以下に本発明の好適な実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお、以下の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
以下の実施形態にかかるインクセットは同一のノズルから複数種のインクをそれぞれ吐出させるための切り替え手段を備えた液滴吐出装置において用いられる。
本実施形態にかかるインクセットは、同一のノズルから複数種のインクをそれぞれ吐出させるための切り替え手段を備えた液滴吐出装置に用いるものであるから、まず液滴吐出装置の概略を説明した後に、インクセットの具体例について詳細に説明することにする。
1.液滴吐出装置
以下、液体吐出装置の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、液滴吐出装置としてインクジェットプリンター(以下、「プリンター」という。)を例に挙げて説明する。図1は、切り替え手段を備えたプリンターの主要構成部を示す概略斜視図であり、図2は、図1に示したプリンターの電気的な構成を示すブロック図である。
本実施形態では、図1および図2を用いて、切り替え手段として、2種のインクを切り替えることができる切り替え手段56を有するプリンター20について記述するが、本発明にかかるプリンターが備える切り替え手段は、3種以上のインクを切り替えるものであってもよい。また、以下の説明では、第1インクは、顔料が分散された分散体の性状であって、長期間の放置により顔料成分が沈降して沈殿を生じる可能性があるものとする。そして、第2インクは、例えば洗浄液のように、沈殿を生じにくい性状の溶液であるものとする。なお、第3インクを備える場合には、第3インクは、例えば洗浄液のように、沈殿を生じにくい性状の溶液であるものとする。
図1に示したプリンター20は、用紙スタッカー22と、図示しないステップモーターで駆動される紙送りローラー24と、プラテン26と、キャリッジ28と、キャリッジモーター30と、キャリッジモーター30によって駆動される牽引ベルト32と、キャリッジ28の走査を案内するガイドレール34とを備えている。キャリッジ28には、多数のノズルを備えた記録ヘッド36が搭載されている。
記録ヘッド36は、液体供給路41、42、43、44、45を介して各カートリッジ11a、11b、12、13、14、15と接続されている。カートリッジ12にはブラックインク(K)、カートリッジ13にはシアンインク(C)、カートリッジ14にはマゼンタインク(M)、カートリッジ15にはイエローインク(Y)がそれぞれ収容されている。さらに、カートリッジ11aには第1インクが、カートリッジ11bには第2インクがそれぞれ収容されている。第2インクは、記録ヘッド36の備えられたノズルのうち、第1インクが吐出されるノズルに充填される。すなわち、第1インクが吐出されるノズルには、切り替え手段56を介して第1インクと第2インクとが選択的に充填されるようになっている。なお、図示しないカートリッジをさらに設けて、これに第3インクを収容して、該第3インクを第1インクが吐出されるノズルに、切り替え手段56を介して第1インク、第2インクおよび第3インクが選択的に充填されるように構成してもよい。この場合は、切り替え手段56は、3種のインクの切り替えが可能となるように適宜構成される。
各カートリッジは、各インク(画像形成液)を収容したインクパックを備えており、インクパックの周囲には空気室が形成されている。図示しない加圧手段によって空気室を加圧することによって各インクパック内のインクが液体供給路41、42、43、44、45を経由して記録ヘッド36へ供給される。このように、本実施形態では、プリンター20は、キャリッジ28上にインクカートリッジが搭載されるいわゆるオンキャリッジタイプのプリンターとは異なり、プリンター20本体の所定の位置に固定的に装着されるオフキャリッジタイプのインクジェットプリンターを例示する。また、ここでは、加圧手段によって、ノズルからインクを吐出させる(押し出す)ことによって置換させる態様を例示しているが、ノズル側から吸引手段によってインクを吐出させる(抜き出す)ことによって置換させる態様であってもよい。
記録用紙P(記録媒体)は、用紙スタッカー22から紙送りローラー24によって巻き取られてプラテン26の表面上を、記録ヘッド36の主走査方向と直交する副走査方向へ送られる。キャリッジ28は、キャリッジモーター30により駆動される牽引ベルト32に牽引されて、ガイドレール34に沿って主走査方向に移動する。
プリンター20は、図2に示すように、ホストコンピューター90から供給された信号を受信する受信バッファメモリー50と、画像データを格納するイメージバッファー54と、プリンター20全体の動作を制御するシステムコントローラー51(制御手段)と、メインメモリー52と、EEPROM53とを備えている。EEPROM53に記憶されたファームウェアをメインメモリー52に読み出し実行することによって、プリンター20の各種動作が実現される。
また、システムコントローラー51には、キャリッジモーター30を駆動する主走査駆動回路61と、紙送りモーター31を駆動する副走査駆動回路62と、記録ヘッド36を駆動するヘッド駆動回路63と、が接続されている。副走査駆動回路62、紙送りモーター31および紙送りローラー24は、紙送り機構を構成している。
システムコントローラー51は、受信バッファメモリー50が受信した記録データに含まれる各種コマンドや、予めEEPROM53に書き込まれた設定条件等に応じて、主走査駆動回路61および副走査駆動回路62を制御する。
例えば、高画質の画像を記録するように設定されている場合は、主走査駆動回路61および副走査駆動回路62によって、ラスタを副走査方向に間欠的に形成しつつ画像を記録するいわゆるインターレース方式の記録を行う。また、1ラスタを形成するノズルを間欠的タイミングで駆動させて記録するいわゆるオーバーラップ方式の記録を行うこともできる。
さらに、システムコントローラー51には、表示手段55と、切り替え手段56と、計時手段57と、ノズル吐出検査手段58と、が接続されている。表示手段55は、プリンター20の液晶表示画面に表示内容を表示する。あるいは、表示内容をホストコンピューター90のプリンタードライバ91へ送信し、ドライバの表示画面91に表示する。切り替え手段56は、切り替え弁のようなものであり、システムコントローラー51からの指示に応じて液体供給路41に供給する液体を自動的に第1インクまたは第2インクのいずれかに切り替える。また、図示しないが、切り替え手段56は、3種以上のインクを切り替えるように構成されてもよい。計時手段57は、記録ヘッド36の特定のノズルに第1インクが充填されたまま吐出動作がない状態(第1充填状態)が継続する時間、すなわち放置時間を計時する。
ノズル吐出検査手段58は、キャリッジ28上の記録ヘッド36による記録可能なエリアから外れた非記録エリアに配置されている。キャリッジ28が、主走査方向に沿って記録エリアから非記録エリアへ移動することで、吐出状態の検査を行う状態となる。ノズル吐出検査手段58は、非記録エリアに移動した記録ヘッド36の各ノズルと対向するように記録ヘッド36の下方に配置されている。そして、ノズル吐出検査手段58は、記録ヘッド36の各ノズルから吐出されたインク滴を受けるための導電性インク吸収体と、帯電したインク滴の接近によって導電性インク吸収体に生じる誘導電流を検出する検出部と、各ノズルからインク滴を吐出する際にこのインク滴を帯電させるべく導電性インク吸収体に電圧を印加する電圧印加部と、導電性インク吸収体を収容するための有底容器と、を備えている。
帯電したインク滴が各ノズルから導電性インク吸収体へ向けて吐出されると、このインク滴の接近に伴って導電性インク吸収体には、静電誘導現象等に基づいて誘導電流が生じる。すなわち、インク滴の接近に伴って、導電性インク吸収体にはインク滴とは逆極性の電荷が誘起されるように誘導電流が流れる。この誘導電流の検出の有無によってノズル詰まりを検査する。
以上の構成を備えたプリンター20において、第1インクと第2インクとを切り替える方法について説明する。システムコントローラー51は、第1インクと、第2インクと、が選択的に充填される特定のノズルに第1インクが充填された第1充填状態から、同一のノズルに第2インクが充填された第2充填状態へ、所定の条件にしたがって切り替えるよう制御する。以下では、プリンター20の電源がON状態のときに行う切り替え処理と、プリンター20の電源がOFF状態になる前に行う切り替え処理についてそれぞれ説明する。
