以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
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図1は、本発明の一実施形態に係る加速度センサAS(Acceleration Sensorの略)の構成を示す斜視図およびブロック図である。ここで述べる実施形態は、加速度の検出に圧電素子を用いた実施形態である。本発明を実施する上で、加速度の検出に用いる検出素子は、圧電素子に限定されるものではなく、たとえば、ピエゾ抵抗素子等を用いることも可能である(§6参照)。ただ、説明の便宜上、§1〜§4では、圧電素子を用いた実施形態を例にとって本発明の説明を行うことにする。
図1の斜視図の部分に示されているように、この加速度センサASは、第1層100、第2層200、第3層300を積層した3層構造体を有する。図1の斜視図では、説明の便宜上、これら3層をそれぞれ上下に分離した状態を示すが、実際には、第1層100の下面に第2層200の上面が固着され、第2層200の下面に第3層300の上面が固着されており、3層は相互に接合された構造体になる。
この3層構造体は、ここで述べる実施形態において、根源的な検出機能を果たす。そこで、ここでは、この3層構造体を主センサ構造体MSS(Main Sensor Structureの略)と呼ぶことにし、第1層100を「主センサ第1層」、第2層200を「主センサ第2層」、第3層300を「主センサ第3層」と呼ぶことにする。本実施形態に係る加速度センサASは、この3層からなる主センサ構造体MSSに、更に、台座400(図では、単なるシンボル記号で示す)および検出回路500(図では、ブロックで示す)を付加することにより構成される。
台座400は、主センサ構造体MSSの一部分(図における右端面)を支持固定する役割を果たすが、その具体的な構造については§3で詳述する。なお、§3で述べるように、この圧電素子を用いた実施形態の場合、台座400も、主センサ構造体MSSと同様に3層構造を有するが、台座400を構成する各層については、それぞれ「台座第1層」、「台座第2層」、「台座第3層」と呼んで区別することにする。
ここでは図1の斜視図に示すように、主センサ第2層200の右端面の中央位置に原点Oを定義し、奥方向にX軸、左方向にY軸、上方向にZ軸をそれぞれとることにより、XYZ三次元直交座標系を定義する。本願の以下の説明では、図示のとおり、XY平面を水平面にとり、Z軸正方向を上方向、Z軸負方向を下方向にとることを前提として、各構成要素間の上下の関係を述べる。したがって、主センサ構造体MSSは、上から順に主センサ第1層100、主センサ第2層200、主センサ第3層300を積層した構造体ということになる。
図示の加速度センサASは、このようなXYZ三次元座標系における所定の座標軸方向に作用した加速度の検出を行う機能を有している。なお、図示の座標系は、説明の便宜のために用いる一例であり、座標系の位置は、必ずしも図示の位置である必要はない。たとえば、原点Oは、主センサ第2層200の右端面位置ではなく、主センサ第2層200の重心位置などに定義してもかまわない。ただ、主センサ第2層200の右端面は、台座400によって固定される部分であるため、ここでは説明の便宜上、この右端面の中央位置に原点Oを定義して以下の説明を行う。
主センサ第1層100は、検出素子として圧電素子を用いる実施形態に固有の構成要素である。この主センサ第1層100は、図示のとおり、平面形状が「E」の字状をした平板状の構造体であり、その主要部分は圧電材料層105によって構成されている。より具体的には、主センサ第1層100は、圧電材料層105と、その上面の所定領域に形成された上層電極E1〜E5および下面の全領域に形成された下層電極E0、という3層構造体によって構成されている。
ここで、圧電材料層105は、層方向に伸縮する応力の作用により、厚み方向に分極を生じる性質を有している。したがって、圧電材料層105の各部に応力が加わり、撓みが生じることになると、厚み方向に分極が生じ、上層電極E1〜E5および下層電極E0に電荷が発生することになる。
下層電極E0は、圧電材料層105の下面全面に形成された1枚の共通電極になっている。これに対し、各上層電極E1〜E5は、圧電材料層105の各所定領域に形成された局在電極になっている。これは、作用する外力の方向によって、圧電材料層105の各部に加わる応力の向き(圧縮方向応力か、伸張方向応力か)が異なり、発生電荷の極性が異なる可能性があるためである。
検出回路500は、こうして発生した電荷に基づいて、作用した加速度の検出値を電気信号として出力する機能を有する。なお、図1では、図示の便宜上、検出回路500に対する配線として、上層電極E4および下層電極E0についての配線しか示されていないが、実際には、すべての電極E0〜E5と検出回路500との間に配線がなされる。
図2は、図1に示す主センサ構造体MSSの主センサ第1層100の上面図であり、X軸を図の右方向、Y軸を図の上方向にとった二次元平面図が示されている。なお、図2に示すX軸,Y軸,原点Oは、実際には、この主センサ第1層100の下方(主センサ第2層200の位置)に位置している。上述したとおり、主センサ第1層100は、「E」の字状をした圧電材料層105の上面に5枚の上層電極E1〜E5を形成し、下面に1枚の下層電極E0(図2には現れていない)を形成したものである。
圧電材料層105は、実際には、「E」の字状をした1枚の板状一体構造体であるが、ここでは説明の便宜上、図示のような4つの部分110,120,130,140に分けて考えることにする。いずれの部分も、XY平面に平行な面に沿って配置された平板状の圧電材料層によって構成されている。
部分110は、Y軸に沿って伸びる橋梁構造を有する部分であり、ここでは橋梁部圧電層110と呼ぶことにする。この橋梁部圧電層110は、図示のとおり、Y軸に沿って原点Oから先端点T(Y軸上に定義された点)に至る区間に配置された部分ということになる。5枚のうちの4枚の上層電極E1〜E4は、この橋梁部圧電層110の上面に配置されている。なお、実際には、上層電極E1〜E5および下層電極E0には、検出回路500に対する配線がなされるが、ここでは、配線の図示は省略する。
部分120は、X′軸(Y軸と交差しX軸に平行な軸)に沿って伸びる部分であり、その中央部分は、先端点Tの位置において橋梁部圧電層110に連なっている。ここでは、この部分120を中央圧電層と呼ぶことにする。橋梁部圧電層110と中央圧電層120とは、平面形状がT字状をなす構造体を構成する。上層電極E5は、この中央圧電層120の上面に配置されている。
部分130は、中央圧電層120の左側から図の下方へと伸び、橋梁部圧電層110の左脇に配置された翼状部であり、ここでは、この部分130を左翼圧電層130と呼ぶことにする。一方、部分140は、中央圧電層120の右側から図の下方へと伸び、橋梁部圧電層110の右脇に配置された翼状部であり、ここでは、この部分140を右翼圧電層140と呼ぶことにする。
なお、本願では、説明の便宜上、図2に示すように、Y軸を縦方向に描いた上面図を念頭において左右を定義しているため、YZ平面に関してX座標値が負となる側を左側と呼び、Y軸に関してX座標値が正となる側を右側と呼んでいる。このような定義によれば、左翼圧電層130は橋梁部圧電層110の左脇に配置されており、右翼圧電層140は橋梁部圧電層110の右脇に配置されていることになる。もちろん、このような左右の定義は、YZ平面に関する相対的な位置関係を説明するための便宜上の定義であり、絶対的な意味をもつものではない。
図2において、橋梁部圧電層110の図の下端(原点Oの近傍)は、左翼圧電層130の下端や右翼圧電層140の下端に比べて下方に伸びているが、これは、図1の斜視図に示されているように、主センサ第2層の原点Oの近傍が台座400に接続されているためである。後述するように、台座400との接続端近傍には応力の集中が見られるため、この応力集中部分に上層電極E3,E4を配置すると、より効率的な検出が可能になる。
図3は、図1に示す主センサ構造体MSSの主センサ第2層200の上面図であり、やはりX軸を図の右方向、Y軸を図の上方向にとった二次元平面図が示されている。この、図3に示すX軸,Y軸,原点Oは、実際には、この主センサ第2層200の内部に埋もれた位置(厚み方向の中間位置)に配置されている。
この主センサ第2層200も、「E」の字状をした板状構造体であり、ここに示す圧電素子を用いた実施形態の場合、図2に示す主センサ第1層100のXY平面投影像と、図3に示す主センサ第2層200のXY平面投影像とは同一形状であり、主センサ第1層100の下面の全領域が主センサ第2層200の上面の全領域に接合されている。したがって、主センサ第2層200についても、主センサ第1層100と同様に、4つの部分210,220,230,240を定義することができる。いずれの部分も、XY平面に平行な面に沿って配置された平板状の層によって構成されている。もちろん、実際には、この主センサ第2層200は、「E」の字状をした1枚の板状一体構造体であり、上記4つの部分は、この板状一体構造体を、個々の区画に分けて説明するための便宜上のものである。
まず、部分210は、Y軸上に配置され、可撓性を有する橋梁構造を有する部分であり、ここでは、この部分210を板状橋梁部210と呼ぶことにする。この板状橋梁部210は、Y軸に沿って、原点Oから先端点T(Y軸上の1点)まで伸びる薄いビーム状の構造体であり、可撓性を有しているため、様々な方向に変形する性質を有している。ここでは、説明の便宜上、板状橋梁部210の原点Oの近傍を根端部と呼び、先端点Tの近傍を先端部と呼ぶことにする。板状橋梁部210は、根端部から先端部へとY軸に沿って伸びる細長い板状部材ということになる。
ここで、板状橋梁部210の根端部(原点O近傍)は、台座400(図3には示されていない)に接合されて支持固定される。したがって、台座400を装置筐体などに固定すれば、根端部は固定された状態になる。これに対して、板状橋梁部210の先端部(先端点T近傍)は、板状橋梁部210の変形の自由度の範囲内で変位可能な自由端になる。
図2に示す橋梁部圧電層110は、図3に示す板状橋梁部210の上面に固着される。後述するように、板状橋梁部210は、重錘体の変位により撓みを生じる性質を有し、当該撓みがその上面に固着された橋梁部圧電層110に伝達され、生じた応力に基づいて電荷が発生することになる。
一方、部分220,230,240(主センサ第2層200のうち、板状橋梁部210を除く部分)を一括して、ここでは、重錘体支持部と呼ぶことにする。この重錘体支持部は、図示のとおり、先端点Tにおいて板状橋梁部210に連なっている。この重錘体支持部の役割は、文字どおり、重錘体(主センサ第3層300)を支持し、重錘体の変位を板状橋梁部210の先端部(先端点T近傍)に伝達することにある。ここに示す実施形態の場合、重錘体支持部は、中央板状部220、左翼板状部230、右翼板状部240を有する「コ」の字状の部材である。
中央板状部220は、Y軸と交差しX軸に平行な軸であるX′軸上に配置された細長い板状部材であり、Y軸と交差するようにX′軸に沿って伸びている。そして、この中央板状部220の中央部分は、先端点Tの位置において板状橋梁部210の先端部に連なっている。すなわち、中央板状部220のY軸と交差する部分近傍に板状橋梁部210の先端部が接続されている。その結果、板状橋梁部210と中央板状部220とのXY平面投影像はT字状をなす。図2に示す中央圧電層120は、図3に示す中央板状部220の上面に固着される。
一方、左翼板状部230は、中央板状部220の左側からY軸に平行な方向に沿って板状橋梁部210の左脇に伸びる板状部材であり、右翼板状部240は、中央板状部220の右側からY軸に平行な方向に沿って板状橋梁部210の右脇に伸びる板状部材である。図2に示す左翼圧電層130は、図3に示す左翼板状部230の上面に固着され、図2に示す右翼圧電層140は、図3に示す右翼板状部240の上面に固着される。
図3において、板状橋梁部210の図の下端(根端部)は、左翼板状部230の下端や右翼板状部240の下端に比べて下方に伸びているが、これは、図1の斜視図に示されているように、板状橋梁部210の根端部(原点O近傍)を台座400に接続するためである。重錘体の変位によって板状橋梁部210に加わる応力は、根端部(台座400との接続端近傍)と先端部(中央板状部220との接続端近傍)に集中する。
図4は、図1に示す主センサ構造体MSSの主センサ第3層300の上面図であり、やはりX軸を図の右方向、Y軸を図の上方向にとった二次元平面図が示されている。この、図4に示すX軸,Y軸,原点Oは、実際には、この主センサ第3層300の上方に位置している。主センサ第3層300は、図3に示す重錘体支持部220,230,240の下面に接続されており、作用した加速度に基づいて板状橋梁部210に撓みを生じさせるのに十分な質量をもった重錘体として機能する。この重錘体は、外部から加えられた加速度に基づく力の作用によって変位を生じ、板状橋梁部210に対して、弾性変形を生じさせる役割を果たす。
ここに示す実施形態の場合、主センサ第3層300(重錘体)は、図4に示すとおり、中央重錘部320、左翼重錘部330、右翼重錘部340によって構成されている。中央重錘部320は、X′軸(Y軸と交差しX軸に平行な軸)に沿って伸びる細長い部分であり、左翼重錘部330と右翼重錘部340とを連結する役割を果たす。
また、前述したように、板状橋梁部210の両脇について、X座標値が負となる側を左脇、X座標値が正となる側を右脇と定義すれば、左翼重錘部330は、中央重錘部320の左側からY軸に平行な方向に沿って板状橋梁部210の左脇に伸びる重錘体であり、右翼重錘部340は、中央重錘部320の右側からY軸に平行な方向に沿って板状橋梁部210の右脇に伸びる重錘体である。
図4に示す中央重錘部320は、図3に示す中央板状部220の下面に固着され、図4に示す左翼重錘部330は、図3に示す左翼板状部230の下面に固着され、図4に示す右翼重錘部340は、図3に示す右翼板状部240の下面に固着される。結局、左翼重錘部330、中央重錘部320、右翼重錘部340を有する重錘体のXY平面投影像は、「コ」の字状をなすことになる。なお、この主センサ第3層300では、板状橋梁部210の直下の位置に空洞部310が形成されている。この空洞部310の存在により、板状橋梁部210は下方(Z軸負方向)への変位が可能になる。
実際には、この主センサ第3層300は、「コ」の字状をした一体構造体であり、上記3つの部分は、この一体構造体を、個々の区画に分けて説明するための便宜上のものである。
図5は、図1に示す主センサ構造体MSSの側面図である。前述したとおり、実際には、図1に示す主センサ第1層100,主センサ第2層200,主センサ第3層300は、上下方向に積層した状態で相互に接合された3層構造体を構成する。各層の接合には、たとえば、接着剤を用いた接着を行えばよい(後述するように、印刷、蒸着、スパッタ等の方法で層形成を行うこともできる。)。図5は、このような積層状態にある主センサ構造体MSSを、X軸負方向からX軸正方向に向かって観察したときの側面図である。したがって、座標系の原点Oは図の右端に位置し、図の紙面垂直奥方向がX軸正方向、図の左方向がY軸正方向、図の上方向がZ軸正方向になる。
図5において、主センサ第2層200の部分には、原点Oの近傍に板状橋梁部210の根端部が示されており、この板状橋梁部210の手前に位置する中央板状部220および左翼板状部230が観察される。この主センサ第2層200の上方に位置する主センサ第1層100の部分には、下層電極E0の上面に、橋梁部圧電層110,中央圧電層120,左翼圧電層130が観察され、更にその上面に、上層電極E1,E3,E5が観察される(上層電極E2,E4は、裏に隠れている)。また、主センサ第2層200の下方に位置する主センサ第3層300の部分としては、中央重錘部320および左翼重錘部330が観察される。図の右側に突出した橋梁部圧電層110および板状橋梁部210の右端部(原点O近傍)は、図示されていない台座400に固着されることになる。
図示のとおり、主センサ第1層100は、主センサ第2層200の上面を覆うように形成された圧電素子(圧電材料層105と上下の電極)を構成している。主センサ第2層200の下方には、主センサ第3層300(「コ」の字状をした重錘体)が接合されており、作用した加速度に基づいて重錘体が変位を生じると、主センサ第2層200(特に、板状橋梁部210の部分)に撓みが生じ、その上面に形成されている主センサ第1層100(特に、橋梁部圧電層110)の部分にも撓みが伝達され、各上層電極E1〜E4および下層電極E0に電荷が発生する。
図6は、図1に示す主センサ構造体MSSを台座400に固定した状態を示す上面図である。図におけるハッチングは各上層電極の形成領域および台座による固定状態を示すためのものであり、断面を示すものではない。また、括弧書きの符号は、下方に配置されている構成要素を示している。ここで、橋梁部圧電層110の上面に配置された4枚の上層電極E1〜E4の平面形状に注目すると、いずれもY軸方向に伸びる細長い矩形状をした電極になっている。
また、4枚の上層電極E1〜E4の配置に着目すると、上層電極E1,E2については、その上端が境界線H(橋梁部圧電層110と中央圧電層120との境界線)に揃う位置に配置され、上層電極E3,E4については、その下端が橋梁部圧電層110の下端に揃う位置(X軸に揃う位置)に配置されている。また、上層電極E1,E3は、橋梁部圧電層110の左側(X座標値が負となる位置)に配置され、上層電極E2,E4は、橋梁部圧電層110の右側(X座標値が正となる位置)に配置されている。
このような上層電極E1〜E4の形状および配置は、§2で述べるように、効率的な検出を行う上で好都合である。図6に示す「コ」の字状部分(中央圧電層120,左翼圧電層130,右翼圧電層140)の下方には、同じく「コ」の字状をした重錘体支持部(中央板状部220,左翼板状部230,右翼板状部240)および重錘体(主センサ第3層:中央重錘部320,左翼重錘部330,右翼重錘部340)が接合されている。そして、当該重錘体の変位に基づく力が先端点Tの近傍に作用すると(後述する図7参照)、橋梁部圧電層110がその支持層である板状橋梁部210とともに撓みを生じることになり、当該撓みに応じて、各上層電極E1〜E4に電荷が発生することになる。
図示の電極配置は、このような電荷発生を効率的に行うために適したものになっている(詳細は§2で述べる)。検出回路500は、こうして主センサ構造体MSSが発生させた電荷に基づいて、作用した加速度の各座標軸方向成分の検出値をそれぞれ出力する。
なお、ここに示す実施例では、4枚の上層電極E1〜E4に加えて、更に第5の上層電極E5が設けられている。4枚の上層電極E1〜E4は、撓みを検出するための本来の検出素子としての役割を果たすためのものであるが、上層電極E5は、撓みを検出するためではなく、検出時に発生する様々なノイズ成分を相殺するための参照用に利用される。そこで以下、この第5の上層電極E5を参照用上層電極と呼ぶことにする。図示の例の場合、参照用上層電極E5は、中央圧電層120の上面に配置されているが、参照用上層電極E5は、撓みが生じない部分であれば、どの位置に配置してもかまわない。この参照用上層電極E5の役割についての詳細は§2で述べる。
図7は、図1に示す主センサ構造体MSSを台座400に固定した状態を示す側断面図であり、図6に示す主センサ構造体MSSを中央のYZ平面で切断した断面に相当する。
この側断面図では、主センサ第2層200の部分には、原点O(根端部)から先端点T(先端部)に至る板状橋梁部210と、中央板状部220の断面が示されている。また、主センサ第1層100の部分には、橋梁部圧電層110および中央圧電層120と下層電極E0の断面、ならびに、上層電極E2,E4の側面および上層電極E5の断面が示されている。
そして、主センサ第3層300(重錘体)の部分には、中央重錘部320の断面および右翼重錘部340の側面が示されている。右翼重錘部340の手前には、空洞部310が形成されており、板状橋梁部210は、この空洞部310の存在により下方に変位することができる。
なお、図示の実施例の場合、板状橋梁部210の根端部と橋梁部圧電層110の根端部との双方が、台座400に接合され支持固定されているが、台座400に対しては、少なくとも板状橋梁部210の根端部が支持固定されていればよい。要するに、重錘体が、台座400に対して片持ち梁構造で支持されるようにし、板状橋梁部210を介して宙吊り状態になればよい。
また、本願では、図面における各部の寸法比は、必ずしも実際の製品の寸法比どおりにはなっておらず、便宜上、実際の寸法比を無視して図面を描いている。そこで、図6および図7には、参考のため、各部の実寸法を符号d1〜d10で示した。これら実寸法d1〜d10の値は、MEMS構造の加速度センサASを構成するのであれば、たとえば、次のような値に設定することができる。もちろん、以下の寸法例は、一実施例として提示したものであり、本発明を実施するにあたり、各部の寸法が下記の寸法値に限定されるものではない。
d1=1000μm,d2=200μm,d3=800μm,d4=100μm,d5=50μm,d6=200μm,d7=70μm,d8(圧電材料層105の厚み)=2μm(実用上は2μm以上が好ましい),d9(主センサ第2層200の厚み)=200μm,d10(主センサ第3層300の厚み)=1000μm。下層電極E0および上層電極E1〜E5の厚みは0.01μm。
なお、上記説明では、便宜上、主センサ第3層300の部分のみを重錘体と呼んでいるが、実際には、主センサ構造体MSSの各構成要素のうち、橋梁部圧電層110および板状橋梁部210を除くすべての部分が全体として重錘体としての役割を果たし、先端点Tに変位を生じさせる機能を有している。たとえば、図6に示す中央圧電層120,左翼圧電層130,右翼圧電層140(主センサ第1層100の構成要素)や、これらの下層に接合された中央板状部220,左翼板状部230,右翼板状部240(主センサ第2層200の構成要素)も、先端点Tに変位を生じさせる役割に寄与するため、重錘体の一部として機能することになる。
