JP2015030061A - 耐チッピング性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】工具基体表面に、組成式:Ti1−aAlaN(但し、aは原子比で0.3≦a≦0.7)の成分系からなる下部層と組成式:Ti1−x―yAlxSiyN(但し、x、yは原子比で0.3≦x≦0.7、0.01≦y≦0.1)の成分系からなる上部層とからなる硬質被覆層が蒸着形成され、硬質被覆層を貫き連続した帯状微粒組織が工具基体表面の法線に対して平均して30〜60°傾斜して存在し、その工具基体表面に平行な方向の平均幅が0.3〜1.5μmかつ硬質被覆層全体に占める含有割合が5〜20体積%であることにより前記課題を解決する。
【選択図】図1
Description
例えば、特許文献1には、公知の方法を用いて作製された超硬などの工具基体表面に該工具基体表面に対して垂直に伸びる柱状結晶を主体としこれが並んだ組織中に富Ti柱状結晶が分散している硬質被覆層を被覆することにより、耐摩耗性が高く、かつ高い耐欠損性を有する表面被覆工具が得られる旨、開示されている。
また、特許文献2には、cBN焼結体基材上に硬質皮膜を具え該硬質皮膜が立方晶型結晶構造を有して組成の異なる2種以上の化合物層を積層した薄膜積層構造を有することにより、硬質皮膜が剥がれるまでの寿命の長期化と焼結体基材の硬質粒子の脱落を抑制する複合高硬度材料が開示されている。
また、特許文献2に開示された発明は、cBN焼結体基材上に硬質被覆層を具え該硬質被覆層が立方晶型結晶構造を有して組成の異なる2種以上の化合物層を積層した薄膜積層構造を有することにより、硬質被覆層と基材との耐チッピング性、耐欠損性を向上させているが、より高速切削においては、薄膜積層構造が自壊するという課題が指摘されていた。
(2)TiAlN層は、その構成成分であるTi成分によってすぐれた強度と靭性を確保することができ、Alは高温硬さと耐熱性を向上させ、AlとTiが共存含有した状態でさらに高温耐酸化性を向上させる作用がある。さらに、岩塩型結晶構造を有するため、高硬度でありcBN焼結体からなる工具基体上に形成することで耐摩耗性を向上させることができる。
(3)一方、TiAlSiN層は、前記TiAlN層にSi成分を含有させることで、一層耐熱性が向上する。酸化開始温度が高くて高温耐酸化性が高いため、特に切削時に高温となるような高速切削時の耐摩耗性が向上する。
(4)cBN焼結体からなる工具基体上に所定の組成のTiAlN層を成膜し、その上に所定の組成のTiAlSiN層を積層させることで、cBN粒子間の隙間に存在する結合相上から硬質被覆層内を貫いて成長する帯状微粒組織が形成できる。
(5)cBN焼結体中のcBN粒子の含有割合を調整することでcBN焼結体表面に露出するcBN粒子の高さの差を制御することが可能になり、この高さの差が表面に露出するcBN粒子間の隙間に存在する結合相上に成長する帯状微粒組織の成長方向を制御することが出来る。
(6)硬質被覆層をTiAlN層とTiAlSiNの積層構造とし、さらに、所定の帯状微粒組織を硬質被覆層内に貫くように所定の角度で傾斜させて成長させることで、硬質被覆層の表面に加わった外力が直接工具基体に加わることなく、帯状微粒組織によって緩和される。
(7)帯状微粒組織内は粒界が多いため、外力が働いた際、粒界すべり等によって応力が緩和し、工具基体へ加わる外力が緩和されるため、耐チッピング性が向上する。
(8)帯状微粒組織が所定の角度で傾斜しているため、硬質被覆層表面に対して垂直な方向および平行な方向のいずれの力に対しても力を分散させる効果があり、このことが、硬質被覆層の切削性能に対する異方性を減少する効果をもたらし、切削工具の使用上の自由度を向上させることが出来る。
(9)また、帯状微粒組織の成長方向と帯状微粒組織の存在割合および硬質被覆層の層厚を調整することにより、硬質被覆層表面から工具基体表面までを結ぶ垂線上に存在する帯状微粒組織の量を制御することが出来るため、(7)、(8)に記載の作用がより効果的に奏される。
「(1) 少なくとも切削に使用する刃先が立方晶窒化硼素焼結体からなる工具基体上に硬質被覆層を有する表面被覆切削工具であって、
前記立方晶窒化硼素焼結体は立方晶窒化硼素粒子とTiの窒化物、炭化物、炭窒化物、硼化物およびAlの窒化物、酸化物からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の粒子と不可避不純物とを含む結合相とからなり、
前記立方晶窒化硼素粒子は平均粒径が0.5〜4.0μmかつ立方晶窒化硼素焼結体全体に占める含有割合が40〜70体積%であり、