図3は、プリンターの電源がON状態の時に行う切り替え処理の流れを説明するためのフローチャートである。プリンター20の電源がON状態においてシステムコントローラー51は、計時手段57に対して、記録ヘッド36のノズルのうち第1インクが吐出される特定のノズルに、第1インクが充填された状態が継続する時間、すなわちプリンター20の放置時間を計時するよう指示する。なお、予め設定された時間内に記録ヘッド36のノズルからの吐出動作があった場合は、計時手段57をリセットして計時を再開する。
なお、予め設定する時間としては、例えば1ヶ月とすることができる。この1ヶ月という時間は、第1インクがノズルに充填されて放置された場合に、そのノズルが目詰まりを起こさない最大期間として経験的に得られる値である。この値は、インク毎に異なり、ここでは単に一例として1ヶ月とした。したがって、プリンター20の設置環境、インク組成等によってことなる値であり、コマンド等によって適宜変更可能な値である。ここでは、顔料系の第1インクを採用した場合を前提に説明する。なお、目詰まりを確実に防止するために上記期間を短く設定しすぎると、頻繁に第2インクが充填されるため第2インクの消費量が多く、コストパフォーマンスが悪くなる場合がある。
システムコントローラー51は、計時手段57によって計時されている放置時間を確認する(ステップS11)。放置時間が1ヶ月以上であるか否かを判定し、放置時間が1ヶ月以上であると判定すると(ステップS12:Yes)、システムコントローラー51は切り替え手段56に対して第1インク側の弁を閉じて、第2インク側の弁を開けるよう指示する。次に、カートリッジ11bの図示しない加圧手段を駆動させて第2インクを液体供給路41を経由して記録ヘッド36へ供給する。そして記録ヘッド36へ供給された第2インクは、第1インクが充填されているノズルに充填される。すなわち、それまで充填されていた第1インクは第2インクによってノズルから押し出され、第2インクに切り替えられる(ステップS13)。
一方、ステップS12において放置時間が1ヶ月より短いと判定した場合は(ステップS12:No)、システムコントローラー51はノズル吐出検査手段58に対してノズル吐出検査を実行するよう指示する。ノズル吐出検査手段58がノズル吐出検査を実行し(ステップS14)、検査結果に基づき第1インクが充填されていたノズルにノズル抜けがあるか否かを判定する。第1インクが充填されていたノズルにノズル抜けを発見すると(ステップS15:Yes)、第1インクから第2インクに切り替える(ステップS13)。一方、第1インクが充填されていたノズルにノズル抜けを発見しなかった場合は(ステップS15:No)、ステップS11に戻り、計時手段57をリセットして放置時間の計時を再開する。
以上のように、第1インクと、第2インクと、が所定の条件にしたがって、特定のノズルに選択的に充填される。したがって、長期間にわたってインクの吐出動作を実行しない場合は、特定のノズルに対して第2インクを充填するように切り替えれば、その特定のノズルが目詰まりを起こすことがない。これにより、特定のノズルに、多色インクより粒径が大きく目詰まりを発生し易い第1インクが充填されたままで長期間放置されることを防止することができる。
また、特定のノズルに目詰まりが発生する時間として、経験的に得られる値を予め設定しておき、設定した1ヶ月と実際の放置時間とを比較するようにすれば、第2インクへの切り替えを、目詰まりを防止できる範囲内で最小限に抑えることができる。これにより、第2インクを無駄に消費することを防止することができる。
また、放置時間が予め設定された1ヶ月より小さい場合でも、ノズル抜けが検出された場合は、第2インクへ切り替えることができる。したがって、特定のノズルに目詰まりが発生する時間として経験的に得られた1ヶ月という値に依存することなく、ノズル抜けを検出した場合にも、第2インクが充填されるので、さらに目詰まりが悪化することを防止することができる。
次に、プリンター20の電源がOFF状態になる前に行う切り替え処理について説明する。図4は、プリンターの電源がOFF状態になる前に行う切り替え処理の流れを説明するためのフローチャートである。システムコントローラー51は、外部からプリンター20の電源をOFFする指示があると(ステップS21:Yes)、ホストコンピューター90のプリンタードライバ91に対して電源OFF継続予定時間の入力を促すメッセージを表示するよう指示する(ステップS22)。表示されたメッセージを読んだユーザーが電源OFF継続予定時間を入力すると、入力された値がプリンター20に送信される。
システムコントローラー51は入力を検知すると(ステップS23:Yes)、プリンタードライバ91から送信された電源OFF継続予定時間が予め設定された1ヶ月以上であるか否かを判定する(ステップS24)。電源OFF継続予定時間が1ヶ月以上であると判定すると(ステップS24:Yes)、システムコントローラー51は切り替え手段56に対して第1インク側の弁を閉じて、第2インク側の弁を開けるよう指示する。次に、カートリッジ11bの図示しない加圧手段を駆動させて第2インクを液体供給路41を経由して記録ヘッド36へ供給する。そして、記録ヘッド36へ供給された第2インクは第1インクが充填されているノズルに充填される。すなわち、それまで充填されていた第1インクは第2インクによってノズルから押し出され、第2インクに切り替えてから電源OFF処理を実行する(ステップS25、ステップS26)。
一方、ステップS24で電源OFF継続予定時間が1ヶ月より短期間であると判定すると(ステップS24:No)、第1インクを第2インクへ切り替えることなく、そのまま電源OFF処理を実行する(ステップS26)。
以上のように、電源をOFFする指示があっても、電源OFF処理を実行する前に第1インクが充填された状態から第2インクが充填された状態へ切り替えることができる。すなわち、電源OFF中は、第1インクのノズルに対して第2インクを充填させておくことができる。これにより、ノズルに第1インクが充填されたままで長時間放置されることを防止することができる。一方、電源OFF継続予定時間が第1インクのノズルに目詰まりが発生する時間として経験的に得られた1ヶ月よりも短い場合は、第2インクが充填されることなく電源がOFFされる。すなわち、目詰まりが発生する前に電源がON状態となり吐出動作が行われる予定であるため、目詰まりを発生させる可能性が低く、第2インクを充填することなく電源をOFFする。これにより、第2インクを無駄に消費することを防止することができる。
上述したように、プリンター20は、所定の条件のときにシステムコントローラー51からの指示に応じて、第1充填状態から第2充填状態へ自動的に切り替える切り替え手段56を有している。切り替え手段56が自動的に第1充填状態から第2充填状態へ切り替えるので、ユーザーが手動で切り替える必要がない。このため、ユーザーがプリンター20の傍にいなくても、第1インクのノズルには第2インクが自動的に充填される。
また、上述したとは逆に、プリンター20の切り替え手段56は、所定の条件のときにシステムコントローラー51からの指示に応じて、第2充填状態から第1充填状態へ自動的に切り替えることもできる。切り替え手段56が自動的に第2充填状態から第1充填状態へ切り替える場合においても、ユーザーが手動で切り替える必要はない。このような切り替え動作は、上述の装置構成を用いて行うことができる。第2充填状態から第1充填状態へ切り替えるときのタイミングとしては、特に限定されず、例えば、ノズルから第1インクを吐出させる命令(記録命令)をプリンター20が受け付けたとき、プリンター20の電源がOFF状態からON状態となったとき(記録待機状態)、などに適宜設定することができる。そして、ノズルに充填されている第2インクを第1インクに置換することができ、ノズルから第1インクを吐出させることができる。
さらに、切り替え手段56が、3種以上のインクを切り替えるように構成され、第1インク、第2インクおよび第3インクを切り替える構成とする場合には、切り替え手段56は、システムコントローラー51からの指示に応じて、第1充填状態、第2充填状態、および特定のノズルに第3インクが充填された第3充填状態のいずれにも任意のタイミングで切り替えることができように構成することができる。このようにすれば、任意の期間において、所望の種類のインクを、それぞれノズルに充填することができる。
