本発明は、当該技術分野において現在公知のものより優れた、化合物、組成物、方法、電極及びセンサ(例えば、固体状の分析物センサ)を提供する。本発明は、以下に詳細に記載され、発明を実施するための形態は、読み手の便宜のためにセクションに分割されている。セクション1は、定義を提供する。セクション2は、内蔵型で、任意に手持ち式の機器に使用され、又は、その出力が、表示、保存又は更なる処理のために、有線又は無線接続により、他のコンピュータデバイス及びシステムに伝送される、本発明のボルタンメトリックセンサを説明する。セクション3は、ガラスプローブについての代替物であり、ガラスプローブを使用するポテンシオメトリックpH測定デバイスと互換性のある、本発明のボルタンメトリックセンサを説明する。セクション4は、本発明の改善された参照電極を説明する。セクション5は、本発明の改善された作用電極を説明する。
セクション1.定義
明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する時、特に指示がない限り、単数形の「a]、「an」及び「the」は、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「バインダー(a binder)」への言及は、1つのバインダーのみの組成物及びバインダーの混合物である組成物を含む。
「アルカニル」は、飽和した分岐鎖、直鎖又は環状のアルキル基を意味する。典型的なアルカニル基としては、メタニル;エタニル;プロパニル、例えば、プロパン−1−イル、プロパン−2−イル(イソプロピル)、シクロプロパン−1−イル等;ブチニル(butyanyl)、例えば、ブタン−1−イル、ブタン−2−イル(sec−ブチル)、2−メチル−プロパン−1−イル(イソブチル)、2−メチル−プロパン−2−イル(t−ブチル)、シクロブタン−1−イル等が挙げられるが、これらに限定されない。
「アルケニル」は、元のアルケンにおける1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより誘導される、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和の分岐鎖、直鎖又は環状のアルキル基を意味する。この基は、二重結合についてのシス又はトランス型のいずれでもよい。典型的なアルケニル基としては、エテニル;プロペニル類、例えば、プロパ−1−エン−1−イル、プロパ−1−エン−2−イル、プロパ−2−エン−1−イル(アリル)、プロパ−2−エン−2−イル、シクロプロパ−1−エン−1−イル;シクロプロパ−2−エン−1−イル等;ブテニル類、例えば、ブタ−1−エン−1−イル、ブタ−1−エン−2−イル、2−メチル−プロパ−1−エン−1−イル、ブタ−2−エン−1−イル、ブタ−2−エン−2−イル、ブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1,3−ジエン−2−イル、シクロブタ−1−エン−1−イル、シクロブタ−1−エン−3−イル、シクロブタ−1,3−ジエン−1−イル等が挙げられるが、これらに限定されない。
それ自体又は別の置換基の一部としての「アルコキシ」は、ラジカル−OR100を意味し、ここで、R100は、本願明細書に規定のアルキル基を表わす。典型的な例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等が挙げられるが、これらに限定されない。
「アルキル」は、元のアルカン、アルケン又はアルキンにおける1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより誘導される、飽和した又は不飽和の、分岐、直鎖又は環状の一価の炭化水素基を意味する。典型的なアルキル基としては、メチル;エチル類、例えば、エタニル、エテニル、エチニル等;プロピル類、例えば、プロパン−1−イル、プロパン−2−イル、シクロプロパン−1−イル、プロパ−1−エン−1−イル、プロパ−1−エン−2−イル、プロパ−2−エン−1−イル(アリル)、シクロプロパ−1−エン−1−イル;シクロプロパ−2−エン−1−イル、プロパ−1−イン−1−イル、プロパ−2−イン−1−イル等;ブチル類、例えば、ブタン−1−イル、ブタン−2−イル、2−メチル−プロパン−1−イル、2−メチル−プロパン−2−イル、シクロブタン−1−イル、ブタ−1−エン−1−イル、ブタ−1−エン−2−イル、2−メチル−プロパ−1−エン−1−イル、ブタ−2−エン−1−イル、ブタ−2−エン−2−イル、ブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1,3−ジエン−2−イル、シクロブタ−1−エン−1−イル、シクロブタ−1−エン−3−イル、シクロブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1−イン−1−イル、ブタ−1−イン−3−イル、ブタ−3−イン−1−イル等が挙げられるが、これらに限定されない。「アルキル」の用語は、具体的には、任意の度合い又はレベルの飽和度を有する基、すなわち、専ら炭素−炭素単結合を有する基、1つ以上の炭素−炭素二重結合を有する基、1つ以上の炭素−炭素三重結合を有する基並びに炭素−炭素の単結合、二重結合及び三重結合の混合を有する基を含むことを意図する。特定のレベルの飽和度が意図される場合、「アルカニル」、「アルケニル」及び「アルキニル」の表現が使用される。「低級アルキル」の表現は、1から8個の炭素原子を含むアルキル基を意味する。
「アルキニル」は、元のアルキンにおける1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより誘導される、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有する不飽和の分岐鎖、直鎖又は環状のアルキル基を意味する。典型的なアルキニル基としては、エチニル;プロピニル類、例えば、プロパ−1−イン−1−イル、プロパ−2−イン−1−イル等、ブチニル類、例えば、ブタ−1−イン−1−イル、ブタ−1−イン−3−イル、ブタ−3−イン−1−イル等が挙げられるが、これらに限定されない。
「アリール」は、元の芳香族環系における1つの炭素原子から1つの水素原子を除去することにより誘導される一価の芳香族炭化水素基を意味する。典型的なアリール基としては、アセアントリレン、アセナフチレン、アセフェナントリレン、アントラセン、アズレン、ベンゼン、クリセン、コロネン、フルオランテン、フルオレン、ヘキサセン、ヘキサフェン、ヘキサレン、as−インダセン、s−インダセン、インダン、インデン、ナフタレン、オクタセン、オクタフェン、オクタレン、オバレン、ペンタ−2,4−ジエン、ペンタセン、ペンタレン、ペンタフェン、ペリレン、フェナレン、フェナントレン、ピセン、プレイアデン、ピレン、ピラントレン、ルビセン、トリフェニレン、トリナフタレン等が挙げられるが、これらに限定されない。アリール基は、例えば、(C5〜C14)アリールでもよく、(C5〜C10)が挙げられるが、これに限定されない。実例となるアリールとしては、シクロペンタジエニル、フェニル及びナフチルが挙げられる。
「アリールアルキル」は、炭素原子、典型的には、末端又はsp3炭素原子に結合された水素原子の1つがアリール基で置換されている、非環式のアルキル基を意味する。典型的なアリールアルキル基としては、ベンジル、2−フェニルエタン−1−イル、2−フェニルエテン−1−イル、ナフチルメチル、2−ナフチルエタン−1−イル、2−ナフチルエテン−1−イル、ナフトベンジル、2−ナフトフェニルエタン−1−イル等が挙げられるが、それらには限定されない。具体的なアルキル部分が意図される場合、アリールアルカニル、アリールアルケニル及び/又はアリールアルキニルとの命名が使用される。好ましい実施形態では、アリールアルキル基は、(C6〜C20)アリールアルキルであり、例えば、アリールアルキル基のアルカニル、アルケニル又はアルキニル部分が、(C1〜C6)であり、アリール部分が、(C5〜C14)である。実例となる実施形態としては、アリールアルキル基(C6〜C13)があげられ、例えば、アリールアルキル基のアルカニル、アルケニル又はアルキニル部分が、(C1〜C3)であり、アリール部分が、(C5〜C10)である。
「分析物」は、サンプルに存在する所望の化学種であり、その存在が検出可能であるか、又は、その濃度が、作用電極を包含する分析物センサシステムを使用して測定可能なものである。
「分析物感応性材料」又は「ASM」は、ユーザが規定した用途特異的許容範囲内で、サンプルにおける分析物の存在又は濃度に感応性又は実質的に感応性のある酸化還元活性材料である。分析物に「実質的に感応性がある」とは、許容範囲がエンドユーザにより規定される場合、所与の用途に要求される範囲内で感応性があることを意味するのに使用される。
「分析物非感応性材料」又は「AIM」は、サンプルにおける分析物の存在又は濃度に非感応性又は実質的に非感応性である酸化還元材料である。分析物に「実質的に非感応性である」とは、許容範囲がエンドユーザにより規定される場合、所与の用途に要求される範囲内で非感応性であることを意味するのに使用される。
「分析物非感応性電極」(AIE)は、電流が、サンプル組成における種(例えば、分析物が挙げられるが、これに限定されない)の存在又は濃度に依存しない酸化還元過程に部分的に依存する(支持電解質の最少閾値は別として)、参照電極の特殊なケースである。AIEは、時間又はサンプル組成にわたって変化しない応答を提供する役割を果たすため、WEの応答に対して比較され得る内部標準又は「ゼロポイント」として使用され得る。国際公開第2010/104962号パンフレットを参照のこと。同国際公開は、参照により本願明細書に援用する。AIEは、導電性基材と電気的に接触している1つ以上のRAM、疑似参照電極(以下で規定するPRE)及びRAMを配置する手段を包含する。多くの場合、PREは、一定な(constant)化学的環境中において、分析物溶液から分離されているが、電気的に、かつ流体的に、分析物溶液と連通している。AIEの導電性基材及びRAMは、本願明細書において、「内部作用電極」又は「IWE」と呼ぶ場合がある。本願明細書で使用する時、文脈に応じて、AIEは、一体化された機能性ユニット(IWE、一定な化学的環境及びPRE)又はIWE若しくはIWEのマトリクス材料成分のみを意味する。本発明の文脈において、一定な化学的環境は、RAMが安定した再現可能なボルタンメトリック信号を出力するように、ヒドロニウムイオン又は水酸化物イオン、すなわち、pHの変化に抵抗する緩衝材料である。緩衝液は、一定な化学的環境の最もシンプルな形態である。本発明のASMは、緩衝化された材料の配合に対して、正確に反応する。この緩衝化された材料は、種々の緩衝化された固体及び半固体、緩衝化された溶液並びに緩衝液を含んでもよい。この特性により、既存の参照電極、例えば、Ag/AgCl/KCl等より一層安定な信号を生成するために、緩衝化された材料が意図的に使用される。一定な化学的環境を形成するための材料の設計及び実施は、以下に詳述される。意義深いことに、AIM(例えば、フェロセン等)と共に使用される一定な化学的環境は、この化合物の2つの欠点、すなわち、1)予想に反して、分析物pHにおける変化にわずかに反応するその性質、及び、2)フェロセンが使用可能なボルタンメトリック信号で反応するための限定されたpH範囲(約4以上)を克服する。
「分析物感知デバイス」は、センサ、センサからの信号を測定する手段、及び、任意で、その信号を表示する手段である。pHメータは、分析物感知デバイスの一種である。したがって、一部の実施形態では、分析物感知デバイスは、コントローラ/プロセッサユニット、関連するプログラム及びアルゴリズム並びにプローブを含む。
「対電極」又は「CE」(「補助電極」と呼ばれる場合もある)は、一部の分析物センサにおいて、電気回路を完成させるために、電気化学セルを通して電流を通過させるのに必要とされる電極である。CEは、電子の供給源又はシンクとして機能し、WEを通して電流を流して、酸化還元反応を達成させることができる。WEで測定された信号と干渉する場合がある、CEで生じる望ましくない電気化学的酸化還元プロセスを防止するために、CEは、典型的には、比較的化学的に不活性な材料、一般的には、白金(Pt)で製造されているが、炭素同素体も、一般的に使用される。特定の他の金属(特に過酷な環境において安定性を示すもの)も使用され得る。例としては、金、ステンレス鋼、チタン及び特殊合金が挙げられるが、これらに限定されない。
「同軸」は、種々の構成要素(例えば、電極)が配置される共通の軸を意味する。一部の実施形態では、「同軸」は、同心円状又は略同心円状に配置された構成要素の径方向対称を意味する。一部の実施形態では、「同軸」の用語は、外部電極又は外側に配置された電極の構成要素内に同心円状に配置された1つ以上の電極を意味する。例えば、限定ではないが、WE、CE及びREは、CEが分析物溶液に浸されるセンサチップの外側リングであり、WEがチップの中央であり、REがCEとWEとの間に挿入される場合、同軸に配置されている。国際公開第2010/111531号パンフレットを参照のこと。同国際公開は、参照により本願明細書に援用される。
