以下、図面を参照して本発明の実施の一形態を詳細に説明する。本実施形態の金属鋳造床義歯・金属鋳造冠の製作においては、埋没用リング1を使って、義歯模型によって形成された任意形状のワックスパターンによる蝋義歯2を例えば石膏等による鋳型材4で埋没させ、鋳型材4硬化後に埋没用リング1を取外し、硬化した鋳型材4にマイクロ波による電磁波を約10分間だけ照射してから、電気炉に入れて約1時間程度だけ焼成することで、鋳型材4からワックスパターンによる蝋義歯2の当該ワックスが完全に取り除かれ、これによって歯科補綴物としての床義歯や冠等の金属鋳造用鋳型が形成されるものとしている。
すなわち、本実施形態の金属鋳造床義歯及び金属鋳造冠の製造工程としては、図1に示すように、鋳型形成用の埋没用リング1に、蝋義歯2を収容して鋳型材4で埋没させる埋没工程Aと、鋳型材4硬化後に埋没用リング1を取外して鋳型材4にマイクロ波を少なくとも約10分間だけ照射する電磁波照射工程Bと、照射後の鋳型材4を電気炉7(例えばマイクロ波照射器等)により温度800℃で約1時間程度の時間だけ焼成する焼成工程Cと、上記鋳型材4に例えばヒーター加熱方式真空加圧鋳造機等によって約1000℃に溶融した金12%、銀50%、銀の変色を抑えるためのパラジウム20%が含まれる合金、もしくは約1400℃に溶融したコバルトクロム合金等を鋳込む鋳造工程Dと、鋳型材4を除冷してから当該鋳型材4を破砕し、鋳造された金属鋳造床義歯・金属鋳造冠を取出す破砕工程Eと、金属鋳造床義歯・金属鋳造冠をサンドブラスト等で研磨する研磨工程Fと、を有している。このとき、コバルトクロム合金を鋳込む場合は、この溶融温度が約1400℃と非常に高いので、鋳型材4への溶融金属の流し込みは例えばリン酸塩系で行う。
次に、本実施形態のキャストと呼ばれる接続金属のものを含む金属鋳造床義歯の具体的な製造方法(手順)について説明すると、先ず、図2(a)に示すように、設計完了後の義歯模型の不要なアンダーカットをワックスでブロックアウトし、床維持部に相当する部分をシートワックスでリリーフしておく。
図2(b)に示すように、義歯模型と同じ耐火模型3を製作するために寒天で複印象を行う。この場合、適当に裁断された寒天をゲルコンディショナーによって溶解し、45℃前後に冷却したところでフラスク内へ所定の速度で注入し15分程度放冷する。そして、寒天が凝固したら、フラスクの底部より義歯模型を取出す。
その後、バイブレーターを使用してフラスク内に鋳型材4(埋没材)を注入する。40〜50分して鋳型材4が硬化したら印象材を分割して耐火模型3を取出し、乾燥機で乾燥する。製作後の耐火模型3はワックスバス、ニスバス、プラスチックエアゾ−ルの噴射等によって表面処理を行う。
図2(c)に示すように、上記製作後の耐火模型3に対し蝋型形成(ワックスアップ)を行う。この場合、耐火模型3の口蓋面に例えばスティップルパターン等のシートワックスを均一厚さで圧接し、床維持部・クラスプ・リンガルバーは、例えばレディキャスティングワックス5で既製のワックスパターンに形成する。
また、金属床とレジン床との接する境界となるフィニッシュラインの蝋型形成に際し、例えば直径1mm等の円線によるレディキャスティングワックス5を使用し、スプルーイングに際してはスプルーに溶融金属がスムーズに流れるよう例えば直径4mm〜3.2mm等の円線によるレディキャスティングワックス5を使用する。
図2(d)に示すように、ワックスパターン形成後の耐火模型3を水中に約3〜5分間浸漬してからそのパターンにワックスクリーナーを塗布し、プラスチック製もしくは紙製の円筒状の埋没用リング1に入れ、湯口8をつけて例えば石膏等の鋳型材4(埋没材)を流し込む(埋没工程A)。
鋳型材4の硬化後に、埋没用リング1を取外し焼却による脱蝋を行う。この場合、レディキャスティングワックス5の焼却に際し、前処理として鋳型材4にマイクロ波による電磁波を少なくとも約10分間の時間だけ照射する(電磁波照射工程B)。
図2(e)に示すように、照射後の鋳型材4を電気炉7(例えばマイクロ波照射器等)により温度800℃で約1時間程度の時間だけ焼成する(焼成工程C)。このときレディキャスティングワックス5は全て溶けて焼却され空洞6となる。
図2(f)に示すように、上記湯口8から空洞6内に約1400℃に溶融したコバルトクロム合金等の溶融金属を鋳込む(鋳造工程D)。このコバルトクロム合金は、この溶融温度が約1400℃と非常に高いので、鋳型材4への溶融金属の流し込みは例えばリン酸塩系で行う。
そして、鋳型材4を除冷してから当該鋳型材4を破砕し、鋳造された金属床義歯9を取出す(破砕工程E)。最後に金属床義歯9をサンドブラスト等で研磨することで完成品となす(研磨工程F:図2(g)参照)。
上記したように鋳型材4硬化後にマイクロ波による電磁波で10分間程度だけ照射してレディキャスティングワックス5を軟化してからだと、電気炉による1時間程度の焼成でも、鋳型材4からレディキャスティングワックス5を完全且つ確実に除去することができる。これにより金属床義歯9を製造する作業能率が向上(作業時間の短縮)し且つコストダウンにもつながる。
次に、本実施形態の虫歯治療後に載せるクラウンと称する金属製王冠である金属鋳造冠の具体的な製造方法(手順)について上記図2を援用しつつ図3及び図4に基づき詳細に説明する。
上記した図2(a)に示すように、歯科医院から預かった石膏による義歯模型は、歯型に石膏を流して作られたもので、一方のクラウン製作用の模型と、他方の相対する咬み合わせの模型との二つが必要である。この場合、被せる歯の部分を取り外しできるような模型に改造するよう石膏を硬くする石膏硬化剤を塗布しておく。そして、クラウンを作る歯の部分と他の部分とを位置関係を狂わせないままに、個別に取り外しできるように模型を加工する。これを分割可撤式模型と称す。
クラウンを被せる歯の部分、それ以外の部分それぞれに真鍮製などのダウエルピンと呼ばれるものを植え付けるために穴をある。この開けた穴に瞬間接着剤を流し込みダウエルピンを植立・固定する。このダウエルピンのために、一度取り外した部分を元の位置に正確に戻すことができる。さらに正確に元の位置に正確に戻すことができるように、模型に回転防止のための溝をつけておく。
こうして細工をほどこした義歯模型に、土台となる部分を石膏で作る。模型の部分の石膏と土台の石膏とがくっついてしまわないように分離材を塗布しておく。分離材が塗布されたら、石膏を盛り上げてゆくと同時に、用意したゴム製の型枠に石膏を流し込んでおく。石膏を流し込んだ型枠に先ほど石膏を盛り付けた義歯模型を取り付け、合体させる。これで作業用をするための下準備となる「模型つくり」が完了する。
次に歯の部分を取り外せるように、周囲の余分な石膏を削って除去する。専用ののこぎりを使って、石膏に切り込みを入れて、分割する。外したクラウンを被せる義歯模型を整形する。また、歯を削った部分と削っていない部分の境目をはっきりさせるために、歯肉の部分などを10ミクロン単位で削ってゆく(トリミング)ことで、後に続くワックスアップが行ないやすいようにする。