なお、上記実施形態では、いわゆるオフキャリッジタイプのインクジェットプリンターを前提として説明したが、本発明ではいわゆるオンキャリッジタイプのインクジェットプリンターを適用することもできる。この場合は、図3のステップS13および図4のステップ25において、第1インクを収容するカートリッジから第2インクを収容するカートリッジに交換するようユーザーに通知するよう構成すればよい。すなわち、システムコントローラー51が表示手段55(通知手段)にカートリッジの交換を促すメッセージを表示するようにすればよい。
2.インクセット
以下、本実施形態にかかるインクセットについて説明するが、まず、第1インク、第2インクおよび第3インクについて説明し、次に、第1インクおよび第2インクからなる第1の態様のインクセットと、さらに第3インクを含む第2の態様のインクセットとについて順次説明する。
2.1.第1インク、第2インクおよび第3インク
第1インク、第2インクおよび第3インクのそれぞれの成分は、いずれも特に限定されず、例えば、水、有機溶剤、色材、界面活性剤、およびその他の成分の少なくとも一種が適宜配合されたものであることができる。第1インク、第2インクおよび第3インクのそれぞれの性状は、いずれも液体または分散体である。
以下、第1インク、第2インクおよび第3インクのそれぞれに配合されることができる成分について述べるが、第1インク、第2インクおよび第3インクは、互いに異なる成分を含有してもよいし、互いに同じ成分を含有して各成分の含有量が異なっていてもよい。したがって、本項「2.1.第1インク、第2インクおよび第3インク」における以下の記述では、第1インク、第2インクおよび第3インクのいずれか一種のインクを単に「インク」と称として説明する。
(1)水
本実施形態のインクは、水を含有することができる。インクに使用可能な水としては、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水または超純水などである。上述の粒子の分散の妨げにならない程度であれば、水中にはイオン等が存在してもよい。特に、これらの水を紫外線照射または過酸化水素添加などにより滅菌処理した水は、カビやバクテリアの発生を長期間抑制することができ、インクを長期に安定に保つことができるためより好ましい。
本実施形態のインクに水を含有させる場合の水の含有量は、限定されないが、インクの全量に対して50質量%以上95質量%以下であることが好ましい。インクにおける水の含有量が、この範囲内であると、例えば、顔料をインクに配合した場合の顔料の分散性を高めることができ、インクの保存安定性を高めることができる。
なお、水の含有量が50質量%以上95質量%以下であるということは、水以外の成分の含有量が5質量%以上50質量%以下であることを示している。本明細書では、水以外の成分のことを固形分と称することがあり、水の含有量が50質量%以上95質量%以下であるということは、インクにおける固形分の濃度が5質量%以上50質量%以下であることを指している。
(2)浸透助剤または保湿剤
本実施形態のインクは、必要に応じて、浸透助剤および保湿剤の少なくとも一方を含有してもよい。浸透助剤の機能の一つとしては、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることが挙げられる。また、保湿剤の機能の一つとしては、インクの乾燥を抑制することが挙げられる。
浸透助剤および保湿剤の典型例としては、多価アルコール類、アミノ酸誘導体、ピロリドン誘導体、および糖類などが挙げられる。これらの中でも多価アルコール類は、単一の化合物であっても、浸透助剤および保湿剤の両方の機能を果たすことができる場合がある。
多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどの炭素数が4以上8以下のアルカンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、およびグリコールエーテル類が挙げられる。
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテルを挙げることができる。この中でも、トリエチレングリコールモノブチルエーテルがインクに配合されると、さらに良好な記録品質を得ることができる。
これらの多価アルコール類は、インクをインクジェット記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を防止し、インクジェット記録ヘッド部分における目詰まりを防止する効果およびインクの記録媒体への浸透性を高める効果の少なくとも一方を有することができる。
なお、上述したアルカンジオールのうち、インクの記録媒体への浸透性を向上させる効果に優れているという観点から、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどの炭素数が4ないし8の1,2−アルカンジオールであることが好ましい。さらにこの中でも炭素数が6ないし8の1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールは、浸透性を高める作用が特に良好であるため、より好ましく用いることができる。
アミノ酸誘導体としては、例えば、グリシンベタイン、アトリニン、カルニチン、γ−ブチロベタイン、トリゴネリン、β−アラニンベタイン、ホマリン、ホモセリンベタイン、アントプレウリン、バリンベタイン、リジンベタイン、オルニチンベタイン、アラニンベタイン、タウロベタイン、スタキドリン、グルタミン酸ベタイン、フェニルアラニンベタイン等のアミノ酸のN−トリアルキル置換体であるベタイン類等が挙げられる。
ピロリドン誘導体としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
糖類としては、単糖類、オリゴ糖類および多糖類が挙げられ、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フコース、リボース、フルクトース、キシロース、アラビノース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ラフィノース、パノース、イルマルトース、スタキオース、ゲンチオビース、ゲンチアノース等が挙げられる。
アミノ酸誘導体、ピロリドン誘導体および糖類は、インクをインクジェット記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を防止し、インクジェット記録ヘッド部分における目詰まりを防止する効果およびインクの記録媒体への浸透性を高める効果の少なくとも一方を有することができる。
本実施形態のインクをインクジェット記録装置に適用する場合であって、インクを浸透助剤および保湿剤を含有させる場合には、これらの含有量は、インクの全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上15質量%以下である。
(3)粘度調整剤
本実施形態のインクは、粘度調整剤を含有することができる。粘度調整剤は、インクの粘度を調節する機能を有する。粘度調整剤を用いると、インクの粘度調整が容易になる観点から好ましい。なお、インクの粘度調整は、粘度調整剤によって行わなくてもよく、インクに含まれる成分の含有量等を調整することによっても行うことができる。
粘度調整剤としては、アルギン酸類、セルロース誘導体、上述した保湿剤等が挙げられる。これらの中でも、インクの粘度調整と同時に、インクジェット記録ヘッド部分における目詰まりを防止できるという点から、上述した保湿剤を好ましく用いることができる。
アルギン酸類としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムおよびアルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、アルギン酸エステル等のアルギン酸誘導体などが挙げられる。
セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が挙げられる。
本実施形態のインクに粘度調整剤を用いる場合には、所望の粘度になるように添加量を調整すればよく、その添加量は特に限定されるものではない。
(4)界面活性剤
