以下、図面および数式を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。まず、本発明に係る表面疵検査装置が検査対象とする鋼板表面の光学的反射の形態を、鋼板表面のミクロな凹凸形状と関連づけて説明する。
図6は、表面疵検査装置が検査対象とする合金亜鉛メッキ鋼板の製造方法及び詳細断面構造を説明する図である。図中、1は下地鋼板、2はメッキ層、3は柱状結晶、4は鋼板、5aはロール、5bはロール、6はテンパ部、および7は非テンパ部をそれぞれ表す。
例えば、検査対象が合金化亜鉛メッキ鋼板の場合においては、まず図6(a)に示すように、下地の冷延鋼板は溶融亜鉛メッキされ、下地鋼板1の上にメッキ層2が形成される。そして、合金化炉を通過する間に、下地鋼板1の鉄元素がメッキ層2の亜鉛中に拡散し、通常、図6(c)に示すような合金の柱状結晶3を形成する。
さらに、このメッキされた鋼板4は、ロール5a,5bで調質圧延される。すると、図6(d)に示すように、柱状結晶3における特に突出した箇所がロール5a,5bで平坦につぶされ、それ以外の箇所は元の柱状結晶3の形状を維持したままとなる。
そして、この調質圧延のロール5a,5bにて平坦につぶされた部分をテンパ部6と呼び、それ以外の調質圧延のロール5a,5bが当接しない元の凹凸形状を残した部分を非テンバ部7と称する。
図7は、検査対象の鋼板におけるテンパ部と非テンパ部における入射光と反射光との関係を示す図である。図中、8は入射光、9は鏡面反射光、10aは鏡面拡散反射光、および10bは完全拡散反射光をそれぞれ表し、上述したテンパ部6と非テンバ部7とを有する鋼板4の表面でどのような光学的反射が生じるかをモデル化した断面模式図である。調質圧延のロール5a,5bによりつぶされたテンパ部6に入射した入射光8は、鋼板4の正反射方向に鏡面的に反射して鏡面反射光9となる。一方、調質圧延のロール5a,5bが当接しない元の柱状結晶3の構造を残す非テンパ部7の比較的浅い部分(浅部)に入射した入射光8は、ミクロに見れば柱状結晶3の各表面の微小面素一つ一つにより鏡面的に反射されるが、反射の方向は鋼板4の正反射方向とは必ずしも一致しない鏡面拡散反射光10aとなる。
また、非テンパ部7の比較的深い部分(深部)に入射した入射光の中には、1回の反射では出て来られずに、非テンパ部7の微小面素により複数回反射された後に非テンパ部7から出てくる光がある。このような光は、反射回数もまちまちで、複数回の反射の後には偏光状態も保存されず、むしろ、偏光状態及び反射方向が完全にランダムであると見なせる反射が起こる。このような光を完全拡散反射光10bと称する。
図8は、テンパ部と非テンパ部とにおける反射光の角度分布を示す図である。鋼板4の表面におけるテンパ部6及び非テンパ部7の浅部及び深部からの各反射光の角度分布は、マクロに見ればそれぞれ図8(a)、図8(b)及び図8(c)のようになる。すなわち、テンパ部6では鋼板正反射方向に鋭い鏡面性の反射が発生し、非テンパ部7(浅部)では柱状結晶3の表面の微小面素の角度分布に対応した広がりを持った反射光となる。また、非テンパ部(深部)では、強度は一般的に小さいが全方位角方向に一様な角度分布を持った反射光となる。前述したように、テンパ部6の反射光を鏡面反射光9と称し、非テンパ部7(浅部)の反射光を鏡面拡散反射光10aと称し、非テンパ部(深部)の反射光を完全拡散反射光10bと称する。
そして、実際には、テンパ部6と非テンパ部7はマクロ的には混在しているので、カメラ等の光学測定器で観察される反射光の角度分布は、図8(d)に示すように、鏡面反射光9、鏡面拡散反射光10a及び完全拡散反射光10bの角度分布を、テンパ部6と非テンパ部7の浅部及び深部とのそれぞれの面積率に応じて加算したものとなる。また、被検査面の表面性状や観察する受光角によりテンパ部深部からの反射光が他の部分からの反射光に比べて十分小さいと見なせる場合には、前述の特許文献3に開示されているように、テンパ部からの鏡面反射光及び非テンパ部(浅部)からの鏡面拡散反射光の2成分を考慮すれば十分な場合もある。
これまで、テンパ部6と非テンパ部7とを、合金化亜鉛メッキ鋼板を例に説明を行ってきたが、調質圧延により平坦部が生じる他の鋼板にも、以上の説明は一般に成立つものである。次に、本発明の検出対象となる顕著な凹凸性を持たない「模様状ヘゲ欠陥」と呼ばれる欠陥の光学反射特性について説明する。
図9は、鋼板に存在するヘゲ部の生成過程を説明するための図である。図中、11はヘゲ部、および12は母材部をそれぞれ表し、他の符号はこれまで参照した図と同様である。合金化溶融亜鉛メッキ鋼板に見られるヘゲ欠陥(ヘゲ部11)は、メッキ加工前の冷延鋼板原板にヘゲ欠陥(ヘゲ部11)が存在し、その上にメッキ層2が乗り、さらに下地鋼板1の鉄元素の拡散によるヘゲ欠陥の合金化が進行したものである。
一般に、ヘゲ部11は鋼板4の正常部分を示す母材12と比較して、例えばメッキ厚に違いが生じたり、合金化の程度に違いが生じる。その結果、例えば、ヘゲ部11のメッキ厚が厚く母材12に対し凸の場合には、調質圧延が施されることによりテンパ部6の面積が非テンパ部7に比べて多くなる。逆に、ヘゲ部11のメッキ厚が薄く母材12に比べ凹の場合には、ヘゲ部11は調質圧延のロール5a,5bが当接せず、非テンパ部7が大半を占める。また、ヘゲ部11の合金化が浅い場合には微小面素の角度分布は鋼板法線方向に強く、拡散性は小さくなる。
次に、このようなヘゲ部11と母材部12の表面性状の相違により、模様状ヘゲ欠陥がどのように見えるかを説明する。上述したモデルに基づきヘゲ部11と母材部12の違いについて分類すると、一般に次に示す3種類に分けられる。尚、この疵のモデルは、基本的に前述の特許文献3にて開示されているものと同様であるが、微小面素の角度分布の等方性を考慮して、法線角度ξ≧0の部分を明示している。
図10は、鋼板の照射部における微小面素の法線角度と面積率との関係を示す図である。また、図11は、鋼板に対する入射光の入射角と微小面素の法線角度との関係を示す図である。
