以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
<<< §1. 従来の力覚センサの基本構造 >>>
はじめに、本発明に係る力覚センサと対比するため、従来の一般的なダイアフラム式の力覚センサの基本構造を簡単に説明する。図1(a) は、従来の力覚センサに用いられる基本構造体100の側断面図、図1(b) は、その上面図である。ここでは、説明の便宜上、図示のようなXYZ三次元座標系を定義して、以下の説明を行うことにする。
図1(a) は、この基本構造体100をXZ平面で切断した側断面図であり、その中心部に原点Oを定義し、図の右方向にX軸、上方向にZ軸、紙面垂直奥方向にY軸が定義されている。これに対して、図1(b) は、この基本構造体100を上方から見た状態を示す上面図であり、図の右方向にX軸、上方向にY軸、紙面垂直手前方向にZ軸が定義されている。
図1(b) の上面図に示されているとおり、基本構造体100は、全体的にZ軸を中心軸とした円柱形の外形をなし、円筒形状をした筒状部材110、ワッシャ形状をした可撓性接続部材120、円柱形状をした中心部材130を組み合わせた一体構造体(通常、金属によって構成される)である。筒状部材110、可撓性接続部材120、中心部材130は、いずれもZ軸が中心軸となるように配置されており、基本構造体100自身がZ軸についての回転対称体になる。図1(a) の側断面図には、この基本構造体100の下面を、円板状の支持基板140の上面に接続した状態が示されている。
可撓性接続部材120は、筒状部材110の上端内周面と中心部材130の下端外周面との間を接続するワッシャ状の構造体であり、通常、その厚みは1mmに満たない程度に設計される。このため、この可撓性接続部材120はダイアフラムとして機能し、支持基板140を固定した状態において、中心部材130に外力が作用すると、可撓性接続部材120は弾性変形による撓みを生じる。この撓みの態様は、作用した外力の向きおよび大きさによって異なる。
図2は、図1に示す基本構造体100において、支持基板140を固定した状態にして、中心部材130にZ軸負方向の力−Fzが作用したときの変形態様を示す側断面図である。このような力−Fzは、たとえば、中心部材130の上面を下方に押し込む操作(図示の作用点Qを下方へ押し下げる操作)によって加えることができる。この力−Fzの作用により、ワッシャ状の可撓性接続部材120は下方に窪むように撓みを生じる。なお、図には示されていないが、Z軸正方向の力+Fz(中心部材130を図の上方に引き上げる力)が加わった場合は、ワッシャ状の可撓性接続部材120は上方に隆起するような撓みを生じる。
一方、図3は、図1に示す基本構造体100において、支持基板140を固定した状態にして、中心部材130にY軸正まわり(Y軸正方向に右ネジを進める回転方向:図示の場合は時計まわり)のモーメント+Myが作用したときの変形態様を示す側断面図である。このようなモーメント+Myは、たとえば、中心部材130の作用点Qを図の右方向(X軸正方向)へ移動させる力+Fxが加わったときに生じることになる。このようなモーメント+Myの作用により、ワッシャ状の可撓性接続部材120は、図示のような捻りを加えるような撓みを生じる。
逆回りのモーメント−Myが加わった場合の変形態様は、図3とは左右が逆転した状態になる。また、基本構造体100はZ軸についての回転対称体であるので、X軸まわりのモーメント+Mx,−Mxが作用した場合の変形態様は、Y軸まわりのモーメント+My,−Myが作用した場合の変形態様と同様になる。もちろん、作用した外力の大きさが大きいほど、変形の程度も大きくなる。
このように、作用した外力の方向および大きさによって、可撓性接続部材120の変形態様が異なるので、当該変形態様を検出素子によって検出すれば、作用した外力の方向および大きさを検出することができる。前掲の各特許文献に開示されている力覚センサは、いずれもこのような原理に基づいて、各座標軸方向に作用した力やモーメントを検出し、電気信号として出力する機能を有している。可撓性接続部材120の変形態様を検出する検出素子としては、ピエゾ抵抗素子、圧電素子、容量素子などが利用されている。
このような検出原理を採用するセンサでは、個々の座標軸ごとに検出感度が異なり、その結果、外力の定格荷重も座標軸ごとに異なってしまうという問題があることは、既に述べたとおりである。特に、図2に示すように、可撓性接続部材120の形成面(XY平面に平行な面)に対して垂直な方向に作用する力Fzと、図3に示すように、可撓性接続部材120の形成面に対して平行な方向に作用するモーメントMx,Myについては、検出感度に大きな差が生じることになる。その結果、各座標軸方向に作用する外力についての定格荷重も大きく異なってくる。
たとえば、前掲の特許文献9に実施例として開示されている力覚センサの場合、Z軸方向の力Fzについては、定格荷重値が100N程度であるのに対して、X軸まわりのモーメントMxおよびY軸まわりのモーメントMyについては、定格荷重値が1N・m程度になる。もちろん、力(単位N)とモーメント(単位N・m)とは、異なる物理量であるため、直接的な比較対象として両者を比べることはできないが、たとえば、図3に示す実施例の力覚センサにおいて、原点Oと作用点Qとの実寸を0.1mとすれば、作用点Qに加わるX軸正方向の力+Fxが10Nの場合に、モーメント+My=10N・0.1m=1N・mとなり、上述した定格荷重値になる。
これは、同一の作用点Qについて、下方へ押し下げる力−Fzについての定格荷重値が100N程度であるのに対して、右方へ動かす力+Fxについての定格荷重値が10N程度であることを示す。力Fy(モーメントMx)についての定格荷重値も同様に10N程度になる。
したがって、当該力覚センサを、たとえば、ロボットアームの関節部分に取り付けて、アームに加わる力の各座標軸成分を測定する用途に利用した場合、Z軸方向に関する定格荷重値が100Nであるのに対して、X軸方向およびY軸方向に関する定格荷重値は10Nとなり、両者間に10倍もの差が生じてしまうことになる。一般的な用途では、各座標軸方向に関する感度や定格荷重は、いずれも等しく設定される方が好ましい。したがって、上例の装置のように、座標軸方向によって10倍もの差が生じてしまうことは問題である。なお、ここでは、10倍の差が生じた例を述べたが、もちろん、両者の差は、センサの構造(特にダイアフラムの径)や、原点Oと作用点Qとの距離に左右されることになる。
本発明は、従来の力覚センサにおける上述の問題を解決するためになされたものであり、個々の軸方向感度ができるだけ等しくなる力覚センサを実現することを目的とするものである。その詳細については、§2以降に述べる。
<<< §2. 本発明に係る力覚センサの基本構造 >>>
ここでは、本発明に係る力覚センサの基本構造について説明する。図1に示す従来の力覚センサにおいて、Z軸方向に関する定格荷重値が100Nであるのに対して、X軸方向およびY軸方向に関する定格荷重値が10Nとなり、両者間に10倍もの差が生じてしまう原因は、図2および図3に示す作用点Qに同じ大きさの力を加えたとしても、Z軸方向の力Fzを加えた場合には、可撓性接続部材120の撓み量は比較的小さいのに対して、X軸方向の力Fx(モーメントMy)やY軸方向の力Fy(モーメントMx)を加えた場合には、可撓性接続部材120の撓み量が比較的大きくなるためである。
別言すれば、この基本構造体100におけるダイアフラム(可撓性接続部材120)は、力Fz(ダイアフラム形成面に対して直交する方向に作用する力)に対する撓み具合は小さいが、モーメントMy,Mx(ダイアフラム形成面に対して平行な方向に作用する力)に対する撓み具合は大きいことになる。図2および図3には、説明の便宜上、可撓性接続部材120がかなり大きな撓みを生じた状態が示されているが、もし、これらの状態が定格荷重状態(これ以上大きな力が加わると、可撓性接続部材120が破損するおそれがある状態)であるとすると、図2の場合、作用点Qには−Fz=100Nの力が加わっているのに対して、図3の場合、作用点Qには+Fx=10Nの力しか加わっていないことになる。
このような力の方向に起因した撓み具合の差を解消させるには、図3に示すような力Fx(モーメントMy)が加わった場合に、可撓性接続部材120の撓みを抑制させるような構造を採り入れればよい。もっとも、可撓性接続部材120の厚みを増やして撓みにくくする、といった手法では、図2に示すような力Fzが加わった場合にも撓みが抑制されてしまうことになるので、感度差の是正を行うことはできない。
本願発明者は、これらの事項を念頭において、基本構造体100の構造に対して様々な変形を施す実験を行った結果、最終的に、図4に示すような基本構造体200の構造を採用すれば、上記感度差を大幅に是正することが可能になることを見出した。以下、この点について詳述する。
図4(a) は、本発明に係る力覚センサに用いられる基本構造体200の側断面図、図4(b) は、その上面図である。ここでも、説明の便宜上、図示のようなXYZ三次元座標系を定義して、以下の説明を行うことにする。なお、XYZ三次元座標系の原点Oの位置は、この基本構造体200に外力として加えられるモーメントMyの中心軸となるY軸およびモーメントMxの中心軸となるX軸の交点として定義されるべきものである。図では、便宜上、基本構造体200のほぼ中心位置に原点Oをプロットしているが、必ずしも正確な位置を示すものではない。
