以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。前述したとおり、本発明は、基板に対してビーム露光およびパターニング処理を行うことにより、微細な物理的構造パターンとして情報を記録する技術を前提としたものであり、そのような技術の一例は先願発明として特願2014−059542に記載されている。この先願発明の内容は、本願出願時において未公開であるため、ここでは説明の便宜上、§1〜§5において、当該先願発明についての説明を行うことにする。なお、以下の§1〜§5の内容および図1〜図12の内容は、先願明細書の「発明を実施するための形態」の§1〜§5の内容および図1〜図12と実質的に同一である。
<<< §1. 先願発明に係る情報保存装置の基本的実施形態 >>>
図1は、先願発明に係る情報保存装置の基本的実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態に係る情報保存装置は、デジタルデータを情報記録媒体に書き込んで保存する機能を果たす装置であり、図示のとおり、保存処理用コンピュータ100、ビーム露光装置200、パターニング装置300によって構成される。
ここで、保存処理用コンピュータ100は、保存対象となるデジタルデータDに基づいて、描画データEを作成する処理を実行する。ビーム露光装置200は、この描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光を行う装置であり、このビーム露光によって、基板S上には描画用パターンが形成される。パターニング装置300は、露光を受けた基板Sに対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターンを形成し、情報記録媒体Mを作成する。結局、情報記録媒体Mには、デジタルデータDに応じた情報が物理的構造パターンとして記録される。
保存処理用コンピュータ100は、図示のとおり、データ入力部110、単位データ生成部120、単位ビット行列生成部130、単位ビット図形パターン生成部140、単位記録用図形パターン生成部150、描画データ生成部160を有している。以下、これら各部の機能について順に説明を行う。もっとも、これら各部は、実際には、コンピュータに専用のプログラムを組み込むことにより実現される構成要素であり、保存処理用コンピュータ100は、汎用のコンピュータに専用のプログラムをインストールすることにより構成することができる。
まず、データ入力部110は、保存対象となるデジタルデータDを入力する機能をもった構成要素であり、入力したデジタルデータDを一時的に格納する機能も備えている。保存対象となるデジタルデータDは、文書データ、画像データ、音声データなど、どのような形態のものであってもかまわない。
単位データ生成部120は、データ入力部110が入力したデジタルデータDを、所定のビット長単位で分割することにより、複数の単位データを生成する構成要素である。ここでは、説明の便宜上、図2の上段に示すように、デジタルデータDをビット長uの単位で分割することにより、4組の単位データが生成された場合を例にとって以下の説明を行うことにし、第i番目の単位データを符号Uiで示す(この例では、i=1〜4)。以下の説明において用いられる「単位」なる語句を冠した用語は、いずれも「1つの単位データ」について作成されたものであることを示す。
個々の単位データUiのビット長は、必ずしも等しくする必要はなく、互いに異なるビット長をもった複数の単位データを生成してもかまわない。ただ、実用上は、後述するビット記録領域Abを同一形状同一面積の領域とするのが好ましく、そのためには、予め共通のビット長uを定めておき、すべての単位データUiが同じビット長uをもつデータになるようにするのが好ましい。
共通のビット長uは、任意の値に設定することができるが、実用上は、m行n列の単位ビット行列を構成することができるように、u=m×nに設定し、単位データ生成部120が、デジタルデータを(m×n)ビットからなる単位データに分割するようにすればよい。ここでは説明の便宜上、m=n=5に設定して、5行5列の単位ビット行列を構成することができるように、u=25ビットに設定した例を示す(実用上は、uの値はより大きな値に設定するのが好ましい。)。図2に示す第1番目の単位データU1は、このような設定に基づいて生成された単位データであり、25ビットのデータから構成されている。
単位データ生成部120は、たとえば、入力したデジタルデータDを先頭からuビットずつに区切って分割してゆき、それぞれを単位データU1,U2,U3,... とすればよい。この場合、デジタルデータD全体の長さがビット長uの整数倍になっていないと、最後の単位データの長さがビット長uに満たなくなる。そこで、すべての単位データの長さを共通のビット長uに揃えたい場合には、デジタルデータDの末尾にダミービットを追加して、全体の長さがビット長uの整数倍になるように調整すればよい。
なお、デジタルデータDの分割方法は、必ずしも先頭から所定のビット長uごとに区切ってゆく方法に限定されるものではなく、たとえば、4分割する場合、第1,5,9,... 番目のビットを抽出したものを第1の単位データU1とし、第2,6,10,... 番目のビットを抽出したものを第2の単位データU2とし、第3,7,11,... 番目のビットを抽出したものを第3の単位データU3とし、第4,8,12,... 番目のビットを抽出したものを第4の単位データU4とする、というような分割方法を採ることも可能である。
単位データ生成部120によって生成された個々の単位データUiは、単位ビット行列生成部130に与えられる。単位ビット行列生成部130は、個々の単位データUiを構成するデータビットをm行n列の二次元行列状に配置することにより、単位ビット行列B(Ui)を生成する処理を行う。
図2には、第1番目の単位データU1を構成する25ビットのデータを先頭から5ビットずつに区切って、「11101」,「10110」,「01001」,「11001」,「10110」なる5グループを形成し、個々のグループを1行に配置した5行5列の行列からなる単位ビット行列B(U1)を生成した例が示されている。もちろん、単位データU2,U3,U4についても同様の方法により、単位ビット行列B(U2),B(U3),B(U4)が生成されることになる。
こうして単位ビット行列生成部130で生成された個々の単位ビット行列B(Ui)は、単位ビット図形パターン生成部140に与えられる。単位ビット図形パターン生成部140は、個々の単位ビット行列B(Ui)を、二次元平面上の所定のビット記録領域内に配置された幾何学的なパターンに変換することにより、単位ビット図形パターンP(Ui)を生成する処理を行う。
図2の中段には、5行5列の行列からなる単位ビット行列B(U1)に基づいて作成された単位ビット図形パターンP(U1)の実例が示されている。この実例の場合、二次元平面上に正方形のビット記録領域Ab(図に破線で示す領域)が定義され、その中に黒く塗りつぶした小さな正方形状のドット(以下、ビット図形と呼ぶ)を配置することにより、単位ビット図形パターンP(U1)が形成されている。
ここで、個々のビット図形は、単位ビット行列B(U1)を構成するビット”1”に対応している。別言すれば、ビット記録領域Ab内には、単位ビット行列B(U1)に対応して5行5列の行列が定義され、単位ビット行列B(U1)内のビット”1”に対応する位置にのみビット図形が配置され、ビット”0”に対応する位置には何も配されていない。したがって、この単位ビット図形パターンP(U1)は、5行5列の行列を構成する各位置におけるビット図形の有無によって、単位ビット行列B(U1)を構成する25ビットの情報を表現していることになる。
もちろん、個々のビット図形を、単位ビット行列B(U1)を構成するビット”0”に対応させて配置するようにしてもかまわない。この場合は、単位ビット行列B(U1)内のビット”0”に対応する位置にのみビット図形が配置され、ビット”1”に対応する位置には何も配置されないことになる。要するに、単位ビット図形パターン生成部140は、単位ビット行列B(U1)を構成する個々のビット”1”および個々のビット”0”のうちのいずれか一方を、閉領域からなる個々のビット図形に変換する処理を行えばよい。なお、個々のビット図形を示すデータの形式は、任意の形式でかまわない。たとえば、1つのビット図形を矩形によって構成する場合であれば、単位ビット図形パターンP(U1)を示すデータとして、個々のビット図形の4頂点の座標値(対角2頂点の座標値でもよい)を示すデータを用いることもできるし、個々のビット図形の中心点(左下隅点等でもよい)の座標値を示すデータと共通の矩形形状を有するビット図形の縦横の辺の長さを示すデータとを用いることもできる。あるいは、円形のビット図形を採用する場合であれば、個々のビット図形の中心点の座標値を示すデータと共通の半径値を示すデータとを用いることもできる。
もちろん、単位データU2,U3,U4について生成された単位ビット行列B(U2),B(U3),B(U4)も、同様の方法で幾何学的なパターンに変換され、単位ビット図形パターンP(U2),P(U3),P(U4)が生成される。こうして生成された各単位ビット図形パターンP(U1)〜P(U4)を何らかの方法で媒体上に形成すれば、デジタルデータDの情報を媒体に記録することができる。ただ、先願発明では、後に行われる読出処理の便宜を考慮して、各単位ビット図形パターンP(U1)〜P(U4)にそれぞれ位置合わせマークを付加している。
単位記録用図形パターン生成部150は、この位置合わせマークの付加を行う構成要素であり、本願では、この位置合わせマークが付加された状態の単位ビット図形パターンP(Ui)を、単位記録用図形パターンR(Ui)と呼んでいる。結局、単位記録用図形パターン生成部150は、単位ビット図形パターン生成部140が生成した単位ビット図形パターンP(Ui)に位置合わせマークを付加し、単位記録用図形パターンR(Ui)を生成する処理を行うことになる。
図2の中段には、単位ビット図形パターンP(U1)の外側4隅に十字状の位置合わせマークQを付加し、単位記録用図形パターンR(U1)を生成した例が示されている。ここでは、単位ビット図形パターンP(U1)が形成されたビット記録領域Ab(破線の正方形)と、その外側4隅に配置された位置合わせマークQとを包含する領域を、単位記録領域Au(一点鎖線の正方形)と呼ぶことにする。単位記録用図形パターンR(U1)は、この単位記録領域Au内に形成された図形パターンということになる。
位置合わせマークQは、§3で述べる読出処理において、個々のビット記録領域Abを認識するために利用される。そのため、位置合わせマークQは、ビット記録領域Abに対して特定の位置(図示の例では、ビット記録領域Abの外側4隅の位置)に配置される。図示の例では、十文字状の位置合わせマークQを用いた例が示されているが、個々のビットを表すビット図形(図示の例の場合、黒く塗りつぶした小さな正方形)と区別することができる図形であれば、どのような形状の図形を用いてもかまわない。
また、図示の例では、ビット記録領域Abの外側に位置合わせマークQを配置しているが、ビット記録領域Abの内側に位置合わせマークQを配置することも可能である。ただ、ビット記録領域Abの内側に配置する場合は、個々のビットを表すビット図形と干渉するおそれがあるため、実用上は、図示の例のように、ビット記録領域Abの外側に位置合わせマークQを配置するのが好ましい。この位置合わせマークQの形状や配置のバリエーションについては、§4で改めて述べることにする。
こうして、単位記録用図形パターン生成部150が、4組の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を生成したら、描画データ生成部160が、これらを描画するための描画データEを生成する処理を行う。具体的には、描画データ生成部160は、図2の下段に示されているように、4組の単位記録領域R(U1)〜R(U4)を二次元行列状に配置することにより(この例の場合は2行2列)、4組の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)をすべて含んだ描画用パターンP(E)を生成し、当該描画用パターンP(E)を描画するための描画データEを生成する処理を行う。
以上、図1に示す保存処理用コンピュータ100の個々の構成要素の処理機能を述べた。こうして生成された描画データEは、ビーム露光装置200に与えられる。ビーム露光装置200は、描画データEに基づいて、露光対象基板S上にビーム露光を行う装置であり、種々の電子デバイスの製造プロセスに利用される半導体フォトリソグラフィ用の電子線描画装置やレーザ描画装置を利用して構成することができる。ビーム露光装置200として電子線描画装置を用いた場合は、露光対象基板Sの表面上に電子線によって描画用パターンP(E)が描かれ、ビーム露光装置200としてレーザ描画装置を用いた場合は、露光対象基板Sの表面上にレーザビームによって描画用パターンP(E)が描かれる。
なお、図2には、説明の便宜上、ビット記録領域Abの輪郭線を破線で示し、単位記録領域Auの輪郭線を一点鎖線で示してあるが、これらの線は、描画用パターンP(E)の構成要素ではない。実際に露光対象基板S上に描かれる図形パターンは、個々のビットを表すビット図形(図示の例の場合、黒く塗りつぶした小さな正方形)と十文字状の位置合わせマークQである。
このように、描画データEは、ビーム露光装置200に与えて、露光対象基板S上に描画用パターンP(E)を描画させるために用いられるデータであるため、そのデータフォーマットは、用いるビーム露光装置200に依存したものにする必要がある。現在、一般的なLSI設計に用いられている電子線描画装置やレーザ描画装置を用いて任意の図形パターンを描画させる場合、当該図形パターンの輪郭線を示すベクトル形式の描画データが用いられている。したがって、実用上、描画データ生成部160は、個々のビット図形や位置合わせマークの輪郭線を示す描画データEを生成すればよい。
図3は、図2に示す単位記録用図形パターンR(U1)の拡大図である。図2では、ビット”1”を示すビット図形として、黒く塗りつぶした小さな正方形の例を示したが、図3に示す例では、個々のビット図形Fは、正方形の輪郭線を示すベクトルデータとして表現される。同様に、4隅に配置された位置合わせマークQ1〜Q4は、十文字状の輪郭線を示すベクトルデータとして表現される。ビーム露光装置200は、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4の輪郭線を示す描画データEに基づいて、当該輪郭線の内側部分に対してビーム露光を行う処理を行う。したがって、露光対象基板S上には、図2に示すように、黒く塗りつぶされた正方形や十文字状の図形パターンが形成されることになる。
図3には、等間隔で配置された横方向格子線X1〜X7と、等間隔で配置された縦方向格子線Y1〜Y7とが描かれている。これらの各格子線は、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4の配置位置を決定する役割を果たす。すなわち、横方向格子線X1〜X7と縦方向格子線Y1〜Y7との各交点を格子点Lと呼ぶことにすると、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4は、その中心がいずれかの格子点Lの位置にくるように配置されている。
たとえば、位置合わせマークQ1は、格子線X1,Y1が交わる格子点上に配置され、位置合わせマークQ2は、格子線X1,Y7が交わる格子点上に配置され、位置合わせマークQ3は、格子線X7,Y1が交わる格子点上に配置され、位置合わせマークQ4は、格子線X7,Y7が交わる格子点上に配置されている。
また、5本の横方向格子線X2〜X6と5本の縦方向格子線Y2〜Y6とがそれぞれ交わる25個の格子点は、図2の中段に示す5行5列の単位ビット行列B(U1)に対応し、この単位ビット行列B(U1)におけるビット”1”に対応する格子点位置に、ビット図形Fが配置されている(前述したとおり、ビット”0”に対応する格子点位置に、ビット図形Fを配置してもかまわない)。
一般論として説明すれば、単位ビット図形パターン生成部140は、m行n列からなる単位ビット行列B(Ui)を構成する個々のビットを、m行n列の行列状に配置された格子点Lに対応づけ、ビット”1”またはビット”0”に対応する格子点L上に所定形状のビット図形Fを配置することにより単位ビット図形パターンP(Ui)を生成する処理を行えばよい。
もちろん、実際の描画データEに含まれる図形、すなわち、描画用パターンP(E)に含まれる図形は、個々のビット図形Fと個々の位置合わせマークQ1〜Q4のみであり、図示されている各格子線X1〜X7,Y1〜Y7、ビット記録領域Abの輪郭線(破線)、単位記録領域Auの輪郭線(一点鎖線)は、実際には描画されない。
なお、描画データEには、露光対象基板S上に描画される描画用パターンP(E)の実寸を示す情報も含まれることになるが、この実寸は、用いるビーム露光装置200の描画精度を考慮して設定すればよい。
現在、一般的なLSI設計に用いられている高精度の電子線描画装置を用いたパターニング処理では、基板S上に40nm程度のサイズをもった図形を安定的に形成することができる。したがって、このような電子線描画装置をビーム露光装置200として用いれば、図示の格子線間隔(格子点Lのピッチ)を100nm程度に設定することが可能になり、一辺が50nm程度のビット図形Fを形成することが十分に可能である。このように微細な図形パターンを描画する場合、実際には、ビット図形Fは正確な正方形にはならず、位置合わせマークQ1〜Q4は正確な十文字にはならないが、実用上の支障は生じない。
そもそもビット図形Fは、格子点Lの位置に図形が有るか無いかの二値状態を判定する役割を果たせば足りるので、その形状は矩形でも、円でも、任意形状でもかまわない。また、位置合わせマークQ1〜Q4は、ビット記録領域Abの位置を示す役割を果たせば足りるので、その形状は、ビット図形Fと区別可能であれば、どのような形状であってもかまわない。したがって、40nm程度のサイズをもった図形を安定的に形成可能な性能をもった電子線描画装置を利用すれば、上述したように、縦横100nm程度のピッチでビット図形Fを配置することが可能であり、高い集積度をもった情報記録が可能になる。
一方、レーザ描画装置をビーム露光装置200として用いる場合、レーザビームのスポット径は使用するレーザ光の波長に依存し、その最小値は波長と同程度になる。たとえば、ArFエキシマレーザを用いた場合、スポット径は200nm程度であるため、電子線描画装置を利用した場合に比べれば、情報記録の集積度は若干低下するが、それでも、一般的な光学的記録媒体と同程度の集積度をもった情報記録が可能である。
図3に示す例の場合、単位ビット図形パターンP(U1)は、矩形状(正方形状)のビット記録領域Ab内に配置されたパターンになっており、これに位置合わせマークQ1〜Q4を付加することにより構成される単位記録用図形パターンR(U1)も、矩形状(正方形状)の単位記録領域Au内に配置されたパターンになっている。先願発明を実施するにあたって、ビット記録領域Abや単位記録領域Auは、必ずしも矩形状の領域にする必要はないが、図2の下段に示すように、複数の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を並べて描画用パターンP(E)を生成することを考慮すると、ビット記録領域Abおよび単位記録領域Auを、いずれも矩形状の領域にしておくのが効率的である。
したがって、実用上は、単位ビット図形パターン生成部140が、矩形状のビット記録領域Ab内に配置された単位ビット図形パターンP(Ui)を生成し、単位記録用図形パターン生成部150が、この矩形状のビット記録領域Abの外部に位置合わせマークQ1〜Q4を付加することにより、ビット記録領域Abおよび位置合わせマークQ1〜Q4を包含する矩形状の単位記録領域Au内に配置された単位記録用図形パターンR(Ui)を生成するようにするのが好ましい。そうすれば、描画データ生成部160は、これら矩形状の単位記録領域Auを二次元行列状に配置することにより、複数の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を含んだ描画用パターンP(E)を生成し、当該描画用パターンP(E)を描画するための描画データEを生成することができる。
単位記録領域Auのサイズは、任意に設定してかまわない。たとえば、図3に示す例の場合、一辺が50μmの正方形からなる単位記録領域Auを定義し、縦横100nm程度のピッチでビット図形Fを配置するようにすれば、1つの単位記録領域Au内に約30KBの情報を記録することができる。そこで、たとえば、一辺が150mm程度の正方形状の基板を情報記録媒体として用い、この基板上に、一辺が50μmの正方形からなる単位記録領域Auを二次元行列上に配置すれば、当該情報記録媒体1枚に270GBものデータを記録することができる。
