JP2015147966A - 高強度高降伏比冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

高強度高降伏比冷延鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低いSi、Mn含有量で高降伏比を有し、590MPa以上の引張強さを有する高強度高降伏比冷延鋼板を提供する。【解決手段】質量%で、C:0.06%以上0.14%以下、Si:0.3%以下、Mn:0.5%未満、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.08%以下、N:0.0080%以下、Ti:0.08%以上0.15%以下を含有する組成と、フェライト相の面積率が90%以上、前記フェライト相に対する加工フェライトの面積率が10%以下、前記フェライト相の結晶粒内のTiを含む炭化物の平均粒子径が15nm以下である鋼組織を有し、鋼板表面から0.2μmの深さ位置までのSiおよびMnの濃化量が、地鉄でのSiおよびMnの固溶量相当量の1.3倍以下である高強度高降伏比冷延鋼板。【選択図】図1

Description

本発明は、自動車用部材の使途に適した、高強度高降伏比冷延鋼板、特に引張強さ(TS)が590MPa以上、降伏比が0.84以上であり、優れた表面性状を兼ね備えた高強度高降伏比冷延鋼板およびその製造方法に関する。
近年地球環境保全の観点から、CO排出量削減のため自動車業界全体で自動車の燃費改善が指向されている。自動車の燃費改善には、使用部材の薄肉化(板厚減少)による自動車車体の軽量化が最も有効である。このため、自動車用部材に使用される鋼板については、高強度化して鋼板板厚を減少することが検討されており、軽量化と安全性を両立する高強度冷延鋼板の使用量は年々増加しつつある。このため、高強度冷延鋼板を得る技術として、種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、C:0.15〜0.25%、Si:1.0〜2.0%、Mn:1.8〜2.8%、P:0.020%以下、S:0.0040%以下、Al:0.005〜0.08%、N:0.008%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、フェライト相とベイナイト相の合計の組織全体に対する面積比率が40〜70%、焼戻マルテンサイト相の組織全体に対する面積比率が20〜40%で、残留オーステナイト相の量が2〜20%であり、かつ長軸が3μm以上の焼戻マルテンサイト相の個数が2.0×10個/mm以下とすることで加工性に優れる高降伏比高強度冷延鋼板が得られる技術が提案されている。特許文献1によると、フェライト相、ベイナイト相、焼戻マルテンサイト相の面積比率および残留オーステナイト相の量を制御することで高強度かつ高降伏比の鋼板が得られるとしている。
特許文献2には、鋼板組成を質量%で、C:0.001〜0.2%、N:0.0001〜0.2%、C+N:0.002〜0.3%、Si:0.001〜0.1%、Mn:0.01〜1%、Ti:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%を含有し、鋼中に直径1〜10nmの微細析出物を1×1017個/cm以上の密度で含むことを特徴とする常温遅時効性と焼付硬化性に優れた薄鋼板を製造する技術が提案されている。特許文献2に提案された技術によると微細析出物としてCまたはNを固定し、塗装焼付工程時に固定したCおよびNを脱離、拡散させることにより常温遅時効性と焼付硬化性に優れた薄鋼板が得られるとしている。
特許文献3には、鋼板組成を質量%で、C:0.01〜0.10%、Mn:0.10〜3.00%、Ti:0.03〜0.15%を含有し、Si:2.50%以下、N:0.0060%以下、Nb:0.03%以下、Mo:0.25%以下、V:0.25%以下に制限し、TiおよびNb、Mo、Vの含有量を調節し、Ti系炭窒化物の粒子径が1〜50nmであり、フェライトの面積率が95%以上であり、該フェライトの平均粒径を20μm以下に制限し、該フェライトに占める該未再結晶フェライトの割合を25%以下に制限したことを特徴とする析出強化型冷延鋼板を製造する技術が提案されている。特許文献3によると、冷間圧延前にTiの固溶を促進し、冷間圧延後の焼鈍時にTiの微細な炭窒化物を析出させ、伸びフランジ性が良好な鋼板が得られるとしている。
さらに、特に自動車用構造部材では、衝突時や使用中に変形すると安全性が著しく損なわれるため、変形を妨げるのに有効な降伏応力を高めた降伏比(=降伏応力/引張強さ)の高い、高強度高降伏比冷延鋼板への鋼板への要望が高まっている。
一方で、自動車部品に使用される高強度鋼板には、鋼板表面の美観やめっき性、化成処理性が良好であることも求められる。自動車部品は厳しい腐食環境下で使用されるものも多く、高強度鋼板を使用することによる部材の薄肉化により、腐食代が少なくなる。そのため、自動車部品用鋼板は、高い強度と良好な耐食性を兼備することも重要となる。良好な耐食性を付与するには、めっき処理を施して鋼板表面にめっき層を備えたり、鋼板表面に化成処理を施し塗装したりすることが有効である。しかしながら、引張強さが590MPa以上の高強度冷延鋼板の多くは、固溶強化元素であるSiやMnが多量に添加されるため、表面性状が劣化してめっき性や化成処理性が問題となる。
ここで、Siを多量に添加することなく、鋼板の高強度化を達成する技術としては、例えば特許文献4のような炭化物による強化を利用した技術が開発されている。特許文献4には、鋼板組成を質量%で、C:0.01%超〜0.1%、Si:0.3%以下、Mn:0.2〜2.0%、N:0.006%以下、Ti:0.03〜0.2%を含有し、Mo:0.5%以下およびW:1.0%以下のうち1種以上を含み、組織が実質的にフェライト単相で、原子比で0.5≦C/(Ti+Mo+W)≦1.5を満たす10nm未満の炭化物が分散していることを特徴とする加工性に優れた高張力冷延鋼板を製造する技術が提案されている。特許文献4によると、転位密度が低く加工性が良好なフェライト組織に微細に析出するTi、MoおよびWの1種以上を含む炭化物を分散させることにより、加工性と強度を両立させ、さらに炭化物により強化することで、Siの多量の添加を不要として、防食のための溶融亜鉛めっきが可能である鋼板が得られるとしている。