図4(a) は、この基本構造体200をXZ平面で切断した側断面図であり、その中心部に原点Oを定義し、図の右方向にX軸、上方向にZ軸、紙面垂直奥方向にY軸が定義されている。一方、図4(b) は、この基本構造体200を上方から見た状態を示す上面図であり、図の右方向にX軸、上方向にY軸、紙面垂直手前方向にZ軸が定義されている。
図4(b) の上面図に示されているとおり、基本構造体200の構造は、図1に示した従来の基本構造体100の構造に類似している。すなわち、基本構造体200は、全体的にZ軸を中心軸とした円柱形の外形をなし、円筒形状をした筒状部材210と、円柱形状をした中心部材230と、ワッシャ形状をした可撓性接続部材221,222と、を有している。基本構造体100との大きな違いは、中心部材230の少なくとも一部分(図示の例の場合は、下半分の部分)が円筒部材210内に収容されており、円筒部材210と中心部材230との間が、2枚の可撓性接続部材221,222によって接続されている点である。
この基本構造体200の構造を、XYZ三次元座標系の座標軸を参照して説明すると次のようになる。まず、円柱形状をした中心部材230は、その中心軸がZ軸に重なるように、Z軸上に配置されている。そして、円筒形状をした筒状部材210は、やはりその中心軸がZ軸に重なるように、Z軸を取り囲む位置に配置されている。ここに示す実施例の場合、筒状部材210は、中心部材230の下半分のみを収容した形態となっているため、中心部材230の上半分は上方に突き出した状態になっている。
筒状部材210と中心部材230とは、第1の可撓性接続部材221および第2の可撓性接続部材222によって接続されている。これら2枚の可撓性接続部材221,222は、検出対象となる力の作用によって撓みを生じる可撓性を有しており、ダイアフラムとして機能する。ここに示す実施例の場合、基本構造体200はステンレス鋼などの金属によって構成されており、可撓性接続部材221,222の厚みは、検出に適切な可撓性が得られる程度の厚み(この例では、0.25mm)に設定されている。
ここでは、説明の便宜上、Z軸上に2つの座標値Z1,Z2を定義し(この例の場合、Z1>0,Z2<0)、図に一点鎖線で示すように、第1の座標値Z1を用いたZ=Z1なる式で表される第1の接続平面S1と、第2の座標値Z2を用いたZ=Z2なる式で表される第2の接続平面S2を定義する。すると、第1の可撓性接続部材221は、第1の接続平面S1に沿って中心部材230と筒状部材210とを接続する位置に配置されており、第2の可撓性接続部材222は、第2の接続平面S2に沿って中心部材230と筒状部材210とを接続する位置に配置されていることになる。
より具体的には、第1の可撓性接続部材221は、中心部材230の外周面と筒状部材210の内周面との間に形成されたワッシャ状の第1のダイアフラムによって構成され、第2の可撓性接続部材222も、中心部材230の外周面と筒状部材210の内周面との間に形成されたワッシャ状の第2のダイアフラムによって構成されている。第1のダイアフラム221は第1の接続平面S1に沿って配置され、第2のダイアフラム222は第2の接続平面S2に沿って配置されており、両接続平面S1,S2は、いずれもZ軸に直交する平行平面であるので、結局、この基本構造体200は、平行な二重ダイアフラム構造を有していることになる。図4(b) の上面図は、図1(b) の上面図と同じに見えるが、実際には、第1の可撓性接続部材221の奥に第2の可撓性接続部材222が配置されている。
図4に示す実施例の場合、基本構造体200は、円板状の支持基板300の上面に接続されている。すなわち、筒状部材210の底面が支持基板300の上面に固着されている。支持基板300および筒状部材210は、ダイアフラムとして機能する可撓性接続部材221,222に比べて、十分な剛性を有している。同様に、中心部材230も十分な剛性を有している。したがって、支持基板300(筒状部材210)を固定した状態において、中心部材230に外力が作用すると、可撓性接続部材221,222が弾性変形による撓みを生じ、中心部材230は筒状部材210に対して変位を生じることになる。
なお、支持基板300は本発明に係る力覚センサに必須の構成要素ではないが、実用上は、図示の実施例のように設けておけば、この力覚センサを何らかの対象物に取り付けるのに便利である。たとえば、この力覚センサをロボットアームの関節(2本のアームの接続部分)に取り付けて利用する場合、一方のアームの端部に支持基板300を取り付け、中心部材230の上端部に他方のアームの端部を取り付けるようにすればよい。もちろん、筒状部材210を直接アームの端部に取り付ける構成を採用する場合は、支持基板300は不要である。
本発明に係る力覚センサは、図4に示す基本構造体200に、更に、ブロックとして示されている検出素子400および検出回路500を付加することにより構成される。検出素子400は、第1の可撓性接続部材221および第2の可撓性接続部材222の少なくとも一方の撓みを検出する素子であり、後述するように、ピエゾ抵抗素子、圧電素子、容量素子などによって構成することができる。ピエゾ抵抗素子や圧電素子は、各部の撓みを作用した応力として検出することになり、容量素子は、各部の撓みを生じた変位として検出することになる。図において、第2の可撓性接続部材222から検出素子400へ伸びる破線の矢印は、検出素子400によって第2の可撓性接続部材222の撓みが検出されることを示している。もちろん、第1の可撓性接続部材221の撓みを検出するようにしてもよいし、両方の撓みを検出するようにしてもよい。
検出回路500は、支持基板300(筒状部材210)を固定した状態において、中心部材230に作用した外力を、検出素子400の検出結果に基づいて電気信号として出力する機能を有する。ここに示す実施例の場合、検出回路500は、XYZ三次元座標系におけるZ軸方向の力Fz、Y軸まわりのモーメントMy(X軸方向の力Fxに相当)、X軸まわりのモーメントMx(Y軸方向の力Fyに相当)、という3軸成分を検出する機能を有しており、それぞれ電気信号Fz,My,Mxとして出力する。
中心部材230に作用した外力の方向および大きさによって、可撓性接続部材221,222の弾性変形の態様は異なるので、検出素子400を可撓性接続部材221または222もしくはその双方の適切な位置に配置しておき、当該変形態様を検出すれば、作用した外力の方向および大きさを認識することができる。検出素子としては、従来の力覚センサと同様に、ピエゾ抵抗素子、圧電素子、容量素子などを利用することができる。
なお、ここでは、説明の便宜上、支持基板300(筒状部材210)を固定した状態において、中心部材230に作用した外力を検出する事例を述べたが、力の作用・反作用の法則により、上記事例は、中心部材230を固定した状態において、支持基板300(筒状部材210)に作用した外力を検出する事例と等価である(作用する力の方向が逆向きになるだけである)。したがって、本発明に係る力覚センサは、中心部材230および筒状部材210のうちのいずれか一方を固定した状態において他方に作用した外力を検出する機能を有していることになる。
ここに示す実施例は、上述したとおり、Fz,My,Mxという外力の3軸成分を検出する機能を有しているが、MyとMxは必ずしも双方を検出する必要はない。要するに、本発明に係る力覚センサは、XYZ三次元座標系において、少なくともY軸まわりのモーメントMy(座標軸の定義の仕方によっては、X軸まわりのモーメントMxということになる)およびZ軸方向の力Fzを検出する機能を有していればよい。
また、図示の実施例は、中心部材230がZ軸を中心軸として配置された円柱状の構造体によって構成され、筒状部材210がZ軸を中心軸として配置された円筒状の構造体によって構成され、支持基板300は円板状の構造体によって構成されている。そして、各可撓性接続部材221,222は、円形のワッシャ形状をした構造体によって構成されている。このように、図4に示す基本構造体200の個々の構成要素は、いずれもZ軸に関して回転対称形をしているため、支持基板300と基本構造体200とを含めた全体構造も回転対称体になる。
本発明に係る力覚センサに用いる基本構造体は、必ずしも回転対称体である必要はないが、実用上は、図示の例のようにZ軸に関して回転対称体にするのが好ましい。これは、中心軸について回転対称性をもたせることにより、円形のワッシャ形状をしたダイアフラムに対して対称性をもった撓みを生じさせることができ、検出回路により力の各軸方向成分を抽出する処理が容易になるためである。
図5は、図4に示す基本構造体200において、支持基板300を固定した状態にして、中心部材230にZ軸負方向の力−Fzが作用したときの変形態様を示す側断面図である。このような力−Fzは、たとえば、中心部材230の上面を下方に押し込む操作(図示の作用点Qを下方へ押し下げる操作)によって加えることができる。この力−Fzの作用により、ワッシャ状の各可撓性接続部材221,222は、いずれも下方に窪むように撓みを生じる。図には示されていないが、Z軸正方向の力+Fz(中心部材230を図の上方に引き上げる力)が加わった場合は、各可撓性接続部材221,222はいずれも上方に隆起するような撓みを生じる。