先ず、1番目の種類として、(a) ヘゲ部11におけるテンパ部6の面積率及び非テンパ部7の微小面素の角度分布が、母材部12におけるテンパ部6の面積率及び非テンパ部7(浅部)の微小面素の角度分布と異なるもの(図10(a)参照)。
また、2番目の種類として、(b) ヘゲ部11におけるテンパ部6の面積率は母材部12におけるテンパ部6の面積率と異なるが、ヘゲ部11における非テンパ部7の微小面素の角度分布は母材部12における非テンパ部7(浅部)の微小面素の角度分布とほとんど変わらないもの(図10(b)参照)。
そして、3番目の種類として、(c) ヘゲ部11における非テンパ部7の微小面素の角度分布は母材部12における非テンパ部7(浅部)の微小面素の角度分布と異なるが、ヘゲ部11におけるテンパ部6の面積率は母材部12におけるテンパ部6の面積率とほとんど変わらないもの(図10(c)参照)。
図11に示すように、入射光8が当接する微小面素13の法線が鋼板4の鋼板法線に対する傾斜角度を微小面素13の法線角度ξとし、この法線角度ξとテンパ部6の面積率S(ξ)との関係を、上述した(a)(b)(c) の3つの場合について、図10(a)(b)(c)にそれぞれ示している。
このようなヘゲ部11を母材部12と確実に区別して検出するためには、図10において、どういう角度(法線角度ξ)の微小面素13からの反射光を抽出するのかを検討することが必要である。例えば、正反射方向でヘゲ部11と母材部12の違いを検出するということは、図10で示される微小面素13の角度分布のうち微小面素13の法線角度ξ=0について抽出し、ヘゲ部11と母材部12との違いを検出していることになる。
ここで、微小面素13の法線角度ξ=0の反射光を抽出するということを、数学的に表現することを考える。図12は、微小面素の法線角度と重み関数との関係を示す図である。図10の特性(面積率S(ξ))それぞれに、図12(a)に示すデルタ関数δ(ξ)で表される抽出特性を示す関数(以後この関数を重み関数I(ξ)と呼ぶ)を乗じて積分することは、微小面素13の法線角度ξ=0の反射光を抽出することに相当する。
また、例えば、入射角60°において、正反射方向から20°ずれた40°の角度位置で反射光を測定することは、図12(b)のようなデルタ関数δ(ξ−10)なる重み関数I(ξ)を用いて計算することに相当するといった具合である。
なお、図11に示すように、反射角度θ´と微小面素13の法線角度ξと入射光8の入射角度θとの関係は、簡単な幾何学的計算によって次の(1) 式で求まる。
θ´=−θ+2ξ ・・・・・・(1)
すなわち、どういう角度(法線角度ξ)の微小面素13からの反射光を抽出するかということは、どのような重み関数I(ξ)を設計するかということに相当することが理解できる。
このような観点から、図10(a)(b)(c)で表されるような各ヘゲ部11を母材部12と弁別し検出するための重み関数I(ξ)を考えると、図12(a)(b)に示すデルタ関数δ(ξ),δ(ξ−10)も有効な重み関数I(ξ)の一つである。なお、重み関数I(ξ)は、必ずしも図12に示した特定の法線角度のみ抽出する幅が無限小のデルタ関数δ(ξ)である必要はなく、ある程度の信号幅を有することも可能である。
しかしながら、このような弁別手法においては、次に示す3つの課題がある。先ず、(1) パスライン変動があった場合、2つの光学系の視野位置がずれてしまうことを避けることができないという課題がある。
また、(2)その重み関数I(ξ)を変更することは、カメラの設置位置を変更する必要であるため、拡散反射光を測定するためにカメラを一旦設置してしまうと容易ではないという課題がある。
さらに、(3) 軽度な疵と同程度のコントラストを有する無害模様をも過検出してしまい、無害模様を過検出せずに軽度な疵を全て検出することはできないという課題がある。
これらの課題に対処するため、先ず第一の課題に対しては、同一光軸上あるいはその近傍からの測定が必要である。すなわち、拡散反射光を捉えるのでなく、鋼板4の正反射方向あるいはそれから大きく外れない方向からの測定のみで鏡面反射成分と鏡面拡散反射成分との両成分が捉えられることが望ましい。そして、第二の課題に対しては、重み関数I(ξ)をある程度自由度を持って設定できることが望ましい。また、第三の課題に対しては、軽度な疵と無害模様をともに検出したとしても、それらを区別する手段を有することが必要である。
そこで、本発明においては、まず光源として、レーザのような平行光源ではなく拡散特性をもつ線状の光源、すなわち線状拡散光源を用いている。また、鋼板4の正反射方向から鏡面反射成分と鏡面拡散反射成分とを分離して抽出する必要があり、また、同程度のコントラストを有する疵と無害模様の判別をする必要があるので偏光を用いている。
図13は、線状拡散光源の各位置からの各入射光と鋼板上の入射位置との関係を示す図である。線状拡散光源の効果を説明するために、図13(a)(b)に示すように、線状拡散光源14を鋼板4の表面に平行に配置し、光源に垂直な面内にあり、入射角が出射角と一致する方向である鋼板正反射方向から鋼板4上の一点を観察したときの反射特性を考える。
図13(a)に示すように、線状拡散光源14の中央部から照射された入射光8の場合、テンパ部6に入射した入射光8は鏡面的に反射され、鋼板正反射方向で全て捉えられる。一方、非テンパ部7に入射した光は鏡面拡散的に反射され、たまたま鋼板法線方向と同一方向を向いている微小面素13により反射された分のみが捉えられる。このような方向を向いている微小面素13は非常に少ないので、鋼板正反射方向に配設された受光カメラで捉えられる反射光のうちではテンパ部6からの鏡面反射光が支配的である。
これに対し、図13(b)に示すように、線状拡散光源14の中央部以外の位置から照射された入射光8の場合には、テンパ部6に入射した光は鏡面反射して鋼板正反射方向とは異なる方向へ反射する。そのため、鏡面反射した光は鋼板正反射方向では捉えることができない。一方、非テンパ部7に入射した光は鏡面拡散的に反射され、そのうち鋼板正反射方向に反射された分が受光カメラで捉えられる。したがって、鋼板正反射方向に配設された受光カメラで捉えられる反射光は、全て非テンパ部7で反射した鏡面拡散反射光である。
