JP2016063764A - ヒト血液に含まれる希少細胞の単離方法、及び、遺伝子関連検査の方法 - Google Patents

ヒト血液に含まれる希少細胞の単離方法、及び、遺伝子関連検査の方法 Download PDF

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Abstract

【課題】染色体DNAを損傷させにくい、ヒト血液に含まれる希少細胞の単離方法、及び、優れた検出力を有する、遺伝子関連検査の方法を提供する。【解決手段】ヒト血液に含まれる細胞を基板上に載置する載置工程と、基板上に載置された細胞を光学機器で解析して希少細胞を識別する識別工程と、識別された希少細胞に、プロテアーゼ及びヘパリンを含有する処理液を、基板上で接触させる接触工程と、処理液に接触した希少細胞を基板上から回収する回収工程と、を含む、希少細胞の単離方法、及び、該希少細胞の単離方法により、ヒト血液に含まれる希少細胞を単離し、単離された希少細胞から染色体DNAを増幅して行う、遺伝子関連検査の方法。【選択図】なし

Description

本発明は、ヒト血液に含まれる希少細胞の単離方法、及び、遺伝子関連検査の方法に関する。
出生前遺伝学的検査として、従来、羊水穿刺により採取した羊水から胎児由来細胞を単離し、胎児由来細胞中の染色体を調べる羊水染色体検査が行われてきた。しかし、羊水穿刺には流産を引き起こす可能性がある。容易で且つ侵襲性の低い採取法で妊娠母体から生体試料を得て、その生体試料から胎児由来細胞を単離できれば、安全性の高い出生前遺伝学的検査が実現できる。例えば末梢血は、容易で且つ侵襲性の低い採取法で採取可能な生体試料である。妊娠母体の血液中に胎児の細胞が移行し血液とともに母体内を循環していることが知られており、妊娠母体より採取した末梢血から胎児由来細胞を単離して、この細胞を用いて出生前遺伝学的検査をすることが考えられる。
しかし、妊娠母体の血液中に存在する胎児由来細胞(例えば、胎児由来の有核赤血球)は、母体血数ml中に1個程度しか存在しない希少細胞である。母体血から確実に胎児由来細胞を単離することが、出生前遺伝学的検査を行うために必要である。
血液細胞の中から有核赤血球または胎児由来細胞を識別する方法としては、光学機器によって行う方法があり、例えば、特許文献1〜4に開示されている。特許文献1には、細胞質を染色して透過可視光の吸収画像を生成し、励起光を照射して核の蛍光画像を形成し、細胞質と核のコントラスト画像を用いて有核赤血球を判別する方法が開示されている。特許文献2には、血液をスライドガラスに塗抹し、胎児由来細胞を形態により識別し胎児由来細胞のみを採取する標的細胞自動探索方法が開示されている。特許文献3には、ヘモグロビンの最大吸収波長付近の波長の光を用いて測光を行い、血球の種別を判別する血球種類識別装置が開示されている。特許文献4には、生体組織の光学的性質を利用した生体情報分析装置が開示されている。
特表2002−514304号公報 特表2004−248619号公報 特開昭58−115346号公報 特開2014−14485号公報
光学機器によって血液細胞の中から希少細胞を識別する方法は、希少細胞を確実に単離するために有用な方法である。しかし、この方法は、細胞に様々なストレス(例えば、細胞染色液による化学的刺激、光学機器からの光エネルギー照射、細胞を基板上から回収する器具による機械的刺激)を与える。
一方で、細胞由来の染色体DNAを解析するためには、解析に十分な量のDNAを得る目的で、微量の染色体DNAを増幅する必要がある。本発明者が、基板上から回収した有核赤血球からDNAを増幅し解析を行ったところ、塩基配列が再現性よく決定されなかったり、染色体の異数性が再現性よく検出されなかったりした。この理由として、回収した有核赤血球の染色体DNAが損傷を受けていることが推測された。
本発明は、上記状況のもとになされた。
本発明の課題は、染色体DNAを損傷させにくい、ヒト血液に含まれる希少細胞の単離方法を提供することである。
本発明の別の課題は、優れた検出力を有する、遺伝子関連検査の方法を提供することである。
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
[1] ヒト血液に含まれる細胞を基板上に載置する載置工程と、基板上に載置された細胞を光学機器で解析して希少細胞を識別する識別工程と、識別された希少細胞に、プロテアーゼ及びヘパリンを含有する処理液を、基板上で接触させる接触工程と、処理液に接触した希少細胞を基板上から回収する回収工程と、を含む、希少細胞の単離方法。
[2] ヒト血液が、妊娠母体より採取された血液である、[1]に記載の希少細胞の単離方法。
[3] 希少細胞が有核赤血球である、[1]又は[2]に記載の希少細胞の単離方法。
[4] プロテアーゼがプロテイナーゼである、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
[5] 処理液は、プロテアーゼ濃度が10μg/mL以上1000μg/mL以下である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
[6] 処理液は、プロテアーゼ濃度が20μg/mL以上100μg/mL以下である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
[7] 処理液は、ヘパリン濃度が0.5単位/mL以上30単位/mL以下である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
[8] 接触工程は、識別工程で識別された希少細胞に処理液を3分間以上接触させる工程である、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
