JP2015190038A - 遠心噴霧法粉末製造用ディスク - Google Patents

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Abstract

【課題】出湯温度が高い種々の金属微粉末を製造にも適用できる遠心噴霧法粉末製造用ディスクの提供。
【解決手段】この遠心噴霧法粉末製造用ディスク10は、耐熱衝撃抵抗値が700℃以上の基材で作製された基材ディスク18と、この基材ディスクの上面を被覆するセラミックスの膜20とを備える。上記セラミックス膜20の厚さCtは100μm以上500μm以下である。上記基材ディスク18の上面の表面粗さRzの値Brに対する、上記厚さCtの比(Ct/Br)は1.0より大きく10より小さい。好ましくは、上記セラミックスの熱膨張係数Ceに対する上記基材の熱膨張係数Beの比(Ce/Be)は1.0より大きく3.0より小さい。
【選択図】図2

Description

本発明は、遠心噴霧法により出湯温度が700℃以上の金属微粉末の製造にも適用可能な遠心噴霧法粉末製造用ディスクに関する。
近年、はんだ用粉末、フィラー用粉末、溶射用粉末、積層造形用粉末等の分野において流動性の高い粉末が求められている。流動性の低い粉末は、この粉末を使用した製品の特性劣化や欠陥の発生の原因となる。
粉末の流動性は、粉末の真球度、粒度分布の幅及びサテライト(粉末の粒子に付着した微粉)の有無により変化する。真球度が高く、粒度分布の幅が狭く、サテライトの少ない粉末が流動性の高い粉末となる。粉末の製造方法としては、水噴霧法(水アトマイズ法)、ガス噴霧法(ガスアトマイズ法)及び遠心噴霧法(ディスクアトマイズ法)が知られている。これらの中で遠心噴霧法は、真球度が高く、粒度分布の幅が狭くかつ、サテライトの少ない粉末が得られる特徴がある。この方法は、他の粉末製造方法と比較して流動性の高い粉末が得られる点で優位性がある。
遠心噴霧法による粉末の製造では、まず出湯ノズルから溶湯が下部に設置してある遠心噴霧法粉末製造用ディスク(回転ディスクと称される)の中心に滴下される。この溶湯は、回転ディスク上で液状の薄い膜となる。回転するディスクによる遠心力で、この薄い膜がより薄くなり、ディスク先端から微細液滴が飛散する。飛散した液滴が凝固することで粉末が得られる。
遠心噴霧法により金属粉末を製造する場合の鍵となるのが、回転ディスクである。回転ディスクには、溶湯が滴下されるため、この溶湯と反応を起こさず、溶湯の温度でも軟化しない基材が用いられる。また、溶湯を滴下すると回転ディスクには熱応力が発生するため、溶湯の温度よりも高い耐熱衝撃抵抗値を有する基材が用いられる。さらに回転ディスクには、溶湯との高い濡れ性や高速回転に耐えうる強度が要求される。濡れ性が劣ると回転ディスク上で溶湯が薄い膜とならず粉末を得ることが困難である。
これまで回転ディスクは、一般的には融点が低く出湯温度が低い、具体的には出湯温度が300℃以下で粉末製造が可能な場合に適用されてきた。その用途は低融点はんだの粉末製造が主であった。高い出湯温度を必要とする融点の高い金属粉末に対しては、上に記した特性を満たす回転ディスクの作製が容易ではないためである。そこで、融点が高い金属の粉末製造に適用可能な回転ディスクについて様々な検討がなされている。
特開2013−119663公報には炭化物分散型のモリブデン合金から構成される回転ディスクを用いた銀(Ag)の粉末の製造の検討例が開示されている。
特開2005−298299公報には窒化珪素質の回転ディスクを用いた銅(Cu)の粉末の製造の検討例が開示されている。
特開2009−62573公報には、耐熱性を有し且つ熱伝導性がセラミックスよりも良好な基材からなるディスク(基材ディスクと称される)と、この基材ディスクの上面を被覆するセラミックス薄膜とからなる回転ディスクが開示されている。この文献は、基材として、グラファイト及びボロンナイトライド(BN)が適用できる、としている。またこの文献は、セラミックス薄膜の材料として、ジルコニア(ZrO)、チタンナイトライド(TiN)、アルミナ(Al)及びシリコンカーバイト(SiC)が適用できる、としている。
特開平2−145710公報で開示された金属微粉末の製造方法では、溶湯との濡れ性が良好で、かつ溶湯と化学的に反応しない被覆層を円板の上面に設けた回転ディスクが用いられている。
特開2013−119663公報 特開2005−298299公報 特開2009−62573公報 特開平2−145710公報
特開2013−119663公報に記載の回転ディスクは、銀の粉末製造を対象としたものである。本発明者らが上記公報に記載の回転ディスクを用いて銀よりも融点の低いJIS記載のBAg−8合金の粉末製造を試みたところ、この合金に対する濡れ性が不十分であった。このため良好な粉末製造が行えなかった。また、銀よりも融点の高いJIS記載のSUS316L合金の粉末製造を試みたところ、熱により回転ディスクが軟化し、回転ディスク形状が保てなかった。このため、粉末製造が不可能であった。
