JP2015074710A - 樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、樹脂硬化物及び当該樹脂硬化物を用いた電気機器、電線、樹脂膜積層体、構造体 - Google Patents

樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、樹脂硬化物及び当該樹脂硬化物を用いた電気機器、電線、樹脂膜積層体、構造体 Download PDF

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Abstract

【課題】層状珪酸塩の層間を高度に剥離した状態で、硬化物中において高密度且つ均一に分散させることのできる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、カチオン硬化性樹脂と、層状珪酸塩の層間に、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つがインターカレートされているカチオン硬化性触媒と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図14

Description

本発明は、樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、樹脂硬化物及び当該樹脂硬化物を用いた電気機器、電線、樹脂膜積層体、構造体に関する。
近年、絶縁性、ガスバリア性などを向上させる手段として、層状珪酸塩の層間にイオン交換処理により有機物を挿入(インターカレート)し、熱硬化性樹脂中に分散する研究開発が行われている。
かかる技術に関する発明が、例えば特許文献1に記載されている。この特許文献1には、層状粘土鉱物の層間にイオン交換処理により有機化合物を挿入することにより、層状粘土鉱物に極性溶剤及び非極性溶剤の少なくともいずれか一方に対する膨潤性を付与し、膨潤性が付与された層状粘土鉱物を極性溶剤又は非極性溶剤からなる膨潤用溶剤中で膨潤させた後、エポキシ樹脂を混合して混練し、得られたエポキシ樹脂、層状粘土鉱物、及び膨潤用溶剤を含む混合物から膨潤用溶剤を除去し、このエポキシ樹脂と層状粘土鉱物とを含む混合物にエポキシ樹脂用硬化剤を添加して混合する樹脂組成物の製造方法が掲載されている。そして、この特許文献1には、かかる製造方法によって製造された樹脂組成物を硬化させた絶縁材料をX線回折装置(XRD)により測定したところ、XRD測定で2θ=2〜10度の範囲に反射ピークが存在していないと記載されている。なお、これは、層間距離が4.4nm以上に拡大したことを示している。
特開2009−191239号公報
しかしながら、特許文献1に記載の発明には、層状珪酸塩の層間をアンモニウムイオン等の有機化合物でインターカレートし、溶媒で膨潤し、樹脂との混練時の剪断力で層状珪酸塩の層間を剥離するものである。つまり、硬化前の樹脂組成物の段階で層状珪酸塩の層間を剥離するため、剥離が進むに連れて樹脂組成物の粘度が高くなり、層状珪酸塩の層間を高度に剥離することが困難になるだけでなく、層状珪酸塩の充填量を高くし、硬化させるにあたってこれを均一に分散させることができなかった。
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、層状珪酸塩の層間を高度に剥離した状態で、硬化物中において高密度且つ均一に分散させることのできる樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、樹脂硬化物及び当該樹脂硬化物を用いた電気機器、電線、樹脂膜積層体、構造体を提供することを目的とする。
本発明に係る樹脂組成物は、カチオン硬化性樹脂と、層状珪酸塩の層間に、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つがインターカレートされているカチオン硬化性触媒と、を含むことを特徴とする。
本発明に係る樹脂組成物の製造方法は、層状珪酸塩の層間に、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つをインターカレートしてカチオン硬化性触媒を得るインターカレート工程と、前記カチオン硬化性触媒とカチオン硬化性樹脂を混合する混合工程と、を含むことを特徴とする。
本発明に係る樹脂硬化物は、前記樹脂組成物を硬化させたことを特徴とする。
本発明に係る電気機器は、前記樹脂硬化物を絶縁体の一部又は全部として用いた変圧器、回転電機、インバータ装置、又はガス絶縁機器であることを特徴とする。
本発明に係る電線は、前記樹脂硬化物を絶縁体の一部又は全部として用いたことを特徴とする。
本発明に係る樹脂膜積層体は、前記樹脂硬化物をガスバリア材の一部又は全部として用いたことを特徴とする。
本発明に係る構造体は、前記樹脂硬化物を防水材の一部又は全部として用いたことを特徴とする。
本発明によれば、層状珪酸塩の層間を高度に剥離した状態で、硬化物中において高密度且つ均一に分散させることのできる樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、樹脂硬化物及び当該樹脂硬化物を用いた電気機器、電線、樹脂膜積層体、構造体を提供することができる。
未処理マイカ(すなわち、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のいずれもインターカレートしていないマイカ)のX線回折(XRD)測定結果を示す図である。同図において横軸は2θ(degree)であり、縦軸は強度である。 3級アミンイオンを有する有機化合物をインターカレートしたマイカ(オルガノマイカ)のXRD測定結果を示す図である。同図において横軸は2θ(degree)であり、縦軸は強度である。 3級アミンイオンを有する有機化合物をインターカレートしたマイカ(オルガノマイカ)を脂環式エポキシ樹脂に分散した硬化前のXRD測定結果を示す図である。同図において横軸は2θ(degree)であり、縦軸は強度である。 図2Aに示すオルガノマイカの硬化後のXRD測定結果を示す図である。同図において横軸は2θ(degree)であり、縦軸は強度である。 カチオン硬化性樹脂の示差走査熱量計(DSC)測定結果を示すグラフであって、(A)は、3級アミンイオンをインターカレートしたマイカをカチオン硬化性樹脂に添加した場合におけるDSC測定結果であり、(B)は、4級アンモニウムイオンをインターカレートしたマイカをカチオン硬化性樹脂に添加した場合におけるDSC測定結果である。同図において横軸は温度(Temperature)(℃)を表し、縦軸は熱流が発熱(Exo.)であるか吸熱(Endo.)であるかを表している。 1級アミンイオンをインターカレートしたマイカを添加した脂環式エポキシ樹脂のDSC測定結果を示すグラフである。同図において横軸は温度(Temperature)(℃)を表し、縦軸は熱流が発熱(Exo.)であるか吸熱(Endo.)であるかを表している。 本発明に係る樹脂組成物の製造方法の内容を説明するフローチャートである。 本発明に係る樹脂硬化物を適用した変圧器の一部断面図である。 本発明に係る樹脂組成物を補強層(ガラスクロス)に含浸させて作製した電気絶縁マイカテープを用いた電気絶縁線輪の外観図である。 図7A中においてXの円で示した部分の断面の拡大図である。 図7Aに示す電気絶縁線輪を用いた全含浸コイルの断面正面図である。 図7C中においてYの楕円で示した部分の断面の拡大図である。 図7Cに示した全含浸コイルを用いた回転電機(モータ)の概略断面図である。 インバータ装置に組み込まれるパワーモジュールの外観斜視図である。 図8Aに示すパワーモジュールの断面図である。 図8Aに示すパワーモジュールを組み込んだインバータ装置を示す図であって、蓋部材を外して内部を示した外観斜視図である。 本発明に係る樹脂硬化物を用いたガス絶縁機器の断面図である。 本発明に係る樹脂硬化物を用いた電線を、当該電線の長手方向に対して垂直に切断した断面図である。 本発明に係る樹脂硬化物を用いた樹脂膜積層体の断面図である。 本発明に係る樹脂硬化物を用いた構造体の断面図である。 実施例1に係る樹脂硬化物のSEM写真である。同図中のスケールバーは1μmを表す。 実施例1に係る樹脂硬化物のTEM写真である。同図中のスケールバーは20nmを表す。 実施例2に係る樹脂硬化物の低倍率でのTEM写真である。同図中のスケールバーは2μmを表す。 実施例2に係る樹脂硬化物の中倍率でのTEM写真である。同図中のスケールバーは500nmを表す。 実施例1〜4に係る樹脂硬化物における無機成分充填量(質量%)と絶縁破壊時間(h)の関係を示すグラフである。 実施例5に係る樹脂組成物のDSC測定結果を示すグラフである。同図において横軸は温度(Temperature)(℃)を表し、縦軸は熱流が発熱(Exo.)であるか吸熱(Endo.)であるかを表している。 (A)〜(D)に係る種々の樹脂系で作製した樹脂組成物のDSC測定結果を示すグラフである。同図において横軸は温度(Temperature)(℃)を表し、縦軸は熱流が発熱(Exo.)であるか吸熱(Endo.)であるかを表している。 比較例1に係る樹脂硬化物のSEM写真である。同図中のスケールバーは10μmを表す。 比較例1に係る樹脂硬化物のTEM写真である。同図中のスケールバーは200nmを表す。