[9] 識別工程は、載置工程で基板上に載置された細胞を画像解析して希少細胞を識別すること、及び、載置工程で基板上に載置された細胞を分光学的に解析して希少細胞を識別すること、の少なくともいずれかを含む、[1]〜[8]のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
[10] [1]〜[9]のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法により、ヒト血液に含まれる希少細胞を単離し、単離された希少細胞から染色体DNAを増幅して行う、遺伝子関連検査の方法。
[11] 検査対象が胎児である、[10]に記載の遺伝子関連検査の方法。
[12] 染色体の異数性の有無の検出、遺伝子多型の検出、及び、遺伝子変異の検出の少なくともいずれかを行う、[10]又は[11]に記載の遺伝子関連検査の方法。
[13] 単離された希少細胞から全ゲノム増幅を行う工程を含む、[10]〜[12]のいずれか1項に記載の遺伝子関連検査の方法。
本発明によれば、染色体DNAを損傷させにくい、ヒト血液に含まれる希少細胞の単離方法が提供される。
本発明によれば、優れた検出力を有する、遺伝子関連検査の方法が提供される。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
以下に、本発明の実施の形態について説明する。これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
本発明の希少細胞の単離方法(単に「細胞単離方法」とも言う)は、ヒト血液に含まれる希少細胞を単離することを目的とする。本発明の細胞単離方法は、ヒト血液に含まれる細胞を基板上に載置する載置工程と、基板上に載置された細胞を光学機器で解析して希少細胞を識別する識別工程と、識別された希少細胞に、プロテアーゼ及びヘパリンを含有する処理液を、基板上で接触させる接触工程と、処理液に接触した希少細胞を基板上から回収する回収工程と、を含む。
本発明の細胞単離方法の目的となる希少細胞は、ヒト血液に含まれる、血液中の他の細胞に対する存在比が極めて低い細胞を指し、例えば、妊娠母体より採取された血液に含まれる胎児由来の有核赤血球、がん患者より採取された血液に含まれる血中循環腫瘍細胞、等が挙げられる。
本発明の遺伝子関連検査の方法(単に「検査方法」とも言う)は、本発明の細胞単離方法によりヒト血液に含まれる希少細胞を単離し、単離された希少細胞から染色体DNAを増幅して行う、検査方法である。本発明の検査方法には、遺伝学的検査(ヒト個体が生来的に保有する遺伝情報を明らかにする検査)および遺伝子検査(病状とともに変化し得る遺伝子情報を明らかにする検査)が含まれる。本発明の検査方法は、例えば、染色体の異数性の有無の検出、遺伝子多型の検出、及び、遺伝子変異の検出の少なくともいずれかを行う検査に適用される。本発明の検査方法は、より具体的には、例えば、胎児を検査対象にした遺伝学的検査、がん患者を検査対象にした遺伝子検査、等に適用される。
本発明の細胞単離方法は、単離する希少細胞の染色体DNAを損傷させにくい。また、本発明の検査方法は、優れた検出力を有する。その理由は、特定のメカニズムに拘束されるものではないが、以下に説明するメカニズムによるものと推測される。
血液に含まれる希少細胞を確実に単離するための方法として、細胞を基板上で光学機器によって解析する識別方法は有用な方法であるが、この識別方法は解析のために細胞に各種のストレス(例えば、細胞染色液による化学的刺激、光学機器からの光エネルギー照射)を与える。また、この識別方法は、解析の方法によっては、細胞を基板上で乾燥させることがある。したがって、基板上に載置されて光学機器による解析を受けた希少細胞は、染色体DNAが損傷を受けやすい状態になっていると考えられる。
しかも、基板上からの希少細胞の回収は、通常、先端の鋭利なガラス器具をマイクロマニピュレータで操作して行われる。基板上の希少細胞の染色体は損傷を受けやすい状態になっている上、ガラス器具の先端による機械的刺激も加わって、回収の際に、染色体DNAの一本鎖あるいは二本鎖が切断されたり、染色体DNAが断片化したりすると考えられる。また、断片化した染色体DNAの一部が基板上に残留することもあると予想される。さらに、損傷を受けやすい状態になっている染色体DNAは、回収後の保管中にも、切断されたり分解されたりしていると考えられる。
このような損傷を染色体DNAが受けているため、染色体DNAを増幅した際に期待どおりの増幅がなされず、塩基配列が再現性よく決定されなかったり、染色体の異数性が再現性よく検出されなかったりすることがあると考えられる。
上記事象に対して、本発明の細胞単離方法は、基板上の希少細胞に、プロテアーゼ及びヘパリンを含有する処理液を接触させる。この処理液の作用によって、細胞が軟らかくなり、また細胞が基板から剥がれやすくなり、回収の際の機械的ストレスが低減され、回収の際に起こり得る染色体DNA損傷が抑制されるものと考えられる。さらに、酸性ムコ多糖類であるヘパリンの保水作用が、基板上で及び回収の際に細胞が受けるストレスを低減し、その結果として、染色体DNA損傷を抑制していることも考えられる。また、細胞回収後の保管中においても、染色体DNA損傷の発生が抑制されるものと考えられる。
以上に説明した各効果の相乗効果により、本発明の細胞単離方法により単離された希少細胞の染色体DNAは、損傷の存在率が低く、安定して増幅すると推測される。したがって、本発明の細胞単離方法を適用した本発明の検査方法は、優れた検出力を発揮すると推測される。
以下、本発明の細胞単離方法が有する各工程、本発明の検査方法が有する各工程、希少細胞などについて詳細に説明する。
<希少細胞の単離方法>
本発明の細胞単離方法は、ヒト血液に含まれる希少細胞を単離する方法である。本発明において血液には、血液そのもの、及び、生理食塩水で希釈した血液;血液にグルコースや抗血液凝固剤等の添加剤を加えた保存血液;これらの分画物;などの血液試料が含まれる。
