本発明は、犯罪捜査等に於ける指紋の採取に使用するための指紋採取用シートに関するものである。
従来、犯罪捜査等に於ける指紋の採取及び採取した指紋の写真撮影には、以下のような方法が用いられている。即ち、まず採取対象物に付着している指紋に、アルミ粉末等の検出用粉末を撒布する。このとき採取対象物が白色系の場合は、反対色である黒色系のアルミ粉末を用い、採取対象物が黒色系の場合は反対色である白色系のアルミ粉末を用いて行うことにより、採取対象物に検出される指紋が視認し易いものとする。
次に、ダスターブラシ等の穂先で上記検出用粉末を軽く払うようにして、指紋の隆線部分だけに検出用粉末を付着させ、指紋を検出する。そして、この検出指紋に、透明又は半透明に形成した指紋採取用シートの指紋採取面を圧着することにより、検出指紋を指紋採取用シートに転写する。次に、上述の如く検出指紋を転写した指紋採取面に検査台紙を貼着し、透明又は半透明に形成した指紋採取用シートを介して、検出指紋を写真撮影する。
上述の如き指紋の採取作業に用いるためのものとして、特許文献1に示す如き指紋採取用シートが知られている。この指紋採取用シートは、透明又は半透明のゲルシートにより形成したものであって、高い粘着性を有するゲルシートのみにより指紋採取用シートを形成しているため、指紋採取面のみならず、その反対側の面(以下、押圧面という。)も高い粘着性を有するものとなる。そのため、検出指紋を採取する際に、採取者が押圧面を手指で押圧すると、押圧面に採取者自身の指紋が目視可能に付着してしまうおそれがある。そして、このように採取者自身の指紋が押圧面に目視可能に付着してしまうと、前述の如く指紋採取用シートを介して検出指紋を写真撮影する場合に、指紋採取面に採取した検出指紋と、押圧面に目視可能に付着した採取者自身の指紋が重なってしまい、検出指紋の隆線の形状を明確に識別できなくなる虞れがある。
そこで、上記特許文献1には、前記ゲルシートの押圧面側に、少なくとも表面側に粘着力を有しない伸張抑制シートを止着してシート本体を形成した指紋採取用シートも開示されている。また、特許文献2に示すごとく指紋採取を行うゲルシートの一方の面を指紋採取面とするとともに、このゲルシートの他方の面にウレタンシートを止着することにより、採取者自身の指紋がゲルシートに目視可能に付着するのを抑制することにより、指紋採取用シートを介して検出指紋を写真撮影する場合にも、検出指紋を明確に識別できるようにしようとするものが知られている。
特開2006−333890号公報
特開2010−207406号公報
検出指紋を写真撮影する場合に、指紋採取用シートの斜め上方向から検出指紋に光を当てて写真撮影を行う透過法によって検出指紋の撮影を行うことが知られている。この方法は検出指紋のアルミ粉末が、指紋採取用シートの斜め上方向からの光によって反射し検出指紋を浮き上がらせる効果があり、検出指紋を見やすいものとすることができる。しかし、従来の伸張抑制シートやウレタンシートを用いる場合、透過法を用いて検出指紋の撮影を行うと、伸張抑制シートやウレタンシートが乱反射を生じ、検出指紋が識別出来なくなる場合が生じる。
これは、伸張抑制シートやウレタンシートのゲルシートと接触する面に微細な凹凸であるシボを形成していることを原因としている。このシボは従来の伸張抑制シートやウレタンシートが、Tダイキャスト法により成形されていたために、必然的に形成されるものであった。Tダイキャスト法は、Tダイから押し出された樹脂原料を、冷却ロールで引き出すことにより成形するため、冷却ロールに固着しないように冷却ロールと接触する面にシボを形成する必要があった。このシボの形成された面をゲルシートに接触させると、透明なゲルによってシボが埋められ、ウレタンシートを垂直上部方向から視認する場合に於いては、伸張抑制シートやウレタンシートの透明性の確保に通常は問題を生じることがない。