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について詳細に説明する。
[樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、カチオン硬化性樹脂と、カチオン硬化性触媒と、を含んでなる。
(カチオン硬化性樹脂)
本発明におけるカチオン硬化性樹脂は、カチオン硬化性の高いものであるのが好ましい。なお、カチオン硬化性が高いとは、カチオン硬化反応時の遷移状態の生成エネルギーから遷移状態に至る前の反応中間体の生成エネルギーを減じたエネルギー障壁が低いことをいう。本発明においては、反応点近傍をモデル化した分子軌道法からそれぞれの生成エネルギーを算出し、これから求めたエネルギー障壁が0.0025ハートリー(Hartree(約0.011×10-18J))以下であるものをカチオン硬化性が高いとする。このようなカチオン硬化性の高いカチオン硬化性樹脂としては、例えば、脂肪族環式(脂環式)エポキシ樹脂及びシアネートエステル樹脂が挙げられる。本発明においては、これらのうちの少なくとも一種又はこれらの混合物を用いることができる。カチオン硬化性樹脂として脂環式エポキシ樹脂やシアネートエステル樹脂を用いると、アミンイオン単独で硬化反応は開始しないが、層間にあるアミンイオンからは硬化反応が開始する。このため、極めて層間に限定された状態で硬化を進行させることが可能となる。その結果、層状珪酸塩の層間は高度に剥離し、樹脂内に均一に分散するようになる。
脂環式エポキシ樹脂は、分子内にシクロヘキセンオキシド構造及びシクロペンテンオキシド構造のような環ひずみのあるエポキシ基を有するものを挙げることができる。このようなエポキシ基を1分子内に2個以上有するものを用いるのが好ましい。脂環式エポキシ樹脂を用いると、後記するように、層状珪酸塩の層が高度に剥離し、樹脂組成物中に均一に分散した状態とすることができる。層状珪酸塩は厚さ1nm、幅数十nm〜数μmの層状構造を持つため、これを樹脂組成物中に均一に分散させると、樹脂と珪酸塩の界面積が増大する効果などが得られる。そのため、当該樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物は、優れた絶縁寿命、電気絶縁性、ガスバリア性、熱伝導性などの諸効果を得ることができる。
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシシクロ−ヘキシルメチル、脂肪族ジシクロジエーテルジエポキシ[2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ(3,4−エポキシ)−シクロヘキサン−m−ジオキサン]、アジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)、アジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)及びビニルシクロヘキセンジオキサイド[4−(1,2−エポキシエチル)−1,2−エポキシシクロヘキサン]などが挙げられる。市販品であれば、例えば、ダイセル化学工業株式会社製セロキサイド2021Pなどを好適に用いることができる。
なお、脂環式エポキシ樹脂を用いる場合は、等量の0.8倍未満の範囲で酸無水物等を添加して架橋を促進させるようにしてもよい。酸無水物の添加量が等量の0.8倍以上になると、硬化過程での分散性が悪化し、硬化物のXRDピークが残存する。これは、層間でカチオン硬化する脂環式エポキシ樹脂の割合が減るためと考えられる。
また、脂環式エポキシ樹脂は、グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂を併用することもできる。この場合、硬化過程での分散性を維持するためグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂のエポキシ基の数が脂環式エポキシ樹脂のエポキシ基の数を超えない範囲に限定する必要がある。グリシジルエーテル型のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂や、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
シアネートエステル樹脂は、極性の強いシアネート基を有ており、硬化時には対称性かつ剛直なトリアジン構造を生成する。そのため、シアネートエステル樹脂を用いると耐熱性を向上させることができる。
シアネートエステル樹脂の具体例としては、例えば、4,4’−エチリデンジフェニルジシアネート、ビスフェノールAジシアネート、ポリフェノールシアネート(オリゴ(3−メチレン−1,5−フェニレンシアネート)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェニルシアネート)、ヘキサフルオロビスフェノールAジシアネート、2,2−ビス(4−シアネート)フェニルプロパン、1,1−ビス(4−シアネートフェニルメタン)、ビス(4−シアネート−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,3−ビス(4−シアネートフェニル−1−(メチルエチリデン))ベンゼン、ビス(4−シアネートフェニル)チオエーテル、ビス(4−シアネートフェニル)エーテル等の2官能シアネート樹脂、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ジシクロペンタジエン構造含有フェノール樹脂等から誘導される多官能シアネート樹脂、これらシアネート樹脂が一部トリアジン化したプレポリマーなどが挙げられる。本発明においてはこれらのうちの1種又は2種以上を併用することもできる。なお、本発明においては、これらの中でも4,4’−エチリデンジフェニルジシアネートを用いるのが好ましく、市販品であれば、例えば、ロンザジャパン株式会社製PrimasetLECYなどを好適に用いることができる。
(カチオン硬化性触媒)
本発明におけるカチオン硬化性触媒は、層状珪酸塩の層間に、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つがインターカレート(挿入)されている。
層状珪酸塩とは、SiO4四面体が3個の酸素原子を互いに共有して連なり、二次元的な、平らな層構造を有している。層状珪酸塩はそのような層構造を複数層積層して形成されている。層状珪酸塩の層と層の間には水素原子が入って水酸基(OH基)が形成されていることが多い。本発明においては、前記したように、かかる構成の層状珪酸塩の層間に、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つをインターカレートしている。
層状珪酸塩としては、例えば、粘土鉱物、カオリン鉱物、雲母鉱物(マイカ)などが挙げられる。より具体的には、例えば、白雲母、アルミノセラドン石、鉄アルミノセラドン石、セラドン石、鉄セラドン石、ロスコー雲母、ソーダ雲母、鉄雲母、金雲母、シデロフィライト、イーストナイト、白水雲母、楊主明雲母、ポリリシオ雲母、トリリシオ雲母、真珠雲母、クリントン石、イライト、海緑石、カオリナイト(高陵石)、スメクタイト、モンモリロン石(モンモリロナイト)、絹雲母(セリサイト)、緑泥石(クロライト)、滑石(タルク)、沸石(ゼオライト)などが挙げられる。
