JP2015052269A - 鋼管コンクリート複合杭 - Google Patents

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Abstract

【課題】鋼管コンクリート複合杭において、降伏強度の高い材料を用いたときの最適な構造の鋼管コンクリート複合杭を得る。
【解決手段】鋼管内側にコンクリートをライニングまたは充填した鋼管コンクリート複合杭において、鋼管の設計降伏強度をσyd(N/mm2)、コンクリートの圧縮強度をσc(N/mm2)としたときに、325N/mm2<σyd≦5.15σcという関係を満たすことを特徴とする鋼管コンクリート複合杭。
【選択図】 図1

Description

本発明は、鋼管と鋼管内面側に一体化されたコンクリートからなる鋼管コンクリート複合杭に関するものである。
本明細書において、鋼管の材料強度を表現する用語に関し、以下のように定義する。
(a)設計降伏強度
設計降伏強度(σyd)は、建築,道路,港湾分野などをはじめとした各種設計基準、あるいは国土交通大臣認定によって定められた設計計算に用いる降伏値を意味する。なお、設計降伏強度は実際の降伏強度のバラツキを考慮し、バラツキ範囲内での下限値付近(規格下限値)で設定されている。現状の杭基礎分野においては、鋼管杭および鋼管コンクリート複合杭として使用される鋼管の材質規格はJISA5525に規定されるSKK400、SKK490の2種類であり、それぞれ設計降伏強度は通常、235N/mm2,315または325N/mm2とされる。
(b)実降伏強度
実降伏強度(σyr)は、材料が実際に有している降伏値を意味する。なお、鋼管杭および鋼管コンクリート複合杭として使用される材質規格SKK490鋼管の実降伏強度のばらつき上限は、400N/mm2程度である。
(c)降伏強度
降伏強度は、上記設計降伏強度及び実降伏強度の両方を含む概念とする。
近年、基礎杭の高支持力化や設計地震力の増大に伴い、地震時に建物や地盤から作用する荷重に対して、基礎杭の曲げ性能が不足する場合が多くなっている。
そこで、これに対する対処方法として、鋼管とコンクリートを複合化して、曲げ性能の向上を図るなどの方法がとられている。
鋼管コンクリート複合杭の主な構造としては、図9に示すように、建設現場において鋼管3の内面にコンクリート5を充填して形成する「コンクリート充填鋼管杭」と、例えば特許文献1にも記載されているように、両端に端板1を有し、あらかじめ工場において遠心力成形等により鋼管3の内周面にコンクリート5を一体化する「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)」(図10参照)がある。
特開2007−285019号公報
図3は基礎杭に作用する力を説明する説明図である。図3に示すように、基礎杭7の断面には上部構造物9の重量により圧縮力が作用し、地震時においてはこの圧縮力に加え、地震に起因する曲げモーメントにより圧縮力および引張り力(偶力)が作用する。
図4は地震時の鋼管コンクリート複合杭断面のひずみ分布、コンクリート及び鋼管の応力分布を説明する説明図であり、図4には鋼管3の内部にコンクリート5を充填した杭の断面と、杭断面におけるひずみ分布線図、コンクリート及び鋼管の応力分布線図がそれぞれ示されている。
図4に示されるように、鋼管コンクリート複合杭においては、杭に作用する圧縮力は主としてコンクリート5が負担し、杭に作用する引張り力は主として鋼管3が負担すると考えられる。
このように、鋼管コンクリート複合杭においては、鋼管と鋼管内部にて鋼管に一体化されたコンクリートが外力に抵抗するので、単純に考えれば鋼管に降伏強度のさらに高いものを用いることや、充填するコンクリートにコンクリート強度のさらに高いものを用いることで、基礎杭形状をさらにスリム化でき、これによって建設コストおよび排土量の削減、施工簡略化が期待できるとも考えられる。
ところが、現状においては、鋼管杭あるいは鋼管コンクリート複合杭として用いられている鋼管の設計降伏強度(公称値)は、道路橋示方書、鉄道構造物等設計標準、建築基礎構造設計指針などのいずれの設計基準においても、JIS A 5525「鋼管杭」に適用する品質として325N/mm2以下(SKK490材)、換言すれば設計降伏強度(公称値)は325N/mm2が最大であり、現状では設計降伏強度(公称値)が325N/mm2のものを用いて設計がなされており、このため、基礎杭形状のスリム化には限界があった。
ところが、最近では、降伏強度のさらなる高強度の鋼管杭用の材料が開発されつつあり、このような高強度の材料を用いれば前述した基礎杭形状のスリム化を実現できることになる。
しかしながら、鋼管コンクリート複合杭における鋼管およびコンクリートの相互作用は、鋼管の早期座屈やコンクリート圧壊による杭の強度低下、あるは鋼管拘束度合いによるコンクリート強度増減など複雑であり、単純に鋼管やコンクリートの高強度化を図ればよいというものではない。
ところが、現状では、高強度の鋼材を用いた場合における鋼管コンクリート複合杭の最適な構造について示した文献等はなく、その開発が望まれている。
そこで、本発明においては、鋼管コンクリート複合杭において、降伏強度の高い材料を用いたときの最適な構造の鋼管コンクリート複合杭、及び該鋼管コンクリート複合杭に用いる鋼管を得ることを目的としている。
発明者は上記の目的を達成するために、以下に示すような解析実験等を行い、以下に示す第1、第2の知見を得、これらの知見に基づいて本発明を完成したものである。
以下においては、発明者が得た第1、第2の知見についてそれぞれ説明する。
