JP2016044359A - クランクシャフト及びクランクシャフト用鋼材 - Google Patents
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Abstract
Description
化学成分が、C:0.50〜0.90%、Si:0.05〜1.30%、Mn:0.40〜1.50%、S:0.025%以下、Cr:0.05〜1.60%、Al:0.001〜0.050%、O:0.0010%以下、N:0.0200%以下を含有し、残部がFeと不純物元素からなると共に、下記式(1)及び(2)を満足し、
式(1):[C]−[Si]/20+[Mn]/40+[Cr]/7<1
式(2):[C]+[Si]/7+[Mn]/4+[Cr]/4<1.25
(ここで、[X]は、元素Xの含有量(質量%)の値を意味する。)
上記転動面を鏡面研磨して形成した観察面において10箇所の異なる位置を観察した場合の、10mm2視野に含まれる最大介在物の円相当径の平均値が15μm以下であり、
上記転動面は、高周波焼入処理が施されており、マルテンサイト組織からなると共に、最表面から少なくとも深さ1.5mmの範囲の硬さが650HV以上であり、
上記高周波焼入処理の影響が及んでいない母材部は、フェライト・パーライト組織またはパーライト組織であり、初析セメンタイトを含まない金属組織からなると共に、硬さが320HV以下であることを特徴とするクランクシャフトにある。
C:0.50〜0.90%、
C(炭素)は、転動疲労寿命特性を向上させるために基本となる必須の元素である。Cの含有によって、焼入及び焼戻しを行なった後の硬度を向上させることができる。Cの含有量が上記上限値よりも多い場合には、初析セメンタイトが生成し被削性が悪化するおそれがある。一方、Cの含有量が上記下限値よりも少ない場合には、C含有による効果が十分に得られないおそれがある。
Si(ケイ素)は、製鋼時の脱酸材として不可欠な元素である。また、Siの含有により、焼入性を向上させることができる。Siの含有量が上記上限値よりも多い場合には、硬さが高くなり過ぎて被削性が悪化するおそれがある。一方、Siの含有量が上記下限値よりも少ない場合には、Si含有による効果が十分に得られないおそれがある。
Mn(マンガン)は、焼入性向上に有効であると共に、Sと結合しMnSを生成し被削性の向上を図るために有効な元素である。Mn含有量が上記上限値よりも多い場合には、初析セメンタイトやベイナイトが生成して被削性が低下するおそれがある。一方、Mn含有量が上記下限値よりも少ない場合には、Mn含有による効果が十分に得られないおそれがある。
S(硫黄)は、Mnと結合しMnSを生成し、被削性を向上させる効果を有する。S含有量が上記上限値よりも高い場合には、MnSが粗大化しやすく転動疲労寿命特性が低下するおそれがある。一方、S含有量が上記下限値よりも少ない場合には、S含有による効果が十分に得られないおそれがある。
Cr(クロム)は、焼入性を高める効果を発揮する。Cr含有量が上記上限値よりも多い場合には、初析セメンタイトやベイナイトが生成して被削性が低下するおそれがある。一方、Cr含有量が上記下限値よりも少ない場合には、Cr含有による効果が十分に得られないおそれがある。
Al(アルミニウム)は、脱酸材として必要な元素である。Al含有量が上記上限値よりも多い場合には、粗大な酸化物系介在物が生成しやすく、転動疲労寿命特性が低下するおそれがある。一方、Al含有量が上記下限値よりも少ない場合には、Alによる脱酸効果が十分に得られないおそれがある。
N(窒素)は、不純物として不可避に鋼中に含有される元素である。本願においては、特にNの含有によって何らかの効果を狙うことはしていないが、上記上限値よりも多量に含有すると溶解後の鋳造時に割れが発生しやすくなるおそれが生じる。
O(酸素)は、転動疲労寿命特性を低下させる酸化物系介在物を生成させる元素であり、表面を内輪の役割を果たしうる転動面として利用可能とするためには、極力低減する必要がある。そのため、O含有量を上記の通り上限値を厳しく制限する。好ましくは、O含有量は0.0008%以下がよい。
式(1):[C]−[Si]/20+[Mn]/40+[Cr]/7<1
式(2):[C]+[Si]/7+[Mn]/4+[Cr]/4<1.25