層状珪酸塩のカチオン硬化性樹脂に占める添加量を5質量%以上とするのが好ましい。このようにすると、絶縁寿命の向上、電気絶縁性の向上、ガスバリア性の向上、熱伝導性の向上といった諸効果を十分に得ることができる。なお、層状珪酸塩のカチオン硬化性樹脂に占める添加量は10質量%以上とするのがより好ましい。
層状珪酸塩は粒子の集合体からなり、その1次粒子の平均粒径は1〜50μmであるのが好ましい。このようにすると、樹脂組成物の粘度が過度に高くなることはなく、また、層状珪酸塩の層間が剥離せず微粉化するという問題を防止することもできる。これに対し、層状珪酸塩の1次粒子の平均粒径が1μm未満となると(ナノ分散となると)、層状珪酸塩の表面積が大きくなり過ぎてしまう。そのため、樹脂組成物の粘度が過度に高くなり、層状珪酸塩を5質量%以上添加することが困難となる。従って、十分な量の層状珪酸塩を添加することによって得られる絶縁寿命の向上、電気絶縁性の向上、ガスバリア性の向上、熱伝導性の向上といった諸効果を十分に得ることができない場合がある。また、層状珪酸塩の層間が剥離せず微粉化するという問題も生じる。他方、層状珪酸塩の1次粒子の平均粒径が50μmを超えると、樹脂組成物として使用する場合、電子部品の微細な部分に充填できない場合がある。なお、本発明では層状珪酸塩の層間に1〜3級アミノイオンを有する有機化合物をインターカレートすることで層間を広げているが、当該層状珪酸塩の1次粒子としてのサイズはインターカレート前と略同じ大きさである。なお、層状珪酸塩の1次粒子の平均粒径は2〜50μmとするのがより好ましい。
1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物は、それぞれ下記式(1)〜(3)で表すことができる。
なお、式(1)〜(3)中のR1は炭素数が8以上のアルキル基、より好ましくは炭素数が8〜20のアルキル基である。R1としては、例えば、n−オクチル基、n−ノチル基、n−デキル基、n−ウンデキル基、n−ドデキル基、n−トリデキル基、n−テトラデキル基、n−ペンタデキル基、n−ヘキサデキル基、n−ヘプタデキル基、n−オクタデキル基、n−ノナデキル基、n−イコシル基などを挙げることができる。また、R2、R3は炭素数1以上のアルキル基、より好ましくは炭素数が1〜20のアルキル基である。R2、R3としては、R1について例示したものに加えて、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、n−ヘプチル基などを挙げることができる。
本発明においては、R1を炭素数が8以上のアルキル基とすることで、塩を形成している親水性の層状珪酸塩の層間に対して親油性を高め、イオン性が低い樹脂を層間に侵入し易くする効果を得ることができる。また、R1を炭素数が8以上のアルキル基とすると、150℃以上に加熱することで熱運動が極めて活発になる。そのため、層と層の間を熱運動で押し広げ、硬化過程においてさらに多くの樹脂を層状珪酸塩の層間に侵入させることが可能となる。なお、層間に樹脂が侵入することで、インターカレートした有機イオンの一部は樹脂中に拡散し、層状珪酸塩の層外にも流出する。このため、有機イオンと反応性する樹脂を用いると、層外からの硬化反応も同時進行することになる。層間からの硬化反応は、硬化の進行にともない層間を拡大するが、層外からの硬化反応は層と層の間隔を固定し、硬化収縮で縮小する。つまり、層間を高度に剥離し、均一分散するには、層間からの反応を優先的に進行させることが重要である。
ここで、図1Aは、未処理マイカ(すなわち、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のいずれもインターカレートしていないマイカ)のX線回折(XRD)測定結果を示す図であり、図1Bは、3級アミンイオンを有する有機化合物をインターカレートしたマイカ(オルガノマイカ)のXRD測定結果を示す図である。
図1A及び図1Bに示すとおり、オルガノマイカの測定結果は未処理マイカの測定結果よりも低角側にシフトしていることから、層間が拡大していることが確認できる。
また、図2Aは、3級アミンイオンを有する有機化合物をインターカレートしたマイカ(オルガノマイカ)を脂環式エポキシ樹脂に分散した硬化前のXRD測定結果を示す図であり、図2Bは、これの硬化後のXRD測定結果を示す図である。
図2A及び図2Bに示すように、硬化によりピークが消失し、層状珪酸塩の層間がXRD測定では測定できないほど拡大することが確認できる。
前記したように、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物は、層状珪酸塩の層外ではカチオン硬化性触媒として機能しないが、層状珪酸塩の層間にインターカレートすることにより、カチオン硬化性触媒として高い活性を有するようにすることができる。これは次の機構によるものと考えられる。
層状珪酸塩の層の表面は電気的にマイナスの電荷を帯びているため、プラスの電荷を帯びた化合物を層と層の間にインターカレートするとこれらは相互作用により結合した状態となる一方で、これらの化合物からプロトンが取れ易い状態になると考えられる。また、これらの化合物が層状珪酸塩の層間から離脱する場合、層状珪酸塩の層外は電気的に中性なのでプロトンを層間に残すことになると考えられる。つまり、層状珪酸塩の層外にはプロトンが出ない状態であり、アミンイオンが層状珪酸塩の層間からカチオン硬化性樹脂の硬化を開始することになると考えられる。なお、一般的な態様、すなわち、カチオン硬化性樹脂に硬化剤を外的に添加する態様では、層状珪酸塩の層外からカチオン硬化性樹脂の硬化が開始される。そのため、層状珪酸塩の層を剥離し、層間を離間させて硬化しようとしても、層状珪酸塩の層外は既に硬化しているため、十分そのようにすることはできない。それどころか、前記したように硬化収縮により層状珪酸塩の層間を縮小させてしまう。しかしながら、本発明においては層状珪酸塩の層間に1〜3級アミンイオンを有する有機化合物をインターカレートすることにより当該層間を剥離させ、十分に離間させて層内から硬化を開始させることができる。従って、本発明によれば層状珪酸塩の層間を高度に剥離した状態で、硬化物中に高密度で均一に分散させて硬化させることが可能となる。
なお、カチオン硬化性触媒としての活性の高さは、1級アミンイオン>2級アミンイオン>3級アミンイオンである。下記式(4)に示す4級アンモニウムイオンはカチオン硬化性を示さないが、式(1)〜(3)に示した化合物(1〜3級アミンイオンを有する有機化合物)と、カチオン硬化性樹脂との反応性(反応速度)を調節するため、適宜に添加することができる。なお、式(4)中のR1〜R3は前記したR1〜R3と同義であり、R4は前記したR2、R3と同義である。
ここで、図3にカチオン硬化性樹脂の示差走査熱量計(DSC)測定結果を示す。図3中の(A)は、3級アミンイオンをインターカレートしたマイカをカチオン硬化性樹脂に添加した場合におけるDSC測定結果であり、(B)は、4級アンモニウムイオンをインターカレートしたマイカをカチオン硬化性樹脂に添加した場合におけるDSC測定結果である。
図3中の(A)に示すように、3級アミンイオンをインターカレートしたマイカを添加したカチオン硬化性樹脂では発熱ピークを確認することができる。つまり、硬化反応が進行することが確認できる。
これに対し、図3中の(B)に示すように、4級アンモニウムイオンをインターカレートしたマイカを添加したカチオン硬化性樹脂では発熱ピークを確認することができない。つまり、硬化反応が進行しないことが確認できる。
同様に、図4に、1級アミンイオンをインターカレートしたマイカを添加した脂環式エポキシ樹脂のDSC測定結果を示す。1級アミンイオンをインターカレートしたマイカを用いた場合も発熱ピークを確認することができる。つまり、硬化反応が進行することが確認できる。