<第1の知見>
上述した地震時の複合荷重に対する基礎杭の耐力を増大させることを考えた場合、前記の圧縮耐力と引張り耐力をバランス良く向上させることが必要であるとの着想の下、発明者は、コンクリート圧縮強度を一定にして、鋼管(φ1200)の降伏強度を変化させた場合の基礎杭断面耐力の解析実験を、複数種類の圧縮強度のコンクリートについて行なった。
図5は、解析実験の結果を示すグラフであり、横軸が鋼管の降伏強度σy(N/mm2)、縦軸が基礎杭耐力(kN・m)を示している。
図5に示されるように、コンクリート圧縮強度が一定の場合、鋼管の降伏強度を増大させていくと基礎杭断面耐力は増加して行くが、その増加はある地点で頭打ちとなり、それ以上鋼管の降伏強度を大きくしても基礎杭断面耐力向上には寄与しない。この傾向は、コンクリート圧縮強度が変わったとしてもそれぞれの圧縮強度のものについて共通している。
そこで、図5に示した複数のコンクリート強度のものについて、基礎杭断面耐力が頭打ちとなる時点のコンクリート圧縮強度σcと鋼管の降伏強度σyの関係を明らかにするために、図6に示すように、縦軸を鋼管の降伏強度(N/mm2)、横軸をコンクリート圧縮強度(N/mm2)にした座標に基礎杭断面耐力が頭打ちとなる時点のコンクリート圧縮強度σcと鋼管降伏強度σyをプロットし、その傾向を確認することにした。そうすると、両者は比例関係にあり、σy=5.15σcの関係が成り立っていることが明らかになった。なお、図6ではφ600の鋼管についても合わせて示しているが、φ1200のものと同様の結果であった。
図5、図6から明らかなように、鋼管コンクリート複合杭においては、鋼管降伏強度をσy>5.15σcとしても、基礎杭断面耐力の増加には貢献しないことから、鋼管降伏強度をσy>5.15σcとなるような材料を用いたとしても無駄な高強度化に過ぎないことになる。換言すれば、高強度鋼管の適用範囲としてσy≦5.15σcとすることが合理的に基礎杭断面耐力の増加に繋がるとの知見を得た。これが、第1の知見である。
もっとも、前述したように、鋼管コンクリート複合杭として用いられている従来の鋼管の設計降伏強度(公称値)は325N/mm2以下であり、また実降伏強度は450N/mm2未満であり、本発明がこれらよりも降伏強度が高強度のものを用いることを前提としていることから、鋼管降伏強度としてはこれらの値以上のものを用いる。
<第2の知見>
以下、第2の知見について説明する。
地震力作用時における鋼管コンクリート複合杭の終局状態としては、コンクリートが圧縮力を受け破壊ひずみに達し圧壊するケースと、鋼管が引張力を受け破断ひずみに到達し破断するケースとが想定される。通常、鋼管の破断ひずみは十分大きいことから、先にコンクリートが圧壊して終局状態になるものと考えられる。しかしながら、鋼管の肉厚が杭径に対して小さい場合、圧縮力を受けた鋼管に早期に座屈が生じ、地震力の揺さぶりにより座屈箇所に引張り力が作用した場合、通常よりも小さい変形(ひずみ)で鋼管が破断することが考えられる。鋼管の破断で基礎杭が終局を迎えた場合、荷重低下が大きく基礎杭の靭性が不足する事態が懸念される。
したがって、基礎杭が終局を迎えた場合でも基礎杭の靭性を確保するためには、鋼管コンクリート複合杭の終局状態として前述した2つのケースのうちのコンクリートが圧壊するケースにする必要がある。そこで、発明者はこのような終局状態を実現するための条件を設定するために、解析により算出した鋼管座屈発生ひずみεsuとコンクリート圧縮破壊ひずみεcuの比(εsu/εcu)と、鋼管の径と肉厚の比D/tとの関係について、調査を行なった。
図7は、鋼管座屈発生ひずみεsuとコンクリート圧縮破壊ひずみεcuの比(εsu/εcu)と鋼管の径と肉厚の比D/tとの関係を示すグラフであり、縦軸がεsu/εcuで横軸がD/tを示している。
なお、鋼管に充填するコンクリートの充填形態によってεsuが変わるので、図7に示した例では、管径Dに対するコンクリート厚みRを変化させた複数種類の例を示している。R/D=0のものはコンクリートを充填していない中空管を意味し、R/D=0.46のものはコンクリートが管内面全体に充填された状態のものを意味し、R/D=0.1、R/D=0.2、R/D=0.3のものは鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)と同様の状態を意味している。
図7に示されるように、εsu/εcu=1を境界線として、εsu/εcu<1の領域ではコンクリート破壊よりも先行して鋼管に座屈が生じ、逆にεsu/εcu≧1の領域では鋼管の座屈に先行して(εsu/εcu=1の場合は同時に)コンクリート破壊が生じている。したがって、図7の各曲線においてεsu/εcu≧1となるための鋼管の径と肉厚の比D/tの上限値、換言すればコンクリート圧壊ひずみεcuと鋼管座屈ひずみεsuが等しくなる限界径厚比D/tをR/Dの関係として整理するため、図8に示すように、縦軸を限界径厚比D/tとし、横軸をR/Dとした座標に図7におけるεsu/εcu=1と各曲線との交点の値をプロットし、曲線でフィッティングしたところ、最も相関性の高い式として、限界径厚比D/t=80+80×(2・R/D)1/4を得た。
以上の結果より、鋼管の先行破壊を防止するため、鋼管の径と肉厚の比D/tの上限値として、D/t≦80+80×(2・R/ D)1/4とした。これが、第2の知見である。
本発明は以上説明した第1、第2の知見に基づくものであり、具体的には以下の構成を備えてなるものである。