<<< §2. 媒体上における物理的構造パターンの形成 >>>
ここでは、図1に示すビーム露光装置200による露光プロセスと、パターニング装置300によるパターニングプロセスとを、より詳細に説明する。§1で述べたとおり、ビーム露光装置200は、描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光を行う装置であり、パターニング装置300は、露光を受けた基板Sに対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターン(描画用パターンP(E))が形成された情報記録媒体を生成する装置である。
これらの装置は、実際には、LSIの製造プロセスで利用されている半導体リソグラフィ用の装置をそのまま転用することができる。別言すれば、ビーム露光装置200によるビーム露光プロセスや、パターニング装置300によるパターニングプロセスは、従来の一般的なLSIの製造プロセスをそのまま利用して実施することが可能である。ただ、LSIを製造する場合に用いる描画データは、たとえば、チャネル領域、ゲート領域、ソース領域、ドレイン領域、配線領域など、半導体素子の各領域を構成するための図形パターンを示すデータであるのに対して、先願発明で用いられる描画データEは、データビット”1”もしくは”0”を示すビット図形Fと、読み出し時に用いる位置合わせマークQを構成するための図形パターンを示すデータということになる。
図4は、図1に示すビーム露光装置200による露光工程およびパターニング装置300によるパターニング工程の具体例を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。まず、図4(a) に示すような露光対象基板Sを用意する。この例の場合、露光対象基板Sは、被成形層10とレジスト層20によって構成されている。なお、ここでは一層からなるレジスト層20を用いた例を示すが、後述するパターニング工程において必要となる場合には、二層以上からなるレジスト層を用いるようにしてもかまわない。また、レジストのような有機膜だけでなく、金属膜のような無機膜(エッチングストッパとして機能するいわゆるハードマスク)を併せて用いるようにしてもよい。
ここで、被成形層10は、パターニング工程において成形対象となる層であり、最終的には、デジタルデータが記録された情報記録媒体Mとなる部分である。既に述べたとおり、先願発明の目的は、長期的な耐久性を維持する情報記録を可能とする点にあるので、被成形層10には、このような目的達成に適した材料からなる基板を利用すればよい。具体的には、透明な材料としては、ガラス基板、特に石英ガラス基板を被成形層10として用いるのが最適である。もちろん、シリコン基板のような不透明な材料を被成形層10として用いることも可能である。石英ガラス基板やシリコン基板といった無機材料は、物理的な損傷を受けにくく、化学的な汚染も受けにくい材質であり、先願発明における情報記録媒体に利用するのに最適な材料である。
一方、レジスト層20としては、被成形層10に対するパターニングを行うのに適した材料を用いればよい。すなわち、電子線もしくはレーザビームの露光によって組成が変化し、かつ、被成形層10に対するエッチング工程において保護膜として機能する性質を有する材料を用いればよい。もちろん、現像時に露光部が溶解する性質をもったポジ型レジストを用いてもよいし、現像時に非露光部が溶解する性質をもったネガ型レジストを用いてもよい。
なお、露光対象基板Sの形状や大きさは任意でかまわない。現在、フォトマスクとして一般に用いられている石英ガラス基板は、152×152×6.35mmといった標準規格の矩形状の基板が用いられることが多い。また、シリコン基板としては、直径6インチ,8インチ,12インチなどの規格に応じた厚み1mm程度の円盤状ウエハが用いられることが多い。露光対象基板Sとしては、これらの標準的な基板を被成形層10として、その上面にレジスト層20を形成したものを用いればよい。
以下、説明の便宜上、被成形層10として石英ガラス基板を用い、レジスト層20としてポジ型レジストを用いた実施例を述べることにする。したがって、図4(a) に示す露光対象基板Sは、石英ガラス基板10上にポジ型レジスト層20を形成した基板ということになる。もちろん、先願発明はこのような実施例に限定されるものではない。
結局、図1に示すビーム露光装置200は、被成形層10とこれを覆うレジスト層20とを有する露光対象基板Sに対して、レジスト層20の表面にビーム露光を行うことになる。図4(b) は、ビーム露光装置200による露光プロセスを示している。§1で述べたとおり、ビーム露光装置200による露光は、ビット図形Fの内部および位置合わせマークQの内部に対してのみ行われる。したがって、レジスト層20は、露光プロセスを経ることにより、露光部21と非露光部22とに分けられる。ここで、非露光部22の化学的組成は元のままであるが、露光部21の化学的組成は変化する。
パターニング装置300は、このような露光プロセスが完了した後の基板Sに対してパターニングを行う装置であり、図1に示すとおり、現像処理部310とエッチング処理部320とを有している。
現像処理部310は、レジスト層の露光部21(ポジ型レジストを用いた場合)または非露光部22(ネガ型レジストを用いた場合)を溶解する性質をもった現像液に、露光後の基板Sを含浸させてその一部を残存部とする現像処理を行う。図4(c) は、図4(b) に示す基板Sに対して、このような現像処理を施した状態を示している。ここに示す実施例では、ポジ型レジストが用いられているため、現像処理によって露光部21が現像液に溶解し、非露光部22が残存部23として残ることになる。
一方、エッチング処理部320は、現像後の基板Sに対してエッチング処理を行う。図4(c) に示す実施例の場合、残存部23をマスクとして被成形層10に対するエッチング処理が行われることになる。具体的には、図4(c) に示す基板Sを、被成形層10に対する腐食性が、レジスト層の残存部23に対する腐食性よりも強いエッチング液に含浸させればよい(もちろん、ドライエッチングなど、エッチング液に含浸させない方法を採用してもかまわない)。
図4(d) は、エッチング処理部320によるエッチング処理が行われた状態を示している。被成形層10の上面のうち、マスクとなる残存部23に覆われている部分は腐食を受けないが、露出している部分は腐食を受け、凹部が形成される。こうして、被成形層10は、上面に凹凸構造が形成された被成形層11に加工されることになる。エッチング処理部320は、この後、レジスト層の残存部23を剥離除去し、被成形層11を洗浄乾燥する処理機能を有している。
このようなプロセスを経て、最終的に図4(e) に示すような加工後の被成形層11が得られる。こうして得られた被成形層11が、先願発明に係る情報保存装置によってデジタルデータが書き込まれた情報記録媒体M1に他ならない。図示のとおり、この情報記録媒体M1の上面には物理的な凹凸構造が形成されており、凹部Cと凸部Vとによって、ビット”1”およびビット”0”が表現されている。したがって、図に太い一点鎖線で示す位置(図3に示す格子点Lに対応する位置)について、媒体表面が凹部Cを構成しているか、凸部Vを構成しているかを検出することにより、ビット”1”およびビット”0”の読み出しが可能になる。
もちろん、図示の例とは逆に、凹部Cをビット”0”とし、凸部Vをビット”1”とする記録方式を採ることも可能である。いずれをビット”0”とし、いずれをビット”1”とするかは、これまで述べてきたプロセスに応じて定まる事項である。たとえば、§1で述べた例の場合、単位ビット図形パターン生成部140において、単位ビット行列のビット”1”に対応する格子点Lの位置にビット図形Fを配置しているが、逆に、ビット”0”に対応する格子点Lの位置にビット図形Fを配置するようにすれば、凹部と凸部のビット情報は逆転することになる。また、レジスト層20として、ポジ型レジストではなくネガ型レジストを用いた場合も、凹部と凸部の関係は逆転する。
こうして作成された情報記録媒体M1は、長期的な耐久性をもち、高い集積度をもって情報記録が行われており、しかも普遍的な方法で情報を読み出せる、という特徴を有している。
すなわち、被成形層10として、石英ガラス基板やシリコン基板のような材料を用いれば、従来の紙、フィルム、レコード盤などの情報記録媒体に比べて、経年変化による劣化や、水や熱の作用による損傷を受けにくく、古代の石盤などと同様に数百年といった半永久的な時間的尺度での耐久性が得られる。もちろん、コンピュータ用のデータ記録媒体として一般に利用されている磁気記録媒体、光学式記録媒体、半導体記録媒体などと比較しても、格段に長い期間にわたって耐久性が得られる。したがって、先願発明は、たとえば、半永久的に情報を記録しておくことが望ましい公文書などの情報保存に利用するのに最適である。
また、§1で述べたとおり、ビーム露光装置200は、電子線またはレーザ光によって、微細な露光を行うことが可能なため、きわめて高い集積度をもって情報記録を行うことが可能である。たとえば、高精細な電子線描画装置を用いれば、ビット図形Fを100nm程度のピッチで書き込むことが可能であり、上述した標準的なサイズのフォトマスクやシリコン基板に、100GB〜1TB程度の容量をもった情報を保存することが可能になる。
更に、先願発明に係る情報記録媒体では、ビットの二値情報が、凹凸等の物理的構造として直接記録されるため、普遍的な方法で情報を読み出せるという特徴をもっている。すなわち、前掲の特許文献1および2には、円柱状の石英ガラスを媒体として、その内部に三次元的に情報を記録する技術が開示されているが、媒体内に三次元的に記録された情報を読み出すためには、コンピュータトモグラフィ等を利用した専用の読出装置が必要になり、フーリエ変換処理などの特殊な演算処理が必要になる。したがって、たとえば、数百年後に円柱状の記録媒体が無傷のまま残っていたとしても、専用の読出装置の技術が継承されていなければ、情報を読み出すことはできない。
これに対して、先願発明に係る情報保存装置で作成された情報記録媒体には、ビットの二値情報が物理的構造として直接記録されているので、記録面を何らかの方法で拡大して画像として認識することができれば、少なくともビットの情報自体は読み出すことが可能である。別言すれば、先願発明に係る情報記録媒体それ自体は三次元の構造体であるが、ビット情報の記録はあくまでも二次元的に行われているため、先願発明に係る情報記録媒体が、仮に、数百年後あるいは数千年後に発掘された場合でも、普遍的な方法によってビット情報を読み出すことが可能になる。
以上、先願発明に係る情報保存装置によって、石英ガラス基板やシリコン基板の表面に、ビット”1”およびビット”0”のいずれか一方を示す凹部と他方を示す凸部とからなる凹凸構造を有する物理的構造パターンを形成する例を述べた。ただ、先願発明を実施するにあたって、ビット情報を示す物理的構造は、必ずしも凹凸構造に限定されるものではない。そこで、図5の側断面図(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)を参照しながら、媒体上に物理的構造を形成する手法のバリエーションをいくつか述べておく、
図5(a) は、パターニング装置300によって、ビット”1”およびビット”0”のいずれか一方を示す貫通孔Hと他方を示す非孔部Nとからなる網状構造を有する物理的構造パターンを形成した例を示す側断面図である。図示の網状構造体12では、太い一点鎖線で示す位置が図3に示す格子点Lに対応する位置であり、当該位置が貫通孔Hになっているか、非孔部N(貫通孔が形成されていない部分)になっているか、によって、図示のとおりビット”1”およびビット”0”が表現されている。
このように、図5(a) に示す情報記録媒体の場合、凹凸構造ではなく、貫通孔の有無によってビットが表現されているため、媒体自体は網状構造体を構成することになるが、格子点Lの位置にビット情報を記録するという根本原理は、図4(e) に示す基本的な実施例と全く同様である。もちろん、貫通孔Hによりビット”0”を表現し、非孔部Nによりビット”1”を表現してもかまわない。図5(a) に示す網状構造体12を情報記録媒体Mとする場合は、エッチング処理部320によるエッチング工程(図4(d) )において、被成形層10の下面に達するまでエッチング処理を続けて貫通孔Hを形成すればよい。
一方、図5(b) 〜(d) は、図4(e) に示す情報記録媒体M1の凹部Cもしくは凸部Vまたはその双方の表面に付加層を形成した変形例を示す側断面図である。図5(b) に示す変形例の場合、凹部Cと凸部Vの双方の表面に付加層31が形成されており、図5(c) に示す変形例の場合、凸部Vの表面にのみ付加層32が形成されており、図5(d) に示す変形例の場合、凹部Cの表面にのみ付加層33が形成されている。
付加層31,32,33としては、光反射性の材料(たとえば、アルミニウム、ニッケル、チタン、銀、クロム、シリコン、モリブデン、白金などの金属、これらの金属の合金、酸化物、窒化物など)もしくは光吸収性の材料(たとえば、金属の酸化物や窒化物といった化合物からなる材料。クロムを例にとれば、酸化クロムや窒化クロムなど)を用いることができる。光反射性の材料からなる付加層を形成しておけば、読み出し時に反射光の振る舞いの相違に基づいて凹部Cと凸部Vとを区別することができ、光吸収性の材料からなる付加層を形成しておけば、読み出し時に光の吸収態様の相違に基づいて凹部Cと凸部Vとを区別することができる。したがって、このような付加層を形成すれば、情報の読み出しをより容易にする効果が得られる。
また、付加層のように明快な境界面を有する別層を形成する代わりに、凹部Cや凸部Vの表面に不純物をドープすることにより同様の効果を得ることもできる。たとえば、凹凸構造を有する情報記録媒体を石英によって構成し、その表面に、硼素、燐、ルビジウム、セレン、銅などをドーピングし、表面部分の不純物濃度を異ならせれば、付加層を設けた場合と同様に、表面部分に光反射性もしくは光吸収性をもたせることができ、情報の読み出しをより容易にする効果が得られる。具体的には、上例の不純物の場合、濃度が約100ppm以上になると紫外線に対する吸収効果が得られ、約1000ppm以上になると反射率が上昇する効果が得られる。
特に、図5(c) に示す例のように、凸部Vにのみ光反射性もしくは光吸収性の材料からなる付加層32を形成するようにすれば、読み出し時には、凹部Cから得られる反射光もしくは散乱光と、凸部Vから得られる反射光もしくは散乱光との差が顕著になるため、ビット”1”とビット”0”とを容易に識別可能になる。同様に、図5(d) に示す例のように、凹部Cにのみ光反射性もしくは光吸収性の材料からなる付加層33を形成するようにしても、読み出し時には、凹部Cから得られる反射光もしくは散乱光と、凸部Vから得られる反射光もしくは散乱光との差が顕著になるため、ビットの識別が容易になる。
図5(b) に示す例のように、凹部Cと凸部Vの双方の表面に付加層31を形成するには、エッチング処理により図4(e) に示す情報記録媒体M1を得た後、更に、記録媒体の上面全面に付加層31を堆積させる処理を行えばよい。また、図5(c) に示す例のように、凸部Vの表面のみに付加層32が形成された構造を得るには、図4(a) に示す露光対象基板Sの代わりに、被成形層10とレジスト層20との間に付加層が挟まれた構造を有する基板を用いればよい。そして、図5(d) に示す例のように、凹部Cの表面のみに付加層33が形成された構造を得るには、図4(d) に示すエッチングプロセスが完了した時点で、レジスト層の残存部23をそのまま残した状態にして、上面全面に付加層を堆積させる処理を行い、その後、残存部23を剥離除去すればよい。
一方、図5(e) に示す変形例は、支持層40の上面に形成された被成形層51自身を、光反射性もしくは光吸収性の材料によって構成したものである。たとえば、支持層40を石英ガラス基板によって構成し、その上面にアルミニウムからなる付加層を形成し、更にその上面にレジスト層を形成して、図4に例示したプロセスに準じたプロセスを行えば、図5(e) に示すような構造体を得ることができる。この場合、エッチングプロセスは、アルミニウムに対して腐食性を有する腐食液を用いればよい。この構造体では、凹部Cの表面は石英ガラス、凸部Vの表面はアルミニウムによって形成されているため、やはり読み出し時にビットの識別が容易になるという効果が得られる。
なお、実用上、図5(a) に示す変形例を採用する場合は、網状構造体12を不透明な材料によって構成するのが好ましい。そうすれば、貫通孔Hの部分は光を透過する部分となり、非孔部Nの部分は光を透過させない部分となるので、後述する読み出し時に顕著な差を認識することができ、ビットの識別が容易になる。
一方、図5(c) 〜(e) に示す変形例を採用する場合は、被成形層11もしくは支持層40を透明な材料によって構成し、付加層32,33,51を不透明な材料によって構成するのが好ましい。そうすれば、付加層が形成されていない部分は光を透過する部分となり、付加層が形成されている部分は光を透過させない部分となるので、後述する読み出し時に、光の透過率に関して顕著な差を認識することができ、ビットの識別が容易になる。
<<< §3. 先願発明に係る情報読出装置の基本的実施形態 >>>
§1および§2では、情報記録媒体へ情報を保存するための情報保存装置の構成と動作を説明した。ここでは、こうして記録された情報を読み出すために用いられる情報読出装置の構成と動作を説明する。
図6は、先願発明に係る情報読出装置の基本的実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態に係る情報読出装置は、図1に示す情報保存装置を用いて情報記録媒体Mに保存されたデジタルデータを読み出す機能を果たす装置であり、図示のとおり、画像撮影装置400と読出処理用コンピュータ500によって構成される。
ここで、画像撮影装置400は、情報記録媒体Mの記録面の一部をなす撮影対象領域を拡大して撮影し、得られた撮影画像を画像データとして取り込む構成要素であり、図示のとおり、撮像素子410、拡大光学系420、走査機構430を有している。
撮像素子410は、たとえば、CCDカメラによって構成することができ、所定の撮影対象領域内の画像をデジタル画像データとして取り込む機能を有している。拡大光学系420は、レンズなどの光学素子から構成され、情報記録媒体Mの記録面の一部分を構成する所定の撮影対象領域を拡大し、撮像素子410の撮像面に当該拡大画像を形成する役割を果たす。そして、走査機構430は、撮影対象領域が、情報記録媒体Mの記録面上を順次移動するように、撮像素子410や拡大光学系420に対して走査処理(位置や角度の変更)を行う役割を果たす。
図5には、情報記録媒体Mのバリエーションを示したが、図5(a) に示す網状構造体12からなる情報記録媒体Mであれば、材料の透明/不透明を問わず、上下いずれの面についても情報の読み出しが可能であり、上下いずれの面も記録面を構成することになる。これに対して、図4(e) および図5(b) 〜(e) に示すように、上面に凹凸構造が形成された情報記録媒体Mの場合、上面が記録面ということになる。したがって、被成形層11もしくは支持層40が透明な材料によって構成されている場合は、上方および下方のいずれの側から撮影しても情報の読み出しが可能であるが、これらが不透明な材料によって構成されている場合は、必ず上方から撮影する必要がある。
読出処理用コンピュータ500は、図示のとおり、撮影画像格納部510、ビット記録領域認識部520、単位ビット行列認識部530、走査制御部540、データ復元部550を有している。以下、これら各部の機能について順に説明を行う。もっとも、これら各部は、実際には、コンピュータに専用のプログラムを組み込むことにより実現される構成要素であり、読出処理用コンピュータ500は、汎用のコンピュータに専用のプログラムをインストールすることにより構成することができる。
まず、撮影画像格納部510は、画像撮影装置400によって撮影された撮影画像を格納する構成要素である。すなわち、撮像素子410によって撮影された所定の撮影対象領域内の画像をデジタル画像データとして格納する機能を有する。上述したとおり、画像撮影装置400には、走査機構430が設けられており、撮影対象領域は、情報記録媒体Mの記録面上を順次移動することになり、その都度、撮像素子410によって新たな撮影画像が取得される。撮影画像格納部510は、こうして撮像素子410から順次与えられる画像データをそれぞれ格納する機能を果たす。
