以下に、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの或いは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。また、下記の実施形態における構成要素は、適宜組み合わせることができる。
[実施形態]
本発明の実施形態に係るトラクタ1を図面を参照して説明する。図1は、実施形態に係るトラクタを表す平面図である。図2は、実施形態に係るトラクタを表す側面図である。図3は、実施形態に係るトラクタのミッションケース内の動力伝導線図である。図4は、実施形態に係るトラクタの主変速レバーなどを表す側面図である。図5は、実施形態に係るトラクタのミッションケースの一部などを表す側面図である。図6は、実施形態に係るトラクタのミッションケースの一部などを表す平面図である。図7は、実施形態に係るトラクタのミッションケース内の油圧無段変速装置などを表す平面図である。図8は、実施形態に係る作業車両としてのトラクタの油圧回路図である。図9は、実施形態に係る作業車両としてのトラクタのブロック図である。
実施形態に係るトラクタ1は、圃場等で作業を行う作業車両であり、図1及び図2に示すように、操舵用の車輪として設けられる前輪4と、駆動用の車輪として設けられる後輪5とを有した機体2と、コントローラ3(図9に示し、制御手段に相当)などを備えている。後輪5には、機体2前部のボンネット6内に搭載されるエンジン7(図3に示す)で発生した動力が、油圧無段変速装置8(図3などに示す)及び副変速装置9(図3に示す)で適宜減速して伝達され、後輪5は、この動力によって駆動される。
また、トラクタ1は、エンジン7で発生しかつ油圧無段変速装置8及び副変速装置9で減速した動力を、前輪増速切換機構10(図3に示す)を介して、前輪4にも伝達可能になっている。トラクタ1は、前輪増速切換機構10が動力を伝達すると、エンジン7から伝達されてくる動力によって前輪4と後輪5との四輪が駆動され、前輪増速切換機構10が動力の伝達を遮断すると、エンジン7から伝達されてくる動力によって後輪5のみの二輪が駆動される。即ち、トラクタ1は、二輪駆動と四輪駆動との切り換えが可能になっている。また、トラクタ1の機体2後部には、ロータリ(図示省略)等の作業機を装着可能なPTO(Power take−off)出力軸11が配設されている。
また、トラクタ1の機体2の中央部には、図1に示すように、運転者がトラクタ1を操縦する際に座る操縦席12が設けられ、操縦席12の前方には、図1及び図2に示すように、前輪4の操舵に用いるステアリングハンドル13が設けられている。ステアリングハンドル13は、当該ステアリングハンドル13を回転可能に支持するハンドルポストの上端側に配設されている。また、ハンドルポストの下方側、即ち、操縦席12に運転者が座った場合における運転者の足元付近には、図1に示すように、クラッチペダル20、後輪5をペダル操作に応じて制動するためのブレーキペダル21、アクセルペダル22が設置されている。
図10は、実施形態に係るトラクタのブレーキペダルなどを示す図である。ブレーキペダル21は、図10に示すように、後述する左ブレーキシリンダ150L(図8に示す)を作動させて左側後輪5に制動力を発生するための左ブレーキペダル21Lと、後述する右ブレーキシリンダ150R(図8に示す)を作動させて右側後輪5に制動力を発生するための右ブレーキペダル21Rとの2つが設けられている。即ち、トラクタ1は、それぞれ左右の後輪5に制動力を発生するための左ブレーキペダル21L及び右ブレーキペダル21Rを備えている。これらの2つのブレーキペダル21L,21Rは、右ブレーキペダル21Rに回転自在に設けられたブレーキロック板23が、左ブレーキペダル21Lに向けて倒されて左ブレーキペダル21Lに係合することで、連結させることが可能になっている。即ち、トラクタ1は、左ブレーキペダル21Lと右ブレーキペダル21Rとを連結する両ブレーキ状態と、左ブレーキペダル21Lと右ブレーキペダル21Rとを分離して互いに独立してペダル操作可能とする片ブレーキ状態とを切り換えるブレーキロック板23を備えている。
このため、2つのブレーキペダル21L,21Rを分離して操作した場合には、ブレーキロック板23を片ブレーキ状態にして、左右の後輪5に対して独立して制動力を発生させることが可能になっている。2つのブレーキペダル21L,21Rを連結した状態で操作した場合には、ブレーキロック板23を両ブレーキ状態にして、左右の後輪5の双方に対して制動力を発生させることが可能になっている。なお、2つのブレーキペダル21L,21Rの近傍には、ブレーキロック板23が2つのブレーキペダル21L,21Rを連結したか否かを検出する片ブレーキ機能入切検出スイッチ24(図9に示す)が設けられている。片ブレーキ機能入切検出スイッチ24は、検出結果をコントローラ3に出力する。
