本実施形態の電気デバイス用電極の製造方法は、電極活物質と、バインダと、を含む固形分成分を溶媒に溶解ないし分散したスラリーを集電体に塗布して塗膜を形成し、乾燥をする工程に特徴を有するものである。詳しくは当該乾燥工程において、乾燥時に集電体上の塗膜に赤外線を照射することで、乾燥中の集電体と塗膜を含む電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、集電体と塗膜との界面付近を低温に保ち、尚且つ塗膜表面近傍を高温にすることを特徴とするものである。かかる構成により、上記した発明の効果を奏することができる。また、本実施形態は、上記製造方法により得られてなる電極である。かかる構成により、生産効率が高く安価で、尚且つ電極の活物質層と集電体との密着性(剥離強度)の高い電極を提供できる。その結果、当該電極を用いた電気デバイスでは、デバイスである電池やキャパシタの性能、特に剥離が抑制されることで、容量維持特性に優れている(長寿命化が図れる)。
以下、便宜上、本実施形態の製造方法により得られた電極及びこの電極を用いた電気デバイスの1種である非水電解質二次電池の概要を説明した後、本実施形態の電気デバイス用電極の製造方法について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
非水電解質二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)の電解質の形態で区別した場合に、特に制限はない。例えば、非水電解液をセパレータに含浸させた液体電解質型電池、ポリマー電池とも称される高分子ゲル電解質型電池および固体高分子電解質(全固体電解質)型電池のいずれにも適用されうる。高分子ゲル電解質および固体高分子電解質に関しては、これらを単独で使用することもできるし、これら高分子ゲル電解質や固体高分子電解質をセパレータに含浸させて使用することもできる。
図1は、電気デバイスの1種である扁平型(積層型)の双極型ではない非水電解質二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の基本構成を模式的に表した断面概略図である。図1に示すように、積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体である電池外装材29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された構造を有する。負極は、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層負極集電体が位置するようにし、該最外層負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材29の端部に挟まれるようにして電池外装材29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
図2は、電気デバイスの1種である双極型非水電解質二次電池(以下、単に「双極型電池」ともいう)10bの基本構成を模式的に表した断面概略図である。図2に示す双極型電池10bは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
図2に示すように、双極型電池10bの発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、電解質層17は、基材としてのセパレータ(の面方向中央部=電極極活物質層に対応する部分)に電解質が保持されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15とが電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極23および電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15との間に電解質層17が挟まれて配置されている。
隣接する正極活物質層13、電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型電池10bは、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。また、電解質層17からの電解液の漏れによる液絡を防止する目的で、単電池層19の外周部にはシール部(絶縁層)31が配置されている。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。ただし、正極側の最外層集電体11aの両面に正極活物質層13が形成されてもよい。同様に、負極側の最外層集電体11bの両面に負極活物質層15が形成されてもよい。
さらに、図2に示す双極型電池10bでは、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板25が配置され、これが延長されて電池外装材であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板27が配置され、同様にこれが延長されて電池の外装であるラミネートフィルム29から導出している。
図2に示す双極型電池10bにおいては、通常、各単電池層19の周囲にシール部31が設けられる。このシール部31は、電池内で隣り合う集電体11どうしが接触したり、発電要素21における単電池層19の端部の僅かな不揃いなどに起因する短絡が起こったりするのを防止する目的で設けられる。かようなシール部31の設置により、長期間の信頼性および安全性が確保され、高品質の双極型電池10bが提供されうる。
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型電池10bでは、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型電池10bでも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止する必要がある。よって、発電要素21を電池外装材であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板25および負極集電板27をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
[非水電池の外観構成]
図3は、本発明の製造方法で得られた電極を適用することのできる電気デバイスの代表的な実施形態である扁平な非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)の外観を表した斜視図である。
図3に示すように、扁平な積層型の非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、な非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図1および図2に示すリチウムイオン二次電池10a、10bの発電要素21に相当するものである。発電要素57は、正極(正極活物質層)13、電解質層17および負極(負極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
なお、上記な非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型の非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される前記形態により、軽量化が達成されうる。
また、図3に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図3に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
図4は、図1および図2に示す非水電解質二次電池10a、10bに用いられる、電極65を拡大して表す断面概略図である。
図4に示すように、本実施形態の電極65は、集電体62上に形成されてなる電極活物質層63(正極活物質層、負極活物質層)を有する。また、電気デバイスとして非水電解質二次電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池(リチウムイオン二次電池)、さらには、一次電池にも適用できる。また、電池だけではなく、キャパシタにも適用できる。なお、本明細書中、「集電体」と記載する場合、正極集電体、負極集電体、双極型電池用集電体のすべてを指す場合もあるし、一つのみを指す場合もある。同様に、「電極活物質層」と記載する場合、正極活物質層、負極活物質層の両方を指す場合もあるし、片方のみを指す場合もある。同様に、「電極活物質」と記載する場合、正極活物質、負極活物質の両方を指す場合もあるし、片方のみを指す場合もある。また、製造段階では、上記電極65と区別する意味で、集電体62上にスラリー塗布により塗膜が形成されてなるものを塗膜電極という。かかる塗膜電極が、乾燥(乾燥工程)、プレス(プレス工程)、更に切断(切断工程)等を経て完成した製品が電極65となる。よって、電極65は、活物質層と集電体(箔)との密着性(剥離強度)、ひいては電気デバイス性能(電池性能やキャパシタ性能)を高めることができる点で優れている。
以下、本実施形態の電極65について、さらに詳細に説明する。
[集電体]
集電体を構成する材料に特に制限はないが、好適には金属が用いられる。具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅、その他合金等などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅が好ましい。正極集電体としては、アルミニウム箔が好ましく、負極集電体は、電解銅箔、圧延銅箔等の銅箔が特に好ましい。
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm、好ましくは5〜50μm程度である。
[電極活物質層(正極活物質層、負極活物質層)]
正極活物質層または負極活物質層は、電極活物質、および半結晶性高分子バインダを含み、必要に応じて、半結晶性高分子以外のバインダ、界面活性剤、導電助剤、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
また、電極活物質層内のバインダ成分は、本実施形態の製造方法により、界面近傍でのバインダの結晶化度が低く保たれている。そのため、バインダと集電体との結着性が最大限に向上できているため、バインダを含む電極活物質層と集電体の密着が増し、剥離強度の向上が図られている。界面の電極活物質層内においてバインダ成分はバインダ強度(結着強度や剥離強度)に寄与すると共に電解液保持効果を奏する。
電極活物質層中に含まれるバインダの含有量は、バインダ機能を十分に発揮し、電極活物質を活物質本来の活性を抑制しない量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層の総量に対して、0.1〜10質量%である。より好ましくは1〜10質量%であり、更に好ましくは2〜8質量%であり、特に好ましくは3〜8質量%である。
また、電極活物質層の成分(電極活物質、およびバインダ、必要に応じて導電助剤など)の組成は、前記電極活物質層の総量に対して、以下の通りである。前記バインダの含有量は、上記した通りである。前記電極活物質の含有量は、70〜99.5質量%であり、好ましくは75〜97.5質量%であり、より好ましくは80〜97質量%、特に好ましくは90〜96質量%の範囲である。前記導電助剤の含有量は、0〜10質量%であり、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは3〜7質量%の範囲である。
電極活物質層の厚さは、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、好ましくは100〜200μm、より好ましくは100〜180μmである。
(電極活物質)
正極活物質層は、放電時にイオンを吸蔵し、充電時にイオンを放出できる正極活物質を含むことが好ましい。正極活物質の例としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、PbO2、AgO、またはNiOOHなどが好ましく挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
前記リチウムと遷移金属との複合酸化物の例としては、LiMnO2、LiMn2O4などのLi−Mn系複合酸化物、LiCoO2などのLi−Co系複合酸化物、LiNiO2、Li(Ni−Co−Mn)O2などのLi−Ni系複合酸化物、LiFeO2などのLi−Fe系複合酸化物、LiFePO4などのリチウムと遷移金属との複合リン酸化合物(固溶体を含む)、またはリチウムと遷移金属との複合硫酸化合物などが好ましく挙げられる。前記遷移金属酸化物の例としては、V2O5、MnO2、V2MoO8、MoO3、TiO2、V2O3などが好ましく挙げられる。前記遷移金属硫化物の例としては、TiS2またはMoS2などが好ましく挙げられる。これら正極活物質は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウムと遷移金属との複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。また、正極活物質層は、正極活物質、バインダのほか、目的に応じて上記の任意成分(導電助剤、電解質など)を含むことができる。
