以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、本明細書に示す各図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。各図面において図示される各部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
また、以下では、一例として、溶融金属が溶鋼である実施形態について説明する。ただし、本発明はかかる例に限定されず、本発明は、他の金属に対する連続鋳造に対して適用されてもよい。
(1.連続鋳造機の構成)
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る連続鋳造機の構成、及び連続鋳造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る連続鋳造機の一構成例を概略的に示す側断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る連続鋳造機1は、連続鋳造用の鋳型110を用いて溶鋼2を連続鋳造し、スラブ等の鋳片3を製造するための装置である。連続鋳造機1は、鋳型110と、取鍋4と、タンディッシュ5と、浸漬ノズル6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8と、を備える。
取鍋4は、溶鋼2を外部からタンディッシュ5まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4は、タンディッシュ5の上方に配置され、取鍋4内の溶鋼2がタンディッシュ5に供給される。タンディッシュ5は、鋳型110の上方に配置され、溶鋼2を貯留して、当該溶鋼2中の介在物を除去する。浸漬ノズル6は、タンディッシュ5の下端から鋳型110に向けて下方に延び、その先端は鋳型110内の溶鋼2に浸漬されている。当該浸漬ノズル6は、タンディッシュ5にて介在物が除去された溶鋼2を鋳型110内に連続供給する。
鋳型110は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板(後述する図2等に示す長辺鋳型板111に対応する)で一対の短辺鋳型板(後述する図4等に示す短辺鋳型板112に対応する)を両側から挟むように組み立てられる。長辺鋳型板及び短辺鋳型板(以下、鋳型板と総称することがある)は、例えば冷却水が流動する水路が設けられた水冷銅板である。鋳型110は、かかる鋳型板と接触する溶鋼2を冷却して、鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型110下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル3aと未凝固部3bを含む鋳片3は、鋳型110の下端から引き抜かれる。
なお、以下の説明では、上下方向(すなわち、鋳型110から鋳片3が引き抜かれる方向)を、Z軸方向とも呼称する。Z軸方向のことを鉛直方向とも呼称する。また、Z軸方向と垂直な平面(水平面)内における互いに直交する2方向を、それぞれ、X軸方向及びY軸方向とも呼称する。また、X軸方向を、水平面内において鋳型110の長辺と平行な方向(すなわち、鋳型幅方向)として定義し、Y軸方向を、水平面内において鋳型110の短辺と平行な方向(すなわち、鋳型厚み方向)として定義する。X-Y平面と平行な方向のことを水平方向とも呼称する。また、以下の説明では、各部材の大きさを表現する際に、当該部材のZ軸方向の長さのことを高さともいい、当該部材のX軸方向又はY軸方向の長さのことを幅ともいうことがある。
ここで、図1では図面が煩雑になることを避けるために図示を省略しているが、本実施形態では、鋳型110の長辺鋳型板の外側面に電磁力発生装置が設置される。そして、当該電磁力発生装置を駆動させながら連続鋳造を行う。当該電磁力発生装置は、電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を備えるものである。本実施形態では、当該電磁力発生装置を駆動させながら連続鋳造を行うことにより、鋳片の品質を確保しつつ、より高速での鋳造が可能になる。当該電磁力発生装置の構成及び鋳型110に対する設置位置等については、図2~図5を参照して後述する。
二次冷却装置7は、鋳型110の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型110下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。この二次冷却装置7は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず)とを有する。
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を厚さ方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレイクアウトやバルジングを防止できる。
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、図1に示すように、鋳型110の直下では垂直であり、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平になる。二次冷却帯9において、当該パスラインが垂直である部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平である部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機1は、垂直曲げ型の連続鋳造機1と呼称される。なお、本発明は、図1に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機1に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
サポートロール11は、鋳型110の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型110から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型110から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレイクアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。図1に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
ピンチロール12は、モータ等の駆動手段により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型110から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型110から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は図1に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
セグメントロール13(ガイドロールともいう)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、図1では左下側の面)とL面(Loose面、図1では右上側の面)のいずれに設けられるかによって、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された厚板状の鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
以上、図1を参照して、本実施形態に係る連続鋳造機1の全体構成について説明した。なお、本実施形態では、鋳型110に対して後述する構成を有する電磁力発生装置が設置され、当該電磁力発生装置を用いて連続鋳造が行われればよく、連続鋳造機1における当該電磁力発生装置以外の構成は、一般的な従来の連続鋳造機と同様であってよい。従って、連続鋳造機1の構成は図示したものに限定されず、連続鋳造機1としては、あらゆる構成のものが用いられてよい。
(2.電磁力発生装置)
(2-1.電磁力発生装置の構成)
図2~図5を参照して、上述した鋳型110に対して設置される電磁力発生装置の構成について詳細に説明する。図2~図5は、本実施形態に係る鋳型設備の一構成例を示す図である。
図2は、本実施形態に係る鋳型設備10のY-Z平面での断面図である。図3は、鋳型設備10の、図2に示すA-A断面での断面図である。図4は、鋳型設備10の、図3に示すB-B断面での断面図である。図5は、鋳型設備10の、図3に示すC-C断面での断面図である。なお、鋳型設備10は、Y軸方向において、鋳型110の中心に対して対称な構成を有するため、図2、図4及び図5では、一方の長辺鋳型板111に対応する部位のみを図示している。また、図2、図4及び図5では、理解を容易にするため、鋳型110内の溶鋼2も併せて図示している。
図2~図5を参照すると、本実施形態に係る鋳型設備10は、鋳型110の長辺鋳型板111の外側面に、バックアッププレート121を介して、2つの水箱130、140と、電磁力発生装置170と、が設置されて構成される。
