JP2015113506A - 耐食性に優れる原油タンク用鋼材および原油タンク - Google Patents

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Abstract

【課題】タンカー油槽部等の原油タンクの上板における耐全面腐食性ならびに原油タンクの底板における耐局部腐食性の両者に優れる原油タンク用鋼材を提供する。【解決手段】鋼材の成分組成を、質量%で、C:0.03〜0.18%、Si:0.03〜1.50%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.025%以下、S:0.010%以下、Al:0.005〜0.10%、N:0.008%以下およびCu:0.05〜0.4%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成にすると共に、鋼材の転位密度を1?1016/m2以下とする。【選択図】なし

Description

本発明は、鋼材を溶接して形成される原油タンカーの油槽や原油を輸送あるいは貯蔵するためのタンク(以下、「原油タンク」と総称する)に関するものであり、具体的には、原油タンクの天井部や側壁部に発生する全面腐食および原油タンクの底部に発生する局部腐食を軽減した原油タンク用鋼材と、その鋼材から構成される原油タンクに関するものである。
なお、本発明の原油タンク用鋼材には、厚鋼板、薄鋼板および形鋼が含まれる。
タンカーの原油タンクの内面、特に上甲板裏面および側壁上部に用いられている鋼材には、全面腐食が生じることが知られている。この全面腐食が起こる原因としては、
(1) 昼夜の温度差による鋼板表面への結露と乾燥(乾湿)の繰り返し、
(2) 原油タンク内に防爆用に封入されるイナートガス(O2約4vol%、CO2約13vol%、SO2約0.01vol%、残部N2を代表組成とするボイラあるいはエンジンの排ガス等)中のO2,CO2,SO2の結露水への溶け込み、
(3) 原油から揮発するH2S等腐食性ガスの結露水への溶け込み、
(4) 原油タンクの洗浄に使用された海水の残留
などが挙げられる。
これらは、通常、2.5年毎に行われる実船のドック検査で、強酸性の結露水中に、硫酸イオンや塩化物イオンが検出されていることからも窺い知ることができる。
また、腐食によって生成した鉄錆を触媒としてH2Sが酸化されると、固体Sが鉄錆中に層状に生成するが、これらの腐食生成物は、容易に剥離して脱落し、原油タンクの底部に堆積する。そのため、ドック検査では、多大な費用をかけて、タンク上部の補修やタンク底部の堆積物の回収が行われているのが現状である。
一方、タンカーの原油タンク等の底板として用いられる鋼材には、従来、原油そのものの腐食抑制作用や原油タンク内面に形成される原油由来の保護性コート(オイルコート)の腐食抑制作用により、腐食は生じないものと考えられていた。しかしながら、最近の研究によって、タンク底板の鋼材には、お椀型の局部腐食(孔食)が発生することが明らかになった。
かような局部腐食が起こる原因としては、
(1) 塩化ナトリウムを代表とする塩類が高濃度に溶解した凝集水の存在、
(2) 過剰な洗浄によるオイルコートの離脱、
(3) 原油中に含まれる硫化物の高濃度化、
(4) 結露水に溶け込んだ防爆用イナートガス中のO2、CO2、SO2等の高濃度化、
などが挙げられる。
実際、実船のドック検査時に、原油タンク内に滞留した水を分析した結果では、高濃度の塩化物イオンと硫酸イオンが検出されている。
ところで、上記したような全面腐食や局部腐食を防止する最も有効な方法は、鋼材表面に重塗装を施し、鋼材を腐食環境から遮断することである。しかしながら、原油タンクの塗装作業は、その塗布面積が膨大であるだけでなく、塗膜の劣化により、約10年に一度は塗り替えが必要となるため、検査や塗装に膨大な費用が発生する。さらに、重塗装した塗膜が損傷を受けた部分は、原油タンクの腐食環境下では、かえって腐食が助長されることが指摘されている。