ただ、図7に示すとおり、主センサ第3層300の厚みは、主センサ第1層100や主センサ第2層200の厚みに比べて大きく設定されており、重錘体としての役割は、主として主センサ第3層300が担うことになる。したがって、ここでは、便宜上、主センサ第3層300の部分を重錘体と呼ぶことにする。
本発明に係る加速度センサASの特徴は、主センサ構造体MSSを構成する板状橋梁部210の左右両脇に重錘体が配置されるようにした点にある。すなわち、図1の斜視図に示されている実施形態に係る加速度センサASの重錘体は、XY平面への投影像を見れば明らかなように、少なくとも、板状橋梁部210の左脇の下方に位置する左翼重錘部330と、板状橋梁部210の右脇の下方に位置する右翼重錘部340と、を有している。このため、板状橋梁部210に対して、加速度に基づいて発生した外力を効率良く伝達することができる。また、§3で詳述するように、この主センサ構造体MSSの外側に、左翼重錘部330および右翼重錘部340の変位を制限する部材を設けることにより、過度の加速度が加わった場合にも、板状橋梁部210の変位を制限することができるようになり、板状橋梁部の損傷を防ぐことができるようになる。
また、ここに示す圧電素子を用いた実施形態では、板状橋梁部210を主センサ第2層200によって構成し、重錘体をその下方に配置された主センサ第3層300によって構成しているため、重錘体(主センサ第3層を構成する構造体)の重心Gが、板状橋梁部210の下方に所定距離をおいて位置することになる。図6および図7には、この重錘体の重心Gをx印で示してある。このように、主センサ構造体MSSとして、板状橋梁部210の下方に、所定距離をおいて重錘体の重心Gが配置される構造を採用すると、重錘体に作用する加速度の各座標軸方向成分に基づいて、板状橋梁部210を効率的に撓ませることができるようになり、効率的な検出が可能になる。また、後述するように、加速度の所定の座標軸成分の検出値に他軸成分が干渉する影響を低減できる。特に、重心Gと板状橋梁部210の下面との間の距離は、できるだけ長くした方が、Y軸方向の加速度に対して板状橋梁部210の撓みを大きくする上で好ましい。
ここに示す実施例の場合、主センサ構造体MSSは、YZ平面に関して面対称な構造をなしているため、主センサ第3層300を構成する構造体(重錘体)の重心が、板状橋梁部210の下方のYZ平面上に位置している。このような対称性をもった構造を採用すると、作用した加速度に基づいて板状橋梁部210に生じる撓みの態様も、座標軸に関して対称性を有するものになるため、加速度の各座標軸方向成分を出力するための検出回路500の構成を単純化することができる。
主センサ構造体MSSを構成する各層の材料は、上述した各層としての機能を果たすことができる材質であれば、任意の材料を用いてかまわないが、ここでは、実用上好ましい材料の例をいくつか挙げておくことにする。
まず、主センサ第1層100は、外部から加えられた応力に基づいて電荷を発生させる圧電素子としての機能を果たすことができればよいので、層方向に伸縮する応力の作用により厚み方向に分極を生じる性質をもった圧電材料層105の上下両面に、それぞれ電極が形成されていればよい。具体的には、圧電材料層105は、たとえば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やKNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)などの圧電薄膜によって構成することができる。あるいは、バルク型圧電素子を用いるようにしてもかまわない。各電極E0〜E5は、導電性材料であれば、どのような材料で構成してもかまわないが、実用上は、たとえば、金、白金、アルミニウム、銅などの金属層によって構成すればよい。
一方、主センサ第2層200は、主センサ第1層100の支持基板として機能するとともに、板状橋梁部210の部分が可撓性を有する必要がある。このような用途に利用する材質としては、シリコンが最適である。したがって、ここで述べる実施例の場合、主センサ第2層はシリコン基板によって構成されている。図7に示す例の場合、主センサ第2層200の厚みd9は200μmであり、この程度の厚みをもったシリコンからなる板状橋梁部210は、検出を行うのに必要な十分な可撓性を有している。
もちろん、主センサ第2層200として金属基板を利用することも可能である。その場合は、金属基板の上層部分が下層電極E0としての役割を果たすので、この金属基板の上にスパッタ法やゾルゲル法によって圧電薄膜を成膜することにより、主センサ第1層100となる圧電素子を形成することができる。あるいは、金属基板の上にバルク型の圧電材料を接着することも可能である。上層電極は、金属材料を印刷、蒸着、スパッタ等の方法で形成することができる。
ただ、本願発明者は、現時点では、シリコン基板が主センサ第2層200として最適な材料であると考えている。これは、一般に、現在の製造プロセスをよって、金属基板の上面に圧電素子を形成した場合と、シリコン基板の上面に圧電素子を形成した場合とを比較すると、前者の圧電定数に比べて後者の圧電定数の方が3倍程度大きな値になり、後者の方の検出効率が圧倒的に高くなるためである。これは、シリコン基板の上面に圧電素子を形成すると、圧電素子の結晶の配向が揃うためと考えられる。また、主センサ第2層200としてシリコン基板を用いるようにすれば、このシリコン基板上に形成した半導体素子を利用して検出回路500を構成することも可能になる。
主センサ第3層300は、重錘体として機能を果たす構成要素であるため、できるだけ比重の大きな材料を用いるのが好ましい。具体的には、SUS(鉄),銅,タングステンなどの金属基板、あるいは、セラミック基板もしくはガラス基板等を用いて構成すればよい。もちろん、主センサ第3層300をシリコン基板によって構成してもよい。その場合は、SOI(Silicon On Insulator)基板を利用して、たとえば、後述する図44に示す製造プロセスに準じた方法により、材料第3層2003として主センサ第3層300を構成することができる。
<<< §2. 圧電素子を用いた実施形態に係る加速度センサの検出動作 >>>
続いて、§1で述べた圧電素子を用いた実施形態に係る加速度センサASの検出動作を説明する。既に述べたとおり、図1に示す加速度センサASは、3層構造体からなる主センサ構造体MSSに台座400および検出回路500を付加することにより構成され、XYZ三次元座標系における所定の座標軸方向に作用した加速度の検出を行う機能を有している。
そこで、ここでは、台座400の部分を動作中のロボットアームの所定箇所に固定し、この加速度センサASに各座標軸方向の加速度成分が加えられたときに、どのような原理で加速度の検出が行われるかについての説明を行うことにする。そのため、以下、XYZ三次元座標系が、台座400(すなわち、ロボットアームの所定箇所)に固定された座標系であり、重錘体がこの座標系内で変位するものとして、この加速度センサASの動作を説明する。
図8は、図1に示す主センサ構造体MSSの重錘体(主センサ第3層300)にX軸正方向の力+Fxが作用したときの変形態様を示す上面図である。このような現象は、ロボットアームの動作により、台座400に対してX軸負方向の加速度−αxが作用した場合に生じる。すなわち、台座400に対して加速度−αxが作用すると、重錘体に対しては、慣性力として逆方向の加速度+αxが作用することになる。その結果、XYZ三次元座標系において、重錘体には、図に白抜矢印で示すように、X軸正方向(図の右方向)へ変位させる外力+Fxが作用する。
当該外力+Fxは、重錘体の重心Gおよび先端点Tを図の右方向へ変位させる力として作用するので、板状橋梁部210およびその上面に形成された橋梁部圧電層110の先端部は、重錘体とともに図の右方向へ変位する。一方、根端部(原点O近傍)は台座400に固定されているため、XYZ三次元座標系上では変位しない。その結果、板状橋梁部210およびその上面に形成された橋梁部圧電層110は、図示のように湾曲変形する。
このような湾曲変形は、橋梁部圧電層110の4枚の上層電極E1〜E4の各配置位置について、Y軸に沿った方向に関して図示のような伸縮応力を生じさせる。すなわち、橋梁部圧電層110の上層電極E1,E4の配置位置については、上下に向かい合う矢印対で示すように、Y軸方向についての圧縮応力が作用し(丸に「縮」の字で示す)、橋梁部圧電層110の上層電極E2,E3の配置位置については、上下に矢がついた両矢印で示すように、Y軸方向についての伸張応力が作用する(丸に「伸」の字で示す)。
一方、台座400に対して、X軸正方向の加速度+αxが作用した場合は、重錘体に対しては、慣性力として逆方向の加速度−αxが作用することになる。その結果、XYZ三次元座標系において、重錘体には、図8とは逆に、X軸負方向(図の左方向)へ変位させる外力−Fxが作用する。この場合、各部の伸縮の態様は図8とは逆転したものになる。すなわち、橋梁部圧電層110の上層電極E1,E4の配置位置については伸張応力が作用し、橋梁部圧電層110の上層電極E2,E3の配置位置については圧縮応力が作用する。
なお、中央圧電層120は、その下方に中央板状部220および中央重錘部320が接合されており、肉厚な構造体の一部を形成しているため、加速度が作用した場合にも有意な変形は生じない。したがって、参照用上層電極E5の配置位置については、原理的には、有意な伸縮応力は発生しない。
図9は、図1に示す主センサ構造体MSSの重錘体(主センサ第3層300)にY軸正方向の力+Fyが作用したときの変形態様を示す側断面図である。このような現象は、ロボットアームの動作により、台座400に対してY軸負方向の加速度−αyが作用した場合に生じる。すなわち、台座400に対して加速度−αyが作用すると、重錘体に対しては、慣性力として逆方向の加速度+αyが作用することになる。その結果、XYZ三次元座標系において、重錘体には、図に白抜矢印で示すように、Y軸正方向(図の左方向)へ変位させる外力+Fyが作用する。
当該外力+Fyは、重錘体の重心Gを図の左方向へ変位させる力として作用するが、重錘体は板状橋梁部210の先端点Tの近傍に接続されているため、重錘体は図9に示すように斜めに傾斜する(図9において、左側が上がり、右側が下がる)。したがって、板状橋梁部210およびその上面に形成された橋梁部圧電層110は、図9に示すように、上方に反るように湾曲変形する。
このような湾曲変形は、橋梁部圧電層110の4枚の上層電極E1〜E4の各配置位置について、Y軸に沿った方向に関して図示のような伸縮応力を生じさせる。すなわち、橋梁部圧電層110の上面に形成された4枚の上層電極E1〜E4の配置位置のすべてについて、左右に向かい合う矢印対で示すように、Y軸方向についての圧縮応力が作用する(丸に「縮」の字で示す)。
一方、台座400に対してY軸正方向の加速度+αyが作用した場合は、重錘体に対しては、慣性力として逆方向の加速度−αyが作用することになる。その結果、XYZ三次元座標系において、重錘体には、図9とは逆に、Y軸負方向(図の右方向)へ変位させる外力−Fyが作用する。この場合、重錘体は図9とは逆の態様に傾斜し(左側が下がり、右側が上がる)、各部の伸縮の態様は図9とは逆転する。すなわち、橋梁部圧電層110の上面に形成された4枚の上層電極E1〜E4の配置位置のすべてについて、Y軸方向についての伸張応力が作用する。この場合も、参照用上層電極E5の配置位置については、原理的には、有意な伸縮応力は発生しない。
図10は、図1に示す主センサ構造体MSSの重錘体(主センサ第3層300)にZ軸正方向の力+Fzが作用したときの変形態様を示す側断面図である。このような現象は、ロボットアームの動作により、台座400に対してZ軸負方向の加速度−αzが作用した場合に生じる。すなわち、台座400に対して加速度−αzが作用すると、重錘体に対しては、慣性力として逆方向の加速度+αzが作用することになる。その結果、XYZ三次元座標系において、重錘体には、図に白抜矢印で示すように、Z軸正方向(図の上方向)へ変位させる外力+Fzが作用する。
当該外力+Fzは、重錘体の重心Gを図の上方向へ変位させる力として作用するが、重錘体は板状橋梁部210の先端点Tの近傍に接続されているため、板状橋梁部210の先端部に対して図の上方へ変位させる力が加わることになる。一方、板状橋梁部210の根端部(原点O近傍)は台座400に固定されている。したがって、XYZ三次元座標系において、板状橋梁部210の根端部を固定状態にしたまま、先端部を上方に移動させる力が加わることになり、板状橋梁部210およびその上面に形成された橋梁部圧電層110は、図10に示すように湾曲変形する。
このような湾曲変形は、橋梁部圧電層110の4枚の上層電極E1〜E4の各配置位置について、Y軸に沿った方向に関して図示のような伸縮応力を生じさせる。すなわち、橋梁部圧電層110の先端部に配置された上層電極E1,E2の位置については、左右に矢がついた両矢印で示すように、Y軸方向についての伸張応力が作用する(丸に「伸」の字で示す)。これに対して、橋梁部圧電層110の根端部に配置された上層電極E3,E4の位置については、左右に向かい合う矢印対で示すように、Y軸方向についての圧縮応力が作用する(丸に「縮」の字で示す)。
一方、台座400に対してZ軸正方向の加速度+αzが作用した場合は、重錘体に対しては、慣性力として逆方向の加速度−αzが作用することになる。その結果、XYZ三次元座標系において、重錘体には、図10とは逆に、Z軸負方向(図の下方向)へ変位させる外力−Fzが作用する。この場合、重錘体は図の下方へと移動するので、各部の伸縮の態様は図10とは逆転する。すなわち、橋梁部圧電層110の上層電極E1,E2の配置位置については圧縮応力が作用し、橋梁部圧電層110の上層電極E3,E4の配置位置については伸張応力が作用する。この場合も、参照用上層電極E5の配置位置については、原理的には、有意な伸縮応力は発生しない。
図11は、図8〜図10の変形態様を踏まえて、図1に示す主センサ構造体MSSの重錘体に各座標軸方向の力が作用したときに、橋梁部圧電層110の上層電極E1〜E4の位置に加わるY軸方向についての伸縮応力を示す表である。図は、各座標軸正方向の力+Fx,+Fy,+Fzが作用したときの伸縮応力を示す表であるが、各座標軸負方向の力−Fx,−Fy,−Fzが作用したときの伸縮応力は、この表における圧縮/伸張の関係を逆転させたものになる。
図11の表において、E5の欄は、参照用上層電極E5の伸縮応力を示している。前述したように、参照用上層電極E5は、加速度が作用しても撓みが生じない部分(図1に示す例の場合は、中央圧電層120の上面)に形成されており、原理的には、応力は発生しない。
§1で述べたように、圧電素子を用いた実施形態に係る加速度センサASでは、主センサ第1層100が、主センサ第2層200の表面に層状に形成された下層電極E0と、この下層電極E0の表面に層状に形成された圧電材料層105と、この圧電材料層105の表面に局在的に形成された複数の上層電極E1〜E5からなる上層電極群と、を有する圧電素子を構成しており、圧電材料層105は、層方向に伸縮する応力の作用により、厚み方向に分極を生じる性質を有している。
ここで、圧電材料層105として、層方向に伸張する応力が作用すると、上方に正電荷、下方に負電荷を発生させ、層方向に圧縮する応力が作用すると、上方に負電荷、下方に正電荷を発生させる分極特性を有するものを用いたとすると、重錘体に各座標軸正方向の力+Fx,+Fy,+Fzが作用したとき、上層電極E1〜E4に発生する電荷の極性は、図12(a) の表のようになる。別言すれば、図12(a) の表は、図11の表における「伸張」を「+」、「圧縮」を「−」に置き換えたものになっている。各座標軸負方向の力−Fx,−Fy,−Fzが作用したときの伸縮応力は、この表における+/−の関係を逆転させたものになる。なお、E5の欄は、検出対象となる加速度に起因した電荷の発生がないため、外部からのノイズ成分の混入がない限り0になる。
もちろん、圧電材料層105としては、層方向に伸張する応力が作用すると、上方に負電荷、下方に正電荷を発生させ、層方向に圧縮する応力が作用すると、上方に正電荷、下方に負電荷を発生させる分極特性を有するものを用いることも可能である。そのような分極特性を有する圧電材料層を用いた場合は、上述した場合に対して、+/−の関係が逆転することになる。また、バルク型の圧電素子を用いた場合は、個々の領域ごとに異なる分極特性をもった圧電素子を配置することが可能であり、個々の局在圧電素子P1〜P5(各上層電極E1〜E5によって構成される圧電素子)にそれぞれ任意の分極特性をもたせるようにすることができる。
いずれにしても、検出回路500は、5枚の局在上層電極E1〜E5および1枚の共通下層電極E0に発生した電荷に基づいて所定の演算処理を行うことにより、作用した加速度の各座標軸方向成分αx,αy,αzを求めることができる。図12(b) は、各加速度成分αx,αy,αzを算出するための演算式を示している。この演算式において、E1〜E5は、それぞれ上層電極E1〜E5に発生する電荷量を示し、たとえば、下層電極E0を基準電位(接地電位)にとった場合、当該基準電位に対する各上層電極E1〜E5の電位V1〜V5を示している。検出回路500は、上層電極E1〜E5と下層電極E0との間の電位差に基づいて加速度の検出値を出力する回路ということになる。
図12(b) に示す演算式によって、各座標軸方向成分αx,αy,αzを算出することができる理由は、図12(a) の表に示す発生電荷の極性を参照すれば、容易に理解できよう。図12(a) の表は、負の加速度成分−αx,−αy,−αzが作用したときの表であるため、正の加速度成分+αx,+αy,+αzが作用したときの発生電荷の極性は、図12(a) の表を逆転させたものになる。図12(b) に示す各演算式は、この図12(a) の表の極性を逆転させた表から得られるものである。
すなわち、X軸正方向の加速度成分+αxが作用した場合、電極E1,E4には正の電荷が発生し、電極E2,E3には負の電荷が発生する。よって、X軸方向成分αxは、αx=E1−E2−E3+E4なる演算式により求めることができる。同様に、Y軸正方向の加速度成分+αyが作用した場合は、電極E1〜E4にはすべて正の電荷が発生する。よって、Y軸方向成分αyは、αy=E1+E2+E3+E4なる演算式により求めることができる(図12(b) の演算式の末尾の項「−k・E5」についての説明は後述)。また、Z軸正方向の加速度成分+αzが作用した場合、電極E1,E2には負の電荷が発生し、電極E3,E4には正の電荷が発生する。よって、Z軸方向成分αzは、αz=−E1−E2+E3+E4なる演算式により求めることができる。
ここで、3軸成分αx,αy,αzの算出方法に着目する。まず、αxについては、αx=E1−E2−E3+E4なる演算式が用いられ、「E1とE4との和」と「E2とE3との和」の差分がとられている。同様に、αzについては、αz=−E1−E2+E3+E4なる演算式が用いられ、「E1とE2との和」と「E3とE4との和」の差分がとられている。実用上、このような差分演算によって検出値を求めることは非常に重要である。これは、加速度センサを実環境で利用した場合、検出値には、様々な外乱成分に基づく誤差が混入する可能性があるためである。
たとえば、加速度センサ利用時に、突発的に機械的もしくは電気的なノイズが発生した場合、外乱成分として検出値に影響が及ぶ可能性がある。特に、圧電素子自身は高いインピーダンスをもつ素子であるため、ノイズの影響を受けやすい。このような外乱成分に起因する誤差は、差分検出を行うことにより除去することができる。すなわち、第1グループの検出素子による検出値と、第2グループの検出素子による検出値と、の差を、最終的な検出値として出力する差分検出の手法を採用すれば、第1グループの検出素子と第2グループの検出素子との双方に対して同じように作用した外乱成分は、差分演算によって相殺され、最終的な検出値からは除かれることになる。
このような観点では、上例の場合、αxおよびαzについては差分検出が行われており、外乱成分に基づく誤差の相殺が可能であるが、αyについては差分検出が行われていないため、外乱成分に基づく誤差の相殺ができないことになる。参照用上層電極E5は、このような問題を解決するために設けられたものである。
図6に示すように、参照用上層電極E5は、中央圧電層120の上面に形成されている。図7の側断面図に示すとおり、この中央圧電層120の下方には、中央板状部220および肉厚な中央重錘部320が接合されており、加速度が作用した場合にも、この部分には有意な変形は生じない。したがって、参照用上層電極E5の配置位置については、原理的には、有意な伸縮応力は発生しない。図12(a) の表において、E5の欄がすべて0になっているのはこのためである。しかしながら、加速度センサ利用時に、突発的に機械的もしくは電気的なノイズが発生した場合、外乱成分が参照用上層電極E5の電位を変化させることになる。
図12(b) に示すαyについての演算式が、αy=E1+E2+E3+E4−k・E5となっており、末尾に補正項「−k・E5」が付加されている理由は、参照用上層電極E5の発生電荷を利用した差分検出を行うことにより、外乱成分に基づく誤差を相殺するためである。たとえば、突発的に機械的もしくは電気的なノイズが発生し、4組の上層電極E1〜E4から得られる信号成分にノイズ成分が混入した場合、αy=E1+E2+E3+E4なる和演算のみによって検出値αyを求めると、当該ノイズ成分が誤差として含まれてしまう。
これに対して、末尾に補正項「−k・E5」を付加した演算式を用いれば、当該ノイズ成分を相殺することができる。すなわち、当該ノイズ成分が、参照用上層電極E5から得られる信号成分にも同じように混入する同相ノイズであれば、差分検出により除去されることになる。なお、補正係数kは、ノイズ成分を相殺するのに適した所定の値に設定しておけばよい。たとえば、5枚の上層電極E1〜E5に対するノイズ成分の影響が均等と考えられる場合は、k=4に設定しておけば、4枚の上層電極E1〜E4に混入したノイズ成分に対して、1枚の参照用上層電極E5に混入したノイズ成分の4倍の値が差し引かれるため、ノイズ成分を相殺することができる。
