JP2015190939A - 電極チップおよび化学物質の定量方法 - Google Patents

電極チップおよび化学物質の定量方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、高感度に化学物質を定量することが可能な小型の電極チップ、および化学物質の定量方法を提供することを主目的とする。【解決手段】本発明は、変換ストリッピング法による化学物質の定量に用いられる電極チップであって、基板と、上記基板上に配置された第1セルと、上記基板上に配置された第2セルと、上記第1セル内に配置された第1作用電極と、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極と、第2作用電極と、上記第2作用電極に電流を流すための第2対極とを有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されていることを特徴とする電極チップを提供することにより、上記課題を解決する。【選択図】図1

Description

本発明は、変換ストリッピング法による化学物質の定量に用いられる電極チップおよび化学物質の定量方法に関するものである。
化学物質の定量方法として、電気化学測定法が知られており、例えば変換ストリッピング法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
電気化学測定法を用いた化学物質の定量に際しては、電極チップを用いることができ、装置の小型化が比較的容易であるため、実用化が期待されている。
一方、特許文献3に記載されているような従来の変換ストリッピング法では、2つのセルを準備し、電気的導通のために2つのセル間を塩橋や液絡で接続することが必要である。塩橋には例えばガラスの細管に電解質を寒天に溶解させたイオン導電体を入れたものが用いられ、液絡には例えば多孔質セラミックや多孔質ガラスが用いられる。このような塩橋や液絡を有する電極チップでは、製造工程が煩雑になり、また小型化が困難になる場合がある。
特許第5111666号公報 国際公開第2013/005268号パンフレット 特許第3289059号公報
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高感度に化学物質を検出することが可能な小型の電極チップ、および化学物質の定量方法を提供することを主目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、変換ストリッピング法による化学物質の定量に用いられる電極チップであって、基板と、上記基板上に配置された第1セルと、上記基板上に配置された第2セルと、上記第1セル内に配置された第1作用電極と、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極と、第2作用電極と、上記第2作用電極に電流を流すための第2対極とを有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されていることを特徴とする電極チップを提供する。
本発明においては、第1作用電極およびストリッピング電極とは別に、第2作用電極および第2対極が形成されており、本発明の電極チップを使用する際には、第2作用電極および第2対極の間に電流を流すことによって、第2作用電極および第2対極上で起こる電気化学反応により第1セルおよび第2セル内の電気的中性を保ち、第1セルおよび第2セルでの電気的導通を確保することができる。したがって、塩橋や液絡が不要であり、電極チップを容易に作製することができるとともに、小型化することができる。また、本発明の電極チップは変換ストリッピング法による化学物質の定量に用いられるものであり、化学物質が微量であっても、簡易操作で高感度に検出することができる。
また本発明の電極チップは、上記第1セル内に配置され、上記第1作用電極に隣接して配置された第3作用電極をさらに有していてもよい。第1作用電極および第3作用電極が隣接して配置されている場合、本発明の電極チップを用いて変換ストリッピング法により化学物質の定量を行う際に、前電解において第3作用電極および第1作用電極の間で自己誘発レドックスサイクルが起こるため、電流値を増幅することができ、検出感度を高めることができる。
また本発明の電極チップは、上記第1セル内に配置され、上記第3作用電極に電流を流すための第1対極をさらに有していてもよい。さらに本発明においては、参照電極が上記第1セル内および上記第2セル内の少なくともいずれかに配置されていてもよい。
また本発明においては、上記化学物質が微生物夾雑物であることが好ましい。エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカン等の微生物夾雑物は、高感度検出が求められており、本発明の電極チップは微生物夾雑物の定量に好適に用いることができる。
また本発明は、変換ストリッピング法による化学物質の定量方法であって、第1セル、第2セル、上記第1セル内に配置された第1作用電極、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極、上記第1セル内に配置され、上記第1作用電極に隣接して配置された第3作用電極、上記第1セル内に配置され、上記第3作用電極に電流を流すための第1対極、第2作用電極、および上記第2作用電極に電流を流すための第2対極を有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されている測定用セルを準備し、上記第2セル内に金属イオンを含む溶液または上記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を供給する準備工程と、上記第1セル内に、上記化学物質を含む被検体を供給する被検体供給工程と、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極を接続した状態で、上記第3作用電極に電位を印加するとともに、上記第2作用電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極表面に金属または金属塩を析出させる前電解工程と、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極の接続を切り、上記ストリッピング電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極に流れた電流値を測定するストリッピング工程と、上記電流値に基づいて上記化学物質を定量する定量工程とを有することを特徴とする化学物質の定量方法を提供する。
本発明においては、第1作用電極およびストリッピング電極とは別に、第2作用電極および第2対極を設け、第2作用電極および第2対極の間に電流を流すことによって、第2作用電極および第2対極上で起こる電気化学反応により第1セルおよび第2セル内の電気的中性を保ち、第1セルおよび第2セルでの電気的導通を確保することができる。したがって、塩橋や液絡が不要であり、測定用セルを容易に作製することができるとともに、小型化することができる。また、本発明においては、変換ストリッピング法により化学物質の定量を行うため、高感度に化学物質を検出することができる。さらに、前電解工程にて第3作用電極および第1作用電極の間で自己誘発レドックスサイクルが起こるため、電流値を増幅することができ、検出感度を高めることができる。したがって、微量の化学物質であっても、簡易操作で高感度に検出することができる。
上記発明においては、上記被検体が酸化還元物質を含んでいてもよい。この場合、酸化還元物質の濃度を測定することで、化学物質を定量することができる。
また本発明においては、上記被検体供給工程では、上記第1セル内に、上記化学物質を含む被検体および酸化還元物質を遊離または生成する物質を供給し、上記物質から上記酸化還元物質を遊離または生成する反応工程を行ってもよい。酸化還元物質を遊離または生成する物質から酸化還元物質が遊離または生成することによって、第1セルでの電位が変化し、第1セルおよび第2セルでの電位差が第2セルで金属イオンまたは金属の酸化還元反応が進む方向に大きくなり、その結果、第1セルで酸化還元物質の酸化還元反応を自動的に進行させることができる場合がある。
上記の場合、上記化学物質が微生物夾雑物であることが好ましく、この場合には、上記酸化還元物質を遊離または生成する物質が上記酸化還元物質が結合した合成基質であり、上記被検体供給工程では、上記第1セル内に、上記化学物質を含む被検体、ライセート試薬、および上記酸化還元物質が結合した合成基質を供給し、上記反応工程では、上記第1セル内にて、上記化学物質を含む被検体、上記ライセート試薬、および上記酸化還元物質が結合した合成基質を接触させて、多段階反応により上記合成基質からの上記酸化還元物質の遊離反応を生じさせることが好ましい。上述したように、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカン等の微生物夾雑物は、高感度検出が求められており、本発明の化学物質の定量方法は微生物夾雑物の定量に好適である。
さらに本発明は、変換ストリッピング法による化学物質の定量方法であって、第1セル、第2セル、上記第1セル内に配置された第1作用電極、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極、第2作用電極、および上記第2作用電極に電流を流すための第2対極を有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されている測定用セルを準備し、上記第2セル内に金属イオンを含む溶液または上記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を含む溶液を供給する準備工程と、上記第1セル内に、上記化学物質を含む被検体および酸化還元物質を遊離または生成する物質を供給する被検体供給工程と、上記物質から上記酸化還元物質を遊離または生成する反応工程と、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極を接続した状態で、上記第2作用電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極表面に金属または金属塩を析出させる前電解工程と、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極の接続を切り、上記ストリッピング電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極に流れた電流値を測定するストリッピング工程と、上記電流値に基づいて上記化学物質を定量する定量工程とを有することを特徴とする化学物質の定量方法を提供する。
本発明においては、第1作用電極およびストリッピング電極とは別に、第2作用電極および第2対極を設け、第2作用電極および第2対極の間に電流を流すことによって、第2作用電極および第2対極上で起こる電気化学反応により第1セルおよび第2セル内の電気的中性を保ち、第1セルおよび第2セルでの電気的導通を確保することができる。したがって、塩橋や液絡が不要であり、測定用セルを容易に作製することができるとともに、小型化することができる。また、本発明においては、変換ストリッピング法により化学物質の定量を行うため、化学物質が微量であっても、簡易操作で高感度に検出することができる。
上記発明においては、上記化学物質が微生物夾雑物であることが好ましく、この場合には、上記酸化還元物質を遊離または生成する物質が上記酸化還元物質が結合した合成基質であり、上記被検体供給工程では、上記第1セル内に、上記化学物質を含む被検体、ライセート試薬、および上記酸化還元物質が結合した合成基質を供給し、上記反応工程では、上記第1セル内にて、上記化学物質を含む被検体、上記ライセート試薬、および上記酸化還元物質が結合した合成基質を接触させて、多段階反応により上記合成基質からの上記酸化還元物質の遊離反応を生じさせることが好ましい。上述したように、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカン等の微生物夾雑物は、高感度検出が求められており、本発明の化学物質の定量方法は微生物夾雑物の定量に好適である。
本発明は、電極チップの小型化が可能であり、極微量の化学物質であっても、簡易操作で高感度に検出を行うことが可能であるという効果を奏する。
本発明の電極チップの一例を示す概略平面図および分解斜視図である。 本発明の電極チップの使用方法の一例を示す模式図である。 本発明の電極チップの他の例を示す概略平面図および分解斜視図である。 本発明の電極チップの使用方法の他の例を示す模式図である。 本発明の電極チップの他の例を示す概略分解斜視図である。 本発明の電極チップの他の例を示す概略平面図である。 本発明における多段階反応の一例を示す模式図である。 本発明における多段階反応の他の例を示す模式図である。 実施例1におけるストリッピング時のボルタモグラムである。 実施例1における前電解時間と電荷量との関係を示すグラフである。 実施例2におけるストリッピング時のボルタモグラムである。 実施例2におけるpAPの濃度と電荷量との関係を示すグラフである。 実施例3におけるストリッピング時のボルタモグラムである。
以下、本発明の電極チップおよび化学物質の定量方法について詳細に説明する。
A.電極チップ