特開2005−298299公報に記載の回転ディスクは、銅の粉末製造を対象としたものである。本発明者らが上記公報に記載の回転ディスクを用いて銅よりも融点の低いJIS記載のBAg−8合金の粉末製造を試みたところ、この合金に対する濡れ性が不十分であった。このため良好な粉末製造が行えなかった。また、銅よりも融点の高いJIS記載のSUS316L合金の粉末製造を試みたところ、回転ディスクの耐熱衝撃抵抗値が不十分のため、回転ディスクが破損した。このため粉末製造が不可能であった。さらに、銅の粉末製造でも、微粉化目的で溶湯温度を1250℃以上に加熱すると耐熱衝撃抵抗値が不十分のため、回転ディスクが破損した。
特開2009−62573公報の回転ディスクでは、耐熱性を有する基材を用いることで、熱によるディスクの軟化や、熱衝撃によるディスク破損が防止されている。目的の金属によりセラミックス薄膜の材料を変更することで、良好な濡れ性が確保されうる。この回転ディスクは、種々の融点が高い金属の粉末製造に適用できる可能性がある。特開平2−145710公報で開示された回転ディスクも、多種の金属の粉末製造に適用できる可能性がある。
特開2009−62573公報及び特開平2−145710公報で開示された回転ディスクの問題は、基材ディスクの上面全体を欠陥なく覆い、かつ回転ディスクが高速回転しても剥離を起こさない薄膜の形成が困難なことである。上述のグラファイト及びボロンナイトライドの気孔率は一般に10〜20体積%である。これらを基材として用いた場合、薄膜の厚さが薄いと、基材ディスク上面に存在する気孔上に薄膜が形成されず、薄膜に開空孔が生じてしまう。基材と溶湯が反応する場合、この開空孔部分においてこの反応が起こり、回転ディスクが破損する。一方、薄膜の厚さが厚いと、回転ディスクが高速回転したときに、薄膜の自重により薄膜が剥離する。加えて薄膜の厚さが厚いと、熱膨張によりこの膜に亀裂が生じるという問題もある。
特開2009−62573公報に記載のセラミックス薄膜の厚さは1×10μm以下1×10−1μm以上である。本発明者らは、この公報の実施例で記載されたとおり、グラファイトを基材とし、1×10−1μm厚のサイアロン(SiAlON)の薄膜をコーティングした回転ディスクを作製した。これを用いてSUS316L合金の粉末製造を試みたところ、ディスクが途中で破損してしまった。得られた粉末の炭素値を測定したところSUS316L合金の規格値を上回る炭素が検出された。このことから、破損の原因は溶湯がグラファイトと反応することであると認められた。
特開平2−145710公報の回転ディスクでは被膜の厚さは30μmである。本発明者らはこの公報記載の回転ディスクを用いて近年要求の高い微粉末、具体的には直径が40μm以下の粉末の製造を試みた。粉末の収率を上げるために回転ディスクの回転数を20000rpmに上昇させると被膜が剥離してしまった。
本発明の目的は、基材ディスクの上面全体が欠陥なくセラミックス膜で被覆され、高速回転してもこの膜が剥離せず、出湯温度が高い種々の金属微粉末の製造にも適用できる遠心噴霧法粉末製造用ディスクを提供することである。
本発明に係る遠心噴霧法粉末製造用ディスクは、耐熱衝撃抵抗値が700℃以上の基材で作製された基材ディスクと、この基材ディスクの上面を被覆するセラミックスの膜とを備える。上記セラミックス膜の厚さCtは100μm以上500μm以下である。上記基材ディスクの上面の表面粗さRzの値Brに対する、上記厚さCtの比(Ct/Br)は1.0より大きく10より小さい。
好ましくは、上記基材はグラファイト又はボロンナイトライドからなる。
好ましくは、上記セラミックスの熱膨張係数Ceの上記基材の熱膨張係数Beに対する比(Ce/Be)は1より大きく3より小さい。
好ましくは、上記セラミックス膜の上面の表面粗さRzの値は1μm以下である。
好ましくは、上記セラミックス膜の気孔率は20%以下である。
本発明に係る金属粉末の製造方法では、上記噴霧法粉末製造用ディスクに金属を溶かした溶湯を滴下し、このディスクを回転させることで粉末が製造される。
本発明者らは、基材ディスクの上面にセラミックスの膜を被覆させた噴霧法粉末製造用ディスクの構造について詳細に検討した。その結果、セラミックス膜の厚さCt及び基材ディスクの表面粗さRzの値Brを適正に調整することで、基材ディスクの上面全体を欠陥なく覆い、かつ回転ディスクが高速回転しても剥離を起こさないセラミックス膜が形成できることを見出した。