なお、図示の例の場合、参照用上層電極E5を中央圧電層120の上面に配置しているが、参照用上層電極E5の配置場所は、加速度が作用しても撓みが生じない部分であればどこでもかまわない。要するに、本来の検出に利用される4組の局在圧電素子P1〜P4(各上層電極E1〜E4によって構成される圧電素子)の他に、加速度が作用しても撓みが生じない部分に形成された参照用圧電素子P5を更に設けるようにし、当該参照用圧電素子P5は、参照用下層電極E0と参照用上層電極E5とこれらの間に挟まれた圧電材料層とによって構成されるようにすればよい。
この場合、参照用下層電極E0の電位を基準電位として、各上層電極E1〜E4の電圧をV1〜V4とし、参照用上層電極E5の電圧をV5としたときに、作用した加速度のY軸方向成分αyの検出値を、「電圧V1,V2,V3,V4の和」と「電圧V5に所定の補正係数kを乗じて得られる値k・V5」との差に基づいて求めるようにすれば、差分検出により同相ノイズ成分を除去した検出値が得られることになる。
この図12(b) に示す演算式を用いた検出処理の優れた点は、各座標軸方向成分の検出値から、他軸成分の干渉を排除することができる点である。たとえば、X軸方向成分+αxのみが作用している状態(αy,αzは0の状態)を考えてみよう。この場合、E1,E4は正の値、E2,E3は負の値をとるので、各上層電極の発生電荷の絶対値が等しいという前提であれば、図12(b) のαyおよびαzの算出値は、いずれも正負が相殺されて0になる。これは、加速度のX軸方向成分αxが、αyやαzの検出値として誤って検出されることがないことを示している。
同様に、Y軸方向成分+αyのみが作用している状態では、E1〜E4はすべて正の値をとるので、やはり各上層電極の発生電荷の絶対値が等しいという前提であれば、図12(b) のαxおよびαzの算出値は、いずれも正負が相殺されて0になる。これは、加速度のY軸方向成分αyが、αxやαzの検出値として誤って検出されることがないことを示している。
更に、Z軸方向成分+αzのみが作用している状態では、E1,E2は負の値、E3,E4は正の値をとるので、やはり各上層電極の発生電荷の絶対値が等しいという前提であれば、図12(b) のαxおよびαyの算出値は、いずれも正負が相殺されて0になる。これは、加速度のZ軸方向成分αzが、αxやαyの検出値として誤って検出されることがないことを示している。
図6に示すとおり、この実施形態に係る主センサ構造体MSSは、YZ平面に関して面対称となる対称構造をなす。また、上層電極E1,E2からなる先端部電極群と、上層電極E3,E4からなる根端部電極群と、の間にも、橋梁部圧電層110の長手方向の中央位置に関して対称性がある。このような対称構造を採用すれば、重錘体が各座標軸方向に変位した場合、対称位置に配置された一対の上層電極に発生する正電荷の絶対値と負電荷の絶対値とが等しくなる。したがって、4枚の上層電極の配置に対称性をもたせておけば、上述したとおり、他軸成分の干渉を相殺することができる。
もっとも、他軸成分を相殺する上では、必ずしも上記対称性を確保する必要はなく、非対称な構造であっても、各上層電極の配置、大きさ、形状を調整することにより、他軸成分の干渉を排除することが可能である。また、必要に応じて、様々な補正演算を施すことにより、他軸成分の干渉を排除することも可能である。ただ、実用上は、主センサ構造体MSSの構造および4組の上層電極E1〜E4の配置について、上記対称性を確保することが、他軸成分の干渉を排除する最も単純な方法である。
図6の上面図に示す4枚の上層電極E1〜E4の配置は、上記対称性を確保した配置でありXYZ三次元座標系における加速度の各座標軸方向成分αx,αy,αzをそれぞれ独立して検出するのに都合のよい配置になっている。しかも、これら4枚の上層電極E1〜E4は、加速度検出を効率的に行うという点でも、橋梁部圧電層110の上面の非常に都合のよい位置に配置されている。以下、この点について、より詳細な説明を行う。
ここでは、図6の上面図に示す4枚の上層電極群E1〜E4を、個々の配置位置に応じて、先端部左側上層電極E1、先端部右側上層電極E2、根端部左側上層電極E3、根端部右側上層電極E4と、と呼ぶことにする。そうすると、先端部左側上層電極E1の主センサ第2層200上面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部210の先端部近傍のX座標値が負となる側に位置し、先端部右側上層電極E2の主センサ第2層200上面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部210の先端部近傍のX座標値が正となる側に位置し、根端部左側上層電極E3の主センサ第2層200上面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部210の根端部近傍のX座標値が負となる側に位置し、根端部右側上層電極E4の主センサ第2層200上面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部210の根端部近傍のX座標値が正となる側に位置する。
このような4枚の上層電極E1〜E4の固有の配置は、電荷発生を効率的に行うために適したものになっており、検出効率を高めるために効果的である。これは、重錘体に対していずれの座標軸方向の力が作用した場合にも、これら4箇所の配置位置には、Y軸方向に関して大きな応力が発生するためである。これは、図13〜図15に示す応力分布図を見れば明らかである。これらの応力分布図は、§1で述べた実寸法を用いてコンピュータによるFEM(有限要素法)構造解析を行った結果を示すものであり、板状橋梁部210の根端部を固定した状態において、重錘体に特定の座標軸正方向の力が作用した場合に、圧電材料層105に発生するY軸方向応力の分布を示す図になっている。
図13は、図1に示す主センサ構造体MSSの重錘体にX軸正方向の力+Fxが作用したときに、圧電材料層105に発生するY軸方向応力を示す応力分布図である。この図では、基本的には、図8に示す伸縮態様に基づく応力分布が得られていることがわかる。4枚の上層電極E1〜E4の固有の配置は、このような応力分布図において、顕著な応力が発生する位置に対応している。なお、製造時の誤差により応力分布の左右の対称性が崩れる場合は、他軸成分の干渉を排除した正確な検出値を得るために、若干の補正を行うのが好ましい。
図14は、図1に示す主センサ構造体MSSの重錘体にY軸正方向の力+Fyが作用したときに、圧電材料層105に発生するY軸方向応力を示す応力分布図である。図9に示す変形態様を参照すればわかるとおり、力+Fyが作用した場合、橋梁部圧電層110のほぼ全領域にわたって、Y軸方向についての圧縮応力が作用することになる。このため、図14に示す応力分布図においても、橋梁部圧電層110のほぼ全領域にわたって強度の圧縮応力が発生することが示されている。4枚の上層電極E1〜E4の固有の配置は、このような応力分布図においても、顕著な応力が発生する位置に対応している。
図15は、図1に示す主センサ構造体MSSの重錘体にZ軸正方向の力+Fzが作用したときに、圧電材料層105に発生するY軸方向応力を示す応力分布図である。この図では、基本的には、図10に示す伸縮態様に基づく応力分布が得られていることがわかる。4枚の上層電極E1〜E4の固有の配置は、このような応力分布図においても、顕著な応力が発生する位置に対応している。
このように、図13〜図15に示す応力分布図を見れば、図6に示す4枚の上層電極E1〜E4は、重錘体がいずれの方向に変位した場合にも応力が集中する領域に配置されており、発生電荷を効果的に収集できることがわかる。なお、これらの応力分布図を参照すれば、図6に示す上層電極E1,E2の図面における上端位置は、境界線Hよりも若干図の上方(Y軸正方向)に伸びていてもよいことがわかる。また、図6に示す上層電極E3,E4の図面における下端位置も、図示の位置より若干図の下方(Y軸負方向)に伸びていてもよい。
以上、図13〜図15を参照して、重錘体に各座標軸正方向の力+Fx,+Fy,+Fzが作用した場合の応力分布を説明したが、各座標軸負方向の力−Fx,−Fy,−Fzが作用した場合の応力分布は、圧縮/伸張の分布を逆転させたものになる。結局、図6の上面図に示す4枚の上層電極E1〜E4は、重錘体に対していずれの座標軸方向の力が作用した場合にも、Y軸方向に関して大きな応力が発生する位置に配置されていることになる。また、ある1つの座標軸方向の力のみが作用している状況を想定すると、1つの上層電極が占める領域内には、必ず同一の極性の電荷が発生することになり、同一の電極に逆極性の電荷が発生して、互いに打ち消し合うような現象は生じない。したがって、このような固有の電極配置を採用した加速度センサASは、極めて効率的な検出を行うことが可能である。
図16は、図1に示す加速度センサASに用いる検出回路500の具体的な構成を示す回路図であり、個々の圧電素子P1〜P5に発生した電荷に基づいて、作用した加速度の各座標軸方向成分の検出値αx,αy,αzを出力する機能を有する。
図16(a) において、P1〜P5は、各上層電極E1〜E5の配置領域に形成された局在圧電素子である。すなわち、先端部左側圧電素子P1は、図6に示す先端部左側上層電極E1と下層電極E0と、圧電材料層105のうち上層電極E1の下方に位置する部分と、によって構成される局在圧電素子を示し、先端部右側圧電素子P2は、図6に示す先端部右側上層電極E2と下層電極E0と、圧電材料層105のうち上層電極E2の下方に位置する部分と、によって構成される局在圧電素子を示す。
同様に、根端部左側圧電素子P3は、図6に示す根端部左側上層電極E3と下層電極E0と、圧電材料層105のうち上層電極E3の下方に位置する部分と、によって構成される局在圧電素子を示し、根端部右側圧電素子P4は、図6に示す根端部右側上層電極E4と下層電極E0と、圧電材料層105のうち上層電極E4の下方に位置する部分と、によって構成される局在圧電素子を示す。また、参照用圧電素子P5は、図6に示す参照用上層電極E5と下層電極E0と、圧電材料層105のうち参照用上層電極E5の下方に位置する部分と、によって構成される局在圧電素子を示す。
図16(a) に示す回路図上の接地点E0は下層電極、白丸で示すE1〜E5は各上層電極に対応する。各上層電極E1〜E5の発生電荷は、それぞれチャージアンプ501〜505によって電圧V1〜V5に変換される。別言すれば、図16(a) に示す回路は、下層電極E0の電位を基準電位として、先端部左側上層電極E1の電圧V1,先端部右側上層電極E2の電圧V2,根端部左側上層電極E3の電圧V3,根端部右側上層電極E4の電圧V4,参照用上層電極E5の電圧V5をアナログ信号として取り出す役割を果たす。
一方、図16(b) の回路図に示すとおり、電圧V1〜V5は、アナログ演算器511,512,513の入力段に与えられ、所定の演算処理の対象になる。アナログ演算器511は、図12(b) のαxの式に対応する演算を行う構成要素であり、作用した加速度のX軸方向成分αxの検出値を、「電圧V1,V4の和」と「電圧V2,V3の和」との差に基づいて出力端子Txに出力する機能を果たす。
同様に、アナログ演算器512は、図12(b) のαyの式に対応する演算を行う構成要素であり、作用した加速度のY軸方向成分αyの検出値を、原理的には、電圧V1,V2,V3,V4の和に基づいて出力端子Tyに出力する機能を果たす。ただ、上述したとおり、補正項「k・V5」を用いた差分検出を行うようにしているため、実際には、「電圧V1,V2,V3,V4の和」と「電圧V5に所定の補正係数kを乗じて得られる値k・V5」との差に基づいて、検出値αyを出力端子Tyに出力する。
そして、アナログ演算器513は、図12(b) のαzの式に対応する演算を行う構成要素であり、作用した加速度のZ軸方向成分αzの検出値を、「電圧V1,V2の和」と「電圧V3,V4の和」との差に基づいて出力端子Tzに出力する機能を果たす。
前述したように、図12(b) に示す演算式を用いれば、各座標軸方向成分の検出値から、他軸成分の干渉を排除することができるので、出力端子Tx,Ty,Tzから出力される検出値αx,αy,αzは、他軸成分を含まない正確な値になる。もし、製造誤差等により、他軸成分が十分に排除できない場合は、補正演算を行えばよい。
なお、図16に示す例は、検出回路500をアナログ演算回路によって構成した例であるが、もちろん、検出回路500をデジタル演算回路やマイクロプロセッサによって構成することも可能である。この場合は、各上層電極E1〜E4の電圧V1〜V4をデジタルデータに変換した上で、図12(b) に示す演算式に基づく演算をデジタル演算として実行すればよい。
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図1に示す主センサ構造体MSSにおいて、検出効率を高めるためには、板状橋梁部210は、できるだけ薄く、長くするのが好ましい。その理由は、薄くて長い板状橋梁部210を用いれば、可撓性が高まるため、より大きな撓みが生じるようになるためである。板状橋梁部210に大きな撓みが生じれば、圧電材料層105にも大きな撓みが生じ、検出量が増加する。なお、板状橋梁部210の幅を細くすると、大きな撓みを生じさせるメリットは得られるが、圧電材料層105の面積が減少するため、検出量が低下するデメリットが生じてしまう。
このような事情により、本発明に係る加速度センサASを設計する場合、板状橋梁部210を薄く、長くするのが好ましい。しかしながら、薄くて長い板状橋梁部210は、過度の外力が作用すると破損しやすい。たとえば、図8には、重錘体にX軸正方向の力+Fxが作用したときの主センサ構造体MSSの変形態様が示されているが、過度の力+Fx(過度の加速度−αx)が作用すると、橋梁部圧電層110およびその下層の板状橋梁部210に過度の変形が生じて破損する可能性がある。
本発明で採用している主センサ構造体MSSの場合、板状橋梁部210の過度の変位を抑制する変位制限構造を容易に付加することができる。それは、重錘体が、板状橋梁部の左脇に位置する左翼重錘部と右脇に位置する右翼重錘部とを有しているためである。たとえば、図6に示す実施例の場合、左翼圧電層130の下方には左翼重錘部330が配置され、右翼圧電層140の下方には右翼重錘部340が配置されており、橋梁部圧電層110の下方に位置する板状橋梁部210が、左翼重錘部330および右翼重錘部340によって左右から保護された形態をとっている。
したがって、この図6に示す主センサ構造体MSSの右側および左側に何らかの変位制限壁を設ければ、この変位制限壁によって重錘体の左右方向の変位を制限することができる。たとえば、図8の例のように、重錘体にX軸正方向の力+Fxが作用した場合、重錘体は右側の変位制限壁を超えて変位することはできない。同様に、重錘体にX軸負方向の力−Fxが作用した場合、重錘体は左側の変位制限壁を超えて変位することはできない。
また、図6に示す実施例の場合、中央圧電層120の下方には中央重錘部320が配置されているので、図の上方にも変位制限壁を設けておけば、重錘体にY軸正方向の力+Fyが作用した場合にも、重錘体は上方の変位制限壁を超えて変位することはできない。
結局、図6に示す実施例の場合、橋梁部圧電層110の下方に位置する板状橋梁部210が、「コ」の字型をした重錘体によって取り囲まれ、周囲から保護された状態になっているので、主センサ構造体MSSの外側に何らかの変位制限壁を設ければ、重錘体の過度の変位を制限し、板状橋梁部210の破損を避けることが可能になる。板状橋梁部210は、「コ」の字型をした重錘体によって取り囲まれているため、変位制限壁に直接接触することはない。
変位制限壁としては、たとえば、この主センサ構造体MSSを収容する装置筐体の内壁面を利用することが可能である。ただ、重錘体の外面と変位制限壁の内面との間の空隙寸法を適切な値(正常な検出動作に必要な範囲内で重錘体が自由運動を行い、主センサ構造体MSSに破損が生じるような過度の加速度が加わったときには重錘体の変位を制御するのに適切な値)に設定する上では、専用の変位制限壁を設けるようにするのが好ましい。そこで、ここでは、台座400を変位制限壁として利用した実施形態を説明する。もちろん、台座400が装置筐体を兼ねていてもかまわない。
本発明に係る加速度センサASでは、板状橋梁部210の根端部が台座400に固定される。たとえば、図1では、固定部を示す単なるシンボル記号として台座400が示されている。また、図6〜図10では、単なる固定面として台座400が示されている。実際、台座400は、板状橋梁部210の根端部を固定して、重錘体を宙吊り状態にする役割を果たすことができれば、どのような構造のものであってもかまわない。以下に述べる実施形態は、主センサ構造体MSSを取り囲む環状構造体を、台座400として用い、当該環状構造体の内壁を変位制限壁として利用した例である。もちろん、この環状構造体からなる台座400自身を、そのまま装置筐体として利用してもかまわない。
図17は、台座400として矩形状の環状構造体を用いた加速度センサASを示す上面図である(実際には、加速度センサASから、検出回路500を除いた加速度センサ用構造体の部分のみが示されており、検出回路500は図示が省略されている)。図面中央に描かれている主センサ構造体MSSは、§1および§2で述べた圧電素子を用いた実施形態に係る主センサ構造体であり、その周囲に配置された矩形状の方環状構造体が台座400である。主センサ構造体MSSと台座400とは、原点Oの位置で接合されている。
なお、図17に示す実施例では、参照用電極E5は、台座400側の上面に設けられている。これは、台座400自身が圧電素子を含む構造(後述)になっているため、台座400に参照用圧電素子P5を配置することができることを利用したものである。前述したとおり、参照用圧電素子P5は、加速度のY軸方向成分αyを算出する際に差分検出を行うための構成要素であり、加速度が作用しても撓みが生じない部分であれば、どこに形成してもよい。図示の実施例は、主センサ構造体MSSではなく、台座400側に参照用圧電素子P5を形成した例ということになる。
台座400は、XY平面に沿って主センサ構造体MSSを取り囲む環状構造体をなす。より具体的には、台座400は、第1壁部410、第2壁部420、第3壁部430、第4壁部440なる4組の壁部を有する矩形状の方環状構造体によって構成されている。ここで、第1壁部410は、主センサ構造体MSSに対してX軸負方向側に隣接配置され、YZ平面に平行な平面に沿った壁面を構成し、第2壁部420は、主センサ構造体MSSに対してX軸正方向側に隣接配置され、YZ平面に平行な平面に沿った壁面を構成し、第3壁部430は、主センサ構造体MSSに対してY軸正方向側に隣接配置され、XZ平面に平行な平面に沿った壁面を構成し、第4壁部440は、主センサ構造体MSSに対してY軸負方向側に隣接配置され、XZ平面に平行な平面に沿った壁面を構成している。そして、主センサ構造体MSSの一部を構成する板状橋梁部210の根端部が、第4壁部440の内面に支持固定されており、この第4壁部440の上面には、参照用上層電極E5が設けられている。
このような構造を有する加速度センサASに対して、所定の大きさを超える加速度の水平方向成分(XY平面に平行な成分)が作用した場合、重錘体(主センサ第3層300)がこの環状構造体からなる台座400の内面に接触し、それ以上の変位が制限される。ここで「所定の大きさを超える加速度」とは、変位を制限しないと、主センサ構造体MSSの各部(特に、板状橋梁部210)に損傷が生じる可能性のある加速度ということになる。
図示の例では、主センサ構造体MSSの左側面と第1壁部410の内面との間には空隙寸法d11が確保されており、主センサ構造体MSSの右側面と第2壁部420の内面との間には空隙寸法d12が確保されている。同様に、主センサ構造体MSSの上側面と第3壁部430の内面との間には空隙寸法d13が確保されており、主センサ構造体MSSの下側面と第4壁部440の内面との間には空隙寸法d14が確保されている。
したがって、この加速度センサASに過度の加速度が加わり、重錘体にX軸方向の外力成分が作用しても、重錘体の変位は空隙寸法d11,d12の範囲内に制限され、重錘体にY軸方向の外力成分が作用しても、重錘体の変位は空隙寸法d13,d14の範囲内に制限される。このため、板状橋梁部210に生じる撓みの程度を制限することができ、板状橋梁部210の損傷を防ぐことができる。
主センサ構造体MSSと台座400との構造上の関係は、図18〜図20に示す側断面図に詳細に示されている。図18は、図17に示す加速度センサASを切断線18−18に沿って切った断面を示す正断面図である。主センサ構造体MSSは、既に述べたとり、主センサ第1層100,主センサ第2層200,主センサ第3層300を積層した3層構造体からなる。一方、台座400も、台座第1層401,台座第2層402,台座第3層403を積層した3層構造体からなる。
ここで、主センサ第1層100と台座第1層401とは、Z軸に関して全く同じ位置に配置され、主センサ第2層200と台座第2層402とは、やはりZ軸に関して全く同じ位置に配置されている。これに対して、主センサ第3層300と台座第3層403とを比較すると、上面はZ軸に関して全く同じ位置に配置されているが、下面は、主センサ第3層300の方が台座第3層403よりも若干上方に位置している。これは、重錘体(中央重錘部320,左翼重錘部330,右翼重錘部340)を台座400の底面より浮かして宙吊り状態にするためである。
図示のとおり、左翼重錘部330の外側面と第1壁部410の内面との間には空隙寸法d11が確保されており、右翼重錘部340の外側面と第2壁部420の内面との間には空隙寸法d12が確保されている。したがって、重錘体は、X軸方向に関して、これら空隙寸法d11,d12の範囲内で変位可能であるが、当該範囲を超える変位は制限される。この実施例では、d11=d12=20μmに設定している。
図19は、図17に示す加速度センサASを切断線19−19に沿って切った断面を示す側断面図であり、図20は、図17に示す加速度センサASを切断線20−20に沿って切った断面を示す側断面図である。いずれの図にも、主センサ構造体MSSおよび台座400が、3層構造体からなる点が明瞭に示されている。