前記結合相を構成する粒子は平均粒径が1.0μm以下であり、
前記硬質被覆層は少なくとも工具基体直上の下部層Aとその上に形成された上部層Bとからなるとともに平均総層厚が1.0〜8.0μmであり、
前記下部層Aは組成式:Ti1−aAlaN(但し、aは原子比で0.3≦a≦0.7)の成分系からなり、
前記上部層Bは組成式:Ti1−x―yAlxSiyN(但し、x、yは原子比で0.3≦x≦0.7、0.01≦y≦0.1)の成分系からなり、
前記硬質被覆層中に工具基体表面に露出している結合相の一部から下部層Aおよび上部層Bを貫き該上部層B表面まで連続した帯状微粒組織が工具基体表面の法線に対して平均して30〜60°傾斜して存在しているとともに前記帯状微粒組織の工具基体表面に平行な方向の平均幅が0.3〜1.5μmかつ硬質被覆層全体に占める含有割合が5〜20体積%であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記硬質被覆層中の帯状微粒組織以外を構成する結晶粒の平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下でありかつ前記帯状微粒組織を構成する結晶粒の平均粒径が0.05μm未満であることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
cBN焼結体中に、微細な硬質なcBN粒子が分散していることにより、工具使用中に工具基体表面のcBN粒子が脱落して生じる刃先の凹凸形状を起点とするチッピングの発生を抑制することができる。その理由は、たとえ、工具基体表面のcBN粒子が脱落したとしても、その粒子が所定の粒径以下の微細粒子であるためチッピングを誘発するような大きな凹凸形状とならないためである。
また、焼結体中の微細cBN粒子が、工具使用中に刃先に加わる応力により生じるcBN粒子と結合相との界面から進展するクラック、あるいはcBN粒子が割れて進展するクラックの伝搬を分散・緩消する役割を担うため、すぐれた耐欠損性を発揮することが出来る。
しかしながら、平均粒径が0.5μm未満になると、微細すぎて硬質粒子としてのcBN粒子の機能が十分に発揮できない。一方、4.0μmを超えると、本発明における硬質被覆層の層厚と比べてかなり大きな粒子となるため、工具基体表面に露出するcBN粒子によって形成される凹凸形状が大きくなり過ぎ、後述する帯状微粒組織の傾斜角度を所定の範囲に収めることが出来なくなる。
したがって、cBN粒子の平均粒径は、0.5〜4.0μmと定めた。
ここで、cBN粒子の平均粒径は、作製したcBN焼結体の断面組織を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)にて観察して得られた二次電子画像内のcBN粒子の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析によって各cBN粒子の最大長を求め、それを各cBN粒子の直径とし、1画像におけるcBN粒子の直径の平均値を求め、少なくとも3画像について求めた平均値の平均をcBNの平均粒径[μm]とした。画像処理に用いる観察領域は予備観察を行うことによって定めたが、cBN粒子の平均粒径が0.5〜4.0μmであることをかんがみ、15μm×15μm程度の視野領域とすることが望ましい。
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合が40体積%未満では、焼結体中に硬質物質が少なく、cBN焼結体の硬度が低下するため、耐摩耗性が低下する。一方、70体積%を超えると、結合相が不足するため、焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成し、耐欠損性が低下する。そのため、本発明が奏する効果をより一層発揮するためには、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、40〜70体積%の範囲とすることが好ましい。
ここで、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合(体積%)の測定方法は、cBN焼結体の断面組織をSEMによって観察して得られた二次電子画像内のcBN粒子の部分を画像処理によって抜き出し、画像解析によって観察領域におけるcBN焼結体の全体の面積に対するcBN粒子が占める面積を算出し、少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をcBN粒子の含有割合(体積%)とした。画像処理に用いる観察領域は、cBN粒子の平均粒径が0.5〜4.0μmであることをかんがみ、15μm×15μm程度の視野領域とすることが望ましい。