(1)本発明に係る鋼管コンクリート複合杭は、鋼管内側にコンクリートをライニングまたは充填した鋼管コンクリート複合杭において、鋼管の設計降伏強度をσyd(N/mm2)、コンクリートの圧縮強度をσc(N/mm2)としたときに、325N/mm2<σyd≦5.15σcという関係を満たすことを特徴とするものである。
なお、上記(1)の本発明は、高強度材料を用いたときの最適な構造を有する鋼管コンクリート複合杭という物の発明として表現したものであるが、視点を変えれば、高強度材料を用いたときの最適な構造を有する鋼管コンクリート複合杭を設計する方法として表現することもできる。この場合、例えば、鋼管内側にコンクリートをライニングまたは充填した鋼管コンクリート複合杭の設計方法において、鋼管の設計降伏強度をσyd(N/mm2)、コンクリートの圧縮強度をσc(N/mm2)としたときに、325N/mm2<σyd≦5.15σcという関係を満たすように鋼管の設計降伏強度σyd(N/mm2)、コンクリートの圧縮強度σc(N/mm2)を設定するというように表現できる。
(2)また、鋼管内側にコンクリートをライニングまたは充填した鋼管コンクリート複合杭において、鋼管の実降伏強度をσyr(N/mm2)、コンクリートの圧縮強度をσc(N/mm2)としたときに、450N/mm2≦σyr≦5.15σcという関係を満たすことを特徴とする鋼管コンクリート複合杭。
なお、上記(2)の本発明は、上記(1)で述べたのと同様に、高強度材料を用いたときの最適な構造を有する鋼管コンクリート複合杭という物の発明として表現したものであるが、視点を変えれば、高強度材料を用いたときの最適な構造を有する鋼管コンクリート複合杭を設計する方法として表現することもできる。この場合、例えば、鋼管内側にコンクリートをライニングまたは充填した鋼管コンクリート複合杭の設計方法において、鋼管の実降伏強度をσyr(N/mm2)、コンクリートの圧縮強度をσc(N/mm2)としたときに、450N/mm2<σy≦5.15σcという関係を満たすように鋼管の実降伏強度σyr(N/mm2)、コンクリートの圧縮強度σc(N/mm2)を設定するというように表現できる。
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記鋼管が、鋼製コイルをスパイラル形状に巻き上げて溶接して形成されたスパイラル鋼管であることを特徴とするものである。
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記スパイラル鋼管は、そのスパイラル角度β(°)が40°<β≦60°に設定されていることを特徴とするものである。
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、現場継ぎ杭を行う杭端部を有する鋼管コンクリート複合杭であって、継ぎ側の端部に降伏強度が前記鋼管の降伏強度よりも小さい端板を有し、該端板がその全部または一部が鋼管部内に挿入配置され、継ぎ杭の際に前記鋼管部を溶接可能になっていることを特徴とするものである。
(6)また、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、前記鋼管に、コンクリート定着用スリットを設けたことを特徴とするものである。
(7)また、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のものにおいて、鋼管径D(mm)、鋼管板厚t(mm)、コンクリート厚R(mm)の関係において、D/t≦80+80×(2・R/D)1/4という関係を満たすことを特徴とするものである。
なお、上記(7)の本発明は、鋼管の先行破壊を防止できる鋼管コンクリート複合杭という物の発明として表現したものであるが、視点を変えれば、鋼管の先行破壊を防止できる鋼管コンクリート複合杭を設計する方法として表現することもできる。この場合、例えば、鋼管径D(mm)、鋼管板厚(mm)t、コンクリート厚R(mm)の関係において、D/t≦80+80×(2・R/D)1/4という関係を満たすように鋼管径D、鋼管板厚t、コンクリート厚Rを設定することを特徴とする鋼管コンクリート複合杭の設計方法と表現することができる。
(8)また、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の鋼管コンクリート複合杭であって、これを杭先端に拡大根固め球根部を有する基礎杭または該基礎杭の上杭に用いる場合において、前記拡大根固め球根部の根固め径Dg(mm)と前記基礎杭の杭径Dp(mm)の比率をDg/Dp、前記鋼管コンクリート複合杭の鋼管の降伏強度をσy(N/mm2)としたときに、325+(Dg/Dp−1)0.8×125(N/mm2)≦σyという関係を満たすことを特徴とするものである。
(9)また、上記(3)に記載の鋼管コンクリート複合杭に用いる鋼管であって、スパイラル角度β(°)が40°<β≦60°に設定されていることを特徴とするものである。
本発明においては、鋼管の設計降伏強度をσyd、コンクリートの圧縮強度をσcとしたときに、325N/mm2<σyd≦5.15σcという関係を満たすように設定されているので、高強度鋼管を用いた場合において、最適構造化された鋼管コンクリート複合杭となり、従来の鋼管コンクリート複合杭よりも構造をスリム化し、建設コストおよび排土量の削減、施工簡略化が可能となる。
