JP2016010769A - 流動層触媒の製造方法およびニトリル化合物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
従来、酸化反応およびアンモ酸化反応に用いられる触媒に関しては多くの検討がなされて、これまでに種々の触媒が提案されている。例えば、特許文献1にはアンチモンと鉄、コバルト、ニッケルよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素との複合酸化物触媒が開示されている。その後も触媒の改良検討は精力的に行われており、例えば、特許文献2〜11には鉄、アンチモンにテルル、バナジウム、タングステン、モリブデン、リン等を添加した触媒が開示されている。
さらに触媒調製法の改良によって目的生成物収率を向上させる検討も続けられている。
例えば、特許文献12〜17にはアンチモンと多価金属化合物を含むスラリーのpHを調整する方法やスラリーを加熱処理する方法等が開示されている。
本発明は、高収率で目的生成物を製造できる鉄およびアンチモン含有流動層触媒の製造方法を提供することを目的とする。また流動層を用いたアンモ酸化反応にて、高収率でニトリル化合物を製造できる方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、鉄およびアンチモン成分の原料を含む溶液またはスラリーを調製する工程、前記溶液またはスラリーのpHを0.5〜3.0に調整するpH調整工程、pH調整後の溶液またはスラリーを60℃以上で加熱する加熱処理工程、加熱処理後の溶液またはスラリーのpHを少なくとも一度2.0〜3.0に調整する再pH調整工程、再pH調整後の溶液またはスラリーを60℃以上で加熱処理する再加熱処理工程、および再加熱処理後の溶液またはスラリーを乾燥・焼成する焼成工程を含む、鉄およびアンチモンを含有する流動層触媒の製造方法である。
また本発明は、アンチモン成分の原料が3価のアンチモンを含むことが好ましい。
また本発明は、加熱処理工程、および再加熱処理工程での総加熱時間を0.5〜10時間とすることが好ましい。
さらに本発明は、前記の製造方法により製造された流動層触媒を用いるニトリル化合物の製造方法である。
[流動層触媒の製造方法]
本発明の鉄およびアンチモン含有流動層触媒の製造方法は、鉄およびアンチモン成分の原料を含む溶液またはスラリーを調製する工程、前記溶液またはスラリーのpHを0.5〜3.0に調整するpH調整工程、pH調整後の溶液またはスラリーを60℃以上で加熱する加熱処理工程、加熱処理後の溶液またはスラリーのpHを少なくとも一度2.0〜3.0に調整する再pH調整工程、再pH調整後の溶液またはスラリーを60℃以上で加熱処理する再加熱処理工程、および再加熱処理後の溶液またはスラリーを乾燥・焼成する焼成工程を含むこと特徴とする。
以下、各工程について説明する。
(溶液またはスラリーの調整工程)
先ず、少なくとも鉄およびアンチモン成分の原料を媒体中で混合し、溶液またはスラリーを調製した後、溶液またはスラリーのpHを0.5〜3.0に調整する。なお、前記原料は単体でも混合物でもよい。
鉄成分の原料としては、特に限定されず、酸化第一鉄、酸化第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、硫酸鉄、塩化鉄、鉄有機酸塩および水酸化鉄等を用いることができるほか、金属鉄を加熱した硝酸に溶解してもよい。
アンチモン成分の原料については特に限定されないが、3価のアンチモン化合物が好ましい。例えばアンチモン金属の硝酸酸化物、硝酸アンチモン、塩基性硝酸アンチモン、三ハロゲン化アンチモン、オキシハロゲン化アンチモン、および三酸化アンチモンなどを用いることができる。
少なくとも鉄およびアンチモン成分の原料を混合する媒体としては水性媒体が好ましい。水性媒体としては、水や硝酸を用いることができる。鉄およびアンチモン成分の原料が当該水性媒体中で溶解あるいは高分散化することができるため、水性媒体としては硝酸を用いることが好ましい。
前記の少なくとも鉄およびアンチモン成分の原料を含む溶液またはスラリー中には鉄とアンチモン以外の成分を含有する物質を含んでいても良い。
(pH調整工程)
このようにして得られた鉄およびアンチモン成分の原料を含む溶液またはスラリーのpHを0.5〜3.0の範囲に調整する。pHは0.8以上が好ましく、また2.7以下が好ましい。このpH調整を「1度目のpH調整」と称する。