上記のような腐食問題に対しては、鋼材自体の耐食性を改善して、原油タンクの腐食環境下における耐食性を改善する技術が幾つか提案されている。
例えば特許文献1には、質量%で、C:0.001〜0.2%、Si:0.01〜2.5%、Mn:0.1〜2%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cu:0.01〜1.5%、Al:0.001〜0.3%、N:0.001〜0.01%を含有し、さらにMo:0.01〜0.5%およびW:0.01〜1%の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材同士を、溶接して溶接継手を形成するに際し、溶接金属中のCu,Mo,Wの含有量が次の3つの式を満たすように溶接継手を形成する技術が開示されている。
3≧溶接金属のCu含有量(質量%)/鋼材のCu含有量(質量%)≧0.15
3≧(溶接金属のMo含有量+W含有量(質量%))/(鋼材のMo含有量+W含有量(質量%))≧0.15
−0.3≦溶接金属のCu含有量(質量%)−鋼材のCu含有量(質量%)≦0.5
また、特許文献2には、質量%で、C:0.001〜0.2%、Si:0.01〜2.5%、Mn:0.1〜2%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Cu:0.01〜1.5%、Al:0.001〜0.3%、N:0.001〜0.01%を含有し、さらにMo:0.01〜0.5%およびW:0.01〜1%の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材同士を、溶接して原油油槽を形成するに際し、溶接金属中のCu,Mo,Wの含有量が次の2つの式を満たすように溶接継手を形成する技術が開示されている。
3≧溶接金属のCu含有量(質量%)/鋼材のCu含有量(質量%)≧0.15
3≧(溶接金属のMo含有量+W含有量(質量%))/(鋼材のMo含有量+W含有量(質量%))≧0.15
特開2005−21981号公報 特開2005−23421号公報
海洋環境を保全し、かつ、原油タンカーを安全に運航させるためには、原油タンクから原油が漏洩しないよう管理することが重要であり、原油タンクにおける腐食による貫通孔の発生を防止しなければならない。そのため、2.5年毎のドック入りの際に原油タンクの底板の腐食状況を調査し、深さ4mm超の孔食については補修を施すことになっており、原油タンカーの維持管理費を削減する上で、深さ4mm超の孔食発生を抑制する手段の一つとしてタンカーへの耐食鋼の適用が提案されてきた。
しかしながら、特許文献1および2に記載された技術では、タンカー底板および溶接継手に発生する局部腐食(孔食)を、2.5年間で4mm以下に抑制することは困難である。というのは、近年における実船の腐食調査では、タンカー底板および溶接部に発生する孔食内部の溶液のpHは1.0以下であることが判明している。一般に、酸性液中における鋼材腐食は、水素還元反応に律速されており、pHの低下と共に飛躍的に腐食速度が大きくなることはよく知られている。従って、上記特許文献1および2の実施例に記載されているようなpH2.0での浸漬試験では、実船における腐食環境を十分に反映しているとは言えないからである。
一方、タンカー上板に発生する全面腐食の抑止についてであるが、特許文献1および2記載の発明例中、最も腐食速度の低い場合でも0.11mm/y程度であるのに対し、実際の原油タンカーの耐用年数が25年であること、タンカー上板の設計腐食代が片面2mm程度であることから、上板に適用する耐食鋼の腐食速度は0.08mm/y以下が求められる。特に、タンカー上板に溶接されているロンジについては、両面がタンカー内部の腐食環境に曝されるので、0.1mm/y超の腐食速度を有する耐食鋼を適用した場合には、補修が必要となるため、特許文献1および2に記載された技術では塗装の省略化は望むべくもない。
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、タンカー油槽部等の原油タンクの上板における耐全面腐食性ならびに原油タンクの底板における耐局部腐食性の両者に優れる原油タンク用鋼材を、かかる鋼材から構成される原油タンクと共に提供することを目的とする。
