従来、例えば自動車用の回路に、規定値よりも大きな電流が流れることを防止するために、種々のヒューズ用可溶体構造が提案されている。
例えば特許文献1には、図3に示すような車両用多連型ヒューズ装置が記載されている。
この車両用多連型ヒューズ装置31は、バッテリ側バスバー32とオルタネータ側バスバー33と、両バスバー32,33の一側方を連結する充電電流保護用溶断部34と他側方を連結する仮つなぎ部35と、両バスバー32,33にそれぞれに個別溶断部36を介して連結された複数の入出力端子38とを備えている。
両バスバー32,33は不図示の絶縁体ハウジングで覆われ、その状態で仮つなぎ部35が除去される。両バスバー32,33は銅合金の板材を打ち抜いて形成されている。個別溶断部36は、鋭角的に屈曲した略クランク状の細幅の可溶体37の中央に形成され、可溶体37よりも幅広な略円形の交差部37aを介して可溶体37に続いている。バッテリ側バスバー32は不図示のバッテリ接続用端子を備え、オルタネータ側バスバー33は不図示のオルタネータ接続端子を備えている。
また、特許文献2には、図4に示すようなヒューズ回路構成体が記載されている。
このヒューズ回路構成体41は、導電金属製の連結プレート部42と、連結プレート部42の一端側に設けられたバッテリ用端子部43と、連結プレート部42の他端側に細幅直線状の可溶体(図示せず)を介して設けられたオルタネータ用端子部(図示せず)と、連結プレート部42の長手方向に並列に配置された複数の端子部44と、各端子部44と連結プレート部42とを連結する各可溶体45とを備えている。各可溶体45はクランク状に屈曲形成され、可溶体45の中央には低融点金属46が加締め固定されている。
また、特許文献3には、図5に示すような低融点金属付きヒューズ(ヒューズリンク)が記載されている。
この低融点金属付きヒューズ51は、一対の箱状端子52と、各箱状端子52から相手端子挿入方向に突出した幅広の各延在部52aと、各延在部52aを連結する略コの字状の高融点の可溶金属エレメント53と、可溶金属エレメント53の中間部に設けられた錫等の低融点の可溶金属エレメント54とを備えている。
ヒューズリンク51に定格電流を大きく超える電流が流れると、高融点の可溶金属エレメント53が瞬時に溶断する。この時、低融点の可溶金属エレメント54はその温度が融点に達しないため溶断することがない。
また、ヒューズリンク51に定格電流を若干超えるか超えないか程度の電流が流れると、低融点の可溶金属エレメント54にジュール熱が発生し、通電電流が所定値以上になると、低融点の可溶金属エレメント54の温度が融点に達して溶融する。溶融した低融点の可溶金属エレメント54は高融点の可溶金属エレメント53に溶着し、これにより高融点の可溶金属エレメント53が遅動的に溶断する。
また、特許文献4には、図6に示すようなブレード型の端子を有するヒューズが記載されている。
このヒューズ61は、絶縁樹脂製のハウジング62と、ハウジング62から突出した一対の端子63と、ハウジング62内で各端子63の第1延在部(図示せず)を連結した可溶体(図示せず)とを備えている。可溶体(図示せず)は、第1延在部に交差した第2延在部と、第2延在部よりも薄板状の中央部とで構成されている。中央部(図示せず)は、各端子63の突出方向に向かう縦方向の一対の第3延在部と、各第3延在部を連結する横方向の連結部とで略凹字状に構成されている。
また、特許文献5(図示せず)には、電気接続箱から導出されたワイヤハーネスの絶縁被覆が車両の振動で車両ボディに接触して破れて、露出した芯線が車両ボディに接触する場合に、電流が流れたり流れなかったりするレアショートの状態となることが記載されている。レアショート時に流れる電流は、電気接続箱内のヒュージブルリンクが溶断する電流よりも低く、レアショート時にはヒュージブルリンクが溶断することがなく、無駄に電力が消費される。
