以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されず適宜変形して実施することができる。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、構造の一部に下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を含有するポリカーボネート樹脂(A)を主成分とする。ここで主成分とは、本組成物中を構成する全て成分において、(A)が最も多い含有比率を占めることをいい、通常50質量%を超え、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であることをいう。
ポリカーボネート樹脂(A)を主成分とすることにより、本組成物が耐熱性、低吸水性、透明性、表面硬度、低複屈折性及び耐衝撃性のバランスに優れる。
前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニドおよびイソイデッドが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのジヒドロキシ化合物は、フェノール性水酸基を有しないため、通常界面法で重合させることは困難であり、本発明に係るポリカーボネート樹脂(A)は、通常炭酸ジエステルを用いたエステル交換反応により製造される。
これらのジヒドロキシ化合物のうち、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手および製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性並びにカーボンニュートラルの面から最も好ましい。
尚、イソソルビドに代表されるような前記一般式(1)で表される環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすい。このため、保管や、製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネート樹脂を製造すると、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりする原因となる。あるいは重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともあり好ましくない。ただし、蟻酸の発生を防止するための安定剤を添加した場合、安定剤の種類によっては、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させたりすることがある。
そこで、本発明では、下記のような特定の安定剤を用いることが好ましい。安定剤としては、還元剤、制酸剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を用いることが好ましく、特に酸性下ではジヒドロキシ化合物が変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。このうち還元剤としては、ナトリウムボロハイドライド、リチウムボロハイドライド等が挙げられ、制酸剤としては水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられる。ただし、アルカリ金属塩の添加は、アルカリ金属が重合触媒となる場合があるので、過剰に添加し過ぎると重合反応を制御できなくなり、好ましくない。
塩基性安定剤としては、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物が挙げられる。その中でも、その効果と後述する蒸留除去のしやすさから、ナトリウム又はカリウムのリン酸塩、亜リン酸塩が好ましく、中でもリン酸水素2ナトリウム、亜リン酸水素2ナトリウムが好ましい。
これら塩基性安定剤のジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、ジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果の発現と、ジヒドロキシ化合物の変性の抑制についてのバランスを取る観点から、通常、ジヒドロキシ化合物に対して0.0001質量%〜1質量%、好ましくは0.001質量%〜0.1質量%である。
また、これら塩基性安定剤を含有したジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度や品質の制御が困難になるだけでなく、初期色相の悪化を招き、結果的に得られる本組成物の耐光性を悪化させるおそれがあるため、ポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましい。
また、保管、製造時の取り扱いの際に生成した酸化分解物を含まないジヒドロキシ化合物を得るために、或いは、前述の塩基性安定剤を除去するためには、ジヒドロキシ化合物の蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、250℃以下、好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。
このような蒸留精製により、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量を20質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下、特に好ましくは5質量ppm以下にすることにより、ポリカーボネート樹脂製造時の重合反応性を損なうことなく、色相や熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂の製造が可能となる。蟻酸含有量の測定はイオンクロマトグラフィーを使用し、以下の手順に従い行われる。以下の手順では、代表的なジヒドロキシ化合物として、イソソルビドを例とする。
イソソルビド約0.5gを精秤し50mLのメスフラスコに採取して純水で定容する。標準試料として蟻酸ナトリウム水溶液を用い、標準試料とリテンションタイムが一致するピークを蟻酸とし、ピーク面積から絶対検量線法で定量する。
イオンクロマトグラフは、Dionex社製のDX−500型を用い、検出器には電気伝導度検出器を用いる。測定カラムとしては、Dionex社製ガードカラムにAG−15、分離カラムにAS−15を用いる。測定試料を100μLのサンプルループに注入し、溶離液に10mM−NaOHを用い、流速1.2mL/分、恒温槽温度35℃で測定する。サプレッサーには、メンブランサプレッサーを用い、再生液には12.5mM−H2SO4水溶液を用いる。
前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造は剛直であるため、ポリカーボネート樹脂中の前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造が多すぎると、硬く、脆くなる傾向があり、成形性または機械物性が低下する可能性がある。逆に少なすぎると、ポリカーボネート樹脂の耐熱性が低下する可能性がある。そのため、ポリカーボネート樹脂の製造には、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と共に、その他のジヒドロキシ化合物を適宜用いることにより、ポリカーボネート樹脂の耐熱性や柔軟性や成形性のバランスを取ることが好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)の柔軟性の付与等のためにポリカーボネート樹脂(A)に前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)以外のその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を導入する場合、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対して、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を、通常30mol%以上含むことが好ましく、より好ましくは35mol%以上、特に好ましく40mol%以上である。また、通常95mol%以下含むことが好ましく、より好ましくは85mol%以下、特に好ましくは75mol%以下である。
ジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対する前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)の比率が30mol%以上であれば、本組成物が耐熱性や表面硬度に優れるものとなるため好ましい。一方、95mol%以下であれば、本組成物の吸水率が低くなり、また熱による劣化が少なくなるため好ましい。
ポリカーボネート樹脂(A)に導入される前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)以外のその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)としては、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位や脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が挙げられる。その脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、次のようなものが挙げられる。