さて、発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意研究を重ねた。
その結果、鋼の成分組成と鋼の転位密度を厳密に制御することによって、上記した全面腐食や局部腐食を著しく軽減できるとの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.03〜0.18%、
Si:0.03〜1.50%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.025%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.005〜0.10%、
N:0.008%以下および
Cu:0.05〜0.4%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材であって、該鋼材の転位密度が1×1016/m2以下であることを特徴とする耐食性に優れる原油タンク用鋼材。
2.前記鋼材が、質量%でさらに、
Ni:0.005〜0.4%、
Cr:0.01〜0.2%、
Mo:0.005〜0.5%
W:0.005〜0.5%
Sn:0.005〜0.4%
Sb:0.005〜0.4%、
Nb:0.001〜0.1%、
Ti:0.001〜0.1%、
V:0.002〜0.2%、
Ca:0.0002〜0.01%、
Mg:0.0002〜0.01%および
REM:0.0002〜0.015%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する前記1に記載の耐食性に優れる原油タンク用鋼材。
3.前記1または2に記載の原油タンク用鋼材を用いて製造した原油タンク。
本発明によれば、原油タンカーの油槽や原油を輸送あるいは貯蔵するタンク等に発生する全面腐食や局部腐食を効果的に抑制することができ、産業上極めて有用である。
本発明の実施例で、全面腐食試験に用いた試験装置を説明する図である。 本発明の実施例で、孔食試験に用いた試験装置を説明する図である。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の原油タンク用鋼材の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.03〜0.18%
Cは、鋼の強度を高める元素であり、本発明では、所望の強度(490〜620MPa)を確保するために0.03%以上添加する。しかしながら、0.18%を超える添加は、溶接性および溶接熱影響部の靭性を低下させる。よって、C量は0.03〜0.18%の範囲とする。好ましくは0.06〜0.16%の範囲である。
Si:0.03〜1.50%
Siは、脱酸剤として添加される元素であるが、鋼の強度を高めるのに有効な元素でもある。そこで、本発明では、所望の強度を確保するために0.03%以上添加する。しかしながら、1.50%を超える添加は、鋼の靭性を低下させる。よって、Si量は0.03〜1.50%の範囲とする。好ましくは0.05〜0.40%の範囲である。
Mn:0.1〜2.0%
Mnは、鋼の強度を高める元素であり、本発明では、所望の強度を得るために0.1%以上添加する。しかしながら、2.0%を超える添加は、鋼の靭性および溶接性を低下させる。よって、Mn量は0.1〜2.0%の範囲とする。好ましくは0.80〜1.60%の範囲である。
P:0.025%以下
Pは、粒界に偏析して鋼の靭性を低下させる有害な元素であるので、極力低減させることが望ましい。特に、0.025%を超えて含有されると、靭性が大きく低下する。また、Pが0.025%を超えて含有されると、タンク油槽内の耐食性にも悪影響を及ぼす。よって、P量は0.025%以下とする。好ましくは0.015%以下である。
S:0.010%以下