負極活物質層は、負極活物質を含む。また、当該負極活物質層は、放電時にイオンを放出し、充電時にイオンを吸蔵できる負極活物質を含むことが好ましい。当該負極活物質としては、例えば、TiO、Ti2O3、TiO2、もしくはSnO2などの金属酸化物、グラファイト(天然グラファイト、人造グラファイト;黒鉛)、アモルファス炭素、カーボンブラック、アセチレンブラック、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti5O12)、金属材料(Si、Snなど)、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素材料またはリチウム−遷移金属複合酸化物が、負極活物質として用いられる。また、負極活物質層は、負極活物質、バインダのほか、目的に応じて上記の任意成分(導電助剤、電解質など)を含むことができる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
各活物質層に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。また、前記平均粒子径とは、1次粒子の平均粒子径をいう。
前記平均粒子径は、例えば、SEM観察、TEM観察により測定することができる。上記でいう平均粒子径は、粒子の形状が一様でない場合もあるため、絶対最大長で表すものとする。ここで、絶対最大長とは、単結合体の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の長さLの平均をとるものとする。なお、値は単結合体10個から求めた平均値とする。
(バインダ)
正極活物質層および/または負極活物質層は、バインダを含む。バインダは、バインダ(結着剤)としての役割を果たせば特に制限されることは無い。すなわち、バインダは、活物質層中の構成部材同士または活物質層と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。バインダとしては、上記目的を達成できる絶縁性材料であって、充放電時に副反応(酸化還元反応)を起こさない材料であればよく、特に限定されないが、以下の3つの点を満たすものがより望ましい。(1)塗工液を安定なスラリーに保つ(分散作用や増粘作用を有している)。(2)活物質粉末、導電助剤(導電フィラー)粉末等の粒子同士を固着させ電極としての機械的強度を維持させ、かつ粒子同士の電気的接触を保つ。(3)集電体に対して接着力(結着力)を維持する。
そのためバインダとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン(TFE)とPVDFとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等を用いることができる。この他にも、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、およびポリブテンからなる群から選択される少なくとも1種、またはポリフッ化ビニリデンの水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を用いることができる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。しかし、バインダがこれらに限定されないことはいうまでもない。
バインダの重量平均分子量(Mw)は、5000〜10000であることが好ましく、7000〜8000であることが好ましい。
なお、上記分子量は、MSスペクトル法、光散乱法、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどで公知の方法で測定することができる。本明細書では、液クロマトグラフィーにより測定した分子量であり、以下で使用する種々の高分子も同様の方法で測定している。
前記バインダの結晶化温度は、乾燥時に赤外線照射により、乾燥中の電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、集電体と塗膜との界面付近を低温に保ちバインダの結晶化度を低く保ち、尚且つ表面近傍を高温にすることができるものが求められる。これにより、高速乾燥が可能となり、生産効率を向上させることができ、更にバインダと集電体との結着性を最大限に向上でき、バインダを含む電極活物質層と集電体の密着を増し、剥離強度を向上できるためである。かかる乾燥時の温度制御が容易であることから、好ましくは100℃以上、より好ましくは100〜150℃、さらに好ましくは110〜130℃の範囲の結晶化温度を有するバインダを使用することが好ましい。
前記バインダの融点も、上記結晶化温度と同様に、乾燥時に赤外線照射により、乾燥中の電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、集電体と塗膜との界面付近を低温に保ちバインダの結晶化度を低く保ち、尚且つ表面近傍を高温にすることができるものが求められる。これにより、高速乾燥が可能となり、生産効率を向上させることができ、更にバインダと集電体との結着性を最大限に向上でき、バインダを含む電極活物質層と集電体の密着を増し、剥離強度を向上できるためである。かかる乾燥時の温度制御が容易であることから、好ましくは110℃以上、より好ましくは120〜300℃、さらに好ましくは140〜260℃の範囲の融点を有するバインダを使用することが好ましい。一般に、上記したようなバインダ(高分子成分)は、加熱により結晶部分が壊れて流動性を示すようになるのが高分子の融解で、この温度をバインダの融点(Tm)としている。また、バインダの中には、融点(Tm)の多様性を示す性質を持つ半結晶性高分子等も含まれているため、そうしたバインダでは、融点の具体的な値を特定することは難しく、ある程度の範囲を持つ場合もある。例えば、本実施形態で使用できるバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)の融点(Tm)は、170℃(160℃〜180℃の融点帯を備えている)である。同様に、ポリブチレンテレフタレートのTm=228℃、ポリエチレンテレフタレートのTm=260℃、ポリエチレンのTm=140℃、ポリプロピレンのTm=165℃、ポリメチルペンテンのTm=235℃、ポリブテンのTm=165℃であり、Tm近傍に融点帯を備えている。以上のことから、本実施形態のバインダの融点(Tm)は、110℃以上、より好ましくは120〜300℃、さらに好ましくは140〜260℃がさらに好ましい。
前記バインダのガラス転移温度は、生産環境の観点から、−50〜50℃の範囲のガラス転移温度を有するバインダ(高分子成分)を使用することが好ましい。
なお、本明細書における結晶化温度(Tc)、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、いずれもDSC(示差走査熱量測定)により求めることができる。通常、ガラス転移(Tg)は非晶質構造が増加する際に起こる。このような転移はDSC曲線のベースラインに段となって現れる。これは、試料中の熱容量の変化による。温度の上昇に伴い、非晶質構造は粘度が減少し、ある点で分子が自発的に結晶化するのに十分な温度(Tc)となる。非晶質固体から結晶性固体に転移する際は発熱反応となり、Tcは山のピークとして現れる。さらに温度が上昇すると最終的に融点(Tm)となり、吸熱(谷のピーク)として現れる。本実施形態で用いたDSCの熱分析の条件は、30℃/分で昇温し、融点ピークを測定(融解温度)後、30℃/分で降温し、再結晶化点(結晶化温度)を測定したものである。
前記バインダの結晶化度は、10%以上60%以下が好ましく、40%以上60%以下がより好ましい。
なお、ここでいう結晶化度は、重量結晶化度であり、1気圧25℃の条件で示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定している。
また、負極活物質層では、水系溶媒を用いた負極スラリーを使用する場合には、上記の電極活物質、水系バインダ、更に増粘剤などの添加剤が含まれうる。
水系バインダとは、水系溶媒に均一に分散可能なバインダのことを意味する。水系溶媒を用いた負極スラリーを用いて形成された負極活物質層に含まれる水系バインダとしては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム(またはニトリルブタジエンゴム;NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリレート系ゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などゴム系バインダを用いることもできる。更に、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアクリレート、ポリビニールアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコールなどの水系バインダ等を挙げることができる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適な水系バインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり負極活物質層に使用が可能となる。これらの水系バインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。但し、本実施形態では上記に例示したものに何ら制限されるものではなく、従来公知の各種の水系バインダを用いることができる。これらは、電極製造時には、上記水系バインダを安価な水等の水系溶媒中に粒子状に分散させた状態で用いられる。これらの水系バインダを用いることで、充電時の加熱分解発熱量が低く、高容量が得やすく、サイクル特性に優れる。なお、これら水系バインダは強い結着性(結着効果)はあるものの、増粘性が十分でない。そのため、電極作成時に水系スラリーに水系バインダを加えただけでは十分な増粘効果が得られない。そこで、増粘性に優れるCMCないしCMC塩を増粘剤として用いることで、水系バインダに増粘性を付与するものである。
水系バインダの含有量は、負極活物質等を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは負極活物質層の総量に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。但し、上記範囲を外れても、本実施形態の作用効果を有効に発現し得る範囲であれば、十分に適用可能である。水系バインダの含有量が0.5質量%以上であれば、水系スラリーを用いて塗工、乾燥することで十分な結着効果を発現し、得られる負極活物質層において負極活物質同士または負極活物質と集電体とを結着し、導電性の3次元ネットワークを形成し得るものである。また、初回充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による容量の優れた負極を提供できる。また、水系バインダの含有量が15質量%以下であれば、負極活物質層に占める水系バインダ量を十分に抑えることができ、初回充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による高容量の負極を提供できる。また、水系スラリーを用いて塗工、乾燥することで十分な結着(バインダ)効果を発現し、得られる負極活物質層において、負極活物質同士を結着し、高い導電性の3次元ネットワークを形成し得るものである。
負極活物質層の作製に、上記の電極活物質に、水系溶媒を含む水系スラリーを用いてなる場合には、負極活物質層中に負極活物質、増粘剤またはCMC誘導体、水系バインダを含む。好ましくは、更にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属、炭酸アルカリを含む。必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
増粘剤のCMCないしCMC塩は、その分子中に、カルボキシルメチル基(−CH2COOH)の他に、その塩として、−CH2COONa、−CH2COOLi、−CH2COOK、−CH2COONH4等が存在する。こうした多数の種類(化合物)を包含するCMCないしCMC塩としては、既に多くの種類(化合物)が市販されており、これらの中から適宜選択して使用することができる。これら市販品の多くは、分子中の−CH2COOH基の水素原子の一部または全部がカチオン種であるNa、Li、K、NH4などであるものが用いられており、カチオン種であるNa、Li、K、NH4量は任意に調整可能である。本実施形態では、−CH2COONaなどカチオン種であるNa等の部分でミセルを形成する為、CMCないしCMC塩の分子鎖の末端はNa等のカチオン種のものを用いるのが望ましいといえる。