一方、図6は、図4に示す基本構造体200において、支持基板300を固定した状態にして、中心部材230にY軸正まわりのモーメント+Myが作用したときの変形態様を示す側断面図である。このようなモーメント+Myは、たとえば、中心部材230の作用点Qを図の右方向(X軸正方向)へ移動させる力+Fxが加わったときに生じることになる。このようなモーメント+Myの作用により、各可撓性接続部材221,222は、図示のような捻りを加えるような撓みを生じる。
逆回りのモーメント−Myが加わった場合の変形態様は、図6とは左右が逆転した状態になる。また、基本構造体200はZ軸についての回転対称体であるので、X軸まわりのモーメント+Mx,−Mxが作用した場合の変形態様は、Y軸まわりのモーメント+My,−Myが作用した場合の変形態様と同様になる。もちろん、作用した外力の大きさが大きいほど、変形の程度も大きくなる。
このように、作用した外力の方向および大きさによって、各可撓性接続部材221,222の変形態様が異なるので、いずれか一方もしくは双方の変形態様を検出素子400によって検出すれば、検出回路500によって、作用した外力の各座標軸方向成分を示す検出値を電気信号として出力することができる。
このような検出の基本原理については、図1に示す基本構造体100を用いた従来の力覚センサも、図4に示す基本構造体200を用いた本発明に係る力覚センサも、本質的には同じである。両者の相違は、図1に示す力覚センサ用の基本構造体100では、筒状部材110と中心部材130との間が単一の可撓性接続部材120(ダイアフラム)で接続されているのに対して、図4に示す力覚センサ用の基本構造体200では、筒状部材210と中心部材230との間が2枚の平行な可撓性接続部材221,222(ダイアフラム)で接続されている点である。
図4に示す基本構造体200の場合、第1の可撓性接続部材221は、第1の座標値Z1を用いたZ=Z1なる式で表される第1の接続平面S1に沿って配置されており、中心部材230の上下方向に関するほぼ中央部分(座標値Z1の位置)の外周面を筒状部材210の上端部内周面に接続する機能を有している。一方、第2の可撓性接続部材222は、第2の座標値Z2を用いたZ=Z2なる式で表される第2の接続平面S2に沿って配置されており、中心部材230の下端部外周面を筒状部材210の上下方向に関するほぼ中央部分(座標値Z2の位置)の内周面に接続する機能を有している。
本願発明者は、力覚センサにおける各座標軸方向の感度差を是正するために、様々な基本構造体についての解析を行った。その結果、図4に例示するように、筒状部材210と、その内側に配置された中心部材230とを、互いに平行な一対のダイアフラムによって接続する二重構造を採用した基本構造体200であれば、Z軸方向の力FzとY軸まわりのモーメントMy(X軸方向の力Fx)、あるいは、Z軸方向の力FzとX軸まわりのモーメントMx(Y軸方向の力Fy)についての感度差が大幅に是正されることが確認できた。
前述したとおり、図1に示す従来の基本構造体100を利用している前掲の特許文献9に記載された実施例では、Z軸方向に関する定格荷重値と、X軸方向およびY軸方向に関する定格荷重値との間に10倍もの差が生じていた。これに対して、図4に示す本発明に係る基本構造体200を利用した場合、このような座標軸間の感度差が大幅に是正されることが確認できた(具体的な是正効果を示す対比実験の結果については、§4で詳述する)。
要するに、図1に示す基本構造体100のダイアフラム(可撓性接続部材120)では、力Fzに対する撓み具合は小さいが、モーメントMy,Mxに対する撓み具合は大きく、前者に比べて後者に対する感度が高くなっていた。これに対して、図4に示す基本構造体200の並行二重ダイアフラム(可撓性接続部材221,222)では、力Fzに対する撓み具合と、モーメントMy,Mxに対する撓み具合とが拮抗するようになり、両者の感度がほぼ等しくなるように是正されることになる。
もちろん、ダイアフラムを用いた力覚センサの感度を調整するには、ダイアフラムの厚みを増減させたり、ダイアフラムの材質を変更したりする方法を採ることができるので、検出対象となる力の大きさに応じて、任意の感度をもった力覚センサを設計することは可能である。しかしながら、そのような方法で感度を調整しても、すべての座標軸方向に関する感度が同じように増減することになるので、各座標軸方向の感度差を是正する効果は得られない。
本発明の特徴は、並行二重ダイアフラム構造を採用することにより、各座標軸方向の感度差、より具体的には、ダイアフラムに直交するZ軸方向の感度と、ダイアフラムに平行なX軸もしくはY軸方向の感度との差を是正することができるようになる点である。この並行二重ダイアフラム構造により、各座標軸方向の感度差が是正される効果が得られる仕組について、本願発明者は、次のような理由に起因するものと考えている。
図7は、図5に示すように、作用点Qに力−Fzが作用したときの変形態様において、ダイアフラムの各部に発生する応力を示す側断面図である(断面を示すハッチングは省略)。中心部材230は、全体的に図の下方へ移動するため、ワッシャ状のダイアフラム221,222の内側部分は下方へ引っ張られることになり、図における左側部分221L,222Lに対しても、右側部分221R,222Rに対しても、矢印で示すような伸張応力f0が作用することになる。
このような応力分布は、図2に示す従来の基本構造部100の場合も同様である。もちろん、図7に示す基本構造部200の場合、ダイアフラムが2枚に増えているため、作用した外力−Fzに対してダイアフラムから加えられる力学的抵抗も増えることになる。したがって、ダイアフラムの材質および寸法が同じ場合、図2に示す従来の基本構造部100に対して、図7に示す本発明の基本構造部200のZ軸方向の撓みに関する感度はほぼ1/2程度になると考えられる。
一方、図8は、図6に示すように、作用点Qに力+Fxが作用したとき(すなわち、センサにモーメントMyが作用したとき)の変形態様において、ダイアフラムの各部に発生する応力を示す側断面図である(断面を示すハッチングは省略)。中心部材230は、原点Oを中心として時計まわりに回転を生じるため、ワッシャ状のダイアフラム221,222には、各部にそれぞれ異なる方向の応力が発生する。
すなわち、第1のダイアフラム221については、図における左側部分221Lには矢印で示すようなX軸方向に関する伸張応力fx1が作用するが、右側部分221Rには矢印で示すようなX軸方向に関する圧縮応力fx2が作用することになる。一方、第2のダイアフラム222については、図における左側部分222Lには矢印で示すようなX軸方向に関する圧縮応力fx3が作用するが、右側部分222Rには矢印で示すようなX軸方向に関する伸張応力fx4が作用することになる。
別言すれば、図の左半分に関しては、上方のダイアフラム221Lには伸張応力fx1、下方のダイアフラム222Lには圧縮応力fx3という逆の応力が作用することになり、図の右半分に関しては、上方のダイアフラム221Rには圧縮応力fx2、下方のダイアフラム222Rには伸張応力fx4という逆の応力が作用することになる。このように、並行二重ダイアフラム構造を採用した基本構造体200の場合、モーメントMy(Mxも同様)が加えられたときに、上下のダイアフラムで逆の応力が作用することになる。これは、図3に示す従来の基本構造部100では見られなかった現象である。
本願発明者は、並行二重ダイアフラム構造を採用することにより、各座標軸方向の感度差が是正される効果が得られるのは、モーメントMy(Mxも同様)が加えられたときに、上下のダイアフラムで逆の応力が作用することが要因になっているのではないかと考えている。ダイアフラムを2枚に増やすと、作用した外力−Fzに対してダイアフラムから加えられる力学的抵抗が2倍になり、Z軸方向の感度が1/2程度に減少することは容易に推察できる。これに対して、作用した外力+My(+Fx)に対してダイアフラムから加えられる力学的抵抗は、上述したように、上下のダイアフラムで逆の応力が作用することに起因して、2倍よりも更に増加することになり、X軸方向の感度は1/2よりも更に減少することになるのではないかと推察できる。
前述したとおり、この基本構造体200は、Z軸に関して回転対称体となっているため、Y軸まわりのモーメントMy(X軸方向の力Fx)に対する感度およびX軸まわりのモーメントMx(Y軸方向の力Fy)に対する感度は同じになる。そこで、これらの感度とZ軸方向の力Fzに対する感度との差が是正されれば、X軸方向の力Fx,Y軸方向の力Fy,Z軸方向の力Fzという外力の3座標軸方向成分に対する感度をほぼ等しく設定することが可能になる(後述、§4参照)。
