<吸音体>
図1は、本発明の好ましい第1の例の吸音体1を模式的に示す図である。本発明の吸音体1は、少なくとも2つの主面A(A1,A2)を備える吸音体本体2と、前記主面A1,A2の少なくともいずれか(図1に示す例では両方の主面A1,A2)を覆う反射体3とを備え、前記吸音体本体2が前記反射体3で覆われていない部分(図1に示す例では4つの側面B)を有することを特徴とする。ここで、図1に示す例では、吸音体本体が平板状に実現された例を示しており、この場合、「主面」は、厚み方向に垂直な対向する2つの面積の大きな面を指す。本発明における吸音体本体は平板状に限らず、様々な立体形状で実現することが可能であるが、「主面」とは、その立体形状で形成される複数の面(平面または曲面)のうち、1番面積の大きい面を少なくとも指し、場合によっては1番面積の大きい面と2番目に面積の大きい面を指す。主面が1番面積の大きい面と2番目に面積の大きい面を指す場合とは、たとえば後述する図2(f)に示すような断面台形状のように、他の面よりも大幅に面積が大きい、1番面積の大きい面と2番目に面積の大きい面とが対向している場合などが該当する。
ここで、図2は、本発明における「主面」について説明するための図であり、様々な立体形状が模式的に示されている。以下、図2に示す各例を挙げて、本発明における「主面」が何を指しているかについて説明する。
たとえば図2(a)に示す例のように、平板状ではあるが、図1に示した例とは異なり、図面の紙面に関して上下方向に立ったような配置であっても、主面Aは、厚み方向に対し垂直に対向した2つの面積の大きな平面となる(この場合には、1番大きな面積を有する面が2つある)。本発明では、このような主面Aに対し、それ以外の面を「側面B」と呼称する。図2(a)に示す例は、2つの主面A以外に、4つの側面Bを有する形状である。
たとえば図2(b)には円柱状、図2(c)は円板状の場合をそれぞれ示している。円柱状の場合、軸線方向に沿った長さにもよるが、軸線方向に対し垂直な円状の各面よりも、周壁の曲面の方が面積が大きい場合、その曲面が「主面A」となり、軸線方向に対し垂直な円状な面が「側面B」となる(1つの主面Aと2つの側面Bを有する)。これに対し、図2(c)に示す円板状の場合には、軸線方向に対し垂直な円状の2面が周壁の曲面よりも面積が大きい場合には、前記円状の2面が「主面A」、前記曲面が「側面B」となる(2つの主面Aと2つの側面Bを有する)。
また図2(d)には四角柱状(直方体状)の場合を示している。四角柱状の場合、長手方向における長さにもよるが、長手方向に対し垂直な四角形状の2つの面よりも、長手方向に沿った四角形状の4つの各面の方が面積が大きい場合、この面積の大きな4つの面(同じ面積とする)が「主面A」となり、長手方向に対し垂直な四角形状の2つの面が「側面B」となる(4つの主面Aと2つの側面Bを有する)。勿論、図2(b)に示した円柱状と図2(c)に示した円板状との関係と同様に、長手方向に対し垂直な四角形状の2つの面が、長手方向に沿った四角形状の4つの各面よりも面積が大きい場合には、長手方向に対し垂直な四角形状の2つの面が「主面A」となり、長手方向に沿った四角形状の4つの各面が「側面B」となる(2つの主面Aと4つの側面Bを有する)。
また図2(e)には三角柱状の場合を示している。三角柱状の場合でも、長手方向における長さにもよるが、長手方向に対し垂直な三角形状の2つの面よりも、長手方向に沿った四角形状の3つの各面の方が面積が大きい場合、この面積の大きな3つの面(同じ面積とする)が「主面A」となり、長手方向に対し垂直な三角形状の2つの面が「側面B」となる(3つの主面Aと2つの側面Bを有する)(図2(e)の例)。勿論、図2(b)に示した円柱状と図2(c)に示した円板状との関係と同様に、長手方向に対し垂直な三角形状の2つの面の面積が、長手方向に沿った四角形状の3つの各面の面積よりも大きい場合には、長手方向に対し垂直な三角形状の2つの面が「主面A」となり、長手方向に沿った四角形状の3つの各面が「側面B」となる。なお、三角柱状の場合の2つの三角形状の面は、正三角形状でも二等辺三角形状でもよく、特に制限されるものではない。前記2つの三角形状の面が二等辺三角形状である場合には、長さが等しい2つの辺をそれぞれ含む、長手方向に沿った四角形状の2つの面(これらの面は同じ面積となる)と、長さが異なる1つの辺を含む長手方向に沿った四角形状の1つの面とで面積が異なることになる。二等辺三角形状の2つの面よりも、四角形状の3つの面の方が面積が大きい場合、長さが等しい2つの辺をそれぞれ含む、長手方向に沿った四角形状の2つの面が主面Aとなる場合、長さが異なる1つの辺を含む長手方向に沿った四角形状の1つの面が主面Aとなる場合がそれぞれ考えられる。
さらに、図2(f)に示すような断面台形状の場合(大きさの異なる2つの平面と、それ以外の4つ斜面を備える)、1番目に面積の大きな面(図2(f)の例では下面)と2番面に面積の大きな面(図2(f)の例では上面)を「主面A」とし、それ以外の4つの傾斜面を「側面B」としてもよい(2つの主面Aと4つの側面Bを有する)。この場合が、上述した、「主面」が1番面積の大きい面と2番目に面積の大きい面を指す場合に該当する。なお、図2(f)に示す例が、図面の紙面に関して上下方向が逆になった形状、すなわち、上面が1番目に面積の大きな面であり、下面が2番目に面積の大きな面であってもよい。また、断面台形状の場合でも、大きさの異なる対向する2つの平面が必ずしも主面Aとなる訳ではなく、2つの平面のうちの一方が4つの斜面の少なくともいずれかよりも面積が小さく、かつ、2つの平面のうちの他方が1番目に面積が大きい場合には、主面Aは1つのみとなる。また、2つの平面よりも4つの斜面の少なくともいずれかの方が面積が大きい場合には、面積の1番大きな斜面が主面Aとなる。