また、運転者によるブレーキペダル21のペダル操作としてのブレーキペダル21の踏込を検出するブレーキペダル感知センサ25(図9に示し、ブレーキ操作検出手段に相当)がブレーキペダル21の回転中心などに設けられている。ブレーキペダル感知センサ25は、検出結果をコントローラ3に出力する。ブレーキペダル感知センサ25は、2つのブレーキペダル21L,21Rそれぞれのペダル操作を検出することができる。
また、運転者によるクラッチペダル20のペダル操作としてのクラッチペダル20の踏込を検出するクラッチペダルスイッチ26(図9に示す)が設けられている。クラッチペダルスイッチ26は、検出結果をコントローラ3に出力する。
また、ハンドルポストには、トラクタ1の走行時における進行方向を前進と後進とで切り換える前後進切換レバー27(図1、図2、図9に示す)が配設されている。前後進切換レバー27は、トラクタ1を前進させる場合には前側に倒し、トラクタ1を後進させる場合には後ろ側に倒すことにより、エンジン7からの動力による機体2の前進、後進を切り換えるためのものである。
また、前後進切換レバー27は、前進位置と後進位置との間に中立位置を有しており、この中立位置は、トラクタ1が前方にも後方にも進まないようにすることができる位置になっている。前後進切換レバー27は、前後進レバー位置感知スイッチ28(図9に示す)により前後進切換レバー27の操作位置(前進位置、後進位置、中立位置)が検出される。即ち、前後進レバー位置感知スイッチ28は、前後進切換レバー27の操作位置を検出するものである。前後進レバー位置感知スイッチ28は、検出結果をコントローラ3に出力する。
また、前後進切換レバー27の近傍には、ブレーキ制御入切スイッチ29(図9に示す)が設けられている。ブレーキ制御入切スイッチ29は、コントローラ3にクラッチペダル20のペダル操作なしでブレーキペダル21のペダル操作のみによりエンストすることなく機体2を停止させるブレーキ停止制御モードの実行、非実行を切り換えるスイッチである。ブレーキ制御入切スイッチ29は、コントローラ3に接続しており、オンされるとブレーキ停止制御モードを実行させ、オフされるとブレーキ停止制御モードを実行させない。
また、操縦席12の左側には、トラクタ1の走行時における変速に関する操作を行う主変速レバー30(図1等に示す)と、副変速レバー31(図1に示す)と、トラクタ1の後部に装着される作業機を駆動するPTO出力軸11の駆動断続を行うPTOクラッチレバー32とが配設されている。主変速レバー30は、1速から8速まで油圧無段変速装置8を変速するためのものである。副変速レバー31は、機体2の走行速度を低速、中速、高速の3段に副変速装置9を変速するためのものである。なお、副変速レバー31が変速する低速及び中速は、圃場内で作業を行う際に走行する作業走行速度域をなしており、副変速レバー31が変速する高速は、圃場間を移動する際に路上走行する路上走行速度域をなしている。
また、操縦席12の右側には、作業機の高さを調整するポジションレバー33が配設されている。ポジションレバー33の操作位置は、ポジションレバー位置感知センサ34(図9に示す)により検出される。ポジションレバー位置感知センサ34は、検出結果をコントローラ3に出力する。
また、トラクタ1のエンジン7の動力は、ミッションケース40(図5に一部を示す)などを介して、増減速されて、前後輪4,5とPTO出力軸11に伝達される。ミッションケース40は、操縦席12の下側において機体2のメインフレームとしても機能し、図5に示すように、前ケース41と他の図示しない4つのケースを一体に連結した構成である。
次に、ミッションケース40内の動力伝導機構を図3に基づいて説明する。動力伝導機構では、エンジン7の出力軸の回転がクラッチペダル20で断続されるメインクラッチ42を介してミッションケース40(図5に示す)の入力軸43へ伝動される。この入力軸43の回転は増速ギア44,45で増速されて油圧無段変速装置8の入力軸46に伝動される。
油圧無段変速装置8は、HST(Hydro Static Transmission)と呼ばれる静油圧式の無段変速機として構成されている。油圧無段変速装置8は、エンジン7からの駆動力を後輪5に伝達するものである。油圧無段変速装置8は、可変容量型の油圧ポンプ47と固定容量型の油圧モータ49で構成され、油圧ポンプ47の可動斜板48の傾きを変えることで油圧モータ49の回転を変更する。可動斜板48の傾きは前記主変速レバー30や前後進切換レバー27の動きを検出して作動する油圧シリンダ52(図5及び図6)によって変更されて、油圧モータ49のモータ出力軸50の回転が変速される。油圧ポンプ47に直接繋がるポンプ出力軸51の回転は入力軸46の回転数と同じである。