一方、ビット記録領域認識部520は、撮影画像格納部510に格納されている撮影画像から、個々のビット記録領域Abを認識する処理を行う。先願発明では、図2を参照して説明したとおり、保存対象となるデジタルデータDは複数の単位データU1,U2,U3,... に分割され、それぞれ単位ビット図形パターンP(U1),P(U2),P(U3),... として個々のビット記録領域Ab内に記録される。したがって、読出処理時にも、まず、個々のビット記録領域Abを認識した上で、その中に記録されている個々の単位ビット図形パターンP(Ui)に基づいて、単位データUiを構成する各ビットを読み出すことになる。
§2で述べたとおり、情報記録媒体Mの記録面上には、凹凸構造や貫通孔の有無などの物理的構造パターンとして、位置合わせマークQやビット図形Fが記録されている。このため、撮影画像上には、明暗分布として、これら位置合わせマークQやビット図形Fもしくはその輪郭が表現されていることになり、既存のパターン認識技術を利用することにより、撮影画像上で位置合わせマークQやビット図形Fを認識することが可能である。
まず、個々のビット記録領域Abの認識は、位置合わせマークQを検出することにより行われる。位置合わせマークQには、ビット図形Fとは異なる図形が用いられているため、ビット記録領域認識部520は、撮影画像格納部510に格納されている撮影画像内を検索することにより、位置合わせマークQを検出できる。たとえば、図2の下段に示す例の場合、ビット図形Fが正方形であるのに対して、位置合わせマークQは十文字状であるので、既存のパターン認識技術を利用することにより、撮影画像上で位置合わせマークQを認識し、その位置を決定することができる。
位置合わせマークQは、ビット記録領域Abに対して特定の位置に配置されているので、撮影画像上で位置合わせマークQを認識することができれば、ビット記録領域Abの位置を特定することができる。たとえば、撮影画像内に、図3に示すような単位記録用図形パターンR(U1)が含まれていた場合、4組の位置合わせマークQ1〜Q4を認識することができれば、これら4組の位置合わせマークQ1〜Q4を4隅近傍にもつ正方形状のビット記録領域Abを認識することができる。
画像撮影装置400が、少なくとも1つの単位記録領域Auを包含可能なサイズの撮影対象領域を撮影する機能を有していれば、撮影画像内を検索することにより、図3に示すような4組の位置合わせマークQ1〜Q4を認識することができ、更に、ビット記録領域Abを認識することができる。
もちろん、撮影対象領域が、互いに隣接する単位記録領域Auに股がった位置に設定されていると、同一のビット記録領域Abの位置を示す4組の位置合わせマークQ1〜Q4を正しく認識できない。この場合、ビット記録領域認識部520は、認識された位置合わせマークの相互関係に基づいて、撮影対象領域の位置ずれを把握することができるので、走査制御部540に対して当該位置ずれを報告する処理を行う。
走査制御部540は、このような位置ずれの報告を受けた場合、画像撮影装置400に対して当該位置ずれを調整する制御を行う。具体的には、撮影対象領域を所定の補正方向に所定の補正量だけ移動させるよう、走査機構430に対して指示を与える。このような調整を行えば、図3に示すように、4隅の適切な場所に、位置合わせマークQ1〜Q4が配置された正しい撮影画像を得ることができ、ビット記録領域Abに対して正しい読出処理を行うことができるようになる。このように、走査制御部540の第1の役割は、撮影対象領域が単位記録領域Auに対して位置ずれを生じていた場合に、この位置ずれを補正するための調整処理である。
走査制御部540の第2の役割は、1つの単位記録領域Auを撮影対象領域とする撮影が終了した後、次の単位記録領域Auを新たな撮影対象領域として設定する走査処理である。たとえば、図2の下段に示す例の場合、単位記録用図形パターンR(U1)が記録されている単位記録領域Au(U1)についての撮影が完了したら、続いて、単位記録用図形パターンR(U2)が記録されている単位記録領域Au(U2)についての撮影を行う必要があり、その後、更に、単位記録用図形パターンR(U3)が記録されている単位記録領域Au(U3)、単位記録用図形パターンR(U4)が記録されている単位記録領域Au(U4)と、順次、撮影対象領域を移動させてゆく必要がある。
結局、走査制御部540は、読出対象となるすべてのビット記録領域についての撮影画像が得られるように、画像撮影装置400による撮影対象領域を変更する制御を行う構成要素ということができる。当該制御は、ビット記録領域認識部520による位置合わせマークQの検出結果に基づくフィードバック制御によって行うことができ、位置ずれが生じた場合にも、上述したような微調整が可能である。
さて、ビット記録領域認識部520が、撮影画像から第i番目のビット記録領域Ab(i)を認識したら、この第i番目のビット記録領域Ab(i)の情報は単位ビット行列認識部530へ与えられる。単位ビット行列認識部530は、このビット記録領域Ab(i)内のパターンに基づいて、単位ビット行列を認識する処理を行う。たとえば、図3に示す例の場合、ビット記録領域Ab内に記録されている単位ビット図形パターンP(U1)に基づいて、図2の中段に示すような5行5列からなる単位ビット行列B(U1)を認識することができる。
図3に示す例の場合、§1で述べたとおり、等間隔で配置された横方向格子線X1〜X7と、等間隔で配置された縦方向格子線Y1〜Y7とが定義され、これらの各交点として格子点Lが定義され、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4は、その中心がいずれかの格子点Lの位置にくるように配置されている。したがって、単位ビット行列認識部530による単位ビット行列B(U1)の認識処理は、次のような手順によって行うことが可能である。
まず、ビット記録領域認識部520によって認識された4組の位置合わせマークQ1〜Q4の中心点位置に基づいて、横方向格子線X1,X7と縦方向格子線Y1,Y7とを認識する。続いて、横方向格子線X1,X7の間を等分するように、横方向格子線X2〜X6を定義し、縦方向格子線Y1,Y7の間を等分するように、縦方向格子線Y2〜Y6を定義する。そして、横方向格子線X2〜X6と縦方向格子線Y2〜Y6とがそれぞれ交わる25個の格子点位置を決定し、これら各格子点位置に、ビット図形Fが存在するか否かを判定する処理を行えばよい。上述したように、ビット図形Fは、撮影画像上の明暗分布に基づいて認識することができるので、ビット図形Fが存在する格子点位置にはビット”1”を対応づけ、存在しない格子点位置にはビット”0”を対応づければ、図2の中段に示す5行5列の単位ビット行列B(U1)を得ることができる。
単位ビット行列認識部530は、こうして第i番目のビット記録領域Ab(i)内に記録されている第i番目の単位ビット図形パターンP(Ui)に基づいて、第i番目の単位ビット行列B(Ui)を認識する処理を行い、その結果を、データ復元部550に与える。単位ビット行列認識部530は、ビット記録領域認識部520によって認識されたすべてのビット記録領域について、同様の方法で単位ビット行列の認識処理を繰り返し実行することになる。
データ復元部550は、こうして単位ビット行列認識部530が認識した個々の単位ビット行列B(Ui)から単位データUiを生成し、個々の単位データUiを合成することにより、保存対象となったデジタルデータDを復元する処理を実行する。たとえば、図2に示す例の場合、4組の単位ビット行列B(U1)〜B(U4)から4組の単位データU1〜U4を生成し、これらを連結することにより、元のデジタルデータDが復元されることになる。
以上、図6のブロック図を参照しながら、先願発明に係る情報読出装置の基本的実施形態を説明したが、先願発明に係る情報保存装置によって作成された情報記録媒体Mからの情報の読み出しは、必ずしもこのような情報読出装置を用いて行う必要はない。たとえば、光学式測定器、走査型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などを用いて情報を読み出すことも可能である。
先願発明に係る情報保存装置で作成された情報記録媒体Mは、前述したとおり、ビットの二値情報が物理的構造として直接記録されているという普遍性を有しているため、記録面を何らかの方法で拡大してビット図形Fの有無を示す画像を取得することができれば、ビット情報を読み出すことができる。したがって、当該情報記録媒体Mが、数百年後あるいは数千年後に発掘された場合でも、その時代に、何らかの物理的構造認識手段が存在すれば、ビット情報を読み出すことが可能である。もちろん、地中に埋もれた状態で保管されていた場合には、記録面に異物が付着して汚染されている可能性があるが、これらの異物は洗浄により容易に除去することが可能であり、情報の読み出しに支障は生じない。
いずれの読出方法を採用しても、情報記録面に対して非接触状態で読み出しが可能になるため(原子間力顕微鏡を用いた場合でも、ノンコンタクトモードを用いれば、非接触状態での読み出しが可能である)、読出処理時に記録面が物理的損傷を受けることがなく、読出処理を繰り返し実行したとしても、情報記録面が摩耗するおそれはない。
また、図6に示す情報読出装置を図1に示す情報保存装置と組み合わせれば、情報記録媒体Mの一部の記録済領域から情報を読み出しつつ、当該記録済領域に隣接した未記録領域に新たな情報保存を行うことも可能になる。したがって、1枚の情報記録媒体に、順次、新たな情報記録を行う追記式の情報保存装置を実現することも可能になる。もちろん、情報保存装置と情報読出装置とを組み合わせた装置を用いれば、情報保存装置を用いて媒体上に情報を書き込む保存処理を行った後、情報読出装置を用いて保存された情報の検証を行うこともでき、必要に応じて、修正を施すこともできる。
<<< §4. 位置合わせマークのバリエーション >>>
§3では、情報読出装置の基本的実施形態を説明した。そこで、ここでは、この情報読出時の便宜を考慮して、情報保存時に記録する位置合わせマークのバリエーションを述べておく。ビット図形Fが保存対象となる本来の情報を示す役割を果たすのに対して、位置合わせマークQは、情報読出時の位置決めに利用されるメタ情報ということになる。
これまで述べてきた実施形態では、単位記録用図形パターン生成部150が、たとえば図3に例示するように、矩形状のビット記録領域Abの4隅の外側に、それぞれ十文字状の位置合わせマークQ1〜Q4を付加することにより、単位記録用図形パターンを生成する処理を行っている。これらの位置合わせマークQ1〜Q4は、図6に示す情報読出装置におけるビット記録領域認識部520が、ビット記録領域Abを認識するための位置合わせに利用される。
しかしながら、これら位置合わせマークQの形状、配置位置、数は、上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、位置合わせマークQの形状は、ビット図形Fと区別可能な形状であれば任意の形状でかまわない。また、配置する位置は、必ずしもビット記録領域Abの4隅の外側に配置する必要はなく、たとえば、ビット記録領域Abの4辺の中央位置に配置してもかまわない。更に、位置合わせマークQの数も、必ずしも4組である必要はない。
図7は、先願発明に用いる位置合わせマークQのバリエーションを示す平面図である。いずれも、破線の正方形はビット記録領域Ab(便宜上、内側には、ビット図形を描く代わりに斜線を施してある)を示し、一点鎖線の正方形は単位記録領域Auを示しており、両者の間に配置されている円形のマークが位置合わせマークQである。
図7(a) は、矩形状のビット記録領域Abの左上隅近傍および右上隅近傍に、位置合わせマークQ11およびQ12を配置した例である。この2組の位置合わせマークQ11,Q12の中心点を結ぶ方向を横方向座標軸Xと定義すれば、ビット記録領域Abの配置に関する一座標軸方向を示すことができる。読み出し時には、2組の位置合わせマークQ11,Q12に基づいて横方向座標軸Xを認識することができ、更に、この横方向座標軸Xに直交する軸として縦方向座標軸Yを定義することができるので、ビット記録領域Abが正しい矩形をしていれば、各ビットの読出処理に支障は生じない。このような観点からは、1つのビット記録領域Abについて、2組の位置合わせマークを付加しておけば、実用上、読出処理に支障は生じないことになる。
もちろん、ビット記録領域Abの左上隅近傍と左下隅近傍に、それぞれ位置合わせマークを配置して、縦方向座標軸Yを定義するようにしてもよい。要するに、単位記録用図形パターン生成部150は、矩形状のビット記録領域Abの4隅のうちの対角にない2隅の外側近傍に配置された合計2組の位置合わせマークを付加することにより、単位記録用図形パターンを生成すればよい。
一方、図7(b) は、矩形状のビット記録領域Abの4隅のうちの3隅の外側近傍に配置された合計3組の位置合わせマークQ21,Q22,Q23を付加することにより、単位記録用図形パターンを生成した例である。このように3組の位置合わせマークQ21,Q22,Q23を用いれば、図示のように横方向座標軸Xと縦方向座標軸Yとの双方を定義することができ、各ビットの読出処理の精度を更に高めることが可能である。
このように3組の位置合わせマークを用いる場合は、図8に示す例のように、相互に隣接する単位記録用図形パターンについて、3組の位置合わせマークの配置態様を異ならせるようにするのが好ましい。図8には、複数の単位記録領域Auを二次元行列状に配置した状態が示されている。ここで、単位記録領域Au(11),Au(13),Au(22),Au(31),Au(33)については、図7(b) に示す配置態様(すなわち、右下隅だけ欠けている配置態様)で3組の位置合わせマークが配置されているが、単位記録領域Au(12),Au(21),Au(23),Au(32)については、図7(b) に示す配置態様とは左右逆転させた配置態様(すなわち、左下隅だけ欠けている配置態様)で3組の位置合わせマークが配置されている。
要するに、単位記録領域Auの配列について、行番号i(i=1,2,3,... )と列番号j(j=1,2,3,... )を定義して、個々の単位記録領域を、図示のとおりAu(ij)と表現した場合に、(i+j)が偶数になる第1のグループについては、図7(b) に示すように、右下隅だけ位置合わせマークが欠けている配置態様を採用し、(i+j)が奇数になる第2のグループについては、図7(b) を左右逆転させたように、左下隅だけ位置合わせマークが欠けている配置態様を採用している。
このように、3組の位置合わせマークの配置態様として2通りの態様を定義し、上下もしくは左右に隣接する単位記録用図形パターンについて、互いに異なる配置態様を採用するようにすれば、走査制御部540が撮影対象領域の走査を行う際に、隣接する単位記録領域についての撮影をスキップさせてしまう誤りを防ぐことができる。
たとえば、図8に示す例において、走査制御部540が、まず、単位記録領域Au(11)を撮影対象領域として撮影し、続いて、撮影対象領域を図の右方向に移動させ、右に隣接する単位記録領域Au(12)を撮影対象領域とする制御を行ったとしよう。通常、単位記録領域Auのピッチに相当する距離だけ移動させる制御を行えば、次の撮影対象領域を単位記録領域Au(12)の位置へもってゆくことが可能である。ところが、何らかの事情により移動距離に誤差が生じ、撮影対象領域が単位記録領域Au(13)の位置まで移動してしまった場合、単位記録領域Au(12)に対する読出処理はスキップされてしまうことになる。
図8に示すような配置態様を採用しておけば、このような事態が生じても、誤りであることを検出できる。すなわち、単位記録領域Au(11)を撮影した後、単位記録領域Au(12)の撮影をスキップして単位記録領域Au(13)の撮影が行われたとすると、位置合わせマークの配置態様が同じになるため、単位記録領域Au(12)がスキップされてしまったことを認識できる。そこで、撮影対象領域を図の左方向へと戻す処理を行い、単位記録領域Au(12)の撮影が行われるような修正を行うことができる。縦方向に関するスキップが生じた場合も同様の修正が可能である。
このようなスキップが生じたことを認識させるための方法としては、2通りの配置態様を用意しておく方法の他、位置合わせマークの形状を変える方法を採ることも可能である。たとえば、図9(a) ,(b) には、位置合わせマークの形状を変えたバリエーションの一例が示されている。図9(a) に示す例の場合、十文字状のマークQ31、三角形のマークQ32、四角形のマークQ33が、図示の位置に配置されているのに対して、図9(b) に示す例の場合、円形のマークQ41、菱形のマークQ42、×印のマークQ43が、図示の位置に配置されている。このような2通りの位置合わせマークを縦横交互に用いるようにすれば、図8に示す例と同様に、スキップが生じたことを認識することができる。
図10は、先願発明おける位置合わせマークの配置形態の更に別なバリエーションを示す平面図である。このバリエーションは、図8に示す例における単位記録領域Au(11)についての位置合わせマークを、図9(a) に示す位置合わせマークに変更したものである。すなわち、二次元行列状に配置された複数の単位記録領域Auのうち、第1行第1列目に配置されている単位記録領域Au(11)のみ、用いる位置合わせマークの形状が異なっている。これは、第1行第1列目に配置されている単位記録領域Au(11)を、最初に読み出すべき基準単位記録領域として設定しておき、読出処理時には、この基準単位記録領域を容易に識別できるようにするための配慮である。
この図10に示すバリエーションを採用する場合、単位記録用図形パターン生成部150は、特定の単位記録領域を基準単位記録領域に設定し、当該基準単位記録領域については、他の単位記録領域とは異なる基準位置合わせマークを用いた単位記録用図形パターンを生成するようにすればよい。図示の例の場合、基準単位記録領域Au(11)については、図9(a) に示す基準位置合わせマークが用いられ、その他の単位記録領域については、図8に示す通常の位置合わせマークが用いられているため、読出処理時には、まず、図9(a) に示す基準位置合わせマークを探索する処理を行うことにより、最初に読み出すべき基準単位記録領域Au(11)を特定することができる。
すなわち、図6に示す情報読出装置における画像撮影装置400が、少なくとも1つの単位記録領域Auを包含可能なサイズの撮影対象領域を撮影する機能を有していれば、図9(a) に示す基準位置合わせマークを探索することが可能になるので、走査制御部540は、まず、図9(a) に示す基準位置合わせマークに基づいて基準単位記録領域Au(11)を包含する領域の撮影画像が得られるように、画像撮影装置400に対して撮影対象領域を調整させる制御を行えばよい。こうして、基準単位記録領域Au(11)内のビット記録領域Ab(11)から正しいビット情報の読み出しが完了したら、走査制御部540によって、単位記録領域Auの配置ピッチに応じて、撮影対象領域を順次移動させる制御を行うようにすればよい。
もちろん、この場合も、図8を参照して説明したように、何らかの事情により単位記録領域Au(13)がスキップされる誤りが生じても、当該誤りを認識して修正することができる。また、微細な位置ずれが生じていた場合にも、微調整することができる。
また、基準単位記録領域Au(11)を示す方法として、他の単位記録領域とは異なる基準位置合わせマークを用いる方法を採る代わりに、基準単位記録領域Au(11)内のビット記録領域Ab(11)に、ビット図形Fを配置せずに特有の識別マークを配置する方法を採ることも可能である。ビット記録領域Abは、本来はビット図形Fを配置して保存対象となるデータを記録するために用いられる領域であるが、基準単位記録領域についてのみ、特有の識別マークを配置するようにすれば、当該特有の識別マークを確認することにより、基準単位記録領域を容易に認識することができる。
たとえば、図8に示す領域Au(11)内に、大きな星印を描画しておけば、当該領域Au(11)が基準単位記録領域であることを容易に認識することができる。この場合、領域Au(11)内には、本来の情報は記録されていないが、まず、基準単位記録領域Au(11)を最初の撮影対象領域とする位置調整を行った後、撮影対象領域を順次移動させる走査を行うようにすればよい。基準単位記録領域Auのサイズが目視しうるサイズであれば、上例の場合、星印を目視確認することも可能であり、基準単位記録領域Au(11)を最初の撮影対象領域とする位置合わせを、オペレータの目視による手動操作で行うことも可能になる。
<<< §5. 先願発明に係る情報保存方法および情報読出方法 >>>
ここでは、先願発明を情報保存方法および情報読出方法という方法発明として把握した場合の基本的な処理手順を説明しておく。
図11は、先願発明に係る情報保存方法の基本処理手順を示す流れ図である。この手順は、デジタルデータを情報記録媒体に書き込んで保存する情報保存方法の実行手順であり、ステップS11〜S16は、図1に示す保存処理用コンピュータ100によって実行される手順であり、ステップS17は、図1に示すビーム露光装置200によって実行される手順であり、ステップS18は、図1に示すパターニング装置300によって実行される手順である。
