以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の第1の態様〜第4の態様に係るリチウムイオン二次電池、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の第1の態様〜第3の態様に係るリチウムイオン二次電池)
3.実施例2(実施例1の変形)
4.実施例3(本開示の第4の態様に係るリチウムイオン二次電池)
5.実施例4(実施例1〜実施例3の変形)
6.実施例5(実施例1〜実施例3の別の変形)
7.実施例6(本開示のリチウムイオン二次電池の応用例)
8.その他
〈本開示の第1の態様〜第4の態様に係るリチウムイオン二次電池、全般に関する説明〉
本開示の第1の態様に係るリチウムイオン二次電池において、正極活物質の表面には炭酸リチウム(Li2CO3)が存在することが好ましい。
上記の好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係るリチウムイオン二次電池において、あるいは又、本開示の第2の態様に係るリチウムイオン二次電池において、有機電解液は溶媒及び電解質塩を含み、電解質塩は過塩素酸リチウム(LiClO4)から成る形態とすることができる。そして、この場合、あるいは又、本開示の第3の態様に係るリチウムイオン二次電池において、溶媒は炭酸エステル系溶媒から成る形態とすることができ、更には、溶媒はエチレンカーボネート(EC)及び/又はジエチルカーボネート(DMC)から成る形態とすることができる。あるいは又、溶媒として、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)といった環状炭酸エステル;ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)といった鎖状炭酸エステル;テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2−MeTHF)、1,3ジオキソラン(DOL)、4−メチル−1,3ジオキソラン(4−MeDOL)といった.環状エーテル;1,2ジメトキシエタン(DME)、1,2ジエトキシエタン(DEE)といった鎖状エーテル;γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(GVL)といった環状エステル;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酪酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルといった鎖状エステル;テトラヒドロピラン、1,3ジオキサン、1,4ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリジノン(NMP)、N−メチルオキサゾリジノン(NMO)、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トリメチルホスフェート(TMP)、ニトロメタン(NM)、ニトロエタン(NE)、スルホラン(SL)、アセトニトリル(AN)、グルタロニトリル(GLN)、アジポニトリル(ADN)、メトキシアセトニトリル(MAN)、3−メトキシプロピオニトリル(MPN)、ジエチルエーテル;イオン液体を挙げることができる。
更には、以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第3の態様に係るリチウムイオン二次電池において、正極活物質は窒化リン酸リチウム(LiPON,Li3PO4)によって被覆されている形態とすることができる。
更には、以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第4の態様に係るリチウムイオン二次電池において、4.0ボルト以上で充電が行われる形態とすることができる。
本開示の第1の態様に係るリチウムイオン二次電池において、前述したとおり、正極活物質の表面には、実質的に酸化リチウム(Li2O)が存在していない。ここで、「実質的に酸化リチウムが存在していない」とは、X線光電子分光(XPS,X-ray Photoelectron Spectroscopy)法に基づく測定によってLi2O由来の酸素原子(具体的には、O1s)が検出されないこと、より具体的には、Li2O由来の酸素原子(具体的には、O1s)の検出ピークの値が、炭酸成分由来の酸素原子(具体的には、O1s)の検出ピークの値よりも小さく、ピークとして検出されない強度であることことを意味する。具体的には、リチウムイオン二次電池をグローブボックス内で解体し、正極及び負極を別々に回収し、DMCで洗浄した後、乾燥させる。そして、乾燥後の電極をX線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)測定装置に搬入する。分析に至るまで大気非暴露の状態(アルゴンガス雰囲気)を保持する。XPS法による表面解析(大気非暴露)にあっては、以下の条件等で測定を行う。そして、XPS法によってLi2O由来の酸素原子(O1s)を測定したとき、この酸素原子が検出されないとき、「実質的に酸化リチウムが存在していない」とする。
〈XPS測定条件〉
XPS装置:PHI Quantum2000
X線源 :Al−Kα(monochromated),15kV−40W
分析直径 :200μm
また、正極活物質の表面には炭酸リチウム(Li2CO3)が存在するとは、X線光電子分光法に基づく測定によって、Li2CO3由来の酸素原子(具体的には、O1s)が検出されることを意味する。より具体的には、上記の方法に基づき、XPS法によってLi2CO3由来の酸素原子(O1s)を測定したとき、この酸素原子の測定値が炭酸由来を示す532eVあるいは532eV付近にピークとして存在するとき、「正極活物質の表面には炭酸リチウムが存在する」とする。
正極活物質や、正極活物質を被覆する窒化リン酸リチウムは、例えば、スパッタリング法に基づき成膜することができるが、このような方法に限定されず、その他、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法、焼成法(焼結法)に基づき形成することができる。塗布法とは、粒子(粉末)状の正極活物質を正極結着剤等と混合した後、混合物を有機溶剤等の溶媒に分散させ、正極集電体に塗布する方法である。気相法とは、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法といったPVD法(物理的気相成長法)や、プラズマCVD法を含む各種CVD法(化学的気相成長法)である。液相法として、電解メッキ法や無電解メッキ法を挙げることができる。溶射法とは、溶融状態又は半溶融状態の正極活物質を正極集電体に噴き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法を用いて溶媒に分散された混合物を正極集電体に塗布した後、正極結着剤等の融点よりも高い温度で熱処理する方法であり、雰囲気焼成法、反応焼成法、ホットプレス焼成法を挙げることができる。あるいは又、ゾル−ゲル法や、SPE(固相エピタキシー)法、LB(ラングミュアーブロジェット)法を挙げることもできる。
以上に説明した好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第4の態様に係るリチウムイオン二次電池において、正極活物質として、上記の物質以外にも、以下の物質を用いることもできる。即ち、正極活物質は、更に、元素M2を含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から成る構成とすることができる。また、このような構成を含む正極活物質は、更に、添加元素M3を含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から成る構成とすることができる。ここで、元素M2は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)及び銅(Cu)から成る群から選択された少なくとも1種類の元素であり、添加元素M3は、B、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Fe、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Te、W、Os、Bi、Gd、Tb、Dy、Hf、Ta及びZrから成る群から選択された少なくとも1種の元素である。
例えば、LiとPとNiとCuとOとを含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から正極活物質を構成した場合、充放電サイクル特性を一層向上させることができる。また、例えば、LiとPとNiとPdとOとを含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から正極活物質を構成した場合、容量の一層の増加を図ることができると共に、充放電サイクル特性を一層向上させることができる。更には、例えば、LiとPとNiとAuとOとを含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から正極活物質を構成した場合、充放電サイクル特性を一層向上させることができる。
添加元素M3は、これのみをリチウムリン酸化合物に含有させても、このようなリチウムリン酸化合物は正極活物質として使用できない。一方、添加元素M3を少なくとも元素M1と共にリチウムリン酸化合物に含有させた場合、リチウムリン酸化合物を正極活物質として機能させることができ、しかも、添加する元素種の選択に依るが、正極活物質としての特性を向上させることができるし、容量の増加やサイクル特性等の向上、内部インピーダンスの低下を図ることができると共に、優れた高レートの放電特性を得ることができる。内部インピーダンスが低下することにより、高速放電時の電位変化が少なくなり、より高電位のリチウムイオン二次電池を実現することができる。更には、内部インピーダンスが低いことで、放電エネルギーと充電エネルギーとの比(放電エネルギー/充電エネルギー)が1に近づくことにより、エネルギーロスが低下し、エネルギー効率が高くなり、且つ、充放電時のジュール熱が低下するために発熱を抑えることができる。
あるいは又、正極活物質は、アモルファス状態のリチウムリン酸化合物を含み、リチウムリン酸化合物は、式(1)、式(2)で表されるリチウムリン酸化合物である形態とすることもできる。
LiXNiYPOZ (1)
ここで、0<X<8、好ましくは、1≦X<8であり、2≦Y≦10であり、ZはNi,Pの組成比に応じて酸素が安定に含まれる比である。
LiXCuYPO4 (2)
ここで、0.5≦X<7.0、好ましくは、5.0<X<7.0であり、1≦Y≦4、好ましくは、2.2≦Y≦4である。
式(1)において、リチウムの組成比Xの範囲は、上記のとおり、0<X<8であることが好ましい。リチウムの組成比Xの上限は、電位が保たれる限界によって規定される。確認できた範囲では、リチウムの組成比Xの値は8未満であることが好ましい。また、式(1)において、Niの組成比Yの範囲は、十分な充放電容量が得られる点から、上記のとおり、2≦Y≦10であることが好ましい。
