以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く。
[第1実施形態]
第1実施形態では、電気−機械変換膜の製造方法の一例について、図1を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る電気−機械変換膜の製造方法を例示するフローチャートである。
第1実施形態に係る電気−機械変換膜の製造方法は、図1に示すように、一方の面に第1の電極が形成された基板の、第1の電極の表面を改質した後に、インクジェット法により所望のパターンを有するセラミックス薄膜を形成するセラミックス薄膜形成工程S100と、第1の電極の表面のうち、セラミックス薄膜が形成されていない領域を改質する改質工程S200と、セラミックス薄膜の表面にインクジェット法によりゾル−ゲル液を塗布する電気−機械変換液膜形成工程S300と、電気−機械変換液膜を熱処理する電気−機械変換液膜熱処理工程S400とを有する。
また、第1実施形態に係る電気−機械変換膜の製造方法は、改質工程S200と、電気−機械変換液膜形成工程S300と、電気−機械変換液膜熱処理工程S400とを繰り返し行うことを特徴とする。
そして、第1実施形態に係る電気−機械変換膜の製造方法によれば、結晶性が高く、結晶配向性に優れた電気−機械変換膜を、より簡便かつ安全に形成できる。
以下、各々の工程について説明する。
(セラミックス薄膜形成工程S100)
まず、セラミックス薄膜形成工程S100について、図2を参照しながら説明する。図2は、第1実施形態に係るセラミックス薄膜形成工程S100を例示するフローチャートである。
セラミックス薄膜形成工程S100は、一方の面に第1の電極が形成された基板(以下「下地基板」ともいう。)の、第1の電極の表面を改質した後に、インクジェット法により所望のパターンを有するセラミックス薄膜を形成する工程である。
基板としては、電気−機械変換膜の支持体となるものであればよく、本発明はこの点において限定されるものではないが、電気−機械変換膜を形成した後、基板に加工を行い各種部材を形成できるよう加工の容易な材料により構成されていることが好ましい。このため、基板としては、例えばシリコン等の基板を好適に用いることができる。
第1の電極は、電気−機械変換膜を用いて電気−機械変換素子を作製する場合に、下部電極として機能する部材である。第1の電極としては、特に限定されるものではなく、電気−機械変換素子とした際に要求される性能等に応じて任意に設定することができる。第1の電極の材料としては、例えば金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)等の貴金属類、これらの酸化物等を好適に用いることができる。
また、第1の電極は、一層で構成されていてもよく、複数層で構成されていてもよい。さらに、基板と第1の電極との間には、基板と第1の電極との密着性を高めるための下地層等を設けることができる。
第1の電極の形成方法としては、特に限定されるものではなく、例えばスパッタ法等の成膜方法を用いることができる。
セラミックス薄膜形成工程S100は、第1の電極の表面を撥液化する撥液化処理工程S101と、撥液化処理工程S101において撥液化された第1の電極の表面に形成する電気−機械変換膜及びアライメントマークの形状に応じて照射位置を移動させながら、エネルギー線を照射するエネルギー線照射工程S102と、エネルギー線照射工程S102においてアライメントマークの形状に応じてエネルギー線が照射された部分を含む領域にインクジェット法により塗布溶液を塗布するアライメントマーク形成工程S103と、アライメントマーク形成工程S103において形成されたアライメントマークに基づいて印刷位置を検出する印刷位置検出工程S104と、エネルギー線照射工程S102において電気−機械変換膜の形状に応じてエネルギー線が照射された部分にインクジェット法により前駆体溶液を塗布する前駆体溶液塗布工程S105と、前駆体溶液塗布工程S105において塗布された前駆体液膜を熱処理する前駆体液膜熱処理工程S106とを含むことが好ましい。
なお、本明細書においては、「塗布溶液」はアライメントマークを形成するときに用いる溶液を表し、「前駆体溶液」はセラミックス薄膜を形成するときに用いる溶液を表し、「ゾル−ゲル液」は電気−機械変換膜を形成するときに用いる溶液を表す。
以下、セラミックス薄膜形成工程S100に含まれる各々の工程について説明する。
(撥液化処理工程S101)
まず、撥液化処理工程S101について説明する。撥液化処理工程S101は、第1の電極の表面を撥液化することにより、第1の電極の表面を改質する工程である。
撥液化処理工程S101は、例えば下地基板をアルカンチオール液にディップし、第1の電極の表面全体に自己組織化単分子層(SAM:Self-Assembled Monolayer)膜を形成することで実施される。
アルカンチオールとしては、特に限定されるものではなく、例えば炭素鎖がC6からC18の分子を有するものを好適に用いることができる。そして、アルカンチオールをアルコール、アセトン、トルエン等の有機溶媒に溶解させた溶液をSAM材料、すなわち、アルカンチオール液として好適に用いることができる。
また、SAM膜は、Pt上に形成されやすい。このため、SAM膜により撥液化処理を行う場合、第1の電極がPtで形成されているか、第1の電極の最表面にPt膜が形成されていることが好ましい。
また、後述する電気−機械変換素子を同一基板上に複数形成する場合、電気−機械変換素子に含まれる電気−機械変換膜は、素子毎に個別化することが好ましい。
そこで、各々の電気−機械変換素子のレイアウトに合わせて、予め下地基板の所定の領域を撥液性に表面改質し、前駆体溶液に対する塗れ性を制御することが好ましい。これにより、インクジェット法により前駆体溶液の塗り分けを行うダイレクトパターニング法を容易に実施することができる。
(エネルギー線照射工程S102)
次に、エネルギー線照射工程S102について説明する。エネルギー線照射工程S102は、撥液化処理工程S101において撥液化された第1の電極の表面に形成する電気−機械変換膜及びアライメントマークの形状に応じて照射位置を移動させながら、エネルギー線を照射する工程である。
撥液化処理を施した第1の電極の表面にエネルギー線を照射することにより、例えば第1の電極の表面に形成されているSAM膜を除去する。これにより、SAM膜が除去された部分が親液性となる。すなわち、下地基板の第1の電極の表面は、エネルギー線を照射した部分のみが親液性となり、他の部分は、撥液性となる。
このため、次工程以降で形成する電気−機械変換膜及びアライメントマークの形状に応じてエネルギー線の照射位置を移動(走査)させながらエネルギー線を照射することにより、第1の電極の表面の所望のパターン領域のみを親液性とすることができる。
エネルギー線を照射するとき、電気−機械変換膜に対応するパターン部分を親液性領域とすることが好ましい。これは、電気−機械変換膜に対応するパターン部分に対して、後述のセラミックス薄膜形成工程S100において前駆体溶液を供給し、セラミックス薄膜を形成するためである。
これに対して、アライメントマーク部分については、アライメントマークを識別できさえすればよい。このため、アライメントマーク部分を親液性とし、アライメントマーク部分の周囲を撥液性としてもよく、アライメントマーク部分を撥液性とし、アライメントマーク部分の周囲を親液性としてもよい。
すなわち、エネルギー線照射工程S102においては、アライメントマーク部分にエネルギー線を照射し、アライメントマーク部分を親液性とし、アライメントマーク部分の周囲を撥液性としてもよい。また、アライメントマーク部分の周囲にエネルギー線を照射し、アライメントマーク部分を撥液性とし、アライメントマーク部分の周囲を親液性としてもよい。
エネルギー線照射工程S102において、エネルギー線を照射する部分は、次工程以降で形成する電気−機械変換膜及びアライメントマークの形状に対応したパターンとなる。このため、エネルギー線を照射する部分のパターンとしては、例えば次工程以降で形成する電気−機械変換膜のパターンに用いられる印刷データ等、すなわち、インクジェットヘッドで塗布する前駆体溶液の塗布パターンと共通のデータを用いることができる。