CMC誘導体としては、増粘剤のCMCないしCMC塩の分子中に存在する−CH2COOR基の全部または一部が、−CH2CHO基、−CH2CH2OH基、−CH3基のいずれかになっているものなどが挙げられる。ここで、CMCないしCMC塩の分子中に存在する−CH2COOR基としては、1種だけでもよいし、2種以上であってもよい。1種の場合には、分子中に存在する−CH2COOR基のRには、Na、Li、K、NH4などのカチオン種のいずれかが挙げられる。また2種以上の場合には、分子中に存在する−CH2COOR基のRには、少なくともNa、Li、K、NH4などのカチオン種が含まれていればよく、その他に、H(水素原子)を有するものであってもよい。初期充電前の負極活物質層の構成材料としてCMCないしCMC塩ではなく、CMC誘導体を含有することで、CMC誘導体では分子中に存在する−CH2COOR基が、初期充電で還元分解されにくい安定な−CH2CHO基、−CH2CH2OH基、−CH3基のいずれかになっている。そのため、初期充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による容量の優れた負極を提供できる。
CMC誘導体では、CMCないしCMC塩の分子中に存在する−CH2COOR基(水系スラリー中では電離してCH2COO−(イオン基)の状態で存在)の全部または一部が還元反応により、安定な−CH2CHO基、−CH2CH2OH基、−CH3基のいずれかになっている。かかるCMCないしCMC塩の分子中に存在する−CH2COOR基(水系スラリー中で電離した状態のCH2COO−)の還元割合は、10〜100%、好ましくは50〜100%、より好ましくは80〜100%、特に好ましくは100%である。還元割合が10%未満であれば、得られるCMC誘導体を初回充電した際のガス発生を十分に抑えるのが困難となる場合がある。10%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上とすることで、得られるCMC誘導体を初回充電した際のガス発生を十分に抑えることができる。よって、−CH2COOR基(CH2COO−基)の還元割合は必ずしも全部(=100%)でなくともよいといえるが、還元割合100%とすることで、得られるCMC誘導体を初回充電した際のガス発生を格段に抑制することができる。また、容量向上にも大いに寄与し得る点でも好ましいといえるものである。還元割合は、CMC誘導体につき表面ESCA(X線光電子分光法(装置))などを用いて測定することができる。この他にも、1H NMR(核磁気共鳴分光法)、13C NMR、二次元NMRを用いたCOSY(COrrelation SpectroscopY,COrrelated SpectroscopY)測定法等を用いて測定(補足)することもできる。なお、上記還元割合に代えて、後述するアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量を満足するものであれば、本発明の所期の目的及び効果を達成できているものである。そのため、上記した高価な装置を購入して上記還元割合を求めなくても、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量を測定することで、本実施形態の所期の目的及び効果の達成が確認可能であることから、上記還元割合は、いわば任意要件といえるものである。
水系溶媒を用いた負極スラリーを用いて形成された負極活物質層に含まれる増粘剤またはCMC誘導体の含有量は、負極活物質層の総量に対して、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜2質量%の範囲である。CMC誘導体の含有量が0.1質量%以上であれば、負極製造過程での増粘効果を十分に発現し、平坦で滑らかな表面の負極活物質層とすることができる。また、得られた負極の初期充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による容量の優れた負極を提供できる。またCMC誘導体の含有量が10質量%以下であれば、優れた増粘効果により水系の負極スラリーの粘度を適当に調整することができ、所望の負極活物質層とすることができる。また、得られた負極の初期充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を抑制でき、ガス発生のみならず充放電効率の改善による容量の優れた負極を提供できる。
増粘剤またはCMC誘導体の重量平均分子量は、5000〜1200000、好ましくは6000〜1100000、より好ましくは7000〜1000000の範囲である。CMC誘導体の重量平均分子量が5000以上であれば、負極水系スラリーの粘度を適度に保つことができるなど、CMC誘導体が還元される前の増粘剤のCMCないしCMC塩を水に溶解した際に、負極の水系スラリーの粘度を適度に保つことができる。その結果、負極の製造段階で増粘剤として有効に利用することができる点で有利である。CMC誘導体の重量平均分子量が1200000以下であれば、CMC誘導体が還元される前の増粘剤のCMCないしCMC塩を水等の水系溶媒に溶解した際にゲル状態となることなく、負極の水系スラリーの粘度を適度に保つことができる。その結果、負極の製造段階で増粘剤として有効に利用することができる点で有利である。CMC誘導体の重量平均分子量の測定方法としては、例えば、金属−アミン錯体および/または金属−アルカリ錯体を含有する溶媒を移動相溶媒としたゲルパーミュエーションクロマトグラフィーを用いてCMC誘導体の分子量分布の測定を行うことができる。かかる分子量分布から、CMC誘導体の重量平均分子量の分子量を算出することができる。なお、CMC誘導体の重量平均分子量の測定方法としては、上記方法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法により測定、算出することができる。
水系スラリーを用いた負極活物質層に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、充放電容量を改善することができる。該アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属としては、特に制限されるものではなく、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。これらは1種単独でも、2種以上を含有していてもよい。
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量は、負極活物質層の総量に対して、50〜30000ppm、好ましくは100ppm〜20000ppmの範囲である。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果を有効に発現し得る範囲であれば、十分に適用可能である。アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量が50ppm以上であれば、充放電容量の改善に有効な含有効果が認められる。また30000ppm以下であれば、充放電容量の改善に寄与することができる点で有利である。
水系溶媒を用いた負極スラリーを用いて形成された負極活物質層中のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、負極製造過程でアルカリ又はアルカリ水を添加することにより、負極活物質層に持ち込まれる成分である。具体的には、負極製造段階でアルカリ水を用いることで、CMCないしCMC塩を還元することで、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの元素を含有した負極活物質層が得られる。これらは、後述するように酸化物(酸化リチウム、酸化カリウム)や炭酸塩(例えば、炭酸リチウム、炭酸カリウム)等の形態で存在していてもよい。
水系溶媒を用いた負極スラリーを用いて形成された負極活物質層には、炭酸アルカリ(Li2CO3)を含むのが好ましい。具体的には、水系スラリーを用いた負極活物質層に炭酸アルカリを含むことで、初回充電でのCMCないしCMC塩の還元分解を大幅に抑制することができ、ガス発生の抑制のみならず、充放電効率が大幅に改善された優れた負極を提供できる。更に初回充放電の効率がよくなる点でも優れている。該炭酸アルカリも、負極製造過程でアルカリ又はアルカリ水を添加することにより、大気中(ないし水系スラリー)の二酸化炭素との反応により、負極活物質層に持ち込まれる成分である。
炭酸アルカリとしては、特に制限されるものではなく、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独でも、2種以上が併用して含まれていてもよい。なかでも炭酸リチウムが好ましい。この場合には、CMC誘導体の被膜の表面に炭酸リチウムを点在させる、若しくは炭酸リチウムの被膜を形成することができる。この炭酸リチウムは負極活物質のSEI(表面皮膜)の成分でもあるため、ガス発生抑制効果・容量アップの効果に加え、寿命性能の向上を図ることもできる点で優れている。CMC誘導体の被膜の表面への炭酸リチウムの点在化若しくは炭酸リチウムの被膜化は負極製造時になされる以外にも、更に初回充放電によりなされることもある。
炭酸アルカリの含有量としては、負極活物質層の総量に対して、0.01〜5質量%の範囲とするのが好ましい。但し、上記範囲を外れても、本実施形態の作用効果を有効に発現し得る範囲であれば、十分に適用可能である。炭酸アルカリの含有量が0.01質量%以上であれば、CMC誘導体の膜表面に炭酸リチウムの被膜を形成可能である。そのため、ガス発生抑制効果・容量アップの効果に加え、寿命性能の向上を図ることができる点で優れている。一方、炭酸アルカリの含有量が5質量%以下であれば、負極活物質の含有量を低減させることなく、高容量を保持しつつ、CMC誘導体の膜表面に炭酸リチウムの被膜を形成可能である。そのため、ガス発生抑制効果・容量アップの効果に加え、寿命性能の向上を図ることができる。
電極活物質層に含まれうるその他の添加剤としては、例えば、界面活性剤、導電助剤、電解質、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。
前記界面活性剤としては、公知のカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤を使用することができる。
前記導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。電極活物質層が導電助剤を含むと、前記電極活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
前記電解質としては、電解質塩(リチウム塩)が好ましく、具体的には、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。
前記イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
また、本実施形態において、正極活物質層および負極活物質層中に含まれうる、導電助剤、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤の配合比は、特に限定されない。それらの配合比は、非水溶媒二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
[電極の製造方法]
本発明の電極の製造方法は、電極活物質、半結晶性高分子バインダと、を含む固形分成分を溶媒に溶解ないし分散したスラリーを集電体に塗布し、乾燥をする工程において、前記集電体に塗布されたスラリーの温度が平衡状態になる定率乾燥部で、前記バインダの結晶化温度未満で加熱することを特徴とするものである。
本発明の電極の製造方法は、電極活物質と、バインダと、を含む固形分成分を溶媒に溶解ないし分散したスラリーを集電体に塗布して塗膜を形成し、乾燥をする工程に特徴を有するものである。詳しくは当該乾燥工程において、乾燥時に集電体上の塗膜に赤外線を照射することで、乾燥中の集電体と塗膜を含む電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、集電体と塗膜との界面付近を低温に保ち、尚且つ塗膜表面近傍を高温にすることを特徴とするものである。かかる構成により、上記した発明の効果を奏することができる。また、本実施形態は、上記製造方法により得られてなる電極である。かかる構成により、生産効率が高く安価で、尚且つ電極の活物質層と集電体との密着性(剥離強度)の高い電極を提供できる。その結果、当該電極を用いた電気デバイスでは、デバイスである電池やキャパシタの性能、特に剥離が抑制されることで、容量維持特性に優れている(長寿命化が図れる)。
以下、乾燥工程について詳細に説明する。
(スラリーの調製)