特開2013−237917号公報 特開2003−253378号公報 特開2010−285656号公報 特開2003−321732号公報
しかしながら、特許文献1で提案された技術では、多量のSiおよびMnを含有するため、表面性状に優れた鋼板を得ることは困難である。特許文献2で提案された技術では150〜200℃の塗装焼付温度で析出物を鋼中に溶解し、CおよびNを脱離させる必要があるため、多量にTiおよびNbを含有させることはできず高強度の鋼板は得られない。特許文献3で提案された技術では、その実施例を参照すると、易酸化性元素であるSi、Mnを多量に含有させている。このため、再結晶焼鈍時に選択的外部酸化反応による表面濃化によりSiやMnが表面濃化して、良好な鋼板表面性状を有する鋼板を製造することが困難であるという問題がある。さらに、固溶強化を意図してSiが0.3%を超える範囲で添加された鋼も散見されるが、後述するようにSiは表面にファイヤライトを含む赤スケールを発生させ、表面性状を低下させる。また、特許文献4で提案された技術では、Siの含有量は少ないものの、その実施例を参照すると、易酸化性元素であるMnを多量に含有しているため、良好な鋼板表面性状を有する鋼板を製造することが困難であるという問題がある。
さらに、従来の高強度冷延鋼板の多くは、SiやMnといった固溶強化元素を多量に添加し、ベイナイト相やマルテンサイト相等の低温変態相を活用して高い強度を得ていた。低温変態相を活用した鋼板では、変態にともない可動転位が導入されるため、降伏応力は低下する傾向にあり、高い降伏比の鋼板を得ることができない。また、前記したように、易酸化性元素であるSiおよびMnを多量に添加することにより鋼板表面性状も悪化する。
以上のように、従来技術では低いSi、Mn含有量で高降伏比を有する高強度冷延鋼板を得ることができず、良好な表面性状を有する高強度冷延鋼板を得ることはできなかった。本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであって、590MPa以上の引張強さを有し、表面性状にも優れた高強度高降伏比冷延鋼板を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく、本発明者らは、固溶強化元素でありかつ易酸化性元素であるSiおよびMnの添加量を極限まで低減させた成分系で、高強度高降伏比冷延鋼板を得るため、炭化物を利用した析出強化により強化することに着目し、鋭意検討した。その結果、冷延鋼板を製造する際、冷延時に導入したひずみを除去し焼鈍後の鋼板に所望の延性を持たせるため、焼鈍時での回復・再結晶を促進させることが不可欠であるが、同時に炭化物が粗大化し鋼板が軟化する問題があることが判明した。本発明者らは、このような問題について検討を重ねた結果、熱延鋼板中のTiを含む炭化物のサイズを制御することで、昇温中にも再結晶が進行し、焼鈍後の冷延鋼板で強度と延性を両立させることができることを明らかとし、加工性を損なうことなく高強度高降伏比鋼板を得ることに成功した。熱延鋼板中の炭化物サイズを制御するには、Mn量を0.5%未満として、熱間圧延後のランアウトテーブル上での冷却中にγ/α変態を促進させることが有効であり、均一かつ過度に微細化しない微細な炭化物が得られることがわかった。
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1]質量%で、
C:0.06%以上0.14%以下、
Si:0.3%以下、
Mn:0.5%未満、
P:0.05%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.08%以下、
N:0.0080%以下、
Ti:0.08%以上0.15%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相の面積率が90%以上、前記フェライト相に対する加工フェライトの面積率が10%以下(0%を含む)、前記フェライト相の結晶粒内のTiを含む炭化物の平均粒子径が15nm以下である鋼組織を有し、下記式(1)で定めるSi濃化量が1.3以下、下記式(2)で定めるMn濃化量が1.3以下であることを特徴とする、高強度高降伏比冷延鋼板;
Si濃化量=S1(Si)/S2(Si)・・・(1)
Mn濃化量=S1(Mn)/S2(Mn)・・・(2)
ただし、S1(M)は、グロー放電発光分析法により得た元素Mの濃度プロファイルにおける鋼板表面から0.2μmの深さ位置までの元素Mの濃度の積算値を、S2(M)は、グロー放電発光分析法により得た元素Mの濃度プロファイルにおける鋼板表面から0.2μmの深さ位置から0.4μmの深さ位置までの元素Mの濃度の積算値を表す。
[2]前記組成に加えてさらに、質量%で、V:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.05%以下の1種または2種を含有することを特徴とする、前記[1]に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
[3]前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001%以上0.2%以下を含有することを特徴とする、前記[1]または[2]に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
[4]前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.01%以上0.1%以下、Ni:0.01%以上0.1%以下、Mo:0.01%以上0.05%以下、W:0.01%以上0.05%以下、Hf:0.01%以上0.05%以下、Zr:0.01%以上0.1%以下、Co:0.0001%以上0.1%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
[5]鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする、前記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
[6]前記めっき層が亜鉛めっき層であることを特徴とする、前記[5]に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