まず、ステップS11では、保存処理用コンピュータ100が、保存対象となるデジタルデータDを入力するデータ入力段階が実行される。続くステップS12では、保存処理用コンピュータ100が、当該デジタルデータDを、所定のビット長単位で分割することにより、複数の単位データUiを生成する単位データ生成段階が実行される。そして、ステップS13では、保存処理用コンピュータ100が、個々の単位データUiを構成するデータビットを二次元行列状に配置することにより、単位ビット行列B(Ui)を生成する単位ビット行列生成段階が実行され、ステップS14では、保存処理用コンピュータ100が、単位ビット行列B(Ui)を、所定のビット記録領域Ab内に配置された幾何学的なパターンに変換することにより単位ビット図形パターンP(Ui)を生成する単位ビット図形パターン生成段階が実行される。
続いて、ステップS15では、保存処理用コンピュータ100が、単位ビット図形パターンP(Ui)に位置合わせマークQを付加することにより、単位記録用図形パターンR(Ui)を生成する単位記録用図形パターン生成段階が実行される。そして、ステップS16では、保存処理用コンピュータ100が、単位記録用図形パターンR(Ui)を描画するための描画データEを生成する描画データ生成段階が実行される。
そして最後に、ステップS17において、描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光を行うビーム露光段階が実行され、ステップS18において、露光を受けた基板に対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターンが形成された情報記録媒体Mを生成するパターニング段階が実行される。
これに対して、図12は、先願発明に係る情報読出方法の基本処理手順を示す流れ図である。この手順は、図11に示す手順により情報記録媒体Mに保存されたデジタルデータを読み出す情報読出方法の実行手順であり、ステップS21は、図6に示す画像撮影装置400によって実行される手順であり、ステップS22〜S27は、図6に示す読出処理用コンピュータ500によって実行される手順である。
まず、ステップS21では、画像撮影装置400を用いて、情報記録媒体Mの記録面の一部をなす撮影対象領域を拡大して撮影し、得られた撮影画像を画像データとして取り込む画像撮影段階が実行される。そして、ステップS22では、読出処理用コンピュータ500が、撮影画像を格納する撮影画像格納段階が実行され、ステップS23では、読出処理用コンピュータ500が、撮影画像格納段階で格納された撮影画像から位置合わせマークを検出することにより、個々のビット記録領域Abを認識するビット記録領域認識段階が実行される。
このビット記録領域認識段階において、ビット記録領域Abの認識に成功した場合には、ステップS24を経てステップS25へ進むことになるが、ビット記録領域Abの認識に失敗した場合、すなわち、撮影時に位置ずれが生じており、撮影画像内に完全なビット記録領域Abが含まれていない場合には、ステップS21へ戻り、再び画像撮影段階が実行される。このとき、正しい撮影画像が得られるように、画像撮影装置による撮影対象領域を変更する処理が行われることになる。
ステップS25では、読出処理用コンピュータ500が、ビット記録領域Ab内のパターンに基づいて単位ビット行列B(Ui)を認識する単位ビット行列認識段階が実行される。このような処理が、ステップS26を介して、全必要領域についての認識が完了するまで繰り返し実行される。すなわち、読出処理用コンピュータ500によって、読出対象となるすべてのビット記録領域Abについての撮影画像が得られるように、画像撮影装置による撮影対象領域を変更する制御を行いつつ、ステップS21の画像撮影段階からの一連の処理が繰り返されることになる。
最後に、ステップS27において、読出処理用コンピュータ500が、ステップS25の単位ビット行列認識段階で認識した個々の単位ビット行列B(Ui)から単位データUiを生成し、個々の単位データUiを合成することにより、保存対象となったデジタルデータDを復元するデータ復元段階が実行される。
<<< §6. データビットの解釈方法に関する問題 >>>
続いて、上記先願発明のように、媒体上に微細な物理的構造パターンとして情報を記録する場合に生じるデータビットの解釈方法に関する問題を説明する。図2では、記録対象となるデジタルデータDの先頭25ビットを構成する単位データU1が、ビット記録領域Ab内に配置された単位ビット図形パターンP(U1)として記録される例を示した。図示の例の場合、5行5列の行列を構成する各位置におけるビット図形の有無によって、単位ビット行列B(U1)を構成する25ビットの情報が表現される。特に、ここに示す例の場合、黒く塗りつぶした小さなビット図形Fが配置されている場合はビット”1”を示し、配置されていない場合はビット”0”を示すことになる。
図1に示すように、このような図形パターンを描画するための描画データEが、保存処理用コンピュータ100によって生成されると、ビーム露光装置200による露光処理およびパターニング装置300によるパターニング処理が実行され、デジタルデータDが記録された情報記録媒体Mが作成される。図4には、図2に示す単位ビット図形パターンP(U1)を構成する5行5列の行列のうち、第2行目に対応するパターンを形成するための露光処理およびパターニング処理の一例が示されている。
図4(e) に示す情報記録媒体M1は、このような処理を経て得られた媒体であり、ビット情報の各配置位置について、凹部Cをビット”1”、凸部Vをビット”0”と解釈することにすれば、図示の例の場合、「10110」なる5ビットのデータを読み取ることができる。当該データは、図2に示す単位ビット行列B(U1)の第2行目の情報に対応し、記録したデータが正しく読み出されたことになる。これに対して、この情報記録媒体M1の読出時に、凹部Cをビット”0”、凸部Vをビット”1”と解釈すると、図示の例の場合、「01001」なる5ビットのデータが読み出されることになり、正しい読み出しを行うことはできない。
このように、データを読み出す際に、個々のデータビットの解釈方法(この例の場合、凹部と凸部のいずれをビット”1”あるいはビット”0”と解釈するか)が異なると、ビット値が反転することになり、記録時に意図した正しいビット情報を読み出すことができなくなる。もちろん、図2に例示する単位ビット図形パターンP(U1)は、実際には、極めて微細な凹凸構造として情報記録媒体Mに記録されるため、実際の情報記録媒体Mを目視観察しても、肉眼でパターンを把握することはできない(実パターンを観察するには、かなり高倍率の顕微鏡等が必要である)。
このような事情を考慮すると、データの記録時に、データビットの解釈方法を示す何らかの情報を、情報記録媒体M自体に併せて記録しておくことが好ましい。たとえば、上例の場合、「凹部がビット”1”です」のような文字列からなる情報を、データの記録時に、情報記録媒体Mに肉眼観察可能な態様で書き込んでおくようにすれば、読出時には、当該情報に基づいて、個々のデータビットを正しい方法で解釈することが可能になる。もちろん、常にビット”1”に着目した解釈方法を示すことにすれば、単に「凹」という文字を肉眼観察可能な態様で書き込んでおいてもよい。
具体的には、図6に示す情報読出装置を用いて情報読出処理を行うオペレータは、まず、読出対象となる情報記録媒体Mを肉眼観察して、「凹部がビット”1”です」との情報を得た上で、単位ビット行列認識部530に対して、凹部をビット”1”と解釈する旨の設定を行えばよい。この場合、単位ビット行列認識部530は、撮影された画像から、個々の格子点位置の凹凸を認識し、凹部であればビット”1”、凸部であればビット”0”が記録されていると解釈して、データビットの認識を行うことができる。もちろん、情報記録媒体Mに「凸部がビット”1”です」との情報が記録されていた場合には、単位ビット行列認識部530に対して逆の設定を行い、凸部であればビット”1”、凹部であればビット”0”が記録されていると解釈した認識が行われるようにすればよい。
ただ、データビットの解釈方法を媒体自体に記録する方法として、上例のように、「凹部がビット”1”です」のような情報を、そのまま単純に媒体に記録する方法は、実用上は、あまり好ましくない。以下に、その理由を説明する。
第1の理由は、物理的な方法で媒体の複製が行われた場合に、正しく対応することができないためである。現在、音楽や映像を記録したCDやDVDといった情報記録媒体が、商業的な量産品として市場に流通している。これら量産品の媒体は、通常、原版に基づく物理的な複製プロセスを経て製造される。このような複製プロセスによって製造された複製物では、原版の凹凸構造が逆転したものになる。
図13は、表面に凹凸構造が形成された情報記録媒体の一般的な複製方法を示す側断面図であり、原版となる情報記録媒体M1と複製作成用媒体M0とを用意し、媒体M1を媒体M0に押圧することにより、媒体M1の表面に形成された凹凸構造を媒体M0の表面に転写するプロセスが示されている。図14は、図13に示す複製方法によって、複製物が作成された状態を示す側断面図である。すなわち、図13に示す複製作成用媒体M0は、図14に示す媒体M2(複製物)に変化している。複製された情報記録媒体M2の下面には、原版となる情報記録媒体M1の上面に形成された凹凸構造が転写されているため、凹凸関係は逆転したものになる。
したがって、図14に示す情報記録媒体M2についてのデータビットの正しい解釈方法は、原版となる情報記録媒体M1についてのデータビットの解釈方法を逆転させたものなる。具体的には、図示のとおり、媒体M1の場合、凹部をビット”1”、凸部を”0”と解釈すればよかったのに対して、媒体M2の場合、凸部をビット”1”、凹部を”0”と解釈する必要がある。このように、複製プロセスによりデータビットの解釈方法が逆転することを考慮すると、記録時に、「凸部がビット”1”です」のような一義的な解釈方法を示す情報を併せて記録することは好ましくない。
このように、いわゆる「パターンの反転(裏返し)」が生じている場合に、これを作業者に喚起させる手法として、非対称形状を有する識別マークを記録しておく方法は古くから知られている。たとえば、透明な原稿シートを用いて光学的なプロセスで印刷物を生成する場合、原稿シートを裏返しにセットしてしまうと、印刷物上にも裏返しの画像が形成されてしまう。このようなミスを防ぐためには、原稿シート上に非対称形状を有する識別マークを記録しておけばよい。たとえば、大きな「F」の字を識別マークとして記録しておけば、原稿シートを裏返しにセットすると、当該「F」の字が裏文字(鏡像文字)となるため、作業者は、裏返しにセットしてしまったことが容易に認識できる。
そこで、上述した先願発明においても、非対称形状を有する識別マークを記録しておく方法を採用すれば、複製プロセスによって原版の凹凸構造が逆転した場合にも、読出作業を行う者に、凹凸の反転が生じていることを喚起することができる。
図15は、大きな「F」の字を識別マークとして記録する方法を採用した場合に、原版M1とその複製物M2との関係を示す平面図である(ハッチングは、領域を示すためのものである)。図15(a) は、原版となる情報記録媒体M1の平面図(凹凸構造面を示す図)であり、斜線ハッチングを施して示す主記録領域Aαと、左上隅に配置された副記録領域Aβとが示されている。
ここで、主記録領域Aαは、記録対象となるデジタルデータを構成する個々のデータビットの情報を記録するための領域であり、具体的には、図2に示す単位記録領域Auを多数配置して記録した領域ということになる。原版となる情報記録媒体M1の場合、凸部Vはビット”0”を示し、凹部Cはビット”1”を示している。一方、副記録領域Aβは、非対称形状を有する識別マークm1を記録するための領域であり、図示の例では、肉眼観察可能な大きな「F」の字が識別マークm1として記録されている。
一方、図15(b) は、図15(a) に示す情報記録媒体M1を原版として、図13に示す押圧プロセスを行うことにより複製された情報記録媒体M2の平面図(凹凸構造面を示す図)である。別言すれば、図15(a) は、図14に示す媒体M1の上面図であるのに対して、図15(b) は、図14に示す媒体M2の下面図となっている。このため、図15(a) の平面図では左上隅に配置されていた副記録領域Aβは、図15(b) の平面図では右上隅に配置されており、図15(a) の「F」の字を示す識別マークm1は、図15(b) では「F」の裏文字を示す識別マークm2に変わっている。
図15(b) に示す媒体M2(複製)は、図15(a) に示す媒体M1(原版)に対して凹凸構造が逆転しているため、凸部Vはビット”1”を示し、凹部Cはビット”0”を示している。したがって、主記録領域Aαに記録されているデジタルデータを読み出す際には、原版となる情報記録媒体M1からの読み出しの場合は、凸部Vをビット”0”、凹部Cをビット”1”と解釈し、複製された情報記録媒体M2からの読み出しの場合は、凸部Vをビット”1”、凹部Cをビット”0”と解釈しなければならない。もちろん、図15(b) に示す媒体M2を用いて孫複製を行うと、得られた孫複製版については、原版M1と同じ解釈を行う必要がある。
このように、何世代もの複製を繰り返した場合でも、個々の版のデータビットについていずれの解釈を採用すべきかは、副記録領域Aβに記録されている識別マークm1もしくはm2によって認識することが可能である。すなわち、正文字の「F」を示す識別マークm1が記録されていれば、凹部Cをビット”1”と解釈し、「F」の裏文字を示す識別マークm2が記録されていれば、凹部Cをビット”0”と解釈すればよいことになる。もちろん、識別マークとしては、「凹部がビット”1”です」のような文字列を用いてもかまわない。この場合、「凹部がビット”1”です」という文字列が正文字で記載されていれば、文字どおり凹部をビット”1”とする解釈を行えばよいし、文字列が裏文字になっていれば、逆に、凹部をビット”0”とする解釈を行えばよい。
このように、物理的な押圧プロセスで媒体の複製が行われ、原版の凹凸構造が逆転することが想定される場合でも、副記録領域Aβに非対称形状を有する識別マークを記録しておく方法を採用すれば、読出作業を行うオペレータに対して、データビットの正しい解釈方法を伝達することが可能になる。
しかしながら、先願発明のように、基板に対してビーム露光およびパターニング処理を行うことにより、微細な物理的構造パターンとして情報を記録する場合、非対称形状を有する識別マークを記録しておく方法では、必ずしもデータビットの正しい解釈方法を伝達することができないケースが起こり得る。これは、次のような第2の理由に起因する。
「凹部がビット”1”です」のようなデータビットの解釈方法を、そのまま単純に媒体に記録する方法が好ましくない第2の理由は、同じ図形パターンを用いてビーム露光およびパターニング処理を行った場合でも、採用するビーム露光およびパターニング処理の方法によって、実際に基板上に形成される物理的構造が異なるためである。
たとえば、図4に例示したビーム露光およびパターニング処理のプロセスの場合、図2に示す単位ビット図形パターンP(U1)を構成する小さな黒い正方形(ビット”1”を示すビット図形F)の内部を露光し、かつ、レジスト層20としてポジ型レジストを用いている。その結果、図4(e) に示す情報記録媒体M1では、ビット”1”が凹部Cとして表現され、ビット”0”が凸部Vとして表現されることになる。しかしながら、小さな黒い正方形の外部を露光するようにしたり、レジスト層20としてネガ型レジストを用いたりした場合、生成される情報記録媒体上での凹部Cおよび凸部Vについてのデータビット解釈は変わってくる。
図16は、図4に示す露光工程およびパターニング工程とは異なる別な具体的なプロセスを示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。すなわち、この図16に示すプロセスでは、ビット”1”を示すビット図形Fの内部を露光する点に変わりはないが、レジスト層20としてネガ型レジストを用いている。したがって、図16(b) に示す露光プロセスによって、露光部21および非露光部22が生じる点に変わりはないが、現像処理を行うと、非露光部22が現像液に溶解し、図16(c) に示すように、露光部21が残存部24として残ることになる。
続いて、エッチング処理を行うと、図16(d) に示すように、被成形層10の上面のうち、マスクとなる残存部24に覆われている部分は腐食を受けないが、露出している部分は腐食を受け、凹部が形成される。こうして、被成形層10は、上面に凹凸構造が形成された被成形層13に加工されることになる。こうして得られた被成形層13は、残存部24を除去することにより、図16(e) に示すように情報記録媒体M3となる。
ここで、図4(e) に示す情報記録媒体M1と図16(e) に示す情報記録媒体M3とを比較すると、いずれも全く同じデータビット「10110」を記録した媒体であるにもかかわらず、前者では、凹部がビット”1”,凸部がビット”0”を示しているのに対し、後者では、凸部がビット”1”,凹部がビット”0”を示しており、データビットの解釈方法は全く逆転してしまっている。
以上、パターニング処理を行う際のレジスト層20として、ポジ型レジストを用いるか、ネガ型レジストを用いるかの相違によって、媒体上に形成される凹凸構造についてのデータビットの解釈方法が逆転する例を述べたが、ビーム露光処理を行う際に、ビット図形Fの内側を露光するか、外側を露光するかの相違によっても、媒体上に形成される凹凸構造についてのデータビットの解釈方法が逆転することになる。
これは、図1に示す情報保存装置において、全く同一の描画データEを用いて情報記録媒体Mを作成した場合であっても、ビーム露光装置200におけるビーム露光処理の条件や、パターニング装置300におけるパターニング処理の条件によって、最終的に得られる情報記録媒体M上に形成された凹凸構造によって表現されるデータビットの解釈方法に相違が生じることを意味する。
したがって、図15(a) に例示するように、副記録領域Aβ内に、文字「F」のような非対称形状を有する識別マークm1を記録するための描画用データEを用意しておき、この描画用データEに基づいて情報記録媒体Mを作成するようにしても、読出時には、当該識別マークを利用して正しいデータビットの解釈方法を認識することはできない。すなわち、同じ描画用データEを用いる限り、図4に示すプロセス(ポジ型レジストを利用)で作成した場合も、図16に示すプロセス(ネガ型レジストを利用)で作成した場合も、副記録領域Aβ内の識別マークm1は正文字「F」になる。
すなわち、図4に示すプロセスで作成すると、図15(a) に示すような媒体M1が得られ、図16に示すプロセスで作成すると、図17(a) の平面図に示すような媒体M3が得られる。前者の副記録領域Aβ内の識別マークm1は正文字「F」であり、後者の副記録領域Aβ内の識別マークm3も正文字「F」であり、識別マークに変わりはない。ところが、前者の場合、凸部Vがビット”0”,凹部Cがビット”1”を示しているのに対し、後者では、凸部Vがビット”1”,凹部Cがビット”0”を示している。
一方、図17(b) は、図17(a) に示す媒体M3を原版として用いた押圧プロセスで複製された媒体M4の平面図である。こちらは、副記録領域Aβ内の識別マークm4は「F」の裏文字になるが、凸部Vがビット”0”,凹部Cがビット”1”を示している。結局、図15(a) に示す媒体M1と媒体17(b) に示す媒体M4とは、提示されている識別マークとしては正文字と裏文字という逆の関係にあるものの、データビットの解釈方法としては、凸部Vをビット”0”,凹部Cをビット”1”と解釈すべき点において共通する。同様に、図15(b) に示す媒体M2と媒体17(a) に示す媒体M3とは、提示されている識別マークとしては裏文字と正文字という逆の関係にあるものの、データビットの解釈方法としては、凸部Vをビット”1”,凹部Cをビット”0”と解釈すべき点において共通する。
以上のとおり、基板に対してビーム露光およびパターニング処理を行うことにより、微細な物理的構造パターンとして情報を記録する場合は、非対称形状を有する識別マークを記録しておく方法では、データビットの正しい解釈方法を伝達することができない。本発明は、このような問題に対処するため、データビットの解釈方法を示す情報を記録するための新たな手法を提案するものである。以下、当該新たな手法を§7以降で詳述する。なお、ここでは説明の便宜上、当該新たな手法を先願発明に適用した実施形態を述べるが、本発明は、先願発明に係る情報保存方法への適用に限定されるものではなく、基板に対してビーム露光およびパターニング処理を行うことにより、微細な物理的構造パターンとして情報を記録する情報保存方法に広く適用可能な技術である。