<脂肪族ジヒドロキシ化合物>
脂肪族ジヒドロキシ化合物として、例えば、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール、水素化ジオレイルグリコール等が挙げられる。
尚、前記例示化合物は、本発明に使用し得る脂肪族ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂肪族ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a)と脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(b)とのモル比率は、任意の割合で選択できるが、前記モル比率を調整することで、剛性と耐衝撃性のバランスを取ったり、適当な成形加工性を設計したりすることができる。
<脂環式ジヒドロキシ化合物>
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、通常、5員環構造又は6員環構造を含む化合物が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネート樹脂(A)の耐熱性が高くなる傾向がある。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。炭素数が70以下の脂環式ジヒドロキシ化合物であれば、合成・精製しやすく、また安価で入手しやすいため好ましい。
5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、下記一般式(I)又は(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
HOCH2−R9−CH2OH (I)
HO−R10−OH (II)
(但し、式(I),式(II)中、R9及びR10は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のシクロアルキル構造を含む二価の基を表す。)
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Ia)(式中、R11は水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で示される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、テトラメチルシクロブタンジオール等が挙げられる。
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Ib)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジメタノール又は、トリシクロテトラデカンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Ic)(式中、mは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール等が挙げられる。
また、前記一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Id)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等が挙げられる。
一般式(I)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジメタノールとしては、一般式(I)において、R9が下記一般式(Ie)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,3−アダマンタンジメタノール等が挙げられる。
また、前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジオールは、一般式(II)において、R10が下記一般式(IIa)(式中、R11は水素原子、又は、置換もしくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールとしては、一般式(II)において、R10が下記一般式(IIb)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジオール又は、トリシクロテトラデカンジオールとしては、一般式(II)において、R10が下記一般式(IIc)(式中、mは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等が挙げられる。
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジオールとしては、一般式(II)において、R10が下記一般式(IId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等が挙げられる。
前記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジオールとしては、一般式(II)において、R10が下記一般式(IIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては具体的には、1,3−アダマンタンジオール等が挙げられる。
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、テトラメチルシクロブタンジオールがさらに好ましく、1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。
尚、前記例示化合物は、本発明に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とのモル比率は、任意の割合で選択できるが、前記モル比率を調整することで、衝撃強度(例えば、ノッチ付きシャルピー衝撃強度)が向上する可能性があり、更にポリカーボネート樹脂の所望のガラス転移温度を得ることが可能である。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、90℃〜160℃であることが好ましく、100℃〜150℃がより好ましく、110℃〜145℃が更に好ましく、115℃〜143℃が特に好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度が90℃以上であれば、本組成物が耐熱性に優れる。一方、ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度が160℃以下であれば、本樹脂組成物が成形性や透明性に優れる。
また前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は一般に不活性雰囲気下でも熱分解しやすいため、ガラス転移温度を係る範囲にすることにより溶融樹脂温度を過度に高く設定する必要をなくすことができれば、著しい熱分解を引き起こすおそれも小さいため好ましい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度をより低いものとし、160℃以下を達成する方法としては、構造の一部に前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を少なくしたり、耐熱性の低い脂環式ジヒドロキシ化合物を選定したり、ビスフェノール化合物等の芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を少なくしたりする方法等が挙げられる。
なお、前記ガラス転移温度は、JIS−K7121(2012年)に準拠して、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、DSC220)を用いて、10℃/分の昇温速度で加熱して測定する補外ガラス転移開始温度を指す。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とのモル比率は、95:5〜30:70であることが好ましく、75:25〜40:60であるのが更に好ましい。モル比率が前記範囲であれば、ポリカーボネート樹脂(A)について熱滞留に起因する着色が生じにくくなり、かつ、高分子量化や衝撃強度の向上、ガラス転移温度の維持による耐熱性の向上が可能となるため好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)においては、本発明の効果を阻害しない範囲において、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位に加えて、更にその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。その他のジヒドロキシ化合物としては、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外の、構造の一部に下記一般式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物や、芳香族系ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
(但し、上記一般式(3)で表される部位が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。)