本発明の細胞単離方法の目的となる、ヒト血液に含まれる希少細胞としては、例えば、妊娠母体より採取された血液に含まれる胎児由来の有核赤血球、がん患者より採取された血液に含まれる血中循環腫瘍細胞、等が挙げられる。
[胎児由来の有核赤血球]
胎児由来の有核赤血球は、胎盤を通過して母体血中に存在する赤血球前駆体であり、母体血中の細胞の約10個に1個の割合で存在するといわれる希少細胞である。母体が妊娠中には、胎児の赤血球は有核であり得る。有核赤血球には染色体が存在するため、胎児由来の有核赤血球を単離することで、胎児染色体および胎児遺伝子の入手が可能となる。
胎児由来の有核赤血球を単離する目的で妊娠母体より採取される血液としては、母体血、臍帯血など、胎児由来の有核赤血球が存在することが知られている血液であればよく、妊娠母体への侵襲性を極力抑える観点で、母体末梢血が好ましい。
妊娠母体の末梢血には、母親由来の好酸球、好中球、好塩基球、単核球、リンパ球等の白血球;母親由来の、核のない成熟した赤血球;母親由来の有核赤血球;胎児由来の有核赤血球;などの血液細胞が含まれる。胎児由来の有核赤血球は、妊娠後6週程度から母体血中に存在するといわれている。したがって、胎児由来の有核赤血球の単離を目的とする場合、本発明に供する血液は、妊娠後6週程度以降の妊娠母体より採取した末梢血、又は、妊娠後6週程度以降の妊娠母体より採取した末梢血から調製した血液試料であることが好ましい。
[血中循環腫瘍細胞]
がん患者の血液中を循環する腫瘍細胞が知られており、血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell;CTC)と呼ばれている。CTCは、血球成分10〜10個に約1個の割合で存在するといわれる希少細胞である。CTCは、転移がんの早期診断、がんの治療効果の判定、患者の予後予測などに有用性が認められつつある。
胎児由来の有核赤血球やCTC等の希少細胞は、光学機器を用いた解析(「光学的解析」とも言う)により、血液中に存在するその他の細胞と区別され単離され得る。光学的解析は、好ましくは、画像解析及び/又は分光学的解析である。光学的解析を容易にするため、光学的解析に先だって、希少細胞を濃縮することが好ましい。
例えば有核赤血球は、血液を密度勾配遠心分離に供し濃縮する方法が知られている。例えばCTCは、血液細胞との大きさ及び形態の違いを利用してフィルターを用いて血液細胞と分離し濃縮する方法が知られている(例えば、特開2011−163830号公報、特開2013−42689号公報)。
以下、有核赤血球の密度勾配遠心分離について詳しく説明する。
[有核赤血球の密度勾配遠心分離による濃縮]
有核赤血球は、密度勾配遠心分離により、血液中に存在する血漿成分やその他の血液細胞と分離され得る。有核赤血球を分離するための密度勾配遠心分離は、公知の方法を適用してよい。例えば、密度(比重)の異なる2種類の媒体を遠沈管に重層した不連続密度勾配の上に、生理食塩水で希釈した血液を重層して遠心を行うことにより、有核赤血球を分画し濃縮できる。
国際公開第2012/023298号に、胎児由来の有核赤血球を含めた母体の血球の密度が記載されている。その記載によると、想定される胎児由来の有核赤血球の密度は、1.065〜1.095g/mL程度、母親の血球の密度は、赤血球が1.070〜1.120g/mL程度、好酸球が1.090〜1.110g/mL程度、好中球が1.075〜1.100g/mL程度、好塩基球が1.070〜1.080g/mL程度、リンパ球が1.060〜1.080g/mL程度、単核球が1.060〜1.070g/mL程度である。
密度1.065〜1.095g/mL程度の胎児由来の有核赤血球を、ほかの血液細胞と分離するために、積層する媒体の密度(比重)が設定される。胎児由来の有核赤血球の中心の密度は1.080g/mL程度であるため、この密度をはさむ2つの異なる密度の媒体を隣接して重層することで、その界面に胎児由来の有核赤血球を有する画分を集めることが可能となる。好ましくは、下層の媒体の密度を1.08g/mL〜1.10g/mL(より好ましくは1.08g/mL〜1.09g/mL)、上層の媒体の密度を1.06g/mL〜1.08g/mL(より好ましくは1.065g/mL〜1.08g/mL)とする。本発明では、下層の媒体と上層の媒体は同じ種類でも異なる種類でもよく、同じ種類の媒体を用いることが好ましい。
媒体としては、ポリビニルピロリドンでコートされた直径15nm〜30nmのケイ酸コロイド粒子分散液であるPercoll(登録商標)、ショ糖から作られた側鎖に富んだ中性の親水性ポリマーであるFicoll-Paque(登録商標)、ポリスクロースとジアトリゾ酸ナトリウムを含むHistopaque(登録商標)等が挙げられる。本発明では、Percoll及び/又はHistopaqueを使用することが好ましい。Percollは、密度1.130の製品が市販されており、水で希釈することで密度勾配を調製することが可能である。Histopaqueは、市販されている密度1.077の媒体及び密度1.119の媒体と水とを用いて密度勾配を調製することが可能である。
2層の不連続密度勾配は、例えば以下のようにして遠沈管に形成する。まず、凝固点以上かつ14℃以下(好ましくは8℃以下)の温度状態にある下層の媒体を遠沈管の底部に収容する、又は、下層の媒体を遠沈管の底部に収容したのち14℃以下(好ましくは8℃以下)の温度下で保存して冷却する。次に、下層の媒体の上に上層の媒体を重層する。
[載置工程]
載置工程は、血液に含まれる細胞を光学機器で解析するために、血液に含まれる細胞を基板上へ載置する工程である。基板は、透明基板が好ましく、スライドガラスがより好ましい。
血液に含まれる細胞の基板上への載置は、例えば、血液又は血液試料を基板上に付与することにより行われる。付与の手段としては、例えば、滴下及び/又は塗抹が挙げられる。基板上に付与された血液又は血液試料は、液体状態を保ったままでもよく、乾燥されてもよい。