指紋の採取に於いて、採取対象物が白色系の場合は反対色である黒色系のアルミ粉末を用い、 指紋採取後のゲルシートを白色の樹脂材層により被覆保護し、黒色のアルミ粉末を容易に視認出来るようにしている。また、指紋の採取に於いて、採取対象物が黒色系の場合は反対色である白色系のアルミ粉末を用い、 指紋採取後のゲルシートを黒色の樹脂材層により被覆保護し、白色系のアルミ粉末を容易に視認出来るようにしている。そして、黒色系のアルミ粉末を用い、 指紋採取後のゲルシートを白色系の樹脂材層により被覆保護したものを透過法により光を当てると、伸張抑制シートやウレタンシートが、シボによって乱反射を生じるが、黒色系のアルミ粉末は乱反射の影響を受けることが少なく識別が可能となる。しかし、白色系のアルミ粉末を用い、 指紋採取後のゲルシートを黒色系の樹脂材層により被覆保護したものを透過法により光を当てると、伸張抑制シートやウレタンシートが、シボによって乱反射を生じ、この乱反射が白色系のアルミ粉末と同化し、写真撮影した場合に白色系のアルミ粉末を検出し難いものとなってしまう。
そこで、本願発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、ゲルシートの指紋採取面とは反対の面に、ゲルシートへの作業者の指紋付着を防止するためのウレタンシートを貼り付けたものに於いて、透過法によりウレタンシートの斜め上部から光を当てても乱反射を生じさせることがなく、採取指紋の撮影に支障が生じないようにするものである。
本願発明は、上述の如き課題を解決するため、 一方の面を指紋採取面とするゲルシートと、このゲルシートの他方の面に止着したウレタンシートとによりシート本体を形成する。この、ウレタンシートはインフレーション成形方法により成形し、前記ゲルシートの指紋採取面を、指紋検出用粉末を付着させて検出した検出指紋に圧着することにより、前記検出指紋を転写採取可能として成るものである。
また、ゲルシートは、アスカーC硬度が3〜20度、伸び率が10〜20%、JIS Z 0237で測定した粘着力が0.3N/10mm幅〜4.0N/10mm幅、JIS K 6255で測定した反発弾性率が10%〜40%、厚さが1.5mm〜3.0mm、光波長350〜900ナノメートルの範囲における光透過率が75%〜100%であってもよい。
また、ウレタンシートは、少なくとも表面側に粘着力を有しないとともに、JIS A ゴム硬度が60度〜88度、伸び率が10〜30%、厚さが0.01〜0.05mm、前記シート本体は、アスカーC硬度が4度〜30度、伸び率が10〜20%、JIS K 6255で測定した反発弾性率が21%〜49%、光波長350〜900ナノメートルの範囲における光透過率が75%〜100%であっても良い。
また、ゲルシートとウレタンシートとから成る前記シート本体は、アスカーC硬度が4度〜30度、伸び率が10〜20%、JIS K 6255で測定した反発弾性率が21%〜49%、光波長350〜900ナノメートルの範囲における光透過率が75%以上であっても良い。
また、シート本体は、非使用時において、検査台紙により指紋採取面を被覆するものであっても良い。このように形成することにより、シート本体の非使用時に於いて、埃、ゴミ、検出指紋以外の指紋等が指紋採取面に付着して、検出指紋の隆線の形状が不明確となるのを防止することが可能となる。
本発明は上述の如く構成したものであって、一方の面を指紋採取面とするゲルシートと、このゲルシートの他方の面に止着したウレタンシートとによりシート本体を形成するものである。そして、このウレタンシートはインフレーション成形方法により成形したものであるから、ウレタンシートはシボを形成していない。そのため、指紋採取用シートの斜め上方向から検出指紋に光を当て写真撮影を行う透過法を用いて撮影を行っても、乱反射を生じる事がなく、白色系のアルミ粉末により採取した指紋の読み取りも可能とする。