以上に説明した各種のリチウムリン酸化合物は、正極活物質として以下の優れた特性を有する。即ち、対Li+/Liに対して高い電位を有する。また、電位の平坦性に優れる。即ち、組成変化に伴う電位変動が小さい。また、リチウムの組成比が大きいので高容量である。更には、高い電気伝導性を有する。しかも、結晶質の正極活物質のように充放電の繰り返しによる結晶構造の崩壊等がなく、Liの挿入・脱離による体積膨張・収縮を緩和することができ、構造変化を抑制することができるので、充放電サイクル特性に優れている。また、アニールすること無く形成できるので、プロセスの簡素化、歩留りの向上、樹脂基板の利用が可能となる。しかも、例えば、上記の式(1)や式(2)の正極活物質のように、広範囲でLiを含有できるため、高容量化が可能である。例えば、式(1)では、リチウム組成比Xの値が8未満までリチウムを含有することができるし、式(2)では、リチウム組成比Xの値が7未満までリチウムを含有することができる。
リチウムイオン二次電池の正極において、正極集電体の片面又は両面には、正極活物質層が形成されている。また、負極において、例えば、負極集電体の片面又は両面には、負極活物質層が形成されている。正極集電体や負極集電体を構成する材料として、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等、又は、これらの何れかを含む合金や、ステンレス鋼等の導電材料を例示することができる。
正極活物質から構成された正極活物質層は、結晶質相を含まず、完全にアモルファス単相の薄膜である。正極活物質層が、アモルファス単相であることは、透過型電子顕微鏡(TEM)で断面を観察することで確認できる。即ち、この正極活物質層を透過型電子顕微鏡で断面を観察すれば、TEM像において結晶粒が存在しない状態を確認できる。また、電子線回折像やX線回折法(XRD法)に基づき確認することもできる。
負極活物質層は、負極活物質として、リチウムを吸蔵・放出可能である負極材料を含んでいる。負極活物質層は、更に、負極結着剤や負極導電剤等を含んでいてもよい。負極に関しては、後に詳しく説明する。負極集電体の表面は、所謂アンカー効果に基づき負極集電体に対する負極活物質層の密着性を向上させるといった観点から、粗面化されていることが好ましい。この場合、少なくとも負極活物質層を形成すべき負極集電体の領域の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法として、例えば、電解処理を利用して微粒子を形成する方法を挙げることができる。電解処理とは、電解槽中において電解法を用いて負極集電体の表面に微粒子を形成することで負極集電体の表面に凹凸を設ける方法である。
負極活物質層は、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法、焼成法(焼結法)に基づき形成することができる。塗布法とは、粒子(粉末)状の負極活物質を負極結着剤等と混合した後、混合物を有機溶剤等の溶媒に分散させ、負極集電体に塗布する方法である。気相法とは、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法といったPVD法(物理的気相成長法)や、プラズマCVD法を含む各種CVD法(化学的気相成長法)である。液相法として、電解メッキ法や無電解メッキ法を挙げることができる。溶射法とは、溶融状態又は半溶融状態の負極活物質を負極集電体に噴き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法を用いて溶媒に分散された混合物を負極集電体に塗布した後、負極結着剤等の融点よりも高い温度で熱処理する方法であり、雰囲気焼成法、反応焼成法、ホットプレス焼成法を挙げることができる。
充電途中に意図せずにリチウムが負極に析出することを防止するために、負極材料の充電可能な容量は、正極の放電容量よりも大きいことが好ましい。即ち、リチウムを吸蔵・放出可能である負極材料の電気化学当量は、正極の電気化学当量よりも大きいことが好ましい。尚、負極に析出するリチウムとは、例えば、電極反応物質がリチウムである場合にはリチウム金属である。
あるいは又、負極をリチウム箔やリチウムシート、リチウム板から構成することもできる。
セパレータは、正極と負極とを隔離して、正極と負極の接触に起因する電流の短絡を防止しながら、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータは、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレンやポリエチレン)、芳香族ポリアミドといった合成樹脂から成る多孔質膜;セラミック等の多孔質膜;ガラス繊維;液晶ポリエステル繊維や芳香族ポリアミド繊維、セルロース系繊維から成る不織布から構成されている。あるいは又、セパレータを2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜から構成することもできるし、無機物層が塗布されたセパレータや、無機物含有セパレータとすることもできる。
リチウムイオン二次電池の一形態として、基板上に無機絶縁膜が形成され、無機絶縁膜上に、正極活物質層が形成された正極集電体、有機電解液(非水系電解液)を含むセパレータ、負極活物質層が形成された負極集電体が積層された構造を挙げることができる。このような構造における基板として、例えば、ポリカーボネート(PC)樹脂基板、フッ素樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリブチレンテレフタレート(PBT)基板、ポリイミド(PI)基板、ポリアミド(PA)基板、ポリスルホン(PSF)基板、ポリエーテルスルホン(PES)基板、ポリフェニレンスルフィド(PPS)基板、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー(COP)を挙げることができる。また、無機絶縁膜を構成する材料は、吸湿性が低く、耐湿性を有する絶縁膜を形成することができる材料であればよく、このような材料として、Si、Cr、Zr、Al、Ta、Ti、Mn、Mg、Znの酸化物又は窒化物又は硫化物の単体、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。より具体的には、Si3N4、SiO2、Cr2O3、ZrO2、Al2O3、Ta2O5、TiO2、Mn2O3、MgO、ZnS等、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。
リチウムイオン二次電池の形状、形態として、コイン型、ボタン型、平板型、角型、円筒型、ラミネート型(ラミネートフィルム型)を挙げることができる。
実施例1は、本開示の第1の態様〜第3の態様に係るリチウムイオン二次電池に関する。実施例1のリチウムイオン二次電池を構成する正極、セパレータ、負極等の概念図を図1Aに示す。
実施例1のリチウムイオン二次電池は、正極1、有機電解液(非水系電解液)4(図1A、図1Bでは黒点で示す)を含むセパレータ3、及び、負極2を備えている。そして、正極1は、正極集電体1A及び正極活物質層1Bから構成されている。具体的には、正極1において、正極活物質層1Bを構成する正極活物質は、リチウム、リン、元素M1及び酸素を含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から成り、元素M1は、ニッケル、コバルト、マンガン、金、銀及びパラジウムから成る群から選択された1種類の元素である。
より具体的には、実施例1にあっては、正極活物質をアモルファス状態のLi5.7Ni3.9PO12.1(M1:Ni)から構成した。具体的には、厚さ0.2μmの正極活物質層1Bは、厚さ20μmの金箔から成る正極集電体1Aの片面(負極2に対向する面)に、スパッタリング法に基づき形成されている。また、負極2は、厚さ1mmのリチウム板から構成されている。更には、セパレータ3は、厚さ20μmの微多孔性ポリエチレンフィルムから成る。正極活物質層1Bのスパッタリング法に基づく成膜条件を、以下の表1に例示する。
[表1]
正極活物質 :Li5.7Ni3.9PO12.1(M1:Ni)
ターゲット組成 :Li2CO3/Li3PO4混合焼結体とNiのコスパッタ
ターゲットサイズ :直径4インチ
スパッタリングガス :Arガス/O2ガス=80/20(容積比)
20sccm,0.2Pa
スパッタリングパワー:混合焼結体・・・600ワット(RF)
Ni ・・・200ワット(DC)
膜厚 :0.2μm
有機電解液は溶媒及び電解質塩(支持塩)を含んでおり、電解質塩は過塩素酸リチウム(LiClO4)から成る。ここで、溶媒は、炭酸エステル系溶媒、具体的には、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DMC)から成る。有機電解液の組成は、以下の表2のとおりである。尚、電解質塩として、過塩素酸リチウムの代わりに、ヘキサフロオロリン酸リチウム(LiPF6)を用いて作製したリチウムイオン二次電池を比較例1とした。
[表2]
〈実施例1〉
電解質塩(支持塩):過塩素酸リチウム 1モル/溶媒1kg
溶媒 :EC/DMC=3/7(質量比)
〈比較例1〉
電解質塩(支持塩):ヘキサフロオロリン酸リチウム 1モル/溶媒1kg
溶媒 :EC/DMC=3/7(質量比)
以上に説明した正極1、負極2、有機電解液(非水系電解液)4を含むセパレータ3から、周知の構成、構造を有するリチウムイオン二次電池を、周知の方法で組み立てた。尚、実施例1〜実施例3、比較例1におけるリチウムイオン二次電池は、全てコイン型である。そして、充放電試験を行った。充電は、CC/CV方式とし、充電電流10マイクロアンペア、充電電圧4.8ボルト、充電電流密度0.0057ミリアンペア/cm2、終止条件8マイクロアンペア又は20時間とした。また、放電は、CC方式とし、放電条件10マイクロアンペアとした。即ち、4.0ボルト以上(具体的には、4.8ボルト)で充電を行った。
充放電結果を図2Aに示す。尚、図2Aの横軸は充放電回数であり、縦軸は容量を正規化した値(サイクル維持率)である。即ち、初期充放電を実行した後の、第1回目の充放電サイクルにおける放電容量を100%としたときの、第N回目の充放電サイクルにおける放電容量の値(%)である。図2A中、「A」は実施例1の結果を示し、「B」は比較例1の結果を示す。実施例1のリチウムイオン二次電池は良好なるサイクル特性を示している。一方、比較例1にあっては、サイクル数の増加と共に抵抗上昇が認められ、サイクル数の増加に伴い容量が大きく減少した。
5回のサイクル試験後、リチウムイオン二次電池を分解し、XPS法に基づく分析を行った。O1s束縛エネルギーの分析結果(ピークのカウント数)は、以下の表3のとおりであった。
[表3]
実施例1 比較例1
Li2O由来の酸素原子 258 2947
Li2CO3由来の酸素原子 5004 4516
ピーク強度比 0.05 0.65
表3から、優れたサイクル特性を示す実施例1のリチウムイオン二次電池において、正極活物質の表面には実質的に酸化リチウムが存在しておらず、また、正極活物質の表面には炭酸リチウムが存在することが判る。一方、サイクル特性の劣っている比較例1のリチウムイオン二次電池において、正極活物質の表面に酸化リチウムが存在している一方、正極活物質の表面に存在する炭酸リチウムは、実施例1よりも少なかった。また、(Li2O由来の酸素原子)/(Li2CO3由来の酸素原子)であるピーク強度比の値は、実施例1の方が比較例1よりも明らかに小さく、よって、実施例1では、正極活物質の表面にLi2OよりもLi2CO3が明らかに多く存在していることが判る。即ち、実施例1にあっては、実質的に酸化リチウムが存在していないので、抵抗増加を抑制することができ、放電電位の低下が小さく、サイクル維持率が高いといった結果が得られた。