本発明の電極チップは、変換ストリッピング法による化学物質の定量に用いられる電極チップであって、基板と、上記基板上に配置された第1セルと、上記基板上に配置された第2セルと、上記第1セル内に配置された第1作用電極と、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極と、第2作用電極と、上記第2作用電極に電流を流すための第2対極とを有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されていることを特徴とするものである。
本発明の電極チップは2つの態様を有する。
まず、本発明の1つ目の態様の電極チップについて図面を参照して説明する。
図1(a)、(b)は、本態様の電極チップの一例を示す概略平面図および分解斜視図である。図1(a)、(b)に例示する電極チップ1Aにおいては、基板2上に2つの開口部を有する仕切部材15が配置され、各開口部によって第1セル3および第2セル4が形成されており、第1セル3内には第1作用電極5、第2対極6および参照電極11aが配置され、第2セル4内にはストリッピング電極7、第2作用電極8および参照電極11bが配置されている。第1作用電極5およびストリッピング電極7は接続可能なものである。また、第2対極6は第2作用電極8に電流を流すためのものである。第1作用電極5、第2対極6、ストリッピング電極7、第2作用電極8および参照電極11a、11bにはそれぞれ導線12が接続され、導線12の端部には端子13が形成されており、図示しないが導線12は絶縁層で覆われている。
次に、本態様の電極チップを用いて変換ストリッピング法により化学物質を定量する方法の一例について説明する。図2は本態様の電極チップの使用方法の一例を示す模式図であり、図1に例示する電極チップ1Aを用いる例である。図2に示す例において、第2電源部32は、第2作用電極8に電位を印加するものであり、第3電源部31は、ストリッピング電極7に電位を印加するものである。ストリッピング電極7と第1作用電極5および第3電源部31との間にはスイッチ33が配置されている。スイッチ33がA側に接続されたときには、第1作用電極5およびストリッピング電極7が接続される。一方、スイッチ33がB側に接続されたときには、ストリッピング電極7が第3電源部31に接続される。また、第2作用電極8と第2電源部32および第3電源部31との間にはスイッチ34が配置されている。スイッチ34がA側に接続されたときには、第2作用電極8が第2電源部32に接続される。一方、スイッチ34がB側に接続されたときには、第2作用電極8が第3電源部31に接続され、ストリッピング電極7の対極として利用される。
ここでは、化学物質が微生物夾雑物である場合を例に挙げて説明する。
まず、電極チップ1Aを使用するに際しては、図示しないが、予め第2セル4内に銀イオンを含む溶液を供給しておく。次いで、図示しないが、電極チップ1Aの第1セル3内に、微生物夾雑物を含む被検体とライセート試薬と酸化還元物質が結合した合成基質とを供給し、微生物夾雑物とライセート試薬と酸化還元物質が結合した合成基質とを第1セル3内にて一定時間反応させる。この際、多段階反応により合成基質からの酸化還元物質の遊離反応を生じさせる。
例えば、微生物夾雑物がエンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンであり、酸化還元物質がパラアミノフェノール(pAP)である場合、多段階反応によりpAPが結合した合成基質からpAPが遊離する。
次に、変換ストリッピング法における第1段階の前電解を行う。スイッチ33、34をA側に接続して、第1作用電極5およびストリッピング電極7を接続した状態で、第2電源部32から第2作用電極8に一定電位を印加する。第2作用電極8および第2対極6の間に電流を流すことによって、第2作用電極8および第2対極6上で起こる電気化学反応により第1セル3内の混合液および第2セル4内の溶液の電荷のバランスを維持することができ、第1セル3および第2セル4での電気的導通を確保することができる。
このとき、酸化還元物質が結合した合成基質(還元体/酸化体)の式量電位と、合成基質から遊離した酸化還元物質(還元体/酸化体)の式量電位とは異なり、合成基質から遊離した酸化還元物質(還元体/酸化体)の式量電位は酸化還元物質が結合した合成基質(還元体/酸化体)の式量電位よりも低くなる。そのため、多段階反応により合成基質からの酸化還元物質の遊離反応が生じると、第1セル3における電位が低下する。これにより、第1セル3と第2セル4とで電位差が大きくなり、第1作用電極5およびストリッピング電極7間に電流が流れる。すなわち、第1セルでの電位が変化し、第1セルおよび第2セルでの電位差が第2セルで銀イオンの還元反応が進む方向に大きくなり、その結果、第1セルで酸化還元物質の酸化反応を自動的に進行させることができる。
例えば、pAPおよび銀イオンは、下記式(1)、(2)に示す酸化反応および還元反応を生じる。
Figure 2015190939
Ag + e → Ag↓ (2)
酸化還元物質が結合した合成基質がBoc−Leu−Gly−Arg−pAPである場合、Boc−Leu−Gly−Arg−pAP(還元体)/(酸化体)の式量電位は0.35V vs.Ag/AgCl、pAP/QIの式量電位は0.03V vs.Ag/AgClである。そのため、Boc−Leu−Gly−Arg−pAPからpAPが遊離すると、第1セル3において電位が低下する。また、上記の系において、銀イオンの還元反応が開始する電位は0.39V vs.Ag/AgClである。そのため、Boc−Leu−Gly−Arg−pAPからpAPが遊離すると、第1セル3と第2セル4とで電位差が大きくなり、第1作用電極5およびストリッピング電極7間に電流が流れる。したがって、第1作用電極5上では上記式(1)で示されるようにpAPが酸化されてキノンイミン(QI)が生成する酸化反応が生じ、ストリッピング電極7上では上記式(2)で示される銀イオンの還元反応が生じ、ストリッピング電極7表面に銀が析出する。
次に、変換ストリッピング法における第2段階のストリッピングを行う。スイッチ33、34をB側に接続して、第1作用電極5およびストリッピング電極7の接続を切り、第3電源部31からストリッピング電極7に電位を印加し、ストリッピング電極7の電位を掃引する。この際、下記式(3)に示されるように、ストリッピング電極7表面に析出した銀が溶解する。
Ag → Ag + e (3)
銀の溶解時に流れる電流値は、銀の析出量に比例する。また、銀の析出量は、合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。したがって、電流値から、合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度を算出し、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンを定量することができる。
また、化学物質が酵素である場合を例に挙げて説明する。ここでは、酵素反応により基質から還元状態の酸化還元物質が遊離する場合について説明する。
まず、電極チップ1Aを使用するに際しては、図示しないが、予め第2セル4内に銀イオンを含む溶液を供給しておく。次いで、図示しないが、電極チップ1Aの第1セル3内に、酵素を含む被検体と基質とを供給し、酵素と基質とを第1セル3内にて反応させる。この際、酵素反応により基質からの酸化還元物質の遊離反応を生じさせる。
例えば、酵素がアルカリフォスファターゼ(ALP)であり、基質がパラアミノフェニルフォスフェート(pAPP)等のパラアミノフェニルリン酸である場合、酵素反応によって基質からパラアミノフェノール(pAP)が遊離する。また例えば、酵素がβ−ガラクトシダーゼであり、基質がβ−アミノフェニル−d−ガラクトピラノシド(pAPG)である場合、酵素反応により基質からパラアミノフェノール(pAP)が遊離する。
次に、変換ストリッピング法における第1段階の前電解を行う。このとき、基質(還元体)/(酸化体)の式量電位と、基質から遊離した酸化還元物質(還元体)/(酸化体)の式量電位とは異なり、基質から遊離した酸化還元物質(還元体)/(酸化体)の式量電位は基質(還元体)/(酸化体)の式量電位よりも低くなる。そのため、酵素反応により基質からの酸化還元物質の遊離反応が生じると、第1セル3における電位が低下する。これにより、第1セル3と第2セル4とで電位差が大きくなり、第1作用電極5およびストリッピング電極7間に電流が流れる。すなわち、第1セルでの電位が変化し、第1セルおよび第2セルでの電位差が第2セルで銀イオンの還元反応が進む方向に大きくなり、その結果、第1セルで酸化還元物質の酸化反応を自動的に進行させることができる。例えば、pAPおよび銀イオンは、上記式(1)、(2)に示す酸化反応および還元反応を生じる。したがって、第1作用電極5上では酸化還元物質の酸化反応が生じ、ストリッピング電極7上では銀イオンの還元反応が生じ、ストリッピング電極7表面に銀が析出する。
次に、変換ストリッピング法における第2段階のストリッピングを行う。この際、ストリッピング電極7表面に析出した銀が溶解する。
上記の場合と同様に、銀の溶解時に流れる電流値は、銀の析出量に比例する。また、銀の析出量は、基質から遊離した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。したがって、電流値から、基質から遊離した酸化還元物質の濃度を算出し、酵素を定量することができる。
このように本発明においては、変換ストリッピング法における第1段階の前電解では、第2セル内に第2作用電極を配置し、第1セル内に第2対極を配置して、第2作用電極および第2対極の間に電流を流すことによって、第2作用電極および第2対極上で起こる電気化学反応により第1セルおよび第2セル内の電気的中性を保つことができる。そのため、従来のような塩橋や液絡を要することなく、第1セルおよび第2セルでの電気的導通を確保することができる。これらの第2作用電極および第2対極は、第1作用電極やストリッピング電極と同様に基板上に容易に形成することができる。したがって、本発明の電極チップは簡便な方法で作製することが可能である。また、塩橋や液絡が不要であるため、電極チップの構成を簡素化することができ、電極チップのさらなる小型化が可能になる。
次に、本発明の2つ目の態様の電極チップについて図面を参照して説明する。本発明の2つ目の態様の電極チップは、第1セル内に第3作用電極と第3作用電極に電流を流すための第1対極とがさらに配置されているものである。
図3(a)、(b)は、本態様の電極チップの一例を示す概略平面図および分解斜視図である。図3(a)、(b)に例示する電極チップ1Bにおいては、基板2上に2つの開口部を有する仕切部材15が配置され、各開口部によって第1セル3および第2セル4が形成されており、第1セル3内には第1作用電極5、第3作用電極9、第1対極10、第2対極6および参照電極11aが配置され、第2セル4内にはストリッピング電極7、第2作用電極8および参照電極11bが配置されている。第1セル3内において、第1作用電極5および第3作用電極9は隣接して配置されている。また、第1作用電極5およびストリッピング電極7は接続可能なものである。第1対極10は第3作用電極9に電流を流すためのものであり、第2対極6は第2作用電極8に電流を流すためのものである。第1作用電極5、第3作用電極9、第1対極10、第2対極6、参照電極11a、11b、ストリッピング電極7および第2作用電極8にはそれぞれ導線12が接続され、導線12の端部には端子13が形成されており、図示しないが導線12は絶縁層で覆われている。
次に、本態様の電極チップを用いて変換ストリッピング法により化学物質を定量する方法の他の例について説明する。図4は本態様の電極チップの使用方法の他の例を示す模式図であり、図3に例示する電極チップ1Bを用いる例である。図4に示す例において、第1電源部35は、第3作用電極9およびストリッピング電極7に電位を印加するものであり、第2電源部32は、第2作用電極8に電位を印加するものである。第1電源部35と第3作用電極9およびストリッピング電極7との間にはそれぞれスイッチ36、37が配置されている。スイッチ36、37がA側に接続されたときには、第3作用電極9が第1電源部35に接続されるとともに、第1作用電極5およびストリッピング電極7が接続される。一方、スイッチ36、37がB側に接続されたときには、ストリッピング電極7が第1電源部35に接続される。また、第2作用電極8と第2電源部32および第1電源部35との間にはスイッチ38が配置されている。スイッチ38がA側に接続されたときには、第2作用電極8が第2電源部32に接続される。一方、スイッチ38がB側に接続されたときには、第2作用電極8が第1電源部35に接続され、ストリッピング電極7の対極として利用される。
ここでは、化学物質が微生物夾雑物である場合を例に挙げて説明する。
まず、電極チップ1Bを使用するに際しては、図示しないが、予め第2セル4内に銀イオンを含む溶液を供給しておく。次いで、図示しないが、電極チップ1Bの第1セル3内に、微生物夾雑物を含む被検体とライセート試薬と酸化還元物質が結合した合成基質とを供給し、微生物夾雑物とライセート試薬と酸化還元物質が結合した合成基質とを第1セル3内にて一定時間反応させる。この際、多段階反応により合成基質からの酸化還元物質の遊離反応を生じさせる。
上述したように、例えば、微生物夾雑物がエンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンであり、酸化還元物質がパラアミノフェノール(pAP)である場合、多段階反応によりpAPが結合した合成基質からpAPが遊離する。