レアショートとは、本来はコイルの同相の層(layer)間短絡のことであるが、異相間の短絡であっても、ヒュージブルリンクの溶断電流よりも低い短絡電流が流れることをレアショートと呼んでいる。
特許文献6(図示せず)には、デッドショート時にはヒューズは溶断するが、ヒューズが溶断しない程度の小さい連続的なショート又は大きくても短時間の断続的なショート(これらのショートをレアショートという)の領域ではヒューズが溶断しないことが記載されている。
図1(a)(b)〜図2は、本発明のヒューズ用可溶体構造の一実施形態を示すものである。
図1(a)(b)に示す如く、ヒューズ用可溶体1は、導電金属板を材料として、長手方向中央寄りに左右一対の上向きの凸部2,3を形成したものである。可溶体1は、各凸部2,3を上方に向けて水平(横置き)に配置される。各凸部2,3は、左右一対の縦方向の垂直な側壁(縦壁)4,5と、一対の側壁4,5を連結する水平な上壁(横壁ないし上部)6とで、それぞれ縦断面(正面視)略矩形状に形成されている。
左側の凸部2の左側(外側)の側壁4は可溶体1の左側の水平な基板部7に略直交して続き、左側の凸部2の右側(内側)の側壁5は可溶体1の中央の水平な基板部8に略直交して続いている。同様に、右側の凸部3の左側(内側)の側壁4は可溶体1の中央の水平な基板部8に略直交して続き、右側の凸部3の右側(外側)の側壁5は可溶体1の右側の水平な基板部9に略直交して続いている。左右の基板部7,9と中央の基板部8とは同一水平面上に位置している。
各側壁4,5の下部(付根部ないし基端部)は各基板部7〜9に小径の湾曲部10を介して滑らかに続いている。各側壁4,5の上部は各上壁6に小径の湾曲部11を介して滑らかに続いている。湾曲部10,11は側壁4,5の一部である。各凸部2,3の形成は、導電金属板(母材)からの可溶体1の打ち抜きと同時に又は打ち抜き後に、プレス加工で容易に行われる。
可溶体1は左右方向に長く、前後方向に短い帯板状に形成され、可溶体1の上下方向の板厚は前後方向の長さよりも薄く形成されている。左右方向とは可溶体1の長手方向であり、前後方向とは可溶体1の幅方向であり、上下方向とは可溶体1の板厚方向である。可溶体1は前後に平行な端面1aを有している。図1の可溶体1の左右の端面1bは便宜上示すものであり、実際には端子やバスバー等といった不図示の導電部材に一体に続いている。可溶体1を図1の左右の端面(切断面)1bのある状態に切断し、端子やバスバー等といった不図示の導電部材に別体に接続することも可能である。
左右の各凸部2,3は、可溶体長手方向外側の各側壁4,5の外面4a,5aと、可溶体長手方向内側の対向する各側壁4,5の外面4b,5bと、内側と外側の各一対の側壁4,5の外面4a〜5bに上側の湾曲面11aを介して続く上壁6の上面6aとを有している。
また、各凸部2,3は、可溶体長手方向外側の各側壁4,5の内面4c,5cと、可溶体長手方向内側の各側壁4,5の内面4d,5dと、内側と外側の各一対の側壁4,5の内面4c〜5dに上側の湾曲面11bを介して続く上壁6の下面6bとを有している。
長手方向外側の各側壁4,5の外面4a,5aは下側の湾曲面10aを介して左右両側の基板部7,9の上面7a,9aに続き、長手方向内側の各側壁4,5の外面4b,5bは下側の湾曲面10aを介して中央の基板部8の上面8aに続いている。また、長手方向外側の各側壁4,5の内面4c,5cは下側の湾曲面10bを介して左右両側の基板部7,9の下面7b,9bに続き、長手方向内側の各側壁4,5の内面4d,5dは下側の湾曲面10bを介して中央の基板部8の下面8bに続いている。