ポンプ出力軸51の回転は、PTO正逆クラッチ53を経て、PTO第一中間軸54からPTO第二中間軸55へ伝動され、さらにPTO副変速クラッチ(図示せず)を経て最終的にPTO出力軸11でミッションケース40の外部へ取り出されて、ロータリー等の作業機を駆動する。
また、油圧モータ49のモータ出力軸50は、副変速装置9を経て、前後輪4,5を駆動し、さらに、副変速装置9にくわえて前輪増速切換機構10を経て、前輪4を駆動する。
ミッションケース40内の動力伝導機構の油圧無段変速装置8は、主変速レバー30により変速される。主変速レバー30は、図4に示すように、ミッションケース40を構成する中間ケースの側面に立設したピン60を中心に八箇所で軽く係止されて変速段を8段階に感じるように回転自在に支持されている。主変速レバー30は、回動位置が主変速レバー位置感知センサ35で検出され、検出結果がコントローラ3に出力される。
油圧無段変速装置8は、ミッションケース40を構成する前ケース41の中に配設されている。この前ケース41内には、可動斜板48に連結したトラニオン軸61及びトラニオンアーム62(図6、図7に示す)を中立位置に保持する中立保持機構63が設けられている(図7参照)。
この中立保持機構63は、油圧無段変速装置8の上面において、油圧ポンプ47と油圧モータ49を内装しているケース64の内部から突出したトラニオン軸61にカムプレート65(図6等に示す)を固定し、このカムプレート65の周縁カム部にばね筒66によって付勢されたローラ67を押し付けている。中立保持機構63は、カムプレート65の周縁カム部の凹部65aにローラ67を落ち込ませるように付勢して、トラニオン軸61及びトラニオンアーム62が中立位置(図7(b)に示す)に戻るようにしている。
図7に示すように、カムプレート65には、トラニオンアーム62の一端部が回転自在に連結し、トラニオンアーム62の他端部がリンク68を介して油圧シリンダ52のロッド69に連結されている。したがって、油圧シリンダ52のロッド69を伸縮させると、リンク68、トラニオンアーム62、カムプレート65を介してトラニオン軸61が回動して油圧無段変速装置8の変速を行えるようにしている。油圧シリンダ52は、図6に示すように、前ケース41の側面に取り付けられたブラケット70に支持されている。
また、油圧無段変速装置8は、トラニオン軸61、即ちトラニオンアーム62の回動角を検出するトラニオンアーム角度センサ71(図6等に示す)を設けている。
また、油圧シリンダ52に作動油を供給する油圧系統では、トラクタ1は、図8に示すように、作業機の制御と走行の制御に使うメインポンプ140と、油圧無段変速装置8とパワーステアリング144とに作動油を送るサブポンプ143を有している。トラニオン軸61を回動する油圧シリンダ52の作動油は、サブポンプ143からそのトラニオン弁142へ供給されているので、作動圧が安定している。また、サブポンプ143からの作動油は、パワーステアリング144へ供給された後に、リリーフ弁145とオイルクーラ146を通って、油圧無段変速装置8へ供給されている。
また、メインポンプ140からの作動油は、メインリリーフ弁151で油圧を調整して走行バルブ147を通してメインクラッチ42を制御すると共に、ブレーキバルブ148を通して左右のブレーキシリンダ150L,150Rを制御し、さらに、分流した作動油が作業機関係の制御へ送られている。
作業機関係への作動油は、分流バルブ152で水平シリンダ154とメイン昇降シリンダ157へ送られている。水平シリンダ154は水平バルブ153で制御され、メイン昇降シリンダ157は電子油圧バルブ155とスローリターン用チェックバルブ156で制御され、作動油がセーフティリリーフバルブ158を通ってミッションケース40内へ戻される。
コントローラ3は、前後進レバー位置感知スイッチ28、主変速レバー位置感知センサ35、トラニオンアーム角度センサ71、クラッチペダルスイッチ26、ポジションレバー位置感知センサ34、副変速レバー31の操作位置を検出する副変速レバー検出スイッチ(図示せず)等の検出結果に基づいて、トラクタ1の各構成要素へ制御信号を出力する。
コントローラ3は、前後進レバー位置感知スイッチ28の検出結果に基づいて、前後進切換レバー27の操作位置が前進であると、図7(a)に示すように、油圧シリンダ52のロッド69を中立位置よりも伸張させる。図7(a)に示されたトラニオンアーム62は前進位置となっている。コントローラ3は、前後進レバー位置感知スイッチ28の検出結果に基づいて、前後進切換レバー27の操作位置が後進であると、図7(c)に示すように、油圧シリンダ52のロッド69を中立位置よりも縮小させる。図7(c)に示されたトラニオンアーム62は後進位置となっている。また、コントローラ3は、前後進切換レバー27の操作位置が前進であると、主変速レバー位置感知センサ35の検出結果に基づいて、主変速レバー30の操作位置に応じて、油圧シリンダ52のロッド69を中立位置よりも伸張させる。また、コントローラ3は、副変速レバー検出スイッチの検出結果に基づいて、副変速レバー31の操作位置に応じて、副変速装置9を変速する。