工具基体表面に露出したcBN焼結体中の結合相を構成する粒子は、硬質被覆層中に成長する帯状微粒組織の核となる。そのため、所望の帯状微粒組織を成長させるためには、その粒径を所定の値以下に調整する必要がある。本発明においては、幾多の実験結果から、
結合相を構成する粒子の平均粒径を1.0μm以下と定義した。結合相を構成する粒子の平均粒径が1.0μmを超えると、帯状微粒組織を構成する粒子の径が大きくなるため、好ましくない。
なお、その測定方法は、前述したcBN粒子の平均粒径の測定方法と同様の方法を用いた。
本発明の硬質被覆層は、硬質被覆層は少なくとも工具基体直上のTi1−aAlaNの成分系からなる下部層Aとその上に形成されたTi1−x―yAlxSiyNの成分系からなる上部層Bとからなる積層構造を有している。この硬質被覆層は、下部層AであるTiAlN層に含まれるTi成分によってすぐれた強度と靭性を確保し、Alが高温硬さと耐熱性を向上させると共にAlとTiが共存含有した状態でさらに高温耐酸化性を向上させる作用があるとともに岩塩型結晶構造を有するため、高硬度であり工具基体上に形成することで耐摩耗性を向上させることができる。
また、上部層BであるTiAlSiN層は、前記TiAlN層にSi成分を含有させることで、一層耐熱性が向上し、酸化開始温度が高くて高温耐酸化性が高いため、特に切削時に高温となるような高速切削時の耐摩耗性が向上する。
特に平均総層厚が1.0〜8.0μmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、平均総層厚が1.0μm未満では、工具基体表面粗さに比べ硬質被覆層の層厚が薄いため、長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができない。一方、その平均総層厚が8.0μmを越えると、硬質被覆層を構成する複合窒化物の結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。したがって、その平均総層厚を1.0〜8.0μmと定めた。
ここで、硬質被覆層の平均総層厚は、SEMにて観察して得られた二次電子画像内の硬質被覆層の部分を画像処理にて抜き出し、画像解析によって画像内の5箇所について硬質被覆層の層厚を求め、その平均値を求め平均総層厚とした。画像処理に用いる観察領域として、期待する硬質被覆層の平均総層厚が1.0〜8.0μmであることをかんがみ、15μm×15μm程度の視野領域とすることが望ましい。
下部層Aは、AlのTiとAlの合量に占める含有割合a(但し、aは原子比)が、0.3≦a≦0.7を満足する。
Al成分の含有量が0.3未満では、Al成分を含有することによる高温硬さと耐熱性の向上が十分得られず、所望の性能が得られない。また、Al成分の含有量が0.7を超えると、TiAlN層が岩塩型結晶構造を維持できず、硬さが極端に低下するため、望ましくない。
上部層Bは、AlおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める含有割合x、y(但し、x、yはいずれも原子比)が、それぞれ、0.3≦x≦0.7、0.01≦z≦0.1を満足する。
この条件を満たすとき、上部層Bを構成するTi1−x―yAlxSiyN層は所望の耐酸化性および切削時に高温となるような高速切削時における高い耐摩耗性を発揮する。
一方、Al成分の含有量が0.3未満では、Al成分を含有することによる高温硬さと耐熱性の向上が十分得られず、所望の性能が得られない。また、Al成分の含有量が0.7を超えると、AlTiSiN層が岩塩型結晶構造を維持できず、硬さが極端に低下するため、望ましくない。Si成分が0.01未満では所望の耐摩耗性が発揮されず、0.1を超えると結晶格子の歪みが大きくなり、耐欠損性が低下するため望ましくない。
下部層であるTiAlN層と上部層であるTiAlSiN層の積層構造として構成される硬質被覆層内に貫くように連続した帯状微粒組織を傾斜させて成長させることにより、硬質被覆層の表面に加わった外力が直接工具基体に加わることなく、帯状微粒組織によって緩和される。帯状微粒組織内は粒界が多いため、外力が働いた際、粒界すべり等によって応力が緩和し、工具基体へ加わる外力が緩和されるため、耐チッピング性が向上する。