「咬合器」と呼ばれる、あごの動きを再現する装置に義歯模型を石膏で取付け、適合度を高めるために模型を修正する。表面を処理した後、ワックスを用いて歯の形を回復してゆき、ワックスと石膏がくっついてしまわないように専用の分離材を塗布しておく。またワックスはロウソクの蝋材に似たものであり、熱を加えると溶け、冷えると固まることから、解剖学的な形態はもちろん、歯周病の状態、相手の咬み合わせの状態などに配慮しながら形作ってゆく。
そして溶かしたワックスを専用器具で義歯模型に盛り付けてゆき、周囲の組織と調和したクラウンを形作ってゆく。このとき精度を高めるためや、操作感の違いなどで、複数の種類のワックスを使用する。このようにワックスを足したり、削ったりしながらの細かい作業が続行され、咬み合わせはもちろん、周囲との調和、歯茎の状態など、様々な事柄を考慮して作業することで、ワックスで作った歯形であるワックスパターン、すなわち蝋義歯2が形成される。
次に、上記ワックスパターンを金属に置き換えるための鋳造を行う。これから溶融金属を冠型のレディキャスティングワックス5(ワックスパターン)によって形成される空間に流し込むための鋳型を作る作業に入る。この場合、図3(a)に示すように、曲がった湯道用ワックス部分12を台座12aからレディキャスティングワックス5に連結するよう形成することで、高温で溶かした金属を流し込むための湯道(解けた金属が通るところ)を形成する。
医療保険で使用される金属は金を12%含み、50%前後の銀と銀の変色を押さえる為に20%のパラジウムが含まれている。溶かした金属は凝固する過程で平均1.8%ほど収縮するため、そのままでは小さくて削った歯に嵌らなくなるので、収縮分を補填させておく必要がある。そのために、水を混和してなり、加熱すると膨張する性質のある鋳型材4を使用する。
そして鋳型材4の膨張を妨げない為に、埋没用リング1の内面にクッションの役割をするセラミックスのウールなどを張設しておく。図3(b)及び図3(c)に示すように、鋳型材4を、埋没用リング1の中に流し込むことで、レディキャスティングワックス5(ワックスパターン)と湯道の周りを鋳型材4で囲ってしまう。
鋳型材4が硬化したら、埋没用リング1ごと焼却による脱蝋を行う。この場合、ワックスの焼却に際しての前処理として鋳型材4にマイクロ波による電磁波を少なくとも約10分間の時間だけ照射する(電磁波照射工程B)。
次に、図3(d)に示すように、埋没用リング1ごと鋳型材4をファーネスと呼ばれる電気炉7に入れる(焼成工程C)。これによって、上記ワックスは溶け、焼却され、湯道用ワックス部分12及びレディキャスティングワックス5(ワックスパターン)部分は空洞6(上記図2(f)参照)になり、ここに例えばヒーター加熱方式真空加圧鋳造機という機械を用いて約1000℃に溶解させた金属を湯道に通して流し込む(鋳造工程D)。
そして、埋没用リング1を破砕し、凝固した金属義歯を取出す(破砕工程E)。鋳込み終了後の凝固した金属義歯には鋳型材4が付着しており、また金属義歯の表面が酸化膜で覆われているため、金属義歯を酸の中に入れて超音波洗浄をかけてそれらを除去しておく。
金属義歯にガラスビーズと呼ばれる細かい粒子を吹き付けて表面仕上げを行う。またクラウンに付いている湯道を回転するカッターで切り離す。湯道の余分な部分を削って平らにし、隣の歯との接触状態の調整、及び咬み合わせ調整後に、研磨剤で研磨し義歯冠13の完成品とする(図4(a)、(b)参照:本図では義歯冠13を試験的に、前記義歯模型によって形成された蝋義歯2の歯形に被せてある)。
また、本実施形態の総義歯の製作においては、樹脂重合用フラスコ11を使って、ベースプレート及びワックス(蝋堤)を備えた咬合床と、ワックス(蝋堤)に配列されたレジン歯と、から成る蝋義歯2を、例えば石膏等による鋳型材4で埋没させる。
そして、鋳型材4硬化後に、上記ベースプレート及びワックス(蝋堤)の部分をレジンに置き換える(重合)ための空間部分が形成されるよう当該ワックスを除去する。そのために、マイクロ波による電磁波を500Wで約10分間程度の時間だけ鋳型材4に照射して前記ワックス部分を加熱し、鋳型材4からワックス部分を熱湯等で洗い流すことで、鋳型材4からワックスが完全に取り除かれるものとしている。
すなわち、本実施形態の総義歯の製造工程としては、図5に示すように、鋳型形成用の樹脂重合用フラスコ11に、ベースプレート及びワックス部分による咬合床の当該ワックス部分にレジン歯を配列した蝋義歯2を収容して鋳型材4で埋没させる埋没工程Pと、鋳型材4硬化後にワックス部分を軟化させるよう樹脂重合用フラスコ11内の鋳型材4にマイクロ波を500Wで約10分間程度の時間で照射する電磁波照射工程Qと、樹脂重合用フラスコ11から取出した鋳型材4からワックス部分を熱湯で洗い流す洗浄工程Rと、上記ワックス部分を除去した空間部分に床用レジンを充填する充填工程Sと、当該床用レジンをマイクロ波重合法で硬化させるレジン重合工程Tと、重合硬化後に鋳型材4を取り除いてから、鋳造された総義歯をフラスコパッキング法で咬み合せ修正を行う咬合修正工程Uと、床用レジンのバリを取り除き且つブラシ・バフ等によって研磨する仕上工程Vと、を有している。
次に、本実施形態の例えば硬質レジン等を使用した人工歯である総義歯の具体的な製造方法(手順)について、図6及び図7に基づき詳細に説明する。
先ず、歯科医院から総義歯の患者さんの口の中を取った型が送られてくる。これを「印象」と称す。印象の方法や材料には色々なものがあるが、本実施形態における症例では個人トレーという個々の患者さん専用に作られたトレーを用いてシリコンという材料を使って型取りしている。単純に口の中の型を採るのではなく、頬や舌の動きなどを邪魔しない安定した義歯を作るために筋圧形成という機能的な型採りをしてある。
次に、義歯模型の製造を行う。歯科技工士は総義歯の製作をこの模型で行うため、正確な模型を作る必要がある。所定の性能を備えた専用の石膏を気泡などが混入しないように真空状態で練和し、先ほど採られた印象に流し込んで製作する。
石膏の硬化後、余分なところの削り形を整える。また、保険診療ではコスト面の制約から時間がたつと変形してしまうアルジネートという材料を使って型取りをすることも多いため歯科医院で「印象」に石膏を注ぎ、石膏模型の状態で送られてくることもある。
咬合床と呼ばれる咬み合わせを採る装置を模型上で作る。先ず、模型上に基礎となる「ベースプレート(基礎床)」を合成樹脂で作成する。蝋の板で作ることもあるが、完成義歯と同じような硬い樹脂でベースプレートを作ることによって義歯を装着したときの問題点が事前に分かるのと同時に作業の各過程で変形などが起きることを防ぎ正確な作業が可能となる。
材料には熱でやわらかくなる樹脂や光で固まる樹脂などもあるが、ここでは最も広く使われている「トレーレジン」と呼ばれるものを使用する。トレーレジンの粉材と液剤を規定量計量し専用のカップとヘラ(スパチュラ)を用いて混ぜ合わせる。模型の部分的凹凸で引っ掛かり(アンダーカット)がある場合模型が破損してしまうので、ワックスで「ブロックアウト」といって最小限覆って保護しておく。またトレーレジンが取り外せるように専用の分離材を塗布しておく。