また、正極活物質層のXRD分析からは明確なピークが得られず、アモルファス状態であることが確認できた。更には、正極活物質層を透過型電子顕微鏡で観察したところ、TEM像において結晶粒が確認されず、電子回折像にはアモルファスを示すハローリングが観察された。これによっても、正極活物質層はアモルファスであることを確認できた。
以上のとおり、実施例1のリチウムイオン二次電池において、あるいは、次に述べる実施例2のリチウムイオン二次電池において、正極活物質の表面には実質的に酸化リチウムが存在しておらず、正極活物質の表面には炭酸リチウムが存在しており、有機電解液は溶媒及び電解質塩を含み、電解質塩は過塩素酸リチウムから成るので、容量が大きく、しかも、充放電サイクルに優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
実施例2は実施例1の変形である。実施例2にあっては、正極活物質を、アモルファス状態のLi5.7Ni3.9PO12.1の代わりに、Li6.5Mn3.2PO12.1(M1:Mn)から構成した。この点を除き、実施例1と同様のリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様のサイクル試験及びXPS分析を行った。実施例2にあっては、5サイクル後のサイクル維持率は、80%であった。スパッタリング条件を、以下の表4に示す。
[表4]
正極活物質 :Li6.5Mn3.2PO12.1(M1:Mn)
ターゲット組成 :Li3PO4焼結体とMnのコスパッタ
ターゲットサイズ :直径4インチ
スパッタリングガス :Arガス/O2ガス=80/20(容積比)
20sccm,0.2Pa
スパッタリングパワー:焼結体・・・600ワット(RF)
Mn ・・・200ワット(DC)
膜厚 :0.32μm
実施例3は、本開示の第4の態様に係るリチウムイオン二次電池に関する。実施例3のリチウムイオン二次電池を構成する正極1、セパレータ3、負極2等の概念図を図1Bに示す。実施例3のリチウムイオン二次電池において、正極活物質は、窒化リン酸リチウム(LiPON,Li3PO4)によって被覆されている。即ち、正極活物質層1Bは、窒化リン酸リチウム層1Cによって被覆されている。この点を除き、実施例3のリチウムイオン二次電池の構成、構造は、実施例1〜実施例2のリチウムイオン二次電池の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
具体的には、実施例1と同様にして、厚さ0.2μmの正極活物質層1Bを、厚さ20μmの金箔から成る正極集電体1Aの片面(負極2に対向する面)に、スパッタリング法に基づき形成した後、正極活物質層1B上に、厚さ0.02μmの窒化リン酸リチウム膜1Cをスパッタリング法に基づき形成した。窒化リン酸リチウム膜1Cのスパッタリング法に基づく成膜条件を、以下の表5に例示する。
[表5]
ターゲット組成 :Li3PO4
ターゲットサイズ :直径4インチ
スパッタリングガス :Arガス/N2ガス=50/50(容積比)
40sccm,0.2Pa
スパッタリングパワー:600ワット(RF)
図2Bに、実施例3のリチウムイオン二次電池のサイクル維持率を測定した結果(図2Bの「A」参照)、及び、実施例1のリチウムイオン二次電池におけるサイクル維持率を測定した結果(図2Bの「B」参照)を示すが、正極活物質(正極活物質層1B)を窒化リン酸リチウム(窒化リン酸リチウム層1C)によって被覆することで、サイクル維持率が格段に向上していることが判る。
尚、電解質塩(支持塩)を、過塩素酸リチウム(LiClO4)からヘキサフロオロリン酸リチウム(LiPF6)に代えたリチウムイオン二次電池を実施例3Aとして作製し、サイクル維持率を測定したところ、第5回目におけるサイクル維持率は55%であった。一方、比較例1の第5回目におけるサイクル維持率は42%であった。即ち、電解質塩(支持塩)をヘキサフロオロリン酸リチウムとした場合であっても、正極活物質を窒化リン酸リチウムによって被覆することで、サイクル維持率の向上を図ることができた。
以上のとおり、実施例3にあっては、正極活物質を窒化リン酸リチウム(LiPON,Li3PO4)によって被覆することで、充放電サイクルに優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
実施例4は実施例1〜実施例3の変形である。実施例4のリチウムイオン二次電池は、円筒型のリチウムイオン二次電池から成る。実施例4のリチウムイオン二次電池の模式的な断面図を図3に示し、巻回電極体20の模式的な拡大一部断面図を図4Aに示す。
実施例4のリチウムイオン二次電池にあっては、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、巻回電極体20及び一対の絶縁板12,13が収納されている。巻回電極体20は、例えば、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層して積層物を得た後、積層物を巻回することで作製することができる。
電池缶11は、一端部が閉鎖され、他端部が開放された中空構造を有しており、鉄〈Fe〉やアルミニウム〈Al〉等から作製されている。電池缶11の表面にはニッケル〈Ni〉等がメッキされていてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を挟むと共に、巻回電極体20の巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。電池缶11の開放端部には、電池蓋14、安全弁機構15及び熱感抵抗素子(PTC素子)16がガスケット17を介してかしめられており、これによって、電池缶11は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料から作製されている。安全弁機構15及び熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。安全弁機構15にあっては、内部短絡や、外部からの加熱等に起因して内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転する。そして、これによって、電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続が切断される。大電流に起因する異常発熱を防止するために、熱感抵抗素子16の抵抗は温度の上昇に応じて増加する。ガスケット17は、例えば、絶縁性材料から作製されている。ガスケット17の表面にはアスファルト等が塗布されていてもよい。
巻回電極体20の巻回中心には、センターピン24が挿入されている。但し、センターピン24は、巻回中心に挿入されていなくともよい。正極21には、アルミニウム等の導電性材料から作製された正極リード25が接続されている。負極22には、ニッケル等の導電性材料から作製された負極リード26が接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接されていると共に、電池蓋14と電気的に接続されている。負極リード26は、電池缶11に溶接されており、電池缶11と電気的に接続されている。
実施例1〜実施例3において説明した方法に基づき、正極集電体の両面に正極活物質層を形成することで、正極21を作製する。
負極22を作製する場合、先ず、負極活物質(黒鉛)97質量部と、負極結着剤3質量部とを混合して、負極合剤とする。人造黒鉛の平均粒径d50を20μmとする。また、負極結着剤として、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体のアクリル変性体1.5質量部と、カルボキシメチルセルロース1.5質量部との混合物を用いる。そして、負極合剤を水と混合して、ペースト状の負極合剤スラリーとする。その後、コーティング装置を用いて帯状の負極集電体22A(厚さ15μmの銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布した後、負極合剤スラリーを乾燥させて、負極活物質層22Bを形成する。そして、ロールプレス機を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型する。
セパレータ23は、厚さ20μmの微多孔性ポリエチレンフィルムから成る。また、巻回電極体20には、実施例1〜実施例3において説明した有機電解液(非水系電解液)が含浸されている。
正極21に含まれている正極活物質と負極22に含まれている負極活物質との間の領域(活物質間領域)の内のいずれかに、絶縁性材料を備えていてもよい。絶縁性材料が配置される場所は、活物質間領域の内のいずれかであれば特に限定されない。即ち、絶縁性材料は、正極21(正極活物質層21B)中に存在していてもよいし、負極22(負極活物質層22B)中に存在していてもよいし、正極21と負極22との間に存在していてもよい。一例を挙げると、絶縁性材料を配置する場所に関して、例えば、以下で説明するように、3通りの態様を挙げることができる。
第1態様においては、図4Bに示すように、正極活物質層21Bは、粒子状の正極活物質211を含んでいる。そして、正極活物質211の表面に、絶縁性材料を含む層(第1絶縁層である活物質絶縁層212)が形成されている。活物質絶縁層212は、正極活物質211の表面の一部だけを被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。活物質絶縁層212が正極活物質211の表面の一部を被覆している場合、互いに離間された複数の活物質絶縁層212が存在していてもよい。活物質絶縁層212は、単層であってもよいし、多層であってもよい。
活物質絶縁層212は、絶縁性セラミックス等の無機絶縁性材料から成り、あるいは又、絶縁性高分子化合物等の有機絶縁性材料から成り、あるいは又、無機絶縁性材料及び有機絶縁性材料から成る。絶縁性セラミックスとして、具体的には、酸化アルミニウム〈Al2O3〉、酸化ケイ素〈SiO2〉、酸化マグネシウム〈MgO〉、酸化チタン〈TiO2〉、酸化ジルコニウム〈ZrO2〉を例示することができるし、LiNbO3、LIPON〈Li3+yPO4-xNx,但し、0.5≦x≦1、−0.3<y<0.3〉、LISICON(Lithium-Super-Ion-CONductor)と呼ばれる材料、Thio−LISICON(例えば、Li3.25Ge0.25P0.75S4)、Li2S、Li2S−P2S5、Li2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−B2S5、Li2S−Al2S5及びLi2O−Al2O3−TiO2−P2O5(LATP)を例示することもできる。絶縁性高分子化合物は、正極結着剤あるいは負極結着剤を構成する材料と同様とすることができるが、中でも、フッ化ビニリデンの単独重合体(例えば、ポリフッ化ビニリデン)あるいは共重合体(例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体)が好ましい。物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定だからである。フッ化ビニリデンと共重合される単量体は、ヘキサフルオロプロピレン以外の単量体であってもよい。