<<< §7. 本発明に係る情報保存装置の基本的実施形態 >>>
図18は、本発明の基本的な実施形態に係る情報保存装置の基本構成を示すブロック図である。この図18に示す情報保存装置は、図1に示す装置と同様に、保存処理用コンピュータ100′、ビーム露光装置200、パターニング装置300を備えた装置であり、保存対象となるデジタルデータDを情報記録媒体Mに書き込んで保存する機能を有する。ここで、ビーム露光装置200およびパターニング装置300は、図1に示す同符号の装置と全く同一の構成要素である。
一方、図18に示す情報保存装置の保存処理用コンピュータ100′は、データ入力部110、主情報パターン生成部170、副情報パターン生成部180、描画データ生成部160′を備えている。ここで、データ入力部110は、図1に示すデータ入力部110と全く同じ構成要素であり、保存対象となるデジタルデータDを入力する役割を果たす。
図18に示す主情報パターン生成部170は、入力したデジタルデータDを構成する個々のデータビットの情報を示す主情報パターンPαを生成し、副情報パターン生成部180は、この主情報パターンPαによって示されたデータビットの解釈方法を示す副情報パターンPβを生成する。そして、描画データ生成部160′は、この主情報パターンPαおよび副情報パターンPβを描画するための描画データEを生成する。
図示のとおり、主情報パターン生成部170は、単位データ生成部120、単位ビット行列生成部130、単位ビット図形パターン生成部140、単位記録用図形パターン生成部150によって構成されているが、これらの各構成要素は、図1に同符号で示されている各要素と同じものである。したがって、主情報パターン生成部170によって生成される主情報パターンPαは、たとえば、図2に例示するような単位記録用図形パターンR(U1)の集合体になる。
一方、副情報パターン生成部180によって生成される副情報パターンPβは、主情報パターンPαによって示されたデータビットの解釈方法を示すパターンであり、図15(a) や図17(a) における識別マークm1やm3と同様の機能を果たすことになる。ただ、後述するように、本発明で用いられる副情報パターンPβは、単一の識別マークではなく、一対の識別マークによって構成される。
描画データ生成部160′は、描画対象面に主記録領域Aαと副記録領域Aβとを定義し、主記録領域Aαに主情報パターン生成部170によって生成された主情報パターンPαを配置し、副記録領域Aβに副情報パターン生成部180によって生成された副情報パターンPβを配置することにより合成パターンを生成し、この合成パターンを描画するための描画データEを生成する。
こうして生成された描画データEに基づいて、ビーム露光装置200が情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光を行い、現像処理部310およびエッチング処理部320を有するパターニング装置300が、露光を受けた基板Sに対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターンが形成された情報記録媒体Mを生成する点は、図1に示す情報保存装置と同様である。
すなわち、ビーム露光装置200は、被成形層とこれを覆うレジスト層とを有する基板に対して、レジスト層の表面にビーム露光を行い、現像処理部310は、このレジスト層の露光部または非露光部を溶解する性質をもった現像液に基板を含浸させてその一部を残存部とする加工を行い、エッチング処理部320は、レジスト層の残存部をマスクとして被成形層に対するエッチングを行う。このとき、ビーム露光装置200は、ビット図形Fの内部を露光してもよいし、外部を露光してもよい。また、レジスト層としては、ポジ型レジストを用いてもネガ型レジストを用いてもよい。
結局、図1に示す先願発明に係る情報保存装置と図18に示す本発明に係る情報保存装置との相違は、前者の保存処理用コンピュータ100では、主情報パターンPαを描画するための描画データEが生成されるのに対して、後者の保存処理用コンピュータ100′では、主情報パターンPαに副情報パターンPβを付加した合成パターンを描画するための描画データEが生成される点である。
もちろん、後者で新たに加えられた副情報パターン生成部180も、実際には、コンピュータにプログラムを組み込むことにより構築される構成要素であり、図18に示す保存処理用コンピュータ100′の構成要素であるデータ入力部110、主情報パターン生成部170、副情報パターン生成部180、描画データ生成部160′は、汎用のコンピュータに専用のアプリケーションプログラムを組み込むことにより構成することができる。
続いて、副情報パターン生成部180によって生成される副情報パターンPβについて説明する。ここでは、まず、図18に示す情報保存装置におけるパターニング装置300によって、図4に示すプロセス(レジスト層20としてポジ型レジストを用いたプロセス)を実行することにより作成された情報記録媒体M5を図19の平面図に示し、図16に示すプロセス(レジスト層20としてネガ型レジストを用いたプロセス)を実行することにより作成された情報記録媒体M6を図20の平面図に示す(いずれも、ハッチングは、領域を示すためのものである)。
図19に示す媒体M5も、図20に示す媒体M6も、上面には、図に斜線ハッチングを施して示す主記録領域Aαと、図の左上隅に配置された副記録領域Aβとが設けられている。ここで、主記録領域Aαは、保存対象となるデジタルデータDを構成する個々のデータビットの情報を示す主情報パターンPαが記録された領域であり、たとえば、図2に例示するような単位記録用図形パターンR(Ui)の集合体(i=1,2,3,... )が記録された領域になる。これに対して、副記録領域Aβは、この主情報パターンPαとして記録された個々のデータビットの解釈方法を示す副情報パターンPβが記録された領域であり、図示の例では、第1副記録領域Aβ1と第2副記録領域Aβ2によって構成されている。
上述したとおり、図19に示す媒体M5は、図4に示すプロセスを実行することにより作成されたものであり、主記録領域Aαに記録された主情報パターンPαは、凸部Vによりビット”0”を表現し、凹部Cによりビット”1”を表現した凹凸構造になっている。これに対して、図20に示す媒体M6は、図16に示すプロセスを実行することにより作成されたものであり、主記録領域Aαに記録された主情報パターンPαは、凸部Vによりビット”1”を表現し、凹部Cによりビット”0”を表現した凹凸構造になっている。
このように、図19に示す媒体M5も図20に示す媒体M6も、同一の主情報パターンPαに基づいて作成された媒体であるものの、パターニング装置300によって行われたパターニング処理において、一方ではポジ型レジストが用いられ、他方ではネガ型レジストが用いられたため、データビットの解釈方法に相違が生じる結果となっている。副記録領域Aβに記録されている副情報パターンPβは、このような解釈方法の相違が生じていた場合でも、常に正しい解釈方法を示す役割を果たす。
図示の例の場合、副記録領域Aβに記録されている副情報パターンPβは、第1副記録領域Aβ1に記録されている第1の識別マークm10と、第2副記録領域Aβ2に記録されている第2の識別マークm20とによって構成されている。具体的には、第1の識別マークm10は「凸」なる文字を示す閉領域によって構成され、第2の識別マークm20は「凹」なる文字を示す閉領域によって構成されており、「いずれの識別マークがより明るく見えるか」という観点から、データビットの正しい解釈方法を示す標識として機能する。
ここでは、便宜上、図の2つの識別マークm10,m20を構成する閉領域内に、網目によるハッチングとドットによるハッチングとを施し、網目によるハッチング領域の方が、ドットによるハッチング領域よりも明るく観察されるものとする。したがって、図19に示す媒体M5の場合は、「凸」なる文字を示す第1の識別マークm10よりも、「凹」なる文字を示す第2の識別マークm20の方が明るく見えるが、図20に示す媒体M6の場合は、「凹」なる文字を示す第2の識別マークm20よりも、「凸」なる文字を示す第1の識別マークm10の方が明るく見えることになる(そうなる理由は後述)。
しかも、ここに示す実施例の場合、「凹」なる文字が明るく見えた場合には、凹部Cをビット”1”とし、「凸」なる文字が明るく見えた場合には、凸部Vをビット”1”とする解釈方法を示している。したがって、図19に示す媒体M5を手にした読出作業者は、「凹」なる文字の方が明るく見えるため、主記録領域Aαに記録されている個々のデータビットを読み出す際に、凹部Cをビット”1”とする解釈方法を採用すべきことが認識でき、図20に示す媒体M6を手にした読出作業者は、「凸」なる文字の方が明るく見えるため、主記録領域Aαに記録されている個々のデータビットを読み出す際に、凸部Vをビット”1”とする解釈方法を採用すべきことが認識できる。
また、前述した押圧プロセスで複製物を作成する場合、図19に示す媒体M5を原版として作成した複製物の凹凸構造は図20に示す媒体M6と同等になり、図20に示す媒体M6を原版として作成した複製物の凹凸構造は図19に示す媒体M5と同等になるので、本発明に係る情報保存装置で作成された情報記録媒体は、その複製物についても、「凸」および「凹」の文字のいずれが明るく見えるか、という判断に基づいて、正しいデータビットの解釈方法を認識することが可能になる。
<<< §8. 一対の識別マークの物理的な構造 >>>
続いて、第1の識別マークm10および第2の識別マークm20の物理的な構造について説明する。副記録領域Aβに記録される一対の識別マークm10,m20は、上述した方法で読出作業者に対して正しいデータビットの解釈方法を提示する役割を果たす必要がある。そのため、主記録領域Aαに記録されるデータビットと密接に関連した構造を有している。そこでまず、主記録領域Aαに記録されるデータビットの特徴を考えてみよう。
前述したように、主記録領域Aαには、主情報パターン生成部170によって生成された主情報パターンPαが記録される。この主情報パターンPαは、たとえば、図2に例示するような単位記録用図形パターンR(Ui)の集合体(i=1,2,3,... )になる。ここで、この単位記録用図形パターンR(Ui)の実体を考えてみると、2通りの属性をもった領域を混在させたパターンであることがわかる。
具体的には、図2に示す例の場合、単位記録用図形パターンR(U1)は、単位記録領域Au内に「黒領域」と「白領域」とを混在させたパターンということになる。もちろん、実際には、単位記録用図形パターンR(U1)は、図3に示す例のように、ビット図形Fおよび位置合わせマークQ1〜Q4の輪郭を示すベクトルデータによって表現され、個々の図形の内部が「黒領域」となり、外部が「白領域」になる。
図18に示す主情報パターン生成部170は、主記録領域Aαに記録すべき主情報パターンPαとして、「黒領域」と「白領域」という2種類の属性をもった領域が混在したパターンを生成することになる。そして、ビーム露光装置200は、この2種類の属性をもった領域のうちのいずれか一方の領域に対してビーム露光処理を行い、パターニング装置300は、露光後の基板に対してパターニング処理を行うことになる。
図4には、「黒領域」に対してビーム露光処理を行い、レジスト層20としてポジ型レジストを用いたパターニング処理を行う例を示した。その結果、図4(e) に示すように、凸部Vがビット”0”、凹部Cがビット”1”を表現する情報記録媒体M1が得られる。これに対して、「白領域」に対してビーム露光処理を行い、レジスト層20としてポジ型レジストを用いたパターニング処理を行えば、凸部Vがビット”1”、凹部Cがビット”0”を表現する情報記録媒体(図16(e) に示す情報記録媒体M3と同等)が得られることになる。
同様に、図16には、「黒領域」に対してビーム露光処理を行い、レジスト層20としてネガ型レジストを用いたパターニング処理を行う例を示した。その結果、図16(e) に示すように、凸部Vがビット”1”、凹部Cがビット”0”を表現する情報記録媒体M3が得られる。これに対して、「白領域」に対してビーム露光処理を行い、レジスト層20としてネガ型レジストを用いたパターニング処理を行えば、凸部Vがビット”0”、凹部Cがビット”1”を表現する情報記録媒体(図4(e) に示す情報記録媒体M1と同等)が得られることになる。
一般論として、上述した「黒領域」および「白領域」の一方を「第1属性主領域」と呼び、他方を「第2属性主領域」と呼ぶことにすれば、主情報パターンPαは、第1属性主領域と第2属性主領域とによって構成され、個々のデータビットにそれぞれ対応する所定点(図3に示す例の場合は、各格子点L)が、第1属性主領域内に存在するか、あるいは、第2属性主領域内に存在するか、の違いによって、個々のデータビットの二値情報を表現したパターンということになる。
ここで述べる実施例の場合、主情報パターン生成部170は、保存対象となるデジタルデータDを構成する個々のビット”1”および個々のビット”0”のうちのいずれか一方(図2の例ではビット”1”)を、閉領域からなる個々のビット図形Fに変換し、当該ビット図形Fの内部の領域を第1属性主領域、外部の領域を第2属性主領域とする主情報パターンPαを生成することになる。この主情報パターンPαは、前述したように、図19および図20に示す主記録領域Aα内に記録される。
一方、副情報パターン生成部180によって生成される副情報パターンPβは、図19および図20に示すとおり、副記録領域Aβ内に記録される一対の識別マークm10,m20を有している。ここで、識別マークm10は、第1副記録領域Aβ1内に配置された「凸」の文字によって構成されたマークであり、「凸部がビット”1”」という解釈方法(当然、凹部がビット”0”ということになる)を提示するためのマークである。また、識別マークm20は、第2副記録領域Aβ2内に配置された「凹」の文字によって構成されたマークであり、「凹部がビット”1”」という解釈方法(当然、凸部がビット”0”ということになる)を提示するためのマークである。
前述したとおり、読出作業者は、一対の識別マークm10,m20のうち、より明るく見えるマークによって示される解釈方法を、正しいデータビットの解釈方法として把握することになる。
続いて、図21を参照しながら、一対の識別マークm10,m20の実体を説明しよう。図21は、図18に示す情報保存装置によって作成された描画用パターンP(E)の一例を示す平面図である。ここで、描画用パターンP(E)は、主情報パターン生成部170によって作成された主情報パターンPαと、副情報パターン生成部180によって生成された副情報パターンPβと、を合成することによって得られる合成パターンである。描画データ生成部160′は、主情報パターンPαと副情報パターンPβとを合成して描画用パターンP(E)を生成した後、当該描画用パターンP(E)を描画するために用いる描画データEを生成する処理を行う。
前述したように、主記録領域Aαに記録すべき主情報パターンPαは、「黒領域」と「白領域」という2種類の属性をもった領域が混在したパターンになるが、副記録領域Aβに記録すべき副情報パターンPβも、同様に、「黒領域」と「白領域」という2種類の属性をもった領域が混在したパターンになる。
図21の下段には、図21の上段に示す描画用パターンP(E)の各部分領域の拡大図(円内の画像)が示されている。すなわち、下段の円p1内の画像は、上段に示す第1副記録領域Aβ1に配置された第1の識別マークm10内の部分領域p1の拡大図であり、下段の円p2内の画像は、上段に示す第2副記録領域Aβ2に配置された第2の識別マークm20内の部分領域p2の拡大図であり、下段の円p3内の画像は、上段に示す主記録領域Aα内の部分領域p3の拡大図である。なお、図示の便宜上、図21の各部の寸法比は、実際の寸法比を無視した設定が行われており、たとえば、上段に小円で示した部分領域p1〜p3は、実際には、肉眼では観察できないほどの微小な領域になる。
図21の下段に示す部分領域p3の拡大画像は、1つの単位記録領域Auを構成するパターンを示すものであり、個々のビット図形および位置合わせマークの内部を示す「黒領域」(第1属性主領域G1)と、外部の背景部分を示す「白領域」(第2属性主領域G2)とによって構成される(図示の破線や一点鎖線は配置を示すための補助線であり、実際のパターンを構成する線ではない)。このように、主記録領域Aαに記録すべき主情報パターンPαが、「黒領域」と「白領域」という2種類の属性をもった領域の混在パターンになる点は、既に述べたとおりである。
一方、図21の下段に示す部分領域p1およびp2の拡大画像を見ればわかるように、副記録領域Aβに記録すべき副情報パターンPβも、「黒領域」(第1属性副領域g1)と「白領域」(第2属性副領域g2)という2種類の属性をもった領域の混在パターンになる。もっとも、主情報パターンPαが個々のビット図形および位置合わせマークを示すパターンであるのに対して、副情報パターンPβは一対の識別マークm10,m20を示すパターンであるため、両者の具体的な構成は異なる。
すなわち、識別マークm10,m20を構成する閉領域内のパターンは、部分領域p1およびp2の拡大画像に示されているとおり、「黒領域」と「白領域」とによる縞模様を構成している。これは、媒体M上に凹凸構造として記録した場合に、識別マークm10,m20の内部に、可視光に対する回折格子を形成するためである。結局、識別マークm10,m20を構成する閉領域内には、細長い帯状の「黒領域」と細長い帯状の「白領域」とを交互に並べて配置したパターンが形成されることになる。
この回折格子を形成する各格子線は、共通の配置軸Zに平行な方向となるように設定されている。図示の例は、配置軸Zを図の上下方向に伸びる軸として設定した例であるため、部分領域p1,p2内には、上下方向に伸びる縞模様が形成されている。もちろん、配置軸Zの向きは任意の方向に設定してかまわない。
ここで重要な点は、部分領域p1内の縞模様と部分領域p2内の縞模様とを比較したときに、「黒領域」(第1属性副領域g1)を構成する帯の幅W1と「白領域」(第2属性副領域g2)を構成する帯の幅W2との大小関係が、両者で逆転している点である。具体的には、図示の例の場合、識別マークm10内の部分領域p1については、W1>W2であるのに対して、識別マークm20内の部分領域p2については、W1<W2となっている。この幅の大小関係の相違が、観察時の明暗の相違を生むことになるが、その詳細については後述する。
なお、図には、円で囲った部分領域p1,p2内のパターンしか描かれていないが、もちろん、識別マークm10を構成する「凸」の文字の内部閉領域の全域に、部分領域p1と同様のパターンが形成され、識別マークm20を構成する「凹」の文字の内部閉領域の全域に、部分領域p2と同様のパターンが形成されている。別言すれば、「凸」の文字の内部および「凹」の文字の内部は、図の上下方向に伸びる縞模様で埋め尽くされていることになる。
ここに示す実施例の場合、第1副記録領域Aβ1内の背景部分(「凸」の文字の外部の領域)および第2副記録領域Aβ2内の背景部分(「凹」の文字の外部の領域)については、「白領域」(第2属性副領域g2)とする構成をとっているが、これら背景部分を「黒領域」(第1属性副領域g1)とする構成をとってもかまわない。
あるいは、これら背景部分にも、「黒領域」と「白領域」とからなる縞模様(媒体上で回折格子として機能する模様)を形成してもかまわない。ただ、読出作業者が観察したときに、「凸」の文字の輪郭および「凹」の文字の輪郭が認識できるような構成にしておく必要があるので、背景部分にも縞模様(回折格子)を形成する場合は、識別マーク内部の縞模様(回折格子)とは向きもしくはピッチを変え、観察時に識別マークの輪郭認識が可能になるような配慮が必要である。したがって、実用上は、背景部分を「白領域」もしくは「黒領域」としておくのが好ましい。
結局、主記録領域Aαの部分にも副記録領域Aβの部分にも、「黒領域」と「白領域」とを混在させたパターンが配置されることになり、描画用パターンP(E)は、このような2種類のいずれかに属する多数の閉領域の集合体ということになる。一般論で述べれば、主記録領域Aαに配置される主情報パターンPαは、第1属性主領域G1(たとえば「黒領域」)と第2属性主領域G2(たとえば「白領域」)との混在パターンであり、副記録領域Aβに配置される副情報パターンPβは、第1属性副領域g1(たとえば「黒領域」)と第2属性副領域g2(たとえば「白領域」)との混在パターンということになる。
ここで、「第1属性」の領域をビーム露光を行う領域とし、「第2属性」の領域をビーム露光を行わない領域とすれば、上例の場合、「黒領域」については露光が行われ、「白領域」については露光が行われないことになる。別言すれば、この場合、描画データ生成部160′は、第1属性主領域G1および第1属性副領域g1に対しては露光を行い、第2属性主領域G2および第2属性副領域g2に対しては露光を行わないようにするための描画データEを生成することになる。もちろん、逆に、「第2属性」の領域をビーム露光を行う領域とし、「第1属性」の領域をビーム露光を行わない領域としてもかまわない。