まず、乾燥工程に用いるスラリーを調製する(スラリー調製工程)。このスラリー調製工程では、電極活物質、バインダと、を含む固形分成分(スラリー原料=活物質層の構成成分)を溶媒に溶解ないし分散した所望のスラリーを調製する。ここで、前記固形分成分とは、スラリーに含有される溶媒以外の全成分である。またスラリー原料には、電極活物質、バインダ以外に、必要により、界面活性剤、導電助剤、電解質、またはイオン伝導性ポリマー等の任意成分を適宜混合させてもよい。すなわち、調製されたスラリーには、電極活物質、溶媒、およびバインダ、必要に応じて、導電助剤など上述の任意成分を含む。
一般に、正極活物質層および負極活物質層を作製する際には、溶媒に活物質層の構成成分を添加・混合したいわゆるスラリー(塗工液)を使用する。前記スラリーの溶媒を水系溶媒にすると、活物質層の構成成分の分散性は容易に担保できる利点がある。一方、前記スラリーの溶媒を非水系溶媒にすると、乾燥工程で該溶媒を、好ましくは100℃以上で、蒸発させることで簡単に除去することができる利点がある。また、非水系溶媒を用いるとバインダ、活物質などを溶媒に溶解・分散しづらい傾向があるが、バインダとして半結晶性高分子(例えば、PVdF等のフッ素樹脂やフッ素ゴム等)を用いることで、当該バインダなどの溶解性・分散性による不均一の問題を解消できる。そのため、バインダ、活物質などを非水系溶媒にも安定的に溶解・分散させることができる点で優れている。なお、水系溶媒を用いたスラリーは、負極スラリーに適しており、該水系溶媒を用いた負極スラリーを使用する場合には、上記電極活物質、水系バインダのほか、増粘剤(CMCなど)などの添加剤が含まれうる。
上記スラリーの調製方法、すなわち電極活物質、バインダ、溶媒および任意成分の混合方法や添加順序は特に制限されない。前記混合方法としては、それぞれを溶媒に予め分散/溶解させる;上記バインダを溶解させる前にその他の成分を予め分散/溶解させる;電極活物質及び/又は導電助剤と予め混合しておく;スラリー製造途中段階で添加する;等といった方法が挙げられる。なお溶解/分散にはプラネタリーミキサーを用いるのが望ましいが、一般的な分散用装置を使用してもよいなど特に制限されるものではない。
本実施形態で用いることのできる溶媒としては、特に制限されるものではなく、非水系溶媒としては、有機溶媒が好ましく、少なくとも電極活物質やバインダを分散/溶解させることができる溶媒であればよい。具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、シクロヘキサン、ヘキサンなどが用いられうる。また、水系溶媒としては、特に制限されるものではなく、従来公知の水系溶媒を用いることができるものである。例えば、水(具体的には、純水、超純水、蒸留水、イオン交換水、地下水、井戸水、上水(水道水)等)、水とアルコール(例えば、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなど)との混合液等を用いることができる。但し、本実施形態では、これらに何ら制限されるものではなく、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内であれば、従来公知の水系溶媒を適宜選択して利用することができる。
上記スラリーの組成は、スラリーの固形分(溶媒以外の成分=活物質層の構成成分)全量に対して、バインダの含有量は、0.1〜10質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%、特に好ましくは3〜8質量%の範囲である。前記電極活物質の含有量は、充分な電池容量を得る点から考慮すると、70〜99.5質量%、好ましくは75〜99質量%、より好ましくは80〜98質量%、特に好ましくは90〜97.5質量%の範囲である。電極活物質の含有量が上記範囲内であれば、バインダの含有量が少なくなることなく、有効にその作用効果を十分に発揮することができる。また電極活物質同士の結着及び、電極活物質と集電体(箔)の結着性が不足することなく、十分な結着強度を発現することができ、電極活物質と集電体(箔)の剥離強度を向上させることができる。前記導電助剤の含有量は、好ましくは0〜10質量%であり、より好ましくは3〜7質量%の範囲である。また、溶媒を100質量部としたとき以下の通りである。前記スラリー中のバインダの量は、好ましくは1〜10質量部であり、より好ましくは1〜7質量部であり、さらに好ましくは1〜5質量部である。前記スラリー中の電極活物質の量は、好ましくは80〜99質量部、より好ましくは85〜99質量部、さらに好ましくは85〜90質量部である。前記スラリー中の導電助剤の量は、好ましくは1〜5質量部、より好ましくは3〜5質量部、さらに好ましくは4〜5質量部である。かような組成を備えたスラリーであると目的の電極を製造することができる。ただし、本実施形態では、上記スラリーの組成の範囲を外れる場合であっても、本実施形態の作用効果を有効に発現し得る場合には、本実施形態の技術範囲に含まれるものとする。
また、換言すると、上記スラリーの固形分中のバインダの含有量は、0.5〜10質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%、特に好ましくは3〜8質量%の範囲であることが望ましい。上記範囲内とすることで、バインダとしての役割(機能)を十分に発現できる。特に、所定量のバインダを含む塗膜を赤外線加熱することで、溶媒を適度に蒸発させつつ、塗膜内のバインダのうち、界面近傍でのバインダの結晶化度を低く保つ効果を十分に発現させることができる。これによりバインダと集電体との結着性を最大限に向上でき、バインダを含む塗膜と集電体との密着が増し、剥離強度を向上することができる。また、得られる電極に占める上記バンンダの含有量が過度にならず、相対的に活物質量を高めることができる。そのため当該電極を用いた電池等の性能(特に充放電容量など)を高めることもできる。
さらに、上記スラリーの粘度は、25℃で、4000〜10000mPa・secが好ましく、6000〜8000mPa・secがより好ましい。上記スラリーの粘度が上記範囲であると塗布量安定化という観点で好ましい。
(塗膜形成工程)
次に、乾燥工程に供される塗膜を形成する。詳しくは上記により調製したスラリーを集電体(箔)に塗布して、乾燥工程に供される塗膜(ウェット状態;電極塗膜)を形成する。
(塗膜形成工程)。
上記塗膜形成工程において、上記により調製したスラリーを集電体に塗布して塗膜を形成する方法としては、特に制限されることはない。例えば、スクリーン印刷法、静電スプレーコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、スプレー塗布、フローコーティング法などの公知の方法で、上記スラリーを集電体上に塗布して塗膜を形成することができる。また、得られる電極活物質層が所望の厚さを有するように、スラリーの濃度(粘度)、塗布回数、塗布スピードなどを適宜調整するとよい。
(乾燥工程)
次に、塗膜を所定の乾燥条件で乾燥をする(乾燥工程)。図5は、本発明の電極の製造方法の乾燥工程におけるプロファイルに関する説明図である。図5に示すように、本乾燥工程では、集電体及び塗膜を乾燥可能な温度まで昇温させる昇温部(予熱)、溶媒(例えば、NMP)蒸発速度(乾燥速度)が定率に推移し、塗膜表面温度が平衡状態になる定率乾燥部、そして減率乾燥部から構成される。昇温部では、室温から乾燥可能な温度まで塗膜表面温度が急激に上昇する。定率乾燥工程では、溶媒液面(塗膜表面)が塗膜内部の固形分(=活物質等)より量が多く(塗膜)表面が自由液面であり、電極塗膜内の温度分布が溶媒の沸点で規定される。減率乾燥部では、溶媒液面(塗膜表面)が塗膜内部の固形分(=活物質等)より量が少なく温度が入熱量に依存し表面が固形分である。この減率乾燥部では、溶媒蒸発速度(乾燥速度)が減率(減速)し、塗膜表面温度がより高温になる。最終的に溶媒がほぼ蒸発し、溶媒蒸発速度(乾燥速度)がほぼゼロまで減率(減速)し、塗膜表面温度が高温で安定した状態で乾燥が終了する。乾燥速度(溶媒蒸発速度)は、どのくらい溶媒が蒸発したか、所定時間ごとに電極塗膜の重量を測定し、乾燥速度の推移を算出することで求めることができる。
本実施形態では、乾燥工程において、乾燥時に集電体上の塗膜に赤外線を照射することで、乾燥中の集電体と塗膜を含む電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、集電体と塗膜との界面付近を低温に保ち、尚且つ塗膜の表面近傍を高温にすることを特徴とする。かかる構成により、上記した発明の効果を奏することができる。即ち、電極塗膜、特に塗膜内全体での蒸発速度(乾燥速度)を高く保つとともに、界面近傍の温度を低くすることで、急速乾燥(高速乾燥)しても界面近傍のバインダの結晶化を抑制することができる。その結果、高速乾燥が可能となり生産効率を向上させることができる。さらに高速乾燥を行った場合でも、界面近傍でのバインダの結晶化度を低く保つことができるので、バインダと集電体との結着性を最大限に向上でき、バインダを含む塗膜(電極活物質層)と集電体の密着が増し、剥離強度を向上することができる。
ここで、乾燥中の電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、界面付近を低温に保ち(結晶化を抑制し)、表面近傍を高温にする(乾燥速度を向上させる)、即ち、表面から赤外線の浸透する領域までの温度を高く保ち、内部、特に界面近傍の温度を低温にするのは、乾燥工程の昇温部、定率乾燥部、減率乾燥部のうち、少なくとも定率乾燥部である。但し、減率乾燥部でも上記要件を満足するようにしてもよい。
塗膜への赤外線照射量は、図5の定率乾燥部では、スラリーを塗布して形成した電極塗膜の表面温度がバインダの結晶化温度以下であって、界面近傍(界面の集電体表面)の温度が前記表面温度よりも10〜150℃低い温度範囲となるように調節すればよい。好ましくは10〜100℃、より好ましくは10〜15℃低い温度範囲となるように調節すればよい。但し、本発明の作用効果を有効に発現し得る場合には、上記温度範囲を外れても本実施形態の技術範囲に含まれるものとする。また、塗膜への赤外線照射量は、図5の減率乾燥部の温度安定域では、電極塗膜の表面温度がバインダの結晶化温度以上、融点以下であって、界面近傍(界面の集電体表面)の温度を前記表面温度より10〜150℃低い温度範囲となるように調節すればよい。好ましくは10〜100℃、より好ましくは10〜15℃低い温度範囲となるように調節すればよい。但し、本発明の作用効果を有効に発現し得る場合には、上記温度範囲を外れても本実施形態の技術範囲に含まれるものとする。
また、赤外線照射に用いる波長としては、電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、集電体と塗膜との界面付近を低温に保ち、尚且つ塗膜の表面近傍を高温にし、上記した塗膜表面と界面との温度差(温度勾配)を持たせることができるものであればよい。例えば、溶媒にNMPを用いる場合には、近赤外線波長0.75μm〜1.4μmの範囲が望ましい。これは溶媒(NMP)の吸収波長に近いものであれば、赤外線がその周波数(波長)に応じて表面から塗膜内部に浸透する効果があることから、赤外線が到達する表面から塗膜内部までの所定の距離の溶媒を効率よく蒸発させることができるためである。したがって、溶媒の種類に応じて適宜、赤外線照射に用いる波長を調節すればよい。
また、表面近傍を高温にすることのできる表面から赤外線の浸透する領域(表面近傍)は、例えば、近赤外線波長0.75〜1.4μmの場合、表面から膜厚方向に概ね10〜70μm、好ましくは20〜50μmまでの深さ範囲である。但し、赤外線がその周波数(波長)に応じて浸透する領域が異なることから、上記範囲はあくまでも1例であり、赤外線の周波数等により適宜調製することができる。また、赤外線の強度や照射時間によっても、浸透する領域(表面近傍)をある程度、調整可能である。従って、予備実験を通じて、赤外線照射条件(周波数、強度、時間)を徐々に変更させて、赤外線の浸透する領域及び電極塗膜の厚み方向の温度分布のデータを取得し、スラリー組成に応じた最適な赤外線照射条件を選択できるようにしておくのが望ましい。
表面から赤外線の浸透する領域までの温度を高く保つ(表面近傍を高温にする)際の定率乾燥部での表面近傍の高温とされる温度範囲としては、バインダや溶媒の種類にもよるが、90℃〜160℃の範囲である。好ましくは100〜150℃、より好ましくは120〜140℃である。但し、本発明の作用効果を有効に発現し得る場合には、上記温度範囲を外れても本実施形態の技術範囲に含まれるものとする。表面近傍の高温とされる温度が160℃以下、より好ましくは140℃以下であれば、バインダが変質しない点で優れている。また表面近傍の高温とされる温度が90℃以上、より好ましくは120℃以上であれば、乾燥速度を高めることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。