単離対象が胎児由来の有核赤血球である場合、載置工程は、血液(好ましくは、密度勾配遠心分離の分画物)を基板上に塗抹し乾燥させ、血液に含まれる細胞を基板上に固定する工程であることが好ましい。細胞が基板上に固定されると、基板上での細胞の染色処理が容易になる。
単離対象がCTCである場合、フィルターを用いてCTCを血液細胞及び血漿成分と分離し濃縮する処理を行うことが好ましく、この濃縮処理においてCTCをフィルター上に残留させることをもって、血液に含まれる細胞を基板上へ載置する工程としてもよい。
載置工程は、ヒト血液に含まれる細胞であって、血漿成分から実質的に分離された細胞を、基板上へ載置する工程であることが好ましい。血漿成分には様々な生理活性成分が含まれているので、希少細胞および染色体DNA、並びに、本発明における接触工程で使用する処理液に対する、意図しない作用を抑制するためである。
血液中の細胞と血漿成分との分離は、例えば、遠心分離及び/又はフィルトレーションによって可能である。細胞と血漿成分とを分離する観点でも、血液を密度勾配遠心分離等にかけて希少細胞を濃縮することが好ましい。
[識別工程]
識別工程は、血液に含まれる希少細胞を他の細胞から識別するために、基板上に載置された細胞を光学機器で解析する工程である。光学的解析は、好ましくは、画像解析及び/又は分光学的解析である。画像解析と分光学的解析はいずれか一方を行ってもよいが、確実に希少細胞を識別する観点で、両方を行うことが好ましい。
基板上に載置された細胞は、細胞の画像解析を行うため、光学的解析の前に、染色及び/又は蛍光標識されることが好ましい。細胞の染色法および蛍光標識法は、特に制限されず、画像解析の原理に沿って公知の方法で行ってよい。細胞の染色法としては、例えば、ギムザ染色、メイ・グリュンワルド・ギムザ染色が挙げられる。細胞の蛍光標識法としては、蛍光標識した抗体を細胞表面抗原に反応させる、いわゆる蛍光染色が挙げられる。細胞の染色および蛍光標識は、基板上に載置された細胞に対して行ってもよく、基板上に載置される前、例えば、希少細胞を濃縮する処理の前後に血液又は血液試料に対して行ってもよい。
−細胞の画像解析−
細胞の画像解析は、希少細胞の候補を選ぶ目的で、基板(好ましくは透明基板)上の細胞の形態情報及び/又は蛍光イメージを取得して解析する。細胞の形態情報及び/又は蛍光イメージは、光学顕微鏡、デジタルカメラ、スライドガラス用のステージ、光学搬送系、画像処理用パーソナルコンピュータ(PC)、制御用PC、及びディスプレイを装備したシステムによって、標本から取得され画像解析されることが好ましい。光学搬送系は、例えば、対物レンズとCCDカメラを備える。画像処理用PCは、例えば、データ解析、データ記憶を行う処理系を備える。制御用PCは、例えば、スライドガラス用のステージの位置制御や、全体の処理を制御する制御系を備える。
以下に、有核赤血球を例にして、形態情報の解析の詳細を説明する。
胎児由来の有核赤血球の候補は、細胞質の面積に対する核の面積の割合、核の円形度、核の面積、等によって識別可能である。確実性の観点で、細胞質の面積に対する核の面積の割合、及び核の円形度、の少なくとも一方の条件(好ましくは両方の条件)を満たす細胞を、胎児由来の有核赤血球候補として識別することが好ましい。
細胞質の面積に対する核の面積の割合については、下記の式(a)を満たす細胞を選択することが好ましい。核の円形度については、下記の式(b)を満たす細胞を選択することが好ましい。
(a)0.25<(N/C)<1.0
(b)0.65<(N/(L×L))<0.785
式中、Cは、細胞質の面積、Nは、核の面積、Lは、核の長径の長さ、又は、複雑な形をした核に外接する楕円の長径の長さ、である。
式(a)及び式(b)を満たす細胞の中で、核の形状が真円あるいは楕円に近い順に順位をつけ、順位の高いものから優先して以降の工程に供してもよい。また、有核赤血球の由来を判別する工程まで行って、順位の高い複数個の中に胎児由来の細胞が含まれていなかった場合、次に順位の高い複数個の細胞を解析してもよい。
単離対象がCTCである場合は、例えば、蛍光色素で標識した抗EpCAM抗体で細胞を蛍光染色し、基板上の細胞の蛍光イメージを取得して解析することによって、EpCAM陽性細胞をCTCとして識別することが可能である。
−細胞の分光学的解析−
分光学的解析としては、希少細胞に特徴的な構造物または化合物に起因する吸光を測定する解析が挙げられる。細胞の分光学的解析は、画像解析によって希少細胞の候補を識別した後、この候補細胞について解析し、候補細胞が目的の希少細胞であることを確認する目的で、及び/又は、候補細胞から目的の希少細胞でない細胞を除く目的で、行われることが好ましい。
有核赤血球を単離する場合は、分光学的解析として、ヘモグロビンに起因する吸光を測定する解析が挙げられる。赤血球はヘモグロビンを有することを特徴とし、ヘモグロビンを有する点でほかの血液細胞と異なる。ヘモグロビンを有する赤血球は、青と緑の光(特には400nm〜500nm及び525nm〜580nmの波長領域の光)を吸収し、赤色に見えることが知られている。したがって、上記波長領域の単波長の光(単色光)を血液細胞に照射し吸光度を測定することで、赤血球をほかの血液細胞と区別し得る。細胞の吸光度の測定は、顕微分光光度計によって可能である。顕微分光光度計は、顕微鏡の光学系を利用する分光光度計であり、市販の装置であってよい。
以下に、有核赤血球を例にして、分光学的解析の詳細を説明する。
画像解析によって識別した有核赤血球候補と、その近傍に存在する白血球(形態情報により白血球と予想される細胞)とについて、細胞の吸光度を測定し、吸光係数を求めて、吸光係数を比べる。例えば415nm近傍の単色光を照射した場合、赤血球の吸光係数と白血球の吸光係数との比(赤血球/白血球)は1以上である。この赤血球の吸光係数と白血球の吸光係数との比が大きい順に優先順位をつけて、有核赤血球候補とすることが好ましい。白血球の吸光係数は、有核赤血球候補に近い2個〜20個の白血球について細胞の吸光度を測定し、2個〜20個の吸光係数の平均を求めることが好ましい。
[接触工程]