揮発性の塩基としては、アンモニア(ガス状または水溶液)、有機アミン類(例えばメチルアミン、エチルアミン、メタノールアミン、アニリンなど)、ピリジン類、キノリン類などが挙げられ、これらの中では、後工程における除去のしやすさからガス状アンモニアまたはアンモニア水が好ましい。
1度目のpH調整で得られた溶液またはスラリーのpHが0.5より低い場合には、引き続く加熱処理工程での鉄成分とアンチモン成分の反応速度が著しく低下し、後述の2度目以降のpH調整直前の溶液またはスラリーにおける遊離の鉄イオン量が増加し、最終的に得られる触媒の性能は低く、得られた触媒を使用した際に得られる目的生成物の収率の向上効果は得られない。
スラリーのpHが3.0以下であれば、鉄が水酸化鉄として沈殿することがなく、引き続く加熱処理工程で鉄成分とアンチモン成分との反応が正常に起こるので、最終的に得られる触媒の性能は高くでき、得られた触媒を使用した際に得られる目的生成物収率は高くできる。なお、pHは測定温度が異なると一般に異なる値を示すので、本発明におけるpHはスラリーまたは溶液を40℃にて測定したものである。
(加熱処理工程)
続いて、pH調整後の溶液またはスラリーを60℃以上に昇温し加熱処理を行う。
加熱処理温度は70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。温度が60℃よりも高くすることでアンチモン成分の酸化反応が進行し、反応速度が適切となる。アンチモン成分の酸化反応が十分に進行しないと、得られる触媒の活性や目的生成物の選択率が低下するとともに触媒の粒子強度も低下し、流動層触媒としての使用が困難となる。
加熱処理温度は、pH調整後の溶液またはスラリーの常圧における沸点以下、例えば120℃以下が好ましい。必要により、加圧下120℃以上の温度で処理を行うこともできる。
加熱処理工程の途中において、一時的に加熱処理温度からの降温を行い、溶液またはスラリーの温度が60℃以下となることがあってもよい。また、加熱処理工程の途中において、加熱処理温度を異なる温度に変更しても差し支えない。
(再pH調整工程)
加熱処理工程では3価のアンチモンから5価のアンチモンへの酸化反応、遊離の鉄イオンの量的変化などの諸反応の進行に伴い溶液またはスラリーのpHは低下していく。そこで前記加熱処理工程の後に、溶液またはスラリーのpHを少なくとも一度2.0〜3.0に再度調整を行う。以下、これを「N度目のpH調整」と称する。ここでNは2以上の自然数である。
再pH調整はpH調節剤を添加して行う。pH調節剤の添加は、溶液またはスラリーの温度を加熱処理温度から降温して行っても良いし、加熱処理温度のまま行っても良いが、生産性の観点から加熱処理温度のままpH調節剤の添加を行うことが好ましい。
溶液またはスラリーへのpH調節剤の添加の際には、局所的にpHが増大しないように、溶液またはスラリーの攪拌を十分に行った状態で添加することが好ましい。
pH調節剤は加熱処理工程の後、一度だけ添加しpHの再調整を行っても良いし、複数回行っても良い。すなわち、2度目のpH調整のみ行っても良いし、2度目のpH調整後に溶液またはスラリーのpHが低下してきた段階で、同様にして3度目のpH調整を行っても良い。同様にして、(N−1)度目のpH調整後の溶液またはスラリーのpHが低下してきた段階でN度目のpH調整を行っても良い。
pH調節剤を添加するタイミングは加熱処理工程後であるならば特に限定されないが、pH調節剤を添加する前の加熱処理時間が短すぎる場合には、鉄成分とアンチモン成分の反応がほとんど進行せず本発明の効果が得られない場合があるため、少なくとも60℃以上の温度を5分間以上保持した後にpH調節剤を添加することが好ましい。
特に2度目のpH調整においては、1度目のpH調整で少なくとも鉄およびアンチモン成分の原料を含む溶液またはスラリーのpHを2.0〜3.0に調整した場合にはpHが1.0〜2.0になるまで、同じくpHを1.6〜2.0に調整した場合にはpHが1.0〜1.5になるまで、同じくpHを0.5〜1.6に調整した場合にはpHが(1度目のpH調整での調整pH−0.1)以下となるまで加熱処理を行った後に2度目のpH調整を実施することが好ましい。
また、N度目のpH調整(Nは3以上の自然数)を実施する場合には、少なくとも鉄およびアンチモン成分の原料を含む溶液またはスラリーのpHが1.0〜2.0になるまで加熱処理を行った後にN度目のpH調整を実施することが好ましい。
pH調節剤としては揮発性の塩基が使用されうる。アンモニア(ガス状または水溶液)、有機アミン類(例えばメチルアミン、エチルアミン、メタノールアミン、エタノールアミン、アニリンなど)、ピリジン類、キノリン類などが挙げられ、これらの中でガス状アンモニアまたはアンモニア水が好ましい。