[7]前記めっき層が合金化亜鉛めっき層であることを特徴とする、前記[5]に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
[8]鋼素材に、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却して巻き取り、冷間圧延し、焼鈍することで冷延鋼板とするにあたり、
前記鋼素材を、質量%で、C:0.06%以上0.14%以下、Si:0.3%以下、Mn:0.5%未満、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.08%以下、N:0.0080%以下、Ti:0.05%以上0.15%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成とし、前記粗圧延に供する鋼素材の温度を1100℃以上1350℃以下とし、前記仕上げ圧延の仕上げ圧延温度を820℃以上とし、前記冷却を仕上げ圧延終了後2秒以内に開始し、前記冷却の平均冷却速度を20℃/s以上とし、前記巻き取りの巻取り温度を700℃以下とし、前記冷間圧延の冷間圧延率を30%以上75%以下とし、前記焼鈍を、700℃から焼鈍温度までの平均昇温速度が10℃/s以下、焼鈍温度が750℃以上900℃以下とすることを特徴とする、高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
[9]前記鋼素材が、さらに、質量%で、V:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.05%以下の1種または2種を含有することを特徴とする、前記[8]に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
[10]前記鋼素材が、さらに、質量%で、Ca、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001%以上0.2%以下含有することを特徴とする、前記[8]または[9]に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
[11]前記鋼素材が、さらに、質量%で、Cr:0.01%以上0.1%以下、Ni:0.01%以上0.1%以下、Mo:0.01%以上0.05%以下、W:0.01%以上0.05%以下、Hf:0.01%以上0.05%以下、Zr:0.01%以上0.1%以下、Co:0.0001%以上0.1%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記[8]〜[10]のいずれか1つに記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
[12]前記焼鈍温度での焼鈍の後、めっき処理を施すことを特徴とする、前記[8]〜[11]のいずれか1つに記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
[13]前記めっき処理が、亜鉛めっき処理であることを特徴とする、前記[12]に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
[14]前記めっき処理が、合金化亜鉛めっき処理であることを特徴とする、前記[12]に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
本発明によると、引張強さが590MPa以上であり、かつ表面性状に優れた高強度高降伏比冷延鋼板が得られる。本発明の高強度高降伏比冷延鋼板は、自動車の構造部材等の使途に好適であり、かつ自動車部材の軽量化や自動車部材成形を可能とする等の効果を奏する。表面性状も良好であることから、めっき処理や化成処理が可能であり優れた耐食性を付与することができ、産業上格段の効果を奏する。
グロー放電発光分析法により得た元素Mの濃度プロファイルおよびS1(M)、S2(M)を表す模式図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の冷延鋼板の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.06%以上0.14%以下
Cは、Tiと結合し炭化物として鋼板中に微細分散する。また、さらにVやNbを添加した場合、あるいは更にMo、W、Zr、Hfを添加した場合、これら元素とも結合し、炭化物として鋼板中に微細分散する。すなわちCは、微細な炭化物を形成してフェライト組織を著しく強化させる元素である。Cは鋼板を強化する上で必須の元素であり、引張強さ590MPa以上を確保するには、C含有量は0.06%以上とする必要がある。好ましくは0.07%以上である。一方、C含有量が0.14%を超えると、熱間圧延前のスラブ再加熱工程で粗大なTiCを完全に溶解することができなくなり、強化に対する効果が飽和する。そのため、C含有量は0.14%以下とする。好ましくは、0.12%以下である。
なお、炭化物形成に関与しなかったCは、炭化物の熱安定性を向上させて、焼鈍中の炭化物粗大化を抑制する。また、熱延鋼板で形成されたセメンタイトは冷延時にマトリックスとのひずみ勾配を発生させ、蓄積されるひずみエネルギーが増大し、再結晶を促進させる効果も有する。このような観点から、Cは炭化物構成元素であるTiの含有量、さらにはV、Nb、Mo、W、Zr、Hfを添加した場合には、これら元素の含有量に対し、原子比にして過剰に含有させることが望ましく、下記(3)式を満たすことが好ましい。より好ましくは(3)式の左辺は2.2以上である。なお、ここで、式(3)中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。
(C/12)/{(Ti/48)+(V/51)+(Nb/93)+(Mo/96)
+(W/184)+(Hf/176)+(Zr/91)}≧1.8・・・(3)
Si:0.3%以下
Siは易酸化性元素であり、鋼板表面に濃化し易く、鋼板表面にファイヤライト(FeSiO)を形成する。このファイヤライトは鋼板表面に楔形となって形成し著しく鋼板表面性状を劣化させるが、0.3%まではその影響が小さく許容できる。このため、Si含有量は0.3%以下とする。なお、化成処理性の観点からはSi含有量は0.2%以下とすることが好ましく、めっき性の観点からは0.1%未満とすることが好ましい。また、Si含有量は0%であってもよい。