本発明で使用するゲルシートは、付加重合系熱可塑性ブロック弾性体及びパラフィン系オイルを主成分として、押出成形、コンプレーション成形、インジェクション成形、カレンダー成形、真空注型成形、トランスファ成形等の適宜の成形方法で板状に成形している。また、上記の付加重合系熱可塑性ブロック弾性体は、ポリスチレンブロックと水添又は非水添のポリイソプレンブロックとからなるブロック共重合体、又はポリスチレンブロックと水添又は非水添のポリブタジエンブロックとからなるブロック共重合体の何れかを用いることが可能である。また、付加重合系熱可塑性ブロック弾性体は、例えば全体の数平均分子量が5,000〜500,000の範囲にあり、ポリスチレンブロック単位の含有量が10〜50wt%であり、かつポリイソプレンブロック単位又はポリブタジエンブロック単位の二重結合の70%以上が水添されたものがより好ましく用いられる。また、ポリスチレンブロック単位の重量平均分子量としては5,000〜130,000、ポリイソプレンブロック単位又はポリブタジエンブロック単位の重量平均分子量としては10,000〜300,000のものを例示することができる。
さらに具体的には、ポリスチレンブロックと水添又は非水添のポリイソプレンブロックとからなる付加重合系熱可塑性ブロック弾性体として、飽和型のジブロック及びトリブロックタイプのスチレンエチレンプロピレン(SEP)やスチレンエチレンプロピレンスチレン(SEPS)を用いることが好ましい。また、ポリスチレンブロックと水添又は非水添のポリブタジエンブロックとからなる付加重合系熱可塑性ブロック弾性体としては、スチレンエチレンブタジエン(SEB)やスチレンエチレンブタジエンスチレン(SEBS)を用いることが好ましい。
また、ゲルシートは硬度を3〜20度とする。この硬度は「アスカ−C型硬度計」(高分子計器株式会社製)を用いて測定した結果である。硬度を3度未満とすると、ゲルシートが柔らかすぎるものとなるため、大きな湾曲や凹凸のある採取対象物から検出指紋を採取する場合に、検出指紋の隆線の形状が変形してしまう虞れがある。一方、硬度を20度より大きくすると、ゲルシートが硬くなりすぎるものとなるため、採取対象物が大きな湾曲や凹凸を有する場合に、この大きな湾曲部や凹凸部に添ってゲルシートが密着できず、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じやすいものとなる。
また、ゲルシートの伸び率は、10〜20%とする。ゲルシートの伸び率を10%未満とすると、ゲルシートとウレタンシートとからなるシート本体の伸び率も低下し、シート本体が十分な伸張性を有しないものとなる。そのため、大きな湾曲や凹凸のある採取対象物から検出指紋を採取する場合に、シート本体を伸張させて、上記の大きな湾曲形状や凹凸形状に添って指紋採取面を密着させることが困難となり、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じやすいものとなる。また、必要に応じてシート本体を伸張させることができないため、1回の採取作業で採取可能な検出指紋の面積が限定されるものとなる。また、ゲルシートの伸び率が20%を超えると、ゲルシートが平面方向に伸張しすぎるものとなり、検出指紋の隆線の形状が変形してしまうおそれがある。
また、ゲルシートの粘着力は、0.3N/10mm幅〜4.0N/10mm幅の範囲内とする。この粘着力は、JIS Z 0237に準拠して測定したものである。ゲルシートの粘着力が0.3N/10mm幅未満であると、ゲルシートの指紋採取面に検出指紋を十分に転写できないおそれがある。また、ゲルシートの粘着力が、4.0N/10mm幅より大きいと、採取対象物からシート本体を剥離する際に、採取対象物の塗装被膜等がシート本体とともにはがれてしまったり、指紋採取面が採取対象物に強く粘着して、シート本体を採取対象物から剥離するのに強い引っ張り力が必要となり、採取した検出指紋の隆線の形状が、上記の強い引っ張り力で変形してしまうおそれがある。
