以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
<<< §1. 本発明に係る情報保存装置の基本的実施形態 >>>
図1は、本発明に係る情報保存装置の基本的実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態に係る情報保存装置は、デジタルデータを情報記録媒体に書き込んで保存する機能を果たす装置であり、図示のとおり、保存処理用コンピュータ100、ビーム露光装置200、パターニング装置300によって構成される。
ここで、保存処理用コンピュータ100は、保存対象となるデジタルデータDに基づいて、描画データEを作成する処理を実行する。ビーム露光装置200は、この描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光を行う装置であり、このビーム露光によって、基板S上には描画用パターンが形成される。パターニング装置300は、露光を受けた基板Sに対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターンを形成し、情報記録媒体Mを作成する。結局、情報記録媒体Mには、デジタルデータDに応じた情報が物理的構造パターンとして記録される。
保存処理用コンピュータ100は、図示のとおり、データ入力部110、単位データ生成部120、単位ビット行列生成部130、単位ビット図形パターン生成部140、単位記録用図形パターン生成部150、描画データ生成部160を有している。以下、これら各部の機能について順に説明を行う。もっとも、これら各部は、実際には、コンピュータに専用のプログラムを組み込むことにより実現される構成要素であり、保存処理用コンピュータ100は、汎用のコンピュータに専用のプログラムをインストールすることにより構成することができる。
まず、データ入力部110は、保存対象となるデジタルデータDを入力する機能をもった構成要素であり、入力したデジタルデータDを一時的に格納する機能も備えている。保存対象となるデジタルデータDは、文書データ、画像データ、音声データなど、どのような形態のものであってもかまわない。
単位データ生成部120は、データ入力部110が入力したデジタルデータDを、所定のビット長単位で分割することにより、複数の単位データを生成する構成要素である。ここでは、説明の便宜上、図2の上段に示すように、デジタルデータDをビット長uの単位で分割することにより、4組の単位データが生成された場合を例にとって以下の説明を行うことにし、第i番目の単位データを符号Uiで示す(この例では、i=1〜4)。以下、本願において用いられる「単位」なる語句を冠した用語は、いずれも「1つの単位データ」について作成されたものであることを示す。
個々の単位データUiのビット長は、必ずしも等しくする必要はなく、互いに異なるビット長をもった複数の単位データを生成してもかまわない。ただ、実用上は、後述するビット記録領域Abを同一形状同一面積の領域とするのが好ましく、そのためには、予め共通のビット長uを定めておき、すべての単位データUiが同じビット長uをもつデータになるようにするのが好ましい。
共通のビット長uは、任意の値に設定することができるが、実用上は、m行n列の単位ビット行列を構成することができるように、u=m×nに設定し、単位データ生成部120が、デジタルデータを(m×n)ビットからなる単位データに分割するようにすればよい。ここでは説明の便宜上、m=n=5に設定して、5行5列の単位ビット行列を構成することができるように、u=25ビットに設定した例を示す(実用上は、uの値はより大きな値に設定するのが好ましい。)。図2に示す第1番目の単位データU1は、このような設定に基づいて生成された単位データであり、25ビットのデータから構成されている。
単位データ生成部120は、たとえば、入力したデジタルデータDを先頭からuビットずつに区切って分割してゆき、それぞれを単位データU1,U2,U3,... とすればよい。この場合、デジタルデータD全体の長さがビット長uの整数倍になっていないと、最後の単位データの長さがビット長uに満たなくなる。そこで、すべての単位データの長さを共通のビット長uに揃えたい場合には、デジタルデータDの末尾にダミービットを追加して、全体の長さがビット長uの整数倍になるように調整すればよい。
なお、デジタルデータDの分割方法は、必ずしも先頭から所定のビット長uごとに区切ってゆく方法に限定されるものではなく、たとえば、4分割する場合、第1,5,9,... 番目のビットを抽出したものを第1の単位データU1とし、第2,6,10,... 番目のビットを抽出したものを第2の単位データU2とし、第3,7,11,... 番目のビットを抽出したものを第3の単位データU3とし、第4,8,12,... 番目のビットを抽出したものを第4の単位データU4とする、というような分割方法を採ることも可能である。
単位データ生成部120によって生成された個々の単位データUiは、単位ビット行列生成部130に与えられる。単位ビット行列生成部130は、個々の単位データUiを構成するデータビットをm行n列の二次元行列状に配置することにより、単位ビット行列B(Ui)を生成する処理を行う。
図2には、第1番目の単位データU1を構成する25ビットのデータを先頭から5ビットずつに区切って、「11101」,「10110」,「01001」,「11001」,「10110」なる5グループを形成し、個々のグループを1行に配置した5行5列の行列からなる単位ビット行列B(U1)を生成した例が示されている。もちろん、単位データU2,U3,U4についても同様の方法により、単位ビット行列B(U2),B(U3),B(U4)が生成されることになる。
こうして単位ビット行列生成部130で生成された個々の単位ビット行列B(Ui)は、単位ビット図形パターン生成部140に与えられる。単位ビット図形パターン生成部140は、個々の単位ビット行列B(Ui)を、二次元平面上の所定のビット記録領域内に配置された幾何学的なパターンに変換することにより、単位ビット図形パターンP(Ui)を生成する処理を行う。
図2の中段には、5行5列の行列からなる単位ビット行列B(U1)に基づいて作成された単位ビット図形パターンP(U1)の実例が示されている。この実例の場合、二次元平面上に正方形のビット記録領域Ab(図に破線で示す領域)が定義され、その中に黒く塗りつぶした小さな正方形状のドット(以下、ビット図形と呼ぶ)を配置することにより、単位ビット図形パターンP(U1)が形成されている。
ここで、個々のビット図形は、単位ビット行列B(U1)を構成するビット”1”に対応している。別言すれば、ビット記録領域Ab内には、単位ビット行列B(U1)に対応して5行5列の行列が定義され、単位ビット行列B(U1)内のビット”1”に対応する位置にのみビット図形が配置され、ビット”0”に対応する位置には何も配されていない。したがって、この単位ビット図形パターンP(U1)は、5行5列の行列を構成する各位置におけるビット図形の有無によって、単位ビット行列B(U1)を構成する25ビットの情報を表現していることになる。
もちろん、個々のビット図形を、単位ビット行列B(U1)を構成するビット”0”に対応させて配置するようにしてもかまわない。この場合は、単位ビット行列B(U1)内のビット”0”に対応する位置にのみビット図形が配置され、ビット”1”に対応する位置には何も配置されないことになる。要するに、単位ビット図形パターン生成部140は、単位ビット行列B(U1)を構成する個々のビット”1”および個々のビット”0”のうちのいずれか一方を、閉領域からなる個々のビット図形に変換する処理を行えばよい。なお、個々のビット図形を示すデータの形式は、任意の形式でかまわない。たとえば、1つのビット図形を矩形によって構成する場合であれば、単位ビット図形パターンP(U1)を示すデータとして、個々のビット図形の4頂点の座標値(対角2頂点の座標値でもよい)を示すデータを用いることもできるし、個々のビット図形の中心点(左下隅点等でもよい)の座標値を示すデータと共通の矩形形状を有するビット図形の縦横の辺の長さを示すデータとを用いることもできる。あるいは、円形のビット図形を採用する場合であれば、個々のビット図形の中心点の座標値を示すデータと共通の半径値を示すデータとを用いることもできる。