pH調節剤の添加量は、pH調節剤添加時の溶液またはスラリーのpH、pH調節剤の添加速度、加熱処理温度等によって変化するが、pH調節剤添加後の再調整したpHが2.0〜3.0となるように添加する。再調整したpHは2.2以上が好ましく、また2.8以下が好ましい。pH調節剤の添加量が少なく再調整したpHが2.0より低い場合には、製造された触媒を使用しても目的生成物の収率向上効果がほとんど得られない。また、pH調節剤の添加量が多すぎて再調整したpHが3.0を超えた場合には、水酸化鉄の沈殿が生成し、溶液またはスラリー中で鉄とアンチモンとの反応が進まずに、最終的に得られる触媒を使用した際に得られる目的生成物の収率はむしろ低下してしまう。
なお、「再調整したpH」とは、pH調節剤を添加完了後、5分間溶液またはスラリーを攪拌した後の溶液またはスラリーの測定温度40℃でのpHである。
(再加熱処理工程)
本発明の再加熱処理工程では、鉄およびアンチモン成分の原料を含む溶液またはスラリー60℃以上で再度加熱する。
前述したように加熱処理工程で、溶液またはスラリーを60℃以上で加熱処理を行うと、3価のアンチモンから5価のアンチモンへの酸化反応、遊離の鉄イオンの量的変化等の諸反応が起こり、溶液またはスラリーのpHは低下していく。本発明の再加熱処理工程でも、60℃以上で再度加熱すると、溶液またはスラリーのpHは低下する。
前記加熱処理工程、および再加熱処理工程での総加熱時間は特に制限されないが、総加熱処理時間が短すぎる場合には三酸化アンチモンの酸化反応が完結せず、得られる触媒の物性や活性が不良となる恐れがあるため0.5時間以上とするのが好ましく、1時間以上とするのがより好ましい。前記総加熱時間は、必要以上に長時間の処理を行っても得られる触媒の性能は向上しないことから、10時間以下とするのが好ましい。
本発明の製造方法により製造した触媒を使用した場合に目的生成物収率が向上する反応メカニズムについては現在のところ明らかではないが、前記の各工程を経ることにより、溶液またはスラリー中で、アンチモンの酸化反応の促進、遊離の鉄イオンの減少等が起こり、ニトリル化合物生成に適したアンチモン酸鉄の前駆体構造の形成が促進されるためと推定している。
なお、工程(2)の後の溶液またはスラリーに、流動層触媒を構成する各成分の原料を添加しても良い。
(乾燥・焼成工程)
次に、再加熱処理工程の後の溶液またはスラリーを乾燥する。これにより、乾燥物(触媒前駆体)を得る。乾燥方法については特に制限はなく、公知の方法から適宜選択して用いることができるが、本発明の触媒製造方法により製造される触媒は、流動層触媒として用いるのが好適であり、その場合には噴霧乾燥により球状の粒子とすることが好ましい。噴霧乾燥の際には、加圧ノズル式、二流体ノズル式、回転円盤式などの噴霧乾燥器を用いることができる。
噴霧乾燥に際して、噴霧乾燥機の乾燥室内に流通させる熱風の温度として、乾燥室内への導入口付近(以下、「乾燥機入口」という。)における温度は、130℃以上が好ましく、140℃がより好ましく、また400℃以下が好ましく、380℃以下がより好ましい。また、乾燥室出口付近(以下、「乾燥機出口」という。)における温度は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。また250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましい。更には、乾燥機入口における温度と乾燥機出口における温度との差が、20〜250℃に保たれていることが好ましく、30〜230℃に保たれていることがより好ましい。
次に、前記乾燥物(触媒前駆体)を焼成し、鉄およびアンチモン含有流動層触媒を得る。この焼成により、望ましい触媒構造が形成され、触媒としての活性が発現する。
焼成を2回以上に分けて行う場合、最後に実施する焼成を最終焼成、最終焼成に先立って実施する各焼成を仮焼成とすると、最終焼成の温度は550℃以上が好ましく、570℃以上がより好ましい。また前記温度は1100℃以下が好ましく、1000℃以下がより好ましい。最終焼成温度が低すぎる場合には、十分な触媒性能が発現せず、目的生成物収率が低下するおそれがある。逆に高すぎる場合には、目的生成物収率や触媒の活性が低下するおそれがある。また、アンモ酸化反応においてはアンモニア燃焼性が著しく増大し、アンモニア原単位が低下する場合があり好ましくない。