本実施形態のインクは、界面活性剤を含有することができる。本実施形態のインクに好適な界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤およびポリシロキサン系界面活性剤の少なくとも一種が挙げられる。これらの界面活性剤がインクに配合されると、記録媒体の被記録面への濡れ性が高まり、インクの記録媒体への浸透性をさらに向上させることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えばオルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学株式会社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えばBYK−347、BYK−348、BYK−UV3500(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。さらに、本実施形態のインク組成物には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のその他の界面活性剤を添加してもよい。
本実施形態のインクに界面活性剤を含有させる場合には、界面活性剤の含有量は、インクの全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下である。
(5)pH調整剤
本実施形態のインクは、pH調整剤を含有することができる。本実施形態のインクに好適なpH調整剤としては、特に制限されず、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、および炭酸水素ナトリウムの少なくとも一種が挙げられる。またこれらのうち、pH調整剤としてトリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の第三級アミンを選択すると、インクのpHの調整がより容易となる。インクにpH調整剤を含有させる場合には、その含有量は、インクの全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上10質量%であり、より好ましくは0.1質量%以上2質量%以下である。
(6)色材
本実施形態のインクには、色材として顔料、染料、金属酸化物および中空構造を有する粒子から選択される少なくとも1種を含有させてもよい。本実施形態のインク中における色材の含有量は、インク全質量に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
(6−1)顔料
本実施形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
また、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
更に詳しくは、ブラック用として使用される無機顔料としては、以下のカーボンブラック、例えば、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、又はNo2200B等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、又はRaven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、またはMonarch 1400等;あるいは、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、またはSpecial Black 4等が挙げられる。
イエロー有機顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
マゼンタ有機顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、またはC.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
シアン有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー4、60等が挙げられる。
また、マゼンタ、シアンおよびイエロー以外の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、10、C.I.ピグメントブラウン3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。
(6−2)染料
染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料等の通常インクジェット記録に使用する各種染料を使用することができる。
イエロー系染料としては、C.I.アシッドイエロー1、3、11、17、19、23、25、29、36、38、40、42、44、49、59、61、70、72、75、76、78、79、98、99、110、111、127、131、135、142、162、164、165、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、110、132、142、144、C.I.リアクティブイエロー1、2、3、4、6、7、11、12、13、14、15、16、17、18、22、23、24、25、26、27、37、42、C.I.フードイエロー3、4、C.I.ソルベントイエロー15、19、21、30、109等が挙げられる。
マゼンタ系染料としては、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、37、42、51、52、57、75、77、80、82、85、87、88、89、92、94、97、106、111、114、115、117、118、119、129、130、131、133、134、138、143、145、154、155、158、168、180、183、184、186、194、198、209、211、215、219、249、252、254、262、265、274、282、289、303、317、320、321、322、C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.リアクティブレッド1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、15、16、17、19、20、21、22、23、24、28、29、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、49、50、58、59、63、64、C.I.ソルビライズレッド1、C.I.フードレッド7、9、14等が挙げられる。
シアン系染料としては、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、90、92、93、100、102、103、104、112、113、117、120、126、127、129、130、131、138、140、142、143、151、154、158、161、166、167、168、170、171、182、183、184、187、192、199、203、204、205、229、234、236、249、C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、77、78、80、86、87、90、98、106、108、120、123、158、160、163、165、168、192、193、194、195、196、199、200、201、202、203、207、225、226、236、237、246、248、249、C.I.リアクティブブルー1、2、3、4、5、7、8、9、13、14、15、17、18、19、20、21、25、26、27、28、29、31、32、33、34、37、38、39、40、41、43、44、46、C.I.ソルビライズバットブルー1、5、41、C.I.バットブルー4、29、60、C.I.フードブルー1、2、C.I.ベイシックブルー9、25、28、29、44等が挙げられる。
また、マゼンタ、シアンおよびイエロー以外の染料としては、例えば、C.I.アシッドグリーン7、12、25、27、35、36、40、43、44、65、79、C.I.ダイレクトグリーン1、6、8、26、28、30、31、37、59、63、64、C.I.リアクティブグリーン6、7、C.I.アシッドバイオレット15、43、66、78、106、C.I.ダイレクトバイオレット2、48、63、90、C.I.リアクティブバイオレット1、5、9、10、C.I.ダイレクトブラック154等が挙げられる。