本発明に係る回転ディスクのセラミックス膜の厚さCtは、100μm以上500μm以下である。従来に比べてセラミックス膜の厚さは厚い。基材が気孔を有していても、この膜に開空孔は生じない。基材ディスクの上面全体に欠陥のないセラミックス膜が形成できる。この回転ディスクでは溶湯と基材とが反応して基材ディスクが破損することが防止されている。さらに、この回転ディスクでは、基材ディスクの上面の表面粗さRzの値Brに対する、上記厚さCtの比(Ct/Br)は1より大きく10より小さい。これは、上記の膜厚を有するセラミックス膜に対して、その剥離を効果的に防止する。このセラミックス膜は、回転ディスクが高速で回転しても剥離しない。具体的には回転ディスクが120000rpmで回転しても、この膜は剥離しない。この回転ディスクは、微粉末の製造に適用できる。
この基材ディスクは、耐熱衝撃抵抗値が700℃以上の基材で作製されている。この回転ディスクでは、熱による軟化及び熱衝撃による破損が防止されている。また、この回転ディスクでは、目的の金属によりセラミックス膜の材料を変更することで、良好な濡れ性が確保されうる。この回転ディスクは、出湯温度が高い種々の金属に対しても、その微粉末を製造するのに適用できる。
図1は、本発明の一実施形態に係る、遠心噴霧法粉末製造用ディスクを用いた遠心噴霧装置の構成を示す概念図である。 図2は、図1の遠心噴霧法粉末製造用ディスクが示された拡大断面図である。
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1は、本発明の一実施形態に係る遠心噴霧法粉末製造用ディスクを用いた、遠心噴霧装置2の構成を示す概念図である。図1において、矢印Xが上方向を表し、その逆が下方向を表す。この遠心噴霧装置2は、チャンバー4、ルツボ6、出湯ノズル8、ストッパー9、遠心噴霧法粉末製造用ディスク10(回転ディスク10)、モーター12、熱電対14及び加熱コイル15を備えている。ルツボ6には、粉末となる金属の溶湯16が入れられている。
チャンバー4は、中が空洞の容器である。チャンバー4の内部にルツボ6、出湯ノズル8、回転ディスク10及びモーター12が入れられている。金属の粉末は、チャンバー4の内部で作製される。
ルツボ6は、チャンバー4の内側に位置している。ルツボ6は、上面視において、チャンバー4の中央近辺に位置している。ルツボ6は、チャンバー4の上面と接している。ルツボ6において、出湯ノズル8をストッパー9で閉じた状態で金属材料が溶かされて溶湯16が作られる。ルツボ6の底面には孔が設けられている。この孔を通して、溶湯16が滴下される。
出湯ノズル8は、ルツボ6の底面の孔に取り付けられている。ストッパー9を上方へ移動させ出湯ノズル8を開けると、ルツボ6の溶湯16が滴下する。ストッパー9により出湯ノズル8を閉じると、ルツボ6の溶湯16の滴下は止まる。
回転ディスク10は、出湯ノズル8の下に位置している。溶湯16は、出湯ノズル8からこの回転ディスク10の上面に滴下される。
モーター12は、回転ディスク10の下に位置している。モーター12の回転部分は、回転ディスク10と接続されている。モーター12は、回転ディスク10を回転させる。
熱電対14は、その先が溶湯16に中に入れられる。熱電対14は、溶湯16の温度を測定する。
この遠心噴霧装置2を用いた粉末の製造方法は次の通りである。まず、ストッパー9で出湯ノズル8を閉じた状態で金属原料がチャンバー4内に設置したルツボ6に入れられる。この金属材料は、加熱コイル15で高周波誘導加熱により加熱され、溶融金属である溶湯16となる。適切な温度に加熱できるように、熱電対14にて溶湯16の温度が測温される。次に、モーター12が稼働され、回転ディスク10が回転し粉末製造の準備が完了する。ストッパー9を上方に移動させることで出湯ノズル8に溶湯16が流れ込む。これにより、溶湯16が回転ディスク10上に滴下される。滴下された溶湯16は、回転ディスク10上で液状の薄い膜となる。回転するディスクによる遠心力で、この薄い膜がより薄くなり、回転ディスク10先端から微細液滴が飛散する。この微細液滴が凝固して球状の粉末ができる。できた粉末は、チャンバー4内から回収される。
図2には、図1の回転ディスク10の断面図が示されている。この図には、回転ディスク10の断面の一部の拡大図も併せて示されている。図に示されるとおり、回転ディスク10は、基材ディスク18とセラミックスの膜20とを備えている。
基材ディスク18は、正面視においてT字状である。基材ディスク18は円盤部22と軸部24とを備えている。図示されないが、円盤部22は上面視において円形である。基材ディスク18は、耐熱衝撃抵抗値が700℃以上の基材からなる。耐熱衝撃抵抗値が700℃以上の基材を使用することで、出湯温度が700℃以上の金属の粉末製造時においても、粉末製造中に熱応力によりディスクが破損することはない。好ましい基材としては、耐熱衝撃抵抗値が1350℃以上であるグラファイト又はボロンナイトライドが挙げられる。