更に、本実施形態では、乾燥工程において、上記スラリーを集電体に塗布して形成された塗膜(ウェット状態)を、集電体に塗布された塗膜表面の温度が平衡状態になる定率乾燥部で、塗膜表面の温度がバインダの結晶化温度未満となるように加熱してもよい。上記定率乾燥部で、塗膜表面の温度がバインダの結晶化温度未満で加熱しても、本実施形態の作用効果を奏することができるためである。ここで、定率乾燥部での塗膜表面の乾燥温度は、塗膜表面温度が、バインダの結晶化温度未満の温度範囲となるように加熱、制御すればよい。即ち、乾燥工程の上記定率乾燥部で、塗膜表面温度を、溶媒蒸発の観点から100℃以上、上記バインダの結晶化温度未満の温度範囲に制御する。このように、塗膜表面温度を100℃以上、バインダの結晶化温度未満の温度範囲で定率乾燥することで溶媒の蒸発速度を高め、乾燥速度を高めることができ、高速乾燥を行うことができる。また、界面でのバインダの結晶化を抑制することにも貢献し得る。その結果、バインダは、集電体との密着力を増し、該バインダと集電体との剥離強度(接着強度)を格段に高めることにも貢献できる。なお、スラリー塗膜(ウェット状態)中の溶媒、例えば、NMP(N−メチル−2−リロリドン)を素早く除去(蒸発)する観点から、塗膜表面温度は100℃以上が好ましいといえる。
また、上記定率乾燥部での塗膜表面温度は、更に好ましくは、高温下で高速乾燥でき、尚且つ塗膜表面温度の管理のし易さから、塗膜表面温度をバインダの結晶化温度よりも10℃〜30℃低い温度範囲とするのがより望ましい。即ち、上記バインダの結晶化温度により近い温度で行う方が高速乾燥しやすい反面、塗膜表面温度がバインダの結晶化温度以上とならないように温度管理(制御)するのが難しくなるためである。また、上記バインダの結晶化温度から離れた低温側で行う方が、塗膜表面温度が上記バインダの結晶化温度以上とならないように温度管理するのは容易な反面、塗膜表面温度が低い分だけ(溶媒蒸発速度が遅くなる分だけ)高速乾燥し難くなるためである。
表面近傍を高温にする際の減率乾燥部での温度範囲としては、バインダや溶媒の種類にもよるが、120℃〜180℃の範囲である。好ましくは125〜175℃、より好ましくは130〜170℃である。但し、本発明の作用効果を有効に発現し得る場合には、上記温度範囲を外れても本実施形態の技術範囲に含まれるものとする。表面近傍の高温とされる温度が180℃以下、より好ましくは170℃以下であれば、バインダが溶融しない点で優れている。また表面近傍の高温とされる温度が120℃以上、より好ましくは130℃以上であれば、乾燥速度を高めることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。
更に、本実施形態では、表面近傍を高温にする際の減率乾燥部で、バインダの結晶化温度以上、融点未満で加熱してもよい。かかる構成とすることにより、本実施形態の作用効果を有効に奏することができるためである。但し、減率乾燥部では、必ずしも該バインダの結晶化温度以上、融点未満で加熱する必要はない。例えば、減率乾燥部での塗膜表面温度も100℃以上、バインダの結晶化温度未満の温度範囲で加熱乾燥してもよい。
また減率乾燥部での塗膜表面温度は、好ましくは高温下で高速乾燥でき、尚且つ塗膜表面温度の管理のし易さから、塗膜表面温度をバインダの結晶化温度よりも5℃以上高い温度で、尚且つ上記バインダの融点よりも10℃以上低い温度の範囲とするのが望ましい。即ち、バインダの融点により近い温度で行う方が高速乾燥しやすい反面、塗膜表面温度が該バインダの融点以上とならないように温度管理(制御)するのが難しくなるためである。一方、バインダの融点から離れた低温側(=バインダの結晶化温度により近い温度)で行う場合、塗膜表面温度が低い分だけ(溶媒蒸発速度が遅くなる分だけ)高速乾燥し難くなる。そのためバインダの結晶化温度よりも5℃以上高い温度で、該バインダの融点よりも10℃以上低い温度の範囲とするのが、塗膜表面温度が該バインダの結晶化温度未満や融点以上とならないように温度管理するのが容易で高速乾燥にも好適である。
なお、本明細書において、塗膜表面温度は、集電体上に塗布、形成された塗膜(電極活物質層)の表面温度である。上記高温とされる表面近傍の温度の測定方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の測定方法を利用することができる。例えば、塗膜表面の中央部に熱電対を貼りつけることで測定可能である。例えば、図6の塗工・乾燥装置81において、集電体84表面へのスラリー塗工装置85によるスラリー塗布直後に、乾燥炉87に入る前に、スラリー塗膜86aの表面に、熱電対を貼り付ける。熱電対は、乾燥炉長以上の長さのものを使用する。経時で温度データを採取できるように、データ収集装置につなぎ、乾燥炉87内を移動する集電体84上の塗膜86aの表面温度履歴を計測すればよい。かかる塗膜表面温度の測定により、図5に示すような乾燥炉内での塗膜表面温度のプロファイルを取得することができる。但し、かかる測定方法に何ら制限されるものではなく、従来公知の測定方法を適宜選択して使用することができる。例えば、塗膜表面からの放射温度を放射温度計(物体から放射される赤外線や可視光線の強度を測定して、物体の温度を測定する温度計である)を用いて計測する方法なども利用可能である。
一方、界面付近を低温に保つ際の定率乾燥部での界面近傍の低温とされる温度範囲としては、バインダや溶媒の種類、塗膜の厚さ等にもよるが、70〜140℃、好ましくは80℃〜135℃、より好ましくは90℃〜130℃である。更に上記した適切な表面温度と界面との温度差を満足すればよい。界面近傍の低温とされる温度が、70℃以上、好ましくは90℃以上であれば、バインダの結晶化を大幅に抑制した上で、界面近傍の溶媒についても速やかに蒸発させることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。界面近傍の低温とされる温度が140℃以下、好ましくは130℃以下であれば、バインダの結晶化を抑制しした上で、界面近傍の溶媒についても速やかに蒸発させることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。
また、界面付近を低温に保つ際の定率乾燥部での界面近傍の低温とされる温度範囲としては、バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度範囲とするのが望ましい。バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができる。
界面付近を低温に保つ際の減率乾燥部での界面近傍の低温とされる温度範囲としては、バインダや溶媒の種類、塗膜の厚さ等にもよるが、80〜150℃、好ましくは90℃〜140℃、より好ましくは105℃〜130℃である。更に上記した適切な表面温度と界面との温度差を満足すればよい。界面近傍の低温とされる温度が、80℃以上、好ましくは105℃以上であれば、バインダの結晶化を大幅に抑制した上で、界面近傍の溶媒についても速やかに蒸発させることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。界面近傍の低温とされる温度が150℃以下、好ましくは130℃以下であれば、バインダの結晶化を抑制しした上で、界面近傍の溶媒についても速やかに蒸発させることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。
また、界面付近を低温に保つ際の減率乾燥部での界面近傍の低温とされる温度範囲としては、バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度範囲とするのが望ましい。バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができる。
塗膜内部、特に界面近傍の温度の測定方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の測定方法を利用することができる。例えば、界面に位置する集電体表面中央部に熱電対を貼りつけることで測定可能である。
本実施形態では、赤外線照射に加え、更に熱風乾燥を併用するのが望ましい。詳しくは、乾燥時に、さらに熱風乾燥を行うことで、前記塗膜表面に吹き付ける熱風温度を高く、裏面に吹き付ける熱風温度を低くし、前記界面付近の温度をさらに低く保つのが望ましい。これは、集電体は金属箔である為、熱伝導率はスラリーの熱伝導率に較べ大幅に高い。このため界面近傍の温度は電極塗膜の裏面に吹き付ける熱風温度に大きく影響を受ける。裏面に吹き付ける熱風温度をバインダの結晶化温度に較べ大幅に低く設定することで、本実施形態のポイントである電極塗膜内の温度勾配の機能をさらに増強することができ、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができる。また、乾燥速度をさらに向上させることができる点で優れている。
ここで、電極塗膜表面に吹き付ける熱風温度を高くするのは、乾燥工程の昇温部、定率乾燥部、減率乾燥部のうち、少なくとも定率乾燥部である。但し、減率乾燥部でも上記要件を満足するようにしてもよい。
塗膜表面に吹き付ける熱風温度を高くすべく、この際に定率乾燥部での塗膜表面に吹き付ける高温とされる熱風の温度範囲としては、150〜200℃、好ましくは150℃〜170℃の範囲である。これは、上記した赤外線照射による塗膜表面の温度範囲より若干高く、尚且つ溶媒の沸点を上回らない範囲としたものである。これにより、電極塗膜内の温度勾配の機能をさらに増強することができ、乾燥速度をさらに向上させることができる。更に界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることにも大いに貢献し得るものである。
また、赤外線照射と熱風乾燥を併用し塗膜表面近傍の温度を高く保つ際の定率乾燥部での塗膜表面に吹き付ける熱風の温度範囲の温度範囲としては、バインダの結晶化温度以上、好ましくはバインダの結晶化温度から該結晶化温度+(0〜60℃)までの範囲とするのが望ましい。かかる熱風温度とすることで、乾燥速度を高めることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。更に界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることにも貢献しるためである。
塗膜表面に吹き付ける熱風温度を高くすべく、この際に減率乾燥部での塗膜表面に吹き付ける高温とされる熱風の温度範囲としては、150〜200℃、好ましくは150℃〜170℃の範囲である。これは、上記した赤外線照射による塗膜表面の温度範囲より若干高く、尚且つ溶媒の沸点を上回らない範囲としたものである。これにより、電極塗膜内の温度勾配の機能をさらに増強することができ、乾燥速度をさらに向上させることができる。更に界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることにも大いに貢献し得るものである。
また、赤外線照射と熱風乾燥を併用し塗膜表面近傍の温度を高く保つ際の減率乾燥部での塗膜表面に吹き付ける熱風の温度範囲の温度範囲としては、バインダの結晶化温度以上、好ましくはバインダの結晶化温度から該結晶化温度+(0〜60℃)までの範囲とするのが望ましい。かかる熱風温度とすることで、乾燥速度を高めることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。更に界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることにも貢献しるためである。
上記塗膜表面(塗工面)に吹き付ける高温とされる熱風の温度の測定方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の測定方法を利用することができる。例えば、熱風を吹き出しノズル(ダスト)(図7の符号94参照)の中に熱電対を設置することで測定可能である。
赤外線照射と熱風乾燥を併用して塗膜表面近傍の温度を高く保つ(表面近傍を高温にする)際の定率乾燥部での塗膜表面の温度範囲としては、バインダや溶媒の種類にもよるが、100℃〜160℃の範囲である。好ましくは110〜150℃、より好ましくは120〜140℃である。但し、本発明の作用効果を有効に発現し得る場合には、上記温度範囲を外れても本実施形態の技術範囲に含まれるものとする。表面近傍の高温とされる温度が160℃以下、より好ましくは140℃以下であれば、バインダが変質しない点で優れている。また表面近傍の高温とされる温度が100℃以上、より好ましくは120℃以上であれば、乾燥速度を高めることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。
また、赤外線照射と熱風乾燥を併用し塗膜表面近傍の温度を高く保つ際の定率乾燥部での塗膜表面の温度範囲としては、バインダの結晶化温度以上、好ましくはバインダの結晶化温度から該結晶化温度+(0〜60℃)までの範囲とするのが望ましい。かかる塗膜表面の温度範囲とすることで、乾燥速度を高めることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。更に界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることにも貢献しるためである。