もちろん、単位データU2,U3,U4について生成された単位ビット行列B(U2),B(U3),B(U4)も、同様の方法で幾何学的なパターンに変換され、単位ビット図形パターンP(U2),P(U3),P(U4)が生成される。こうして生成された各単位ビット図形パターンP(U1)〜P(U4)を何らかの方法で媒体上に形成すれば、デジタルデータDの情報を媒体に記録することができる。ただ、本発明では、後に行われる読出処理の便宜を考慮して、各単位ビット図形パターンP(U1)〜P(U4)にそれぞれ位置合わせマークを付加することにする。
単位記録用図形パターン生成部150は、この位置合わせマークの付加を行う構成要素であり、本願では、この位置合わせマークが付加された状態の単位ビット図形パターンP(Ui)を、単位記録用図形パターンR(Ui)と呼んでいる。結局、単位記録用図形パターン生成部150は、単位ビット図形パターン生成部140が生成した単位ビット図形パターンP(Ui)に位置合わせマークを付加し、単位記録用図形パターンR(Ui)を生成する処理を行うことになる。
図2の中段には、単位ビット図形パターンP(U1)の外側4隅に十字状の位置合わせマークQを付加し、単位記録用図形パターンR(U1)を生成した例が示されている。ここでは、単位ビット図形パターンP(U1)が形成されたビット記録領域Ab(破線の正方形)と、その外側4隅に配置された位置合わせマークQとを包含する領域を、単位記録領域Au(一点鎖線の正方形)と呼ぶことにする。単位記録用図形パターンR(U1)は、この単位記録領域Au内に形成された図形パターンということになる。
位置合わせマークQは、§3で述べる読出処理において、個々のビット記録領域Abを認識するために利用される。そのため、位置合わせマークQは、ビット記録領域Abに対して特定の位置(図示の例では、ビット記録領域Abの外側4隅の位置)に配置される。図示の例では、十文字状の位置合わせマークQを用いた例が示されているが、個々のビットを表すビット図形(図示の例の場合、黒く塗りつぶした小さな正方形)と区別することができる図形であれば、どのような形状の図形を用いてもかまわない。
また、図示の例では、ビット記録領域Abの外側に位置合わせマークQを配置しているが、ビット記録領域Abの内側に位置合わせマークQを配置することも可能である。ただ、ビット記録領域Abの内側に配置する場合は、個々のビットを表すビット図形と干渉するおそれがあるため、実用上は、図示の例のように、ビット記録領域Abの外側に位置合わせマークQを配置するのが好ましい。この位置合わせマークQの形状や配置のバリエーションについては、§4で改めて述べることにする。
こうして、単位記録用図形パターン生成部150が、4組の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を生成したら、描画データ生成部160が、これらを描画するための描画データEを生成する処理を行う。具体的には、描画データ生成部160は、図2の下段に示されているように、4組の単位記録領域R(U1)〜R(U4)を二次元行列状に配置することにより(この例の場合は2行2列)、4組の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)をすべて含んだ描画用パターンP(E)を生成し、当該描画用パターンP(E)を描画するための描画データEを生成する処理を行う。
以上、図1に示す保存処理用コンピュータ100の個々の構成要素の処理機能を述べた。こうして生成された描画データEは、ビーム露光装置200に与えられる。ビーム露光装置200は、描画データEに基づいて、露光対象基板S上にビーム露光を行う装置であり、種々の電子デバイスの製造プロセスに利用される半導体フォトリソグラフィ用の電子線描画装置やレーザ描画装置を利用して構成することができる。ビーム露光装置200として電子線描画装置を用いた場合は、露光対象基板Sの表面上に電子線によって描画用パターンP(E)が描かれ、ビーム露光装置200としてレーザ描画装置を用いた場合は、露光対象基板Sの表面上にレーザビームによって描画用パターンP(E)が描かれる。
なお、図2には、説明の便宜上、ビット記録領域Abの輪郭線を破線で示し、単位記録領域Auの輪郭線を一点鎖線で示してあるが、これらの線は、描画用パターンP(E)の構成要素ではない。実際に露光対象基板S上に描かれる図形パターンは、個々のビットを表すビット図形(図示の例の場合、黒く塗りつぶした小さな正方形)と十文字状の位置合わせマークQである。
このように、描画データEは、ビーム露光装置200に与えて、露光対象基板S上に描画用パターンP(E)を描画させるために用いられるデータであるため、そのデータフォーマットは、用いるビーム露光装置200に依存したものにする必要がある。現在、一般的なLSI設計に用いられている電子線描画装置やレーザ描画装置を用いて任意の図形パターンを描画させる場合、当該図形パターンの輪郭線を示すベクトル形式の描画データが用いられている。したがって、実用上、描画データ生成部160は、個々のビット図形や位置合わせマークの輪郭線を示す描画データEを生成すればよい。
図3は、図2に示す単位記録用図形パターンR(U1)の拡大図である。図2では、ビット”1”を示すビット図形として、黒く塗りつぶした小さな正方形の例を示したが、図3に示す例では、個々のビット図形Fは、正方形の輪郭線を示すベクトルデータとして表現される。同様に、4隅に配置された位置合わせマークQ1〜Q4は、十文字状の輪郭線を示すベクトルデータとして表現される。ビーム露光装置200は、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4の輪郭線を示す描画データEに基づいて、当該輪郭線の内側部分に対してビーム露光を行う処理を行う。したがって、露光対象基板S上には、図2に示すように、黒く塗りつぶされた正方形や十文字状の図形パターンが形成されることになる。
図3には、等間隔で配置された横方向格子線X1〜X7と、等間隔で配置された縦方向格子線Y1〜Y7とが描かれている。これらの各格子線は、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4の配置位置を決定する役割を果たす。すなわち、横方向格子線X1〜X7と縦方向格子線Y1〜Y7との各交点を格子点Lと呼ぶことにすると、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4は、その中心がいずれかの格子点Lの位置にくるように配置されている。
たとえば、位置合わせマークQ1は、格子線X1,Y1が交わる格子点上に配置され、位置合わせマークQ2は、格子線X1,Y7が交わる格子点上に配置され、位置合わせマークQ3は、格子線X7,Y1が交わる格子点上に配置され、位置合わせマークQ4は、格子線X7,Y7が交わる格子点上に配置されている。
また、5本の横方向格子線X2〜X6と5本の縦方向格子線Y2〜Y6とがそれぞれ交わる25個の格子点は、図2の中段に示す5行5列の単位ビット行列B(U1)に対応し、この単位ビット行列B(U1)におけるビット”1”に対応する格子点位置に、ビット図形Fが配置されている(前述したとおり、ビット”0”に対応する格子点位置に、ビット図形Fを配置してもかまわない)。
一般論として説明すれば、単位ビット図形パターン生成部140は、m行n列からなる単位ビット行列B(Ui)を構成する個々のビットを、m行n列の行列状に配置された格子点Lに対応づけ、ビット”1”またはビット”0”に対応する格子点L上に所定形状のビット図形Fを配置することにより単位ビット図形パターンP(Ui)を生成する処理を行えばよい。
もちろん、実際の描画データEに含まれる図形、すなわち、描画用パターンP(E)に含まれる図形は、個々のビット図形Fと個々の位置合わせマークQ1〜Q4のみであり、図示されている各格子線X1〜X7,Y1〜Y7、ビット記録領域Abの輪郭線(破線)、単位記録領域Auの輪郭線(一点鎖線)は、実際には描画されない。
なお、描画データEには、露光対象基板S上に描画される描画用パターンP(E)の実寸を示す情報も含まれることになるが、この実寸は、用いるビーム露光装置200の描画精度を考慮して設定すればよい。