鋳型110は、上述したように、一対の長辺鋳型板111で一対の短辺鋳型板112を両側から挟むように組み立てられる。鋳型板111、112は銅板からなる。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、鋳型板111、112は、一般的に連続鋳造機の鋳型として用いられる各種の材料によって形成されてよい。
ここで、本実施形態では、鉄鋼スラブの連続鋳造を対象としており、その鋳片サイズは、幅(すなわち、X軸方向の長さ)800~2300mm程度、厚み(すなわち、Y軸方向の長さ)200~300mm程度である。つまり、鋳型板111、112も、当該鋳片サイズに対応した大きさを有する。すなわち、長辺鋳型板111は、少なくとも鋳片3の幅800~2300mmよりも長いX軸方向の幅を有し、短辺鋳型板112は、鋳片3の厚み200~300mmと略同一のY軸方向の幅を有する。
また、詳しくは後述するが、本実施形態では、電磁力発生装置170による鋳片3の品質向上の効果をより効果的に得るために、Z軸方向の長さが可能な限り長くなるように鋳型110を構成する。一般的に、鋳型110内で溶鋼2の凝固が進行すると、凝固収縮のために鋳片3が鋳型110の内壁から離れてしまい、当該鋳片3の冷却が不十分になる場合があることが知られている。そのため、鋳型110の長さは、溶鋼湯面から、長くても1000mm程度が限界とされている。本実施形態では、かかる事情を考慮して、溶鋼湯面から鋳型板111、112の下端までの長さが1000mm程度となるように、当該鋳型板111、112を形成する。
バックアッププレート121、122は、例えばステンレスからなり、鋳型110の鋳型板111、112を補強するために、当該鋳型板111、112の外側面を覆うように設けられる。以下、区別のため、長辺鋳型板111の外側面に設けられるバックアッププレート121のことを長辺側バックアッププレート121ともいい、短辺鋳型板112の外側面に設けられるバックアッププレート122のことを短辺側バックアッププレート122ともいう。
電磁力発生装置170は、長辺側バックアッププレート121を介して鋳型110内の溶鋼2に対して電磁力を付与するため、少なくとも長辺側バックアッププレート121は非磁性体(例えば、非磁性のステンレス等)によって形成され得る。ただし、長辺側バックアッププレート121の、後述する電磁ブレーキ装置160の鉄芯(コア)162(以下、電磁ブレーキコア162ともいう)の端部164と対向する部位には、電磁ブレーキ装置160の磁束密度を確保するために、磁性体の軟鉄124が埋め込まれる。
長辺側バックアッププレート121には、更に、当該長辺側バックアッププレート121と垂直な方向(すなわち、Y軸方向)に向かって延伸する一対のバックアッププレート123が設けられる。図3~図5に示すように、この一対のバックアッププレート123の間に電磁力発生装置170が設置される。このように、バックアッププレート123は、電磁力発生装置170の幅(すなわち、X軸方向の長さ)、及びX軸方向の設置位置を規定し得るものである。換言すれば、電磁力発生装置170が鋳型110内の溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、バックアッププレート123の取り付け位置が決定される。以下、区別のため、当該バックアッププレート123のことを、幅方向バックアッププレート123ともいう。幅方向バックアッププレート123も、バックアッププレート121、122と同様に、例えばステンレスによって形成される。
水箱130、140は、鋳型110を冷却するための冷却水を貯水する。本実施形態では、図示するように、一方の水箱130を長辺鋳型板111の上端から所定の距離の領域に設置し、他方の水箱140を長辺鋳型板111の下端から所定の距離の領域に設置する。このように、水箱130、140を鋳型110の上部及び下部にそれぞれ設けることにより、当該水箱130、140の間に電磁力発生装置170を設置する空間を確保することが可能になる。以下、区別のため、長辺鋳型板111の上部に設けられる水箱130のことを上部水箱130ともいい、長辺鋳型板111の下部に設けられる水箱140のことを下部水箱140ともいう。
長辺鋳型板111の内部、又は長辺鋳型板111と長辺側バックアッププレート121との間には、冷却水が通過する水路(図示せず)が形成される。当該水路は、水箱130、140まで延設されている。図示しないポンプによって、一方の水箱130、140から他方の水箱130、140に向かって(例えば、下部水箱140から上部水箱130に向かって)、当該水路を通過して冷却水が流される。これにより、長辺鋳型板111が冷却され、当該長辺鋳型板111を介して鋳型110内部の溶鋼2が冷却される。なお、図示は省略しているが、短辺鋳型板112に対しても、同様に、水箱及び水路が設けられ、冷却水が流動されることにより当該短辺鋳型板112が冷却される。
電磁力発生装置170は、電磁撹拌装置150と、電磁ブレーキ装置160と、を備える。図示するように、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160は、水箱130、140の間の空間に設置される。当該空間内で、電磁撹拌装置150が上方に、電磁ブレーキ装置160が下方に設置される。なお、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における設置位置については、下記(2-3.電磁力発生装置の設置位置の詳細)で詳細に説明する。
電磁撹拌装置150は、鋳型110内の溶鋼2に対して、動磁場を印加することにより、当該溶鋼2に対して電磁力を付与する。電磁撹拌装置150は、自身が設置される長辺鋳型板111の幅方向(すなわち、X軸方向)の電磁力を溶鋼2に付与するように駆動される。図4には、電磁撹拌装置150によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向を、模擬的に太線矢印で示している。ここで、図示を省略している長辺鋳型板111(すなわち、図示する長辺鋳型板111に対向する長辺鋳型板111)に設けられる電磁撹拌装置150は、その自身が設置される長辺鋳型板111の幅方向に沿って、図示する方向とは逆向きの電磁力を付与するように駆動される。このように、一対の電磁撹拌装置150が、水平面内において旋回流を発生させるように駆動される。電磁撹拌装置150によれば、このような旋回流を生じさせることにより、凝固シェル界面における溶鋼2が流動され、凝固シェル3aへの気泡や介在物の捕捉を抑制する洗浄効果が得られ、鋳片3の表面品質を良化させることができる。
電磁撹拌装置150の詳細な構成について説明する。電磁撹拌装置150は、ケース151と、当該ケース151内に格納される鉄芯(コア)152(以下、電磁撹拌コア152ともいう)と、当該電磁撹拌コア152に導線が巻回されて構成される複数のコイル153と、から構成される。
ケース151は、略直方体形状を有する中空の部材である。ケース151の大きさは、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、内部に設けられるコイル153が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、ケース151のX軸方向の幅W4、すなわち電磁撹拌装置150のX軸方向の幅W4は、鋳型110内の溶鋼2に対して、X軸方向のいずれの位置においても電磁力を付与し得るように、鋳片3の幅よりも大きくなるように決定される。例えば、W4は1800mm~2500mm程度である。また、電磁撹拌装置150では、コイル153からケース151の側壁を通過して溶鋼2に対して電磁力が付与されるため、ケース151の材料としては、例えば非磁性体ステンレス又はFRP(Fiber Reinforced Plastics)等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な部材が用いられる。
電磁撹拌コア152は、略直方体形状の本体部と、当該本体部から突設される複数のティース部154と、を有する中実の部材であり、ケース151内において、その長手方向が長辺鋳型板111の幅方向(すなわち、X軸方向)と略平行になるように設置される。電磁撹拌コア152は、例えば電磁鋼板を積層することにより形成される。
電磁撹拌コア152に対して、X軸方向を巻回軸方向として導線が巻回されることにより、コイル153が形成される(すなわち、電磁撹拌コア152をX軸方向に磁化するようにコイル153が形成される)。当該導線としては、例えば断面が10mm×10mmで、内部に直径5mm程度の冷却水路を有する銅製のものが用いられる。電流印加時には、当該冷却水路を用いて当該導線が冷却される。当該導線は、絶縁紙等によりその表層が絶縁処理されており、層状に巻回することが可能である。例えば、一のコイル153は、当該導線を2~4層程度巻回することにより形成される。同様の構成を有するコイル153が、X軸方向に所定の間隔を有して並列されて設けられる。