この並行二重ダイアフラム構造の採用目的は、力Fzに対する感度と力FxもしくはFyに対する感度との差を是正し、両者間の定格荷重値の差を是正することにある。したがって、力覚センサ全体としての感度調整は、ダイアフラムの厚みを増減したり、ダイアフラムの材質を変更したりすることにより対応すればよい(§3−4で述べる実施形態の場合は、架橋構造体の厚み、幅、材質を変更することにより対応できる)。
かくして、本発明によれば、個々の座標軸方向についての検出感度をできるだけ等しくし、個々の座標軸方向についての定格荷重値ができるだけ等しい力覚センサを提供することが可能になる。
<<< §3. 具体的構成例 >>>
続いて、本発明に係る力覚センサのより具体的な構成例をいくつか述べておく。
< 3−1 第1の具体的構成例 >
図9は、本発明に係る力覚センサに用いられる基本構造体の第1の具体的構成例を示す側断面図である。ここに示す基本構造体200Aの全体構造は、実質的に、図4に示す基本構造体200の全体構造と同じであるが、工業製品としてより量産化に適した構造になっている。
すなわち、図4に示す基本構造体200は、筒状部材210、中心部材230、第1の可撓性接続部材221、第2の可撓性接続部材222が相互に連結した一体構造体として構成されているが、このような基本構造体200を、たとえば金属などの材料で一体成形品として量産するのは困難である。そこで、図9に示す基本構造体200Aでは、第1の基本部10と第2の基本部20という2つの部品を組み合わせる構成を採用している。
図示のとおり、上段に配置された第1の基本部10は、Z軸を中心軸として配置された円柱状の第1の中心部231と、同じくZ軸を中心軸として配置された円筒状の第1の筒状部211と、第1の中心部231の下部外周面と第1の筒状部211の上部内周面とを接続するワッシャ状の第1の接続部221(第1のダイアフラム)と、を有する構造体になっている。一方、下段に配置された第2の基本部20は、Z軸を中心軸として配置された円柱状の第2の中心部232と、同じくZ軸を中心軸として配置された円筒状の第2の筒状部212と、第2の中心部232の下部外周面と第2の筒状部212の上部内周面とを接続するワッシャ状の第2の接続部222(第2のダイアフラム)と、を有する構造体になっている。
基本構造体200Aは、第1の基本部10の下方に第2の基本部20を接続することによって構成される。具体的には、第1の中心部231の下端に第2の中心部232の上端が接続されており、第1の筒状部211の下端に第2の筒状部212の上端が接続されている。結局、第1の中心部231および第2の中心部232の接合体が、図4に示す基本構造体200の中心部材230に対応し、第1の筒状部211および第2の筒状部212の接合体が、図4に示す基本構造体200の筒状部材210に対応し、第1の接続部221が、図4に示す基本構造体200の第1の可撓性接続部材221に対応し、第2の接続部222が、図4に示す基本構造体200の第2の可撓性接続部材222に対応することになる。
図9には、支持基板300の上面に、この基本構造体200Aを載置固定した状態が示されている。すなわち、第2の筒状部212の下端が支持基板300の上面に固着されることになり、検出回路400は、支持基板300を固定した状態において、第1の中心部231に作用した力およびモーメントを示す電気信号を出力することになる。
このような構成を採用すれば、第1の基本部10、第2の基本部20、支持基板300という3つの部品を別個に製造し、最後にこれらを組み合わせ、必要箇所を接合することにより、図9に示す構造体を用意することが可能になる。第1の基本部10および第2の基本部20は、一般的な切削加工やエッチング加工によって用意することができるので、量産に適した力覚センサを実現することができる。
各部品の相互接続には、接着剤を用いた接合、溶接、ネジ止めなど、任意の方法を採ることができる。なお、各部品の接合面の密着度が高い場合、図示の空洞部V1,V2の密閉度が高くなり、外部に対する空気の出入りが滞ることになる。空洞部V1,V2が密室状態になると、温度環境の変化により内部の空気が膨張したり収縮したりし、ダイアフラムとして機能する可撓性接続部材221,222の撓み具合に影響を与え、検出結果に外乱が生じることになる。
したがって、各部品間の密着度が高く、空洞部V1,V2の密閉度が高くなるような場合には、ダイアフラムとして機能する可撓性接続部材221,222に、空気抜き孔Hを設けるようにするのが好ましい。図9には、第1のダイアフラム221に空気抜き孔Hを設けた例が示されている。この例の場合、第1の筒状部211の下端面と第2の筒状部212の上端面との間を接着剤などで密閉接続したような場合でも、空気抜き孔Hにより、空洞部V1が密閉空間となることを防止することができる。
第2の筒状部212の下端面と支持基板300の上面との間が密閉接続されている場合は、第2のダイアフラム222にも空気抜き孔Hを設けるようにすればよい。もちろん、その他の箇所に空気抜き孔を設けるようにしてもかまわない。
続いて、この図9に示す基本構造体200Aに、支持基板300および検出素子400を付加することによりセンサ用構造体を構成した実施例を2通り開示しておく。第1の実施例は、検出素子400として、可撓性接続部材221,222の撓みに応じて応力が加わる所定位置に配置された複数のピエゾ抵抗素子を用いた例であり、図10にその側断面図を示す。
図10に示されている基本構造体200A−1は、図9に示す基本構造体200Aおよび支持基板300に、更に、シリコン基板250を付加したものである。図示のとおり、シリコン基板250は、第2の中心部232および第2の可撓性接続部材222の下面に接合された円板状の基板であり、その下面図を図11に示す。図11に示すとおり、シリコン基板250は、Z軸(図では、原点Oの位置として示されている)を中心軸とする円板であり、その下面には、X軸に沿う方向に伸びる一対のピエゾ抵抗素子Px1,Px2と、Y軸に沿う方向に伸びる一対のピエゾ抵抗素子Py1,Py2が形成されている。図には、第2の中心部232の輪郭線の位置が破線で示されている。各ピエゾ抵抗素子Px1,Px2,Py1,Py2は、この第2の中心部232の輪郭線の外側直近に配置されている。これは、この部分に生じる応力が最も大きくなるためである。
このような力覚センサにおいて、図7に示すような力−Fzが作用すると、第2の可撓性接続部材222の各部には、伸張応力f0が作用することになるので、図11に示されている各ピエゾ抵抗素子Px1,Px2,Py1,Py2は、いずれも長手方向に引き伸ばされて抵抗値が増加する。そこで、このような抵抗値変化パターンをブリッジ回路などで検出することにより、力−Fzを検出することが可能になる。
一方、図8に示すようなモーメント+Myが作用すると、第2の可撓性接続部材222の右側部分222Rには伸張応力が加わり、左側部分には圧縮応力が加わる。そのため、ピエゾ抵抗素子Px1の抵抗値は増加し、Px2の抵抗値は減少する。ピエゾ抵抗素子Py1,Py2の抵抗値には有意な変化は生じない。そこで、このような抵抗値変化パターンをブリッジ回路などで検出することにより、モーメント+Myを検出することが可能になる。同様に、モーメント+Mxが加わった場合は、ピエゾ抵抗素子Py1,Py2の抵抗値に増減変化が生じることになる。
このように、検出素子400として複数のピエゾ抵抗素子を用い、各座標軸方向の外力成分を検出するための方法は、たとえば、前掲の特許文献10等に開示されている公知事項であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
図9に示す基本構造体200Aおよび支持基板300に検出素子400を付加することにより構成されたセンサ用構造体の第2の実施例は、検出素子400として、容量素子を付加した例である。この第2の実施例では、可撓性接続部材221,222の撓みに応じて変位する所定位置に配置された変位電極と、可撓性接続部材221,222の撓みにかかわらず変位が生じない所定位置に配置された固定電極と、を対向電極とする複数の容量素子が検出素子400として用いられる。図12は、この第2の実施例に係るセンサ用構造体200A−2の側断面図である。このセンサ用構造体200A−2は、図9に示す基本構造体200Aに、5枚の電極形成用絶縁板261,262,263,264,265を付加したものである。個々の電極形成用絶縁板には、それぞれ所定位置に電極が形成されている。
第1の電極形成用絶縁板261は、第1の可撓性接続部材221の下面に固着されたワッシャ状の絶縁板であり、中心の円形開口部には第2の中心部232が挿通し、下面には4枚の電極が形成されている。図12に示されている電極Ex11,Ex12は、この4枚の電極のうち、X軸に沿って配置された2枚である。残りの2枚の電極Ey11,Ey12は、Y軸に沿って配置されている(図12には、現れていない)。第1の電極形成用絶縁板261は、第1の可撓性接続部材(ダイアフラム)221の撓みに応じて撓みを生じるため、その下面に形成された4枚の電極Ex11,Ex12,Ey11,Ey12は、外力の作用に応じて変位を生じる変位電極ということになる。
第2の電極形成用絶縁板262も、ワッシャ状の絶縁板であり、中心の円形開口部には第2の中心部232が挿通している。ただ、その外周面は第1の筒状部211の内周面に接合されており、第1の筒状部211によってのみ支持されている。したがって、2枚のダイアフラム221,222に撓みが生じても、常に定位置に固定された状態になる。