接触工程は、識別した希少細胞を基板上から回収するに先立ち、プロテアーゼ及びヘパリンを含有する処理液を、基板上で希少細胞に接触させる工程である。処理液と接触した細胞は、軟らかくなり、また、基板上から剥がれやすくなる。
プロテアーゼは、ペプチド結合を加水分解する酵素の総称である。ペプシンやトリプシン等の消化酵素;酵素前駆体やペプチドホルモン前駆体を切断し酵素やホルモンを生成する酵素;などが挙げられる。
プロテアーゼは、プロテイナーゼとペプチダーゼとに分類される。プロテイナーゼは、タンパク質又はペプチド鎖の非末端のペプチド結合を加水分解する酵素で、エンドペプチダーゼともいわれる。ペプチダーゼは、タンパク質又はペプチド鎖の末端のペプチド結合を加水分解する酵素で、エキソペプチダーゼともいわれる。処理液に含まれるペプチダーゼ(エキソペプチダーゼ)としては、アミノ末端を切断するアミノペプチダーゼ及びカルボキシ末端を切断するカルボキシペプチダーゼのいずれでもよい。
処理液には、プロテイナーゼ及びペプチダーゼから選ばれる少なくとも1種が含まれていればよく、プロテイナーゼから選ばれる少なくとも1種が含まれていることが好ましい。
処理液に含まれるプロテイナーゼ(エンドペプチダーゼ)としては、例えば、トリプリン、キモトリプシン、エラスターゼ、プロテイナーゼK等のセリンプロテアーゼ;ペプシン、キモシン、カテプシンD等のアスパラギン酸プロテアーゼ;パパイン、カルパイン等のシステインプロテアーゼ;グルタミン酸プロテアーゼ;金属プロテアーゼ;などが挙げられる。
ヘパリンは、ウロン酸とグルコサミンとの繰り返し構造を有する酸性ムコ多糖類である。ヘパリンは、分子中に多数の硫酸基が含まれ負に帯電しており、生体内で種々の生理活性物質と相互作用することが知られている。
処理液中のプロテアーゼ濃度は、本発明の効果により優れる点で、10μg/mL以上が好ましく、20μg/mL以上がより好ましく、25μg/mL以上が更に好ましく、30μg/mL以上が更に好ましく;遺伝子関連検査に意図しない影響を及ぼさないように、1000μg/mL以下が好ましく、500μg/mL以下がより好ましく、200μg/mL以下が更に好ましく、100μg/mLが更に好ましい。
処理液中のヘパリン濃度は、本発明の効果により優れる点で、0.5単位/mL以上が好ましく、2単位/mL以上がより好ましく、5単位/mL以上が更に好ましく、10単位/mL以上が更に好ましく;遺伝子関連検査に意図しない影響を及ぼさないように、30単位/mL以下が好ましく、25単位/mL以下がより好ましく、20単位/mLが更に好ましい。
本発明において、ヘパリン1単位は、日本薬局方のヘパリンナトリウム定量法による単位(日本薬局方単位)である。
処理液の溶媒としては、水が好ましい。処理液には、ほかに、キレート剤や塩等が含まれていてもよい。これらの成分は、プロテアーゼの市販試薬及び/又はヘパリンの市販試薬に含まれていて、処理液に持ち込まれた成分でもよい。
処理液のpHは、プロテアーゼ及びヘパリンの活性の観点で、4.0〜8.5が好ましく、6.0〜7.5がより好ましい。
基板上で希少細胞に接触させる際の処理液の温度は、作業効率の観点で室温と同じでよく、例えば20℃〜40℃でよい。
処理液と希少細胞との接触は、例えば、希少細胞1個ずつに処理液を滴下し、希少細胞が処理液で濡れた状態で静置することにより実施される。希少細胞の少なくとも一部が処理液に接触すればよく、細胞全体が処理液に浸ることが好ましい。
処理液と希少細胞との接触時間は、1分間以上が好ましく、2分間以上がより好ましく、3分間以上がより好ましく、5分間以上がより好ましく、8分間以上が更に好ましい。接触時間の上限は、特に制限されないが、例えば30分間以下でよい。
[回収工程]
回収工程は、処理液に接触した希少細胞を、基板上から1個ずつ回収する工程である。希少細胞の回収は、例えば、鋭利な先端を有するガラス器具をマイクロマニピュレータで操作して希少細胞を基板上から剥離し、基板上から剥離された希少細胞をガラス管内に回収することにより行われる。
<遺伝子関連検査の方法>
本発明の遺伝子関連検査の方法(単に「検査方法」とも言う)は、ヒト血液から単離された希少細胞を用い、この希少細胞から染色体DNAを増幅して行う。本発明の検査方法に供される希少細胞は、本発明の細胞単離方法によって単離された希少細胞である。希少細胞は、例えば、胎児由来の有核赤血球、血中循環腫瘍細胞である。
本発明の検査方法は、例えば、染色体の異数性の有無の検出、遺伝子多型の検出、及び、遺伝子変異の検出の少なくともいずれかを行う検査に適用される。本発明の検査方法は、より具体的には、例えば、胎児を検査対象にした遺伝学的検査、がん患者を検査対象にした遺伝子検査、等に適用される。本発明の検査方法は、例えば、胎児の出生前遺伝学的検査において、13番染色体、18番染色体、及び21番染色体のトリソミー;性染色体の過剰;等の染色体の異数性の有無の検出に適用される。
本発明の検査方法は、公知の遺伝子検査の方法、及び公知の遺伝子解析技術を適用して実施してよい。本発明の検査方法は、染色体DNAの解析を容易にする目的で、希少細胞から全ゲノム増幅(whole genome amplification;WGA)を行う工程を含むことが好ましい。さらに、本発明の検査方法は、例えば、全ゲノム増幅の増幅産物を鋳型にして、染色体上の目的領域をポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction;PCR)により増幅する増幅工程と、増幅した目的領域の塩基配列及び量を決定する配列解析工程と、を含むことが好ましい。
[全ゲノム増幅]
全ゲノム増幅の方法は、特に制限されず、公知の方法で行ってよい。全ゲノム増幅は、例えば、界面活性剤とタンパク質分解酵素を用いて細胞を溶解させる工程と、細胞から溶出したゲノムDNAを鋳型にしてDNAポリメラーゼによってDNAを増幅する工程と、を含む。