本発明に係る樹脂組成物の硬化温度は、アルキル基の熱運動の点から150℃以上とするのが好ましく、180℃以上とするのがより好ましい。なお、1級アミンイオンを有する有機化合物を層状珪酸塩の層間にインターカレートしたカチオン硬化性触媒を用いてカチオン硬化性樹脂を硬化する場合、1級アミンイオンを有する有機化合物の反応性が極めて高く、150℃で硬化させる場合であっても反応熱により内部温度が上昇し、発煙するおそれがある。そのため、前記したようにカチオン硬化性を示さない4級アンモニウムイオンを有する有機化合物を層状珪酸塩の層間にインターカレートして、層間の1級アミンイオン濃度を低減し、その反応性を抑制するのが好ましい。
他方、3級アミンイオンを有する有機化合物を層状珪酸塩の層間にインターカレートしたカチオン硬化性触媒を用いてカチオン硬化性樹脂を硬化する場合、DSCで測定した発熱ピークが180℃付近となり、180℃の硬化温度で良好に硬化できる。この場合でも、このカチオン硬化性触媒を多く添加する場合などは反応成分が過剰となるため、4級アンモニウムイオンを有する有機化合物を層状珪酸塩の層間にインターカレートして、層間の3級アミンイオン濃度を低減し、反応開始に使う水素イオン量を低減するのが好ましい。このように、反応開始に使う水素イオン量を低減するとカチオン反応で成長する分子量が向上し、強靭な硬化物が得られる効果がある。
以上に説明した本発明に係る樹脂組成物によれば、層状珪酸塩の層間に1〜3級アミンイオンを有する有機化合物をインターカレートしているので、層状珪酸塩の層間を高度に剥離した状態で、硬化物中に高密度で均一に分散させることができる。また、層状珪酸塩を添加しても粘度が過度に高くならず、その添加量を多くすることができる。そのため、層状珪酸塩の層が高度に剥離し、樹脂組成物中に均一に分散した状態とすることができ、層状珪酸塩の層間距離が50〜400nm、層状珪酸塩の粒子を1μm以内の間隔で互いに隣接させることができる。
なお、本発明に係る樹脂組成物においては、添加する層状珪酸塩の一部又は全部をアエロジルやクレイなどの微粒子フィラに替えることもできる。このようにすると、粘度を高くすることができるとともに、部分放電耐性を向上させることができる。また、本発明においては、電気絶縁材料やガスバリア材料として使用するために絶縁性、ガスバリア性、熱伝導性などをさらに向上させ得るその他の無機充填材を添加することもできる。無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、臭化アンチモンなどが挙げられる。
[樹脂組成物の製造方法]
次に、以上に説明した本発明に係る樹脂組成物を製造するための製造方法について説明する。なお、以下の説明において、既に説明している事項については重複する説明を省くこととする。
図5に示すように、本発明に係る樹脂組成物の製造方法は、インターカレート工程S1と、混合工程S2と、を含み、これらの工程をこの手順で行う。
(インターカレート工程)
インターカレート工程S1は、層状珪酸塩の層間に、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つをインターカレートしてカチオン硬化性触媒を得る工程である。
1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物の層状珪酸塩の層間へのインターカレートは、例えば、イオン交換反応によって行うことができる。具体的には、次のようにして行うことができる。
1000mLのセパラブルフラスコに約560mLの蒸留水と7gの層状珪酸塩を加え、還流下で80℃、2時間350rpmで攪拌して層状珪酸塩を分散させる。また、別の500mLのセパラブルフラスコで0.07mol/Lの濃度の塩酸173mLと、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つ(8.9mmol)とを、還流下で80℃、2時間、350rpmの条件で攪拌してアミンイオン溶液を調製する。
調製したアミンイオン溶液を、層状珪酸塩を分散させた溶液に加え、さらに還流下で80℃、2時間、350rpmの条件で攪拌する。
攪拌後、ブフナー漏斗を用いて混合溶液を吸引濾過し、得られた沈殿物を、蒸留水とエタノール(体積比1:1)を混合した混合溶液50mL(80℃)にて洗浄する。この操作を10回繰り返して行い、10回目の操作で生成した濾液に0.1mol/Lの硝酸銀水溶液を加えても塩化銀の沈殿が起こらなくなったことを確認する。また、この洗浄で、反応によって生成したNaCl及び過剰に加えたジメチルドデシルアンモニウムイオンを除去する。そして、減圧下80℃で10時間乾燥させることにより、層状珪酸塩の層間に1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つをインターカレートしたカチオン硬化性触媒を得ることができる。
なお、層状珪酸塩の層間に4級アンモニウムイオンを有する有機化合物をインターカレートする場合は、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つとともにこれを加え、還流下で80℃、2時間、350rpmの条件で攪拌してアミンイオン溶液を調製すればよい。
(混合工程)
混合工程S2は、インターカレート工程S1で得たカチオン硬化性触媒とカチオン硬化性樹脂を混合して樹脂組成物を製造する工程である。
カチオン硬化性触媒とカチオン硬化性樹脂の混合は次のようにして行うことができる。例えば、粉末状乃至固形状となっている任意の量のカチオン硬化性触媒とカチオン硬化性樹脂を乳鉢に入れ、カチオン硬化性触媒のダマがなくなる程度に軽く乳棒で混合し、次いで、自転公転ミキサーで5分程度混合することにより行うことができる。なお、混合工程S2では、カチオン硬化性触媒とカチオン硬化性樹脂を均一に混合できればよく、前記した手法に限定されないことは言うまでもない。
以上に説明したように、インターカレート工程S1と、混合工程S2と、をこの順で行うことにより、本発明に係る樹脂組成物を製造することができる。
[樹脂硬化物]
本発明に係る樹脂硬化物は、前記した本発明に係る樹脂組成物を硬化させたものである。本発明に係る樹脂組成物の硬化は、1〜3級アミノイオンを有する有機化合物からアミノイオンを生成させることにより開始させることができる。1〜3級アミノイオンを有する有機化合物からアミノイオンを生成させる手法としては、例えば、加熱ヒータなどにより100〜180℃程度に加熱することや、紫外線の照射、放射線の照射などにより行うことができる。
このようにして硬化された樹脂硬化物は、前記した樹脂組成物を硬化させたものであるので、層状珪酸塩の層間が高度に剥離している。そのため、厚さ方向1〜2nm、平面方向1〜50μmの層状珪酸塩の層が、カチオン硬化性樹脂の硬化物中に均一に分散したものとなる(後述する図13〜図16参照)。また、当該樹脂硬化物中における層状珪酸塩の層と層は1μm以内の間隔で互いに隣接しているのが好ましい。樹脂硬化物中における層状珪酸塩の層と層の間隔が1μm以内であるということは、層状珪酸塩の層が硬化物中において高密度且つ均一に分散していることの表れである。そのため、この状態で層状珪酸塩を含む樹脂硬化物とすれば、良好な電気絶縁材料やガスバリア材料として使用することができる
[樹脂組成物の適用例]
以下に、本発明に係る樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物の適用例について説明する。適用例としては、かかる樹脂硬化物を絶縁体の一部又は全部として用いた変圧器、回転電機、インバータ装置などの電気機器、ガス絶縁機器、電線などを挙げることができる。また、他の適用例として、かかる樹脂硬化物をガスバリア材の一部又は全部として用いた樹脂膜積層体や、かかる樹脂硬化物を防水材の一部又は全部として用いたことを特徴とする構造体などを挙げることができる。
[変圧器]
図6を参照して、本発明に係る樹脂硬化物の適用例の一つである変圧器について説明する。
なお、図6は、本発明に係る樹脂硬化物を適用した変圧器の一部断面図である。
図6に示すように、変圧器(モールド変圧器)60は、鉄心61と、この鉄心61に巻装された低電圧となる一次コイル62と、一次コイル62よりも外側に設けられた、一次コイル62よりも高電圧となる二次コイル63と、二次コイル63よりも外側に設けられた外周側シールド擬似コイル64とを有している。これら一次コイル62、二次コイル63及び外周側シールド擬似コイル64を樹脂モールドする樹脂使用部分の一部又は全部に、本発明に係る樹脂硬化物Aが用いられている。