第2の電極形成用絶縁板262の上面には4枚の電極が形成され、下面にも4枚の電極が形成されている。図12に示されている電極Ex21,Ex22は、上面に形成された4枚の電極のうち、X軸に沿って配置された2枚である。残りの2枚の電極Ey21,Ey22は、Y軸に沿って配置されている(図12には、現れていない)。同様に、図12に示されている電極Ex31,Ex32は、下面に形成された4枚の電極のうち、X軸に沿って配置された2枚である。残りの2枚の電極Ey31,Ey32は、Y軸に沿って配置されている(図12には、現れていない)。上述したとおり、第2の電極形成用絶縁板262は、常に定位置に固定された状態になるため、その上面に形成された4枚の電極Ex21,Ex22,Ey21,Ey22および下面に形成された4枚の電極Ex31,Ex32,Ey31,Ey32は、外力が作用しても変位を生じない固定電極ということになる。
第3の電極形成用絶縁板263は、第2の可撓性接続部材222の上面に固着されたワッシャ状の絶縁板であり、中心の円形開口部には第2の中心部232が挿通し、上面には4枚の電極が形成されている。図12に示されている電極Ex41,Ex42は、この4枚の電極のうち、X軸に沿って配置された2枚である。残りの2枚の電極Ey41,Ey42は、Y軸に沿って配置されている(図12には、現れていない)。第3の電極形成用絶縁板263は、第2の可撓性接続部材(ダイアフラム)222の撓みに応じて撓みを生じるため、その上面に形成された4枚の電極Ex41,Ex42,Ey41,Ey42は、外力の作用に応じて変位を生じる変位電極ということになる。
第4の電極形成用絶縁板264は、第2の可撓性接続部材222の下面に固着された円板状の絶縁板であり、下面には5枚の電極が形成されている。図12に示されている電極E50は、この5枚の電極のうち、中央部に配置された電極であり、Ex51,Ex52は、X軸に沿って配置された2枚である。残りの2枚の電極Ey51,Ey52は、Y軸に沿って配置されている(図12には、現れていない)。第4の電極形成用絶縁板264は、第2の可撓性接続部材(ダイアフラム)222の撓みに応じて撓みを生じるため、その下面に形成された5枚の電極E50,Ex51,Ex52,Ey51,Ey52は、外力の作用に応じて変位を生じる変位電極ということになる。
第5の電極形成用絶縁板265は、支持基板300の上面に固着された肉厚円板状の絶縁板であり、上面には5枚の電極が形成されている。図12に示されている電極E60は、この5枚の電極のうち、中央部に配置された電極であり、Ex61,Ex62は、X軸に沿って配置された2枚である。残りの2枚の電極Ey61,Ey62は、Y軸に沿って配置されている(図12には、現れていない)。第5の電極形成用絶縁板265は、2枚のダイアフラム221,222に撓みが生じても、常に定位置に固定された状態になるので、その上面に形成された5枚の電極E60,Ex61,Ex62,Ey61,Ey62は、外力が作用しても変位を生じない固定電極ということになる。
なお、ダイアフラム221,222に固着して用いられる電極形成用絶縁板261,263,264(変位電極を支持する絶縁板)は、ダイアフラム221,222の撓みとともに撓む必要があるため、FPC基板のような柔軟な基板を用いて構成するのが好ましい。これに対して、固定電極を支持するための電極形成用絶縁板262,265については、ガラスエポキシ基板などの固い基板を用いて構成すればよい。
図13は、図12に示すセンサ用構造体200A−2から、第1の基本部10およびこれに固着されている電極形成用絶縁板261,262を取り外した状態を示す上面図である(ハッチングは各電極の形状を示すためのものであり、断面を示すものではない)。図に破線で示す円は、第1の筒状部211が配置される位置を示している。上述したとおり、ワッシャ状の電極形成用絶縁板263は、第2の可撓性接続部材222の上面に固着されており、中心の円形開口部には第2の中心部232が挿通している。そして、その上面には、4枚の扇形電極Ex41,Ex42,Ey41,Ey42が形成されている。
ワッシャ状の電極形成用絶縁板261の下面に形成されている4枚の電極Ex11,Ex12,Ey11,Ey12の形状および配置、ワッシャ状の電極形成用絶縁板262の上面に形成されている4枚の電極Ex21,Ex22,Ey21,Ey22の形状および配置、ワッシャ状の電極形成用絶縁板262の下面に形成されている4枚の電極Ex31,Ex32,Ey31,Ey32の形状および配置は、いずれも図13に示す4枚の扇形電極Ex41,Ex42,Ey41,Ey42の形状および配置と同様である。
図14は、図12に示すセンサ用構造体200A−2から、第1の基本部10および第2の基本部20を取り外した状態を示す上面図である(ハッチングは各電極の形状を示すためのものであり、断面を示すものではない)。図に破線で示す円は、第2の筒状部212が配置される位置を示している。図示のとおり、支持基板300の上面には、肉厚円板状の電極形成用絶縁板265が固定されており、その上面には、中心部に円形電極E60が形成されており、その周囲に4枚の扇形電極Ex61,Ex62,Ey61,Ey62が形成されている。
第2の可撓性接続部材222の下面に固着された円板状の電極形成用絶縁板264の下面に形成されている5枚の電極E50,Ex51,Ex52,Ey51,Ey52の形状および配置は、図14に示す5枚の電極E60,Ex61,Ex62,Ey61,Ey62の形状および配置と同様である。
結局、図12に示すセンサ用構造体200A−2の場合、第1の電極形成用絶縁板261の下面に形成された4枚の変位電極と第2の電極形成用絶縁板262の上面に形成された4枚の固定電極とがそれぞれ対向して、合計4組の容量素子が形成されている。また、第2の電極形成用絶縁板262の下面に形成された4枚の固定電極と第3の電極形成用絶縁板263の上面に形成された4枚の変位電極とがそれぞれ対向して、合計4組の容量素子が形成されている。更に、第4の電極形成用絶縁板264の下面に形成された5枚の変位電極と第5の電極形成用絶縁板265の上面に形成された5枚の固定電極とがそれぞれ対向して、合計5組の容量素子が形成されている。
こうして形成された容量素子は、いずれも一方が固定電極、他方が変位電極によって構成されているため、ダイアフラム221,222に撓みが生じて、変位電極の位置が変わると、電極間距離が増減することになり、静電容量値が増減することになる。したがって、個々の容量素子の静電容量値の増減を検出回路500によって検出することにより、各座標軸方向に作用した外力を電気信号として出力することができる。
たとえば、図12に示すセンサ用構造体200A−2において、図7に示すような力−Fzが作用すると、電極Ex11・Ex21間の距離、電極Ex12・Ex22間の距離、電極E50・E60間の距離等は減少し、これらから構成される容量素子の静電容量値は増加するが、電極Ex31・Ex41間の距離、電極Ex32・Ex42間の距離等は増加し、これらから構成される容量素子の静電容量値は減少する。そこで、このような容量値変化パターンを電子回路で検出することにより、力−Fzを検出することが可能になる。
一方、図8に示すようなモーメント+Myが作用すると、電極Ex11・Ex21間の距離、電極Ex51・Ex61間の距離、電極Ex32・Ex42間の距離等は減少し、これらから構成される容量素子の静電容量値は増加するが、電極Ex12・Ex22間の距離、電極Ex52・Ex62間の距離、電極Ex31・Ex41間の距離等は増加し、これらから構成される容量素子の静電容量値は減少する。そこで、このような容量値変化パターンを電子回路で検出することにより、モーメント+Myを検出することが可能になる。同様に、Y軸に沿って配置された電極から構成される各容量素子の容量値変化パターンを電子回路で検出することにより、モーメント+Mxを検出することが可能になる。
なお、複数の容量素子の一方の電極を1枚の共通電極とすることも可能である。この場合、ダイアフラム221,222が金属により構成されているため、電極形成用絶縁板やその表面に形成される個別の電極を設けずに、ダイアフラム221,222自身を共通電極として利用することもできる。
このように、検出素子400として複数の容量素子を用い、各座標軸方向の外力成分を検出するための方法は、たとえば、前掲の特許文献1,2等に開示されている公知事項であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
< 3−2 第2の具体的構成例 >
図15(a) は、本発明に係る力覚センサに用いられる基本構造体の第2の具体的構成例を示す側断面図、図15(b) は、その上面図である。ここに示す基本構造体200Bは、実は、図9に示す基本構造体200Aと全く同じものである(但し、空気抜き孔Hは省略されている)。したがって、この基本構造体200Bも、第1の基本部10と第2の基本部20という2つの部品を組み合わせることにより構成されている。ただ、図示のとおり、基本構造体200Aを天地逆の向きにして配置したものであるため、ここでは、便宜上、別な符号を用いた基本構造体200Bとして示してある。