全ゲノム増幅は、市販の試薬を適用して行ってよい。PCRに基く試薬としては、例えば、PicoPLEX WGA Kit(New England Biolabs社)、GenomePlex Single Cell Whole Genome Amplification Kit(Sigma-Aldrich社)、国際公開第2012/166425号に開示のMALBAC法(Multiple Annealing and Looping-Based Amplification Cycles)に係る試薬が挙げられる。鎖置換型DNA合成反応に基く試薬としては、例えば、GenomiPhi DNA Amplification Kit(GEヘルスケア社、GenomiPhiは登録商標)、REPLI-g Single Cell Kit(QIAGEN社、REPLI-gは登録商標)が挙げられる。本発明では、PicoPLEX WGA Kit(New England Biolabs社)を用いることが好ましい。
全ゲノム増幅は、その終了後にアガロースゲル電気泳動を行って、増幅の有無を確認することが好ましい。全ゲノム増幅の増幅産物は、精製することが好ましい。精製は、例えば、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社、QIAquickは登録商標)を用いて行う。増幅産物の量は、例えば、NanoDrop(登録商標、Thermo Fisher Scientific社)、BioAnalyzer(Agilent社)、Quantus Fluorometer(Promega社)を用いて濃度を測定することで確認し得る。
[増幅工程]
増幅工程は、全ゲノム増幅で得た増幅産物を鋳型にして、目的領域をPCRにより増幅する工程である。目的領域(増幅される領域)は、遺伝学的検査又は遺伝子検査の目的に応じて選択される、染色体上の領域である。PCRに使用するプライマー対の塩基配列は、目的領域の塩基配列とシークエンサーの解析原理とに従って設計される。増幅工程は、染色体上の複数の領域を解析する目的で、複数のプライマー対を用いて複数の目的領域の多重増幅を行う多重PCR(マルチプレックスPCR)としてもよい。増幅工程は、シークエンサーの解析原理に従って、PCRを1回行ってもよく2回以上行ってもよい。
増幅工程で得た増幅産物は、精製することが好ましく、精製は、例えば、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社)、AMPure XP Kit(BECKMAN COULTER社)を用いて行う。増幅産物の量は、例えば、NanoDrop(Thermo Fisher Scientific社)、BioAnalyzer(Agilent社)、Quantus Fluorometer(Promega社)、KAPA Library Quantification Kits(日本ジェネティクス社)を用いて濃度を測定することで確認し得る。
[配列解析工程]
配列解析工程は、増幅された目的領域の塩基配列と量とを決定する工程である。配列解析工程は、各種のシークエンサーによって行われる。増幅工程で得た増幅産物の全部又は一部が、配列解析工程でシークエンサーにかけられる物質であり、増幅産物が、いわばシークエンス用ライブラリーである。
シークエンサーで得られた配列データをアライメントする手段としては、Burrows-Wheeler Aligner(BWA)が挙げられ、BWAによって既知のヒトゲノム配列へ配列データをマッピングすることが好ましい。遺伝子を解析する手段としては、SAMtools及びBEDtoolsが挙げられ、これらの解析手段により遺伝子多型、遺伝子変異、及び染色体数を解析することが好ましい。
配列解析工程で解析した、増幅された目的領域の塩基配列と量とから、染色体の異数性の有無、遺伝子多型、及び/又は遺伝子変異が検出される。染色体の異数性の検出方法の一例を、母体血由来の有核赤血球を試料にした場合を例にして、以下に説明する。
[胎児由来の有核赤血球の同定]
妊娠母体より採取した血液中の有核赤血球には、母親由来の有核赤血球と胎児由来の有核赤血球とが混在しており、胎児由来の有核赤血球であることの同定が必要となる。遺伝子配列により個人を識別する方法としては、対立遺伝子を調べてそこに存在する遺伝子多型を検出する方法が挙げられる。一例として、父子関係の判別には、遺伝子多型の一種であるSTR(short tandem repeat)を検出する方法が適用されており、個人の識別には、SNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)を検出する方法が適用されている。本発明では、配列解析工程で得た配列情報に基き、例えば、対立遺伝子上のSTR及び/又はSNPの差異により胎児由来細胞と母親由来細胞とを識別する。好ましくは、白血球(白血球は母親由来であることがほぼ確実である)を取得して、STR及び/又はSNPを同様に解析することで、胎児由来細胞の同定の確実性を高めることがよい。
[男児の場合のY染色体検出]
妊娠母体の超音波検査で胎児が男児であると確認されている場合、単離した有核赤血球内にY染色体が存在することを確認すれば、胎児由来の有核赤血球であると同定し得る。細胞内のY染色体の有無を検出する方法としては、Y染色体特異的な蛍光プローブを用いるFISH(Fluorescence in situ hybridization)法が知られている。FISH法の検査キットの一例として、CEP X/Y DNA Probe Kit(Abbott社、CEPは登録商標)が挙げられる。本発明では、Y染色体に特異的な塩基配列を有するプライマー対を作製しPCRを用い、その増幅の有無を確認することにより、男児の胎児由来の有核赤血球であることを同定するのが好ましい。
[染色体の異数性の有無の検出]
