JP2015027687A - 連鋳鋳片の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】鋳片表層の密度が内層に比べて高い複層鋳片を、表層と内層と境界部が明りょうで、かつ境界部に粗大な気泡の発生がなく安定して製造できるようにする。【解決手段】鋳型の上部に鋳型内溶鋼の電磁攪拌装置を設置し、該電磁攪拌装置の下方に間隔を置いて電磁ブレーキ装置を設置した連続鋳造装置を用いて複層鋳片を鋳造するにあたり、電磁攪拌装置によって形成された旋回流の領域に、タンディッシュから浸漬ノズルを通して鋳型内に供給される溶鋼よりも密度の高い溶鋼の領域を形成し、さらに、電磁ブレーキ装置により印加される直流磁界の領域内に前記浸漬ノズルの吐出孔を配置して、該吐出孔から浸漬ノズルの側方に下向き45?から上向き10?以下の吐出角度で溶鋼を吐出しつつ鋳造することにより、鋳片表層の密度が内層に比べて高い鋳片とする。【選択図】図1

Description

本発明は、連続鋳造により、表層の密度が内層の密度より高い複層鋳片を製造する方法及びその方法の実施に用いる連続鋳造装置に関するものである。
従来から、鋳片表層と内層の組成が異なる複層鋳片を連続鋳造によって製造することが知られている。例えば、特許文献1には、所定の合金元素を含有させた連続鋳造用パウダーを用いるとともに、連続鋳造鋳型内の上部に設置した電磁攪拌装置により、鋳型内溶鋼プール中の水平断面内で攪拌流を形成し、かつその下方に設置した電磁ブレーキ装置により、幅方向に均一な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳片の厚み方向に印加することで鋳型内溶鋼プール中に制動域を形成し、浸漬ノズルの吐出孔の位置が前記直流磁界域の下方になるように浸漬ノズルを配置して、タンディッシュからの溶鋼を前記直流磁界域の下方に供給しつつ鋳造することで、合金元素の鋳片表層部の濃度が内層に比べて高い複層状の鋳片を製造する連鋳鋳片の製造方法が提案されている。
特開平8−290236号公報
特許文献1に記載の方法によると、連続鋳造用パウダー内に添加した合金元素を鋳片表層部に富化でき、かつ、電磁攪拌装置による攪拌によって表層部における合金元素濃度の均一化を図ることができるが、本発明者らの検討では、表層にNiなどの密度の大きい金属の濃度を高めた場合のように、表層と内層の密度差が大きくなると、表層用と内層用の二つの溶鋼の混合を安定して抑制できないこと、さらには、表層成分領域と内層成分領域との境界付近にアルミナ系介在物を伴った粗大な気泡が残存しているのが認められた。
また、使用環境の厳格化に伴い、材料に求められる特性の向上がより求められるとともに、加工度の増大に伴い、加工時に疵の原因となるアルミナ系介在物を伴った粗大な気泡の削減がより必要となっている。
そこで、本発明は、鋳片表層の密度が内層に比べて高い複層鋳片を、表層と内層と境界部が明りょうで、かつ境界部に、加工時(特に大きな加工度での加工時)に疵の原因となる粗大な気泡の発生がなく安定して製造できるようにすることを課題とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究開発した結果、メニスカス近傍に均一な強い旋回流を形成させることにより、鋳型のメニスカス近傍に供給される表層用溶鋼を均一化するとともに、電磁ブレーキ装置の直流磁界域内に浸漬ノズルの吐出孔を配置して、該吐出孔からノズル横方向に溶鋼を吐出することで、気泡の浮上を促進できることを見出した。
本発明の要旨とすることは以下の通りである。