Mn:0.5%未満
MnはSiと同様、易酸化性元素であり、鋼板表面に濃化して表面性状を悪化させる。一方で、Mnはγ/α変態を遅延させる元素でもある。本発明では焼鈍工程での回復、再結晶を促進させるため、特に熱延鋼板中の炭化物サイズを制御する。焼鈍での回復、再結晶を促進させるのに適した炭化物サイズにするには、上述したように、熱間圧延後のγ/α変態開始温度が重要である。Mn含有量を0.5%未満とすることにより、熱間圧延後のγ/α変態を促進して熱間圧延後のγ/α変態開始温度を680℃以上とし、過度に微細な炭化物(粒子径が5nm以下)ではない炭化物が得られる。過度に微細な炭化物が熱延鋼板中に分散した状態であると、冷間圧延後の焼鈍工程での再結晶がTiを含む炭化物によって遅延され、良好な加工性を有する鋼板が得られなくなる。本発明では熱延鋼板中の炭化物のサイズを5nm以上に制御することで再結晶を促進させ、良好な加工性を得るとともに鋼板表面へのMn濃化を低減することで表面性状に優れた鋼板を得る。以上の観点から、Mn含有量は0.5%未満とする。好ましくは、0.4%以下である。Mn含有量は、不純物レベルまで低減してもよい。なお、不純物元素であるSによる加工性低下を抑制するため、Mn含有量の下限は0.05%程度とすることが好ましい。
P:0.05%以下
Pは粒界に偏析して加工時に粒界割れの起点となり、加工性を劣化させるが、このようなPの影響は、0.05%までは許容できる。このため、P含有量は0.05%以下とする。好ましくは、P含有量は0.03%以下であり、極力低減することが好ましい。P含有量は0%であってもよい。
S:0.01%以下
Sは、鋼中でMnSなどの介在物として存在する。この介在物は熱間圧延中に伸展し、伸展した介在物は加工時に割れの起点となるため加工性を低下させるが、このようなSの影響は、0.01%までは許容できる。このため、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは、S含有量は0.008%以下であり、低減することが好ましい。S含有量は0%であってもよい。
Al:0.08%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためにはAl量は0.02%以上とすることが好ましい。一方で、Alは酸化物等の介在物を形成し、加工時にボイドの起点となるため加工性を低下させるが、Al含有量は0.08%までは許容できる。このため、Al量の上限を0.08%とする。好ましくは0.06%以下である。
N:0.0080%以下
Nは製鋼、連続鋳造の段階でTiと結合しTiNを形成する。この際析出するTiNは粗大であるため、鋼板の強化に寄与せず、加工時にボイド生成の起点となるため鋼板の加工性に悪影響をもたらす。このため、Nは極力低減させることが望ましいが、0.0080%までは許容できるため、本発明でのN含有量の上限を0.0080%とする。好ましくは0.0060%以下である。N含有量は極力低減させることが好ましく、0%であってもよい。
Ti:0.08%以上0.15%以下
Tiは、Cと炭化物を形成して鋼板の高強度化に寄与する元素である。特に本発明では固溶強化元素であるSi、Mnを上記したように低減しているため、所望の鋼板強度を得るにはTiを含有させ、Tiを含む微細な炭化物により析出強化して強度を上昇させる必要がある。Tiが0.08%を下回ると所望の鋼板強度(引張強さ:590MPa以上)が得られなくなるため、Ti含有量の下限を0.08%とする。好ましくはTi含有量の下限は0.10%であり、より好ましくはTi含有量の下限は0.11%である。一方、Ti含有量が0.15%を超えると、鋼板を製造する際、熱間圧延前のスラブ加熱によって粗大なTi炭化物を溶解することができず、高強度化の効果が飽和するため、Ti含有量の上限を0.15%とする。好ましくは、Ti含有量は0.13%以下である。
以上が、本発明における基本組成であり、残部はFeおよび不可避的不純物である。本発明では、上記した基本組成に加えて、さらに目的に応じて、以下の成分を加えてもよい。
V:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.05%以下の1種または2種
VおよびNbは、Tiと同様、Cと炭化物を形成して鋼板の高強度化に寄与する元素である。このような効果を得るためには、VおよびNbはそれぞれ0.01%以上添加する必要がある。一方でVは炭化物を粗大化させやすく、0.1%を超えて含有しても、強化に対する効果が飽和し、もしくは含有量の増量につれ強度が低下する。このため、Vを添加する場合は、V含有量の上限を0.1%とする。好ましいV含有量の上限は0.08%である。また、Nbは再結晶時にsolute drag効果により粒界移動を阻害し、加工フェライト粒を残存させやすい。加工フェライト粒は、鋼板の加工性に悪影響を与える。しかし、Nb含有量が0.05%以下であればこのような加工性への悪影響は顕在化しないため、Nb含有量の上限を0.05%とする。好ましいNb含有量の上限は0.04%である。
Ca、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001%以上0.2%以下
Ca、Mg、REM(REM:スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)および原子番号57から71までのランタノイド元素)は介在物の形態を制御し、介在物から発生するボイド発生を抑制するのに有効な元素である。このような効果を得るにはCa、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001%以上添加する必要がある。一方で、これら元素の合計の含有量が0.2%を超えても上記効果が飽和する。このため、Ca、Mg、REMの1種または2種以上の合計量の上限を0.2%とした。好ましい範囲はCa、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0005%以上0.1%以下である。
Cr:0.01%以上0.1%以下、Ni:0.01%以上0.1%以下、Mo:0.01%以上0.05%以下、W:0.01%以上0.05%以下、Hf:0.01%以上0.05%以下、Zr:0.01%以上0.1%以下、Co:0.0001%以上0.1%以下の1種または2種以上