次に、変換ストリッピング法における第1段階の前電解を行う。スイッチ36、37、38をA側に接続して、第1作用電極5およびストリッピング電極7を接続した状態で、第1電源部35から第3作用電極9に一定電位を印加するとともに、第2電源部32から第2作用電極8に一定電位を印加する。この際、第1セル3内において、隣接して配置された第3作用電極9および第1作用電極5の間では自己誘発レドックスサイクルが起こる。
例えば酸化還元物質がパラアミノフェノール(pAP)である場合、第1作用電極5上で下記式(1)に示されるようにpAPが酸化されてキノンイミン(QI)が生成する酸化反応が生じ、第3作用電極9上で下記式(4)に示されるようにQIが還元されてpAPが生成する還元反応が生じる。
Figure 2015190939
このとき、第2作用電極8および第2対極6の間に電流を流すことによって、第2作用電極8および第2対極6上で起こる電気化学反応により第1セル3内の混合液および第2セル4内の溶液の電荷のバランスを維持することができ、第1セル3および第2セル4での電気的導通を確保することができる。そのため、ストリッピング電極7表面では、下記式(2)に示される銀イオンの還元反応が生じ、銀が析出する。
Ag + e → Ag↓ (2)
次に、変換ストリッピング法における第2段階のストリッピングを行う。スイッチ36、37、38をB側に接続して、第1作用電極5およびストリッピング電極7の接続を切り、第1電源部35からストリッピング電極7に電位を印加し、ストリッピング電極7の電位を掃引する。この際、下記式(3)に示されるように、ストリッピング電極7表面に析出した銀が溶解する。
Ag → Ag + e (3)
上述したように、銀の溶解時に流れる電流値は、銀の析出量に比例する。また、銀の析出量は、合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。したがって、電流値から、合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度を算出し、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンを定量することができる。
また、化学物質が酵素である場合を例に挙げて説明する。ここでは、酵素反応により基質から還元状態の酸化還元物質が遊離する場合について説明する。
まず、電極チップ1Aを使用するに際しては、図示しないが、予め第2セル4内に銀イオンを含む溶液を供給しておく。次いで、図示しないが、電極チップ1Aの第1セル3内に、酵素を含む被検体と基質とを供給し、酵素と基質とを第1セル3内にて反応させる。この際、酵素反応により基質からの酸化還元物質の遊離反応を生じさせる。
上述したように、例えば、酵素がアルカリフォスファターゼ(ALP)であり、基質がパラアミノフェニルフォスフェート(pAPP)等のパラアミノフェニルリン酸である場合、酵素反応によって基質からパラアミノフェノール(pAP)が遊離する。また例えば、酵素がβ−ガラクトシダーゼであり、基質がβ−アミノフェニル−d−ガラクトピラノシド(pAPG)である場合、酵素反応により基質からパラアミノフェノール(pAP)が遊離する。
次に、変換ストリッピング法における第1段階の前電解を行う。この際、第1セル3内において、隣接して配置された第3作用電極9および第1作用電極5の間では自己誘発レドックスサイクルが起こる。例えば酸化還元物質がパラアミノフェノール(pAP)である場合、第1作用電極5上で下記式(1)に示されるようにpAPが酸化されてキノンイミン(QI)が生成する酸化反応が生じ、第3作用電極9上で上記式(4)に示されるようにQIが還元されてpAPが生成する還元反応が生じる。そして、ストリッピング電極7表面では、上記式(2)に示される銀イオンの還元反応が生じ、銀が析出する。
次に、変換ストリッピング法における第2段階のストリッピングを行う。この際、ストリッピング電極7表面に析出した銀が溶解する。
上記の場合と同様に、銀の溶解時に流れる電流値は、銀の析出量に比例する。また、銀の析出量は、基質から遊離した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。したがって、電流値から、基質から遊離した酸化還元物質の濃度を算出し、酵素を定量することができる。
このように本発明においては、第1セル内に第3作用電極および第1対極を配置してもよい。第1作用電極および第3作用電極が隣接して配置されている場合、本発明の電極チップを用いて変換ストリッピング法により化学物質の定量を行う際に、前電解において第3作用電極および第1作用電極の間で自己誘発レドックスサイクルが起こるため、電流値を増幅することができ、検出感度を高めることができる。この場合においても、従来のような塩橋や液絡が不要であるため、電極チップを簡便な方法で作製することが可能であるとともに、電極チップの小型化が可能になる。
なお、上述の具体例においては、ストリッピング電極表面に金属を析出させる場合について説明したが、ストリッピング電極表面に金属塩を析出させる場合にも、本発明の電極チップを使用することができる。
本発明の電極チップは、変換ストリッピング法による化学物質の定量に用いられるものであり、変換ストリッピング法においては、前電解時間が長いほど金属または金属塩の析出量が増加するため、化学物質の検出感度を高めることができる。そのため、微量の被検体であっても、化学物質の濃度を測定することができる。したがって、本発明の電極チップは、簡易操作で高感度に化学物質を検出可能であり、さらに小型化が可能であるため、例えば医療用現場で実用的に使用することができる。
また、本発明の電極チップは、電気化学的に測定を行うものであり、光による検出を行うものではないため、透明性の高い被検体や、組織液等の多成分系の被検体も測定対象にできると考えられ、実用性が極めて高い。
また、例えばパラアミノフェノールは、その電気化学活性が比較的速い速度で経時的に失われていき、不安定である。そのため、従来のアンペロメトリ法による化学物質の定量方法では、パラアミノフェノールが結合した合成基質を用いた場合に問題となる。これに対し、本発明の電極チップを用いた変換ストリッピング法による化学物質の定量方法では、酸化還元物質の酸化還元反応によって生じる電流を即座に金属または金属塩の析出に変換することができる。そのため、不安定な酸化還元物質については、時間経過による電気化学活性の減少の影響を受けにくくすることができる。したがって、安定した化学物質の測定が可能になる。
以下、本発明の電極チップにおける各構成について説明する。
1.第2作用電極および第2対極
本発明において、第2対極は第2作用電極に電流を流すためのものであり、第2作用電極および第2対極のうち、一方が第1セル内に配置され、他方が第2セル内に配置されるものである。
第2セル内に配置されている第2作用電極または第2対極は、変換ストリッピング法における第2段階のストリッピングにおいて、ストリッピング電極に電極を流すための対極になり得る。
第2作用電極および第2対極の材料としては、特に限定されるものではなく、電気化学測定に用いられる一般的な電極材料を使用することができ、例えばグラッシーカーボン、カーボンペースト、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素材料や、金、白金、パラジウム、銀等の貴金属が挙げられる。
第2作用電極および第2対極の配置としては、一方が第1セル内に配置され、他方が第2セル内に配置されていればよい。
第2作用電極および第2対極の配置としては、第1セルおよび第2セル内において第2作用電極または第2対極が他の電極と接触しないように配置されていれば特に限定されるものではない。
第2作用電極および第2対極の大きさは、第1作用電極よりも大きいことが好ましい。前電解時に第1作用電極での反応を律速にするために、他の電極での反応が律速にならないように、第2作用電極および第2対極を第1作用電極よりも大きくすることが好ましいからである。
第2作用電極および第2対極の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば円形、楕円形、矩形等の任意の形状とすることができる。
第2作用電極および第2対極の形成方法としては、例えば導電膜が形成された基板を用い、フォトリソグラフィー法により導電膜をパターニングする方法や、マスク蒸着法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等によりパターン状の導電膜を形成する方法が挙げられる。
2.ストリッピング電極
本発明におけるストリッピング電極は、第2セル内に配置され、第1作用電極と接続可能なものである。
ストリッピング電極の材料としては、特に限定されるものではなく、電気化学測定に用いられる一般的な電極材料を使用することができ、上記の第2作用電極および第2対極の材料と同様とすることができる。変換ストリッピング法の第1段階の前電解においてストリッピング電極表面に銀を析出させる場合には、銀以外の材料が用いられる。また、変換ストリッピング法の第1段階の前電解においてストリッピング電極表面に金属塩を析出させる場合、ストリッピング電極の材料にはハロゲン化物イオンと反応して金属塩を形成するものが用いられ、好ましくは銀である。
ストリッピング電極の配置としては、第2セル内においてストリッピング電極が第2作用電極と接触しないように配置されていれば特に限定されるものではない。
ストリッピング電極の大きさは、第1作用電極よりも大きいことが好ましい。前電解時に第1作用電極での反応を律速にするために、他の電極での反応が律速にならないように、ストリッピング電極を大きくすることが好ましいからである。
ストリッピング電極の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば円形、楕円形、矩形等の任意の形状とすることができる。
ストリッピング電極の形成方法については、上記の第2作用電極および第2対極の形成方法と同様とすることができる。
3.第1作用電極
本発明における第1作用電極は、第1セル内に配置され、ストリッピング電極と接続可能なものである。
第1作用電極の材料としては、特に限定されるものではなく、電気化学測定に用いられる一般的な電極材料を使用することができ、上記の第2作用電極および第2対極の材料と同様とすることができる。生物または細胞の呼吸代謝に関わる酸素を定量する場合には、第1作用電極として白金電極を用いることが好ましい。
第1作用電極の配置は、後述の第3作用電極の有無に応じて適宜選択される。第3作用電極が形成されていない場合には、第1作用電極の配置としては、第1セル内において第1作用電極が他の電極と接触しないように配置されていれば特に限定されるものではない。一方、第3作用電極が形成されている場合には、第1作用電極の配置としては、第1セル内において第1作用電極が他の電極と接触しないように配置され、かつ、第1作用電極および第3作用電極が隣接するように配置される。第1作用電極および第3作用電極は、変換ストリッピング法の第1段階の前電解において、自己誘発レドックスサイクルが起こり得る程度に隣接して配置されていればよい。
第1作用電極の大きさは、ストリッピング電極、第2作用電極および第2対極よりも小さいことが好ましい。前電解時に第1作用電極での反応を律速にするために、他の電極での反応が律速にならないように、第1作用電極を小さくすることが好ましいからである。
第1作用電極の形状は、後述の第3作用電極の有無に応じて適宜選択される。第3作用電極が形成されていない場合には、第1作用電極の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば円形、楕円形、矩形等の任意の形状とすることができる。一方、第3作用電極が形成されている場合には、第1作用電極および第3作用電極の形態としては、例えばくし形電極、微小対バンド電極、微小リングディスク電極等の微小対電極が挙げられる。中でも、くし形電極が好ましい。
第1作用電極の形成方法については、上記の第2作用電極および第2対極の形成方法と同様とすることができる。
4.第3作用電極
本発明においては、第1セル内に第3作用電極が配置されていてもよい。第3作用電極は、上記第1作用電極に隣接して配置されるものである。
第3作用電極の材料、大きさおよび形成方法については、上記第1作用電極と同様とすることができる。
なお、第3作用電極の形状および配置については、上記第1作用電極の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
5.第1対極
本発明においては、第1セル内に第1対極が配置されていてもよい。第1対極は第3作用電極に電流を流すためのものである。
第1対極の材料としては、特に限定されるものではなく、電気化学測定に用いられる一般的な電極材料を使用することができ、上記の第2作用電極および第2対極の材料と同様とすることができる。
第1対極の配置としては、第1セル内において第1対極が他の電極と接触しないように配置されていれば特に限定されるものではない。
第1対極の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば円形、楕円形、矩形等の任意の形状とすることができる。
第1対極の形成方法については、上記の第2作用電極および第2対極の形成方法と同様とすることができる。
6.参照電極
本発明においては、第1セル内および第2セル内の少なくともいずれかに参照電極が配置されていてもよい。参照電極は、基準電位を取るためのものである。第2セル内に配置されている参照電極は、変換ストリッピング法における第2段階のストリッピングにおいて、ストリッピング電極の基準電位を決めるために用いることができる。また、第1セルまたは第2セル内に配置されている参照電極は、変換ストリッピング法における第1段階の前電解において、第2作用電極の基準電位を決めるために用いることができる。また、第1セル内に配置されている参照電極は、変換ストリッピング法における第1段階の前電解において、第3作用電極の基準電位を決めるために用いることができる。