本発明の実施例1を説明する説明図である。 本発明の実施例2を説明する説明図である。 本発明の課題を解決するための手段を説明する説明図であり、基礎杭に作用する外力の説明図である。 本発明の課題を解決するための手段を説明する説明図であり、地震時の鋼管コンクリート複合杭断面のひずみ分布、コンクリート及び鋼管の応力分布を説明する説明図である。 本発明の課題を解決するための手段を説明する説明図であり、コンクリート強度を一定にして、鋼管の降伏強度を変化させた場合の基礎杭断面耐力と鋼管降伏強度との関係を示すグラフである。 本発明の課題を解決するための手段を説明する説明図であり、最適な鋼管降伏強度とコンクリート圧縮強度との関係を示すグラフである。 本発明の課題を解決するための手段を説明する説明図であり、鋼管座屈発生ひずみεsuとコンクリート圧縮破壊ひずみεcuの比(εsu/εcu)と鋼管の径と肉厚の比D/tとの関係を示すグラフである。 本発明の課題を解決するための手段を説明する説明図であり、鋼管の先行破壊を防止するための鋼管の径と肉厚の比D/tの上限値を説明するグラフである。 鋼管コンクリート複合杭の一形態であるコンクリート充填鋼管杭を説明する説明図である。 鋼管コンクリート複合杭の一形態である鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)を説明する説明図である。 本発明の実施の形態4のスパイラル鋼管の説明図である。 本発明の実施の形態4のスパイラル鋼管に関し、スパイラル角度βと、管軸直角方向(周方向)の降伏強度σpcy値とコイル圧延直角方向(コイル幅方向)の降伏強度σbyとの比(σpcy/σby)の関係を示すグラフである。 本発明の実施の形態5を説明するために用いる図であって従来の杭の継手部の説明図である。 本発明の実施の形態5の説明図である。 本発明の実施の形態6の説明図である。 本発明の実施の形態6の説明図であり、図15の四角点線で囲んだA部分の拡大図である。 本発明の実施の形態6の他の態様の説明図である。 本発明の実施の形態6の他の説明図であり、図17の四角点線で囲んだB部分の拡大図である。 本発明の実施の形態6の他の態様の説明図であり、図18の矢視A−A断面図である。 本発明の実施の形態8の説明図である。 本発明の実施の形態8の説明図である。
[実施の形態1]
本発明の実施形態1を以下に示す実施例1、2として説明する。
図1は本発明の実施例1の説明図であり、図1(a)が実施例1、図1(b)が比較例としての従来例を示している。
図1(a)に示す実施例1は、上端に端板1が設置された鋼管3の内面にコンクリート5がライニングされ、中央が中空になった「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)」において、高強度鋼管を用いた場合の例を示したものであり、鋼管3には径1000mmで肉厚9mm、設計降伏強度485N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度100N/mm2の材料を使用した例である。
また、図1(b)に示す従来例では、従来「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)」として用いられている強度の材料を用いて、実施例1と同程度の断面耐力となるように仕様を決めた例を示す。この比較例は、鋼管3は径1200mmで肉厚9mm、設計降伏強度325N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度100N/mm2の材料を使用している。
実施例1と従来例の仕様を表1に示す。なお、表1には実施例1の他の例として、径1000mmで肉厚9mm、設計降伏強度450N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度120N/mm2の材料を使用したものも示している。
Figure 2015052269
実施例1と従来例を比較すると、鋼材量で約20%、コンクリート量および排土量で約40%の削減が可能となる。
また、表1には、本発明の適用範囲外の例を合わせて示しており、この例は設計降伏強度を580N/mm2にしたものである。この場合には、実施例1と鋼管サイズは同一であるが、無駄に強度を高くしたことになり、鋼管材料費が高くなるという欠点がある。
このように、実施例1によれば、鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)を構成する鋼管に降伏強度の高い高強度鋼管を利用することで、従来例に対して鋼材量及び排土量で大きな削減を実現できると共に、鋼管材料費を抑えた合理的な鋼管コンクリート複合杭が実現できている。
図2は本発明の実施例2の説明図であり、図2(a)が実施例2、図2(b)が比較例としての従来例を示している。
図2(a)に示す実施例2は、鋼管3の内面にコンクリート5を充填した「コンクリート充填鋼管杭」において、高強度鋼管を用いた場合の例を示したものであり、鋼管3には径1000mmで肉厚19mm、設計降伏強度355N/mm2の材料を使用し、現場打設のコンクリート5には圧縮強度75N/mm2の材料を使用した例である。
また、図2(b)に示す従来例では、従来「コンクリート充填鋼管杭」として用いられている強度の材料を用いて、実施例2と同程度の断面耐力となるように仕様を決めた例を示す。この従来例においては、鋼管3は径1200mmで肉厚19mm、設計降伏強度325N/mm2の材料を使用し、現場打設のコンクリート5には圧縮強度50N/mm2の材料を使用している。
実施例2と従来例の仕様を表2に示す。
Figure 2015052269
実施例2と従来例を比較すると、鋼材量で約20%、コンクリート量および排土量で約40%の削減が可能となる。