赤外線照射と熱風乾燥を併用して塗膜表面近傍の温度を高く保つ(表面近傍を高温にする)際の減率乾燥部での塗膜表面の温度範囲としては、バインダや溶媒の種類にもよるが、130℃〜180℃の範囲である。好ましくは135〜175℃、より好ましくは140〜170℃である。但し、本発明の作用効果を有効に発現し得る場合には、上記温度範囲を外れても本実施形態の技術範囲に含まれるものとする。表面近傍の高温とされる温度が180℃以下、より好ましくは170℃以下であれば、バインダが溶融しない点で優れている。また表面近傍の高温とされる温度が130℃以上、より好ましくは140℃以上であれば、乾燥速度を高めることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。
また、赤外線照射と熱風乾燥を併用し塗膜表面近傍の温度を高く保つ際の減率乾燥部での塗膜表面の温度範囲としては、バインダの結晶化温度以上、好ましくはバインダの結晶化温度から該結晶化温度+(0〜60℃)までの範囲とするのが望ましい。かかる塗膜表面の温度範囲とすることで、乾燥速度を高めることができ、高速乾燥を行うことができる点で優れている。更に界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることにも貢献しるためである。
赤外線照射と熱風乾燥を併用する場合の表面近傍の温度の測定方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の測定方法を利用することができる。例えば、塗膜表面の中央部に熱電対を貼りつけることで測定可能である。但し、かかる測定方法に何ら制限されるものではなく、従来公知の測定方法を適宜選択して使用することができる。例えば、塗膜表面からの放射温度を放射温度計(物体から放射される赤外線や可視光線の強度を測定して、物体の温度を測定する温度計である)を用いて計測する方法なども利用可能である。
裏面(集電体又は乾燥済みの電極塗膜(電極活物質層))に吹き付ける熱風温度を低くすべく、この際の定率乾燥部での裏面に吹き付ける低温とされる熱風(温風ないし冷風)の温度範囲としては、室温近傍(10℃)〜100℃である。好ましくは15℃〜95℃、より好ましくは20℃〜90℃の範囲である。上記温度範囲内であれば、裏面に吹き付ける熱風温度をバインダの結晶化温度に較べ大幅に低く設定可能となり、界面の温度をさらに低く保つことができる点で優れている。室温近傍以上であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができるほか、供給の容易性の点で優れている。但し、室温より低い冷風を用いてもよいが、状況に応じて加熱も冷却もできるように双方の手段を装備した装置を用意する要がある。100℃以下であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができる。
また、上記定率乾燥部で裏面に吹き付ける低温とされる熱風(温風ないし冷風)の温度範囲としては、バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度範囲とするのが望ましい。なお、裏面が集電箔の場合と、乾燥済みの電極塗膜(電極活物質層)の場合とで、裏面に吹き付ける低温とされる熱風(温風ないし冷風)の温度を、界面の温度をさらに低く保つ(ほぼ同じ低温の温度域に保つ)ことができるように適宜調節するのが望ましい。バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度であれば、予備実験を通じて、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができることが確認できた為である。
裏面(集電体又は乾燥済みの電極塗膜(電極活物質層))に吹き付ける熱風温度を低くすべく、この際の減率乾燥部での裏面に吹き付ける低温とされる熱風(温風ないし冷風)の温度範囲としては、室温近傍(10℃)〜100℃である。好ましくは15℃〜95℃、より好ましくは20℃〜90℃の範囲である。上記温度範囲内であれば、裏面に吹き付ける熱風温度をバインダの結晶化温度に較べ大幅に低く設定可能となり、界面の温度をさらに低く保つことができる点で優れている。室温近傍以上であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができるほか、供給の容易性の点で優れている。但し、室温より低い冷風を用いてもよいが、状況に応じて加熱も冷却もできるように双方の手段を装備した装置を用意する要がある。100℃以下であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができる。
また、上記減率乾燥部で裏面に吹き付ける低温とされる熱風(温風ないし冷風)の温度範囲としては、バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度範囲とするのが望ましい。なお、裏面が集電箔の場合と、乾燥済みの電極塗膜(電極活物質層)の場合とで、裏面に吹き付ける低温とされる熱風(温風ないし冷風)の温度を、界面の温度をさらに低く保つ(ほぼ同じ低温の温度域に保つ)ことができるように適宜調節するのが望ましい。バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度であれば、予備実験を通じて、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができることが確認できた為である。
上記裏面に吹き付ける低温とされる熱風の温度の測定方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の測定方法を利用することができる。例えば、熱風(温風ないし冷風)を吹き出しノズル(ダスト)(図7の符号96参照)の中に熱電対を設置することで測定可能である。
赤外線照射と熱風乾燥を併用し前記裏面に吹き付ける熱風温度を低くした際の定率乾燥部での界面の温度範囲としては、室温近傍(10℃)〜120℃である。好ましくは15℃〜100℃、より好ましくは20℃〜90℃の範囲である。上記温度範囲内であれば、裏面に吹き付ける熱風温度をバインダの結晶化温度に較べ大幅に低く設定可能となり、界面の温度をさらに低く保つことができる点で優れている。室温近傍以上であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができるほか、供給の容易性の点で優れている。120℃以下であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができる。
また、赤外線照射と熱風乾燥を併用し前記裏面に吹き付ける熱風温度を低くした際の定率乾燥部での界面の温度範囲としては、バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度範囲とするのが望ましい。バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができる。
赤外線照射と熱風乾燥を併用し前記裏面に吹き付ける熱風温度を低くした際の減率乾燥部での界面の温度範囲としては、室温近傍(10℃)〜120℃である。好ましくは15℃〜100℃、より好ましくは20℃〜90℃の範囲である。上記温度範囲内であれば、裏面に吹き付ける熱風温度をバインダの結晶化温度に較べ大幅に低く設定可能となり、界面の温度をさらに低く保つことができる点で優れている。室温近傍以上であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができるほか、供給の容易性の点で優れている。120℃以下であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができる。
また、赤外線照射と熱風乾燥を併用し前記裏面に吹き付ける熱風温度を低くした際の減率乾燥部での界面の温度範囲としては、バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度範囲とするのが望ましい。バインダの結晶化温度よりも40℃以上低い温度であれば、界面近傍の結晶化抑制効果(隔離強度ないし密着性向上効果)を大幅に向上させることができる。
赤外線照射と熱風乾燥を併用する場合の塗膜内部、特に界面近傍の温度の測定方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の測定方法を利用することができる。例えば、界面に位置する集電体表面中央部に熱電対を貼りつけることで測定可能である。
(電極の製造に用いる装置)
図6は、本実施形態の電極の製造(主に塗膜形成工程及び乾燥工程)に用いる塗工・乾燥装置による説明図である。
図6に示すように、電極の製造(主に塗膜形成工程及び乾燥工程)に用いる塗工・乾燥装置81を2台用いて、始めに、1台目の塗工・乾燥装置81の巻出し部82に箔リール83を取り付け、集電箔84を搬送する。この集電箔84の搬送径路の上方に設けた1台目のスラリー塗工装置85より、搬送されている集電箔84表面にスラリーを塗工(集電箔84のA面に塗膜86aを形成)し、1台目の乾燥炉87を通過させ、巻取り部88に巻き取ることで巻取りリール89を得る。この巻取りリール89を取り外し、隣接する2台目の塗工・乾燥装置81の巻出し部82に取り付け、集電箔84の乾燥塗膜(活物質層)86a’を形成したA面を裏にして、該集電箔84を搬送する。この集電箔84の搬送径路の上方に設けた2台目のスラリー塗工装置85より、搬送されている集電箔84表面にスラリーを塗工(集電箔84のB面に塗膜86bを形成)し、2台目の乾燥炉87を通過させ、巻取り部88に巻き取る。そうすることで、電極90の巻取りリール90aが製造される。なお、集電箔84のB面を上にして2台目の乾燥炉87を通過させることで、集電箔84のB面にも乾燥塗膜(活物質層)86b’が形成されることになる。これにより、集電箔84のA面に乾燥塗膜(活物質層)86a’、B面に乾燥塗膜(活物質層)86b’が形成された電極90を形成することができる。なお、上記で用いるスラリーは、電極活物質と、バインダと、を含む固形分成分を溶媒に溶解ないし分散したスラリーであればよい。当該乾燥工程後は、特に制限されるものではなく、既存の電極製造技術(製法)を適宜利用することができる。即ち、乾燥工程で得られた電極90の巻取りリール90aをロールプレス法等によりプレス(プレス工程)をして、所定の幅に切断し(スリット工程)、更に所定の長さに切断(切断工程)することで、所望の電極サイズを有する電極を連続的に量産することができる。
また、図6では2台の塗工・乾燥装置81を用いた例を示したが、1台の塗工・乾燥装置81を用い、2度、塗工・乾燥を繰り返すことで、集電箔84のA面に乾燥塗膜86a’、B面に乾燥塗膜86b’が形成された電極90を得ることもできる。
更に、1台の塗工・乾燥装置81を用い、両面同時に塗工・乾燥を行うことで、集電箔84のA面に乾燥塗膜86a’、B面に乾燥塗膜86b’が同時に形成された電極90を得ることもできる。例えば、図6に示す塗工・乾燥装置81を用いる場合、水平方向に搬送される集電箔84の上方と下方にスラリー塗工装置85を設置し、スラリーの粘度を調整することで、集電箔84の上下両面にスプレー塗布などして塗工してもよい。その後、水平方向に設置された横置きの乾燥炉87内を通過させる。この際、横置きの乾燥炉87内を通過する両面に塗膜が形成された集電箔84を上下両側から同時に赤外線照射、更には熱風による加熱乾燥することができる加熱手段を用いて同時乾燥させればよい。或いは、図6に示すように水平方向に集電箔84を搬送するのではなく、垂直方向に搬送させてもよい。この場合、垂直方向に搬送する集電箔84の両面(左右両側)にスラリー塗工装置85を設置し、スラリーの粘度を調整することで、集電箔84の左右両面にスプレー塗布などして塗工してもよい。その後、垂直方向に設置された縦置きの乾燥炉87内を通過させる。この際、縦置きの乾燥炉87内を通過する両面に塗膜が形成された集電箔84を左右両側から同時に加熱することができる加熱手段を用いて同時乾燥させてもよい。
なお、乾燥工程で用いる乾燥炉87としては特に制限されるものではなく、搬送する集電箔84が炉内を通過する間に、本実施形態に規定する乾燥条件を満足するように乾燥(加熱)を行うことができるものであればよい。