本発明において、耐熱衝撃抵抗値は、JIS−R−1648に準拠した測定方法で測定される。方法は所定の温度まで試料を加熱し0℃の水中に投入し急冷する。その試料をJIS−R−1601記載の3点曲げ試験を行い破壊強度を測定する。この破壊強度が元の試料の破壊強度の半分となりうる温度が耐熱衝撃抵抗値である。
セラミックス膜20は、基材ディスク18の円盤部22の上面を被覆している。このセラミックス膜20の厚さCtは100μm以上500μm以下である。厚さCtを100μm以上とすることで、基材ディスク18に気孔が存在していても、この膜を貫通する開空孔が生じない。基材ディスク18の上面全体にセラミックス膜20が被覆される。これにより、開空孔から溶湯16が進入し基材と反応することが防止されている。また、この開空孔は、濡れ性低下の要因ともなりうる。この基板ディスクでは、開空孔による濡れ性の低下が防止されている。
セラミックスの膜の厚さCtを500μm以下とすることで、被膜の自重とディスク回転時に発生する遠心力によりこの膜に亀裂が生じることが抑制されている。これにより、亀裂から溶湯16が進入し基材と反応することが防止されている。また、この亀裂は、濡れ性低下の要因ともなりうる。この観点から、厚さCtは300μm以下がより好ましい。
後述するとおり、セラミックス膜20が被せられる基材ディスク18の上面は、粗面処理が施されている。ここでセラミックス膜20の厚さとは、基材ディスク18の上面の最も高い位置から、セラミックス膜上面までの厚さである。セラミックス膜20の厚さは、セラミックス膜20の製膜前後のディスクの厚さを測定し、この差から算出する。
セラミックス膜20を被覆する方法は、めっき法、溶射法、物理蒸着法、化学蒸着法、ゾルゲル法、ゾルゲル電気泳動電着法等が挙げられる。そのほか、基材ディスク上にセラミックス粒子を焼結させて膜を形成しても良い。この場合、セラミックス粒子中に焼結助剤を添加してもよい。
図2の拡大図に示されるとおり、基材ディスク18の円盤部22の上面には、粗面処理が施されている。基材ディスク18上面の表面粗さRzの値をBrとすると、この回転ディスク10では、この値Brに対するセラミックス膜20の厚さCtの比(Ct/Br)は、1.0より大きく10より小さい。
比(Ct/Br)を10より小さくすることで、基材ディスク18上面の凹凸がセラミック膜の剥離を防止する。回転ディスク10が高速で回転しても、上記の膜厚を有するセラミックス膜20の剥離が防止される。このセラミックス膜20は、回転ディスク10が高速で回転しても剥離しない。具体的には回転ディスク10が120000rpmで回転してもこの膜は剥離しない。剥離防止の観点から比(Ct/Br)は、8.0より小さいのがより好ましい。
比(Ct/Br)を1.0より大きくすることで、基材ディスク18上面の凹凸により、セラミック膜に欠陥が生じることが防止される。この凹凸が熱膨張しても、基材ディスク18は、その上面全体がセラミックス膜20に被覆されている。欠陥防止の観点から比(Ct/Br)は、2.0より大きいのがより好ましい。
この発明では、表面粗さRzはJIS B 0601に規定された最大高さ粗さを意味している。この表面粗さRzの測定条件は以下の通りである。先端が鋭利な触針をJIS−B−0601に準拠した条件で走査させて粗さ曲線を作成する。次に粗さ曲線の最大値及び最小値を読み取りその差を表面粗さRzとする。
以上説明した通り、この回転ディスク10では、セラミックス膜20の厚さCt及び基材ディスク18の表面粗さRzの値Brを適正に調整することで、基材ディスクの上面全体を欠陥なく覆い、かつ回転ディスクが高速回転しても剥離を起こさないセラミックス膜が形成されている。この回転ディスク10では、基材ディスク18を耐熱衝撃抵抗値が700℃以上の基材で作製することで、熱によるディスクの軟化や、熱衝撃によるディスク破損が防止されている。また、この回転ディスク10では、目的の金属によりセラミックス膜20の材料を変更することで、良好な濡れ性が確保されうる。この回転ディスク10は、出湯温度が高い種々の金属に対しても、その微粉末を製造するのに適用できる。
基材ディスク18の基材の熱膨張係数をBe、基材ディスク18を被覆するセラミックスの熱膨張係数をCeとしたとき、熱膨張係数Beに対する熱膨張係数Ceの比(Ce/Be)は、1.0より大きいのが好ましい。比(Ce/Be)を1.0より大きくすることで、熱応力が原因でセラミックス膜20に極端な引張応力が生じることが抑えられる。この引張応力による亀裂の発生が抑止できる。これにより、この亀裂から溶湯16が進入し基材と反応すること、及びこの亀裂による濡れ性の低下が防止できる。