なお、本発明の吸音体の形状は、「主面A」と「側面B」とを面積の大きさで区別可能な少なくとも2つの面を有することが必要である。たとえば、6つの面の全てが同じ面積である立方体状(図2(g))、球状(図2(h))などは本発明の吸音体の形状には包含されないものとする。
本発明の吸音体1は、上述のような吸音体本体2の主面Aの少なくともいずれかを反射体3で覆う。図1には、平板状の吸音体本体2の2つの主面A(A1,A2)(上下面)を反射体3でそれぞれ覆った場合を示している。反射体3は、音波を反射できるものであれば従来公知の適宜のものを特に制限なく用いることができ、たとえば図1に示す例のように平板状(またはシート状)の反射体3の場合、各種の無機系面材、有機系面材を使用できる。
無機系面材としては、たとえば、石膏ボード、珪酸カルシウム板、ガラス板、金属板(たとえば、アルミニウム板、ステンレススチール、鋼板など)などが挙げられる。
有機系面材としては、たとえば、木質系ボード(たとえば、天然木、無垢材、合板(積層木質ボード)、木質繊維ボード(中密度繊維板MDF、パーティクルボード、配向性ストランドボード、インシュレーションボードなど)など)、合成樹脂板(たとえば、ポリエチレン板、ポリプロピレン板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニル樹脂板(塩ビ樹脂板)、ポリメタクリル酸メチル板(アクリル樹脂板)、ポリエステル板、ポリカーボネート樹脂板、ポリアミド樹脂板など)、通気性のない紙などが挙げられる。
さらに、塩ビ鋼板(ポリ塩化ビニル被覆金属板)などの無機系と有機系との複合系または積層系板材であってもよい。
反射体3は、その厚みに特に制限はないが、0.01〜20mmの範囲内であることが好ましく、0.1〜12mmの範囲内であることがより好ましい。反射体3の厚みが0.01mm未満である場合には、反射体が音のエネルギーを吸収し、反射体としての効果が小さくなる傾向にあるためであり、また、反射体3の厚みが20mmを超える場合には、吸音体が厚くなり壁面などに設置するのに不具合がでたり、軽量性が低下する傾向にあるためである。
本発明の吸音体1は、吸音体本体2の反射体3で覆われていない部分(図1に示す例では、4つの側面B)を有する。このように本発明の吸音体1は、吸音体本体2の側面の少なくとも一部(および場合によっては反射体で覆われていない主面)が開放されており、この開放された、反射体3で覆われていない部分を吸音部とする。このように、吸音体本体を形成する複数の面のうち、面積の比較的大きな主面Aの少なくともいずれかを反射体で覆い、残りの面を吸音部として用いることで、吸音に関与しない主面を覆う反射体については自由にレイアウトすることができ(たとえば絵画を架ける、写真、絵画などを印刷できる、化粧合板を使用できる、布、壁紙などを貼るなど)、吸音体の意匠性を改善することができる。また、面積の比較的大きな主面Aの少なくともいずれかを吸音に用いないため、主面を吸音に用いていた従来と比較すると、設置の自由度が増し、空間をうまく利用して設置することが可能となる。さらに、後述する実施例にて立証されるように、本発明では、面積の比較的大きな主面Aの少なくともいずれかを吸音に用いず、かつ、反射体3で覆われた主面A(図1に示す例では2つの主面A1,A2)以外を吸音部として用いることで、従来は困難であるとされていた1000Hz以下の低周波数領域での吸音にも優れる吸音体を提供することができる。
本発明の吸音体1は、吸音体本体2の前記反射体3で覆われていない部分の面積が、前記反射体で覆われた部分の面積よりも小さいことが、好ましい。これにより、1000Hz以下の低周波数領域での吸音効果をさらに改善できる。図1に示す例では、吸音体本体2の2つの主面A1,A2を反射体3が覆っており、この2つの主面A1,A2を覆う反射体3の面積の合計は、反射体3で覆われていない4つの側面Bの面積の合計よりも大きいことになる。すなわち、図1に示す例では、吸音体本体2の前記反射体3で覆われていない部分の面積が、前記反射体で覆われた部分の面積よりも小さい場合に該当する。これに対し、後述する図7に示す例の吸音体51の場合、平板状の吸音体本体2の2つの主面A1,A2のうち一方の主面A1のみを反射体3で覆っており、この場合は、他方の主面A2と4つの側面Bとが反射体で覆われていないため、吸音体本体2の前記反射体3で覆われていない部分の面積が、前記反射体で覆われた部分の面積よりも小さい場合には該当しない。
本発明における吸音体本体2は、図1に示す例のように平板状であり、少なくとも主面Aの一方が反射体で覆われていることが好ましい。吸音体本体が平板状であることで、製造が容易であり、平板状の反射体を用いればその主面Aの少なくともいずれかを容易に覆うことができ、さらには、反射体を良好なインテリアなどを構成する意匠部材とすることができる。また、壁以外でも使用でき、家具の隙間、本棚の隙間、など設置場所が多様に選択できる。
また、本発明における吸音体本体2は、多孔質体を含むことが好ましい。多孔質体としては、多数の孔を有するものであればよく、不織繊維構造体、ハニカム構造体、グラスウール、ロックウール、連続気泡の樹脂発泡体、金属、樹脂などの粒子の集合体などを単独または複数組み合わせて用いることができる。図1に示す例では、吸音体本体2は、平板状のハニカム構造体5が、平板状の不織繊維構造体4で挟まれた三層構造の多孔質体で実現された例が示されている。
不織繊維構造体4は、吸音性と軽量性と形態保持性とを両立できる点から、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定されたものであり、前記湿熱接着性繊維を含むウェブに高温水蒸気を作用させて、湿熱接着性繊維の融点以下の温度で接着作用を発現し、繊維同士を部分的に接着させることにより得られる。この不織繊維構造体は、繊維構造に特有の高い吸音断熱性、衝撃吸収性を有するとともに、不織繊維構造を構成する繊維の配列と、この繊維同士の接着状態を調整することにより、通常の不織布では得られない曲げ挙動と軽量性とを両立し、さらに折れ難く、形態保持性も確保できる。
湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂で構成されている。湿熱接着性樹脂は、高温水蒸気によって容易に実現可能な温度において、流動又は容易に変形して接着機能を発現可能であればよい。具体的には、熱水(たとえば、80〜120℃、特に95〜100℃程度)で軟化して自己接着または他の繊維に接着可能な熱可塑性樹脂、たとえば、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系重合体、ポリ乳酸などのポリ乳酸系樹脂、(メタ)アクリルアミド単位を含む(メタ)アクリル系共重合体などが挙げられる。さらに、高温水蒸気により容易に流動又は変形して接着可能なエラストマー(たとえば、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマーなど)などであってもよい。これらの湿熱接着性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、特に、エチレンやプロピレンなどのα−C2−10オレフィン単位を含むビニルアルコール系重合体、特に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が好ましい。
エチレン−ビニルアルコール系共重合体において、エチレン単位の含有量(共重合割合)は、特に制限されないが、たとえば5〜65モル%、好ましくは10〜65モル%、より好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは30〜50モル%程度である。ビニルアルコール単位のケン化度は、特に制限されないが、たとえば90〜99.99モル%であり、好ましくは95〜99.98モル%、さらに好ましくは96〜99.97モル%である。粘度平均重合度は、必要に応じて選択できるが、たとえば200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500である。
湿熱接着性繊維の断面形状(繊維の長手方向に垂直な断面形状)は、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面(偏平状、楕円状、多角形状など)に限定されず、中空断面状などであってもよい。湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂を含む複数の樹脂で形成された複合繊維であってもよい。複合繊維は、湿熱接着性樹脂を少なくとも繊維表面の一部に有していればよいが、接着性の点から、繊維表面において長手方向に連続する湿熱接着性樹脂を有するのが好ましい。湿熱接着性樹脂の被覆率は、特に制限されないが、たとえば50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
湿熱接着性樹脂が表面を占める複合繊維の横断面構造としては、たとえば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型または多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型などが挙げられる。これらの横断面構造のうち、湿熱接着性樹脂が繊維の全表面を被覆する構造である芯鞘型構造(すなわち、鞘部が湿熱接着性樹脂で構成された芯鞘型構造)が好ましい。芯鞘型構造は、他の繊維形成性重合体で構成された繊維の表面に湿熱接着性樹脂をコーティングした繊維であってもよい。
複合繊維の場合、湿熱接着性樹脂同士を組み合わせてもよいが、非湿熱接着性樹脂と組み合わせてもよい。非湿熱接着性樹脂としては、非水溶性または疎水性樹脂、たとえば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの非湿熱接着性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
これらの非湿熱接着性樹脂のうち、耐熱性及び寸法安定性の点から、融点が湿熱接着性樹脂(特にエチレン−ビニルアルコール系共重合体)よりも高い樹脂、たとえば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂としては、特開2010−163778号公報、特開2010−229809号公報などに記載の樹脂が好適に利用できる。
湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂(繊維形成性重合体)とで構成された複合繊維の場合、両者の割合(質量比)は、構造(例えば、芯鞘型構造)に応じて選択でき、特に制限されないが、たとえば湿熱接着性樹脂/非湿熱接着性樹脂=90/10〜10/90、好ましくは80/20〜15/85、さらに好ましくは60/40〜20/80である。
湿熱接着性繊維の平均繊度は、特に制限されないが、たとえば0.01〜100dtexの範囲から選択でき、好ましくは0.1〜50dtex、さらに好ましくは0.5〜30dtex、特に好ましくは1〜10dtexである。平均繊維長についても特に制限されないが、たとえば10〜100mmの範囲から選択でき、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは25〜75mmである。
湿熱接着性繊維の捲縮率は、特に制限されないが、たとえば1〜50%、好ましくは3〜40%、さらに好ましくは5〜30%である。また、捲縮数についても特に制限されないが、たとえば1〜100個/25mm、好ましくは5〜50個/25mm、さらに好ましくは10〜30個/25mmである。