Sは、非金属介在物であるMnSを形成して局部腐食の起点となり、耐局部腐食性を低下させる有害な元素であるので、極力低減させることが望ましい。特に、0.010%を超えて含有されると、耐局部腐食性の顕著な低下を招く。よって、S量の許容上限は0.010%とする。好ましくは0.005%以下である。
Al:0.005〜0.10%
Alは、脱酸剤として添加される元素であり、本発明では0.005%以上添加する。しかしながら、0.10%を超えて添加すると、鋼の靭性が低下するので、Al量の上限は0.10%とする。
N:0.008%以下
Nは、靭性を低下させる有害な元素であるので、極力低減させることが望ましい。特に、0.008%を超えて含有されると、靭性の低下が大きくなるので、N量の上限は0.008%とする。
Cu:0.05〜0.4%
Cuは、鋼の強度を高めるだけでなく、鋼の腐食によって生成した錆中に存在し、腐食を促進させるCl-イオンの拡散を抑制するため、耐食性を高める効果がある必須添加元素である。これらの効果は、0.05%未満の添加では十分に得られず、一方0.4%を超えて添加すると耐食性の向上効果が飽和する他、熱間加工時に表面割れなどの問題を引き起こすおそれがある。よって、Cu量は0.05〜0.4%の範囲とする。好ましくは0.06〜0.35%の範囲である。
以上、基本成分について説明したが、本発明では、上記した成分の他、次に述べる元素を適宜含有させることができる。
Cr:0.01〜0.2%
Crは、腐食の進行に伴って錆層中に移行し、Cl-の錆層への侵入を遮断することで、錆層と地鉄の界面へのCl-の濃縮を抑制し、これによって耐食性の向上に寄与する。また、Zn含有プライマーを鋼材表面に塗布したときには、Feを中心としたCrやZnの複合酸化物を形成して、長期間にわたり鋼板表面にZnを存続させることができ、これにより飛躍的に耐食性を向上させることができる。上記の効果は、特にタンカー油槽の底板部のように、原油油分から分離された高濃度の塩分を含む液と接触する部分において顕著であり、Crを含有した上記部分の鋼材にZn含有プライマー処理を施すことにより、Crを含有しない鋼材と比較して、格段に耐食性を向上させることができる。このCrの効果は、0.01%未満では十分ではなく、一方0.2%を超えると溶接部の靭性を劣化させる。よって、Cr量は0.01〜0.2%の範囲とする。好ましくは0.05〜0.20%の範囲である。
Sn:0.005〜0.4%
Snは、腐食時に錆層中に取り込まれ、緻密な錆層を形成することにより、鋼材の局部腐食および全面腐食の抑制に寄与する有用元素である。この効果は、0.005%以上の添加で発現するが、0.4%を超えて添加した場合には低温靭性が低下するだけでなく、溶接時に欠陥の発生を招く。従って、Sn量は0.005〜0.4%の範囲とする。好ましくは0.01〜0.2%の範囲、より好ましくは0.01〜0.1%の範囲である。
Mg:0.0002〜0.01%
Mgは、溶接熱影響部の靭性向上に寄与するだけでなく、鋼の腐食によって生成した錆中に存在して耐食性を高める効果がある。これらの効果は、Mg量が0.0002%未満では十分に得られず、一方0.01%を超えて添加すると、かえって靱性の低下を招くので、Mg量は0.0002〜0.01%の範囲とする。
Ni:0.005〜0.4%
Niは、生成した錆粒子を微細化して、裸状態での耐食性およびジンクプライマーにエポキシ系塗装が施された状態での耐食性を向上させる効果を有する。従って、Niは、耐食性をより向上させたい場合に添加する。上記の効果は、0.005%以上のNi添加で発現する。一方、0.4%超えてNiを添加してもその効果は飽和する。よって、Niは0.005〜0.4%の範囲で添加するのが好ましい。好ましくは0.08〜0.35%の範囲である。
Sb:0.005〜0.4%
Sbは、タンカー油槽部底板における孔食を抑制するだけでなく、タンカー上甲板部における全面腐食を抑制する効果がある。上記の効果は、0.005%以上のSb添加で発現するが、0.4%を超えて添加してもその効果は飽和する。よって、Sbは0.005〜0.4%の範囲で添加するのが好ましい。
Nb:0.001〜0.1%、Ti:0.001〜0.1%、V:0.002〜0.2%