各凸部2,3の下部は各基板部7〜9の間で開口している。凸部2,3の下部開口を符号12aで示す。各凸部2,3は可溶体1の幅方向(前後方向)に均一な断面形状で続いており、各凸部2,3は前後端1aにそれぞれ側部開口を有している。
なお、実施形態の説明で、「前後左右」の方向性は説明の便宜上のものであり、必ずしも可溶体1の取付方向と一致するものではない。「上」は可溶体1の取付方向と一致する。
各凸部2,3は左右の側壁4,5と上壁6とで囲まれた略矩形状の各空間12を有している。各空間12は下部開口12aと側部開口とに連通している。この空間12が熱溜め部として作用する。本例において、空間12の高さは空間12の左右方向の内幅よりも大きい。また、空間12の高さよりも空間12の前後方向の幅すなわち可溶体1の前後方向の幅の方が大きい。このため、図2で後述する空間12内に溜められた熱が外部に逃げにくくなっている。図1(b)においては熱溜め部である空間12を点線の円で示している。
左右一対の上向きの凸部2,3の間に下向きの凹部13が形成され、凹部13内に低融点金属部材14が配設されている。低融点金属部材14としては、例えば、錫や亜鉛等やそれらの合金やハンダ等を使用可能である。低融点金属部材14の融点は可溶体1の融点よりも低い。低融点金属部材14はヒューズすなわち可溶体1の温感材料として作用する。可溶体1の材質は、例えば可溶体1に一体に接続されるバスバーや端子等といった不図示の導電金属部材と同じ銅合金やアルミ合金等である。図1,図2において低融点金属部材14を便宜上ハッチングで示している。
凹部13は、水平な横壁である中央の基板部8と、左右の各凸部2,3の内側の対向する側壁(縦壁)4,5とで、断面(正面視)略矩形状に形成されている。内側の側壁4,5は凹部13と左右の凸部2,3とで共通な壁部である。本例の凹部13内の空間(低融点金属部材14を装着する前の空間)は、凸部2,3内の空間12よりも少し広い。本例の凹部13内の空間の深さ寸法は凸部2,3内の空間12の高さ寸法と同じであるが、凹部13内の空間の左右方向の内幅が凸部2,3内の空間12の内幅よりも少し大きい。
凹部13内に装着された低融点金属部材14の水平な底面は、凹部13の下壁である基板部8の上面8aに密着し、低融点金属部材14の左右の垂直な側面は、凹部13の左右の側壁4,5の面4b,5bに接触ないし若干の隙間を存して近接している(図1では隙間のある例を示し、図2では隙間のない例を示している)。低融点金属部材14は例えばその底面等が可溶体1の基板部8の上面等に接着ないしハンダ付け等で固定されている。凹部13の左右の側壁4,5で低融点金属部材14を加締めるように挟持固定させることも可能である。その場合、例えば低融点金属部材14を上方から凹部13内に圧入することも可能である。
低融点金属部材14は凹部13内で可溶体1の前後方向幅と略同じ長さを有して収容されている。低融点金属部材14の高さは凹部13の深さよりも低く、低融点金属部材14の水平な上面14aは左右の凸部2,3の各上壁6の板厚の範囲に位置している。すなわち、低融点金属部材の上面14aは、凸部2,3の上壁6の上面(外面)6aよりも低く、上壁6の下面6bすなわち熱溜め用の空間12の上面よりも高く位置している。
また、低融点金属部材14の下面すなわち凹部13の下壁である基板部8の上面8aは、左右の凸部2,3内の空間12の高さ方向中間部の高さに位置している。すなわち、低融点金属部材14の下面は、凸部内の空間12の上面(上壁6の下面)6bよりも低く、空間12の下部開口12aよりも高く位置している。左右一対の凸部2,3を有する可溶体1と、一対(二つ)の凸部2,3の間に配置される低融点金属部材14とで、可溶体組付体15が構成される。