(6−3)金属酸化物粒子
金属酸化物粒子としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム等の粒子が挙げられる。
金属酸化物粒子の平均粒子径(d50)は、好ましくは30nm以上600nm以下であり、より好ましくは200nm以上400nm以下である。平均粒子径が前記範囲を超えると、インク組成物中で粒子が沈降するなどして分散安定性を損なうことがあり、またヘッドの目詰まり等信頼性を損なうことがある。一方、平均粒子径が前記範囲未満であると、所望の色が得られない場合がある。
なお、本明細書における平均粒子径d50は、粒径加積曲線を用いて測定することができる。粒径加積曲線とは、水等の分散媒に分散された粒子について、粒子の直径、および当該粒子の存在数を求めることができる測定を行った結果を、統計的に処理して得られる曲線の一種である。本明細書における粒径加積曲線は、粒子の直径を横軸にとり、粒子の質量(粒子を球と見なしたときの体積、粒子の密度および数の積)について、直径の小さい粒子から大きい粒子に向かって積算した値(積分値)を縦軸にとったものである。そして、粒径d50とは、粒径加積曲線において、縦軸を規格化(測定された粒子の総質量を1と)したときに、縦軸の値が50%(0.50)となるときの、横軸の値すなわち粒子の直径のことをいう。
粒径加積曲線は、例えば、動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用することによって求めることができる。動的光散乱法は、分散している有機粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を光子検出器で観測するものである。一般に分散している粒子は、通常ブラウン運動をしている。粒子の運動の速度は、粒子直径の大きな粒子ほど大きく、粒子直径の小さな粒子ほど小さい。ブラウン運動をしている粒子にレーザー光を照射すると、散乱光において、各粒子のブラウン運動に対応した揺らぎが観測される。この揺らぎを測定し、光子相関法等により自己相関関数を求め、キュムラント法およびヒストグラム法解析等を用いることで粒子の直径や、直径に対応した粒子の頻度(個数)を求めることができる。本実施の形態に用いられる金属酸化物粒子のようにサブミクロンサイズの粒子を含む試料に対しては、動的光散乱法が適しており、動的光散乱法により比較的容易に粒径加積曲線を得ることができる。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置としては、例えばナノトラックUPA−EX150(日機装株式会社製)、ELSZ−2、DLS−8000(以上、大塚電子株式会社製)、LB−550(株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。
(6−4)中空構造を有する粒子
中空構造を有する粒子としては、特に限定されず、スチレン−アクリル樹脂等の有機化合物から形成されるものや、無機化合物から形成されるものなど、公知のものを用いることができる。
中空構造を有し有機化合物からなる粒子としては、例えば、米国特許第4,880,465号や特許第3,562,754号等の明細書に記載されている粒子を好ましく用いることができる。中空構造を有し有機化合物からなる粒子の調製方法は、特に限定されず、例えば以下のような公知の方法を適用することができる。中空構造を有し有機化合物からなる粒子の調製方法としては、例えば、ビニルモノマー、界面活性剤、重合開始剤、および水系分散媒を窒素雰囲気下で加熱しながら撹拌することにより中空構造を有する粒子エマルジョンを形成する、いわゆる乳化重合法や、特表2000−500113号公報、特開2009−234854号公報などに記載された製造方法を利用することができる。また、中空構造を有し有機化合物からなる粒子は、市販のものを用いることもできる。
また、中空構造を有し無機化合物からなる粒子は、市販のものを用いることもできる。中空構造を有し無機化合物からなる粒子を製造する場合、その製造方法としては、特に限定されず、例えば、熱による発泡を利用して製造する方法、液相中でエマルションを利用して製造する方法、および、後に除去できる性質を有するコア(テンプレート)の周囲に所望の無機化合物のシェルを形成した後に、酸化、溶解等によりコアを除去して空洞を形成する方法などが挙げられる。
中空構造を有する粒子の平均粒子径(d50:上述したシェルの外径)は、好ましくは200nm以上1000nm以下であり、より好ましくは400nm以上800nm以下である。中空構造を有する粒子の外径がこのような範囲にあれば、インク組成物中の分散を良好に保つことができ、また、記録媒体に付着された際に、所望の色を呈することができる。また、外径が1,000nmを超えると、粒子が沈降するなどして分散安定性を損なうことがあり、記録ヘッドの目詰まりなど信頼性を損なうことがある。一方、外径が200nm未満であると、所望の色が得られない場合がある。また、中空構造を有する粒子の内径(すなわち、上述したコアの外径)は、100nm以上800nm以下程度が適当である。中空構造を有する粒子の平均粒子径d50は、金属酸化物粒子の平均粒子径d50と同様の方法で測定することができる。
(7)その他の成分
本実施形態のインクが顔料を含有する際には、顔料を分散させるための顔料分散剤を添加してもよい。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができる。このような分散剤としては、通常のインクにおいて用いられている任意の分散剤を用いることができる。インクに顔料分散剤を含有させる場合の含有量としては、インク中の顔料の含有量に対して、5〜200質量%、好ましくは30〜120質量%であり、分散すべき顔料によって適宜選択するとよい。
本実施形態のインクは、例えば画像の記録媒体への定着を目的として、樹脂を含有してもよい。このような樹脂としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、塩化ビニリデンの単独重合体または共重合体、あるいはその変性体、あるいはポリウレタン、フッ素樹脂、天然樹脂等が挙げられる。なお、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でもよい。また、樹脂として、ポリウレタンを用いる場合には、インクにおける分散性、記録媒体に付着した際の記録媒体への接着性が良好な点で、ポリカーボネート系またはポリエーテル系のポリウレタンが好ましい。さらに、ポリウレタンを用いる場合は、該ポリウレタンの合成は、公知の方法を適用することができ、例えば、2個以上のイソシアネート基を有する化合物と、2個以上の水酸基を有する化合物と、を反応させる方法を用いることができる。樹脂の機能の一つとしては、顔料を記録媒体に定着させることが挙げられる。
本実施形態のインクは、必要に応じて、重合開始剤を含有してもよい。例えば、インクには、重合性官能基を有する化合物を配合してもよく、その場合、熱を加えたり、放射線を照射したりすることにより、重合することができるが、その重合の速度をより高める必要がある場合には、熱重合開始剤や放射線重合開始剤を添加することができる。
なお、インクを水性とする場合には、重合開始剤は、必ずしも水溶性でなくてもよく、油溶性であってもよいし、難溶性であってもよい。これは、例えば、重合開始剤が油溶性である場合には、重合開始剤は、水系のインクにおいて、油相に存在することになり、また、難溶性であれば、重合開始剤は、例えば、画像形成工程の後、記録媒体上で水分がある程度除去された際に、重合性官能基に接触するようになり、所望の作用を発揮することができる。さらに、重合開始剤は、相間を移動する性質を有してもよく、インクの配合に応じて、かつ、必要に応じて適宜選択されることができる。