(1)鋳型の上部に鋳型内溶鋼の電磁攪拌装置を設置し、該電磁攪拌装置の下方に電磁ブレーキ装置を設置した連続鋳造装置を用いて複層鋳片を鋳造する方法において、前記電磁攪拌装置によって形成された水平方向の旋回流の領域に、タンディッシュから浸漬ノズルを通して鋳型内に供給される溶鋼よりも密度の高い溶鋼の領域を形成し、前記電磁ブレーキ装置により印加される直流磁界の領域内に前記浸漬ノズルの吐出孔を配置して、該吐出孔から浸漬ノズルの側方に下向き45°から上向き10°以下の吐出角度で溶鋼を吐出しつつ鋳造することにより、鋳片表層の密度が内層に比べて高い鋳片とすることを特徴とする複層鋳片の製造方法。
(2)前記電磁攪拌装置のコア範囲における溶鋼の凝固シェル前面流速を10〜50cm/秒とするとすることを特徴とする前記(1)に記載の複層鋳片の製造方法。
(3)前記電磁ブレーキ装置の電磁力を0.4テスラ以上とすることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の複層鋳片の製造方法。
(4)前記旋回流に合金ワイヤを供給して、前記密度の高い溶鋼の領域を形成することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の複層鋳片の製造方法。
(5)前記タンディッシュに、前記浸漬ノズルとは別に溶鋼の供給ノズルを設け、該供給ノズルの先端位置を前記電磁攪拌装置のコア範囲内とするとともに、供給ノズル内に表層の溶鋼密度を高めるための成分を有するワイヤを供給し、供給ノズル内でワイヤを溶融してその溶鋼を前記旋回流に吐出することにより前記密度の高い溶鋼を形成することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の複層鋳片の製造方法。
(6)前記(1)に記載の複層鋳片の製造方法を実施するための連続鋳造装置であって、
鋳型に溶鋼を供給するタンディッシュと、鋳型の上部に設置され、鋳型内の溶鋼のメニスカス近傍に水平方向の旋回流を形成する電磁攪拌装置と、前記電磁攪拌装置の下方に所定の間隔を置いて設置され、鋳片の幅方向に直流磁界を形成する電磁ブレーキ装置と、鋳型内の溶鋼の前記旋回流の領域に、前記タンディッシュから鋳型内に供給される溶鋼より密度の高い溶鋼を形成する手段と、先端部の側面にタンディッシュからの溶鋼を鋳型内に吐出する吐出孔が形成された浸漬ノズルとを有し、前記吐出孔の下端が電磁ブレーキ装置の直流磁界域内に位置するように配置され、かつ、前記吐出孔が浸漬ノズルの側方に下向き45°から上向き10°以下の範囲の吐出角度で形成されていることを特徴とする連続鋳造装置。
(7)鋳型内の溶鋼の前記旋回流の領域に、前記タンディッシュから鋳型内に供給される溶鋼より密度の高い溶鋼を形成する手段が、溶鋼密度を高めるための成分を有するワイヤと、該ワイヤを前記旋回流に供給するワイヤ供給装置を備えることを特徴とする前記(6)に記載の連続鋳造装置。
(8)鋳型内の溶鋼の前記旋回流の領域に、前記タンディッシュから鋳型内に供給される溶鋼より密度の高い溶鋼を形成する手段が、前記タンディッシュに前記浸漬ノズルとは別に設けられた溶鋼の供給ノズルと、該供給ノズル内に供給される溶鋼密度を高めるための成分を有するワイヤと、該ワイヤを前記供給ノズル内に供給するワイヤ供給装置を備えることを特徴とする前記(6)に記載の連続鋳造装置。
本発明によれば、表層に供給する溶鋼を電磁攪拌することにより、均一な組成にするとともに、内層の溶鋼より密度が大であっても表層の溶鋼と内層の溶鋼が混合しがたくなるので、表層と内層の境界部の明瞭な複層鋳片を提供することができる。また、電磁ブレーキ装置の直流磁界域内に溶鋼を吐出することで、気泡の浮上を促進でき、表層と内層との境界部に粗大な気泡の発生がない複層鋳片を提供することができる。