そして、第1の電極の表面の所望のパターン部のみを親液性とすることにより、後述するアライメントマーク形成工程S103におけるインクジェット法による塗布溶液の塗り分けを容易に行うことができる。また、前駆体溶液塗布工程S106におけるインクジェット法による前駆体溶液の塗り分けを容易に行うことができる。
エネルギー線の種類としては、特に限定されるものではなく、撥液化処理工程S101において第1の電極の表面を撥液化するときに用いた撥液化材料の種類等に応じて任意に設定することができる。すなわち、例えば第1の電極の表面に形成した撥液化膜を除去できるエネルギーを有し、精度よく照射可能なエネルギー線を好適に用いることができる。
具体的には、例えば波長300nm以下のDeep UV(遠紫外線)光であるKrF(波長248nm)、ArF(波長193nm)、F2(波長157nm)等のエキシマレーザ光を好適に用いることができる。これらのエキシマレーザ光を用いることにより、次工程以降で形成する電気−機械変換膜のパターン形状の精度を高めることができる。
なお、エネルギー線照射工程S102において、次工程以降で形成する電気−機械変換膜及びアライメントマークの形状にあわせてエネルギー線を照射した部分を、以下「パターン部」ともいう。特に、次工程以降で形成する電気−機械変換膜の形状にあわせてエネルギー線を照射した部分を、以下「電気−機械変換膜パターン部」ともいう。
(アライメントマーク形成工程S103)
次に、アライメントマーク形成工程S103について説明する。アライメントマーク形成工程S103は、エネルギー線照射工程S102においてアライメントマークの形状に応じてエネルギー線が照射された部分を含む領域にインクジェット法により塗布溶液を塗布する工程である。
前述のように、撥液化処理工程S101及びエネルギー線照射工程S102を経ることにより、下地基板の第1の電極の表面には親液性と撥液性の2つの領域が形成されている。具体的には、例えば撥液性を示す部分にはSAM膜が形成され、親液性を示す部分にはSAM膜が形成されずに第1の電極が露出している。
しかしながら、SAM膜等の撥液性の膜は、通常透明であるため、目視又は撮像装置により、親液性の領域と撥液性の領域との判別をすることは困難である。このため、電気−機械変換膜を形成する際にゾル−ゲル液を供給する部分を識別することが困難となる。
そこで、アライメントマーク形成工程S103では、エネルギー線を照射した部分に塗布溶液を供給する。これにより、電気−機械変換膜を形成するとき等に用いられる目印又は基準点となるアライメントマークを可視化することができる。
アライメントマーク形成工程S103においては、アライメントマークを認識できるようにインクジェット法により塗布溶液を塗布することが好ましい。
塗布溶液としては、セラミックス薄膜を形成するときに用いる前駆体溶液を好適に用いることができる。これにより、必要となる材料の種類を少なくすることができるため、生産性を向上させることができる。
また、アライメントマーク形成工程S103においては、インクジェットヘッドの予備吐出の塗布溶液をパターン部を含む領域に供給することが好ましい。
インクジェット法においては、インクジェットヘッドから塗布溶液を塗布する場合、吐出開始直後は吐出挙動が安定しないことが多い。このため、製品となる領域に塗布溶液を供給する前にヘッドノズルのコンディション確認又は調整のため、予め製品となる領域以外で吐出を行う(以下「予備吐出」ともいう。)。そして、予備吐出を行ったときの塗布溶液は、セラミックス薄膜を構成しないため廃棄の対象となる。
しかし、アライメントマーク形成工程S103におけるアライメントマークは、その形状を撮像装置が認識できればよい。このため、膜厚のばらつきや材質は問題とはならない。そこで、アライメントマーク形成工程S103において、パターン部にインクジェットヘッドの予備吐出を行うことにより、塗布溶液の無駄を抑制し、塗布溶液の使用量を削減することができる。
また、予備吐出を行う場合には、全てのノズルから予備吐出を行うことが好ましい。これにより、インクジェットヘッドを主走査方向に駆動させたときに、1回の主走査方向への駆動により全てのノズルが塗布溶液供給領域上を通過し予備吐出できることから、生産性が向上する。
次に、アライメントマークの形状、塗布溶液を供給する領域等について、図3及び図4を参照しながら説明する。図3及び図4は、第1実施形態に係るアライメントマークの形成位置の概略構成を例示する図である。
アライメントマークの数や形成する位置は、特に限定されるものではない。ただし、基板上の電気−機械変換膜を形成する領域を可能な限り大きくするため、例えば図3に示すように、基板11の対向する2辺121、122の近傍である基板11の両端部にアライメントマーク131、132を1つずつ形成することが好ましい。
この場合、2つのアライメントマークを結ぶ直線14は、基板11の走査方向15と平行で、インクジェットヘッドの主走査方向16と垂直であることが好ましい。また、アライメントマーク131、132は、2辺121、122の略中央部に形成することが好ましい。
そして、2辺121、122を一辺とし、アライメントマーク131、132を含む略四角形の領域を塗布溶液が供給される領域(以下「塗布溶液供給領域A、B」ともいう。)とすることが好ましい。
また、アライメントマーク形成工程S103においては、塗布溶液供給領域A、Bの全体にわたって塗布溶液を供給することが好ましい。
インクジェットヘッドを備えたインクジェット装置は、基板を一方の軸方向に走査し、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを基板の走査方向と垂直な軸方向(主走査方向)に走査することにより所望の位置に溶液を供給するように構成されている。また、インクジェットヘッドの複数のノズルは、インクジェットヘッドの主走査方向と平行に配列されている。
そして、前述のように、インクジェットヘッドに設けられた複数のノズルの全てについて予備吐出を行うことが好ましい。これにより、アライメントマーク形成工程S103では、インクジェットヘッドを主走査方向に駆動させたときに、1回の主走査方向への駆動により全てのノズルが塗布溶液供給領域A、B上を通過し予備吐出を行うことができるため、生産性が向上する。
塗布溶液供給領域A、Bに挟まれた領域は、電気−機械変換膜パターン部形成領域C、すなわち、セラミックス薄膜が形成される領域を含む。すなわち、電気−機械変換膜パターン部形成領域Cには、後述する複数の電気−機械変換膜のパターン(以下「電気−機械変換膜パターン部24」という。)が配列して構成される電気−機械変換膜パターン部配列23が形成される。
なお、以上の説明においては、便宜上、四角形の基板を例にしているが、基板11の形状は特に限定されるものではない。例えば図4(A)に示したように、基板11の形状が略円形の場合、円形内の対向する2つの弦25、26を前述した2辺121、122とみなすことができる。そして、2つの弦25、26を一辺とする四角形の領域を塗布溶液供給領域A、Bとし、塗布溶液供給領域A、Bに図示しないアライメントマークを形成することができる。
電気−機械変換膜パターン部配列23は、例えば図4(B)に示すように、複数の電気−機械変換膜パターン部24が配列して構成されている。電気−機械変換膜パターン部24の形状としては、例えば図4(B)に示すように、四角形とすることができるが、本発明はこの点において限定されるものではなく、電気−機械変換膜に要求される形状に応じて任意とすることができる。
次に、アライメントマークの形状について説明する。アライメントマークの形状としては、特に限定されるものではないが、例えば直線、曲線等の線分を組み合わせた長方形、楕円、円等が挙げられる。アライメントマークの大きさは、特に限定されるものではないが、例えばアライメントマークを検出するために用いられる撮像装置の視野に収まることが好ましい。
また、アライメントマークが長方形、楕円、円等の形状を含む場合、アライメントマークの短辺又は短径は、インクジェット法にて塗布される塗布溶液の液滴の着弾径よりも長いことが好ましい。