また、ゲルシートの反発弾性率はJIS K 6255に準拠した測定方法で10%〜40%とする。反発弾性率が10%より小さいと、上記ゲルシートとウレタンシートとからなるシート本体を採取対象物から剥離しても、シート本体が弾性復帰せずに採取対象物の表面の形状に保持され、検出指紋を正確に採取できないおそれがある。また、反発弾性率が40%より大きいと、採取対象物の大きな湾曲部や凹凸部から指紋を採取する場合に、採取対象物に付着した指紋に指紋採取面を強い押圧力で圧着することが必要なものとなる。従って、通常の押圧力で圧着した場合には、採取対象物の大きな湾曲部や凹凸部に指紋採取面を密着させることができず、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じやすいものとなる。
また、ゲルシートは、厚さ1.5〜3.0mmの範囲内で形成する。ゲルシートを1.5mmより薄くすると、採取対象物にゲルシートを圧着した際に、ゲルシートが厚さ方向に十分に圧縮変形せず、ゲルシートが大きな湾曲部や凹凸部に添って密着できないおそれがある。また、ゲルシートを3.0mmより厚くすると、採取対象物にゲルシートの指紋採取面を圧着した際に、ゲルシートが平面方向に変形しすぎるものとなる。そして、このゲルシートが平面方向に変形しすぎた状態で検出指紋を採取すると、ゲルシートを採取対象物から剥離して、ゲルシートが元の形状に弾性復帰した際に、採取した検出指紋の隆線の形状が変形してしまうおそれがある。また、採取対象物の凸型の大きな湾曲面から指紋を採取するような場合に、指紋採取面の内側部分と外周部分との圧縮変形率の差が大きなものとなるため、指紋採取面に撓みを生じて、検出指紋が正確に採取できない場合がある。また、ゲルシートの肉厚が増すことにより押圧力が指紋採取面に正確に伝わりにくいものとなるため、採取対象物の大きな湾曲や凹凸に沿った密着ができず、検出指紋を正確に採取できない虞れがある。
また、ゲルシートは、光波長350〜900ナノメートルの範囲における光透過率が75%〜100%となるように形成している。ゲルシートの光透過率が75%未満となると、ゲルシートとウレタンシートとからなるシート本体の光透過率も低下するものとなり、シート本体が十分な透明性を有しないものとなる。そのため、ゲルシートの指紋採取面を検査台紙に貼着し、シート本体を介して検出指紋を写真撮影する場合に、検出指紋を明確に識別することが困難となる。
また、ウレタンシートはインフレーション成形方法により成形する。インフレーション成形法は、溶融樹脂を円形ダイの狭いスリットからチューブ状に押し出し、このチューブを外部から冷風で冷却するとともにダイの中心部から空気を吹き込んでインフレーションさせ、これを巻き取って形成するものである。Tダイキャスト法の如く冷却ロールを使用しないから、ウレタンシートにシボを形成することが無く、指紋採取用シートの斜め上方向から検出指紋に光を当てて写真撮影を行う透過法を用いて撮影を行っても、乱反射を生じる事がなく、指紋の読み取りを可能とする。
また、ウレタンシートは、JIS A ゴム硬度を60度〜88度となるように形成する。ウレタンシートのゴム硬度を60度未満とすると、ウレタンシートのゴム硬度が低すぎて、後述のウレタンシートの厚さ(0.01mm〜0.05mm)では、制作困難なものとなる。また、ウレタンシートのゴム硬度が88度を超えると、ウレタンシートの高い硬度により、ウレタンシートとゲルシートとからなるシート本体の伸張も抑制されるものとなり、大きな湾曲や凹凸のある採取対象物から検出指紋を採取する場合に、シート本体を伸張させて、上記の大きな湾曲形状や凹凸形状に添って指紋採取面を密着させることが困難となる。そのため、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じやすいものとなる。