しかしながら、その傾斜角が工具基体表面の法線に対して30°未満では、硬質被膜層に垂直な方向の外力に対して十分な緩和効果が得られない。一方、60°以上の場合、硬質被膜層に平行な方向の外力に対して緩和効果が得にくくなる上、傾きが大きいと周囲組織の粒の成長と競合しやすくなるため、帯状微粒組織の制御が困難となり、安定して所望の効果が得られない。したがって、硬質被覆層を貫く帯状微粒組織の傾斜角は工具基体表面の法線に対して平均して30〜60°と定めた。
また、帯状微粒組織の工具基体表面に平行な方向の平均幅が0.3μm未満であると微粒組織の幅が狭く前述した工具基体へ加わる外力を緩和する機能が十分に奏されない。一方、平均幅が1.5μmを超える場合、帯状微粒組織は粒界密度が高いため、粒界から徐々に硬質粒子が脱落する摩耗が進行しやすくなり、硬質被覆層全体としての耐摩耗性が低下する。
したがって、帯状微粒組織の工具基体表面に平行な方向の平均幅は0.3〜1.5μmと定めた。
さらに、帯状微粒組織の硬質被覆層全体に占める含有割合が5体積%未満であると前述した工具基体へ加わる外力を緩和する機能が十分に奏されず、一方、20体積%を超える帯状微粒組織は、その発現機構の関係上、形成することが困難であることに加え、硬質被覆層全体に占める微粒組織の割合が大きくなるため、硬質被覆層全体としての耐摩耗性が低下する。また、20体積%を超えても前述した効果のさらなる向上は確認されなかった。
したがって、帯状微粒組織の硬質被覆層全体に占める含有割合は5〜20体積%と定めた。
なお、硬質被覆層を貫く帯状微粒組織の平均幅、傾斜角および含有割合は、帯状微粒組織を楕円錘台形状として処理し、算出する。算出手法について以下に示す。まず全体の算出手順について述べ、その後、各手順の具体的な処理法を示す。
楕円錘台形状は、cBN焼結体に被覆した硬質被覆層について、工具基体表面の面方向に平行な断面の作製とSEMによる観察を繰り返し、SEMによる観察で得られた帯状微粒組織の工具基体表面の面方向に平行な断面画像から見積もる。ここで工具基体表面とは、基体の硬質被覆層と接する面の面方向に垂直な断面を直交するように2面切り出し、それぞれの断面における基体と硬質被覆層の界面粗さの基準線を通る面とする。このように定めた工具基体表面の面方向に平行な断面を、形成した硬質被覆層上に作製し、作製した断面の組織観察をSEMによって行い、帯状微粒組織の断面領域を定め、ここで定めた領域を楕円近似する。硬質被覆層表面および工具基体表面に対して硬質被覆層側にそれぞれ0.3μmの位置に工具基体表面の面方向に平行な断面を作製し、作製した断面における帯状微粒組織の断面である楕円形状を結ぶことで、帯状微粒組織を楕円錐台形状として見積もる。ここで、硬質被覆層表面とは形成した硬質被覆層の表面粗さの基準面とする。こうして見積もった楕円錘台形状について、工具基体表面の面方向に平行な断面を硬質被覆層の層厚方向に等間隔に5面抜き出し、工具基体表面の面方向に平行な断面における、帯状微粒組織の断面である楕円形状の長径の平均値をその帯状微粒組織の平均幅[μm]とし、楕円形状の中心点にて直線近似した線分方向と工具基体表面の法線がなす角をその帯状微粒組織の傾斜角[°]とする。さらに断面組織の観察領域に含まれるすべての帯状微粒組織の平均幅と傾斜角の平均値および、硬質被覆層全体に対する含有割合を算出した。
次に、各算出手順における具体的な処理法を示す。硬質被覆層上に作製した工具基体表面の面方向に平行な断面の組織観察において、帯状微粒組織の断面領域と周囲組織の境界は粒径が0.05μm以上の結晶粒と0.05μm未満の結晶粒の粒界とし、帯状微粒組織の断面領域とは、0.05μm未満の結晶粒が0.025平方μm以上集合した領域とする。帯状微粒組織の断面領域の楕円近似は、得られた帯状微粒組織の断面領域における最大長さを長径とし、得られた領域と同等な面積となるような楕円形状を定め、実施する。
また、各結晶粒の長径、短径は、結晶粒の形状を楕円近似した際の長径、短径とする。また、各結晶粒の長径を結晶粒の粒径と定義する。
基材表面に平行な断面組織の観察領域は、10μm×10μm程度の視野領域とすることが望ましい。
帯状微粒組織を構成する結晶粒の平均粒径および硬質被覆層全体の帯状微粒組織以外を構成する結晶粒の平均粒径は、特に限定されるわけではないが、硬質被覆層の表面に加わった外力が帯状微粒組織に加わり帯状微粒組織内は粒界が多いため、粒界すべり等によって応力が緩和するという前述の帯状微粒組織の作用がより効果的に奏されるためには、帯状微粒組織を構成する結晶粒の平均粒径は、硬質被覆層全体の帯状微粒組織以外を構成する結晶粒の平均粒径より小さいことが望ましく、さらに、具体的には、硬質被覆層全体の帯状微粒組織以外を構成する結晶粒の平均粒径が0.05μmを超え1.0μm以下でありかつ帯状微粒組織を構成する結晶粒の平均粒径が0.05μm以下であることが好ましい。