参照電極としては、電気化学測定に用いられる一般的な参照電極を使用することができ、例えばパラジウム/水素電極や銀/塩化銀電極を用いることができる。
参照電極の配置としては、参照電極が第1セル内および第2セル内の少なくともいずれか配置されていればよく、例えば第1セル内のみに配置されていてもよく、第2セル内のみに配置されていてもよく、第1セル内および第2セル内の両方に配置されていてもよい。
参照電極の配置としては、第1セルおよび第2セル内において参照電極が他の電極と接触しないように配置されていれば特に限定されるものではない。
参照電極の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば円形、楕円形、矩形等の任意の形状とすることができる。
参照電極の形成方法については、上記の第2作用電極および第2対極の形成方法と同様とすることができる。
7.導線および端子
本発明において、基板上には、上記の第1作用電極、ストリッピング電極、第2作用電極、第2対極、第3作用電極、第1対極、参照電極等の電極とともに、各電極にそれぞれ電気的に接続された導線および端子を形成することができる。
導線および端子の材料としては、検出電流値に影響を及ぼさない導電性が確保されればよく、一般的な導電材料を使用することができるが、中でも、導電性の観点から、金、白金、銀等の貴金属であることが好ましい。
導線および端子の形成方法は、上記の第2作用電極および第2対極の形成方法と同様とすることができる。
また、導線および端子は、各電極と同時に形成してもよく、各電極とは別に形成してもよい。
8.第1セルおよび第2セル
本発明における第1セルは、基板上に配置され、第1セル内に第1作用電極、第2作用電極または第2対極、第3作用電極、第1対極等が配置されるものである。また、第1セルは、少なくとも化学物質を含む被検体を収容し得るものである。
また、本発明における第2セルは、基板上に配置され、第2セル内にストリッピング電極、第2作用電極または第2対極等が配置されるものである。また、第2セルは、金属イオンを含む溶液または上記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を収容し得るものである。
第1セルおよび第2セルの形状としては特に限定されるものではなく、例えば円形、楕円形、矩形等の任意の形状とすることができる。
本発明の電極チップにおいては、第1セルに被検体を数μL〜数十μL程度供給して測定を行うことができることから、第1セルの容量としては、例えば1mm〜200mmの範囲内で設定することができ、好ましくは1mm〜100mmの範囲内、さらに好ましくは1mm〜50mmの範囲内である。第2セルの容量も第1セルの容量と同様とすることができる。また、第1セルおよび第2セルの大きさとしては、例えば第1セルおよび第2セルの形状が円形である場合には、直径が1mm〜5mm程度、深さが1mm〜10mm程度とすることができる。
第1セルおよび第2セルは、例えば図1(b)に示すように基板2上に開口部を有する仕切部材15を配置することによって形成することができる。
仕切部材としては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば樹脂基板、ガラス基板等が挙げられる。
仕切部材の外周の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば正方形、矩形、円形、楕円形等の任意の形状とすることができる。
仕切部材は、少なくとも端子が露出し、第1セルおよび第2セル内に所定の電極が配置されるように基板上に配置される。仕切部材は、例えば接着剤や粘着剤を介して基板に貼付することができる。
9.基板
本発明に用いられる基板としては、上記の各電極が形成可能であり、表面が絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばガラス基板、樹脂基板、セラミック基板等が挙げられる。
基板の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば正方形、矩形、円形、楕円形等、任意の形状とすることができる。
10.上部基板
本発明においては、図5に例示するように仕切部材15上に上部基板16が配置されていてもよい。
また、図5に例示するように、上部基板16は、第1セル3内に被検体等を導入するための第1貫通孔17aおよび第2セル4内に金属イオンを含む溶液または上記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を導入するための第2貫通孔17bを有していてもよい。また、図示しないが、上部基板には、空気孔が形成されていてもよい。
上部基板としては、表面が絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばガラス基板、樹脂基板等が挙げられる。
上部基板の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば正方形、矩形、円形、楕円形等の任意の形状とすることができる。
上部基板は、少なくとも端子が露出するように仕切部材上に配置される。上部基板は、例えば接着剤や粘着剤を介して仕切部材に貼付することができる。
11.絶縁層
本発明においては、導線を覆うように絶縁層を形成することができる。絶縁層により、導線の酸化を抑制するとともに、ショートを防ぐことができる。
絶縁層の材料としては、例えば熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等を用いることができる。
絶縁層の形成方法としては、導線を覆い、各電極および端子を覆わないように絶縁層をパターン状に形成することができる方法であればよく、例えばフォトリソグラフィー法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
12.酸化還元物質を遊離または生成する物質
本発明においては、第1セル内に酸化還元物質を遊離または生成する物質を配置してもよい。
例えば、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合、図6に例示するように、第1セル3内に酸化還元物質が結合した合成基質21が配置されていてもよい。
酸化還元物質が結合した合成基質としては、例えば一端に酸化還元物質が結合し、他端にペプチドの保護基が結合したオリゴペプチドを用いることができる。このようなオリゴペプチドとしては、X−A−Zで示されるものを挙げることができる。ここで、Xは保護基、Aはオリゴペプチド、Zは酸化還元物質を表す。
保護基Xは、ペプチドの保護基であり、例えば、t−ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンゾイル基、アセテート基等を挙げることができる。
オリゴペプチドとしては、ライセート試薬の作用によって酸化還元物質を遊離することができるものであれば特に限定されるものではない。中でも、オリゴペプチドは、アミノ酸数が2〜10、特に2〜5、さらには3〜4のものが好ましい。
例えば、トリペプチドとしては、Leu−Gly−Arg、Thr−Gly−Arg等を例示することができる。また、例えば、一般式:R−Gly−Arg−ZにおけるL−アミノ酸を有するトリペプチドを挙げることができる。ここで、RはN−ブロックされたアミノ酸、Zは酸化還元物質を表す。
また、一般式:R−A−A−A−A−Zにおけるテトラペプチドを挙げることができる。ここで、Rは水素、ブロックしている芳香族炭化水素またはアシル基を表し、AはIle、ValまたはLeuから選択されるL−アミノ酸またはD−アミノ酸を表し、AはGluまたはAspを表し、AはAlaまたはCysを表し、AはArgを表し、Zは酸化還元物質を表す。
酸化還元物質としては、ライセート試薬の作用によって合成基質から遊離するものであればよく、還元状態の酸化還元物質および酸化状態の酸化還元物質のいずれであってもよい。例えば、パラアミノフェノール(pAP)、パラメトキシアニリン(pMA)、パラニトロアニリン(pNA)等が挙げられる。
酸化還元物質が結合した合成基質の配置としては、第1セル内であればよく、酸化還元物質が結合した合成基質が、基板側に配置されていてもよく、上部基板側に配置されていてもよい。
酸化還元物質が結合した合成基質を配置する方法としては、例えば酸化還元物質が結合した合成基質を蒸留水や緩衝液等に溶解させ、ディスペンサーを用いた方法やインクジェット法等にて塗布し、乾燥する方法が挙げられる。緩衝液としては、例えば、Tris−Ac緩衝液、Tris−HCl緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、PIPES緩衝液等を用いることができる。
また例えば、化学物質が酵素である場合、第1セル内に酸化還元物質を遊離または生成する物質を配置することができる。
なお、酸化還元物質を遊離または生成する物質については、後述の「B.化学物質の定量方法」に記載するので、ここでの説明は省略する。
酸化還元物質を遊離または生成する物質の配置およびその方法については、上記酸化還元物質が結合した合成基質の配置及びその方法と同様とすることができる。
13.ライセート試薬
本発明においては、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合、図6に例示するように、第1セル3内にライセート試薬22が配置されていてもよい。
ライセート試薬としては、Limulus Amebocyte Lysate(LAL)といわれるカブトガニの血球抽出成分により調製されたものを用いることができる。また、ライセート試薬として、生体由来成分から単離精製されたC因子、G因子、凝固酵素等や、遺伝子組換え技術によって作製された組換えC因子等を適宜使用して調製した「LALの同等物」を用いることもできる。
ライセート試薬の配置としては、第1セル内であればよく、ライセート試薬が、基板側に配置されていてもよく、上部基板側に配置されていてもよい。
また、ライセート試薬は、酸化還元物質が結合した合成基質とは別に配置されていてもよく、酸化還元物質が結合した合成基質と混合して配置されていてもよい。
ライセート試薬を配置する方法としては、上記の酸化還元物質が結合した合成基質を配置する方法と同様とすることができる。
14.用途
本発明の電極チップは、変換ストリッピング法による化学物質の定量に用いられるものである。本発明が適用される化学物質は、それ自体が酸化還元物質であってもよい。酸化還元物質としては、例えばルテニウムヘキサミン、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロセンカルボン酸、フェロセンメタノール、パラアミノフェノール、パラメトキシアニリン、パラニトロアニリン等が挙げられる。また、化学物質としては、例えば微生物夾雑物、酵素、酸素等が挙げられる。
中でも、化学物質は微生物夾雑物であることが好ましい。微生物夾雑物としては、ライセート試薬反応性物質であればよく、エンドトキシン、(1→3)−β−D−グルカンを例示することができる。エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁に存在する物質であり、また(1→3)−β−D−グルカンは酵母やカビ等の真菌の細胞壁に存在する物質であり、発熱性等の種々の生物活性を有している。そのため、例えば透析液、注射薬、移植組織片、人工授精の受精卵の培養溶液等の医薬品や医療用具がエンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカン等の微生物夾雑物で汚染された場合、極微量でも重篤な結果を招くことがあり、これらの微生物夾雑物の汚染量は厳密に管理されなければならない。しかしながら、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカン等の微生物夾雑物は環境中に普遍的に存在し、さらに耐熱性を有するために加熱除去が困難であり、混入防止管理は非常に難しい。本発明においては高感度に化学物質を定量することができるため、本発明の電極チップは高感度検出が求められる微生物夾雑物の定量に好適である。
なお、変換ストリッピング法による化学物質の定量について、詳しくは後述の「B.化学物質の定量方法」に記載するので、ここでの説明は省略する。
B.化学物質の定量方法
本発明の化学物質の定量方法は、2つの実施態様を有する。以下、各実施態様に分けて説明する。
1.第1実施態様