図1で可溶体1の左右端(一端と他端)1bは切断して示しているが、実際には、例えば従来技術の図3,図4におけるように、可溶体1の一端1bが導電金属製の端子38,44に一体に連結され、可溶体1の他端1bが導電金属製のバスバー32,33や連結プレート部42に一体に連結される。
あるいは、従来技術の図5におけるように、可溶体1の一端1bがヒューズリンク51の一方の箱型端子52に一体に連結され、可溶体1の他端1bが他方の箱型端子52に一体に連結される。
あるいは、従来技術の図6におけるように、可溶体1の一端1bをヒューズ61のブレード状の一方の端子63に一体に連結し、可溶体1の他端1bをブレード状の他方の端子63に一体に連結することも可能である。実際には、従来技術の図6の形態よりも上記図3,図4や図5の形態に適用することが、可溶体1の大きさの観点から好ましい。大きなヒューズ61であれば、従来技術の図6の形態にも可溶体1を適用可能である。
それ以外に、例えば従来技術の図3における左右のバスバー32,33を相互に連結する溶断部34として、可溶体1の一端1bを一方のバスバー32に一体に連結し、可溶体1の他端1bを他方のバスバー33に一体に連結することも可能である。
また、従来技術の図4におけるバスバーである連結プレート部42の不図示の右端側に可溶体1の一端1bを一体に連結し、不図示の右側の端子部(オルタネータ用端子部)に可溶体1の他端1bを一体に連結することも可能である。可溶体1は、上記以外においても種々の導電金属部材との接続に適用可能である。
以下に、図2を用いて上記ヒューズ用可溶体構造の作用を説明する。
図1〜図2で示す如く、可溶体1はその左右一対の凸部2,3が上向きに凸となるように配置される。可溶体1に接続した不図示の導電部材や導電部材に続く回路や電気部品等にレアショートが発生した場合、可溶体1に、可溶体1の溶断電流よりも低い短絡電流が連続的に又は断続的に流れる。
それにより、可溶体1にジュール熱が発生し、可溶体1の左右の各凸部2,3内の空間(熱溜め部ないし蓄熱部)12において、矢印Aで示すように、各凸部2,3の左右両側の各側壁4,5の内面4c,5d,4d,5cから斜め上向きないし上向きに熱が上昇する(上昇熱ないし放熱を符号Aで示す)。各内面4c〜5dは下側の各湾曲面10bを含むものである。
上昇熱Aは、熱溜め用の空間12の上面すなわち凸部2,3の上壁6の下面6bに集中的に突き当たる。そのため、上昇熱Aが当たった部分6bとその上側すなわち点線Bで囲んだ凸部2,3の上壁6の中央部分(空間12の上側の壁部分)の温度が上昇する。それにより、熱溜め用の空間12のない場合に比べて、可溶体1が早く溶断する。
ジュール熱とは、抵抗のある導体(可溶体1)に電流が流れた際に発生する熱のことであり、その熱量は、流れる電流の二乗と導体の抵抗及び電流の流れた時間の積に比例する。図2において、可溶体1のジュール熱で、左右の各凸部2,3内の空間12に上昇熱Aがほぼ同時に発生する。
例えば、図2において、左右の各凸部2,3の上壁6が、上昇熱Aによって加熱されると同時に、左右の凸部2,3の間に配置された低融点金属部材14が、凹部13の基板部8のジュール熱や低融点金属部材14に電流が流れた際のジュール熱で加熱される。回路のレアショートの場合は、低融点金属部材14の溶融・溶着によって可溶体1が加熱されて溶断するのが一般的であるので、低融点金属部材14に生じたジュール熱、あるいは可溶体1のジュール熱が低融点金属部材14に伝熱された際の熱は放熱されないことが好ましい。
この点、低融点金属部材14の左右両側に蓄熱部としての凸部2,3があり、低融点金属部材14が両側の蓄熱部である凸部2,3で挟まれ、各凸部2,3の上壁6が上昇熱Aで加熱されているので、低融点金属部材14から各凸部2,3の上壁6への放熱、すなわち低融点金属部材14から可溶体1の長手方向に沿って逃げる放熱が防止される。