以上2つの場合を併せると、線状拡散光源14の長尺方向全体から照射される全ての入射光8のうち鋼板正反射方向からの観察で捉えられるのは、テンパ部6からの鏡面反射光と非テンパ部7からの鏡面拡散反射光との和である。
次に、鋼板4の正反射方向から線状拡散光源14を使用して観察した場合に、偏光状態がどう変化するかについて、以下に説明を行う。図14は、線状拡散光源の各入射光が偏光されていた場合における反射光の偏光状態を示す図である。
一般に、鏡面状の金属表面での反射においては、電界の方向が入射面に平行な光(p偏光)あるいは入射面に直角な光(s偏光)においては、反射によっても偏光特性は保存される。すなわち、p偏光のまま又はs偏光のまま出射する。また、p偏光成分とs偏光成分とを同時に持つ任意の偏光角を有した直線偏光が反射されると、p、s偏光の反射率比 tanΨ及び位相差Δに応じた楕円偏光となって出射する。
合金化亜鉛メッキ鋼板に線状拡散光源14から光が照射される場合を、図14(a)(b)を用いて説明する。線状拡散光源14の中央部から出射した光は、図14(a)に示すように、鋼板4のテンパ部6で鏡面反射して鋼板正反射方向で観察される。これに関しては上記一般の鏡面状の金属表面での反射がそのまま成立する。
一方、線状拡散光源14の中央部以外の位置から出射した光は、図14(b)に示すように、鋼板4の非テンパ部7の結晶表面の傾いた微小面素13で鏡面反射して鋼板正反射方向で観察される。この場合、鋼板4の入射面に平行なp偏光の光を入射したとしても実際に反射する傾いた微小面素13に対して考えた場合には、入射光の偏光方向は微小面素13の入射面に対して平行ではなく、p、s両偏光成分を持つ直線偏光であるため、楕円偏光となって出射する。線状拡散光源14からs偏光を入射した場合も同様である。
また、線状拡散光源14からp、s両偏光成分を持つ任意の偏光角αの直線偏光が鋼板4に入射した場合、線状拡散光源14の中央部以外の位置から傾いた微小面素13に入射した光は、偏光角αが傾いて作用するため、鋼板正反射方向に出射する楕円偏光の形状は、線状拡散光源14の中央部から入射してテンパ部6で鏡面反射した光とは異なる。
図15は、線状拡散光源の中央部からの各入射光が偏光されていた場合における微小面素からの反射光を示す図である。以下、p,s両成分をもつ直線偏光を線状拡散光源14から鋼板4に入射する場合について詳細に検証する。
まず、図15に示すように、線状拡散光源14からの入射光8を方位角(偏光角α)を有する偏光板15で直線偏光にした後、水平に配置された鋼板4に入射させ、その正反射光あるいは正反射から外れてはいるが鏡面拡散反射光が支配的な受光角における反射光(以下「正反射近傍拡散反射光」と称す)を受光カメラ16で受光する。調質圧延された鋼板の場合、少なくとも正反射から10度ずれる範囲までは、正反射近傍拡散反射ということができる。
正反射光を受光する場合には、前述したように、線状拡散光源14上のC点から出射された入射光8については、鋼板4におけるテンパ部6により鏡面反射された成分、及び、非テンパ部7におけるたまたま法線が鋼板4の鉛直方向を向いた法線角度ξ=0の微小面素13から鏡面拡散反射された成分が鋼板4上のO点から受光カメラ16方向へ反射する光に寄与している。
また、正反射近傍拡散反射光を受光する場合には、テンパ部6からの反射は寄与せず、非テンパ部7におけるたまたま法線角度ξ=η0≡(θ−θ’)/2、の方向を向いた法線角度の微小面素13から鏡面拡散反射された成分が、鋼板4上のO点から受光カメラ16方向へ反射する光に寄与している。
ここで、前者の正反射光の場合は、θ=θ’の特別な場合と考えることができるので、以下、後者の正反射近傍拡散光を受光する場合について議論を展開する。尚、以下の議論は、受光カメラ16の受光角が正反射方向から大きく外れ、完全拡散反射光が支配的になる場合には成立しないことは留意する必要がある。
一方、図16は、線状拡散光源の中央部以外の位置からの各入射光が偏光されていた場合における微小面素からの反射光を示す図である。図16に示すように、線状拡散光源14上の鋼板4のO点から見て角度φだけずれた点Aからの入射光8については、鏡面反射成分は受光カメラ16方向とは異なる方向に反射されるため、微小面素13による鏡面拡散反射成分のみが寄与する。
ここで、入射光8の入射方向を示す角度φと寄与する微小面素13の基準法線角度η0からのずれ量ηとの関係は、入射光8の鋼板4に対する入射角度θを用いて、簡単な幾何学的考察により、(2)式あるいはその変形である(3)式で与えられる。
cos η=[2・ cosθ0・ cos2 (φ/2)] /[sin 2 φ+4・{ cos2 θ0・ cos4(φ/2) +sin 2 θ0・ sin4(φ/2)}]1/2 …(2)
cos η= cosθ0・(1+ cos φ) /[2・(1+ cos 2θ0・ cos φ)]1/2 …(3)
ここで、θ0は、θ0≡θ−η0=(θ+θ’)/2、であり、微小面素13における鏡面拡散反射の実効的な入射角、反射角に相当する。当然のことながら、正反射光を受光する場合は、θ0=θ=θ’となる。また、このときの、φと鉛直方向基準とした場合の微小面素の法線角度ξとの関係は、下式にて与えられる。
cos ξ= cosθ’+cosθ・cos φ /[2・{1+ cos (θ+θ’)・ cos φ}]1/2 …(4)
θ=θ’=θ0の場合には、(4)式は(3)式と一致する。
次に、このようにして反射された光の偏光状態について考える。C点から出射された入射光8が、方位角(偏光角)αの偏光板15を通り、鋼板4上のO点にて鏡面反射された後の偏光状態EC は、偏光光学で一般に用いられるジョーンズ行列を用いて、以下の(5)式で表される。
EC =T・Ein ・・・・・(5)
但し、Einは偏光板15の方位角(偏光角)αの直線偏光ベクトルを示し、Tは鋼板4の反射特性行列を示す。そして、直線偏光ベクトルEin及び反射特性行列Tは、それぞれ(6)、 (7) 式で与えられる。