本実施態様に化学物質の定量方法は、変換ストリッピング法による化学物質の定量方法であって、第1セル、第2セル、上記第1セル内に配置された第1作用電極、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極、上記第1セル内に配置され、上記第1作用電極に隣接して配置された第3作用電極、上記第1セル内に配置され、上記第3作用電極に電流を流すための第1対極、第2作用電極、および上記第2作用電極に電流を流すための第2対極を有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されている測定用セルを準備し、上記第2セル内に金属イオンを含む溶液または上記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を供給する準備工程と、上記第1セル内に、上記化学物質を含む被検体を供給する被検体供給工程と、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極を接続した状態で、上記第3作用電極に電位を印加するとともに、上記第2作用電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極表面に金属または金属塩を析出させる前電解工程と、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極の接続を切り、上記ストリッピング電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極に流れた電流値を測定するストリッピング工程と、上記電流値に基づいて上記化学物質を定量する定量工程とを有することを特徴とする。
図4は本実施態様における測定用セルの一例を示す模式図である。なお、図4に示す測定用セルを用いた化学物質の定量方法の一例については、上記「A.電極チップ」に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
本実施態様においては、前電解工程では、第2セル内に第2作用電極を配置し、第1セル内に第2対極を配置して、第2作用電極および第2対極の間に電流を流すことによって、第2作用電極および第2対極上で起こる電気化学反応により第1セルおよび第2セルでの電荷のバランスを維持することができ、第1セルおよび第2セルでの電気的導通を確保することができる。したがって、従来のような塩橋や液絡が不要であり、測定用セルを簡便な方法で作製することが可能である。また、測定用セルの構成を簡素化することができ、測定用セルの小型化が可能になる。
また、本実施態様の化学物質の定量方法は、変換ストリッピング法を利用するものであり、変換ストリッピング法においては、前電解時間が長いほど金属または金属塩の析出量が増加するため、化学物質の検出感度を高めることができる。さらに、本実施態様において、前電解工程では第3作用電極および第1作用電極の間で自己誘発レドックスサイクルが起こるため、電流値を増幅することができ、検出感度をさらに高めることができる。そのため、微量の被検体であっても、化学物質の濃度を測定することができる。したがって、本実施態様においては、簡易操作で高感度に化学物質を検出可能であり、さらに測定用セルの小型化が可能であるため、例えば医療用現場で実用的に使用することができる。
また、本実施態様は電気化学的測定方法であり、光による検出方法ではないため、透明性の高い被検体や、組織液等の多成分系の被検体も測定対象にできると考えられ、実用性が極めて高い。
また本実施態様においては、酸化還元物質の酸化還元反応によって生じる電流を即座に金属または金属塩の析出に変換することができる。そのため、不安定な酸化還元物質については、時間経過による電気化学活性の減少の影響を受けにくくすることができる。したがって、安定して化学物質を測定することが可能になる。
以下、本実施態様の化学物質の定量方法における各工程について説明する。
(1)準備工程
本実施態様における準備工程は、第1セルと、第2セルと、上記第1セル内に配置された第1作用電極と、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極と、上記第1セル内に配置され、上記第1作用電極に隣接して配置された第3作用電極と、上記第1セル内に配置され、上記第3作用電極に電流を流すための第1対極と、第2作用電極と、上記第2作用電極に電流を流すための第2対極とを有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されている測定用セルを準備し、上記第2セル内に金属イオンを含む溶液または上記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を供給する工程である。
測定用セルは、第1セルと、第2セルと、上記第1セル内に配置された第1作用電極と、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極と、上記第1セル内に配置され、上記第1作用電極に隣接して配置された第3作用電極と、上記第1セル内に配置され、上記第3作用電極に電流を流すための第1対極と、第2作用電極と、上記第2作用電極に電流を流すための第2対極とを有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されているものである。
測定用セルとしては、例えば、上述の電極チップを用いることができる。また、第1セルおよび第2セルにそれぞれ所定の電極を挿入することで、測定用セルを構成することもできる。
第1電源部および第2電源部としては、一般に電気化学測定に使用される装置を用いることができ、例えばポテンショスタットを挙げることができる。
金属イオンを含む溶液を用いる場合、溶液に含まれる金属イオンとしては、例えば銀イオン、銅イオン等が挙げられる。
銀イオンを含む溶液としては、例えば硝酸銀水溶液が挙げられる。また、銅イオンを含む溶液としては、例えば硫酸銅水溶液が挙げられる。
また、金属イオンを含む溶液には、電流を流すために、硝酸カリウム水溶液等を添加してもよい。
また、ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を用いる場合、溶液に含まれるハロゲン化物イオンとしては、ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するものであればよいが、ストリッピング電極が銀電極である場合、中でもヨウ化物イオン、臭化物イオン、塩化物イオンであることが好ましく、特にヨウ化物イオンであることが好ましい。
ヨウ化物イオンを含む溶液としては、例えばヨウ化カリウム水溶液が挙げられる。
(2)被検体供給工程
本実施態様における被検体供給工程は、上記第1セル内に、上記化学物質を含む被検体を供給する工程である。
化学物質については、上記「A.電極チップ」に記載した酸素以外の化学物質と同様であるので、ここでの説明は省略する。
化学物質はそれ自体が酸化還元物質であってもよく、被検体は化学物質に加えて酸化還元物質を含んでいてもよい。被検体が化学物質および酸化還元物質を含む場合には、酸化還元物質の濃度を測定することで、化学物質を定量することができる。
被検体が化学物質および酸化還元物質を含有する場合、酸化還元物質としては、化学物質の種類に応じて適宜選択される。
例えば化学物質が酵素である場合、酸化還元物質としては、還元状態の酸化還元物質および酸化状態の酸化還元物質のいずれも用いることができ、酵素の種類によって適宜選択される。具体的には、ルテニウムヘキサミン、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化カリウム、フェロセンカルボン酸、フェロセンメタノールのような電子伝達メディエータが挙げられる。この場合、酸化還元物質に修飾された化学物質を用いてもよい。
また、化学物質を含む被検体に加えて酸化還元物質を遊離または生成する物質を用いてもよい。この場合には、第1セル内に、化学物質を含む被検体および酸化還元物質を遊離または生成する物質を供給し、後述の反応工程において、上記物質から酸化還元物質を遊離または生成させる。
ここで、「酸化還元物質を遊離または生成する物質」とは、後述の反応工程における反応、例えば多段階反応や酵素反応によって酸化還元物質を遊離または生成するものをいう。酸化還元物質を遊離または生成する物質は、それ自体が酸化還元性を示すものであってもよい。
酸化還元物質を遊離または生成する物質としては、化学物質の種類に応じて適宜選択される。
例えば化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合、酸化還元物質を遊離または生成する物質としては、酸化還元物質が結合した合成基質を用いることができる。酸化還元物質が結合した合成基質については、上記「A.電極チップ」に記載したので、ここでの説明は省略する。
また例えば化学物質が酵素である場合、酸化還元物質を遊離または生成する物質としては、基質や電子伝達メディエータを用いることができる。基質および電子伝達メディエータとしては、酵素反応によって酸化還元物質を遊離または生成するものであればよく、酵素の種類に応じて適宜選択される。
例えば、酵素がアルカリフォスファターゼ(ALP)の場合、基質としてはパラアミノフェニルフォスフェート(pAPP)等のパラアミノフェニルリン酸が用いられ、酵素反応によって基質からパラアミノフェノール(pAP)が遊離する。酵素がβ−ガラクトシダーゼの場合、基質としてはβ−アミノフェニル−d−ガラクトピラノシド(pAPG)が用いられ、酵素反応によって基質からパラアミノフェノール(pAP)が遊離する。
また例えば、酵素がHRPのようなペルオキシダーゼであり、基質が過酸化水素である場合、電子伝達メディエータとしてはフェロセンメタノール(FcOH)が用いられ、下記式に示すように酵素反応によってフェロセンメタノールカチオン(FcOH)が生成する。同様に、酵素がグルコースオキシダーゼであり、基質が過酸化水素である場合、電子伝達メディエータとしてはフェロセンメタノール(FcOH)が用いられ、下記式に示すように酵素反応によってフェロセンメタノールカチオン(FcOH)が生成する。
2FcOH + H + 2H → 2FcOH + 2H
また、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合には、第1セル内に、微生物夾雑物を含む被検体、ライセート試薬、および酸化還元物質が結合した合成基質を供給することが好ましい。
ライセート試薬については、上記「A.電極チップ」に記載したので、ここでの説明は省略する。
また、化学物質が酵素である場合、第1セル内に、酵素を含む被検体、および基質を供給してもよく、酵素を含む被検体、基質、および電子伝達メディエータを供給してもよい。
(3)反応工程
本実施態様においては、酸化還元物質を遊離または生成する物質から酸化還元物質を遊離または生成する反応工程を行ってもよい。
酸化還元物質を遊離または生成する反応としては、化学物質の種類に応じて適宜選択される。
例えば、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合、上記第1セル内にて、微生物夾雑物を含む被検体、ライセート試薬、および酸化還元物質が結合した合成基質を接触させて、多段階反応により合成基質からの酸化還元物質の遊離反応を生じさせることが好ましい。
図7は、多段階反応の一例を示す模式図であり、微生物夾雑物がエンドトキシンであり、酸化還元物質がパラアミノフェノール(pAP)である場合の例である。図7に例示するように、多段階反応においては、エンドトキシンを含む被検体をライセート試薬のC因子に作用させることにより、C因子から活性型C因子を、B因子から活性型B因子を、凝固酵素前駆体から活性型凝固酵素を次々に発生させ、この活性型凝固酵素により、pAPが結合した合成基質からpAPを遊離させる。
図8は、多段階反応の他の例を示す模式図であり、微生物夾雑物が(1→3)−β−D−グルカンであり、酸化還元物質がパラアミノフェノール(pAP)である場合の例である。図4に例示するように、多段階反応においては、(1→3)−β−D−グルカンを含む被検体をライセート試薬のG因子に作用させることにより、G因子から活性型G因子を、凝固酵素前駆体から活性型凝固酵素を次々に発生させ、この活性型凝固酵素により、pAPが結合した合成基質からpAPを遊離させる。
また例えば、化学物質が酵素である場合、上記第1セル内にて、酵素を含む被検体と基質とを接触させて、酵素反応により基質から酸化還元物質を遊離させてもよく、上記第1セル内にて、酵素を含む被検体と基質と電子伝達メディエータとを接触させて、酵素反応により電子伝達メディエータから酸化還元物質を生成させてもよい。なお、具体例については、上記被検体供給工程に記載したので、ここでの説明は省略する。
以下、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合であって、ライセート試薬および酸化還元物質が結合した合成基質を用いる場合について説明する。
微生物夾雑物を含む被検体と、ライセート試薬および酸化還元物質が結合した合成基質とを接触させる際には、pH6.0〜9.0、中でもpH7.0〜8.5の緩衝液を併用することが好ましい。これにより、酸化還元物質の遊離量を増加させることができる。緩衝液としては、例えば、Tris−Ac緩衝液、Tris−HCl緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、PIPES緩衝液等が挙げられる。
多段階反応により生じた活性型凝固酵素によって、被検体、ライセート試薬、および酸化還元物質が結合した合成基質の混合物中には、酸化還元物質が結合した合成基質から酸化還元物質が遊離する。
多段階反応および遊離反応時には、反応を活性化するために、加温することが好ましい。多段階反応および遊離反応の反応温度としては、好ましくは20℃〜50℃の範囲内、より好ましくは25〜45℃の範囲内、特に好ましくは37℃程度である。
また、反応時間は、好ましくは30分間以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上である。これにより、充分な量の遊離した酸化還元物質を得ることができる。