材料に関する「分散させる」又は「会合させる」は、材料が、溶液に溶解されるか、又は、気体、液体若しくは固体において、コロイドとして懸濁されることを意味する。この用語は、材料が、固体の表面又はこの固体の成分に共有結合される実施形態も包含する。この用語は、材料が、結晶格子にドーパントとして包含される実施形態も包含する。この用語は、固体内に挿入された材料も包含する。
「電極」は、プローブの構成要素である。
「疑似参照電極」又は「PRE」は、環境条件に基づいて予想通りに電位が変化する電極の類別における、電極の一種である。このような相関が一旦確立されれば、該相関を使用して、既知の条件について(たとえ、非水溶液又は室温からかけ離れた温度等の、既存の参照電極が適用可能である比較的狭い範囲を超えている条件であっても)の電極電位を算出することができる。これらの状態において、PREは、電気化学実験の時間スケールにわたって、合理的に一定の電位を提供する。PREの絶対電位は、必要に応じて、REに対して較正し直され得る。疑似参照電極は、典型的には、酸化還元対のどちらも含んでいない。PREの一例は、(非水性電気化学において一般的に使用される)銀のワイヤである。最近では、PREは、AIEの構成要素として使用されてきた。
「酸化還元活性材料」は、酸化及び還元され得る化合物又は組成物である。「酸化還元活性」は、それらのプロセスのいずれか又は両方を意味する。
「参照電極」(RE)は、WEに印加される電位差を確立するのに使用される電極である。既存のREは、特定の安定した化学組成を有するため、安定した電気化学電位を有する。したがって、既知の制御された方法において、WEに印加された電位差の測定が可能となる。REは、典型的には、安定した化学組成及びイオン強度の電解質と接触した、酸化還元対の両方を含む。酸化還元対の両方が存在し、関連する全ての種の組成が固定されているため、この系は、平衡状態に維持され、REの電極−電解質界面にわたる電位低下(すなわち、測定電圧)は、熱力学的に安定しており、一定である。例えば、一般的に使用されるRE系は、規定された一定の濃度のKClを有する、Ag/AgCl/KCl系である。したがって、2つの半電池反応は、Ag++e−→Ag及びAgCl+e−→Ag+Cl−である。したがって、全電池反応は、AgCl→Ag++Cl−であり、ネルンスト平衡電位は、E=E0−(RT/F)*In[Cl−]として与えられる。式中、Eは、測定されたRE電位であり、E0は、全ての種が単位活性である標準水素電極に対するAg/AgCl対の標準電位であり(標準的な水素電極が、0.0Vの電位を有すると規定されるという慣習による)、R、T及びFはそれぞれ、適切な単位における、一般気体定数、温度及びファラデー定数である。したがって、この系の電位は、存在するCl−イオンの濃度(より厳密には、活量と言う)にのみ依存する。これが固定される場合、安定した一定の電位を提供する。多くの他のRE系が、当該技術分野において公知である。REの組成は、一定のままであるのが必須であり、したがって、電流がREをほとんど通過しないべきである(そうでなければ、電気分解が起こり、REの組成が変化するであろう)。これにより、REは、回路を完成させるために、第3の電極である対電極(CE)の使用を必要とする。しかしながら、2つの電極構成は、WEが、少なくとも1つの次元において、典型的には100マイクロメートルより小さい微小電極である、特殊なケースで使用される場合がある。このケースでは、WEで通過した電流が小さいため、2つの電極セルを、REで使用することができ、CEは不要である。
「プローブ」は、複数の電極を包含するセンサを意味する。プローブは、例えば、作用電極、対電極及び参照電極(既存の参照電極又は疑似参照電極のどちらも)を含み得る。プローブは、例えば、作用電極、対電極及び分析物非感応性電極(IWE及びPRE)を含み得る。
「センサ」は、分析物の存在に応答して信号を生成する電極又は電極の集合体である。
電極の「表面」は、機能的な表面、すなわち、分析物サンプルと接触しており、電気的又は電気化学的目的を果たす表面の部分を意味する。この表面は、例えば、電流又は電圧が通過しない絶縁性のWEハウジングを含まない。WEの表面は、サンプルと接触し、REに対する電流又は電位を検出する電極表面の部分である。CEの表面は、WEへ電流を送る、又はWEからの電流を受け入れる機能を果たす、サンプルと接触する部分を意味する。
「作用電極」又は「WE」は、所望の分析物を検出するための電気化学的プロセスが生じる電極である。センサでは、作用電極は、試験サンプルにおける1つ以上の分析物に感応性があってもよいし、又は、分析物感応性種/材料により化学的に修飾されてもよい。作用電極の電気化学的反応は、研究下における系に対していくらかの摂動(perturbation)が適用された後に測定される。例えば、摂動は、電子の移動の発生を誘導するWEに対する電位差の印加でもよい。その結果、WEにおいて得られた電流は、印加電位の関数として記録される。(ボルタンメトリック方式)この例の動作方式は、例示であり、多くの他の方式が、当該技術分野において公知であるように、網羅的ではない。本発明のWEは、サンプル溶液及び印加された電位における分析物(pHメータに対しては水素イオンであり、他の分析物感知デバイスに対しては他の分析物となる)の濃度に依存する可逆的な電気化学的酸化還元反応を受け得るASMを含有する。例えば、高い濃度の水素イオンが、サンプル溶液に存在する場合、酸化還元反応は、より低い電位で起こる。逆に、低い濃度の水素イオンが、サンプル溶液に存在する場合、酸化還元反応は、より高い電位で起こる。これらの特徴的な電位とサンプル溶液のpHとの間の関係は、ASMの化学的アイデンティティの関数である。アルゴリズムは、電位をpH値に変換して、未知サンプルのpHを決定する手段を提供する。
上記定義を念頭にすることで、読み手は、以下に記載の本発明の種々の態様及び実施形態を、より良好に理解することができる。
セクション2.トランスミッタ機能を有する、ボルタンメトリックセンサ、機器
一部の実施形態では、本発明は、プローブ、信号処理アルゴリズム及び測定結果の表示又は伝送を可能にする回路を備える、pHを測定するためのボルタンメトリックセンサを提供する。一部の実施形態では、これらの構成要素は、内蔵型、任意に手持ち式の機器に組み込まれ、それらの実例となる実施形態は、図1から3Cに示される。一部の実施形態では、この機器は、電子回路、ディスプレイ及び機器の種々の機能を制御するボタンスイッチを収容するヘッドユニットに対する、ボルタンメトリックセンサのWE、RE及びCEを収容する着脱式のカートリッジの取り付け及び取り替えを容易にするカスタム・コネクタを特徴とする。カスタム・コネクタは、カートリッジとヘッドユニットとの間の確実な機械的及び電気的接続を確立する。
他の実施形態では、ボルタンメトリックセンサは、プロセス制御の文脈において、トランスミッタとして機能する。本発明に基づくこのシステムの一部の実施形態(一部の実施形態では、SenovaLink(商標)システム(Senova Systems,Inc)と呼ばれる)は、種々の構成要素を備える。この構成要素としては、ボルタンメトリック測定を行い、結果を、有線又は無線により、携帯型又は遠隔のコンピューティングデバイスに伝送するための電気信号に変換する感知素子、ファームウェア及び電子機器並びに、分析、制御、表示のための、及び、任意で、制御システムとの更なる通信のためのアプリケーションソフトウェアが挙げられるが、これらに限定されない。これらの構成要素の実例となる配置及び分析物サンプルに対する関連性は、図4のブロック図の形で示される。これらの種々の構成要素は、以下に更に詳細に記載される。
3つの主要な感知素子、すなわち、作用電極(WE)、参照電極(RE)又はAIE、及び対電極(CE)により、ボルタンメトリック電極の基本的な機能が提供される。これらの電極の動作原理及び構成は、本願明細書に記載される。適切な代替的な実施形態は、参照により本願明細書に援用される特許出願に記載されている。任意で、一部の実施形態では、温度感知素子(例えば、サーミスタ又は熱電対)が、他の感知素子の付近に備えられ、pH情報の温度補償に関する情報を提供する。
一部の実施形態では、本発明により提供されるボルタンメトリー電子機器は、種々のセンサ素子を駆動し、電気化学的応答を捕捉するファームウェアと特別に設計されたハードウェアとの組み合わせであり、データ平滑化及びピークピッキング機能を実行し、結果を、電位対pHの較正情報に基づいて、pH指数に変換する。
本発明のこれらのセンサの実施形態における通信インターフェースは、有線又は無線の手段による他のデジタルデバイスへの伝送に適した信号を生成する、例えば、上記したもののような、アナログ及びデジタルの処理回路を備えてもよい。一部の実施形態に関して、電極系と携帯型又は遠隔のコンピューティングデバイスとの接続では、それらが、共通の通信インターフェースを共有する必要がある。このため、一部の実施形態では、伝送システムは、携帯型若しくは遠隔のコンピューティングデバイス又は他の受信システムにおけるものと適合するハードウェア・コントローラ及び通信プロトコルを備える。共通するハードウェアインターフェースは、USB(ユニバーサル・シリアル・バス)又は、iPhone、iPad及び他のデバイス用のApple Computer Co.により使用されるものにより例示されるプロプライエタリなコネクタにより例示される。無線の通信プロトコル及びインターフェースは、無線USB、ブルートゥース、ANT+及び他のネットワーク・トポロジー並びに通信方法により例示される。
本願明細書に記載の電極系と共に使用するための適切なコンピューティングデバイスは、携帯電話、タブレット・コンピュータ及び、プロセス・コントローラを含む他の携帯型若しくは設置型のコンピューティングデバイスを含む。これらのデバイスは、ボルタンメトリックセンサ又は手持ち式の機器に備わっている、処理パワー、プログラマビリティ、分析、表示、制御及び通信の能力を補完し、かつ、既存のpHメータを顕著に超えた機能性を提供する。携帯電話及びタブレットは、個人及びタスク特異的な情報への入口として、ますます頼りにされるようになっている。多目的の通信及びコンピュータ操作におけるプラットフォームとして、それらは、種々のレベルの複雑性及びユーザ要求に応えるように設定可能である。したがって、携帯型又は遠隔のコンピューティングデバイスは、既存のpHメータの、多くの面での代替品となることができる。携帯型又は遠隔のコンピューティングデバイスは、典型的には、下記の主要な機能性の構成要素、SenovaLink pH電極系による送受信可能なデータ通信、必要に応じて入力信号ストリームの更なる処理用の補助的なアナログ−デジタルコンバータを含むマイクロコントローラ若しくはマイクロプロセッサ、並びに表示及び入力デバイス(例えば、タッチスクリーン又はキーボード等)を備える。更に、本発明の一部の実施形態は、本願明細書に記載の携帯型又は遠隔のコンピューティングデバイスとSenovaLink(商標)電極系との間の通信を容易にするための用途特化型のソフトウェアプログラムを使用する。
例えば、一部の実施形態では、アプリケーションプログラムは、本発明の電極系での使用のための、任意の信号加算平均、ノイズ・フィルタリング、データ比較、変換、記録及び表示のためのアルゴリズムを含むことにより提供される。一部の実施形態では、アプリケーションプログラムは、電極系の動作条件の特定、モニタリング及び診断のためのユーザ・インターフェースを含むことにより提供される。携帯型コンピューティングデバイスの能力が改善したため、携帯型コンピューティングデバイスの機能性のアプローチは、パーソナルコンピュータ(例えば、ラップトップ、デスクトップ及びワークステーション等)に匹敵するようになってきた。トランスミッタとして機能するボルタンメトリックセンサは、レシーバ及びボルタンメトリックセンサの機能拡張として機能するこれらのコンピューティングデバイスのいずれとも適合するように設計される。
図4を参照すると、有線の通信リンクの典型的な実施形態は、適切なケーブル配線を使用する、USB/VCP(ユニバーサル・シリアル・バス/バーチャル通信ポート)接続を含むことが示される。無線の通信リンクの他の実施形態は、ブルートゥース無線周波数通信サブシステムを含む。
一部の実施形態では、SenovaLink(商標)システムは、ラップトップ又はデスクトップコンピュータ上で動作する、pHit Reports(商標)(Senova Systems,Inc.)と呼ばれるソフトウェアプログラムを提供する。pHit Reports(商標)は、図5に示されるように、時間関数としてのpH、温度、電流ピーク電位及び信号強度のリアルタイムに測定された値を表示する、標準的なグラフィカル・ユーザー・インターフェース及び入力デバイスを提供する。このグラフィカル・ユーザー・インターフェースの変形例を、情報要素を選択して表示させることで、携帯電話又はタブレット上で動作させることができる。pHit Report(商標)の更なる任意の特徴としては、各パラメータウインドウ内に表示されたキャプチャデータを維持する自動拡大縮小、レビュー機能(例えば、カーソルコントロール、複数のデータセットの重ね合わせ、データのCSV(コンマ区切り値)ファイルへの変換、及びリムーバブルメモリデバイスにおける、又は、業界標準であるSQLデータベースへのキャプチャデータの保存等)、並びに他の機能が挙げられる。