電磁攪拌装置と電磁ブレーキ装置電磁ブレーキ装置を設置した連続鋳造装置を用いた複層鋳片を製造の一例を示す図である。 図1と同様に複層鋳片の製造の他の例を示す図である。 凝固シェル前面流速と初期凝固シェル厚不均一度との関係を示す図である。 電磁攪拌と電磁ブレーキの両方を作動させた場合と、いずれか一方のみを作動させた場合の、表層からの距離に対するNi濃度の変化を示す図である。 電磁攪拌条件あるいは電磁ブレーキ条件を変化させた場合の母溶鋼濃度になる表層からの距離の変化を示す図である。 溶鋼の吐出位置を変えて製造された複層鋳片の断面を示す図であり、(a)は本発明例を、(b)は従来例をそれぞれ示す。 本発明例と従来例の表面疵の発生状態を比較して示す図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
[基本原理の説明]
まず本発明の基本原理を、図1を用いて説明する。
本発明では、連続鋳造鋳型1の上部に鋳型内溶鋼の電磁攪拌装置2を設置し、該電磁攪拌装置2の下方に間隔を置いて鋳型内溶鋼の電磁ブレーキ装置3を設置した連続鋳造装置を用いて、次のようにして複層鋳片を製造する。
(a)電磁攪拌装置2を用いて、鋳型内のメニスカス近傍の溶鋼に水平方向の均一な強い旋回流を形成させる。
(b)溶鋼の旋回流が形成されている、電磁攪拌装置2のコイルのコア7に対応する領域に、例えば、溶鋼密度を高めるための成分を有するワイヤ6を供給して内層用溶鋼10よりも密度の高い表層用溶鋼9を形成する。
(c)電磁攪拌装置2の下方に設置した電磁ブレーキ装置3により、幅方向に均一な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳片の厚み方向に印加して鋳型内溶鋼プール中に制動域を形成する。
(d)タンディッシュ4の溶鋼11を浸漬ノズル5を通して鋳型1内に供給する際、浸漬ノズル5の吐出孔を電磁ブレーキ装置3の直流磁界域内に配置して、該吐出孔から横方向に下向き45°から上向き10°の角度で溶鋼を吐出して内層用溶鋼10を形成する。
以上によって、先に凝固する鋳型内上部の表層用溶鋼9によって鋳片表層が形成され、それに続いて凝固する下部の内層用溶鋼10によって鋳片内層が形成される。
本発明では、電磁攪拌力を強印加してメニスカス近傍に均一な強い旋回流を形成させることにより、鋳型のメニスカス近傍に供給される表層用溶鋼を均一化するとともに、凝固シェル前面に溶鋼速度10〜40cm/秒の旋回流を形成することにより、鋳型下部に供給される内層溶鋼がメニスカス近傍に浮上してくることを抑制し、表層用溶鋼と内層用溶鋼の混合を防止して、表層と内層の境界が明瞭な複層鋳片を製造することができる。
また、浸漬ノズルからの溶鋼を電磁ブレーキ装置の直流磁界域内吐出することにより、浸漬ノズルから吹き込まれるガスの浮上を促進して、表層と内層と境界部に、表面欠陥の原因となる粗大な気泡の発生がない複層鋳片を製造することができる。
次に、以上のような本発明について、その態様をさらに詳細に説明する。
[表層用溶鋼の形成]
メニスカス近傍の溶鋼に、鋳型の上部に設置した電磁攪拌装置によってメニスカスに沿った水平方向の旋回流を形成し、その旋回流の領域に、タンディッシュから浸漬ノズルを通して鋳型内に供給される溶鋼よりも密度の高い溶鋼の領域を形成する。
(溶鋼密度を高める成分の添加)
メニスカス近傍の溶鋼密度を高める方法として、ワイヤにより必要な成分を溶鋼に添加する方法を用いる。それを実施する方法には次の2つの方法がある。
第1の方法は、図1に示すように、旋回流に鋳型1の外からワイヤ6を挿入する方法である。ワイヤには、内層を形成する溶鋼よりも密度が高くなるように、密度の高い元素よりなるワイヤや密度の高い元素を多く含む合金よりなるワイヤを用いる。