この場合の塗布溶液供給領域Aにおける着弾した液滴の状態を、図5を参照しながら説明する。図5は、アライメントマーク部分と塗布溶液の着弾径との関係を例示する図である。なお、以下の説明におけるアライメントマーク部分とは、アライメントマークの形状を備えた部分を意味する。また、以下では、塗布溶液供給領域Aに形成されるアライメントマークについて説明するが、塗布溶液供給領域Bに形成されるアライメントマークについても同様である。
まず、アライメントマーク部分にエネルギー線を照射して、アライメントマーク部分を親液性領域とした場合を例として、図5を参照しながら説明する。
図5においては、中央部にアライメントマーク部分である四角形の親液性領域31が設けられ、その周囲が撥液性となっている。この場合、アライメントマークの短辺の長さは、L1となる。
そして、塗布溶液供給領域Aの全体にわたってインクジェット法により塗布溶液を供給すると、塗布溶液の液滴32は、図5に示すように、等間隔で規則的に着弾する。撥液性領域に着弾した塗布溶液の液滴は、着弾時の半球形状を保った状態で留まり、親液性領域に着弾した塗布溶液は親液性領域全体に塗れ拡がる。
図5(A)では、アライメントマーク部分である親液性領域31の短辺の長さL1が、吐出した塗布溶液の液滴の着弾径よりも長くなっている。この場合、親液性領域31の稜線上に跨って着弾した塗布溶液の液滴32A〜32Cは、親液性領域31と撥液性領域との間の表面エネルギー差により図中矢印で示した方向に動き、親液性領域31に吸い寄せられる。このため、親液性領域31の稜線のコントラストは明瞭に保たれる。なお、親液性領域31の稜線とは、親液性領域31と撥液性領域との境界線を意味する。
これに対して、図5(B)では、図5(A)と同じサイズで同じ形状のアライメントマークを用いているが、アライメントマーク部分である親液性領域31の短辺の長さL1が、吐出した塗布溶液の液滴32の着弾径よりも短くなっている。
この場合、親液性領域31の深さによっては、親液性領域31に着弾した塗布溶液の液滴32Dは、親液性領域31に収まらず、親液性領域31の稜線のコントラストを明瞭に保てないことがある。
また、隣接する他の液滴32とつながる恐れもある。このため、図5(A)に示したように、アライメントマーク部分の短辺の長さL1は、塗布溶液の液滴の着弾径よりも長い方が好ましい。
図5で示した液滴の状態は、アライメントマークの形状を親液性領域31、その周囲を撥液性領域としたが、図6に示すように、アライメントマークの形状を撥液性領域41、その周囲を親液性領域と反転させることもできる。この場合にも、十字形状としているアライメントマーク部分の短辺の長さL2を、吐出させる塗布溶液の液滴の着弾径よりも長くすればよい。
図6(A)では、アライメントマーク部分である撥液性領域41の短辺の長さL2が、吐出した塗布溶液の液滴の着弾径よりも長くなっている。このため、撥液性領域41に着弾した塗布溶液の液滴42Aは半球形状を保ち、撥液性領域41内に留まる。
そして、撥液性領域41の稜線上に跨って着弾した塗布溶液の液滴42Bは、親液性領域と撥液性領域41との間の表面エネルギー差により図中矢印で示した方向に動き、親液性領域に吸い寄せられる。このため、撥液性領域41の稜線のコントラストは明瞭に保たれる。なお、撥液性領域41の稜線とは、撥液性領域41と親液性領域との境界線を意味する。
これに対して、図6(B)では、図6(A)と同じサイズで同じ形状のアライメントマークを用いているが、アライメントマーク部分である撥液性領域41の短辺の長さL2が、吐出した塗布溶液の液滴42の着弾径よりも短くなっている。
この場合、撥液性領域41の表面積によっては、撥液性領域41の表面だけでは着弾した塗布溶液の液滴42Cは撥液性領域41表面に保持できず、図6(B)に示したように親液性領域とつながる。すなわち、撥液性領域41の稜線のコントラストを明瞭に保てない恐れがある。
以上に説明したように、より確実にアライメントマークを明確に可視化するため、アライメントマーク部分の短辺又は短径をインクジェット法により塗布されるセラミックス薄膜の塗布溶液の液滴の着弾径より長くすることが好ましい。
したがって、アライメントマーク形成工程S103においては、インクジェット法により吐出する液滴のサイズ及び/又はアライメントマーク部分のサイズが前述した要件を満たすよう調整することが好ましい。
塗布溶液を塗布する装置については、特に限定されるものではないが、次工程以降で形成するセラミックス薄膜及び電気−機械変換液膜を形成する場合と同じ装置を用いることが好ましい。特に、エネルギー線照射工程S102から前駆体溶液塗布工程S105まで、同じ装置により実施できることが好ましい。このため、例えば図7に示すような産業用インクジェット装置50を好適に用いることができる。
図7に示した産業用インクジェット装置50は、載置した基板51を図中Y方向に駆動することができるステージ52を備えている。そして、ステージ52上に載置された基板51と対向するように、インクジェットヘッド53と、撮像装置54と、エネルギー線照射手段55とを備えたヘッドベース56が配置されている。
インクジェットヘッド53は、機能性インク材料供給用パイプ531と接続されており、図示しないタンクから塗布溶液の供給を受け、基板51上に塗布溶液を供給できるように構成されている。
撮像装置54は、基板51上に形成された任意の箇所を撮像できるように構成されており、例えば外部のコンピュータ等と接続され、基板51上に形成されたアライメントマークを検出する。
エネルギー線照射手段55は、エネルギー線照射工程S102で用いるエネルギー線を発振し、基板51に対してエネルギー線を照射できるように構成されている。
ヘッドベース56は、X軸支持部材57に配置されたX軸駆動手段58によりX方向に移動可能となっている。このため、ステージ52とX軸駆動手段58とにより、エネルギー線照射手段55によるエネルギー線の照射位置や、インクジェットヘッド53から供給される塗布溶液の液滴の着弾位置を基板51上の任意に変更することができる。
以上に説明したように、アライメントマーク形成工程S103においてアライメントマークを可視化することにより、後述する撮像装置による印刷位置の検出が可能となる。このため、描画パターンに対する基板の位置出しを正確に行うことができ、セラミックス薄膜を形成するときに、前駆体溶液をより正確に塗布し、所望のパターン状のセラミックス薄膜を形成することが可能となる。
また、セラミックス薄膜をシード層として、電気−機械変換液膜を形成するときに、ゾル−ゲル液をより正確に塗布し、所望の形状の電気−機械変換液膜を形成することが可能となる。
(印刷位置検出工程S104)
次に、印刷位置検出工程S104について説明する。印刷位置検出工程S104は、アライメントマーク形成工程S103において形成された前記アライメントマークに基づいて印刷位置を検出する工程である。
印刷位置検出工程S104においては、まず、前述のアライメントマーク形成工程S103で形成、可視化されたアライメントマークを撮像装置により認識することにより、アライメントマークの位置データとして記憶する。
そして、アライメントマークの位置データと電気−機械変換膜パターン部24の印刷データとに基づいて、エネルギー線照射工程S102で形成した電気−機械変換膜パターン部24の位置を検出する。すなわち、電気−機械変換液膜を形成するときにゾル−ゲル液を供給する印刷位置を検出する。
(前駆体溶液塗布工程S105)
次に、前駆体溶液塗布工程S105について説明する。前駆体溶液塗布工程S105は、エネルギー線照射工程S102において電気−機械変換膜の形状に応じてエネルギー線が照射された部分に、インクジェット法により前駆体溶液を塗布する工程である。係る工程を実施することにより、セラミックス薄膜を形成するための前駆体液膜が形成される。
より具体的には、第1の電極の表面を撥液化した後に部分的に親液性とした領域へ、インクジェット法により直接前駆体溶液を塗布し、所望のパターン形状をダイレクトに形成させることにより、セラミックス薄膜を形成するための前駆体液膜が形成される。
前駆体溶液は、後述する電気−機械変換膜を形成するときに用いられるゾル−ゲル液に応じて設定されることが好ましく、ゾル−ゲル液に含まれる少なくとも一つの金属元素を含むことがより好ましい。
具体的には、例えば電気−機械変換膜としてチタン酸ジルコン酸鉛PZT(53/47)を用いる場合、セラミックス薄膜としてチタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸鉛リッチなPZT等を用いることが好ましい。チタン酸鉛リッチなPZTとしては、例えばPZT(20/80)、PZT(40/60)等を好適に用いることができる。