他の実施形態では、SenovaLink(商標)は、pHit Reports(商標)のグラフィカル・ユーザー・インターフェース(Senova Systems Inc,Sunnyvale,CA)からの、ボルタンメトリックセンサの操作の遠隔制御(例えば、連続的なpH測定の開始及び終了の操作等)を提供する。SenovaLink(商標)システムの他の特徴は、データ通信中におけるデータ損失を最小化するための、USBインターフェースを介したファームウェアのローディング、データバッファリング及び自動遮断/再接続のロジックを提供する。
セクション3.ガラス電極を置換えるボルタンメトリックセンサ
本発明の一部の実施形態では、ボルタンメトリック電極は、ガラス電極の共通の代替品として、既存のpHメータで使用するために提供される。このことは、ボルタンメトリック電極の機能性の構成要素をエミュレータと一体化させることにより達成される。本願明細書において、このエミュレータは、「ユニバーサル・ポテンシオメトリー・エミュレータ」と呼ばれる場合もあり、測定されたpH値を表わす電気信号出力を、既存のpHメータが受け取り、処理し、表示できる、対応する電位に変換する。
既存のpHメータは、ガラスのpH感知電極と参照電極との間の電位が測定されるという、ポテンシオメトリーにより動作する。この電位は、ネルンストの方程式(E=E0+2.3RT/nF*log[H3O+]=E0+2.3RT/nF*pH(式中、Eは、測定された電位であり、E0は、定数であり、Rは、気体定数であり、Tは、絶対温度における温度であり、nは、イオン電荷であり、Fは、ファラデー定数である。))により与えられる溶液のpHの関数である。25℃において、pH 7の溶液は、ゼロの電位Eを有すると規定され、この電位は、59mV/pHにより変化し、スロープとも呼ばれる。この相関は、図6(a)に図示される。
本発明のボルタンメトリックセンサでは、測定された電位とpHとの間に、温度により変化する、線形の相関も存在する。この相関は、ASMのアイデンティティ及び参照電極系に依存する。図6(b)は、既知の温度で標準的なpH緩衝液を使用して測定された、本発明の典型的な実施形態についてのこの相関を示す。
動作において、ボルタンメトリックセンサは、推奨され、温度補償されたpH情報を、ユニバーサル・ポテンシオメトリー・エミュレータに送信する。ついで、エミュレータは、信号を変換し、pH 7が0mVに対応し、他のpH値が59mV/pHスロープ(すなわち、pH 8=+59mV及びpH 6=−59mV)に従うように、リマップする。このため、生じた電圧は、既存型のpHメータの差動入力に対して、その既存型のpHメータの設計に応じたアナログ又はデジタル形式で、送信される。図7は、SenovaOmni(商標)システム(Senova Systems,Inc.)と呼ばれる、このプロセスを図示する。
一部の実施形態に関して、エミュレータは、ボルタンメトリックセンサからの信号を、ネルンストの方程式に従う出力にリマップするようにプログラムされたマイクロプロセッサを備える。他の実施形態では、エミュレータは、更に、デジタル−アナログコンバータを備える。ほとんどの実施形態では、温度感知素子が、ボルタンメトリックセンサに包含される。このセンサからの温度情報は、図6(b)に図示した方法において、電位及びpH出力を計算するのに使用される。このため、変換された信号は、ガラス電極の挙動に似ているが、既存のpHメータによる更なる温度補償を必要としない。一部の実施形態では、ユニバーサル・ポテンシオメトリー・エミュレータは、ケーブル配線及びBNCコネクタ、又は無線機能を可能にする構成要素を用いた無線によって、既存のpHメータに接続されるアクセサリである。無線でのボルタンメトリックセンサへの接続は、既に存在する組み込み型サブシステムにより、又は、適切なケーブル配線(例えば、USB等)を介することで容易になる。一部の実施形態では、ユニバーサル・ポテンシオメトリー・エミュレータの機能は、ボルタンメトリックセンサの電気回路内に、任意で、同じハウジング内に包含され、同じ電源により駆動される。本発明により提供される一部の電極は、幅広い使用において、ガラスpH電極用のプラグと互換性のある代替品となるものである。一部の実施形態では、エミュレータは、既存のpHメータを、本発明のボルタンメトリックセンサと共に使用するのに適したものとするために、該既存のpHメータ内に構築される。このような一体化により、通信プロトコルの特定の実装及び最適化された電気的、機械的及び工業的設計が容易になる。
セクション4.改善された参照電極
本発明のボルタンメトリックセンサは、参照電極(RE)を備える。この参照電極は、既存のRE、疑似RE、分析物非感応性電極(AIE)又は本発明により先に提供された改善された変形例であってよい。
本発明のプローブに使用するのに適した数多くの既存の参照電極が、当該技術分野において公知である。例えば、参照により本願明細書に援用される、Bard and Faulkner,「Electrochemical Methods:Fundamentals and Applications」(Wiley 2001)を参照のこと。
本発明の一部の実施形態では、既存の参照電極は、分析物溶液に囲まれている塩化銀のワイヤである。他の実施形態では、既存のREは、塩化銀のワイヤのみである。他の実施形態では、既存のREは、米国特許第4,495,050号に記載のヨウ化物/トリ−ヨウ化物系である。同特許は、参照により本願明細書に援用される。他の実施形態では、既存のREは、標準的なカロメル電極である。
一部の例では、「疑似参照電極」(PRE)(「準参照電極」と呼ばれる場合もある)が、特に非水系溶液において、既存のREに代えて本発明の分析物センサに使用される。非限定的な例ではあるが、PREの実例は、非水性の電気化学分野で一般的に使用されている、銀のワイヤである。PREの別の例は、白金のワイヤである。他のPREは、具体的な用途に基づいて使用されてよい。以下により広く記載されるように、本発明のAIEはPRE及びIWEを含むため、PREは、WE及びAIEを備える本発明のセンサにも使用される。
一部の実施形態では、分析物依存信号の品質に悪影響を及ぼす事象を最少化又は除去するように、分析物サンプルに曝される既存のREの表面積が選択される。
このため、本発明は、同じpH測定系において、酸化還元活性の分析物感応性材料を特徴とする固体状の作用電極(WE)が、既存のRE又はPREと共に動作する、各種の実施形態をも提供する。この複合的な手法は、固体状のデバイスに固有の堅牢性と、多くの電気化学分野が基礎を置く一般的な基準規格とを組み合わせるものである。
このため、当業者は、特異な本発明における種々の実施形態の複合構成を理解するであろう。具体的には、当業者であれば、更に、固体状のWEと、既存のREとの本組み合わせ、並びに、典型的にはCEとの本組み合わせをも同様に、理解するであろう。この複合的な構成は、従前のガラスの作用電極の公知の欠点なしに、既存のREの信頼性を有するpHプローブアセンブリを提供する。したがって、本発明は、従前のpH(又は他の分析物)プローブ及び測定システムの限界を克服する、新規で、有用な電極の組み合わせを提供する。
一部の実施形態では、本発明は、本発明のセンサにおいて既存のREの代わりに使用される、分析物非感応性電極(AIE)を提供する。AIEは、サンプルにおける分析物濃度のボルタンメトリック測定又はアンペロメトリー測定を行う過程で、分析されているサンプルに適用される電気的刺激の印加に対する応答において、実質的に分析物非感応性の信号を生成可能である。AIEは、内部標準(すなわち、このシステムに対して内部の標準)として有用な、予測可能な信号を提供する。その信号と、分析物感応性の信号とは、連続的に比較することができ、これにより、分析物濃度の決定において、より高い精度及び再現性が可能となる。したがって、本発明の一部の実施形態では、AIEは、分析物濃度のボルタンメトリック測定及び/又はアンペロメトリー測定を行う過程で、電気的刺激が分析物サンプルに印加された時、実質的に分析物非感応性の電気的応答を生成する電気化学的分析物感知デバイスに使用される。
種々のWEケミストリー(以下参照)に関する本発明の教示は、AIEの特定の実施形態にも適用可能である。具体的には、AIEは、WEと表面化学的に同じpH(又は他の分析物)反応性を特徴とすることができ、AIEが特別に配合された一定の化学的環境及びPREを包含することから、既存のRE(例えば、Ag/AgCl/KCl)を置換えるのに使用することができる。国際公開第2010/104962号パンフレットを参照のこと。同国際公開は、参照により本願明細書に援用される。
既存のREは、安定した、十分に特徴付けられた電極電位を確立することにより動作する。この電極電位の安定性は、酸化還元反応の各関係物質が一定な活性を有する酸化還元系に由来する。安定した電極電位は、感知表面として、共有結合したASM(又はAIM)マトリクス材料を含む電極を使用して得ることが可能である。これらの電極は、例えば、緩衝液等の緩衝材料によりもたらされる一定な化学的環境において、高い再現性の電極電位を生成する。したがって、本発明におけるAIEの一部の実施形態は、任意で基材に付着させられる本発明の酸化還元マトリクス材料、及びPREを、密閉ボリューム内に含有される緩衝液に含有する。この密閉ボリュームは、多孔性フリット等の液体バリアを通して、分析物溶液と、流体的に、かつ電気的に連通している。動作において、このAIEは、WE及びCEと共に配置され、各電極は、分析物溶液と直接接触している。酸化還元活性材料がASMとして特徴付けられるのか、又はAIMとして特徴付けられるのかに関わらず、この材料は、AIEに含有される場合、適切に配合されたイオン性媒体における隔離により、分析物非感応性にされ得る。
動作において、AIEは、酸化還元活性材料の性質、及び隔離されている(すなわち、適切に配合されたイオン性媒体における)一定な化学的環境の性質により主に決定される電極電位を示す。国際公開第2010/104961号パンフレットに記載されているように、各種の適切なイオン性媒体が存在する。一部の実施形態では、適切なイオン性媒体は、単に、(固体又は半固体でもよい)緩衝剤又は緩衝液である。例えば、以下の実施例において説明されるように、適切なイオン性媒体としては、緩衝液の一例である、業者から入手される市販のpH 7の緩衝液(VWR part # BDH5056−20L)又は、半固体の緩衝剤の一例である、増粘剤として添加されるヒドロキシエチルセルロースを含む液体状のpH 7の緩衝剤(Sigma Ardrich part # 434973−250G)又は、イオン強度を向上し、塩化銀のPREを保存する手段として添加される、KClを含む半固体のpH7の緩衝剤(Sigma Ardrich part # P3911−2.5KG)が挙げられる。適切なイオン性媒体が液体の場合、分析物サンプルと該液体状のイオン性媒体との間での対流混合が、所望の時間スケールで顕著なレベルに低下するように、適切な液体バリアも使用される。適切な液体バリアとしては、以下に記載され、本願明細書の実施例において説明される、膜及びフリットが挙げられるが、これらに限定されない。液体バリアを通っての分析物サンプルの進入は、液体のイオン性媒体により提供された一定な化学的環境において、最小限の影響のみを及ぼすであろう。液体のイオン性媒体における緩衝液の固有の能力が、組成変化によるpHシフトを緩和するためである。この結果が、既存のRE(例えば、KCl溶液が顕著な緩衝能を有さないAg/AgCl/KCl等)と比較して、非常に安定した電極電位である。共有結合され、又は、物理的に捕捉されたASM(又はAIM)マトリクス材料に由来する安定性と結び付けられた、既存のREを越えるAIEの基本的な利点は、このようなAIEを包含するこの新規な分類のpHプローブの予想外に優れた性能をもたらす。
AIE及びWEは、両方が酸化還元活性電極であるという点で、同様に機能する。本発明におけるセンサの一部の実施形態では、AIE及びWEにおいて、酸化還元活性材料並びに酸化還元活性材料を含有するマトリクス(IWE)は、同一であるか、又は、実質的に類似する。センサの他の実施形態では、AIE及びWEは、異なる化学組成を有する。すなわち、AIE及びWEは、使用される酸化還元活性化合物において異なるか、又は、使用されるマトリクスにおいて異なるか、又は、両方において異なる。後者の実施形態は、更なる自由度を提供し、AIE及びWEが、物理的及び性能的属性の最も有益な組み合わせを付与するように、個々に適合されてもよいという点で、異なる種類の本発明のpH(及び他の分析物)感知システムを大いに拡張する。例えば、WEは、幅広いpH範囲にわたって最高の精度を提供するように設計された化学組成に基づくことができる。一方、別のWEは、攻撃的な化学的環境、例えば、強酸又は強アルカリに耐えるように設計された化学組成に基づくことができる。どちらの場合でも、AIEは、中性の緩衝剤の存在下において、最高の精度を示す化学組成に基づき、AIEのために最も長い期待寿命を提供することができる。本発明に記載された化学的な選択肢、例えば、種々の結合ケミストリーは、WEの特性を制御して、これらの多様な要求を満たすことができる。
本発明の種々の実施形態では、一定な化学的環境が半固体又は固体の形態にあるAIEが使用される。