図示のとおり、中央重錘部320の外側面と第3壁部430の内面との間には空隙寸法d13が確保されており、左翼重錘部330および右翼重錘部340の外側面と第4壁部440の内面との間には空隙寸法d14が確保されている。したがって、重錘体は、Y軸方向に関して、これら空隙寸法d13,d14の範囲内で変位可能であるが、当該範囲を超える変位は制限される。この実施例では、d13=d14=15μmに設定している。
ここで、主センサ構造体MSSを、主センサ第1層100,主センサ第2層200,主センサ第3層300の3層構造体によって構成する理由は、§2で述べた検出動作を行うためである。すなわち、主センサ第2層200は、可撓性を有する板状橋梁部210を構成するための層であり、主センサ第1層100は、板状橋梁部210に生じる撓みを検出するための圧電素子を構成するための層であり、主センサ第3層300は、板状橋梁部210に外力を作用させる重錘体として機能するための層である。
これに対して、台座400は、板状橋梁部210の根端部を支持固定する固定部材としての役割と、重錘体の過度の変位を制限するための変位制限壁としての役割とを果たせば足りるので、機能上は、敢えて3層構造体にする必要はない。しかしながら、図18〜図20に示す実施例において、台座400を主センサ構造体MSSと同様の3層構造体によって構成している理由は、専ら、製造プロセス上の便宜を図るためである。
すなわち、図18に示す実施例の場合、台座400は、上から順に台座第1層401、台座第2層402、台座第3層403を積層した積層構造体によって構成されており、台座第1層401は板状橋梁部210の根端部近傍において主センサ第1層100に連なり、台座第2層402は板状橋梁部210の根端部において主センサ第2層200に連なっている。また、台座第3層403は、主センサ第3層300に対して、物理的には離隔した構成要素になっているが、3層構造体の最下層であり、その上面の位置は同じになっている。
結局、図18に示す実施例の場合、台座第1層401と主センサ第1層100とを同一の材料層から構成することができ、台座第2層402と主センサ第2層200とを同一の材料層から構成することができ、台座第3層403と主センサ第3層300とを同一の材料層から構成することができる。図19および図20には、第4壁部440の上面に形成された参照用上層電極E5が示されているが、台座第1層401は圧電材料層および下層電極層からなる層であるため、参照用上層電極E5の形成領域には、参照用圧電素子P5が形成されることになる。
図21は、図18に示す加速度センサASの主センサ構造体MSSおよび台座400を構成する材料として用いられる積層材料ブロック1000の側断面図である。この積層材料ブロック1000は、上から順に、材料第1層1001、材料第2層1002、材料第3層1003を積層した3層からなる積層構造体である。図の破線は、台座400となるべき部分を示している。
図21において、材料第1層1001は、主センサ第1層100を構成することを意図した層であり、圧電材料層の上下両面に電極となる導電層を形成したものである。同様に、材料第2層1002は、主センサ第2層200を構成することを意図した層であり、たとえば、板状橋梁部210を構成するのに適したシリコン基板によって構成することができる。そして、材料第3層1003は、主センサ第3層300(重錘体)を構成することを意図した層であり、たとえば、十分な質量を確保できるように、SUS等の金属基板によって構成することができる。
このような積層材料ブロック1000の各層に対して、それぞれ必要な加工(たとえば、エッチング加工)を施すことにより、図18〜図20に示す主センサ構造体MSSと台座400とを同時進行で構成することができる。このため、製造工程を単純化して量産化を図ることができ、製造コストを低減することができるようになる。なお、具体的な製造工程については、後に、図44に示す製造プロセスを参照して説明する。
このように、図17に示す加速度センサASでは、主センサ構造体MSSを方環状構造体からなる台座400に収容したため、所定の大きさを超える加速度の水平方向成分(XY平面に平行な成分)が作用した場合、重錘体の変位を制限することが可能である。ここでは更に、所定の大きさを超える加速度の垂直方向成分(Z軸に平行な成分)が作用した場合にも、重錘体の変位を制限する実施例を述べる。
図22は、このような実施例を示す側断面図である。図示の実施例は、図17に示す加速度センサASを、装置筐体600に収容したものであり、本願では、このように装置筐体600を含めた加速度センサASを、便宜上、「加速度検出装置」と呼ぶことにする。すなわち、ここで言う「加速度検出装置」とは、これまで述べてきた加速度センサAS(主センサ構造体MSS、台座400、検出回路500を有する素子)と、この加速度センサASを収容する装置筐体600と、を備える装置ということになる。
図示のとおり、加速度センサASの台座400は、装置筐体600に固定されており、装置筐体600を変位させる外力が作用すると、加速度センサASの重錘体300(主センサ第3層)は、板状橋梁部210の撓みによって装置筐体600内で変位する。図示されていない検出回路500は、当該変位によって各圧電素子に発生した電荷に基づいて、装置筐体600に作用した加速度の各座標軸方向成分を出力する処理を行う。
より具体的には、装置筐体600は、加速度センサASを下方から支持固定するための土台基板610と、加速度センサASの上方を覆う上蓋基板620と、加速度センサASの周囲を囲うように配置され、土台基板610と上蓋基板620とを連結する側壁板630と、を有している。そして、加速度センサASの台座400(各壁部410〜440)の底面は、加速度センサASの重錘体(主センサ第3層300:320,330,340)の底面より下方に位置し、台座400(各壁部410〜440)の底面は土台基板610の上面に固定されている。
その結果、土台基板610の上面と重錘体(主センサ第3層300:320,330,340)の底面との間に、空隙寸法d15を有する下方空隙部が形成されている。また、上蓋基板620は、加速度センサASの主センサ第1層100の上面より上方に位置し、上蓋基板620の下面と主センサ第1層100の上面との間に、空隙寸法d16を有する上方空隙部が形成されている。この実施例では、d15=d16=10μmに設定している。
したがって、加速度センサASに対して、所定の大きさを超える加速度の垂直方向成分が作用した場合には、主センサ構造体ASの一部が土台基板610の上面もしくは上蓋基板620の下面に接触し、それ以上の変位が制限される。かくして、図22に示す加速度検出装置によれば、XYZ三次元座標系において、X軸,Y軸,Z軸のいずれの方向を向いた過度の加速度が作用した場合にも、重錘体の変位を制限することが可能になり、板状橋梁部210の破損を防ぐことができる。
図23は、図22に示す加速度検出装置における重錘体と台座の役割を逆にした変形例に係る加速度検出装置の側断面図である。この図23に示す加速度検出装置も、加速度センサAS′と、この加速度センサAS′を収容する装置筐体600と、を備える装置であり、装置筐体600の部分は、図22に示す装置と全く同じである。ただ、図23に示す加速度センサAS′は、図22に示す加速度センサASとは若干構造が異なっている。
この図23に示す加速度検出装置の場合、加速度センサAS′の主センサ第3層300′(320′,330′,340′)が装置筐体600に固定され、台座400′(410′,420′,430′,440′)が宙吊り状態になっている。このため、装置筐体600に加速度が作用した場合、加速度センサASの台座400′が板状橋梁部210の撓みによって装置筐体600内で変位する。図示されていない検出回路500は、当該変位によって各圧電素子に発生した電荷に基づいて、装置筐体600に作用した加速度の各座標軸方向成分を出力する処理を行う。
より具体的には、装置筐体600は、加速度センサAS′を下方から支持固定するための土台基板610と、加速度センサAS′の上方を覆う上蓋基板620と、加速度センサAS′の周囲を囲うように配置され、土台基板610と上蓋基板620とを連結する側壁板630と、を有している。そして、加速度センサAS′の台座400′(410′,420′,430′,440′)の底面は、加速度センサAS′の主センサ第3層300′(320′,330′,340′)の底面より上方に位置し、主センサ第3層300′(320′,330′,340′)の底面は土台基板610の上面に固定されている。
その結果、土台基板610の上面と台座400′(410′,420′,430′,440′)の底面との間に、空隙寸法d17を有する下方空隙部が形成されている。また、上蓋基板620は、加速度センサAS′の主センサ第1層100の上面より上方に位置し、上蓋基板620の下面と主センサ第1層100の上面との間に、空隙寸法d18を有する上方空隙部が形成されている。この実施例では、d17=d18=10μmに設定している。
したがって、加速度センサAS′に対して、所定の大きさを超える加速度の垂直方向成分が作用した場合には、主センサ構造体AS′の一部が土台基板610の上面もしくは上蓋基板620の下面に接触し、それ以上の変位が制限される。かくして、図23に示す加速度検出装置の場合も、XYZ三次元座標系において、X軸,Y軸,Z軸のいずれの方向を向いた過度の加速度が作用しても、重錘体の変位を制限することが可能になり、板状橋梁部210の破損を防ぐことができる。以上、空隙寸法d11〜d18について具体的な寸法値を例示したが、もちろん、これらの空隙寸法d11〜d18の最適値は、図6および図7に示す各部の寸法値d1〜d10等に応じて定められるべきものである。
ここで、図22に示す加速度検出装置と図23に示す加速度検出装置とについて、動作原理を比較すると、前者の場合、主センサ第3層300(320,330,340)が、装置筐体600内に宙吊り状態となった重錘体として機能し、この重錘体の変位が検出されることになるのに対して、後者の場合、台座400′(410′,420′,430′,440′)が、装置筐体600内に宙吊り状態となった重錘体として機能し、この重錘体の変位が検出されることになる。なお、図23に示す加速度検出装置の場合、原理上は、部材300′を台座と呼び、部材400′を重錘体と呼ぶべきであるが、図22に示す加速度検出装置と対比する便宜上、ここでは部材300′を重錘体と呼び、部材400′を台座と呼んでいる。
一般論として、主センサ第3層300,300′よりも、その外側を取り囲む台座400,400′の方が、より大きな質量をもった構造体にしやすい。たとえば、図17に示す例において、第1壁部410,第2壁部420,第3壁部430,第4壁部440の壁の厚みを厚くすれば、台座400の質量を増加させることは容易である。このように質量の大きな台座を重錘体として利用すれば、より大きな検出量を確保することができる。したがって、一般論としては、図22に示す構造よりも、図23に示す構造の方が、検出感度を高める上では好ましい。もちろん、図23に示す構造を採用した場合にも、台座400′の各座標軸方向への変位は制限されるので、板状橋梁部210の破損を防ぐ効果が得られることになる。
<<< §4. 圧電素子を用いた実施形態の変形例 >>>
続いて、これまで述べてきた圧電素子を用いた実施形態に係る加速度センサASについて、いくつかの変形例を述べておく。
<4−1.第1の変形例A:3層構造体の平面形状の変形例>
§1で述べた実施形態に係る加速度センサASを構成する主センサ構造体MSSは、図1に示すように、主センサ第1層100,主センサ第2層200,主センサ第3層300を積層させた3層構造体によって構成されている。これら3層の平面形状は、それぞれ図2〜図4に示されている。
ここで、図2と図3とを比較すればわかるとおり、主センサ第1層100の平面形状と主センサ第2層200の平面形状とは全く同一であり、両者のXY平面投影像は重なることになる。これは、シリコン基板からなる主センサ第2層200の上面の全領域に、圧電素子からなる主センサ第1層100を形成する製造プロセスを採ったためである。
もっとも、主センサ第1層100(圧電素子)の役割は、主センサ第2層200とともに撓みを生じさせ、この撓みに基づいて検出を行うことにあるので、原理的には、主センサ第1層100(圧電素子)は、撓みが生じる板状橋梁部210の上面に形成されていれば足りる。図2に示す主センサ第1層100は、橋梁部圧電層110,中央圧電層120,左翼圧電層130,右翼圧電層140の4つの部分によって構成されているが、原理的には、橋梁部圧電層110のみを設ければよく、より細かく言えば、橋梁部圧電層110のうち、上層電極E1〜E4が形成される領域にのみ形成されていればよい。
要するに、主センサ第1層100の平面形状と主センサ第2層200の平面形状とは、必ずしも同一である必要はなく、主センサ第1層100は、主センサ第2層200の板状橋梁部210の上面の少なくとも一部分を覆うように形成された圧電素子を有していればよい。
一方、図3と図4とを比較すればわかるとおり、主センサ第2層200の平面形状と主センサ第3層300の平面形状とは、板状橋梁部210の部分を除いて同一になっている。すなわち、図3に示されている主センサ第2層200の各部分を構成する中央板状部220,左翼板状部230,右翼板状部240の平面形状は、それぞれ図4に示されている主センサ第3層300の各部分を構成する中央重錘部320,左翼重錘部330,右翼重錘部340の平面形状と同一である。平面形状における両者の相違は、図3に示されている主センサ第2層200の板状橋梁部210に対応する部分が、図4に示されている主センサ第3層300では、空洞部310になっている点だけである。
このように、主センサ第2層200の平面形状と主センサ第3層300の平面形状とをほぼ同一にすれば、3層の平面形状の外形がほぼ同じになり、主センサ構造体MSSの全体形状を単純化することができる。しかしながら、主センサ第2層200の平面形状と主センサ第3層300の平面形状とは、必ずしもほぼ同一にする必要はない。
図24は、図1に示す主センサ構造体MSSの第1の変形例Aに係る主センサ構造体MSSaを示す上面図である。この主センサ構造体MSSaは、図1に示す主センサ構造体MSSと同様に、主センサ第1層100a,主センサ第2層200a,主センサ第3層300aの3層構造体によって構成されているが、各層の平面形状が異なっている。この第1の変形例Aでは、主センサ第1層100aの平面形状と主センサ第2層200aの平面形状とは同一であるが、これらと主センサ第3層300aの平面形状とは大きく異なっている。
主センサ第1層100aの各部と主センサ第2層200aの各部は、それぞれ同一の平面形状を有している。図24は上面図であるため、主センサ第2層200aは主センサ第1層100aの下層に隠れ、図には現れていないが、括弧書きの符号により、主センサ第1層100aの下方に重なって配置されている主センサ第2層200aの各構成要素が示されている。図から明らかなように、主センサ第3層300aの外周部は、主センサ第1層100aや主センサ第2層200aの外周部から大きく外側に張り出している。
具体的には、中央重錘部320aは、中央圧電層120aや中央板状部220aよりも外側に大きく張り出した構造を有する。また、左翼重錘部330aは、左翼圧電層130aや左翼板状部230aよりも外側に大きく張り出した構造を有し、右翼重錘部340aは、右翼圧電層140aや右翼板状部240aよりも外側に大きく張り出した構造を有する。
このような構造を有する主センサ構造体MSSaも、YZ平面に関して面対称な構造をなしているため、主センサ第3層300aを構成する構造体(重錘体)の重心Gaは、板状橋梁部210aの下方のYZ平面上に位置している。したがって、重錘体が各座標軸方向について安定して変位する点に変わりはない。
このように、重錘体として機能する主センサ第3層300a(中央重錘部320a,左翼重錘部330a,右翼重錘部340a)の外周部を、主センサ第1層100aや主センサ第2層200aの外周部から大きく外側に張り出させる構造を採用すると、過度の加速度が加わった場合に、主センサ第1層100aおよび主センサ第2層200aを保護する機能を向上させることができる。
すなわち、図17に示す主センサ構造体MSSの場合、最も損傷が生じやすい板状橋梁部210が、「コ」の字型の構造体によって囲われているため、過度の変位を生じさせる外力が加わっても、板状橋梁部210自体が台座400に接触することはない。しかしながら、図18を見れば明らかなように、主センサ第1層100,主センサ第2層200,主センサ第3層300の外周面の位置は揃っているため、過度の変位を生じさせる外力が加わった場合、これら各層の外周部が台座400の内面に接触することになる。主センサ第1層100および主センサ第2層200は、主センサ第3層300に比べて厚みが小さいため、台座400の内面に接触すると外周部に損傷が生じるおそれがある。
これに対して、図24に示す主センサ構造体MSSaの場合、厚みの大きな主センサ第3層300aの外周部を外側に張り出させる構造が採られているため、過度の変位を生じさせる外力が加わると、主センサ第3層300aの外周部が台座400の内面に接触し、それ以上の変位が制限される。したがって、厚みの小さな主センサ第1層100aや主センサ第2層200aの外周面が台座400の内面に接触することを防ぐことができ、外周部に損傷が生じることを防止できる。
なお、図24に示す主センサ構造体MSSaでは、主センサ第3層300aを図の上下左右すべての方向に張り出させているが、上記保護効果を得る上では、必ずしもすべての方向に張り出させる必要はない。すなわち、重錘体として機能する主センサ第3層300aについて、その外周部の一部が台座400の内面に接触することにより、図の上下方向の変位および図の左右方向の変位を制限することができる構造になっていればよい。
具体的には、主センサ第3層300aのX軸正方向の端部が重錘体支持部(220a,230a,240a)のX軸正方向の端部よりもX軸正方向に突き出しており、主センサ第3層300aのX軸負方向の端部が重錘体支持部(220a,230a,240a)のX軸負方向の端部よりもX軸負方向に突き出しており、主センサ第3層300aのY軸正方向の端部が重錘体支持部(220a,230a,240a)のY軸正方向の端部よりもY軸正方向に突き出しており、主センサ第3層300aのY軸負方向の端部が重錘体支持部(220a,230a,240a)のY軸負方向の端部よりもY軸負方向に突き出しているようにすればよい。
<4−2.第2の変形例B:重錘体の分離構造>
これまで述べてきた圧電素子を用いた実施形態では、図4に示すとおり、重錘体として機能する主センサ第3層300を、中央重錘部320,左翼重錘部330,右翼重錘部340の3つの部分によって構成していた(図24に示す第1の変形例Aも同様)。しかしながら、本発明では、重錘体として、板状橋梁部210の長手方向軸(Y軸)に関して、左脇に位置する左翼重錘部330と右脇に位置する右翼重錘部340と、を有する主センサ構造体MSSを用いれば、必要な作用効果が得られる。別言すれば、本発明を実施するにあたり、左翼重錘部330と右翼重錘部340とを接続する中央重錘部320は必須のものではない。
図25は、図1に示す主センサ構造体MSSの第2の変形例Bを示す上面図である。図示の主センサ構造体MSSbは、図1に示す主センサ構造体MSSや図24に示す主センサ構造体MSSaと同様に、主センサ第1層100b,主センサ第2層200b,主センサ第3層300bの3層構造体によって構成されている。ここでも、括弧書きの符号は、下方に配置されている主センサ第2層200bの構成要素を示している。図25に示す主センサ第1層100b(110b,120b,130b,140b)は、図24に示す主センサ第1層100a(110a,120a,130a,140a)と全く同一の構成要素であり、図25に示す主センサ第2層200b(210b,220b,230b,240b)は、図24に示す主センサ第2層200a(210a,220a,230a,240a)と全く同一の構成要素である。
図24に示す主センサ構造体MSSaと図25に示す主センサ構造体MSSbとの相違点は、重錘体として機能する主センサ第3層の構造部分のみである。すなわち、図24に示す主センサ構造体MSSaの場合、主センサ第3層300aは、中央重錘部320a,左翼重錘部330a,右翼重錘部340aの3つの部分からなる「コ」の字状の構造体であるが、図25に示す主センサ構造体MSSbの場合、主センサ第3層300bは、左翼重錘部330bおよび右翼重錘部340bの2つの部分からなる構造体であり、両者を接続する中央重錘部は設けられていない。
左翼重錘部330bは、左翼板状部230b(重錘体支持部)の下面に接合され、右翼重錘部340bは、右翼板状部240b(重錘体支持部)の下面に接合されており、重錘体に生じた変位は、支障なく板状橋梁部210bの先端部に伝達される。
このような構造を有する主センサ構造体MSSbでは、重錘体が、左翼重錘部330bと右翼重錘部340bとの2つの部分に分離しているが、YZ平面に関して面対称な構造をなしているため、重錘体の重心Gbは、板状橋梁部210bの下方のYZ平面上に位置している。したがって、重錘体が各座標軸方向について安定して変位する点に変わりはない。
また、図25に示す主センサ構造体MSSbは、図24に示す主センサ構造体MSSaと同様に、主センサ第1層100bおよび主センサ第2層200bの外周部に比べて、主センサ第3層300bの外周部が外側に張り出す構造をとっているため、厚みの小さな主センサ第1層100bや主センサ第2層200bの外周面が台座400の内面に接触することを防ぐことができ、外周部に損傷が生じることを防止する効果も得られる。
すなわち、図25において、右翼重錘部340bのX軸正方向の端部は、右翼板状部240b(重錘体支持部)のX軸正方向の端部よりもX軸正方向に突き出しており、左翼重錘部330bのX軸負方向の端部は、左翼板状部230b(重錘体支持部)のX軸負方向の端部よりもX軸負方向に突き出しており、左翼重錘部330bおよび右翼重錘部340bのY軸正方向の端部は、左翼板状部230bおよび右翼板状部240b(重錘体支持部)のY軸正方向の端部よりもY軸正方向に突き出しており、左翼重錘部330bおよび右翼重錘部340bのY軸負方向の端部は、左翼板状部230bおよび右翼板状部240b(重錘体支持部)のY軸負方向の端部よりもY軸負方向に突き出している。