CrおよびNi、Mo、W、Hf、Zr、Coは微量添加で鋼板強度を上昇させるのに有効な元素である。鋼板強度を上昇させるには、Cr、Ni、Mo、W、Hf、Zrはそれぞれ0.01%以上を添加する必要があり、Coは0.0001%以上を添加する必要がある。一方で、Cr、Ni、Zr、Coの含有量がそれぞれ0.1%、Mo、W、Hfの含有量がそれぞれ0.05%を超えるとγ/α変態開始温度が低下し、焼鈍時での回復、再結晶を阻害する微細炭化物を形成させる要因となる。そのためCr、Ni、Zr、Coの上限量はそれぞれ0.1%、MoおよびW、Hfの含有量の上限はそれぞれ0.05%とした。これら元素の中で、Mo、W、Hf、Zrは、再結晶を阻害させやすい元素であるため、Mo、W、Hf、Zrのうちの2種以上を含有させる場合には、Mo、W、Hf、Zrの含有量の合計を0.1%以下とすることが好ましい。
次に、本発明鋼板の組織の限定理由について説明する。
フェライト相の面積率が90%以上
冷延、再結晶焼鈍後の冷延鋼板のマトリックスは、加工性に優れたフェライト単相組織とすることが好ましい。ベイナイト相やマルテンサイト相、残留オーステナイト等のフェライト相と硬度が異なる第二相組織が鋼板組織に混入すると、フェライト相と第二相組織との界面で加工時に応力集中が生じ、割れ等の欠陥が発生する原因となる。また、ベイナイト相やマルテンサイト相は、変態時に変態ひずみを発生させフェライト相に可動転位を導入させる。この可動転位は降伏応力を低下させるため、フェライト相に可動転位が導入されると、高い降伏比を得ることが困難となる。本発明ではフェライト相の面積率を90%以上とし、フェライト相以外の組織である第二相組織の面積率が10%以下であれば、上記したような加工性や降伏応力への影響が小さいため、フェライト相の面積率下限を90%とした。好ましくはフェライト相の面積率は95%以上である。
フェライト相に対する加工フェライトの面積率が10%以下(0%を含む)
冷間圧延後には、鋼板全体が加工された組織となる。この組織は粒内に多量の転位を含むため延性が著しく乏しく、加工性を低下させる。加工性に悪影響をもたらさないようにするには、加工フェライトは極力低減する必要があり、フェライト相全体に占める加工フェライトの面積率、すなわち、フェライト相に対する加工フェライトの面積率は10%以下に制限する必要がある。望ましくは8%以下である。
フェライト相の結晶粒内のTiを含む炭化物の平均粒子径が15nm以下
本発明鋼では固溶強化元素であるMnを低減しているため、粒子分散強化による強化量を最大限高める必要がある。粒子分散強化による強化量は炭化物の析出量の他に炭化物の粒子径が重要な要素となる。炭化物の微細化により鋼板強度は著しく上昇するため、鋼板の引張強さを590MPa以上とするには、フェライト相の結晶粒内のTiを含む炭化物の平均粒子径は15nm以下とする必要がある。好ましくは10nm以下である。本発明では、この微細に析出する炭化物はTiを含む組成であるが、Tiの他にV、Nb、Mo、W、Hf、Zr、N、Alを含んでいても良い。なお、焼鈍中での再結晶を促進させるため、フェライト相の結晶粒内のTiを含む炭化物の平均粒子径は5nm以上とすることが好ましい。
Si濃化量が1.3以下、Mn濃化量が1.3以下
ここで、Si濃化量は上記式(1)、Mn濃化量は上記式(2)で定めるものである。なお、S1(M)(上記式(1)におけるS1(Si)、上記式(2)におけるS1(Mn))は、グロー放電発光分析法により得た元素M(元素M:上記式(1)ではSi、上記式(2)ではMn)の濃度プロファイルにおける鋼板表面から0.2μmの深さ位置までの元素Mの濃度の積算値を、S2(M)(上記式(1)におけるS2(Si)、上記式(2)におけるS2(Mn))は、グロー放電発光分析法により得た元素Mの濃度プロファイルにおける鋼板表面から0.2μmの深さ位置から0.4μmの深さ位置までの元素Mの濃度の積算値を表す。なおS2(M)は、地鉄の元素Mの固溶量に相当する。
Si及びMnの表面濃化層は、鋼板表面の濡れ性を著しく低下させ、めっき性や化成処理性を低下させる。したがって、鋼板表面でのSi濃化量およびMn濃化量が増加すると、鋼板の表面性状が劣化する。表面性状の劣化を抑制するためには、Si濃化量およびMn濃化量を1.3以下とする必要がある。好ましくは1.2以下である。なおここで、Si濃化量およびMn濃化量は、上記した式(1)あるいは式(2)で表されるように、鋼板表面から0.2μmの深さ位置までのSi濃化量あるいはMn濃化量であり、地鉄のSi固溶量あるいは地鉄のMn固溶量に対して濃化している割合を意味する。
ここで、上記したSi濃化量およびMn濃化量は、各々グロー放電発光分析法により得たSiの濃度プロファイル、Mnの濃度プロファイルから求めることができる。Si濃化量、Mn濃化量の求め方について、図1を用いて説明する。
図1は、グロー放電発光分析法による元素Mのスペクトル強度から得られる元素Mの濃度プロファイルの模式図である。図1は、鋼板表面からの深さ位置における元素Mの濃度を示している。本発明においては、元素Mは、SiあるいはMnである。図1に示すように、鋼板表面からの0.2μmの深さ位置までの元素Mの濃度の積算値をS1(M)、鋼板表面から0.2μmの深さ位置から0.4μmの深さ位置までの元素Mの濃度の積算値をS2(M)とすると、本発明においては、元素Mの濃化量(鋼板表面から0.2μmの深さ位置までにおける元素Mの濃化量)は、S1(M)/S2(M)で求めることができる。なお、ここで、鋼板表面から0.2μmの深さ位置から0.4μmの深さ位置までの元素Mの濃度の積算値S2(M)は、地鉄での元素Mの固溶量に相当している。
次に、本発明の冷延鋼板の製造方法について説明する。本発明の冷延鋼板は、鋼素材に、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却し、巻き取り、冷間圧延し、焼鈍する工程により製造される。
本発明は、上記した組成の鋼素材(鋼スラブ)を用い、鋼素材の温度を1100℃以上1350℃以下として、該温度の鋼素材を熱間圧延に供し、仕上げ圧延の仕上げ圧延温度を820℃以上として熱間圧延を施し、平均冷却速度が20℃/s以上の冷却を仕上げ圧延終了後から2秒以内に開始し、巻取り温度700℃以下で巻取り、冷間圧延率が30%以上75%以下の冷間圧延を施し、700℃から焼鈍温度までの平均昇温速度10℃/s以下、焼鈍温度750〜900℃の焼鈍を行うことを特徴とする。