ワイヤは、図示しないワイヤ供給装置によって、目的とする溶鋼濃度になるような供給速度でメニスカスから溶鋼中に供給される。溶鋼に挿入されたワイヤは溶融し、ワイヤ成分は旋回流に乗って鋳型内表層全体に均一に拡散され、密度の高い表層用溶鋼を形成する。
なお、供給したワイヤは、溶鋼と接してすぐに溶解するようにしてもよいが、ワイヤとパウダーとの反応や周辺雰囲気によるワイヤの酸化が懸念されるので、電磁攪拌装置のコアの上端と下端の間の中間で溶融させるのが好ましい。そのようにするためには、例えば、ワイヤの太さと供給速度を調整する方法、ワイヤに耐熱性の被覆を施して溶融を遅らせる方法、ワイヤを耐熱性の案内管を通して送給する方法などがあり、これらの方法を適宜採用すればよい。
第2の方法は、図2に示すように、タンディッシュ4に、浸漬ノズルとは別に溶鋼の第2の供給ノズル12を設け、供給ノズル12の先端位置を、前記電磁攪拌装置のコア7の範囲内(コアの上端と下端の間)とするとともに、該供給ノズル12内に第1の方法で用いたワイヤと同じワイヤ6をタンディシュ外から図示しないワイヤ供給装置によって供給する。
そして、前記の方法を用いて供給ノズル12内でワイヤが溶融するように調整して、供給ノズル12内で溶鋼の密度を高め、その溶鋼を前記旋回流に吐出することにより、その溶鋼を鋳型内表層全体に拡散させ、密度の高い表層用溶鋼を形成する。
ワイヤの組成は目的の表層成分に応じて決められるもので、特に限定されるものではないが、例えば、表層の耐食性を高めた鋼板を得るために、NiなどのFeよりも密度の高い元素を主成分とするワイヤや、そのNiを多く含有する合金ワイヤなどを用いることができる。
その他、Co、Mo、Biなどの濃度を表層において高めた鋼板を得るために、それらの元素を単独で含有する、あるいはそれらの含有量を高めたワイヤが利用できる。
(鋳型内溶鋼表層部の電磁攪拌)
鋳型の上部に設置した電磁攪拌装置により、メニスカス近傍に、メニスカスに沿った均一な旋回流を形成させることにより、旋回流内の溶鋼組成のばらつきを低減して均一化するととともに、溶鋼を密度が大きな表層用溶鋼と密度が小さな内層用溶鋼の混合を抑制する。
その際、凝固シェル前面流速が10cm/秒以上40cm/秒以下となるような溶鋼流速を付与することにより、表層用と内層用の溶鋼の湯混ざりを防止するだけでなく、鋳片幅方向の初期凝固シェル厚のばらつきを小さくすることにより、凝固後の表層厚みのばらつきを低減させるようにする。より好ましい前面流速は20cm/秒以上である。
図3に、本発明らが行った実験によって得られた凝固シェル前面流速と初期凝固シェル厚不均一度との関係を示す。実験ではコア厚が400mmの電磁攪拌装置を用いた。
図3に示すように、凝固シェル前面流速10cm/秒以上を確保することにより、旋回流が安定して形成され、初期凝固シェル厚のばらつきが小さくなり、厚みの均一な凝固シェルが形成される。また、内層用の溶鋼と表層用の溶鋼の混合が幅方向で均一に抑制されることにより、表層の厚みが均一な複層鋳片の製造が可能となる。
実験では、凝固シェル前面流速50cm/秒まで均一な厚みのシェルが得られることが確認されたが、50cm/秒を超えて流速を高めても効果が飽和するのに比べ、投入する電力量が大きく増加するので、この値を上限とするのが望ましい。効果の観点からは凝固シェル前面流速の範囲は40cm/秒以下で十分である。
凝固シェル前面の溶鋼流速は、デンドライト傾角の測定を行い、下記式(1)に示す岡野の式(例えば、「鉄と鋼、vol.93(2007)No.9、566頁」参照)を用いて算出した。デンドライト傾角の測定は、鋳造された鋳片から鋳造方向直角断面より試片を切り出し、酸により腐食した後、倍率5倍で凝固組織を撮像し、鋳片表層の一次デンドライトアームの鋳片表面での法線に対する角度を測定することによって行った。また、メニスカスからの深さ方向のデータを得るために、この測定を鋳片表層から電磁攪拌装置のコアの下端位置まで行った。