第2態様においては、図4Cに示すように、負極22(負極活物質層22B)の表面に、絶縁性材料を含む層(第2絶縁層である負極絶縁層213)が設けられている。負極絶縁層213の被覆状態、層構造及び構成材料等に関する詳細は、上記の活物質絶縁層212と同様である。そして、この場合、特に、負極絶縁層213が絶縁性高分子化合物を含んでいると、負極22に対するセパレータ23の密着性が向上するため、巻回電極体20が歪み難くなる。そして、これによって、有機電解液の分解反応が抑制されると共に、セパレータ23に含浸されている有機電解液の漏液も抑制される。よって、充放電を繰り返しても抵抗が上昇し難くなると共に、リチウムイオン二次電池が膨れ難くなる。
第3態様においては、図4Dに示すように、セパレータ23の表面に、絶縁性材料を含む層(第3絶縁層であるセパレータ絶縁層214)が設けられている。セパレータ絶縁層214は、セパレータ23の正極21と対向する面に設けられていてもよいし、負極22と対向する面に設けられていてもよいし、双方の面に設けられていてもよい。セパレータ絶縁層214の被覆状態、層構造及び構成材料等に関する詳細は、上記の活物質絶縁層212と同様である。そして、この場合、特に、セパレータ絶縁層214が絶縁性高分子化合物を含んでいると、正極21及び負極22に対するセパレータ23の密着性が向上するため、上記の負極絶縁層213が高分子化合物を含んでいる場合と同様の利点が得られる。
活物質間領域の内のいずれかに絶縁性材料を配置することで、電池特性と安全性とを両立させることができる。即ち、活物質間領域に絶縁性材料が配置されていると、リチウムイオン二次電池の内部において熱暴走等の異常が発生し難くなるため、安全性が向上する。
実施例4のリチウムイオン二次電池は、例えば、以下のように動作する。即ち、充電時、正極21からリチウムイオンが放出されると、リチウムイオンが有機電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電時、負極22からリチウムイオンが放出されると、リチウムイオンが有機電解液を介して正極21に吸蔵される。リチウムイオン二次電池は、例えば、完全充電時の開回路電圧(電池電圧)が4.2ボルト乃至6.0ボルト、好ましくは4.25ボルト乃至6.0ボルト、より好ましくは4.3ボルト乃至4.55ボルトとなるように設計されていることが望ましい。この場合、完全充電時の開回路電圧が4.2ボルトとなるように設計されている場合と比較して、同じ種類の正極活物質を用いても、単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなる。このように、正極活物質の量と負極活物質との量を調整し、完全充電時の開回路電圧(電池電圧)が所定の電圧(上限電圧)となるようにリチウムイオン二次電池を設計することで、高いエネルギー密度が得られる。
正極活物質211の表面に活物質絶縁層212を形成する手順は、例えば、以下のとおりである。即ち、スパッタリング法等のPVD法やCVD法に基づき、正極活物質211の表面に絶縁性セラミックスを堆積させればよい。あるいは又、ゾル・ゲル法を用いてもよく、この場合、アルミニウム、ケイ素等を含むアルコキシド溶液に正極活物質211を浸漬させて、正極活物質211の表面に前駆体層を被着させた後、前駆体層を焼成すればよい。
負極22を作製する場合、負極集電体22Aに負極活物質層22Bを形成する。具体的には、負極活物質と、負極結着剤及び負極導電剤等とを混合して、負極合剤とした後、負極合剤を有機溶剤等と混合して、ペースト状の負極合剤スラリーとする。そして、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布した後、負極合剤スラリーを乾燥させて、負極活物質層22Bを形成する。次に、ロールプレス機等を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型する。負極活物質層22Bの表面に負極絶縁層213を形成する手順は、例えば、以下のとおりである。尚、負極絶縁層213が絶縁性セラミックス及び絶縁性高分子化合物を含む場合を例にとり説明する。負極絶縁層213を形成する場合、絶縁性セラミックスの粒子と、絶縁性高分子化合物と、N−メチル−2−ピロリドン等の溶媒とを混合して、絶縁性セラミックスの粒子を溶媒中に分散させると共に、絶縁性高分子化合物を溶媒に溶解させる。そして、混合液中に負極22を浸漬させた後、混合液中から負極22を取り出して乾燥させる。これによって、混合液中の溶媒が揮発すると共に絶縁性高分子化合物が膜化するため、負極活物質層22Bの表面に負極絶縁層213が形成される。この場合、乾燥前に負極22を加圧して、負極絶縁層213の厚さを調整してもよい。混合液中に負極22を浸漬させる代わりに、混合液を負極活物質層22Bの表面に塗布してもよい。
あるいは又、負極絶縁層213を形成する場合、先ず、粉末状の絶縁性セラミックス80質量部と、絶縁性高分子化合物(ポリフッ化ビニリデン)20質量物とを混合した後、混合物を有機溶剤に分散させて、処理溶液を調製する。粉末状の絶縁性セラミックスとして、酸化アルミニウム〈Al2O3〉及び酸化ケイ素〈SiO2〉を用いる。絶縁性セラミックスの平均粒径d50を0.5μmとする。そして、処理溶液中に負極22を浸漬した後、グラビアローラを用いて負極22の表面に供給された処理溶液の厚さを調整する。そして、乾燥器を用いて処理溶液を120゜Cにて乾燥させて、処理溶液中の有機溶剤を揮発させる。こうして、負極活物質層22Bの表面に負極絶縁層213を形成することができる。負極絶縁層213の厚さを、例えば5μmとする。
セパレータ23Bの表面にセパレータ絶縁層214を形成する手順は、上記の負極絶縁層213を形成する手順と同様である。セパレータ絶縁層214が絶縁性高分子化合物だけを含む場合には、絶縁性セラミックスの粒子を用いないことを除き、セパレータ絶縁層214が絶縁性セラミックス及び絶縁性高分子化合物を含む場合と同様の手順を用いればよい。
あるいは又、セパレータ絶縁層214を形成する場合、先ず、負極絶縁層213を調製した場合と同様の手順に基づき、処理溶液を調製する。次いで、処理溶液中にセパレータ23を浸漬する。そして、処理溶液中からセパレータ23を引き上げた後、セパレータ23を水で洗浄する。そして、セパレータ23の表面に供給された処理溶液を熱風で80゜Cにて乾燥させて、処理溶液中の有機溶剤を揮発させる。こうして、セパレータ23の両面にセパレータ絶縁層214を形成することができる。セパレータ23の両面に形成されたセパレータ絶縁層214の厚さ(総厚)を、例えば4.5μmとする。
正極21及び負極22を用いてリチウムイオン二次電池を組み立てる場合、溶接法等を用いて、正極集電体21Aに正極リード25を取り付け、負極集電体22Aに負極リード26を取り付ける。そして、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層し、巻回し、巻回体の巻き終わり部分を粘着テープで固定することで巻回電極体20を作製した後、巻回電極体20の中心にセンターピン24を挿入する。次いで、一対の絶縁板12,13で巻回電極体20を挟みながら、巻回電極体20を電池缶11の内部に収納する。この場合、溶接法等を用いて、正極リード25の先端部を安全弁機構15に取り付けると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に取り付ける。その後、減圧方式に基づき電池缶11の内部に有機電解液を注入して、有機電解液をセパレータ23に含浸させる。次いで、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15及び熱感抵抗素子16をかしめる。
実施例5も実施例1〜実施例3の変形である。実施例5のリチウムイオン二次電池は、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池から成る。実施例5のリチウムイオン二次電池の模式的な分解斜視図を図5に示し、巻回電極体の矢印A−A線に沿った模式的な拡大断面図を図6に示す。
実施例5のリチウムイオン二次電池には、図5に示すように、フィルム状の外装部材40の内部に巻回電極体30が収納されている。巻回電極体30は、セパレータ35及び電解質層36を介して正極33と負極34とを積層した後、積層物を巻回することで作製することができる。正極33には正極リード31が取り付けられており、負極34には負極リード32が取り付けられている。巻回電極体30の最外周部は、保護テープ37によって保護されている。
正極リード31及び負極リード32は、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に突出している。正極リード31は、アルミニウム等の導電性材料から形成されている。負極リード32は、銅、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性材料から形成されている。これらの導電性材料は、例えば、薄板状又は網目状である。
外装部材40は、図5に示す矢印Rの方向に折り畳み可能な1枚のフィルムであり、外装部材40の一部には、巻回電極体30を収納するための窪みが設けられている。外装部材40は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。リチウムイオン二次電池の製造工程では、融着層同士が巻回電極体30を介して対向するように外装部材40を折り畳んだ後、融着層の外周縁部同士を融着する。但し、外装部材40は、2枚のラミネートフィルムが接着剤等を介して貼り合わされたものでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルムから成る。金属層は、例えば、アルミニウム箔等から成る。表面保護層は、例えば、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等から成る。中でも、外装部材40は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。但し、外装部材40は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。外装部材40は、具体的には、ナイロンフィルム(厚さ30μm)と、アルミニウム箔(厚さ40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ30μm)とが外側からこの順に積層された耐湿性のアルミラミネートフィルム(総厚100μm)から成る。
外気の侵入を防止するために、外装部材40と正極リード31との間、及び、外装部材40と負極リード32との間には、密着フィルム41が挿入されている。密着フィルム41は、正極リード31及び負極リード32に対して密着性を有する材料、例えば、ポリオレフィン樹脂等、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン等から成る。
図6に示すように、正極33は、正極集電体33Aの片面又は両面に正極活物質層33Bを有している。また、負極34は、負極集電体34Aの片面又は両面に負極活物質層34Bを有している。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、セパレータ35の構成、構造は、実施例4における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、セパレータ23の構成、構造と同様とすることができる。
実施例1〜実施例3において説明した方法に基づき、正極集電体の両面に正極活物質層を形成することで、正極21を作製する。