最終焼成の時間は、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。最終焼成時間が短すぎる場合には、十分な触媒性能が発現せず、目的生成物収率が低下するおそれがある。最終焼成時間の上限は特に制限はないが、必要以上に時間を延長しても得られる効果は一定以上とはならないため、20時間以下が好ましい。
一方、仮焼成の温度は160℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。また仮焼成の温度は520℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましい。また、仮焼成の温度は、最終焼成の温度よりも100〜400℃低い温度とするのが好ましい。
最終焼成および仮焼成には汎用の焼成炉を用いることができる。本発明の製造方法により製造される触媒は流動層触媒であることから、ロータリーキルン、流動焼成炉等が特に好ましく用いられる。
また、最終焼成および仮焼成の際に用いるガス雰囲気は、酸素を含んだ酸化性ガス雰囲気でも、例えば窒素等の不活性ガス雰囲気でもよいが、空気を用いるのが便利である。
このようして得られる触媒の平均粒径は5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましい。得られる触媒の粒子径分布を所望の範囲とするためには、前記の乾燥の条件を適宜調整すればよい。なお、触媒の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定される値(平均メディアン径)である。
(流動層触媒の組成)
本発明の製造方法により製造される流動層触媒は、鉄およびアンチモンを含有するものであれば特に限定されないが、下記一般式(1)で示される組成であることが好ましい。
前記一般式(1)中、Fe、Sb、Te、OおよびSiO2はそれぞれ鉄、アンチモン、テルル、酸素およびシリカを表し、Aはバナジウム、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Dはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、リン、ヒ素およびビスマスからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素、Eはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素を表す。
本発明の製造方法により製造される流動層触媒の組成が前記一般式(1)の範囲内にある場合には、目的生成物収率が向上したり、得られる触媒の性状が向上するなど、本発明の効果が十分に発現されやすい。
触媒組成を前記一般式(1)の範囲内とするためには、例えば、混合スラリーを調製する際の触媒原料の添加量を適宜選択する方法や、混合スラリーの調製から焼成までの工程で添加する原料の添加量を適宜選択する方法などが挙げられる。また、乾燥後の触媒に触媒原料を含浸する方法により触媒を製造する場合には、含浸させる触媒原料の添加量を適宜選択すればよい。
触媒の組成は、ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分析法、蛍光X線分析法、原子吸光分析法等により元素分析を行うことにより確認できる。著しく揮発性の高い元素を用いない場合には、触媒製造時に用いた各原料の仕込み量から組成を算出してもよい。
以上説明したように、本発明によれば、触媒製造工程中、少なくとも鉄およびアンチモン成分の原料を含む溶液またはスラリーの60℃以上の加熱処理工程の途中で、pH調節剤を添加し溶液またはスラリーのpHを2.0〜3.0に再度調整することにより、高収率で目的生成物を製造できる触媒が得られる。
本発明の製造方法により製造される流動層触媒は、流動層を用いる反応、例えば、有機化合物のアンモ酸化反応によるニトリル類等の製造に好適に利用できる。アンモ酸化反応の中でもプロピレンのアンモ酸化反応によるアクリロニトリルの製造並びにメタノールのアンモ酸化反応によるシアン化水素の製造に好適である。特にアクリロニトリルの製造に用いた場合に、高いアクリロニトリル収率が得られる。
(ニトリル化合物の製造方法)
本発明のニトリル化合物の製造方法は、本発明の製造方法により製造された流動層触媒を用いる。前記触媒の存在下、流動層にて有機化合物をアンモ酸化してニトリル化合物を製造する方法が好ましい。
原料ガスとしては、有機化合物/アンモニア/酸素が1/1.0〜2.0/1.0〜5.0(モル比)の範囲の原料ガスが好ましい。
酸素源としては空気を用いるのが便利である。原料ガスは水蒸気、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスや、飽和炭化水素等で希釈して用いてもよく、また酸素濃度を高めて用いてもよい。