現在、一般的なLSI設計に用いられている高精度の電子線描画装置を用いたパターニング処理では、基板S上に40nm程度のサイズをもった図形を安定的に形成することができる。したがって、このような電子線描画装置をビーム露光装置200として用いれば、図示の格子線間隔(格子点Lのピッチ)を100nm程度に設定することが可能になり、一辺が50nm程度のビット図形Fを形成することが十分に可能である。このように微細な図形パターンを描画する場合、実際には、ビット図形Fは正確な正方形にはならず、位置合わせマークQ1〜Q4は正確な十文字にはならないが、実用上の支障は生じない。
そもそもビット図形Fは、格子点Lの位置に図形が有るか無いかの二値状態を判定する役割を果たせば足りるので、その形状は矩形でも、円でも、任意形状でもかまわない。また、位置合わせマークQ1〜Q4は、ビット記録領域Abの位置を示す役割を果たせば足りるので、その形状は、ビット図形Fと区別可能であれば、どのような形状であってもかまわない。したがって、40nm程度のサイズをもった図形を安定的に形成可能な性能をもった電子線描画装置を利用すれば、上述したように、縦横100nm程度のピッチでビット図形Fを配置することが可能であり、高い集積度をもった情報記録が可能になる。
一方、レーザ描画装置をビーム露光装置200として用いる場合、レーザビームのスポット径は使用するレーザ光の波長に依存し、その最小値は波長と同程度になる。たとえば、ArFエキシマレーザを用いた場合、スポット径は200nm程度であるため、電子線描画装置を利用した場合に比べれば、情報記録の集積度は若干低下するが、それでも、一般的な光学的記録媒体と同程度の集積度をもった情報記録が可能である。
図3に示す例の場合、単位ビット図形パターンP(U1)は、矩形状(正方形状)のビット記録領域Ab内に配置されたパターンになっており、これに位置合わせマークQ1〜Q4を付加することにより構成される単位記録用図形パターンR(U1)も、矩形状(正方形状)の単位記録領域Au内に配置されたパターンになっている。本発明を実施するにあたって、ビット記録領域Abや単位記録領域Auは、必ずしも矩形状の領域にする必要はないが、図2の下段に示すように、複数の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を並べて描画用パターンP(E)を生成することを考慮すると、ビット記録領域Abおよび単位記録領域Auを、いずれも矩形状の領域にしておくのが効率的である。
したがって、実用上は、単位ビット図形パターン生成部140が、矩形状のビット記録領域Ab内に配置された単位ビット図形パターンP(Ui)を生成し、単位記録用図形パターン生成部150が、この矩形状のビット記録領域Abの外部に位置合わせマークQ1〜Q4を付加することにより、ビット記録領域Abおよび位置合わせマークQ1〜Q4を包含する矩形状の単位記録領域Au内に配置された単位記録用図形パターンR(Ui)を生成するようにするのが好ましい。そうすれば、描画データ生成部160は、これら矩形状の単位記録領域Auを二次元行列状に配置することにより、複数の単位記録用図形パターンR(U1)〜R(U4)を含んだ描画用パターンP(E)を生成し、当該描画用パターンP(E)を描画するための描画データEを生成することができる。
単位記録領域Auのサイズは、任意に設定してかまわない。たとえば、図3に示す例の場合、一辺が50μmの正方形からなる単位記録領域Auを定義し、縦横100nm程度のピッチでビット図形Fを配置するようにすれば、1つの単位記録領域Au内に約30KBの情報を記録することができる。そこで、たとえば、一辺が150mm程度の正方形状の基板を情報記録媒体として用い、この基板上に、一辺が50μmの正方形からなる単位記録領域Auを二次元行列上に配置すれば、当該情報記録媒体1枚に270GBものデータを記録することができる。
<<< §2. 媒体上における物理的構造パターンの形成 >>>
ここでは、図1に示すビーム露光装置200による露光プロセスと、パターニング装置300によるパターニングプロセスとを、より詳細に説明する。§1で述べたとおり、ビーム露光装置200は、描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光を行う装置であり、パターニング装置300は、露光を受けた基板Sに対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターン(描画用パターンP(E))が形成された情報記録媒体を生成する装置である。
これらの装置は、実際には、LSIの製造プロセスで利用されている半導体リソグラフィ用の装置をそのまま転用することができる。別言すれば、ビーム露光装置200によるビーム露光プロセスや、パターニング装置300によるパターニングプロセスは、従来の一般的なLSIの製造プロセスをそのまま利用して実施することが可能である。ただ、LSIを製造する場合に用いる描画データは、たとえば、チャネル領域、ゲート領域、ソース領域、ドレイン領域、配線領域など、半導体素子の各領域を構成するための図形パターンを示すデータであるのに対して、本発明で用いられる描画データEは、データビット”1”もしくは”0”を示すビット図形Fと、読み出し時に用いる位置合わせマークQを構成するための図形パターンを示すデータということになる。
図4は、図1に示すビーム露光装置200による露光工程およびパターニング装置300によるパターニング工程の具体例を示す側断面図である(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)。まず、図4(a) に示すような露光対象基板Sを用意する。この例の場合、露光対象基板Sは、被成形層10とレジスト層20によって構成されている。なお、ここでは一層からなるレジスト層20を用いた例を示すが、後述するパターニング工程において必要となる場合には、二層以上からなるレジスト層を用いるようにしてもかまわない。また、レジストのような有機膜だけでなく、金属膜のような無機膜(エッチングストッパとして機能するいわゆるハードマスク)を併せて用いるようにしてもよい。
ここで、被成形層10は、パターニング工程において成形対象となる層であり、最終的には、デジタルデータが記録された情報記録媒体Mとなる部分である。既に述べたとおり、本発明の目的は、長期的な耐久性を維持する情報記録を可能とする点にあるので、被成形層10には、このような目的達成に適した材料からなる基板を利用すればよい。具体的には、透明な材料としては、ガラス基板、特に石英ガラス基板を被成形層10として用いるのが最適である。もちろん、シリコン基板のような不透明な材料を被成形層10として用いることも可能である。石英ガラス基板やシリコン基板といった無機材料は、物理的な損傷を受けにくく、化学的な汚染も受けにくい材質であり、本発明における情報記録媒体に利用するのに最適な材料である。
一方、レジスト層20としては、被成形層10に対するパターニングを行うのに適した材料を用いればよい。すなわち、電子線もしくはレーザビームの露光によって組成が変化し、かつ、被成形層10に対するエッチング工程において保護膜として機能する性質を有する材料を用いればよい。もちろん、現像時に露光部が溶解する性質をもったポジ型レジストを用いてもよいし、現像時に非露光部が溶解する性質をもったネガ型レジストを用いてもよい。
なお、露光対象基板Sの形状や大きさは任意でかまわない。現在、フォトマスクとして一般に用いられている石英ガラス基板は、152×152×6.35mmといった標準規格の矩形状の基板が用いられることが多い。また、シリコン基板としては、直径6インチ,8インチ,12インチなどの規格に応じた厚み1mm程度の円盤状ウエハが用いられることが多い。露光対象基板Sとしては、これらの標準的な基板を被成形層10として、その上面にレジスト層20を形成したものを用いればよい。
以下、説明の便宜上、被成形層10として石英ガラス基板を用い、レジスト層20としてポジ型レジストを用いた実施例を述べることにする。したがって、図4(a) に示す露光対象基板Sは、石英ガラス基板10上にポジ型レジスト層20を形成した基板ということになる。もちろん、本発明はこのような実施例に限定されるものではない。