ワックスは、粉と液が均一に混ざるように良く練和して均一とし、カップの中でまとまって一塊になり取り出せる状態になったところで手に取りさらに練り上げ、ちょうど餅のような状態になったところですばやく模型への圧接作業に入る。このワックス材料は時間が経つと自ら発熱し室温下で硬化する。この餅状のものを、ある程度の均等な厚み(1.5mm〜2.0mm)の平たいプレート状になるよう内面に気泡が入らないように慎重に延ばし、模型の内面から辺縁まで丁寧に圧接する。余分なところは硬化が始まらないうちに彫刻刀を用いてカットする。圧接が終わった状態でしばらく放置しておけば徐々に発熱が始まると同時に硬化する。
硬化が終了して熱が引き常温になったことを確認して模型からベースプレートを取り外す。このとき、模型を破損しないように、力のかけ具合、力をかける方向を考えながら慎重に行う。余分な部分を、エンジン(回転器具)に取り付けた切削用の「バー」で削り取る。ベースプレートの周りは完成義歯のシミュレーションになるので丁寧に仕上げる必要があり、厚みも完成義歯を想定して調整しながら仕上げる。
調整が終わった状態ではベースプレートはそのまま義歯の形をしている。このベースプレートの適合が悪いと、正しい咬み合わせを採得することができないので、材料の性質をよく理解したうえで、正確な作業をしていくことが要求される。ベースプレートを模型に戻した状態で咬合床(咬み合わせを採得する装置)の基礎となる部分が完成する。
このベースプレートにワックスを取り付けて、咬み合わせを採る装置を作ってゆく。咬み合わせを印記する部分はワックスで作り、このワックスの部分は後で人工歯を並べていく部分にもなる。これを蝋提(ロー提)と称す。
先ず型枠に、熱で溶かしたワックスを流し込み、ある程度冷えて固まったら、型枠からワックスを外し、それをベースプレートに取り付けてゆく。ワックスの咬み合わせの部分は平たいお好み焼き返し用のヘラのような器具を使用し、模型上に何箇所かある基準点を用いて、日本人の平均的な規格に合わせながら平らに作ってゆく。すなわち患者さんに口・顔貌に合った前歯部のアーチの形態・大きさに形作ってゆく。そして、ベースプレートと自然移行的(一体的)になるように、ワックスを足したり、削ったりしながら、整える。ワックスは冷えて固まると収縮し、その収縮に引きずられてベースプレートが変形することもある。
こうして、しっかりした適合性、必要な形態・大きさ・高さの基準を満たす蝋提が完成する。このベースプレートと蝋提をまとめて咬合床と呼び、ほぼ入れ歯の形になっている。下顎のほうも同様に高さアーチなど統計上の平均値合わせて製作することで、上下の咬合床が完成する。
ワックスの部分には後で人工の歯が並設される。総義歯の患者さんの場合は咬み合わせの参考になる歯がないので、こういう装置を作って咬み合わせを採る必要がある。患者さんの噛み合わせはそれぞれ固有のものであるが、咬合床の寸法を平均値に合わせておくことによって、診療室で患者さんに最適な噛み合わせを採るための調整をし易くすることができる。
作成された咬合床は上下を合わせると大きさが合うように、アーチの大きさを調整しておく。これを診療室で患者さんに装着してもらい削ったり足したりしながらその患者さんに最適な高さ大きさなどを調整する。これを「咬合採得」と称す。そしてその状態での噛み合わせを取ってもらうことになる。このとき義歯を製作するうえで、重要な患者さんの様々な情報を記入してもらい、歯科医院では、患者さんにこの咬合床を装着し噛み合わせてもらい咬合を採得する。
咬合床には、審美性回復のため、前歯の並び具合「唇の豊隆具合」も記録されている。また、上下の咬合床の境目は取り外しができるようにしてあり、患者さんの顔貌的、または解剖学的水平面に正確に調整してある。これを「咬合平面」と呼び義歯製作の基準になるもので、この中にこれから作られる総入れ歯の情報が全て記録されている。
診療室で咬合採得された咬合床はこのように上下が分離できるようになっていて、これによって患者さんの顔貌的な水平面が正確に再現できるように噛みあわせを再現できる「咬合器」と呼ばれる機器に正確に装着することができる。このとき噛み合わせはやわらかい蝋でできているので扱いには慎重な操作が必要になる。
咬合床で採られた患者さんの咬合平面を咬合器上の水平面に正確に一致するように、正中(中心線)がずれないように専用の石膏を使ってまず上顎の模型を咬合器装着する。この時、後に人工の歯を並べる際に目の錯覚を起さないために咬合平面と模型の底面が一致するように模型を削り直しておく。このとき模型と装着石膏は綺麗に取り外しができるようにスプリットキャストという方法で装着する。
咬合器に上顎の模型を固定する石膏が完全に固まったら、さらに下顎の模型を浮き上がりや前後左右のずれが無いように専用の石膏で慎重に取り付ける。この場合もスプリットキャストといわれる方法で取り外しができるようにしておく。これは義歯を完成させる直前に咬合器にもう一度装着して最終的な誤差の修正を行えるようにするためのものである。
上下の模型が咬合器に取り付けられ、口の中の咬み合わせの状態が咬合器上に再現されると、この咬合床を基準に人工の歯「人工歯」を並べる。ここで使われている咬合器は統計的に導き出されて日本人の平均的な顎運動を再現できる「平均値咬合器」という種類のもので、このほかに患者さんの顎運動を正確に再現できる調節性咬合器という種類のものがある。
診療室から得られた情報を正確に再現するために咬合床の蝋堤を修正する。通常人の歯は上の前歯が下の前歯にかぶさった状態になっており、義歯の場合も当然そのようにするが、総義歯の場合このかぶさる量と角度が義歯の安定に大きく関係する。そのためにその量を計画的に再現するための基準とし、そのほかに顔の中心となる正中線、歯の大きさの基準になる口角線など診療室で記入された線を作業中に消えたりしないようにさらにはっきり刻んでおく。
そして患者さんの顔貌と顎の大きさにあった人工の歯「人工歯」を選択する。ここでは広く健康保険で利用されているレジン歯という種類のものを使用するが、この他さらに硬度の有る硬質レジン歯、セラミックでできた陶歯と呼ばれる種類のものも使用される。また材質のほかにさまざまな理論に対応するために形態の違うものなどその種類はさまざまで、患者さんの状態にあった、また術者の考え方によって選択する。
次に選択された人工歯を並べてゆく。この作業を「人工歯排列」と称する。ます最初に上の前歯を並べる。このとき正中線の横の蝋を熱したスパッチュラーというコテの様な道具で切り取り前歯を並べるスペースを作りその部分を熱して柔らかくしておく。このスペースに一番前の歯「中切歯」を並べ、正中線に合わせまた下の前歯へのかぶさり量などに配慮して位置を調整する。