また、表2には、本発明の適用範囲外の例を合わせて示しており、この例は設計降伏強度を580N/mm2にしたものである。この場合には、実施例2と鋼管サイズは同一であるが、無駄に強度を高くしたことになり、鋼管材料費が高くなるという欠点がある。
このように、実施例2によれば、コンクリート充填鋼管杭の場合においても、実施例1の場合と同様に、降伏強度の高い高強度鋼管を利用することで、従来例に対して鋼材量及び排土量で大きな削減を実現できると共に、鋼管材料費を抑えた合理的な鋼管コンクリート複合杭が実現できている。
[実施の形態2]
本発明の実施形態2を以下に示す実施例3として説明する。
本実施例3は、実施例1と同様に、「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)」において、高強度鋼管を用いた場合の例を示したものであり、鋼管3には径1000mmで肉厚9mm、実降伏強度485N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度100N/mm2の材料を使用した例である。
また、比較例として、従来「鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)」として用いられている強度の材料を用いて、実施例3と同程度の断面耐力となるように仕様を決めた例を示す。この比較例は、鋼管3は径1200mmで肉厚9mm、実降伏強度325N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度100N/mm2の材料を使用している。
実施例3と従来例の仕様を表3に示す。なお、表3には実施例3の他の例として、径1000mmで肉厚9mm、実降伏強度450N/mm2の材料を使用し、コンクリート5には圧縮強度120N/mm2の材料を使用したものも示している。
Figure 2015052269
実施例3と従来例を比較すると、鋼材量で約20%、コンクリート量および排土量で約40%の削減が可能となる。
また、表3には、本発明の適用範囲外の例を合わせて示しており、この例は実降伏強度を580N/mm2にしたものである。この場合には、実施例1と鋼管サイズは同一であるが、無駄に強度を高くしたことになり、鋼管材料費が高くなるという欠点がある。
このように、実施例3によれば、鋼管巻き既成コンクリート杭(SC杭)を構成する鋼管に降伏強度の高い高強度鋼管を利用することで、従来例に対して鋼材量及び排土量で大きな削減を実現できると共に、鋼管材料費を抑えた合理的な鋼管コンクリート複合杭が実現できている。
[実施の形態3]
通常、杭用の鋼管はコイルなどの鋼板から成形される。主な成形方法としては、(i)鋼板を対称に曲げて、それぞれの端部を溶接して鋼管に成形する「電縫管」、「UOE管」、(ii)スパイラル形状に巻き上げ溶接して形成する「スパイラル管」がある。
一般に、鋼管杭あるいは鋼管コンクリート複合杭として高頻度で使用される鋼管サイズは、径が600〜2000mm、板厚が6〜19mm程度であるが、このサイズにおける高強度鋼管(設計降伏強度σyd>325N/mm2、実降伏強度σyr(N/mm2≧450N/mm2)は「スパイラル管」が最も製造コストが安く、最も有利な製法となる。
そこで、本実施の形態では、コンクリート複合杭を構成する鋼管として、鋼製コイルをスパイラル形状に巻き上げて溶接して形成されたスパイラル管からなる高強度鋼管を用いたものである。
表4に、スパイラル鋼管の製造費用を1.0としたときの鋼管の製造コストを、他の製造方法の鋼管と比較した比較表を示す。
Figure 2015052269
表4に示されるように、スパイラル管が鋼管サイズの多様性に優れ、かつ製造費用が安価であることが分かる。
なお、「電縫管」および「UOE管」については、ラインパイプ用鋼管でSKK490の規格強度を上回る強度を有する材質の鋼管があるが、スパイラル管ではこれまでにSKK490の規格を上回る鋼管は無く、本明細書によって初めて開示されたものである。
[実施の形態4]
図11、図12に基づいて本実施の形態を説明する。
本実施の形態に係る鋼管コンクリート複合杭用の鋼管は、図11に示すように、スパイラル鋼管を用いたものであって、該スパイラル鋼管は、そのスパイラル角度β(°)が40°<β≦60°に設定されていることを特徴とするものである。
スパイラル鋼管の製造では、圧延成形されたコイルが用いられるが、圧延直角方向(コイル幅方向W)のコイル降伏強度は、圧延方向(長手方向S)のコイル降伏強度を上回ることが一般的である。
スパイラル鋼管は、鋼板をスパイラル形状に巻き上げた上で、溶接して鋼管を形成するため、鋼管の管軸方向および管軸直角方向とコイルの圧延方向および圧延直交方向は一致せずに、傾きβ(スパイラル溶接角度)が生じる。
従って、鋼管の管軸方向および管軸直角方向(周方向)の降伏強度は,(同じコイルを用いたとしても)スパイラル溶接角度βにより変化する。
鋼管コンクリート複合杭を(鋼管、コンクリートともに)高強度化すると耐荷力は向上するが、変形性能は通常強度の杭に比べて低下することが多い。
これは、コンクリートの圧壊により終局状態を迎えるため、脆性破壊を生ずるからである。
コンクリートの脆性破壊を抑える手段としては、コンクリートの周囲をより強度の高い構造で拘束することが有効である。これを実現する構造として、鋼管の管軸直角方向(周方向)の降伏強度をできるだけ大きくすることが有効となる。
従って、比較的降伏強度の高いコイル圧延直角方向(コイル幅方向W)が管軸直角方向(周方向)と一致する鋼管(β=90°)が最も望ましい構造といえるが、スパイラル製法ではこのような構造は製造不可能である。