さらに、コントローラ3は、ポジションレバー位置感知センサ34の検出結果に基づいて、メイン昇降シリンダ157を制御して、ポジションレバー33の操作位置に応じて作業機の高さを変更する。また、コントローラ3には、図9に示すように、アップストップ入切スイッチ36が接続している。アップストップ入切スイッチ36は、ポジションレバー33により作業機を上昇させると、エンジン7から作業機への動力の伝達を遮断して、作業機を停止させるためのスイッチである。アップストップ入切スイッチ36は、オンされると、作業機を上昇させるとエンジン7から作業機への動力の伝達を遮断し、オフされると、作業機を上昇させてもエンジン7からの動力を作業機へ伝達し続ける。
コントローラ3は、ブレーキ停止制御モードを実行していると、ブレーキペダル感知センサ25が運転者によるブレーキペダル21のペダル操作を検出すると、機体2を停止又は略停止するように油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を中立位置にする。
本実施形態に係るトラクタ1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。トラクタ1の走行時には、前後進切換レバー27、主変速レバー30及び副変速レバー31などによって、油圧無段変速装置8と副変速装置9との変速指示を行い、アクセルペダル22でエンジン7の回転数を調節する。また、進行方向を切り換える場合には、前後進切換レバー27を操作することにより、前進と後進とを切り換える。これらの操作は、センサ類で検出してコントローラ3などに入力され、入力された情報に基づいてコントローラ3がソレノイド等を作動させることにより、エンジン7の運転制御や油圧無段変速装置8、副変速装置9の変速制御を行い、任意の走行状態で走行する。
また、進路の調節はステアリングハンドル13を操作することにより行い、減速はブレーキペダル21を操作することにより行うが、ブレーキペダル21は減速時のみでなく、急旋回時にも使用する。即ち、急旋回する際には、旋回方向における内側の後輪5に対応するブレーキペダル21L,21Rのうちの一方のみを操作して、これに対応する後輪5のブレーキシリンダ150L,150Rのうちの一方のみを作動させて制動力を発生させることにより、前輪4を操舵することのみの旋回時よりも、小回りすることができる。
また、トラクタ1は、圃場で作業を行ったり、路上を走行したりすることが可能になっているが、圃場と路上とでは、走行時における適切な速度領域が異なっている。このため、トラクタ1の走行時には、走行する場所等の走行状態に応じて主変速レバー30や副変速レバー31を操作することにより、速度領域を切り換える。即ち、主変速レバー30や副変速レバー31を操作することによって、走行時における速度領域を切り換える。
例えば、圃場で作業を行う場合には、トラクタ1は、作業時の速度に応じて、運転者が主変速レバー30を1速〜8速のうちいずれかに切り換えるとともに副変速レバー31を低速、中速のうちいずれかに切り換える。
主変速レバー30の位置は、主変速レバー位置感知センサ35により検出され、副変速レバー31の位置は、副変速レバー検出スイッチにより検出される。コントローラ3は、主変速レバー位置感知センサ35からの検出結果に応じて、油圧シリンダ52のロッド69を制御することにより、油圧無段変速装置8を主変速レバー30で選択されている変速段に切り換える。また、コントローラ3は、副変速レバー検出スイッチからの検出結果に応じて、副変速装置9の副変速クラッチを作動させ、副変速装置9を、低速、中速のうちいずれかに切り換える。
また、路上を走行する場合には、トラクタ1は、運転者がブレーキロック板23により2つのブレーキペダル21L,21Rを連結し、主変速レバー30を1速〜8速のうちいずれかに切り換えるとともに副変速レバー31を高速に切り換えることが望ましい。
また、路上を走行する場合には、トラクタ1は、運転者がブレーキロック板23により2つのブレーキペダル21L,21Rを連結することなどに加え、ブレーキ制御入切スイッチ29をオンして、ブレーキ停止制御モードを実行するのが望ましい。トラクタ1は、ブレーキ停止制御モードを実行することにより、クラッチペダル20をペダル操作することなく、ブレーキペダル21のペダル操作のみによりエンジン7を停止させることなく、停止することができる。図11は、本発明の実施形態に係るトラクタの走行中のフローチャートの一例である。