比(Ce/Be)は3.0より小さいのが好ましい。比(Ce/Be)を3.0より小さくすることで、熱応力が原因でセラミックス膜20に極端な圧縮応力が生じることが抑えられる。この圧縮応力によるセラミックス膜20の剥離が抑止できる。これにより、この剥離部分から溶湯16が進入し基材と反応すること、及びこの剥離による濡れ性の低下が防止できる。
基材に対して、上記の比(Ce/Be)の制約を満たすことが可能なセラミックスが被覆膜の材料として選択されるのが好ましい。例えばグラファイトを基材とした場合、適切なセラミックスとして、アルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシア等が挙げられる。また、ジルコニアとイットリアを8mol%混合した安定化ジルコニアのように2種類以上のセラミックスを混合したセラミックスにおいても、これは、上記の比(Ce/Be)の制約を満たすよう作製されるのが好ましい。このセラミックスは回転ディスクに好適に使用できる。
本発明で熱膨張係数は線熱膨張係数を意味しており、温度の上昇によって長さが膨張する割合を、1K(℃)当たりで示したものである。基材及びセラミックスの熱膨張係数はJIS−R−1618に記載の熱機械分析により測定される。その方法は試料に一定荷重をかけ温度に対応する応力、変形の状態を測定し熱膨張係数を算出する。
セラミックス膜20の気孔率は20体積%以下が好ましい。気孔率を20体積%以下とすることで、カッシーバクスター(Cassie−Baxter)の効果が作用することが抑えられる。これにより、濡れ性の低下が抑制される。これは、より小さな粒子径の粉末の作製を可能とする。
セラミックス膜20の気孔率は、作製した回転ディスクの断面写真を10視野撮影することで得られた膜中に存在する気孔の面積から算出される。
セラミックス膜20の上面の表面粗さRzの値Crは、1μm以下が好ましい。値Crを1μm以下とすることで、ウェンゼル(Wenzel)の効果が作用することが抑えられる。これにより、濡れ性の低下が抑制される。これは、より小さな粒子径の粉末の作製を可能とする。
この発明に係る回転ディスク10は、はんだ用粉末、フィラー用粉末、溶射用粉末、ショット用粉末、積層造形用粉末等の分野でその製造に利用可能である。具体的にはSn―50Cu(mass%)、Sn−80Ag−0.5In(mass%)、Au−50Sn(mass%)、Fe−8Cr−6.5B(mass%)、Ag、Cu、SUS304L、SUS316L、AlloyC276等の粉末が挙げられる。各金属に対し、良好な濡れ性を有するセラミックスが選択される。これを前述の各条件を満たすように基材ディスク18に被覆させることで回転ディスク10が作製できる。この回転ディスク10を使用することでこれらの金属の粉末製造が可能となる。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
[回転ディスクの製作]
円盤部の直径60mm、厚さ2mmの基材ディスクが準備された。この基材ディスクの円盤部の上面に、粗面処理が行われた。この上面にセラミックス膜を被覆させて回転ディスクを製作した。セラミックス膜は、セラミックスと焼結助剤を添加したものをディスク上面に塗布し焼結させることで作製した。セラミックス膜を形成後、その上面に研磨処理を施した。使用した基材とセラミックスは、表1−6に示された通りである。
[実施例1−4、15−18、29−32、43−46、57−60及び71−74]
実施例1−4、15−18、29−32、43−46、57−60及び71−74では、基材ディスクはグラファイトから作製された。セラミックス膜の厚さは100μm以上500μm以下である。比(Ct/Br)は1.0より大きく10より小さい。また、比(Ce/Be)は1.0より大きく3.0より小さい。セラミックス膜中の気孔率は20%以下である。セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crが1μm以下となるよう研磨処理が施された。
[実施例5―6、19―20、33−34、47−48、61−62及び75−76]
実施例5―6、19―20、33−34、47−48、61−62及び75−76では、基材ディスクはBN(ボロンナイトライド)から作製された。セラミックス膜の厚さは100μm以上500μm以下である。比(Ct/Br)は1.0より大きく10より小さい。また、比(Ce/Be)は1.0より大きく3.0より小さい。セラミックス膜中の気孔率は20%以下である。セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crが1μm以下となるよう研磨処理が施された。
[実施例7―10、21―24、35−38、49−52、63−66及び77−80]