また、本実施形態のインクには、有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、特に限定されないが、極性有機溶媒、例えば、アルコール類(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、フッ化アルコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、またはエーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)の他、2−ピロリドン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等を用いることができる。
また、本実施形態のインクは、水溶性ロジンなどの定着剤、安息香酸ナトリウムなどの防黴剤・防腐剤、アロハネート類などの酸化防止剤、湿潤剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、防腐剤、および防かび剤などの添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は、1種単独で用いることもできるし2種以上組み合わせて用いることもできる。
本実施形態のインクは、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミルなどを使用して、従来のインクと同様に調製することができる。調製に際しては、メンブランフィルターやメッシュフィルターなどを用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
2.2.第1インク、第2インクおよび第3インクの粘度の関係
本実施形態のインクセットは、第1インクと、第2インクと、を含む。また、第2インクの粘度は、第1インクの粘度よりも低い。第2インクの粘度が第1インクの粘度よりも低いと、第2インクが充填されているノズル内に第1インクの充填を開始させた場合において、第1インクによって第2インクを押し出しやすくなる。これにより、粘度の関係が逆の場合に比較して、第1インクの消費量が少なく、かつ、短時間でノズル内を第2インクから第1インクに置き換えることができる。したがって、後述するように、第1インクが色材を含有するインクであって、第2インクを洗浄液とした場合には、インク(第1インク)の消費量を低減したり、液滴吐出装置の起動時間(第2インクから第1インクへの切り替えにかかる時間)を短縮したりすることができる。
また、第1インクと第2インクとの粘度差は、0.04mPa・s以上であることが好ましく、0.79mPa・s以上であることがさらに好ましく、2.61mPa・s以上10mPa・s以下であることがより一層好ましい。第1インクと第2インクとの粘度差が0.04mPa・s以上であると、第2インクから第1インクへの置き換えがより短時間で行え、かつ、第1インクの消費量をより少なくすることができる。一方、第1インクと第2インクとの粘度差が0.04mPa・s未満であると、第2インクから第1インクへの置き換え速度が低下したり、第1インクの消費量が増加したりする場合がある。また、第1インクと第2インクとの粘度差が10mPa・sを超えると、ノズルからのインクの吐出安定性が低下したり、ノズルからインクを排出しにくくなる場合がある。
本実施形態に係るインクセットは、第1インクおよび第2インクに加えて、第3インクを含んでいてもよい。インクセットに第3インクを含む場合において、各インクの粘度は、(第2インクの粘度)<(第1インクの粘度)<(第3インクの粘度)の関係にあることが好ましい。各インクの粘度が上記の関係にあると、上述したように第2インクが充填されているノズル内に第1インクを充填しやすくなる。また、同様の理由によって、第1インクが充填されているノズル内に第3インクの充填を開始させた場合において、第3インクによって第1インクを押し出しやすくなる。このように、粘度の低いインクを粘度の高いインクで押し出すと、粘度の関係が逆の場合に比較して、押し出す側のインク(粘度の高いインク)の消費量が少なく、かつ、短時間でノズル内のインクの置き換えを行うことができる。したがって、後述するように、第1インクが色材を含有するインクであって、第2インクおよび第3インクを洗浄液とした場合には、インク(第1インク)の消費量を低減させたり、液滴吐出装置の停止時の動作時間(第1インクから第3インクへの切り替えにかかる時間)や、液滴吐出装置の起動時間(第2インクから第1インクへの切り替えにかかる時間)等を短縮することができる。
また、第1インクと第3インクとの粘度差は、0.04mPa・s以上であることが好ましく、0.79mPa・s以上であることがさらに好ましく、2.61mPa・s以上10mPa・s以下であることがより一層好ましい。第1インクと第2インクとの粘度差が0.04mPa・s以上であると、第2インクから第1インクへの置き換えがより短時間で行え、かつ、第1インクの消費量をより少なくすることができる。一方、第1インクと第2インクとの粘度差が0.04mPa・s未満であると、第3インクから第1インクへの置き換え速度が低下したり、第1インクの消費量が増加したりする場合がある。また、第1インクと第3インクとの粘度差が10mPa・sを超えると、ノズルからのインクの吐出安定性が低下したり、ノズルからインクを排出しにくくなる場合がある。
本実施形態の各インクの粘度は、2mPa・s以上12mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上6mPa・s以下であることがより好ましい。各インクの粘度が上記範囲内にあると、ノズルからのインクの吐出安定性が向上したり、ノズルからインクを排出したりすることが容易になる。
なお、本実施形態の各インクの粘度は、例えば、振動式粘度計VM−100AL(山一電機株式会社製)を用いて、インクの温度を20℃に保持することで測定できる。
また、各インクの粘度の調整は、上述した配合および配合量を変化させることにより行うことができる。特に粘度調整剤を用いると、容易に粘度を調整できるので好ましい。例えば、粘度調整剤によって、インクの粘度を調節する際には次のような調節が可能である。具体的には、例示した化合物のうち、グリセリンは、粘度が1500mPa・s(at.20℃)である。そのため、グリセリンを含むインクの粘度を高くしたい場合には、グリセリンの配合量を増すことにより、インクの粘度を高くすることができる。このように、粘度調整剤の種類や、配合量を変化させることにより、所望の粘度を有するインクを容易に得ることができる。
3.インクの切り替え
本実施形態に係るインクセットにおいて、第1インクおよび第2インクからなるインクセットを第1の態様とし、第1インク、第2インクおよび第3インクからなるインクセットを第2の態様として、各態様におけるインクの切り替えについて詳細に説明する。
3.1.第1の態様
第1の態様におけるインクセットは、上述した第1インクおよび第2インクからなる。本態様のインクセットにおいて、第1インクおよび第2インクの種類の選択は、任意であり、例えば、両者が、記録媒体に付着させて画像を形成するために用いられるインクであってもよいし、ノズルのメンテナンスを行うために用いられるインク(洗浄液等)であってもよい。また、一方が記録媒体に付着させて画像を形成するために用いられるインクであり、他方がノズルのメンテナンスを行うために用いられる洗浄液等であってもよい。
本態様のインクセットにおいて、第1インクを、色材を含むインク、すなわち、液滴吐出装置において、記録媒体に付着させて画像を形成するために用いられるインクとし、第2インクを、ノズル内を洗浄するための洗浄液とした場合、次のような効果を得ることができる。
例えば、液滴吐出装置を、ノズル内を第1インクで充填した第1充填状態にして、記録媒体に画像を記録した後、ノズル内を第2インクで置き換えて第2充填状態とする。そして、「1.液滴吐出装置」の項で述べたように、次に記録するときには、ノズル内に第1充填状態に戻して記録を行う。このような場合において、第2充填状態から第1充填状態に移行するに要する時間、および移行時に使用される第1インクの量を低減することができる。
一方、このような場合、第1充填状態から第2充填状態に移行するときにノズルに導入される第2インクは、洗浄液であるため、第1インクに比較して使用量を抑える必要性は低い。また、このような場合は、例えば長期間の放置に備えるための移行であるため、第1充填状態から第2充填状態に移行するに要する時間は、第2充填状態から第1充填状態に移行するに要する時間ほど短縮する必要はない。したがって、第1充填状態から第2充填状態への移行の効率は若干低下するが、第2充填状態から第1充填状態への移行の効率が向上し、第1インクの無駄を省くことができるとともに、第1充填状態すなわち記録の準備状態への復帰を迅速に行うことができる。