トラクタ1の走行中では、コントローラ3は、前後進レバー位置感知スイッチ28の検出結果に応じて油圧シリンダ52のロッド69を伸縮させ、主変速レバー位置感知センサ35からの検出結果に応じて油圧無段変速装置8の変速段を切り換え、副変速レバー検出スイッチからの検出結果に応じて副変速装置9を低速、中速、高速のうちいずれかに切り換える。そして、トラクタ1の走行中では、コントローラ3は、ブレーキ制御入切スイッチ29がオンされたか否かを判定する(ステップST1)。コントローラ3は、ブレーキ制御入切スイッチ29がオンされていないと判定する(ステップST1:No)と、副変速レバー検出スイッチの検出結果に基づいて、副変速レバー31が高速即ち路上走行速度域であるか否かを判定する(ステップST2)。コントローラ3は、副変速レバー31が高速即ち路上走行速度域でないと判定する(ステップST2:No)と、片ブレーキ機能入切検出スイッチ24がオンであるか否かを判定する(ステップST3)。
コントローラ3は、片ブレーキ機能入切検出スイッチ24がオンではないと判定する(ステップST3:No)と、ブレーキ停止制御モードを実行せずに(ステップST4)、ステップST1に戻る。即ち、コントローラ3は、ブレーキ制御入切スイッチ29がオン、副変速レバー31が高速、片ブレーキ機能入切検出スイッチ24がオンのいずれかに該当するまで、ブレーキ停止制御モードを実行することを規制する。このように、コントローラ3は、ブレーキロック板23が片ブレーキ状態であることを検出すると、ブレーキ停止制御モードを実行することを規制して、2つのブレーキペダル21L,21Rを分離する状態での路上走行を抑制する。
コントローラ3は、ブレーキ制御入切スイッチ29がオン(ステップST1:Yes)、副変速レバー31が高速(ステップST2:Yes)、片ブレーキ機能入切検出スイッチ24がオン(ステップST3:Yes)のいずれかに該当すると、ブレーキ停止制御モードを実行する(ステップST5)。このように、コントローラ3は、ブレーキロック板23が両ブレーキ状態であることを検出すると、ブレーキ停止制御モードを実行する。コントローラ3は、ブレーキ停止制御モードを実行していると、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出したか否かを判定する(ステップST6)。コントローラ3は、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出していないと判定する(ステップST6:No)と、ステップST6を繰り返す。このように、コントローラ3は、ブレーキペダル21がペダル操作されるまでステップST6を繰り返す。
コントローラ3は、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出したと判定する(ステップST6:Yes)と、トラニオンアーム62を中立位置にするとともに、ブレーキシリンダ150L,150Rの双方を作動させて左右の後輪5に制動力を発生させる(ステップST7)。この際、コントローラ3は、ブレーキペダル21の踏み込み量に応じてブレーキシリンダ150L,150Rの発生する制動力を制御するとともに、ブレーキペダル21の踏み込みが速くなるのにしたがって制動力をより早く増加させる。このように、コントローラ3は、ブレーキ停止制御モードを実行していると、ブレーキペダル21のペダル操作を検出すると、油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を中立位置にする。また、コントローラ3は、アップストップ入切スイッチ36がオンされていると、トラニオンアーム62を中立位置にして機体2を停止させても、PTO出力軸11を回転させて作業機を駆動したままとする。
また、コントローラ3は、ブレーキ制御入切スイッチ29がオンされていないと判定(ステップST1:No)し、副変速レバー31が高速即ち路上走行速度域でないと判定(ステップST2:No)し、片ブレーキ機能入切検出スイッチ24がオンである即ち両ブレーキ状態であることを検出した(ステップST3:Yes)状態で、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出したと判定する(ステップST6:Yes)と、トラニオンアーム62を中立位置にするとともに、ブレーキシリンダ150L,150Rの双方を作動させて左右の後輪5に制動力を発生させる(ステップST7)。
さらに、コントローラ3は、ブレーキ制御入切スイッチ29がオンされていないと判定(ステップST1:No)し、副変速レバー31が高速即ち路上走行速度域であると判定する(ステップST2:Yes)と、片ブレーキ機能入切検出スイッチ24がオフである即ちブレーキロック板23が片ブレーキ状態であっても、左ブレーキペダル21Lと右ブレーキペダル21Rとのうちの少なくとも一方のブレーキペダル21L,21Rのペダル操作を検出する(ステップST6:Yes)と、トラニオンアーム62を中立位置にするとともに、ブレーキシリンダ150L,150Rの双方を作動させて左右の後輪5に制動力を発生させる(ステップST7)。
