以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、本明細書に示す各図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。各図面において図示される各部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
本発明者らは、連続鋳造において、電磁ブレーキ装置と電磁撹拌装置とを組み合わせた鋳型設備を用いて鋳型内の溶鋼の流動を安定させることにより、鋳片の品質を確保しつつ生産性を向上させることを試みた。しかしながら、これらの装置は、単純に両方の装置を設置すれば簡単に両方の装置の長所が得られるというものではなかった。例えば上述したように、電磁ブレーキ装置によって発生した過剰な上昇流が電磁撹拌流を阻害することがあり、これらの装置は互いの効果を打ち消すように影響を及ぼす面も持ち合わせている。従って、電磁ブレーキ装置及び電磁撹拌装置を両方用いた連続鋳造では、これらの装置をそれぞれ単体で使用した場合よりも鋳片の品質(表面品質及び内質)が悪化してしまう場合も少なくない。
そこで、発明者らは、数値解析シミュレーションや実機試験を繰り返し行い、鋭意検討した結果、電磁ブレーキ装置及び電磁撹拌装置を用いた連続鋳造において、鋳片の品質を向上させる効果をより効果的に発揮させ、生産性を向上させた場合であっても鋳片の品質を確保することを可能とするためには、これらの装置の構成及び設置位置を適切に規定することが重要であることを見出すに至った。さらに、高張力鋼用の鋳片の連続鋳造を行う場合、電磁撹拌流装置及び電磁ブレーキ装置の磁束密度に関する好適な範囲が存在する。以下、本実施形態について説明する。
(1.連続鋳造機の構成)
図1を参照して、本発明の好適な一実施形態に係る連続鋳造機の構成、及び連続鋳造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る連続鋳造機の一構成例を概略的に示す側断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る連続鋳造機1は、連続鋳造用の鋳型110を用いて溶鋼2を連続鋳造し、スラブ等の鋳片3を製造するための装置である。連続鋳造機1は、鋳型110と、取鍋4と、タンディッシュ5と、浸漬ノズル6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8と、を備える。
取鍋4は、溶鋼2を外部からタンディッシュ5まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4は、タンディッシュ5の上方に配置され、取鍋4内の溶鋼2がタンディッシュ5に供給される。タンディッシュ5は、鋳型110の上方に配置され、溶鋼2を貯留して、当該溶鋼2中の介在物を除去する。浸漬ノズル6は、タンディッシュ5の下端から鋳型110に向けて下方に延び、その先端は鋳型110内の溶鋼2に浸漬されている。当該浸漬ノズル6は、タンディッシュ5にて介在物が除去された溶鋼2を鋳型110内に連続供給する。
鋳型110は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板(後述する図2に示す長辺鋳型板111に対応する)で一対の短辺鋳型板(後述する図4~図6に示す短辺鋳型板112に対応する)を両側から挟むように組み立てられる。長辺鋳型板及び短辺鋳型板(以下、鋳型板と総称することがある)は、例えば冷却水が流動する水路が設けられた水冷銅板である。鋳型110は、かかる鋳型板と接触する溶鋼2を冷却して、鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型110下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル3aと未凝固部3bを含む鋳片3は、鋳型110の下端から引き抜かれる。
なお、以下の説明では、上下方向(すなわち、鋳型110から鋳片3が引き抜かれる方向)を、Z軸方向とも呼称する。また、Z軸方向と垂直な平面(水平面)内における互いに直交する2方向を、それぞれ、X軸方向及びY軸方向とも呼称する。また、X軸方向を、水平面内において鋳型110の長辺と平行な方向として定義し、Y軸方向を、水平面内において鋳型110の短辺と平行な方向として定義する。また、以下の説明では、各部材の大きさを表現する際に、当該部材のZ軸方向の長さのことを高さともいい、当該部材のX軸方向又はY軸方向の長さのことを幅ともいうことがある。
ここで、図1では図面が煩雑になることを避けるために図示を省略しているが、本実施形態では、鋳型110の長辺鋳型板の外側面(すなわち、長辺面外側)に電磁力発生装置が設置される。当該電磁力発生装置は、電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を備えるものである。本実施形態では、当該電磁力発生装置を駆動させながら連続鋳造を行うことにより、鋳片の品質を確保しつつ、より高速での鋳造が可能になる。当該電磁力発生装置の構成及び鋳型110に対する設置位置等については、図2~図5を参照して後述する。