この図15に示す実施例の場合、支持基板350の上面に、基本構造体200B(図9に示す基本構造体200Aを天地逆にしたもの)を接続して用いることになる。具体的には、支持基板350の上面中央部に、基本構造体200Bの第1の中心部231の端面が固着される。もちろん、力覚センサは、この基本構造体200Bおよび支持基板350に、更に、検出装置400および検出回路500を付加することにより構成される。この場合、検出回路500は、支持基板350を固定した状態において、基本構造体200Bの第2の筒状部212に作用した力およびモーメントを示す電気信号を出力することになる。
図16(a) は、図15に示す基本構造体200Bおよび支持基板350に、検出素子400として容量素子を付加することにより構成されたセンサ用構造体200B−1を示す側断面図である。具体的には、図示のとおり、容量素子を形成するために電極形成用絶縁板270,280が付加されている。電極形成用絶縁板270は、第1の可撓性接続部材221の下面に固着されたワッシャ状の絶縁板であり、中心の円形開口部には第1の中心部231が挿通し、下面には5枚の電極が形成されている。
図16に示されている電極E70は、この5枚の電極のうち、周囲部に配置された円環状の電極であり、Ex71,Ex72は、X軸に沿って配置された2枚である。残りの2枚の電極Ey71,Ey72は、Y軸に沿って配置されている(図16には、現れていない)。電極形成用絶縁板270は、第1の可撓性接続部材(ダイアフラム)221の撓みに応じて撓みを生じるため、その下面に形成された5枚の電極E70,Ex71,Ex72,Ey71,Ey72は、外力の作用に応じて変位を生じる変位電極ということになる。
一方、電極形成用絶縁板280は、支持基板350の上面に固着された肉厚ワッシャ状の絶縁板であり、中心の円形開口部には第1の中心部231が挿通し、上面には5枚の電極が形成されている。図16に示されている電極E80は、この5枚の電極のうち、周囲部に配置された円環状の電極であり、Ex81,Ex82は、X軸に沿って配置された2枚である。残りの2枚の電極Ey81,Ey82は、Y軸に沿って配置されている(図16には、現れていない)。電極形成用絶縁板280は、2枚のダイアフラム221,222に撓みが生じても、常に定位置に固定された状態になるので、その上面に形成された5枚の電極E80,Ex81,Ex82,Ey81,Ey82は、外力が作用しても変位を生じない固定電極ということになる。
図16(b) は、電極形成用絶縁板280の上面図である(図16(b) におけるハッチングは各電極の形状を示すためのものであり、断面を示すものではない)。上述したとおり、電極形成用絶縁板280は、肉厚ワッシャ状の絶縁板であり、中心の円形開口部には第1の中心部231が挿通する。そして、上面の周囲部には、円環状の電極E80が形成され、その内側には、4枚の扇形電極Ex81,Ex82,Ey81,Ey82が形成されている。
一方、ワッシャ状の電極形成用絶縁板270の下面に形成されている5枚の電極E70,Ex71,Ex72,Ey71,Ey72の形状および配置は、図16(b) に示す5枚の電極E80,Ex81,Ex82,Ey81,Ey82の形状および配置と同様である。
結局、図16に示すセンサ用構造体200B−1の場合、電極形成用絶縁板270の下面に形成された5枚の変位電極と電極形成用絶縁板280の上面に形成された5枚の固定電極とがそれぞれ対向して、合計5組の容量素子が形成されている。これらの容量素子は、いずれも一方が固定電極、他方が変位電極によって構成されているため、ダイアフラム221,222に撓みが生じて、変位電極の位置が変わると、電極間距離が増減することになり、静電容量値が増減することになる。したがって、個々の容量素子の静電容量値の増減を検出回路500によって検出することにより、各座標軸方向に作用した外力を電気信号として出力することができる。
たとえば、図16に示すセンサ用構造体200B−1において、図7に示すような力−Fzが作用すると、円環状の電極E70・E80間の距離は減少し、これらから構成される容量素子の静電容量値は増加する。逆に、上方向の力+Fzが作用すると、円環状の電極E70・E80間の距離は増加し、これらから構成される容量素子の静電容量値は減少する。したがって、対向する電極E70・E80によって構成される容量素子の静電容量値の変化により、Z軸方向の力の向きおよび大きさを検出することができる。
一方、図8に示すようなモーメント+Myが作用すると、電極Ex71・Ex81間の距離は減少し、これらから構成される容量素子の静電容量値は増加するが、電極Ex72・Ex82間の距離は増加し、これらから構成される容量素子の静電容量値は減少する。また、逆まわりのモーメント−Myが作用すると、電極Ex71・Ex81間の距離は増加し、これらから構成される容量素子の静電容量値は減少するが、電極Ex72・Ex82間の距離は減少し、これらから構成される容量素子の静電容量値は増加する。
したがって、検出回路500によって、対向する電極Ex71・Ex81から構成される容量素子の静電容量値と、対向する電極Ex72・Ex82から構成される容量素子の静電容量値との差を求めれば、Y軸まわりのモーメントMyの向きおよび大きさを検出することができる。同様に、対向する電極Ey71・Ey81から構成される容量素子の静電容量値と、対向する電極Ey72・Ey82から構成される容量素子の静電容量値との差を求めれば、X軸まわりのモーメントMxの向きおよび大きさを検出することができる。
一方、図17は、図15に示す基本構造体200Bに、検出素子400としてピエゾ抵抗素子を付加することにより構成されたセンサ用構造体200B−2を示す側断面図である。図16に示すセンサ用構造体200B−1と図17に示すセンサ用構造体200B−2との第1の相違点は、前者における電極形成用絶縁板270,280および各電極の代わりに、後者ではシリコン基板250および4組のピエゾ抵抗素子Px1,Px2,Py1,Py2が用いられている点である。シリコン基板250は、図10に示したセンサ用構造体200A−1に利用されていたものと全く同じであり、4組のピエゾ抵抗素子Px1,Px2,Py1,Py2の配置は、図11に示すとおりである。また、外力の検出原理も、図10に示したセンサ用構造体200A−1を利用した力覚センサと全く同様である。
図16に示すセンサ用構造体200B−1と図17に示すセンサ用構造体200B−2との第2の相違点は、後者には、外力に基づいて生じる変位を所定範囲内に制限するための制御構造が設けられている点である。すなわち、図17に示すセンサ用構造体200B−2では、支持基板361の上面外周部に筒状制御部材362が接合されており、支持基板361と筒状制御部材362とによって支持筐体360が構成されている。この支持筐体360は、基本構造体200Bの下方部分を収容する容器を構成しており、筒状制御部材362は、基本構造体200Bの上方部分の変位を制御する機能を果たす。
そのため、基本構造体200Bの第2の筒状部212の外周面には、外方に突き出したフランジ部212Fが設けられており、筒状制御部材362の上端面とフランジ部212Fの下面との間に第1の空隙部ε1が設けられており、筒状制御部材362の内周面と第2の筒状部212の外周面との間に第2の空隙部ε2が設けられている。これら空隙部ε1,ε2の寸法を適切な値に設定すれば、第2の筒状部212の支持筐体360に対する変位を、空隙部ε1,ε2の寸法に応じた範囲内に制御することができる。
ダイアフラムとして機能する第1の可撓性接続部材221および第2の可撓性接続部材222は、その弾性変形領域で撓みを生じていれば問題ないが、過度の外力が作用して、弾性変形領域を越える変形が生じてしまうと、それ以後、正確な外力検出を行うことはできなくなり、場合によっては、亀裂が生じて破損する可能性もある。図17に示すセンサ用構造体200B−2の場合、過度の外力が作用しても、第2の筒状部212の外周面やフランジ部212Fの下面が、筒状制御部材362に接触した時点で、それ以上の変位が制限されるため、空隙部ε1,ε2の寸法を適切な値に設定しておけば、可撓性接続部材221,222の変形をその弾性変形領域内に抑えることができる。
具体的には、図の下方へ過度の外力−Fzが加わった場合、フランジ部212Fの下面が、筒状制御部材362の上面に接触することにより(空隙部ε1の寸法が0になる)過度の変位は制御される。同様に、過度のモーメント+My,−My,+Mx,−Mxが加わった場合、第2の筒状部212の外周面が筒状制御部材362の内周面に接触することにより(空隙部ε2の寸法が0になる)過度の変位は制御される。
なお、この図17に示す実施例の場合、図の上方への過度の外力+Fzや、Z軸まわりの過度のモーメントMzに対しては、制御を行うことはできないが、必要なら、これらの力に対しても変位を制御するための制御構造を設けるようにすればよい。
< 3−3 第3の具体的構成例 >