但し、 tanΨ:p,s偏光の振幅反射率比、 Δ:p,s偏光の反射率の位相差、rS :s偏光の振幅反射率
同様に、線状拡散光源14上のA点から出射した入射光8が、法線角度ξの微小面素13で受光器16方向に反射された光の偏光状態EA は、入射面が偏光板15及び受光カメラ16の検光子17と直交しているとすれば(8) 式で与えられる。但し、Rは回転行列であり、(9) 式で与えられる。
EA =R(η)・T・R(−η)・Ein ・・・・・(8)
(5) 式は、(8) 式において微小面素13の法線角度η0=η=0とした特別の場合であり、正反射光を受光する場合の鏡面反射成分についても鏡面拡散反射成分についても、また、正反射近傍拡散光を受光する場合についても(8) 式を用いて統一的に考えることができる。(8) 式を計算し、法線角度 ηの微小面素13からの反射光の楕円偏光状態を図示すると、図17に示すようになる。
但し、ここで入射偏光の方位角(偏光角)αは45°、入射角θは60°、鋼板4の反射特性としてp,s偏光の振幅反射率比の逆正接Ψ=28゜、p,s偏光の反射率の位相差Δ=120゜とした。図17より、法線角度η=0、すなわち 線状拡散光源14の中央部から照射された入射光の場合の楕円に対して基準法線角度η0からのずれ量ηの値が変化するに従って、楕円が傾いていくのが理解できる。
したがって、例えば受光カメラ16の前に検光子17を挿入し、その検光角βを設定することによって、どの法線角度ξの微小面素13からの反射光をより多く抽出するかを選択することができる。
このことを定量化するために、図16に示すように、(5) 式で表される偏光状態EA の反射光に対して検光角βの検光子17を挿入した後における偏光状態E0 を求めると、(10) 式となる。但し、Aは検光子17を表す行列であり、(11) 式で示される。
E0 =R(β)・A・R(−β)・EA =R(β)・A・R(−β)・R( η)・T・R(− η)・Ein …(10)
次に、上記(10) 式から受光カメラ16で検出する法線角度ξの微小面素13からの反射光の光強度を求める。前述したように、該当微小面素13の面積率をS(ξ)とすると、下記(12)式が成立する。
S(ξ)・|E0 |2 =rS 2 EP (φ)2 ・S(ξ)・I( η,β) ・・・(12)
ここで、(12)式のI( η,β)は、下記(13)式でもとめる。
I( η,β)= tan2 Ψ・ cos2 ( η−α)・ cos2 ( η−β) +2・ tanΨ・ cosΔ・ cos( η−α)・ sin( η−α) × cos( η−β)・ sin( η−β) + sin2 ( η−α)・ sin2 ( η−β) …(13)
上式におけるI( η,β)は、前述したように、基準法線角度 η0からのずれ量ηの微小面素13からの反射光をどの程度抽出できるかを示す重み関数であり、光学系及び被検体の偏光特性に依存する。そして、それに鋼板4の反射率rS 2 、入射光光量EP 2、面積率S(ξ)を乗じて、光源の有効範囲に亘りφに関して積分したものが検出される光強度になる。
表面処理鋼板などのように、鋼板表面の材質が均−な対象を考える場合は反射率rS 2 の値は一定と考えられる。また、入射光光量EP 2(φ)は、入射光量が光源の位置によらず均一ならば同じく一定の値としてよい。
したがって、受光カメラ16が検出する光強度Lを求めるには、法線角度ξの微小面素13の面積率S(η)と重み関数I( η,β)とを考えればよく、すなわち、受光される光強度は(14)式で考えればよい。
L = ∫S(ξ)I(η,β)・dφ・・・(14)
図18は、検光子の検光角を変更した場合における微小面素の基準法線角度からのずれ量と重み関数との関係を示す図である。検光子17の検光角βが−45°、45°及び0°の場合における微小面素13の基準法線角度η0からのずれ量ηと重み関数の例を示す。但し、見やすさのために重み関数の最大値を[1]に規格化してある。また、ここでも、鋼板4の反射特性として、前述した反射率比の逆正接Ψ=28°、位相差Δ=120°を採用し、線状拡散光源14からの入射光8に対する偏光板15の方位角(偏光角)α=45°を採用した。
図18の特性から、β=−45°の場合、基準法線角度 η0からのずれ量η=0°、すなわち鏡面反射成分が最も支配的で、逆に基準法線角度 η0からのずれ量η=±35°付近の微小面素13からの鏡面拡散反射光が最も抽出されないことが理解できる。
また、逆に基準法線角度 η0からのずれ量η=±35°の反射光を最もよく抽出するような検光子17の検光角βを(12)式及び(13)式より求めると、およそβ=45°である。なお、図18の重み関数I(ξ,β)の特性が左右対称でないのは、入射面(微小面素13に対する入射光8と反射光により張られる平面)を基準に考えると、微小面素13の基準法線角度η0からのずれ量ηが正の場合、見かけ上入射光8の偏光の方位角(偏光角)αが小さくなる(p偏光に近づく)ことと、鋼板4のp偏光反射率がs偏光反射率より小さいことによる。さらに、検光子17の検光角β=45°の場合よりも更に大きなηについて感度のあるβ=0°についても図18に示した。
さて、(14)式に戻って考えることとする。積分変数をφ→η→ξと変換して計算することを考えると、ξは正で定義されているから、積分区間を正負で分けて考える必要がある。すなわち、(14)式を以下の(15)式のように変形する。
L = ∫S(ξ)I(η,β)・dφ
= ∫φ>0 S(ξ)I(η,β)・dφ +∫φ<0 S(ξ)I(η,β)・dφ
= ∫φ>0 S(ξ)I(η,β)・dφ +∫φ>0 S(ξ)I(−η,β)・dφ
= ∫φ>0 S(ξ){I(η,β)+I(−η,β)}dφ ・・・(15)
ここで、図18に対応する形で、以下の(16)式を計算すると、図19のようになる。ただし、ここでも最大値を1に規格化してある。ここで、
Is(η,β)=I(η,β)+I(−η,β) (η≧0)・・・(16)
とおき、積分変数をφからξに変換すると、以下の(17)式のように表せる。
L = ∫φ>0 S(ξ)Is(η,β)・(dφ/dη)・(dη/dξ)・dξ・・・(17)