Nb,TiおよびVはいずれも、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて適宜選択して添加することができる。上記の効果を得るためには、Nb,Tiはそれぞれ0.001%以上、Vは0.002%以上添加するのが好ましい。しかしながら、Nb,Tiはそれぞれ0.1%を超えて、Vは0.2%を超えて添加すると、靭性が低下するため、Nb,TiおよびVはそれぞれ上記の範囲で添加するのが好ましい。
Ca:0.0002〜0.01%、REM:0.0002〜0.015%
CaおよびREMはいずれも、溶接熱影響部の靭性向上に効果があり、必要に応じて添加することができる。上記の効果は、Ca:0.0002%以上、REM:0.0002%以上の添加で得られるが、Caは0.01%を超えて、またREMは0.015%を超えて添加すると、かえって靭性の低下を招くので、CaおよびREMはそれぞれ上記の範囲で添加するのが好ましい。
Mo:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%
MoおよびWは、タンカー油槽部底板における孔食を抑制するだけでなく、タンカー上甲板部の全面腐食を抑制する効果もある。このMoおよびWの効果は0.005%以上の添加で発現するが、0.5%を超えるとその効果は飽和に達する。よって、MoおよびW量はそれぞれ0.005〜0.5%の範囲とすることが好ましい。より好ましくは0.01〜0.3%、さらに好ましくは0.02〜0.2%の範囲である。
なお、MoおよびWが上記のような耐食性向上効果を有する理由は、鋼板が腐食するのに伴って生成する錆中にMoO4 2-およびWO4 2-が生成し、このMoO4 2-およびWO4 2-の存在によって、塩化物イオンが鋼板表面に侵入するのが抑制されるからである。また、MoO4 2-およびWO4 2-の鋼材表面への吸着によるインヒビター作用によっても、鋼材の腐食が抑制されると考えられる。
次に、本発明で規定した鋼材の転移密度について説明する。
本発明の耐食鋼は、上記したように各種耐食性元素を所定量鋼材に添加することにより、タンカー油槽部底板および上板における腐食環境において形成された鋼材表面の錆層に各種耐食性元素が濃縮し、各種腐食因子の拡散を抑制して、鋼材の腐食速度を減じるものである。
一方、鋼材には、その製造過程に由来する転移の形成を避けることができないが、この転移は熱力学的に不安定であるため、腐食環境においては鉄が溶解するアノードサイトとして機能する。耐食鋼の表面に形成された錆層は保護性を有し、鋼材の腐食速度を減じる効果があるものの、その機能は完全なものではなく、錆層下の鋼材表面における転移の密度によって変化する。従って、この転移密度が大きい場合には、充分な錆層の保護性、ひいては満足のいく耐食性が得られない。
そこで発明者らは、錆層の保護性と転位密度との関係について調査したところ、転位密度が1×1016/m2を超える場合には、十分な耐食性が得られないことが突き止められた。そこで、本発明では、鋼材の転位密度を1×1016/m2以下に制限することにしたのである。
本発明の原油タンク用鋼材は、以下の方法で製造するのが好ましい。
すなわち、本発明の鋼材は、上記した好適成分組成に調整した鋼を、転炉や電気炉、真空脱ガス等、公知の精錬プロセスを用いて溶製し、連続鋳造法あるいは造塊−分塊圧延法で鋼素材(スラブ)とし、ついでこの素材を再加熱してから熱間圧延することにより、厚鋼板、薄鋼板および形鋼等とすることが好ましい。
熱間圧延前の再加熱温度は、900〜1200℃の温度とするのが好ましい。加熱温度が900℃に満たないと変形抵抗が大きく、熱間圧延することが難しくなり、一方加熱温度が1200℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化して靭性の低下を招く他、酸化によるスケールロスが顕著となって歩留りが低下するからである。より好ましい加熱温度は1000〜1150℃の範囲である。