これにより、低融点金属部材14が、凸部2,3のない場合よりも短時間で加熱されて融点に達し、溶融して凹部13に溶着することで、凹部13の基板部8や左右の側壁4,5が規定時間内に迅速に溶断されることになる。
各凸部2,3(特にレアショート時の上流側の凸部2又は3)の内側(凹部13)の側壁4,5の上部は、上昇熱Aで加熱される上壁6に続いているので、溶断しやすい部位と言える。可溶体1の溶断箇所は左右両側ではなく一箇所でよいことは言うまでもない。
低融点金属部材14の上面14aは各凸部2,3の上壁6の上面6aよりも低く位置し、低融点金属部材14は凹部13内に収容されているので、低融点金属部材14が溶融した際に凸部2,3を越えて外側に溢れ出ることが防止され、低融点金属部材14の溶融熱が可溶体1に確実に伝播される。
低融点金属部材14は凹部13内に収容され、凹部13の下壁である基板部8の上面8aと左右の側壁4,5の面4b,5bとから凹部13内に上昇しようとするジュール熱で効率良く加熱される。低融点金属部材14の下面と左右の側面とは凹部13の各面8a,4b,5bに接触しているので、凹部13のジュール熱が効率良く低融点金属部材14に伝達される。
例えば、図2の凸部2,3の空間12内の上昇熱Aで凸部2,3の上壁6が溶断に近い温度まで過熱され、それに加えて低融点金属部材14が凹部13のジュール熱等で溶融され、その溶融熱が加わったことで上壁6が溶断する場合もあり得る。
また、低融点金属部材14の溶融熱で可溶体1が溶断する以外に、図2の凸部2,3の空間12内の上昇熱Aで凸部2,3の上壁6が溶断に近い温度まで過熱され、可溶体1に生じたジュール熱と凸部2,3内の上昇熱Aとの総和で凸部2,3の上壁6が溶断する場合もあり得る。この場合、低融点金属部材14はその材料にもよるが(例えば可溶体1との融点の差異が小さい場合)、溶融しないこともあり得る。凸部2,3と低融点金属部材14とで二重の溶断(安全)機能が発揮される。
また、低融点金属部材14を用いない場合は、図2の凸部2,3の空間12内の上昇熱Aで凸部2,3の上壁6が溶断に近い温度まで過熱され、可溶体1に生じたジュール熱と凸部2,3内の上昇熱Aとの総和で凸部2,3の上壁6が溶断する。あるいは、凸部2,3の空間12内の上昇熱Aで凸部2,3の上壁6が溶断温度まで過熱されて、上壁6が溶断する場合もあり得る。低融点金属部材14を用いなくても、凸部2,3内の上昇熱Aで凸部2,3の上壁6を溶断させ得るので、低融点金属部材14の部品コストや組付コストの削減が可能となる。
以下に、上記ヒューズ用可溶体構造の適用例について説明する。
例えば、従来技術の図3,図4におけるバスバー32,33や連結プレート部42と端子38,44との間に上記可溶体1を適用する場合は、例えば、バスバー32,33、連結プレート部42と端子38,44とを垂直(鉛直)に配置し、垂直なバスバー32,33、連結プレート部42と端子38,44とを、正面視クランク状に屈曲させた可溶体1で連結し、可溶体1の水平な中間部に上向きの各凸部2,3を形成する。両凸部2,3の間の凹部13には低融点金属部材14を配置する。
あるいは、図3,図4におけるバスバー32,33や連結プレート部42と端子38,44とを水平に配置し、水平なバスバー32,33、連結プレート部42と端子38,44とを図2の水平な可溶体1で連結する。可溶体1の上向きの凸部2,3の間の凹部13には低融点金属部材14を配置する。
また、従来技術の図5におけるヒューズリンク51の左右一対の垂直な箱型端子52を、正面視逆凹字状に屈曲させた可溶体1で連結し、可溶体1の水平な上辺部に左右一対の上向きの凸部2,3を形成する。各凸部2,3の間の凹部13には低融点金属部材14を配置する。