上記(17)式で、限られた範囲においてはdφ/dη≒1と見なせるので、以下の(18)式のように表せる。
L ≒ ∫φ>0 S(ξ)Is(η,β)・(dη/dξ)・dξ ・・・(18)
さらに、正反射光を受光する場合には、η0=0、η=ξであるから、(18)式は、以下の(19)式のように表せる。
L ≒ ∫φ>0 S(ξ)Is(ξ,β)・dξ ・・・(19)
一方、正反射から外れた角度にて受光する場合には、dη/dξを考慮する必要がある。ξとηの関係は、(20)式にて与えられる。
cosξ=cosη0・(1+ cos η)/[2・(1+ cos 2η0・ cos η)]1/2 ・・・(20)
これから計算すると、dη/dξはξ=η0に鋭いピークを持つ関数となる。従って、結果的に(18)式は、S(ξ)からξ=η0付近の微小面素を抜き出して観測することを意味する。
以上、微小面素の角度分布に違いのある疵について議論してきた。次に、鋼板表面に擬似欠陥模様が付着した場合を考える。
擬似欠陥模様は、例えば、油の付着や表面処理工程における金属酸化膜のむら、水切り不良など誘電体質の薄膜状のものが多い。このような薄膜が付着すると、表面が平滑な基板に付着した場合には、エリプソメトリなどで説明されるように薄膜による多重反射の影響でΔがより変化することが知られている。
発明者は、本発明の検査対象にこのような薄膜が付着した場合、以下のようなミクロモデルが成立することを見出した。すなわち、テンパ部や非テンパ部の微小面素の傾きが大きくない範囲では、薄膜が鋼板表面のミクロ形状に倣って付着しており、上記エリプソメトリックな現象が成り立っている。この非テンパ部の微小面素の傾きが大きくない範囲というのは、前述の正反射近傍拡散反射を生ずる微小面素と概ね一致すると考えられる。
逆に、非テンパ部の微小面素の傾きが大きい範囲では、薄膜の表面張力の関係で、微小面素に比して傾きが小さい状況で付着している。その結果、もはやエリプソメトリックな現象は成り立たず、エリプソメトリで記述されるようなΔの変化は期待できない。図20は、検査対象の鋼板におけるテンパ部と非テンパ部における無害模様の付着状況を示す断面模式図である。
従って、正反射あるいは正反射近傍拡散反射においては、無害模様の有無はΔの変化として検出信号に影響を与える。ここで、Δが変化したときの検出信号の変化は、前述の(12)、(18)式より、以下の(21)式で与えられる。
dIs(η,β)/dΔ
=−2・tanΨ・sinΔ・{cos(η−α)・cos(η−β)・sin(η−α)・sin(η−β)
+cos(η+α)・cos(η+β)・sin(η+α)・sin(η+β)}・・・(21)
ここで、入射光は、p及びs偏光いずれも含む偏光であるから、方位角αは0°<α<90°であり、例えばα=45°である。また、正反射または正反射近傍拡散反射で、η=0の面積率が支配的と見なせる場合には、(21)式は以下の(22)式のように書ける。
dIs(η,β)/dΔ
=−4・tanΨ・sinΔ・cosα・cosβ・sinα・sinβ ・・・(22)
ここで、カメラの前の検光子の検光角β=0と設定すると、sinβが0と見なせるため、検出信号の変化はなくなる。すなわち、無害模様は検出できない条件となる。
また、例えば、β=−45°とすると(22)式の右辺は正であるから、無害模様があってΔが減少する際にはIsも減少、すなわち無害模様が付着していない正常部に比べ膜は暗く観察される。逆にβ=45°とすると、(22)式の右辺は負となるから、無害模様があってΔが減少する際にはIsは増加、すなわち無害模様が付着していない正常部に比べ膜は明るく観察される。
これは、3つのカメラの前で使用する検光子の方位角の設定により、各カメラでの見え方(無害模様が明るく見えるか暗く見えるかのパタン)が変わってくるため、模様状ヘゲなどの疵の見え方のパタンと異なる方位角の設定をしておけば、疵と無害模様の弁別が可能になる。
また、別の無害模様として、高い光沢を有する部分が存在する場合がある。図21は、通常部と高光沢部の顕微鏡観察画像を示す図である。焼鈍後に急速冷却による焼入れを行う高張力鋼板などで発生することが多い形状不良により、板形状の凸の部分がロールと擦れて平坦な金属面になって、図21に示すように高光沢部として表れていることによる。
このような金属面は、鏡面反射成分が支配的で、正反射あるいは正反射近傍反射の方向のカメラにより大きな反射光が受光され、排除するのが難しい過検出要因となる。
図24は、無害模様(高光沢)部における微小面素の法線角度と面積率との関係を示す図である。これは、図24に示すような微小面素の法線角度と面積率の関係になるものである。図10(a)のタイプと比較すると、似ているが、それに比べて法線角度ξ=0°の面積率が大きく、広がりが小さいものとなっている。
これを解消するためには、鏡面反射成分を全く受光しない、あるいは、鏡面反射成分の重みを極力小さくする工夫が必要である。そこで、λ/4板(1/4波長板)を使用する。図22は、検光子の前面にλ/4板を挿入し微小面素からの反射光受光を示す図である。図22に示すように、受光カメラ16の検光子17の前面にλ/4板18を挿入する。
図23は、η=0に対応する鏡面拡散反射光の楕円偏光とλ/4板透過後の直線偏光を示す図である。
すなわち、図17における微小面素13の法線角度η=0に対応する鏡面拡散反射光の楕円偏光の長短軸に合わせてλ/4板18を挿入すると、このλ/4板18を透過した光は、p,s偏光の反射率の位相差Δ(−180≦Δ≦180)の正負によって、図23に示すように、入射した楕円偏光を囲む矩形の対角線を示すいずれかの直線偏光に変換される。
そして、その直線偏光に直交するように検光子17の方位角(偏光角)βを設定すれば、鏡面反射成分は完全に遮断される。
それに対して、法線角度η≠0の鏡面拡散反射成分の楕円偏光は長短軸がずれているために、λ/4板18を透過しても形状は変換されるが楕円偏光のままであるから、検光子17を透過する。 このようにして、λ/4板18及び検光子17を用いることによって、正反射光に含まれる鏡面反射成分を遮断し、鏡面拡散反射成分のみを抽出することが可能になる。 従って、鏡面拡散反射成分の違いは、高光沢部と正常部とでほとんどないため、結果的に高光沢部のむらを消すことができる。