また、ウレタンシートの伸び率は、10%〜30%となるように形成する。ウレタンシートの伸び率を10%未満とすると、ゲルシートとウレタンシートとからなるシート本体の伸び率も低下し、シート本体が十分な伸張性を有しないものとなる。そのため、大きな湾曲や凹凸のある採取対象物から検出指紋を採取する場合に、シート本体を伸張させて、上記の大きな湾曲形状や凹凸形状に添って指紋採取面を密着させることが困難となり、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じやすいものとなる。また、必要に応じてシート本体を伸張させることができないため、1回の採取作業で採取可能な検出指紋の面積が限定されるものとなる。また、ウレタンシートの伸び率が30%を超えると、ゲルシートとウレタンシートとからなるシート本体が伸張しすぎるものとなり、検出指紋の隆線の形状が変形してしまうおそれがある。
また、ウレタンシートは、厚さを0.01〜0.05mmとなるように形成する。ウレタンシートの厚さを0.01mm未満とすると、ウレタンシートの引っ張り強度が低下しすぎて、検出指紋を採取するためにシート本体を伸張した際に、ウレタンシートが破断するおそれがある。また、ウレタンシートの厚さを0.05mmより厚くすると、シート本体の硬度が高くなりすぎて、十分な伸張性を有しないものとなる。そのため、大きな湾曲や凹凸のある採取対象物から検出指紋を採取する場合に、シート本体を伸張させて、上記の大きな湾曲形状や凹凸形状に添って指紋採取面を密着させることが困難となる。そのため、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じやすいものとなる。
また、ゲルシートとウレタンシートとからなるシート本体は、硬度を4〜30度とする。この硬度は、「アスカーC型硬度計」(高分子計器株式会社製)を用いて、前記指紋採取面を加圧側として測定した結果である。シート本体の硬度を4度未満とすると、シート本体のゲルシート側が柔らかすぎるものとなり、大きな湾曲や凹凸のある採取対象物から検出指紋を採取する場合に、検出指紋の隆線の形状が変化してしまうおそれがある。一方、シート本体の硬度を30度より大きくすると、シート本体のゲルシート側が硬くなりすぎるものとなり、採取対象物が大きな湾曲や凹凸を有する場合に、この大きな湾曲部や凹凸部に添ってゲルシートが密着できず、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じやすいものとなる。
また、シート本体の伸び率は、10〜20%とする。シート本体の伸び率を10%未満とすると、シート本体が十分な伸張性を有しないものとなる。そのため、大きな湾曲や凹凸のある採取対象物から検出指紋を採取する場合に、シート本体を伸張させて、上記の大きな湾曲形状や凹凸形状に添って指紋採取面を密着させることが困難となり、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じやすいものとなる。また、必要に応じてシート本体を伸張させることができないため、1回の採取作業で採取可能な検出指紋の面積が限定されるものとなる。また、シート本体の伸び率が20%を超えると、シート本体を構成するゲルシートの伸び率も高すぎるものとなり、ゲルシートが平面方向に伸張しすぎて、検出指紋の隆線の形状が崩れてしまうおそれがある。
また、シート本体の反発弾性率はJIS K 6255に準拠した測定方法で21%〜49%とする。この反発弾性率は、前記指紋採取面を衝突面として計測した結果である。シート本体の反発弾性率が21%より小さいと、シート本体のゲルシート側の反発弾性率が低すぎるものとなり、採取対象物からシート本体を剥離しても、シート本体が弾性復帰せずに採取対象物の表面の形状に保持されて、検出指紋を正確に採取できないおそれがある。また、シート本体の反発弾性率が49%より大きいと、シート本体のゲルシート側の反発弾性率が強すぎるものとなり、採取対象物の大きな湾曲部や凹凸部から指紋を採取する場合に、採取対象物に付着した指紋に指紋採取面を強い押圧力で圧着することが必要なものとなる。従って、通常の押圧力で圧着した場合には、採取対象物の大きな湾曲部や凹凸部に指紋採取面を密着させることができず、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じやすいものとなる。