下記の実施例および比較例中の「部」は質量部を意味する。
なお、実施例および比較例において、触媒製造に使用したアンモニア、アンモニウム根、硝酸および硝酸根は乾燥、焼成工程ですべて分解・揮発するものとし、触媒の製造に用いた各原料の仕込み量から触媒の組成を求めた。また以下の実施例および比較例における溶液またはスラリーのpHは、サンプリングした液またはスラリーを40℃において測定した値である。
(触媒活性試験法)
触媒の活性を評価するため、下記の要領でプロピレンのアンモ酸化反応によるアクリロニトリルの製造を行った。
酸素源として空気を用い、組成がプロピレン:アンモニア:酸素=1:1.1:2.3(モル比)である原料ガスを、ガス線速度17cm/秒で触媒層に送入した。反応圧力は200kPa、反応温度は460℃とした。
アクリロニトリル収率(%)=(生成したアクリロニトリルの炭素質量/供給したプロピレンの炭素質量)×100
(実施例1)
以下の手順にて触媒を調製した。
63質量%の硝酸3600部に銅粉末139.2部を溶解した。この溶液に純水3500部を添加してから60℃に加熱し、電解鉄粉305.5部、テルル粉末83.8部を添加し、溶解した。この溶液を40℃まで降温した後、20質量%シリカゾル9860部、三酸化アンチモン粉末1993.5部、および純水100部にパラタングステン酸アンモニウム28.6部を溶解した溶液を順次添加し、スラリーを調製した。
攪拌しながらこのスラリーに2度目のpH調整として15質量%アンモニア水を250部添加した後、5分間攪拌を行い、スラリーの一部を分取してpH測定を実施したところ、pHは2.52であった。さらに98℃で3時間加熱攪拌した後に、85質量%リン酸水溶液12.6部、ホウ酸50.7部、および硝酸ニッケル159.1部を添加した。ここに、純水100部にパラモリブデン酸アンモニウム57.9部溶解した溶液、純水400部にテルル酸125.6部を溶解した液を順次添加した。
このようにして得られたスラリーを噴霧乾燥機により、乾燥空気の温度を乾燥機入口で330℃、乾燥機出口で160℃として噴霧乾燥し、球状の乾燥粒子を得た。次いで得られた乾燥粒子を250℃で2時間、450℃で2時間焼成し、最終的に流動焼成炉を用いて770℃で3時間流動焼成して触媒を得た。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について、活性試験を実施した。接触時間は2.5秒とした。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(実施例2)
実施例1において、2度目のpH調整後で添加する15質量%アンモニア水を260部としたこと以外は、実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーの98℃への昇温から5分後のpHは1.32であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは2.78であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例1において、2度目のpH調整で添加する15質量%アンモニア水を230部としたこと以外は、実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーの98℃への昇温から5分後のpHは1.30であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは2.21であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(実施例4)
実施例1において、2度目のpH調整で添加する15質量%アンモニア水を215部としたこと以外は、実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーの98℃への昇温から5分後のpHは1.33であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは2.09であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(実施例5)