ロー堤はその名の通りパラフィンという蝋でできているので溶かしたり柔らかくしたりできるので位置の調整がし易くなっている。しかし変形しやすい性質を持っているのでその操作には経験が必要になる。
同様にもう一方の中切歯を並べる。上の前歯2本の並び方で顔貌の印象が変わってくるので正中線に正確に合わせると同時にバランスを考え慎重に位置を決める。意図的に個性的な並べ方をする場合もある。このようにして中切歯、側切歯、犬歯と上の前歯6本を並べてゆく。
前歯の並びには一般的に一定の法則があり、側切歯は中切歯比べ幾分短くさらに引っ込んだ位置に並べ、犬歯は中切歯と同程度の長さで根元部分が張り出したように並べる。このとき義歯の機能を損なわない範囲で患者さんの満足を得られるようにまさに「見た目良く」並べる。ここでの1mmの違いが見た目に大きく影響を与えるので何度も修正を加えてゆく。
上の前歯6本が並んだ際には、位置が狂わないように周りの蝋にしっかりと溶かし焼付けておく。続いて下の前歯を並べてゆく。一番前の歯、中切歯を高さは蝋堤と同じレベルに上の正中にあわせて並べてゆく。もう一方に中切歯を並べる際には、2本のバランスに配慮して上の前歯の正中に正確に合わせ修正を加え位置を決める。上の前歯に対しての被さり量は当初計画された位置と角度に並べ、中切歯から側切歯、そして犬歯と並べてゆく。
下の前歯にも一般的な法則があり、中切歯から犬歯に向かって少しずつ歯頚部(根元)が外に張り出すときに、長さは全て蝋堤に高さに合わせ、犬歯のみ僅かに高く並べてゆく。
6本のバランスを考えさらに上の前歯とのバランスにも配慮し、上下の前歯12本でのバランスをチェックして微調整を加え前歯の排列を完成させる。
義歯としての機能的条件を満たすと同時に、患者さんの満足が得られるように見た目の美しさも大切な条件であり、前歯も並び方で顔の印象は大きく変わることがある。このため上の前歯が下の前歯に対して当初計画されたように1.5mm被さるように並べる。ここでは上下の前歯が互いに咬み合うように並べるか、意図的に下顎前歯を水平的に離して並べる場合もあるが、個々の患者さんの状況に合わせて歯科医師が判断し、その指示通りに並べてゆく。この状態では緊密に接触しているが最終的に咬み合わせの調整をして互いの角が僅かに接触するような状態になる。
前歯の排列が終わったら臼歯(奥歯)の排列に移る。その前に咬合の垂直的高さが狂わないように咬合器の先方に取り付ける棒状のインサイザルポールという部品を取り付けておき、臼歯の排列をおこなう。排列方法には上から並べる上顎法と下から並べる下顎法とがあるが、どちらの方法でも結果に差は無い。
下の犬歯の奥、第一小臼歯から順次億の歯を並べてゆく。前歯のときと同様に熱したスパッチュラーを使って蝋を溶かしながら並べてゆき、第一小臼歯から第二小臼歯を並べる。このときに基準になるのが上の蝋堤の平面であり、この平面に対してそれぞれの臼歯の配列位置を決めてゆく。
第一小臼歯は平面に接するように並べ第二小臼歯はそれに比べ僅かに低く並べてゆき、続いて第一大臼歯、第二大臼歯と並べてゆく。上述した咬合平面に対し横から見ると糸切り歯の先端から第一・第二小臼歯から第一大臼歯近心にかけて次第に低くなり、第二大臼歯遠心に向かって今度は高くなる綺麗にカーブしているように並べてゆく。
天然の歯牙でも同様の湾曲が見られるが、総義歯でつけるこのような湾曲は義歯の安定を図るための機能的に大変重要なもので調節湾曲というように計画的な付与が行われる。左側の臼歯の並びを上から確認する。
患者さんの口の中には当然のことであるが、内側に舌が有り外側には頬の粘膜があり、人工歯が並ぶ位置が内側過ぎると舌を噛み、外側過ぎると頬の粘膜を噛むなどの不具合がでる。また義歯でものを咀嚼するとき舌と頬粘膜は絶妙に連動して動き、その動きを邪魔せずに義歯が機能しなくてはならないため、現在までにさまざまな研究がされ統計的な蓄積の中から得られた最善の位置が求められる。その位置から逸脱していないか慎重に確認して調整する。
右側の臼歯も同様に並べていき位置関係を慎重に確認調整する。総義歯の場合当然のことであるが全く何もないところに人口の歯牙を並べてゆく。そのため基準を持って行わないと取りとめのないものになってしまう。
何もないところに新たに咬合を構築するために過去の研究からさまざまな基準や法則が決められている。それらの一つ一つを常に念頭において作業を進めなくてはならない。それによって根拠の有る義歯を作ることができ、万一後に不具合が出ても原因の特定と適切な対処が可能になる。こうして下の臼歯8本が並び下顎義歯の14本の人工歯の排列が完了する。
側方にも舌側が低くなるよう大きな球体が綺麗に収まる連続的な湾曲を与える。このような湾曲を与えることによって機能的な義歯を作ることができる。
続いて上の臼歯の配列を行うがその前に咬合器の前方に付く棒状のインサイザルポールという部品を調整し高さを上げておく。これは高くした分を後に調整して臼歯人工歯を均等に咬合させるための操作であり、本実施形態の場合、蝋でできた状態で患者さんの口の中に試適して確認するためのものであるので僅かに0.5mm程度高めに調整する。
人工歯は一般的に噛み合うような形態になっているが患者さん個々の状態により合うようにこういった操作をする必要がある。上の臼歯の排列は、まず、第一大臼歯から始める。これは義歯の噛み合わせの安定にとって役割の大きい歯から並べるためであり、歯牙の中で最も大きい上下の第一大臼歯同士を正確にしっかりと噛み合うように並べてゆく。
その後、奥の第二大臼歯、続いて前方に向かって第二・第一小臼歯へと排列を進めて行き、第二大臼歯を並べる。下の第二大臼歯としっかりと噛み合うように何度も修正を加え並べる。
下の臼歯に適切な調節湾曲が付与されているので上の臼歯も自然に適切な湾曲ができてゆき、続いて小臼歯を奥のほうから第二小臼歯・第一小臼歯の順に並べてゆく。このときその患者さんの顎の大きさや前歯の並び方によって2本の小臼歯並ぶスペースが不足したり逆に余ってしまったりする場合があるが、大臼歯の位置は絶対に動かしてはならない。その調整は小臼歯を削ったり、あるいは意図的に僅かに間隔を開けたりして調節する。頬側だけでなく舌側・口蓋側からもしっかり噛み合うように調整する。どの歯がどのように噛み合うかが決まっておりそのように噛み合わせを作ってゆく。
上の右側の臼歯4本が並び、続いて左側を並べてゆく。左側も同様に大臼歯から小臼歯へと排列を進めてゆく。この段階でしっかりとした噛み合わせを作っておくことが後の調整を成功させる条件になる。従って何度も調整を加え慎重に作業を進める。こうして上の両側の臼歯8本が並び上顎の排列が完了し、上下合わせて28本の歯の排列が完了する。
この後、上記高く調整してあった咬合器を元に戻し調整を加える。その際、並べた歯の位置が狂わないように全ての人工歯をしっかりと溶かし付けておく。排列の完了した状態であらかじめ高めに調整して置いた咬合器を元に高さに戻し、高めになっている噛み合わせを高い部分を削ることによって当初の噛み合わせの高さに戻す。この作業を「咬合調整」と称す。上下の間に咬合紙と呼ばれるちょうどカーボン紙のようなフィルムをはさみカチカチと軽く噛ませ強く当たっている部分を慎重に削ってゆく。介在している咬合紙の厚みは12ミクロンであり、このときに削ってよい部分と決して削ってはいけない部分がありそのことを念頭において慎重に調整する。この調整によって当初の噛み合わせの高さに戻すと同時に緊密な噛み合わせができる。顎の動きを念頭に置いた本格的な調整は後に行う。