前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外の、構造の一部に前記一般式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基が前記一般式(3)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられる。また、下記一般式(4a)で表される化合物や下記一般式(4b)で表される化合物に代表されるスピログリコール等の、環状エーテル構造を有する化合物等の複素環基の一部が前記一般式(3)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられる。
なお、上記の「環状エーテル構造を有する化合物」の「環状エーテル構造」とは、環状構造中にエーテル基を有し、環状鎖を構成する炭素が脂肪族炭素である構造からなるものを意味する。これらの中でも、エーテル基を複数有するものが好ましく、環状エーテル構造を複数有するものがより好ましく、環状エーテル構造を2つ有するものが特に好ましい。
(上記一般式(4a)中、Ra〜Rdはそれぞれ独立に、炭素数1〜炭素数3のアルキル基である。)
上記一般式(4a)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、ジオキサングリコールなどが挙げられる。
芳香族系ジヒドロキシ化合物としては、ビスフェノール化合物(置換、非置換を含む)が挙げられ、具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基を有しないビスフェノール化合物;ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族環上に置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(sec−ブチル)フェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基としてアルキル基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン等の芳香族環を連結する2価基が置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等の芳香族環をエーテル結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン等の芳香族環をスルホン結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド等の芳香族環をスルフィド結合で連結したビスフェノール化合物等が挙げられるが、好ましくは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(別称:ビスフェノール−A)が挙げられる。
一般に、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、ビスフェノール−Aなどの芳香族系ジヒドロキシ化合物に比べて、重合反応の平衡定数が重合進行する方向へ傾いており、加熱したりフェノール脱揮したりすると重合反応が急激になり反応制御が難しくなる傾向がある。
このため、重合反応の終末段階で前記芳香族系ジヒドロキシ化合物を少量添加すれば、重合末端を前記芳香族系ジヒドロキシ化合物で塞ぐことで、加熱したりフェノール脱揮したりしても重合反応が急激にならずにすむ効果が期待できる。
ただし、前記芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位をポリカーボネート樹脂(A)中に多く含むと、本組成物の複屈折が増加したり、本組成物の耐熱性や表面硬度が低下したりするおそれがあるほか、本組成物を屋外で使用した場合等において紫外線吸収により黄変が生じることがある。従って、前記芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、必要最小限の範囲で含んでもよいが、可能であれば含まないことが好ましい。
上述のその他のジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<炭酸ジエステル>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、上述した前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(5)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
但し、上記一般式(5)において、A1およびA2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族基、または、置換若しくは無置換の芳香族基である。
前記式(5)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネートなどのジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネートなどのジアルキルカーボネートが例示されるが、好ましくは、ジフェニルカーボネート、置換基を有するジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートであり、ジアリールカーボネートの中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、これらの不純物は重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂(A)の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
<エステル交換反応触媒>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、上述のように前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応させて得られる。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常エステル交換反応触媒の存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に「触媒」、「重合触媒」と言うことがある)は、特に波長350nmにおける光線透過率またはイエローインデックス(YI)値に影響を与えることがある。
用いる触媒としては、得られるポリカーボネート樹脂(A)の耐光性を満足させ得る、即ち後述のYI値を所定の値以下にし得るものが好ましく、例えば、長周期型周期表における第1族または第2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。これらの中でも、好ましくは1族金属化合物および2族金属化合物のうち少なくとも一方が使用される。
1族金属化合物および2族金属化合物のうち少なくとも一方と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物および2族金属化合物のうち少なくとも一方のみを使用することが特に好ましい。
また、1族金属化合物および2族金属化合物のうち少なくとも一方の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ナトリウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2ナトリウム塩等のナトリウム化合物、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸カリウム、水素化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素カリウム、安息香酸カリウム、リン酸水素2カリウム、フェニルリン酸2カリウム、カリウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2カリウム塩等のカリウム化合物、水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素リチウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2リチウム、リチウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2リチウム塩等のリチウム化合物、並びに水酸化セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸セシウム、酢酸セシウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2セシウム、セシウムのアルコレートまたはフェノレート、およびビスフェノールAの2セシウム塩等のセシウム化合物等が挙げられる。中でもリチウム化合物が好ましい。