結局、図1に示すビーム露光装置200は、被成形層10とこれを覆うレジスト層20とを有する露光対象基板Sに対して、レジスト層20の表面にビーム露光を行うことになる。図4(b) は、ビーム露光装置200による露光プロセスを示している。§1で述べたとおり、ビーム露光装置200による露光は、ビット図形Fの内部および位置合わせマークQの内部に対してのみ行われる。したがって、レジスト層20は、露光プロセスを経ることにより、露光部21と非露光部22とに分けられる。ここで、非露光部22の化学的組成は元のままであるが、露光部21の化学的組成は変化する。
パターニング装置300は、このような露光プロセスが完了した後の基板Sに対してパターニングを行う装置であり、図1に示すとおり、現像処理部310とエッチング処理部320とを有している。
現像処理部310は、レジスト層の露光部21(ポジ型レジストを用いた場合)または非露光部22(ネガ型レジストを用いた場合)を溶解する性質をもった現像液に、露光後の基板Sを含浸させてその一部を残存部とする現像処理を行う。図4(c) は、図4(b) に示す基板Sに対して、このような現像処理を施した状態を示している。ここに示す実施例では、ポジ型レジストが用いられているため、現像処理によって露光部21が現像液に溶解し、非露光部22が残存部23として残ることになる。
一方、エッチング処理部320は、現像後の基板Sに対してエッチング処理を行う。図4(c) に示す実施例の場合、残存部23をマスクとして被成形層10に対するエッチング処理が行われることになる。具体的には、図4(c) に示す基板Sを、被成形層10に対する腐食性が、レジスト層の残存部23に対する腐食性よりも強いエッチング液に含浸させればよい(もちろん、ドライエッチングなど、エッチング液に含浸させない方法を採用してもかまわない)。
図4(d) は、エッチング処理部320によるエッチング処理が行われた状態を示している。被成形層10の上面のうち、マスクとなる残存部23に覆われている部分は腐食を受けないが、露出している部分は腐食を受け、凹部が形成される。こうして、被成形層10は、上面に凹凸構造が形成された被成形層11に加工されることになる。エッチング処理部320は、この後、レジスト層の残存部23を剥離除去し、被成形層11を洗浄乾燥する処理機能を有している。
このようなプロセスを経て、最終的に図4(e) に示すような加工後の被成形層11が得られる。こうして得られた被成形層11が、本発明に係る情報保存装置によってデジタルデータが書き込まれた情報記録媒体Mに他ならない。図示のとおり、この情報記録媒体Mの上面には物理的な凹凸構造が形成されており、凹部Cと凸部Vとによって、ビット”1”およびビット”0”が表現されている。したがって、図に太い一点鎖線で示す位置(図3に示す格子点Lに対応する位置)について、媒体表面が凹部Cを構成しているか、凸部Vを構成しているかを検出することにより、ビット”1”およびビット”0”の読み出しが可能になる。
もちろん、図示の例とは逆に、凹部Cをビット”0”とし、凸部Vをビット”1”とする記録方式を採ることも可能である。いずれをビット”0”とし、いずれをビット”1”とするかは、これまで述べてきたプロセスに応じて定まる事項である。たとえば、§1で述べた例の場合、単位ビット図形パターン生成部140において、単位ビット行列のビット”1”に対応する格子点Lの位置にビット図形Fを配置しているが、逆に、ビット”0”に対応する格子点Lの位置にビット図形Fを配置するようにすれば、凹部と凸部のビット情報は逆転することになる。また、レジスト層20として、ポジ型レジストではなくネガ型レジストを用いた場合も、凹部と凸部の関係は逆転する。
こうして作成された情報記録媒体Mは、長期的な耐久性をもち、高い集積度をもって情報記録が行われており、しかも普遍的な方法で情報を読み出せる、という特徴を有している。
すなわち、被成形層10として、石英ガラス基板やシリコン基板のような材料を用いれば、従来の紙、フィルム、レコード盤などの情報記録媒体に比べて、経年変化による劣化や、水や熱の作用による損傷を受けにくく、古代の石盤などと同様に数百年といった半永久的な時間的尺度での耐久性が得られる。もちろん、コンピュータ用のデータ記録媒体として一般に利用されている磁気記録媒体、光学式記録媒体、半導体記録媒体などと比較しても、格段に長い期間にわたって耐久性が得られる。したがって、本発明は、たとえば、半永久的に情報を記録しておくことが望ましい公文書などの情報保存に利用するのに最適である。
また、§1で述べたとおり、ビーム露光装置200は、電子線またはレーザ光によって、微細な露光を行うことが可能なため、きわめて高い集積度をもって情報記録を行うことが可能である。たとえば、高精細な電子線描画装置を用いれば、ビット図形Fを100nm程度のピッチで書き込むことが可能であり、上述した標準的なサイズのフォトマスクやシリコン基板に、100GB〜1TB程度の容量をもった情報を保存することが可能になる。
更に、本発明に係る情報記録媒体では、ビットの二値情報が、凹凸等の物理的構造として直接記録されるため、普遍的な方法で情報を読み出せるという特徴をもっている。すなわち、前掲の特許文献1および2には、円柱上の石英ガラスを媒体として、その内部に三次元的に情報を記録する技術が開示されているが、媒体内に三次元的に記録された情報を読み出すためには、コンピュータトモグラフィ等を利用した専用の読出装置が必要になり、フーリエ変換処理などの特殊な演算処理が必要になる。したがって、たとえば、数百年後に円柱状の記録媒体が無傷のまま残っていたとしても、専用の読出装置の技術が継承されていなければ、情報を読み出すことはできない。
これに対して、本発明に係る情報保存装置で作成された情報記録媒体には、ビットの二値情報が物理的構造として直接記録されているので、記録面を何らかの方法で拡大して画像として認識することができれば、少なくともビットの情報自体は読み出すことが可能である。別言すれば、本発明に係る情報記録媒体それ自体は三次元の構造体であるが、ビット情報の記録はあくまでも二次元的に行われているため、本発明に係る情報記録媒体が、仮に、数百年後あるいは数千年後に発掘された場合でも、普遍的な方法によってビット情報を読み出すことが可能になる。
以上、本発明に係る情報保存装置によって、石英ガラス基板やシリコン基板の表面に、ビット”1”およびビット”0”のいずれか一方を示す凹部と他方を示す凸部とからなる凹凸構造を有する物理的構造パターンを形成する例を述べた。ただ、本発明を実施するにあたって、ビット情報を示す物理的構造は、必ずしも凹凸構造に限定されるものではない。そこで、図5の側断面図(切断面のみを示し、奥の構造の図示は省略する)を参照しながら、媒体上に物理的構造を形成する手法のバリエーションをいくつか述べておく、
図5(a) は、パターニング装置300によって、ビット”1”およびビット”0”のいずれか一方を示す貫通孔Hと他方を示す非孔部Nとからなる網状構造を有する物理的構造パターンを形成した例を示す側断面図である。図示の網状構造体12では、太い一点鎖線で示す位置が図3に示す格子点Lに対応する位置であり、当該位置が貫通孔Hになっているか、非孔部N(貫通孔が形成されていない部分)になっているか、によって、図示のとおりビット”1”およびビット”0”が表現されている。
このように、図5(a) に示す情報記録媒体の場合、凹凸構造ではなく、貫通孔の有無によってビットが表現されているため、媒体自体は網状構造体を構成することになるが、格子点Lの位置にビット情報を記録するという根本原理は、図4(e) に示す基本的な実施例と全く同様である。もちろん、貫通孔Hによりビット”0”を表現し、非孔部Nによりビット”1”を表現してもかまわない。図5(a) に示す網状構造体12を情報記録媒体Mとする場合は、エッチング処理部320によるエッチング工程(図4(d) )において、被成形層10の下面に達するまでエッチング処理を続けて貫通孔Hを形成すればよい。
一方、図5(b) 〜(d) は、図4(e) に示す情報記録媒体Mの凹部Cもしくは凸部Vまたはその双方の表面に付加層を形成した変形例を示す側断面図である。図5(b) に示す変形例の場合、凹部Cと凸部Vの双方の表面に付加層31が形成されており、図5(c) に示す変形例の場合、凸部Vの表面にのみ付加層32が形成されており、図5(d) に示す変形例の場合、凹部Cの表面にのみ付加層33が形成されている。