また、シート本体は、光波長350〜900ナノメートルの範囲における光透過率が75%以上となるように形成している。シート本体の光透過率が75%未満となると、シート本体が十分な透明性を有しないものとなる。そのため、ゲルシートの指紋採取面を検査台紙に貼着し、ゲルシートを介して検出指紋を写真撮影する場合に、検出指紋を明確に識別することが困難となる。
実施例1に於いて、保護シート及び検査台紙を、シート本体から一部剥がした状態を示す側面図。
検査台紙の表面を示す平面図。
採取対象物の一例である手すりを示す斜視図。
図3のA−A線端面図。
採取対象物である手すりに、本実施例の指紋採取用シートを伸張して圧着した状態を示す斜視図。
インフレーション成形法により成形した本発明ウレタンシートを用いて光透過法によりゲルシートの白色系アルミ粉末の指紋を撮影した状態を示す平面図。
Tダイキャスト法により成形した比較例のウレタンシートを用いて光透過法によりゲルシートの白色系アルミ粉末の指紋を撮影した状態を示す平面図。
以下、本発明の一実施例を・図2において説明すると、(1)はシート本体で、ゲルシート(2)にウレタンシート(3)を分離不能に止着して形成している。以下、前記シート本体(1)のゲルシート(2)側の表面を指紋採取面(4)、ウレタンシート(3)側の表面を押圧面(5)とする。
また、上記ゲルシート(2)は、スチレンエチレンブタジエンスチレン50%、パラフィン系オイル50%から成るものであり、押出成形によって板状に形成する。そして、アスカーC硬度を11度、伸び率を15%、JIS Z 0237により測定した粘着力を2.0N/10mm幅、JIS K 6255で測定した反発弾性率を25%、厚さを2.0mm、光波長350〜900ナノメートルの範囲における光透過率を80%としている。
また、前述の如くゲルシート(2)に止着するウレタンシート(3)は、ウレタン樹脂と可塑剤にて形成しており、JIS A ゴム硬度を65度、伸び率を20%、厚さを0.03mmとしている。また、ウレタンシート(3)はインフレーション成形方法により成形する。インフレーション成形法は、溶融樹脂を円形ダイの狭いスリットからチューブ状に押し出し、このチューブを外部から冷風で冷却するとともにダイの中心部から空気を吹き込んでインフレーションさせ、これを巻き取って形成するものである。Tダイキャスト法の如く冷却ロールを使用しないから、ウレタンシート(3)にシボを形成することがない。そのため、指紋採取用シートの斜め上方向から検出指紋に光を当てて写真撮影を行う透過法を用いて撮影を行っても、乱反射を生じる事がなく、白色系の検出用粉末を用いて採取した指紋の読み取りも容易に可能とする。
また、上述の如くゲルシート(2)とウレタンシート(3)とを止着して形成した前記シート本体(1)は、前記指紋採取面(4)を加圧側として測定したアスカーC硬度を15度、伸び率を15%、JIS K 6255に基づき、指紋採取面(4)を衝突面として測定した反発弾性率35%、光波長350〜900ナノメートルの範囲における光透過率を80%としている。
また、ゲルシート(2)とウレタンシート(3)とからなるシート本体(1)は、非使用時には前記指紋採取面(4)を検査台紙(6)により被覆しており、シート本体(1)の使用時には、図1に示す如く、上記検査台紙(6)を指紋採取面(4)から剥離して使用するものである。このように、指紋採取面(4)を検査台紙(6)により被覆しておくことにより、シート本体(1)の非使用時に於いて、埃、ゴミ、検出指紋以外の指紋等が指紋採取面(4)に付着して、検出指紋の隆線の形状が不明確となるのを防止することが可能となる。