なお、被検体とライセート試薬と酸化還元物質が結合した合成基質との合計容量が1mm〜200mmの範囲内、特に1mm〜100mmの範囲内、さらには1mm〜50mmの範囲内のように少ない場合は、反応温度を30℃〜40℃程度とし、反応時間を15分間〜1時間程度とすることができる。
本実施態様においては、反応工程と前電解工程とは別々に行ってもよく同時に行ってもよいが、同時に行うことが好ましい。
(4)前電解工程
本実施態様における前電解工程は、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極を接続した状態で、上記第3作用電極に電位を印加するとともに、上記第2作用電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極表面に金属または金属塩を析出させる工程である。
前電解工程では、第3作用電極および第1作用電極の間で自己誘発レドックスサイクルが起こる。この際、ストリッピング電極と接続されている第1作用電極上で酸化反応が生じる場合には、ストリッピング電極上では下記式(2)に示す銀イオンの還元反応のように金属イオンの還元反応が生じ、金属が析出する。一方、ストリッピング電極と接続されている第1作用電極上で還元反応が生じる場合であって、ストリッピング電極が銀電極である場合には、ストリッピング電極上で下記式(5)に示すような銀の還元反応が生じ、ハロゲン化銀が析出する。
Ag + e → Ag↓ (2)
Ag + X → AgX↓ e (5)
(上記式(5)において、Xはヨウ素原子、臭素原子または塩素原子を表す。)
例えば、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合であって、酸化還元物質が還元状態の酸化還元物質である場合について説明する。この場合には、上記「A.電極チップ」に記載した、酸化還元物質が結合した合成基質としてBoc−Leu−Gly−Arg−pAPを用いた場合のように、まず、合成基質から酸化還元物質が遊離すると、第1セルでの電位が変化し、第1セルおよび第2セルでの電位差が第2セルで銀イオンの還元反応が進む方向に大きくなり、その結果、第1セルで酸化還元物質の酸化反応が自動的に進行する。
例えば酸化還元物質がパラアミノフェノール(pAP)である場合、第1作用電極上では下記式(1)に示すpAPの酸化反応が生じる。また、例えば酸化還元物質がパラメトキシアニリン(pMA)である場合、第1作用電極上では下記式(6)に示すpMAの酸化反応が生じる。
この場合、第3作用電極にキノンイミン(QI)の還元電位以下の電位を印加すると、第3作用電極上でQIの還元反応が生じ、第1作用電極上でpAPまたはpMAの酸化反応が生じ、第3作用電極および第1作用電極の間で自己誘発レドックスサイクルが起こる。つまり、例えば酸化還元物質がpAPである場合、第1作用電極上で下記式(1)に示されるように酸化反応が生じ、第3作用電極上で下記式(4)に示されるように還元反応が生じる。また、例えば酸化還元物質がpMAである場合、第1作用電極上で下記式(6)に示されるように酸化反応が生じ、第3作用電極上で下記式(7)で示されるように還元反応が生じる。
この場合には、第3作用電極に酸化還元物質のQIの還元電位以下の電位を印加することで、第3作用電極上でQIの還元反応を生じさせて、自己誘発レドックスサイクルにより、電流値を増幅させることができる。
Figure 2015190939
Figure 2015190939
この場合には、第1作用電極上で酸化反応が生じるため、ストリッピング電極上では金属イオンの還元反応が生じ、ストリッピング電極表面に金属が析出する。
また例えば、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合であって、酸化還元物質が酸化状態の酸化還元物質である場合について説明する。反応後の、微生物夾雑物を含む被検体、ライセート試薬、および酸化還元物質が結合した合成基質の混合物には、合成基質から遊離した酸化還元物質が存在しており、第3作用電極に酸化還元物質の還元電位以下の電位を印加すると、まず第3作用電極上で酸化還元物質の還元反応が生じ、続いて第1作用電極上で酸化反応が生じ、第3作用電極および第1作用電極の間で自己誘発レドックスサイクルが起こる。例えば酸化還元物質がパラニトロアニリン(pNA)である場合、第3作用電極上で下記式(8)に示される還元反応が生じ、第1作用電極上で下記式(9)に示される酸化反応が生じる。
Figure 2015190939
この場合にも、第1作用電極上で酸化反応が生じるため、ストリッピング電極上では金属イオンの還元反応が生じ、ストリッピング電極表面に金属が析出する。
また、例えば化学物質が酵素である場合であって、酸化還元物質が酸化状態の酸化還元物質である場合について説明する。第3作用電極に酸化還元物質の還元電位以下の電位を印加すると、まず第3作用電極上で酸化還元物質の還元反応が生じ、続いて第1作用電極上で酸化反応が生じ、第3作用電極および第1作用電極の間で自己誘発レドックスサイクルが起こる。
この場合には、第1作用電極上で酸化反応が生じるため、ストリッピング電極上では金属イオンの還元反応が生じ、ストリッピング電極表面に金属が析出する。
さらに、例えば化学物質が酵素である場合であって、酸化還元物質が還元状態の酸化還元物質である場合について説明する。第3作用電極に酸化還元物質の酸化電位以上の電位を印加すると、まず第3作用電極上で酸化還元物質の酸化反応が生じ、続いて第1作用電極上で還元反応が生じ、第3作用電極および第1作用電極の間で自己誘発レドックスサイクルが起こる。
この場合には、第1作用電極上で還元反応が生じるため、ストリッピング電極に含まれる金属の酸化反応が生じ、ストリッピング電極表面に金属塩が析出する。
第3作用電極に印加する電位は、酸化還元物質の酸化電位以上または還元電位以下であればよく、適宜選択される。ストリッピング電極表面に金属を析出させる場合、ストリッピング電極で還元反応が起こるように、自己誘発レドックスサイクルでは、第1作用電極で酸化反応、第3作用電極で還元反応が起きる必要があるため、第3作用電極には酸化還元物質または酸化還元物質が酸化されたものの還元電位以下の電位を印加する。また、ストリッピング電極表面に金属塩を析出させる場合には、ストリッピング電極で酸化反応が起こるように、自己誘発レドックスサイクルでは、第1作用電極で還元反応、第3作用電極で酸化反応が起きる必要があるため、第3作用電極には酸化還元物質の酸化電位以上の電位を印加する。
なお、化学物質が微生物夾雑物である場合であって、酸化還元物質が結合した合成基質を用いる場合には、酸化還元物質が結合した合成基質も、酸化還元物質が結合した合成基質の酸化電位以上または還元電位以下になると、酸化または還元される場合がある。そのため、第3作用電極に印加する電位は、酸化還元物質が結合した合成基質の酸化電位よりも低く、または還元電位よりも高くなるように設定することが好ましい。
また、第1セル内の混合液および第2セル内の溶液の電荷のバランスを維持するため、第2作用電極では、特定の電位において酸化反応を生じさせる。例えば、第2作用電極が銀電極である場合には、下記式(10)で示される銀の酸化反応が生じる。
Ag → Ag + e (10)
また例えば、第2作用電極が金、白金、パラジウム等の電極である場合には、水や酸素等の酸化反応が生じると考えられる。
第2作用電極に印加する電位は、上記のような酸化反応が起こり得る電位であればよい。
自己誘発レドックスサイクルは、第3作用電極に酸化還元物質の酸化電位以上または還元電位以下の電位を印加し続ける限り継続される。そのため、第3作用電極に電位を印加する時間、すなわち前電解時間が長いほど、金属または金属塩の析出量が増加する。
前電解時間としては、所望の検出感度が得られればよく、例えば、10分〜1時間の範囲内で設定することができる。前電解時間が長いほど、高感度検出が可能になる。
(5)ストリッピング工程
本実施態様におけるストリッピング工程は、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極の接続を切り、上記ストリッピング電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極に流れた電流値を測定する工程である。
前電解工程においてストリッピング電極表面に金属が析出した場合には、ストリッピング電極の電位を掃引し、金属の酸化電位以上になると、ストリッピング電極表面に析出した金属が溶解する。また、前電解工程においてストリッピング電極表面に金属塩が析出した場合には、ストリッピング電極の電位を掃引し、金属イオンの還元電位以下になると、金属塩が電気分解され、ハロゲン化物イオンが溶解し、ストリッピング電極には金属が生成する。このとき、ストリッピング電極に大きな電流が流れる。電流ピークは、ストリッピング電極表面に析出した金属または金属塩の量に比例し、金属または金属塩の析出量は、酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。そのため、電流ピークから、酸化還元物質の濃度を算出することができる。
また、化学物質が微生物夾雑物である場合であって、酸化還元物質が結合した合成基質を用いる場合には、金属の析出量は、合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。そのため、電流ピークから、合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度を算出することができる。
また、化学物質が酵素である場合であって、基質を用い、酵素反応により基質から酸化還元物質を遊離する場合には、金属または金属塩の析出量は、基質から遊離した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。そのため、電流ピークから、基質から遊離した酸化還元物質の濃度を算出することができる。
また、化学物質が酵素である場合であって、基質および電子伝達メディエータを用い、酵素反応により電子伝達メディエータから酸化還元物質を生成する場合には、金属または金属塩の析出量は、電子伝達メディエータから生成した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。そのため、電流ピークから、電子伝達メディエータから生成した酸化還元物質の濃度を算出することができる。
ストリッピング電極に電位を印加する際、ストリッピング電極の対極として、第2セル内に配置されている第2作用電極または第2対極を利用してもよく、第2セル内に別途電極を配置してもよい。
測定装置としては、一般に電気化学測定に使用される装置を用いることができ、例えばポテンショスタット、電流増幅器、これらと同等の機能を持つ装置を挙げることができる。
なお、ストリッピング工程では、第2作用電極および第2対極の間に電流を流さない。
(6)定量工程
本実施態様における定量工程は、上記電流値に基づいて化学物質を定量する工程である。
上述したように、電流ピークは、ストリッピング電極表面に析出した金属または金属塩の量に比例し、金属または金属塩の析出量は、酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。そのため、電流ピークから、酸化還元物質の濃度を算出し、酸化還元物質の濃度に基づいて化学物質を定量することができる。したがって、化学物質の濃度および電流値の相関を示した検量線を予め作成することにより、電流値から、化学物質の濃度を測定することができる。
また、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合であって、酸化還元物質が結合した合成基質を用いる場合、金属の析出量は、合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。また、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度と多段階反応の進行とには相関があるため、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度と合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度とにも相関がある。そのため、電流ピークから、合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度を算出し、合成基質から遊離した酸化還元物質の濃度に基づいて微生物夾雑物を定量することができる。したがって、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度および電流値の相関を示した検量線を予め作成することにより、電流値から、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度を測定することができる。
また、化学物質が酵素である場合であって、基質を用い、酵素反応により基質から酸化還元物質を遊離する場合、金属または金属塩の析出量は、基質から遊離した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。また、酵素の濃度と酵素反応の進行とには相関があるため、酵素の濃度と基質から遊離した酸化還元物質の濃度とにも相関がある。そのため、電流ピークから、基質から遊離した酸化還元物質の濃度を算出し、基質から遊離した酸化還元物質の濃度に基づいて酵素活性を定量することができる。したがって、酵素の濃度および電流値の相関を示した検量線を予め作成することにより、電流値から、酵素の濃度を測定することができる。