付加層31,32,33としては、光反射性の材料(たとえば、アルミニウム、ニッケル、チタン、銀、クロム、シリコン、モリブデン、白金などの金属、これらの金属の合金、酸化物、窒化物など)もしくは光吸収性の材料(たとえば、金属の酸化物や窒化物といった化合物からなる材料、クロムを例にとれば、酸化クロムや窒化クロムなど)を用いることができる。光反射性の材料からなる付加層を形成しておけば、読み出し時に反射光の振る舞いの相違に基づいて凹部Cと凸部Vとを区別することができ、光吸収性の材料からなる付加層を形成しておけば、読み出し時に光の吸収態様の相違に基づいて凹部Cと凸部Vとを区別することができる。したがって、このような付加層を形成すれば、情報の読み出しをより容易にする効果が得られる。
また、付加層のように明快な境界面を有する別層を形成する代わりに、凹部Cや凸部Vの表面に不純物をドープすることにより同様の効果を得ることもできる。たとえば、凹凸構造を有する情報記録媒体を石英によって構成し、その表面に、硼素、燐、ルビジウム、セレン、銅などをドーピングし、表面部分の不純物濃度を異ならせれば、付加層を設けた場合と同様に、表面部分に光反射性もしくは光吸収性をもたせることができ、情報の読み出しをより容易にする効果が得られる。具体的には、上例の不純物の場合、濃度が約100ppm以上になると紫外線に対する吸収効果が得られ、約1000ppm以上になると反射率が上昇する効果が得られる。
特に、図5(c) に示す例のように、凸部Vにのみ光反射性もしくは光吸収性の材料からなる付加層32を形成するようにすれば、読み出し時には、凹部Cから得られる反射光もしくは散乱光と、凸部Vから得られる反射光もしくは散乱光との差が顕著になるため、ビット”1”とビット”0”とを容易に識別可能になる。同様に、図5(d) に示す例のように、凹部Cにのみ光反射性もしくは光吸収性の材料からなる付加層33を形成するようにしても、読み出し時には、凹部Cから得られる反射光もしくは散乱光と、凸部Vから得られる反射光もしくは散乱光との差が顕著になるため、ビットの識別が容易になる。
図5(b) に示す例のように、凹部Cと凸部Vの双方の表面に付加層31を形成するには、エッチング処理により図4(e) に示す情報記録媒体Mを得た後、更に、記録媒体の上面全面に付加層31を堆積させる処理を行えばよい。また、図5(c) に示す例のように、凸部Vの表面のみに付加層32が形成された構造を得るには、図4(a) に示す露光対象基板Sの代わりに、被成形層10とレジスト層20との間に付加層が挟まれた構造を有する基板を用いればよい。そして、図5(d) に示す例のように、凹部Cの表面のみに付加層33が形成された構造を得るには、図4(d) に示すエッチングプロセスが完了した時点で、レジスト層の残存部23をそのまま残した状態にして、上面全面に付加層を堆積させる処理を行い、その後、残存部23を剥離除去すればよい。
一方、図5(e) に示す変形例は、支持層40の上面に形成された被成形層51自身を、光反射性もしくは光吸収性の材料によって構成したものである。たとえば、支持層40を石英ガラス基板によって構成し、その上面にアルミニウムからなる付加層を形成し、更にその上面にレジスト層を形成して、図4に例示したプロセスに準じたプロセスを行えば、図5(e) に示すような構造体を得ることができる。この場合、エッチングプロセスは、アルミニウムに対して腐食性を有する腐食液を用いればよい。この構造体では、凹部Cの表面は石英ガラス、凸部Vの表面はアルミニウムによって形成されているため、やはり読み出し時にビットの識別が容易になるという効果が得られる。
なお、実用上、図5(a) に示す変形例を採用する場合は、網状構造体12を不透明な材料によって構成するのが好ましい。そうすれば、貫通孔Hの部分は光を透過する部分となり、非孔部Nの部分は光を透過させない部分となるので、後述する読み出し時に顕著な差を認識することができ、ビットの識別が容易になる。
一方、図5(c) 〜(e) に示す変形例を採用する場合は、被成形層11もしくは支持層40を透明な材料によって構成し、付加層32,33,51を不透明な材料によって構成するのが好ましい。そうすれば、付加層が形成されていない部分は光を透過する部分となり、付加層が形成されている部分は光を透過させない部分となるので、後述する読み出し時に、光の透過率に関して顕著な差を認識することができ、ビットの識別が容易になる。
<<< §3. 本発明に係る情報読出装置の基本的実施形態 >>>
§1および§2では、情報記録媒体へ情報を保存するための情報保存装置の構成と動作を説明した。ここでは、こうして記録された情報を読み出すために用いられる情報読出装置の構成と動作を説明する。
図6は、本発明に係る情報読出装置の基本的実施形態の構成を示すブロック図である。この実施形態に係る情報読出装置は、図1に示す情報保存装置を用いて情報記録媒体Mに保存されたデジタルデータを読み出す機能を果たす装置であり、図示のとおり、画像撮影装置400と読出処理用コンピュータ500によって構成される。
ここで、画像撮影装置400は、情報記録媒体Mの記録面の一部をなす撮影対象領域を拡大して撮影し、得られた撮影画像を画像データとして取り込む構成要素であり、図示のとおり、撮像素子410、拡大光学系420、走査機構430を有している。
撮像素子410は、たとえば、CCDカメラによって構成することができ、所定の撮影対象領域内の画像をデジタル画像データとして取り込む機能を有している。拡大光学系420は、レンズなどの光学素子から構成され、情報記録媒体Mの記録面の一部分を構成する所定の撮影対象領域を拡大し、撮像素子410の撮像面に当該拡大画像を形成する役割を果たす。そして、走査機構430は、撮影対象領域が、情報記録媒体Mの記録面上を順次移動するように、撮像素子410や拡大光学系420に対して走査処理(位置や角度の変更)を行う役割を果たす。
図5には、情報記録媒体Mのバリエーションを示したが、図5(a) に示す網状構造体12からなる情報記録媒体Mであれば、材料の透明/不透明を問わず、上下いずれの面についても情報の読み出しが可能であり、上下いずれの面も記録面を構成することになる。これに対して、図4(e) および図5(b) 〜(e) に示すように、上面に凹凸構造が形成された情報記録媒体Mの場合、上面が記録面ということになる。したがって、被成形層11もしくは支持層40が透明な材料によって構成されている場合は、上方および下方のいずれの側から撮影しても情報の読み出しが可能であるが、これらが不透明な材料によって構成されている場合は、必ず上方から撮影する必要がある。
読出処理用コンピュータ500は、図示のとおり、撮影画像格納部510、ビット記録領域認識部520、単位ビット行列認識部530、走査制御部540、データ復元部550を有している。以下、これら各部の機能について順に説明を行う。もっとも、これら各部は、実際には、コンピュータに専用のプログラムを組み込むことにより実現される構成要素であり、読出処理用コンピュータ500は、汎用のコンピュータに専用のプログラムをインストールすることにより構成することができる。
まず、撮影画像格納部510は、画像撮影装置400によって撮影された撮影画像を格納する構成要素である。すなわち、撮像素子410によって撮影された所定の撮影対象領域内の画像をデジタル画像データとして格納する機能を有する。上述したとおり、画像撮影装置400には、走査機構430が設けられており、撮影対象領域は、情報記録媒体Mの記録面上を順次移動することになり、その都度、撮像素子410によって新たな撮影画像が取得される。撮影画像格納部510は、こうして撮像素子410から順次与えられる画像データをそれぞれ格納する機能を果たす。
一方、ビット記録領域認識部520は、撮影画像格納部510に格納されている撮影画像から、個々のビット記録領域Abを認識する処理を行う。本発明では、図2を参照して説明したとおり、保存対象となるデジタルデータDは複数の単位データU1,U2,U3,... に分割され、それぞれ単位ビット図形パターンP(U1),P(U2),P(U3),... として個々のビット記録領域Ab内に記録される。したがって、読出処理時にも、まず、個々のビット記録領域Abを認識した上で、その中に記録されている個々の単位ビット図形パターンP(Ui)に基づいて、単位データUiを構成する各ビットを読み出すことになる。