本発明において、鋼の溶製方法は特に限定されず、転炉、電気炉等、公知の溶製方法を採用することができる。また、真空脱ガス炉にて2次精錬を行ってもよい。その後、生産性や品質上の問題から連続鋳造法によりスラブ(鋼素材)とするのが好ましいが、造塊−分塊圧延法、薄スラブ連鋳法等、公知の鋳造方法でスラブとしても良い。なお、前記したTiNは主に連続鋳造時に析出する。前記したように、TiNが粗大に析出すると、加工時にボイド生成の起点となり、加工性に悪影響をもたらす。ここで、連続鋳造時の鋳造速度を大きくすることで、TiNの粒子成長を抑制することができる。例えばTiNのサイズを5μm以下に抑制するには、連続鋳造時の鋳造速度を1.0m/min以上とすることが望ましい。
鋼素材の温度:1100℃以上1350℃以下
上記の如く得られた鋼素材に、粗圧延および仕上げ圧延からなる熱間圧延を施す。通常、熱間圧延に先立ち鋼素材は加熱され、粗圧延および仕上げ圧延が施される。本発明においては、粗圧延に先立ち鋼素材を加熱して、実質的に均質なオーステナイト相とし、鋼素材中の粗大な炭化物を溶解する必要がある。粗圧延に供する鋼素材の温度、すなわち鋼素材を加熱する場合は鋼素材の加熱温度(以下、単に加熱温度ともいう)が1100℃未満では、粗圧延前に鋼素材中の粗大な炭化物が溶解せず、冷間圧延、焼鈍後に得られる微細分散する炭化物の量が少なく、鋼板強度が著しく低下する。一方、上記鋼素材の温度(加熱温度)が1350℃を超えると、鋼素材表面に生成するスケール量が多く、熱間圧延中にスケールが噛み込みやすく、鋼板表面性状を悪化させる。以上の理由により、粗圧延に供する鋼素材の温度(加熱温度)は、1100℃以上1350℃以下とする。好ましくは1150℃以上1300℃以下である。ただし、鋼素材に熱間圧延を施すに際し、鋳造後の鋼素材が1150℃以上1350℃以下の温度域にある場合、或いは鋼素材の炭化物が溶解している場合には、鋼素材を加熱することなく直送圧延してもよい。なお、粗圧延条件については特に限定されない。
仕上げ圧延温度:820℃以上
仕上げ圧延温度(以下、仕上げ圧延終了温度ともいう)が820℃未満となると、熱間圧延中、鋼板の一部が変態を開始し、鋼板の長手方向および幅方向に対する強度が著しく不均一となる。このような鋼板を冷間圧延すると、鋼板が冷間圧延中に破断したり、形状が著しく不均一になり加工性が低下する問題が生じる。そのため、仕上げ圧延温度は820℃以上とする。仕上げ圧延温度の上限は特に定めないが、操業を安定させるには仕上げ圧延温度は1000℃以下が望ましい。
仕上げ圧延終了後の冷却を開始するまでの時間:2秒以内
仕上げ圧延直後の高温状態の鋼板においては、オーステナイト相に蓄積されたひずみエネルギーが大きいため、ひずみ誘起析出による炭化物が生じる。この炭化物は、高温で析出するため粗大化し易い。本発明では、生成した炭化物は巻取工程ならびに焼鈍工程で粗大化するため、巻取り前には、できる限り粗大な炭化物の生成は抑える必要がある。本発明では、仕上げ圧延終了後なるべく早く強制冷却を開始して、粗大な炭化物の生成を抑制する。このため、仕上げ圧延終了後、少なくとも2秒以内に冷却を開始する。好ましくは1.5秒以内である。
平均冷却速度:20℃/s以上
上記したように、仕上げ圧延終了後の鋼板が高温に維持される時間が長いほど、ひずみ誘起析出による炭化物の粗大化が進行し易くなる。このような炭化物の粗大化を回避するため、仕上げ圧延後は急冷する必要があり、20℃/s以上の平均冷却速度で冷却する必要がある。好ましくは40℃/s以上である。但し、仕上げ圧延終了後の冷却速度が過剰に大きくなると、巻取り温度の制御が困難となり安定した強度が得られにくくなるという問題が懸念されるため、150℃/s以下とすることが好ましい。なお、ここで平均冷却速度は、仕上げ圧延温度終了温度から巻取り温度までの平均冷却速度である。
巻取り温度:700℃以下
本発明において、熱間圧延完了後、巻取工程までに生成せしめたTiを含む炭化物の大きさを巻取工程で変化させないことが重要となる。巻取り温度が700℃を超えるとTiを含む炭化物が粗大化し、冷間圧延し焼鈍後の冷延鋼板の強度が590MPaを下回る。そのため、巻取温度は700℃以下とする。好ましくは660℃以下である。一方、ランアウトテーブルの長さや水冷設備等の構成上、実質的な巻取温度の下限は250℃程度である。
冷間圧延率:30%以上75%以下
冷間圧延率が30%未満では、操業上安定せず板形状が不均一になる。また、30%未満では鋼板がロールに噛み込まず冷間圧延上、トラブル発生の原因にもなる。そのため、冷間圧延率の下限を30%とする。望ましくは40%以上である。一方、冷間圧延率が75%を超えると過度に鋼板が加工硬化し、所望の板厚とすることが困難となったり、冷間圧延中に鋼板が破断したりする可能性があるため、冷間圧延率上限を75%とする。好ましくは70%以下である。
700℃から焼鈍温度までの平均昇温速度:10℃/s以下
焼鈍における焼鈍温度(最高到達温度)に昇温する際の700℃から焼鈍温度までの平均昇温速度が10℃/sを超えると、再結晶していない加工フェライトが残存しやすく、加工性が著しく低下する。このため、700℃から焼鈍温度までの平均昇温速度は10℃/s以下とする。なお、安定した鋼板の材質を得るには、平均昇温速度は、8℃/s以下とすることが好ましい。なお、ここで、平均昇温速度は700℃から焼鈍温度までの平均昇温速度である。
焼鈍温度:750℃以上900℃以下
冷間圧延で導入された転位を取り除くため、実質的に加工フェライトを残存させず回復、再結晶させる必要がある。完全に再結晶させるには750℃以上の焼鈍温度で焼鈍する必要がある。一方で900℃を超える焼鈍温度では炭化物が粗大化するため、鋼板強度が著しく低下する。したがって、焼鈍温度の上限を900℃とする。好ましい焼鈍温度の範囲は760℃以上860℃以下である。Tiを含む炭化物の粗大化、もしくはTiを含む炭化物溶解の抑制の観点から焼鈍は750℃以上となっている時間が10分以内であることが望ましく、連続焼鈍ラインもしくは連続溶融めっきラインで製造することが好ましい。なお、ここで焼鈍温度は、焼鈍中の鋼板温度の最高到達温度である。