なお、外周側シールド擬似コイル64は、樹脂硬化物Aを介して二次コイル63の一端に接地電位と接続されている。このような変圧器60とすれば、本発明に係る樹脂硬化物Aを用いているので絶縁破壊寿命が長くなり、長寿命化を図ることができる。また、一次コイル62、二次コイル63及び外周側シールド擬似コイル64の樹脂使用部分の厚さを薄くすることができることから、変圧器60の小型化、軽量化を図ることができる。
前記した変圧器60は次のようにして形成することができる。モールドに硬化前の樹脂組成物、すなわち、カチオン硬化性樹脂とカチオン硬化性触媒を含む樹脂組成物を自公転式攪拌装置等で攪拌して混合し、圧力注入する。次いで、加熱するなどして樹脂組成物を硬化し、樹脂硬化物Aを形成する。
[回転電機]
図7A〜図7Eを参照して、本発明に係る樹脂硬化物の適用例の一つである回転電機について説明する。なお、回転電機として、例えば、モータ、発電機(ジェネレータ)などが挙げられる。図7A〜図7Eには、回転電機の具体例としてモータを例示している。
図7Aは、本発明に係る樹脂組成物を補強層に含浸させて作製した電気絶縁マイカテープを用いた電気絶縁線輪の外観図である。
図7Bは、図7A中においてXの円で示した部分の断面の拡大図である。
図7Cは、図7Aに示す電気絶縁線輪を用いた全含浸コイルの断面正面図である。
図7Dは、図7C中においてYの楕円で示した部分の断面の拡大図である。
図7Eは、図7Cに示した全含浸コイルを用いた回転電機(モータ)の概略断面図である。
図7Eに示すモータ70は、筐体71の内周面に、全含浸コイル72(図7C参照)が設けられ、この全含浸コイル72の内側に回転子73が回動自在に設けられている。なお、この全含浸コイル72の樹脂使用部分の一部又は全部に、本発明に係る樹脂硬化物Aが用いられている。従って、このようなモータ70とすれば、本発明に係る樹脂硬化物Aを用いているので絶縁破壊寿命が長くなり、長寿命化を図ることができる。また、高電圧下で長時間使用できるだけでなく、高信頼化を図ることができる。
かかるモータ70は次のようにして作製することができる。まず、図7Aに示す電気絶縁線輪74を作製する。電気絶縁線輪74は、図7Bに示すように、導体75にガラスクロスなどの補強層76を巻き回し、本発明に係る樹脂組成物を当該補強層76に含浸(注入)させて熱硬化したものである。すなわち、この補強層76に樹脂硬化物Aが含まれる。
次いで、図7C及び図7Dに示すように、鉄心77の内周面に放射状に設けられている鉄心スロット78内に前記した電気絶縁線輪74を組み込む。その際、鉄心スロット78の底部からサシギ下ライナ78a、電気絶縁線輪74、サシギ下ライナ78b、電気絶縁線輪74、サシギ下ライナ78a、サシギ78bの順に組み込むとよい。
次いで、これを所定の注入タンク内に収め、本発明に係る樹脂組成物又は一般的に用いられるエポキシ樹脂等にて含浸し、熱硬化させることで、図7Cに示す全含浸コイル72を作製することができる。
そして、図7Eを参照して説明した如く、筐体71の内周面に当該全含浸コイル72を設け、この全含浸コイル72の内側に回転子73を回動自在に設けることにより、モータ70を作製することができる。
[インバータ装置]
図8A〜図8Cを参照して、本発明に係る樹脂硬化物の適用例の一つであるインバータ装置について説明する。
なお、図8Aは、インバータ装置に組み込まれるパワーモジュールの外観斜視図である。
図8Bは、図8Aに示すパワーモジュールの断面図である。
図8Cは、図8Aに示すパワーモジュールを組み込んだインバータ装置を示す図であって、蓋部材を外して内部を示した外観斜視図である。
図8A及び図8Bに示すように、パワーモジュール80は、放熱面81と、放熱面81に形成されたフィン82と、を有するモジュールケース83を有している。このモジュールケース83はアルミニウム合金板等をプレス加工するなどして繋ぎ目の無い矩形体であり、開口部84を一つ有している。この開口部84には信号端子825Uや信号端子825Lである信号配線を一体成型して成る補助モールド体800が組み込まれる。補助モールド体800からは導体板815、816がモジュールケース83内に向けて延出しており、その放熱面が露出した状態で第一封止樹脂848によって封止され、当該放熱面に絶縁シート833が熱圧着されている。つまり、第一封止樹脂848により封止されたモジュール一次封止体802は、モジュールケース83の中に挿入して絶縁シート833を挟んで、CAN型冷却器であるモジュールケース83の内壁に熱圧着されている。このように、導体板815、816を、絶縁シート833を介してモジュールケース83の内壁に熱圧着しているので、導体板815、816とモジュールケース83の内壁の間の空隙を少なくすることができる。そのため、パワー半導体素子の発生熱を効率良くフィン82へ伝達することができる。なお、かかる構成のパワーモジュール80の絶縁シート833の一部又は全部に、本発明に係る樹脂硬化物Aが用いられている。そのため、この絶縁シート833は高電圧下での絶縁破壊寿命を長くすることができる。
そして、図8Cに示すように、インバータ装置85内の所定の位置に、前記したパワーモジュール80を複数個設けられるようになっている。図8Cには、インバータ装置85内に合計6個のパワーモジュール80が設けられるようになっており、このうち4ヶ所にパワーモジュール80を設けている様子が図示されている。インバータ装置85に図示しない蓋部材を取り付けると、冷媒の供給口と排出口を除いて密封された状態となる。供給口からインバータ装置85内に冷媒が供給されると、パワーモジュール80が冷媒によって冷やされる。パワーモジュール80の熱を奪った冷媒は排出口から排出される。そのため、効率良くパワーモジュール80を冷却することができる。前記したように、このパワーモジュール80には、本発明に係る樹脂硬化物Aを用いた絶縁シート833が用いられている。そのため、かかるインバータ装置85は動作電圧を高くすることができ、同じ大きさのインバータ装置と比較して高出力化することができる。また、従来、ゲル封止していたインバータ装置のパワーモジュールを前記したように樹脂硬化物Aに置き換えることができることから、熱サイクル時におけるパワーモジュールへの応力の低減が可能である。そのため、パワーモジュールやインバータ装置の長寿命化を図ることができる。
[ガス絶縁機器]
図9を参照して、本発明に係る樹脂硬化物の適用例の一つであるガス絶縁機器について説明する。
なお、図9は、本発明に係る樹脂硬化物を用いたガス絶縁機器の断面図である。
図9に示すように、ガス絶縁機器90は、ガス絶縁機器用密閉容器(以下、単に「密閉容器」)91内に詳細を後述する真空遮断部92を配置し、密閉容器91の上部に絶縁スペーサ93aを介して上部密閉容器94が接続されている。密閉容器91の下部に同様の絶縁スペーサ93bを介して下部密閉容器95が接続されている。真空遮断部92は密閉容器91の下部に配置したガス絶縁機器用操作器96によって開閉操作される。真空遮断部92の上方端子は、上部密閉容器94内に配置した主回路導体94aに接続され、真空遮断部92の下方端子は、下部密閉容器95内に配置した主回路導体95aに接続されている。主回路導体94aの途中には断路器94bが構成されてケーブルヘッド97を収納したケーブルヘッド密閉容器94cに絶縁スペーサ93cを介して接続されている。また、主回路導体95aの途中には断路器95bが構成されて主母線密閉容器98a内の主母線98bに接続されている。図示の構成は二重主母線構成であるから、主回路導体95aには絶縁スペーサ93d、93e及び断路器95cを介して主母線密閉容器98c内の主母線98dに接続されている。また、主母線98bは絶縁スペーサ93fを介して主母線密閉容器98aと接続されており、主母線98dは絶縁スペーサ93gを介して主母線密閉容器98cと接続されている。このようなガス絶縁機器90は、密閉容器91内の構成を別にすれば良く知られた構成である。なお、かかる構成のガス絶縁機器90の絶縁スペーサ93a〜93gの一部又は全部に、本発明に係る樹脂硬化物Aが用いられている。