したがって、重錘体に対して、図の上下方向もしくは図の左右方向に過度の変位を生じさせる外力が加わったとしても、常に、主センサ第3層300b(重錘体)の外周部が台座400の内面に接触し、それ以上の変位が制限される。このため、厚みの小さな主センサ第1層100bや主センサ第2層200bの外周面が台座400の内面に接触することを防ぐことができ、外周部に損傷が生じることを防止できる。
<4−3.第3の変形例C:板状橋梁部の接続角>
図26は、図1に示す主センサ構造体MSSの主センサ第2層200における板状橋梁部210の両端の接続角度を示す上面図である。図示のとおり、主センサ第2層200は、板状橋梁部210、中央板状部220、左翼板状部230、右翼板状部240という4つの部分によって構成されている。
ここで、板状橋梁部210は、検出動作に直接的に関与する撓みを生じる中枢部分であり、第1の長手方向軸L1(これまでの説明ではY軸)に沿って伸びる可撓性をもったビーム状の構造体である。これに対して、中央板状部220は、第1の長手方向軸L1に直交する第2の長手方向軸L2(これまでの説明ではX′軸)に沿って伸びる構造体であり、第1の長手方向軸L1に関して左右対称となる位置に配置されている。そして、板状橋梁部210の先端部は、先端点Tにおいて中央板状部220の中央側部に接続されており、両者はT字状の構造体をなす。
更に、中央板状部220の左側には左翼板状部230が接続され、右側には右翼板状部240が接続されており、主センサ第2層200は、全体として平面形状が「E」の字状をした平板状の構造体を構成している。図の境界線H′は、これら各部の領域を相互に区分けするための境界線に相当する。
このような主センサ第2層200において、板状橋梁部210の先端部(先端点Tの近傍)における中央板状部220に対する接続状態に注目してみると、図示の接続角θ1,θ2は、いずれも90°になる。ここで、接続角θ1は、板状橋梁部210の左側辺と境界線H′とのなす角であり、接続角θ2は、板状橋梁部210の右側辺と境界線H′とのなす角である。このように、接続角θ1,θ2が90°になるのは、第1の長手方向軸L1および第2の長手方向軸L2が互いに直交し、かつ、長方形状の板状橋梁部210が第1の長手方向軸L1を中心軸として配置され、長方形状の中央板状部220が第2の長手方向軸L2を中心軸として配置されているためである。
同様に、板状橋梁部210の根端部(原点Oの近傍)における台座400に対する接続状態に注目してみると、図示の接続角θ3,θ4は、いずれも90°になる。ここで、接続角θ3は、板状橋梁部210の左側辺と台座400の内側面とのなす角であり、接続角θ4は、板状橋梁部210の右側辺と台座400の内側面とのなす角である。このように、接続角θ3,θ4が90°になるのは、第1の長手方向軸L1が台座400の内側面に直交し、かつ、長方形状の板状橋梁部210が第1の長手方向軸L1を中心軸として配置されているためである。
一方、図27は、図1に示す主センサ構造体MSSの第3の変形例Cに係る主センサ第2層200cを示す上面図である。この第3の変形例Cの場合も、主センサ第2層200cは、板状橋梁部210c、中央板状部220c、左翼板状部230c、右翼板状部240cという4つの部分によって構成されているが、これら個々の部分の平面形状は長方形ではなく、変則的な図形になっている。また、板状橋梁部210cは、長手方向軸L1′に沿った方向に伸びる部材であるが、長手方向軸L1′は、台座400の内側面には直交していない。そのため、板状橋梁部210cの先端部についての接続角θ1,θ2および根端部についての接続角θ3,θ4は、90°にはなっていない。
このように、図27に示す第3の変形例Cに係る変則的な形状を有する主センサ第2層200cを用いて本発明に係る加速度センサを形成した場合にも、加速度の検出を行うことが可能である。すなわち、左翼板状部230cの下面に接合された左翼重錘部330cと、右翼板状部240cの下面に接合された右翼重錘部340cと、を有する重錘体を設ければ、当該重錘体の変位により、板状橋梁部210cに撓みが生じるので、その上面に設けた圧電素子により検出を行うことができる。
したがって、本発明を実施する上で、板状橋梁部と中央板状部とは、必ずしも直交させる必要はなく、必ずしも両者によってT字状の構造体を構成する必要はない。たとえば、図27に示す変形例Cの場合、板状橋梁部210cと中央板状部220cは、Y字に近い形態をなしている。また、板状橋梁部は、必ずしも台座400の内側面に対して直交する形態で接続する必要はない。更に、主センサ構造体の各層を構成する各部分の平面形状は、必ずしも長方形である必要はなく、任意の形状でかまわない。
しかしながら、実用上は、図26に示す例のように、主センサ第2層200の各部を、平面が長方形となる部材によって構成し、板状橋梁部210を、台座400の内側面に直交する第1の長手方向軸L1が中心軸となるように配置し、中央板状部220を、第1の長手方向軸L1に直交する第2の長手方向軸L2が中心軸となるように配置し、板状橋梁部210と中央板状部220とが直交してT字状をなすようにするのが好ましい。このような構成を採ると、接続角θ1〜θ4がすべて90°となり、第1の長手方向軸L1に関して左右対称な構造体を得ることができる。したがって、§3で述べたとおり、各座標軸方向成分の検出値から、他軸成分の干渉を容易に排除することができるようになる。
<4−4.第4の変形例D:独立した主センサ部品>
図18に示す加速度センサASは、主センサ構造体MSSの部分と台座400の部分との双方を3層構造体によって構成したため、図21に示すような単一の積層材料ブロック1000を用意して、これに対してエッチングなどの加工処理を施すことにより製造することができるので、量産化に適していることは既に述べたとおりである。
ここで、主センサ構造体MSSを構成する3層構造のうち、主センサ第1層100としては、検出動作を行わせるために圧電素子を用いる必要がある。また、主センサ第2層200としては、シリコン基板を用いるのが適しており、主センサ第3層300としては、金属基板を用いるのが適している。これは、前述したとおり、圧電素子の支持層としてはシリコン基板が最適であり、十分な質量をもった重錘体は、金属基板によって構成するのが最適であるためである。
特に、量産性を考慮すると、図21に示す積層材料ブロック1000を用意する段階において、材料第2層1002をシリコン基板によって構成し、その上面に下層電極E0となるべき金属層を形成し、その上面に圧電材料層を成膜し、更にその上面に上層電極E1〜E4となるべき金属層を形成することにより、材料第1層1001を形成し、これを金属基板からなる材料第3層1003の上面に接合するのが好ましい。
しかしながら、現在のところ、シリコン基板上に圧電素子を形成する処理工程には、高度な設備が必要になり、多大なコストがかかる。実際、現在の技術では、シリコン基板上に圧電素子を形成する処理工程には、当該シリコン基板の材料価格の10倍以上の費用がかかる。したがって、図21に示す積層材料ブロック1000を利用して、図18に示す加速度センサASを製造するプロセスは効率的に行うことができたとしても、積層材料ブロック1000の調達コストは比較的高価にならざるを得ない。
実際、加速度センサASの検出機能に直接関与する圧電素子は、板状橋梁部210の上面に形成された部分のみであり、それ以外の領域に圧電素子を形成する必要はない。特に、台座400に形成された圧電素子は無駄であり、そもそも台座400にシリコン基板を用いる必要は全くない。そこでここでは、シリコン基板およびその上面に形成される圧電素子の平面的なサイズを大幅に削減し、製造コストの低減を図ることができる変形例を述べる。
図28は、図1に示す主センサ構造体MSSの第4の変形例Dに用いる主センサ部品700dを示す図であり、図28(a) はその上面図、図28(b) はこれを切断線b−bに沿って切断した正断面図である。図28(a) において、括弧書きの符号は、各層の構成要素を示している。ここで述べる第4の変形例Dは、原理的には、これまで述べてきた圧電素子を用いた実施形態と全く同じであるが、具体的な部品構成が若干異なっている。図28に示す主センサ部品700dは、これまで述べてきた圧電素子を用いた実施形態における主センサ構造体MSSから、重錘体の部分を除いた部品としての役割を果たす。
図28(a) の上面図に示されているように、主センサ部品700dは、第1の長手方向軸L1に沿って伸びる第1部材710dと、第2の長手方向軸L2に沿って伸びる第2部材720dと、第3の長手方向軸L3に沿って伸びる第3部材730dと、によって構成されている。ここで、第1の長手方向軸L1,第2の長手方向軸L2,第3の長手方向軸L3は、いずれも同一の共通平面上に含まれ、第1の長手方向軸L1と第2の長手方向軸L2とは直交し、第1の長手方向軸L1と第3の長手方向軸L3とは直交する(第2の長手方向軸L2と第3の長手方向軸L3とは平行になる)。
図28(b) の正断面図には、第1部材710dを切断線b−bに沿って切断した断面部分のみが示されている。図示のとおり、第1部材710dは、たとえば、シリコンからなる板状橋梁部712dの上面に、金属からなる下層電極E0を形成し、その上面に橋梁部圧電層711dを形成し、更にその上面の所定箇所に上層電極E1〜E5(図には、切断面に位置するE1,E2の断面のみが現れている)を形成した構造を有しており、その層構造および各層の厚み寸法は、図7に示す実施例と同じである。したがって、この実施例の場合、第1部材710dの厚み寸法d19(板状橋梁部712dの下面から上層電極E1〜E5の上面までの寸法)は、4層の各厚みの和、すなわち、0.01+2.00+0.01+200.00=202.02μmになる。
図示は省略するが、第2部材720dおよび第3部材730dも同様の層構造を有している。すなわち、第2部材720dは、たとえば、シリコンからなる中央板状部722dの上面に、金属からなる下層電極E0を形成し、その上面に中央圧電層721dを形成した構造を有している。また、参照用圧電素子P5を形成するために、中央圧電層721dの上面の所定領域には、参照用上層電極E5が形成されている。一方、第3部材730dは、たとえば、シリコンからなる台座接続部732dの上面に、金属からなる下層電極E0を形成し、その上面に接続部圧電層731dを形成し、更にその上面の所定箇所にボンディングパッドB(図示の例では、5箇所に設けられている)を形成した構造を有している。
ここで、第3部材730dの厚みは、第1部材710dの厚みと同じ寸法d19である(ボンディングパッドBの厚みを上層電極E1〜E5の厚みと同じに設定したため)。また、図示の実施例の場合、第2部材720dの上面には、参照用上層電極E5が形成されているため、第2部材720dの厚みも第1部材710dの厚みと同じ寸法d19である。なお、図示の例の場合、5組のボンディングパッドBと各上層電極E1〜E5との間には配線(図示省略)がなされている。各ボンディングパッドBに対しては、検出回路500からの配線がなされることになる。下層電極E0に対する配線もボンディングパッドを介して行う場合には、下層電極用のボンディングパッドを追加すればよい。
この第4の変形例Dにおいても、4枚の上層電極E1〜E4は、第1部材710dの図の上端近傍の左右両脇位置と第1部材710dの図の下端近傍の左右両脇位置に形成されており、いずれも応力が集中する領域に配置されている。なお、図13〜図15に示す応力分布図を見れば、図28に示す上層電極E1,E2の図面における上端位置は、第1部材710dと第2部材720dとの境界線を越えて、若干図の上方(第2部材720dの領域)に伸びていてもよいことがわかる。同様に、図28に示す上層電極E3,E4の図面における下端位置は、第1部材710dと第3部材730dとの境界線を越えて、若干図の下方(第3部材730dの領域)に伸びていてもよいことがわかる。
一方、図29は、この第4の変形例Dに用いる重錘体300dを示す上面図である。この重錘体300dは、図4に示す重錘体300(主センサ第3層)と同様に、シリコン,金属,ガラス,セラミックスなどの材料によって構成され、中央重錘部320d,左翼重錘部330d,右翼重錘部340dという3つの部分を有する「コ」の字状の構成要素であり、空洞部310dを有する。もちろん、重錘体300dの厚みは、図28に示す第1部材710dに撓みを生じさせるための十分な質量が得られる寸法に設定される。図示の実施例の場合、中央重錘部320dの上面に長方形状の嵌合溝325dが形成されている。この嵌合溝325dは、後述するように、図28に示す主センサ部品700dの第2部材720dを嵌合させて固定するためのものであり、その深さの寸法は、第2部材720dの厚み寸法よりも大きくなるように設定されている。
図30は、この第4の変形例Dに用いる台座400dを示す上面図である。この台座400dは、図17に示す台座400と同様に、第1壁部410d,第2壁部420d,第3壁部430d,第4壁部440dを有する長方形状の構成要素である。ただ、台座400が図18に示すような3層構造体(主センサ構造体MSSと同様の層構造をもつ)によって構成されていたのに対し、図30に示す台座400dは、そのような3層構造をもつ必要はなく、たとえば、金属などの材料からなる単層構造体でかまわない。これは、ここに示す第4の変形例Dの場合、台座400dが、図28に示す主センサ部品700dとは全く別個独立したプロセスで製造されるためである。
なお、図示の実施例の場合、第4壁部440dの上面中央部に、長方形上の嵌合溝445dが形成されている。この嵌合溝445dは、後述するように、図28に示す主センサ部品700dの第3部材730dを嵌合させて固定するためのものであり、その深さの寸法は、第3部材730dの厚み寸法よりも大きくなるように設定されている。
図31は、この第4の変形例Dに係る加速度センサASdの全体構成を示す上面図である(ただし、検出回路500を除いた加速度センサ用構造体の部分のみが示され、検出回路500は図示されていない)。この加速度センサASdは、図30に示す台座400dに、図28に示す主センサ部品700dおよび図29に示す重錘体300dを取り付けることにより構成される。
具体的には、図28に示す主センサ部品700dの第2部材720dを、図29に示す「コ」の字状の重錘体300dの中央重錘部320dに設けられた嵌合溝325dに嵌め込み、第2部材720dの下面を嵌合溝325dの底面に接着する。同様に、この主センサ部品700dの第3部材730dを、図30に示す台座400dの第4壁部440dに設けられた嵌合溝445dに嵌め込み、第3部材730dの下面を嵌合溝445dの底面に接着する。そうすれば、図31に示す加速度センサASdが完成する(実際には、図示されていない検出回路500とボンディングパッドBとの間に配線を行う必要がある。)。
結局、図31に示す加速度センサASdも、矩形状の台座400dの内部に主センサ構造体MSSdを収容した構成を採り、主センサ構造体MSSdが3層構造体からなる点については、図17に示す圧電素子を用いた実施形態に係る加速度センサASと同様である。ただ、図28に括弧書きの符号で示すとおり、主センサ構造体MSSdを構成する主センサ第2層が、板状橋梁部712dの根端部に接続された台座接続部732dを更に有している。この台座接続部732dは、第1の長手方向軸L1(これまで述べた実施形態におけるY軸)と交差する第3の長手方向軸L3(これまで述べた実施形態におけるX軸に平行な軸)を配置軸として、当該配置軸上に配置され、当該配置軸に沿って伸びる部材である。
図29に示すとおり、重錘体300dの所定箇所の上面には、図28に示す中央板状部722d(第2部材720d)を嵌合させてその下面を接着するための嵌合溝325dが形成されており、中央板状部722dが嵌合溝325dに嵌合した状態で固定される。同様に、図30に示すとおり、台座400dの所定箇所の上面には、台座接続部732d(第3部材730d)を嵌合させてその下面を接着するための嵌合溝445dが形成されており、台座接続部732dが嵌合溝445dに嵌合した状態で固定される。
なお、図31に示すとおり、ここに示す実施例の場合、嵌合溝325dの平面形状は第2部材720dの平面形状より若干大きくなるように設計されており、第2部材720dが嵌合溝325d内に余裕をもって嵌合する。一方、嵌合溝445dの平面形状は第3部材730dの平面形状に一致するように設計されており、第3部材730dが嵌合溝445d内にぴったり嵌合する形態になっている。もちろん、各嵌合溝325d,445dとそこに嵌合させる部材720d,730dとの平面形状の関係は、必ずしもこの実施例のようにする必要はない。いずれの場合も、溝内に余裕をもって嵌合させるように設計してもよいし、ぴったり嵌合させるように設計してもよい。
これに対して、各嵌合溝325d,445dの深さとそこに嵌合させる部材720d,730dの厚みとの関係は、前者の寸法の方が後者の寸法よりも大きくなるように、すなわち、嵌合溝が部材の厚みより深くなるように設計するのが好ましい。これは、主センサ部品700dを破損から保護するための配慮である。主センサ部品700dは、たとえば、シリコン基板,圧電素子層,電極を含む部品であるため、重錘体300dや台座400dに比べて破損しやすい部品である。そこで、部材720d,730dが、嵌合溝325d,445dの内部に完全に埋め込まれるようにすれば、主センサ部品700dが何らかの別部材と接触して破損する可能性を低減することができる。
図31に示す実施例の場合、嵌合溝325dの深さ寸法は、第2部材720dの厚み寸法よりも大きくなるように設定されているため、第2部材720dの上面は、中央重錘部320dの上面よりも下方(図の奥方向)に位置し、第2部材720dは重錘体300dの内部に完全に埋め込まれており、外部部材との接触から保護される状態になっている。同様に、嵌合溝445dの深さ寸法は、第3部材730dの厚み寸法よりも大きくなるように設定されているため、第3部材730dの上面(ボンディングパッドBを含めた上面)は、第4壁部440dの上面よりも下方(図の奥方向)に位置し、第3部材730dは台座400dの内部に完全に埋め込まれており、外部部材との接触から保護されている状態になっている。このような構成を採れば、過度の加速度が加わり、各部が大きく変位する事態が生じても、主センサ部品700dが何らかの別部材と接触して破損することを防止できる。
この第4の変形例Dに係る加速度センサASdの製造プロセスは、図17,図18に示す圧電素子を用いた実施形態に係る加速度センサASの製造プロセスとは異なり、各部品を相互に接着して組み立てる工程が必要になるが、板状橋梁部712dに連なる層をシリコンによって構成した場合でも、シリコン層およびその上面の圧電素子は、図28に示す主センサ部品700dの部分にのみ形成すれば足りる。したがって、シリコン基板およびその上面に形成される圧電素子の平面的なサイズを大幅に削減し、製造コストの低減を図ることができる。
また、この第4の変形例Dの場合、図28に示すとおり、第1の長手方向軸L1に沿って配置された第1部材710d(板状橋梁部712d)と、第2の長手方向軸L2に沿って配置された第2部材720d(中央板状部722d)および第3の長手方向軸L3に沿って配置された第3部材730d(台座接続部732d)とは直交しているため、図26に示す接続角θ1〜θ4を90°にすることができる。したがって、第1の長手方向軸L1に関して左右対称な構造体を得ることができ、各座標軸方向成分の検出値から、他軸成分の干渉を容易に排除することができる。
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以上、§1〜§3において、圧電素子を用いた実施形態を説明し、更に§4において、いくつかの変形例を述べた。もちろん、本発明の変形例は§4で述べた変形例に限定されるものではなく、同様の作用効果を奏することができる範囲で、この他にも様々な変形例を実施することが可能である。
たとえば、これまで述べてきた基本的な実施形態やいくつかの変形例では、主センサ構造体MSSを3層構造体によって構成しているが、本発明を実施する上では、必ずしも3層構造体を用いる必要はない。たとえば、主センサ第2層200と主センサ第3層300とを融合させ、板状橋梁部と重錘体とをシリコン基板等で一体に形成するようにしてもかまわない。もちろん、板状橋梁部と重錘体と台座とをシリコンなどの同一材料で一体形成することもできる。
また、これまでの例では、重錘体を構成する主センサ第3層300を、板状橋梁部より下方に配置しているが、板状橋梁部の下方から上方へと連なる重錘体を設けるようにしてもかまわない。
ここでは、これまで述べてきた基本的な実施形態および種々の変形例を踏まえて、本発明の基本概念を総括しておく。まず、図32に、本発明に係る加速度センサに用いられる主センサ構造体10の基本構造を示す。この主センサ構造体10は、図1に示す主センサ構造体MSSにおける主センサ第2層200と主センサ第3層300とを融合させた構造体であり、第1の長手方向軸(Y軸)に沿って、根端部(図の原点Oの位置)から先端部へと伸び、可撓性を有する板状橋梁部11と、この板状橋梁部11の先端部に接続された重錘体12,13,14と、を有している。
ここで、板状橋梁部11の根端部は、台座40に支持固定される。図32には、台座40の実体は示されていないが、台座40は、装置筐体に固定された何らかの部材によって構成すればよい。あるいは、装置筐体の一部を台座として用いてもよい。図32に示す例では、重錘体は、3つの部分12,13,14によって構成され、平面形状が「コ」の字型の部材になっている。ここでは、この3つの部分を、中央重錘部12、左翼重錘部13、右翼重錘部14と呼ぶことにする。
重錘体は、図32に示す例のように、板状橋梁部11の先端部に直接接続する形態をとってもよいし、何らかの中間部材を介して間接的に接続する形態をとってもよい。また、左翼重錘部13と右翼重錘部14とを連結する中央重錘体12は必ずしも設ける必要はない。要するに、重錘体が、板状橋梁部11の第1の長手方向軸(Y軸)に関して左脇に位置する左翼重錘部13と、板状橋梁部11の第1の長手方向軸(Y軸)に関して右脇に位置する右翼重錘部14と、を有していればよい。