また、熱間圧延で所望の形状、寸法の鋼材に圧延するに当たっては、仕上圧延終了温度は700℃以上とするのが好ましい。仕上圧延終了温度が700℃未満では、鋼の変形抵抗が大きくなり、圧延負荷が増大して圧延が困難になったり、圧延材が所定の圧延温度に達するまでの待ち時間が発生するため、圧延能率が低下するだけでなく、Ar3変態点を大きく下回る温度で仕上圧延を行うことにより、鋼材の転位密度が増加し、耐食性を損ねるからである。
熱間圧延後の鋼材の冷却は、空冷、加速冷却のいずれの方法でもよいが、より高強度を得たい場合には、加速冷却を行うことが好ましい。なお、加速冷却を行う場合には、冷却速度を2〜80℃/s、冷却停止温度を650〜400℃とするのが好ましい。冷却速度が2℃/s未満、冷却停止温度が650℃超えでは、加速冷却の効果が小さく、十分な高強度化が達成されず、一方冷却速度が80℃/s超え、冷却停止温度が400℃未満では、得られる鋼材の靭性が低下したり、鋼材の形状に歪が発生するだけでなく、鋼材の転位密度が増大し、耐食性が低下するからである。
表1にNo.1〜33で示した種々の成分組成になる鋼を、真空溶解炉で溶製して鋼塊とするか、または転炉で溶製して連続鋳造により鋼スラブとし、これらを1150℃に再加熱後、表1に示す仕上圧延終了温度で熱間圧延を施して板厚:25mmの厚鋼板とした後に、水冷速度10℃/sで表1に示す冷却停止温度まで冷却した。
かくして得られたNo.1〜33の厚鋼板について、結露試験および耐酸試験を行って、その耐食性を評価した。併せて鋼材の転位密度も測定した。
すなわち、以下の要領で、上甲板裏を模擬した全面腐食試験(結露試験)とタンカー底板環境を模擬した局部耐食試験(耐酸試験)をそれぞれ行った。
(1) タンカー上甲板環境を模擬した全面腐食試験(結露試験)
タンカー上甲板裏面における全面腐食に対する耐食性を評価するため、上記No.1〜33の厚鋼板それぞれについて、表面1mmの位置から、幅25mm×長さ60mm×厚さ5mmの矩形の小片を切り出し、その表面を600番手のエメリー紙で研磨した。ついで、裏面および端面は腐食しないようにテープでシールし、図1に示す腐食試験装置を用いて全面腐食試験を行った。
この腐食試験装置は、腐食試験槽2と温度制御プレート3とから構成されていて、腐食試験槽2には温度が30℃に保持された水6が注入されており、またその水6中には、導入ガス管4を介して、13vol%CO2、4vol%O2、0.01vol%SO2、0.05vol%H2S、残部N2からなる混合ガスを導入して腐食試験槽2内を過飽和の水蒸気で充満し、原油タンク上甲板裏の腐食環境が再現されている。そして、この試験槽の上裏面に腐食試験片1をセットし、この腐食試験片1に対して、ヒーターと冷却装置を内蔵した温度制御プレート3を介して25℃×1.5時間+50℃×22.5時間を1サイクルとする温度変化を21、49、77および98日間繰り返して付与し、試験片1の表面に結露水を生じさせて、全面腐食を起こさせるようにした。図1中、5は試験槽からの排出ガス管を示す。
上記の腐食試験後、各試験片表面の錆を除去し、試験前後の質量変化から腐食による質量減を求め、この値から1年当たりの板厚減少量(片面の腐食速度)に換算した。そして、4試験期間の値から25年後の予測損耗量を求め、腐食量が2mm以下の場合には耐全面腐食性が良好(○)、2mm超の場合には耐全面腐食性が不良(×)と評価した。
(2) タンカー油槽部底板環境を模擬した局部腐食試験(耐酸試験)
タンカー油槽部底板における孔食に対する耐食性を評価するため、上記No.1〜33の厚鋼板についてそれぞれ、表面1mmの位置から、幅25mm×長さ60mm×厚さ5mmの矩形の小片を切り出し、その表面を600番手のエメリー紙で研磨した。
ついで、10%NaCl水溶液を、濃塩酸を用いてClイオン濃度:10%、pH:0.85に調製した試験溶液を作製し、試験片の上部に開けた3mmφの孔にテグスを通して吊るし、各試験片について2Lの試験溶液中に168時間浸漬する腐食試験を行った。なお、試験溶液は、予め30℃に加温・保持し、24時間毎に新しい試験溶液と交換した。