lnV=(θ+9.73×lnf+33.7)/(1.45×lnf+12.5) ・・・(1)
ここで、V:溶鋼流速(cm/秒)、θ:デンドライト傾角(度)、f:凝固速度(cm/秒)を示す。
また、初期凝固シェル厚不均一度は、電磁攪拌力印加時の凝固シェル厚さの標準偏差を、電磁攪拌力を印加しない場合の凝固シェル厚さの標準偏差で除した値に100をかけた値として定義されるものである。
凝固シェル厚さの標準偏差の測定は、まず、初期凝固シェル厚を、例えば「鉄と鋼、vol.93(2007)No9,568頁」に記載されているように、鋳造中にSを添加して鋳片のサルファプリントを採取することにより測定し、その測定を、同文献の570頁に記載されているように、鋳片の全幅に対して5mm間隔で実施して、得られた値の標準偏差を求めることにより行った。
[内層用溶鋼の形成条件]
内層を形成するために、電磁攪拌装置2の下方に鋳型内電磁ブレーキ装置3を設け、鋳型内電磁ブレーキ装置3のコア8の範囲内に、タンディッシュからの溶鋼を吐出して、表層用溶鋼と内層用溶鋼がそれぞれ混合しないように凝固させる。
以下それぞれの条件について説明する。
(浸漬ノズル吐出孔位置)
内層用鋼の鋳型内への供給を均一化し、かつ上向き流れの生成を抑制し、表層用鋼と内層用鋼との混合を抑制し、表層と内層との成分境界を明確にするためには浸漬ノズルの吐出孔から注入される溶鋼流が電磁ブレーキの磁界を通過することが必要であり、浸漬ノズルの吐出孔の下端位置を電磁ブレーキのコア下端から上端の間に位置するように配置する。
浸漬ノズルの吐出孔上端と下端の中間点が、電磁場が最大となる電磁ブレーキの中心線上(コア上端と下端の中間点)と一致するように配置することが最も望ましいが、電磁場は、コアの上部および下部にも拡がっているので、浸漬ノズルの吐出孔位置を電磁ブレーキのコア下端から上端の間に位置するように配置すれば実用上問題はない。
具体的には、浸漬ノズル吐出孔の上端が電磁ブレーキのコア上端より下方に位置し、ノズル吐出孔下端がコア下端より上方に、より好ましくは5cm以上上方に位置するように配置する。
電磁ブレーキのコア上端より上方にノズル吐出孔上端が位置するようにして鋳造した場合、水平より上向きの角度を持った浸漬ノズルの場合に上向きの流れを生じせしめ、表層用鋼と内層用鋼の混合を促進させることは当然であるが、下向きの吐出角度を持った浸漬ノズルを用いた場合であっても、コア上端位置の直流電磁場にて吐出流は抑制されるものの、磁場を逃れて上方に向かう溶鋼流が発生してしまい、表層用鋼と内層用鋼との混合が促進されてしまう。
また、浸漬ノズルの吐出孔下端が電磁ブレーキのコア下端より下方に位置した場合、浸漬ノズルの吐出流れが電磁ブレーキにより減速されずに、下方向に流れ込む流れが生じる。
溶鋼には、通常、浸漬ノズルの詰まり防止のためにArガスが吹き込まれているが、そのArガスが溶鋼とともに電磁ブレーキより下方に侵入し、それが浮上する際に、電磁ブレーキコア下端近傍で上昇を抑制され、かつ、気泡が合体し粗大化するため、それが浮上できずに鋳片表皮下の一定位置に捕捉され、そこに介在物を伴う粗大な気泡が残存するようになり、それが冷間圧延後、表面疵などの品質欠陥の発生原因となる。
複層鋳片を熱間圧延した後に冷間圧延を実施して薄板材を製造する場合には、製品板厚が薄くなるほど、つまり加工度が大きくなるほど表層が加工により薄くなる。そうすると、表層と内層との間にある表層より内部の欠陥が表面に露出して表面疵になり易くなる。また、疵が発生した場合には内層の金属が露出して、表層の特性が発揮され難くなる。