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウムおよびステアリン酸カルシウム等のカルシウム化合物、水酸化バリウム、炭酸水素バリウム、炭酸バリウム、酢酸バリウムおよびステアリン酸バリウム等のバリウム化合物、水酸化マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムおよびステアリン酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、並びに水酸化ストロンチウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウムおよびステアリン酸ストロンチウム等のストロンチウム化合物等が挙げられる。中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物およびカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等の、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩およびストロンチウム塩等が挙げられる。
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンおよび四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドおよびブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾールおよびアミノキノリン等が挙げられる。
前記重合触媒の使用量は、好ましくは用いる全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1〜300μmol、より好ましくは0.5〜100μmolである。中でもリチウムおよび長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物およびカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、好ましくは用いる全ジヒドロキシ化合物1mol当たり金属量として0.1〜20μmol、より好ましくは0.5〜10μmol、特に好ましくは0.7〜3μmolである。
重合触媒の使用量が0.1μmol以上であれば、重合速度が一定以上となるため、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとする際に、重合温度を高くする必要がなく、得られたポリカーボネート樹脂の色相または耐光性が悪化したり、未反応の原料が重合途中で揮発して前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が変化し、所望の分子量に到達しなかったりするおそれが小さいため好ましい。一方、重合触媒の使用量が300μmol以下であれば、得られるポリカーボネート樹脂の色相や、ポリカーボネート樹脂の耐光性が悪化する可能性が小さいため好ましい。また、重合反応器内で十分に減圧せずに目標分子量に到達する可能性や、残存するモノマーが十分に脱揮されない可能性が小さいため好ましい。
なお、1族金属、特にはリチウム、ナトリウム、カリウムおよびセシウムは、ポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があり、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料または反応装置から混入する場合がある。このため、ポリカーボネート樹脂中のこれらの化合物の合計量は、金属量として、通常1質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量ppm以下、更に好ましくは0.7質量ppm以下である。
ポリカーボネート樹脂中の金属量は、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光またはInductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
<ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルとを触媒の存在下、エステル交換反応により重縮合させることによって得ることができる。
この時、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合してもよいし、混合せずに重合槽へ同時に投入されてもよいが、均一に混合することが好ましい。
混合の温度は通常80℃以上であることが好ましく、より好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも100℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が80℃以上であれば、溶解速度が速くなり、溶解度不足に起因する固化等の運転不具合が生じるおそれが小さいため好ましい。また、混合の温度が250℃以下であれば、ジヒドロキシ化合物の熱劣化が生じるおそれが小さく、得られるポリカーボネート樹脂の色相や耐光性が良好となるため好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の原料である前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度が、好ましくは10体積%以下、より好ましくは0.0001体積%〜10体積%、更に好ましくは0.0001体積%〜5体積%、特に好ましくは0.0001体積%〜1体積%である雰囲気下で行うことが、色相悪化防止の観点から好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)を得るためには、前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルは、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、0.900〜1.200のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.995〜0.999、又は、1.001〜1.115のモル比率である。
前記モル比率が0.900以上であれば、製造されたポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基の増加を抑制でき、ポリマーの熱安定性の悪化や、成形時の着色、エステル交換反応の速度の低下などの可能性が小さく、所望する高分子量のポリカーボネート樹脂が得られるため好ましい。
また、前記モル比率が1.200以下であれば、エステル交換反応の速度の低下などの可能性が小さく、所望する高分子量のポリカーボネート樹脂が得られるため好ましい。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂(A)の色相または耐光性を悪化させるおそれがある。
更には、用いる全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比率が1.200以下であれば、得られるポリカーボネート樹脂(A)中の残存炭酸ジエステル量が増加することなく、これらが紫外線を吸収してポリカーボネート樹脂(A)の耐光性を悪化させたり、成形加工時の臭気の原因となったり、金型の付着物が多くなったりするおそれが小さいため、好ましい。
また、用いる全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比率が0.999以下、又は1.001以上であれば、重合速度が速くなり過ぎず、重合が完結するまでの間に、最終重合槽で残存するモノマーを十分に脱気することが可能となり、樹脂中の残存モノマーの増大に起因する成形時の異臭やガス発生による気泡の発生、成形機での脈動などが発生するおそれが小さいため特に好ましい。
さらに連続重合で連続的に重合槽に原料混合物をフィードする場合は、ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステルのモル比の変動幅は通常0.07以下が好ましく、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.03以下である。
変動幅が0.07以下であれば、均一な重合が進行するために得られる分子量の幅が広くなり過ぎず、均一で成形性の良好なポリカーボネート樹脂が得られ、その結果として均一な成形体が得られるため好ましい。
耐光性を高く維持するために、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)に残存する前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルの濃度は、200質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100質量ppm以下、更に好ましくは60質量ppm以下、特に好ましくは30質量ppm以下である。現実的にポリカーボネート樹脂(A)は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、炭酸ジエステル含有量の下限値は通常1質量ppmである。
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、通常、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、またはバッチ式と連続式との組み合わせのいずれの方法でもよい。
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが色相または耐光性の観点から重要である。