既に述べたとおり、ビーム露光処理時に、いずれの属性の領域に対してビーム露光を行うかによって、あるいは、パターニング処理時に、ポジ型/ネガ型のいずれのレジストを用いるかによって、「第1属性」の領域が媒体M上で凸部Vになるか、凹部Cになるか(別言すれば、「第2属性」の領域が媒体M上で凹部Cになるか、凸部Vになるか)が変わってくる。
しかしながら、ここで重要な点は、最終的な媒体M上において、第1属性主領域G1が凸部Vになれば、第1属性副領域g1も凸部Vになり、第1属性主領域G1が凹部Cになれば、第1属性副領域g1も凹部Cになる点である。もちろん、第2属性主領域G2が凸部Vになれば、第2属性副領域g2も凸部Vになり、第2属性主領域G2が凹部Cになれば、第2属性副領域g2も凹部Cになる。これは、ビーム露光処理時に、いずれの属性の領域に対してビーム露光を行ったとしても、パターニング処理時に、ポジ型/ネガ型のいずれのレジストを用いたとしても、変わることのない普遍的な事項である。
したがって、図21に示す描画用パターンP(E)に基づいて作成された媒体Mおよび当該媒体Mを原版とする押圧プロセスで作成された複製物では、各部分領域p1〜p3に示されているすべての「黒領域」が凸部Vとなり、すべての「白領域」が凹部Cとなるか(このような媒体を便宜上「黒凸媒体」と呼ぶ)、あるいは、すべての「黒領域」が凹部Cとなり、すべての「白領域」が凸部Vとなるか(このような媒体を便宜上「黒凹媒体」と呼ぶ)、のいずれかである。具体的には、図4(e) に示す媒体M1は「黒凹媒体」、図14に示す媒体M2は「黒凸媒体」、図16(e) に示す媒体M3は「黒凸媒体」ということになる。
この実施例の場合、描画用パターンP(E)は、ビット”1”を「黒領域」からなるビット図形Fで表現しているため、「黒凸媒体」について読出処理を行う際には、「凸部がビット”1”」という解釈方法を採用すればよいし、「黒凹媒体」について読出処理を行う際には、「凹部がビット”1”」という解釈方法を採用すればよい。したがって、読出作業者は、対象となる媒体が「黒凸媒体」であるのか「黒凹媒体」であるのかを認識すればよいことになる。前述したとおり、当該認識は、「一対の識別マークのどちらが明るく見えるか」という基準によって行うことができる。
たとえば、図21に示す例の場合、「凸」の文字からなる第1の識別マークm10と「凹」の文字からなる第2の識別マークm20とを比較観察し、「凸」の文字の方が明るく見える場合には当該媒体を「黒凸媒体」と判断して「凸部がビット”1”」という解釈方法を採用すればよいし、「凹」の文字の方が明るく見える場合には当該媒体を「黒凹媒体」と判断して「凹部がビット”1”」という解釈方法を採用すればよい。以下、このような明るさの比較によって、「黒凸媒体」であるのか「黒凹媒体」であるのかを判断できる理由を説明する。
図22は、図21に示す描画用パターンP(E)に基づいて図4に示すプロセスを実行することにより作成された媒体M5(図19に示す「黒凹媒体」)の凹凸構造を示す図である。上段は、図21に示す描画用パターンP(E)の平面図であり、下段は、各部分領域p1〜p3に対応する媒体M5の各部分の拡大側断面図である。
図22の下段に示す部分領域p1,p2の側断面図は、図21の下段に示す部分領域p1,p2の拡大画像における「黒領域」(第1属性副領域g1)を凹部とし、「白領域」(第2属性副領域g2)を凸部とした媒体M5の凹凸構造を示しており、図22の下段に示す部分領域p3の側断面図は、図21の下段に示す部分領域p3の拡大画像における5行5列のビット配列のうちの第2行目の位置について、「黒領域」(第1属性主領域G1)を凹部とし、「白領域」(第2属性主領域G2)を凸部とした媒体M5の凹凸構造を示している。部分領域p3に記録されたデータビットは、読出時には、「凹部をビット”1”」、「凸部をビット”0”」と解釈する必要がある。
一方、図23は、図21に示す描画用パターンP(E)に基づいて図16に示すプロセスを実行することにより作成された媒体M6(図20に示す「黒凸媒体」)の凹凸構造を示す図である。上段は、図21に示す描画用パターンP(E)の平面図であり、下段は、各部分領域p1〜p3に対応する媒体M6の各部分の拡大側断面図である。
図23の下段に示す部分領域p1,p2の側断面図は、図21の下段に示す部分領域p1,p2の拡大画像における「黒領域」(第1属性副領域g1)を凸部とし、「白領域」(第2属性副領域g2)を凹部とした媒体M6の凹凸構造を示しており、図23の下段に示す部分領域p3の側断面図は、図21の下段に示す部分領域p3の拡大画像における5行5列のビット配列のうちの第2行目の位置について、「黒領域」(第1属性主領域G1)を凸部とし、「白領域」(第2属性主領域G2)を凹部とした媒体M6の凹凸構造を示している。部分領域p3に記録されたデータビットは、読出時には、「凸部をビット”1”」、「凹部をビット”0”」と解釈する必要がある。
続いて、図19および図22に示す黒凹媒体M5について、一対の識別マークm10,m20を比較観察したとき、どちらが明るく見えるかを考えてみる。図24(a) 〜(c) は、図22の下段に示す黒凹媒体M5の各部分領域p1〜p3の凹凸構造の拡大側断面図である。ここでは、黒凹媒体M5の上面に、斜め左上方向から照明光が照射された場合について、当該照明光の反射後の挙動を追ってみよう。
まず、図24(a) に示すように、部分領域p1(すなわち、第1の識別マークm10の内部領域)について考えてみる。図には、凹部となっている「黒領域」(第1属性副領域g1)に照射された照明光L1と、凸部となっている「白領域」(第2属性副領域g2)に照射された照明光L2について、それぞれ反射後の挙動の一例が一点鎖線で描かれている。すなわち、凹部に入射した照明光L1は反射後に凸部の側面に衝突しているのに対して、凸部に入射した照明光L2は反射後にそのまま上方へと向かっている。
もちろん、凹部に入射した照明光であっても、反射後にそのまま上方へと向かう光もあるが、一般的に、凹部に入射した照明光が上方から観察される確率は低い。これは、図4(d) や図16(d) に示すように、媒体の上面に凹凸構造を形成するためのパターニング処理において、エッチングにより凹部が形成されるため、凹部の底面や凸部の側面は表面が粗い腐食面を形成することになるためである。
すなわち、図24(a) において、照明光L1が入射した凹部の底面や、そこからの反射光が向かう凸部の側面は、いずれも表面が粗い腐食面であり、この腐食面に照射された光は散乱によって消滅し、上方で観察される確率は低くなる。一方、照明光L2が入射した凸部の上面はレジスト層によって保護されていたため腐食を受けていない。したがって、照明光L2は凸部の上面で反射した後、上方で観察される確率は高い。
ここで、図24(a) に示す部分領域p1では、図21に示すとおり、「黒領域」(第1属性副領域g1)の幅W1の方が「白領域」(第2属性副領域g2)の幅W2よりも大きくなっている。したがって、反射後に上方で観察される確率が高い凸部(白領域)への入射光L2の割合よりも、反射後に上方で観察されない確率が高い凹部(黒領域)への入射光L1の割合の方が大きくなり、上方で観察した場合、全体的に暗く観察される。
一方、図24(b) に示す部分領域p2では、図21に示すとおり、「黒領域」(第1属性副領域g1)の幅W1の方が「白領域」(第2属性副領域g2)の幅W2よりも小さくなっている。したがって、反射後に上方で観察される確率が高い凸部(白領域)への入射光L3の割合の方が、反射後に上方で観察されない確率が高い凹部(黒領域)への入射光L4の割合よりも大きくなり、上方で観察した場合、全体的に明るく観察される。
結局、図19に示す黒凹媒体M5を上方から観察すると、図24(a) ,(b) を用いて説明した理由により、「凹」の字を示す第2の識別マークm20(部分領域p2)の方が、「凸」の字を示す第1の識別マークm10(部分領域p1)よりも明るく観察されることになる。よって、読出作業者は、対象となる媒体が「黒凹媒体」であることを認識でき、主記録領域Aαに記録されているデータビットについて、図24(c) に示すように、「凹部がビット”1”」という解釈方法を採用した正しい読出処理を行うことができる。
次に、図20および図23に示す黒凸媒体M6について、一対の識別マークm10,m20を比較観察したとき、どちらが明るく見えるかを考えてみる。図25(a) 〜(c) は、図23の下段に示す黒凸媒体M6の各部分領域p1〜p3の凹凸構造の拡大側断面図である。ここでも、黒凸媒体M6の上面に、斜め左上方向から照明光が照射された場合について、当該照明光の反射後の挙動を追ってみよう。
はじめに、図25(a) に示すように、部分領域p1(すなわち、第1の識別マークm10の内部領域)について、凸部となっている「黒領域」(第1属性副領域g1)に照射された照明光L5と、凹部となっている「白領域」(第2属性副領域g2)に照射された照明光L6について、それぞれ反射後の挙動を考えると、前述したとおり、照明光L5が入射した凸部の上面は腐食を受けていないため、照明光L5は凸部の上面で反射した後、上方で観察される確率が高い。一方、照明光L6が入射した凹部は腐食面であるため、照明光L6はこの腐食面で拡散され、上方で観察される確率は低い。
ここで、図25(a) に示す部分領域p1では、図21に示すとおり、「黒領域」(第1属性副領域g1)の幅W1の方が「白領域」(第2属性副領域g2)の幅W2よりも大きくなっている。したがって、反射後に上方で観察される確率が高い凸部(黒領域)への入射光L5の割合の方が、反射後に上方で観察されない確率が高い凹部(白領域)への入射光L6の割合よりも大きくなり、上方で観察した場合、全体的に明るく観察される。
一方、図25(b) に示す部分領域p2では、図21に示すとおり、「黒領域」(第1属性副領域g1)の幅W1の方が「白領域」(第2属性副領域g2)の幅W2よりも小さくなっている。したがって、反射後に上方で観察されない確率が高い凹部(白領域)への入射光L7の割合の方が、反射後に上方で観察される確率が高い凸部(黒領域)への入射光L8の割合よりも大きくなり、上方で観察した場合、全体的に暗く観察される。
結局、図20に示す黒凸媒体M6を上方から観察すると、図25(a) ,(b) を用いて説明した理由により、「凸」の字を示す第1の識別マークm10(部分領域p1)の方が、「凹」の字を示す第2の識別マークm20(部分領域p2)よりも明るく観察されることになる。よって、読出作業者は、対象となる媒体が「黒凸媒体」であることを認識でき、主記録領域Aαに記録されているデータビットについて、図25(c) に示すように、「凸部がビット”1”」という解釈方法を採用した正しい読出処理を行うことができる。
本発明の利点は、保存処理用コンピュータ100′によって、図21上段に例示するような描画用パターンP(E)を描画するための描画データEを作成しておけば、その後、この描画データEに基づいて、どのようなビーム露光処理やパターニング処理が行われたとしても、最終的な媒体上に形成された一対の識別マークm10,m20についての明暗比較を行うことにより、常に正しいデータビットの解釈方法(凸部をビット”1”と解釈するのか、凹部をビット”1”と解釈するのか)を認識することができる点にある。
別言すれば、図21の下段に「黒領域」として示す第1属性の領域(領域g1およびG1)と、「白領域」として示す第2属性の領域(領域g2およびG2)とは、最終的に、いずれか一方が凸部、他方が凹部となる関係にあるが、どちらが凸部、どちらが凹部になったとしても、一対の識別マークm10,m20についての明暗比較を行うことにより、正しいデータビットの解釈方法を認識することができる。これは、描画データEに基づいて作成された媒体のみならず、当該媒体を原版として押圧プロセスによって複製された複製物についても同様である。
前述したとおり、媒体上の識別マークm10,m20の内部に形成された縞状の凹凸構造は、実際には回折格子を構成しているため、読出作業者が観察する光は、この回折格子による回折光ということになる。したがって、図19に示す「黒凹媒体」や図20に示す「黒凸媒体」を手にした読出作業者は、左上隅の副記録領域Aβに、キラキラと光る「凸」の字と「凹」の字を観察することになり、いずれの文字が明るく見えるか(よりはっきり見えるか)によって、凸部をビット”1”と解釈するのか、凹部をビット”1”と解釈するのかを判断することができる。
もちろん、「凸」の字と「凹」の字とを観察したとき、これらの文字の絶対的な明るさは、照明環境によって異なり、媒体を保持する向きによっても異なる。しかしながら、「凸」の字と「凹」の字の内部に形成された回折格子の向きは同じ方向(図21に示す配置軸Zに平行な方向)を向いているため、「凸」の字と「凹」の字とを対比観察する限りにおいて、いずれか一方が明るく見えるという現象は普遍性を有しており、常に正しいデータビットの解釈方法が提示されることになる。
このように、本発明によれば、基板に対してビーム露光およびパターニング処理を行うことにより、微細な物理的構造パターンとして情報を記録する際に、データビットの解釈方法を示す情報を併せて記録することが可能になる。
<<< §9. 識別マークの具体的な形態およびバリエーション >>>
結局、§8で説明した識別マークm10,m20の特徴をまとめると、次のようになる。まず、図21の例にも示されているように、第1の識別マークm10を構成する閉領域内には、所定の配置軸Zに平行な方向に伸びる帯状の第1属性副領域g1と帯状の第2属性副領域g2とが当該配置軸Zに対して直交する方向に交互に並べて配置されており、第2の識別マークm20を構成する閉領域内には、同じ配置軸Zに平行な方向に伸びる帯状の第1属性副領域g1と帯状の第2属性副領域g2とが当該配置軸Zに対して直交する方向に交互に並べて配置されている。
しかも、第1の識別マークm10を構成する閉領域については、第1属性副領域g1の幅W1が第2属性副領域g2の幅W2よりも広くなるように設定され、第2の識別マークm20を構成する閉領域については、第2属性副領域g2の幅W2が第1属性副領域g1の幅W1よりも広くなるように設定されている。
一方、主情報パターン生成部170は、図21の部分領域p3に例示されているように、第1属性主領域G1および第2属性主領域G2が混在する主情報パターンPαを生成する。描画データ生成部160′は、こうして作成された主情報パターンPαと副情報パターンPβとを合成した合成パターンを作成し、当該合成パターンを描画するための描画データEを生成する処理を行うことになる。
このとき、描画データ生成部160′は、第1属性主領域G1および第1属性副領域g1に対しては露光を行い、第2属性主領域G2および第2属性副領域g2に対しては露光を行わないようにするための描画データE、もしくは、第2属性主領域G2および第2属性副領域g2に対しては露光を行い、第1属性主領域G1および第1属性副領域g1に対しては露光を行わないようにするための描画データEを生成し、かつ、第1属性副領域g1および第2属性副領域g2の幅が可視光に対する回折格子を構成することが可能な寸法に設定するようにする。
図21の上段には、媒体に描画するための描画用パターンP(E)の一例を示し、下段には、その部分領域p1〜p3の拡大図を示した。識別マークm10,m20の内部には、部分領域p1,p2として示されているように、帯状の「黒領域」(第1属性副領域g1)および帯状の「白領域」(第2属性副領域g2)を交互に配置した縞模様が形成される。上述したとおり、媒体上では、この縞模様は回折格子として機能する凹凸構造として形成され、読出作業者は、キラキラと光る「凸」の字と「凹」の字として、これら一対の識別マークm10,m20を観察することになる。
したがって、実際の媒体上に形成される「黒領域」(第1属性副領域g1)の幅W1および「白領域」(第2属性副領域g2)の幅W2は、可視光に対する回折格子が形成される幅に設定しておく必要がある。
一方、幅W1と幅W2との差は、2つの識別マークm10,m20を対比観察したときの明暗の差を生む要因になるので、実用上は、上記回折格子としての機能が損なわれない範囲内で、できるだけ大きく設定するのが好ましい。本願発明者が、幅W1および幅W2として、様々な寸法を設定して実際の媒体を作成する実験を行ったところ、幅W1と幅W2との比率が5倍以上になるように設定すると、照明環境や観察環境にかかわらず、2つの識別マークm10,m20を対比観察したときの明暗差が顕著に認識できることがわかった。
したがって、実用上は、副情報パターン生成部180は、第1の識別マークm10を構成する閉領域については、第1属性副領域g1の幅W1が第2属性副領域g2の幅W2の5倍以上となるように設定し、第2の識別マークm20を構成する閉領域については、第2属性副領域g2の幅W2が第1属性副領域g1の幅W1の5倍以上となるように設定するのが好ましい(図21に示す例は、図示の便宜上、このような条件を満たす寸法比にはなっていない)。
また、「黒凸媒体」を観察したときの「凸」の字の明るさと、「黒凹媒体」を観察したときの「凹」の字の明るさとが、できるだけ同じになるようにするためには、副情報パターン生成部180が、第1の識別マークm10を構成する閉領域内の第1属性副領域g1の幅W1と第2の識別マークm20を構成する閉領域内の第2属性副領域g2の幅W2とを等しく設定し、第1の識別マークm10を構成する閉領域内の第2属性副領域g2の幅W2と第2の識別マークm20を構成する閉領域内の第1属性副領域g1の幅W1とを等しく設定するのが好ましい。
別言すれば、図21に示す例において、部分領域p1内の黒領域g1の幅W1と部分領域p2内の白領域g2の幅W2とが等しくなり、部分領域p1内の白領域g2の幅W2と部分領域p2内の黒領域g1の幅W1とが等しくなるような設定を行えばよい。そのような設定をしておけば、図21に示す描画用パターンP(E)に基づいて作成された「黒凸媒体」と「黒凹媒体」とを、同じ照明環境および同じ観察態様(媒体の向き)で観察すれば、「黒凸媒体」上の「凸」の字の明るさと「黒凹媒体」上の「凹」の字の明るさとが等しくなり、統一性をもった媒体作成が可能になる。
ここでは、参考までに、本願発明者が行った実験により良好な観察結果が得られた識別マークについての各部の寸法値を一例として記しておく。まず、図21に示す部分領域p1内(すなわち、第1の識別マークm10内)については、第1属性副領域g1の幅W1=1.8μm、第2属性副領域g2の幅W2=0.2μmとした。一方、部分領域p2内(すなわち、第2の識別マークm20内)については、第1属性副領域g1の幅W1=0.2μm、第2属性副領域g2の幅W2=1.8μmとした。いずれも、帯状の各領域の長手方向の寸法は、その両端を各識別マークの輪郭線に到達するまで伸ばした寸法になる。
上記寸法を採用すると、結局、回折格子の格子線ピッチは2μmになり、可視光に対して十分に回折現象が生じる寸法になる。また、上記実施例では、主記録領域Aαに記録する個々のビット図形Fを一辺が0.1μmの正方形とし、媒体上に形成される凹凸構造の段差を0.2μmに設定している。
なお、情報記録媒体上に形成される第1の識別マークm10および第2の識別マークm20は、肉眼観察可能なサイズになるようにするのが好ましい。もちろん、肉眼観察が困難な小さなマークであっても、虫眼鏡などを用いて観察することが可能であるが、実用上は、媒体を手にした読出作業者が、当該媒体が「黒凸媒体」であるのか「黒凹媒体」であるのかを、マークの肉眼観察により直ちに認識できるようにするのが好ましい。したがって、副情報パターン生成部180が、情報記録媒体上に形成される第1の識別マークm10および第2の識別マークm20が肉眼観察可能なサイズになる副情報パターンを生成するようにしておくのが好ましい。上記実施例では、個々の識別マークm10,m20が、媒体上で縦横3mm程度の大きさになるように設定している。
続いて、本発明に用いる識別マークについて、いくつかのバリエーションを述べておく。図26は、これまで述べてきた基本的な実施例における識別マークの構成および配置態様を示す平面図である。実際には、描画用パターンP(E)は、主記録領域Aαに記録する主情報パターンPαと副記録領域Aβに記録する副情報パターンPβとによって構成されるが、図26には、副情報パターンPβのみが示されている。この副情報パターンPβは、「凸」の字を示す第1の識別マークm10と「凹」の字を示す第1の識別マークm20とを有するパターンであり、既に述べたとおり、これら一対の識別マークのいずれが明るく見えるかによって、主記録領域Aαに記録されたデータビットの解釈方法が認識されることになる。