§2で述べたとおり、情報記録媒体Mの記録面上には、凹凸構造や貫通孔の有無などの物理的構造パターンとして、位置合わせマークQやビット図形Fが記録されている。このため、撮影画像上には、明暗分布として、これら位置合わせマークQやビット図形Fもしくはその輪郭が表現されていることになり、既存のパターン認識技術を利用することにより、撮影画像上で位置合わせマークQやビット図形Fを認識することが可能である。
まず、個々のビット記録領域Abの認識は、位置合わせマークQを検出することにより行われる。位置合わせマークQには、ビット図形Fとは異なる図形が用いられているため、ビット記録領域認識部520は、撮影画像格納部510に格納されている撮影画像内を検索することにより、位置合わせマークQを検出できる。たとえば、図2の下段に示す例の場合、ビット図形Fが正方形であるのに対して、位置合わせマークQは十文字状であるので、既存のパターン認識技術を利用することにより、撮影画像上で位置合わせマークQを認識し、その位置を決定することができる。
位置合わせマークQは、ビット記録領域Abに対して特定の位置に配置されているので、撮影画像上で位置合わせマークQを認識することができれば、ビット記録領域Abの位置を特定することができる。たとえば、撮影画像内に、図3に示すような単位記録用図形パターンR(U1)が含まれていた場合、4組の位置合わせマークQ1〜Q4を認識することができれば、これら4組の位置合わせマークQ1〜Q4を4隅近傍にもつ正方形状のビット記録領域Abを認識することができる。
画像撮影装置400が、少なくとも1つの単位記録領域Auを包含可能なサイズの撮影対象領域を撮影する機能を有していれば、撮影画像内を検索することにより、図3に示すような4組の位置合わせマークQ1〜Q4を認識することができ、更に、ビット記録領域Abを認識することができる。
もちろん、撮影対象領域が、互いに隣接する単位記録領域Auに股がった位置に設定されていると、同一のビット記録領域Abの位置を示す4組の位置合わせマークQ1〜Q4を正しく認識できない。この場合、ビット記録領域認識部520は、認識された位置合わせマークの相互関係に基づいて、撮影対象領域の位置ずれを把握することができるので、走査制御部540に対して当該位置ずれを報告する処理を行う。
走査制御部540は、このような位置ずれの報告を受けた場合、画像撮影装置400に対して当該位置ずれを調整する制御を行う。具体的には、撮影対象領域を所定の補正方向に所定の補正量だけ移動させるよう、走査機構430に対して指示を与える。このような調整を行えば、図3に示すように、4隅の適切な場所に、位置合わせマークQ1〜Q4が配置された正しい撮影画像を得ることができ、ビット記録領域Abに対して正しい読出処理を行うことができるようになる。このように、走査制御部540の第1の役割は、撮影対象領域が単位記録領域Auに対して位置ずれを生じていた場合に、この位置ずれを補正するための調整処理である。
走査制御部540の第2の役割は、1つの単位記録領域Auを撮影対象領域とする撮影が終了した後、次の単位記録領域Auを新たな撮影対象領域として設定する走査処理である。たとえば、図2の下段に示す例の場合、単位記録用図形パターンR(U1)が記録されている単位記録領域Au(U1)についての撮影が完了したら、続いて、単位記録用図形パターンR(U2)が記録されている単位記録領域Au(U2)についての撮影を行う必要があり、その後、更に、単位記録用図形パターンR(U3)が記録されている単位記録領域Au(U3)、単位記録用図形パターンR(U4)が記録されている単位記録領域Au(U4)と、順次、撮影対象領域を移動させてゆく必要がある。
結局、走査制御部540は、読出対象となるすべてのビット記録領域についての撮影画像が得られるように、画像撮影装置400による撮影対象領域を変更する制御を行う構成要素ということができる。当該制御は、ビット記録領域認識部520による位置合わせマークQの検出結果に基づくフィードバック制御によって行うことができ、位置ずれが生じた場合にも、上述したような微調整が可能である。
さて、ビット記録領域認識部520が、撮影画像から第i番目のビット記録領域Ab(i)を認識したら、この第i番目のビット記録領域Ab(i)の情報は単位ビット行列認識部530へ与えられる。単位ビット行列認識部530は、このビット記録領域Ab(i)内のパターンに基づいて、単位ビット行列を認識する処理を行う。たとえば、図3に示す例の場合、ビット記録領域Ab内に記録されている単位ビット図形パターンP(U1)に基づいて、図2の中段に示すような5行5列からなる単位ビット行列B(U1)を認識することができる。
図3に示す例の場合、§1で述べたとおり、等間隔で配置された横方向格子線X1〜X7と、等間隔で配置された縦方向格子線Y1〜Y7とが定義され、これらの各交点として格子点Lが定義され、個々のビット図形Fや位置合わせマークQ1〜Q4は、その中心がいずれかの格子点Lの位置にくるように配置されている。したがって、単位ビット行列認識部530による単位ビット行列B(U1)の認識処理は、次のような手順によって行うことが可能である。
まず、ビット記録領域認識部520によって認識された4組の位置合わせマークQ1〜Q4の中心点位置に基づいて、横方向格子線X1,X7と縦方向格子線Y1,Y7とを認識する。続いて、横方向格子線X1,X7の間を等分するように、横方向格子線X2〜X6を定義し、縦方向格子線Y1,Y7の間を等分するように、縦方向格子線Y2〜Y6を定義する。そして、横方向格子線X2〜X6と縦方向格子線Y2〜Y6とがそれぞれ交わる25個の格子点位置を決定し、これら各格子点位置に、ビット図形Fが存在するか否かを判定する処理を行えばよい。上述したように、ビット図形Fは、撮影画像上の明暗分布に基づいて認識することができるので、ビット図形Fが存在する格子点位置にはビット”1”を対応づけ、存在しない格子点位置にはビット”0”を対応づければ、図2の中段に示す5行5列の単位ビット行列B(U1)を得ることができる。
単位ビット行列認識部530は、こうして第i番目のビット記録領域Ab(i)内に記録されている第i番目の単位ビット図形パターンP(Ui)に基づいて、第i番目の単位ビット行列B(Ui)を認識する処理を行い、その結果を、データ復元部550に与える。単位ビット行列認識部530は、ビット記録領域認識部520によって認識されたすべてのビット記録領域について、同様の方法で単位ビット行列の認識処理を繰り返し実行することになる。
データ復元部550は、こうして単位ビット行列認識部530が認識した個々の単位ビット行列B(Ui)から単位データUiを生成し、個々の単位データUiを合成することにより、保存対象となったデジタルデータDを復元する処理を実行する。たとえば、図2に示す例の場合、4組の単位ビット行列B(U1)〜B(U4)から4組の単位データU1〜U4を生成し、これらを連結することにより、元のデジタルデータDが復元されることになる。
以上、図6のブロック図を参照しながら、本発明に係る情報読出装置の基本的実施形態を説明したが、本発明に係る情報保存装置によって作成された情報記録媒体Mからの情報の読み出しは、必ずしもこのような情報読出装置を用いて行う必要はない。たとえば、光学式測定器、走査型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などを用いて情報を読み出すことも可能である。
本発明に係る情報保存装置で作成された情報記録媒体Mは、前述したとおり、ビットの二値情報が物理的構造として直接記録されているという普遍性を有しているため、記録面を何らかの方法で拡大してビット図形Fの有無を示す画像を取得することができれば、ビット情報を読み出すことができる。したがって、当該情報記録媒体Mが、数百年後あるいは数千年後に発掘された場合でも、その時代に、何らかの物理的構造認識手段が存在すれば、ビット情報を読み出すことが可能である。もちろん、地中に埋もれた状態で保管されていた場合には、記録面に異物が付着して汚染されている可能性があるが、これらの異物は洗浄により容易に除去することが可能であり、情報の読み出しに支障は生じない。