不織繊維構造体は、前記湿熱接着性繊維に加えて、さらに非湿熱接着性繊維を含んでいてもよい。非湿熱接着性繊維としては、前記複合繊維を構成する非湿熱接着性樹脂で構成された繊維の他、セルロース系繊維(たとえば、レーヨン繊維、テンセル繊維、アセテート繊維など)、無機繊維(たとえば、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維など)などが挙げられる。これらの非湿熱接着性繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの非湿熱接着性繊維は、目的の特性に応じて選択でき、レーヨンなどの半合成繊維と組み合わせると、相対的に高密度で機械的特性の高い繊維構造体が得られる一方、ポリエステル系繊維やポリアミド系繊維などの疎水性繊維と組み合わせると、繊維間の空隙が増大し、かつ融着せずに自由に振動可能な繊維が増加するため、吸音性を向上できる。さらに、非湿熱接着性繊維は、熱収縮率(または熱膨張率)の異なる複数の樹脂で相構造が形成された複合繊維(潜在捲縮性複合繊維)、たとえば、特開2010−84284号公報に記載の捲縮繊維などであってもよい。これらの非湿熱接着性繊維の平均繊度及び平均繊維長は、湿熱接着性繊維と同様である。
湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維との割合(質量比)は、特に制限されないが、湿熱接着性繊維/非湿熱接着性繊維=100/0〜0/100、好ましくは100/0〜50/50、さらに好ましくは100/0〜70/30である。
不織繊維構造体(または繊維)は、さらに、慣用の添加剤、たとえば、特開2010−163778号公報などに記載の添加剤(たとえば、難燃剤など)が、構造体表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
不織繊維構造体(成形体)は、前記繊維で構成されたウェブから得られる不織繊維構造を有しており、その形状はシート状または板状である。平面形状は特に限定されず、断面円形又は楕円形状、各種の多角形状などであってもよい。
不織繊維構造体において、繊維構造を有しながら、吸音性と軽量(低密度)性とをバランスよく備えた不織繊維構造を有するためには、前記不織繊維のウェブを構成する繊維の配列状態及び接着状態が適度に調整されている必要がある。
具体的には、繊維が概ね繊維ウェブ面に対し平行に配列し、局部的に多数の繊維が厚み方向に沿って配列している部分が繰り返し存在するようなことがない状態が好ましい。より具体的には、構造体の繊維ウェブにおける任意の断面を顕微鏡観察した際に、繊維ウェブでの厚さの30%以上に亘り、厚み方向に連続して延びる繊維の存在割合(本数割合)が、その断面における全繊維に対して10%以下(特に5%以下)であってもよい。
さらに、不織繊維構造を構成する繊維が前記湿熱接着性繊維の融着による繊維接着率は、特に制限されないが、たとえば1〜85%、好ましくは2〜50%、さらに好ましくは5〜35%である。この繊維接着率は、不織繊維断面における全繊維の断面数に対して、2本以上接着した繊維の断面数の割合を示す。したがって、繊維接着率が低いことは、複数の繊維同士が融着する割合(集束して融着した繊維の割合)が少ないことを意味する。
本発明における不織繊維構造体は、厚み方向で均一に繊維が接着しているのが好ましく、たとえば、板状不織繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも前記範囲にあるのが好ましい。さらに、各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)(繊維接着率が最大の領域に対する最小の領域の比率)が、たとえば50%以上、好ましくは55〜99%、さらに好ましくは60〜98%である。繊維接着率が、厚み方向において、このような均一性を有していることで、繊維の接着面積が低いにも拘わらず、硬さや曲げ強度、耐折性や靱性も優れた不織繊維構造体が得られる。さらに、繊維の接着面積が低いため、自由に振動可能な繊維が多く、優れた振動吸収性を有している。
繊維接着率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織繊維構造体の断面を拡大した写真を撮影し、所定の領域において、接着した繊維断面の数に基づいて簡便に測定できる。しかし、束状に繊維が融着している場合には、各繊維が束状に又は交点で融着しているため、特に密度が高い場合には、繊維単体として観察することが困難になり易い。この場合、たとえば、繊維構造体が湿熱接着性繊維で構成された鞘部と繊維形成性重合体で構成された芯部とで形成された芯鞘型複合繊維で接着されている場合には、融解や洗浄除去などの手段で接着部の融着を解除し、解除前の切断面と比較することにより繊維接着率を測定できる。
不織繊維構造体は、靱性及び曲げ応力が高く、JIS K7017「繊維強化プラスチック−曲げ特性の求め方」に準じた方法において、少なくとも一方向(好ましくは全ての方向)における最大曲げ応力が、たとえば0.05MPa以上であり、好ましくは0.1〜30MPa、さらに好ましくは0.15〜20MPaであってもよい。さらに、最大曲げ応力を示す曲げ量の1.5倍の変位まで曲げた時の応力(1.5倍変位応力)は、最大曲げ応力(ピーク応力値)の1/10以上を維持しており、好ましくは3/10以上、さらに好ましくは5/10以上であってもよい。
不織繊維構造体は、不織繊維構造を有しているため、繊維間に生ずる空隙を有しているため、高い軽量性を有している。さらに、これらの空隙は、独立した空隙ではなく連続しているため、通気性も有している。
