{200}_2nd/I{200}_maxが0.5以上0.99以下になっているものであることを特徴とする電気機械変換素子。
  3. 請求項2に記載の電気機械変換素子において、
    前記電気機械変換膜が、前記屈曲した点のうち、回折強度が大きい方の点における試料基板面と入射X線の角度をω_max、他方の点における試料基板面と入射X線の角度をω_2ndとしたときに、|ω_max−ω_2nd|が2[°]以上20[°]以下になっているものであることを特徴とする電気機械変換素子。
  4. 基板又は下地膜上に直接又は間接的に形成された下部電極と、
    前記下部電極上に形成されたペロブスカイト結晶構造を有する圧電体からなる電気機械変換膜と、
    前記電気機械変換膜上に形成された上部電極とを備える電気機械変換素子において、
    前記電気機械変換膜が、{200}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの形状が非対称でかつ二以上の極大点を有する形状になっているものであることを特徴とする電気機械変換素子。
  5. 請求項4に記載の電気機械変換素子において、
    前記電気機械変換膜が、前記極大点は二箇所であり、前記電気機械変換膜が、二箇所の前記極大点のうち、回折強度が大きい方の点での回折強度をI{200}_max_2、他方の点での回折強度をI{200}_2nd_2としたときに、I{200}_2nd_2/I{200}_max_2が0.5以上0.99以下になっているものであることを特徴とする電気機械変換素子。
  6. 請求項5に記載の電気機械変換素子において、
    前記電気機械変換膜が、二箇所の前記極大点に挟まれた極小点での回折強度をI{200}_min_2としたときに、I{200}_min_2/I{200}_max_2が0.3以上になっているものであることを特徴とする電気機械変換素子。
  7. 請求項5または6のいずれかに記載の電気機械変換素子において、
    前記電気機械変換膜が、二箇所の前記極大点のうち、回折強度が大きい方の点での試料基板面と入射X線の角度をω_max、他方の点での試料基板面と入射X線の角度をω_2ndとしたときに、|ω_max_2−ω_2nd_2|が2[°]以上20[°]以下になっているものであることを特徴とする電気機械変換素子。
  8. 請求項2乃至7のいずれか一の電気機械変換素子
    前記電気機械変換膜が、{200}面でX線回折のロッキングカーブ法による測定を行って得られた回折強度のピークの半値幅が6[°]以上16[°]以下になっているものであることを特徴とする電気機械変換素子。
  9. 請求項1乃至8のいずれか一の電気機械変換素子において、
    前記電気機械変換膜の結晶構造が、前記下部電極と隣接している近傍では正方晶のaドメインと、正方晶のcドメインとからなり、前記上部電極と隣接している近傍では正方晶のaドメインと、正方晶のcドメインと、菱面体晶、斜方晶若しくは擬似立方晶のいずれかとからなることを特徴とする電気機械変換素子。
  10. 請求項1乃至9のいずれか一の電気機械変換素子において、
    前記電気機械変換膜がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなり、前記電気機械変換膜における亜鉛(Zr)に対するチタン(Ti)の組成比(Ti/(Zr+Ti))が0.45以上0.55以下であることを特徴とする電気機械変換素子。
  11. 液滴を吐出するノズルと、
    該ノズルに連通する加圧室と、
    該加圧室内の液体に圧力を発生させる圧力発生手段とを備えた液滴吐出ヘッドにおいて、
    前記圧力発生手段として、請求項1乃至10のいずれかの電気機械変換素子を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
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