負極34を作製する場合、先ず、負極活物質(黒鉛)97質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部とを混合して、負極合剤とする。黒鉛の平均粒径d50を20μmとする。次いで、負極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)と混合して、ペースト状の負極合剤スラリーとする。そして、コーティング装置を用いて帯状の負極集電体34A(厚さ15μmの銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布した後、負極合剤スラリーを乾燥させて、負極活物質層34Bを形成する。そして、ロールプレス機を用いて負極活物質層34Bを圧縮成型する。
あるいは又、負極活物質(ケイ素)と負極結着剤の前駆体(ポリアミック酸)とを混合して、負極合剤とすることもできる。この場合、混合比を乾燥質量比でケイ素:ポリアミック酸=80:20とする。ケイ素の平均粒径d50を1μmとする。ポリアミック酸の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミドを用いる。また、圧縮成型の後、真空雰囲気中において負極合剤スラリーを、400゜C×12時間といった条件で加熱する。これによって、負極結着剤であるポリイミドが形成される。
電解質層36は、有機電解液及び保持用高分子化合物を含んでおり、有機電解液は、保持用高分子化合物によって保持されている。電解質層36は、所謂ゲル状の電解質であり、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、有機電解液の漏液が防止される。電解質層36は、更に、添加剤等の他の材料を含んでいてもよい。
保持用高分子化合物として、具体的には、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネートを例示することができる。保持用高分子化合物は共重合体であってもよい。共重合体として、具体的には、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体等を例示することができるが、中でも、電気化学的な安定性といった観点から、単独重合体としてポリフッ化ビニリデンが好ましく、共重合体としてフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。
有機電解液の構成は、円筒型のリチウムイオン二次電池に用いられる有機電解液の構成と同様である。但し、ゲル状の電解質である電解質層36において、有機電解液の溶媒とは、液状の材料だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、高分子化合物も溶媒に含まれる。ゲル状の電解質層36に代えて、有機電解液をそのまま用いてもよい。この場合、有機電解液が巻回電極体30に含浸される。
具体的には、電解質層36を形成する場合、先ず、有機電解液を調製する。そして、有機電解液と、保持用高分子化合物と、有機溶剤(炭酸ジメチル)とを混合して、ゾル状の前駆体溶液を調製する。保持用高分子化合物として、ヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとの共重合体(ヘキサフルオロプロピレンの共重合量=6.9質量%)を用いた。次いで、正極33及び負極34に前駆体溶液を塗布した後、前駆体溶液を乾燥させて、ゲル状の電解質層36を形成する。
実施例5のリチウムイオン二次電池にあっても、実施例4において説明したと同様に、正極33に含まれている正極活物質と負極22に含まれている負極活物質との間の領域(活物質間領域)のいずれかに、絶縁性材料を備えていてもよい。
ゲル状の電解質層36を備えたリチウムイオン二次電池は、例えば、以下の3種類の手順に基づき製造することができる。尚、以下の説明では、絶縁層212,213,214の形成手順は省略する。
第1の手順にあっては、先ず、実施例4における正極21及び負極22と同様の作製手順により、正極33及び負極34を作製する。即ち、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成し、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bを形成する。一方、有機電解液、保持用高分子化合物及び有機溶剤を混合して、ゾル状の前駆体溶液を調製する。そして、正極33及び負極34に前駆体溶液を塗布した後、前駆体溶液を乾燥させて、ゲル状の電解質層36を形成する。その後、溶接法等を用いて、正極集電体33Aに正極リード31を取り付け、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。次に、厚さ25μmの微孔性プリプロピレンフィルムから成るセパレータ35を介して正極33と負極34とを積層し、巻回して、巻回電極体30を作製した後、最外周部に保護テープ37を貼り付ける。その後、巻回電極体30を挟むように外装部材40を折り畳んだ後、熱融着法等を用いて外装部材40の外周縁部同士を接着させて、外装部材40の内部に巻回電極体30を封入する。尚、正極リード31及び負極リード32と外装部材40との間に密着フィルム(厚さ50μmの酸変性プロピレンフィルム)41を挿入しておく。
あるいは又、第2の手順にあっては、先ず、実施例4における正極21及び負極22と同様の作製手順により、正極33及び負極34を作製する。そして、正極33に正極リード31を取り付け、負極34に負極リード32を取り付ける。その後、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層し、巻回して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製した後、巻回体の最外周部に保護テープ37を貼り付ける。次いで、巻回体を挟むように外装部材40を折り畳んだ後、熱融着法等を用いて外装部材40の内の一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着し、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。一方、有機電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤等の他の材料とを混合して、電解質用組成物を調製する。そして、袋状の外装部材40の内部に電解質用組成物を注入した後、熱融着法等を用いて外装部材40を密封する。その後、モノマーを熱重合させて、高分子化合物を形成する。これによって、ゲル状の電解質層36が形成される。
あるいは又、第3の手順にあっては、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、第2の手順と同様にして、巻回体を作製して袋状の外装部材40の内部に収納する。セパレータ35に塗布される高分子化合物は、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体又は多元共重合体)等である。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン及びクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体等である。フッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種類又は2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。その後、有機電解液を調製して外装部材40の内部に注入した後、熱融着法等を用いて外装部材40の開口部を密封する。次いで、外装部材40に荷重を加えながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33及び負極34に密着させる。これによって、有機電解液が高分子化合物に含浸すると共に、高分子化合物がゲル化し、電解質層36が形成される。
第3の手順では、第1の手順よりもリチウムイオン二次電池の膨れが抑制される。また、第3の手順では、第2の手順と比較して、溶媒及び高分子化合物の原料であるモノマー等が電解質層36中に殆ど残存しないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。そのため、正極33、負極34及びセパレータ35と電解質層36とが十分に密着する。
実施例6においては、本開示のリチウムイオン二次電池(以下、単に、『二次電池』と呼ぶ場合がある)の適用例について説明する。
本開示の二次電池の用途は、本開示の二次電池を駆動用・作動用の電源又は電力蓄積用の電力貯蔵源として利用可能な機械、機器、器具、装置、システム(複数の機器等の集合体)であれば、特に限定されない。電源として使用される二次電池は、主電源(優先的に使用される電源)であってもよいし、補助電源(主電源に代えて、又は、主電源から切り換えて使用される電源)であってもよい。二次電池を補助電源として使用する場合、主電源は二次電池に限られない。
本開示の二次電池の用途として、具体的には、ビデオカメラやカムコーダ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、パーソナルコンピュータ、テレビジョン受像機、各種表示装置、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、音楽プレーヤ、携帯用ラジオ、電子ブックや電子新聞等の電子ペーパー、PDA(Personal Digital Assistant)を含む携帯用情報端末といった各種電子機器、電気機器(携帯用電子機器を含む);玩具;電気シェーバ等の携帯用生活器具;室内灯等の照明器具;ペースメーカや補聴器等の医療用電子機器;メモリーカード等の記憶用装置;着脱可能な電源としてパーソナルコンピュータ等に用いられる電池パック;電動ドリルや電動鋸等の電動工具;非常時等に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステム等の電力貯蔵システムやホームエネルギーサーバ(家庭用蓄電装置);蓄電ユニットやバックアップ電源;電動自動車、電動バイク、電動自転車、セグウェイ(登録商標)等の電動車両;航空機や船舶の電力駆動力変換装置(具体的には、例えば、動力用モータ)の駆動を例示することができるが、これらの用途に限定するものではない。
中でも、本開示の二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具、電子機器、電気機器等に適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本開示の二次電池を用いることで、有効に性能向上を図ることができる。電池パックは、二次電池を用いた電源であり、所謂組電池等である。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車等)であってもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されているため、電力を利用して家庭用の電気製品等が使用可能となる。電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリル等)が可動する工具である。電子機器や電気機器は、二次電池を作動用の電源(電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