現実的なコイル幅Wが500mm≦W≦2000mm程度であること、鋼管コンクリート複合杭用の鋼管径Dが400mm≦D≦2000mm程度であることから、スパイラル角度βは60°程度が上限である。なお、スパイラル角度β、コイル幅W、鋼管径Dには、D=W/(πsinβ)の関係がある。
スパイラル角度βの好ましい下限値を求める実験を行った。実験は、スパイラル角度βを変化させたときに、管軸直角方向(周方向)の材料引張試験による降伏強度σpcy値がどのように変化するかというものである。図12はこの実験結果を示すグラフであり、横軸がスパイラル角度βを示し、縦軸が、降伏強度σpcy値を、コイル圧延直角方向(コイル幅方向)の降伏強度σbyで除することで無次元化した鋼管周方向降伏強度比(σpcy/σby)を示している。
この実験結果によりスパイラル角度βは40°超で、管軸直角方向(周方向)の降伏強度が向上することが確認され、スパイラル角度βの下限値としては40°超が好ましい。
したがって、スパイラル溶接角度β(°)が40°<β≦60°となるスパイラル製造鋼管を鋼管コンクリート複合杭用に適用することが最適となる。
本実施の形態の鋼管をコンクリート複合杭用の鋼管として用いることによって、コンクリートの脆性破壊を抑制し、より強靭な鋼管コンクリート複合杭となることから、特に地震時などにおける耐性が向上する。
[実施の形態5]
実施の形態5を図13、図14に基づいて説明する。
鋼管コンクリート複合杭では、鋼管の端部に内在するコンクリートの成形および鋼管との一体化の目的で鋼管の端部に端板が取り付けられている。一般的な鋼管コンクリート複合杭11に設置される端板13は、図13に示すように、ドーナツ状の円形鋼板からなり、該円形鋼板を鋼管15の端部に突き合わせ溶接により取り付けられている。
このような端板13を有する鋼管コンクリート複合杭11同士を現場で接合する際には、図13に示すように、端板13同士を突き合わせて溶接でつなぐのが一般的である。
端板13同士を突き合わせて溶接でつなぐと、継手部16には、図13に示すように、端板13同士を接合する溶接部17、端板13、端板13と鋼管15を接合する溶接部19が存在する。
そのため、継手部16が杭本体部である鋼管15と同等の曲げ強度を有するためには、以下の要件が必要とされる。第一に、端板13に用いる鋼材が鋼管15と同等以上の強度を有すること。第二に、端板13と鋼管15を溶接する溶接材料及び端板同士を溶接する溶接材料が鋼管15と同等以上の強度を有すること。
このため、継手部16に杭本体部と同等の曲げ強度を持たせようとすると、鋼管コンクリート複合杭11に用いる鋼管強度にあわせて端板13や溶接材料の強度も変更する必要があり、製造時の手間や端板13の材質や種類管理の煩雑さを招いていた。
そこで、本実施の形態に係る鋼管コンクリート複合杭21は、図14に示すように、継ぎ側の端部に端板23を有し、該端板23を鋼管内部に挿入配置することにより、継ぎ杭の際に前記鋼管部25を溶接可能にしたものである。
継ぎ側の端部を上記のような構造にすることで、図14に示すように、鋼管部25同士を溶接で繋ぐことができ、継手部27の強度が端板23の材料強度に影響を受けない。そのため、鋼管部25の強度に応じて端板23の材質を変更しなくても、溶接部29を形成する溶接材料の強度を鋼管の強度と同等以上にすれば継手部27の強度を鋼管強度と同等に確保することができる。
なお、本実施の形態の端板23は継手部27において構造部材として機能しないので、従来例のように端板23同士を接合する場合よりも薄くしたり、端板23の材質を低強度のものにしたりして端板23の強度を鋼管部25の強度より小さくすることができる。
[実施の形態6]
本実施の形態を図15に基づいて説明する。図15は杭体の上部を示すものであり、杭体における中心線の右側が断面図であり、左側が側面図になっている。
本実施の形態に係る鋼管コンクリート複合杭31は、鋼管33に、コンクリート定着用スリット35を設けたものである。なお、本実施の形態では、杭体の下部をコンクリート杭36で形成し、その上部に鋼管コンクリート複合杭31を継杭してなるものである。
鋼管にコンクリート定着用スリット35を設けることで鋼管33とコンクリート34の付着効果により一体化が強まり、より強固な鋼管コンクリート複合杭となる。
なお、通常の杭では、基礎梁(フーチング)37と結合される杭頭部や地層変化部においてせん断力が卓越することが多く、コンクリート34と鋼管33の一体化(付着性能)が求められる。従って、このような部位、つまり杭頭部や地層変化部のみコンクリート定着用スリット35を設けるようにするのが好ましい。なお、図15に示した例では、鋼管33における基礎梁(フーチング)37へ埋め込んだ部分、鋼管33の下端部及び中間部にコンクリート定着用スリット35を設けている。
コンクリート定着用スリット35のサイズは、鋼管内に充填またはライニングするコンクリートの骨材が目詰まりしないように縦(a)100mm、幅(b)30mm程度とすればよい(図16参照)。また、スリット間隔(p)は、鋼管径Dによって調整すればよいが、例えば鋼管径D=1000mmの場合であれば、鋼管周方向に約300mmピッチとすればよい(図16参照)。
なお、コンクリート定着用スリット35の形状は、長方形、三角形、円形または楕円形などいずれの形状でもよい。
図17は本実施の形態の他の態様の説明図、図18は図17の四角点線で囲んだ部分の拡大図、図19は図18の矢視A−A断面図である。図17に示す例では、コンクリート定着用スリット35を鋼管33の上端部と下端部に設け、コンクリート定着用スリット35におけるコンクリートの定着を補強するため、U字状の補強金物39を設置している。