また、この検査台紙(6)は、図1に示す如く、指紋採取面(4)を被覆する面とは反対側の面を、ポリプロピレン製の樹脂材層(9)により被覆し、この樹脂材層(9)側の表面(7)に、図2に示す如く、年月日記載欄(8)、番号記載欄(10)、事件名記載欄(11)、採取物件記載欄(12)、立会人記載欄(13)、採取者記載欄(14)の各欄を設けた表示部(15)を設けている。そして、この表示部(15)の各欄への記録の記載を行うことで、検出指紋採取後のシート本体(1)を特定可能とし、複数のシート本体(1)の混同を防止可能としている。また、上述の如く、検査台紙(6)の樹脂材層(9)側の表面(7)に表示部(15)を形成することにより、紙材にて形成した層に表示部を形成する場合等と比較して、表示部(15)の撥水性を高めることが可能となる。そのため、表示部(15)が水分を吸収して、表示部(15)の各欄に記載した文字がにじんだり、表示部(15)の各欄への記載が困難となったりする等の不具合が発生するのを防止することが可能となる。
また、上記表示部(15)は、図2に示す如く、検査台紙(6)の樹脂材層(9)側の表面(7)に縦2列、横3列、計6個を設けている。このように、検査台紙(6)に表示部(15)を複数設けておくことで、検出指紋の大きさに合わせてシート本体(1)を適宜切り分けて使用するような場合に、切り分け後のシート本体(1)にそれぞれ表示部(15)を配置することが可能となり、指紋採取用シートの使用性を高めることが可能となる。
上述の如く構成したものに於いて、採取対象物(18)に付着した検出指紋を採取する方法について以下に説明する。本実施例に於いては、採取対象物(18)の一例として壁面(20)に固定した手すり(21)を用いる。なお、上記手すり(21)は、図3、図5に示す如く、両端部分に形成したL字型の湾曲部(22)を介して壁面(20)に固定されたものであり、上記湾曲部(22)に検出指紋が付着している。また、検出指紋は、図3に示す如く、親指部分が上記湾曲部(22)の外周面に付着し、図4に示す如く、人差し指部分、中指部分、薬指部分が上記湾曲部(22)の内周面に付着している。
まず、採取対象物(18)である上記手すり(21)の指紋が付着していると推定される部分に、アルミ粉末等の検出用粉末を撒布して、指紋を視覚により確認可能とする。この検出用粉末は、例えば採取対象物(18)の検出指紋付着部分の色彩が黒色系の場合は白色系を用い、検出指紋付着部分の色彩が白色系の場合は黒色系を用いるといった具合に、検出指紋付着部分の色彩とは対照的な色彩のものを適宜使い分けて用いる。これにより、採取対象物(18)の表面と検出用粉末の色彩の差を明確なものとし、検出指紋の隆線の形状を明確に認識可能となる。
次に、ダスターブラシ等の穂先で上記検出用粉末を軽く払うようにして、指紋の隆線部分だけに検出用粉末を付着させ、指紋を検出する。次に、検査台紙(6)をシート本体(1)の指紋採取面(4)から剥離する。そして、シート本体(1)を伸張させながら、図5に示す如く、指紋採取面(4)を上記手すり(21)の湾曲部(22)に添わせて、付着した検出指紋に重ね合わせるとともに、前記押圧面(5)を押圧して前記検出指紋に指紋採取面(4)を圧着する。これにより、検出指紋をシート本体(1)に転写して採取する。
その際に、本実施例に於いては前述の如く、ゲルシート(2)の粘着力を、JIS Z 0237で2.0N/10mm幅としており、ゲルシート(2)が高い粘着力を有するものである。そのため、上記シート本体(1)の指紋採取面(4)に、検出指紋を確実に転写することが可能となり、検出指紋の隆線の形状を明確に認識可能となる。
一方で、ゲルシート(2)に止着するウレタンシート(3)は非粘着性としている。指紋採取面(4)を採取対象物(18)に圧着して検出指紋を採取する際には、シート本体(1)の押圧面(5)を採取者が押圧するものとなり、採取者自身の指紋がシート本体(1)に目視可能に付着するのを防止することが可能となる。そのため、シート本体(1)を介して検出指紋を撮影する場合に、採取者自身の指紋と検出指紋が重なってしまうおそれもなく、検出指紋の隆線の形状を明確に識別することが可能となる。