実施例1において、2度目のpH調整で添加する15質量%アンモニア水を270部としたこと以外は、実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーの98℃への昇温から5分後のpHは1.31であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは2.92であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(実施例6)
実施例1において、1度目のpH調整後の加熱処理工程の加熱処理温度を98℃とするかわりに85℃としたことと、2度目のpH調整で添加する15質量%アンモニア水を230部としたこと以外は実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーの85℃への昇温から5分後のpHは1.63であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは2.55であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(実施例7)
実施例1において、1度目のpH調整後の加熱処理工程の加熱処理温度を98℃とするかわりに72℃としたことと、2度目のpH調整で添加する15質量%アンモニア水を195部としたこと以外は実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーの72℃への昇温から5分後のpHは1.86であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは2.28であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(実施例8)
実施例1において、1度目のpH調整後の加熱処理工程の加熱処理温度を98℃とするかわりに65℃としたことと、2度目のpH調整で添加する15質量%アンモニア水を180部としたこと以外は実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーの65℃への昇温から5分後のpHは1.92であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは2.43であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(実施例9)
63質量%の硝酸4200部に銅粉末47.4部を溶解した。この溶液に純水4100部を添加してから60℃に加熱し、電解鉄粉416.1部、テルル粉末95.1部を順次添加し、溶解した。さらにこの溶液に硝酸マグネシウム229.2部、硝酸コバルト43.4部、および硝酸リチウム2.6部を順次添加し、溶解した。次いで、攪拌しながら、この混合溶液に20質量%シリカゾル8952部、三酸化アンチモン粉末2171.9部を添加し、スラリーを調製した。このスラリーに、純水1500部にパラタングステン酸アンモニウム19.5部を溶解した溶液、純水100部にパラモリブデン酸アンモニウム79.0部を溶解した溶液、純水100部にメタバナジン酸アンモニウム8.7部を溶解した溶液を順次添加した。
攪拌を続けながら、このスラリーに1度目のpH調整として15質量%アンモニア水を滴下して、40℃におけるスラリーのpHを2.80に調整した。このスラリーを90分間かけて98℃まで昇温を行い、5分後にスラリーの一部を分取し、pH測定を行ったところ、pHは1.51であった。さらに攪拌を続けながら、このスラリーに2度目のpH調整として15質量%アンモニア水を160部添加し、5分間攪拌し、スラリーの一部を分取してpH測定を実施したところ、pHは2.18であった。さらに、98℃で6時間加熱攪拌を実施した後、ホウ酸55.3部を添加した。
得られたスラリーを、噴霧乾燥により、乾燥空気の温度を乾燥機入口で330℃、乾燥機出口で160℃として噴霧乾燥し、球状の乾燥粒子を得た。次いで、得られた乾燥粒子を250℃で2時間、450℃で2時間焼成し、最終的に流動焼成炉を用いて800℃で3時間流動焼成して触媒を得た。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb20Mo0.6W0.1V0.1Te1Cu1Mg1.2Co0.2B1.2Li0.05Ox・(SiO2)40
得られた触媒について、活性試験を実施した。接触時間は2.7秒とした。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、2度目のpH調整を行わなかったこと以外は実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーの98℃へ昇温してから5分後のpHは1.30であり、さらに5分後のpHは1.27であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(比較例2)