Mo(モリブデン)は、焼入性を高める元素であり、上記下限値以上の添加によりこの効果を得ることができる。一方、Mo含有量が上記上限値を超えるとMo含有による上記効果が飽和し、コストが上昇するだけとなる。
B(ホウ素)は、鋼中に固溶することで焼入性を高めることができる元素であり、上記下限値以上の添加によりこの効果を得ることができる。一方、B添加量が上記上限値を超える場合には、靱性低下の可能性があり、好ましくない。
Ti(チタン)は、不純物として不可避に含有されるNと結合してTiNを形成し、BNが生成することによりBの焼入性向上効果が消失するのを防止することができる元素であり、上記下限値以上の添加によりこの効果を得ることができる。一方、Ti含有量が上記上限値を超えるとTi含有による上記効果が飽和し、コストが上昇するだけとなる。
Nb(ニオブ)及びV(バナジウム)は、いずれも、微細な炭化物を生成し、焼入時のオーステナイト粒を微細化し、靭性を向上させる効果を発揮する元素であり、上記下限値以上の添加によりこの効果を得ることができる。一方、Nb、Vともに、含有量が上記上限値を超えると上記効果が飽和し、コストが上昇するだけとなる。
Ca(カルシウム)は、被削性向上に有効な元素であり、上記下限値以上の添加によりこの効果を得ることができる。一方、Ca含有量が上記上限値を超えるとCa含有による上記効果が飽和し、コストが上昇するだけとなる。
上記クランクシャフト及びクランクシャフト用鋼材に係る実施例につき、比較例と共に説明する。本例では、表1に示すごとく、成分組成が異なる複数種類の試料を準備して、最終製品であるクランクシャフトを作製する場合を想定した加工を加えて試験片にて各種評価を行った。なお、クランクシャフトの製造方法は、本実施例に記載の方法に限定されるものではなく、公知の種々の方法に変更可能である。
被削性試験に用いる試験片は次のように作製した。まず、各試料の原料の溶解、精錬及び鋳込みをVIMを用いて行い、鍛造用母材を得た。この母材に、実際のクランクシャフトが1200℃程度で熱間鍛造されるのを想定し、1200℃に加熱して熱間鍛造を施した後空冷し(800〜500℃の間の冷却速度が約30℃/分)、直径65mmφの丸棒を得た。この丸棒に切削加工を施して、直径60mmφ×長さ390mmの試験片を得た。
転動疲労寿命特性試験に用いる試験片は次のように作製した。まず、各試料の原料の溶解、精錬及び鋳込みをVIMを用いて行って、鍛造用母材を得た。この母材に、1200℃加熱による熱間鍛造を施した後空冷し(冷却速度は被削性試験片作製時と同じ)、一辺の長さLが65mmの断面正方形の角棒1を得た(図1)。この角棒1に切削加工を施して、直径45mmφ×厚さ12mmの円盤状試験片2を得た。実際のクランクシャフトが鍛造される際、母材の表層や中心など様々な位置が肉流れによってピンやジャーナル部に成形されることから、採取位置は母材の平均的な材質を有する下記の位置とした。すなわち、円盤状試験片2の採取位置は、図1に示すごとく、上記角棒1の一辺の長さLが65mmの正方形断面において、表面からL/4の位置が円形の試験面となるように、幅方向中央部(L/2)が中心となる円盤状に切り出して採取した。
介在物観察用の試料は、上述した転動疲労寿命特性試験の場合と同様に作製した円盤状試験片2を用いた。この場合の試験片の表面には焼入処理は行わず、表面の鏡面研磨のみを行って観察面とした。
硬さ測定用の試料は、上述した転動疲労寿命特性試験の場合と同様に、円盤状試験片2の表面に高周波焼入処理を行った後、焼戻し処理したものを用いた。硬度測定面は、円盤状試験片2の厚み方向に沿った断面とした。そして、最表面から深さ100μmの位置において測定した硬さを高周波焼入層の表面硬さとし、さらに、深さ方向の硬さ変化を測定し、650HV以上となっている硬さの範囲、つまり、650HV以上の硬化深さを確認した。また、最表面から深さ6mmの位置の部分において測定した硬さを、高周波焼入処理の影響が及んでいない母材部の硬さとした。さらに、母材部の硬さ測定時に、同時に組織の確認を行い、初析セメンタイトの有無等の確認を行った。
試料No.17は、C含有量が低すぎることにより、HV650以上の高周波焼入層が得られず、転動疲労寿命特性が劣る結果となった。
試料No.19は、Mn含有量が高すぎることにより、式(2)を満足せず、母材部の硬度が高くなりすぎて被削性が劣る結果となった。