また、化学物質が酵素である場合であって、基質および電子伝達メディエータを用い、酵素反応により電子伝達メディエータから酸化還元物質を生成する場合、金属または金属塩の析出量は、電子伝達メディエータから生成した酸化還元物質の濃度および前電解時間の積に比例する。また、酵素の濃度と酵素反応の進行とには相関があるため、酵素の濃度と電子伝達メディエータから生成した酸化還元物質の濃度とにも相関がある。そのため、電流ピークから、電子伝達メディエータから生成した酸化還元物質の濃度を算出し、電子伝達メディエータから生成した酸化還元物質の濃度に基づいて酵素を定量することができる。したがって、酵素の濃度および電流値の相関を示した検量線を予め作成することにより、電流値から、酵素の濃度を測定することができる。
本実施態様においては、前電解時間を十分に長くすることによって、金属または金属塩の析出量を増やし、大きなピーク電流を得ることができる。したがって、化学物質が微量であっても、高感度検出が可能である。
2.第2実施態様
本実施態様の化学物質の定量方法は、変換ストリッピング法による化学物質の定量方法であって、第1セル、第2セル、上記第1セル内に配置された第1作用電極、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極、第2作用電極、および上記第2作用電極に電流を流すための第2対極を有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されている測定用セルを準備し、上記第2セル内に金属イオンを含む溶液または上記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を供給する準備工程と、上記第1セル内に、上記化学物質を含む被検体および酸化還元物質を遊離または生成する物質を供給する被検体供給工程と、上記物質から上記酸化還元物質を遊離または生成する反応工程と、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極を接続した状態で、上記第2作用電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極表面に金属または金属塩を析出させる前電解工程と、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極の接続を切り、上記ストリッピング電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極に流れた電流値を測定するストリッピング工程と、上記電流値に基づいて上記化学物質を定量する定量工程とを有することを特徴とする。
図2は本実施態様における測定用セルの一例を示す模式図である。なお、図2に示す測定用セルを用いた化学物質の定量方法の一例については、上記「A.電極チップ」に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
本実施態様においては、前電解工程では、第2セル内に第2作用電極を配置し、第1セル内に第2対極を配置して、第2作用電極および第2対極の間に電流を流すことによって、第2作用電極および第2対極上で起こる電気化学反応により第1セルおよび第2セルでの電荷のバランスを維持することができ、第1セルおよび第2セルでの電気的導通を確保することができる。したがって、従来のような塩橋や液絡が不要であり、測定用セルを簡便な方法で作製することが可能である。また、測定用セルの構成を簡素化することができ、測定用セルの小型化が可能になる。
また、本実施態様の化学物質の定量方法は、変換ストリッピング法を利用するものであり、変換ストリッピング法においては、前電解時間が長いほど金属または金属塩の析出量が増加するため、化学物質の検出感度を高めることができる。そのため、微量の被検体であっても、化学物質の濃度を測定することができる。したがって、本実施態様においては、簡易で高感度に化学物質を検出可能であり、さらに測定用セルの小型化が可能であるため、例えば医療用現場で実用的に使用することができる。
また、本実施態様は電気化学的測定方法であり、光による検出方法ではないため、透明性の高い被検体や、組織液等の多成分系の被検体も測定対象にできると考えられ、実用性が極めて高い。
また本実施態様においては、酸化還元物質の酸化還元反応によって生じる電流を即座に金属または金属塩の析出に変換することができる。そのため、不安定な酸化還元物質については、時間経過による電気化学活性の減少の影響を受けにくくすることができる。したがって、安定して化学物質を測定することが可能になる。
以下、本実施態様の化学物質の定量方法における各工程について説明する。
(1)準備工程
本実施態様における準備工程は、第1セルと、第2セルと、上記第1セル内に配置された第1作用電極と、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極と、第2作用電極と、上記第2作用電極に電流を流すための第2対極とを有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されている測定用セルを準備し、上記第2セル内に金属イオンを含む溶液または上記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を供給する工程である。
測定用セルは、第1セルと、第2セルと、上記第1セル内に配置された第1作用電極と、上記第2セル内に配置され、上記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極と、第2作用電極と、上記第2作用電極に電流を流すための第2対極とを有し、上記第2作用電極および上記第2対極のうち、一方が上記第1セル内に配置され、他方が上記第2セル内に配置されているものである。
測定用セルとしては、例えば、上述の電極チップを用いることができる。また、第1セルおよび第2セルにそれぞれ所定の電極を挿入することで、測定用セルを構成することもできる。
第2電源部および第3電源部としては、一般に電気化学測定に使用される装置を用いることができ、例えばポテンショスタットを挙げることができる。
金属イオンを含む溶液およびストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液については、上記第1実施態様と同様である。
(2)被検体供給工程
本実施態様における被検体供給工程は、上記第1セル内に、上記化学物質を含む被検体および酸化還元物質を遊離または生成する物質を供給するである。
化学物質については、上記「A.電極チップ」に記載したので、ここでの説明は省略する。
また、酸化還元物質を遊離または生成する物質については、上記第1実施態様に記載した、酸化還元物質を遊離または生成する物質の中から適宜選択して用いることができる。
また例えば、生物または細胞の呼吸代謝に関わる酸素を定量する場合には、Anal.Chem.2014,86,p.304−307に記載されているような構成とすることができる。この場合の酸化還元物質は酸素である。
また、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合には、第1セル内に、化学物質を含む被検体、ライセート試薬、および酸化還元物質が結合した合成基質を供給することが好ましい。
ライセート試薬については、上記「A.電極チップ」に記載したので、ここでの説明は省略する。
また、化学物質が酵素である場合、第1セル内に、酵素を含む被検体、および基質を供給してもよく、酵素を含む被検体、基質、および電子伝達メディエータを供給してもよい。
(3)反応工程
本実施態様における反応工程は、上記物質から上記酸化還元物質を遊離または生成する工程である。
反応工程については、上記第1実施態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
(4)前電解工程
本実施態様における前電解工程は、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極を接続した状態で、上記第2作用電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極表面に金属または金属塩を析出させる工程である。
例えば、化学物質が微生物夾雑物であり、エンドトキシンまたは(1→3)−β−D−グルカンである場合であって、酸化還元物質が還元状態の酸化還元物質である場合について説明する。反応後の、微生物夾雑物を含む被検体、ライセート試薬、および酸化還元物質が結合した合成基質の混合物には、合成基質から遊離した酸化還元物質が存在する。酸化還元物質が結合した合成基質(還元体)/(酸化体)の式量電位と、合成基質から遊離した酸化還元物質(還元体)/(酸化体)の式量電位とは異なり、合成基質から遊離した酸化還元物質(還元体)/(酸化体)の式量電位は酸化還元物質が結合した合成基質(還元体)/(酸化体)の式量電位よりも低くなる。そのため、多段階反応により合成基質からの酸化還元物質の遊離反応が生じると、第1セルにおける電位が低下する。これにより、第1セルと第2セルとで電位差が大きくなり、第1作用電極およびストリッピング電極間に電流が流れる。すなわち、第1セルでの電位が変化し、第1セルおよび第2セルでの電位差が第2セルで金属イオンの還元反応が進む方向に大きくなり、その結果、第1セルで酸化還元物質の酸化反応を自動的に進行させることができる。したがって、第1作用電極上では酸化還元物質の酸化反応が生じ、ストリッピング電極上では金属イオンの還元反応が生じ、ストリッピング電極表面に金属が析出する。
具体的に、上記「A.電極チップ」に記載した上記式(1)に示すpAPの酸化反応、上記式(2)に示す銀イオンの還元反応の系で説明する。酸化還元物質が結合した合成基質がBoc−Leu−Gly−Arg−pAPである場合、Boc−Leu−Gly−Arg−pAP(還元体)/(酸化体)の式量電位は0.35V vs.Ag/AgCl、pAP/QIの式量電位は0.03V vs.Ag/AgClである。そのため、Boc−Leu−Gly−Arg−pAPからpAPが遊離すると、第1セル3において電位が低下する。また、上記の系において、銀イオンの還元反応における電位は0.39V vs.Ag/AgClである。そのため、Boc−Leu−Gly−Arg−pAPからpAPが遊離すると、第1セルと第2セルとで電位差が大きくなり、第1作用電極およびストリッピング電極間に電流が流れる。すなわち、第1セルでの電位が変化し、第1セルおよび第2セルでの電位差が第2セルで銀イオンの還元反応が進む方向に大きくなり、その結果、第1セルでpAPの酸化反応を自動的に進行させることができる。したがって、第1作用電極上では上記式(1)で示されるようにpAPが酸化されてキノンイミン(QI)が生成する酸化反応が生じ、ストリッピング電極上では上記式(2)で示される銀イオンの還元反応が生じ、ストリッピング電極表面に銀が析出する。
また例えば、化学物質が酵素であり、基質を用い、酵素反応により基質から還元状態の酸化還元物質を遊離する場合について説明する。酵素反応後は、基質から遊離した酸化還元物質が存在する。基質(還元体)/(酸化体)の式量電位と、基質から遊離した酸化還元物質(還元体)/(酸化体)の式量電位とは異なり、基質から遊離した酸化還元物質(還元体)/(酸化体)の式量電位は基質(還元体)/(酸化体)の式量電位よりも低くなる。そのため、酵素反応により基質からの酸化還元物質の遊離反応が生じると、第1セルにおける電位が低下する。これにより、第1セルと第2セルとで電位差が大きくなり、第1作用電極およびストリッピング電極間に電流が流れる。すなわち、第1セルでの電位が変化し、第1セルおよび第2セルでの電位差が第2セルで金属イオンの還元反応が進む方向に大きくなり、その結果、第1セルで酸化還元物質の酸化反応を自動的に進行させることができる。したがって、第1作用電極上では酸化還元物質の酸化反応が生じ、ストリッピング電極上では金属イオンの還元反応が生じ、ストリッピング電極表面に金属が析出する。
具体的に、酵素がアルカリフォスファターゼ(ALP)であり、基質がパラアミノフェニルフォスフェート(pAPP)である場合、酵素反応によって基質からパラアミノフェノール(pAP)が遊離する。pAP/QIの式量電位はpAPP(還元体)/(酸化体)の式量電位よりも低いため、pAPPからpAPが遊離すると、第1セルにおいて電位が低下する。そのため、pAPPからpAPが遊離すると、第1セルと第2セルとで電位差が大きくなり、第1作用電極およびストリッピング電極間に電流が流れる。すなわち、第1セルでの電位が変化し、第1セルおよび第2セルでの電位差が第2セルで銀イオンの還元反応が進む方向に大きくなり、その結果、第1セルでpAPの酸化反応を自動的に進行させることができる。したがって、第1作用電極上では上記式(1)で示されるようにpAPが酸化されてキノンイミン(QI)が生成する酸化反応が生じ、ストリッピング電極上では上記式(2)で示される銀イオンの還元反応が生じ、ストリッピング電極表面に銀が析出する。
また例えば、生物または細胞の呼吸代謝の場合について説明する。この場合、第1作用電極は白金電極、ストリッピング電極は銀電極であり、第2セルにはヨウ化物イオンを含む溶液が供給される。下記式に示す系において、酸素/水の式量電位は銀/ヨウ化銀の式量電位よりも高い。そのため、第1セル内の溶存酸素により、第1作用電極上では下記式で示されるように酸素の還元反応が生じ、ストリッピング電極上では下記式で示されるように銀の酸化反応が生じ、ストリッピング電極表面にヨウ化銀が析出する。
+4H + 4e → 2H
Ag + I → AgI↓ + e