かかるガス絶縁機器90では、絶縁スペーサ93a〜93gによって、絶縁性ガスであるSF6ガスが充填された各ケーシング(容器)内に配設された導体である断路器94b、主回路導体94a、主回路導体95a、断路器95c、主母線98b、主母線98dを絶縁支持している。そして、これらの導体が100kVの電位を持ち、各ケーシングはアースされている。
このような構成となるガス絶縁機器90では、これらの導体と、これらの導体をそれぞれ絶縁支持している絶縁スペーサ93a〜93gの接触部分が、電界が高くなり易い。しかしながら、このガス絶縁機器90では、前記したように、絶縁スペーサ93a〜93gに本発明に係る樹脂硬化物Aを用いているので、この絶縁スペーサ93a〜93gは絶縁破壊寿命を長くすることができ、長寿命化を図ることができる。
[電線]
図10を参照して、本発明に係る樹脂硬化物の適用例の一つである電線について説明する。
図10は、本発明に係る樹脂硬化物を用いた電線を、当該電線の長手方向に対して垂直に切断した断面図である。
図10に示すように、電線100は、高電圧電流を流す素線導体101と、この素線導体101の周囲を覆う絶縁被膜102と、この絶縁被膜102の周囲を覆う保護被膜103と、を有してなる。この電線100では、絶縁被膜102により、素線導体101同士間及び素線導体101と対地間の通電を遮断している。また、保護被膜103により、絶縁被膜102と素線導体101に傷が付かないように保護している。
なお、かかる構成の電線100の絶縁被膜102の一部又は全部に、本発明に係る樹脂硬化物Aが用いられている。そのため、電線100の絶縁寿命を向上させることができる。また、高電圧機器の特性や信頼性を向上させることもできる。
かかる電線100は、前記した本発明に係る樹脂組成物を素線導体101の表面に塗布し、熱硬化等することにより絶縁被膜102を形成し、さらに任意の樹脂組成物をもって保護被膜103を形成することで製造することができる。
[樹脂膜積層体]
図11を参照して、本発明に係る樹脂硬化物の適用例の一つである樹脂膜積層体について説明する。
図11は、本発明に係る樹脂硬化物を用いた樹脂膜積層体の断面図である。
図11に示すように、樹脂膜積層体110は、例えば、基材111と、この基材111の上に形成された機能層112と、この機能層112上に形成されたガスバリア材113と、を有してなる。なお、機能層112は任意に設けることのできるものであり、樹脂膜積層体110において必須のものではない。
基材111は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂やガラス基板などが挙げられる。また、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ステンレスなどの金属基板などが挙げられる。
任意に設けることのできる機能層112は、何らかの機能を有し、例えば、酸素ガスや水分によってその機能が劣化してしまうものが挙げられる。例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子における有機発光層などが挙げられる。
この樹脂膜積層体110においては、ガスバリア材113の一部又は全部に、本発明に係る樹脂硬化物Aが用いられている。そのため、樹脂膜積層体110のガスバリア性を向上させることができる。従って、樹脂膜積層体110を有機EL素子などに用いる場合、当該有機EL素子の性能を劣化し難くすることができる。なお、有機EL素子に適用する場合、有機EL層や基材111が、本発明に係る樹脂組成物を硬化させる際の加熱によって劣化するおそれがある。従って、ガスバリア材113は、機能層112である有機EL層を積層した基材111とは別に形成し、ガスバリア材113の一方の面に接着剤を設けるか、又はガスバリア材113と有機EL層の間に図示しない接着層を形成して、ガスバリア材113と有機EL層を接着するようにするとよい。
[構造体]
図12を参照して、本発明に係る樹脂硬化物の適用例の一つである構造体について説明する。
図12は、本発明に係る樹脂硬化物を用いた構造体の断面図である。
図12に示すように、構造体120は、例えば、基材121と、この基材121の上に形成された防水材122と、を有してなる。
基材121は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ステンレスなどの金属基板などが挙げられる。また、基材121として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂やガラス基板などを用いることもできる。
この構造体120においては、防水材122の一部又は全部に、本発明に係る樹脂硬化物Aが用いられている。そのため、構造体120の防水性を向上させることができる。また、例えば、この構造体120と同様な構成を備え、防水材として多く用いられているFRPなどを使用した構造体と比較して低コスト化を図ることができる。
以下、本発明所望の効果を奏する実施例と、そうでない比較例により本発明の内容を具体的に説明する。
[実施例1]
アミンイオンとして、N、N−ジメチルオクタデシルアミンを塩酸処理して用い、層状珪酸塩として、一次粒子の平均粒径が5μmのコープケミカル株式会社製ME−100を用い、後述のオルガノマイカの製造方法に従って、層状珪酸塩の層間に3級アミンイオンであるN、N−ジメチルオクタデシルアミンイオンをインターカレートして、カチオン硬化性触媒を作製した。
次に、カチオン硬化性樹脂として、脂環式エポキシ樹脂であるダイセル化学工業株式会社製セロキサイド2021Pを用い、無機成分が5質量%となるように前記カチオン硬化性触媒を添加し、乳鉢でかるくダマがなくなる程度まで混合した。
次に、自転公転ミキサーで5分混合後、セパラブルフラスコにて120℃、133.32Pa(1mmHg)の真空度、20時間の条件で真空脱泡を行った。その後、180℃で2時間硬化させ、樹脂硬化物を得た。
図13に、実施例1に係る樹脂硬化物のSEM写真を示す。図13に示すように、実施例1に係る樹脂硬化物の一次粒子は確認することはできず、均一に分散していることが分かる。
また、図14に実施例1に係る樹脂硬化物のTEM写真を示す。図14に示すように、実施例1に係る樹脂硬化物の層状珪酸塩は、単層に剥離した状態で均一に分散している。このことから、層状珪酸塩の層間にアミンイオンをインターカレートしたカチオン硬化性触媒を用いてカチオン硬化性樹脂を硬化すると、層状珪酸塩の層間が単層に剥離して均一に分散した状態で硬化できることが確認できた。
[実施例2]
アミンイオンとして、N、N−ジメチルオクタデシルアミンを塩酸処理して用い、層状珪酸塩として、一次粒子の平均粒径が5μmのコープケミカル株式会社製ME−100を用い、後述のオルガノマイカの製造方法に従って、層状珪酸塩の層間に3級アミンイオンであるN、N−ジメチルオクタデシルアミンイオンをインターカレートして、カチオン硬化性触媒を作製した。
次に、カチオン硬化性樹脂として、脂環式エポキシ樹脂であるダイセル化学工業株式会社製セロキサイド2021Pを用い、無機成分が28質量%となるように前記カチオン硬化性触媒を添加し、乳鉢でかるくダマがなくなる程度まで混合した。なお、実施例1からの変化点は、層状珪酸塩の添加量を前記したように無機成分量で28質量%に増やした点である。
次に、自転公転ミキサーで5分混合後、セパラブルフラスコにて120℃、133.32Pa(1mmHg)の真空度、20時間の条件で真空脱泡を行った。その後、180℃で2時間硬化させ、樹脂硬化物を得た。
図15に、実施例2に係る樹脂硬化物の低倍率でのTEM写真を示す。図15に示すように、層状珪酸塩の一次粒子を形成していたと考えられる部分の層間が拡大し、別の一次粒子を形成していたと考えられる部分と隣接している。
図16に、実施例2に係る樹脂硬化物の中倍率でのTEM写真を示す。図16に示すように、層状珪酸塩の一次粒子を形成していたと考えられる部分の層間が拡大し、別の一次粒子を形成していたと考えられる部分と隣接している様子がより詳細に確認できる。
[実施例3、4]
実施例1、2と同様にして、カチオン硬化性触媒の添加量を3質量%とした実施例3に係る樹脂硬化物と、カチオン硬化性触媒の添加量を14質量%とした実施例4に係る樹脂硬化物とを得た。そして、実施例1〜4に係る樹脂硬化物の絶縁破壊時間を後記する測定方法により測定した。なお、実施例3、4についてのSEM写真及びTEM写真は、実施例1、2と同様であったので図面は省略した。