二次冷却装置7は、鋳型110の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型110下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。この二次冷却装置7は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず)とを有する。
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を厚さ方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレイクアウトやバルジングを防止できる。
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、図1に示すように、鋳型110の直下では垂直であり、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平になる。二次冷却帯9において、当該パスラインが垂直である部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平である部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機1は、垂直曲げ型の連続鋳造機1と呼称される。なお、本発明は、図1に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機1に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
サポートロール11は、鋳型110の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型110から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型110から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレイクアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。図1に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
ピンチロール12は、モータ等の駆動手段により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型110から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型110から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は図1に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
セグメントロール13(ガイドロールともいう)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、図1では左下側の面)とL面(Loose面、図1では右上側の面)のいずれに設けられるかによって、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された厚板状の鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
以上、図1を参照して、本実施形態に係る連続鋳造機1の全体構成について説明した。なお、本実施形態では、鋳型110に対して上述した電磁力発生装置が設置され、当該電磁力発生装置を用いて連続鋳造が行われればよく、連続鋳造機1における当該電磁力発生装置以外の構成は、一般的な従来の連続鋳造機と同様であってよい。従って、連続鋳造機1の構成は図示したものに限定されず、連続鋳造機1としては、あらゆる構成のものが用いられてよい。
(2.電磁力発生装置)
(2-1.電磁力発生装置の構成)
図2~図5を参照して、上述した鋳型110に対して設置される電磁力発生装置の構成について詳細に説明する。図2~図5は、本実施形態に係る鋳型設備の一構成例を示す図である。
図2は、本実施形態に係る鋳型設備10のY-Z平面での断面図である。図3は、鋳型設備10の、図2に示すA-A断面での断面図である。図4は、鋳型設備10の、図3に示すB-B断面での断面図である。図5は、鋳型設備10の、図3に示すC-C断面での断面図である。なお、鋳型設備10は、Y軸方向において、鋳型110の中心に対して対称な構成を有するため、図2、図4及び図5では、一方の長辺鋳型板111に対応する部位のみを図示している。また、図2、図4及び図5では、理解を容易にするため、鋳型110内の溶鋼2も併せて図示している。
図2~図5を参照すると、本実施形態に係る鋳型設備10は、鋳型110の長辺鋳型板111の外側面(すなわち、長辺面の外側)に、バックアッププレート121を介して、2つの水箱130、140と、電磁力発生装置170と、が設置されて構成される。
鋳型110は、上述したように、一対の長辺鋳型板111で一対の短辺鋳型板112を両側から挟むように組み立てられる。鋳型板111、112は銅板からなる。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、鋳型板111、112は、一般的に連続鋳造機の鋳型として用いられる各種の材料によって形成されてよい。