原料粉末として、0.5〜4.0μmの平均粒径を有するcBN粒子を硬質相形成用原料粉末として用意するとともに、いずれも0.3〜0.9μmの範囲内の平均粒径を有するTiN粉末、TiC粉末、TiCN粉末、Al粉末、AlN粉末、Al2O3粉末を結合相形成用原料粉末として用意する。
これら中からいくつかの原料粉末とcBN粒子粉末の合量を100体積%としたときのcBN粒子粉末の含有割合が40〜70体積%となるように表1に示される配合比で配合する。
次いで、この原料粉末をボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、油圧プレスにて成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形し、ついでこの成形体を、圧力:1Pa以下の真空雰囲気中、1000℃で30分間保持して熱処理し、揮発成分および粉末表面への吸着成分を除去して予備焼結体を作製する。
この予備焼結体をワイヤー放電加工機で所定寸法に切断し、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に、質量%で、Cu:26%、Ti:5%、Ag:残りからなる組成を有するAg系ろう材を用いてろう付けし、上下面および外周研磨、ホーニング処理を施すことによりISO規格CNGA120408のインサート形状をもった本発明用の工具基体1〜6を製造する。
また、原料粉末としてのcBN粒子の平均粒径、cBN粒子粉末の含有割合の少なくとも片方を前述の範囲外とすることによって比較品用の工具基体7〜12を製造した。
その結果を表1に示す。
前述の工程によって作製した工具基体1〜6に対して、図2に示したようなアークイオンプレーティング装置を用いて、硬質被覆層を形成した。
(a)工具基体1〜6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着する。また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のTi−Al合金およびTi−Al−Si合金を配置する。
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、2PaのArガス雰囲気に設定し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200Vの直流バイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによってボンバード洗浄する。
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2〜10Paの所定の反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−20〜100Vの所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記Ti−Al合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に90〜150Aの所定の電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表2に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti,Al)N層を蒸着形成する。
(d)次いで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して同じく2〜10Paの所定の反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−20〜100Vの所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記Ti−Al−Si合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に90〜150Aの所定の電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表2に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti,Al,Si)N層を蒸着形成する。