以上のように、本態様のインクセットにおいて、第2インクの粘度を第1インクの粘度よりも低くなるように調製すると、粘度の関係が逆の場合に比較して、第2インクから第1インクへの置き換え時間を短くでき、かつ、第1インクの消費量を低減することができる。また、上記の各インク間の粘度の関係を満たしつつ、第1インクを、色材を含むインクとし、第2インクを洗浄液とし、これを上述の液滴吐出装置に備える場合には、第1インクの使用量を低減させ、かつ、液滴吐出装置の放置後の復帰の速度を向上させることができる。なお、第1インクが沈殿を生じやすい色材を含む場合には、液滴吐出装置の放置(例えば一ヶ月)の際に、ノズル内を第2インクに置き換えて保存することにより、ノズルの目詰まりを低減することができる。また、このような場合においても、本態様のインクセットを用いれば、第1インクの使用量を低減させ、かつ、液滴吐出装置の放置後の復帰の速度を向上させることができる。
3.2.第2の態様
第2の態様におけるインクセットは、上述した第1インク、第2インクおよび第3インクからなる。本態様のインクセットにおいても、第1インク、第2インクおよび第3インクの種類の選択は、任意であり、例えば、全てが、記録媒体に付着させて画像を形成するために用いられるインクであってもよいし、ノズルのメンテナンスを行うために用いられるインクであってもよい。また、少なくとも一つが記録媒体に付着させて画像を形成するために用いられるインクであり、残りがノズルのメンテナンスを行うために用いられるインクであってもよい。
本態様のインクセットにおいて、第1インクを、色材を含むインク、すなわち、液滴吐出装置において、記録媒体に付着させて画像を形成するために用いられるインクとし、第2インクおよび第3インクを、ノズル内を洗浄するための洗浄液とした場合、次のような効果を得ることができる。
例えば、液滴吐出装置を、ノズル内に第1インクを充填した状態(第1充填状態)にして、記録媒体に画像を記録した後、ノズル内を第3インクで置き換えて第3充填状態とする。このとき、第1インクの粘度よりも第3インクの粘度の方が高いため、第2充填状態から第3充填状態に移行するに要する時間、および移行時に使用される第3インクの量を低減することができる。これにより、例えば、液滴吐出装置の停止時の動作を短縮させることができる。
次に、ノズル内の第3インクを、第2インクに置き換えて、第3充填状態から第2充填状態へと移行させる。この移行動作は、液滴吐出装置を停止させて、第3充填状態にした後から、次に液滴吐出装置を稼働させるまでの間のいずれの時点で行ってもよい。また、液滴吐出装置を稼動させた(電源を入れた)時に移行させてもよいし、他の動作に連動させ移行させてもよい。そして、次に記録するときには、第2充填状態から、ノズル内に第1インクを充填した状態(第1充填状態)へと移行させて記録を行う。
このような場合、上記の第1の態様のインクセットの場合と同様に、第2充填状態から第1充填状態に移行するに要する時間、および移行時に使用される第1インクの量を低減することができる。さらに、第1充填状態から第3充填状態に移行するに要する時間も短縮され、かつ、第2充填状態から第1充填状態に移行するに要する時間も短縮することができる。したがって、液滴吐出装置の停止の際の動作および起動の際の動作を、高速化することができる。
以上のように、本態様のインクセットにおいて、第1インク、第2インクおよび第3インクのそれぞれの粘度を、(第2インクの粘度)<(第1インクの粘度)<(第3インクの粘度)の関係を有するように調製すると、第2インクから第1インクへの置き換え時間および第1インクから第3インクへの置き換え時間を短くでき、かつ、第1インクの消費量および第3インクの消費量を低減することができる。また、上記の各インク間の粘度の関係を満たしつつ、第1インクを、色材を含むインクとし、第2インクおよび第3インクを洗浄液とし、これを上述の液滴吐出装置に備える場合には、インクの切り替えの際、第1インクの使用量を低減させ、かつ、液滴吐出装置の停止のときおよび放置後の復帰のときの動作速度を向上させることができる。なお、第1インクが、沈殿を生じやすい色材を含む場合には、液滴吐出装置の放置(例えば一ヶ月)の際には、第2インクまたは第3のインクに置き換えて保存することにより、ノズルの目詰まりを低減することができる。また、このような場合においても、本態様のインクセットを用いれば、第1インクの使用量を低減させ、かつ、液滴吐出装置の放置後の復帰の速度を向上させることができる。
4.実施例、比較例および例
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
4.1.インクの調製
表1に示す配合量で、色材、有機溶剤(浸透助剤、保湿剤)、第三級アミン、界面活性剤およびイオン交換水を混合撹拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過し、真空ポンプを用いて脱気処理をした。このようにして、色材を含有するインクをそれぞれ調製した。なお、表1に記載されている濃度の単位は質量%であり、粒子の欄については固形分換算濃度である。
また、表2に示す配合量で、粘度調整剤、有機溶剤(浸透助剤、保湿剤)、第三級アミン、界面活性剤およびイオン交換水を混合撹拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過し、真空ポンプを用いて脱気処理をした。このようにして、色材を含有しないインクをそれぞれ調製した。これらの色材を含有しないインクは、上述した洗浄液に該当する。なお、表2に記載されている濃度の単位は質量%である。
表1および表2に示した各成分は、以下の通りである。
・シアン顔料(C.I.ピグメントブルー15:6)
・マゼンタ顔料(C.I.ピグメントバイオレット19)
・イエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー74)
・ブラック顔料(カーボンブラック)
・中空構造を有する有機粒子(JSR株式会社製、商品名「SX8782(D)」、中空構造を有するスチレン−アクリル樹脂粒子の水分散タイプ、外径1,000nm、内径800nm、固形分濃度28%)
・二酸化チタン粒子(シーアイ化成株式会社製、商品名「NanoTek(R) Slurry」、固形分濃度15%、平均粒子径300nm)
・グリセリン(関東化学株式会社製)
・1,2−ヘキサンジオール(三菱ガス化学株式会社製)
・トリエタノールアミン(ナカライテスク株式会社製)
・BYK−348(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリシロキサン系界面活性剤)
・トリメチロールプロパン(関東化学株式会社製)
・メトローズ(商品名、信越化学工業株式会社製、メチルセルロース)
・アルギン酸ナトリウム(松尾薬品産業株式会社製)
・アミノコート(商品名、旭化成ケミカルズ株式会社製、グリシンベタイン)
・ルビスコールK30(商品名、BASFジャパン株式会社製、ポリビニルピロリドン)
4.2.インクセット
表3に示すように、実施例および比較例のインクセットを準備した。各インクセットは、色材を含有するインク(A)および色材を含有しないインク(B)の組合せである。各インクセットにおけるそれぞれのインクの粘度の関係を表3に示す。なお、比較例5は、白色のインク(ICWW57、セイコーエプソン株式会社製)をインク(A)とし、洗浄液(ICWCLL、セイコーエプソン株式会社製)をインク(B)とした。
4.3.インクの置換試験
図1に示すような切り替え手段56を備えたインクジェットプリンターを用意し、各インクセットを充填した。カートリッジ11aには色材を含有するインク(A)を充填し、カートリッジ11bには色材を含有しないインク(B)を充填した。
4.3.1.(B)→(A)への置換
各インクセットにつき、それぞれ、切り替え手段56により、色材を含有しないインク(B)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、記録ヘッド36、供給路41および切り替え手段56を色材を含有しないインク(B)で満たした。次いで、切り替え手段56により、色材を含有するインク(A)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、色材を含有しないインク(B)を色材を含有するインク(A)で置換する操作を行った。記録ヘッド36、供給路41および切り替え手段56の内容量の合計を100とした時に、置換するのに必要な色材を含有するインク(A)の量を測定した。