具体的には、電磁撹拌コア152の略直方体形状の本体部がX軸方向に延伸するように設置され、当該本体部から鋳型110に向かって水平方向に突出するように複数のティース部154が設けられる。これら複数のティース部154はX軸方向に互いに所定の間隔を有して並べられて設けられる。そして、当該複数のティース部154の間の領域にX軸方向を巻回軸方向としてそれぞれ導線が巻回され、複数のコイル153が形成される。ティース部154の幅(すなわち、X軸方向の長さ)Wt、及びコイル153の幅(すなわち、コイル153のX軸方向の長さであって、X軸方向における隣り合うティース部154間の距離に対応する)Wcは、電磁撹拌コア152の幅W1の大きさ、及び鋳片3の品質を向上させ得るような所望の撹拌力が得られること等を考慮して、適宜設定される。例えば、ティース部154の幅Wtは30mm~120mm程度であり、コイル153の幅Wcは20mm~120mm程度である。
複数のコイル153のそれぞれには、図示しない電源装置が接続される。当該電源装置によって、電流の位相が複数のコイル153の配列順に適宜ずれるように、当該複数のコイル153に対して交流電流が印加されることにより、溶鋼2に対して旋回流を生じさせるような電磁力が付与され得る。電源装置の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。当該制御装置により、コイル153のそれぞれに印加される電流量や、コイル153のそれぞれに印加される交流電流の位相等が適宜制御され、溶鋼2に対して与えられる電磁力の強さが制御され得る。なお、複数のコイル153に対する交流電流の印加方法の詳細については後述する。
電磁撹拌コア152のX軸方向の幅W1は、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、コイル153が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、W1は1800mm程度である。
なお、図示する構成例では、電磁撹拌コア152はティース部154を有しているが、第1の実施形態はかかる例に限定されない。第1の実施形態では、電磁撹拌コア152にはティース部154は設けられなくてもよい。この場合には、電磁撹拌コア152は、略直方体形状に構成され、当該電磁撹拌コア152に対して、X軸方向に互いに所定の間隔を有して導線がそれぞれ巻回されることにより、X軸方向に互いに所定の間隔を有して並べられる複数のコイル153が形成される。
電磁ブレーキ装置160は、鋳型110内の溶鋼2に対して静磁場を印加することにより、当該溶鋼2に対して電磁力を付与する。ここで、図6は、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向について説明するための図である。図6では、鋳型110近傍の構成の、X-Z平面での断面を概略的に図示している。また、図6では、電磁撹拌コア152、及び後述する電磁ブレーキコア162の端部164の位置を模擬的に破線で示している。
図6に示すように、浸漬ノズル6には、短辺鋳型板112に対向する位置に一対の吐出孔が設けられ得る。電磁ブレーキ装置160は、浸漬ノズル6の当該吐出孔からの溶鋼2の流れ(吐出流)を抑制する方向の電磁力を、当該溶鋼2に対して付与するように駆動される。図6には、吐出流の方向を模擬的に細線矢印で示すとともに、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向を模擬的に太線矢印で示している。電磁ブレーキ装置160によれば、このような吐出流を抑制する方向の電磁力を生じさせることにより、下降流が抑制され、気泡や介在物の浮上分離を促進する効果が得られ、鋳片3の内質を良化させることができる。
電磁ブレーキ装置160の詳細な構成について説明する。電磁ブレーキ装置160は、ケース161と、当該ケース161内に格納される電磁ブレーキコア162と、当該電磁ブレーキコア162に導線が巻回されて構成される複数のコイル163と、から構成される。
ケース161は、略直方体形状を有する中空の部材である。ケース161の大きさは、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、内部に設けられるコイル163が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、ケース161のX軸方向の幅W4、すなわち電磁ブレーキ装置160のX軸方向の幅W4は、鋳型110内の溶鋼2に対して、X軸方向の所望の位置において電磁力を付与し得るように、鋳片3の幅よりも大きくなるように決定される。図示する例では、ケース161の幅W4は、ケース151の幅W4と略同様である。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、電磁撹拌装置150の幅と電磁ブレーキ装置160の幅は異なっていてもよい。
また、電磁ブレーキ装置160では、コイル163からケース161の側壁を通過して溶鋼2に対して電磁力が付与されるため、ケース161は、ケース151と同様に、例えば非磁性体ステンレス又はFRP等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な材料によって形成される。
電磁ブレーキコア162は、略直方体形状を有する中実の部材であってコイル163が設けられる一対の端部164と、同じく略直方体形状を有する中実の部材であって当該一対の端部164を連結する連結部165と、から構成される。電磁ブレーキコア162は、連結部165から、Y軸方向であって長辺鋳型板111に向かう方向に突出するように一対の端部164が設けられて構成される。一対の端部164が設けられる位置は、溶鋼2に対して電磁力を付与したい位置、すなわち浸漬ノズル6の一対の吐出孔からの吐出流がそれぞれコイル163によって磁場が印加される領域を通過するような位置に設けられ得る(図6も参照)。電磁ブレーキコア162は、例えば、磁気特性の高い軟鉄を用いて形成されてもよいし、電磁鋼板を積層することにより形成されてもよい。
電磁ブレーキコア162の端部164に対して、Y軸方向を巻回軸方向として導線が巻回されることにより、コイル163が形成される(すなわち、電磁ブレーキコア162をY軸方向に磁化するようにコイル163が形成される)。当該コイル163の構造は、上述した電磁撹拌装置150のコイル153と同様である。
コイル163のそれぞれには、図示しない電源装置が接続される。当該電源装置によって、各コイル163に直流電流が印加されることにより、溶鋼2に対して吐出流の勢いを弱めるような電磁力が付与され得る。なお、当該電源装置の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。当該制御装置により、各コイル163に印加する電流量等が適宜制御され、溶鋼2に対して与えられる電磁力の強さが制御され得る。
電磁ブレーキコア162のX軸方向の幅W0、端部164のX軸方向の幅W2、及びX軸方向における端部164間の距離W3は、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、コイル163が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、W0は1600mm程度、W2は500mm程度、W3は350mm程度である。
ここで、例えば上記特許文献1に記載の技術のように、電磁ブレーキ装置としては、単独の磁極を有し、鋳型幅方向に一様な磁場を生じさせるものが存在する。かかる構成を有する電磁ブレーキ装置では、幅方向に一様な電磁力が付与されることとなるため、電磁力が付与される範囲を詳細に制御することができず、適切な鋳造条件が限られるという欠点がある。
これに対して、本実施形態では、上記のように、2つの端部164を有するように、すなわち2つの磁極を有するように、電磁ブレーキ装置160が構成される。かかる構成によれば、例えば、電磁ブレーキ装置160を駆動する際に、これら2つの磁極がそれぞれN極及びS極として機能し、鋳型110の幅方向(すなわち、X軸方向)の略中心近傍の領域において磁束密度が略ゼロとなるように、上記制御装置によってコイル163への電流の印加を制御することができる。この磁束密度が略ゼロである領域は、溶鋼2に対して電磁力がほぼ付与されない領域であり、電磁ブレーキ装置160による制動力から解放されたいわば溶鋼流れの逃げが確保され得る領域である。かかる領域が確保されることにより、より幅広い鋳造条件に対応することが可能となる。
なお、図示する構成例では、電磁ブレーキ装置160は磁極を2つ有するように構成されているが、本実施形態はかかる例に限定されない。電磁ブレーキ装置160は、3つ以上の端部164を有し、3つ以上の磁極を有するように構成されてもよい。この場合、各端部164のコイル163に印加する電流量がそれぞれ適宜調整されることにより、電磁ブレーキに係る溶鋼2への電磁力の印加を更に詳細に制御することが可能となる。
(2-2.電磁撹拌装置における交流電流の印加方法)