本発明を実施するにあたり、第1の識別マークm10および第2の識別マークm20の媒体上の位置は特に限定されるものではない。したがって、たとえば、媒体の左上隅に第1の識別マークm10を配置し、右下隅に第2の識別マークm20を配置してもかまわない。ただ、実用上は、これら両識別マークを離隔して配置するのは、あまり好ましくない。これは、読出作業者が、2つの識別マークm10,m20を対比観察して、明るさの比較を行う必要があるためである。両識別マークを対比観察して、明るさを比較しやすくするためには、両者を隣接配置するのが好ましい。
図26に示す例のように、「凸」の字と「凹」の字とが左右に隣り合って配置されていれば、読出作業者は、明るさの比較を容易に行うことができる。したがって、実用上は、副情報パターン生成部180が、第1の識別マークm10と第2の識別マークm20とが隣接して配置された副情報パターンPβを生成するようにするのが好ましい。
また、対比観察を更に容易にするために、第1の識別マークを構成する閉領域と第2の識別マークを構成する閉領域とが接触している副情報パターンPβを生成することも可能である。図27(a) は、「凸」の字と「凹」の字とを上下に隣り合わせて配置し、かつ、それぞれの閉領域が接触するように配置した例である。境界線を挟んで、第1の識別マークm11を構成する閉領域と第2の識別マークm21を構成する閉領域とが接触しているため、読出作業者は、両者の明るさの比較を更に容易に行うことができるようになる。図示の例の場合、第1の識別マークm11が「凸」の字、第2の識別マークm21が「凹」の字であるため、両文字のデザインを利用して、「凹」の字の天地を逆にして「凸」の字の上部に嵌合させることにより、全体的に融合した識別マークの形成に成功している。
一方、図27(b) は、「凸」の字の内部に「凹」の字を埋め込むように配置した例である。「凹」の字はその輪郭線を境界として「凸」の字に接しているため、読出作業者は、両者の明るさの比較を更に容易に行うことができるようになる。このように、第1の識別マークm12の内部に第2の識別マークm22が埋め込まれた副情報パターンPβを生成してもよいし、逆に、第2の識別マークm22の内部に第1の識別マークm12が埋め込まれた副情報パターンPβを生成してもよい。いずれの場合も、内部に埋め込まれた識別マークの全輪郭線を境界として、外部の識別マークが接することになるので、対比観察を容易にさせる効果が得られる。
なお、これまで述べてきた実施例では、第1の識別マークとして「凸」の字をデザインしたマークを用い、第2の識別マークとして「凹」の字をデザインしたマークを用いているが、もちろん、本発明を実施する際に用いる識別マークは、これらの文字を用いたマークに限定されるものではない。第1の識別マークは、主記録領域Aαに記録されたデータビットについての第1の解釈方法を示すマークであり、第2の識別マークは第2の解釈方法を示すマークであるから、読出作業者が、これらの識別マークに基づいて、いずれか一方の解釈方法を認識することができれば、どのようなマークを用いてもかまわない。
たとえば、「甲」の字を第1の識別マークとして用い、「乙」の字を第2の識別マークとして用いてもかまわない。この場合、たとえば、「甲」の字が明るく見える媒体では、凸部をビット”1”、凹部をビット”0”と解釈し、「乙」の字が明るく見える媒体では、凸部をビット”0”、凹部をビット”1”と解釈する、という取り決めを行っておき、読出作業者に当該取り決めが伝達されるようにしておけば、読出作業者は、「甲/乙」の文字の明るさ判断により、正しいデータビットの解釈方法を認識することが可能である。
もちろん、識別マークは、必ずしも文字である必要はなく、数字、記号、図形などのマークであってもかまわない。また、個々の識別マークは、必ずしも単一の閉領域によって構成されている必要はなく、複数の閉領域によって構成してもかまわない。図28(a) は、図形によって構成された識別マークの一例を示す平面図である。しかも、この例では、個々の識別マークはそれぞれ複数の閉領域によって構成されている。
すなわち、図28(a) の左に示す第1の識別マークm13は、それぞれ三角形からなる2組の閉領域m13a,m13bを組み合わせて構成されたマークであり、「凸」の字を彷彿させるデザインになっている。これに対して、図28(b) の右に示す第2の識別マークm23は、それぞれ矩形からなる3組の閉領域m23a,m23b,m23cを組み合わせて構成されたマークであり、「凹」の字を彷彿させるデザインになっている。
このように個々の識別マークを複数の閉領域によって構成した場合でも、閉領域m13a,m13b内には図21の部分領域p1に例示するような縞模様を形成し、閉領域m23a,m23b,m23c内には図21の部分領域p2に例示するような縞模様を形成するようにすれば、第1の識別マークm13は、全体として1つのマークとして認識され、第2の識別マークm23も、全体として1つのマークとして認識されることになるので、両者の明るさの比較により、正しいデータビットの解釈方法を認識することができる。
また、識別マークは、必ずしも単一の文字、数字、記号、図形によって構成する必要はなく、これらの組み合わせによって構成してもかまわない。たとえば、複数の文字の組み合わせにより識別マークを構成すれば、識別マークによって文を構成することが可能である。図28(b) には、このような文を構成した識別マークの一例が示されている。具体的には、この図28(b) に示す例の場合、「凸部がビット”1”です。」という文字列からなる文章が第1の識別マークm14を構成し、「凹部がビット”1”です。」という文字列からなる文章が第2の識別マークm24を構成している。
図29は、図28(b) に示す変形例に係る識別マークm14,m24を有する描画用パターンP(E)の平面図である。この例の場合、描画用パターンP(E)の左上隅に設けられた副記録領域Aβ内に上下2段に渡って文章が記録されている。上段の文章は、「凸部がビット”1”です。」という第1の識別マークm14であり、下段の文章は、「凹部がビット”1”です。」という第2の識別マークm24である。もちろん、第1の識別マークm14を構成する上段の文章の各文字の内部には、図21の部分領域p1に例示するような縞模様が形成され、第2の識別マークm24を構成する下段の文章の各文字の内部には、図21の部分領域p2に例示するような縞模様が形成されている。
したがって、この描画用パターンP(E)に基づいて作成された媒体が「黒凸媒体」であれば、第1の識別マークm14の方が明るく観察されることになり、「黒凹媒体」であれば、第2の識別マークm24の方が明るく観察されることになる。結局、読出作業者は、手にした媒体の副記録領域Aβを観察して、「凸部がビット”1”です。」という文章が明るく見えていれば、主記録領域Aαに記録されているデータビットについて、凸部をビット”1”と解釈する読出処理を実施すればよいし、「凹部がビット”1”です。」という文章が明るく見えていれば、凹部をビット”1”と解釈する読出処理を実施すればよい。図29には、後者の観察態様が示されている。
要するに、本発明に用いる副情報パターンPβは、文字、数字、記号、図形、もしくはこれらの一部、またはこれらの組み合わせからなる第1の情報(2通りのデータビットの解釈方法のうちの一方を示す情報)を提示するための1つもしくは複数の閉領域を有する第1の識別マークと、文字、数字、記号、図形、もしくはこれらの一部、またはこれらの組み合わせからなる第2の情報(上記解釈方法のうちの他方を示す情報)を提示するための1つもしくは複数の閉領域を有する第2の識別マークと、を有するパターンであれば、どのようなパターンであってもかまわない。
最後に図30を参照しながら、副情報パターンを構成する識別マークのバリエーションをもうひとつ例示しておく。この図30は、副情報パターンとして、第1の識別マークおよび第2の識別マークに加えて、更に、補助共通識別マークを用いる変形例を示す平面図である。
図30の上段に示す副情報パターンは、上下2列に配置された合計4組の矩形によって構成されている。すなわち、上列の中央には正方形状をした中央矩形m15が配置され、その左側には正方形状をした左側矩形m25aが配置され、右側には正方形状をした右側矩形m25bが配置されており、下列には、これら3組の矩形群の全幅に相当する横幅をもった長方形状の下方矩形m30が配置されている。別言すれば、左側矩形m25a、中央矩形m15、右側矩形m25bの3つの矩形を、それぞれが左側、中央、右側になるように横方向に隣接して配置し、これら3組の矩形の下方に共通して隣接するように下方矩形m30を配置した図形が示されている。
ここで、中央矩形m15は第1の識別マークを構成し、左側矩形m25aおよび右側矩形m25bの組み合わせは第2の識別マークを構成する。このバリエーションの特徴は、更に、補助共通識別マークを構成する下方矩形m30が設けられている点である。補助共通識別マークm30は、いわば第3の識別マークと呼ぶべきものであり、第1の識別マークや第2の識別マークとは異なる光学的特性を有している。
図30の下段には、図30の上段に示す副情報パターンの各部分領域の拡大図(円内の画像)が示されている。すなわち、下段の円p1内の画像は、上段に示す第1の識別マークを構成する中央矩形m15内の部分領域p1の拡大図であり、下段の円p2内の画像は、上段に示す第2の識別マークを構成する左側矩形m25a内の部分領域p2の拡大図であり(右側矩形m25b内の部分領域の拡大図も同様)、下段の円p3内の画像は、上段に示す補助共通識別マークを構成する下方矩形m30内の部分領域p3の拡大図である(図30においても、各部の寸法比は、実際の寸法比を無視した設定が行われている)。
この図30の下段に示す部分領域p1,p2,p3の内部には、これまで述べてきた例と同様に、細長い帯状の「黒領域」と細長い帯状の「白領域」とを交互に並べて配置したパターンが形成されており、媒体M上では、可視光に対する回折格子として機能することになる。図21で述べた実施例と同様に、これらの回折格子を形成する各格子線は、いずれも共通の配置軸Zに平行な方向となるように設定されている。図示の例は、配置軸Zを図の上下方向に伸びる軸として設定した例であるため、部分領域p1,p2,p3内には、上下方向に伸びる縞模様が形成されている。もちろん、配置軸Zの向きは任意の方向に設定してかまわない。
図30に示す部分領域p1,p2の拡大図は、図21に示す部分領域p1,p2の拡大図と全く同じである。すなわち、第1の識別マークを構成する部分領域p1内の縞模様と第2の識別マークを構成する部分領域p2内の縞模様とを比較すると、「黒領域」(第1属性副領域g1)を構成する帯の幅W1と「白領域」(第2属性副領域g2)を構成する帯の幅W2との大小関係が、両者で逆転している。具体的には、図示の例の場合、部分領域p1については、W1>W2であるのに対して、部分領域p2については、W1<W2となっている。この幅の大小関係の相違が、観察時の明暗の相違を生むことになる点は、既に述べたとおりである。
一方、補助共通識別マークを構成する部分領域p3内の縞模様については、この実施例の場合、「黒領域」(第1属性副領域g1)を構成する帯の幅W1と「白領域」(第2属性副領域g2)を構成する帯の幅W2とが等しく設定されている。結局、第1の識別マークについてはW1>W2、第2の識別マークについてはW1<W2、補助共通識別マークについてはW1=W2という設定がなされていることになる。
既に述べたとおり、図30に例示するような同じ副情報パターンを有する描画データを用いて情報記録媒体Mを生成した場合であっても、ビーム露光およびパターニング処理の相違によって、黒領域が凸である「黒凸媒体」になるか、黒領域が凹である「黒凹媒体」になるかが異なっている。そこで、本発明に係る情報保存装置で作成された情報記録媒体Mの場合、この副情報パターンを観察して、「黒領域」(第1属性副領域g1)の占有面積の方が広い第1の識別マークが明るく見えた場合には「黒凸媒体」と判断し、「白領域」(第2属性副領域g2)の占有面積の方が広い第2の識別マークが明るく見えた場合には「黒凹媒体」と判断できる点は、既に説明したとおりである。
図30に示す実施例で重要な点は、このように、実際の媒体Mが「黒凸媒体」か「黒凹媒体」かによって、観察時における第1の識別マークm15と第2の識別マークm25(m25aとm25b)との明暗の関係が逆転することになるが、補助共通識別マークm30の明るさは、常に、第1の識別マークm15の明るさと第2の識別マークm25の明るさとの中間的なものになる点である。特に、図30に示す実施例の場合、補助共通識別マークm30については、W1=W2という設定がなされているため、実際の媒体Mが「黒凸媒体」か「黒凹媒体」かの違いによって、補助共通識別マークm30の明るさに違いは生じない。
補助共通識別マークm30の役割は、第1の識別マークm15の方が第2の識別マークm25よりも明るく観察される「黒凸媒体」の場合は、第1の識別マークm15との同時観察によって、当該媒体が「黒凸媒体」であることを示す第1の標章を構成することであり、第2の識別マークm25の方が第1の識別マークm15よりも明るく観察される「黒凹媒体」の場合は、第2の識別マークm25との同時観察によって、当該媒体が「黒凹媒体」であることを示す第2の標章を構成することである。
このような役割を、図30の具体的な実施例について説明しよう。図31は、図30に示す変形例における各識別マークの観察態様を示す平面図である。この図31では、各領域内に3通りのハッチングが施されているが、網目によるハッチング領域は明るく観察され、ドットによるハッチング領域は暗く観察され、斜線によるハッチング領域は、中間的な明るさで観察されることを示している。
図31(a) は、「黒凸媒体」の観察態様を示しており、第1の識別マークm15は明るく、第2の識別マークm25は暗く、補助共通識別マークm30は中間的な明るさで観察される。このため、観察者の眼には、明るい第1の識別マークm15と中間的な明るさの補助共通識別マークm30の部分が、融合した1つの標章として把握される。具体的には、観察者には、図に太枠で囲って示すように、文字「凸」を示す第1の標章が把握され、当該媒体Mを「黒凸媒体」と認識することができる。別言すれば、この副情報パターンによって、「凸部がビット”1”」という解釈方法が示されることになる。
一方、図31(b) は、「黒凹媒体」の観察態様を示しており、第2の識別マークm25は明るく、第1の識別マークm15は暗く、補助共通識別マークm30は中間的な明るさで観察される。このため、観察者の眼には、明るい第2の識別マークm25と中間的な明るさの補助共通識別マークm30の部分が、融合した1つの標章として把握される。具体的には、観察者には、図に太枠で囲って示すように、文字「凹」を示す第2の標章が把握され、当該媒体Mを「黒凹媒体」と認識することができる。別言すれば、この副情報パターンによって、「凹部がビット”1”」という解釈方法が示されることになる。
結局、図30に例示するバリエーションを実施する場合、副情報パターン生成部180には、第1の識別マークm15および第2の識別マークm25に加えて、更に、補助共通識別マークm30を有する副情報パターンを生成する機能をもたせておけばよい。ここで、補助共通識別マークm30は、文字、数字、記号、図形、もしくはこれらの一部、またはこれらの組み合わせからなる補助共通情報を提示するための1つもしくは複数の閉領域を有する識別マークであればよい。
ここで重要な点は、この補助共通識別マークm30を構成する閉領域内には、図30に部分領域p3として示すように、配置軸Z(図示の例の場合、図の上下方向軸)に平行な方向に伸びる帯状の第1属性副領域g1と帯状の第2属性副領域g2とがこの配置軸Zに対して直交する方向(図示の例の場合、左右方向)に交互に並べて配置されており、実際の媒体M上では、可視光に対する回折格子が形成されるようにする点である。
また、図30に示す実施例の場合、補助共通識別マークm30における第1属性副領域g1の幅W1と第2属性副領域g2の幅W2とが等しくなるように設定されている。これは、上述したとおり、実際の媒体Mが「黒凸媒体」か「黒凹媒体」かの違いによって、補助共通識別マークm30の明るさに違いが生じないようにするための配慮である。もっとも、補助共通識別マークm30において、必ずしもW1=W2に設定する必要はなく、両者に若干の差が生じていてもかまわない。
重要な点は、補助共通識別マークm30における第1属性副領域g1の幅W1と第2属性副領域g2の幅W2との差が、第1の識別マークm15および第2の識別マークm25における第1属性副領域g1の幅W1と第2属性副領域g2の幅W2との差よりも小さく設定されるようにする点である。このような設定を行えば、実際の媒体Mが「黒凸媒体」であろうが「黒凹媒体」であろうが、補助共通識別マークm30の明るさは、第1の識別マークm15の明るさと第2の識別マークm25の明るさとの中間的な明るさとして観察されるため、いずれの媒体であっても共通して観察される補助マークとしての役割を果たすことができる。
図30に示す実施例の特徴は、第1の識別マークm15と補助共通識別マークm30との組み合わせにより、主情報パターンによって示されたデータビットの第1の解釈方法を示す第1の標章(文字「凸」を示す標章)が構成され、第2の識別マークm25と補助共通識別マークm30との組み合わせにより、主情報パターンによって示されたデータビットの第2の解釈方法を示す第2の標章(文字「凹」を示す標章)が構成されている点である。すなわち、図30の上段に示す4組の矩形により副情報パターンを構成し、中央矩形m15によって第1の識別マーク、左側矩形m25aおよび右側矩形m25bによって第2の識別マーク、下方矩形m30によって補助共通識別マークがそれぞれ構成されるようにしたため、文字「凸」を示す第1の標章と文字「凹」を示す第2の標章とが表示できる。
もちろん、理論的には、補助共通識別マークm30を設けなくても、中央矩形m15からなる第1の識別マーク(単一の正方形からなるマーク)が明るく観察できるか、あるいは、左側矩形m25aおよび右側矩形m25bからなる第2の識別マーク(一対の正方形からなるマーク)が明るく観察できるか、によって、データビットの解釈方法を示すことも可能である。ただ、図31に示すように、補助共通識別マークm30を付加すれば、文字「凸」を示す第1の標章と文字「凹」を示す第2の標章とを表示できるので、この副情報パターンは「ビット”1”」が凸部か凹部かを直接的に示す標章になり、観察者は、より直感的にデータビットの解釈方法を認識することができる。
なお、第1の標章および第2の標章としては、必ずしも文字「凸」および文字「凹」を用いる必要はない。たとえば、図28(b) には、「凸部がビット”1”です。」という第1の識別マークm14と、「凹部がビット”1”です。」という第2の識別マークm24とを用いた実施例が示されているが、この実施例に上述した補助共通識別マークを利用することも可能である。具体的には、たとえば、「凸部が」の部分を第1の識別マークとし、「凹部が」の部分を第2の識別マークとし、「ビット”1”です。」の部分を補助共通識別マークとすることができる。
<<< §10. 情報記録媒体の構造のバリエーション >>>
§2では、図5を参照しながら、先願発明に係る情報保存装置によって作成される情報記録媒体の構造のバリエーションをいくつか述べた。ここでは、本発明に係る情報保存装置によって作成される情報記録媒体の構造のバリエーションを述べておく。
§7,§8で述べた実施例の場合、パターニング装置300により、第1属性の領域(第1属性主領域G1および第1属性副領域g1)および第2属性の領域(第2属性主領域G2および第2属性副領域g2)のいずれか一方を示す凹部Cと他方を示す凸部Vとからなる凹凸構造を有する物理的構造体が形成される。一方、図5(c) には、先願発明のバリエーションとして、このような凹凸構造を有する物理的構造体において、凸部Vの表面に付加層32を形成する変形例を示した。このように、凸部Vの表面に付加層を形成する変形例は、本発明においても有効である。
図32〜図35は、いずれも図18に示す情報保存装置によって情報の書き込みが行われた情報記録媒体の様々なバリエーションを示す側断面図であり、上段の図(a) は第1の識別マークm10が記録された部分領域p1の側断面を示し、下段の図(b) は第2の識別マークm20が記録された部分領域p2の側断面を示す(いずれも切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。
図32に示す変形例の特徴は、上面に凹凸構造を形成する加工が行われた後の基板60の凸部の表面に、更に付加層61を設けた点にある。ここで付加層61としては、光反射性材料からなる層が用いられている。この図32に示すような物理的構造体を作成するには、パターニング装置300に、被成形層60の凸部の表面に光反射性材料からなる付加層61を形成する機能を設けておけばよい。