本実施の形態によれば、より強固な鋼管コンクリート複合杭となることから、杭基礎サイズの低減が可能となり、ひいてはコスト削減につながる。
また、鋼管コンクリート複合杭(SC杭)で鋼管とコンクリートを一体化させるため用いられている端板を簡易な形状にすることができる。
また、通常、従来のコンクリートに比べ高強度コンクリートの養生時には、コンクリートは体積収縮(乾燥収縮)が大きくなるため、一体性を確保するため膨張材などの混和材が用いられるが、コンクリート定着用スリットによる付着効果により膨張材が不用となる。
[実施の形態7]
本実施の形態は、鋼管径D(mm)、鋼管板厚t(mm)、コンクリート厚R(mm)の関係において、D/t≦80+80×(2・R/D)1/4という関係を満たす場合の一例を実施例として示すものである。
本実施の形態では、表5に示す3種類の鋼管コンクリート複合杭(本発明適用範囲、適用範囲外)について曲げ実験を実施し、杭の性能および破壊要因を調べた。結果を表5に示す
Figure 2015052269
本発明適用範囲のものについては、良好な耐荷力性能および靭性を発揮し、破壊形態も想定通りのコンクリート圧壊によるものであった。
これに対して、本発明適用範囲外のものは、想定通り鋼管の座屈により破壊しており、耐荷力性能および靭性ともに本発明適用範囲のものに比べて低下した。
以上の結果から、鋼管径D(mm)、鋼管板厚t(mm)、コンクリート厚R(mm)の関係を本発明範囲にすることで、良好な耐荷力性能および靭性を発揮し、破壊形態をコンクリート圧壊にすることができることが実証された。
[実施の形態8]
近年、杭の先端部に根固め部を設けて鉛直支持力を高める工法が実用化されてきたことから、その実績を受けて鋼管とコンクリートによって構成される杭においても先端部を拡大し支持力を高めようとする動きが出ている。すなわち、杭先端部を拡大掘削し、根固め液(セメントミルク)を注入して拡大球根部を築造することにより、従来よりも高い鉛直支持力を有する先端拡大根固め杭が開発されている。
先端拡大根固め杭の一般的な施工法を示すと以下の通りである。
(i)掘削液を噴出しながら所定深度までの土砂を連続的に掘削・泥土化するとともに、先端部を所定の区間で拡大掘削する。
(ii)拡大掘削した範囲に根固め液(セメントミルク)を注入し拡大球根部を築造するとともに、
(iii)杭を掘削孔内の所定の深度まで建て込み完了する。
このような先端拡大根固め杭は、一般に拡大球根部の径(先端根固め径Dg)が大きいほど、杭基礎の鉛直支持力も大きくなる。
杭基礎の鉛直支持力が増大することに伴って、杭に作用する押込み力、引抜き力、曲げモーメントも増大するため、杭基礎性能向上のためには、各作用力に対して杭体が破壊しないように部材強度を向上させる必要がある(図20参照)。
押込み力の増大については、杭体を構成する鋼管とコンクリートのうち、圧縮部材であるコンクリートの材料強度が向上していることから、杭サイズ変更なしで対処することが可能である。
一方、引抜き力、曲げモーメントの増大については、引張り応力の増大に対処することが必要であるため、圧縮部材であるコンクリートの材料強度向上では対応ができない。
したがって、引張り応力の増大に対処するのは、もう一つの部材である鋼管になる。
しかしながら、鋼管については[発明が解決しようとする課題]において先述のとおり、現状では各設計基準において、JIS A5525「鋼管杭」に適用する品質として325N/mm2以下(SKK490材)、換言すれば設計降伏強度(公称値)は325N/mm2が最大であることから、引抜き力、曲げモーメントの増大に対処するためには鋼管径や板厚を大きくする必要がある。しかし、鋼管径や板厚を大きくすることは、製造上や施工面で困難が生じるとともに、コスト増大にも繋がる。そのため、先端拡大根固めの有効性が必ずしも発揮されていないのが実情である。
以上のように、先端拡大根固め杭は、杭基礎の鉛直支持力を増大できるが、主として鋼管強度が不十分であることから、現状では先端拡大根固め杭の鉛直支持力増大による杭基礎性能向上効果が必ずしも発揮されていない状況である。
そこで、発明者等は、鋼管径や板厚を大きくすることなく、先端拡大根固め杭の鉛直支持力増大による杭基礎性能向上効果を十分に発揮できるようにするための検討を行い、実施の形態1等で説明した鋼管強度が最適化された鋼管コンクリート複合杭を用いることを考えた。つまり、このような鋼管コンクリート複合杭を用いることで、杭の板厚を薄くした小径の杭が実現できるので、鋼管径や板厚を大きくすることなく、先端拡大根固め杭の鉛直支持力増大による杭基礎性能向上効果を発揮できるのではないかと考え、さらに鋼管コンクリート杭に拡大球根部を築造したときの全体を見直し、単なる支持力向上に止まらない先端拡大根固め杭を得るべく、以下の検討を行った。
本実施の形態の先端根固め杭からなる杭基礎は、図20に示すように、地盤41の下部にある支持地盤43に形成された先端根固め部45に定着用突起47を備えたコンクリート杭からなる下杭49を建て込み、その上に鋼管コンクリート杭からなる上杭51を継杭してなるものである。
実際の杭基礎事例(杭径318.5mm〜1200mm、コンクリート強度105N/mm2、鋼管板厚9〜19mm)をもとに先端根固め径Dgを変えて計算した場合の[先端根固め径Dg/杭径Dp]および地震時に杭の鉛直支持力上限に達した際の[地震時作用モーメント/杭断面係数(=鋼管に作用する応力)]との関係を求めた。図21はこの関係を示すグラフであり、横軸が[先端根固め径Dg/杭径Dp]で縦軸が[地震時作用モーメント/杭断面係数]である。