このため、一部の実施形態では、AIEの一定な化学的環境は、緩衝能、電気伝導能及びイオン透過性を提供する固体又は半固体の材料(「参照材料」)により提供される。他の実施形態では、参照材料は、分析物溶液における水素イオンのコンジット及びCEとAIEとの間における電流の導電体として機能する、十分なイオン含量を有する親水性の固体である。参照材料は、一方で分析物と直接接触しており、他方で酸化還元材料の機能的表面及びPREと直接接触している。一部の実施形態では、参照材料は、AIE内の酸化還元活性材料が、使用中に変化する化学的環境に曝されないように、水素イオンに対しては選択的に透過性であるが、分析物溶液における他の実体に対しては実質的に非透過性である。適切な参照材料としては、緩衝液の組成に類似する組成を有する架橋された双極性イオンポリマー、例えば、強塩基及び弱酸の官能基、又は強酸及び弱塩基の官能基の組み合わせが挙げられる。水和によって、このようなポリマーは、少量の酸又は塩基が、このポリマー構造と接触するようになるか、又は、このポリマー構造内に拡散する場合でも、その固有のpH値を維持するであろう。
本発明の一部の実施形態では、既存の緩衝液にゲル化剤が添加され、固体状の緩衝材料に変換される。このようなゲル化剤の例は、アガロースであり、アガロースは、熱水に溶解性であるが、冷却するとゲル化する。この挙動により、アガロースを含有する緩衝液が室温の動作温度において、固まった弾性のある状態をとることができ、主に緩衝液により決定される非流体状の一定な化学的環境を提供することができる。
種々の他の実施形態では、参照材料は、最終的なポリマーにおいて目的のpHをもたらすようにイオン性モノマーを配合して、重合させ、得られたポリマーをIWEと接触させて配置してAIEを形成することにより、調製してもよい。架橋ポリマーが配置される場合、重合は、インサイチュー、すなわち、IWEと直接接触して行われ得る。下記は、この発明のAIEに使用するための、各種のポリマー性参照材料に対する適切な実例となる前駆体の非限定的な例である。
(1)(I)N,N−ジメチルアクリルアミド、(II)架橋剤としてのN,N−メチレンビスアクリルアミド、(III)強酸成分としての2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及び(IV)弱塩基成分としてのN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−メタクリルアミドを含む、架橋されたアクリルアミド系親水性ポリマー。得られたポリマーにおいて、特徴的なpHは、主にIIIとIVとの化学量論比により決まる。
(2)4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)のシラン誘導体。
HEPESは、同じ分子において、スルホン酸基及び三級アミノ基を含有する有機緩衝剤である。このため、強酸性基対弱塩基性基における化学量論比は、一致して一定である。
この属性は、以下に示される誘導体SEN−01−14bに引き継がれる。同誘導体は、他のゾル−ゲル前駆体、例えば、TEOSと反応可能なHEPESのシラン誘導体である。これにより、緩衝特性を有する固体状の双極性イオンポリマーがもたらされる。IWEの表面においてゾル−ゲル変換を行うことにより、一定な化学的環境が、RAM感知表面と直接接触して形成される。
一部の実施形態では、一定な化学的環境が、液体、半固体又は固体であるかどうかに関わらず、その一定な化学的環境と分析物との間の界面において、バリアが使用されて、(例えば、混合又は溶解により)一定な化学的環境内に、分析物が進入するのを実質的に防止する。このバリアは、液体又は固体の形態でもよい。
液体がバリアとして使用される場合、液体状の一定な化学的環境と非混合性であるか、又は、AIEの一定な化学的環境として使用される半固体又は固体の参照材料に、溶解性が最小でなければならない。このようなバリアは、イオン性液体又は室温でのイオン性液体の形態でもよい。その場合、多孔性のマトリクスは、毛管現象により液体を保持し、多孔性のマトリクス(例えば、多孔性フリット又は微小多孔性膜等)の物理的なフォームファクタをとるのに使用され得る。
この液体バリアは、アイオノマーの形態でもよい。アイオノマーは、イオン特性を有する合成ポリマーである。本発明により提供される一種のアイオノマーバリアは、スルホン化テトラフルオロエチレン系フルオロポリマー−コポリマーを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。スルホン化テトラフルオロエチレン系フルオロポリマー−コポリマーとしては、(DuPontにより市販される)Nafionが挙げられるが、これに限定されない。この材料は、プロトンに対して透過性であるが、アニオンに対しては非透過性であり、親水性であり、優れた化学的抵抗性及び生体適合性を示す。特定の他のプロトン伝導性膜及び複合材料は、類似の属性を示し、本発明の適切な代替である。(例えば、Mustarelli et al.,Advanced Materials,20(2008)1339〜1343、Viswanathan et al.,Bulletin of the Catalysis Society of India,6(2007)50〜66)を参照のこと。)このような液体のバリアにより、AIEは、湿潤した参照系を維持するのに関連する問題を克服し、使用するまで乾燥して保存されてもよく、分析物溶液に曝される間に乾燥状態を保たれてもよい。すなわち、AIEは、ウェット−ドライの可逆性を有する。一部の実施形態では、Nafion膜のシートが、チューブの一端を密閉するのに使用される。チューブの内側には、一定な化学的環境として緩衝液が配置される。チューブが分析物溶液に配置される場合、Nafionは、2つの溶液が混合するのを防止する。本願明細書に記載の、液体、半固体又は固体を含む一定な化学的環境の他の形態を、緩衝液に代えて使用することができる。全ての場合において、アイオノマー膜も、組成に影響を及ぼす可能性がある、一定な化学的環境へのプロトン以外の分析物中の物質の浸透に対するバリアとして機能する。
Nafionは、固体のフィルムの形状で、又は、加熱して凝固させることができる前駆体溶液として市販されている。固体のNafionフィルムは、限られた範囲の厚みで利用可能である。Nafion溶液又は他のアイオノマー前駆体溶液が、種々の多孔性支持体内に包含されて、その意図した用途に適したフォームファクタを提供し得ることは、当該技術分野において周知である。(例えば、Proton Conductors,P.Colomban,ed.,Cambridge University Press,1992を参照のこと。)本発明に関して、微小多孔性膜を使用して、Nafion溶液を固定化し、ついで、加熱処理して多孔性構造体に連続的なNafion相を形成することにより、複合膜が形成される。この手法は、Nafionの化学的及び電気化学的特性と、微小多孔性の膜基材の寸法安定性とを結びつけるものである。精密ろ過に一般的に利用可能な孔径の、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フッ化ポリビニリデンが、適切な微小多孔性膜として、例示される。複合膜は、典型的には、Nafion溶液又は他のアイオノマーに対する前駆体を固定化する前に、当業者に公知の方法(例えば、ヒートシール及び超音波溶接等)により、簡便に製造され得る。更に、以下の実施例5において説明されるように、Nafion型の液体バリアを備える参照電極は、外部保持溶液(例えば、フリット型液体ジャンクションを含む既存のpH電極で求められる緩衝剤又はKCl溶液)と定接点を有しない場合でさえ、水和されたままで、そのバリアをわたる水の移動割合を劇的に低下させることが可能である。結果として、参照溶液の損失による組成の変化が、非常に低減される。同時に、Nafion型のアイオノマーは、プロトンに対して透過性であるが、電荷排除によるアニオンに対して実質上非透過性であり、中型から大型の分子に対する優れたバリアである。これらの属性により、本発明の電極が、乾燥状態で保存された場合に重度の機能低下に抵抗し得るものとなり、分析物溶液の日常的な使用の間における湿式保存が不要となる。
他の実施形態では、微小多孔性材料は、Nafion又は他のアイオノマーの複合膜を調製するための基材としても使用され得る。この例としては、特に参照材料が溶液若しくは半固体の場合には、セラミック若しくはガラスのフリットが、又、参照材料が固体である場合には、セラミック若しくはガラスの膜が挙げられるが、これらに限定されない。ポリマー又は無機材料から調製された固体の多孔性基材、例えば、フリット又はウエハーの使用により、更なる堅牢性が必要とされる電極構造に、機械的な硬度が付与される。
この発明の他の実施形態では、WE、CE及びウェット−ドライ可逆性AIE参照を備えるボルタンメトリック電極は、全体として固体状に構築される。一部の実施形態では、第1の導電性基材は、WEについての基礎として使用され、その上にASMを含有するマトリクス材料が堆積されて、分析物感応性表面が形成される。第2の導電性基材は、AIEの基礎として使用される。この基材上に、下記の順序で材料の層が堆積されて、分析物非感応性表面が得られる。1)RAMを含むマトリクス材料、2)一定な化学的環境として機能する固体又は半固体の参照材料、3)Ag/AgCl、白金若しくは参照材料に埋め込まれた他の適切な材料を含むPRE、及び4)Nafion又は他の適切なアイオノマーを含む分析物バリア。独立した電気的接続は、WEを有する第1の導電性基材、RAMを有する第2の導電性基材及びPREによりなされる。機能的なボルタンメトリック電極は、WE、AIEを、電気的にも独立して接続されるCEと共に、典型的には、センサ群の形態で配置し、この発明に記載の方法に基づいて、方形波のボルタンメトリーを行うことにより形成される。一部の実施形態では、導電性基材は、本質的に導電性の硬質材料(例えば、金属、炭素又は導電性ポリマー)、又はコーティング(例えば、導電性インク若しくはペースト)若しくは化学的処理(例えば、化学的蒸着若しくはコロナ放電)により導電性を付与される硬質材料を含む。他の実施形態では、導電性基材は、可撓性材料(例えば、ポリマーフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド及びフッ化ポリビニリデンが挙げられるが、これらに限定されない)、布地(例えば、不織布ポリエステル)、ワイヤ、コンジット又は、素子、及び上記組成を含むこれらの組み合わせである。本発明により可能となる硬質又は可撓性の固体状電極の利点は、沢山存在し、多くの意図された用途及び、既存のガラス電極及び既存のガラス電極が基づくpH測定システムで可能な範囲を超える特殊な用途に使用される。
この発明の他の実施形態では、選択的な透過性を有する膜のバリア特性は、分析物における干渉種からWEを保護するための、WE上の表面コーティングとして、有利に包含されてもよい。このような膜としては、Nafion膜構築物が挙げられるが、これに限定されない。
セクション5.改善されたボルタンメトリック作用電極
他の実施形態では、本発明は、改善されたボルタンメトリック作用電極を提供する。これらの電極は、合成ポリマーから調製されたマトリクス材料に共有結合され、又は、同マトリクス材料内に補足されたRAM(ASM又はAIMでもよい)を含む。得られたマトリクス材料は、分析物と導電性基材と結合する(RAMがASMである場合)ASMとの間の接触に関する空間的な分散を提供しながら、RAMを固定するための骨組みとして機能するポリマーに固有の特性、並びに、WEにおいて必要とされる分析物反応性(例えば、pH反応性)機能又はAIEに必要とされる適切な機能性の両方を示す。マトリクス材料としての所望の合成ポリマーの属性としては、良好なフィルム形成特性、導電性基材との適合性、調節可能な機械的特性(例えば、剛性、強度等)、種々のフォームファクタへと形成される性能並びに、バルク又は表面レベルでのブレンド、共重合、架橋、グラフト化及び物理的又は化学的修飾により達成可能な幅広い範囲の特性が挙げられるが、これらに限定されない。これらの属性により、種々の要求を満たすサイズ、フォームファクタ及び性能における、電極の設計及び製造が可能となる。本発明の方法の一部に共通する手法は、マトリクスポリマーにおける相補的な官能基に反応性の、適切な官能基を有するRAMを使用することである。この開示を深く理解することにより、RAMは、ポリマーに共有結合された場合、マトリクスポリマーの骨格及び/又はマトリクスポリマーの分岐若しくは側鎖に沿って位置してもよいこと、並びに、RAMを官能化されたテザー、架橋剤又は鎖延長剤として導入することにより、無数の本発明の種々のマトリクスを調製し得ることを、当業者は理解するであろう。
一部の実施形態では、RAMを、本質的に導電性のポリマー内に包含させて、RAMにより生成された電気化学的信号が効率的にキャプチャされ、導電性ポリマーを介して電気処理回路に直接伝送され得るセンサを得る。この態様では、得られた電極は、従前の導電性基材を有していないため、有利となり得る。例えば、pHメータに使用されるWEの場合、pH感応性マトリクス材料と別個の導電性基材との間の界面を除去することにより、異種材料の物理的、化学的、電気的適合性に関連する複数の問題が解決される。ポリマー(例えば、導電性ポリマー等)の使用は、複雑性を低下させ、種々のフォームファクタ(例えば、サイズ、形状、柔軟性、機械的設計、廃棄性等)となる電極における設計の柔軟性及び製造性を改善し、そして、本発明の可撓性のセンサ及び小型化されたセンサを製造する手段を提供するのに役立つ。