また、上記手すり(21)の湾曲部(22)は、図3〜図5からも明らかな通り、大きな湾曲形状を有するものである。この点、本実施例に於いては、前述の如く、シート本体(1)の伸び率を15%としており、シート本体(1)が10%以上の高い伸び率を有するものであるから、シート本体(1)を伸張させて、上記湾曲部(22)の大きな湾曲形状に添って指紋採取面(4)を容易に密着させることが可能となる。そのため、検出指紋にズレ、破断、欠落等の不具合が生じるのを抑制することが可能となる。また、上記湾曲部(22)の大きな湾曲形状に合わせてシート本体(1)を適宜伸張させることが可能となるため、上記湾曲部(22)に付着した指紋に指紋採取面(4)を圧着する際の位置決めを容易なものとすることが可能となる。
また、本実施例の検出指紋は、前述の如く、採取対象物(18)である手すり(21)の湾曲部(22)の内側と外側にそれぞれ付着したものである。このような場合であっても、上述の如きシート本体(1)の伸張性により、1回の採取作業により採取できる検出指紋の面積を広くすることを可能としているため、ズレ、破断、欠落等の不具合を生じることなく、1回の採取作業ですべての検出指紋を採取することが可能となる。そのため、指紋採取作業の作業効率を高めることが可能となる。
また、本実施例に於いては、シート本体(1)の伸び率が20%を超えないものとしているため、ゲルシート(2)が平面方向に伸張しすぎて、検出指紋の隆線の形状が変形してしまうおそれもなく、検出指紋を明確に認識することが可能となる。
そして、検出指紋を採取した指紋採取面(4)を、検査台紙(6)により再度被覆する。そして、このように検査台紙(6)で指紋採取面(4)を被覆した状態で、ゲルシート(2)とウレタンシート(3)とからなるシート本体(1)の押圧面(5)側から、シート本体(1)を介して検出指紋を写真撮影する。この写真撮影は、シート本体(1)の押圧面(5)側から垂直にカメラを配置して撮影することも可能である。この垂直方向からの撮影であれば、従来のシボが形成されたウレタンシート(3)であっても、シボはゲルシート(2)によって埋められているため、乱反射を生じる事はなく、検出用粉末に白等の明度の高いものを用いても、検出指紋の撮影は可能となる。
しかし、検出指紋を更に明確に立体的に撮影する場合は、シート本体(1)の斜め上方から光を当てて撮影する光透過法が用いられている。この光透過法では、従来のTダイキャスト法ににより形成したウレタンシート(3)を用いたものは、図7に示す如くウレタンシート(3)のシボが乱反射を生じ、検出用粉末に白等の明度の高いものを用いる場合には識別が困難なものと成る。本実施例に於いては、インフレーション成形法により製造されたウレタンシート(3)を用いるから、ウレタンシート(3)にはシボが形成されることはない。そのため、光透過法を用いた撮影でも図6に示す如く、乱反射を生じる事が無く、検出用粉末に白等の明度の高いものを用いる場合にも、立体的で明確な写真撮影を可能とすることができる。
また、本実施例のシート本体(1)は、光波長350〜900ナノメートルの範囲における光透過率を80%としており、高い透明度を有している。そのため、シート本体(1)を介して検出指紋を撮影する場合に、検出指紋を明確に識別することが可能となる。また、高い透明性を有するシート本体(1)を介して検出指紋を撮影することが可能となるため、検出指紋を採取した指紋採取面(4)を検査台紙(6)により被覆するのみで、検出指紋の写真撮影の準備作業を完了させることが可能となる。そのため、上記検出指紋を別体に設けた写真撮影用のシート等に転写し直す必要等もなく、簡易な方法で検出指紋の撮影を行うことができる。
1 シート本体
2 ゲルシート
3 ウレタンシート
4 指紋採取面
6 検査台紙