これに対し、浸漬ノズルと電磁ブレーキとの位置関係を本発明条件とすることにより、複層鋳片を薄板に加工した場合でも、表層の改質層と内層との境界への気泡の補足防止が可能となり、表層に疵が発生しないようにすることが可能となる。その結果、表層に付与した溶質の特性を問題無く発揮させることが可能となる。
(溶鋼吐出角度)
内層用浸漬ノズルとして、2孔ノズルのような、側面に吐出孔が形成されているノズルを用い、ノズル側方に溶鋼を吐出する。
吐出孔は、内層用浸漬ノズルに対して、下向き45°から上向き10°までの範囲の吐出角度で溶鋼を吐出すようにする。
吐出角度が下向き45°を超えると、電磁ブレーキにより減速されずに下方向に流れ込む流れが多くなり、浸漬ノズルの吐出孔下端が電磁ブレーキのコア下端より下方に位置した場合と同様の問題が生じるようになる。また、吐出角度が上向き10°を超えると、電磁ブレーキ範囲より上方に流れ込む流れが多くなり、表層用の溶鋼との混合が問題になる。
(鋳型内電磁ブレーキ条件)
内層用の溶鋼の供給を鋳型内電磁ブレーキ領域の範囲内で実施することにより、内層用の溶鋼が鋳型上方に向かうことを抑制する。電磁ブレーキ範囲より上方で内層用溶鋼を供給した場合には、電磁ブレーキ領域に跳ね返された溶鋼が鋳型上方に向かって跳ね返され表層用溶鋼と内層用溶鋼との混合の抑制が困難となる。
電磁ブレーキの電磁力を0.4テスラ以上とすることにより表層用鋼と内層用鋼との分離を促進することができる。
[表層厚みの調整]
表層は、旋回流の範囲で形成されるので、その厚みは、メニスカスから電磁攪拌装置のコア下端位置までの間に形成される凝固シェル厚によって決められる。このため、鋳造速度を調整することにより、表層厚みを調整することができる。その際、目標とする表層厚みから、次のようにして必要な鋳造速度を求めることができる。
連続鋳造機内の凝固シェル厚D(mm)は、1次元の伝熱計算により、時間の1/2乗に比例する、下記の(2)式で示す形で示される。
D=K×t1/2 ・・・(2)
ここで、k:鋳造機に特有の凝固定数、t:時間(分)である。
表層厚みを求めるための時間tは、メニスカスから電磁攪拌装置のコア下端位置の距離をL(mm)、鋳造速度をVc(mm/分)とすると、L/Vcで表わされるので、目標とする表層厚みから、必要な鋳造速度を求めることができる。
以下、さらに、本発明の実施可能性および効果を実施例により具体的に説明する。これらの実施例はその説明のための一例であり、本発明を限定するものではない。
(実施例1)
鋳型の上部に電磁攪拌装置EMS(コア厚:400mm)を設置し、鋳型上端から700mmの位置にコアの上端が来るように電磁ブレーキ装置LMF(コア厚:200mm)を設置した連続鋳造装置を用い、電磁攪拌装置のコアの範囲内の溶鋼にNiワイヤを挿入して、溶鋼のメニスカス近傍にタンディッシュから浸漬ノズルを通して鋳型内に供給される溶鋼よりも密度の高い溶鋼を形成して、幅1600mm、厚さ246mmの複層鋳片を鋳造する実験を行った。
本発明例(EMS+LMF)として、電磁攪拌装置で、メニスカスから電磁攪拌装置コア下端までの凝固シェル前面の平均流速が40cm/秒となるように溶鋼を攪拌すると同時に、電磁ブレーキ装置の電磁力を0.2T、0.3T、0.4T、0.5Tの4段階に変化させて鋳造を行った。
また、比較例1(EMS単独)では、電磁攪拌装置だけを作動させて、メニスカスから電磁攪拌装置コア下端までの平均流速が20cm/秒、40cm/秒、60cm/秒の3段階で溶鋼の攪拌を実施し、電磁ブレーキ装置を不作動とし、比較例2(LMF単独)では、電磁攪拌装置を不作動とし、電磁ブレーキ装置だけを作動させ、電磁力を0.2T、0.3T、0.4T、0.5Tの4段階に変化させて鋳造を行った。