なお、PZTは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体であり、化学式Pb(Zr1−xTix)O3(0<x<1)で示されるが、その比率により特性が異なる。また、例えばPbZrO3とPbTiO3のモル比が53:47の割合である場合、化学式で表すと、Pb(Zr0.53Ti0.47)O3又はPZT(53/47)と表される。
前駆体溶液がゾル−ゲル液に含まれる少なくとも一つの金属元素を含むことにより、電気−機械変換膜の結晶形成において有効に作用する。すなわち、PbTiO3は、PZT(53/47)の結晶化温度よりも約70℃低温で結晶化することから、結晶化されるとセラミックス薄膜として高い結晶性を持ち、電気−機械変換膜のいわゆるシード層となる。
そして、シード層の結晶情報(格子定数など)は、積層される電気−機械変換膜であるPZT(53/47)に引き継がれる。結果として、高い結晶性を有する電気−機械変換膜が得られる。
(前駆体液膜熱処理工程S106)
次に、前駆体液膜熱処理工程S106について説明する。前駆体液膜熱処理工程S106は、前駆体溶液塗布工程S105において塗布された前駆体液膜を熱処理する工程である。係る工程を実施することにより、セラミックス薄膜が形成される。
セラミックス薄膜の膜厚は、後述する電気−機械変換液膜形成工程S300におけるゾル−ゲル液の塗布と、電気−機械変換液膜熱処理工程S400における熱処理とを各々1回ずつ行ったときに形成される電気−機械変換膜の膜厚以下であることが好ましい。
なお、セラミックス薄膜の膜厚の下限は、特に限定されるものではないが、1回のゾル−ゲル液の塗布及び熱処理によって形成される電気−機械変換膜の膜厚の1/10以下であることが好ましく、1/20〜1/10の範囲であることがより好ましい。
例えば、1回のゾル−ゲル液の塗布及び熱処理によって形成される電気−機械変換膜の膜厚が40nmである場合、セラミックス薄膜の膜厚は、4nm以下であることが好ましく、2nm〜4nmの範囲であることがより好ましい。
これにより、セラミックス薄膜の膜厚均一性の制御を容易に行うことができる。また、セラミックス薄膜の膜厚方向における成分元素の分布と均一にすることができる。さらに、セラミックス薄膜とセラミックス薄膜上に形成される電気−機械変換膜との界面において、金属元素が拡散及び/又は移動しやすくなる。
結果として、構造的に欠陥がなく、結晶性が高く、及び結晶配向性に優れた良質な電気−機械変換膜が得られ、結晶情報の連続性も確保できる。
なお、セラミックス薄膜の膜厚と前駆体溶液の固形分濃度とは、略比例関係にある。このため、固形分濃度を調整することにより、セラミックス薄膜の膜厚を容易に制御することができる。
熱処理としては、前駆体溶液の溶媒成分の乾燥のみを行うことが好ましい。すなわち、セラミックス薄膜は、後述する電気−機械変換液膜が形成される前の単層の状態では、アモルファス状の薄膜であることが好ましい。
熱処理における乾燥温度は、前駆体溶液の主溶媒の沸点に基づいて設定されることが好ましく、例えば300℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。なお、熱処理における乾燥温度の下限は、前駆体溶液の溶媒成分が揮発される温度であればよく、本発明はこの点において限定されるものではない。
熱処理における乾燥方法としては、特に限定されるものではないが、例えばホットプレートにより基板裏面側から直接加熱する方法や、基板表面及び/又は裏面側からレーザ光や赤外線ランプ等により熱エネルギー線を照射し間接加熱する方法が好ましい。
前述したように、セラミックス薄膜の膜厚は、1回のゾル−ゲル液の塗布及び熱処理によって形成される電気−機械変換膜の膜厚以下であることが好ましい。そして、例えば1回のゾル−ゲル液の塗布及び熱処理によって形成される電気−機械変換膜の膜厚が数十nmである場合、セラミックス薄膜の膜厚は、数nm程度であることが好ましい。
このような膜厚に対して、熱処理として、ゾル−ゲル液の塗布前に、前駆体液膜の溶媒乾燥を行った後、得られたセラミックス薄膜の有機物の熱分解まで行うと、セラミックス薄膜は、瞬時に350℃から400℃程度の温度に達する。このとき、セラミックス薄膜中に含まれる有機物の分解が進むにつれ、膜厚の薄いセラミックス薄膜に含まれる酸素が使用される。
これにより、後述する電気−機械変換液膜形成工程S300及び電気−機械変換液膜熱処理工程S400において積層・結晶化される電気−機械変換膜の配向性が変化する。このため、セラミックス薄膜上に積層される電気−機械変換膜で結晶構造の連続性が確保できなくなり、所望の結晶構造が得られなくなることがある。
また、熱処理として、熱分解より更に進んで、セラミックス薄膜を結晶化まで進めた場合、セラミックス薄膜は、瞬時に700℃から800℃程度の温度に達する。このとき、セラミックス薄膜中に含まれる酸素が余分に使用されるのみならず、セラミックス薄膜中の鉛原子が欠損する、いわゆる「鉛抜け」の現象が発生することがある。
これにより、セラミックス薄膜上に積層・結晶化される電気−機械変換膜は構造的に欠陥のある結晶構造となり無配向膜となる等、所望の結晶構造が得られなくなることがある。
さらに、セラミックス薄膜上に積層・結晶化される電気−機械変換膜の圧電特性が低下し、所望の圧電特性を十分に得ることができなくなることがある。すなわち、前駆体液膜熱処理工程S106における熱処理として、乾燥、熱分解及び結晶化を経たセラミックス薄膜は、いわゆるシード層としての役割を果たさなくなることがある。
また、セラミックス薄膜の熱処理のうち、熱分解及び結晶化については、後述する電気−機械変換液膜熱処理工程S400において、電気−機械変換液膜の熱分解工程及び結晶化工程と共に行うことが好ましい。
前述したように、前駆体溶液に含まれる金属元素は、ゾル−ゲル液に含まれる少なくとも一つの金属元素を含むことが好ましい。この場合、セラミックス薄膜と電気−機械変換膜との界面において、使用される金属原子及び酸素原子を補完することができる。
これにより、セラミックス薄膜は、セラミックス薄膜上へのゾル−ゲル液の塗布・乾燥後に、ゲル化した電気−機械変換液膜が積層された状態で共に熱分解及び結晶化される。このため、構造欠陥がなく結晶性が高く、結晶配向性に優れた所望の結晶特性を有する電気−機械変換膜を形成することができる。すなわち、セラミックス薄膜は、シード層としての役割を担うことができる。
なお、後述する電気−機械変換液膜熱処理工程S400におけるセラミックス薄膜の結晶化のタイミングは、特に限定されるものではない。タイミングとしては、例えば乾燥から熱分解、結晶化までをゾル−ゲル液を1回塗布する毎に実施してもよい。また、例えばゾル−ゲル液の塗布を1回行い、乾燥のみを実施し、これらを複数回繰り返した後に、熱分解を実施してもよく、さらに、熱分解までの工程を複数回実施した後に結晶化を実施してもよい。
(改質工程S200)
次に、改質工程S200について説明する。改質工程S200は、第1の電極の表面のうち、セラミックス薄膜が形成されていない領域を改質する工程である。
改質工程S200は、前述した撥液化処理工程S101と同様に、例えば下地基板をアルカンチオール液にディップし、第1の電極の表面全体にSAM膜を形成することが好ましい。
セラミックス薄膜形成工程S100において、所望のパターンにパターン化されたセラミックス薄膜が形成された基板の表面には、セラミックス薄膜が形成された領域と共に、セラミックス薄膜が形成されておらず、第1の電極が露出している領域が存在する。
そして、SAM膜は、酸化物薄膜の表面には形成されない特徴を持っている。このため、撥液性の膜として、例えばSAM膜を用いた場合、基板のアルカンチオール液へディップするのみで、セラミックス薄膜の表面を親液性領域とし、それ以外の領域を撥液性領域とすることができ、簡便に表面改質を実施することができる。
(電気−機械変換液膜形成工程S300)
次に、電気−機械変換液膜形成工程S300について説明する。電気−機械変換液膜形成工程S300は、セラミックス薄膜の表面にインクジェット法によりゾル−ゲル液を塗布する工程である。