例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量または末端基を持つポリマーが得られなかったりする可能性がある。さらには、均一な分子量のポリマーが得られない可能性、2つ以上のジヒドロキシ化合物を共重合させた場合にはそのジヒドロキシ化合物の組成比が仕込み通りにならない可能性、均一な組成比のポリマーが得られない可能性があり、結果的に成形性や成形体の物性を低下させ、本発明の目的を達成することができない可能性がある。
更には、ポリマーのジヒドロキシ化合物組成を均一にし、得られるポリマーの分子量を一定にするために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができる。
通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45〜180℃であることが好ましく、より好ましくは80〜150℃、特に好ましくは100〜150℃である。冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、逆に低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、例えば、温水、蒸気および熱媒オイル等が挙げられ、蒸気および熱媒オイルが好ましい。
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的なポリカーボネート樹脂(A)の色相、熱安定性または耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で重合させて製造することが好ましいが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制することが重要であり、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
本発明の方法で使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上であることが好ましく、より好ましくは3〜5つ、特に好ましくは4つである。
本発明において、反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせたり、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
本発明において、重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、重合槽に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合槽に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下または製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解または着色を助長する可能性がある。
具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、好ましくは130℃〜270℃、より好ましくは150℃〜240℃、更に好ましくは180℃〜230℃で、好ましくは1〜110kPa、より好ましくは5〜70kPa、更に好ましくは10〜30kPa(絶対圧力)の圧力下、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは0.5〜3時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施する。また、連続重合設備ではこの温度、圧力や時間を可能な限り一定にすることにより均一な組成比で均一な分子量のポリマーが得られる。
第2段目以降の反応は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を好ましくは1kPa以下にして、内温の最高温度を好ましくは200℃〜270℃、より好ましくは220℃〜260℃にして、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは1〜6時間、特に好ましくは0.5〜3時間行う。また、連続重合設備ではこの温度、圧力や時間を可能な限り一定にすることにより均一な組成比で均一な分子量のポリマーが得られる。
特にポリカーボネート樹脂の着色または熱劣化を抑制し、色相または耐光性の良好なポリカーボネート樹脂(A)を得るには、全反応段階における内温の最高温度が260℃未満であることが好ましく、特に220〜240℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
所定の分子量のポリカーボネート樹脂(A)を得るために、重合温度を高く、重合時間を長くし過ぎると、紫外線透過率は下がり、YI値は大きくなる傾向にある。
所定の分子量範囲でポリカーボネート樹脂を得るためには、圧力や温度を制御して最終重合槽の攪拌を一定にし、攪拌電流値や攪拌トルクを一定にしたり、重合槽以降のギアポンプの電流値を一定にしたりすることが望ましい。
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジフェニルまたはビスフェノール−A等の原料として再利用することが好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)は、上述の通り重縮合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。
ペレット化の方法としては、限定されるものではないが、例えば、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮、または、通常知られている、リン系化合物などの触媒失活剤、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤若しくは難燃剤等を添加、混練することも出来る。
押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度または分子量に依存するが、通常150〜300℃であることが好ましく、より好ましくは200〜270℃、更に好ましくは230〜260℃である。溶融混練温度を150℃以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度を低下し、押出機への負荷が小さくなり、生産性が向上する。また、溶融混練温度を300℃以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂の熱劣化を抑え、分子量の低下による機械的強度の低下、着色またはガスの発生を防ぐことができる。
押出機において、減圧脱揮する場合のベント圧は、通常0.001kPa〜5kPaであることが好ましく、より好ましくは0.005kPa〜3kPa、更に好ましくは0.007kPa〜2kPaである。
ベント圧が上記範囲であれば、残存するモノマーや発生するガスを十分に脱揮することが可能であり、ストランド状に押し出す際に、ストランドが切れたり、押出機においてポリカーボネート樹脂の重合反応や分解が進行したりするおそれが小さいため好ましい。
押出機へ投入される樹脂量、押出機の回転数、バレル温度、ベント圧力を可能な限り一定にすることにより、均一な樹脂を得られるようになる。
また、ベントやベント以降の配管を40℃以上に保温することにより、留出するモノマーがベントやベント以降の配管で固化せずに、均一なベント圧力を保持することができる。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが好ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJIS B9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが好ましい。
また、押出されたポリカーボネート樹脂(A)を冷却しチップ化する際は、空冷または水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが好ましい。
水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが好ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10〜0.45μmであることが好ましい。
さらに得られるペレットの形状を一定にすることにより、成形性のよいポリカーボネート樹脂ペレットとなる。
(リン系化合物)
前記ポリカーボネート樹脂(A)には、重合触媒を失活させ、さらに高温下での前記ポリカーボネート樹脂(A)の着色を抑制するために、リン系化合物を含有することが好ましい。このリン系化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸エステル、酸性リン酸エステルおよび脂肪族環状亜リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。上記の中でも触媒失活と着色抑制の効果がさらに優れているのは、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホン酸エステルであり、特にホスホン酸エステルが好ましい。
ホスホン酸としては、ホスホン酸(亜リン酸)、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸、デシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、アミノメチルホスホン酸、メチレンジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、プロピルホスホン酸無水物などが挙げられる。