そして、コントローラ3は、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出しなくなったか否かを判定する(ステップST8)。コントローラ3は、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出していると判定する(ステップST8:No)と、ステップST8を繰り返す。コントローラ3は、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出しなくなったと判定する(ステップST8:Yes)と、油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62をブレーキペダル21のペダル操作を検出する前、即ち、前後進切換レバー27及び主変速レバー30の操作位置に応じた位置に戻(ステップST9)して、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)して、ステップST1に戻る。この場合、コントローラ3は、トラニオンアーム62を中立位置から元の位置に徐々に戻して、車速を徐々に早くする。このように、コントローラ3は、ブレーキ停止制御モードを実行していると、ブレーキペダル21のペダル操作を検出した後にペダル操作を検出しなくなると、油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62をペダル操作を検出する前の位置にして、ステップST1に戻る。
また、コントローラ3は、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)する際に、アップストップ入切スイッチ36がオンされて、作業機が一度上昇されて停止して、作業機が下降される際には、作業機を下降させて駆動させた後に、トラニオンアーム62を元の位置に戻す。このために、トラクタ1は、作業機が確実に作業でき、作業性を向上することができる。
以上のように、本実施形態のトラクタ1の構成によれば、ブレーキ停止制御モードを実行中にブレーキペダル21のペダル操作を検出すると、コントローラ3が油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を中立位置にするとともに、ブレーキシリンダ150L,150Rの双方を作動させて左右の後輪5に制動力を発生させる。このために、トラクタ1は、油圧無段変速装置8などにより前後輪4,5の増減速を行うものであっても、路上走行中にブレーキ制御入切スイッチ29をオンにすることで、ブレーキペダル21のみをペダル操作することで円滑な停止が可能となる。したがって、トラクタ1は、油圧無段変速装置8を備えていても、路上走行時にブレーキペダル21のペダル操作のみによりエンジン7を停止させることなく、機体2を停止することができる。また、トラクタ1は、圃場の作業中には、ブレーキ制御入切スイッチ29をオフにすることで、トラニオンアーム62を中立位置にすることを抑制でき、油圧機器の過負荷を低減することができる。
また、トラクタ1は、ブレーキ停止制御モードを実行中にブレーキペダル21のペダル操作を検出して停止した後に、ブレーキペダル21のペダル操作を検出しなくなると、トラニオンアーム62をペダル操作を検出する前の位置に戻すので、円滑な停止、再発進を行うことができる。さらに、トラクタ1は、ブレーキロック板23が両ブレーキ状態であることを検出すると、ブレーキ停止制御モードを実行し、ブレーキロック板23が片ブレーキ状態であることを検出すると、ブレーキ停止制御モードの実行を規制し、副変速レバー31が路上走行速度域である高速であるとブレーキ停止制御モードを実行するので、円滑な路上走行を行うことができる。
また、トラクタ1は、ブレーキ停止制御モードを実行中にブレーキペダル21のペダル操作を検出すると、コントローラ3が油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を中立位置にするとともに、ブレーキシリンダ150L,150Rの双方の後輪5に制動力を発生させる。したがって、トラクタ1は、坂道上などであっても確実に停止でき、安全性を向上することができる。