図7は、本発明の電極の製造方法に用いることのできる乾燥装置の一実施形態である赤外線照射及び熱風乾燥の併用乾燥装置(乾燥炉)の炉内を模式的に表した断面概略図である。図8は、図7の赤外線照射及び熱風乾燥の併用乾燥装置(乾燥炉)により、塗膜を乾燥する際の様子を模式的に表した断面概略図である。図7に示す赤外線照射及び熱風乾燥の併用乾燥装置(乾燥炉)91内には、箔リールから引き出された集電体(箔)92とその集電体上に塗工された塗膜93を、例えば、図中の右又は左方向等に搬送することができ、同時に乾燥加熱することのできる空間を有している。乾燥炉91内には、加熱手段としては、塗膜(ウェット状態)93が形成された集電体92の上面側に高温の熱風を供給し得る熱風ノズル94が塗膜表面を均一に加熱できるように複数設けられている。また、集電体(箔)92の上面側に赤外線(IR)を塗膜表面に均一に供給(照射)し得るように複数のヒーター95が設けられている。一方、塗膜(ウェット状態)93が形成された集電体92の下面側に低温の熱風(冷風)を供給し得る熱風(冷風)ノズル96が裏面を均一に低い温度に保つことができるように複数設けられている。これにより、図8に示すように、熱風及び赤外線による加熱乾燥によって、まず、塗膜に赤外線ヒーターを照射することで、乾燥中の電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、界面付近を低温に保ち、なおかつ表面近傍を高温にする。これにより図中の直線的な温度勾配が形成される。さらに熱風乾燥を行うことで、塗膜表面に吹き付ける熱風温度を高く、裏面に吹き付ける熱風温度を低くし、界面付近の温度をさらに低く保ちながら塗膜乾燥する。これにより図中の直線的な温度勾配から矢印で示すように、界面近傍の温度がより低く、界面近傍を過ぎると急激に温度上昇し、ほぼ塗膜表面と同じ高温が保たれるような曲線的な温度勾配が形成される。なお、集電体(箔)92の下面は、図6に示す2台目の乾燥炉87内を通過する集電箔84のように、乾燥塗膜(活物質層;ドライ状態)(図示せず)が形成されている場合もある。あるいは、両面同時に乾燥する場合には、集電体92の両面に塗膜(ウェット状態)(図示せず)が形成された集電体となっている場合もある。この場合には、下面側に塗膜(ウェット状態)が形成されており、乾燥される間に、液だれ等が生じないように、乾燥炉を縦型にし、集電箔が上から下に向けて、或いは下から上に向けて搬送される構造としてもよい。両面同時に乾燥する場合には、炉内の構成として、上下両面ともに、赤外線(IR)を供給するヒーター95が複数設けられた構成とするのが望ましい。
乾燥手段(装置)としては、通常の連続乾燥が可能な、赤外線(IR)乾燥を用いた乾燥手段を使用することができるほか、最終的な乾燥の際には、真空乾燥を用いた乾燥手段を使用することもできる。またIR乾燥と熱風乾燥を併用した乾燥手段を使用してもよい。好ましくは、連続乾燥が可能な図7に示す熱風乾燥と赤外線乾燥の併用乾燥装置(乾燥炉)で行うことが好ましい。また、連続乾燥が可能な熱風乾燥と赤外線乾燥の併用乾燥装置を用いてスラリー溶液を塗布した集電体を乾燥すると、短時間で塗膜の温度を上昇させることもできる。その結果、短時間での熱硬化が可能となり乾燥工程の短時間化を行うことができる。具体的には、連続乾燥が可能な熱風及び赤外線による加熱乾燥によって、まず、塗膜に赤外線を照射することで、乾燥中の電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、界面付近を低温に保ち、なおかつ表面近傍を高温にする。さらに熱風乾燥を行うことで、塗膜表面に吹き付ける熱風温度を高く、裏面に吹き付ける熱風温度を低くし、界面付近の温度をさらに低く保ちながら塗膜乾燥するのが好ましい。
乾燥工程では、赤外線乾燥に熱風乾燥を併用して乾燥を行うことが好ましい。赤外線の輻射伝熱効果により、連続熱風乾燥に比べて電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、界面付近を低温に保ちやすくなる。
乾燥時の乾燥雰囲気としては、特に制限されるものではなく、生産コストの観点から、大気雰囲気で行うのが望ましいが、これに制限されるものではない。例えば、N2ガスや不活性ガスによる雰囲気下にして行ってもよい。この場合、N2ガス等を用いて加熱することで伝熱効果を上げることが期待できる。なお、図7に示す併用乾燥炉等の乾燥装置は公知のものを使用できるが、これらに何ら制限されるものではない。
また、前記乾燥工程の時間は、図4に示す昇温部と、定率乾燥部と、減率乾燥部を経ることにより、十分に乾燥できていればよく、特に制限されるものではない。大まかな目安としては、5分〜20時間である。
(乾燥塗膜のプレス工程)
次に、上記乾燥工程により、塗膜を乾燥した後の乾燥塗膜を有する集電体をプレスして、乾燥塗膜(電極活物質層)が目標密度になるように調整することで、電極原反(正極原反ないし負極原反)を得る(プレス工程)。
プレスの条件としては、特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、両面に乾燥塗膜(電極活物質層)を有する集電体を連続搬送しながらロールプレスにより、乾燥塗膜(電極活物質層)が目標密度0.90〜1.10g/cm3の範囲になるように調整するのが望ましい。但し、本実施形態では上記目標密度の範囲に何ら制限されるものではなく、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性等を考慮して適宜決定すればよい。また、プレス方式は、冷間プレス、熱間プレスのどちらでもよい。
尚、乾燥塗膜(電極活物質層)を有する集電体は、通常、連続搬送しながらロールプレスされた後、巻き取りローラーに巻きとることで、ロール状の電極原反(正極原反ないし負極原反)として得ることができる。なお、巻き取りローラーで巻き取ることなく、上記プレス後、搬送される電極原反(乾燥塗膜を有する集電体)を以下の切断工程に供してもよい。
(電極原反の切断工程)
上記プレス工程で得られた電極原反を、適当な切断手段を用いて所望の形状、大きさ(電極サイズ)にカットする(切断工程)。
上記プレス工程で得られた電極原反を、裁断手段を用いて所望の形状、大きさ(電極サイズ)にカット(切断)する方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、上記で得られた、巻き取りローラーによりロール状に巻き取られた電極原反を、再度、巻出しローラーに取り付けて、電極原反を巻出しなからスリッター等の切断手段を用いて、所望の形状、大きさ、詳しくは目的の電極サイズに合わせて矩形形状にカットすればよい。具体的には、電極原反を、最初に所定の幅に切断し、次に、所定の長さに切断することで、所望の形状、大きさ、詳しくは目的の電極サイズに合わせて矩形形状にカットした電極を得ることができる。なお、切断手段は上記スリッター等に何ら制限されるものではなく、従来公知の切断手段を適宜利用することができる。好ましくは、巻き取りローラーで巻き取ることなく、上記プレス工程後、搬送される電極原反(乾燥塗膜を有する集電体)に対して、スリッター等の切断手段を用いて目的の電極サイズに合わせて矩形形状等にカットするのが工数を削減できる点で望ましい。
(付着水分の除去工程;最終乾燥工程)
次に、上記切断工程で得られた電極を乾燥して、上記乾燥工程から切断工程までに付着した水分を除去する(付着水分の除去工程;最終乾燥工程)。
付着水分の除去(最終乾燥)の条件としては、特に制限されるものではなく従来公知の製造方法を適用することができる。具体的に、乾燥の条件は、上記切断工程で得られた電極サイズなどに応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は真空乾燥機を用いて、70℃以上で、7時間以上で乾燥を行う。乾燥雰囲気も特に制限されるものではないが、不活性ガス(窒素ガス)で置換した後、減圧して真空乾燥を行うのが望ましいが、これに制限されるものではない。乾燥手段(装置)は、真空乾燥装置を用いた乾燥手段を使用することができる。また真空乾燥とIR乾燥を併用した乾燥手段を使用してもよい。上記乾燥を経て、所望の目標密度、サイズ、形状を有する電極を得ることができる。
上記で説明した非水電解質二次電池(特にリチウムイオン二次電池)は、上記で詳述した電極の製造方法およびその製造方法により得られた電極に特徴を有する。以下、非水電解質二次電池(特にリチウムイオン二次電池)のその他の主要な構成部材について説明する。
[電解質層]
電解質層を構成する電解質は、例えば、リチウムイオンのキャリヤーとしての機能を有する。電解質としては、かような機能を発揮できるものであれば特に制限されないが、液体電解質またはポリマー電解質が用いられる。
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有することが好ましい。用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が例示される。また、リチウム塩としては、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiTaF6、LiCF3SO3等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)と、電解液を含まない真性ポリマー電解質とに分類される。
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することで容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーにリチウム塩が溶解してなる構成を有し、有機溶媒を含まない。したがって、電解質として真性ポリマー電解質を用いることで電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上し得る。
ゲル電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。これらの電解質は、1種単独であってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
なお、電解質層にはセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素、ガラス繊維などからなる微多孔膜セパレータ、更には不織布セパレータなどが挙げられる。
前記微多孔膜セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。1例を示せば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)、その気孔率(空孔率)は20〜80%であることが望ましい。
前記不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものを、単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸させた高分子ゲル電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。
前記不織布セパレータの気孔率(空孔率)は45〜90%であることが好ましい。さらに、不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。厚さが5μm未満では電解質の保持性が悪化し、200μmを超える場合には抵抗が増大することになる。
[シール部]
シール部31は、図2に示す双極型電池10bに特有の部材であり、電解質層17の漏れを防止する目的で単電池層19の外周部に配置されている。このほかにも、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止することもできる。図2に示す形態において、シール部31は、隣接する2つの単電池層19を構成するそれぞれの集電体11で挟持され、電解質層17の基材であるセパレータの外周縁部を貫通するように、単電池層19の外周部に配置されている。シール部31の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリイミドなどが挙げられる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、製膜性、経済性などの観点からは、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、非水電池用の集電板やリチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板25と負極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。また、図2に示すように最外層集電体(11a、11b)を延長することにより集電板としてもよいし、別途準備したタブを最外層集電体に接続してもよい。
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知の非水電池や二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
[電池外装材]
電池外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。なお、上記の非水電池やリチウムイオン二次電池は、従来公知の製造方法により製造することができる。
上記な非水電解質二次電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
また、上記実施形態は、本発明に係る電気デバイスの代表的な実施形態として、扁平な非水電解質二次電池の1種であるリチウムイオン二次電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには、一次電池にも適用できることはいうまでもない。