いずれの読出方法を採用しても、情報記録面に対して非接触状態で読み出しが可能になるため(原子間力顕微鏡を用いた場合でも、ノンコンタクトモードを用いれば、非接触状態での読み出しが可能である)、読出処理時に記録面が物理的損傷を受けることがなく、読出処理を繰り返し実行したとしても、情報記録面が摩耗するおそれはない。
また、図6に示す情報読出装置を図1に示す情報保存装置と組み合わせれば、情報記録媒体Mの一部の記録済領域から情報を読み出しつつ、当該記録済領域に隣接した未記録領域に新たな情報保存を行うことも可能になる。したがって、1枚の情報記録媒体に、順次、新たな情報記録を行う追記式の情報保存装置を実現することも可能になる。もちろん、情報保存装置と情報読出装置とを組み合わせた装置を用いれば、情報保存装置を用いて媒体上に情報を書き込む保存処理を行った後、情報読出装置を用いて保存された情報の検証を行うこともでき、必要に応じて、修正を施すこともできる。
<<< §4. 位置合わせマークのバリエーション >>>
§3では、情報読出装置の基本的実施形態を説明した。そこで、ここでは、この情報読出時の便宜を考慮して、情報保存時に記録する位置合わせマークのバリエーションを述べておく。ビット図形Fが保存対象となる本来の情報を示す役割を果たすのに対して、位置合わせマークQは、情報読出時の位置決めに利用されるメタ情報ということになる。
これまで述べてきた実施形態では、単位記録用図形パターン生成部150が、たとえば図3に例示するように、矩形状のビット記録領域Abの4隅の外側に、それぞれ十文字状の位置合わせマークQ1〜Q4を付加することにより、単位記録用図形パターンを生成する処理を行っている。これらの位置合わせマークQ1〜Q4は、図6に示す情報読出装置におけるビット記録領域認識部520が、ビット記録領域Abを認識するための位置合わせに利用される。
しかしながら、これら位置合わせマークQの形状、配置位置、数は、上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、位置合わせマークQの形状は、ビット図形Fと区別可能な形状であれば任意の形状でかまわない。また、配置する位置は、必ずしもビット記録領域Abの4隅の外側に配置する必要はなく、たとえば、ビット記録領域Abの4辺の中央位置に配置してもかまわない。更に、位置合わせマークQの数も、必ずしも4組である必要はない。
図7は、本発明に用いる位置合わせマークQのバリエーションを示す平面図である。いずれも、破線の正方形はビット記録領域Ab(便宜上、内側には、ビット図形を描く代わりに斜線を施してある)を示し、一点鎖線の正方形は単位記録領域Auを示しており、両者の間に配置されている円形のマークが位置合わせマークQである。
図7(a) は、矩形状のビット記録領域Abの左上隅近傍および右上隅近傍に、位置合わせマークQ11およびQ12を配置した例である。この2組の位置合わせマークQ11,Q12の中心点を結ぶ方向を横方向座標軸Xと定義すれば、ビット記録領域Abの配置に関する一座標軸方向を示すことができる。読み出し時には、2組の位置合わせマークQ11,Q12に基づいて横方向座標軸Xを認識することができ、更に、この横方向座標軸Xに直交する軸として縦方向座標軸Yを定義することができるので、ビット記録領域Abが正しい矩形をしていれば、各ビットの読出処理に支障は生じない。このような観点からは、1つのビット記録領域Abについて、2組の位置合わせマークを付加しておけば、実用上、読出処理に支障は生じないことになる。
もちろん、ビット記録領域Abの左上隅近傍と左下隅近傍に、それぞれ位置合わせマークを配置して、縦方向座標軸Yを定義するようにしてもよい。要するに、単位記録用図形パターン生成部150は、矩形状のビット記録領域Abの4隅のうちの対角にない2隅の外側近傍に配置された合計2組の位置合わせマークを付加することにより、単位記録用図形パターンを生成すればよい。
一方、図7(b) は、矩形状のビット記録領域Abの4隅のうちの3隅の外側近傍に配置された合計3組の位置合わせマークQ21,Q22,Q23を付加することにより、単位記録用図形パターンを生成した例である。このように3組の位置合わせマークQ21,Q22,Q23を用いれば、図示のように横方向座標軸Xと縦方向座標軸Yとの双方を定義することができ、各ビットの読出処理の精度を更に高めることが可能である。
このように3組の位置合わせマークを用いる場合は、図8に示す例のように、相互に隣接する単位記録用図形パターンについて、3組の位置合わせマークの配置態様を異ならせるようにするのが好ましい。図8には、複数の単位記録領域Auを二次元行列状に配置した状態が示されている。ここで、単位記録領域Au(11),Au(13),Au(22),Au(31),Au(33)については、図7(b) に示す配置態様(すなわち、右下隅だけ欠けている配置態様)で3組の位置合わせマークが配置されているが、単位記録領域Au(12),Au(21),Au(23),Au(32)については、図7(b) に示す配置態様とは左右逆転させた配置態様(すなわち、左下隅だけ欠けている配置態様)で3組の位置合わせマークが配置されている。
要するに、単位記録領域Auの配列について、行番号i(i=1,2,3,... )と列番号j(j=1,2,3,... )を定義して、個々の単位記録領域を、図示のとおりAu(ij)と表現した場合に、(i+j)が偶数になる第1のグループについては、図7(b) に示すように、右下隅だけ位置合わせマークが欠けている配置態様を採用し、(i+j)が奇数になる第2のグループについては、図7(b) を左右逆転させたように、左下隅だけ位置合わせマークが欠けている配置態様を採用している。
このように、3組の位置合わせマークの配置態様として2通りの態様を定義し、上下もしくは左右に隣接する単位記録用図形パターンについて、互いに異なる配置態様を採用するようにすれば、走査制御部540が撮影対象領域の走査を行う際に、隣接する単位記録領域についての撮影をスキップさせてしまう誤りを防ぐことができる。
たとえば、図8に示す例において、走査制御部540が、まず、単位記録領域Au(11)を撮影対象領域として撮影し、続いて、撮影対象領域を図の右方向に移動させ、右に隣接する単位記録領域Au(12)を撮影対象領域とする制御を行ったとしよう。通常、単位記録領域Auのピッチに相当する距離だけ移動させる制御を行えば、次の撮影対象領域を単位記録領域Au(12)の位置へもってゆくことが可能である。ところが、何らかの事情により移動距離に誤差が生じ、撮影対象領域が単位記録領域Au(13)の位置まで移動してしまった場合、単位記録領域Au(12)に対する読出処理はスキップされてしまうことになる。
図8に示すような配置態様を採用しておけば、このような事態が生じても、誤りであることを検出できる。すなわち、単位記録領域Au(11)を撮影した後、単位記録領域Au(12)の撮影をスキップして単位記録領域Au(13)の撮影が行われたとすると、位置合わせマークの配置態様が同じになるため、単位記録領域Au(12)がスキップされてしまったことを認識できる。そこで、撮影対象領域を図の左方向へと戻す処理を行い、単位記録領域Au(12)の撮影が行われるような修正を行うことができる。縦方向に関するスキップが生じた場合も同様の修正が可能である。
このようなスキップが生じたことを認識させるための方法としては、2通りの配置態様を用意しておく方法の他、位置合わせマークの形状を変える方法を採ることも可能である。たとえば、図9(a) ,(b) には、位置合わせマークの形状を変えたバリエーションの一例が示されている。図9(a) に示す例の場合、十文字状のマークQ31、三角形のマークQ32、四角形のマークQ33が、図示の位置に配置されているのに対して、図9(b) に示す例の場合、円形のマークQ41、菱形のマークQ42、×印のマークQ43が、図示の位置に配置されている。このような2通りの位置合わせマークを縦横交互に用いるようにすれば、図8に示す例と同様に、スキップが生じたことを認識することができる。