ただし、高光沢部の鏡面反射成分が母材部に比べ非常に大きい(法線角度ξ=0の面積率が非常に高い)場合には、それだけではコントラストを抑制できない場合もある。その場合には、正反射位置から少し外した正反射近傍反射位置で受光することにより、鏡面反射成分を予め抑制しておき、その抑制された鏡面反射成分にλ/4板をさらに働かせることにより、コントラストを完全に抑制することが可能になることが、上述したモデルからも理解できる。
λ/4板及び偏光板の角度は、当然のことながら、高光沢部と正常部との性状により左右されるが、いずれにしても高光沢部からの鏡面反射成分を遮断するということであるから、反射光量極小となる条件を探すことにより実現できる。図25に、偏光板が極小の角度条件からずれた場合の高光沢部と正常部の信号の変化を示す。信号が正常部との差「10」の疵を検出しようと思うと、偏光角の許容範囲は±4度(°とも表記する) 以内に調整されていれば、高光沢部のむらは疵信号よりも小さくなることがわかる。図25に示すように、λ/4がずれた場合も同様である。両者がともにずれた場合は、±3度ずつ以内のずれであれば、それぞれのずれによる高光沢部の信号増加が5以内に収まるので、合計10以内に収めることができる。
ここで、各種疵、無害模様が存在した場合の動作について考える。
まず、鋼板4の表面に、図10(a)(b)(c)に示されるような特性のヘゲ部11が存在した場合を考える。まず、図10(b)のように鏡面反射成分のみに違いがある場合を考える。このような疵を正反射位置において検光角β=−45°の検光子17を通して受光したときの光強度は、図10(b)に示す面積率S(ξ)に図18で表される重み関数I(ξ,β)をかけて積分したものに相当するから、母材部12とヘゲ部11との反射光量の違いを大きな信号差として検出することができる。
また、同一疵を正反射位置において、検光角β=45°または、0°の度検光子17を通して受光したときの光強度については、図10(b)に示すように、鏡面拡散反射成分に違いがないため、図18の検光角β=45°または、0°の重み関数I(ξ,β)をかけて積分することを考えると明らかなように、母材部12とヘゲ部11との違いを検出することができないか、検出できてもその信号の差は小さい。
また、同一疵を正反射近傍拡散反射(受光角50°)で、λ/4板と検光子を通して受光したときの光強度については、ξ=0からすこし外れた法線角度で、無害模様(高光沢部)に比べ面積率が高くなっている角度の微小面素からの反射光の違いを検出することができる。ただし、無害模様(高光沢部)と特性が近くなると、信号レベルは小さくなる場合がある。
さらに、図10(c)のように鏡面拡散反射成分のみに違いがある場合には、逆に、検光角β=−45°の検光子17を通したのでは検出できないか、検出できてもその信号の差は小さく、検光角β=45°の度検光子17を通したときに大きな信号差として検出できる。但し、母材部12とヘゲ部11の鏡面拡散反射成分の違いがなくなっている法線角度ξは、図10(c)では法線角度ξ=30°付近であったが、もし、その角度がたまたま0°と30°の間となる疵があると、検光角β=45°の検光子17を通しても検出できないか、検出できてもその信号の差は小さくなる。
その場合は、正反射位置において別の重み関数となるような検光角β(例えば90゜)の検光子17をもうーつ別に用意し、3番目の受光カメラで受光することが考えられる。
しかし、その検光角の重み関数が、検光角β=45°の重み関数I(ξ,45)や、検光角β=−45°の重み関数I(ξ,−45)との重なりが小さくなく、完全に独立した情報は得られない場合もある。また、ξ=0°の重み関数の値が大きくなり、違いがない鏡面反射光ばかり多く拾ってしまって、鏡面拡散反射の違いが捕らえられない場合もある。
この場合は、3番目の受光カメラを正反射近傍拡散反射方向に設置すればよい。例えば、入射光8の入射角θ=60°の場合、正反射光から10°程度ずらした位置、すなわち50°方向の拡散位置に3番目の受光カメラを設置すればよい。さらにλ/4板を挿入して鏡面反射成分を遮断すれば、鏡面拡散反射成分の違いを明確に捉えることができるようになる。ただし、微小面素の角度分布によっては、信号レベルが小さいこともある。
一般に、鋼板4の表面の母材部12とヘゲ部11の反射特性は図10(a)、(b)、(c)のいずれかであるので、ヘゲ部11の見落としをなくするためには、3つの異なる重み関数I(ξ)を用い、対応する3つの法線角度ξの微小面素13からの反射光を抽出して受光するようにすることが必要である。
なお、図10(a)のように鏡面反射成分、鏡面拡散反射成分ともに違いがある場合には、基本的には、例えば−45°と+45°とのいずれの検光子17を通した反射光でも母材部12とヘゲ部11との違いを検出できる。
したがって、本発明では、線状拡散光源14を用い、第1の受光手段で被検査面からの正反射光に含まれる鏡面反射成分と鏡面拡散反射成分のうち、鏡面拡散反射成分に比較して鏡面反射成分をより多く抽出する検光子を通して受光し、第2の受光手段で被検査面からの正反射光に含まれる鏡面反射成分と鏡面拡散反射成分のうち、鏡面反射成分に比較して鏡面拡散反射成分をより多く抽出する検光子を通して、第3の受光手段で被検査面からの正反射近傍拡散反射光を検光子を通して検出している。
よって、図10(a)(b)(c)に示す鋼板4の表面の各反射特性におけるヘゲ部11の存在を母材部12との比較において確実に検出できる。このような光学系により、速度変化に影響されることなく、鏡面反射・鏡面拡散反射それぞれに対応した3つの信号を正反射光を受光するカメラの検光子の方位角を設定することにより、ある程度の柔軟性をもつて得ることが可能になり、顕著な凹凸性を持たない模様状ヘゲ疵を検出もれが生じることなく検出可能な表面疵検査装置及び表面疵検査方法が実現する。また、疵と同様のコントラストを有する無害模様については、3カメラの明暗パタンが疵と無害模様とで異なるため、検出したとしても容易に疵と無害模様を判別できる。ただし、明瞭な疵を対象とする場合であれば、正反射近傍拡散反射を受光するカメラだけで十分な場合もある。