ホスホン酸エステルとしては、ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ホスホン酸ジラウリル、ホスホン酸ジオレイル、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジベンジル、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、エチルホスホン酸ジエチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジプロピル、(メトキシメチル)ホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ヒドロキシメチルホスホン酸ジエチル、(2−ヒドロキシエチル)ホスホン酸ジメチル、p−メチルベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジエチルホスホノ酢酸tert−ブチル、(4−クロロベンジル)ホスホン酸ジエチル、シアノホスホン酸ジエチル、シアノメチルホスホン酸ジエチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノアセトアルデヒドジエチルアセタール、(メチルチオメチル)ホスホン酸ジエチルなどが挙げられる。
酸性リン酸エステルとしては、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジビニル、リン酸ジプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ビス(ブトキシエチル)、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸ジイソトリデシル、リン酸ジオレイル、リン酸ジステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸ジベンジルなどのリン酸ジエステル、またはジエステルとモノエステルの混合物、クロロリン酸ジエチル、リン酸ステアリル亜鉛塩などが挙げられる。
脂肪族環状亜リン酸エステルは、リン原子を含む環状構造中に芳香族基を含まない亜リン酸エステル化合物と定義する。例えば、ビス(デシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマーなどジヒドロキシ化合物とペンタエリスリトールジホスファイトからなるポリマー型の化合物などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
ポリカーボネート樹脂(A)中の前記リン系化合物の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)中のリン原子の含有量として1質量ppm以上、8質量ppm以下であり、1.2質量ppm以上、7質量ppm以下が好ましく、1.5質量ppm以上、6質量ppm以下がより好ましい。前記リン系化合物の含有量がポリカーボネート樹脂(A)中のリン原子の含有量として1質量ppm以上であれば、触媒失活や着色抑制の効果を十分に奏する。一方、ポリカーボネート樹脂(A)中のリン原子の含有量として8質量ppm以下であれば、ポリカーボネート樹脂(A)が着色するおそれが小さい。
前記リン系化合物は通常、三塩化リンが出発原料として用いられるため、未反応物や脱離した塩酸由来の含塩素成分が残存する場合があるが、前記リン系化合物に含有される塩素原子の量は5質量%以下であることが好ましい。塩素原子の残存量が5質量%以下であれば、前記リン系化合物を添加する製造設備の金属部を腐食させたり、ポリカーボネート樹脂(A)の熱安定性を低下させ、着色や熱劣化による分子量低下を促進させたりするおそれが小さい。
前記リン系化合物は前述のとおり、押出機を用いてポリカーボネート樹脂(A)に添加、混練されることが好ましい。特に、ポリカーボネート樹脂(A)を重合後に溶融状態のまま押出機に供給し、ただちに前記リン系化合物を樹脂に添加することが最も効果的である。さらに、触媒を失活させた状態で、押出機で真空ベントにより脱揮処理を行うと、効率的に低分子成分を脱揮除去することができる。
<ポリカーボネート樹脂(A)の物性>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、還元粘度で表すことができ、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度は、通常0.30dL/g以上が好ましく、0.35dL/g以上がより好ましく、また、1.20dL/g以下が好ましく、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度が0.30dL/g以上であれば、得られる本組成物の耐衝撃性や表面硬度などが良好となる。一方還元粘度が1.20dL/g以下であれば、ポリカーボネート樹脂(A)の流動性が低下することなく、生産性または成形性を維持できる。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度の範囲幅は、通常0.05dL/g以下が好ましく、0.04dL/g以下がより好ましい。還元粘度の範囲幅が0.05dL/g以下であれば、押出成形中の脈動や、成形品の厚み変動や幅変動を発生するおそれが小さいため好ましい。
ここで、ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度の範囲幅とは、連続的に製造されるポリカーボネート樹脂(A)について、例えば4〜24時間にわたって、連続的に又は1〜8時間に1回の頻度で、還元粘度を測定することにより、還元粘度の経時変化を調べた場合、その最大値と最小値との差に該当するものである。
還元粘度の範囲幅の小さいポリカーボネート樹脂(A)を製造する方法としては、圧力や温度を制御して最終重合槽の攪拌を一定にし、攪拌電流値や攪拌トルクを一定にしたり、重合槽以降のギアポンプの電流値を一定にしたりすることが望ましい。
更に本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の下記一般式(6)で表される末端基の濃度(「末端フェニル基濃度」という)の下限は、通常20μeq/gであることが好ましく、より好ましくは40μeq/g、特に好ましくは50μeq/gであり、上限は通常160μeq/gであることが好ましく、より好ましくは140μeq/g、特に好ましくは100μeq/gである。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の下記一般式(6)で表される末端基の濃度が160μeq/g以下であれば、重合直後または成形時の色相と紫外線曝露後の色相がともに良好となるため好ましい。また、20μeq/g以上であれば、十分な熱安定性を有するため好ましい。
一般式(6)で表される末端基の濃度を制御するには、原料である前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率を制御する他、エステル交換反応時の触媒の種類若しくは量、重合圧力または重合温度を制御する方法等が挙げられる。
前記一般式(5)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用いて、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成形時の臭気の原因となる場合がある。
ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は2000質量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性または臭気低減の観点、または押出成形時の脈動抑制の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器または真空ベント付の押出機を用いて、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量を、好ましくは1500質量ppm以下、更に好ましくは1000質量ppm以下、特には700質量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に芳香族モノヒドロキシ化合物を除去することは困難であり、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限値は、通常1質量ppmである。
さらに本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の範囲幅は、500質量ppm以下、特に400質量ppm以下、とりわけ300質量ppmとすることが好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の範囲幅が500質量ppm以下であれば、押出成形において脈動が発生したり、ベントの不均一な圧力変動が発生したりするおそれが少ない。