患者さんの口の中に試適するための準備を行う。先ず、動かないようにしっかりと溶かし付けてあった前歯の歯頚部(生え際)の状態を再現し、この部分でも審美的な印象が大きく変わるので慎重に行う。
次に、前歯部の歯肉の状態を再現するための彫刻を行う。以上の作業を「歯肉形成」と称する。この部分は単に歯の見た目の問題だけではなく患者さんの唇の膨らみ具合やもちろん義歯の安定にも影響する大切な部分である。この試適では与えられた咬合(噛み合わせ)が適切であるか、また前歯並び方が患者さんにマッチしているかを確認してもらう。そのため前歯部のみは歯肉形成を施してあり、臼歯部は位置が狂わないように溶かし付けたままで外形のみを回復してある。もちろん最終的には全ての部分を適切に歯肉形成が施される。臼歯部の歯肉形成は施されていないが、義歯としての外形がしっかり再現されていないと試適の意味がなくなってしまうのでしっかりと根拠を持った形態にしておく。
左側も同様に形成する。この状態で診療室に戻し患者さんの口の中に装着してもらい、噛み合わせに狂いがあった場合は再度適切な噛み合わせが送られてくる。その際には下の模型を外し新たな噛み合わせに咬合器に再装着して排列作業をやり直すことになる。適切な調節湾曲が付与されそれに緊密に上の歯が噛み合っており、前歯の並び具合も試適である際には患者さんに確認してもらい、満足が得られない場合、機能的に許される範囲で再度排列をやり直す。このとき機能と審美的条件が両立してこそ患者さんにとっての良い義歯といえる。
上顎は発音や舌触りに関係するところなので慎重に再現する。また、レジンで形成したベースプレートは厚みが一定でないため、切り取っておき、厚み1.5mmのワックスを張り直す。義歯の材料は薄ければ薄いほど装着感はいいものであるが、このように樹脂のみで作られる総義歯「レジン床義歯」では強度が保てない。強度と装着感のぎりぎりの境界線が1.5mmといわれている。ちなみに金属の入れ歯「金属床義歯」の場合この部分の厚みは0.3mmほどになる。下顎も全体に肉形成を施す。義歯の舌側も舌の動きや義歯の安定性を考えながら形成する。ワックスは熱による膨張収縮が大きいため数時間後もう一度咬み合わせを確認し必要なら手直しを行う。こうして義歯の排列およびし肉形成が完了する。
臼歯も緊密な噛み合わせに調整され歯肉形成が施される。総義歯は部分床義歯と違って、義歯を維持するバネがないため、全部で28本の歯を手作業で1本1本並べるには義歯の安定性を高めるような知識、テクニックが非常に重要となる。また、臼歯も緊密な噛み合わせに調整され歯肉形成が施される。
この後、入れ歯のベースプレートとワックスの部分をレジン(合成樹脂)に置き換える「埋没・重合」という作業に移る。この後の排列状態の変更や歯肉部分を追加することは基本的にできないので、最終確認を念入りに行う。埋没では石膏に埋め込むので、蝋義歯2が動かないようにまた内面に石膏が入り込まないように、取り外し可能だったベースプレート部と問う蝋義歯2の境目にワックスを流してしっかりと固定しておく。
先ず、図6(a)乃至図6(d)に示すように、樹脂重合用フラスコ11という枠の中に、蝋義歯2を石膏等による鋳型材4で埋め込む「埋没」と言う作業を行う(埋没工程P)。
蝋義歯2を咬合器から取り外し重合用フラスコ11に収まるか確認する。スプリットキャストの部分で外すことができるのでそのまま重合用フラスコ11に綺麗に収まることができる。この重合用フラスコ11は、後でベースプレートとワックスを取り除き、レジンと置き換えるために上下に分離できるようにしておく。ここでは重合用フラスコ11として、例えばマイクロウェーブ重合(硬化)用の強化プラスチック製のフラスコを使用する。
先ず、重合用フラスコ11の枠下部に蝋義歯2を石膏で固定し、石膏が固まったら、硬化した石膏に分離材を塗る。これは後で上部の枠に注ぐ石膏と固着してしまわないようにするためである。こうしておくことで、後で上と下の枠を分離することができる。樹脂重合用フラスコ11の上の部分を先ほど蝋義歯2を石膏で固定した下部分のフラスコに被せて、そこに石膏を流し入れる(図6(d)参照)。このとき気泡が入らないように振動を与えるバイブレーターという機械の上で慎重に石膏を注ぎ入れる。蓋をして完全に固まるのを待つ。以上を義歯の埋没作業と称す。
完全に固まったらマイクロ波照射器を用いてフラスコに500Wで10分間マイクロ波による電磁波を照射しワックスを軟化させる(電磁波照射工程Q)。
その後、樹脂重合用フラスコ11の上下を分離して、熱湯をかけ、ワックスを溶かしベースプレートも含めて取り出す。こうして、総義歯(入れ歯)の鋳型ができあがる。ワックスが柔らかい内に鋳型から取り外し残ったワックスを熱湯で洗い流す(洗浄工程R)。特に人工歯の部分は念入りに流し冷えるのを待つ。以上を流蝋作業と称する。
こうして義歯のピンク色の樹脂で作る義歯床(歯ぐき)の部分が樹脂重合用フラスコ11の中に空間としてあることになり、この空間におなじみのピンクのレジン(合成樹脂)を満たし総義歯を作る。
すなわち、鋳型の空間部分に床用レジンという合成樹脂を填入し、床用レジンと石膏が付着してしまわないように専用の分離材を塗っておく。このとき人工歯が床用レジンとしっかりと結合するように人工歯部分に分離材が付かないように慎重に行う。義歯床(歯肉)の部分になる床用レジンの材料の素材はアクリル樹脂であり、粉材と液材を規定の分量に計量して混ぜ合わせたものに熱を加えると硬化する性質を持った材料である。定量の液剤を専用の容器に入れそこに粉材を気泡や異物が入り込まないように、慎重かつ静かに注ぎ入れ、その後、揮発成分が飛ばないように蓋をしておく。混ぜ合わせた直後は、砂に水を混ぜたときのような状態である。
本実施形態で使用したレジンはマイクロウェーブ専用のもので、重合(硬化)方法の違いでそれぞれ専用の材料を使用する。上記液材と粉材を混ぜ合わせたものは10分間程時間が経つと餅状になってゆき、床用レジンが餅状になり手にべたべたと付かなくなった時点で素早く型枠に入れる。このとき上下の型枠を何度か分離して作業をするためレジンと下側の型枠の間に20ミクロンほどの厚さのポリエチレンシートを介在させておく。これによりレジンの揮発性の液成分が飛ぶのを防ぎ最適な状態を保つことができる。型枠の中にレジンが行渡る様に油圧プレス機で圧力を加える。このときの圧力は20kg位からはじめ、最終的には40〜60kgにもなる強い圧をかけることで、レジン中の気泡がなくなり、また密度の高い、強度の高い床用レジンとなる。
圧力をかける度に樹脂重合用フラスコ11を開き上下の型枠が浮き上がらないように余剰な床用レジンを取り除き最終的に余剰が出ないまでに加圧を3〜4回繰り返す。余剰なレジンを綺麗に取り除き上下の枠を合わせる。