実施例7―10、21―24、35−38、49−52、63−66及び77−80では、基材ディスクはグラファイトから作製された。セラミックス膜の厚さは100μm以上500μm以下である。比(Ct/Br)は1.0より大きく10より小さい。また比(Ce/Be)は1.0以下又は3.0以上となっている。セラミックス膜中の気孔率は20%以下である。セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crが1μm以下となるよう研磨処理が施された。
[実施例11―12、25―26、39−40、53−54、67−68及び81−82]
実施例11―12、25―26、39−40、53−54、67−68及び81−82では、基材ディスクはグラファイトから作製された。セラミックス膜の厚さは100μm以上500μm以下である。比(Ct/Br)は1.0より大きく10より小さい。また、比(Ce/Be)は1.0より大きく3.0より小さい。セラミックス膜中の気孔率は20%以下である。セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crが1μmより大きくなるよう研磨処理が施された。
[実施例13―14、27―28、41−42、55−56、69−70及び83−84]
実施例13―14、27―28、41−42、55−56、69−70及び83−84では、基材ディスクはグラファイトから作製された。セラミックス膜の厚さは100μm以上500μm以下である。比(Ct/Br)は1.0より大きく10より小さい。また、比(Ce/Be)は1.0より大きく3.0より小さい。セラミックス膜中の気孔率は20%より大きい。セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crが1μm以下となるよう研磨処理が施された。
[比較例1―2、7―8、13−14、19−20、25−26及び31−32]
比較例1―2、7―8、13−14、19−20、25−26及び31−32では、基材ディスクはグラファイトから作製された。セラミックス膜は100μm以下の厚さで形成された。また、比(Ce/Be)は1.0より大きく3.0より小さい。セラミックス膜中の気孔率は20%以下である。セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crが1μm以下となるよう研磨処理が施された。
[比較例3―4、9―10、15−16、21−22、27−28及び33−34]
比較例3―4、9―10、15−16、21−22、27−28及び33−34では、基材ディスクはグラファイトから作製された。セラミックス膜の厚さは100μm以上500μm以下である。比(Ct/Br)は1.0以下又は10以上となっている。また、比(Ce/Be)は1.0より大きく3.0より小さい。セラミックス膜中の気孔率は20%以下である。セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crが1μm以下となるよう研磨処理が施された。
[比較例5―6、11―12、17−18、23−24、29−30及び35−36]
比較例5―6、11―12、17−18、23−24、29−30及び35−36では、基材ディスクは耐熱衝撃抵抗値が700℃以下の材質から作られた。セラミックス膜の厚さは100μm以上500μm以下である。比(Ct/Br)は1.0より大きく10より小さい。また、比(Ce/Be)は1.0より大きく3.0より小さい。セラミックス膜中の気孔率は20%以下である。セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crが1μm以下となるよう研磨処理が施された。
[粉末を作製する金属]
粉末の作製を試みた金属は、Sn―50Cu(融点=690℃)、Sn−80Ag−0.5In(融点=730℃)、Ag(融点=960℃)、Ag28Cu(融点=780℃)、SUS316L(融点=1396℃)及びAlloyC276(融点=1390℃)である。上記合金の混合比率は、いずれも(mass%)で表されている。いずれの上記金属も融点から300℃加熱し粉末生成を行った。表1はSn―50Cu粉末の作製結果、表2はSn−80Ag−0.5In粉末の作製結果、表3はAg粉末の作製結果、表4はAg28Cu粉末の作製結果、表5はSUS316L粉末の作製結果、表6はAlloyC276粉末の作製結果である。なお、セラミックス材料は、上記の金属に対して良好な漏れ性を有するものが選択されている。
[評価方法と評価結果]
[被覆率]
製作した回転ディスクについて、セラミックス膜が回転ディスクの上面を被覆する被覆率を目視にて確認した。100%被覆されている場合が「OK」、それ以外が「NG」とされた。評価結果が表1−6に示されている。
[被膜剥離]
製作した回転ディスクをそのままモーターに設置し、回転数120000rpmにて10分間回転させた。その後回転を止めてセラミックス膜の剥離の有無を目視にて確認した。セラミックス膜の剥離が発生していない場合が「OK」、それ以外が「NG」とされた。評価結果が表1−6に示されている。