前述したように、トラクタ1は、ブレーキ制御入切スイッチ29がオフであっても、両ブレーキ状態であると、ブレーキ停止制御モードを実行する。このために、トラクタ1は、両ブレーキ状態であると、ブレーキペダル21のペダル操作を検出すると、コントローラ3が油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を中立位置にするとともに、ブレーキシリンダ150L,150Rの双方を作動させて左右の後輪5に制動力を発生させる。したがって、トラクタ1は円滑な停止が可能となる。また、トラクタ1は、ブレーキ制御入切スイッチ29がオフであり、片ブレーキ状態であっても、副変速レバー31が高速であると、ブレーキ停止制御モードを実行する。このために、トラクタ1は、片ブレーキ状態であっても、副変速レバー31が路上走行速度域であると、ブレーキペダル21のペダル操作を検出すると、コントローラ3が油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を中立位置にするとともに、ブレーキシリンダ150L,150Rの双方を作動させて左右の後輪5に制動力を発生させる。したがって、トラクタ1は路上走行時に確実に円滑な停止、再発進を行うことができる。
また、トラクタ1は、ブレーキペダル21の踏み込み量に応じて、ブレーキシリンダ150L,150Rの双方の発生する後輪5の制動力を制御するので、ブレーキペダル21を踏み込んだ際の操作力を低減することができる。トラクタ1は、ブレーキペダル21の踏み込みが速くなるのにしたがって制動力をより早く増加させるので、安全性を向上することができる。
さらに、トラクタ1は、アップストップ入切スイッチ36がオンされていると、トラニオンアーム62を中立位置にして機体2を停止させても、作業機を駆動したままとするので、例えば、硬い圃場でも耕耘などの作業を施すことができる。
さらに、トラクタ1は、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)する際に、トラニオンアーム62を中立位置から元の位置に徐々に戻して、車速を徐々に早くするので、操作性と安全性を向上することができる。
前述した実施形態では、コントローラ3は、副変速レバー31が高速即ち路上走行速度域でないと判定する(ステップST2:No)と、片ブレーキ機能入切検出スイッチ24がオンであるか否かを判定している(ステップST3)。しかしながら、本発明では、コントローラ3は、片ブレーキ機能入切検出スイッチ24がオンではないと判定した(ステップST3:No)後に、副変速レバー31が高速即ち路上走行速度域であるか否かを判定してもよい(ステップST2)。要するに、本発明では、コントローラ3は、ステップST3の後に、ステップST2を行ってもよい。
この場合、コントローラ3は、片ブレーキ機能入切検出スイッチ24がオンではないと判定し(ステップST3:No)、副変速レバー31が高速即ち路上走行速度域であると判定する(ステップST2:Yes)と、ブレーキ停止制御モードを実行する。この場合には、ブレーキロック板23が片ブレーキ状態であっても、ブレーキ停止制御モードを実行することとなり、アクセルペダル22、ブレーキペダル21、クラッチペダル20に加えて、図示しないブレーキ連結解除ペダルを設けて、ブレーキ連結解除ペダルのペダル操作を検出すると、コントローラ3は、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)してもよい。この場合、ブレーキ制御入切スイッチ29を切り忘れても、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)でき、作業性が向上する。さらに、この場合には、ブレーキロック板23が片ブレーキ状態であっても、ブレーキ停止制御モードを実行することとなるので、路上走行即ち高速走行時には、ブレーキペダル21をペダル操作すると、後輪5の両方に制動力を発生させるので、ブレーキペダル21のペダル操作時にトラクタ1の進行方向が急激に変化することを抑制でき、安全性を向上できる。
また、本発明では、コントローラ3は、ステップST3の後に、ステップST2を行う場合には、ブレーキ停止制御モードの実行中に、ブレーキ制御入切スイッチ29を切った後に、ブレーキ連結解除ペダルのペダル操作を検出すると、コントローラ3は、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)させてもよい。この場合、ブレーキ制御入切スイッチ29を切らないと、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)できないので、誤操作を防止でき、作業性が向上する。