胎児由来の有核赤血球と同定された細胞から得た染色体について、増幅産物量を例えば次世代シークエンサーで解析する。基準(あるいは参照)として、母親由来の有核赤血球と同定された細胞から得た染色体について、増幅産物量を例えば次世代シークエンサーで解析する。胎児が染色体の異数性を有しなければ、母親由来の増幅産物量と胎児由来の増幅産物量とは、ほぼ1:1の量比になると予想される。増幅領域が位置する染色体が胎児においてトリソミーである場合には、母親由来の増幅産物量と胎児由来の増幅産物量とは、ほぼ1.0:1.5(あるいは2:3)の量比になると予想される。
本発明の検査方法においては、以下の方法で、カットオフ値を予め決定しておき、このカットオフ値を解析結果の解釈に使用してもよい。
染色体の異数性を有しない胎児を妊娠したことが判明している複数母体より採取された血液から、本発明の検査方法によって母親由来の増幅産物量に対する胎児由来の増幅産物量の比を解析し、その分布を求める。また、トリソミーの胎児を妊娠したことが判明している複数母体より採取された血液から、本発明の検査方法によって母親由来の増幅産物量に対する胎児由来の増幅産物量の比を解析し、その分布を求める。この2つの分布が重ならない領域をカットオフ値とする。このカットオフ値と、検査対象における母親由来の増幅産物量に対する胎児由来の増幅産物量の比とを比較して、その比がカットオフ値以下であれば胎児はトリソミーでなく、その比がカットオフ値以上であれば胎児はトリソミーである、との解釈をなし得る。
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[末梢血の採取]
抗凝固剤としてEDTA(エチレンジアミン四酢酸)のナトリウム塩10.5mg入りの7mL採血管に、妊婦ボランティア1名から末梢血7mLを採取した。その後、生理食塩水を用いて血液を希釈した。なお、妊婦ボランティアにインフォームドコンセントを行って採血した。
[密度勾配遠心分離による有核赤血球の濃縮]
Percoll液(シグマアルドリッチ社製)を使用して、密度1.075の液と密度1.095の液を調製し、遠沈管に密度1.095の液2mLを入れ、4℃下に30分間置き冷却した。その後、密度1.095の液の上に、密度1.075の液2mLを、界面が乱れないようにゆっくり重層した。続けて、密度1.075の液の上に、希釈した血液11mLをゆっくり重層し、遠心分離を2000rpmで30分間行った。次いで、密度1.075の液と密度1.095の液の間に沈積した画分を、ピペットを用いて採取した。
[基板への血液の載置]
片手でスライドガラス1を保持し、その一端に、採取した画分を1滴点着した。もう一方の手で別のスライドガラス2を持ち、一端をスライドガラス1に15度の角度で接触させ、スライドガラス2の接触下面を画分に触れさせ、毛管現象により2枚のスライドガラスに囲まれた空間に画分を広げた。次に上記角度を保ったまま、スライドガラス2を、スライドガラス1の画分を置いた領域と反対の領域の方向に滑らせて、スライドガラス1上に画分を均一に塗抹した。塗抹後、送風で1時間以上かけて十分に乾燥させた。
[基板上での細胞の染色]
画分を塗抹したスライドガラス1をメイ・グリュンワルド染色液に3分間浸漬し、次いでリン酸緩衝液に浸漬して洗浄後、ギムザ染色液(リン酸緩衝液で希釈して濃度3%(v/v)とした)に10分間浸漬した。次いで、純水で洗浄後、乾燥させた。こうして、画像解析用の標本スライドを複数枚作製した。
[画像解析による有核赤血球の識別]
電動XYステージ、対物レンズ及びCCDカメラを備えた光学顕微鏡と、XYステージ制御部及びZ方向制御部を備えた制御部と、画像入力部、画像処理部、及びXY位置記録部を備えた解析部と、を備えた画像解析システムを準備した。標本スライドをXYステージに乗せて、標本スライド上に焦点を合わせてスキャンし、光学顕微鏡から画像を解析部に取り込み、有核赤血球を探索した。
画像解析によって、下記の式(a)及び式(b)を満たす細胞を検出し、有核赤血球候補として識別し、XY位置を記録した。核の形状が真円あるいは楕円に近い順に優先順位をつけ、有核赤血球候補とした。
(a)0.25<(N/C)<1.0
(b)0.65<(N/(L×L))<0.785
式中、Cは、細胞質の面積、Nは、核の面積、Lは、核の長径の長さ、又は、複雑な形をした核に外接する楕円の長径の長さ、である。
[分光学的解析による有核赤血球の識別]
画像解析を行い細胞の形態情報により識別した、標本スライド上の有核赤血球候補10個を1個ずつ、顕微分光光度計を用いて分析した。即ち、有核赤血球候補に415nm近傍の単色光を照射し吸光度を測定した。次に、その有核赤血球候補の近傍にある白血球と予想される細胞(式(a)及び式(b)を満たさない細胞)5個について同様にして吸光度を測定した。有核赤血球候補の吸光係数と、白血球と予想される細胞の吸光係数(細胞5個の平均値)との比(赤血球/白血球)が1以上である場合、その有核赤血球候補を、より有力な有核赤血球候補と識別した。有核赤血球候補10個について上記の測定を行い、吸光係数の比が大きい順に、有核赤血球候補として8個を識別した。
識別した有核赤血球候補8個の中から1個ずつ、以下の実施例1〜5及び比較例1〜3に使用した。
<実施例1>
[有核赤血球への処理液の接触]
室温(25℃)下で、DNaseフリー水に、プロテアーゼとしてプロテイナーゼK(和光純薬工業(株)製、商品名「プロティナーゼK」)、及びヘパリンナトリウム(和光純薬工業(株)製)を混合して、処理液を作製した。処理液のpH、プロテアーゼ及びヘパリンの濃度は表1に示すとおりである。
処理液をマイクロピペットに取り、有核赤血球候補1個に、細胞が浸る量を静かに滴下し、6分間静置した。
[有核赤血球の回収]
6分間静置したのち、処理液に接触した有核赤血球候補を、標本スライド上から剥離し回収した。具体的には、マイクロマニピュレータでガラス針とガラス管(内径≦0.6mm)を操作し、ガラス針で細胞を標本スライド上から剥離し、ガラス管内に回収した。
[全ゲノム増幅]
回収した有核赤血球候補から、PicoPLEX WGA Kit(New England Biolabs社)を用いて、本キットの添付文書に則り全ゲノム増幅を行った。本キットによれば、約100万倍の増幅が期待できる。