一部の実施形態では、WEは、ポリ(ビニルアルコール)又はPVAに共有結合されるAQに基づく、本発明のマトリクス材料を使用して調製される。最終的な化学構造は、アルカニル骨格及び、AQ部分に繋がれたエーテル結合側鎖を含む。PVAは、AQを結合するエーテル結合と同様に、化学的攻撃に対して優れた抵抗性を示す。PVAは、優れたフィルム形成ポリマーでもある。更に、PVAは、化学的及び熱的な手段により架橋し、最終的な化学構造の寸法的及び環境的安定性を更に向上させることができる。これらは全て、幅広い範囲の動作条件に接することが予測されるpH(又は他の分析物)センサにおいて、望ましい特性である。
他の実施形態では、ASM(又はAIM)成分を付着するように官能化され得る、良好な物理的、化学的及び機械的属性を示すポリマーは、一般的にPVAに対する適切な代替手段であり、特殊な用途及び/又は製造方法に関しては、PVAに対する好ましい代替手段であり得る。このようなポリマーとしては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド類、ポリスルホンアミド類、ポリイミド類、ポリエステル類、ビニルポリマー類、ポリフェニレンスルフィド、多糖類、セルロース、これらの誘導体、これらのコポリマー、これらのブレンド及びこれらの複合物が挙げられるが、これらに限定されない。ASM(又はAIM)の付着方法としては、官能化されたASM(AIM)との反応、テザーとしてのASM(又はAIM)を既に含有するポリマーのグラフト化、少なくとも1つの成分が、共有結合されたASM(又はAIM)部分を含む、複数のポリマー又はオリゴマー成分の網状組織の相互貫入が挙げられるが、これらに限定されない。
他の実施形態では、適切に誘導体化されたRAMが、モノマー又はコモノマーとして、ポリマーの調製に包含される。この手法は、ジイソシアネートとの二官能性アントラキノン誘導体の反応により例示される。
種々の組み合わせの反応物質が、この発明の範囲内の、望ましい特性を有する範囲のポリマーを調製するのに使用され得ることを、当業者は理解するであろう。
ASM(又はAIM)がマトリクス内に捕捉されるが、同マトリクスに共有結合されない実施形態では、ASM(又はAIM)は、物理的又は機械的な手段により、マトリクス内に包含され得る。このような手段としては、例えば、固体形状のASM(又はAIM)と予め形成されたマトリクス材料との混合又は配合を、典型的にはバインダーの添加とともに行うか、又は、該混合又は配合の後に、溶融及び凝固することが挙げられる。または、ASM(又はAIM)は、マトリクス前駆体の溶液に、溶液、コロイド状分散液又は懸濁液として添加され得る。前駆体を固体のマトリクスに変換し、ついで、ASM(又はAIM)を、分子レベルで均一に、例えば、離散した凝集体又は分離した物理的なドメインとして固定化する。
一部の実施形態では、本発明のマトリクス材料は、機械的及び化学的に安定したマトリクス材料に共有結合されるASMを含む。一部の実施形態では、本発明のマトリクス材料は、機械的及び化学的に安定したマトリクス材料内に非共有的に捕捉されたASMを含む。一部の実施形態では、マトリクス材料は、基材表面に付着される。他の実施形態では、マトリクス材料単独で、電極として機能する(すなわち、別個の基材が存在しない。)。多くの実施形態では、マトリクス材料は、導電性基材上の(ゾル−ゲル又は他のポリマー性材料から構成される)表面コーティング状である。この導電性基材は、WE(又はAIEのIWE)を共に形成する。WEの場合には、この実施形態におけるマトリクス材料は、ASMを固体状の構造体(導電性基材)に付着させ、ASMへの分析物サンプルの妨げられないアクセスを提供し、ASMと導電性基材との間の効率的な電気的接続を提供するのに機能する。一部の実施形態では、マトリクス材料は、2つ以上のASMを含有する。2つ以上のASMは、それらの分析物を感知する電位が互いに異なる。この複数のASM系の利点は、同じ測定において取得される複数のデータ点に関連する、より高い度合いの精密さ及び精度である。この複数ASM系の別の利点は、試験サンプルのある成分が一方のASMの正常な反応を妨害する場合でさえも、分析物濃度の正確な感知を維持する能力である。
一部の実施形態では、本発明は、ASM及びAIMの両方を含有するマトリクス材料(ゾル−ゲル又はポリマー性材料)を提供する。この系の理論上の利点は、AIM由来の信号が、参照点として使用されるため、別個の参照電極が、この系においては不要である場合があることである(国際公開第2005/085825号パンフレットを参照のこと。)。直上に記載のWEに関するように、この電極の一部の実施形態では、マトリクス材料は、1つ以上のASM及び1つ以上のAIMを含有する。
更に、一部の実施形態では、本発明は、得られた電極がAIEのIWEとして機能するように、適切な電気的環境において、1つ以上のAIM及び/又は1つ以上のASMを含有するマトリクス材料(例えば、ゾル−ゲル又は他のポリマー性材料)を提供する。
適切なASM材料としては、例えば、pH感応性ASM:アントラキノン(AQ)、フェナントレンキノン(PAQ)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(DPPD)、アントラセン、ナフタキノン、パラ−ベンゾキノン、ジアゾ含有化合物、ポルフィリン、ニコチンアミド(例えば、NADH、NAD+及びN−メチルニコチンアミド)、キノン、チオール、モノ四級化N−アルキル−4,4’−ビピリジニウム、RuO及びNi(OH)2、フェロセンカルボキシレート並びにこれらの化合物の誘導体;CO−感応性ASM:フェロセニルフェラアゼチンジスルフィド;鉄ポルフィリン;アルカリ金属カチオン感応性ASM:1,1’−(1,4,10,13−テトラオキサ−7,1−ジアザシクロオクタデカン−7,16−ジイルジメチル)、フェロセニルチオール、共有結合されたクリプタンドを含有する他のフェロセン誘導体並びに、Fe2+/Fe3+、Co2+/Co3+、Cu+/Cu2+を含む特定の金属錯体を挙げることができるが、これらに限定されない。適切なASMは、例えば、Hammond et al.,J.Chem.Soc.Perlin.Trans.707(1983)、Medina et al.,J.Chem.Soc.Chem.Commun.290(1991)、Shu and Wrighton,J.Phys.Chem.92,5221(1988)及び国際公開第2010/111531号パンフレットに記載され、それらは、参照により本願明細書に援用される。実例となる例としては、酸化還元電位を化学的に感応性にさせるような方法において、通常化学的に非感応性の酸化還元中心(フェロセン)が、化学的認識部位に共有結合される、上記フェロセニルフェラアゼチン及びフェロセニルクリプタンドが挙げられる。また、センサ及び参照の官能基が共有結合される分子又はポリマー、例えば、Shu and Wrighton,J.Phys.Chem.92,5221(1988)(同文献は、参照により本願明細書に援用される)により開示されるような、1−ヒドロ−1’−(6(ピロール−1−イル)ヘキシル−4,4’−ビピリジニウムビス(ヘキサフルオロホスフェート)等も好適である。更に、幅広い範囲の置換アントラキノンが、色素工業に関して開発されてきた。その遺産からの多くの化合物は、本発明に使用するのに適した酸化還元活性特性を示す。例えば、モノ−、ジ−若しくはポリ−ヒドロキシ置換されたAQ;モノ−、ジ−若しくはポリ−アミノ置換されたAQ、エチレングリコール若しくはポリエチレングリコール修飾されたAQ等が挙げられるが、これらに限定されない。適切なスクリーニング及び更なる官能化により、本発明に使用するのに適切な更なるASMを産生するために、無数の選択が利用可能であることを、当業者は理解するであろう。
一部の実施形態では、WEは、同じ分析物種に感応性の2つ以上のASMを含む。これらのASMは、分析物濃度を決定するために分析されなければならない、付加的な重複するピークの導入の可能性を最小化しながら、1つのASMにより提供されるよりものよりも高い感応性で測定を提供するように選択される。この実施形態の一部の例では、WEは、フェナントレンキノン(PAQ)及びアントラキノン(AQ)の両方を含む。他の実施形態では、WEは、試験サンプルに存在する場合がある、干渉の可能性のある種(特に酸化還元対)に対して、ASMの全てが等しい影響を受けないことを確実にするように選択される、同じ分析物種に対して感応性のある2つ以上のASMを含む。例えば、他の化合物(ベンズアルコニウムクロリド、四級アンモニウムクロリド等)は、ASM(AQ及びPAQ等)に有害に干渉する場合がある。このような干渉の影響を受けにくいASMは、例えば、干渉種の接近を立体的又はイオン的に防ぐ、1つ以上の官能基を有する誘導体であろう。いずれにせよ、ASMは、このような防御を提供する、本願明細書に記載されるようなマトリクス材料に共有結合されるか、又は、同マトリクス材料内に非共有結合的に補足され得る。他の実施形態では、上記のように、WEは、更に、内部標準としてAIMを含む。更に、一部の実施形態では、WEは、2つ以上のASMを含み、各ASMは、異なる分析物種に対する感応性について選択される。
一態様では、本発明は、ASM(及び/又はAIM)が、ゾル−ゲルプロセスを使用して、シラン修飾ASM(及び/又はAIM)前駆体及びアルコキシシランから調製されたマトリクス材料に共有結合され、又は、同マトリクス材料内に非共有結合的に捕捉される、マトリクス材料並びに、対応する電極、プローブ、pHメータ及び他の分析物感知デバイスを提供する。ゾル−ゲル処理は、コロイド溶液(ゾル)を、統合された網状マトリクス材料(ゲル)に変換するものであり、材料科学分野で、頻繁に使用される技術である(Sol Gel Science:The Physics and Chemistry of Sol−Gel Processing,C.J.Brinker and G.W.Scherer,Academic Press,1990を参照のこと。同文献は、参照により本願明細書に援用される。)。得られたマトリクス材料は、典型的には、セラミック及びガラスの特定の特徴並びに、(酸化還元活性材料がpHセンサに使用されるWEに使用するために選択されるASMである場合において、)pHセンサに必要とされるpH反応の機能性を示す。これらのマトリクスの調製には、下記の実例となる化合物、組成物及び以下の本発明の方法が含まれ得る。
第1の工程では、以下の式(I)の一般的な化学構造によるシラン前駆体又はその塩、水和物及び/若しくは溶媒和物が合成される。
式中、少なくとも2つ及び典型的には、3つ全てのR1、R2及びR3は、独立して、アルコキシ基又はアリールオキシ基であり、2つのみがアルコキシ基又はアリールオキシ基である場合、3つ目は、アルキル基又はアリール基でもよく、X1は、−O−又は化学結合であり、Lは、リンカーであり、Y1は、連結基である。適切な連結基としては、−CO2H、ハロゲン、−OH、−NHR4、−SO2H、−R5CO、−P(O)(OR6)(OH)、−N3又は−CNが挙げられるが、これらに限定されない(ここで、R4、R5及びR6は、独立して、水素、アルキル基又はアリール基である。)。シラン修飾ASM前駆体の組成(例えば、−L−結合の性質等)により、得られた電極及びこの電極を含有するセンサの電気化学的応答、寿命及び化学的抵抗性が決定される。
一般的には、X1は、ケイ素との共有結合を形成し得る任意の種類の化学的官能基であり得る。多くのこのような官能基は、当業者に公知である(例えば、Sol−Gel Science for Ceramic Materials,S.K.Young,in Material Matters,Vol.1,No.3,pp 8〜10,Sigma−Aldrich,2006を参照のこと。同文献は、参照により本願明細書に援用される。)。一部の実施形態では、X1は、単に化学結合である。X1に結合するのは、式Y1−Lの連結部分である。式中、Lは、リンカーであり、Y1は、連結基である。リンカーL及び連結基Y1の性質は、この開示を深く理解した当業者には理解されるであろうように、広範囲にわたって変化し得る。リンカーLは、親水性又は疎水性でもよく、長くても又は短くてもよく、硬質でも、半硬質でも又は可撓性でもよい。
ケイ素基から連結基、例えば、Y1を離すのに適した安定した結合から構成される幅広い各種のリンカーLが、当該技術分野において公知であり、例として、アルキル、アリール、アリールアルキル、多環式アリール、エステル、エーテル、ポリマー性エーテル等が挙げられるが、これらに限定されない。このため、リンカーLは、単結合、二重結合、三重結合又は芳香族炭素−炭素結合等を含んでもよい。更に、Lの別の実施形態は、ASMの空間的構造(例えば、配向、ゾル−ゲル網状組織からの距離、結合の柔軟性)及び/又は電子移動効率に影響を及ぼす分岐構造を含む。一部の実施形態では、Lは、共役系又は複数の共役系である。
この開示を深く理解した当業者であれば、適切なリンカーを選択することができるであろう。例えば、剛性のリンカーが望ましい場合には、Lは、多価不飽和アルキル又はアリール、ビアリール等であり得る。可撓性のリンカーが望ましい場合、Lは、可撓性の飽和アルカニルであり得る。親水性のリンカーは、例えば、ポリオール類(ポリアルコール類)(例えば、ポリ(ビニルアルコール)等)及びその誘導体、又はポリエーテル類(例えば、ポリアルキレングリコール類等)であり得る。疎水性のリンカーは、例えば、アルキル又はアリールであってよい。