前述のように、第1の電極の表面のうち、ゾル−ゲル液が塗布される領域、すなわち、セラミックス薄膜の表面は親液性となっている。これに対して、ゾル−ゲル液が塗布されない領域、すなわち、セラミックス薄膜の表面以外の領域は、表面改質により、例えばSAM膜が形成されているので撥液性となっている。
このように電気−機械変換膜を形成する領域と形成しない領域とで塗れ性が異なっているため、部分的なゾル−ゲル液の塗り分けを正確に実施することができ、所望の形状の電気−機械変換液膜をダイレクトに形成することができる。
ゾル−ゲル液としては、特に限定されるものではなく、電気−機械変換膜の用途に応じて任意に設定することができる。例えば、薄膜アクチュエータとして用いられる電気−機械変換膜の場合には、金属複合酸化物膜によって形成することが好ましい。
具体的には、例えば電気−機械変換膜がPZTの場合、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド及びチタンアルコキシドを出発材料とし、共通溶媒として2−メトキシエタノールに溶解させ、均一なPZTのゾル−ゲル液とすることができる。
また、優れた電気−機械特性を示す組成は、PbZrO3とPbTiO3のモル比が53:47の割合であり、化学式で表すと、Pb(Zr0.53Ti0.47)O3、又はPZT(53/47)と示される。このため、出発材料の酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシドは、係る化学式の量論比になるように秤量、混合されていることが好ましい。
なお、電気−機械変換液膜は、電気−機械変換膜とするため後述のように熱処理される。特に、結晶化のための熱処理工程においては、塗膜中のPb原子の一部の揮発、いわゆる「鉛抜け」を生じる場合がある。そこで、PZTのような鉛を含む複合酸化物を作製する場合には、熱処理工程における鉛抜けを想定し、出発材料に化学量論組成に比べて物質量比で5〜25%程度Pbを過剰に加えることが好ましい。
また、金属アルコキシド化合物を用いる場合には、大気中の水分により容易に加水分解してしまうため、安定剤として、ゾル−ゲル液にアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等を適量添加し、加水分解の進行を抑制することがより好ましい。
電気−機械変換膜に好適に用いることができる材料として、PZT以外の複合酸化物では、例えばチタン酸バリウム等が挙げられる。チタン酸バリウムの場合には、バリウムアルコキシド、チタンアルコキシドを出発材料にし、これら化合物を共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム用のゾル−ゲル液を作製することも可能である。
また、インクジェットヘッドからゾル−ゲル液を容易に供給できるように、ゾル−ゲル液の粘度や表面張力等、液質を調整することが好ましい。
また、電気−機械変換膜に要求される膜厚によっては、電気−機械変換液膜形成工程S300を複数回実施することもできる。
また、前述のように、アライメントマークは、セラミックス薄膜の前駆体溶液により形成され、可視化されている。したがって、印刷位置の検出するときには、前駆体溶液により形成されたアライメントマークを利用することができ、前述した印刷位置検出工程S104と同様にしてアライメントを実施することができる。
また、インクジェット法による電気−機械変換液膜の形成におけるゾル−ゲル液の塗布予備吐出は、既にアライメントマークが存在することから、基板面外で実施してもよい。
さらに、電気−機械変換液膜形成工程S300を2回以上実施する場合、前述のSAM膜が酸化物薄膜の表面に形成されない特徴を利用することができる。
すなわち、1回目の電気−機械変換液膜形成工程S300後に熱処理をした基板を、アルカンチオール溶液にディップするだけで基板上の電気−機械変換膜を形成する領域以外、すなわち、第1の電極が露出した部分のみを部分的に撥液性にすることができる。このため、2回目以降も同様に、インクジェット法により電気−機械変換液膜形成工程S300を実施することができる。
以上に説明したように、電気−機械変換液膜形成工程S300によれば、アライメントマーク、シード層となるセラミックス薄膜及び電気−機械変換液膜をインクジェット法により形成できる。このため、アライメントマーク、シード層となるセラミックス薄膜及び電気−機械変換液膜を同じ装置で連続して形成することができ、簡便かつ生産性よく、電気−機械変換膜を形成できる。
(電気−機械変換液膜熱処理工程S400)
次に、電気−機械変換液膜熱処理工程S400について説明する。電気−機械変換液膜熱処理工程S400は、電気−機械変換液膜を熱処理する工程である。すなわち、前述の電気−機械変換液膜形成工程S300において、インクジェット法によりゾル−ゲル液を供給することにより形成された電気−機械変換液膜を電気−機械変換膜とするため、電気−機械変換液膜を熱処理する。
熱処理としては、特に限定されるものではなく、例えばゾル−ゲル液を乾燥させる乾燥工程、ゾル−ゲル液に含まれる有機物等を分解する熱分解工程、電気−機械変換膜を構成する物質を結晶化する結晶化工程等を含むことが好ましい。これにより、後述する電気−機械変換素子として用いるのに十分な性能を有する電気−機械変換膜が得られる。
また、熱処理条件としては、用いるゾル−ゲル液の種類等により好適な条件が異なるため、特に限定されるものではなく、用いるゾル−ゲル液の種類等に応じて設定することができる。
前述のように、電気−機械変換液膜形成工程S300は、複数回実施することが可能であるが、電気−機械変換液膜形成工程S300を複数回実施する場合も、熱処理の内容、実施するタイミング等については、特に限定されるものではない。すなわち、熱処理としては、電気−機械変換膜に要求される性能、生産性等を考慮して任意の条件、タイミングで実施することができる。
例えばゾル−ゲル液の塗布を行う毎に、乾燥工程、熱分解工程、結晶化工程を続けて行ってもよい。
また、例えばゾル−ゲル液の塗布を行う毎に乾燥工程のみを実施し、ゾル−ゲル液の塗布及び乾燥工程を複数回実施する毎に熱分解工程を実施し、さらに、熱分解工程までのサイクルを複数回実施する毎に結晶化工程を実施してもよい。
なお、インクジェット法では、スピンコート法による電気−機械変換膜の形成と同様に、ゾル膜の体積収縮起因によるクラックが発生することがある。そこで、クラックの発生を防止するため、1回のゾル−ゲル液の塗布及び熱処理によって形成される電気−機械変換膜の膜厚(以下「電気−機械変換膜の1層の膜厚」ともいう。)は、所定の膜厚以下とすることが好ましい。
具体的には、例えば電気−機械変換膜の1層の膜厚は、100μm以下とすることが好ましく、2μm以下とすることがより好ましい。また、電気−機械変換膜の1層の膜厚の下限値は、特に限定されるものではないが、生産性を考慮すると、0.01μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。
なお、電気−機械変換膜の1層の膜厚は、ゾル−ゲル液の濃度(固形分)や、ゾル−ゲル液の供給量等により調整することができる。
以上に説明したように、第1実施形態に係る電気−機械変換膜の製造方法によれば、一方の面に第1の電極が形成された基板の、第1の電極の表面を改質した後に、インクジェット法により所望のパターンを有するセラミックス薄膜を形成するセラミックス薄膜形成工程S100と、第1の電極の表面のうち、セラミックス薄膜が形成されていない領域を改質する改質工程S200と、セラミックス薄膜の表面にインクジェット法によりゾル−ゲル液を塗布する電気−機械変換液膜形成工程S300と、電気−機械変換液膜を熱処理する電気−機械変換液膜熱処理工程S400とを有する。このため、結晶性が高く、結晶配向性に優れた電気−機械変換膜を、より簡便かつ安全に形成できる。
また、第1実施形態に係る電気−機械変換膜の製造方法は、改質工程S200と、電気−機械変換液膜形成工程S300と、電気−機械変換液膜熱処理工程S400とを繰り返し行うことを特徴とする。このため、クラックを発生させることなく、結晶性が高く、結晶配向性に優れた電気−機械変換膜を、より簡便かつ安全に形成できる。