試料No.21は、Cr含有量が高すぎることにより、式(2)を満足せず、母材部の硬度が高くなりすぎて被削性が劣る結果となった。
試料No.23は、各化学成分の含有量は適切な範囲内ではあるが、式(2)を満足しないことにより、母材部の硬度が高くなりすぎて被削性が劣る結果となった。
従来例の試料No.25は、従来の炭素鋼を用いて評価したものである。通常製造されている炭素鋼は、転動疲労寿命特性を考慮した成分設計は何らなされていない。そのため、製鋼時の脱ガス処理は通常レベルであり、O含有量が高く、その結果、最大介在物の円相当径が大きくなりすぎ、転動疲労寿命が劣る結果となった。
被削性向上に対する配慮がなされていない。SUJ2に対しては、通常、球状化焼鈍処理による加工性向上処理が行われるが、本実施例では鍛造後空冷して実験しているため、加工性は大きく劣り、被削性試験は試験開始後すぐに工具劣化が確認できたため、試験を中断した。なお、試料No.26は、式(1)及び式(2)もを満足していない。
本例では、本願におけるクランクシャフトの一例を示す。本例のクランクシャフト5は、図2に示すごとく、複数のピン部51及び複数のジャーナル部52を有するものである。そして、本例のクランクシャフト5は、全てのピン部51及びジャーナル部52が、その外周面が転がり軸受用の転動面510、520となっており、転動面510、520上を転がり軸受の転動体61(図3参照)が直接転動可能なように構成されている。
2 転動疲労寿命特性用試験片
5 クランクシャフト
51 ピン部
510 転動面
52 ジャーナル部
520 転動面
61 転動体
62 外輪部
7 コンロッド
Claims (5)
- 複数のピン部及び複数のジャーナル部のうち少なくとも一部の外周面が転がり軸受用の転動面であり、該転動面上を転がり軸受の転動体が直接転動可能なように構成されたクランクシャフトであって、
化学成分が、C:0.50〜0.90%、Si:0.05〜1.30%、Mn:0.40〜1.50%、S:0.025%以下、Cr:0.05〜1.60%、Al:0.001〜0.050%、O:0.0010%以下、N:0.0200%以下を含有し、残部がFeと不純物元素からなると共に、下記式(1)及び(2)を満足し、
式(1):[C]−[Si]/20+[Mn]/40+[Cr]/7<1
式(2):[C]+[Si]/7+[Mn]/4+[Cr]/4<1.25
(ここで、[X]は、元素Xの含有量(質量%)の値を意味する。)
上記転動面を鏡面研磨して形成した観察面において10箇所の異なる位置を観察した場合の、10mm2視野に含まれる最大介在物の円相当径の平均値が15μm以下であり、
上記転動面は、高周波焼入処理が施されており、マルテンサイト組織からなると共に、最表面から少なくとも深さ1.5mmの範囲の硬さが650HV以上であり、
上記高周波焼入処理の影響が及んでいない母材部は、フェライト・パーライト組織またはパーライト組織であり、初析セメンタイトを含まない金属組織からなると共に、硬さが320HV以下であることを特徴とするクランクシャフト。 - 上記化学成分は、さらに、Mo:0.01〜0.50%、B:0.0005〜0.0050%、Ti:0.01〜0.20%の1種又は2種以上(ただし、B及びTiは同時添加に限る)を含有していることを特徴とする請求項1に記載のクランクシャフト。
- 上記化学成分は、さらに、Nb:0.01〜1.0%、V:0.01〜1.0%の1種又は2種を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のクランクシャフト。
- 上記化学成分は、さらに、Ca:0.0005〜0.0050%を含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクランクシャフト。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載のクランクシャフトを作製するための熱間鍛造前の鋼材であって、
上記化学成分を有し、
軸方向に平行で表面から深さ方向にd/4の位置(dは鋼材の直径又は厚み)の断面において10箇所の異なる位置を観察した場合の、10mm2視野に含まれる最大介在物の円相当径の平均値が15μm以下であることを特徴とするクランクシャフト用鋼材。
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