電磁撹拌装置150におけるコイル153への交流電流の印加方法について説明する。図7は、電磁撹拌装置150におけるコイル153への交流電流の印加方法について説明するための図である。図7では、電磁撹拌装置150が鋳型110に対して設置された構成を上方向から見た様子を概略的に示している。なお、図7では、簡単のため、ケース151の図示を省略するとともに、鋳型110を簡易的に図示している。また、図2~図5では一方の電磁撹拌装置150の図示を省略していたが、図7では、鋳型110を厚み方向に挟むように設置される一対の電磁撹拌装置150をともに図示している。
上述したように、複数のコイル153に対して、電流の位相が当該複数のコイル153の配列順に適宜ずれるように、交流電流が印加される。図8は、電磁撹拌装置150のコイル153に対して印加される交流電流の位相について説明するための図である。本実施形態では、電磁撹拌装置150の電源装置は、互いに位相が120度ずつずれた3相交流電流(+U、+V、+W)をコイル153に対して印加可能に構成される。電流の向きまで考慮すると、当該電源装置は、+U、-W、+V、-U、+W、-Vの、60度ずつ位相がずれた6種類の交流電流をコイル153に対して印加することができる。図8では、これら6種類の交流電流の位相を概略的に図示している。図8において、円周上の位置が各交流電流間の位相を表しており、例えば、-Wは、+Uよりも60度だけ位相が遅れていることを示している。
図7に示すように、X軸方向に並べられて設けられる複数のコイル153に対して、コイル153の配列順に位相が60度ずつ順次ずれるように、交流電流が印加される。この際、隣り合う2つのコイル153ごとに位相が60度ずつ順次ずれるように、交流電流が印加される。具体的には、隣り合うある2つのコイル153に対して+Uの交流電流が印加されるとすると、その隣の2つのコイル153には-Wの交流電流が印加され、更にその隣の2つのコイル153には+Vの交流電流を印加する。以下、同様に、2つのコイル153ごとに、順次-U、+W、-Vの交流電流がそれぞれ印加される。その隣のコイル153から先に並ぶコイル153には、同様に、2つのコイル153ごとに、順次+U、-W、+V、-U、+W、-Vの交流電流がそれぞれ印加される。図7及び上述した図4では、各コイル153の上に、各コイル153に対して印加される交流電流の種類を示す記号を模擬的に記載している。
複数のコイル153に対してこのような位相差で交流電流が印加されることにより、鋳型110の長辺鋳型板近傍の溶鋼2には、見掛け上、鋳型幅方向に沿って移動する磁界が生じることとなる。このとき、図7に示すように、複数のコイル153に対して印加される交流電流は、一対の電磁撹拌装置150について、その位相のずれ方が逆方向となるように設定される。図7に示す例であれば、Y軸正方向側に設置される電磁撹拌装置150では、X軸正方向からX軸負方向に向かって、+U、-W、+V、-U、+W、-Vの順に交流電流が印加されているが、Y軸負方向側に設置される電磁撹拌装置150では、X軸負方向からX軸正方向に向かって、+U、-W、+V、-U、+W、-Vの順に交流電流が印加されている。
交流電流の印加方法をこのように設定することにより、一方の長辺鋳型板近傍において溶鋼2に生じる移動磁界の方向が、他方の長辺鋳型板近傍において溶鋼2に生じる移動磁界の方向とは逆方向になる(図7に示す例であれば、Y軸正方向側に位置する長辺鋳型板近傍において溶鋼2に生じる移動磁界の方向はX軸負方向からX軸正方向に向かう方向であり、Y軸負方向側に位置する長辺鋳型板近傍において溶鋼2に生じる移動磁界の方向はX軸正方向からX軸負方向に向かう方向である)。このように、対向する長辺鋳型板近傍の溶鋼2に対して、それぞれ逆向きに移動磁界が印加されることにより、一対の電磁撹拌装置150によって溶鋼2に対して与えられる電磁力の向きも互いに逆方向となり、溶鋼2においては、水平面内において旋回流が発生することとなる。
ここで、以上説明したように、本実施形態においては、移動磁界を発生させるために、複数のコイル153の配列順に位相が2つのコイル153ごとに順次ずれるように、当該複数のコイル153に対して交流電流が印加される。一方、移動磁界を発生させるためには、複数のコイル153の配列順に位相が1つのコイル153ごとに順次ずれるように、当該複数のコイル153に対して交流電流が印加されてもよい。
図9は、このような、コイル153に対する交流電流の印加方法が異なる場合における、電磁撹拌装置250の一構成例を示す図である。図9では、図7と同様に、電磁撹拌装置250が鋳型110に対して設置された構成を上方向から見た様子を概略的に示している。図9に示すように、電磁撹拌装置250では、複数のコイル153の配列順に位相が1つのコイル153ごとに順次ずれるように、当該複数のコイル153に対して交流電流が印加される。なお、図9に示す電磁撹拌装置250は、本実施形態に係る電磁撹拌装置150に対して、コイル153に対する交流電流の印加方法が異なるだけであり、その他の構成は同様であるため、ここではその構成の詳細な説明は省略する。
本発明者らは、図7に示す本実施形態に係る電磁撹拌装置150の構成(2つのコイル153ごとに位相がずれるように交流電流が印加される構成。以下、便宜的に2スロットの構成ともいう)と、図9に示す本実施形態とは異なる電磁撹拌装置250の構成(1つのコイル153ごとに位相がずれるように交流電流が印加される構成。以下、便宜的に1スロットの構成ともいう)と、について、図2~図5に示す電磁力発生装置170のように電磁ブレーキ装置160とともに用いる場合に、高速鋳造時における鋳片3の品質の観点から、どちらの構成がより適しているか、検討を行った。その結果、2スロットの構成を適用した方が、高速鋳造時においてもより高品質な鋳片3を得ることができるとの知見を得た。本実施形態は、かかる知見に基づくものであり、電磁ブレーキ装置160及び電磁撹拌装置150をともに備えた電磁力発生装置170において、電磁撹拌装置150の好適な構成として2スロットの構成を適用することにより、鋳片3の品質をより向上させ得るものである。以下、本発明者らが検討した結果について詳細に説明する。
電磁力発生装置170において、生産性を向上させた場合(すなわち、鋳造速度を増加させた場合)であっても鋳片の内質を確保するためには、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2に対して付与される電磁力をより強くする必要がある。鋳造速度を増加させた場合であっても鋳片の内質を確保するためには、電磁ブレーキ装置160によって下降流の勢いを弱め、ガス気泡等の浮上分離をより促進することが求められるからである。なお、過去の連続鋳造の操業実績データ等から、例えば鋳造速度を比較的高速である1.8m/min以上にまで増加させた場合には、良好な内質の鋳片を得るためには、電磁ブレーキ装置160によって発生させる電磁力の磁束密度を、0.2Tよりも大きくすることが好ましく、0.25T以上とすることがより好ましく、0.3T以上とすることが更に好ましいとの知見が得られている。
一方、このようにより強い電磁力を発生し得るように電磁ブレーキ装置160を駆動させた場合には、当該電磁ブレーキ装置160の上方に設置される電磁撹拌装置150にも、より強い電磁力を発生可能であることが求められる。電磁ブレーキ装置160の機能により浸漬ノズル6からの吐出流が鋳型上方に跳ね上げられることとなり、この跳ね上げられた吐出流により、電磁撹拌の効果が弱められる恐れがあるからである。つまり、電磁ブレーキ装置160によって跳ね上げられた吐出流の影響を受けても、安定的に旋回流を生じさせ得るような、より強い撹拌力を発生し得る電磁撹拌装置150が求められる。
そこで、本発明者らは、1スロットの構成を有する電磁撹拌装置250、及び2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150によって鋳型110内の溶鋼2に付与される電磁力を、電磁場解析シミュレーションによって調査した。電磁場解析シミュレーションの条件は以下の通りである(コイル153に印加する交流電流のパターンが異なること以外の条件は、電磁撹拌装置150、250で同様である)。
鋳片サイズ(鋳型110のサイズ):幅1600mm、厚み250mm
電磁撹拌コア152のサイズ:幅1775mm、高さ250mm、厚み250mm
電磁撹拌コア152の高さ方向の位置:上端が溶鋼湯面と同じレベル
ティース部154の数:13個
ティース幅Wt:75mm
コイル幅Wc:75mm
コイル153における巻き線:30ターン
コイル153に印加する交流電流:680A、3.0Hz
電磁場解析シミュレーションの結果を、図10及び図11に示す。図10は、電磁場解析シミュレーションの結果である、1スロットの構成を有する電磁撹拌装置250によって鋳型110内の溶鋼2に付与されるローレンツ力密度ベクトルの分布を示す図である。図11は、電磁場解析シミュレーションの結果である、2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150によって鋳型110内の溶鋼2に付与されるローレンツ力密度ベクトルの分布を示す図である。ここで、ローレンツ力密度ベクトルとは、溶鋼2の単位体積当たりに作用する電磁力(N/m3)をベクトル量として表したものである。なお、図10及び図11ともに、上段に、電磁撹拌コア152の高さ方向中心位置(すなわち、溶鋼湯面からの深さが125mmの位置)での水平断面におけるローレンツ力密度ベクトルの分布を示しており、下段に、鋳型110の長辺面の壁面近傍のX-Z断面におけるローレンツ力密度ベクトルの分布を示している。