下顎の入れ歯も同様に作業する。プレスが十分となったら、上下の型枠を合わせ、再度圧力をかけた後、外れたり、浮き上がったりしないように付属のボルトでしっかり固定する。この時上下の型が偏って固定されないように締め付けていくことが重要である。ちょうど車のホイルナットを締め付ける要領で何回かに分けて徐々に均等に締め付けてゆく。
床用レジンには、お湯の中に入れて熱を加えて硬化させる方法と、マイクロ波照射器のマイクロウェーブを利用して熱硬化させる方法などがあり、また常温で硬化するタイプや光で硬化するものもある。本実施形態では電気炉7としてマイクロ波照射器によるマイクロウェーブ重合法を用いる(レジン重合工程T:図7も参照)。マイクロ波照射器では物の中心から加熱していく性質があり、樹脂の重合で用いても中心より外に向かって指向性を持って硬化するため適合精度が比較的良い重合方法といわれている。
重合(硬化)後、樹脂重合用フラスコ11や内部の石膏が完全に冷えてから、ボルトを外し型枠から取り出し、総義歯や模型の周りの石膏を慎重に取り除いてゆく。石膏を外す方向を間違えると入れ歯が破損してしまうことがあるので熟練を要する作業となる。
上顎を掘り出し、同様に下顎を石膏枠から掘り出す際には、下顎の入れ歯の形態は馬蹄形をしており破損し易いため、掘り出す作業は慎重に行う。模型の裏面のスプリットキャストの部分もシリコンの分離材によって綺麗に外すことができ、この後の咬合器再装着に支障がない状態となる。
総義歯の掘り出しが終わると再び模型ごと咬合器に取り付けなおす(咬合修正工程U)。床用レジンには、重合(硬化)するとわずかに収縮するという性質があるが、上記で行った上下を分割して試圧を繰り返す「フラスコパッキング法」では、多くの場合、僅かに咬合が高くなっていることが多い。これを補正するためにもう一度咬み合わせを修正調整する必要があるので、先ずカチカチと咬んだ時の咬み合わせの状態を確認し、左右均等に咬めるよう人工歯の咬む面を削って調整する。
例えば厚みは12ミクロンの緑色のカーボン紙のような咬合紙を介在し歯と歯が当たるところに色を印記させる。咬み合わせが悪いと義歯、特に総義歯は安定しない。ただ、当たるところを適当に削るのではなく、義歯の噛み合わせの際に安定するように力のかかる方向を考えながら調整する。この噛み合わせにはいろいろな理論があり、歯科医師が要求する通りに調整しなければならない。
次は顎を前後左右に動かしたとき、いわゆる歯ぎしりをさせたときの咬み合わせを調整する。前のものとは違った色の咬合紙を使用し、前歯、奥歯の咬み合わせの調和を考えながら、咬み合わせを調整する。
この咬み合わせ方にもいろいろな理論があり、本実施形態では比較的多く用いられているような、どの方向に動か(歯ぎしり)しても全ての歯が滑るように接触する「両側性平衡咬合」という様式に調整する。顎を左に動かしたとき、右に動かしたとき、それぞれバランスよく、義歯が安定するように咬合せを構築する。顎を前に動かした時の咬み合わせも、同じように調整する。
このようにミクロン単位の細かい作業を繰り返す。前述したように咬合器はあくまでも平均的な動きを再現するものであり、噛み合わせの調整も理論上の平均値になる。しかしこの平均値に正確に調整することによって実際患者さんの装着する際の歯科医院での調整が最低限の範囲で済ませることができ、患者さんの違和感や痛みなどを最小限に留めることができる。
これから研磨と呼ばれる仕上げ作業に入る(仕上工程V)。先ず、上記した床用レジンをプレスした時に、バリとなってはみ出しているところを削り取り、バリを取り除いたら、目の粗いポイント(削り取ったり、磨いたりするもので、エンジンと呼ばれる回転器具に装着して使用するもの)で、大まかに形態を整える。
次に、レーズという固定型の研磨装置を用い研磨ブラシで専用の磨き砂を使って研磨をする。すなわち目の粗いものから、目の細かいものへと変えながら形態を修正しつつ研磨の作業を続け、さらに柔らかい布製の研磨用バフで、研磨用ルージュという専用の材料を使って研磨する。ただ、表面に大きな傷が残っていると細菌のたまり場になってしまうので、ピカピカになるまで磨き、また細かい部分はエンジンなども用いて磨き残しがないように研磨する。この場合、慎重に調整された歯の噛み合わせの部分が狂わさない様に細心の注意が必要となる。こうして、歯肉形成された総義歯14(入れ歯)が完成される(図7(c)参照)。
次に、マイクロ波照射しない場合(試料A)及びマイクロ波照射した場合(試料B)の各試料の引張試験結果(試験速度:1mm/min)について、図8に示すグラフに基づき説明する。なお、このグラフの場合、横軸に変位[mm]、縦軸に荷重[N]としている。
図8に示すように、マイクロ波照射しない場合:試料A1(試験片ラベルA1:幅5.30400mm、厚さ1.94160mm)は、最大荷重5,998.901N、引張応力で最大荷重582.51672MPaとなり、また試料A2(試験片ラベルA2:幅5.35930mm、厚さ1.87700mm)は、最大荷重6,500.362N、引張応力で最大荷重646.19739MPaとなった。
一方、マイクロ波照射した場合:試料B1(試験片ラベルB1:幅5.42300mm、厚さ1.88930mm)は、最大荷重7,318.870N、引張応力で最大荷重714.33759MPaとなり、また試料B2(試験片ラベルB2:幅5.33700mm、厚さ1.87230mm)は、最大荷重7,260.074N、引張応力で最大荷重726.55481MPaとなった。
以上の結果から、マイクロ波照射しない場合(試料A)に比してマイクロ波照射した場合(試料B)では、最大荷重が5,998.901N〜6,500.362Nから、7,318.870N〜7,260.074Nと上昇しており、マイクロ波照射した場合(試料B)の方が条件が良くなっていた。
次に、マイクロ波照射しない場合(試料番号1)及びマイクロ波照射した場合(試料番号2)の各試料の硬さ試験結果(試験法規格JIS Z 2244−2009制定のビッカース硬さHV試験:熊本県産業技術センター)について、図9に基づき説明する。
図9に示すように、マイクロ波照射しない場合(試料番号1)の硬度が416となったのに比べてマイクロ波照射した場合(試料番号2)の硬度は412というように(若干値が落ちるが)、殆ど値が変わらなかった。
以上、説明したように、マイクロ波照射器を用いて樹脂重合用フラスコ11に500Wで10分間マイクロ波による電磁波を照射しワックスを軟化させる(電磁波照射工程Q)ことで、鋳型からワックスが完全且つ確実に除去される。これにより作業能率が向上(作業時間の短縮)し且つコストダウンにもつながる総義歯の製造方法が確立される。