図32に示す例の場合、重錘体は、板状橋梁部11の先端部に接合されている中央重錘部12と、この中央重錘部12に接合されている左翼重錘部13および右翼重錘部14と、を有している。そして、中央重錘部12は、第1の長手方向軸(Y軸)に直交する第2の長手方向軸(X軸に平行なX′軸)に沿って伸び、第1の長手方向軸(Y軸)と第2の長手方向軸(X′軸)との交点近傍において、板状橋梁部11の先端部に接合されている。また、左翼重錘部13は、中央重錘部12の第1の長手方向軸(Y軸)に関して左側の部分に接合されており、右翼重錘部14は、中央重錘部12の第1の長手方向軸(Y軸)に関して右側部分に接合されている。
この図32に示す主センサ構造体10は、全体を同一材料からなる一体構造体として構成してもよいし、複数の部材を接合した複合体として構成してもかまわない。§1〜§4で述べた種々の実施例は、いずれも複数の部材を接合した複合体として、図32に示す主センサ構造体10に対応する構造体を構成した例である。
前述したとおり、検出感度を高めるためには、板状橋梁部11は、十分な可撓性が得られるように薄くするのが好ましく、重錘体は、十分な質量が得られるように厚くするのが好ましい。そこで図32に示す例では、板状橋梁部11の厚みに比べて重錘体12,13,14の厚みが大きく設定されており、第1の長手方向軸(Y軸)および第2の長手方向軸(X′軸)をそれぞれ水平面上の軸としたときに、中央重錘部12の側面の上部に板状橋梁部11の先端部が接合されており、重錘体12,13,14の重心が板状橋梁部11の下方に位置するようにしている(重心が板状橋梁部11の上方に位置する構造も理論的には可能であるが、製造工程が困難になる。)。
結局、図32に示す例の場合、第1の長手方向軸(Y軸)および第2の長手方向軸(X′軸)の双方を含む基準投影平面(XY平面)上に、板状橋梁部11、中央重錘部12、左翼重錘部13、右翼重錘部14をそれぞれ投影すると、板状橋梁部11の投影像が中央重錘部12の投影像の中央付近に接合され、板状橋梁部11の投影像と中央重錘部12の投影像とによってT字型図形が形成されることになる。また、第1の長手方向軸(Y軸)を中心軸として左右を定義すれば、左翼重錘部13の投影像が中央重錘部12の投影像の左端付近に接合され、右翼重錘部14の投影像が中央重錘部12の投影像の右端付近に接合されており、板状橋梁部11の投影像と、中央重錘部12の投影像と、左翼重錘部13の投影像と、右翼重錘部14の投影像と、によってE字型図形が形成されることになる。
本発明に係る加速度センサは、このような主センサ構造体10と、その板状橋梁部11の根端部を支持固定する台座40(装置筐体を台座として用いてもよい)と、板状橋梁部11の表面の所定位置に生じる伸縮応力を検出する検出素子と、この検出素子の検出結果に基づいて、重錘体に作用した加速度の検出値を出力する検出回路と、を構成要素とするものである。
このような主センサ構造体10では、根端部が支持された板状橋梁部11の先端部に重錘体が接合されるため、重錘体が片持ち梁構造で支持される。このため、従来型のダイアフラム部の周囲を装置筐体に固定するタイプのセンサのように、温度や実装方法などの利用環境によって検出結果に悪影響が及ぶことを避けることができる。また、重錘体は、板状橋梁部11の左脇と右脇とに配置されるため、板状橋梁部11に撓みを生じさせるための十分な質量を確保することができる。しかも、板状橋梁部11が、左右から重錘体によって保護される構造が採られるため、過度の加速度が加わった場合でも、板状橋梁部11が外部部材と接触して損傷を受けることを防ぐことができる。
図32には、板状橋梁部11の上面に4組の検出素子D1〜D4を配置した状態が示されている。検出素子D1〜D4は、板状橋梁部11の表面の所定位置に生じる伸縮応力を電気的に検出する機能をもった素子であれば、どのような素子を用いてもかまわない。これまでの実施例は、いずれも検出素子D1〜D4として圧電素子を用いたものであるが、後述する§6では、検出素子としてピエゾ抵抗素子を用いた実施形態を示す。
圧電素子は、応力の作用により分極を生じる性質をもった検出素子であり、これまで述べてきた実施例では、このような性質を利用して、上層電極と下層電極とにそれぞれ電荷を発生させ、これを電圧に変換して検出を行うものであった。ただ、このような圧電素子による分極作用は、あくまでも動的な応力変化が加えられた場合に生じる過渡現象であり、同一の応力が定常的に加えられている静的状態では、上層電極および下層電極で発生した正負の電荷が結合してしまうため、検出用の電荷として取り出すことはできない。たとえば、地上で静止状態にある加速度センサには、常に重力加速度が作用しているが、検出素子として圧電素子を用いた場合、静止状態では検出用電荷が発生しないため、重力加速度を検出することはできない。したがって、これまで述べてきた圧電素子を用いた実施形態に係る加速度センサは、地震計やロボットアームなどの動的な変化が生じる環境での利用に適したセンサということになる。
これに対して、ピエゾ抵抗素子は、動的であれ静的であり、作用している応力に応じて電気抵抗が変化する性質をもった検出素子である。このため、検出素子としてピエゾ抵抗素子を用いた実施形態に係る加速度センサでは、重力加速度のような静的な加速度の検出も可能になる。このピエゾ抵抗素子を用いた実施形態については、§6で詳述する。このように、本発明に利用可能な検出素子には、それぞれ固有の特徴があるため、実際には、用途に応じて、適切な検出素子を選択するのが好ましい。
なお、検出素子は、図32に示すように、必ずしも4組を設ける必要はなく、その配置も図示の位置に限定されるものではない。たとえば、ある1軸方向に作用した加速度を検出できればよい1軸型加速度センサであれば、1組の検出素子のみを用いて構成することも可能である。ただ、複数組の検出素子を用いれば、それだけ正確な検出ができ、複数の軸方向成分の検出が可能になるため、実用上は、複数組の検出素子を設けるのが好ましい。図32に示す検出素子D1〜D4は、§1〜§4で述べた種々の実施例における4組の圧電素子P1〜P4に対応するものであり、前述したように、これらの実施例では、加速度の3つの座標軸方向成分αx,αy,αzを検出することができる。
図33は、図32に示す主センサ構造体10を、主センサ検出層200と主センサ重錘層300との2層構造によって構成したものである。図32に示す主センサ構造体が一体構造体であるのに対して、図33に示す主センサ構造体は二層構造体であるが、外形上は全く同一の構造体であるため、ここでは、いずれも同一符号を用いて主センサ構造体10と呼ぶことにする。図33に示す主センサ構造体10は、図1に示す主センサ構造体MSSの一部の構造と全く同じ構造を有する。具体的には、図33に示す主センサ検出層200は、図1に示す主センサ第2層に対応し、図33に示す主センサ重錘層300は、図1に示す主センサ第3層に対応する。
本発明に係る加速度センサを、量産品として製造する上では、図33に示す例のように、主センサ構造体10を、主センサ検出層200と主センサ重錘層300との2層構造によって構成すると便利である。そうすれば、図3に示すような「E」字状の主センサ検出層200と、図4に示すような「コ」の字状の主センサ重錘層300と、を別個に構成し、両者を積層することにより主センサ構造体10を構成することができる。
あるいは、図21に示すような積層材料ブロック1000を利用して主センサ構造体10に準じた構造体を形成する場合は、材料第1層1001および材料第2層1002に対しては「E」字状の主センサ検出層200を構成するためのマスクを用いたエッチングを行い、材料第3層1003に対しては「コ」の字状の主センサ重錘層300を構成するためのマスクを用いたエッチングを行えばよい。
図32および図33では、検出素子D1〜D4が、物理的な構造を特定しない概念的な素子として描かれているが、実際には、各検出素子D1〜D4は、物理的な構造物として具現化される。図1に示した実施例は、図33に示す例における検出素子D1〜D4を、圧電素子によって具現化した例であり、図1の主センサ第1層100が、図33の検出素子D1〜D4に相当する。実際の圧電素子は、下層電極と上層電極との間に圧電材料層を挟んだ立体構造を有しているため、図1に示す実施例では、図33に示す2層構造体の上面に、更に、検出素子D1〜D4として機能する主センサ第1層100を付加している。
このように、図1に示した実施例における主センサ第1層100は、図33の検出素子D1〜D4を圧電素子によって具現化するために付加された構成要素であり、本発明の基本概念上は、必ずしも必要な構成要素ではない。たとえば、§6で述べるように、検出素子としてピエゾ抵抗素子を用いる実施形態の場合、図1に示す主センサ第1層100は不要になり、物理的な構造体としては、図1に示す主センサ第2層200(主センサ検出層)と主センサ第3層300(主センサ重錘層)との積層構造体と、板状橋梁部210の根端部を固定する台座400があれば十分である。この場合、ピエゾ抵抗素子は、板状橋梁部210の表層に埋め込まれた構造体として構成することができる。
§1では、主センサ第2層200における板状橋梁部210以外の部分を、重錘体支持部220,230,240と呼んでいる。この重錘体支持部220,230,240は、板状橋梁部210の先端部に接続されており、その下面には重錘体300が接続されている。その結果、重錘体300の重心Gが、板状橋梁部210の下方に位置する点は、既に述べたとおりである。
特に、図1に示す実施形態では、重錘体支持部として、第1の長手方向軸Yに直交する第2の長手方向軸X′に沿って伸びる中央板状部220が設けられており、板状橋梁部210の先端部を中央板状部220の中央近傍に接続し、板状橋梁部210および中央板状部220によりT字状構造体が形成されるようにしている。そして、左翼重錘部330を中央板状部220の左側の下面に接続し、右翼重錘部340を中央板状部220の右側の下面に接続する構造を採用している。
より具体的には、図1に示す実施形態の場合、重錘体支持部を、第1の長手方向軸Yに直交する第2の長手方向軸X′に沿って伸び、中央近傍が板状橋梁部210の先端部に接続された中央板状部220と、この中央板状部220の左側から板状橋梁部210の左脇に伸びる左翼板状部230と、中央板状部210の右側から板状橋梁部210の右脇に伸びる右翼板状部240と、によって構成しており、左翼重錘部330を左翼板状部230の下面に接続し、右翼重錘部340を右翼板状部240の下面に接続する構造を採用している。また、重錘体300には、左翼重錘部330と右翼重錘部340とを連結する中央重錘部320を設け、この中央重錘部320を中央板状部220の下面に接続するようにしている。
このような構成を採用すると、板状橋梁部210の周囲を重錘体300によって「コ」の字状に覆うような構造が実現でき、また、重錘体300の重心Gを板状橋梁部210の下方の所定位置に置くことができる。そのため、重錘体300の変位に基づいて板状橋梁部210を効率的に撓ませることができる。また、重錘体300の周囲に何らかの変位制限壁を設けるようにすれば、重錘体300に対して過度の変位を生じさせる外力が作用した場合にも、重錘体300の変位を制限し、板状橋梁部210の破損を防止することができる。
実用上は、台座400を重錘体300の変位を制限する変位制限壁として利用するのが好ましい。たとえば、図17に示す実施形態の場合、板状橋梁部210および重錘体300を有する主センサ構造体MSSの周囲を取り囲む環状構造体をなす台座400を用いている。そうすることにより、加速度センサASに対して所定の大きさを超える加速度が作用した場合に、重錘体300の一部が環状構造体からなる台座400の一部に接触し、それ以上の変位を制限することができる。
なお、図26に示すように、板状橋梁部210と中央板状部220とを直交させ、T字状構造体が形成されるようにすると、重錘体300に各座標軸方向の力が作用した場合、図13〜図15に示すように、板状橋梁部210の先端部の左右両側と根端部の左右両側とに応力集中が見られる。
したがって、圧電素子としては、板状橋梁部210の先端部近傍の左側に配置された先端部左側圧電素子P1(上層電極E1の領域に形成される圧電素子)と、板状橋梁部210の先端部近傍の右側に配置された先端部右側圧電素子P2(上層電極E2の領域に形成される圧電素子)と、板状橋梁部210の根端部近傍の左側に配置された根端部左側圧電素子P3(上層電極E3の領域に形成される圧電素子)と、板状橋梁部210の根端部近傍の右側に配置された根端部右側圧電素子P4(上層電極E4の領域に形成される圧電素子)と、を設けるようにすると、効率的な検出が可能になる。
また、圧電素子の具体的な構造は、図1に示されているように、板状橋梁部210の表面に層状に形成された下層電極E0と、下層電極E0の表面に層状に形成された圧電材料層105と、圧電材料層105の表面に局在的に形成された複数の上層電極E1〜E4からなる上層電極群と、を有する積層構造を採ればよい。ここで、圧電材料層105は、層方向に伸縮する応力の作用により、厚み方向に分極を生じる性質を有する材料を用いればよい。
なお、図1に示す実施例の場合、圧電素子(主センサ第1層100)は、板状橋梁部210(主センサ第2層200)の上面に形成されているが、圧電素子は必ずしも板状橋梁部210の上面に形成する必要はなく、側面や下面に形成することも可能である。もちろん、上面と側面の両方に形成したり、上面,側面,下面のすべてに形成してもかまわない。板状橋梁部210の撓みは、上面だけでなく、側面や下面にも応力を発生させるので、側面や下面に形成された圧電素子によっても検出は可能である。
要するに、圧電素子は上面,側面,下面に関わらず、板状橋梁部210の表面に形成されていればよい。たとえば、板状橋梁部210の上面から側面へと連なるように下層電極E0を形成し、この下層電極E0の表面全域に圧電材料層105を形成し、この圧電材料層105の表面の所定箇所(板状橋梁部210の上方だけでなく側方も含めた所定箇所)に局在的に複数の上層電極を形成するようにすれば、板状橋梁部210の上面だけでなく側面にも圧電素子が形成されることになる。この場合、上面に形成された圧電素子だけでなく、側面に形成された圧電素子によっても検出が可能になる。
ただ、板状橋梁部210の上面だけでなく、側面や下面にも圧電素子を形成するためには、複雑な工程が必要になるため、製造コストは高騰せざるを得ない。したがって、実用上は、これまで述べてきた圧電素子を用いた実施形態やその変形例に示すように、板状橋梁部210の上面に圧電素子を設ける構造を採用し、コスト低減を図るのが好ましい。特に、図21に示すような積層材料ブロック1000を用意し、これに対して所定の加工処理を施す量産プロセスを採る場合、圧電素子は板状橋梁部210の上面に形成せざるを得ない。
なお、図22に示す例のように、加速度センサASを装置筐体600内に収容して加速度検出装置を構成する場合には、加速度センサASの台座400を装置筐体600に固定し、装置筐体600に加速度が作用したときに、加速度センサASの重錘体300が板状橋梁部210の撓みによって装置筐体600内で変位するようにし、当該変位に応じた検出回路500からの出力を装置筐体600に作用した加速度の検出値とすればよい。
あるいは、図23に示す例のように、重錘体と台座の役割を逆転させる構成を採ることも可能である。この場合は、台座400′の底面よりも重錘体300′の底面の方が下方に位置する加速度センサAS′を用意し、この加速度センサAS′の重錘体300′を装置筐体600に固定し、装置筐体600を変位させる外力が作用したときに、加速度センサAS′の台座400′が板状橋梁部210の撓みによっ装置筐体600内で変位するようにし、当該変位に応じた検出回路500からの出力を装置筐体600に作用した加速度の検出値とすればよい。
もちろん、図28〜図31に示す実施例のように、いくつかの個別部品を組み立てる方法により、加速度センサASを構成することもできる。図28に示す主センサ部品700dの場合、長手方向軸L1に沿って伸びる板状橋梁部712dの根端部に、この長手方向軸L1に直交する長手方向軸L3に沿って伸びる台座接続部732dが接続されており、この台座接続部732dを台座400dに固定することにより、組み立てを行うことができるようにしている。
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§5でも述べたように、本発明の基本概念では、板状橋梁部の表面の所定位置に生じる伸縮応力を電気的に検出することができれば、検出素子としては、どのような素子を用いてもかまわない。これまでは、検出素子を、板状橋梁部の表面の伸縮変形が生じる所定位置に固定された複数の圧電素子によって構成し、検出回路が、これら複数の圧電素子のそれぞれに発生した電荷に基づいて加速度の検出値を出力する実施例を述べてきた。
ここでは、検出素子を、板状橋梁部の表面の伸縮変形が生じる所定位置に固定された複数のピエゾ抵抗素子によって構成し、検出回路が、これら複数のピエゾ抵抗素子のそれぞれの電気抵抗値に基づいて加速度の検出値を出力する実施例を述べることにする。ピエゾ抵抗素子は、作用している応力に応じて電気抵抗が変化する性質をもった検出素子であり、ピエゾ抵抗素子を検出素子として用いた加速度センサでは、重力加速度のような静的な加速度の検出も可能になる。ここでは、特に、板状橋梁部をシリコン基板によって構成し、各ピエゾ抵抗素子を、このシリコン基板からなる板状橋梁部の表層の一部にp型もしくはn型の不純物を注入した領域によって構成した例を述べる。
図33に示す主センサ構造体10は、既に述べたとおり、主センサ検出層200と、その下方に接合された主センサ重錘層300とを有しており、主センサ検出層200の所定箇所は、台座40によって支持固定される。図33には、概念的な検出素子D1〜D4が描かれているが、ここに示す実施形態の場合、各検出素子はそれぞれピエゾ抵抗素子によって構成されることになる。そして、主センサ検出層200の所定箇所の伸縮変形が、これら複数のピエゾ抵抗素子によって検出される。ここで述べる加速度センサには、これらピエゾ抵抗素子の電気抵抗値に基づいて、作用した加速度の検出値を出力する検出回路が備わっている。
主センサ検出層200は、図1に示す主センサ第2層200と同じ構造を有し、XY平面に平行な面に沿って配置された平板状の層である。図1に示すように、この主センサ検出層200は、Y軸上に配置され可撓性を有する板状橋梁部210と、主センサ重錘層300(主センサ第3層)を支持するための重錘体支持部(220,230,240)と、を有している。重錘体支持部の一部である中央板状部220は、「Y軸と交差しX軸に平行な軸であるX′軸」上に配置されている。
板状橋梁部210は、根端部から先端部へとY軸に沿って伸び、中央板状部220はY軸と交差するようにX′軸に沿って伸び、中央板状部220のY軸と交差する部分近傍に板状橋梁部210の先端部が接続されており、板状橋梁部210と中央板状部220とのXY平面投影像はT字状をなす。
一方、主センサ重錘層300は、図1において、主センサ第3層として示されている構成要素である。この主センサ重錘層300は、主センサ検出層200の重錘体支持部(220,230,240)の下面に接続されており、作用した加速度に基づいて板状橋梁部210に撓みを生じさせるのに十分な質量をもった重錘体として機能する。ここで、板状橋梁部210の両脇について、X座標値が負となる側を左脇、X座標値が正となる側を右脇と定義すると、主センサ重錘層300は、板状橋梁部210の左脇に位置する左翼重錘部330と右脇に位置する右翼重錘部340とを有している。
図1に示すとおり、主センサ検出層200の重錘体支持部は、中央板状部220と、この中央板状部220の左側からY軸に平行な方向に沿って板状橋梁部210の左脇に伸びる左翼板状部230と、中央板状部220の右側からY軸に平行な方向に沿って板状橋梁部210の右脇に伸びる右翼板状部240とを有している。そして、左翼重錘部330が左翼板状部230の下面に接続され、右翼重錘部340が右翼板状部240の下面に接続されている。
また、主センサ重錘層300は、左翼重錘部330と右翼重錘部340とを連結する中央重錘部320を有し、この中央重錘部320は、中央板状部220の下面に接続されている。その結果、左翼重錘部330、右翼重錘部340および中央重錘部320を有する重錘体のXY平面投影像は「コ」の字状をなし、主センサ重錘層300を構成する構造体の重心は、板状橋梁部210の下方に位置する。
このように、図33に示す主センサ構造体10は、図1に示す主センサ検出層200(主センサ第2層)と主センサ重錘層300(主センサ第3層)との2層を接合した構造を有し、YZ平面に関して面対称をなす。したがって、主センサ重錘層300を構成する構造体の重心は、板状橋梁部11の下方のYZ平面上に位置する。ここで、板状橋梁部11の根端部は、台座40によって支持固定され、重錘体として機能する主センサ重錘層300は、板状橋梁部11を用いた片持ち梁構造によって宙吊り状態になる。
この§6で述べる実施形態では、図33に示す検出素子D1〜D4として、ピエゾ抵抗素子を用いている。このピエゾ抵抗素子は、板状橋梁部11の所定箇所の表面に形成されており、当該形成部分に生じる伸縮応力を電気的に検出する役割を果たす。以下、このピエゾ抵抗素子の具体的な配置について説明する。
図34は、図33に示す主センサ構造体10に、加速度のX軸方向成分αxの検出に利用するピエゾ抵抗素子Rx1〜Rx4を配置した状態を示す上面図である。図示のとおり、抵抗素子Rx1のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の先端部近傍のX座標値が負となる側に位置し、抵抗素子Rx2のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の先端部近傍のX座標値が正となる側に位置し、抵抗素子Rx3のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の根端部近傍のX座標値が負となる側に位置し、抵抗素子Rx4のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の根端部近傍のX座標値が正となる側に位置する。図33に示されている検出素子D1〜D4の配置は、これら抵抗素子Rx1〜Rx4の配置に対応するものである。