得られた増幅産物は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社)を用いて不純物を除去することで精製した。精製後の増幅産物の濃度を、Quantus Fluorometer dsDNA System(Promega社)を用いて測定した。増幅産物の濃度を、下記の基準で評価した。結果を表1に示す。
−評価基準−
A:期待した増幅量が増幅されている。
B:わずかに増幅量が少ないが、各種の検査に問題なく使用可能である。
C:増幅量が少ないが、検査目的によって使用が可能である。
D:増幅量が少なく、検査に影響を与える可能性がある。
E:ほとんど増幅されていない。
<実施例2〜5>
処理液及び/又は静置時間を表1に示すとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、[有核赤血球への処理液の接触]を実施した。その後、実施例1と同様にして[有核赤血球の回収]及び[全ゲノム増幅]を実施し、増幅産物の濃度を評価した。結果を表1に示す。
<比較例1>
処理液をDNaseフリー水に変更したこと以外は実施例1と同様にして、[有核赤血球への処理液の接触]を実施した。その後、実施例1と同様にして[有核赤血球の回収]及び[全ゲノム増幅]を実施し、増幅産物の濃度を評価した。結果を表1に示す。
<比較例2>
室温(25℃)下で、DNaseフリー水に、プロテアーゼとしてプロテイナーゼK(和光純薬工業(株)製、商品名「プロティナーゼK」)を混合して、処理液を作製した。処理液のpH、プロテアーゼの濃度は表1に示すとおりである。この処理液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、[有核赤血球への処理液の接触]を実施した。その後、実施例1と同様にして[有核赤血球の回収]及び[全ゲノム増幅]を実施し、増幅産物の濃度を評価した。結果を表1に示す。
<比較例3>
室温(25℃)下で、DNaseフリー水にヘパリンナトリウム(和光純薬工業(株)製)を混合して、処理液を作製した。処理液のpH、ヘパリンの濃度は表1に示すとおりである。この処理液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、[有核赤血球への処理液の接触]を実施した。その後、実施例1と同様にして[有核赤血球の回収]及び[全ゲノム増幅]を実施し、増幅産物の濃度を評価した。結果を表1に示す。
実施例1〜5は、検査に使用可能な量の増幅産物が得られた。一方、比較例1〜3は、検査に使用するに足る量の増幅産物が得られなかった。このことから、実施例1〜5は、スライドガラス上から細胞を回収する際に、染色体DNAを損傷させにくいことが分かる。
したがって、本発明によれば、染色体DNAを損傷させにくい、血液に含まれる希少細胞の単離方法、及び、優れた検出力を有する、遺伝子関連検査の方法が提供される。

Claims (13)

  1. ヒト血液に含まれる細胞を基板上に載置する載置工程と、
    基板上に載置された前記細胞を光学機器で解析して希少細胞を識別する識別工程と、
    識別された前記希少細胞に、プロテアーゼ及びヘパリンを含有する処理液を、基板上で接触させる接触工程と、
    前記処理液に接触した前記希少細胞を基板上から回収する回収工程と、
    を含む、希少細胞の単離方法。
  2. 前記ヒト血液が、妊娠母体より採取された血液である、請求項1に記載の希少細胞の単離方法。
  3. 前記希少細胞が有核赤血球である、請求項1又は請求項2に記載の希少細胞の単離方法。
  4. 前記プロテアーゼがプロテイナーゼである、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
  5. 前記処理液は、プロテアーゼ濃度が10μg/mL以上1000μg/mL以下である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
  6. 前記処理液は、プロテアーゼ濃度が20μg/mL以上100μg/mL以下である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
  7. 前記処理液は、ヘパリン濃度が0.5単位/mL以上30単位/mL以下である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
  8. 前記接触工程は、前記識別工程で識別された希少細胞に前記処理液を3分間以上接触させる工程である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
  9. 前記識別工程は、前記載置工程で基板上に載置された細胞を画像解析して希少細胞を識別すること、及び、前記載置工程で基板上に載置された細胞を分光学的に解析して希少細胞を識別すること、の少なくともいずれかを含む、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法。
  10. 請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の希少細胞の単離方法により、ヒト血液に含まれる希少細胞を単離し、単離された前記希少細胞から染色体DNAを増幅して行う、遺伝子関連検査の方法。
  11. 検査対象が胎児である、請求項10に記載の遺伝子関連検査の方法。
  12. 染色体の異数性の有無の検出、遺伝子多型の検出、及び、遺伝子変異の検出の少なくともいずれかを行う、請求項10又は請求項11に記載の遺伝子関連検査の方法。
  13. 単離された前記希少細胞から全ゲノム増幅を行う工程を含む、請求項10〜請求項12のいずれか1項に記載の遺伝子関連検査の方法。
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