[回転ディスク破損]
上記被覆率試験と被膜剥離試験にて問題のなかった回転ディスクを使用して、遠心噴霧法で粉末の作製を試みた。粉末を作製する金属各々について、溶湯の量は溶解量5kg、出湯ノズル8直径は1.2mm、ディスク回転数は120000rpm、出湯温度は融点より300℃高い温度とした。粉末が作製される途中で、回転ディスク破損の発生の有無が確認された。回転ディスク破損が発生しなければ「OK」、それ以外が「NG」とされた。評価結果が表1−6に示されている。
[平均粒径]
上記回転ディスク破損試験で、回転ディスク破損が発生せず、粉末が得られたものについて、その粉末の平均粒径を評価した。粉末の平均粒径の測定方法はレーザー回折法が用いられた。評価結果が表1−6に示されている。
[総合評価]
上記評価結果をもとに、回転ディスクについて以下の格付けを行った。
A:粉末が作製でき、その粉末の平均粒径が30μm以下。
B:粉末が作製でき、その粉末の平均粒径が30μmより大きい。
C:基材ディスク上へのセラミックス膜の被覆率は100%かつ、120000rpm回転時の被膜の剥離なしであったが、アトマイズ中に回転ディスクが破損。
D:基材ディスク上へのセラミックス膜の被覆率は100%未満又は120000rpm回転時の被膜が剥離。
A、B、C、Dの順に良好である。評価結果が表1−6に示されている。
Figure 2015190038
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表1に示されるように、セラミックス膜の膜圧を100μm以上500μm以下とし、かつ比(Ct/Br)を1.0より大きく10より小さくすることで、膜の被覆率が100%で高速回転による被覆膜の剥離が発生しない回転ディスクの作製に成功した。さらに、基材としてグラファイトを用いセラミックス材質として「ジルコニアとイットリアの混合」、アルミナ若しくは安定化ジルコニアを用いることで、又は、基材としてBNを用いセラミックス材質としてアルミナ若しくは安定化ジルコニアを用いることで、Sn−50Cu合金の粉末製造に成功した。このとき、これらのセラミックスは、比(Ce/Be)が1.0より大きく3.0より小さくなるように作製されている。加えてセラミックス膜の気孔率を20%以下、セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crを1μm以下とすることで平均粒径30μm以下の粉末製造に成功した。
表2に示されるように、セラミックス膜の膜圧を100μm以上500μm以下とし、かつ比(Ct/Br)を1.0より大きく10より小さくすることで、膜の被覆率が100%で高速回転による被覆膜の剥離が発生しない回転ディスクの作製に成功した。さらに、基材としてグラファイトを用いセラミックス材質として「ジルコニアとイットリアの混合」、チタニア若しくは安定化ジルコニアを用いることで、又は、基材としてBNを用いセラミックス材質としてチタニア若しくは安定化ジルコニアを用いることで、Sn−80Ag−0.5In金の粉末製造に成功した。このとき、これらのセラミックスは、比(Ce/Be)が1.0より大きく3.0より小さくなるように作製されている。加えてセラミックス膜の気孔率を20%以下、セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crを1μm以下とすることで平均粒径30μm以下の粉末製造に成功した。
表3に示されるように、セラミックス膜の膜圧を100μm以上500μm以下とし、かつ比(Ct/Br)を1.0より大きく10より小さくすることで、膜の被覆率が100%で高速回転による被覆膜の剥離が発生しない回転ディスクの作製に成功した。さらに、基材としてグラファイトを用いセラミックス材質として「ジルコニアとイットリアの混合」、「アルミナとマグネシアの混合」若しくは安定化ジルコニアを用いることで、又は、基材としてBNを用いセラミックス材質として「アルミナとマグネシアの混合」若しくは安定化ジルコニアを用いることで、純Agの粉末製造に成功した。このとき、これらのセラミックスは、比(Ce/Be)が1.0より大きく3.0より小さくなるように作製されている。加えてセラミックス膜の気孔率を20%以下、セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crを1μm以下とすることで平均粒径30μm以下の粉末製造に成功した。