図10及び図11を参照すると、図7及び図9に示す構成を有する電磁撹拌装置150、250において、同一の条件(電流値及び周波数)の交流電流を印加した場合には、2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150の方が、より強い電磁力が得られることが分かる。この結果は、2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150の方が、溶鋼2に対してより強い撹拌力を与えることができることを表しており、電磁ブレーキ装置160と併用する場合には、1スロットの構成を有する電磁撹拌装置250よりも、2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150の方が適していることを示している。
1スロットの構成よりも2スロットの構成の方が電磁力が大きくなる理由は、以下のように説明できる。図12及び図13は、電磁撹拌装置において、1スロットの構成及び2スロットの構成における電磁力の大きさの違いについて説明するための図である。図12では、1スロットの構成を有する電磁撹拌装置250における電磁撹拌コア152の一部を抜き出して図示している。図13では、2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150における電磁撹拌コア152の一部を抜き出して図示している。なお、図12及び図13では、説明のため、便宜的に、複数のコイル153a~153f及び複数のティース部154a~154gに対して、それぞれ異なる符号を付しているが、これらは、上述したコイル153及びティース部154と同様のものである。
まず、図12を参照して、1スロットの構成における電磁力について説明する。1スロットの構成では、例えば図示するように、複数のコイル153a~153fに対して、+U、-W、+V、-U、+W、-Vの交流電流が、順次印加される。+Uの交流電流の位相を0度とすれば、-Wの交流電流の位相は+60度、+Vの交流電流の位相は+120度、-Uの交流電流の位相は+180度、+Wの交流電流の位相は+240度、-Vの交流電流の位相は+300度と表すことができる。
このとき、複数のティース部154a~154gは、複数のコイル153a~153fへの交流電流の印加方法に応じて磁化されることとなるが、例えば+Uの交流電流(位相:0度)が印加されているコイル153aと-Wの交流電流(位相:+60度)が印加されているコイル153bの間に位置するティース部154bは、両者の位相の間、すなわち+30度の位相を有して変化する磁界を溶鋼2に対して生じさせることとなる。同様に、ティース部154c~ティース部154fは、それぞれ、+90度、+150度、+210度、+270度の位相を有して変化する磁界を溶鋼2に対して生じさせることとなる。
つまり、1スロットの構成を有する電磁撹拌装置250では、あるティース部154が溶鋼2に対して付与する磁界と、その隣のティース部154が溶鋼2に対して付与する磁界は、その位相が60度ずれたものとなる。
次に、図13を参照して、2スロットの構成における電磁力について説明する。2スロットの構成では、例えば図示するように、複数のコイル153a~153fに対して、+U、+U、-W、-W、+V、+Vの交流電流が、順次印加される。+Uの交流電流の位相を0度とすれば、-Wの交流電流の位相は+60度、+Vの交流電流の位相は+120度と表すことができる。
このとき、1スロットの構成の場合と同様に、複数のティース部154a~154gによって生じる磁界の位相について考察すると、例えば+Uの交流電流(位相:0度)が印加されているコイル153aと、同じく+Uの交流電流(位相:0度)が印加されているコイル153bの間に位置するティース部154bは、両者と同じ位相、すなわち0度の位相を有して変化する磁界を溶鋼2に対して生じさせることとなる。そして、+Uの交流電流(位相:0度)が印加されているコイル153bと、-Wの交流電流(位相:60度)が印加されているコイル153cの間に位置するティース部154cは、両者の位相の間、すなわち+30度の位相を有して変化する磁界を溶鋼2に対して生じさせることとなる。同様に、ティース部154d~ティース部154fは、それぞれ、+60度、+90度、+120度の位相を有して変化する磁界を溶鋼2に対して生じさせることとなる。
つまり、2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150では、あるティース部154が溶鋼2に対して付与する磁界と、その隣のティース部154が溶鋼2に対して付与する磁界は、その位相が30度ずれたものとなる。
このように、2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150の方が、1スロットの構成を有する電磁撹拌装置250よりも、隣り合うティース部154間における、溶鋼2に対して与える磁界の位相の間隔が小さい。つまり、2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150の方が、より滑らかな移動磁界を溶鋼2に対して与えることができる。また、同位相の交流電流が印加されるコイル153によって挟まれるティース部154(図13に示す例であれば、ティース部154b、154d、154f)は、互いに異なる位相の交流電流が印加されるコイル153によって挟まれるティース部154よりも強く磁化され得る。以上の理由から、2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150の方が、より強い電磁力を発生させることができると考えられる。
電磁撹拌装置250のように、比較的弱い電磁力しか発生できない場合には、当該電磁撹拌装置250での電磁撹拌による鋳片3の表面品質向上の効果を好適に得るためには、電磁撹拌が阻害されないように、比較的弱い電磁力を発生させるように電磁ブレーキ装置160を駆動させる必要がある。この場合、特に高速鋳造においては、電磁ブレーキ装置160による鋳片3の内質向上の効果を好適に得ることが難しくなり、結果的に鋳片3の品質を充分に向上させることが困難になる恐れがある。
これに対して、電磁撹拌装置150によってより強い電磁力を発生させることができれば、比較的強い電磁力を発生させるように電磁ブレーキ装置160を駆動させた場合であっても、充分な撹拌力を得ることができる。従って、鋳造速度を増加させた場合であっても、電磁ブレーキ装置160による鋳片3の内質向上の効果と電磁撹拌装置150による鋳片3の表面品質向上の効果をともに得ることができ、鋳片3の品質をより向上させることが可能になるのである。
なお、以上では、電磁撹拌コア152がティース部154を有する場合を例に挙げて説明したが、上述したように、第1の実施形態では、電磁撹拌コア152にはティース部154は設けられなくてもよい。電磁撹拌コア152にティース部154が設けられない場合であっても、上記の説明においてティース部154が存在していた領域に対応する、電磁撹拌コア152におけるコイル153の間の領域は、ティース部154が設けられる場合と同様に磁化されるため、以上説明した、2スロットの構成によってより強い電磁力を発生させることが可能になるという作用効果が、同様に得られる。
(2-3.電磁力発生装置の設置位置の詳細)
以上説明したように、電磁撹拌装置150を2スロットの構成とすることにより、鋳片3の品質をより向上させることが可能になる。一方、電磁力発生装置170においては、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における設置位置を適切に設定することにより、鋳片3の品質をより一層向上させることができる。ここでは、電磁力発生装置170における、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の適切な高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における適切な設置位置について説明する。
電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160においては、それぞれ、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さが大きいほど、電磁力を付与する性能が高いと言える。例えば、電磁ブレーキ装置160の性能は、電磁ブレーキコア162の端部164のX-Z平面での断面積(Z軸方向の高さH2×X軸方向の幅W2)と、印可する直流電流の値と、コイル163の巻き数と、に依存する。従って、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160をともに鋳型110に対して設置する場合には、限られた設置空間において、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の設置位置、より詳細には電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さの割合をどのように設定するかが、鋳片3の品質を向上させるために各装置の性能をより効果的に発揮させる観点から、非常に重要である。