ここで、本実施形態では、鉄鋼スラブの連続鋳造を対象としており、その鋳片サイズは、例えば幅(すなわち、X軸方向の長さ)800~2300mm程度、あるいは1000~1800mm程度、厚み(すなわち、Y軸方向の長さ)150~300mm程度、あるいは200~270mm程度である。つまり、鋳型板111、112も、当該鋳片サイズに対応した大きさを有する。すなわち、長辺鋳型板111は、少なくとも鋳片3の幅(例えば800~2300mm)よりも長いX軸方向の幅を有し、短辺鋳型板112は、鋳片3の厚み(例えば200~300mm)と略同一のY軸方向の幅を有する。
また、詳しくは後述するが、本実施形態では、電磁力発生装置170による鋳片3の品質向上の効果をより効果的に得るために、Z軸方向の長さが可能な限り長くなるように鋳型110を構成する。一般的に、鋳型110内で溶鋼2の凝固が進行すると、凝固収縮のために鋳片3が鋳型110の内壁から離れてしまい、当該鋳片3の冷却が不十分になる場合があることが知られている。そのため、鋳型110の長さは、溶鋼湯面から、長くても1000mm程度が限界とされている。本実施形態では、かかる事情を考慮して、溶鋼湯面から鋳型板111、112の下端までの長さが1000mm程度となるように、当該1000mmよりも十分に大きいZ軸方向の長さを有するように、当該鋳型板111、112を形成する。
バックアッププレート121、122は、例えばステンレスからなり、鋳型110の鋳型板111、112を補強するために、当該鋳型板111、112の外側面を覆うように設けられる。以下、区別のため、長辺鋳型板111の外側面に設けられるバックアッププレート121のことを長辺側バックアッププレート121ともいい、短辺鋳型板112の外側面に設けられるバックアッププレート122のことを短辺側バックアッププレート122ともいう。
電磁力発生装置170は、長辺側バックアッププレート121を介して鋳型110内の溶鋼2に対して電磁力を付与するため、少なくとも長辺側バックアッププレート121は非磁性体(例えば、非磁性のステンレス等)によって形成され得る。ただし、長辺側バックアッププレート121の、後述する電磁ブレーキ装置160の鉄芯(コア)162(以下、電磁ブレーキコア162ともいう)の端部164と対向する部位には、電磁ブレーキ装置160の磁束密度を確保するために、磁性体の軟鉄124が埋め込まれる。
長辺側バックアッププレート121には、更に、当該長辺側バックアッププレート121と垂直な方向(すなわち、Y軸方向)に向かって延伸する一対のバックアッププレート123が設けられる。図3~図5に示すように、この一対のバックアッププレート123の間に電磁力発生装置170が設置される。このように、バックアッププレート123は、電磁力発生装置170の幅(すなわち、X軸方向の長さ)、及びX軸方向の設置位置を規定し得るものである。換言すれば、電磁力発生装置170が鋳型110内の溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、バックアッププレート123の取り付け位置が決定される。以下、区別のため、当該バックアッププレート123のことを、幅方向バックアッププレート123ともいう。幅方向バックアッププレート123も、バックアッププレート121、122と同様に、例えばステンレスによって形成される。
水箱130、140は、鋳型110を冷却するための冷却水を貯水する。本実施形態では、図示するように、一方の水箱130を長辺鋳型板111の上端から所定の距離の領域に設置し、他方の水箱140を長辺鋳型板111の下端から所定の距離の領域に設置する。このように、水箱130、140を鋳型110の上部及び下部にそれぞれ設けることにより、当該水箱130、140の間に電磁力発生装置170を設置する空間を確保することが可能になる。以下、区別のため、長辺鋳型板111の上部に設けられる水箱130のことを上部水箱130ともいい、長辺鋳型板111の下部に設けられる水箱140のことを下部水箱140ともいう。
長辺鋳型板111の内部、又は長辺鋳型板111と長辺側バックアッププレート121との間には、冷却水が通過する水路(図示せず)が形成される。当該水路は、水箱130、140まで延設されている。図示しないポンプによって、一方の水箱130、140から他方の水箱130、140に向かって(例えば、下部水箱140から上部水箱130に向かって)、当該水路を通過して冷却水が流される。これにより、長辺鋳型板111が冷却され、当該長辺鋳型板111を介して鋳型110内部の溶鋼2が冷却される。なお、図示は省略しているが、短辺鋳型板112に対しても、同様に、水箱及び水路が設けられ、冷却水が流動されることにより当該短辺鋳型板112が冷却される。
電磁力発生装置170は、電磁撹拌装置150と、電磁ブレーキ装置160と、を備える。図示するように、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160は、水箱130、140の間の空間に設置される。当該空間内で、電磁撹拌装置150が上方に、電磁ブレーキ装置160が下方に設置される。つまり、電磁撹拌装置150は、鋳型上部の長辺面外側に設置され、電磁ブレーキ装置160は、鋳型下部の長辺面外側に設置される。なお、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における設置位置については、下記(2-2.電磁力発生装置の設置位置の詳細)で詳細に説明する。