本発明の冷延鋼板は、表面にめっき層を具えたとしても材質変動が極めて小さく鋼板強度や加工性を低下させない。そのため、表面にめっき層を具えることができる。めっき層を付与するには、上記焼鈍温度で焼鈍後、めっき処理を行えば良い。めっき層の種類は特に問わず、電気めっき層、無電解めっき層のいずれも適用可能である。また、めっき層の合金成分も特に問わず、溶融亜鉛めっき等の亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき等の合金化亜鉛めっき層などが好適な例として挙げられる。なお、めっき層の合金成分、めっき層の種類などはこれらに限定されず、従前公知のものがいずれも適用可能である。
表1に示す組成を有する肉厚250mmの鋼素材(鋼スラブ)を、表2に示すスラブ加熱温度に加熱した後、表2に示す熱延条件で熱延鋼板とし、表2に示す条件の冷間圧延を施し、連続焼鈍ラインもしくは連続溶融めっきラインにて冷延鋼板とした。表面にめっき層を具えない“裸材”は連続焼鈍ラインで製造し、溶融亜鉛めっき層を具えた“GI材”、もしくは合金化溶融亜鉛めっき層を具えた“GA材”は連続溶融めっきラインにて製造した。連続溶融めっきラインで浸漬するめっき浴(めっき組成:Zn−0.13質量%Al)の温度は460℃であり、GA材はめっき浴に浸漬後、520℃で合金化処理を施した。めっき付着量はGI材、GA材ともに片面当たり45〜55g/mとした。なお、表2に記載の冷却速度は、仕上げ圧延終了温度から巻取り温度までの平均冷却速度であり、平均昇温速度は700℃から焼鈍温度までの平均昇温速度であり、焼鈍温度は焼鈍中の鋼板温度の最高到達温度である。また、表1に記載したγ/α変態開始温度は、富士電波工機株式会社製サーメックマスターZを用いて、冷間圧延後の鋼板より採取した試験片に熱伝対をスポット溶接にて着装し、高周波誘導加熱方式にて昇温速度5℃/sにて加熱した際の変態膨張曲線から評価した値である。
上記により得られた冷延鋼板から試験片を採取し、フェライト相の面積率、フェライト相の平均結晶粒径、加工フェライトの面積率、Tiを含む炭化物の平均粒子径、降伏強度、引張強さ、伸び、SiおよびMn濃化量、めっき性、化成処理性を求めた。試験方法は次のとおりとした。
(i)組織観察
フェライト相の面積率は以下の手法により評価した。圧延方向に平行な断面の板厚中心部について、5%ナイタールによる腐食現出組織を走査型光学顕微鏡で400倍に拡大して10視野分撮影した。ここで、フェライト相は粒内にラス状の形態やセメンタイトが観察されない形態を有する組織である。また、ポリゴナルフェライト、ベイニティックフェライト、アシキュラーフェライトおよびグラニュラーフェライトをフェライトとして面積率や粒径を求めた。フェライト相の面積率は画像解析によりベイナイト相やマルテンサイト相、パーライト等のフェライト相以外を分離し、観察視野に対するフェライト相の面積率によって求めた。このとき、線状の形態として観察される粒界はフェライト相の一部として計上した。また、伸展された形状で粒内に腐食痕が認められる組織を加工フェライトとみなし、観察視野に占めるフェライト相に対する加工フェライトの面積率を求めた。
フェライト相の結晶粒内のTiを含む炭化物の平均粒子径は、得られた冷延鋼板の板厚中央部から薄膜法によってサンプルを作製し、透過型電子顕微鏡(倍率:135000倍)で観察を行い、100点以上の析出物粒子径の平均によって求めた。析出物の組成はTEMに付帯するEDXにより分析し、球形および板状、針状である析出物について、Tiが含まれることを確認すれば良い。この析出物粒子径を算出する上で、Tiを含まない粗大なセメンタイトやCが含まれないTiを含む窒化物は含まないものとした。このTiを含む窒化物は粒子径が100nm以上であり、球形ではなく長方形の形状で観察される。
(ii)引張試験
得られた冷延鋼板から圧延方向に対して垂直方向にJIS5号引張試験片を作製し、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠した引張試験を5回行い、平均の降伏強度(YS)、引張強さ(TS)、全伸び(El)を求めた。引張試験のクロスヘッドスピードは10mm/minとした。
(iii)SiおよびMn濃度測定
鋼板表面にめっき層が具えられていた場合には、酸洗によってめっき層を剥離した後、鋼板表面をグロー放電発光分析法により濃度プロファイルを測定し、鋼板表面および内部のSiおよびMnの濃度分布を求めた。Siの濃化量およびMn濃化量はそれぞれ鋼板表面から深さ0.2μm位置までのSiの積算値(S1(Si))もしくはMnの積算値(S1(Mn))と、深さ0.2μm位置から0.4μm位置までのSiの積算値(S2(Si))もしくはMnの積算値(S2(Mn))を求め、鋼板表面から深さ0.2μm位置までの積算値に深さ0.2μm位置から0.4μm位置までの積算値を割り付けることにより算出した。すなわち、Siの濃化量はS1(Si)/S2(Si)にて、Mnの濃化量はS1(Mn)/S2(Mn)にて算出した。
(iV)めっき性調査
コイル長手方向の任意の5カ所から幅方向センター部よりサンプルを採取し、500mm×500mmの範囲での不めっきや合金化不良の有無を目視で調査した。不めっきは斑点状に認められる局部的にめっき層が付与していない不具合であり、最小0.5mmのものまで観察できた。合金化不良部分は適切に合金化された部分よりも明るい銀白色を呈しており、合金化不良は、このような部分に対してICP発光分光分析により求めためっき相中に含まれるFeの含有量(Fe%(質量%))が8%未満である不具合であり、合金化処理を施したGA材のみ評価した。不めっきが10点/m以上認められた場合、もしくは合金化不良が認められた場合には評価を“×”とし、そうでない場合を“○”とした。
(V)化成処理性調査
裸材を対象に化成処理性についても調査した。表面調整液には日本ペイント(株)製サーフファイン5N−10、化成処理液には日本ペイント(株)製サーフダインSD2500を用い、液温43℃で化成処理を施した。化成処理性の評価は化成処理後の鋼板表面を400倍で10視野観察し、化成結晶の空隙部の面積が撮影視野面積に対し10%以上ある場合には“×”と評し、そうではない場合には“○”とした。
また、冷間圧延前の熱延鋼板から試験片を採取し、熱延鋼板の炭化物の平均粒径を求めた。なお、熱延鋼板の炭化物平均粒子径は、上記と同様の透過型電子顕微鏡の撮影写真により求めた。