ここで、上記特許文献1にも開示されているように、従来、連続鋳造において電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を両方用いる方法は提案されている。しかしながら、実際には、電磁撹拌装置と電磁ブレーキ装置を両方組み合わせても、電磁撹拌装置又は電磁ブレーキ装置をそれぞれ単体で使用した場合よりも、鋳片の品質が悪化してしまう場合も少なくない。これは、単純に両方の装置を設置すれば、簡単に両方の装置の長所が得られるというものではなく、各装置の構成や設置位置等によっては、それぞれの長所を打ち消し合ってしまうことが生じ得るからである。上記特許文献1においても、その具体的な装置構成は明示されておらず、両装置のコアの高さも明示されていない。つまり、従来の方法では、電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を両方設けることによる鋳片の品質向上の効果を十分に得られない可能性がある。
これに対して、本実施形態では、以下に説明するように、高速の鋳造であっても鋳片3の品質がより一層確保され得るような、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の適切な高さの割合を規定する。これにより、上述した電磁撹拌装置150の構成と併せて、鋳片3の品質を確保しつつ生産性を向上させることが可能になる。
ここで、連続鋳造における鋳造速度は、鋳片サイズや品種により大きく異なるが、一般的に0.6~2.0m/min程度であり、1.6m/minを超える連続鋳造は高速鋳造と言われる。従来、高い品質が要求される自動車用外装材等については、鋳造速度が1.6m/minを超えるような高速鋳造では、品質を確保することが困難であるため、1.4m/min程度が一般的な鋳造速度である。そこで、ここでは、一例として、鋳造速度が1.6m/minを超えるような高速鋳造においても従来のより遅い鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを具体的な目標として設定し、当該目標を満たし得るような、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さの割合について、詳細に説明する。
上述したように、本実施形態では、鋳型110のZ軸方向の中央部に電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160を設置する空間を確保するために、鋳型110の上部及び下部に、それぞれ水箱130、140を配置する。ここで、溶鋼湯面よりも上方に電磁撹拌コア152が位置してもその効果を得ることができない。従って、電磁撹拌コア152は溶鋼湯面よりも下方に設置されるべきである。また、吐出流に対して効果的に磁場を印加するためには電磁ブレーキコア162は浸漬ノズル6の吐出孔付近に位置することが好ましい。上記のように水箱130、140を配置した場合には、一般的な配置では、浸漬ノズル6の吐出孔は下部水箱140よりも上方に位置することになるため、電磁ブレーキコア162も下部水箱140よりも上方に設置されるべきである。従って、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162を設置することにより効果が得られる空間(以下、有効空間ともいう)の高さH0は、溶鋼湯面から下部水箱140の上端までの高さとなる(図2参照)。
本実施形態では、当該有効空間を最も有効に活用するために、電磁撹拌コア152の上端が溶鋼湯面と略同じ高さになるように、当該電磁撹拌コア152を設置する。このとき、電磁撹拌装置150の電磁撹拌コア152の高さをH1、ケース151の高さをH3とし、電磁ブレーキ装置160の電磁ブレーキコア162の高さをH2、ケース161の高さをH4とすると、下記数式(1)が成立する。
換言すれば、上記数式(1)を満たしつつ、電磁撹拌コア152の高さH1と電磁ブレーキコア162の高さH2との割合H1/H2(以下、コア高さ割合H1/H2ともいう)を規定する必要がある。以下、高さH0~H4についてそれぞれ説明する。
(有効空間の高さH0について)
上述したように、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160においては、それぞれ、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さが大きいほど、電磁力を付与する性能が高いと言える。従って、本実施形態では、両装置がその性能をより発揮できるように、有効空間の高さH0ができるだけ大きくなるように鋳型設備10を構成する。具体的には、有効空間の高さH0を大きくするためには、鋳型110のZ軸方向の長さを大きくすればよい。一方、上述したように、鋳片3の冷却性を考慮して、溶鋼湯面から鋳型110の下端までの長さは1000mm程度以下であることが望ましい。そこで、本実施形態では、鋳片3の冷却性を確保しつつ、有効空間の高さH0をできるだけ大きくするために、溶鋼湯面から鋳型110の下端までが1000mm程度になるように鋳型110を形成する。
ここで、十分な冷却能力が得られるだけの水量を貯水し得るように下部水箱140を構成しようとすると、過去の操業実績等に基づいて、当該下部水箱140の高さは少なくとも200mm程度は必要となる。従って、有効空間の高さH0は、800mm程度以下である。
(電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置のケースの高さH3、H4について)
上述したように、電磁撹拌装置150のコイル153は、電磁撹拌コア152に、断面のサイズが10mm×10mm程度の導線を2~4層巻回することにより形成される。従って、コイル153まで含めた電磁撹拌コア152の高さは、H1+80mm程度以上となる。ケース151の内壁と電磁撹拌コア152及びコイル153との間の空間を考慮すると、ケース151の高さH3は、H1+200mm程度以上となる。
電磁ブレーキ装置160についても同様に、コイル163まで含めた電磁ブレーキコア162の高さは、H2+80mm程度以上となる。ケース161の内壁と電磁ブレーキコア162及びコイル163との間の空間を考慮すると、ケース161の高さH4は、H2+200mm程度以上となる。
(H1+H2が取り得る範囲)
上述したH0、H3、H4の値を上記数式(1)に代入すると、下記数式(2)が得られる。
つまり、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162は、その高さの和H1+H2が500mm程度以下になるように構成される必要がある。以下、上記数式(2)を満たしつつ、鋳片3の品質向上の効果が十分に得られるような、適切なコア高さ割合H1/H2を検討する。
(コア高さ割合H1/H2について)
本実施形態では、電磁撹拌の効果がより確実に得られるような電磁撹拌コア152の高さH1の範囲を規定することにより、コア高さ割合H1/H2の適切な範囲を設定する。
上述したように、電磁撹拌では、凝固シェル界面における溶鋼2を流動させることにより、凝固シェル3aへの不純物の捕捉を抑制する洗浄効果が得られ、鋳片3の表面品質を良化させることができる。一方、鋳型110の下方に向かうにつれて、鋳型110内での凝固シェル3aの厚みは大きくなっていく。電磁撹拌の効果は、凝固シェル3aの内側の未凝固部3bに対して及ぼされるものであるから、電磁撹拌コア152の高さH1は、鋳片3の表面品質をどの程度の厚みまで確保する必要があるかによって決定され得る。
ここで、表面品質が厳格な品種では、鋳造後の鋳片3の表層を数ミリ研削する工程が実施されることが多い。この研削深さは、2mm~5mm程度である。従って、このような厳格な表面品質が求められる品種では、鋳型110内において凝固シェル3aの厚みが2mm~5mmよりも小さい範囲において電磁撹拌を行っても、その電磁撹拌により不純物が低減されている鋳片3の表層は、その後の研削工程によって除去されてしまうこととなる。換言すれば、鋳型110内において凝固シェル3aの厚みが2mm~5mm以上となっている範囲において電磁撹拌を行わないと、鋳片3における表面品質向上の効果を得ることができない。
凝固シェル3aは、溶鋼湯面から徐々に成長し、その厚みは下記数式(3)で示されることが知られている。ここで、δは凝固シェル3aの厚み(m)、kは冷却能力に依存する定数、xは溶鋼湯面からの距離(m)、Vcは鋳造速度(m/min)である。
上記数式(3)から、凝固シェル3aの厚みが4mm又は5mmとなる場合の、鋳造速度(m/min)と溶鋼湯面からの距離(mm)との関係を求めた。図14にその結果を示す。図14は、凝固シェル3aの厚みが4mm又は5mmとなる場合の、鋳造速度(m/min)と溶鋼湯面からの距離(mm)との関係を示す図である。図14では、横軸に鋳造速度を取り、縦軸に溶鋼湯面からの距離を取り、凝固シェル3aの厚みが4mmとなる場合、及び凝固シェル3aの厚みが5mmとなる場合における、両者の関係をプロットしている。なお、図14に示す結果を得る際の計算では、一般的な鋳型に対応する値として、k=17とした。