図18は、本発明に係る力覚センサに用いられる基本構造体の第3の具体的構成例を示す側断面図である。ここに示されている基本構造体200Cも、第1の基本部10Cと第2の基本部20Cという2つの部品を組み合わせる構成を採用しており、量産化に適した構造を有している。
図示のとおり、上段に配置された第1の基本部10Cは、Z軸を中心軸として配置された円柱状の第1の中心部231Cと、同じくZ軸を中心軸として配置された円筒状の第1の筒状部211Cと、第1の中心部231Cの上部外周面と第1の筒状部211Cの上部内周面とを接続するワッシャ状の第1の接続部221C(第1のダイアフラム)と、を有する構造体になっている。一方、下段に配置された第2の基本部20Cは、Z軸を中心軸として配置された円柱状の第2の中心部232Cと、同じくZ軸を中心軸として配置された円筒状の第2の筒状部212Cと、第2の中心部232Cの上部外周面と第2の筒状部212Cの上部内周面とを接続するワッシャ状の第2の接続部222C(第2のダイアフラム)と、を有する構造体になっている。
基本構造体200Cは、第1の基本部10Cの下方に第2の基本部20Cを接続することによって構成される。具体的には、第1の中心部231Cの下端に第2の中心部232Cの上端が接続されており、第1の筒状部211Cの下端に第2の筒状部212Cの上端が接続されている。結局、第1の中心部231Cおよび第2の中心部232Cの接合体が、図4に示す基本構造体200の中心部材230に対応し、第1の筒状部211Cおよび第2の筒状部212Cの接合体が、図4に示す基本構造体200の筒状部材210に対応し、第1の接続部221Cが、図4に示す基本構造体200の第1の可撓性接続部材221に対応し、第2の接続部222Cが、図4に示す基本構造体200の第2の可撓性接続部材222に対応することになる。
図18には、この基本構造体200Cを支持基板370の上面に固着して利用する状態が示されている。そのため、第2の中心部232Cの下端が第2の筒状部212Cの下端よりも下方へ突出する構造になっており、支持基板370の上面中央部に、第2の中心部232Cの下端が固着され、第2の筒状部212Cの下端は、支持基板370の上面から若干浮いた状態になる。
第2の筒状部212Cの下端と支持基板370の上面との距離を図のように空隙寸法dと定義すれば、第2の筒状部212C(および第1の筒状部211C)は、図の下方に空隙寸法dの範囲内で変位することができる。したがって、この基本構造体200Cを利用した力覚センサでは、検出回路500が、支持基板370を固定した状態において、第1の筒状部211Cに作用した力およびモーメントを示す電気信号を出力することができる。具体的には、図に示されている作用点Q1,Q2に加えられた外力の各座標軸成分を検出することができる。
この基本構造体200Cを利用して力覚センサを構成する場合も、検出素子400としては、これまで述べてきたピエゾ抵抗素子や容量素子を用いることができる。したがって、検出素子400の具体的な構成例や検出回路500による具体的な検出方法についての説明は省略する。
< 3−4 第4の具体的構成例 >
これまで述べてきた実施例は、いずれも膜状のダイアフラムを可撓性接続部材として用いているが、本発明に係る力覚センサに用いる基本構造体の可撓性接続部材は、必ずしもダイアフラム構造を有している必要はない。すなわち、第1の可撓性接続部材は、第1の座標値Z1を用いたZ=Z1なる式で表される第1の接続平面S1に沿って中心部材と筒状部材とを接続する可撓性をもった部材であれば、必ずしもダイアフラムによって構成する必要はない。同様に、第2の可撓性接続部材は、第2の座標値Z2を用いたZ=Z2なる式で表される第2の接続平面S2に沿って中心部材と筒状部材とを接続する可撓性をもった部材であれば、必ずしもダイアフラムによって構成する必要はない。
たとえば、第1の可撓性接続部材および第2の可撓性接続部材を、それぞれ中心部材の外周面の所定箇所と筒状部材の内周面の所定箇所とを接続する複数本の架橋構造体(ビーム構造体)によって構成することも可能である。ここでは、第1の可撓性接続部材を、第1の接続平面S1上で直交する2軸に沿って配置された4本の架橋構造体によって構成し、第2の可撓性接続部材を、第2の接続平面上で直交する2軸に沿って配置された4本の架橋構造体によって構成した実施例を、図19を参照しながら説明する。
図19は、この第4の具体的構成例に係る基本構造体200Dの上面図である。Z軸(原点Oにおいて紙面に直交する軸)を中心軸として配置された円筒状の筒状部材210と、同じくZ軸を中心軸として配置された円柱状の中心部材230を有している点は、図4に示す基本構造体200と同じであるが、筒状部材210と中心部材230とを接続する第1の可撓性接続部材として、図示のとおり、4本の可撓性を有する架橋構造体291〜294が用いられている。
図示のとおり、架橋構造体291はX軸正領域に沿って配置され、架橋構造体292はX軸負領域に沿って配置され、架橋構造体293はY軸正領域に沿って配置され、架橋構造体294はY軸負領域に沿って配置されており、平面的には十文字を構成している。図19は上面図であるため、第1の可撓性接続部材(第1の接続平面S1に沿って配置される部材)を構成する4本の架橋構造体291〜294のみが示されているが、それぞれの奥には、第2の可撓性接続部材(第2の接続平面S2に沿って配置される部材)を構成する4本の架橋構造体が配置されている。
この図19に示す基本構造体200Dの側断面図は、図4(a) に示す側断面図と全く同じになる。ただ、第1の可撓性接続部材221が、図4に示す基本構造体200では1枚のワッシャ状ダイアフラムによって構成されていたのに対して、図19に示す基本構造体200Dでは4本の架橋構造体291〜294によって構成されることになる(図4の可撓性接続部材221の断面が、X軸に沿って配置された架橋構造体291,292の断面になる)。同様に、第2の可撓性接続部材222も、図4に示す基本構造体200では1枚のワッシャ状ダイアフラムによって構成されていたのに対して、図19に示す基本構造体200Dでは4本の架橋構造体によって構成されることになる(図4の可撓性接続部材222の断面が、X軸に沿って配置された架橋構造体の断面になる)。
基本構造体200Dに用いられている8本の架橋構造体は、いずれも厚み(Z軸方向の寸法)が1mmに満たない金属製のビームによって構成され、ダイアフラムと同様に可撓性を有している。したがって、基本構造体200Dの構造的な特性は、図4に示す基本構造体200の構造的な特性と同様であり、中心部材230および筒状部材210の一方を固定した状態において他方に外力が作用すると、8本の架橋構造体が撓みを生じる。
この基本構造体200Dを用いて力覚センサを構成する場合も、8本の架橋構造体の一部もしくは全部についての撓みを検出する検出素子と、その検出結果に基づいて外力の各座標軸方向成分を電気信号として出力する検出回路とを設ける点は、これまで述べてきた実施例と全く同様である。したがって、検出素子の具体的な構成例や検出回路による具体的な検出方法についての説明は省略する。
< 3−5 その他の構成例 >
以上、本発明に係る力覚センサおよび当該力覚センサに用いる基本構造体をいくつかの実施例について述べたが、もちろん、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明の基本概念は、§2で述べたとおりであり、中心部材と筒状部材との間を、それぞれ異なる位置で接続する2組の可撓性接続部材を設ける構造をもった基本構造体であれば、この他にも様々な態様のものを利用可能である。
たとえば、§3では、基本構造体200を、第1の基本部10,10Cと、第2の基本部20,20Cとを組み合わせることにより構成しているが、第1の基本部や第2の基本部の形状や構造は、図示した実施例に限定されるものではない。もちろん、3組以上の部品によって基本構造体200を構成することも可能である。
また、図10に示すセンサ用構造体200A−1では、検出素子によって第2の可撓性接続部材(ダイアフラム)222の撓みを検出する構成を採用し、図16に示すセンサ用構造体200B−1では、検出素子によって第1の可撓性接続部材(ダイアフラム)221の撓みを検出する構成を採用し、図17に示すセンサ用構造体200B−2では、検出素子によって第2の可撓性接続部材(ダイアフラム)222の撓みを検出する構成を採用している。その一方で、図12に示すセンサ用構造体200A−2では、検出素子によって、第1の可撓性接続部材(ダイアフラム)221の撓みと第2の可撓性接続部材(ダイアフラム)222の撓みの双方を検出する構成を採用している。
このように、本発明に係る力覚センサでは、検出素子によって、第1の可撓性接続部材および第2の可撓性接続部材の少なくとも一方の撓みを検出するようにすればよい。図12に示すセンサ用構造体200A−2の場合、合計18組もの容量素子を用いて、18カ所の変位の検出情報が得られる。そのため、検出回路は、この18組の検出情報に基づく演算処理を行って、作用した外力の各座標軸方向成分をより正確に検出することが可能になるが、それほど高精度の検出結果が必要ない場合には、18組もの容量素子を設ける必要はない。すなわち、電極形成用絶縁板261の下面と262の上面に形成された電極からなる容量素子群、電極形成用絶縁板262の下面と263の上面に形成された電極からなる容量素子群、電極形成用絶縁板264の下面と265の上面に形成された電極からなる容量素子群、のうち、必要に応じて、いずれか1群、または、いずれか2群、または全3群を用いて力覚センサを構成することができる。