同様に、図35は、図33に示す主センサ構造体10に、加速度のY軸方向成分αyの検出に利用するピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4を配置した状態を示す上面図である。図示のとおり、抵抗素子Ry1〜Ry4の配置は、図33に示されている検出素子D1〜D4の配置とは若干異なっており、抵抗素子Ry1のXY平面への投影像は、X軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の先端部近傍のX座標値が負となる側に位置し、抵抗素子Ry2のXY平面への投影像は、X軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の先端部近傍のX座標値が正となる側に位置し、抵抗素子Ry3のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の根端部近傍のX座標値が負となる側に位置し、抵抗素子Ry4のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の根端部近傍のX座標値が正となる側に位置する。
また、図36は、図33に示す主センサ構造体10に、加速度のZ軸方向成分αzの検出に利用するピエゾ抵抗素子Rz1〜Rz4を配置した状態を示す上面図である。図示のとおり、抵抗素子Rz1のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の先端部近傍のX座標値が負となる側に位置し、抵抗素子Rz2のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の先端部近傍のX座標値が正となる側に位置し、抵抗素子Rz3のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の根端部近傍のX座標値が負となる側に位置し、抵抗素子Rz4のXY平面への投影像は、Y軸に平行な方向に伸び、板状橋梁部11の根端部近傍のX座標値が正となる側に位置する。当該配置は、図34に示すピエゾ抵抗素子Rx1〜Rx4の配置と同様であり、図33に示されている検出素子D1〜D4の配置に対応するものである。
続いて、これら各ピエゾ抵抗素子を用いた加速度検出の原理を説明する。図37は、図33に示す主センサ構造体10に各座標軸方向の力が作用したときに、図34〜図36に示す各ピエゾ抵抗素子に生じる電気抵抗値の増減変化を示す表である。ここでは、各ピエゾ抵抗素子の長手方向に関する電気抵抗値を考えることにする。別言すれば、各ピエゾ抵抗素子には、その長手方向の両端に外部(検出回路500)への配線がなされ、長手方向に流れる電流についての電気抵抗値が検出されるものとする。また、ここでは、長手方向への伸長応力が加わると電気抵抗値が増加し、長手方向への圧縮応力が加わると電気抵抗値が減少するタイプのピエゾ抵抗素子が用いられている場合を例にとって示す。図37に示す表は、このような前提において、電気抵抗値が増加する場合を「+」、減少する場合を「−」で示すものである。
まず、重錘体として機能する主センサ重錘層300に対して、X軸正方向の力+Fxが作用した場合(装置筐体に加速度−αxが作用した場合)は、図37の表の左欄に示すような電気抵抗値の変化が生じる。すなわち、ピエゾ抵抗素子Rx1,Rx4の電気抵抗値は減少し、ピエゾ抵抗素子Rx2,Rx3の電気抵抗値は増加する。このような現象が生じることは、力+Fxが作用した場合、図8に示すような変形が生じ、ピエゾ抵抗素子Rx1,Rx4(図8におけるE1,E4に相当)には圧縮応力が作用し、ピエゾ抵抗素子Rx2,Rx3(図8におけるE2,E3に相当)には伸長応力が作用することを考慮すれば、容易に理解できよう。
一方、重錘体として機能する主センサ重錘層300に対して、Y軸正方向の力+Fyが作用した場合(装置筐体に加速度−αyが作用した場合)は、図37の表の中央欄に示すような電気抵抗値の変化が生じる。すなわち、ピエゾ抵抗素子Ry1,Ry2の電気抵抗値は増加し、ピエゾ抵抗素子Ry3,Ry4の電気抵抗値は減少する。このような現象が生じることは、力+Fyが作用した場合、図9に示すような変形が生じ、板状橋梁部の上面に形成されているすべてのピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4に対して、Y軸方向についての圧縮応力が作用することを考慮すれば、容易に理解できよう。
すなわち、図35に示すとおり、ピエゾ抵抗素子Ry3,Ry4は、Y軸方向に伸びる抵抗素子であるため、Y軸方向についての圧縮応力が作用すると、電気抵抗値は減少する。これに対して、ピエゾ抵抗素子Ry1,Ry2は、Y軸に直交するX軸方向に伸びる抵抗素子であるため、Y軸方向についての圧縮応力が作用すると、電気抵抗値は増加する。この現象は、基本的には、Y軸方向についての圧縮応力によって、X軸方向についての伸長応力が生じる現象として把握することができるが、理論的には、結晶構造を有する抵抗物質についてのピエゾ抵抗効果によって説明することができる。
そして、重錘体として機能する主センサ重錘層300に対して、Z軸正方向の力+Fzが作用した場合(装置筐体に加速度−αzが作用した場合)は、図37の表の右欄に示すような電気抵抗値の変化が生じる。すなわち、ピエゾ抵抗素子Rz1,Rz2の電気抵抗値は増加し、ピエゾ抵抗素子Rz3,Rz4の電気抵抗値は減少する。このような現象が生じることは、力+Fzが作用した場合、図10に示すような変形が生じ、先端部に配置されたピエゾ抵抗素子Rz1,Rz2(図10におけるE2に相当)には伸長応力が作用し、根端部に配置されたピエゾ抵抗素子Rz3,Rz4(図10におけるE4に相当)には圧縮応力が作用することを考慮すれば、容易に理解できよう。
前述したとおり、この図37の表に示す結果は、長手方向への伸長応力が加わると電気抵抗値が増加し、長手方向への圧縮応力が加わると電気抵抗値が減少するタイプのピエゾ抵抗素子を用いた場合を示しており、逆に、伸長応力が加わると電気抵抗値が減少し、圧縮応力が加わると電気抵抗値が増加するタイプのピエゾ抵抗素子を用いた場合は、増減の関係が逆転する。
この図37の表に示す現象を考慮すると、検出回路500として、たとえば、図38(a) 〜(c) に示すようなホイートストンブリッジを利用した回路を用意しておけば、作用した加速度の各座標軸成分αx,αy,αzを検出することができる。すなわち、図34に示すように、ピエゾ抵抗素子Rx1〜Rx4を配置した実施例については、図38(a) に示す検出回路500Xを用意しておけば、X軸方向成分αxを検出することが可能になり、図35に示すように、ピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4を配置した実施例については、図38(b) に示す検出回路500Yを用意しておけば、Y軸方向成分αyを検出することが可能になり、図36に示すように、ピエゾ抵抗素子Rz1〜Rz4を配置した実施例については、図38(c) に示す検出回路500Zを用意しておけば、Z軸方向成分αzを検出することが可能になる。
図38(a) に示す検出回路500Xは、抵抗素子Rx1および抵抗素子Rx4を第1の対辺とし、抵抗素子Rx2および抵抗素子Rx3を第2の対辺とするX軸検出用ホイートストンブリッジと、このX軸検出用ホイートストンブリッジにおける抵抗素子Rx1,Rx2の接続点と抵抗素子Rx3,Rx4の接続点との間にブリッジ電圧を印加するブリッジ電圧電源Eと、このX軸検出用ホイートストンブリッジにおける抵抗素子Rx2,Rx4の接続点と抵抗素子Rx1,Rx3の接続点との間の電位差を、作用した加速度のX軸方向成分αxの検出値として出力する出力手段(図示の例の場合、αx検出用の出力端子Tx1,Tx2)と、を有している。
図37の表の左欄に示すように、加速度のX軸方向成分αxが作用すると、X軸検出用ホイートストンブリッジにおいて、第1の対辺を構成する抵抗素子Rx1,Rx4の抵抗値の増減の挙動は相互に同じになり、第2の対辺を構成する抵抗素子Rx2,Rx3の抵抗値の増減の挙動も相互に同じになる。その一方で、第1の対辺と第2の対辺とでは、増減の挙動は逆になっている。したがって、X軸検出用ホイートストンブリッジでは、X軸方向成分αxの絶対値に応じた大きさをもち、X軸方向成分αxの向きに応じた符号をもったブリッジ電圧が、出力端子Tx1,Tx2間に出力されることになり、当該ブリッジ電圧が、加速度のX軸方向成分αxを示す検出値となる。
このとき、加速度のY軸方向成分αyが作用した場合は、全抵抗素子Rx1〜Rx4の抵抗値が同じように増減するため、ブリッジ回路は平衡状態を維持し、出力端子Tx1,Tx2間の出力は0になる。また、加速度のZ軸方向成分αzが作用した場合は、抵抗素子Rx1,Rx2の抵抗値の増減と、抵抗素子Rx3,Rx4の抵抗値の増減とが逆になるため、やはりブリッジ回路は平衡状態を維持し、出力端子Tx1,Tx2間の出力は0になる。かくして、出力端子Tx1,Tx2間に出力される検出値は、他軸成分の干渉を受けないX軸方向成分αxを示す正しい検出値になる。
また、図38(b) に示す検出回路500Yは、抵抗素子Ry1および抵抗素子Ry2を第1の対辺とし、抵抗素子Ry3および抵抗素子Ry4を第2の対辺とするY軸検出用ホイートストンブリッジと、このY軸検出用ホイートストンブリッジにおける抵抗素子Ry1,Ry3の接続点と抵抗素子Ry2,Ry4の接続点との間にブリッジ電圧を印加するブリッジ電圧電源Eと、このY軸検出用ホイートストンブリッジにおける抵抗素子Ry2,Ry3の接続点と抵抗素子Ry1,Ry4の接続点との間の電位差を、作用した加速度のY軸方向成分αyの検出値として出力する出力手段(図示の例の場合、αy検出用の出力端子Ty1,Ty2)と、を有している。
図37の表の中央欄に示すように、加速度のY軸方向成分αyが作用すると、Y軸検出用ホイートストンブリッジにおいて、第1の対辺を構成する抵抗素子Ry1,Ry2の抵抗値の増減の挙動は相互に同じになり、第2の対辺を構成する抵抗素子Ry3,Ry4の抵抗値の増減の挙動も相互に同じになる。その一方で、第1の対辺と第2の対辺とでは、増減の挙動は逆になっている。したがって、Y軸検出用ホイートストンブリッジでは、Y軸方向成分αyの絶対値に応じた大きさをもち、Y軸方向成分αyの向きに応じた符号をもったブリッジ電圧が、出力端子Ty1,Ty2間に出力されることになり、当該ブリッジ電圧が、加速度のY軸方向成分αyを示す検出値となる。
このとき、加速度のX軸方向成分αxが作用した場合は、抵抗素子Ry1,Ry3の抵抗値の増減と、抵抗素子Ry2,Ry4の抵抗値の増減とが逆になるため、ブリッジ回路は平衡状態を維持し、出力端子Ty1,Ty2間の出力は0になる。また、加速度のZ軸方向成分αzが作用した場合は、全抵抗素子Ry1〜Ry4の抵抗値が同じように増減するため、やはりブリッジ回路は平衡状態を維持し、出力端子Ty1,Ty2間の出力は0になる。かくして、出力端子Ty1,Ty2間に出力される検出値は、他軸成分の干渉を受けないY軸方向成分αyを示す正しい検出値になる。
そして、図38(c) に示す検出回路500Zは、抵抗素子Rz1および抵抗素子Rz2を第1の対辺とし、抵抗素子Rz3および抵抗素子Rz4を第2の対辺とするZ軸検出用ホイートストンブリッジと、このZ軸検出用ホイートストンブリッジにおける抵抗素子Rz1,Rz3の接続点と抵抗素子Rz2,Rz4の接続点との間にブリッジ電圧を印加するブリッジ電圧電源Eと、このZ軸検出用ホイートストンブリッジにおける抵抗素子Rz2,Rz3の接続点と抵抗素子Rz1,Rz4の接続点との間の電位差を、作用した加速度のZ軸方向成分αzの検出値として出力する出力手段(図示の例の場合、αz検出用の出力端子Tz1,Tz2)と、を有している。
図37の表の右欄に示すように、加速度のZ軸方向成分αzが作用すると、Z軸検出用ホイートストンブリッジにおいて、第1の対辺を構成する抵抗素子Rz1,Rz2の抵抗値の増減の挙動は相互に同じになり、第2の対辺を構成する抵抗素子Rz3,Rz4の抵抗値の増減の挙動も相互に同じになる。その一方で、第1の対辺と第2の対辺とでは、増減の挙動は逆になっている。したがって、Z軸検出用ホイートストンブリッジでは、Z軸方向成分αzの絶対値に応じた大きさをもち、Z軸方向成分αzの向きに応じた符号をもったブリッジ電圧が、出力端子Tz1,Tz2間に出力されることになり、当該ブリッジ電圧が、加速度のZ軸方向成分αzを示す検出値となる。
このとき、加速度のX軸方向成分αxが作用した場合は、抵抗素子Rz1,Rz4の抵抗値の増減と、抵抗素子Rz2,Rz3の抵抗値の増減とが逆になるため、ブリッジ回路は平衡状態を維持し、出力端子Tz1,Tz2間の出力は0になる。また、加速度のY軸方向成分αyが作用した場合は、全抵抗素子Rz1〜Rz4の抵抗値が同じように増減するため、やはりブリッジ回路は平衡状態を維持し、出力端子Tz1,Tz2間の出力は0になる。かくして、出力端子Tz1,Tz2間に出力される検出値は、他軸成分の干渉を受けないZ軸方向成分αzを示す正しい検出値になる。
このように、図38に示す検出回路はいずれもブリッジ電圧として検出値を出力する回路であるため、外部環境による影響を受けない正確な検出値を得ることができる。たとえば、センサ利用時の温度環境が変化すると、各ピエゾ抵抗素子の抵抗値の絶対値は温度の影響を受けて変化してしまう。しかしながら、ホイートストンブリッジにおけるブリッジ電圧として検出値を出力すれば、各ピエゾ抵抗素子の抵抗値の絶対値の変化は相互に相殺されるため、検出値に影響が及ぶことを避けることができる。また、上述したとおり、いずれの検出値も他軸成分の干渉を受けない正しい検出値になる。
なお、図34に示す4組のピエゾ抵抗素子Rx1〜Rx4は、幅および長さを等しく設定することにより、加速度が作用していない状態において、すべて同一の電気抵抗値を示す素子として構成することができ、加速度が作用していない状態において、図38(a) の検出回路500Xからブリッジ電圧として出力される検出値を0にすることができる。図36に示す4組のピエゾ抵抗素子Rz1〜Rz4についても同様であり、加速度が作用していない状態において、図38(c) の検出回路500Zからブリッジ電圧として出力される検出値を0にすることができる。
これに対して、図35に示す4組のピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4については、幅および長さを等しく設定することも可能ではあるが、板状橋梁部11は、Y軸に沿って伸びる細長い部材であるため、X軸に平行な方向に伸びるピエゾ抵抗素子Ry1,Ry2の長さを、Y軸に平行な方向に伸びるピエゾ抵抗素子Ry3,Ry4と同じ長さに設定することは、設計上、困難である。しかしながら、加速度が作用していない状態において、図38(b) の検出回路500Yからブリッジ電圧として出力される検出値を0にするためには、加速度が作用していない状態において、4組のピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4の電気抵抗値が等しくなるような設計を行うのが好ましい(調整用の抵抗素子をブリッジ回路に組み込むことも可能であるが、回路が複雑になる)。
そこで、実用上は、ピエゾ抵抗素子Ry3,Ry4の長さをL、幅をWとした場合に、ピエゾ抵抗素子Ry1,Ry2の長さをL/n、幅をW/nとする設計を行うのが好ましい。一般に抵抗の長さが1/nになるとその抵抗値は1/n倍になるが、幅が1/nになるとその抵抗値はn倍になるので、長さと幅で抵抗値の相違が相殺されることになり、ピエゾ抵抗素子Ry1,Ry2の抵抗値をピエゾ抵抗素子Ry3,Ry4の抵抗値に等しくすることができる。
あるいは、ピエゾ抵抗素子Ry1,Ry2を、それぞれX軸に平行な方向に伸びる複数本の副抵抗素子によって構成し、これら副抵抗素子に対して直列接続するための配線を施して1本のピエゾ抵抗素子を構成するようにしてもかまわない。1本の副抵抗素子の長さはピエゾ抵抗素子Ry3,Ry4の長さLに及ばなくても、これを複数本直列接続することにより、長さLのピエゾ抵抗素子と同等のふるまいが可能になる。
以上述べたとおり、図34に示す実施例は、図38(a) に示す検出回路500Xと併用することにより、作用した加速度のX軸方向成分αxを検出可能な1軸加速度センサとして機能し、図35に示す実施例は、図38(b) に示す検出回路500Yと併用することにより、作用した加速度のY軸方向成分αyを検出可能な1軸加速度センサとして機能し、図36に示す実施例は、図38(c) に示す検出回路500Zと併用することにより、作用した加速度のZ軸方向成分αzを検出可能な1軸加速度センサとして機能する。
もちろん、板状橋梁部11に、αx検出用のピエゾ抵抗素子Rx1〜Rx4と、αy検出用のピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4と、αz検出用のピエゾ抵抗素子Rz1〜Rz4と、を形成し、図38に示す検出回路500X,500Y,500Zをすべて含む検出回路500を用意すれば、αx,αy,αzの3軸成分をすべて検出可能な3軸加速度センサを作成することもできる。
図39は、図32に示す主センサ構造体10(もちろん、図33に示す主センサ構造体10を用いてもかまわない。)に、3軸加速度成分αx,αy,αzを検出するためのピエゾ抵抗素子を配置した実施例を示す上面図である(台座40の部分は、固定状態を示すためにハッチングを施して示した)。この実施例では、板状橋梁部11の上面に合計12組のピエゾ抵抗素子を配置する必要があるため、個々のピエゾ抵抗素子の幅は細くせざるを得ないが、この図39に示す12組のピエゾ抵抗素子は、図34〜図36に示すピエゾ抵抗素子の集合体になっている。したがって、図38に示す検出回路500X,500Y,500Zによって、それぞれ加速度成分αx,αy,αzの検出値を出力することができる。
なお、図39に示す例のように、抵抗素子Rx1,Rx2,Rx3,Rx4は、それぞれ抵抗素子Rz1,Rz2,Rz3,Rz4よりも、板状橋梁部11における外側に配置するのが好ましい。これは、図15に示すとおり、力+Fzが作用したときの応力は、板状橋梁部の横幅全体に広がっているため、抵抗素子Rz1,Rz2,Rz3,Rz4を板状橋梁部の中央(Y軸に近い部分)に配置しても問題ないが、図13に示すとおり、力+Fxが作用したときの応力は、板状橋梁部の外側部分に集中するため、抵抗素子Rx1,Rx2,Rx3,Rx4は、板状橋梁部の外側に配置した方が好ましいためである。
図40は、図39に示す主センサ構造体10を切断線40−40に沿って切断した断面を示す側断面図である。板状橋梁部11は、根端部が原点Oの位置において台座40に支持固定され、Y軸方向に沿って先端部へと伸びている。この板状橋梁部11の先端部には、中央重錘部12が接合され、中央重錘部12には左翼重錘部13(図には現れていない)と右翼重錘部14とが接合されている。図には、板状橋梁部11の上層部分に、ピエゾ抵抗素子Rx1,Rx3の断面が示されている。
図40に示す実施例の場合、一体構造体からなる主センサ構造体10がシリコン基板によって構成されており、その板状橋梁部11の表層の一部にp型もしくはn型の不純物を注入した領域によって、各ピエゾ抵抗素子が形成されている。p型の不純物を注入すると、伸長応力により抵抗値が増加し、圧縮応力により抵抗値が減少するタイプのピエゾ抵抗素子を形成することができ、n型の不純物を注入すると、伸長応力により抵抗値が減少し、圧縮応力により抵抗値が増加するタイプのピエゾ抵抗素子を形成することができる。
もちろん、図33に示すような二層構造からなる主センサ構造体10を用いる場合は、主センサ検出層200をシリコン基板によって構成し、その板状橋梁部11の表層の一部にp型もしくはn型の不純物を注入した領域によって、各ピエゾ抵抗素子を形成すればよい。このようにピエゾ抵抗素子は、シリコン基板からなる板状橋梁部11の表層の一部に埋め込んだ形で形成することができるため、圧電素子を形成する実施例に比べて、加速度センサの物理的構造部の層構成は単純になる。
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最後に、§6で述べたピエゾ抵抗素子を用いた実施形態について、いくつかの変形例を述べておく。まず、図35では、ピエゾ抵抗素子Ry1,Ry2を板状橋梁部11の先端部近傍に配置し、ピエゾ抵抗素子Ry3,Ry4を板状橋梁部11の根端部近傍に配置した例を示した。そして、図39に示す実施例では、ピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4の配置として、図35の配置をそのまま踏襲している。しかしながら、ピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4の配置は必ずしも図35に示す例に限定されるものではない。
図14を参照すればわかるように、重錘体にY軸方向の力Fyが作用した場合は、板状橋梁部の上面全域にわたって、ほぼ均等な応力が発生する。したがって、ピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4は、必ずしも先端部近傍や根端部近傍に配置する必要はなく、板状橋梁部11の任意の位置に配置しても、検出感度に大きな差は生じない。要するに、ピエゾ抵抗素子Ry1およびRy2は、そのXY平面への投影像がX軸に平行な方向に伸びるように配置し、ピエゾ抵抗素子Ry3およびRy4は、そのXY平面への投影像が、Y軸に平行な方向に伸びるように配置すれば、配置の場所は、特に限定されない(但し、各検出値に他軸成分の干渉が生じないようにするためには、若干の配慮が必要である)。