上記腐食試験に用いた装置を図2に示す。この腐食試験装置は、腐食試験槽8、恒温槽9の二重構造の装置で、腐食試験槽8には上記試験溶液10が入れられ、その中に試験片7がテグス11で吊るされて浸漬されている。試験溶液10の温度は、恒温槽9に入れた水12の温度を調整することで保持している。
上記の腐食試験後、試験片表面に生成した錆を除去した後、試験前後の質量差を求め、この差を全表面積で割り戻し、1年当たりの板厚減少量(両面の腐食速度)を求めた。その結果、腐食速度が1.0mm/y以下の場合を耐局部腐食性が良好(○)、腐食速度が1.0mm/y超の場合を耐局部腐食性が不良(×)と評価した。
(3) 鋼材の転位密度の測定
耐酸試験を行った後のNo.1〜33の試験片から、20×20×5mmtの試験片を切り出し、元の鋼材の表面1mm側の面を測定面とした。X線回折測定装置を用いて、鋼材の(110)、(211)および(220)面の回折ピークを測定し、それぞれの回折角2θと半価幅βmを各試験片についてそれぞれ求めた。
横軸にsinθ/λ、縦軸にβcosθ/λをとり、上記の各結晶面の測定結果をプロットした。
ただし、λはX線波長1.789Å、βは真の回折ピーク半価幅をそれぞれ示し、実測半価幅βmおよび無歪半価幅βsから(1)式により求めた。
なお,無歪標準試料としてSi粉末標準試料を使用した(ピーク位置でのβsは放物線近似による補間計算から求めた)。
β = (βm2−βs2) 0.5 --- (1)
上記のプロット3点に対し最小二乗法により近似曲線を引き、(2)式に示すようにその傾きから歪εを求め、(3)式より転位密度ρを求めた。
β・cosθ/λ = 0.9 /D + 2ε・sinθ/λ --- (2)
ρ = 14.4 ε2 / b2 --- (3)
ただし、bはバーガースベクトル 0.25nm、
Dは結晶子サイズを表す。
得られた結果を、表1に併記する。
Figure 2015113506
表1に示したとおり、本発明の条件を満たす厚鋼板No.1、2、5〜32は、上甲板裏を模擬した全面腐食試験およびタンカー底板環境を模擬した局部腐食試験のいずれにおいても良好な耐食性を示した。
これに対し、本発明の条件を満たさない厚鋼板No.3、4、33は、いずれの耐食性試験においても良好な結果を得ることができなかった。
1,7 腐食試験片
2,8 腐食試験槽
3 温度制御プレート
4 導入ガス管
5 排出ガス管
6,12 水
9 恒温槽
10 試験溶液
11 テグス

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.03〜0.18%、
    Si:0.03〜1.50%、
    Mn:0.1〜2.0%、
    P:0.025%以下、
    S:0.010%以下、
    Al:0.005〜0.10%、
    N:0.008%以下および
    Cu:0.05〜0.4%
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼材であって、該鋼材の転位密度が1×1016/m2以下であることを特徴とする耐食性に優れる原油タンク用鋼材。
  2. 前記鋼材が、質量%でさらに、
    Ni:0.005〜0.4%、
    Cr:0.01〜0.2%、
    Mo:0.005〜0.5%
    W:0.005〜0.5%
    Sn:0.005〜0.4%
    Sb:0.005〜0.4%、
    Nb:0.001〜0.1%、
    Ti:0.001〜0.1%、
    V:0.002〜0.2%、
    Ca:0.0002〜0.01%、
    Mg:0.0002〜0.01%および
    REM:0.0002〜0.015%
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1に記載の耐食性に優れる原油タンク用鋼材。
  3. 請求項1または2に記載の原油タンク用鋼材を用いて製造した原油タンク。
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