なお、鋳造速度はいずれの例でも1.5m/分で一定とした。
凝固シェル前面の平均流速が40cm/秒となるように電磁攪拌装置を作動させ、同時に0.4Tで電磁ブレーキ装置を作動させた本発明例の鋳片、本発明例と同様に電磁攪拌装置のみを作動させた比較例1の鋳片、及び、本発明例と同様に電磁ブレーキ装置のみを作動させた比較例2の鋳片について、それぞれ断面のNi濃度を表層から鋳片厚み方向に測定し、母溶鋼濃度(内層濃度)との差を調べた。
結果を図4に示すが、本発明例の場合は、表層と内層の境界が明りょうなのに対し、比較例1では、表層及び内層でのNi濃度の変化が大きく、比較例2では、Niの拡散が十分でなく、Niが鋳片表面に滞留して、目的とする組成を有する表層が十分な厚みで形成されないことが分かる。
また、本発明例及び比較例1、2の連続鋳造の際、母溶鋼濃度になる鋳片表層からの距離をそれぞれ測定した。
本発明例と比較例1、2のそれぞれについて、電磁攪拌条件あるいは電磁ブレーキ条件を変化させた場合の母溶鋼濃度になる表層からの距離の変化を図5に示す。
電磁攪拌装置と電磁ブレーキ装置の両方を作動させた本発明例の場合は、母溶鋼濃度になる距離はいずれも短く、表層と内層の境界が明りょうになっていることが確認できた。
(実施例2)
浸漬ノズルの吐出鋼の位置の効果を比較するために、浸漬ノズルの位置を変化させる実験を行った。
実験では、凝固シェル前面の平均流速が40cm/秒となるように電磁攪拌装置を作動させ、同時に0.4Tで電磁ブレーキ装置を作動させた状態で、2孔ノズルの吐出孔の上端と下端の中間点が、電磁ブレーキ装置の中心線上と一致するように配置した場合と、2孔ノズルの吐出孔の上端を電磁ブレーキ装置のコア下端よりもさらに100mm下方に配置した場合の2通りに浸漬ノズルの位置を変化させ、鋳造幅1600mm、厚さ246mmの複層鋳片を鋳造速度1.5m/分で鋳造した。他の条件は、本発明の条件を満たすものとした。
製造された鋳片の断面を切り出し介在物の観察を行った結果を図6に示す。
2孔ノズルの吐出孔の上端を電磁ブレーキ装置のコア下端よりも下方に配置した場合は、図6(b)に示すように、表層成分領域15と内層成分領域16との境界17付近に直径1〜5mmのアルミナ系介在物を伴った粗大な気泡18が残存しているのが観察された。これに対し、吐出孔を電磁ブレーキ装置の中心に配置した場合は、図6(a)に示すように、直径1mm以上の粗大な気泡は観察されなかった。
次に、得られた複層鋳片を薄板に加工して、気泡の影響を調べた。
複層鋳片を熱間圧延した後に冷間圧延を実施して薄板材を製造する場合には、製品板厚が薄くなる程、つまり加工度が大きくなるほど表層が加工により薄くなり、表層成分領域15と内層成分領域16との境界17付近に残存する欠陥が表面に露出して表面疵になり易くなる。
そこで、実施例の鋳片と比較例の鋳片をそれぞれ圧延して0.8mm厚みの冷延板を製造し、冷延板の表面疵の発生状態を調べ、両者の品質を比較した。表面疵の発生状態を、表面疵1個を1mとして、コイル長さで除した長さ割合(%)を発生指数として評価して図7に示す。
図7に示すように、実施例の場合には疵発生が低位であったのに対し、比較例では表面にアルミナ系の線状の疵が多発し、冷延板の品質が劣位であった。
以上のように、本発明に基づけば、複層鋳片を薄板に加工した場合でも、表層に疵がほとんど発生しないことが確認された。
1 連続鋳造鋳型
2 電磁攪拌装置
3 電磁ブレーキ装置
4 タンディッシュ
5 浸漬ノズル
6 ワイヤ
7 電磁攪拌装置のコア
8 電磁ブレーキ装置のコア
9 表層用溶鋼
10 内層用溶鋼
11 タンディッシュの溶鋼