ここで、ポリカーボネート樹脂(A)の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の範囲幅とは、連続的に製造されるポリカーボネート樹脂(A)について、例えば4〜24時間にわたって、連続的に又は1〜8時間に1回の頻度で芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量を測定することにより、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の経時変化を調べた場合、その最大値と最小値との差に該当するものである。
芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の範囲幅の小さいポリカーボネート樹脂(A)を製造する方法としては仕込みのジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比を一定にすることや、重合槽の還流温度を一定にし、重合槽の温度や圧力を一定にし、減圧系での運転では真空トラップを複数基完備する等の工夫を行うことが挙げられる。
尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)の芳香環に結合した水素原子のモル数を(X)、芳香環以外に結合した水素原子のモル数を(Y)とした場合、芳香環に結合した水素原子のモル数の全水素原子のモル数に対する比率は、X/(X+Y)で表されるが、耐光性には上述のように、紫外線吸収能を有する芳香族環が影響を及ぼす可能性があるため、X/(X+Y)は0.1以下であることが好ましく、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.02以下、特に好ましくは0.01以下である。X/(X+Y)は、1H−NMRで定量することができる。
[芳香族化合物(B)]
本組成物は、ビフェニル化合物、ターフェニル化合物およびスチルベン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族化合物(B)を含有することが重要である。前記ポリカーボネート樹脂(A)と係る芳香族化合物(B)を含有することにより、驚くべきことに、本組成物が、芳香族ポリカーボネート樹脂を用いた場合と比較して耐熱性の低下がほとんどなく、しかも表面硬度や低吸水性が向上し、かつ、透明性や低複屈折性にも優れるものとなるのである。
芳香族化合物(B)がどのようにポリカーボネート樹脂(A)に作用して上記の効果を奏するのか、また、なぜ芳香族ポリカーボネート樹脂を用いた場合に顕著に低下する耐熱性が、ポリカーボネート樹脂(A)を用いた場合にほとんど低下しないのかについては、詳細には明らかではないが、従来の技術では全く考慮されていなかったポリカーボネート樹脂(A)と芳香族化合物(B)の各々の分子構造に起因する相互作用によるものではないかと推測される。
また、本組成物には芳香族化合物(B)をポリカーボネート樹脂(A)と芳香族化合物(B)の合計質量に対して1質量%以上、8質量%以下含有することが重要である。芳香族化合物(B)の含有量は、2質量%以上であることが好ましく、3質量%であることがより好ましい。また、芳香族化合物(B)の含有量は、7質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
芳香族化合物(B)を1質量%以上含有することで、本組成物が表面硬度、低吸水性に優れるものとなる。一方、芳香族化合物(B)を8質量%以下含有することで、本組成物の耐熱性や透明性、低複屈折性が低下することがない。
本発明において使用されるビフェニル化合物は、2つのベンゼン環が単結合により結合した化合物であり、ハロゲン基やヒドロキシル基、アルキル基などの置換基を有していてもよいが、中でも置換基を有しないビフェニルが好ましい。
本発明において使用されるターフェニル化合物は、3つのベンゼン環が単結合により結合した化合物であり、オルトターフェニル化合物、メタターフェニル化合物およびパラターフェニル化合物が例示され、ハロゲン基やヒドロキシル基、アルキル基などの置換基を有していてもよい。中でも、オルトターフェニル化合物又はメタターフェニル化合物が好ましく、置換基を有しないもの、すなわちオルトターフェニル又はメタターフェニルがさらに好ましい。
本発明において使用されるスチルベン化合物は、エチレンにおいて異なる炭素原子に結合する2個の水素原子がベンゼン環に置換した化合物であり、炭素−炭素二重結合のシス−トランス異性によるシススチルベン化合物及びトランススチルベン化合物が例示され、ハロゲン基やヒドロキシル基、アルキル基などの置換基を有していてもよい。中でも、トランススチルベン化合物が好ましく、置換基を有しないもの、すなわちトランススチルベンがさらに好ましい。
[その他の材料]
本組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ポリカーボネート樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、前記芳香族化合物(B)以外の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、染料等の添加剤を含有することができる。
[本組成物]
本組成物は、前記ポリカーボネート樹脂(A)を主成分とし、かつポリカーボネート樹脂(A)と芳香族化合物(B)の合計質量に占める前記芳香族化合物(B)の割合が1質量%以上、8質量%以下であることにより、透明性、低複屈折性に優れると共に、前記の通り耐熱性がほとんど低下することがない。
具体的には、本組成物のガラス転移温度Tg(X)は単一であることが好ましい。本発明において、混合物(X)のガラス転移温度Tg(X)が単一であるとは、混合物(X)についてJIS K7121(2012年)に準じて、窒素雰囲気下で試料10mgを加熱速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で0℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムのガラス転移点が1つ存在するという意味である。
一般的にポリマーブレンド組成物のガラス転移温度が単一であるということは、混合する樹脂が分子レベルで相溶した状態にあることを意味し、相溶している系と認めることができる。本組成物のガラス転移温度Tg(X)が単一であることにより、本組成物において優れた透明性と低複屈折性を実現できる。
また、本組成物は前記ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度Tg(A)と前記Tg(X)が、0℃≦Tg(A)−Tg(X)≦30℃の関係を有することが好ましく、0℃≦Tg(A)−Tg(X)≦25℃の関係を有することがさらに好ましく、0℃≦Tg(A)−Tg(X)≦20℃の関係を有することが特に好ましい。
Tg(A)とTg(X)が係る関係を有すれば、本組成物はとりわけ耐熱性の低下がほとんどない組成物であると認めることができる。
すなわち、本組成物のガラス転移温度Tg(X)は、80〜140℃であることが好ましく、90〜130℃であることがさらに好ましく、100〜125℃であることが特に好ましい。Tg(X)が80℃以上であれば、本組成物が耐熱性を有するため好ましい。また、Tg(X)が140℃以下であれば、本組成物が加工性に優れるため好ましい。
[シート]
本発明のもう一つの要旨は、本組成物を用いて形成されるシート(以下、「本シート」と称する)にある。本シートは単層シートでも多層シートでもよく、多層シートの場合は本組成物からなる層を少なくとも1層有していればよいが、中でも本組成物からなる層をシートの少なくとも一方の最外層に有していれば、低吸水性や表面硬度に優れるという本組成物の特性が発揮されるため好ましい。
なお、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。また、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(JIS K6900(1994年))。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本シートの製造方法は特に限定されるものではなく、Tダイキャスト法、ロール成形法、プレス成形法、カレンダー法、インフレーション法、チューブラー法など、従来公知の方法を適宜選択することができる。Tダイキャスト法を例に挙げれば、前記ポリカーボネート樹脂(A)、前記芳香族化合物(B)、及び必要に応じてその他の樹脂や添加剤を、単軸押出機や二軸押出機などで溶融混練し、Tダイ(口金)によりシート状に押し出し、キャスティングロールで急冷、固化することにより、無延伸シートを製造することができる。
また、製造した無延伸シートを、さらにロール延伸法やテンター延伸法、チューブラー延伸法などを用いて延伸してもよい。
本シートの厚みは特に限定されるものではないが、例えば加工性、実用性を考慮した場合、0.05mm以上、1.0mm以下であることが好ましく、0.10mm以上、0.50mm以下であることがより好ましい。本シートの厚みが0.05mm以上であれば、好適なシートの剛性が発現し、耐カール性に優れる。一方、本シートの厚みが1.0mm以下であれば、二次加工性に優れるため、多方面の用途で好適に用いることができる。
本組成物は透明性に優れるものであり、意匠性、内容物の視認性等の観点から、JIS K7136(2000年)に基づき測定される、単層の本シートの厚み0.10mmでの全ヘーズ値が5.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが特に好ましい。なお、全ヘーズ値の下限は特に限定されず、可能な限り小さい方が好ましい。