また、前述した実施形態では、コントローラ3は、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出しなくなったと判定する(ステップST8:Yes)と、油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を前後進切換レバー27及び主変速レバー30の操作位置に応じた位置に戻(ステップST9)して、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)させている。しかしながら、本発明では、ブレーキ停止制御モードを実行中にブレーキペダル21をペダル操作しながらも、クラッチペダル20のペダル操作を検出すると、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)させて、トラニオンアーム62を前後進切換レバー27及び主変速レバー30の操作位置に応じた位置に戻してもよい。この場合、トラクタ1は、停止したまま、即ち、ブレーキシリンダ150L,150Rの双方が後輪5に制動力を発生させたまま、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)できる。したがって、坂道で一旦停止した際も、坂道に沿って移動することなく、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)でき、安全性を向上することができる。
さらに、本発明では、ブレーキ停止制御モードを実行中に、コントローラ3は、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出しなくなったと判定した後(ステップST8:Yes)に、再度、ブレーキペダル21のペダル操作を検出し、更に、ブレーキペダル21のペダル操作を検出しなくなると、油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を前後進切換レバー27及び主変速レバー30の操作位置に応じた位置に戻(ステップST9)して、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)させてもよい。この場合、再度、ブレーキペダル21をペダル操作した後に、ペダル操作しなくなるまで、トラニオンアーム62が中立位置に保たれるので、トラクタ1は、ブレーキ停止制御モード解除後に直ちに走行することを抑制でき、安全性を向上できる。また、この場合、再度、ブレーキペダル21のペダル操作を検出する際に、所定時間以上ペダル操作を検出した場合に、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)させるのが望ましい。この場合、誤操作によるブレーキ停止制御モードの解除(停止)を抑制でき、より安全性を向上できる。
また、前述した実施形態では、コントローラ3は、ブレーキペダル感知センサ25がブレーキペダル21のペダル操作を検出しなくなったと判定する(ステップST8:Yes)と、油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を前後進切換レバー27及び主変速レバー30の操作位置に応じた位置に戻(ステップST9)して、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)させている。しかしながら、本発明では、トラクタ1は、ブレーキペダル21のペダル操作を検出しなくなったことにくわえて、前後進切換レバー27の操作位置が中立位置であることを検出すると、油圧無段変速装置8のトラニオンアーム62を前後進切換レバー27及び主変速レバー30の操作位置に応じた位置に戻(ステップST9)して、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)させてもよい。この場合、作業員が前後進切換レバー27の操作位置を一旦中立位置にしないと、ブレーキ停止制御モードを解除(停止)できないので、誤操作を抑制でき、安全性を向上できる。
また、本発明では、コントローラ3は、ブレーキ停止制御モードを実行中に、ブレーキペダル21のペダル操作を検出してトラニオンアーム62を中立位置にして機体2を停止させる際に、PTO出力軸11の回転を停止させて作業機を停止させてもよい。また、この場合、アップストップ入切スイッチ36がオンされていると、トラニオンアーム62を中立位置にして機体2を停止させる際に、作業機を上昇させて停止させてもよい。これらの場合、安全性を向上できるとともに、作業機の破損を抑制することができる。
前述した実施形態では、ブレーキ制御入切スイッチ29をオンするなどしてブレーキ停止制御モードを実行している際に、ブレーキペダル21のペダル操作を検出すると、トラニオンアーム62を中立位置にして機体2を停止させる。こうすることで、実施形態に係るトラクタ1は、クラッチペダル20をペダル操作することなく、ブレーキペダル21のペダル操作のみによりエンジン7を停止させることなく、機体2を停止させる。しかしながら、本発明では、ブレーキ制御入切スイッチ29を設けることなく、前述したブレーキ停止制御モードを標準仕様としてもよい。