また、従来技術の図6におけるヒューズ61の左右一対のブレード状の垂直な端子63の上部に図2の水平な可溶体1を連結する。例えば、一対の端子63と可溶体1とを金属板から打ち抜き、端子63の板厚方向に対して可溶体1を90°捩って水平に配置し、可溶体1の水平部に図2の左右一対の上向きの凸部2,3を形成する。各凸部2,3の間の凹部13には低融点金属部材14を配置する。
なお、上記図3〜図6の各従来技術に可溶体1を適用した構造において、可溶体1の凹部13への低融点金属部材14の配置を省略することも可能である。低融点金属部材14を用いない場合、凸部2,3の上壁6を幅方向(前後方向)に溶断させるために、凸部2,3の側壁4,5は可溶体1の全幅に渡って(幅方向に沿って)形成されることが必要である。低融点金属部材14を用いる場合は、凸部2,3の側壁4,5は可溶体1の全幅に渡って(幅方向に沿って)形成されてもよく、可溶体1の長手方向(左右方向)に沿って形成されてもよい。
また、上記図1〜図2の実施形態においては、凸部2,3を垂直な一対の側壁4,5と水平な上壁6とで断面(正面視)矩形状に構成したが、例えば一対の側壁4,5をその上部を互いに近づける方向に傾斜させて、一対の傾斜状の側壁4,5と水平な上壁6とで凸部2,3を断面(正面視)台形状に形成することも可能である。この場合、一対の凸部2,3の間の凹部13は断面逆台形状に形成される。凹部13に装着される低融点金属部材14は断面逆台形状に形成することが好ましい。
また、一対の凸部2,3の内側(隣接対向した側ないし凹部13側)の側壁4,5を垂直に形成し、一対の凸部2,3の外側(遠く離れた側)の側壁4,5を略ハの字状ないし逆ハの字状に傾斜させ、内側の垂直な側壁4,5と外側の傾斜状の側壁4,5と水平な各上壁6とで異形台形状の凸部2,3を形成することも可能である。一対の凸部2,3の間の凹部13や凹部13内に配置される低融点金属部材14は、図2の例と同様に断面(正面視)矩形状に形成される。また、何れの場合でも、上壁6は水平に限らず、湾曲状(山型)や傾斜状に形成することも可能である。
また、凸部2,3の左右の各側壁4,5をその上部を近づける方向に傾斜させて上部(頂部)で交差させ、凸部2,3を断面(正面視)三角状に形成することも可能である。一対の凸部2,3の間の凹部13と、凹部13内に配置される低融点金属部材14とは、逆三角形状ないし逆台形状に形成される。また、上記したこれら一対(二つ)の凸部2,3の断面形状を左右の凸部2,3で変化させる(異形とする)ことも可能である。
また、図1(b)の実施形態において、例えば各凸部2,3の左右何れか一方の側壁4(5)の前後端に突片(図示せず)を形成し、突片を折り曲げて各凸部2,3の前後端の開口(側部開口)を塞ぐことも可能である。これにより、凸部の前後端の開口からの蓄熱の放出を防ぐことができる。突片を上壁6の前後端に設けると、上壁6が幅方向(前後方向)に溶断されにくくなるので好ましくない。
また、図1の実施形態において、凸部2,3を左右一対ではなく、低融点金属部材14の左側又は右側に隣接して一つ形成することも可能である。この場合でも、凸部2(3)の一方の側壁4(5)の外面4b(5b)は低融点金属部材14の外面(側面)に接触させることが好ましい。但し、低融点金属部材14の左右両側に蓄熱部としての凸部2,3がある場合に比べて、凸部2(3)を設けない側に低融点金属部材14の蓄熱が放熱されやすい懸念はある。
何れの場合でも、低融点金属部材14は、凸部2,3の側壁4,5の外面や基板部8の上面にハンダ等で固定してもよく、側壁4,5等の前後端に突出させた加締め片(図示せず)で加締め固定してもよい。