不織繊維構造体の密度は、吸音性を確保できれば特に限定されず、たとえば、0.05〜0.5g/cm3の範囲から選択でき、吸音性および剛性を向上できる点からは大きい方が好ましいが、軽量性とのバランスに優れる点から、たとえば0.07〜0.4g/cm3、好ましくは0.08〜0.3g/cm3、さらに好ましくは0.1〜0.2g/cm3である。見かけ密度が低すぎると、吸音性が低下するとともに、剛性も低下し、逆に高すぎると、軽量性が低下する。目付は、特に制限されないが、たとえば50〜10000g/m2、好ましくは100〜8000g/m2、さらに好ましくは200〜6000g/m2であってもよい。
フラジール形法による通気度は、特に制限されないが、0.1cm3/(cm2・秒)以上、好ましくは1〜250cm3/(cm2・秒)、さらに好ましくは5〜200cm3/(cm2・秒)である。
上述のような不織繊維構造体を製造するには、まず、前記湿熱接着性繊維を含む繊維をウェブ化する。ウェブの形成方法としては、慣用の方法、たとえば、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、たとえば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。
次に、得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、次いで過熱または高温蒸気(高圧スチーム)流に晒されることにより、不織繊維構造を有する構造体が得られる。すなわち、ベルトコンベアで運搬された繊維ウェブは、蒸気噴射装置のノズルから噴出される高速高温水蒸気流の中を通過する際、吹き付けられた高温水蒸気により繊維同士が三次元的に接着される。特に、本発明における繊維ウェブは通気性を有しているため、高温水蒸気が内部にまで浸透し、略均一な融着状態を有する構造体を得ることができる。
不織繊維構造体は、具体的には、温度70〜150℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜110℃の高温水蒸気を、前記繊維ウェブに対して圧力0.1MPa以上、好ましくは0.2〜1.5MPa、さらに好ましくは0.3〜1MPa、処理速度200m/分以下、好ましくは0.1〜100m/分、さらに好ましくは1〜50m/分で噴射する方法により得られるが、詳細な製造方法については、国際公開第2007/116676号や国際公開第2009/28564号に記載の製造方法を利用できる。
得られた不織繊維構造体は、板状またはシート状成形体として得られ、切断加工などにより所望の大きさや形状に加工されるが、必要に応じて慣用の熱成形により二次成形してもよい。
不織繊維構造体4は、その厚みについては特に制限されないが、図1に示す例のように、ハニカム構造体5を挟み込む場合、それぞれ1〜50mmの範囲内であることが好ましく、5〜20mmの範囲内であることがより好ましい。不織繊維構造体4の厚みが1mm未満である場合には、吸音性が低下し、吸音体としての剛性も低下する傾向にあるためであり、また、厚みが50mmを超えると、取り扱い性、施工性が低下し、壁材として使用する際、他の材料との厚み調整が困難となり、省スペース化を実現できないという傾向にあるためである。
本発明の吸音体1は、吸音体本体2が不織繊維構造体4を含む場合、吸音体本体2の反射体3で覆われていない部分において、不織繊維構造体4を構成する繊維の繊維長手方向に対する断面が露出していることが好ましい。たとえば図1に示す例の場合、反射体3で覆われていない平板状の吸音体本体2の4つの側面Bのうち、対向する2つの側面のいずれかが、不織繊維構造体4を構成する繊維の繊維長手方向に対する断面を露出させる。これにより、当該断面を露出させた吸音部の表面では、音を繊維間で減衰させるようにも作用させることができ、吸音効果をより高めることができる。
本発明の吸音体1における吸音体本体2は、図1に示す例のように、ハニカム構造体を積層の一部に含む積層体であることが好ましい。ハニカム構造体5は、セル構造による空間を有する構造体であれば特に制限されず、通常、複数のまたは連続した薄片状または細幅状シートにより、互いに独立した複数のセルが網目状または格子状に形成された板状(またはシート状)構造体である。
ハニカム構造体の材質としては、軽量化の観点から、比重の小さい材質、たとえば、紙類、合成樹脂、軽量金属材料、セラミックス類などが利用できる。これらの材質のうち、軽量で安価な点から、紙類が好ましい。紙類としては、たとえば、ダンボール原紙、紙器用板紙、印刷・情報用紙などが利用できる。難燃性が要求される場合には、水酸化アルミニウムの含浸などにより難燃処理を施した紙、アルミニウムなどの金属箔が積層された紙などが特に適している。
ハニカム構造体を構成する薄片状シートの厚みは、軽量性およびセル内に大きな空間を確保するとともに、構造パネルとしての強度を確保する点から、たとえば0.01〜5mm、好ましくは0.02〜3mm、さらに好ましくは0.03〜2mm、特に好ましくは0.05〜1.5mmである。
ハニカム構造を形成するセルの形状は、いわゆるハニカム形状(六角形状)に限定されず、三角形状、格子状(正方形状、長方形状、菱形状、平行四辺形状などの四角形状)、五角形状、円形状、楕円形状、波形状などであってもよい。波形状としては、互いに平行な平板状シートとの間に、波形状シートが頂部で接触又は接着した形状(平板状シートと波形状シートとが交互に積層した形状)、互いに平行な平板状シートとの間に、複数の波形状シートが頂部で接触又は接着した形状であってもよい。さらに、これらの形状は、連続したシートを折り返して形成して形状であってもよい。