具体的には、色材を含有するインク(A)の供給量が150、180、210、240、300となる時に記録ヘッド36から吐出される液体で、PETフィルム(商品名「ルミラー」、東レ株式会社製)上に記録することにより評価用試料を作製した。なお、記録は1440×720dpiの解像度で行い、記録パターンは100%dutyベタパターンとした。なお、「duty」とは、下式(1)で算出される値である。
duty(%)=実記録ドット数/(縦解像度×横解像度)×100 …(1)
(式中、「実記録ドット数」は単位面積当たりの実記録ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
これとは別途、各インクセットにつき、記録ヘッド36が色材を含有するインク(A)によって完全に満たされた状態で、PETフィルム(商品名「ルミラー」、東レ株式会社製)に対して記録することにより記録物(リファレンス)を得た。なお、記録は1440×720dpiの解像度で行い、記録パターンは100%dutyベタパターンとした。
得られた評価用試料およびリファレンスのそれぞれについて、Gretag Macbeth SpetroscanおよびSpectrolino(X−Rite社製)を用いてL*a*b*値を測定した。評価用試料のL*a*b*値とリファレンスのL*a*b*値との差ΔE(色差)3以下となった時にインクの置換が完了したものとみなした。なお、インクの置換の容易性を示す評価基準は、以下の通りであり、評価結果を表3に併せて示す。
記録ヘッド36、供給路41および切り替え手段56の内容量の合計を100とした時のインクの量が、
A:必要なインク量が150未満
B:必要なインク量が150以上、180未満
C:必要なインク量が180以上、210未満
D:必要なインク量が210以上、240未満
E:必要なインク量が240以上、300未満
F:必要なインク量が300以上
4.3.2.3種のインクの置換
3種のインクからなるインクセットと、2種のインクからなるインクセットとについて、表4に示す実験を行った。
3種のインクを切り替えることができる切り替え手段56を備えたインクジェットプリンターを用意した。3つのカートリッジには、それぞれ、色材を含有するインク(A)、色材を含有しないインク(B)、および色材を含有しないインク(C)を充填した。この実験において、色材を含有するインク(A)、色材を含有しないインク(B)、および色材を含有しないインク(C)の粘度の関係は、表4に示した通りである。
例1および例2では、まず、切り替え手段56により、色材を含有するインク(A)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、記録ヘッド36、供給路41および切り替え手段56を色材を含有するインク(A)で満たした。次いで、切り替え手段56により、色材を含有しないインク(B)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、色材を含有するインク(A)を色材を含有しないインク(B)で置換する操作を行った。
次いで、切り替え手段56により、色材を含有しないインク(C)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、色材を含有しないインク(B)を色材を含有しないインク(C)で置換する操作を行った。このときに使用した色材を含有しないインク(C)の量は、記録ヘッド36、供給路41および切り替え手段56の内容量の合計を100とした場合に300となるようにした。
次いで、切り替え手段56により、色材を含有するインク(A)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、色材を含有しないインク(C)を色材を含有するインク(A)で置換する操作を行った。そして、「4.3.1.(B)→(A)への置換」で述べたと同様にして、評価用試料とリファレンスを作成して評価した。その結果を表4に記載した。
一方、例3では、まず、切り替え手段56により、色材を含有するインク(A)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、記録ヘッド36、供給路41および切り替え手段56を色材を含有するインク(A)で満たした。次いで、切り替え手段56により、色材を含有しないインク(B)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、色材を含有するインク(A)を色材を含有しないインク(B)で置換する操作を行った。
次いで、色材を含有しないインク(B)を色材を含有しないインク(C)で置換することなく、切り替え手段56により、色材を含有するインク(A)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、色材を含有しないインク(B)を色材を含有するインク(A)で置換する操作を行った。そして、「4.3.1.(B)→(A)への置換」で述べたと同様にして、評価用試料とリファレンスを作成して評価した。その結果を表4に記載した。
4.4.評価結果
表3に示す実施例1〜15のインクセットにおいて、いずれも、相対的に粘度の低いインク(B)を相対的に粘度の高いインク(A)にて置換する((B)→(A)への置換)場合には、置換に要するインク(A)の量が小さくて済むことが判明した。
これに対して、比較例1〜5のインクセットでは、相対的に粘度の高いインク(B)を相対的に粘度の低いインク(A)にて置換する((B)→(A)への置換)場合には、置換に要するインク(A)の量が大きくなることが判明した。
以上のことから、相対的に粘度の低いインクを、相対的に粘度の高いインクで置換する際には、後者のインクの量が小さくて済むことが分かった。そして、各実施例のごとく、色材を含有するインク(A)(記録用インク)の粘度を、色材を含有しないインク(B)(洗浄液)の粘度よりも高くすれば、記録用インクの消費を小さく抑えることができることが判明した。特に、実施例7、実施例8および実施例15に示すように、色材を含有するインク(A)(記録用インク)の粘度と、色材を含有しないインク(B)(洗浄液)の粘度と、の差を2.61mPa・s以上にすると、より一層記録用インクの消費を抑えることができることが判明した。
他方、表4に示す例1〜例3の実験をみると、色材を含有しないインク(B)によって色材を含有するインク(A)を置換する((A)→(B)への置換)場合には、例1〜例3は、いずれも効率が高かった。しかし、色材を含有しないインク(C)によって色材を含有するインク(B)を置換する((B)→(C)への置換)操作を行った例1および例2では、これを行わない例3と比較して、その後の色材を含有するインク(A)によって色材を含有しないインクを置換する((B)→(A)への置換、および、(C)→(A)への置換)操作において、顕著な差が生じた。
すなわち、例3では、記録用インクを洗浄液で置き換える際の効率が高いが、洗浄液を記録用インクで置き換える際の効率が悪い。これに対して、例1および例2では、記録用インクを洗浄液で置き換える際の効率、および、洗浄液を記録用インクで置き換える際の効率の両者が良好であることが判明した。すなわち、例1および例2のインクセットでは、記録用インクを高粘度の洗浄液で置き換え、該高粘度の洗浄液を低粘度の洗浄液で置き換えることにより、再び記録用インクで洗浄液を置き換える際の効率を高めることができる。
これにより、例1および例2のインクセットによれば、低粘度の洗浄液を消費することになるものの、洗浄液から記録用インクへの置き換えにおいて、記録用インクの使用量を低減することができることが分かった。さらに、例1および例2のインクセットによれば、高粘度の洗浄液を低粘度の洗浄液で置き換えるときの速度が緩慢となるものの、洗浄液から記録用インクへの置き換え、および、洗浄液から記録用インクへの置き換えの両者において、置き換えを高速化することができることが分かった。
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。