以下、二次電池の幾つかの適用例について具体的に説明する。尚、以下で説明する各適用例の構成は、あくまで一例であり、構成は適宜変更可能である。
単電池を用いた電池パックを分解した模式的な斜視図を図7に示し、電池パック(単電池)の構成を表すブロック図を図8Aに示す。電池パックは、1つの二次電池を用いた簡易型の電池パック(所謂ソフトパック)であり、例えば、スマートフォンに代表される電子機器等に搭載される。電池パックは、ラミネートフィルム型の実施例5の二次電池から成る電源111、及び、電源111に接続された回路基板116を備えている。電源111には、正極リード112及び負極リード113が取り付けられている。
電源111の両側面には、一対の粘着テープ118,119が貼り付けられている。回路基板116には、保護回路(PCM:Protection Circuit Module)が設けられている。回路基板116は、タブ114を介して正極112に接続され、タブ115を介して負極リード113に接続されている。また、回路基板116には、外部接続用のコネクタ付きリード線117が接続されている。回路基板116が電源111に接続された状態において、回路基板116は、ラベル120及び絶縁シート121によって上下から保護されている。ラベル120を貼り付けることで、回路基板116及び絶縁シート121は固定される。回路基板116は、制御部121、スイッチ部122、PTC123、及び、温度検出部124を備えている。電源111は、正極端子125及び負極端子127を介して外部と接続可能であり、電源111は、正極端子125及び負極端子127を介して充放電される。温度検出部124は、温度検出端子(所謂、T端子)を介して温度を検出可能である。
電池パック全体の動作(電源111の使用状態を含む)を制御する制御部121には、中央演算処理装置(CPU)及びメモリ等が備えられている。制御部121は、電池電圧が過充電検出電圧に到達すると、スイッチ部122を切断することで、電源111の電流経路に充電電流が流れないようにする。また、制御部121は、充電時において大電流が流れると、スイッチ部122を切断し、充電電流を遮断する。その他、制御部121は、電池電圧が過放電検出電圧に到達すると、スイッチ部122を切断することで、電源111の電流経路に放電電流が流れないようにする。また、制御部121は、放電時において大電流が流れると、スイッチ部122を切断し、放電電流を遮断する。
二次電池の過充電検出電圧は、例えば、4.20ボルト±0.05ボルトであり、過放電検出電圧は、例えば、2.4ボルト±0.1ボルトである。
スイッチ部122は、制御部121の指示に応じて、電源111の使用状態(電源111と外部機器との接続の可否)を切り換える。スイッチ部122には、充電制御スイッチ及び放電制御スイッチ等が備えられている。充電制御スイッチ及び放電制御スイッチは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)等の半導体スイッチから成る。充放電電流は、例えば、スイッチ部122のオン抵抗に基づいて検出される。
サーミスタ等の温度検出素子126を備えた温度検出部124は、電源111の温度を測定し、測定結果を制御部121に出力する。温度検出部124の測定結果は、異常発熱時における制御部121による充放電制御、制御部121による残容量算出時における補正処理等に用いられる。
回路基板116にはPTC123が備えられていなくともよく、この場合、別途、回路基板116にPTC素子を配設すればよい。
次に、図8Aに示したとは別の電池パック(組電池)の構成を表すブロック図を図8Bに示す。この電池パックは、例えば、プラスチック材料等から作製された筐体60の内部に、制御部61、電源62、スイッチ部63、電流測定部64、温度検出部65、電圧検出部66、スイッチ制御部67、メモリ68、温度検出素子69、電流検出抵抗70、正極端子71、及び、負極端子72を備えている。
制御部61は、電池パック全体の動作(電源62の使用状態を含む)を制御し、例えば、CPU等を備えている。電源62は、例えば、実施例1〜実施例5において説明した2以上の二次電池(図示せず)を含む組電池であり、二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源62は、2並列3直列となるように接続された6つの二次電池を備えている。
スイッチ部63は、制御部61の指示に応じて電源62の使用状態(電源62と外部機器との接続の可否)を切り換える。スイッチ部63には、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオード及び放電用ダイオード(いずれも図示せず)が備えられている。充電制御スイッチ及び放電制御スイッチは、例えば、MOSFET等の半導体スイッチから成る。
電流測定部64は、電流検出抵抗70を用いて電流を測定し、測定結果を制御部61に出力する。温度検出部65は、温度検出素子69を用いて温度を測定し、測定結果を制御部61に出力する。温度測定結果は、例えば、異常発熱時における制御部61による充放電制御、制御部61による残容量算出時における補正処理等に用いられる。電圧検出部66は、電源62中における二次電池の電圧を測定し、測定電圧をアナログ−デジタル変換して制御部61に供給する。
スイッチ制御部67は、電流測定部64及び電圧検出部66から入力される信号に応じて、スイッチ部63の動作を制御する。スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部63(充電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に充電電流が流れないように制御する。これによって、電源62では、放電用ダイオードを介した放電のみが可能になる。また、スイッチ制御部67は、例えば、充電時に大電流が流れた場合に、充電電流を遮断する。更には、スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部63(放電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に放電電流が流れないようにする。これによって、電源62では、充電用ダイオードを介した充電のみが可能になる。また、スイッチ制御部67は、例えば、放電時に大電流が流れた場合に、放電電流を遮断する。
二次電池の過充電検出電圧は、例えば、4.20ボルト±0.05ボルトであり、過放電検出電圧は、例えば、2.4ボルト±0.1ボルトである。
メモリ68は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROM等から成る。メモリ68には、例えば、制御部61によって演算された数値や、製造工程段階で測定された二次電池の情報(例えば、初期状態の内部抵抗等)等が記憶されている。メモリ68に二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部61が残容量等の情報を把握することが可能となる。サーミスタ等から成る温度検出素子69は、電源62の温度を測定し、測定結果を制御部61に出力する。正極端子71及び負極端子72は、電池パックによって作動させられる外部機器(例えばパーソナルコンピュータ等)や、電池パックを充電するために用いられる外部機器等(例えば充電器等)に接続される端子である。電源62の充放電は、正極端子71及び負極端子72を介して行われる。
次に、電動車両の一例であるハイブリッド自動車といった電動車両の構成を表すブロック図を図9Aに示す。電動車両は、例えば、金属製の筐体73の内部に、制御部74、エンジン75、電源76、駆動用のモータ77、差動装置78、発電機79、トランスミッション80及びクラッチ81、インバータ82,83、並びに、各種センサ84を備えている。その他、電動車両は、例えば、差動装置78や、トランスミッション80に接続された前輪用駆動軸85、前輪86、後輪用駆動軸87、後輪88を備えている。
電動車両は、例えば、エンジン75又はモータ77のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン75は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジン等である。エンジン75を動力源とする場合、エンジン75の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80及びクラッチ81を介して前輪86又は後輪88に伝達される。エンジン75の回転力は発電機79にも伝達され、回転力を利用して発電機79が交流電力を発生させ、交流電力はインバータ83を介して直流電力に変換され、電源76に蓄積される。一方、変換部であるモータ77を動力源とする場合、電源76から供給された電力(直流電力)がインバータ82を介して交流電力に変換され、交流電力を利用してモータ77を駆動する。モータ77によって電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80及びクラッチ81を介して前輪86又は後輪88に伝達される。
図示しない制動機構を介して電動車両が減速すると、減速時の抵抗力がモータ77に回転力として伝達され、その回転力を利用してモータ77が交流電力を発生させるようにしてもよい。交流電力はインバータ82を介して直流電力に変換され、直流回生電力は電源76に蓄積される。
制御部74は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源76は、実施例1〜実施例5において説明した1又は2以上の二次電池(図示せず)を備えている。電源76は、外部電源と接続され、外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積する構成とすることもできる。各種センサ84は、例えば、エンジン75の回転数を制御すると共に、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。各種センサ84は、例えば、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサ等を備えている。
尚、電動車両がハイブリッド自動車である場合について説明したが、電動車両は、エンジン75を用いずに電源76及びモータ77だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
次に、電力貯蔵システムの構成を表すブロック図を図9Bに示す。電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅及び商業用ビル等の家屋89の内部に、制御部90、電源91、スマートメータ92、及び、パワーハブ93を備えている。
電源91は、例えば、家屋89の内部に設置された電気機器(電子機器)94に接続されていると共に、家屋89の外部に停車している電動車両96に接続可能である。また、電源91は、例えば、家屋89に設置された自家発電機95にパワーハブ93を介して接続されていると共に、スマートメータ92及びパワーハブ93を介して外部の集中型電力系統97に接続可能である。電気機器(電子機器)94は、例えば、1又は2以上の家電製品を含んでいる。家電製品として、例えば、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、給湯器等を挙げることができる。自家発電機95は、例えば、太陽光発電機や風力発電機等から構成されている。電動車両96として、例えば、電動自動車、ハイブリッド自動車、電動オートバイ、電動自転車、セグウェイ(登録商標)等を挙げることができる。集中型電力系統97として、商用電源、発電装置、送電網、スマートグリッド(次世代送電網)を挙げることができるし、また、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所、風力発電所等を挙げることもできるし、集中型電力系統97に備えられた発電装置として、種々の太陽電池、燃料電池、風力発電装置、マイクロ水力発電装置、地熱発電装置等を例示することができるが、これらに限定するものではない。