各セルの平均径は、吸音域、吸音性、強度などのバランスの点から、たとえば、1〜100mm、好ましくは3〜80mm、さらに好ましくは5〜60mm、特に好ましくは10〜50mmである。たとえば、用途に応じて、セル径が5mm、10mm、20mm、30mmなどの汎用サイズを利用できる。なお、本発明におけるセルの平均径とは、形状に応じて算出され、異方形状の場合における長径と短径との平均値を意味する。具体的には、正六角形の場合には対向する辺の最短距離が平均径となり、正方形の場合には各辺の長さがそのまま平均径となり、長方形の場合には長辺と短辺との平均値が平均径となり、波形の場合には、波の頂部の高さと底部の長さとの平均値が平均径となる。
ハニカム構造体の厚み(セルの高さ)は、吸音性を確保できればよく、吸音性の点からは厚みが大きい方が好ましく、例えば、平均厚みが5mm以上であってもよい。さらに、ハニカム構造体の平均厚みは、吸音性と取り扱い性や施工性とのバランスの点から、たとえば5〜50mm、好ましくは8〜40mm、さらに好ましくは10〜30mm、特に好ましくは15〜25mmである。ハニカム構造体の厚みが小さすぎると、吸音性が低下し、剛性も低下する虞がある。一方、ハニカム構造体の厚みが大きすぎると、取り扱い性や施工性などが低下する虞がある。
ハニカム構造体は、市販品を用いても勿論よい。ハニカム構造体の市販品の具体例としては、ナゴヤ芯材工業(株)製「ニューダイスコア」、「E段コアシリーズ」、「ハニカムコアシリーズ」、「水酸化アルミコア」、「NBコア」などを挙げることができる。
また、本発明における吸音体本体2が積層構造を含む場合(ハニカム構造体を積層の一部に含む構成に限定されない)、吸音体本体の前記反射体で覆われていない部分において、積層構造の断面が露出していることが好ましい。たとえば、図1に示す例では、4つの側面Bにおいて、不織繊維構造体に挟まれた多孔質体による積層構造の断面が露出するように構成されている。これによって、様々な吸音構造を吸音部において露出させることができ、吸音効果をより高めることができる。
図3は、本発明の好ましい第2の例の吸音体11を模式的に示す図である。図3に示す例の吸音体11は、一部を除いては図1に示した例の吸音体1と同様であり、同様の部分には同一の参照符を付して説明を省略する。図3に示す例では、平板状の吸音体本体の2つの主面A(A1,A2)をそれぞれ覆う反射体3に加え、側面Bの一部を覆う反射体12をさらに備える。このように、主面Aの少なくともいずれかに加えて、側面Bの一部を反射体12で覆うようにしてもよい。反射体12の好ましい材質、厚みなどについては反射体3について上述したのと同様である。
図4は、本発明の好ましい第3の例の吸音体21を模式的に示す図である。図4に示す例の吸音体21は、一部を除いては図1に示した例の吸音体と同様であり、同様の部分には同一の参照符を付して説明を省略する。図4に示す例の吸音体21では、吸音体本体22が、3層の不織繊維構造体4の積層体で構成されている。このように、不織繊維構造体のみで吸音体本体22が構成されていても勿論よい。
図5は、本発明の好ましい第4の例の吸音体31を模式的に示す図である。図5に示す例の吸音体31は、一部を除いては図1に示した例の吸音体と同様であり、同様の部分には同一の参照符を付して説明を省略する。図5に示す例の吸音体31では、吸音体本体32が、3層の多孔質体の積層体で構成されている。多孔質体は、たとえば、ハニカム構造体33としてダンボールが好適に用いられる。このように、多孔質体のみで吸音体本体32が構成されていても勿論よい。また、図5に示す例では、平板状の吸音体本体32の2つの主面A1,A2をそれぞれ覆う反射体3に加え、側面Bの一部を覆う反射体34(構造を分かりやすく示すため、図5においては、正面側に配置される反射体34の端部を切り欠いて示している)をさらに備える。
図6は、本発明の好ましい第5の例の吸音体41を模式的に示す図である。図6に示す例の吸音体41は、一部を除いては図1に示した例の吸音体と同様であり、同様の部分には同一の参照符を付して説明を省略する。図6に示す例では、吸音体本体42が、2層の多孔質体の積層体で構成されている。多孔質体は、たとえば、ハニカム構造体43としてダンボールが好適に用いられる。
図7は、本発明の好ましい第6の例の吸音体51を模式的に示す図である。図7に示す例の吸音体51は、一部を除いては図1に示した例の吸音体と同様であり、同様の部分には同一の参照符を付して説明を省略する。図7に示す例では、平板状の吸音体本体の2つの主面A(A1,A2)のうち、一方の主面A1のみが反射体3で覆われる。上述のように、本発明においては、図1に示した例のように、吸音体本体2の前記反射体3で覆われていない部分の面積が、前記反射体で覆われた部分の面積よりも小さいことが好ましいが、図7に示す例のように、吸音体本体2の前記反射体3で覆われていない部分の面積が、前記反射体で覆われた部分の面積よりも大きい場合も除外するものではなく、本発明に包含される。
図8は、本発明の吸音体の好ましい設置例を模式的に示す図である。図8に示す例において、吸音体61は、吸音部62(すなわち、反射体63で覆われていない面)を上側にして、天井65近傍の高さ位置(吸音のための空間を吸音部と天井との間に設ける)で、壁64に固定されている。このように、本発明においては、吸音体本体の比較的面積の大きい主面の少なくともいずれか以外を吸音部として用いるので、設置方法について従来の主面を吸音部として用いる場合よりも自由度が高い。図8に示す例のように吸音体61を設けることで、吸音部62を天井側に向けることで、吸音部62を見えにくくすることができ、吸音部の仕上げを省略することができる。また、吸音体を生活の邪魔にならない場所に設置することができるという効果がある。
図9は、本発明の吸音体の好ましい設置例を模式的に示す図である。図9に示す例において、吸音体61は、吸音部62を下側にして、吸音部62の反対側が天井65に隣接するようにして壁64に固定されている。このように吸音体61を天井65に隣接するように設け、吸音部62を下側にすることで、吸音部62に埃が溜まることにより経時的に吸音性能が低下することを防止することができる。