図10は、本発明おける位置合わせマークの配置形態の更に別なバリエーションを示す平面図である。このバリエーションは、図8に示す例における単位記録領域Au(11)についての位置合わせマークを、図9(a) に示す位置合わせマークに変更したものである。すなわち、二次元行列状に配置された複数の単位記録領域Auのうち、第1行第1列目に配置されている単位記録領域Au(11)のみ、用いる位置合わせマークの形状が異なっている。これは、第1行第1列目に配置されている単位記録領域Au(11)を、最初に読み出すべき基準単位記録領域として設定しておき、読出処理時には、この基準単位記録領域を容易に識別できるようにするための配慮である。
この図10に示すバリエーションを採用する場合、単位記録用図形パターン生成部150は、特定の単位記録領域を基準単位記録領域に設定し、当該基準単位記録領域については、他の単位記録領域とは異なる基準位置合わせマークを用いた単位記録用図形パターンを生成するようにすればよい。図示の例の場合、基準単位記録領域Au(11)については、図9(a) に示す基準位置合わせマークが用いられ、その他の単位記録領域については、図8に示す通常の位置合わせマークが用いられているため、読出処理時には、まず、図9(a) に示す基準位置合わせマークを探索する処理を行うことにより、最初に読み出すべき基準単位記録領域Au(11)を特定することができる。
すなわち、図6に示す情報読出装置における画像撮影装置400が、少なくとも1つの単位記録領域Auを包含可能なサイズの撮影対象領域を撮影する機能を有していれば、図9(a) に示す基準位置合わせマークを探索することが可能になるので、走査制御部540は、まず、図9(a) に示す基準位置合わせマークに基づいて基準単位記録領域Au(11)を包含する領域の撮影画像が得られるように、画像撮影装置400に対して撮影対象領域を調整させる制御を行えばよい。こうして、基準単位記録領域Au(11)内のビット記録領域Ab(11)から正しいビット情報の読み出しが完了したら、走査制御部540によって、単位記録領域Auの配置ピッチに応じて、撮影対象領域を順次移動させる制御を行うようにすればよい。
もちろん、この場合も、図8を参照して説明したように、何らかの事情により単位記録領域Au(13)がスキップされる誤りが生じても、当該誤りを認識して修正することができる。また、微細な位置ずれが生じていた場合にも、微調整することができる。
また、基準単位記録領域Au(11)を示す方法として、他の単位記録領域とは異なる基準位置合わせマークを用いる方法を採る代わりに、基準単位記録領域Au(11)内のビット記録領域Ab(11)に、ビット図形Fを配置せずに特有の識別マークを配置する方法を採ることも可能である。ビット記録領域Abは、本来はビット図形Fを配置して保存対象となるデータを記録するために用いられる領域であるが、基準単位記録領域についてのみ、特有の識別マークを配置するようにすれば、当該特有の識別マークを確認することにより、基準単位記録領域を容易に認識することができる。
たとえば、図8に示す領域Au(11)内に、大きな星印を描画しておけば、当該領域Au(11)が基準単位記録領域であることを容易に認識することができる。この場合、領域Au(11)内には、本来の情報は記録されていないが、まず、基準単位記録領域Au(11)を最初の撮影対象領域とする位置調整を行った後、撮影対象領域を順次移動させる走査を行うようにすればよい。基準単位記録領域Auのサイズが目視しうるサイズであれば、上例の場合、星印を目視確認することも可能であり、基準単位記録領域Au(11)を最初の撮影対象領域とする位置合わせを、オペレータの目視による手動操作で行うことも可能になる。
<<< §5. 本発明に係る情報保存方法および情報読出方法 >>>
最後に、本発明を情報保存方法および情報読出方法という方法発明として把握した場合の基本的な処理手順を説明しておく。
図11は、本発明に係る情報保存方法の基本処理手順を示す流れ図である。この手順は、デジタルデータを情報記録媒体に書き込んで保存する情報保存方法の実行手順であり、ステップS11〜S16は、図1に示す保存処理用コンピュータ100によって実行される手順であり、ステップS17は、図1に示すビーム露光装置200によって実行される手順であり、ステップS18は、図1に示すパターニング装置300によって実行される手順である。
まず、ステップS11では、保存処理用コンピュータ100が、保存対象となるデジタルデータDを入力するデータ入力段階が実行される。続くステップS12では、保存処理用コンピュータ100が、当該デジタルデータDを、所定のビット長単位で分割することにより、複数の単位データUiを生成する単位データ生成段階が実行される。そして、ステップS13では、保存処理用コンピュータ100が、個々の単位データUiを構成するデータビットを二次元行列状に配置することにより、単位ビット行列B(Ui)を生成する単位ビット行列生成段階が実行され、ステップS14では、保存処理用コンピュータ100が、単位ビット行列B(Ui)を、所定のビット記録領域Ab内に配置された幾何学的なパターンに変換することにより単位ビット図形パターンP(Ui)を生成する単位ビット図形パターン生成段階が実行される。
続いて、ステップS15では、保存処理用コンピュータ100が、単位ビット図形パターンP(Ui)に位置合わせマークQを付加することにより、単位記録用図形パターンR(Ui)を生成する単位記録用図形パターン生成段階が実行される。そして、ステップS16では、保存処理用コンピュータ100が、単位記録用図形パターンR(Ui)を描画するための描画データEを生成する描画データ生成段階が実行される。
そして最後に、ステップS17において、描画データEに基づいて、情報記録媒体となる基板S上に、電子線またはレーザ光を用いたビーム露光を行うビーム露光段階が実行され、ステップS18において、露光を受けた基板に対してパターニング処理を行うことにより、描画データEに応じた物理的構造パターンが形成された情報記録媒体Mを生成するパターニング段階が実行される。
これに対して、図12は、本発明に係る情報読出方法の基本処理手順を示す流れ図である。この手順は、図11に示す手順により情報記録媒体Mに保存されたデジタルデータを読み出す情報読出方法の実行手順であり、ステップS21は、図6に示す画像撮影装置400によって実行される手順であり、ステップS22〜S27は、図6に示す読出処理用コンピュータ500によって実行される手順である。
まず、ステップS21では、画像撮影装置400を用いて、情報記録媒体Mの記録面の一部をなす撮影対象領域を拡大して撮影し、得られた撮影画像を画像データとして取り込む画像撮影段階が実行される。そして、ステップS22では、読出処理用コンピュータ500が、撮影画像を格納する撮影画像格納段階が実行され、ステップS23では、読出処理用コンピュータ500が、撮影画像格納段階で格納された撮影画像から位置合わせマークを検出することにより、個々のビット記録領域Abを認識するビット記録領域認識段階が実行される。
このビット記録領域認識段階において、ビット記録領域Abの認識に成功した場合には、ステップS24を経てステップS25へ進むことになるが、ビット記録領域Abの認識に失敗した場合、すなわち、撮影時に位置ずれが生じており、撮影画像内に完全なビット記録領域Abが含まれていない場合には、ステップS21へ戻り、再び画像撮影段階が実行される。このとき、正しい撮影画像が得られるように、画像撮影装置による撮影対象領域を変更する処理が行われることになる。
ステップS25では、読出処理用コンピュータ500が、ビット記録領域Ab内のパターンに基づいて単位ビット行列B(Ui)を認識する単位ビット行列認識段階が実行される。このような処理が、ステップS26を介して、全必要領域についての認識が完了するまで繰り返し実行される。すなわち、読出処理用コンピュータ500によって、読出対象となるすべてのビット記録領域Abについての撮影画像が得られるように、画像撮影装置による撮影対象領域を変更する制御を行いつつ、ステップS21の画像撮影段階からの一連の処理が繰り返されることになる。
最後に、ステップS27において、読出処理用コンピュータ500が、ステップS25の単位ビット行列認識段階で認識した個々の単位ビット行列B(Ui)から単位データUiを生成し、個々の単位データUiを合成することにより、保存対象となったデジタルデータDを復元するデータ復元段階が実行される。