表4に示されるように、セラミックス膜の膜圧を100μm以上500μm以下とし、かつ比(Ct/Br)を1.0より大きく10より小さくすることで、膜の被覆率が100%で高速回転による被覆膜の剥離が発生しない回転ディスクの作製に成功した。さらに、基材としてグラファイトを用いセラミックス材質として「ジルコニアとイットリアの混合」、「アルミナとジルコニアの混合」若しくは安定化ジルコニアを用いることで、又は、基材としてBNを用いセラミックス材質として「アルミナとジルコニアの混合」若しくは安定化ジルコニアを用いることで、Ag−28Cu合金の粉末製造に成功した。このとき、これらのセラミックスは、比(Ce/Be)が1.0より大きく3.0より小さくなるように作製されている。加えてセラミックス膜の気孔率を20%以下、セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crを1μm以下とすることで平均粒径30μm以下の粉末製造に成功した。
表5に示されるように、セラミックス膜の膜圧を100μm以上500μm以下とし、かつ比(Ct/Br)を1.0より大きく10より小さくすることで、膜の被覆率が100%で高速回転による被覆膜の剥離が発生しない回転ディスクの作製に成功した。さらに、基材としてグラファイト又はBNを用い、セラミックス材質として「ジルコニアとイットリアの混合」若しくは安定化ジルコニアを用いることで、SUS316L合金の粉末製造に成功した。このとき、これらのセラミックスは、比(Ce/Be)が1.0より大きく3.0より小さくなるように作製されている。加えてセラミックス膜の気孔率を20%以下、セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crを1μm以下とすることで平均粒径30μm以下の粉末製造に成功した。
表6に示されるように、セラミックス膜の膜圧を100μm以上500μm以下とし、かつ比(Ct/Br)を1.0より大きく10より小さくすることで、膜の被覆率が100%で高速回転による被覆膜の剥離が発生しない回転ディスクの作製に成功した。さらに、基材としてグラファイトを用いセラミックス材質として「ジルコニアとイットリアの混合」、炭化チタン若しくは安定化ジルコニアを用いることで、又は、基材としてBNを用いセラミックス材質として炭化チタン若しくは安定化ジルコニアを用いることで、AlloyC276合金の粉末製造に成功した。このとき、これらのセラミックスは、比(Ce/Be)が1.0より大きく3.0より小さくなるように作製されている。加えてセラミックス膜の気孔率を20%以下、セラミックス膜上面の表面粗さRzの値Crを1μm以下とすることで平均粒径30μm以下の粉末製造に成功した。
表1−6に示された評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
以上説明された回転ディスクは、遠心噴霧法による種々の粉末製造にも適用されうる。
2・・・遠心噴霧装置
4・・・チャンバー
6・・・ルツボ
8・・・出湯ノズル
9・・・ストッパー
10・・・回転ディスク
12・・・モーター
14・・・熱電対
15・・・加熱コイル
16・・・溶湯
18・・・基材ディスク
20・・・セラミックス膜
22・・・円盤部
24・・・軸部

Claims (6)

  1. 耐熱衝撃抵抗値が700℃以上の基材で作製された基材ディスクと、この基材ディスクの上面を被覆するセラミックスの膜とを備え、
    上記セラミックス膜の厚さCtが100μm以上500μm以下であり、
    上記基材ディスクの上面の表面粗さRzの値Brに対する、上記厚さCtの比(Ct/Br)が1.0より大きく10より小さいことを特徴とする遠心噴霧法粉末製造用ディスク。
  2. 上記基材がグラファイト又はボロンナイトライドからなることを特徴とする請求項1に記載の遠心噴霧法粉末製造用ディスク。
  3. 上記セラミックスの熱膨張係数Ceの上記基材の熱膨張係数Beに対する比(Ce/Be)が1.0より大きく3.0より小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心噴霧法粉末製造用ディスク。
  4. 上記セラミックス膜の上面の表面粗さRzの値が1μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の遠心噴霧法粉末製造用ディスク。
  5. 上記セラミックス膜の気孔率が20%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の遠心噴霧法粉末製造用ディスク。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載の噴霧法粉末製造用ディスクに金属を溶かした溶湯を滴下し、このディスクを回転させることで製造されることを特徴とする金属粉末の製造方法。
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