図10は、本発明の吸音体の好ましい設置例を模式的に示す図である。図10に示す例では、吸音体61は、吸音部62を下側にして、床66近傍の高さ位置(吸音のための空間を吸音部と床の間に設ける)で、壁64に固定されている。このようにすることで、図8に示した例と同様に、吸音部62を見えにくくすることができる。また、吸音部に埃が溜まるのを防ぐことができる。
図11は、本発明の吸音体の好ましい設置例を模式的に示す図である。図11に示す例では、吸音体61は、吸音部62を上側にして、吸音部62の反対側が床66に隣接するようにして壁64に固定されている。このように吸音体61を床66に隣接するように設け、吸音部62を上側にすることで、空間を有効に利用できるという利点がある。なお、図11に示すように吸音体61を設置する場合、吸音部62は布などで覆うことが好ましい。
本発明はまた、上述した本発明の吸音体を用いた吸音方法についても提供する。すなわち、本発明の吸音方法は、少なくとも1つの主面を備える吸音体本体と、前記主面の少なくともいずれかを覆う反射体とを備え、前記吸音体本体が前記反射体で覆われていない部分を有する吸音体を用い、前記部分のみで吸音させることを特徴とするものである。
<実施例1>
図1に示した構造の吸音体1を作成した。具体的には、600mm×900mmの厚み9mmの2枚の合板(シナ合板、札鶴ベニヤ株式会社製)を反射体3として用い、ハニカム構造体5として反射体と同じ面積の厚み20mmの1枚のペーパーハニカム(NB NKN、ナゴヤ芯材工業株式会社製)を用いた。
不織繊維構造体4としては、反射体と同じ面積の厚み5mmの不織繊維構造体を以下の手順で製造した。
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量:44モル%、ケン化度:98.4モル%)である芯鞘型複合ステープル繊維(ソフィスタ(株式会社クラレ製)、繊度:3.3dtex、繊維長:51mm、芯鞘質量比=50/50、捲縮数:21個/25mm、捲縮率:13.5%)を準備した。
この芯鞘型複合ステープル繊維を用いて、カード法により目付約125g/m2のカードウェブを作製し、このウェブを4枚重ねて合計目付約500g/m2のカードウェブとした。
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレスネットを装備したベルトコンベアに移送した。なお、このベルトコンベアの金網の上部には同じ金網を有するベルトコンベアが装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両金網の間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
次いで、下側コンベアに備えられた水蒸気噴射装置へカードウェブを導入し、この装置から0.4MPaの高温水蒸気をカードウェブの厚み方向に向けて通過するように(垂直に)噴出して水蒸気処理を施し、不織繊維構造を有する成形体を得た。この水蒸気噴射装置は、下側のコンベア内に、コンベアネットを介して高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、上側のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向における下流側には、ノズルとサクション装置との配置が逆転した組み合わせである噴射装置がもう一台設置されており、ウェブの表裏両面に対して蒸気処理を施した。
なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、ノズルがコンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた蒸気噴射装置を使用した。加工速度は3m/分であり、ノズル側とサクション側の上下コンベアベルト間の間隔(距離)を、厚み(JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定)が5mmの不織繊維構造体が得られるように調整した。ノズルはコンベアベルトの裏側にベルトとほぼ接するように配置した。
得られた不織繊維構造体(成形体)は、ボード状の形態を有し、一般的な不織布に比べて非常に硬質であった。JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定された上記厚みと、JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定された目付量(500g/cm3)とから、算出された見掛け密度は、100kg/m3であった。さらに、繊維接着率は、表面側で15.1%、中央部で12.0%、裏面側で14.0%であった。
繊維接着率は、以下のようにして算出した。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、構造体断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した構造体の厚み方向における断面写真を厚み方向に三等分し、三等分した各領域(表面、内部(中央)、裏面)において、そこに見出せる繊維切断面(繊維端面)の数に対して繊維同士が接着している切断面の数の割合を求めた。各領域に見いだせる全繊維断面数のうち、2本以上の繊維が接着した状態の断面の数を占める割合を以下の式に基づいて百分率で表した。なお、繊維同士が接触する部分には、融着することなく単に接触している部分と、融着により接着している部分とがある。ただし、顕微鏡撮影のために構造体を切断することにより、構造体の切断面においては、各繊維が有する応力によって、単に接触している繊維同士は分離する。したがって、断面写真において、接触している繊維同士は、接着していると判断できる。