図17に、実施例1〜4に係る樹脂硬化物における無機成分充填量(質量%)と絶縁破壊時間(h)の関係を示す。図17に示すとおり、無機成分の充填量の増加にともない、指数関数的に絶縁破壊時間が増加し、28質量%では5質量%に比べて絶縁破壊時間が2桁増加した。
このように、本発明に係る樹脂硬化物によれば、層状珪酸塩の層間にいる間は、カチオン硬化性触媒として作用するが、層外に拡散するとカチオン硬化性触媒として作用しないため、カチオン硬化性樹脂の硬化反応を、層状珪酸塩の層間に限定して開始することが可能となる。そのため、層状珪酸塩の層内からの硬化反応による層間距離の拡大効果を最大限に発揮することができる。その結果、層状珪酸塩が樹脂硬化物中に単層で均一に分散した樹脂硬化物を得ることができる。また、これにより、層状珪酸塩の充填量を増加させることができ、飛躍的に絶縁破壊時間が向上できる。これは、隣り合う層状珪酸塩の一次粒子同士の隙間が閉じることで、電気トリーの進展経路が指数関数的に複雑になるためである。
[実施例5]
アミンイオンとして、N、N−ジメチルオクタデシルアミンを塩酸処理して用い、層状珪酸塩として、一次粒子の平均粒径が5μmのコープケミカル株式会社製ME−100を用い、後述のオルガノマイカの製造方法に従って、層状珪酸塩の層間に3級アミンイオンであるN、N−ジメチルオクタデシルアミンイオンをインターカレートして、カチオン硬化性触媒を作製した。
次に、カチオン硬化性樹脂として、シアネートエステル樹脂であるロンザジャパン株式会社製4,4’−エチリデンジフェニルジシアネートPrimasetLECYを用い、無機成分が5質量%となるように前記カチオン硬化性触媒を添加し、乳鉢でかるくダマがなくなる程度まで混合した。
次に、自転公転ミキサーで5分混合後、セパラブルフラスコにて120℃、133.32Pa(1mmHg)の真空度、20時間の条件で真空脱泡を行った。真空脱泡を行った実施例5に係る樹脂組成物を示差走査熱量測定(DSC)にて発熱ピークを観察した。
図18に、実施例5に係る樹脂組成物のDSC測定結果を示す。つまり、3級アミンイオンでインターカレートしたマイカをシアネートエステル樹脂に混合した樹脂組成物のDSC測定結果を示す。
図18に示すように、220℃付近に発熱ピークが確認できることから、カチオン硬化性樹脂としてシアネートエステル樹脂を用いた場合であっても、硬化反応が進行することがわかる。
ここで、図19に、以下の(A)〜(D)に係る種々の樹脂系で作製した樹脂組成物のDSC測定結果を示す。
同図中の(A)は、3級アミンイオンでインターカレートしたマイカをビスフェノールADGEに混合した樹脂組成物のDSC測定結果である。
同図中の(B)は、4級アンモニウムイオンでインターカレートしたマイカをビスフェノールADGEに混合した樹脂組成物のDSC測定結果である。
同図中の(C)は、3級アミンイオンでインターカレートしたマイカを脂環式エポキシ樹脂に混合した樹脂組成物のDSC測定結果である。
そして、同図中の(D)は、4級アンモニウムイオンでインターカレートしたマイカを脂環式エポキシ樹脂に混合した樹脂組成物のDSC測定結果である。
図19の(A)に示すように、カチオン硬化性が低いビスフェノールAGDEでは、3級アミンイオンでインターカレートしたマイカを添加しても発熱ピークが観察されず、反応が進行していないことがわかる。その一方で、図19の(C)に示すように、カチオン硬化性が高い脂環式エポキシ樹脂を用いると、3級アミンイオンでインターカレートしたマイカを添加すると発熱ピークを確認することができ、硬化反応が進行していることがわかる。なお、図19の(B)及び(D)に示すように、4級アンモニウムイオンでインターカレートしたマイカを用いて樹脂組成物を作製した場合、カチオン硬化性が低いか高いかに関わらず、発熱ピークを確認することはできず、反応が進行していないことがわかる。
[比較例1]
500mLのセパラブルフラスコで、2.00g(マイカの含有量が樹脂硬化物に対して5質量%)のオルガノマイカの6倍質量のキシレン及びメタノール混合液12.6g(トルエンに対してメタノールが5%)を加えて30分間、350rpmで攪拌した。その後、20.0gのビスフェノールADGE(0.054mol)を室温で2時間、350rpmで攪拌して均一に混合し、次いで三本ロールで4回混練した。その後、減圧下120℃で2時間、100rpmで撹拌し、溶媒を除去した。さらに、減圧恒温槽を用い、120℃で1時間かけて溶媒を除去した。そして、エポキシ当量の18.45gのMeHHPA(ヘキサヒドロ−4−メチルフタル酸無水物)(0.109mol)を加えて均一になるまで自転・公転型回転ミキサーで攪拌し、比較例1に係る樹脂組成物を作製した。
そして、作製した樹脂組成物をアルミカップ中に注ぎ、恒温槽に入れて150℃で2時間加熱硬化し、比較例1に係る樹脂硬化物を得た。
図20に、比較例1に係る樹脂硬化物のSEM写真を示す。図20に示すように、比較例1に係る樹脂硬化物においては、層状珪酸塩の一次粒子を形成していたと考えられる数ミクロンサイズの凝集体を確認することができる。図13に示す実施例1に係る樹脂硬化物のSEM写真と比較すると、層状珪酸塩の分散状態が大きく異なることがわかる。
また、図21に、比較例1に係る樹脂硬化物のTEM写真を示す。層状珪酸塩の粒子近傍を観察すると、50〜100nm程度の凝集体が段々にずれて分散していることがわかる。
このことから、実施例1、2のように、本発明の条件を満たす条件でカチオン硬化性触媒と樹脂組成物を作製し、それを用いてカチオン硬化性樹脂を硬化すると、層状珪酸塩の層間が単層で剥離して均一に分散することが確認できた。
≪試験方法及び評価方法≫
以下に、[実施例]にて実施した試験方法及び評価方法について説明する。
(オルガノマイカの製造方法)
1000mLのセパラブルフラスコに約560mLの蒸留水と7gの合成マイカを加え、還流下で80℃、2時間、350rpmで攪拌してマイカを分散させた。
また、別の500mLのセパラブルフラスコで0.07mol/Lの濃度の塩酸173mLと種々の挿入剤、すなわちN、N−ジメチルオクタデシルアミンなど(8.9mmol)を還流下で80℃、2時間、350rpmで攪拌してアミンイオン溶液を調製した。
調製したアミンイオン溶液を、前記したマイカを分散させた溶液に加え、さらに還流下で80℃、2時間、350rpmで攪拌した。攪拌後、ブフナー漏斗を用いて混合溶液を吸引濾過し、得られた沈殿物を80℃の蒸留水とエタノール(体積比1:1)を混合したものを50mL用いて洗浄した。この操作を10回繰り返して行い、10回目の操作で生成した濾液に0.1mol/Lの硝酸銀水溶液を加えても塩化銀の沈殿が起こらなくなったことを確認した。この洗浄で、反応によって生成したNaCl及び過剰に加えたジメチルドデシルアンモニウムイオンを除去した。その後、減圧下、80℃で10時間乾燥させてオルガノマイカを製造した。
(樹脂組成物の硬化方法)
樹脂組成物は、恒温槽中で、180℃で2時間硬化した。
(XRD測定)
測定装置にX線回折装置RINT−UltimaIII(株式会社リガク製)を用い、ターゲットにCu(λ=1.5418Å)を用い、管電圧40kV、管電流40mA、スキャンスピード1.0°/minで平行ビーム法にて、2θ=1°〜15°の範囲で測定した。層間距離は、回折角度2θにブラッグの式を用いて求めた。
(DSC測定)
測定装置に示差走査熱量計DSC220(セイコー電子工業株式会社製)を用い、昇温速度5.0℃/minで測定した。
(SEM観察)
測定装置に電界放射走査型顕微鏡JSM−6700F(株式会社日本電子製)を用い、加速電圧5.0kV、WD8.0mm、エミッション電流10μAで測定した。測定サンプルにはイオンスパッタリング装置JFC−1500(株式会社日本電子製)を用い、厚み200Åの白金層を蒸着した。
(TEM観察)
測定装置に透過型電子顕微鏡JEM−1210(株式会社日本電子製)を用い、加速電圧120kVで測定した。測定サンプルは、ウルトラミクロトームREICHERTULTRA−CUTE(株式会社ライカ製)及びダイヤモンドナイフSUMI KNIFE SK1045(住友電工株式会社製)を用い、厚さ50nmに切断した。