例えば、図14に示す結果から、研削される厚みが4mmよりも小さく、凝固シェル3aの厚みが4mmまでの範囲で溶鋼2を電磁撹拌すればよい場合であれば、電磁撹拌コア152の高さH1を200mmとすれば、鋳造速度3.5m/min以下での連続鋳造において電磁撹拌の効果が得られることが分かる。研削される厚みが5mmよりも小さく、凝固シェル3aの厚みが5mmまでの範囲で溶鋼2を電磁撹拌すればよい場合であれば、電磁撹拌コア152の高さH1を300mmとすれば、鋳造速度3.5m/min以下での連続鋳造において電磁撹拌の効果が得られることが分かる。なお、この鋳造速度の「3.5m/min」という値は、一般的な連続鋳造機において、操業上及び設備上可能な最大の鋳造速度に対応している。
ここで、上述したように、一例として、鋳造速度が1.6m/minを超えるような高速鋳造においても従来のより遅い鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等の鋳片3の品質を確保することを目標とする場合について考える。鋳造速度が1.6m/minを超える場合に、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果を得るためには、図14から、電磁撹拌コア152の高さH1を少なくとも約150mm以上にしなければならないことが分かる。
以上検討した結果から、本実施形態では、例えば、比較的高速である鋳造速度1.6m/minを超える連続鋳造において、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果が得られるように、電磁撹拌コア152の高さH1が約150mm以上になるように、当該電磁撹拌コア152を構成する。
電磁ブレーキコア162の高さH2については、上述したように、当該高さH2が大きいほど電磁ブレーキ装置160の性能は高い。従って、上記数式(2)から、H1+H2=500mmである場合において、上記の電磁撹拌コア152の高さH1の範囲に対応するH2の範囲を求めればよい。すなわち、電磁ブレーキコア162の高さH2は、約350mmとなる。
これらの電磁撹拌コア152の高さH1及び電磁ブレーキコア162の高さH2の値から、本実施形態におけるコア高さ割合H1/H2は、例えば、下記数式(4)となる。
まとめると、本実施形態において、例えば、鋳造速度1.6m/minを超える場合であっても従来のより低速の鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを目標とする場合には、電磁撹拌コア152の高さH1と電磁ブレーキコア162の高さH2が、上記数式(4)を満たすように、当該電磁撹拌コア152及び当該電磁ブレーキコア162が構成される。
なお、コア高さ割合H1/H2の好ましい上限値は、電磁ブレーキコア162の高さH2が取り得る最小値によって規定され得る。電磁ブレーキコア162の高さH2が小さくなるほどコア高さ割合H1/H2は大きくなるが、電磁ブレーキコア162の高さH2が小さ過ぎれば、電磁ブレーキが有効に機能せず、電磁ブレーキによる鋳片3の内質向上の効果が得られ難くなるからである。電磁ブレーキの効果が十分に発揮され得る電磁ブレーキコア162の高さH2の最小値は、鋳片サイズや品種、鋳造速度等の鋳造条件に応じて異なる。従って、電磁ブレーキコア162の高さH2の最小値、すなわちコア高さ割合H1/H2の上限値は、例えば下記実施例2に示すような実機試験、又は実際の操業での鋳造条件を模擬した数値解析シミュレーション等に基づいて規定され得る。
以上、電磁力発生装置170における、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の適切な高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における適切な設置位置について説明した。なお、以上の説明では、上記数式(4)に示す関係性を得る際に、上記数式(2)からH1+H2=500mmとして、これらの関係性を得ていた。ただし、本実施形態はかかる例に限定されない。上述したように、装置の性能をより発揮するためにはH1+H2はできるだけ大きい方が好ましいため、上記の例ではH1+H2=500mmとしていた。一方、例えば水箱130、140、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160を設置する際の作業性等を考慮して、Z軸方向においてこれら部材の間に隙間が存在した方が好ましい場合も考えられる。このように作業性等の他の要素をより重視する場合には、必ずしもH1+H2=500mmでなくてもよく、例えばH1+H2=450mm等、H1+H2を500mmよりも小さい値として、コア高さ割合H1/H2を設定してもよい。
また、以上の説明では、鋳造速度が1.6m/minを超える場合に、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果を得るための条件として、図14から、電磁撹拌コア152の高さH1の最小値約150mmを求め、このときのコア高さ割合H1/H2の値である0.43を、当該コア高さ割合H1/H2の下限値としていた。ただし、本実施形態はかかる例に限定されない。目標とする鋳造速度がより速く設定される場合には、コア高さ割合H1/H2の下限値も変化し得る。つまり、実際の操業において目標とする鋳造速度において、凝固シェル3aの厚みが研削工程で除去される厚みに対応する所定の厚みになっても電磁撹拌の効果が得られるような電磁撹拌コア152の高さH1の最小値を図14から求め、そのH1の値に対応するコア高さ割合H1/H2を、コア高さ割合H1/H2の下限値とすればよい。
一例として、作業性等を考慮してH1+H2=450mmとし、より速い鋳造速度2.0m/minにおいても従来のより低速の鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを目標とした場合における、コア高さ割合H1/H2の条件を求めてみる。まず、図14から、鋳造速度が2.0m/min以上である場合に、例えば凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果を得るための条件を求める。図14を参照すると、鋳造速度が2.0m/minのときには、溶鋼湯面からの距離が約175mmの位置で、凝固シェルの厚みが5mmになる。従って、マージンを考慮すれば、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果が得られるような電磁撹拌コア152の高さH1の最小値は、200mm程度と求められる。このとき、H1+H2=450mmから、H2=250mmとなるため、コア高さ割合H1/H2に求められる条件は、下記数式(5)で表される。
つまり、本実施形態において、例えば、鋳造速度2.0m/minにおいても従来のより低速の鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを目標とする場合には、少なくとも上記数式(5)を満たすように、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162を構成すればよい。なお、コア高さ割合H1/H2の上限値については、上述したように、実機試験、又は実際の操業での鋳造条件を模擬した数値解析シミュレーション等に基づいて規定すればよい。
このように、本実施形態では、鋳造速度を増加させた場合であっても従来のより低速での連続鋳造と同等以上の鋳片の品質(表面品質及び内質)を確保することが可能なコア高さ割合H1/H2の範囲は、その目標とする鋳造速度の具体的な値、及びH1+H2の具体的な値に応じて、変化し得る。従って、コア高さ割合H1/H2の適切な範囲を設定する際には、実際の操業時の鋳造条件や、連続鋳造機1の構成等を考慮して、目標とする鋳造速度、及びH1+H2の値を適宜設定し、そのときのコア高さ割合H1/H2の適切な範囲を、以上説明した方法によって適宜求めればよい。
以上説明した2スロットの構成を有する電磁撹拌装置150を用いた場合における鋳片3の品質向上効果について確認するために、実機試験を行った結果について説明する。上述した本実施形態に係る電磁力発生装置170と同様の構成を有する電磁力発生装置を、実際に操業に用いている連続鋳造機(図1に示す連続鋳造機1と同様の構成を有するもの)に設置し、鋳造速度、電磁ブレーキ装置160によって付与する磁界の磁束密度の大きさ、及びコア高さ割合H1/H2の値を様々に変更しながら連続鋳造を行った。そして、鋳造後に得られた鋳片について、表面品質及び内質を目視及び超音波探傷検査によってそれぞれ調査した。なお、コア高さ割合H1/H2については、電磁撹拌コアの高さH1を250mmで固定し、電磁ブレーキコアの高さH2を200mm(すなわち、H1/H2=1.25)、250mm(すなわち、H1/H2=1.00)、及び125mm(すなわち、H1/H2=2.00)の3水準で変更することにより、その値を変更した。連続鋳造の条件は、以下の通りである。
(鋳型)
鋳片サイズ(鋳型のサイズ):幅1600mm、厚み250mm
(電磁撹拌装置)
電磁撹拌コアのサイズ:幅1775mm、高さ250mm、厚み250mm
電磁撹拌コアの高さ方向の位置:上端が溶鋼湯面と同じレベル