電磁撹拌装置150は、鋳型110内の溶鋼2に対して、動磁場を印加することにより、当該溶鋼2に対して電磁力を付与する。電磁撹拌装置150は、自身が設置される長辺鋳型板111の幅方向(すなわち、X軸方向)の電磁力を溶鋼2に付与するように駆動される。図4には、電磁撹拌装置150によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向を、模擬的に太線矢印で示している。ここで、図示を省略している長辺鋳型板111(すなわち、図示する長辺鋳型板111に対向する長辺鋳型板111)に設けられる電磁撹拌装置150は、その自身が設置される長辺鋳型板111の幅方向に沿って、図示する方向とは逆向きの電磁力を付与するように駆動される。このように、一対の電磁撹拌装置150が、水平面内において撹拌流(旋回流)を発生させるように駆動される。電磁撹拌装置150によれば、このような撹拌流を生じさせることにより、凝固シェル界面における溶鋼2が流動され、凝固シェル3aへの気泡や介在物の捕捉を抑制する洗浄効果が得られ、鋳片3の表面品質を良化させることができる。さらに、溶鋼2が撹拌されることにより溶鋼2の温度が均一化されるので、溶鋼2の温度変動が抑制される。これにより、凝固シェルの不均一凝固が抑制されるので、鋳片の割れが抑制される。すなわち、鋳片の表面品質が改善される。
電磁撹拌装置150の詳細な構成について説明する。電磁撹拌装置150は、ケース151と、当該ケース151内に格納される鉄芯(コア)152(以下、電磁撹拌コア152ともいう)と、当該電磁撹拌コア152に導線が巻回されて構成される複数のコイル153と、から構成される。
ケース151は、略直方体形状を有する中空の部材である。ケース151の大きさは、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、内部に設けられるコイル153が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、ケース151のX軸方向の幅W4、すなわち電磁撹拌装置150のX軸方向の幅W4は、鋳型110内の溶鋼2に対して、X軸方向のいずれの位置においても電磁力を付与し得るように、鋳片3の幅よりも大きくなるように決定される。例えば、W4は1800mm~2500mm程度である。また、電磁撹拌装置150では、コイル153からケース151の側壁を通過して溶鋼2に対して電磁力が付与されるため、ケース151の材料としては、例えば非磁性体ステンレス又はFRP(Fiber Reinforced Plastics)等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な部材が用いられる。
電磁撹拌コア152は、略直方体形状を有する中実の部材であり、ケース151内において、その長手方向が長辺鋳型板111の幅方向(すなわち、X軸方向)と略平行になるように設置される。電磁撹拌コア152は、例えば電磁鋼板を積層することにより形成される。
電磁撹拌コア152に対して、X軸方向を中心軸として導線が巻回されることにより、コイル153が形成される。当該導線としては、例えば断面が10mm×10mmで、内部に直径5mm程度の冷却水路を有する銅製のものが用いられる。電流印加時には、当該冷却水路を用いて当該導線が冷却される。当該導線は、絶縁紙等によりその表層が絶縁処理されており、層状に巻回することが可能である。例えば、一のコイル153は、当該導線を2~4層程度巻回することにより形成される。同様の構成を有するコイル153が、X軸方向に所定の間隔を有して並列されて設けられる。
コイル153のそれぞれには、図示しない交流電源が接続される。当該交流電源によって、電磁撹拌コア152から鋳型内の溶鋼2に交流磁場を印加する。具体的には、隣り合うコイル153における電流の位相が適宜ずれるように当該コイル153に対して電流を印加することにより、溶鋼2に対して撹拌流を生じさせるような電磁力が付与され得る。なお、当該交流電源の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。当該制御装置により、コイル153のそれぞれに印加する電流量や、コイル153のそれぞれに電流を印加するタイミング等が適宜制御され、溶鋼2に対して与えられる電磁力の強さが制御され得る。この交流電源の駆動方法としては、一般的な電磁撹拌装置において用いられている各種の公知の方法が適用されてよいため、ここではその詳細な説明を省略する。
電磁撹拌コア152のX軸方向の幅W1は、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、コイル153が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、W1は1800mm程度である。