12 第2の供給ノズル
15 表層成分領域
16 内層成分領域16
17 表層成分領域と内層成分領域との境界
18 介在物を伴った粗大な気泡

Claims (8)

  1. 鋳型の上部に鋳型内溶鋼の電磁攪拌装置を設置し、該電磁攪拌装置の下方に電磁ブレーキ装置を設置した連続鋳造装置を用いて複層鋳片を鋳造する方法において、
    前記電磁攪拌装置によって形成された水平方向の旋回流の領域に、タンディッシュから浸漬ノズルを通して鋳型内に供給される溶鋼よりも密度の高い溶鋼の領域を形成し、
    前記電磁ブレーキ装置により印加される直流磁界の領域内に前記浸漬ノズルの吐出孔を配置して、該吐出孔から浸漬ノズルの側方に下向き45°から上向き10°以下の吐出角度で溶鋼を吐出しつつ鋳造することにより、鋳片表層の密度が内層に比べて高い鋳片とすることを特徴とする複層鋳片の製造方法。
  2. 前記電磁攪拌装置のコア範囲における溶鋼の凝固シェル前面流速を10〜50cm/秒とすることを特徴とする請求項1に記載の複層鋳片の製造方法。
  3. 前記電磁ブレーキ装置の印可する電磁力を0.4テスラ以上とすることを特徴とする請求項1または2に記載の複層鋳片の製造方法。
  4. 前記旋回流に表層の溶鋼密度を高めるための成分を有するワイヤを供給して、前記密度の高い溶鋼の領域を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複層鋳片の製造方法。
  5. 前記タンディッシュに、前記浸漬ノズルとは別に溶鋼の供給ノズルを設け、該供給ノズルの先端位置を前記電磁攪拌装置のコア範囲内とするとともに、供給ノズル内に表層の溶鋼密度を高めるための成分を有するワイヤを供給し、供給ノズル内でワイヤを溶融してその溶鋼を前記旋回流に吐出することにより前記密度の高い溶鋼を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複層鋳片の製造方法。
  6. 請求項1に記載の複層鋳片の製造方法を実施するための連続鋳造装置であって、
    鋳型に溶鋼を供給するタンディッシュと
    鋳型の上部に設置され、鋳型内の溶鋼のメニスカス近傍に水平方向の旋回流を形成する電磁攪拌装置と、
    前記電磁攪拌装置の下方に所定の間隔を置いて設置され、鋳片の幅方向に直流磁界を形成する電磁ブレーキ装置と、
    鋳型内の溶鋼の前記旋回流の領域に、前記タンディッシュから鋳型内に供給される溶鋼より密度の高い溶鋼を形成する手段と
    先端部の側面にタンディッシュからの溶鋼を鋳型内に吐出する吐出孔が形成された浸漬ノズルとを有し、
    前記吐出孔の下端が電磁ブレーキ装置の直流磁界域内に位置するように配置され、かつ、前記吐出孔が浸漬ノズルの側方に下向き45°から上向き10°以下の範囲の吐出角度で形成されていることを特徴とする連続鋳造装置。
  7. 鋳型内の溶鋼の前記旋回流の領域に、前記タンディッシュから鋳型内に供給される溶鋼より密度の高い溶鋼を形成する手段が、溶鋼密度を高めるための成分を有するワイヤと、該ワイヤを前記旋回流に供給するワイヤ供給装置を備えることを特徴とする請求項6に記載の連続鋳造装置。
  8. 鋳型内の溶鋼の前記旋回流の領域に、前記タンディッシュから鋳型内に供給される溶鋼より密度の高い溶鋼を形成する手段が、前記タンディッシュに前記浸漬ノズルとは別に設けられた溶鋼の供給ノズルと、該供給ノズル内に供給される溶鋼密度を高めるための成分を有するワイヤと、該ワイヤを前記供給ノズル内に供給するワイヤ供給装置を備えることを特徴とする請求項6に記載の連続鋳造装置。
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