また、JIS K7136−1(1997年)に基づき測定される、単層の本シートの厚み0.10mmでの全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
全ヘーズ値及び全光線透過率が係る範囲であれば、本組成物が特に透明性に優れるものとなる。
本組成物は低複屈折性に優れるものであり、589nmの波長で測定される単層の本シートの光弾性係数の値が30×10−12Pa−1以下であることが好ましく、25×10−12Pa−1以下であることがさらに好ましく、20×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。なお、光弾性係数の値の下限は特に限定されず、可能な限り小さい方が好ましい。
光弾性係数の値が係る範囲であれば、本組成物が特に低複屈折性に優れ、光学歪みが小さいものとなる。
本組成物は低吸水性に優れるものであり、JIS K7209(2000年)のA法に基づき測定される、単層の本シートの飽和吸水率の値が0.8質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.6質量%以下であることが特に好ましい。なお、飽和吸水率の値の下限は特に限定されず、可能な限り小さい方が好ましい。
飽和吸水率の値が係る範囲であることにより、本組成物が特に低吸水性に優れ、水分による劣化のおそれが小さいものとなる。
本組成物は表面硬度に優れるものであり、押込み試験による微小硬度測定において、単層の本シートの押込み深さ10μmにおける圧子にかけられる試験荷重により定義される微小硬度が130MPa以上であることが好ましく、140MPa以上であることがさらに好ましく、150MPa以上であることが特に好ましい。なお、微小硬度の上限は特に限定されないが、通常200MPa以下である。
微小硬度の値が係る範囲であることにより、本組成物及び本シートが特に表面硬度に優れ、傷つきにくいものとなる。
本組成物は耐衝撃性に優れるものであり、ASTM D3763に基づき測定される高速衝撃試験において、単層の本シートの破壊エネルギーの値が100kgf・mm以上であることが好ましく、110kgf・mm以上であることがさらに好ましく、120kgf・mm以上であることが特に好ましい。なお、破壊エネルギーの値の上限は特に限定されないが、通常200kgf・mm以下である。
破壊エネルギーの値が係る範囲であることにより、本組成物及び本シートが特に耐衝撃に優れるものとなる。
[用途]
本組成物は、前記の通り本シートの製造に利用することができるが、これに限定されることなく、各種のプレス成形品、押出成形品、射出成形品などの製造に好適に使用することができる。
また本シートは、透明性、低吸水性、耐熱性、表面硬度、低複屈折性および耐衝撃性のバランスに優れるシートであるから、例えば、建材や住宅内装部材、自動車・鉄道・航空機などの内装・外装部材、ディスプレイ前面板・表面保護用透明シート・偏光板保護用フィルムなどの光学部材、樹脂被覆金属板用シート、成形(真空・圧空成形、熱プレス成形など)用シート、シュリンクフィルム・シュリンクチューブなどの各種包装用材料、家電製品用部材、OA機器用部材として使用できる。特に、ディスプレイ前面板や表面保護用透明シートなどの光学部材として好適に使用できる。
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示される原料及び試験片についての種々の測定値及び評価は次のようにして行った。
[評価方法]
(1)透明性(全ヘーズ値・全光線透過率)
JIS K7136(2000年)及びJIS K7136−1(1997年)に基づき、厚み0.10mmの単層シートについて、全ヘーズ値と全光線透過率の測定を行い、全ヘーズ値が1.0%以下のもの、及び全光線透過率が85%以上のものを合格とした。
(2)光弾性係数
王子計測機器株式会社製「KOBRA−WR」を用いて、単層シートに応力をかけた状態で、位相差を測定することにより、光弾性係数を算出した。光弾性係数が30×10−12Pa−1以下のものを合格とした。
(3)飽和吸水率
JIS K7209(2000年)のA法に基づき、単層シートを23℃の水に浸漬後、吸水量を測定し、飽和吸水率が0.8質量%以下のものを合格とした。
(4)耐熱性(ガラス転移温度)
示差走査熱量計(株式会社パーキンエルマー製「Diamond DSC」)を用いて、JIS K7121に準じて、試料10mgを加熱速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で0℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムの転移点からガラス転移温度(Tg)(℃)を求めた。
(5)耐衝撃性(破壊エネルギー)
ASTM D3763に基づき、ストライカの速度3m/秒、温度23℃の条件下で、厚み0.10mmの単層シートについてハイドロショット高速衝撃試験を行った。破壊エネルギーの値が100kgf・mm以上のものを合格とした。
(6)表面硬度(微小硬度)
単層シートについて圧子押込み試験を行った。試験片の押込み深さ10μmにおいて圧子にかけられる試験荷重が130MPa以上のものを合格とした。
[使用した材料]
<ポリカーボネート樹脂(A)>
(A)−1:イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=70/30mol%で構成されるポリカーボネート樹脂(三菱化学株式会社製「DURABIO D7340R」)
(A)−2:イソソルビドに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=50/50mol%で構成されるポリカーボネート樹脂(三菱化学株式会社製「DURABIO D5380R」)
(A)−3:ビスフェノール−Aに由来する構造単位=100mol%で構成される芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ユーピロンS3000」)
<芳香族化合物(B)>
(B)−1:メタターフェニル(東京化成工業株式会社製)
(B)−2:オルトターフェニル(東京化成工業株式会社製)
(B)−3:ビフェニル(東京化成工業株式会社製)
(B)−4:トランススチルベン(東京化成工業株式会社製)
(実施例1)
(A)−1、及び、(B)−1を混合質量比95:5の割合でドライブレンドした後、25mmφ同方向二軸押出機を用いて230℃で混練し、Tダイ(口金)よりシート状に押出し、次いで100℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み0.10mmの無延伸の単層シートを作製した。得られたシートについて、各種評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例2)
(A)−1、及び、(B)−2を混合質量比95:5の割合でドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例3)
(A)−1、及び、(B)−3を混合質量比95:5の割合でドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例4)
(A)−1、及び、(B)−4を混合質量比95:5の割合でドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例5)
(A)−2、及び、(B)−1を混合質量比95:5の割合でドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例1)
(A)−1を単独で用い、実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例2)
(A)−1、及び、(B)−1を混合質量比90:10の割合でドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例3)
(A)−2を単独で用い、実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例4)
(A)−2、及び、(B)−1を混合質量比90:10の割合でドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例5)
(A)−3を単独で用い、実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例6)
(A)−3、及び、(B)−1を混合質量比95:5の割合でドライブレンドした以外は実施例1と同様の方法でシートの作製、及び、評価を行った。結果を表1に示す。
表1より明らかである通り、実施例では、耐熱性、低吸水性、表面硬度、透明性、低複屈折性および耐衝撃性の全ての特性について合格基準を超え、各特性のバランスに優れたポリカーボネート樹脂組成物が得られた。
これに対し、比較例1及び3のように、特定の芳香族化合物を含有しなかった場合には、低吸水性や表面硬度が劣る結果となった。
一方、比較例2及び4のように、ポリカーボネート樹脂(A)に対して特定の芳香族化合物を規定の範囲を超えて含有すると、耐衝撃性や透明性、耐熱性が低下する結果となった。
また、比較例5のように、芳香族ポリカーボネート樹脂のみ場合は低複屈折性や表面硬度が劣るのであり、これに対して比較例6のように特定の芳香族化合物を含有させても、表面硬度はほとんど向上せず、かえって耐熱性が著しく低下する上に透明性も低下し、依然として低複屈折性も劣っていた。