上記した本発明に係る電極とその製造方法を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、以下の実施例のみに何ら限定されるわけではない。なお、以下の実施例および比較例のスラリーの固形分(正極活物質層の構成成分)は、活物質として、マンガン酸リチウム、導電助剤としてカーボン(グラファイト)、バインダとしてPVdFを使用した。前記バインダを含まない固形分比率を97質量%とし、スラリーの固形分中のバインダの含有量を3質量%とした。また、スラリーの固形分中の正極活物質の含有量が87〜96質量%の範囲、導電助剤の含有量は1〜10質量%の範囲から任意に選択し、以下の実施例及び比較例は、正極活物質、導電助剤及びバインダの混合比率を全て同じにした。また、塗膜表面温度は、集電体上に塗布されたスラリーにより形成された塗膜(ないし電極活物質層)の表面温度である。塗膜表面温度の測定方法は、図6の塗工・乾燥装置81において、集電体84表面へのスラリー塗工装置85によるスラリー塗工直後に、乾燥炉87に入る前に、スラリー塗膜86aの表面(中央部)に、熱電対を貼り付ける。熱電対は、乾燥炉長以上の長さのものを使用する。経時で温度データを採取できるように、データ収集装置につなぎ、乾燥炉87内を移動する集電箔84上のスラリー塗膜86aの表面温度履歴を計測した。かかる塗膜表面温度の測定により、図5に示す乾燥炉内での塗膜表面温度のプロファイルを取得し、定率乾燥部および減率乾燥部での塗膜表面温度を算出した。また、スラリーを塗布する前に集電箔84の表面(中央部;但し、上記塗膜表面中央の熱電対と重複しない位置)にも熱電対を貼り付けて、定率乾燥部および減率乾燥部での界面付近温度のプロファイルを取得した。同様にして界面についても、塗膜表面温度と同様にして計測した。また、塗膜表面側及び裏面側に熱風温度は、それぞれのノズルに熱電対を貼りつけて計測した。
実施例1
正極活物質としてマンガン酸リチウム(斜方晶LiMnO2)、導電助剤としてカーボン、バインダとしてPVdF(結晶化温度130℃、融点170℃)を所定の割合にて混合した。PVdFを溶解させるため、溶媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を加えて、プラネタリーミキサーにて、溶解または分解して、スラリーを調製した。集電体として、予め電極サイズにカットされたアルミニウム箔(厚さ20μm)を用い、上記で調製したスラリーを該アルミニウム箔の表面にスリットダイコーターにて、所定の厚み(プレス後の乾燥膜厚;70μm)となるように均一に塗布し塗膜を形成した。
塗膜を形成した後の乾燥では、図5に示す乾燥工程のプロファイル構成において、図8に示すように定率乾燥時の塗膜表面に吹き付ける熱風温度を表面近傍のバインダの結晶化が進む程度に高くし(これは、溶媒の沸点温度は、バインダの結晶化温度より高いからである)、赤外線照射を界面近傍の温度が上昇しない程度に多くなるようにした。
すなわち、集電体上に形成した塗膜を、赤外線照射と熱風(塗膜表面と裏面で温度の異なる熱風)乾燥を併用して乾燥した。乾燥時に集電体上の塗膜に赤外線を照射することで、乾燥中の前記集電体と前記塗膜を含む電極塗膜の厚み方向の温度分布を変化させ、集電体と塗膜との界面付近を低温に保つことで結晶化抑制した。なおかつ前記塗膜の表面近傍を高温にすることで乾燥速度を向上させた。実施例1では、乾燥時に、さらに熱風乾燥を行うことで、熱風乾燥により塗膜表面に吹き付ける熱風温度を高く、裏面に吹き付ける熱風温度を低くし、界面付近の温度をさらに低く保つことで、バインダの結晶化をさらに抑制した。
詳しくは、塗膜表面側は、赤外線照射に加え、塗膜表面に熱風を吹き付けることで(吹き付け方向は、図8参照)、表面近傍のバインダの結晶化が進む程度に高くした。これにより、図5の定率乾燥部での塗膜表面温度を、PVfFの結晶化温度(130℃)未満である110℃に保持しながら加熱乾燥した。その後、図5の減率乾燥部での塗膜表面温度を、PVdFの結晶化温度(130℃)以上、融点(170℃)未満である150℃で加熱した。なお、定率乾燥部の塗膜表面温度は、図5に示すように、昇温部での温度上昇後、ほぼ安定した温度となる。このほぼ安定した温度を定率乾燥部の塗膜表面温度としている(以下、同様とする)。減率乾燥部の塗膜表面温度は、図5に示すように、定率乾燥部の塗膜表面温度から昇温後、ほぼ安定した温度となる。このほぼ安定した温度を減率乾燥部の塗膜表面温度としている(以下、同様とする)。
一方、塗膜と集電体の界面(ないし集電体の裏面)側は、熱風温度を低く90℃にして集電体の裏面に吹き付けることで(吹き付け方向は、図8参照)、赤外線照射との併用により界面近傍の温度が上昇しない(バインダの結晶化度が低く保たれる)ように低温で加熱した。これにより、図5の定率乾燥部での界面温度を、90℃に保持しながら加熱乾燥した。その後、図5の減率乾燥部での界面温度も、90℃に保持しながら加熱乾燥した。
乾燥後、さらにプレス処理を行って正極(電極サンプル)を得た。
さらに、上記乾燥速度を基準(1倍)としたときに、乾燥速度を2〜3.5倍程度に高速化した以外は、上記と同様にして、乾燥速度の異なる正極(電極サンプル)を得た。
比較例1
比較例1は、実施例1と同様のスラリー及び集電体を使用し、実施例1と同様にして、集電体表面にスラリーを塗布し塗膜を形成した。その後、乾燥工程では、熱風を用いて乾燥し、図5の定率乾燥部での塗膜表面温度を、PVdFの結晶化温度(130℃)以上、融点(170℃)未満である140℃に保持しながら乾燥した。その後、減率乾燥部での塗膜表面温度も、PVdFの結晶化温度(130℃)以上、融点(170℃)未満である140℃で加熱した。この間、集電体の裏面(塗膜と集電体の界面)側も、熱風を用いて同様な温度(140℃)で加熱乾燥した。
乾燥後、さらにプレス処理を行って正極(電極サンプル)を得た。
さらに、上記乾燥速度を基準(1倍)としたときに、乾燥速度を2〜3.5倍程度に高速化した以外は、上記と同様にして、乾燥速度の異なる正極(電極サンプル)を得た。
実施例2
実施例2は、実施例1と同様のスラリー及び集電体を使用し、実施例1と同様にして、集電体表面にスラリーを塗布し塗膜を形成した。その後、乾燥工程では、乾燥工程でも、赤外線照射と熱風(塗膜表面と裏面で温度の異なる熱風)乾燥を併用して乾燥した。但し、裏面に吹き付ける熱風温度を実施例1よりも低くし、界面付近の温度をさらに低く保つことで、バインダの結晶化をさらに抑制した。
詳しくは、塗膜表面側は、赤外線照射に加え、塗膜表面に熱風を吹き付けることで(吹き付け方向は、図8参照)、表面近傍のバインダの結晶化が進む程度に高くした。これにより、図5の定率乾燥部での塗膜表面温度を、PVfFの結晶化温度(130℃)未満である110℃に保持しながら加熱乾燥した。その後、図5の減率乾燥部での塗膜表面温度を、PVdFの結晶化温度(130℃)以上、融点(170℃)未満である150℃で加熱した。
集電体の裏面(界面)側は、熱風温度を実施例1よりも低い温風程度(20℃)にして集電体の裏面に吹き付けることで(吹き付け方向は図8参照)、赤外線照射との併用により界面近傍温度が上昇しない(バインダの結晶化度が低く保たれる)ように、より低温で乾燥した。これにより、図5の定率乾燥部での界面温度を、20℃に保持しながら乾燥した。その後、図5の減率乾燥部での界面温度も、20℃に保持しながら乾燥した。
乾燥後、さらにプレス処理を行って正極(電極サンプル)を得た。
さらに、上記乾燥速度を基準(1倍)としたときに、乾燥速度を2〜3.5倍程度に高速化した以外は、上記と同様にして、乾燥速度の異なる正極(電極サンプル)を得た。
ここで、実施例1〜2及び比較例1のいずれも、乾燥速度=乾燥炉長(m)/乾燥時間(s)で定義される。即ち、乾燥炉には図6に示す乾燥炉長6mを用い、巻き取りスピードを1〜3倍にアップさせて、乾燥時間(上記基準の乾燥時間=2.5分)を1〜約1/3に短縮させることで、乾燥速度を1〜3倍に変えたものである。また、実施例及び比較例のいずれも、昇温部では、図5に示すように、塗膜表面温度が、常温から定率乾燥部の温度となるように加熱した。
得られた乾燥速度の異なる実施例1、2と比較例1の正極(電極サンプル)の剥離強度を評価した。詳しくは、乾燥速度と剥離強度の相関を図9に示す。図9より、本発明の製造方法を用いた実施例1では、比較例1(従来技術)に比較し剥離強度が向上し、乾燥速度を3.0倍程度にした場合でも比較例1(従来技術)(乾燥速度1倍の例)と同等の剥離強度が得られることが確認できた。また、実施例2では、集電体の裏面側に吹き付ける熱風(冷風)の温度を表面の熱風の温度に較べて低く抑えた場合の効果を調べたものである。図9に示すように、実施例2では、裏面の温度を実施例1の90℃から室温(20℃)とし、乾燥速度を3.5倍程度としても比較例1(従来技術)(乾燥速度1倍の例)と同等が得られることが確認できた。
なお、剥離強度の測定方法は以下の通りである。
(剥離強度の測定方法)
剥離強度測定は、JIS−K6854−1に準拠し、以下の方法で実施した。
(1)集電体表面にスラリーを塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥して活物質層を形成した電極試料(電極サンプル)を用い、外周が横20mm×縦100mmとなるように切り出し、測定試料とする。
(2)一般的な両面テープ(例えばNICHIBAN製の紙両面テープ)を用いて、前記測定試料をベーク板に貼り付ける。
(3)90°剥離強度測定用治具にセットし、強度測定用TENSILE STRENGTH測定装置によって50mm/minの速度で、測定試料の活物質層を剥離させる。
(4)測定した荷重の平均値(N)を、測定試料の幅(m)で割ったものを剥離強度(N/m)として、比較した。
(5)集電体表面にスラリーを塗布して塗膜を形成し、該塗膜を常温(25℃)で何もせずに放置(自然乾燥)して活物質層を形成した電極試料(放置乾燥電極サンプル)についても同様に剥離強度を測定、算出した。この電極試料(放置乾燥電極サンプル)の剥離強度を基準にして、上記で求めた電極試料(電極サンプル)の剥離強度との比である剥離強度比(放置乾燥比)を求めた(図8参照)。ここで、放置乾燥電極サンプルでは、所定時間ごとに電極塗膜の重量を測定し、実施例1の電極サンプの乾燥後の電極塗膜の重量と同じ重量になった時点で、自然乾燥を終了した。
得られた実施例1と比較例1(共に乾燥速度1倍程度)の異なる正極(電極サンプル)の剥離強度向上及び乾燥高速化の効果を評価した。詳しくは、実施例1と比較例1(共に乾燥速度1倍程度)のラマンスペクトルのグラフを図10に示す。図10より、実施例1では、1345cm−1にピークを有する波形(スペクトル波形)を持つことが確認できる。一方、比較例1では、1345cm−1にピークを有する(スペクトル波形)がないことが確認できる。この1345cm−1にピークを有する(スペクトル波形)は、結晶性の低い炭素材(バインダ;PVdF))であることから、当該ピークが無くなるとバインダの結晶化が進んでいることになる。従って、当該ピークを有する実施例1では結晶化が抑制されている反面、当該ピークが無い比較例1では結晶化が進んでいることがわかった。このことからも、集電体と塗膜の界面は、塗膜表面よりも、かなり低い温度に保つことが、剥離強度向上及び乾燥高速化の効果に大いに貢献することが確認できた。
「剥離強度向上のメカニズム」に関する考察
得られた実施例1と比較例1(共に乾燥速度1倍程度)の異なる正極(電極サンプル)につき、乾燥した後の結晶化度分布を測定した結果、図10に示すように、実施例1で製作した電極塗膜(正極)では従来工法で製作した比較例1の電極塗膜(正極)に較べ界面近傍での結晶化度が低く保たれていることが分かった。また、乾燥時の裏面の集電箔温度も従来工法で製作した比較例1では140℃と高温であったのに対し、実施例1では90℃と低く抑えられていた。このことからも、集電体と塗膜の界面は、塗膜表面よりも、かなり低い温度に保つことが、剥離強度向上及び乾燥高速化の効果に大いに貢献することが確認できた。
なお、ラマンスペクトルの測定方法は以下の通りである。
(ラマンスペクトルの測定方法)
実施例1、比較例1で得られた試料の顕微ラマン分析(レニショー社製inVia6150)を行った。測定条件は、10倍の対物レンズを用い、514nmの波長のアルゴンイオンレーザーを入射光に用い、スリット幅は0.1mmとした。測定範囲は0〜2500cm−1とし、測定時間は60秒、積算回数を3回とした。
得られた実施例1、2と比較例1(共に乾燥速度(処理速度)3.5倍程度)の異なる正極(電極サンプル)の剥離強度を評価した。詳しくは、実施例1、2と比較例1(共に乾燥速度3.5倍程度)の減率乾燥時の界面温度と剥離強度の相関を図11に示す。図11より、減率乾燥時の界面温度を低くするに従って、剥離強度が大幅に増すことが確認できた。即ち、得られた実施例2、実施例1、比較例1(共に乾燥速度3.5倍程度)の異なる正極(電極サンプル)の減率乾燥時の界面温度に対する剥離強度は、順に室温(20℃)で140mN/mm、90℃で90mN/mm、140℃で20mN/mmであった。このことからも、集電体と塗膜の界面は、塗膜表面よりも、かなり低い温度に保つことが、剥離強度向上及び乾燥高速化の効果に大いに貢献することが確認できた。
「剥離強度向上のメカニズム」に関する考察
本発明の製造方法で正極(電極サンプル)を作製した場合、減率乾燥時の界面温度は実施例1では90℃、実施例2では室温(概ね20℃)に保たれていた。また、従来工法で製作した比較例1では140℃と高温であった。図11に示す減率乾燥時の界面温度と剥離強度の相関からは、裏面に低温の風(冷風)を吹き付けることで界面温度が低下し、その結果、剥離強度が向上していることが見て取れる。