繊維接着率(%)=(2本以上接着した繊維の断面数)/(全繊維断面数)×100
ただし、各写真について、断面の見える繊維は全て計数し、繊維断面数100以下の場合は、観察する写真を追加して全繊維断面数が100を超えるようにした。なお、三等分した各領域についてそれぞれ繊維接着率を求め、その最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)も併せて求めた。この不織繊維構造体を、600mm×900mmの大きさに切断加工した(厚み:5mm)。
ハニカム構造体を2枚の不織繊維構造体で挟み、多孔質体の積層構造を作成し、これを吸音体本体とし、その2つの主面を反射体で覆い、図1に示したような本発明の吸音体1を作成した。吸音体の全体の厚みは48mmであった(反射体(9mm)/不織繊維構造体(5mm)/ハニカム構造体(20mm)/不織繊維構造体(5mm)/反射体(9mm))。
図12は、実施例1での吸音体の吸音性能の評価の際の吸音体の配置を模式的に示す図である。また、図13は、吸音体の吸音性能を評価するための設備の一例を模式的に示す図である。実施例1では、作成した吸音体2つを、900mmの長手方向Yが平行となるように、600mmの幅方向Xに沿った直線距離Zが600mmとなるように離して、全体で、600mm(吸音体の幅)+600mm(直線距離Z)+600mm(吸音体の幅)で合計1800mmとなるように設置した。また、吸音性能の評価は、JIS A 1409の基準に準拠した残響室法により、図13に示すような五角形の密室で行なった。図13において、「s」と示されているのは図12に示すように配置された吸音体であり、音響計測システム(ブリュエル・ケアー社製「PULSE3560」)を用いて残響室法吸音率を測定した。
<実施例2>
図14は、実施例2での吸音体の吸音性能の評価の際の吸音体の配置を模式的に示す図である。実施例2では、幅方向Xに沿った長さを300mmとしたこと以外は実施例1と同じ吸音体を4つ用い、図14に示すように、900mmの長手方向Yが平行となるように、300mmの幅方向Xに沿った直線距離Zが300mmとなるように離して、全体で、300mm(吸音体の幅)+300mm(直線距離Z)+300mm(吸音体の幅)+300mm(直線距離Z)+300mm(吸音体の幅)+300mm(直線距離Z)+300mm(吸音体の幅)で合計2100mmとなるように設置した。それ以外は実施例1と同様にして、吸音性能を評価し、各周波数における吸音率を算出した。
<実施例3>
図3に示した例の吸音体11を作製した。実施例2で作製した吸音体1(幅方向Xに沿った長さ:300mm、長手方向Yに沿った長さ:900mm、厚み:48mm)の4つの側面の1つの全面を覆うようにして、900mm×48mmの厚み9mmの合板(シナ合板、札鶴ベニヤ株式会社製)を反射体12として取り付けた。それ以外は実施例2と同様にして、吸音性能を評価し、各周波数における吸音率を算出した。
<実施例4>
図7に示した例の吸音体51は、たとえば、実施例2で記載した大きさの吸音体1の2つの反射体のうちの一方を取り付けないことで、作製することができる。この場合、吸音体全体の厚みは、39mmとなる(反射体(9mm)/不織繊維構造体(5mm)/ハニカム構造体(20mm)/不織繊維構造体(5mm))。このような吸音体51を反射体が上側となるように設置することで、実施例2と同程度の吸音性能を示すと考えられる。
<比較例1>
図15は、比較例1で作製した吸音体101を模式的に示す図である。図15に示す吸音体101は、本発明には包含されないが、一部を除いては図1に示した例の吸音体と同様であり、同様の部分には同一の参照符を付して説明を省略する。比較例1で作製した吸音体101は、平板状の吸音体本体2の2つの主面を覆う反射体は設けられず、その代わりに、4つの側面の全面が、反射体102となる4枚の合板(シナ合板、札鶴ベニヤ株式会社製)(900mm×30mmの厚さ9mmの合板2枚と318mm×30mmの厚さ9mmの合板2枚で覆われている(構造を分かりやすく示すため、図15においては、反射体102の一部を切り欠いて示している)。すなわち、従来の、平板状の吸音体本体の主面を吸音部に用いる場合に該当する。このような吸音体を用いたこと以外は実施例2と同様にして、吸音性能を評価し、各周波数における吸音率を算出した。
<比較例2>
図16は、比較例2で作製した吸音体111を模式的に示す図である。図16に示す吸音体111は、本発明には包含されない(吸音体本体が反射体で覆われていない部分を有さない)が、一部を除いては図1に示した例の吸音体と同様であり、同様の部分には同一の参照符を付して説明を省略する。図16では、図7に示した吸音体(すなわち、平板状の吸音体本体の2つの主面のうち一方側(上側)のみを反射体で覆う構成)の4つの側面の全面が、反射体112となる4枚の合板(シナ合板、札鶴ベニヤ株式会社製)(900mm×39mmの厚さ9mmの合板2枚と318mm×39mmの厚さ9mmの合板2枚で覆われている(構造を分かりやすく示すため、図16においては、反射体112の一部を切り欠いて示している)。すなわち、従来の、平板状の吸音体本体の主面を吸音部に用いる場合に該当する。このような吸音体を用いたこと以外は実施例2と同様にして、吸音性能を評価し、各周波数における吸音率を算出した。
図17は、実施例1〜3、比較例1、2についての評価結果を示すグラフであり、縦軸は吸音率、横軸は周波数(Hz)である。また実施例1〜3、比較例1、2についての各数値を表1に示す。図17から、実施例1〜3は、比較例1、2と比較して、1000Hz以下の低周波数領域でも十分な吸音性能を示したことが分かる。