次に、義歯模型からワックスにより形成された蝋義歯2から総義歯を製造する技工法における従来工法(旧工法)と新工法(マイクロ波による脱蝋工程の付加)との所要時間の対比について、図10乃至図13を参照して詳細に説明する。ここで、以下の説明において、電子レンジの原理である後述するマイクロ波による加熱などの誘電加熱は、誘電体である不導体を加熱するもので、電磁誘導加熱とは原理が異なるものである。因みに、高周波を使うものを高周波加熱という。また、後述する重合用フラスコの素材としての熱可塑性樹脂とは、常温では変形しにくいが、加熱すると軟化して塑性変形しやすくなり、冷やすと再び固くなる性質を有するプラスチックの一種である。また、デンチャーとは部分入歯や総入歯を意味する。
(デンチャーの前工程)
デンチャー前工程の手順について、図10に示すフローに基づき説明する。本実施形態では、以下に示すように、従来工法(旧工法)のステップS5の埋没工程とステップS6の焼成工程との間に、新工法として新たにステップS5aのマイクロ波加工工程が加わる。
先ず、ステップS1においては、歯科医院から石膏による模型を預かる。この場合、歯科医院から総義歯の患者さんの口の中をシリコンという材料を使って型取りした型が送られてくる。これを「印象」と称す。
ステップS2では、模型の調整を行う。歯科技工士は総義歯の製作をこの模型で行うため、歯科医院では正確な義歯模型を作る必要がある。
ステップS3では、複模型の製作を行う。所定の性能を備えた専用の石膏を気泡などが混入しないように真空状態で練和し、先ほど採られた印象に流し込んで製作する。石膏の硬化後、余分なところの削り形を整える。
ステップS4では、製作後の複模型に対し蝋型形成(ワックスアップ)を行う。先ず、咬合床と呼ばれる咬み合わせを採る装置を模型上で作る。また、模型上に基礎となる「ベースプレート(基礎床)」を合成樹脂で作る。この場合、複模型の口蓋面に例えばスティップルパターン等のシートワックスを均一厚さで圧接し、床維持部・クラスプ・リンガルバーは、例えばレディキャスティングワックス等で既製のワックスパターンに形成する。
ステップS5では、上記ワックスパターンが形成されている複模型を石膏で埋没する。このとき石膏に埋め込む際に、複模型が動かないようにまた内面に石膏が入り込まないように、上記ステップS4において、取り外し可能だった前記ベースプレートと複模型の境目にワックスを流してしっかりと固定しておく。
ステップS5aでは、石膏が完全に固まった時点で、電子レンジを用いて例えば850Wで10分間程度だけマイクロ波による電磁波を照射しワックスを軟化させる。
ステップS6では、照射後の石膏型を電気炉(例えば電子レンジ等)により温度800℃で約1時間程度の時間だけ焼成してワックスパターンを熱膨張させることで床義歯・冠等の鋳型と成す。
ステップS7では、上記石膏型に、例えば高周波真空加圧鋳造機等によって約1000℃に溶融した金12%、銀50%、銀の変色を抑えるためのパラジウム20%が含まれる合金、もしくは約1400℃に溶融したコバルトクロム合金等を鋳込む。
ステップS8では、石膏型を除冷してから破砕し、鋳造された金属鋳造床義歯・金属鋳造冠等を取出す。
ステップS9では、上記金属鋳造床義歯・金属鋳造冠等を自動サンドブラスト機または自動電解研磨機等で研磨し、当初の複模型に適合したものであるか否かを判定する。この判定が満たさなければ、ステップS3に戻って、以降の同じ手順を繰り返す。
ステップS10では、上下の歯の噛み合わせ、すなわち咬合採得(バイト)の形成が行われる。すなわち、上記ベースプレートにワックスを取り付けて、咬み合わせを採る装置を作ってゆく。咬み合わせを印記する部分はワックスで作り、このワックスの部分は後で人工歯を並べていく部分にもなる。これを蝋提(ロー提)と称す。
ステップS11では、咬合採得(バイト)が完成する。
ステップS12では、歯科医院での第1回目の義歯模型の確認が行われる。バイト形成が不十分であれば、ステップS10に戻って、以降の同じ手順を繰り返す。「OK」であればステップS13に移行する。
ステップS13では、選択された人工歯(義歯)を並べてゆく。この作業を「義歯排列」と呼ぶ。
ステップS14では、排列の完了した状態で、高めになっている噛み合わせを高い部分を削ることによって 当初の噛み合わせの高さに戻して行く。この作業を「咬合調整」と呼ぶ。上下の間に咬合紙と呼ばれるカーボン紙のような厚み12ミクロンのフィルムを挟み、カチカチと軽く噛ませ強く当たっている部分を慎重に削って行く。
ステップS15では、歯科医院での第2回目の義歯模型の確認が行われる。「咬合調整」が不十分であれば、ステップS13に戻って、以降の同じ手順を繰り返す。「OK」であれば、次の後工程(ステップS16〜ステップS25)に移行する。
上記した新工程においてステップS5aでのマイクロ波加工に要する時間は15分で、ステップS6の焼成に要する時間は60分であり、合計75分を要する。これに対し、旧工法でのステップS6の焼成に要する時間は390分である。したがって、新工程での所要時間は、旧工法での所要時間に比して約315分も短縮される。なお、上記ステップS5a及びステップS6は共にバッチ処理工程としている。
(デンチャーの後工程)
次に、デンチャー後工程の手順について、図11に示すフローに基づき説明する。本実施形態では、以下に示すように、ステップS21の脱蝋・離型剤(分離剤)工程は、旧工法で25分、新工法で15分と、新工法の方が旧工法よりも約5分短縮される。また、ステップS24の研磨・仕上げ工程は、旧工法で15分、新工法で10分と、新工法の方が旧工法よりも約5分短縮される。したがって、デンチャー後工程の所要時間は、合計で130分から115分と約15分短縮される。なお、後述するステップS19、ステップS20、ステップS21a、ステップS22及びステップS24は共にバッチ処理工程としている。
先ず、ステップS16では、上記義歯模型の床剥離を行う。このとき、義歯模型を咬合器から取り外し後述の重合用フラスコ11に収まるか確認する。スプリットキャストの部分で外すことができるのでそのまま当該フラスコ11に綺麗に収まることができる。重合用フラスコ11は、後でベースプレートとワックスを取り除き、レジンと置き換えるために左右に分離できるようにしておく。
ステップS17では、上記義歯模型を熱可塑性樹脂製の重合用フラスコ11(図12参照)という枠の中に入れて、当該義歯模型に対しスプルーイングワックスを使用してスプルー設計を行う。すなわち、義歯模型をワックスに埋め込んでなるスプルーイングワックスパターン、すなわち蝋義歯2を設計する。
重合用フラスコ11の素材を構成する熱可塑性樹脂としては、マイクロ波長の電磁波が透過可能な絶縁体であるポリフェニレンスルファイド(PPS)が使用される。これは、ベンゼン環と硫黄原子が交互に結合した単純直鎖状構造の合成樹脂であり、耐マイクロ波、高い耐熱温度(220℃〜240℃)、大きな圧縮強度(110Mpa)を有している。その他の素材としては、耐熱温度は120℃〜130℃と若干低いが、圧縮強度が125Mpa〜138Mpaと大きいポリカーボネイト(PC)を使用することもできる。