図1は、本発明に係る表面疵検査装置の概略構成例を示す図である。図1(a)は側面図を、図1(b)は上面図をそれぞれ表す。図中、21は鋼板、22は線状拡散光源、23は入射光、24はシリンドリカルレンズ、25は偏光板、26は反射光、27aは第1の受光カメラ、27bは第2の受光カメラ、28は第3の受光カメラ、29aは第1の受光カメラの検光子、29bは第2の受光カメラの検光子、29cは第3の受光カメラの検光子、および40は信号処理部をそれぞれ表す。
本表面疵検査装置は、例えば、製鉄工場における合金化亜鉛メッキ鋼板の品質検査ラインに設置されている。図中の矢印方向に搬送状態の鋼板21の搬送路の上方位置に、この帯状の鋼板21の幅方向に線状拡散光源22が配設されている。この線状拡散光源22は、一部に拡散反射塗料を塗布した透明導光棒の両端から内部へメタルハライド光源の光を投光することによって、幅方向に一様の出射光を得る。
線状拡散光源22の各位置から出射された鋼板21に対する入射光23は、シリンドリカルレンズ24と偏光板25を介して走行状態の鋼板21の全幅に対して例えば60°の入射角θで照射する。偏光板25の方位角(偏光角)αは45°に設定されている。
鋼板21で反射された反射光26は鋼板正反射方向、すなわち鋼板21の法線方向に対して60°方向に配置された第1の受光カメラ27a及び第2の受光カメラ27bに入射する。また、鋼板21の法線方向に対して50°の受光角度方向に第3の受光カメラ28が配設されている。
この第1,第2,第3の受光カメラ27a,27b,28は、各光軸が鋼板21の幅方向に設定されたリニアアレイカメラで構成されている。そして、3台の受光カメラ27a,27b,28の視野のずれは、信号処理部40において補正している。このように各受光カメラ27a,27b,28の光軸が一致、平行もしくは近接していると、この3台の受光カメラ27a,27b,28の各画素は鋼板21幅方向についてはほぼ同一視野サイズで一対一に対応する。このように、光軸が一致、平行もしくは近接した配置をとることにより、パスラインの変動があっても3台の受光カメラの視野は大きくずれることはない。
第1,第2の受光カメラ27a,27bのレンズの前面には、検光角βがそれぞれ−45°、45°に設定された検光子29a,29bが取付けられている。なお、第3の受光カメラ28の前面には検光角βが0°に設定された検光子29cが取り付けられており、鋼板21からの正反射近傍拡散反射光を受光する。ここで、各受光カメラ27a,27b,28として、リニアアレイカメラの代りに2次元CCDカメラを使用することもできる。
また、線状拡散光源22として、蛍光灯を使用することもできる。また、バンドルファイバの出射端を直線上に整列させたファイバ光源を使用することもできる。各ファイバからの出射光は、ファイバのN/Aに対応して充分な広がり角を持つため、これを整列させたファイバ光源は実質的に線状拡散光源となるためである。
各受光カメラ27a,27b,28で受光された反射光26及び拡散反射光における鋼板21の幅方向の1ライン分の各画素毎の光強度はそれぞれ光強度信号a,b,cに変換されて判定処理部としての信号処理部40へ送信される。
図2は、信号処理部の処理ブロック例を示す図である。−45°の検光子29aが組込まれた第1の受光カメラ27a、+45°の検光子29bが組込まれた第2の受光カメラ27b、及び0°の検光子29cが組込まれた受光角が50°に設定された第3の受光カメラ28から入力された各光強度信号a,b,cはそれぞれ平均値間引き部30a,30b,30cへ入力される。
各平均値間引き部30a,30b,30cは、各受光カメラ27a,27b,28のスキャン周期毎に各受光カメラ27a,27b,28から入力される各光強度信号a,b,cを平均し、鋼板21が信号処理における長手方向分解能に相当する距離を移動した場合に、1ライン分の信号を出力する。
このような間引き処理を行うことにより、鋼板21の搬送速度が変化しても信号処理における1ラインの鋼板移動方向の分解能を一定にすることができる。また、スキャン周期毎の各光強度信号a,b,cを平均しているので、信号処理における1ラインの鋼板移動方向の分解能が受光カメラ27a,27b,28の鋼板移動方向の視野サイズよりも十分大きい場合にも、間を細かく測定した平均値を用いることができるので、見落としをなくすことができる。
各平均値間引き部30a,30b,30cで信号処理された各光強度信号a,b,cは次の各前処理部31a,31b,31cへ入力される。各前処理部31a,31b,31bは、1ラインの信号の輝度ムラを補正する。ここでいう輝度ムラには、光学系に起因するムラも鋼板21の反射率に起因するムラも含まれる。また、各前処理部31a,31b,31cは、鋼板21の両側のエッジ位置も検出し、エッジにおける急激な光強度信号a,b,cの変化を疵と誤認識することを防ぐ処理も実施する。各前処理部31a,31b,31cで信号処理された各光強度信号a,b,cは次の各2値化処理部32a,32b,32cへ入力される。
各2値化処理部32a,32b,32cは、各光強度信号a,b,cに含まれる各画素のデータを予め決められたしきい値と比較し、疵候補点を抽出して、次の特徴量算出部33a,33b,33cへ送出する。
特徴量抽出部33a,33b,33cは、一続きとなっている疵候補点をーつの疵候補領域と判定し、例えばスタートアドレス、エンドアドレスなどの位置特徴量や、ピーク値などの濃度特徴量などを算出する。
カメラ間特徴量対応付け部34では、各受光カメラ27a,27b,28に対応する各特徴量抽出部33a,33b,33cにより算出された位置特徴量に基づいて、異なるカメラで検出した同一疵の特徴量の対応付けをする。そして、二次特徴量算出部35では、各カメラ単独の特徴量以外に、各カメラの濃度積算値の符号(+、−、0)の組み合わせである明暗パタンなどの二次特徴量を演算する。さらに、疵種・無害模様判定部36では、二次特徴量算出部35での特徴量により、検査対象としての鋼板21に対する最終的な疵種及びその程度を判定する。