Lの別の実施形態としては、アルキル、アリール、アリル、エーテル、エステル、アルコキシ、アミド、スルホンアミド及び他の結合、例えば、複素環式、直鎖状、環状、非環式又は混合型共役結合等が挙げられる。連結基Y1は、本発明の単離されたシラン修飾ASM前駆体を提供する、ASMの相補的な反応性官能基との共有結合の形成を媒介可能であるべきである。したがって、連結基Y1は、本開示を深く理解した当業者にとって、このような目的に適したものとして公知である、任意の反応性官能基であってよい。Y1は、例えば、光化学的に活性化される基、電気化学的に活性化される基、フリーラジカル供与体、フリーラジカル受容体、求核基又は求電子基であり得る。ただし、典型的には、特定の反応条件下では非反応性の各種の官能基を、活性化して反応性とすることができることを、当業者は理解するであろう。反応性になるように活性化できる基としては、例えば、アルコール類、カルボン酸類、並びに、その塩が挙げられる。
このため、一部の実施形態では、Y1は、−CO2H、ハロゲン、−OH、−NHR4、−SO2H、−R5CO、−P(O)(OR6)(OH)、−N3、−CN、アルデヒド、チオール、アルケン又はアルキンである。
例えば、Y1−Lの一部の実施形態は、Lが、−(CH2)n−であり、式中、nは、1〜8の整数であり、Y1は、CO2H、ハロゲン、−OH、−NHR4、−SO2H、−R5CO、−P(O)(OR6)(OH)、−N3又は−CNである化合物を含む。一部の実施形態では、Y1は、−CO2H、ハロゲン、−OH、−NHR4又は−N3である。一部の実施形態では、Lは、−(C2H2)n−であり、式中、nは、1〜24の整数である。
一部の実施形態では、R1、R2及びR3は、独立して、アルコキシ基であり、Lは、−(CH2)nであり、X1は、化学結合であり、Y1は、−CO2H、ハロゲン、−OH、−NHR4又は−N3であり、nは、2〜6の整数である。他の実施形態では、シラン前駆体は、式(II)の化学構造を有する。
更に他の実施形態では、シラン前駆体は、式(III)の化学構造を有する。
幅広い各種の既存の方法が、上記の、及び当業者に可能な範囲内の、シラン前駆体を調製するのに使用されてよい。例えば、塩化シリル(すなわち、Cl−SiR1R2R3)のY1L−M又はY1−L−O−M(Mは、金属である)による求核置換により、上記シラン前駆体が提供され得る。
RAMがマトリクス材料に共有結合される、これらの実施形態で使用される第2の工程では、ASM(又はAIM)基は、シラン前駆体に共有結合されて、以下に表される式(IV)の本発明のASM(又はAIM)シラン前駆体を提供する(本願明細書では、ASM1は、ASM1とも表される。)。
式中、少なくとも2つ及び典型的には、3つ全てのR1、R2及びR3は、独立して、アルコキシ基又はアリールオキシ基であり、2つのみがアルコキシ基又はアリールオキシ基である場合、3つ目は、アルキル基又はアリール基でもよく、X1は、−O−又は化学結合であり、Lは、リンカーであり、Y1’は、連結基である。適切な連結基としては、−CO2NR4−、−O−、NR4CO−、−SO2−、−R5CO−、−P(O)(OR6)O−、−CO2−、−O2C−、−NR4O2−、−O2CNR4、−N=N−又は化学結合が挙げられるが、これらに限定されない(R4、R5及びR6は、独立して、水素、アルキル基又はアリール基である。)。式IVにおけるASM1は、分析物感応性材料(若しくは分析物非感応性材料又はいずれかの誘導体)である。一般的には、ASM1は、ASM(又はAIM)の誘導体と見なされる。式IVの化学構造において、Y1又は(Y1が化学結合である場合は)Lのいずれかに対する共有結合の形成に必要とされる場合の水素原子の損失により、対応するASM(又はAIM)と異なるためである。一部の実施形態では、R1、R2及びR3は、独立して、アルコキシ基であり、Lは、−(CH2)nであり、X1は化学結合であり、Y1’は、CO2NH又は−O−又は−NHR4であり、nは、2〜6の整数である。
一部の実施形態では、ASM1は、式V、VI、VII又はVIIIからなる群から選択される。
他の実施形態では、ASM1は、式IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XV及びXVIからなる群から選択されるASMから誘導される。
式中、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32及びR33は、独立して、水素、−CO2H、ハロゲン、−OH、−NHR4、−SO2H、−R5CO、−P(O)(OR6)(OH)、−N3、−CN、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基である。ただし、少なくとも1つの置換基は、−CO2H、ハロゲン、−OH、−NHR4、−SO2H、−R5CO、−P(O)(OR6)(OH)、−N3又は−CNである。
一部の実施形態では、本発明のASMシラン前駆体は、式XVIIの化学構造を有する。
明確にするために、先の化学構造におけるCONは、窒素に結合されたカルボニル基である(したがって、Nは、この化学構造に示されていない、結合した水素を有する。)他の実施形態では、本発明のASMシラン前駆体は、式XVIIIの化学構造を有する。
更に、他の実施形態では、本発明のASMシラン前駆体は、式XIXの化学構造を有する。
一般的には、式(IV)のASMシラン前駆体は、式(I)のシラン前駆体と適切に官能化されたASMとから、有機合成の既存の方法を使用して組み立てられ得る。これらは、例えば、式(I)の相補的に官能化された化合物とASMとの間における、エステル、アミド及びスルホンアミド縮合、アルキル化、1,3−二極性環状付加並びに、カルベン、ニトレン及びフリーラジカル付加を含む。したがって、本発明は、このような合成法に使用するのに適した、相補的に官能化されたASMである、新規な化合物をも提供する。
RAMがマトリクス材料に共有結合される、これらの実施形態で使用される、第3の工程では、ASM(又はAIM)前駆体、ポリアルキルオルトシリケート又は類似の多官能シラン、溶媒及び酸触媒並びに、任意に他の添加剤を含むゾルが調製される。この時点で、ASM(又はAIM)前駆体及びポリアルキルオルトシリケート又は類似の多官能シランにおけるシラン基は、加水分解され、架橋され、ゾルからゲルに変換する。得られたゾル−ゲルは、ある程度不均一であり、形態学的には、多孔率の変化と共に、離散粒子から連続的な構造にわたって、液体領域及び固体領域の両方を含む。このプロセスにおいて、ASM(又はAIM)も、下記の反応スキームに示されるように、架橋された網状組織内に包含されて、本発明のマトリクスを形成する。
用語「オルモシル(ormosil)」は、「有機修飾されたシリカ/シリケート」を表わす。
上記スキームにおいて、少なくとも2つ及び典型的には、3つ全てのR1、R2及びR3は、独立して、アルコキシ基又はアリールオキシ基であり、2つのみがアルコキシ基又はアリールオキシ基である場合、3つ目は、アルキル基又はアリール基でもよい。これらの部分はそれぞれ、独立して選択可能である。したがって、式IVにおけるR1がメトキシ基である場合、式XXにおけるR1は、アリールオキシ基又は別のアルコキシ基であることができ、式XXにおけるR2及びR3がアルコキシ基又はアリールオキシ基である場合は、たとえ、式IVにおけるR1がメトキシ基であっても、式XXにおけるR1は、アルキル基又はアリール基であることができる。典型的には、式I、式IV及び式XXの化合物において、少なくとも2つ及び多くの場合、3つ全てのR1、R2及びR3は、独立して、メトキシ又はエトキシである。ゾル−ゲルの形成後に、まだ液体状の、この材料のコーティングが、調製された導電性基材上に塗工される。最後に、溶媒が、制御された熱処理条件(特に、温度、圧力及び時間)下において除去される。結果として、実質的に導電性基材と接触しているマトリクス材料に共有結合され、及び、マトリクス材料全体に分散されたASMを含む安定した構造がもたらされる。これにより、本発明の電極が形成される。したがって、マトリクスは、本発明の作用電極における分析物(例えば、pH)感応性表面であるか、又は、それ自体が電極に形成される(導電性基材を使用しないそれらの実施形態では、マトリクス材料自体が導電性である。)。AIMがASM1として使用される場合には、マトリクスは、AIEにおけるIWEの活性表面として機能するか、又は、それ自体がIWEに形成される(それらの実施形態では、導電性基材は使用されないが、マトリクス材料自体が導電性である。)。
これらの方法が、1つ以上のASM、1つ以上のAIM並びにASM及び/又はAIMの組み合わせを包含するセンサを作製するのに使用されてもよいことを、当業者は理解するであろう。このような組み合わせは、分析物のアイデンティティ及び濃度により変化する更なる応答信号、並びに/又は、分析物のアイデンティティ及び濃度に実質的に不変の参照信号を提供し得る。したがって、このような組み合わせは、本発明の範囲内である。
一部の実施形態では、ゾル−ゲルマトリクス材料は、単一のASM(又は、単一のAIM)を含む。例えば、単一ASMのpH WEの一部の実施形態は、ASMが2−カルボニルAQ、2−N−BOCエチレンジアミンAQ、5,12−ナフタセンキノン、1−アセチルアミドAQ、2−カルボキサミドAQ及び3−カルボキサミドPAQからなる化合物群から選択される、ゾル−ゲルマトリクス材料を含む。他の実施形態では、単一ASMのWEは、ASMが2−(β−ナフトール)メチルアントラキノンである、ゾル−ゲルマトリクス材料を含む。上記のように、他の適切なASMが、この発明の目的のための誘導体化を伴って、又は、誘導体化を伴わずに使用するのに特定されてもよい。
他の実施形態では、本発明のゾル−ゲルマトリクス材料は、少なくとも2つ以上のASM(又はASM及びAIM)化合物を含む。このため、本発明の一部の実施形態は、少なくとも1つのASMを有するゾル−ゲルマトリクス材料を含み、任意で、1つ以上の更なるASM及び/又はAIMを含む。ASM及びAIMは両方とも、十分に規定されたサイクリック・ボルタンメトリー法による可逆性の酸化還元活性を示す酸化還元活性材料を含む。
本発明の一部の実施形態は、更に、センサが導入される化学的な媒体に実質的に非感応性である酸化還元電位を有するAIM成分を包含するゾル−ゲルマトリクス材料を含んでもよい。このようなAIMは、例えば、フェロセン、n−ブチルフェロセン、K4Fe(CN)6、ポリビニルフェロセン、ニッケルヘキサシアノフェレート、フェロセンポリマー類及びコポリマー類、例えば、フェロセンスチレンコポリマー及びフェロセンスチレン架橋コポリマー、ニッケルサイクラム等を含む群から選択されるAIMを含んでもよいが、これらに限定されない。更に、非限定的な例としては、フェロセニルチオール、ポリビニル−フェロセン、ビオロゲン、ポリビオロゲン及びポリチオフェンが挙げられる。他の実施形態は、通常化学的に感応性の材料を含むAIMを含み、該感応性の材料は化学的には孤立させられるが、化学的な媒体又は分析物サンプルと電気的には接触している。
他の実施形態では、例えば、式XXIとして以下に示されるような、置換されたフェロセン等のAIMは、ゾル−ゲルプロセスを使用して、シラン修飾AIM前駆体及びアルコキシシランから調製されるマトリクス材料に共有結合される。
別の連結基を特徴とするこのAIM前駆体及び類似のAIM前駆体は、本発明のゾル−ゲル・ケミストリー・ベースの方法に基づくマトリクス材料に共有結合されるAIMの基礎として使用され得る、本発明の化合物である。このAIM前駆体を、ASMとの混合物として使用して、分析物感応性信号及び分析物非感応性信号を生成する電極を形成してもよい。または、AIM前駆体は、共に配置されたWEによって生成される分析物感応性信号と共に使用され得る、単一の、分析物非感応性信号を生成する、分離した構造(AIE)を形成するのに使用され得る。
この発明の他の態様では、単一のASM、複数のASM、AIM及び/又は複数のAIMの組み合わせは、ゾル−ゲルプロセスを使用して、アルコキシシラン及びシラン修飾ASM(又はAIM)前駆体から調製されるマトリクス材料に共有結合され、又は、任意に架橋されたポリマーから調製されたマトリクス材料に共有結合され、又は、アルコキシシラン、ポリマー若しくは架橋ポリマーから調製されたマトリクス材料から調製されたマトリクス材料内に非共有結合的に捕捉される。
一部の実施形態では、WEにおけるASM(又は、WE若しくはAIEのIWEにおけるAIM)の濃度は、WE(又はAIE)基材に対して、複数層のASM(又はAIM)含有ゾル−ゲルマトリクス材料又はポリマー性マトリクス材料を適用することにより高められる。本発明に基づいて、当業者は、基材上に配置されるマトリクス材料に含有されるASM(又はAIM)の量を制御することができ、これにより、本発明の更なる利点を達成するための所定の用途に適したサイズ及び形状を有するWE(又はAIE)及び、そのWE(又はAIE)を包含するプローブの製造が可能となる。
一部の実施形態では、WEは、1〜500マイクロアンペアの間のpH依存性信号をもたらすのに十分な量で存在するASMを含む。一部の実施形態では、WEのサイズ及び形状は、WE、RE及びCE(又はWE、AIE及びCE)の間での有害な電気化学的作用を最少化するように選択される。一方、信号品質を維持しながら、ユーザがバックグラウンド・ノイズを越える分析物依存性信号を区別できる十分なWE性能を維持する。