また、第1実施形態に係る電気−機械変換膜の製造方法により得られた電気−機械変換膜上に第1の電極と対向するように第2の電極(上部電極)を形成することにより、電気−機械変換素子とすることができる。
第2の電極の材質、膜厚等の構成については、特に限定されるものではないが、例えば第1の電極と同じ構成とすることができる。なお、第2の電極については、個別電極とすることができるため、必要に応じてエッチングを行い、個別電極にパターニングすることができる。
第1実施形態に係る電気−機械変換素子は、電気−機械変換膜が精度よく所望の適切な形状に形成されており、かつ所望の膜層の配向性及び高い結晶性を保持している。このため、第1実施形態に係る電気−機械変換膜を含む電気−機械変換素子は、高い圧電性能を有する。
また、電気−機械変換膜を簡便な方法で製造することができるため、電気−機械変換素子も同様に簡便に製造することができる。
[第2実施形態]
第2実施形態では、第1実施形態で説明した電気−機械変換素子を備えた液体吐出ヘッドについて、図8及び図9を参照しながら説明する。図8及び図9は、第2実施形態に係る液体吐出ヘッドの概略構成を例示する図である。
液体吐出ヘッド60は、図8に示すように、液体を吐出するノズル61と、ノズル61が連通する加圧室62と、加圧室62内の液体を昇圧させる吐出駆動手段とを備える。
液体吐出ヘッド60においては、第1実施形態に係る電気−機械変換膜662を配置した基板63の裏面側からエッチング処理を行い加圧室62を形成し、ノズル孔を有するノズル板64を接合している。
そして、吐出駆動手段として、加圧室62の壁の一部を振動板65で構成し、振動板65に第1実施形態で説明した電気−機械変換膜662を含む電気−機械変換素子66を配置した構成にできる。
電気−機械変換素子66は、前述したように、第1の電極661、電気−機械変換膜662、第2の電極663等を含む。図8においては、第1の電極661が酸化物電極6611とPt電極6612とを含む構成を例示しているが、本発明はこの点において限定されるものではない。
なお、第2実施形態では1つのノズルからなる液体吐出ヘッド60について説明したが、本発明はこの点において限定されるものではなく、例えば図9に示すように、複数の液体吐出ヘッド60を備える構成とすることもできる。図9の液体吐出ヘッド600は、図8の液体吐出ヘッド60を複数個直列に並べたものである。そして、同じ部材には、同じ番号を付している。
また、液体供給手段、流路、流体抵抗等については、記載を省略したが、液体吐出ヘッド60に設けることのできる付帯設備を当然に設けることができる。
第2実施形態に係る液体吐出ヘッド60は、第1実施形態で説明した電気−機械変換膜の製造方法により得られる電気−機械変換膜を含む電気−機械変換素子を備えている。そして、第1実施形態に係る電気−機械変換膜を簡便な方法で製造することができるため、第2実施形態に係る液体吐出ヘッド60も同様に簡便に製造することができる。また、精度よく電気−機械変換膜を形成できるため、安定した液体吐出性能が得られる。
[第3実施形態]
第3実施形態では、第2実施形態で説明した液体吐出ヘッド60を備えた液滴吐出装置の構成例について説明する。液滴吐出装置の形態としては、特に限定されるものではないが、第3実施形態ではインクジェット記録装置を例に説明する。
インクジェット記録装置の一例について、図10及び図11を参照しながら説明する。図10は、第3実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を例示する斜視図であり、図11は、第3実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を例示する側面図である。
インクジェット記録装置81は、内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ89、キャリッジ89に搭載された液体吐出ヘッド60を含む記録ヘッド90、記録ヘッド90にインクを供給するインクカートリッジ91等を含む印字機構部82等を収納している。
インクジェット記録装置81本体の下方部には、前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは、給紙トレイでもよい。)を抜き差し自在に装着することができる。また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。そして、給紙カセット84又は手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙できる。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド87と従ガイドロッド88とでキャリッジ89を主走査方向に摺動自在に保持している。
キャリッジ89には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液体吐出ヘッド60を含む記録ヘッド90が、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列している。なお、記録ヘッド90は、インク滴吐出方向を下方に向けて装着されている。
また、キャリッジ89には、記録ヘッド90に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ91が交換可能に装着されている。
インクカートリッジ91は、上方には大気と連通する大気口、下方には液体吐出ヘッド60にインクを供給する供給口、内部にはインクが充填された多孔質体を有している。そして、多孔質体の毛管力により液体吐出ヘッド60に供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
なお、第3実施形態では、記録ヘッド90として各色の記録ヘッド90を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の記録ヘッド90を用いてもよい。
キャリッジ89は、後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド87に摺動自在に嵌装され、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド88に摺動自在に載置されている。そして、このキャリッジ89を主走査方向に移動走査するため、主走査モーター92で回転駆動される駆動プーリ93と従動プーリ94との間にタイミングベルト95を張装し、このタイミングベルト95をキャリッジ89に固定している。このため、主走査モーター92の正逆回転によりキャリッジ89が往復駆動される。
一方、給紙カセット84にセットした用紙83を記録ヘッド90の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ96及びフリクションパッド97と、用紙83を案内するガイド部材98とを有している。そして、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ99と、この搬送ローラ99の周面に押し付けられる搬送コロ100及び搬送ローラ99からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ101とを設けている。
搬送ローラ99は、副走査モーター102によってギヤ列を介して回転駆動される。そして、キャリッジ89の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ99から送り出された用紙83を記録ヘッド90の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材103を設けている。この印写受け部材103の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ104、拍車105を設けている。
さらに、用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ106及び拍車107と、排紙経路を形成するガイド部材108、109とを配設している。
記録時には、キャリッジ89を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド90を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