ステップS18では、上記重合用フラスコ11という枠の中の蝋義歯2の周囲に、石膏と水を混合してなる石膏スラリーを予備的にヘラ等で塗布する「2次埋没」と言う作業を行う。先ず、重合用フラスコ11の枠下部に蝋義歯2を石膏で固定し、石膏が固まったら、硬化した石膏に分離材を塗る。これは後で上部の枠に注ぐ石膏と固着してしまわないようにするためである。こうしておくことで、後で上と下の枠を分離することができる。
ステップS19では、上記重合用フラスコ11という枠の中の蝋義歯2を、石膏と水を混合してなる石膏スラリーで埋め込む「3次埋没」と言う作業を行う。まず、上記フラスコ11の上の部分を先ほど蝋義歯2を石膏で固定した下部分のフラスコ11に被せてから、義歯の前歯側が上下いずれかの縦向きとなって蝋義歯2が配置されるよう前記重合用フラスコ11の上下枠を互いに縦向きに配置しておく。そして、上側の湯口8から重合用フラスコ11内に石膏スラリーを流し入れる(図2、図3参照)。このとき気泡が入らないように振動を与えるバイブレーターという機械の上で慎重に石膏スラリーを注ぎ入れる。以上を義歯の埋没工程Pと称す。
ステップS20にて、石膏が自然硬化によって完全に固まるのを待つ。
ステップS21aでは、石膏が完全に固まったら電子レンジを用いて上記フラスコ11に例えば500Wのマイクロ波による電磁波を照射し、スプルーイングワックスパターンおよび上記ステップS10の蝋提(ロー提)を構成するワックスを加熱して石膏型から除去する。以上をマイクロ波脱蝋工程Qと称す。
こうして、義歯(入歯)の鋳型ができあがる。この場合、義歯のピンク色の樹脂で作る義歯床(歯ぐき)の部分が上記フラスコ11の中に空洞としてあることになり、この空洞におなじみのピンクのレジン(合成樹脂)を満たし義歯を作って行く。
すなわち、床用レジンと石膏が付着してしまわないように鋳型の空洞に予め専用の分離材を塗っておき、鋳型の空洞に床用レジンという合成樹脂を填入する。このとき人工歯が床用レジンとしっかりと結合するように人工歯部分に分離材が付かないように慎重に行う。義歯床(歯肉)の部分になる床用レジンの材料の素材はアクリル樹脂であり、粉材と液材を規定の分量に計量して混ぜ合わせたものに熱を加えると硬化する性質を持った材料である。定量の液剤を専用の容器に入れそこに粉材を気泡や異物が入り込まないように慎重静かに注ぎ入れて行く。
本実施形態で使用したレジンはマイクロウェーブ専用のもので、重合(硬化)方法の違いでそれぞれ専用の材料を使用する。上記液材と粉材を混ぜ合わせたものは10分間程時間が経つと餅状になってゆき、床用レジンが餅状になり手にべたべたと付かなくなった時点で素早く鋳型に充填して行く。
ステップS22では、予備・本重合が行われる。床用レジンには、電子レンジのマイクロ波を利用して熱硬化させる方法が採られる。また常温で硬化するタイプや光で硬化するものもある。本実施形態では電気炉7として例えば電子レンジを使用したマイクロ波重合法等を用いる。(レジン重合工程R)。電子レンジでは物の中心から加熱していく性質があり、樹脂の重合で用いても中心より外に向かって指向性を持って硬化するため適合精度が比較的良い重合方法といわれている。
ステップS23では、重合(硬化)後、重合用フラスコ11や内部の石膏が完全に冷えてから、重合用フラスコ11から石膏を取り出し、義歯の周りの石膏を慎重に取り除いてゆく。石膏を外す方向を間違えると入れ歯が破損してしまうことがあるので熟練を要する作業となる。
ステップS24では、研磨と呼ばれる仕上げ作業に入る。先ず、上記した床用レジンを鋳型に充填した時に、バリとなってはみ出しているところを削り取り、バリを取り除いたら、目の粗いポイント(削り取ったり、磨いたりするもので、エンジンと呼ばれる回転器具に装着して使用するもの)で、大まかに形態を整えて行く。
次に、レーズという固定型の研磨装置を用い研磨ブラシで専用の磨き砂を使って研磨をしてゆく。すなわち目の粗いものから、目の細かいものへと変えて行きながら形態を修正しつつ研磨の作業を続け、さらに柔らかい布製の研磨用バフで、研磨用ルージュという専用の材料を使って研磨してゆく。ただ、表面に大きな傷が残っていると細菌のたまり場になってしまうので、ピカピカになるまで磨いて行き、また細かい部分はエンジンなども用いて磨き残しがないように研磨してゆく。この場合、慎重に調整された歯の噛み合わせの部分が狂わさない様に細心の注意が必要となる。こうして、歯肉形成された義歯(入れ歯)が完成される。
ステップS25では、上記完成した義歯と、歯科医院で作成された指示書と、の照合確認を行い、照合不十分であれば、再度の製作を行い、「OK」であれば、歯科医院へ搬送する。
次に、新工法と従来(既存)工法における重合後の表面粗さの比較検証結果について図12に基づき説明する。
図12(a)は新工法でのマイクロ波脱蝋工程Qでワックスを除去する場合において、義歯の前歯側が下の縦向き(湯口8が上向き)となるように義歯模型による蝋義歯2を重合用フラスコ11に配置した状態を示している。
図12(b)は新工法でのマイクロ波脱蝋工程Qでワックスを除去する場合において、義歯の前歯側が上の縦向き(湯口8が上向き)となるように蝋義歯2を重合用フラスコに配置した状態を示している。
図12(c)は従来工法での蒸気脱蝋によってワックスを除去する場合において、義歯の前歯側が下の縦向き(湯口8が上向き)となるように蝋義歯2を重合用フラスコ11に配置した状態を示している。
また、図12(a)乃至図12(c)の各下欄には脱蝋後の石膏型(鋳型)によって鋳造成形されたレジン表面をレーザ干渉顕微鏡(YK−530E:熊本県産業技術センター保有:株式会社 キーエンス VK−9510)によって20倍に拡大した画像が示されている。ここで、図13に示すように、Raは表面の粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を長さで割った値をμmで表した中心線平均粗さの値、Rmax(Ry)は表面の断面曲線の基準長さにおける最大高さをμmで表した値、Rzは表面の断面曲線の基準長さにおいて最高から5番目までの山頂の標高の平均値と、最深から5番目までの谷底の標高の平均値との差の値をμmで表した値である。このように、その場観測による結果から、従来工法の蒸気脱蝋の場合よりも新工法および新工法によるマイクロ波脱蝋工程Qでの脱蝋による方が床用レジンの重合物であるレジンの表面粗さが極端に減少することが判る。
図12(d)は新工法と従来(既存)工法における脱蝋・脱水・離型剤・予備重合・本重合の比較時間を説明している。この場合の重合プロセスの条件としては、上記3次埋没後40分で重合し、放冷12時間としたメルト処理に基づく。
以上、説明したように、本実施形態では、図12(a)乃至図12(c)の各下欄の拡大画像に示すように、新工法でのマイクロ波脱蝋工程Qでは、従来工法の蒸気脱蝋に比べて、石膏型(鋳型材4)表面を傷めずに脱蝋が可能となる。これにより、後工程での石膏型によって形成される床用レジンの重合物であるレジンの表面粗さを確実に抑止することができる。