この場合、上記式で示されるように、代謝によって第1セル内の溶存酸素が消費され、水が生成する。代謝によって酸素が消費されると、第1セルにおいて電位が下降する。そのため、代謝によって酸素が消費されると、第1セルと第2セルとで電位差が小さくなり、第1作用電極およびストリッピング電極間に流れる電流が減少する。したがって、蓄積するヨウ化銀が減少し、下記式で示されるようにストリッピング電極における電流値が減少する。
AgI↓ + e → Ag + I
すなわち、この場合には、代謝によって第1セルの溶液中の酸素濃度が減少するので、第1作用電極およびストリッピング電極間を流れる電流が小さくなり、蓄積するヨウ化銀の量が減少する。代謝が盛んであるほど、ヨウ化銀の蓄積量が減少することになる。
第2作用電極に印加する電位については、上記第1実施態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
前電解時間が長いほど、金属または金属塩の析出量が増加する。前電解時間としては、所望の検出感度が得られればよく、例えば、10分〜1時間の範囲内で設定することができる。前電解時間が長いほど、高感度検出が可能になる。
(5)ストリッピング工程
本実施態様におけるストリッピング工程は、上記第1作用電極および上記ストリッピング電極の接続を切り、上記ストリッピング電極に電位を印加し、上記ストリッピング電極に流れた電流値を測定する工程である。
ストリッピング工程については、上記第1実施態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
(6)定量工程
本実施態様における定量工程は、上記電流値に基づいて化学物質を定量する工程である。
定量工程については、上記第1実施態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
電位差を利用する様態について、前電解時間と銀の蓄積量との関係を評価した。
第1作用電極およびストリッピング電極にBAS社製の直径1.6mmの金電極を、第2対極としてPt板を、第2作用電極としてAg板を、第1セルに挿入する参照電極としてPd板を使用した。第2、第3電源部としてIvium Technologies社製のポテンショスタットCompactStatを使用した。電気化学セルとしてビーカーを使用し、第1セルおよび第2セルに各電極を挿入し、導線を用いて第1作用電極およびストリッピング電極間を接続すると共に、第2対極、第2作用電極および参照電極をそれぞれポテンショスタットの対極、作用極および参照極に接続することで測定系を構築した。
測定対象として、微生物夾雑物を含む被検体、ライセート試薬、および酸化還元物質が結合した合成基質の接触により誘発される多段階反応の結果として生じる酸化還元物質の一つであるpAPを選択し、HEPES緩衝液によって1mMの試料溶液を調製し、第1セルに添加した。一方、銀イオンを含む溶液として硝酸銀(AgNO)水溶液を選択し、0.1Mの硝酸カリウム水溶液で濃度が10mMになるように調製したAgNO水溶液を第2セルに添加した。
ポテンショスタットを用いて0.3V(vs.Pd)を印加し、印加時間を10秒〜600秒の間で変化させ、銀の蓄積量の前電解時間に対する依存性の評価を行った。前電解工程の終了後、第1作用電極およびストリッピング電極間の接続、ならびに第2対極、第2作用電極および参照電極とポテンショスタットとの接続を解除し、第2セルの溶液を0.1M硝酸カリウム水溶液に置換し、ストリッピング工程を行った。ストリッピング電極をポテンショスタットの作用極側に接続し、第2セルに外部からAg/AgCl参照電極およびPt対極を挿入し、0V〜1Vの間で20mV/sの速さでアノーディックストリッピングボルタンメトリ(ASV)を行い、ストリッピング電極上に蓄積した銀のストリッピングを行った。
図9にASVによって得られたボルタモグラムを示す。前電解時間が長いほど、ストリッピング電極上の銀の酸化反応に由来するピークが大きくなることが確認された。
また、これらのピークの面積から下記式(A)を用いて電荷量(Q)を算出し、前電解時間に対してプロットした検量線を図10に示す。
Figure 2015190939
上記式において、Iはストリッピング工程で観察される電流値、tはストリッピング工程における電位掃引時間を表す。図9において、横軸を電位掃引レートから時間に変換し、その時の電流値をIとし、横軸の時間をtとする。Qはそのグラフの横軸とIの曲線との間の面積である。
銀の酸化反応で生じる電荷量は前電解時間と線形関係にあることが示された。これにより、前電解時間を適切に設定することで低濃度の測定対象を検出することが可能になると考えられる。
以上より、第1セルおよび第2セルを塩橋または液絡で接続することなく、前電解時に第2作用電極および第2対極に電圧を印加することで電気的導通を確保することが可能であることが示された。
[実施例2]
電位差を利用する様態について、測定対象の濃度と銀の蓄積量との関係を評価した。
実験系については、実施例1と同様とした。
前電解工程において、印加する電圧を0.2V(vs.Pd)、電圧印加時間を600秒に設定し、pAPの濃度を0mM〜1mMの間で変化させた。前電解工程の終了後、ストリッピング工程を行った。
ストリッピング工程で得られたボルタモグラムを図11に示す。pAPの濃度に応じて、銀の酸化反応に由来するピークが大きくなることが示された。
また、ピークの面積より、上記式(A)を用いて算出した電荷量をpAPの濃度に対してプロットした結果を図12に示す。銀の酸化反応で生じる電荷量は、pAPの濃度に比例することが示された。
[実施例3]
微生物夾雑物としてエンドトキシンを選択し、ライセート試薬、および酸化還元物質が結合した合成基質の接触により誘発される多段階反応の結果生じるpAPの検出を試みた。
エンドトキシンとして生化学工業社製のE.Coli O113:H10株由来USP Reference Standard Endotoxin、ライセート試薬として生化学工業社製のエンドスペシーES24S、合成基質としてBoC−Leu−Gly−Arg−pAP(LGR−pAP)を使用した。第1セルおよび第2セルとして、乾熱滅菌試験管を用いた。
2000EU/Lに調製したエンドトキシンと1.0mMになるようにLGR−pAPを添加したエンドスペシーES24Sとを等量混合した溶液、および、10mMになるように調製したAgNO水溶液をそれぞれ乾熱滅菌試験管に添加した。実施例1と同様に、第1セルおよび第2セルにそれぞれ各電極を挿入し、測定系を構築した。
37℃の条件下で、多段階反応の進行と同時に0.2V(vs.Pd)を60分間印加する前電解工程を行い、ストリッピング電極上に銀を蓄積させた。その後、第2セルの溶液を0.1M硝酸カリウム水溶液に置換し、ストリッピング工程を行った。
ストリッピング工程で得られたボルタモグラムを図13に示す。この結果から、微生物夾雑物、ライセート試薬、および合成基質の混合液を使用した場合も、多段階反応で生じる酸化還元物質を検出可能であることが示された。
1A、1B … 電極チップ
2 … 基板
3 … 第1セル
4 … 第2セル
5 … 第1作用電極
6 … 第2対極
7 … ストリッピング電極
8 … 第2作用電極
9 … 第3作用電極
10 … 第1対極
11a、11b … 参照電極
12 … 導線
13 … 端子
15 … 仕切部材
21 … 酸化還元物質が結合した合成基質
22 … ライセート試薬
31 … 第3電源部
32 … 第2電源部
33、34、36、37、38 … スイッチ
35 … 第1電源部

Claims (11)

  1. 変換ストリッピング法による化学物質の定量に用いられる電極チップであって、
    基板と、
    前記基板上に配置された第1セルと、
    前記基板上に配置された第2セルと、
    前記第1セル内に配置された第1作用電極と、
    前記第2セル内に配置され、前記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極と、
    第2作用電極と、
    前記第2作用電極に電流を流すための第2対極と
    を有し、前記第2作用電極および前記第2対極のうち、一方が前記第1セル内に配置され、他方が前記第2セル内に配置されていることを特徴とする電極チップ。
  2. 前記第1セル内に配置され、前記第1作用電極に隣接して配置された第3作用電極を有することを特徴とする請求項1に記載の電極チップ。
  3. 前記第1セル内に配置され、前記第3作用電極に電流を流すための第1対極を有することを特徴とする請求項2に記載の電極チップ。
  4. 参照電極が前記第1セル内および前記第2セル内の少なくともいずれかに配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の電極チップ。
  5. 前記化学物質が微生物夾雑物であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の電極チップ。
  6. 変換ストリッピング法による化学物質の定量方法であって、
    第1セル、第2セル、前記第1セル内に配置された第1作用電極、前記第2セル内に配置され、前記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極、前記第1セル内に配置され、前記第1作用電極に隣接して配置された第3作用電極、前記第1セル内に配置され、前記第3作用電極に電流を流すための第1対極、第2作用電極、および前記第2作用電極に電流を流すための第2対極を有し、前記第2作用電極および前記第2対極のうち、一方が前記第1セル内に配置され、他方が前記第2セル内に配置されている測定用セルを準備し、前記第2セル内に金属イオンを含む溶液または前記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を供給する準備工程と、
    前記第1セル内に、前記化学物質を含む被検体を供給する被検体供給工程と、
    前記第1作用電極および前記ストリッピング電極を接続した状態で、前記第3作用電極に電位を印加するとともに、前記第2作用電極に電位を印加し、前記ストリッピング電極表面に金属または金属塩を析出させる前電解工程と、
    前記第1作用電極および前記ストリッピング電極の接続を切り、前記ストリッピング電極に電位を印加し、前記ストリッピング電極に流れた電流値を測定するストリッピング工程と、
    前記電流値に基づいて前記化学物質を定量する定量工程と
    を有することを特徴とする化学物質の定量方法。
  7. 前記被検体が酸化還元物質を含むことを特徴とする請求項6に記載の化学物質の定量方法。
  8. 前記被検体供給工程では、前記第1セル内に、前記化学物質を含む被検体および酸化還元物質を遊離または生成する物質を供給し、
    前記物質から前記酸化還元物質を遊離または生成する反応工程を行うことを特徴とする請求項6に記載の化学物質の定量方法。
  9. 前記化学物質が微生物夾雑物であり、前記酸化還元物質を遊離または生成する物質が前記酸化還元物質が結合した合成基質であり、
    前記被検体供給工程では、前記第1セル内に、前記化学物質を含む被検体、ライセート試薬、および前記酸化還元物質が結合した合成基質を供給し、
    前記反応工程では、前記第1セル内にて、前記化学物質を含む被検体、前記ライセート試薬、および前記酸化還元物質が結合した合成基質を接触させて、多段階反応により前記合成基質からの前記酸化還元物質の遊離反応を生じさせることを特徴とする請求項8に記載の化学物質の定量方法。
  10. 変換ストリッピング法による化学物質の定量方法であって、
    第1セル、第2セル、前記第1セル内に配置された第1作用電極、前記第2セル内に配置され、前記第1作用電極と接続可能なストリッピング電極、第2作用電極、および前記第2作用電極に電流を流すための第2対極を有し、前記第2作用電極および前記第2対極のうち、一方が前記第1セル内に配置され、他方が前記第2セル内に配置されている測定用セルを準備し、前記第2セル内に金属イオンを含む溶液または前記ストリッピング電極に含まれる金属と金属塩を形成するハロゲン化物イオンを含む溶液を供給する準備工程と、
    前記第1セル内に、前記化学物質を含む被検体および酸化還元物質を遊離または生成する物質を供給する被検体供給工程と、
    前記物質から前記酸化還元物質を遊離または生成する反応工程と、
    前記第1作用電極および前記ストリッピング電極を接続した状態で、前記第2作用電極に電位を印加し、前記ストリッピング電極表面に金属または金属塩を析出させる前電解工程と、
    前記第1作用電極および前記ストリッピング電極の接続を切り、前記ストリッピング電極に電位を印加し、前記ストリッピング電極に流れた電流値を測定するストリッピング工程と、
    前記電流値に基づいて前記化学物質を定量する定量工程と
    を有することを特徴とする化学物質の定量方法。
  11. 前記化学物質が微生物夾雑物であり、前記酸化還元物質を遊離または生成する物質が前記酸化還元物質が結合した合成基質であり、
    前記被検体供給工程では、前記第1セル内に、前記化学物質を含む被検体、ライセート試薬、および前記酸化還元物質が結合した合成基質を供給し、
    前記反応工程では、前記第1セル内にて、前記化学物質を含む被検体、前記ライセート試薬、および前記酸化還元物質が結合した合成基質を接触させて、多段階反応により前記合成基質からの前記酸化還元物質の遊離反応を生じさせることを特徴とする請求項10に記載の化学物質の定量方法。
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