図41は、図39に示す実施例におけるピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4の配置を若干変更した例を示す上面図である。この例では、ピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4は、板状橋梁部11の長手方向に関する中央付近に配置されている。一方、板状橋梁部11の先端部近傍や根端部近傍には、ピエゾ抵抗素子Rx1〜Rx4およびRz1〜Rz4が配置されている。
図13および図15に示す応力分布図を参照すれば、ピエゾ抵抗素子Rx1〜Rx4,Rz1〜Rz4については、応力が集中する先端部近傍や根端部近傍に配置するのが好ましいことがわかる。これに対して、図14の応力分布図を参照すれば、ピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4については、先端部近傍や根端部近傍でなく、中央付近に配置しても、十分な検出感度が得られることがわかる。しかも、図13および図15に示す応力分布図の中央付近は、ほとんど応力が発生しない空白地帯になっているため、ピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4をこの中央付近に配置すれば、αxやαyといった他軸成分が、検出値αyとして誤検出されるおそれもない。
図41に示す実施例は、抵抗素子Rx1〜Rx4およびRz1〜Rz4で混雑している先端部近傍および根端部近傍を避け、空きスペースの多い中央付近にピエゾ抵抗素子Ry1〜Ry4を配置することにより、12組の抵抗素子を分散配置させた好ましい例と言える。このような分散配置を採れば、各ピエゾ抵抗素子の幅をより大きく設定することができるようになり、より高感度の検出が可能になる。
なお、板状橋梁部11をシリコン基板によって構成し、各ピエゾ抵抗素子を、このシリコン基板の表層の一部に注入した不純物領域によって構成する場合、各ピエゾ抵抗素子の電気抵抗値の増減の程度は、結晶方位に大きく依存することになる。特に、X軸方向に平行な方向に伸びる抵抗素子Ry1,Ry2は、その長手方向であるX軸ではなく、長手方向に直交するY軸方向に加わる伸縮応力に応じて電気抵抗値が増減する性質を呈する必要がある。この性質は、理論的には、結晶構造を有する抵抗物質についてのピエゾ抵抗効果によって説明することができるが、電気抵抗値の増減の程度は、結晶方位に大きく依存する。
この§6で述べる形態を実施する上では、図33に示す主センサ検出層200を、面方位(100)に相当する面を上面および下面とするシリコン基板によって構成し、Y軸方向が、当該シリコン基板の結晶軸<100>の方向に一致するような設定を行うと、抵抗素子Ry1,Ry2をはじめとする各ピエゾ抵抗素子の電気抵抗値の増減の程度が最も大きくなることが確認できた。図32に示す一体構造型の主センサ構造体10をシリコン基板によって構成した場合も同様である。したがって、実用上は、上記結晶方位に応じた設定を行うのが好ましい。
以上、図32もしくは図33に示す主センサ構造体10を利用して、検出素子としてピエゾ抵抗素子を用いた実施形態を述べたが、もちろん、§4で述べた様々な変形例に係る主センサ構造体を利用して、ピエゾ抵抗素子を用いた実施形態を実施することも可能である。
たとえば、§4−1,§4−2において変形例A,Bとして述べた図24や図25に示す主センサ構造体MSSa,MSSbを利用して、ピエゾ抵抗素子を用いた実施形態を実施する場合、圧電素子を構成するための主センサ第1層100の構成要素(図に100番台の符号で示されている構成要素)は不要になり、主センサ第2層200(図に200番台の符号で示されている構成要素)をシリコン基板によって構成し、板状橋梁部210a,210bの上面の所定箇所に不純物を注入してピエゾ抵抗素子を形成すればよい。
この場合、主センサ第2層200(図に200番台の符号で示されている構成要素)が主センサ検出層になり、主センサ第3層300(図に300番台の符号で示されている構成要素)が主センサ重錘層になる。そして、主センサ重錘層300のX軸正方向の端部が重錘体支持部(220a,230a,240aもしくは220b,230b,240b)のX軸正方向の端部よりもX軸正方向に突き出しており、主センサ重錘層300のX軸負方向の端部が重錘体支持部のX軸負方向の端部よりもX軸負方向に突き出しており、主センサ重錘層300のY軸正方向の端部が重錘体支持部のY軸正方向の端部よりもY軸正方向に突き出しており、主センサ重錘層300のY軸負方向の端部が重錘体支持部のY軸負方向の端部よりもY軸負方向に突き出している構造が実現され、板状橋梁部210a,210bを破損から保護する効果が得られる。
図42は、§3において図17を参照して説明した加速度センサASにおける主センサ構造体MSSを、主センサ構造体800に置き換えることにより構成される変形例Eに係る加速度センサASeを示す上面図である(検出回路は図示省略)。ここで、主センサ構造体800は、これまで述べてきたように、検出素子としてピエゾ抵抗素子を用いた構造体であり、図示のとおり、板状橋梁部810,中央重錘部820,左翼重錘部830,右翼重錘部840を有している。この主センサ構造体800は、図32もしくは図33に示す主センサ構造体10に対応するものであり、図42に示す各構成要素810,820,830,840は、それぞれ図32もしくは図33に示す各構成要素11,12,13,14に対応する。
主センサ構造体800は、台座400eの内部に収容されている。板状橋梁部810の根端部は、原点Oの位置において台座400eによって支持固定されており、板状橋梁部810の先端部には、中央重錘部820が接合されている。また、中央重錘部820の左側には左翼重錘部830が接合され、中央重錘部820の右側には右翼重錘部840が接合されている。中央重錘部820,左翼重錘部830,右翼重錘部840は、重錘体として機能する。
図42には、便宜上、板状橋梁部810の上面に4組のピエゾ抵抗素子R1〜R4が配置されている状態が示されているが、実際には、加速度センサASeの検出機能に応じて、必要な数のピエゾ抵抗素子が必要な位置に配置される。たとえば、X軸方向成分αxを検出する1軸型センサの場合は、図34に示す抵抗素子Rx1〜Rx4が配置され、Y軸方向成分αyを検出する1軸型センサの場合は、図35に示す抵抗素子Ry1〜Ry4が配置され、Z軸方向成分αzを検出する1軸型センサの場合は、図36に示す抵抗素子Rz1〜Rz4が配置される。また、すべての成分を検出する3軸型センサの場合は、図39もしくは図41に示す12組の抵抗素子が配置される。
この図42に示す変形例Eの場合も、台座400eは、XY平面に沿って主センサ構造体800を取り囲む環状構造体をなし、加速度センサASeに対して所定の大きさを超える加速度の水平方向成分が作用した場合に、重錘体(820,830,840)が環状構造体400eの内面に接触し、それ以上の変位が制限される。このため、板状橋梁部810を破損から保護する効果が得られる。
より具体的には、台座400eは、第1壁部410e、第2壁部420e、第3壁部430e、第4壁部440eなる4組の壁部を有する矩形状の方環状構造体をなしている。ここで、第1壁部410eは、主センサ構造体800に対してX軸負方向側に隣接配置され、YZ平面に平行な平面に沿った壁面を構成し、第2壁部420eは、主センサ構造体800に対してX軸正方向側に隣接配置され、YZ平面に平行な平面に沿った壁面を構成し、第3壁部430eは、主センサ構造体800に対してY軸正方向側に隣接配置され、XZ平面に平行な平面に沿った壁面を構成し、第4壁部440eは、主センサ構造体800に対してY軸負方向側に隣接配置され、XZ平面に平行な平面に沿った壁面を構成している。そして、板状橋梁部810の根端部は、第4壁部440eの内面に支持固定されている。
§3では、図17に示す加速度センサASを、図18に示すような3層構造体によって構成する例を述べた。図42に示す変形例Eに係る加速度センサASeも、このような3層構造体を利用して構成すると、量産に適した製造プロセスを適用することができる。
図43は、図42に示す加速度センサASeを切断線43−43に沿って切断した断面を示す正断面図である。図示のとおり、主センサ構造体800は、上から順に、構造体第1層801,構造体第2層802,構造体第3層803を積層した3層構造体からなる。一方、台座400eも、上から順に、台座第1層401e,台座第2層402e,台座第3層403eを積層した3層構造体からなる。
ここで、構造体第1層801と台座第1層401eとは、Z軸に関して全く同じ位置に配置され、構造体第2層802と台座第2層402eとは、やはりZ軸に関して全く同じ位置に配置されている。これに対して、構造体第3層803と台座第3層403eとを比較すると、上面はZ軸に関して全く同じ位置に配置されているが、下面は、構造体第3層803の方が台座第3層403eよりも若干上方に位置している。これは、重錘体(中央重錘部820,左翼重錘部830,右翼重錘部840)を台座400eの底面より浮かして宙吊り状態にするためである。
図示のとおり、左翼重錘部830の外側面と第1壁部410eの内面との間には所定寸法の空隙が確保されており、右翼重錘部840の外側面と第2壁部420eの内面との間にも所定寸法の空隙が確保されている。したがって、重錘体は、X軸方向に関して、これら空隙の寸法の範囲内でのみ変位可能となる。Y軸方向に関しても同様である。
図43に示す例の場合、構造体第1層801および構造体第2層802の2層構造体によって、図33に示す主センサ検出層200が構成され、構造体第3層803によって主センサ重錘層300が構成されている。このため、たとえば、板状橋梁部810は、2層構造体によって構成されている。そして、台座第1層401eは板状橋梁部810の根端部において構造体第1層801に連なっており、台座第2層402eは板状橋梁部810の根端部において構造体第2層802に連なっている。
このように、図示の例の場合、重錘体(中央重錘部820,左翼重錘部830,右翼重錘部840)は3層構造体によって構成されているが、加速度検出の原理上、重錘体は加速度に起因して生じた外力を板状橋梁部810の先端部に伝達させる役割を果たせばよいので、センサの動作上は、重錘体を3層構造体にする必要はない。同様に、板状橋梁部810は、上記外力を受けて撓みを生じる構造であればよいので、センサの動作上は、2層構造体にする必要はない。台座400eについても、同様であり、センサの動作上は、敢えて3層構造体にする必要はない。
それにもかかわらず、加速度センサASeの物理的構造部を、図43に示すような3層構造体にしているのは、専ら、製造プロセス上の理由によるものである。図において、構造体第1層801および台座第1層401eは、いずれも第1の材料からなり、同一の厚みを有する層であり、構造体第2層802および台座第2層402eは、いずれも第2の材料からなり、同一の厚みを有する層である。また、構造体第3層803および台座第3層403eは、いずれも第3の材料からなる。
ここで、第1の材料のエッチング特性は、第2の材料のエッチング特性と異なり、第3の材料のエッチング特性は、第2の材料のエッチング特性と異なっている。なお、第1の材料と第3の材料とは同一の材料であってもかまわない。要するに、上方から第1の材料層をエッチングする際に、第2の材料層がエッチストッパとして機能し、下方から第3の材料層をエッチングする際に、第2の材料層がエッチストッパとして機能すればよい。そうすれば、図43に示す物理的構造体を、エッチングプロセスによって容易に形成することが可能になるので、製造工程を単純化して量産化を図ることができ、製造コストを低減させることができる。
図44は、図43に示す加速度センサASeを製造するための加工プロセスの一例を示す正断面図である。この加工プロセスでは、図43に示す加速度センサASeの主センサ構造体800および台座400eを構成する材料として、図44(a) に示す積層材料ブロック2000が用いられる。この積層材料ブロック2000は、上から順に、材料第1層2001、材料第2層2002、材料第3層2003を積層した3層からなる積層構造体である。図の破線は、台座400e、板状橋梁部810、そして重錘体820,830,840となるべき部分を示している。
前述したとおり、板状橋梁部810は、ピエゾ抵抗素子を形成する都合上、シリコン基板によって構成するのが好ましい。そこで、積層材料ブロック2000としては、SOI(Silicon On Insulator)基板を用いるのが最適である。たとえば、材料第1層2001としてn型シリコン層(活性層)、材料第2層2002として酸化シリコン膜(絶縁層)、材料第3層2003としてn型シリコン層(ベース層)が形成された3層構造を有するSOI基板を積層材料ブロック2000として用意すれば、次のような製造プロセスにより、図43に示す加速度センサASeの物理的構造部を製造することができる。
まず、図44(b) に示すように、用意したSOI基板の材料第1層2001(n型シリコン層)の上面の所定領域(板状橋梁部810となる部分のピエゾ抵抗素子を配置すべき領域)に、p型不純物を注入することにより、ピエゾ抵抗素子を形成する。また、このピエゾ抵抗素子に対して必要な配線層を形成する。図の断面には、ピエゾ抵抗素子R1,R2が形成された状態が示されている。
続いて、図44(c) に示すように、材料第1層2001および材料第2層2002の加工対象領域Q1〜Q4の部分を除去する加工を行う。当該加工は、上方からの2段階のエッチングにより行うことができる。第1段階は、材料第1層2001(n型シリコン層)を除去するエッチングであり、材料第2層2002(酸化シリコン膜)がエッチストッパとして機能する。続く第2段階は、材料第2層2002(酸化シリコン膜)を除去するエッチングであり、材料第3層2003(n型シリコン層)がエッチストッパとして機能する。このように、各材料層のエッチング特性の違いを利用することにより、エッチングの深さを正確に制御することができる。
次に、図44(d) に示すように、、材料第3層2003の下面側の加工対象領域Q5(重錘体820〜840の下方空間を構成する領域)の部分を除去する加工を行う。当該加工は、下方から所定の深さ(たとえば、10μm程度)だけエッチングする加工により行うことができる。深さ10μm程度のエッチングであれば、一般的なフォトリソグラフィの方法を利用可能である。
そして最後に、図44(d) に示す構造体の下面側から、所定領域に対して、材料第3層2003を貫通するディープエッチングを行えば、図43の正断面図に示すような最終構造体が得られる。すなわち、材料第3層2003のうち、図44(d) に示す加工対象領域Q1,Q2,Q3,Q4の部分は、エッチングにより完全に除去され、上下に貫通する溝が形成される。一方、材料第3層2003のうち、板状橋梁部810の下方部分は、材料第2層2002(酸化シリコン膜)がエッチストッパとして機能するため、板状橋梁部810の部分は除去されずに残ることになる。ここでも、各材料層のエッチング特性の違いを利用することにより、エッチングの深さを正確に制御することができる。
このように、図43に示す加速度センサASeの構造体を製造する際に、図44(a) に示すようなSOI基板からなる積層材料ブロック2000を利用すれば、シリコンからなる材料第1層2001に不純物を注入することによりピエゾ抵抗素子を形成することができ、更に、上方からのエッチングや下方からのエッチングを行う際に、エッチング特性が異なる特定の材料層をエッチストッパとして利用することができるため、量産に適した効率的な製造プロセスが可能になる。
なお、図44では、図43に示すピエゾ抵抗素子を用いた加速度センサASeの構造体を製造するための加工プロセスを例示したが、図18に示す圧電素子を用いた加速度センサASの構造体を製造するための加工プロセスも、これに準じた方法で実施することができる。具体的には、図21に示す積層材料ブロック1000における材料第2層1002および材料第3層1003からなる2層構造体を、図44に示す3層構造を有するSOI基板2000によって構成すればよい。
この場合、図44に示すSOI基板2000の材料第1層2001および材料第2層2002の2層部分が、図21に示す積層材料ブロック1000の材料第2層1002としての役割を果たし、図44に示すSOI基板2000の材料第3層2003の部分が、図21に示す積層材料ブロック1000の材料第3層1003としての役割を果たすことになり、エッチング特性が異なる特定の材料層をエッチングストッパとして利用することができる。もちろん、圧電素子を用いた加速度センサASでは、図21に示すとおり、圧電素子を構成するための材料第1層1001(上下の電極層と圧電材料層)を更に付加する必要があるが、SOI基板を用いれば、材料第2層1002の上層部分がシリコン層になるため、その上面に圧電素子を形成するための最適な環境が得られることになる。
もちろん、本発明に用いる主センサ構造体は、単一のシリコン基板に対して加工を施すことにより製造することもできるが、上述したように、図44に示す3層構造をもったSOI基板を利用した製造方法を採用すれば、製造工程を単純化して量産化を図ることができ、製造コストを低減することができるようになる。SOI基板の各層の厚みについては、特に制約はないが、ここに示す実施例の場合、材料第1層2001の厚みが5〜30μm、材料第2層2002の厚みが1μm、材料第3層2003の厚みが300μmのSOI基板を用いている。また、材料第1層2001の上面に対して、深さ0.5μm程度までp型不純物を注入することによって、ピエゾ抵抗素子を構成している。
ここで、材料第1層2001の厚みは、板状橋梁部810の厚みを定めるものであり、センサの感度を左右する重要なパラメータになる。材料第1層2001の厚みを5μmに設定すると高感度センサが実現でき、30μmに設定すると低感度センサが実現できる。一方、材料第3層2003の厚みは、重錘体の厚みを定めるものであり、やはり、センサの感度を左右する重要なパラメータになる。重錘体を厚くすれば、それだけ質量が増加するため、センサの感度は高くなる。
また、図42に示す重錘体の長さU(Y軸方向の寸法)もセンサ感度を左右するパラメータになる。長さUを長くするほど、重錘体の質量が増加するため、センサの感度は高くなる。ただ、本願発明者が行った実験によると、重錘体の長さUとセンサ感度との関係には、座標軸に依存した相違があることが確認できた。
図45は、図42に示す加速度センサASeにおける重錘体の長さUと各座標軸についての主軸方向感度(加速度の各座標軸方向成分の検出感度)との関係を示すグラフである。図示のとおり、Y軸の検出感度については、重錘体長Uと主軸方向感度との間に線形関係がみられ、長さUに比例して、主軸方向感度も直線的に増加してゆく。ところが、X軸およびZ軸の検出感度については、重錘体長Uと主軸方向感度との間に二次曲線に近い関係がみられ、長さUの2乗にほぼ比例して、主軸方向感度が増加してゆく。
この図45のグラフに示す実験結果は、検出素子としてピエゾ抵抗素子を用いた加速度センサに限らず、圧電素子を用いた加速度センサにおいても確認できた。加速度の各座標軸方向成分αx,αy,αzを検出することができる3軸型の加速度センサの場合、各座標軸についての検出感度ができるだけ等しくなるような設計を行うのが好ましい。図45に示す実験結果を踏まえれば、重錘体の厚みや長さUを調整することにより、3軸の検出感度を任意に調整できることがわかる。したがって、実際に加速度センサを試作する際には、重錘体の厚みや長さUのバリエーションをいろいろと試し、3軸の検出感度をできるだけ均一にする設計を行うようにするのが好ましい。
なお、図43に示す例では、構造体第1層801および構造体第2層802の2層構造体を、図33に示す主センサ検出層200として取り扱い、構造体第3層803を主センサ重錘層300として取り扱っているため、板状橋梁部810が、2層構造体によって構成されているが、構造体第2層802を、主センサ重錘層300の一部として取り扱ってもよい。この場合、構造体第1層801によって主センサ検出層200が構成され、構造体第2層802および構造体第3層803によって主センサ重錘層300が構成されることになる。したがって、板状橋梁部810は、構造体第1層801によってのみ構成される単一層構造体になり、台座第1層401eは板状橋梁部810の根端部において、この構造体第1層801に連なることになる。
もちろん、ピエゾ抵抗素子を用いた実施形態について、§4−3で変形例Cとして述べた図27に示す変則的な構造を有する主センサ構造体を採用することも可能である。
同様に、ピエゾ抵抗素子を用いた実施形態について、§4−4で変形例Dとして述べた図28〜図31に示す独立した主センサ部品を用いた主センサ構造体を採用することも可能である。この場合、主センサ検出層の一部として、板状橋梁部の根端部に接続された台座接続部を更に設け、当該台座接続部は、Y軸と交差しX軸に平行な所定の配置軸上に配置され、当該配置軸に沿って伸びる構造とし、台座の所定箇所の上面には、台座接続部を嵌合するための嵌合溝を形成し、台座接続部を嵌合溝に嵌合した状態で固定すればよい。
また、ピエゾ抵抗素子を用いた実施形態に係る加速度センサを、図22に示すような形態で装置筐体600に収容して加速度検出装置を構成することも可能である。この場合、当該加速度センサの台座を装置筐体600に固定し、装置筐体600に加速度が作用したときに、加速度センサの主センサ重錘層が板状橋梁部の撓みによって装置筐体600内で変位するようにし、当該変位に応じた検出回路からの出力を装置筐体600に作用した加速度の検出値とすることになる。§3で述べたとおり、装置筐体600は、加速度センサに対して所定の大きさを超える加速度成分が作用した場合に、当該変位を制限する役割を果たすことになる。
同様に、ピエゾ抵抗素子を用いた実施形態に係る加速度センサを、図23に示すような形態で装置筐体600に収容して加速度検出装置を構成することも可能である。この場合、当該加速度センサの主センサ重錘層を装置筐体600に固定し、装置筐体600に加速度が作用したときに、加速度センサの台座が板状橋梁部の撓みによって装置筐体600内で変位するようにし、当該変位に応じた検出回路からの出力を装置筐体600に作用した加速度の検出値とすることになる。この場合も、装置筐体600は、加速度センサに対して所定の大きさを超える加速度成分が作用した場合に、当該変位を制限する役割を果たすことになる。