本発明のWE(及びAIE)は、プローブから取り外し可能なように構成され、必要とされる設計及び機能性に基づいて、容易に交換又は置換えられるようにされてもよい。上記のように、本発明のWEは、従前のpHメータにおける従前のガラスプローブを置換えるように構成及びプログラムしてもよく、かつ/又は、電気配線により又は配線を必要としない電磁気的手段を介して、再生デバイスに伝送される信号を生成してもよい。
本発明の一部の実施形態は、更に、1つ以上のWEを有する改善された分析物センサを提供する。各WEは、ゾル−ゲル又は他のポリマー性マトリクス材料内に捕捉され、基材上に配置され、その基材と電気的に接続された1つ以上のASMを含む。
一部の態様では、WEは、ASMとしてAQ誘導体を含む。他の態様では、本発明は、ASMとしてフェナントレンキノン(PAQ)又はその誘導体を含むWEを提供する。更に、他の態様では、本発明は、ASMとして、オルト−ベンゾキノン(OQ)又はその誘導体を含むWEを提供する。更に、他の態様では、本発明は、ASMとして、N,N−ジフェニル−パラ−フェニレンジアミン(DPPD)又はその誘導体を含むWEを提供する。
一部の態様では、本発明は、ASMとして、アントラセン(AC)又はその誘導体を含む電極を提供する。他の態様では、本発明は、ASMとして、ナフトキノン(NQ)又はその誘導体を含む電極を提供する。更に、他の態様では、本発明は、ASMとして、パラ−ベンゾキノン(PQ)又はその誘導体を含む電極を含み、提供する。
この開示を考慮して、一般的には、ASMに関する本願明細書における多くの教示が、AIMに等しく適用可能であることを、当業者は理解するであろう。
各種の基材材料が、基材が使用される本発明のWE及びAIEに使用するのに適切である。適切な基材材料としては、炭素、炭素同素体及びこれらの誘導体、種々の炭素系材料、遷移金属、貴金属(例えば、金及び白金等)、導電性金属合金、種々の導電性のポリマー及びコポリマー及び化合物、並びにこれらの誘導体、ポリマーブレンド及びポリマー複合材料、シリコン及びその誘導体等の半導体材料(例えば、ドープシリコン及びドープした半導体材料)、これらの材料の任意の混合物又は複合物、並びに、当業者に公知の更なる適切な材料が挙げられるが、これらに限定されない。
一部の態様では、基材は、炭素であるか、又は、炭素を含む。各種の炭素基材が、本発明の電極における基材材料として使用するのに適しており、炭素同素体、例えば、熱分解性グラファイト、グラファイト、非晶質炭素、カーボンブラック、単層若しくは多層のカーボンナノチューブ、グラフェン、ガラス状炭素、ホウ素ドープダイヤモンド、熱分解性のフォトレジストフィルム、並びに、当該技術分野において公知の他のものが挙げられるが、これらに限定されない。更に、上記炭素同素体は全て、適切なバインダー中に粉末状で分散されてもよいし、又は、基材表面上にインサイチューで形成されてもよい。このようなバインダーとしては、有機又は無機のポリマー及び接着材料が挙げられる。一部の実施形態では、基材は、グラファイト粉末であり、バインダーは、エポキシ樹脂である。他の実施形態では、基材は、グラファイト棒である。他の実施形態では、基材は、炭素繊維複合材料である。他の実施形態では、基材は、グラファイト充填ポリマー(ポリフェニレンスルフィドにより例示されるが、これに限定されない)である。他の実施形態では、基材は、1つ以上の炭素同素体が配合されたインクの表面コーティングを含む。他の実施形態では、基材は、銀、金及び白金により例示される1種類以上の金属が配合されたインクの表面コーティングを含む。他の実施形態では、基材は、(Dupont Co.により販売されているNafionにより例示される)アイオノマーである。他の実施形態では、基材は、炭素同素体粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤ、グラフェン、金属又は、マトリクスの物理的特性及び電気的特性を向上させる(例えば、RAMからの電気信号の伝送を促進することが挙げられるが、これに限定されない)ための他の相溶化剤の分散体を含有するアイオノマーである。
このため、一部の実施形態では、基材は、グラファイト及びバインダー(例えば、エポキシ等)を含む複合材料を含む。一部の実施形態では、基材は、炭素繊維及び1つ以上のバインダーを含む複合材料を含む。一部の実施形態では、基材は、導電性ポリマー(例えば、ポリアニリン、ポリピロール又は種々の炭素同素体充填ポリマー等)を含む。このポリマー成分は、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン類、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリエステル類、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、種々のビニルポリマー類、セルロース、ポリ(アミノ酸)類、これらの誘導体、これらのコポリマー、これらのブレンド及びこれらの複合物を含んでもよいが、これらに限定されない。一部の実施形態では、基材は、イオン又はフリーラジカルの生成により活性化された表面をもたらす、コロナ放電、電子ビーム、γ線照射、プラズマ及び他の形態の照射により表面処理された材料を含む。任意に、このような活性化された表面は、更に、ASM(又はAIM)誘導体又は、共有結合された、若しくは、非共有的に捕捉されたASM(又はAIM)部分を含有するマトリクス材料の付着を可能にするように修飾されてもよい。
本発明の一部の態様では、基材表面は、ASM(又はAIM)含有ゾル−ゲル又はポリマー性マトリクス材料を塗工する前に、洗浄又は何らかの「調製」が行われる。グラファイト/エポキシ基材及び他の基材のための適切な方法としては、基材表面のサンディング及び/又はポリッシングをすることが挙げられるが、これらに限定されない。この基材は、プラグ状に形成され、続けて、加圧された空気又は他の気体の流れが基材表面上に向けられ、任意で、サンディング及びポリッシングから生じる粒子を除去するために、適切な溶媒中で超音波処理されてもよい。あるいは、及び、任意で、基材表面は、種々の溶媒、アルカリ及び/又は酸で洗浄され、続けて、このような洗浄剤が当業者に周知の手段により、十分に除去されてもよい。処置条件及び化学薬品に適合する基材に対して選択的に適用されるこれらの方法は、ASM(又はAIM)含有マトリクス材料の付着前に、表在性の汚染を除去することによって、基材へのマトリクス材料の付着の確実性及びセンサの耐容年数を改善するのに役立つ。
基材は、ゾル−ゲル又はポリマー性マトリクス材料内の1つ以上のASM(又はAIM)と電気的コンジット(例えば、ワイヤ等)との間の物理的及び電気的ブリッジング装置として機能する内蔵型実体となる。基材の物理的な機能は、プローブ又は機能的に同等のアセンブリの形態で、安全かつ簡便に、電極と所望のサンプル(典型的には、液体)との直接的な接触がもたらされ得るように、ASM(又はAIM)ゾル−ゲル又はポリマー性マトリクス材料のための支持体を提供することである。これにより、基材及びマトリクス材料は、ASM(又はAIM)が、所望のサンプルと相互作用することを可能にする。基材の電気的機能は、電気的コンジットからASM(又はAIM)に、電荷キャリア(例えば、電子等)を伝搬して、酸化還元反応を可能にすることである。一部の実施形態では、基材材料は、分析されるサンプルの予測される環境、及び、最少の損失で電流を伝導する能力に対して、化学的に不活性であるように選択される。
上記のように、実際には、本発明の全ての実施形態は、対電極(CE)を含むプローブである。動作において、CEは、分析物サンプルを通して、電流を、pHプローブ内の他の電極に伝送する、電子のソース又はシンクとして機能する。
適切なCEは、当該技術分野において公知である。例えば、上記のBard and Faulknerを参照のこと。WEで測定された信号と干渉し得る、CEにおいて生じる望ましくない電気化学的酸化還元プロセスを防止するために、CEは、典型的には、比較的化学的に不活性な材料、一般的には、ステンレス鋼、炭素(例えば、グラファイト)又は白金から製造される。
一部の実施形態では、以下の実施例において説明されるように、CEは、グラファイト又は炭素系の棒である。他の実施形態では、CEは、炭素繊維チューブである。更に、一部の実施形態では、CEは、当該技術分野において公知の、別の導電性材料である。
種々の参考文献には、センサ性能に対するCE:WEの表面積比の重要性が記載されている。本発明の種々の実施形態では、分析物サンプルに曝されるCEの表面積は、本願明細書に記載のように、分析物−依存性信号の品質及び寿命に悪影響を及ぼす、電極内の電気化学的作用を最少化又は除去するように選択される。一部の実施形態では、WEの表面積に対するCEの表面積の比は、約1:0.5〜約1:20である。
一部の実施形態では、CEは、pHセンサの種々の他の構成要素を収容するための、中空の内側ルーメンを有する導電性の炭素繊維又はステンレス鋼のチューブを備える。炭素繊維又はステンレス鋼のチューブは、プリアンプ・モジュールに電気的に結合される。これにより、電圧が、CEを介してサンプル溶液に印加される。電気化学的セル駆動電位を提供することに加えて、導電性で、低インピーダンスのCEは、CE内に収容された構成要素、特に高インピーダンスのREを、外部の電磁気干渉から保護するための電磁シールドとして機能することを、当業者は理解するであろう。一部の実施形態では、同軸構造で実装されることにより、電極がCE内に同心円状又は略同心円状に配置されるRE及びWEに対して、外部に位置するCEが電磁シールドを提供する。CEのシールド機能は、RE及びWEの同心円状の配置には依存しないことを、当業者は、更に理解するであろう。むしろ、RE及びWEの正確な位置が、外部位置のCEに対して内部で変化しても、上記のシールド保護を受けることができることを、当業者は理解するであろう。
特定の望ましい属性を具体化するWE(及びIWE)の作製に関する本発明の原理及び方法論は、種々の設計の電極、プローブ、センサ・アセンブリ、分析物測定デバイス、メータ及びシステム並びに機器に適用され得る。これらの各展開は、既存の電極系、特に、ガラスプローブ及び具体的にはガラスpHプローブに基づくものを越える本発明の電極の利点から有益であろう。
この開示を深く理解することにより、本発明の種々の態様及び実施形態により得られる、多くの便益及び利点を実施及び実現する多くの代替手段が存在することを、当業者は理解するであろう。したがって、本実施形態は、例示的なものであり、限定的なものではないと見なされるべきであり、本発明は、本願明細書において与えられる詳細によって限定されず、添付の特許請求の範囲に記載された範囲及び均等物の範疇で変更されてもよい。本願明細書において引用された全ての刊行物及び特許は、その内容が参照により援用される。下記実施例は、例示の目的でのみ提供され、本発明の範囲を限定しない。
実施例1.アントラキノン−ポリ(ビニルアルコール)コンジュゲート(AQ−PVA)及びそれによる作用電極
ポリビニルアルコール(PVA)を、図10に示される手順を使用して、AQにより官能化した。
PVA(0.53g、Alfa Aesar、86〜89%加水分解、低分子量)を、卵型スターラーバーを包含する乾燥した三頸丸底フラスコに添加した。このフラスコを、アルゴンでパージし、この後の全ての工程は、アルゴン下において行った。無水DMSO(25mL、Aldrich)を、シリンジにより添加した。この混合物を撹拌し、50℃で30分間加熱して、PVAを溶解させた。この溶液を、室温に冷却し、n−ブチルリチウム(1.0mL、ヘキサン溶液、1.6M、Aldrich)を、1mLのシリンジを使用して、約30秒にわたって滴下して添加した。上面に形成されたゲルを、素早い撹拌及び10mLの更なるDMSO添加により壊した。この反応混合物は、1時間の連続的な撹拌後に、均一になった。2−ブロモメチルアントラキノン(0.5g、Aldrich)を、固形物として一度に添加した。この溶液は、緑黒色で不透明になった。この混合液を12時間撹拌すると、暗い均一な溶液となった。この溶液を、1000mLの三角フラスコ内の、急速に撹拌した1,4ジオキサン(350mL、Aldrich)に注いだ。最初に、ジオキサン溶液は、褐色で均一であったが、3時間の撹拌後に、溶液は黄色に明るくなり、褐色の固形物が形成された。
この褐色の固形物を、ガラスフリット(10〜20マイクロメートル)を使用して、真空ろ過により収集した。このフィルタの固形物を、ろ液が透明になるまで、50mLの1,4ジオキサンで4回洗浄した。褐色の粉末として、約700mgの乾燥したAQ−PVAポリマーが、フィルタ上で得られた。このポリマーを、蓋をしたガラスバイアル中で、暗所に室温で保存した。
このポリマーをジメチルアセトアミド(50℃、最終濃度6mg/mL)に溶解させ、洗浄された炭素繊維基材表面上に2マイクロリットルアリコートを堆積させ、この電極を100℃で1時間加熱することにより、AQ−PVAコーティングされた炭素繊維電極を調製した。pH 2、4、7、10及び12の5つの緩衝液において、標準的な方形波ボルタンメトリーを使用して、電極を試験した。電流I(A)を、電位E(V)の関数として測定した結果を、図11に示す。
図12に示されるように、電流が最大値に達した時点での電位は、分析物のpH値に対して直線的に相関した。この相関は、本願明細書に記載のAQ−PVAの化学的性質の特徴である。