制御部90は、電力貯蔵システム全体の動作(電源91の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源91は、実施例1〜実施例5において説明した1又は2以上の二次電池(図示せず)を備えている。スマートメータ92は、例えば、電力需要側の家屋89に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能である。そして、スマートメータ92は、例えば、外部と通信しながら、家屋89における需要・供給のバランスを制御することで、効率的で安定したエネルギー供給が可能となる。
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統97からスマートメータ92及びパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積されると共に、独立電源である自家発電機95からパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積される。電源91に蓄積された電力は、制御部90の指示に応じて電気機器(電子機器)94及び電動車両96に供給されるため、電気機器(電子機器)94の作動が可能になると共に、電動車両96が充電可能になる。即ち、電力貯蔵システムは、電源91を用いて、家屋89内における電力の蓄積及び供給を可能にするシステムである。
電源91に蓄積された電力は、任意に利用可能である。そのため、例えば、電気料金が安価な深夜に集中型電力系統97から電源91に電力を蓄積しておき、電源91に蓄積しておいた電力を電気料金が高い日中に用いることができる。
以上に説明した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)毎に設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)毎に設置されていてもよい。
次に、電動工具の構成を表すブロック図を図9Cに示す。電動工具は、例えば、電動ドリルであり、プラスチック材料等から作製された工具本体98の内部に、制御部99及び電源100を備えている。工具本体98には、例えば、可動部であるドリル部101が回動可能に取り付けられている。制御部99は、電動工具全体の動作(電源100の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源100は、実施例1〜実施例5において説明した1又は2以上の二次電池(図示せず)を備えている。制御部99は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、電源100からドリル部101に電力を供給する。
以上、本開示を好ましい実施例に基づき説明したが、本開示はこれらの実施例に限定するものではなく、種々の変形が可能である。例えば、電池構造が円筒型及びラミネートフィルム型であり、リチウムイオン二次電池が巻回構造を有する場合や、コイン型を例に挙げて説明したが、これらに限定するものではなく、本開示のリチウムイオン二次電池は、ボタン型、平板型、角型等の電池構造を有していてもよいし、積層構造等の他の構造を有していてもよい。
正極活物質を、以下の表6、表7、表8に示す材料から構成したところ、実施例1〜実施例3と概ね同等の性能を有するリチウムイオン二次電池を得ることができた。
以下、前述したリチウムイオン二次電池を構成する負極等について、詳述する。
正極結着剤あるいは負極結着剤として、具体的には、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエンといった合成ゴム;ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドといった高分子材料等を例示することができる。また、導電剤として、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料を例示することができるが、導電性を有する材料であれば、金属材料、導電性高分子等とすることもできる。
負極を構成する材料として、例えば、炭素材料を挙げることができる。炭素材料は、リチウムの吸蔵・放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が安定して得られる。また、炭素材料は負極導電剤としても機能するため、負極活物質層の導電性が向上する。炭素材料として、例えば、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、黒鉛(グラファイト)を挙げることができる。但し、難黒鉛化性炭素における(002)面の面間隔は0.37nm以上であることが好ましいし、黒鉛における(002)面の面間隔は0.34nm以下であることが好ましい。より具体的には、炭素材料として、例えば、熱分解炭素類;ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークスといったコークス類;ガラス状炭素繊維;フェノール樹脂、フラン樹脂等の高分子化合物を適当な温度で焼成(炭素化)することで得ることができる有機高分子化合物焼成体;活性炭;カーボンブラック類を挙げることができる。また、炭素材料として、その他、約1000゜C以下の温度で熱処理された低結晶性炭素を挙げることもできるし、非晶質炭素とすることもできる。炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状、鱗片状のいずれであってもよい。
あるいは又、負極を構成する材料として、例えば、金属元素、半金属元素のいずれかを、1種類又は2種類以上、構成元素として含む材料(以下、『金属系材料』と呼ぶ)を挙げることができ、これによって、高いエネルギー密度を得ることができる。金属系材料は、単体、合金、化合物のいずれであってもよいし、これらの2種類以上から構成された材料でもよいし、これらの1種類又は2種類以上の相を少なくとも一部に有する材料であってもよい。合金には、2種類以上の金属元素から成る材料の他、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含む材料も含まれる。また、合金は、非金属元素を含んでいてもよい。金属系材料の組織として、例えば、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、及び、これらの2種類以上の共存物を挙げることができる。
金属元素、半金属元素として、例えば、リチウムと合金を形成可能である金属元素、半金属元素を挙げることができる。具体的には、例えば、マグネシウム〈Mg〉、ホウ素〈B〉、アルミニウム〈Al〉、ガリウム〈Ga〉、インジウム〈In〉、ケイ素〈Si〉、ゲルマニウム〈Ge〉、スズ〈Sn〉、鉛〈Pb〉、ビスマス〈Bi〉、カドミウム〈Cd〉、銀〈Ag〉、亜鉛〈Zn〉、ハフニウム〈Hf〉、ジルコニウム〈Zr〉、イットリウム〈Y〉、パラジウム〈Pd〉、白金〈Pt〉を例示することができるが、中でも、ケイ素〈Si〉やスズ〈Sn〉が、リチウムを吸蔵・放出する能力が優れており、著しく高いエネルギー密度が得られるといった観点から、好ましい。
ケイ素を構成元素として含む材料として、ケイ素の単体、ケイ素合金、ケイ素化合物を挙げることができるし、これらの2種類以上から構成された材料であってもよいし、これらの1種類又は2種類以上の相を少なくとも一部に有する材料であってもよい。スズを構成元素として含む材料として、スズの単体、スズ合金、スズ化合物を挙げることができるし、これらの2種類以上から構成された材料であってもよいし、これらの1種類又は2種類以上の相を少なくとも一部に有する材料であってもよい。単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体を意味しており、微量の不純物を含んでいてもよく、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
ケイ素合金あるいはケイ素化合物を構成するケイ素以外の元素として、スズ〈Sn〉、ニッケル〈Ni〉、銅〈Cu〉、鉄〈Fe〉、コバルト〈Co〉、マンガン〈Mn〉、亜鉛〈Zn〉、インジウム〈In〉、銀〈Ag〉、チタン〈Ti〉、ゲルマニウム〈Ge〉、ビスマス〈Bi〉、アンチモン〈Sb〉、クロム〈Cr〉を挙げることができるし、炭素〈C〉、酸素〈O〉を挙げることもできる。ケイ素合金あるいはケイ素化合物として、具体的には、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOv(0<v≦2、好ましくは、0.2<v<1.4)、LiSiOを例示することができる。
スズ合金あるいはスズ化合物を構成するスズ以外の元素として、ケイ素〈Si〉、ニッケル〈Ni〉、銅〈Cu〉、鉄〈Fe〉、コバルト〈Co〉、マンガン〈Mn〉、亜鉛〈Zn〉、インジウム〈In〉、銀〈Ag〉、チタン〈Ti〉、ゲルマニウム〈Ge〉、ビスマス〈Bi〉、アンチモン〈Sb〉、クロム〈Cr〉を挙げることができるし、炭素〈C〉、酸素〈O〉を挙げることもできる。スズ合金あるいはスズ化合物として、具体的には、SnOw(0<w≦2)、SnSiO3、LiSnO、Mg2Snを例示することができる。特に、スズを構成元素として含む材料は、例えば、スズ(第1構成元素)と共に第2構成元素及び第3構成元素を含む材料(以下、『Sn含有材料』と呼ぶ)であることが好ましい。第2構成元素として、例えば、コバルト〈Co〉、鉄〈Fe〉、マグネシウム〈Mg〉、チタン〈Ti〉、バナジウム〈V〉、クロム〈Cr〉、マンガン〈Mn〉、ニッケル〈Ni〉、銅〈Cu〉、亜鉛〈Zn〉、ガリウム〈Ga〉、ジルコニウム〈Zr〉、ニオブ〈Nb〉、モリブデン〈Mo〉、銀〈Ag〉、インジウム〈In〉、セシウム〈Ce〉、ハフニウム〈Hf〉、タンタル〈Ta〉、タングステン〈W〉、ビスマス〈Bi〉、ケイ素〈Si〉を挙げることができるし、第3構成元素として、例えば、ホウ素〈B〉、炭素〈C〉、アルミニウム〈Al〉、リン〈P〉を挙げることができる。Sn含有材料が第2構成元素及び第3構成元素を含んでいると、高い電池容量及び優れたサイクル特性等が得られる。
中でも、Sn含有材料は、スズ〈Sn〉、コバルト〈Co〉及び炭素〈C〉を構成元素として含む材料(『SnCoC含有材料』と呼ぶ)であることが好ましい。SnCoC含有材料にあっては、例えば、炭素の含有量が9.9質量%乃至29.7質量%、スズ及びコバルトの含有量の割合{Co/(Sn+Co)}が20質量%乃至70質量%である。高いエネルギー密度が得られるからである。SnCoC含有材料は、スズ、コバルト及び炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性又は非晶質であることが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であるため、その反応相の存在により優れた特性が得られる。この反応相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅(回折角2θ)は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1度/分とした場合、1度以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵・放出されると共に、有機電解液との反応性が低減するからである。SnCoC含有材料は、低結晶性又は非晶質の相に加えて、各構成元素の単体又は一部が含まれている相を含んでいる場合もある。