なお、通常の先端拡大根固め杭の先端根固め径Dg/杭径Dpは1.2以上である。
鋼管の降伏強度σyが、[作用モーメント/杭断面係数(=鋼管に作用する応力)]の値を下回った場合、杭の鉛直支持力上限に到達する前に杭体の曲げ降伏によって杭基礎が降伏することを意味しており、このような場合には、先端拡大根固め杭の鉛直支持力増大による杭基礎性能向上効果が十分に発揮できない状態となる。
従って、杭基礎性能を最大限に発揮するためには、鋼管の降伏強度σyは、[作用モーメント/杭断面係数(=鋼管に作用する応力)]の値を上回るようにすることが望ましい。
図21に示されるように、[先端根固め径Dg/杭径Dp]が大きくなるに伴って、地震時に杭の鉛直支持力上限に達した際の[作用モーメント/杭断面係数(=鋼管に作用する応力)]は上昇傾向にあり、各Dg/Dpの下限値を直線で結びその近似式を求めると、325+(Dg/Dp−1)0.8×125(N/mm2)となる。
したがって、本事例から、鋼管とコンクリートによって構成される先端拡大根固め杭において、根固め径と杭径の比Dg/Dpに対し、降伏強度σyを325+(Dg/Dp−1)0.8×125(N/mm2)以上とすれば、杭基礎性能を十分に発揮できる強度となる。
以上のように、本実施の形態によれば、鋼管強度の最適化を図ることができ、鋼管径や板厚を大きくすることなく、杭基礎性能を効果的に発揮できる先端拡大根固め杭を実現できる。このことにより、杭のサイズが小さいものとなり、施工性、経済性または廃土低減により環境保全性に優れた杭基礎を得ることができる。
なお、図中には上限式として365+(Dg/Dp−1)0.8×230(N/mm2)を付記している。上限式で示される強度を上回る鋼管を使用した場合、鋼管コンクリート杭の杭体耐力は増加するが、先に先端地盤が鉛直支持力上限に達して杭基礎が降伏するため、鉛直支持力増大による耐力向上以上には杭基礎の耐力は向上しない。
上記の検討では、鋼管の降伏強度をσyで表現したが、これは鋼管の降伏強度として設計降伏強度(σyd)、実降伏強度(σyr)のいずれを用いても上記の検討内容は妥当するため、これら両方を含む趣旨である。
基礎杭耐力を同等にし、コンクリート強度を共通にすることを前提に、本発明範囲のもの、従来範囲のもの、適用範囲外のものについて、「鋼管サイズ」、「先端根固め径Dg/杭径Dp」、「鋼管強度」の比較をした。結果を表6に示す。
Figure 2015052269
表6に示されるように、本発明範囲内のものは、従来範囲のものに比較して鋼管サイズを小さくでき、鋼材量、排土量を低減できた。また、適用範囲外のものでは、鋼管サイズは同じであるが、使用する鋼管強度がさらに高強度のものを用いていることから鋼管材料がUPし、無駄なコストがかかっている。
表6の結果から、本実施の形態によれば、鋼管強度の最適化を図ることができ、鋼管サイズを大きくすることなく、杭基礎性能を効果的に発揮できる先端拡大根固め杭を実現できることが実証された。
なお、本実施の形態では、上杭51を鋼管コンクリート複合杭とし、下杭49をコンクリート杭とした構成としたものを例示したが、杭全長が鋼管コンクリート複合杭であってもよい。
1 端板
3 鋼管
5 コンクリート
7 基礎杭
9 上部構造物
11 鋼管コンクリート複合杭
13 端板
15 鋼管
16 継手部
17 溶接部
19 溶接部
21 鋼管コンクリート複合杭
23 端板
25 鋼管部
27 継手部
29 溶接部
31 鋼管コンクリート複合杭
33 鋼管
34 コンクリート
35 コンクリート定着用スリット
36 コンクリート杭
37 基礎梁(フーチング)
39 補強金物
41 地盤
43 支持地盤
45 先端根固め部
47 定着用突起
49 下杭
51 上杭

Claims (6)

  1. 鋼管内側にコンクリートをライニングまたは充填した鋼管コンクリート複合杭において、鋼管の設計降伏強度をσyd(N/mm2)、コンクリートの圧縮強度をσc(N/mm2)としたときに、325N/mm2<σyd≦5.15σcという関係を満たすことを特徴とする鋼管コンクリート複合杭。
  2. 鋼管内側にコンクリートをライニングまたは充填した鋼管コンクリート複合杭において、鋼管の実降伏強度をσyr(N/mm2)、コンクリートの圧縮強度をσc(N/mm2)としたときに、450N/mm2≦σyr≦5.15σcという関係を満たすことを特徴とする鋼管コンクリート複合杭。
  3. 前記鋼管が、鋼製コイルをスパイラル形状に巻き上げて溶接して形成されたスパイラル鋼管であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼管コンクリート複合杭。
  4. 前記スパイラル鋼管は、そのスパイラル角度β(°)が40°<β≦60°に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の鋼管コンクリート複合杭。
  5. 現場継ぎ杭を行う杭端部を有する鋼管コンクリート複合杭であって、継ぎ側の端部に降伏強度が前記鋼管の降伏強度よりも小さい端板を有し、該端板がその全部または一部が鋼管部内に挿入配置され、継ぎ杭の際に前記鋼管部を溶接可能になっていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の鋼管コンクリート複合杭。
  6. 前記鋼管に、コンクリート定着用スリットを設けたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の鋼管コンクリート複合杭。
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