実施例2.ポリ(ビニルアルコール)(PVA)マトリクスに埋め込まれた2−メチルアントラキノン及びそれによる作用電極
この実施例では、ポリマーマトリクスにRAMを埋め込んだ選択肢を説明する。このRAMは、マトリクスに共有結合されない。2−メチルアントラキノンは、実施例1で使用した2−ブロモメチルAQの構造的に類似した類似体である。
PVA(6mg/mL、Alfa Aesar、低MW、86〜89%加水分解)、トルエン−2,4−次イソシアネート(TDI)(0.034M、Aldrich T39853)及び2−メチルアントラキノン(0.233M)の溶液を、DMSOにおいて調製した。2−メチルアントラキノンを、撹拌しながら50℃に加熱した後に溶解させた。1mLのこのポリマー溶液を、ガラスバイアルに移し、50μLのTDI溶液及び10μLの2−メチルアントラキノンを添加することにより、この材料を混合した。この十分に混合された溶液2μLの液滴を、調製された炭素繊維基材の先端に配置した。この作用電極を、100℃まで、1時間加熱した。
方形波ボルタンメトリー試験を、標準的な緩衝液を使用して、この作用電極について行った。pH 7の緩衝液について、AQの電流ピーク特性が、4.2μAの信号強度を有する−536mVで観察された。この信号は、17時間の時間経過にわたって、約3分の1に低下した。これに対して、実施例1に記載のAQ−PVAポリマーで調製した作用電極は、17時間にわたって有意な減退をすることなく、−504mV及び21μAでのピークを示した。これらの結果は、工程改善による電位の増分の改善を伴って、RAMをマトリクスに非共有的に埋め込むことが可能である一方で、より良好な性能が、類似するRAMの共有結合より、より容易に達成可能であることを示した。
実施例3:分析物と参照溶液との間のバリアとしての多孔性フリットを備えるAIE参照電極
図13に示されるように、AIE参照電極を調製した。AIE参照電極は、種々の構成要素、すなわち、ポテンシオスタット(Metrohm Autolab PGSTAT12)に接続された作用電極(WE)を備える内部作用電極(IWE)、カートリッジを満たす参照溶液(すなわち、カートリッジは、添加剤としてヒドロキシエチルセルロース(Sigma Aldrich Part # 434973)及びKCl(Sigma Aldrich part # P3911)を含有するpH 7の緩衝液(VWR Part # BDH5056)で満たされている、IWEの近くに配置され、参照溶液に浸された銀のワイヤを備える疑似参照電極、分析物溶液との電気的接触を提供するが、参照溶液と分析物との間の質量移動を制限するフリット(すなわち、Porex POR−4902、厚さ0.64cm(0.25”)、公称孔径15〜45マイクロメートル)を包含する。
更に、CE及びEWEセンサを、国際公開第2010/111531号パンフレットに記載の設計に基づいて調製する。CEは、炭素繊維スリーブを備える。EWEは、国際公開第2010/111531号パンフレットに記載のWEと同等物である。IWE及びEWEを、以下に記載のように同様に構築するが、使用する分析物感知材料(ASM)は異なってもよいし、又は、異ならなくてもよい。
本発明の作用電極は、ポリマー性シースに取り囲まれた、官能化された炭素基材を備える。以下に提供される例示の実施例に関して、炭素繊維基材は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に同心円状に入れられる。この炭素繊維基材の末端を切断し、化学処理に備えてポリッシングした。この炭素基材にASMを付着させるための化学処理溶液を、以下のように調製した。1.5mLのアントラキノンと3−アミノプロピルトリメトキシシランとの付加物(AQ−APTOS)の0.3重量%ジクロロメタン溶液を、3.5mLのエタノール、250mLの脱イオン水、1.05mLのテトラエチルオルトシリケート(TEOS)及び200mLの0.1N塩酸の混合物に添加した。この反応混合物を、70℃で1時間加熱した。ついで、0.27gの臭化オクチルトリメチルアンモニウム(OTAB)を含む6.5mLのエタノール溶液を、この反応混合物に添加した。混合を、更に30分間継続した。ポリッシングした炭素基材を、この化学処理溶液と短時間接触させ、ついで、150℃で1時間加熱した。室温に冷却した後、WEは使用できる状態になった。
IWEを、一定のpH環境に維持した。一方、EWEを、分析物溶液に直接曝した。以下に記載の試験のために、CE及びEWEを、ポテンシオスタットに接続した。
このAIE参照電極を、種々の外部分析物を使用して試験した。例えば、種々の市販の緩衝液、すなわち、i)pH 2緩衝液(VWR part # BDH5012−20L)、ii)pH 4緩衝液(VWR part # BDH5028−20L)、iii)pH 7緩衝液(VWR part # BDH5056−20L)及びiv)pH 10緩衝液(VWR part # BDH5082−20L)を使用した。
一連の試験を、各分析物溶液(pH 2、4、7及び10、全て25℃)において、10回の方形波スキャンを含むポテンシオスタットで行った。IWEからの信号を、図14に示す。
外部分析物のpHに関わらず、IWEは、−0.440Vのピーク位置を示した。このピーク位置は、pH 7に対応する。外部分析物としてpH 2緩衝液を使用してオーバーナイトで試験を継続することにより、IWEピーク位置は、−0440Vで一定のままであったことが示された。
実施例4:分析物と参照溶液との間のバリアとして多孔性のフリットを備える、WE、CE及び(IWE及びPREを含む)AIE参照電極を組み合わせるボルタンメトリックセンサカートリッジの設計及び動作
図15に示される設計のデバイスを、pH測定用に構築した。PREは、銀のワイヤ(Alfa Aesar、Part # I08U016)を備え、CEを、炭素繊維チューブ(RockWest Composites、12mm OD)とし、AIEのIWE及びWE(図15において、「外部作用電極」と呼ばれる)を、上記のように調製された作用電極とした。種々の緩衝液を、参照溶液として、このデバイスに使用した。動作において、このデバイスを、フリットを通過する深さに分析物溶液に浸した。IWE及びEWEからの信号を、方形波のボルタンメトリースキャン中にモニターした。
下記試験を、参照溶液としてpH 2、pH 7及びpH 10の標準的な緩衝液、並びに、分析物溶液としてpH 2、pH 7及びpH 10の緩衝液を使用して行った。所与の参照溶液に関連するピーク位置を、IWE及びEWEに関して記録した。分析物pHを、参照溶液及び緩衝液のピーク電位の差を利用して決定した。これらの試験の結果を、図16〜18の表及びグラフに示す(PPは、ピーク位置(mV)を意味する。)。
これらの結果は、各参照溶液(pH 2、pH 7及びpH 10)において、IWEの信号ピーク位置が、分析物pHの変化に関わらず、±2mV内(0.03 pH単位に相当)で一定のままであったことを示した。効果的に、IWEは、典型的なAIM(例えば、フェロセン)を上回る、幅広いpH範囲にわたる分析物非感応性を示した。一方で、EWEは、使用したASMに関連する予測された分析物感応性を示した。本実施例では、58mV/pHの相関が、全ての参照溶液について観察された。
参照溶液及び分析物溶液のpHが十分異なる条件では、1つの電流−電位スキャンで、EWE及びIWEからの信号を同時にサンプリングすることができる。それらのpH値が類似する場合、例えば、0.5〜1.0のpH単位未満の場合には、個々のピークの検出が、信号処理の影響(signal processing artifact)により、損なわれる場合がある。このため、本発明により提供されるpHを測定するための方法の一部の実施形態では、参照溶液は、予測される分析物溶液のpHと約2 pH単位異なると推定されるpH値で選択される。図19に示されるグラフ及びチャートは、pH 1緩衝液を含む参照溶液及び、pH 5〜pH 12の一連の緩衝液を含む分析物により行われた試験の結果を示す。
図19に示された結果を参照すると、IWEピーク位置は、2mV以内で一定のままであった。一方、EWEは、pH 5〜pH 12の分析物溶液のpHを、正確に示した。
まとめると、本発明は、一態様において、市販のポテンシオメトリックpH電極に典型的に使用される、既存の参照電極を使用しないASM技術に基づくpHプローブを提供する。ここで表された試験結果は、本発明が、ユーザによる較正が不要なpHセンサを提供することを説明する。ここで表された試験結果は、本発明のAIEが、pH 2からpH 12のpH範囲にわたって安定であることを実証する。
EWE及びIWEからの信号を、2つの検出回路を使用して、又は、1つの検出回路によりEWE及びIWEの信号を多重化することにより、同時に測定する場合、異なる分析物溶液に対する異なる参照溶液の使用が不要である。この方法では、EWE及びIWEからの信号は、位置を正確に測定することができ、ピーク位置における小さな差異でさえも確実に分析することを可能にする、重複しないピークとして検出される。更に、「多用途」の参照溶液を使用して、分析物pH値の全範囲を対象としてもよい。このため、この参照溶液は、センサ構成要素及び、pHプローブの構成の他の材料と、化学的及び電気化学的に適合可能なように最適化されてよい。
実施例5:ウェット−ドライ可逆性を有するAIE参照電極
実施例3に記載のAIE参照電極を、フリットの代わりにNafion複合膜を使用して構築した。Nafion複合膜を、微小多孔性のポリエーテルスルホン膜(EMD Millipore、公称孔径0.45μm)にNafion 117溶液を含浸させることにより調製し、100℃で1時間熱処理した。得らえた膜を、チューブの開口端に合うように切断し、機械的に塞いだ。チューブの内部を、ヒドロキシメチルセルロースを含有する3M KCl溶液で満たした。その粘度を高めた溶液に、塩化銀のワイヤを浸した。完成したAIE参照電極を、実施例3の手順に基づいて製造したWE及びCEとしての炭素繊維チューブを使用して試験した。試験を、pH 2、7及び12のBDH緩衝液で行った。試験開始前に、REを、乾燥状態でオーバーナイト保存した。測定を、pH 2、7及び12のシーケンスとして行い、脱イオン水における中間洗浄を行い、続いて、この順序を反対にした。全ての試験を室温で行う。測定シーケンスは、約10分にわたって行う。更なる試験シーケンスは、1日間隔で行う。各試験の間は、AIE参照電極を、室内空気において乾燥させたままにした。図20A及び20Bに示される結果は、AIE参照電極が、繰り返しの乾燥後に、完全に機能性を有したままであることを示す。
実施例6:WEと、CEと、ウェット−ドライ可逆性AIE参照電極と、を備えるボルタンメトリック電極
AIE参照電極を、市販のNafion膜を、Nafion/ポリエーテルスルホン膜複合体に代えて使用したこと以外は、実施例5に記載のように調製した。実施例3に記載の装置を組み立て、EWE及びCEと接触する分析物としての種々のpH緩衝液を使用して、試験を行った。銀のワイヤを、PREとして使用した。pH 1の緩衝液を、参照溶液として使用した。図21A〜21Cに示した結果では、分析物pHが4〜12間で変化した場合でも、IWEからの信号が顕著に一定であることが示されている。分析物pHと[IWE−EWE]ピーク電位差との間の相関を、未知分析物のpHを更に算出するのに使用した。
この実施例は、非ガラス電極の堅牢性、内部的に較正された規準に関連する安定性及びウェット−ドライ可逆性による使用の利便性を組み合わせた、pHセンサシステムを開示する。
実施例7:WEと、CEと、ウェット−ドライ可逆性AIE参照電極と、を備えるボルタンメトリック電極
下記の空間配置を有するWEと、CEと、AIEと、を備えるセンサ群を、図8に示される構成を有するように、以下に記載されるように構築した。WEは、ポリッシングされた炭素繊維基材のリングを備え、そのリングの平坦な表面には、ASMコーティングが塗工されていた。CEは、電気メッキされたピンを備えた。AIEは、上記実施例5に記載のものと類似するNafion複合膜を備えた。一定な化学的環境(CCE)のゲルを、架橋されたポリアクリルアミド系ポリマー、pH 7の緩衝液及びグリセリンから調製した。塩化銀のワイヤは、PREを形成した。IWEは、ポリッシングされた平坦な炭素繊維基材を備え、その炭素繊維基材にはASMコーティングが塗工されていた。導電性の導線は、これらのセンサ構成要素を、信号処理回路に接続する。したがって、一体化されたセンサ群を、実施例5に記載の装置の機能を実行するが、十分に規定された形状及びアスペクト比を有する1つのハウジングにおいて設計した。
センサ群を、pH 2.04〜11.65の一連の緩衝液を使用して試験した。WE及びIWEからの信号を、交互に測定し、差を緩衝液pHの関数として算出した。これらの試験の結果を、図22に示す。
AIEに予想された通り、IWEの信号は、分析物pHの変化に関わらず、一定のままであった。pHと[IWE−WE]差との相関は、図23に示されるように、実質的に直線であった。したがって、このセンサ群により、未知分析物の直接的なpH測定が可能となった。
一部の実施形態では、図9に示されるように、このセンサ群は、硬質の構成要素(例えば、CCEゲルが固定化されている多孔性の固体を含む一定な化学的環境)を使用して構築される。この構成は、センサの堅牢性を付け加える。