また、キャリッジ89の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド90の吐出不良を回復するための回復装置110を配置している。回復装置110は、キャップ手段と吸引手段とクリーニング手段とを有している。
キャリッジ89は、印字待機中にはこの回復装置110側に移動し、キャッピング手段で記録ヘッド90をキャッピングし、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、キャリッジ89は、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合には、キャッピング手段で記録ヘッド90の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクと共に気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、第3実施形態に係る液滴吐出装置であるインクジェット記録装置においては、第2実施形態で説明した液体吐出ヘッド60を搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて画像品質が向上する。
以下、具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1の各工程の実施手順について、図12から図14を参照しながら説明する。図12から図14は、実施例1に係る電気−機械変換膜の製造方法を例示する図である。
まず、図12(A)に示すように、基板3011の一方の面の表面に、下地層3012としてのTiO2層と、第1の電極3013としてのPt層とを順に積層した下地基板301を準備した。このとき、下地層3012の膜厚は50nmであり、第1の電極3013の膜厚は250nmであった。
次に、下地基板301に撥液化処理工程S101を実施した。すなわち、図12(B)に示すように、下地基板301の最表面に配置された第1の電極3013上にSAM膜302を形成した。
SAM膜302は、撥液処理液であるアルカンチオール溶液に下地基板301を数秒間浸漬させることで、分子の自己配列により得られた。この撥液処理液には、アルカンチオールとしてドデカンチオールCH3(CH2)11−SHを、溶媒として無水エタノールを、各々使用し、溶液濃度は0.1mmol/lとした。
SAM膜302をアルカンチオール溶液に浸漬後、下地基板301の表面全体をエタノール、純水の順に洗浄し、窒素雰囲気下により乾燥させた。SAM膜302のゾル−ゲル液に対する接触角は、105°であり、撥液性を示した。
次に、エネルギー線照射工程S102を実施した。すなわち、図12(C)に示すように、SAM膜302が形成された下地基板301にエネルギー線を照射した。
エネルギー線照射手段としては、レーザ光発振装置305を用いた。レーザ光としては、KrFエキシマレーザ光(波長:248nm)を用いた。
そして、エネルギー線304であるレーザ光線の照射位置が、アライメントマーク及び電気−機械変換液膜形成工程S300で形成する電気−機械変換液膜のパターンに合致するように、レーザ光発振装置305を移動させ、レーザ光を照射した。なお、図7に示す産業用インクジェット装置50に設置してエネルギー線の照射を行った。
エネルギー線照射工程S102において形成された電気−機械変換膜パターン部24とアライメントマークについて説明する。実施例1で用いた下地基板301は、図4(A)に示すように、下端部に切り欠き部が設けられた円形の形状を有している。
そして、電気−機械変換膜パターン部24は、図4(A)の領域Cに形成されている。また、各々の電気−機械変換膜パターン部24は、例えば幅50μm、長さ1000μmの長尺パターンである。そして、図4(B)に示すように、各々の電気−機械変換膜パターン部24を、100μmのスペースを空けるように配列して、電気−機械変換膜パターン部配列23を形成した。
なお、電気−機械変換膜パターン部24の長手方向が、産業用インクジェット装置50における基板51の走査方向(図7のY方向)と平行になるように設定した。また、電気−機械変換膜パターン部24の幅方向が、産業用インクジェット装置50の前駆体溶液及びゾル−ゲル液を塗布するインクジェットヘッド53が持つノズル列方向(図7のX方向)と平行になるように設定した。
また、図4(A)に示すように、基板の両端部に3mm×30mmの塗布溶液供給領域A、Bを設け、塗布溶液供給領域A、Bの中心部分に、50μm角の四角形の形状のアライメントマークを形成した。
エネルギー線照射工程S102後、図12(D)に示すように、レーザ光を照射した領域306が親液性となっていることが確認できた。
具体的には、レーザ光を照射した領域306、すなわち、電気−機械変換膜パターン部24及びアライメントマーク部分の前駆体溶液に対する接触角は、微小接触角計による測定で30°以下であることが確認された。すなわち、レーザ光を照射した部分は、SAM膜が除去されたことにより親液性となった。また、レーザ光を照射した領域と照射していない領域との間の接触角差は70°以上であることが確認できた。
次に、アライメントマーク形成工程S103を実施した。すなわち、図4(A)に示した下地基板上の塗布溶液供給領域A、Bに、インクジェット法により塗布溶液を塗布した。なお、アライメントマーク形成工程S103においても、エネルギー線照射工程S102と同様に、図7に示す産業用インクジェット装置50を用いて実施した。
塗布溶液としては、出発材料に酢酸鉛三水和物及びイソプロポキシドチタンを用いた。酢酸鉛の結晶水は、メトキシエタノールに溶解後、脱水した。
イソプロポキシドチタンをメトキシエタノールに溶解させ、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、前述の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することで、チタン酸鉛の塗布溶液を合成した。この塗布溶液のチタン酸鉛固形分濃度は0.03mol/lとした。
インクジェット法による塗布溶液の塗布については、インクジェットヘッド側の吐出条件を調整することにより、塗布される塗布溶液の液滴の着弾径が30μmとなるようにした。
塗布溶液供給領域A、Bに塗布溶液を塗布したところ、アライメントマーク部分近傍は、図5(A)に示すようになっていることが確認できた。
まず、アライメントマーク部分(親液性領域31)に着弾した塗布溶液は、アライメントマーク部分内で塗れ拡がった。これに対して、アライメントマーク部分外(撥液性領域)塗布溶液の液滴は、着弾時の半球形状を保った状態で留まっていた。
そして、アライメントマーク部分(親液性領域31)の稜線上に跨って着弾した塗布溶液の液滴32A〜32Bは、親液性/撥液性両領域の表面エネルギー差により図中矢印で示した方向に動き、アライメントマーク部分に吸い寄せられた。
このため、アライメントマーク部分(親液性領域31)の稜線のコントラストは、明瞭に保たれ、アライメントマークは明瞭に表示されていた。
次に、印刷位置検出工程S104を実施した。すなわち、撮像装置によりアライメントマークを検出し、アライメントマークに基づいて印刷位置を検出した。具体的には、検出したアライメントマークの位置データと、電気−機械変換膜の印刷データとから、セラミックス薄膜及び電気−機械変換膜の印刷位置を検出した。
次に、前駆体溶液塗布工程S105を実施した。すなわち、図13(E)に示すように、検出した電気−機械変換膜の印刷位置情報に基づいて、エネルギー線照射工程S102においてレーザ光を照射した電気−機械変換膜パターン部307に、インクジェットヘッド308を用いて前駆体溶液を塗布した。
前駆体溶液としては、アライメントマーク形成工程S103で用いた塗布溶液と同じチタン酸鉛の前駆体溶液を用いた。なお、図7に示した産業用インクジェット装置50を用いて、前駆体溶液の塗布を行った。