このように、凸部の表面に光反射性材料からなる付加層61を形成しておくと、第1の識別マークm10と第2の識別マークm20とを対比したときに、両者の明るさの差を更に顕著にすることができ、読出作業者による観察を容易にする効果が得られる。図32(a) ,(b) は、図24に示す媒体M5と同様に、「黒凹媒体」の構造を示すものであり、凸部に入射した光線L9は上方に反射して観察され、凹部に入射した光線L10の多くは散乱して消滅する。したがって、凸部の占有面積に比べて凹部の占有面積の方が広い第1の識別マークm10(図32(a) )は暗く見え、凸部の占有面積の方が凹部の占有面積よりも広い第2の識別マークm20(図32(b) )は明るく見える。
このとき、凸部の表面に光反射性材料からなる付加層61が形成されていると、凸部に入射した光線L9の反射率を向上させることができるため、第2の識別マークm20(図32(b) )をより明るくする効果が得られる。よって、読出作業者による対比観察をより容易にすることができる。
なお、この図32に示す変形例に係る構造を採用した媒体の場合、部分領域p1(図32(a) )における第1属性副領域g1(凹部)の幅をW1=19μm、第2属性副領域g2(凸部)の幅をW2=1μmとし、部分領域p2(図32(b) )における第1属性副領域g1(凹部)の幅をW1=1μm、第2属性副領域g2(凸部)の幅をW2=19μmとし、格子線ピッチが20μmとなるような設定を行い、上方から観察したところ、反射回折光により両方の識別マークm10,m20を良好な状態で確認することができた。
一方、図33に示す変形例は、パターニング装置300が、透光性材料からなる基板65に対してパターニング処理を行うことにより、当該基板65の表面(図の上面)に凹凸構造を形成し、更に、当該基板65の裏面(図の下面)に、遮光性材料からなる付加層66を形成した例である。この基板65からなる媒体の場合も、上方から照射した照明光の反射光を上方から観察することにより、各識別マークを認識する点に変わりはないが、基板65が透光性材料によって構成されているため、裏面からの照明光L11が上方へと透過すると、識別マークの観察に悪影響を及ぼす可能性がある。
図33に示す構造において、基板65の裏面に形成された遮光性材料からなる付加層66は、このような裏面からの照明光L11が上方へと透過して、識別マークの観察に悪影響を及ぼすことを妨げる機能を果たす。基板65を非透光性材料によって構成する場合は、裏面に付加層66を設ける必要はないが、基板65を透光性材料によって構成する場合は、図示の例のように、裏面に遮光性材料からなる付加層66を設けるのが好ましい。
これまで述べてきた実施例は、いずれも、上面に凹凸構造が形成された媒体について、上方から照射された照明光の上面における反射光を上方から観察することにより、各識別マークを観察することを前提としたものであるが、図34に示す例のように、透光性材料からなる基板32を用いた媒体の場合、下方から下面に照射された照明光の上面からの透過光を上方から観察することにより、各識別マークを認識することも可能である。
図34には、透光性を有する基板65の下方から上方へと透過する光線L12,L13が一点鎖線で描かれているが、光線L12は凸部Vを透過して上方へ向かう光であり、光線L13は凹部Cを透過して上方へと向かう光である。理論的には、基板65が100%の透光性を有する完全な透明材料でない限り、透過光は基板65中を進行するうちに一部が減衰するので、上方から観察した場合、凸部Vを透過した光線L12の強度は凹部Cを透過した光線L13の強度よりも若干低下する。したがって、図示の例の場合、凸部Vの占有面積に比べて凹部Cの占有面積の方が広い第1の識別マークm10(図34(a) )は若干明るく見え、凸部Vの占有面積の方が凹部Cの占有面積よりも広い第2の識別マークm20(図34(b) )は若干暗く見えることになる。
もっとも、図34に示す構成の場合、透過光により観察される両識別マークの明暗の差は微小なものであるため、実用上は、本発明に係る識別マークとしての機能を十分に果たすことはできない。そこで、実際には、図35に示す例のように、基板65の凸部上面に遮光性材料からなる付加層67を形成するのが好ましい。この図35に示す構造をもった媒体を作成するには、パターニング装置300が、透光性材料からなる基板65に対してパターニング処理を行うことにより、その上面に凹凸構造を形成し、更に、凸部Vの表面に、遮光性材料からなる付加層67を形成する処理を行うようにすればよい。
この図35に示す媒体の場合、凹部Cを透過しようとする光線L13は、そのまま上方へと透過して観察されることになるが、凸部Vを透過しようとする光線L12は、遮光性材料からなる付加層67に阻まれて、上方で観察されることはない。したがって、図示の例の場合、凸部Vの占有面積に比べて凹部Cの占有面積の方が広い第1の識別マークm10(図35(a) )は明るく見え、凸部Vの占有面積の方が凹部Cの占有面積よりも広い第2の識別マークm20(図35(b) )は暗く見えることになる。遮光性材料からなる付加層67を形成したことにより、両識別マークの明暗差は顕著になり、本発明に係る識別マークとしての機能を十分に果たすことができる。
なお、この図35に示す変形例に係る構造を採用した媒体の場合も、部分領域p1(図35(a) )における第1属性副領域g1(凹部)の幅をW1=19μm、第2属性副領域g2(凸部)の幅をW2=1μmとし、部分領域p2(図35(b) )における第1属性副領域g1(凹部)の幅をW1=1μm、第2属性副領域g2(凸部)の幅をW2=19μmとし、格子線ピッチが20μmとなるような設定を行い、上方から観察したところ、透過回折光により両方の識別マークm10,m20を良好な状態で確認することができた。
以上、基板の表面に凹凸構造を形成した情報記録媒体について、いくつかの構造のバリエーションを述べたが、本発明を実施するにあたって、ビット情報を示す物理的構造は、必ずしも凹凸構造に限定されるものではなく、先願発明の変形例として図5(a) に例示したような網状構造を採用することも可能である。この場合、パターニング装置300は、第1属性の領域(第1属性主領域G1および第1属性副領域g1)および第2属性の領域(第2属性主領域G2および第2属性副領域g2)のいずれか一方を示す貫通孔Hと他方を示す非孔部Nとからなる網状構造体を形成すればよい。
この場合、保存対象となるデジタルデータの各データビットは、主記録領域Pαにおいて、ビット”1”およびビット”0”のいずれか一方を示す貫通孔Hと他方を示す非孔部Nとからなる網状構造として記録されることになる。たとえば、図5(a) に示す網状構造体12では、太い一点鎖線で示す位置(ビットを記録する格子点Lに対応する位置)が貫通孔Hになっているか、非孔部N(貫通孔が形成されていない部分)になっているか、によって、図示のとおりビット”1”およびビット”0”が表現される。
一方、データビットの解釈方法を示す情報は、副記録領域Pβに一対の識別マークの情報として記録される。
図36〜図39は、いずれも図18に示す情報保存装置によって作成された網状構造を有する情報記録媒体を示す側断面図である。いずれも、上段の図(a) は第1の識別マークm10が記録された部分領域p1の側断面を示し、下段の図(b) は第2の識別マークm20が記録された部分領域p2の側断面を示す(いずれも切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。
図36は、何ら付加層が形成されていない網状構造体からなる基板70によって構成された情報記録媒体における部分領域p1,p2の側断面を示している。ここでは、まず、この情報記録媒体について、上方から照射された照明光の上面における反射光を上方から観察することにより、各識別マークを観察する場合を考えてみよう。この場合、非孔部Nに入射した光線L14は、図示のとおり、非孔部Nの上面で反射して上方で観察される。一方、貫通孔Hに入射した光線L15は、図示のとおり、媒体の下方に透過するか、もしくは、貫通孔Hの側面に衝突して散乱する。
したがって、非孔部Nの占有面積に比べて貫通孔Hの占有面積の方が広い第1の識別マークm10(図36(a) )は暗く見え、非孔部Nの占有面積の方が貫通孔Hの占有面積よりも広い第2の識別マークm20(図36(b) )は明るく見える。ここで、識別マークm10として「非孔部Nがビット”1”」との解釈方法を示すマークを用い、識別マークm20として「貫通孔Hがビット”1”」との解釈方法を示すマークを用いておけば、各識別マークm10,m20は、データビットの解釈方法を示すマークとして正常に機能する。
すなわち、図36に示す例の場合、第2の識別マークm20の方が明るく見えるので、「貫通孔Hがビット”1”」との解釈方法が採用されることになり、当該解釈方法は、図5(a) に示すデータビットの正しい解釈を示している。
一方、図37に示す変形例は、図36に示す網状構造体からなる基板70の上面に、更に付加層71を設けたものである。ここで付加層71としては、光反射性材料からなる層が用いられている。この図37に示すような物理的構造体を作成するには、パターニング装置300に、網状構造体からなる基板70の非孔部Nの片面(図示の例の場合は上面)に、光反射性材料からなる付加層を形成する機能を設けておけばよい。
このように、非孔部Nの上面に光反射性材料からなる付加層71を形成しておくと、第1の識別マークm10と第2の識別マークm20とを対比したときに、両者の明るさの差を更に顕著にすることができ、読出作業者による観察を容易にする効果が得られる。すなわち、付加層71を形成すると、貫通孔Hに入射した光線L15が上方で観察されない点は同じであるが、非孔部Nに入射した光線L14の反射率を向上させることができるため、両方の識別マークをより明るくする効果が得られ、読出作業者による対比観察をより容易にすることができる。
以上、網状構造体からなる媒体について、上方から照射された照明光の上面における反射光を上方から観察することにより、各識別マークを観察することを前提とした説明を行ったが、この網状構造体からなる媒体の場合、下方から下面に照射された照明光の上面からの透過光を上方から観察することにより、各識別マークを認識することも可能である。図38は、網状構造体からなる基板70を非透光性材料によって構成し、下方からの照明光を上方から観察する態様を採った例を示す側断面図である。
基板70が非透光性材料によって構成されているため、下方から非孔部Nに入射した光線L17は、上方への透過が妨げられるが、貫通孔Hに入射した光線L16の一部は上方に透過して観察されることになる(もちろん、一部には、貫通孔Hの側面に衝突して散乱して消滅する光もある)。したがって、図示の例の場合、非孔部Nの占有面積に比べて貫通孔Hの占有面積の方が広い第1の識別マークm10(図38(a) )は明るく見え、非孔部Nの占有面積の方が貫通孔Hの占有面積よりも広い第2の識別マークm20(図38(b) )は暗く見えることになる。よって、網状構造体からなる基板70については、下方から下面に照射された照明光の上面からの透過光を上方から観察することにより、両方の識別マークの対比確認を行うことも可能である。
図39に示す変形例は、透光性材料を用いて、網状構造体からなる基板75を作成した場合にも、下方からの照明光を上方から観察する態様を採用できるように、基板75の上面に、更に付加層76を設けたものである。ここで付加層76としては、遮光性材料からなる層が用いられている。この図39に示すような物理的構造体を作成するには、パターニング装置300に、透光性材料からなる基板に対してパターニング処理を行うことにより網状構造を有する基板75を形成し、その非孔部Nの片面に、遮光性材料からなる付加層76を形成する機能を設けておけばよい。
この図39に示す媒体の場合、貫通孔Hを透過した光線L18は、そのまま上方へと透過して観察されることになるが、非孔部Nを透過しようとする光線L19は、遮光性材料からなる付加層76に阻まれて、上方で観察されることはない。したがって、図示の例の場合、非孔部Nの占有面積に比べて貫通孔Hの占有面積の方が広い第1の識別マークm10(図39(a) )は明るく見え、非孔部Nの占有面積の方が貫通孔Hの占有面積よりも広い第2の識別マークm20(図39(b) )は暗く見えることになる。基板75が透光性材料によって構成されていても、遮光性材料からなる付加層76を形成したことにより、両識別マークの明暗差は顕著になり、本発明に係る識別マークとしての機能を十分に果たすことができる。
以上、情報記録媒体の構造のバリエーションをいくつか述べたが、媒体の上方から照射された照明光の上面における反射光を上方から観察する反射観察を前提とした場合と、逆に、下方から下面に照射された照明光の上面からの透過光を上方から観察する透過観察を前提とした場合とでは、各識別マークの明暗の関係が逆転することは留意しておく必要がある。
たとえば、図32に示す媒体は、反射観察を前提とした媒体であるため、第1の識別マークm10は「凸部がビット”1”」であることを示すマークとし、第2の識別マークm20は「凹部がビット”1”」であることを示すマークとしておけばよいが、図35に示す媒体は、透過観察を前提とした媒体であるため、第1の識別マークm10は「凹部がビット”1”」であることを示すマークとし、第2の識別マークm20は「凸部がビット”1”」であることを示すマークとしておく必要がある。別言すれば、図32に示す媒体と図35に示す媒体は、物理的には同等の構造を有しているが、図32に示す媒体を反射観察すると、第2の識別マークm20(図32(b) )の方が明るく見えるのに対して、図35に示す媒体を透過観察すると、第1の識別マークm10(図35(a) )の方が明るく見えることになる。
同様に、図37に示す媒体は、反射観察を前提とした媒体であるため、第1の識別マークm10は「非孔部Nがビット”1”」であることを示すマークとし、第2の識別マークm20は「貫通孔Hがビット”1”」であることを示すマークとしておけばよいが、図39に示す媒体は、透過観察を前提とした媒体であるため、第1の識別マークm10は「貫通孔Hがビット”1”」であることを示すマークとし、第2の識別マークm20は「非孔部Nがビット”1”」であることを示すマークとしておく必要がある。別言すれば、図37に示す媒体と図39に示す媒体は、物理的には同等の構造を有しているが、図37に示す媒体を反射観察すると、第2の識別マークm20(図37(b) )の方が明るく見えるのに対して、図39に示す媒体を透過観察すると、第1の識別マークm10(図39(a) )の方が明るく見えることになる。
実際には、保存処理用コンピュータ100′によって描画データEを作成した時点では、パターニング装置300によって、最終的にどのようなバリエーションの媒体が作成されるかを予測することはできない。したがって、実用上は、各識別マークm10,m20によって示されるデータビットの解釈方法を示す情報として、基本的には、反射観察を行うことを前提とした情報を記録しておくようにし、読出作業者が、透過観察によって各識別マークm10,m20の対比を行った場合には、データビットの解釈方法を逆転させる取り決めを行えばよい。
なお、上述した各付加層を構成する具体的な材料については、§2で述べたとおりである。たとえば、光反射性材料としては、アルミニウム、ニッケル、チタン、銀、クロム、シリコン、モリブデン、白金などの金属、これらの金属の合金、酸化物、窒化物などを利用することができ、遮光性材料としては、金属の酸化物や窒化物といった化合物からなる材料を用いることができる。もちろん、§2で述べたように、付加層のように明快な境界面を有する別層を形成する代わりに、付加層を形成すべき表面に不純物をドープすることにより同様の効果を得ることもできる。
<<< §11. 本発明に係る情報保存方法 >>>
最後に、本発明を情報保存方法という方法発明として把握した場合の処理手順を、図40の流れ図を参照しながら説明する。この図40に示す情報保存処理は、デジタルデータを情報記録媒体に書き込んで保存する情報保存方法を実行するための処理であり、図示のとおり、ステップS31〜S36によって構成される。ここで、ステップS31〜S34の各段階は、図18に示す保存処理用コンピュータ100′によって実行される処理段階であり、ステップS35の段階は、図18に示すビーム露光装置200によって実行される処理段階であり、ステップS36の段階は、図18に示すパターニング装置300によって実行される処理段階である。
まず、ステップS31では、保存対象となるデジタルデータDを入力するデータ入力段階が実行される。この段階の処理内容は、図11に示す先願発明におけるステップS11の処理内容と同じである。
続いて、ステップS32では、ステップS31で入力したデジタルデータDを構成する個々のデータビットの情報を示す主情報パターンPαを生成する主情報パターン生成段階が実行される。この段階の処理内容は、図11に示す先願発明におけるステップS12〜S15の処理内容と同じである。
ここで重要な点は、この主情報パターン生成段階で生成される主情報パターンPαは、図21の部分領域p3内に例示されているように、第1属性主領域G1(黒領域)と第2属性主領域G2(白領域)とによって構成され、個々のデータビットにそれぞれ対応する所定点が、第1属性主領域G1内に存在するか、あるいは、第2属性主領域G2内に存在するか、の違いによって、個々のデータビットの二値情報が表現されたパターンである点である。
一方、ステップS33では、上記主情報パターンPαによって示されたデータビットの解釈方法を示す副情報パターンPβを生成する副情報パターン生成段階が実行される。この段階は、先願発明にはない新規段階であり、その具体的な処理内容は、副情報パターン生成部180の処理機能として、既に述べたとおりである。
ここで重要な点は、図21に示すように、上記副情報パターンPβが、文字、数字、記号、図形、もしくはこれらの一部、またはこれらの組み合わせからなる第1の情報を提示するための1つもしくは複数の閉領域を有する第1の識別マークm10と、文字、数字、記号、図形、もしくはこれらの一部、またはこれらの組み合わせからなる第2の情報を提示するための1つもしくは複数の閉領域を有する第2の識別マークm20と、を有するパターンとなっている点である。
しかも、図21の部分領域p1内に例示されているように、第1の識別マークm10を構成する閉領域内には、所定の配置軸Zに平行な方向に伸びる帯状の第1属性副領域g1(黒領域)と帯状の第2属性副領域g2(白領域)とが配置軸Zに対して直交する方向に交互に並べて配置されており、また、図21の部分領域p2内に例示されているように、第2の識別マークm20を構成する閉領域内には、配置軸Zに平行な方向に伸びる帯状の第1属性副領域g1(黒領域)と帯状の第2属性副領域g2(白領域)とが配置軸Zに対して直交する方向に交互に並べて配置されている。
ここで、第1の識別マークm10を構成する閉領域については、第1属性副領域g1の幅W1が第2属性副領域g2の幅W2よりも広くなるように設定され、第2の識別マークm20を構成する閉領域については、第2属性副領域g2の幅W2が第1属性副領域g1の幅W1よりも広くなるように設定される点も重要な特徴である。
そして、ステップS34では、主情報パターンPαおよび副情報パターンPβを描画するための描画データEを生成する描画データ生成段階が実行される。この処理内容は、図11に示す先願発明におけるステップS16の処理内容とほぼ同じである。すなわち、ステップS16では、主情報パターンPαに基づいて描画データEの生成が行われたが、ステップS34では、主情報パターンPαに副情報パターンPβを合成した合成パターンに基づいて描画データEの生成が行われることになる。
ここで、この描画データ生成段階で生成される描画データEは、第1属性主領域G1および第1属性副領域g1に対しては露光を行い、第2属性主領域G2および第2属性副領域g2に対しては露光を行わないようにするための描画データであるか、もしくは、第2属性主領域G2および第2属性副領域g2に対しては露光を行い、第1属性主領域G1および第1属性副領域g1に対しては露光を行わないようにするための描画データであり、しかも、第1属性副領域g1および第2属性副領域g2の幅が可視光に対する回折格子を構成することが可能な寸法となるような寸法設定が行われる。
続く、ステップS35では、ステップS34で生成された描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光を行うビーム露光段階が実行される。この段階の処理内容は、図11に示す先願発明におけるステップS17の処理内容と同じである。
最後のステップS36では、露光を受けた基板に対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターンが形成された情報記録媒体を生成するパターニング段階が実行される。この段階の処理内容は、図11に示す先願発明におけるステップS18の処理内容と同じである。もちろん、§10で述べた種々のバリエーションに係る構造を採用する場合には、このステップS36において、必要な付加層の形成が行われる。