可撓性接続部材の撓み(各部の変位)を検出する検出素子として、これまで、可撓性接続部材の撓みに応じて応力が加わる所定位置に配置された複数のピエゾ抵抗素子を用いる例や、可撓性接続部材の撓みに応じて変位する所定位置に配置された変位電極と、可撓性接続部材の撓みにかかわらず変位が生じない所定位置に配置された固定電極と、を対向電極とする複数の容量素子を用いる例を述べてきたが、もちろん、これ以外の検出素子を用いてもかまわない。たとえば、前掲の特許文献1には、圧電素子を検出素子として利用した例が示されている。あるいは、可撓性接続部材の表面に貼り付けたストレーンゲージを検出素子として利用することも可能である。
<<< §4. 従来装置との対比実験 >>>
本発明の重要な効果は、各座標軸方向の感度差を是正し、各座標軸方向の定格荷重値をできるだけ等しくする点にある。特に、これまで述べてきた実施例の場合、Z軸方向の力Fzに対する感度と、X軸方向の力Fx(実際には、Y軸まわりのモーメントMyとして作用する)もしくはY軸方向の力Fy(実際には、X軸まわりのモーメントMxとして作用する)に対する感度との差を大幅に削減することが可能である。そこで、ここでは、本発明に係る力覚センサの変位特性を従来の力覚センサの変位特性と対比し、感度差の効果的な是正が行われる事実を実験データとして示しておく。
ここで示す対比実験は、図18に示すように、支持基板370上に取り付けられた基本構造体200C(本発明に係る力覚センサに利用される構造体)と、図20に示すように、支持基板148上に取り付けられた基本構造体100C(従来の力覚センサに利用される構造体)と、について実施したものである。
図20に示す基本構造体100Cは、円筒状の筒状部材118と円柱状の中心部材138とをワッシャ状の可撓性接続部材(ダイアフラム)128によって接続した構造体であり、中心部材138の下端が支持基板148の上面中央部に固着されている。これに対して、図18に示す基本構造体200Cは、§3−4で述べたとおりの構造を有し、第2の中心部232Cの下端は支持基板370の上面中央部に固着されている。
図18に示す基本構造体200Cにおける第1の筒状部211Cと第2の筒状部212Cの接合体、および第1の中心部231Cと第2の中心部232Cの接合体を、それぞれ図20に示す基本構造体100Cにおける筒状部材118および中心部材138と考えれば、両者の実質的な相違は、後者では、1枚のダイアフラム128しか用いられていないのに対して、前者では、互いに平行な2枚のダイアフラム221C,222Cが用いられている点のみである。したがって、両者の変位特性を比較すれば、1枚のダイアフラムの代わりに平行な2枚のダイアフラムを用いることにより得られる効果が確認できる。
なお、参考までに、実験に用いた2つの基本構造体の各主要部の寸法を示すと、図20に示す基本構造体100Cについては、ダイアフラム128の厚みが0.7mm、円柱部材138の直径が5mm、筒状部材118の直径が20mm、筒状部材118の高さが10mmであり、図18に示す基本構造体200Cについては、ダイアフラム221C,222Cの厚みがいずれも0.25mm、第1の中心部231Cおよび第2の中心部232Cの直径がいずれも5mm、第1の筒状部211Cおよび第2の筒状部212Cの直径が20mm、これら両筒状部の211C,212Cの合計高さが10mmである。いずれも構成材料としては、アルミニウムを使用した。
図21(a) は、図20に示す従来の基本構造体100Cについての実験により得られた変位特性を示すグラフであり、図21(b) は、図18に示す本発明の基本構造体200Cについての実験により得られた変位特性を示すグラフである。いずれの場合も、グラフFzは、図18,図20に示されている作用点Q1,Q2に図の下方向への力−Fzを加えたときの平均変位量Δdを示している。一方、グラフMyは、図18,図20に示されている作用点Q1には上方へ引っ張る力、作用点Q2には下方へ押圧する力を加えたとき(すなわち、モーメントMyを作用させたとき)の平均変位量Δdを示している。またグラフMxは、同様の方法により(作用点の位置は異なる)、モーメントMxを作用させたときの平均変位量Δdを示している。
ここで、平均変位量Δd(単位μm)とは、図18に示す基本構造体200Cの場合、第2の筒状部212Cの下面の外周位置と支持基板370の上面との距離(空隙寸法d)の変動量の絶対値の平均値を指し、図20に示す基本構造体100Cの場合、筒状部材118の下面の外周位置と支持基板148の上面との距離(空隙寸法d)の変動量の絶対値の平均値を指す。外力が作用していない状態では、空隙寸法dは、いずれの箇所でも同じであるが、外力の作用によりダイアフラムに撓みが生じると、空隙寸法dは位置によって増減する。平均変位量Δdは、この増減量の平均値を示すことになり、ダイアフラムに生じた撓みの程度を示すパラメータとして利用することができる。
なお、グラフの横軸の単位は、力Fzについては「N」、モーメントMx,Myについては「N・m」となっている。本来、力とモーメントは、別な物理量であり、両者を直接的に比較することはできないが、ここでは、便宜上、外力が加わる作用点Qとモーメントの回転中心(原点O)との距離を、上述した各部の寸法値を考慮して10mmに設定し、100Nの力が1N・mのモーメントに対応するものとして、グラフFzとグラフMx,Myの横軸のスケーリングを行い、横軸を共通軸として設定した。力Fzについてのグラフの右目盛の最大値100Nは、これら各基本構造体の力Fzについて設定した定格荷重値であり、モーメントMx,Myについてのグラフの右目盛の最大値1N・mは、これら各基本構造体のモーメントMx,Myについて設定した定格荷重値である。
したがって、作用点Q1,Q2に50Nずつの下方への押圧力を加えて、合計100Nの押圧力−Fzを加えると、力の定格荷重値に達することになる。また、上述したとおり、ここでは、作用点Q1,Q2と原点Oとの距離をそれぞれ10mm(0.01m)に設定したスケーリングを行っているため、、作用点Q1に50Nの上方への引っ張り力、作用点Q2に50Nの下方への押圧力を加えて、合計100Nの力を作用させると、100N×0.01m=1N・mになるので、モーメントの定格荷重値に達することになる。
結果は、図21(a) に示すグラフと図21(b) に示すグラフとを対比すれば一目瞭然である。図21(a) に示す従来の基本構造体100Cについての結果を見ると、モーメントMx,Myが作用したときの平均変位量Δdと、力Fzが作用したときの平均変位量Δdとを同じ横軸位置で比べると、前者に対して後者は著しく低いことがわかる。これは、力Fzに対する感度が、モーメントMx,Myに対する感度よりも著しく低いことを意味する。実際、定格荷重値における平均変位量Δdの差は、31÷6=5.2倍もの値になっている。
別言すれば、モーメントMx,Myについては、1N・mが適切な定格荷重値であるのに対して、力Fzについての100Nは、ここでは便宜上、定格荷重値に設定しているが、この値は適切な定格荷重値にはなっていない。すなわち、本来、力Fzについて設定すべき適切な定格荷重値は、平均変位量Δdが31μmに達するまでグラフFzを右方へ延長したときの値ということになる。ただ、市販製品として、個々の座標軸ごとに異なる定格荷重値を設定した製品を提供することは好ましくないので、実用上は、最も低い定格荷重値に合わせて、製品としての定格荷重値を設定しているのが実情である。
もちろん、製品としての定格荷重値をより大きく設定したい場合には、ダイアフラムの厚みを増加させて撓みにくくするような設計を行えばよい。ただ、そのような設計変更を行ったとしても、図21(a) に示すグラフMx,My,Fzの傾斜を全体的に変える効果しかなく、グラフMx,Myの傾斜とグラフFzの傾斜との差、すなわち両者の感度差は是正されない。これは、モーメントMx,Myについての測定には、基本構造体100Cの構造上、最適な変位レンジが利用されるのに対して、力Fzについての測定には、当該最適な変位レンジが有効に利用されないことを意味し、検出精度の低下を招くことになる。
これに対して、図21(b) に示す本発明の基本構造体200Cについての結果を見ると、グラフFzの傾斜がグラフMx,Myの傾斜にかなり近づいていることがわかる。実際、定格荷重値における平均変位量Δdの差は、22÷20=1.1倍に是正されている。両者は完全一致の状態には至ってないが、実用上、各座標軸方向に関する感度差はほぼ是正された状態になっている。したがって、グラフの右目盛の最大値100Nもしくは1N・mを、この製品としての定格荷重値に設定した場合、いずれの座標軸方向に関する測定も、基本構造体200Cの構造上、最適な変位レンジを利用した測定になり、良好な検出精度を確保することが可能になる。この実験により、本発明の有効性が明らかになった。