ティース部の数:13個
ティース幅Wt:75mm
コイル幅Wc:75mm
コイルにおける巻き線:30ターン
コイルに印加する交流電流:680A、1.5Hz
(電磁ブレーキ装置)
電磁ブレーキコアのサイズ:幅1775mm、高さ200mm、250mm、125mmの3水準、厚み250mm
なお、本実施例では、比較のため、電磁撹拌装置として1スロットの構成を有するものを用いた場合についても、連続鋳造を行い、その鋳造後に得られた鋳片の品質を同様の方法によって調査した。1スロットの構成を有する電磁撹拌装置を用いた場合における鋳型設備の構成は、図2-図5に示す鋳型設備10において、電磁撹拌装置150が図9に示す電磁撹拌装置250に置き換えられたものに対応する。
結果を表1~表3に示す。表1~表3は、それぞれ、コア高さ割合H1/H2が、1.25の場合、1.00の場合及び2.00の場合についての結果を示している。また、表1~表3においては、鋳片の品質について、欠陥がほぼ発見されなかった場合には「○」を、欠陥は発見されたものの手入れが不要なレベルであった場合には「△」を、欠陥が発見され手入れが必要であった場合には「×」を、欠陥が多く発見され品質厳格材としては使用不可であった場合には「××」を付すことにより表現している。
まず、表1を参照して、コア高さ割合H1/H2=1.25の場合における実機試験の結果について説明する。この場合、電磁撹拌装置の構成(1スロットの構成又は2スロットの構成)にかかわらず、電磁ブレーキ装置による磁束密度が0.15T以下の場合には、鋳造速度が2.0m/minまで増加すると、表面品質及び内質がともに「×」以下となり、良好な鋳片品質を得ることができなかった。内質について評価が「×」以下となった理由は、鋳造速度が比較的速いにもかかわらず電磁ブレーキ装置による電磁力が小さ過ぎることにより、下降流の勢いを効果的に弱めることができなかったからであると考えられる。一方、表面品質について評価が「×」以下となった理由は、鋳造速度が比較的速く、かつ、電磁ブレーキ装置による電磁力が比較的小さい場合には、鋳型内壁、すなわち凝固シェル界面に向かう浸漬ノズルからの吐出流の勢いを当該電磁ブレーキ装置によって効果的に弱めることができないため、ガス気泡等が当該凝固シェルに捕捉されることを好適に抑制できないからであると考えられる。
従って、上記の結果は、鋳造速度が比較的速い場合において、鋳片の表面品質及び内質をともに良化するためには、電磁ブレーキ装置による電磁力をより大きくする必要があることを示唆している。ただし、電磁ブレーキ装置による電磁力を大きくした場合には、上述したように、電磁撹拌装置による撹拌力が小さいと、撹拌が効果的に行われず、良好な表面品質を得ることは困難となる。
この観点から、表1の結果について更に考察すると、2スロットの構成の電磁撹拌装置を用いた場合には、電磁ブレーキ装置による磁束密度を0.2T以上(0.20T、0.35T又は0.45T)に増加させた場合に、比較的高速な鋳造速度1.8m/minにおいても表面品質及び内質ともに良好な鋳片を得ることができた。特に、電磁ブレーキ装置による磁束密度を0.45Tとした場合には、更に高速な鋳造速度2.0m/minにおいても表面品質及び内質ともに良好な鋳片を得ることができた。この結果は、本実施形態のように2スロットの構成の電磁撹拌装置を用いることにより、より強い撹拌力を得ることが可能となるため、電磁ブレーキ装置による電磁力をより強くした場合であっても電磁撹拌の効果を得ることが可能となり、電磁撹拌の効果及び電磁ブレーキの効果をともに好適に得ることができたことを示している。
一方、1スロットの構成の電磁撹拌装置を用いた場合であって、鋳造速度2.0m/minの場合には、電磁ブレーキ装置による磁束密度を0.2T以上(0.20T、0.35T又は0.45T)に増加させると、内質については、磁束密度の増加に応じて徐々に改善が見られたが、表面品質については、磁束密度の値にかかわらず改善が見られなかった。この結果は、1スロットの構成の電磁撹拌装置を用いた場合には、比較的弱い撹拌力しか得ることができないため、電磁ブレーキ装置による電磁力を強くした場合に、電磁撹拌の効果を好適に得ることができず、表面品質を効果的に良化することができないことを示している。
次に、表2を参照すると、コア高さ割合H1/H2を1.00とすることにより、すなわち、電磁ブレーキコアの高さH2を大きくすることにより、コア高さ割合H1/H2=1.25の場合に比べて、鋳片の内質が向上することが分かった。この結果は、電磁ブレーキコアのサイズが大きくなることにより、鋳型内の溶鋼において電磁ブレーキの効果が作用する領域がより大きくなったためであると考えられる。
次に、表3を参照すると、コア高さ割合H1/H2を2.00とすることにより、すなわち、電磁ブレーキコアの高さH2を小さくすることにより、コア高さ割合H1/H2=1.25の場合に比べて、鋳片の内質向上の効果が得られ難くなることが分かった。具体的には、コア高さ割合H1/H2=2.00の場合には、電磁ブレーキ装置による磁束密度が0.15T、鋳造速度が1.8m/min、2.0m/minの場合における内質が、コア高さ割合H1/H2=1.25の場合に比べて悪化していた。この結果は、電磁ブレーキコアのサイズが小さくなることにより、鋳型内の溶鋼において電磁ブレーキの効果が作用する領域がより小さくなったためであると考えられる。
本実施形態に係る電磁力発生装置170におけるコア高さ割合H1/H2の調整による鋳片品質の向上効果について確認するために、実機試験を行った結果について説明する。上記実施例1と同様に、図2~図5に示す本実施形態に係る電磁力発生装置170と同様の構成を有する電磁力発生装置を、実際に操業に用いている連続鋳造機(図1に示す連続鋳造機1と同様の構成を有するもの)に設置し、鋳造速度、及びコア高さ割合H1/H2の値を様々に変更しながら連続鋳造を行った。そして、鋳造後に得られた鋳片の表面品質及び内質を目視及び超音波探傷検査によってそれぞれ調査した。連続鋳造の条件は、上記実施例1と同様である。
なお、本実施例では、比較のため、電磁撹拌装置のみを設置した場合についても、連続鋳造を行い、その鋳片の品質を同様の方法によって調査した。電磁撹拌装置のみを設置した場合における鋳型設備の構成は、図2~図5に示す鋳型設備10において電磁ブレーキ装置160が取り除かれたものに対応する。また、電磁撹拌装置のみを設置した場合については、鋳造速度を1.6m/min、電磁撹拌装置の電磁撹拌コアの高さH1を200mmとした。
結果を、下記表4に示す。表4では、鋳片の品質については、電磁撹拌装置のみを設置した場合に得られた鋳片の品質を基準として、電磁撹拌装置のみを設置した場合よりも良い品質が得られた場合には「○」、電磁撹拌装置のみを設置した場合と同程度の品質が得られた場合には「△」、電磁撹拌装置のみを設置した場合よりも悪い品質が得られた場合には「×」を付すことにより表現している。
本実施例では、鋳造速度を2.0m/minまで増加させた場合であっても、より低速(具体的には、鋳造速度1.6m/min)での電磁撹拌装置のみを用いた連続鋳造よりも優れた鋳片の品質(表面品質及び内質)を確保することが可能なコア高さ割合H1/H2の範囲を調査した。表4に示す結果から、本実施例における鋳造条件においては、コア高さ割合H1/H2の値を約0.80~約2.33にすることにより、鋳造速度を2.0m/minまで増加させた場合であっても、より低速での電磁撹拌装置のみを用いた連続鋳造よりも優れた鋳片の品質を確保することが可能になることが分かった。換言すれば、本実施例の結果から、本実施形態に係る電磁力発生装置170を適用し、コア高さ割合H1/H2の値を約0.80~約2.33にすることにより、鋳片の品質を確保しつつ、鋳造速度を2.0m/minまで増加させ、生産性を向上させることが可能になることが示された。また、同様に、表4に示す結果から、本実施例における鋳造条件においては、コア高さ割合H1/H2の値を約1.00~約2.00にすることにより、鋳造速度を2.2m/minまで増加させた場合であっても、より低速での電磁撹拌装置のみを用いた連続鋳造よりも優れた鋳片の品質を確保することが可能になることが分かった。
(3.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、本実施形態に係る電磁力発生装置の構成は、図2~図5に示す例に限定されない。本実施形態では、電磁力発生装置が、長辺鋳型板の外側面において上方に電磁撹拌装置が設置され下方に電磁ブレーキ装置が設置されるとともに、当該電磁撹拌装置が鋳型幅方向を磁化方向とするように形成されるコイルについて2スロットの構成を有するように構成されれば、生産性を向上させた場合であっても鋳片の品質を確保する効果を得ることが可能であり、その他の構成は任意であってよい。例えば、鋳型設備における水箱の設置位置は図示した例に限定されない。また、電磁力発生装置におけるコア高さ割合H1/H2の範囲も、必ずしも上述した範囲でなくてもよい。ただし、上述したように、鋳型設備及び電磁力発生装置を、上記(2-3.電磁力発生装置の設置位置の詳細)や実施例2において説明したように構成することにより、鋳片の品質をより一層向上させることが可能となるため、鋳型設備及び電磁力発生装置については、かかる構成を採用することがより好ましい。