また、凸部2,3を一対(二つ)ではなく三つないしそれ以上に並列に可溶体1に配設することも可能である。これら複数(三つ以上)の凸部は一対(二つ)の凸部2,3を含むものである。但し、凸部2,3を三つないしそれ以上並列に配置した場合は、可溶体1に生じるジュール熱が三つ以上の凸部に分散されて、凸部ごとの温度上昇が低く抑えられ兼ねない懸念があるので、凸部2,3は二つであることが好ましい。
以下に、本発明のヒューズ用可溶体構造の特徴をまとめて説明する。
第一の特徴として、導電金属製で帯板状の可溶体1の全幅に渡って上向きの凸部2(3)が設けられ、凸部2(3)は、内側の熱溜め用の空間12と、空間12に連通する下側の開口12aとを有し、空間12は、可溶体1にレアショート時のジュール熱が生じた際における凸部2(3)の内面4c,5d(4d,5c)からの放熱Aを溜めるものであることが挙げられる。
上記構成により、可溶体1に接続された回路等でレアショートを生じた際に、可溶体1に溶断温度以下のジュール熱が発生し、そのジュール熱が凸部2(3)の内面4c,5d(4d,5c)から放熱されて上昇し、凸部内の熱溜め用の空間12の上部に溜まる。これにより、凸部2(3)の上部の温度が上昇し、凸部2(3)を含む可溶体1の溶断が促進される。例えば、凸部2(3)の上部の温度が溶断温度に達した際に、凸部2(3)の上部が溶断する。たとえ可溶体1が小さくても、凸部2(3)が発熱するので、放熱の影響を受けにくくなる。
第二の特徴として、上記第一の特徴に加えて、凸部2(3)に隣接して低融点金属部材14が配置されたことが挙げられる。符号2(3)とは2又は3の意味である。
上記構成により、熱溜め用の空間12内へのジュール熱の放出で凸部2(3)の上部が加熱され、凸部2(3)が全体的に加熱された際に、凸部2(3)に隣接した低融点金属部材14が溶融して可溶体1に溶着し、可溶体1の温度が急激に上昇して、可溶体1が溶断する。この可溶体1の溶断は、低融点金属部材14の融点にもよるが、上記第一の特徴における凸部2(3)の上部の溶断とは別に(例えば凸部の上部の溶断よりも早く)又はほぼ同時に行われる。要は、凸部2(3)と低融点金属部材14とで二重の溶断(安全)機能が発揮される。この場合、凸部2(3)は可溶体1の全幅に渡って(幅方向に沿って)形成されてもよく、可溶体1の長手方向に沿って形成されてもよい。
第三の特徴として、上記第一の特徴に加えて、凸部2,3が可溶体1の長手方向に二つ並列に配設されたことが挙げられる。
上記構成により、並列な二つの凸部2,3が各空間12内の蓄熱により同時に加熱される。二つの凸部2,3の間の可溶体部分である基板部8は、加熱された各凸部2,3で各凸部側への放熱が阻止されると共に、二つの凸部2,3の発熱で加熱される。このように、二つの凸部2,3とその間の可溶体部分8というように、可溶体1が広い範囲で加熱されることで、放熱が抑制されて、レアショート時における可溶体1の溶断時間が早められる。この場合、凸部2,3は可溶体1の全幅に渡って(幅方向に沿って)形成されてもよく、可溶体1の長手方向に沿って形成されてもよい。
第四の特徴として、第三の特徴に加えて、二つの凸部2,3の間に低融点金属部材14が配置されたことが挙げられる。
上記構成により、二つの凸部2,3が各空間12内の蓄熱で加熱されると共に、二つの凸部2,3の間の低融点金属部材14が可溶体1のジュール熱で加熱される。低融点金属部材14の両側に温度の高い凸部2,3が配置されているので、低融点金属部材14の放熱が抑えられ、それと同時に両側の凸部2,3で低融点金属部材14が加熱されて、低融点金属部材14が早期に溶断する。
その他、従来公知の知見に従い、本発明のヒューズ用可溶体構造を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明のヒューズ用可溶体構造の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。