前述したような(a)〜(d)の工程を経て、本発明切削工具1〜6を製造する。
このとき、工具基体表面におけるcBN粒子の突き出し量を0.1〜0.5μmとすることが望ましい。ここでcBN粒子の突き出し量とは、工具基体表面を基準とし、その表面に露出したcBN粒子の、工具基体表面に垂直な方向の最大高さを意味している。
工具基体を作製する際、表面を研削することで硬さの小さい結合相が優先的に除去され、表面にcBN粒子が露出する。さらに、前記(b)のように成膜前にボンバード処理を実施することで表面に露出するcBN粒子の突き出し量を制御することができる。
帯状微粒組織は結合相上に形成されるため、結合相の周囲のcBNの突き出し量の差が大きいほど、帯状微粒組織は大きく傾いて成長する。したがって、基体表面のcBN粒子の突き出し量を制御することで帯状微粒組織の傾き角度を制御することができる。
また、cBN粒子の粒径、含有量および成膜時のパラメータによって帯状微粒組織の形成される量を制御することで、帯状微粒組織の平均幅および含有割合を所望の値に調整する。
観察領域は、15μm×15μm程度であって、cBN焼結体中のcBN粒子および硬質被覆層の全体が観察できる倍率とする。
この二次電子画像から前述したような方法を用いて、cBN粒子の平均粒径、硬質被覆層の平均層厚を測定した。
また、前述の断面加工とSEMによる断面組織観察を繰り返すことにより、二次元電子画像から帯状組織の三次元形状を見積もり、帯状微粒組織の平均幅と平均傾斜角および硬質被覆層全体に対する体積%を算出した。
切削条件A:
被削材:クロム鋼鋼材SCr420の浸炭焼入れ材(HRC60)の丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:0.2mm、
送り:0.1mm、
の乾式連続切削、
切削条件B:
被削材:クロム鋼鋼材SCM415の浸炭焼入れ材(HRC60)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:210m/min.、
切り込み:0.15mm、
送り:0.1mm、
の乾式断続切削、
という切削条件で、最大切削長を条件Aでは900m、条件Bでは1200mとし、切削長100m毎に刃先のチッピングと逃げ面摩耗量を評価した。
その結果を表4に示す。
Claims (2)
- 少なくとも切削に使用する刃先が立方晶窒化硼素焼結体からなる工具基体上に硬質被覆層を有する表面被覆切削工具であって、
前記立方晶窒化硼素焼結体は立方晶窒化硼素粒子とTiの窒化物、炭化物、炭窒化物、硼化物およびAlの窒化物、酸化物からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の粒子と不可避不純物とを含む結合相とからなり、
前記立方晶窒化硼素粒子は平均粒径が0.5〜4.0μmかつ立方晶窒化硼素焼結体全体に占める含有割合が40〜70体積%であり、
前記結合相を構成する粒子は平均粒径が1.0μm以下であり、
前記硬質被覆層は少なくとも工具基体直上の下部層Aとその上に形成された上部層Bとからなるとともに平均総層厚が1.0〜8.0μmであり、
前記下部層Aは組成式:Ti1−aAlaN(但し、aは原子比で0.3≦a≦0.7)の成分系からなり、
前記上部層Bは組成式:Ti1−x―yAlxSiyN(但し、x、yは原子比で0.3≦x≦0.7、0.01≦y≦0.1)の成分系からなり、
前記硬質被覆層中に工具基体表面に露出している結合相の一部から下部層Aおよび上部層Bを貫き該上部層B表面まで連続した帯状微粒組織が工具基体表面の法線に対して平均して30〜60°傾斜して存在しているとともに前記帯状微粒組織の工具基体表面に平行な方向の平均幅が0.3〜1.5μmかつ硬質被覆層全体に占める含有割合が5〜20体積%であることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記硬質被覆層全体の帯状微粒組織以外を構成する結晶粒の平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下でありかつ前記帯状微粒組織を構成する結晶粒の平均粒径が0.05μm未満であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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