(絶縁破壊時間測定)
絶縁破壊時間は、先端5μmの鉄製の針を樹脂端部から3.5mmの位置に埋め込み、樹脂端部には銀ペーストを用いて電極を形成してグラウンドに接続し、針には交流50Hz、実効電圧20kVを印加し、フロリナート(住友スリーエム株式会社製)中で樹脂が絶縁破壊するまでの時間を測定した。
<具体的適用例に関する実施例>
以下に、具体的適用例に関する実施例について説明する。
[実施例6]変圧器
実施例1に記載した樹脂組成物を用いて図6に示す変圧器60を作製した。実施例6に係る変圧器60は、図6に示すように、一次コイル62、二次コイル63及び外周側シールド擬似コイル64を樹脂モールドする樹脂使用部分の全てを実施例1に記載した樹脂組成物Aとした。その結果、得られた実施例6に係る変圧器60は、絶縁破壊寿命が長くなり、長寿命化を図ることができた。また、このことから、一次コイル62、二次コイル63及び外周側シールド擬似コイル64の樹脂使用部分の厚さを薄くすることができ、変圧器60の小型化、軽量化を図ることができると考えられた。
[実施例7]モータ
実施例1に記載した樹脂組成物を用いて図7Eに示すモータ70を作製した。実施例7に係るモータ70は、図7Aに示す電気絶縁線輪74を作製し、この電気絶縁線輪74を用いて図7Cに示す全含浸コイル72を作製し、さらに、この全含浸コイル72を筐体71の内周面に設け、その内側に回転子73を回動自在に設けて作製した。なお、実施例1に記載した樹脂組成物は、電気絶縁線輪74の補強層76に含浸させる樹脂として適用するとともに、全含浸コイル72全体を熱硬化する際の樹脂として適用した。その結果、得られた実施例7に係るモータ70は、樹脂硬化物A(図7D参照)を用いているので、絶縁破壊寿命が長くなり、長寿命化を図ることができた。また、このことから、当該実施例7に係るモータ70によれば、高電圧下で長時間使用できるだけでなく、高信頼化を図ることができると考えられた。さらに、モータとして有効に利用可能であることから、発電機としても利用可能であり、その場合であっても長寿命化を図ることができ、高信頼化を図ることができると考えられた。
[実施例8]インバータ装置
実施例1に記載した樹脂組成物を用いて図8Cに示すインバータ装置85を作製した。実施例8に係るインバータ装置85は、これに組み込まれるパワーモジュール80の絶縁シート833(図8B参照)に、実施例1に記載した樹脂組成物を適用した。その結果、得られた実施例8に係るインバータ装置85は、動作電圧を高くすることができた。また、通常の同じ大きさのインバータ装置(前記絶縁シート833を用いないインバータ装置)と比較して高出力化することができた。さらに、実施例8に係るインバータ装置85は、従来、ゲル封止していたインバータ装置のパワーモジュールを前記したように樹脂硬化物に置き換えることができることから、熱サイクル時におけるパワーモジュールへの応力の低減が可能であると考えられた。そのため、パワーモジュールやインバータ装置の長寿命化を図ることができると考えられた。
[実施例9]ガス絶縁機器
実施例1に記載した樹脂組成物を用いて図9に示すガス絶縁機器90を作製した。実施例9に係るガス絶縁機器90は、図9に示す絶縁スペーサ93a〜93gを実施例1に記載した樹脂組成物を適用して作製し、当該ガス絶縁機器90内に組み込んだ。その結果、得られた実施例9に係るガス絶縁機器90は、絶縁スペーサ93a〜93gの絶縁破壊寿命が長くなり、長寿命化を図ることができた。
[実施例10]電線
実施例1に記載した樹脂組成物を用いて図10に示す電線100を作製した。実施例10に係る電線100は、図10に示すように、素線導体101の周囲を絶縁被膜102で覆い、さらにこの絶縁被膜102の周囲を保護被膜103で覆うことで作製した。なお、絶縁被膜102に、実施例1に記載した樹脂組成物を適用した。その結果、得られた実施例10に係る電線100は、絶縁寿命を向上させることができた。また、このことから、当該実施例9に係る電線100によれば、高電圧機器の特性や信頼性を向上させることもできると考えられた。
[実施例11]樹脂膜積層体
実施例1に記載した樹脂組成物を用いて図11に示す樹脂膜積層体110を作製した。実施例11に係る樹脂膜積層体110は、図11に示すように、基材111の上に機能層112を形成し、この機能層112の上にガスバリア材113を形成することで作製した。なお、ガスバリア材113に、実施例1に記載した樹脂組成物を適用した。その結果、得られた実施例11に係る樹脂膜積層体110のガスバリア性を向上させることができた。
[実施例12]構造体
実施例1に記載した樹脂組成物を用いて図12に示す構造体120を作製した。実施例12に係る構造体120は、図12に示すように、基材121の上に防水材122を形成することで作製した。なお、防水材122に、実施例1に記載した樹脂組成物を適用した。その結果、得られた実施例12に係る構造体120の防水性を向上させることができた。また、実施例12に係る構造体120によれば、この構造体120と同様な構成を備え、防水材として多く用いられているFRP(繊維強化プラスチック)などを使用して防止した構造体と比較して低コスト化を図ることができた。
S1 インターカレート工程
S2 混合工程

Claims (14)

  1. カチオン硬化性樹脂と、
    層状珪酸塩の層間に、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つがインターカレートされているカチオン硬化性触媒と、
    を含むことを特徴とする樹脂組成物。
  2. 前記層状珪酸塩は粒子の集合体からなり、その1次粒子の平均粒径が1〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
  3. 前記有機化合物が炭素数8〜20のアルキル基を有していることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
  4. 前記カチオン硬化性樹脂が、脂肪族環式エポキシ樹脂、及びシアネートエステル樹脂のうちのいずれか一種又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
  5. 前記層状珪酸塩の層間に、4級アンモニウムイオンを有する有機化合物がインターカレートされていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
  6. 層状珪酸塩の層間に、1級アミンイオンを有する有機化合物、2級アミンイオンを有する有機化合物、及び3級アミンイオンを有する有機化合物のうちの少なくとも一つをインターカレートしてカチオン硬化性触媒を得るインターカレート工程と、
    前記カチオン硬化性触媒とカチオン硬化性樹脂を混合して樹脂組成物を製造する混合工程と、
    を含むことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
  7. 前記インターカレート工程で、さらに、4級アンモニウムイオンを有する有機化合物を前記層状珪酸塩の層間にインターカレートすることを特徴とする請求項6に記載の樹脂組成物の製造方法。
  8. 請求項1に記載の樹脂組成物を硬化させたことを特徴とする樹脂硬化物。
  9. 厚さ方向1〜2nm、平面方向1〜50μmの層状珪酸塩の層が前記カチオン硬化性樹脂の硬化物中に均一に分散していることを特徴とする請求項8に記載の樹脂硬化物。
  10. 前記層と前記層が1μm以内の間隔で互いに隣接していることを特徴とする請求項9に記載の樹脂硬化物。
  11. 請求項8に記載の樹脂硬化物を絶縁体の一部又は全部として用いた変圧器、回転電機、インバータ装置、又はガス絶縁機器であることを特徴とする電気機器。
  12. 請求項8に記載の樹脂硬化物を絶縁体の一部又は全部として用いたことを特徴とする電線。
  13. 請求項8に記載の樹脂硬化物をガスバリア材の一部又は全部として用いたことを特徴とする樹脂膜積層体。
  14. 請求項8に記載の樹脂硬化物を防水材の一部又は全部として用いたことを特徴とする構造体。
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