このように、特徴量単位で受光カメラ27a,27b,28相互間の視野ずれの補正を行うので、受光カメラ27a,27b,28相互間の視野を画素単位で調整しておく必要はない。
図1に示す表面疵検査装置を用いた、合金化亜鉛鍍金鋼板の表面疵の測定結果を、図3,図4に示し、その測定結果に基づく判定結果を、表1に示す。測定した各疵は、図10(b)に示すテンパ部6の面積率S(ξ)がヘゲ部11で母材部12より大きいが、非テンパ部7の拡散性は変わらない疵と、図10(c)に示すテンパ部6の面積率S(ξ)にはヘゲ部11と母材部12間に大きな差はないが、例えば微小面素13の法線角度ξが30°付近の拡散性に差がある疵とである。
さらに、図10(c)に示す反射特性を有した疵のうち、前述した入射光23の照射位置の鋼板21の微小面素13の法線角度ξが0°と30°の間、例えば15°である表面疵の測定を実施した。
そして、鋼板21の幅方向の中央部に図10(b)に示すタイプの疵が発生した場合において、−45°、45°に検光子29a,29bの検光角βが設定され受光角が60°(正反射)に設定された第1,第2の受光カメラ27a,27b、及び0°に検光子29cの検光角βが設定され受光角が50°に設定された第3の受光カメラ28を幅方向に1ライン分走査して得られた鋼材21の1幅分の光強度信号a,b,cの変化を図3(a)(b)(c)に示す。
図示するように、−45°に検光角βが設定され受光角が60°(正反射)に設定された第1の受光カメラ27aの光強度信号aに疵(ヘゲ部11)に対応するピーク波形が発生する。この場合、45°に検光角βが設定され受光角が60°(正反射)に設定された第2の受光カメラ27bの光強度信号bには疵(ヘゲ部11)に対応するピーク波形は発生しない。
また、鋼板21の幅方向の中央部に図10(c)に示すタイプの疵(微小面素13の法線角度ξが30°付近)が発生した場合において、−45°、45°に検光子29a,29bの検光角βが設定され受光角が60°(正反射)に設定された第1,第2の受光カメラ27a,27b、及び0°に検光子29cの検光角βが設定され受光角が50°に設定された第3の受光カメラ28を幅方向に1ライン分走査して得られた鋼材21の1幅分の光強度信号a,b,cの変化を、図3(d)(e)(f)に示す。
図示するように、45°に検光角βが設定され受光角が60°(正反射)に設定された第2の受光カメラ27bの光強度信号bに疵(ヘゲ部11)に対応するピーク波形が発生する。この場合、−45°に検光角βが設定された第1の受光カメラ27aの光強度信号aには疵(ヘゲ部11)に対応するピーク波形は発生しない。
さらに、図10(c)に示す反射特性を有した疵のうち、前述した入射光23の照射位置の鋼板21の微小面素13の法線角度ξが0°と30°の間、例えば15°である表面疵が発生した場合において、−45°、45°に検光子29a,29bの検光角βが設定され受光角が60°(正反射)に設定された第1,第2の受光カメラ27a,27b、及び0°に検光子29cの検光角βが設定され受光角が50°に設定された第3の受光カメラ28を幅方向に1ライン分走査して得られた鋼材21の1幅分の光強度信号a,b,cの変化を図4(a)(b)(c)に示す。
図示するように、受光角が50°に設定された第3の受光カメラ28の光強度信号cに疵(ヘゲ部11)に対応するピーク波形が発生する。この場合、−45°、45°に検光角βが設定された第1,第2の受光カメラ27a,27bの各光強度信号a,bには疵(ヘゲ部11)に対応する顕著なピーク波形は発生しない。
また、無害模様が発生した場合において、−45°、45°に検光子29a,29bの検光角βが設定された第1,第2の受光カメラ27a,27b、及び0°に検光子29cの検光角βが設定され受光角が50°に設定された第3の受光カメラ28を幅方向に1ライン分走査して得られた鋼材21の1幅分の光強度信号a,b,cの変化を、図5(a)(b)(c)に示す。
図示するように、λ/4板と検光子29cの検光角βが鏡面反射成分を遮断する角度に設定され受光角が50°に設定された第3の受光カメラでは無害模様に対応する顕著なピーク波形は発生しないが、検光角が−45°に設定され受光角が60°(正反射)に設定された第1のカメラ、および、検光角が45°に設定され受光角が60°(正反射)に設定された第2のカメラでは無害模様に対応する正のピーク波形が発生する。
表1に検出状況をまとめる。また、本実施例にて検出した状況に対応する明暗パタン特徴量も記した。この特徴量は、例えば、正として検出を2、負として検出を1、検出せずを0と3進数にて表現し、各カメラを各ビットに並べたものである。
この特徴量は、例えば、検出した場合の信号レベルを予め設定された閾値で高低にわけ(下表の○、△に対応)、正負それぞれに設定することにより、検出状況を5進で表すことにより詳細な明暗パタン特徴量を設け、より細かな疵種・無害模様の判別に用いることもできる。
なお、比較のため、従来例で、入射角60°で光を入射し、正反射方向(60°)と入射方向から30°ずれた受光角(−30゜)方向から無偏光で測定した結果も同時に記載した。
従来例では、2つの受光角で受光しノイズ除去のために論理和をとっているが、これらの疵については、2つの受光角を同時に検出することは不可能である。さらに言うと、どちらの受光角でも検出できない疵も存在する。また、無害模様も検出してしまい、過検出を避けることはできない。
それに対し、本発明の実施形態では、3つの異なる受光角に対応する反射光成分を、検光角βが異なる値に設定された2つの検光子29a,29bを用い、かつ受光角を鏡面反射方向とは異なる値に設定しているから、第1,第2,第3の受光カメラ27a,27b,28のうちのいずれかでヘゲ部11を母材部12に対して区別して検出することが可能である。また、検出する必要がある疵の反射特性に合わせて、無害模様を判別できる条件内にて検光角βを最適値に設定することも容易である。