以上により得られた結果を表3に示す。本発明例はいずれも、降伏比(=YS/TS)が0.84以上、引張強さTS:590MPa以上であり、且つめっき性および化成処理性に優れることから、表面性状に優れた高降伏比冷延鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、所望の強度(引張強さ:590MPa以上)の高強度が確保できていないか、良好なめっき性、化成処理性が得られなかった。
Figure 2015147966
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Claims (14)

  1. 質量%で、
    C:0.06%以上0.14%以下、
    Si:0.3%以下、
    Mn:0.5%未満、
    P:0.05%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.08%以下、
    N:0.0080%以下、
    Ti:0.08%以上0.15%以下
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相の面積率が90%以上、前記フェライト相に対する加工フェライトの面積率が10%以下(0%を含む)、前記フェライト相の結晶粒内のTiを含む炭化物の平均粒子径が15nm以下である鋼組織を有し、下記式(1)で定めるSi濃化量が1.3以下、下記式(2)で定めるMn濃化量が1.3以下であることを特徴とする、高強度高降伏比冷延鋼板;
    Si濃化量=S1(Si)/S2(Si)・・・(1)
    Mn濃化量=S1(Mn)/S2(Mn)・・・(2)
    ただし、S1(M)は、グロー放電発光分析法により得た元素Mの濃度プロファイルにおける鋼板表面から0.2μmの深さ位置までの元素Mの濃度の積算値を、S2(M)は、グロー放電発光分析法により得た元素Mの濃度プロファイルにおける鋼板表面から0.2μmの深さ位置から0.4μmの深さ位置までの元素Mの濃度の積算値を表す。
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、V:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.05%以下の1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001%以上0.2%以下を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.01%以上0.1%以下、Ni:0.01%以上0.1%以下、Mo:0.01%以上0.05%以下、W:0.01%以上0.05%以下、Hf:0.01%以上0.05%以下、Zr:0.01%以上0.1%以下、Co:0.0001%以上0.1%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
  5. 鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
  6. 前記めっき層が亜鉛めっき層であることを特徴とする、請求項5に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
  7. 前記めっき層が合金化亜鉛めっき層であることを特徴とする、請求項5に記載の高強度高降伏比冷延鋼板。
  8. 鋼素材に、粗圧延と仕上げ圧延からなる熱間圧延を施し、仕上げ圧延終了後、冷却して巻き取り、冷間圧延し、焼鈍することで冷延鋼板とするにあたり、
    前記鋼素材を、質量%で、C:0.06%以上0.14%以下、Si:0.3%以下、Mn:0.5%未満、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.08%以下、N:0.0080%以下、Ti:0.05%以上0.15%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成とし、前記粗圧延に供する鋼素材の温度を1100℃以上1350℃以下とし、前記仕上げ圧延の仕上げ圧延温度を820℃以上とし、前記冷却を仕上げ圧延終了後2秒以内に開始し、前記冷却の平均冷却速度を20℃/s以上とし、前記巻き取りの巻取り温度を700℃以下とし、前記冷間圧延の冷間圧延率を30%以上75%以下とし、前記焼鈍を、700℃から焼鈍温度までの平均昇温速度が10℃/s以下、焼鈍温度が750℃以上900℃以下とすることを特徴とする、高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
  9. 前記鋼素材が、さらに、質量%で、V:0.01%以上0.1%以下、Nb:0.01%以上0.05%以下の1種または2種を含有することを特徴とする、請求項8に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
  10. 前記鋼素材が、さらに、質量%で、Ca、Mg、REMの1種または2種以上を合計で0.0001%以上0.2%以下含有することを特徴とする、請求項8または9に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
  11. 前記鋼素材が、さらに、質量%で、Cr:0.01%以上0.1%以下、Ni:0.01%以上0.1%以下、Mo:0.01%以上0.05%以下、W:0.01%以上0.05%以下、Hf:0.01%以上0.05%以下、Zr:0.01%以上0.1%以下、Co:0.0001%以上0.1%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
  12. 前記焼鈍温度での焼鈍の後、めっき処理を施すことを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
  13. 前記めっき処理が、亜鉛めっき処理であることを特徴とする、請求項12に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
  14. 前記めっき処理が、合金化亜鉛めっき処理であることを特徴とする、請求項12に記載の高強度高降伏比冷延鋼板の製造方法。
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