図13(F)に示すように、インクジェットヘッド308から吐出された前駆体溶液は、吐出箇所の第1の電極3013表面上の表面改質部分、すなわち、親液性領域内のみで均一にレベリングされた。このとき、第1の電極3013の表面のうち、エネルギー線照射工程S102においてレーザ光を照射しなかった領域、すなわち、撥液性領域となっている部分には、前駆体溶液がはみ出すことなくパターン状の前駆体液膜309が形成された。これは、電気−機械変換膜パターン部307内外における接触角のコントラスト差によるものである。
次に、前駆体液膜熱処理工程S106を実施した。すなわち、図13(G)に示すように、乾燥のみの処理、例えば120℃での処理を行い、前駆体溶液の溶媒を乾燥させた。係る乾燥処理により、セラミックス薄膜310を得た。このとき、SAM膜は、熱処理により消失した。
得られたセラミックス薄膜の膜厚は、6nmであった。
次に、改質工程S200を実施した。すなわち、図13(G)で得られたセラミックス薄膜310が形成された下地基板301基板全面をイソプロピルアルコールで洗浄後、撥液化処理工程S101と同様に基板の浸漬処理にてSAM膜302を形成した。
このとき、SAM膜302は、酸化膜であるセラミックス薄膜310上には形成されないため、図14(H)に示すように、セラミックス薄膜310が形成されていない領域のみに形成される。
次に、電気−機械変換液膜形成工程S300を実施した。すなわち、図14(H)に示すように、再度、インクジェットヘッド308により、セラミックス薄膜310の上面にゾル−ゲル液を塗布した。これにより、図14(I)に示すように、セラミックス薄膜310の上面に電気−機械変換液膜311が得られた。
なお、前述の前駆体液膜熱処理工程S106により、塗布溶液供給領域内にあるアライメントマークは、固形化して明瞭に判別できる状態である。このため、後述する電気−機械変換液膜形成工程S300においては、アライメントマークを用いて印刷位置を正確に検出し、位置合わせすることができる。
次に、電気−機械変換液膜形成工程S300で用いたゾル−ゲル液について説明する。ゾル−ゲル液は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水は、メトキシエタノールに溶解後、脱水した。
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解させ、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、前述の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでゾル−ゲル液を合成した。このゾル−ゲル液のPZT固形分濃度は、0.3mol/lとした。
なお、ゾル−ゲル液を調製するとき、化学量論組成に対し鉛量を10モル%過剰になるように酢酸鉛の添加量を調整した。これは、熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。また、ゾル−ゲル液の塗布に際し、基板外でゾル−ゲル液の予備吐出を行ってからセラミックス薄膜310の上面にゾル−ゲル液を塗布した。
次に、電気−機械変換液膜熱処理工程S400を実施した。すなわち、電気−機械変換液膜熱処理工程S400における熱処理として、まず、乾燥工程として120℃で処理することにより、ゾル−ゲル液の溶媒を乾燥させた。
次に、ゾル−ゲル液に含まれていた有機物の熱分解(例えば、500℃)を行った。これにより、図14(J)に示すように、シード層となるセラミックス薄膜310と、電気−機械変換液膜311とが積層された電気−機械変換膜312が得られた。このときの電気−機械変換膜312の膜厚は、60nmであった。
さらに、前述した改質工程S200、電気−機械変換液膜形成工程S300及び電気−機械変換液膜熱処理工程S400と同じ条件で、図14(H)〜(J)の工程を2回繰り返すことにより、更に2層の電気−機械変換膜312を形成し、積層した。これにより、膜厚が180nmの電気−機械変換膜312を得た。
そして、得られた電気−機械変換膜312について結晶化処理を行うため、熱処理をさらに行った。熱処理としては、700℃の急速熱処理(RTA:Rapid Thermal Annealing)を用いて実施した。
図15に、得られた電気−機械変換膜312の上面から撮影した画像を示す。電気−機械変換液膜熱処理工程S400の後、電気−機械変換膜312の状態を確認したところ、図15に示すように、電気−機械変換膜312にクラック等は認められなかった。
さらに、得られた電気−機械変換膜312上に、撥液化処理工程S101、電気−機械変換液膜形成工程S300、乾燥工程及び熱分解工程を3回繰り返し行った後、結晶化工程を行うことにより、3層の電気−機械変換膜312を形成した。
これらの工程により、得られた電気−機械変換膜312の膜厚は、0.35μmとなり、電気−機械変換膜312にはクラック等は認められなかった。
さらに、撥液化処理工程S101、電気−機械変換液膜形成工程S300、乾燥工程及び熱分解工程を3回繰り返し行った後、結晶化工程を行うサイクルを同様の条件で9サイクル繰り返し実施した。すなわち、実施例1においては、ゾル−ゲル液の塗布を合計33回実施することにより、電気−機械変換膜312を形成した。
これらの工程により得られた電気−機械変換膜312の膜厚は、2.0μmとなり、電気−機械変換膜312にはクラック等は認められなかった。以上の工程により所望の形状の電気−機械変換膜312が得られた。
[実施例2]
実施例1の前駆体液膜熱処理工程S106における120℃で乾燥のみを行う熱処理を、120℃での乾燥及び500℃での熱分解を行う熱処理に変更した以外は、実施例1と同様の方法で処理することにより、実施例2の電気−機械変換膜312を形成した。実施例2で得られた電気−機械変換膜312の膜厚は、実施例1で得られた電気−機械変換膜312の膜厚と同様に2.0μmであった。
[評価]
前述した実施例1及び実施例2で得られた電気−機械変換膜312について、X線回折(XRD:X-ray diffraction)法を用いて結晶構造の評価を行った。
その結果、実施例1で得られた電気−機械変換膜312は、(001)配向を示した。すなわち、チタン酸鉛を含むセラミックス薄膜は、(001)配向の膜(シード層)であると考えられる。
一方、実施例2で得られた電気−機械変換膜312は、(001)配向と(111)配向とが混在する配向を示した。すなわち、熱分解工程において、チタン酸鉛を含むセラミックス薄膜の一部が、Ptの(111)配向の影響を受けることにより、セラミックス薄膜は、(111)配向を示す領域と(001)配向を示す領域とを併せ持つ膜(シード層)であると考えられる。
これらの実施例1及び実施例2で得られた電気−機械変換膜312上に、第2の電極(図示せず)として膜厚が250nmのPt層を成膜した。これにより、d31方向の変形を利用した横振動(ベンドモード)型の電気−機械変換素子を作製した。
得られた電気−機械変換素子について、電気特性及び電気−機械変換能(圧電定数)の評価を行った。
実施例1及び実施例2で得られた電気−機械変換膜の比誘電率はいずれも1560であり、誘電損失はいずれも0.03〜0.05の範囲内であり、耐圧はいずれも53Vであり、優れた電気特性を示すことが確認できた。
また、実施例1及び実施例2で得られた電気−機械変換膜312の残留分極は11.2μC/cm2であり、抗電界は28.3kV/cmであり、通常のセラミック焼結体と同等の特性を持つことが確認できた。
さらに、実施例1及び実施例2で得られた電気−機械変換素子の電界印加による変形量をレーザドップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込むことにより、電気−機械変換能を算出した。その結果、圧電定数d31は、実施例1で得られた電気−機械変換素子では153pm/Vであり、実施例2で得られた電気−機械変換素子では113pm/Vであった。
すなわち、実施例1で得られた電気−機械変換素子は、実施例2で得られた電気−機械変換素子と比較して、より大きな変位量を有することが確認できた。また、実施例1及び実施例2で得られた電気−機械変換素子の変位量は、液体吐出ヘッドとして十分設計できうる特性値であった。
以上、電気−機械変換膜の製造方法、電気−機械変換素子、液体吐出ヘッド及び液滴吐出装置を実施例により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。