実施例1において、2度目のpH調整で添加する15質量%アンモニア水を150部としたこと以外は、実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーの98℃へ昇温してから5分後のpHは1.33であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは1.78であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例1において、2度目のpH調整で添加する15質量%アンモニア水を280部としたこと以外は、実施例1と同様に触媒を製造した。この際、スラリーを98℃へ昇温してから5分後のpHは1.29であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは3.10であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(比較例4)
実施例1において、1度目のpH調整後の加熱処理工程を行わず、スラリーを噴霧乾燥直前の工程まで40℃に保持したことと、1度目のpH調整から95分後に2度目のpH調整で添加する15質量%アンモニア水を75部としたこと以外は実施例1と同様に触媒を製造した。この際、2度目のpH調整直前のスラリーpHは2.25であり、ここへ15質量%アンモニア水を添加し、5分間攪拌した後のスラリーのpHは2.75であった。
得られた触媒組成は以下の通りであった。
Fe10Sb25Mo0.6W0.2Te2.2Cu4Ni1.0P0.2B1.5Ox・(SiO2)60
得られた触媒について実施例1と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(比較例5)
実施例9において、2度目のpH調整を行わなかったこと以外は、実施例9と同様にして触媒を調整した。この際、スラリーを98℃へ昇温してから5分後のpHは1.50であり、さらに5分後のpHは1.45であった。
得られた触媒の組成は以下の通りであった。
Fe10Sb20Mo0.6W0.1V0.1Te1Cu1Mg1.2Co0.2B1.2Li0.05Ox・(SiO2)40
得られた触媒について実施例6と同様にして活性試験を実施した。得られた触媒の組成、触媒の主な製造条件および活性試験の結果を表1に示す。
(2):Fe10Sb20Mo0.6W0.1V0.1Te1Cu1Mg1.2Co0.2B1.2Li0.05Ox・(SiO2)40
**2度目のpH調整を行っていない比較例1、比較例5の場合には、他の実施例、比較例のpH測定に対応するタイミングで測定したスラリーpHを便宜上示した
表1から明らかなように、触媒製造の際に60℃以上の加熱処理工程の途中でスラリーにアンモニア水を添加してスラリーpHを2.0〜3.0に再調整を行った実施例1〜9で得られた流動層触媒は、いずれも高収率でアクリロニトリルを製造できた。一方、比較例1〜4で得られた流動層触媒は実施例1〜8の触媒と同一の組成であるにも関わらず、実施例1〜8と比較してアクリロニトリル収率が低かった。また、比較例5で得られた触媒は実施例9の触媒と同一の組成であるにも関わらず、実施例9と比較してアクリロニトリル収率が低かった。
Claims (4)
- 鉄およびアンチモン成分の原料を含む溶液またはスラリーを調製する工程、前記溶液またはスラリーのpHを0.5〜3.0に調整するpH調整工程、pH調整後の溶液またはスラリーを60℃以上で加熱する加熱処理工程、加熱処理後の溶液またはスラリーのpHを少なくとも一度2.0〜3.0に調整する再pH調整工程、再pH調整後の溶液またはスラリーを60℃以上で加熱処理する再加熱処理工程、および再加熱処理後の溶液またはスラリーを乾燥・焼成する焼成工程を含む、鉄およびアンチモンを含有する流動層触媒の製造方法。
- アンチモン成分の原料が3価のアンチモンを含む、請求項1に記載の製造方法。
- 加熱処理工程、および再加熱処理工程での総加熱時間を0.5〜10時間とする、請求項1または2に記載の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により製造された流動層触媒を用いるニトリル化合物の製造方法。
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