X線回折により得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断することができる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合、例えば、低結晶性又は非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20度乃至50度の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記の各構成元素を含んでおり、主に、炭素の存在に起因して低結晶化又は非晶質化しているものと考えられる。
SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が金属元素又は半金属元素と結合していることが好ましい。スズ等の凝集、結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態に関しては、例えば、軟X線源としてAl−Kα線又はMg−Kα線等を用いたX線光電子分光法(XPS)を用いて確認可能である。炭素の少なくとも一部が金属元素又は半金属元素等と結合している場合、炭素の1s軌道(C1s)の合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。尚、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるように、エネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面に表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとして、そのピークをエネルギー基準とする。XPS測定において、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形で得られる。そのため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析して、両者のピークを分離すればよい。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
SnCoC含有材料は、構成元素がスズ、コバルト及び炭素だけである材料(SnCoC)に限られない。SnCoC含有材料は、例えば、スズ、コバルト及び炭素に加えて、ケイ素〈Si〉、鉄〈Fe〉、ニッケル〈Ni〉、クロム〈Cr〉、インジウム〈In〉、ニオブ〈Nb〉、ゲルマニウム〈Ge〉、チタン〈Ti〉、モリブデン〈Mo〉、アルミニウム〈Al〉、リン〈P〉、ガリウム〈Ga〉、ビスマス〈Bi〉等のいずれか1種類又は2種類以上を構成元素として含んでいてもよい。
SnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄及び炭素を構成元素として含む材料(以下、『SnCoFeC含有材料』と呼ぶ)も好ましい材料である。SnCoFeC含有材料の組成は任意である。一例を挙げると、鉄の含有量を少なめに設定する場合、炭素の含有量が9.9質量%乃至29.7質量%、鉄の含有量が0.3質量%乃至5.9質量%、スズ及びコバルトの含有量の割合{Co/(Sn+Co)}が30質量%乃至70質量%である。また、鉄の含有量を多めに設定する場合、炭素の含有量が11.9質量%乃至29.7質量%、スズ、コバルト及び鉄の含有量の割合{(Co+Fe)/(Sn+Co+Fe)}が26.4質量%乃至48.5質量%、コバルト及び鉄の含有量の割合{Co/(Co+Fe)}が9.9質量%乃至79.5質量%である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。SnCoFeC含有材料の物性(半値幅等)は、上記のSnCoC含有材料の物性と同様である。
その他、負極を構成する材料として、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデンといった金属酸化物;ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロールといった高分子化合物を挙げることができる。
中でも、負極を構成する材料は、以下の理由により、炭素材料及び金属系材料の双方を含んでいることが好ましい。即ち、金属系材料、特に、ケイ素及びスズの少なくとも一方を構成元素として含む材料は、理論容量が高いという利点を有する反面、充放電時において激しく膨張収縮し易い。一方、炭素材料は、理論容量が低い反面、充放電時において膨張収縮し難いという利点を有する。よって、炭素材料及び金属系材料の双方を用いることで、高い理論容量(云い換えれば、電池容量)を得つつ、充放電時の膨張収縮が抑制される。
尚、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
[A01]《リチウムイオン二次電池・・・第1の態様》
正極活物質及び有機電解液を備えており、
正極活物質は、リチウム、リン、元素M1及び酸素を含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から成り、
元素M1は、ニッケル、コバルト、マンガン、金、銀及びパラジウムから成る群から選択された1種類の元素であり、
正極活物質の表面には、実質的に酸化リチウムが存在していないリチウムイオン二次電池。
[A02] 正極活物質の表面には炭酸リチウムが存在する[A01]に記載のリチウムイオン二次電池。
[A03]有機電解液は、溶媒及び電解質塩を含み、
電解質塩は過塩素酸リチウムから成る[A01]又は[A02]に記載のリチウムイオン二次電池。
[A04]溶媒は炭酸エステル系溶媒から成る[A03]に記載のリチウムイオン二次電池。
[A05]溶媒はエチレンカーボネート及び/又はジエチルカーボネートから成る[A04]に記載のリチウムイオン二次電池。
[A06]正極活物質は、窒化リン酸リチウムによって被覆されている[A01]乃至[A05]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
[A07]4.0ボルト以上で充電が行われる[A01]乃至[A06]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
[B01]《リチウムイオン二次電池:第2の態様》
正極活物質及び有機電解液を備えており、
正極活物質は、リチウム、リン、元素M1及び酸素を含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から成り、
元素M1は、ニッケル、コバルト、マンガン、金、銀及びパラジウムから成る群から選択された1種類の元素であり、
正極活物質の表面には炭酸リチウムが存在するリチウムイオン二次電池。
[B02]有機電解液は、溶媒及び電解質塩を含み、
電解質塩は過塩素酸リチウムから成る[B01]に記載のリチウムイオン二次電池。
[B03]溶媒は炭酸エステル系溶媒から成る[B02]に記載のリチウムイオン二次電池。
[B04]溶媒はエチレンカーボネート及び/又はジエチルカーボネートから成る[B03]に記載のリチウムイオン二次電池。
[B05]正極活物質は、窒化リン酸リチウムによって被覆されている[B01]乃至[B04]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
[B06] 4.0ボルト以上で充電が行われる[B01]乃至[B05]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
[C01]《リチウムイオン二次電池:第3の態様》
正極活物質及び有機電解液を備えており、
正極活物質は、リチウム、リン、元素M1及び酸素を含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から成り、
元素M1は、ニッケル、コバルト、マンガン、金、銀及びパラジウムから成る群から選択された1種類の元素であり、
有機電解液は、溶媒及び電解質塩を含み、
電解質塩は過塩素酸リチウムから成るリチウムイオン二次電池。
[C02]溶媒は炭酸エステル系溶媒から成る[C01]に記載のリチウムイオン二次電池。
[C03]溶媒はエチレンカーボネート及び/又はジエチルカーボネートから成る[C02]に記載のリチウムイオン二次電池。
[C04]正極活物質は、窒化リン酸リチウムによって被覆されている[C01]乃至[C03]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
[C05]4.0ボルト以上で充電が行われる[C01]乃至[C04]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
[D01]《リチウムイオン二次電池:第4の態様》
正極活物質及び有機電解液を備えており、
正極活物質は、リチウム、リン、元素M1及び酸素を含有するアモルファス状態のリチウムリン酸化合物から成り、
元素M1は、ニッケル、コバルト、マンガン、金、銀及びパラジウムから成る群から選択された1種類の元素であり、
正極活物質は、窒化リン酸リチウムによって被覆されているリチウムイオン二次電池。
[D02]4.0ボルト以上で充電が行われる[D01]に記載のリチウムイオン二次電池。
[E01]《電池パック》
[A01]乃至[D02]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池、
リチウムイオン二次電池の動作を制御する制御部、及び、
制御部の指示に応じてリチウムイオン二次電池の動作を切り換えるスイッチ部、
を備えている電池パック。
[E02]《電動車両》
[A01]乃至[D02]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池、
リチウムイオン二次電池から供給された電力を駆動力に変換する変換部、
駆動力に応じて駆動する駆動部、及び、
リチウムイオン二次電池の動作を制御する制御部
を備えている電動車両。
[E03]《電力貯蔵システム》
[A01]乃至[D02]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池、
リチウムイオン二次電池から電力を供給される1又は2以上の電気機器、及び、
リチウムイオン二次電池からの電気機器に対する電力供給を制御する制御部、
を備えている電力貯蔵システム。
[E04]《電動工具》
[A01]乃至[D02]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池、及び、
リチウムイオン二次電池から電力を供給される可動部、
を備えている電動工具。
[E05]《電子機器》
[A01]乃至[D02]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を電力供給源として備えている電子機器。