電磁ブレーキ装置160は、鋳型110内の溶鋼2に対して静磁場を印加することにより、当該溶鋼2に対して電磁力を付与する。ここで、図6は、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向について説明するための図である。図6では、鋳型110近傍の構成の、X-Z平面での断面を概略的に図示している。また、図6では、電磁撹拌コア152、及び後述する電磁ブレーキコア162の端部164の位置を模擬的に破線で示している。
図6に示すように、浸漬ノズル6には、短辺鋳型板112に対向する位置に一対の吐出孔が設けられ得る。これらの吐出孔から溶鋼2が鋳型110内に吐出される。溶鋼2の吐出流は、短辺側に向かって進み、短辺側に形成されたシェルに衝突する。その後、吐出流は、上方向(すなわち、溶鋼の湯面が存在する方向)へ向かう上昇流及び下方向(すなわち、鋳片が引き抜かれる方向)へ向かう下降流を形成する。電磁ブレーキ装置160は、浸漬ノズル6の当該吐出孔からの溶鋼2の流れ(吐出流)を抑制する方向の電磁力を、当該溶鋼2に対して付与するように駆動される。図6には、吐出流の方向を模擬的に細線矢印で示すとともに、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2に対して付与される電磁力の方向を模擬的に太線矢印で示している。電磁ブレーキ装置160によれば、このような吐出流を抑制する方向の電磁力を生じさせることにより、下降流が抑制され、気泡や介在物の浮上分離を促進する効果が得られ、鋳片3の内質を良化させることができる。さらに、吐出流の勢いが弱められるので、溶鋼2の温度変動が抑制される。さらに、吐出流に起因する上昇流の勢いが弱められるので、溶鋼の湯面変動が抑制される。したがって、凝固シェルの不均一凝固が抑制され、ひいては鋳片の表面品質が改善される。
電磁ブレーキ装置160の詳細な構成について説明する。電磁ブレーキ装置160は、ケース161と、当該ケース161内にその一部が格納される電磁ブレーキコア162と、当該電磁ブレーキコア162のケース161内の部位に導線が巻回されて構成される複数のコイル163と、から構成される。
ケース161は、略直方体形状を有する中空の部材である。ケース161の大きさは、電磁ブレーキ装置160によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、内部に設けられるコイル163が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、ケース161のX軸方向の幅W4、すなわち電磁ブレーキ装置160のX軸方向の幅W4は、鋳型110内の溶鋼2に対して、X軸方向の所望の位置において電磁力を付与し得るように、鋳片3の幅よりも大きくなるように決定される。図示する例では、ケース161の幅W4は、ケース151の幅W4と略同様である。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、電磁撹拌装置150の幅と電磁ブレーキ装置160の幅は異なっていてもよい。
また、電磁ブレーキ装置160では、コイル163からケース161の側壁を通過して溶鋼2に対して電磁力が付与されるため、ケース161は、ケース151と同様に、例えば非磁性体ステンレス又はFRP等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な材料によって形成される。
電磁ブレーキコア162は、略直方体形状を有する中実の部材であってコイル163が設けられる一対の端部164と、同じく略直方体形状を有する中実の部材であって当該一対の端部164を連結する連結部165と、から構成される。電磁ブレーキコア162は、連結部165から、Y軸方向であって長辺鋳型板111に向かう方向に突出するように一対の端部164が設けられて構成される。一対の端部164が設けられる位置は、溶鋼2に対して電磁力を付与したい位置、すなわち浸漬ノズル6の一対の吐出孔からの吐出流がそれぞれコイル163によって磁場が印加される領域を通過するような位置に設けられ得る(図6も参照)。電磁ブレーキコア162は、例えば電磁鋼板を積層することにより形成される。
電磁ブレーキコア162の端部164に対して、Y軸方向を中心軸として導線が巻回されることにより、コイル163が形成される。当該コイル163の構造は、上述した電磁撹拌装置150のコイル153と同様である。各端部164について、それぞれ、複数のコイル163が、Y軸方向に所定の間隔を有して並列されて設けられる。
コイル163のそれぞれには、図示しない直流電源が接続される。当該直流電源によって、各コイル163に直流電流を印加することにより、溶鋼2に対して吐出流の勢いを弱めるような電磁力が付与され得る。つまり、各端部164が磁極となり、一方の端部164がN極、他方の端部164がS極となる。したがって、2つの磁極が長辺面に対向することとなる。さらに、2つの磁極間の空間164aに対向する位置に浸漬ノズル6が配置される(図6参照)。なお、他方の長辺にも同様の電極ブレーキコア162が配置されるので、磁極は合計2対配置されることになる。また、当該直流電源の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。当該制御装置により、各コイル163に印加する電流量等が適宜制御され、溶鋼2に対して与えられる電磁力の強さが制御され得る。この直流電源の駆動方法としては、一般的な電磁ブレーキ装置において用いられている各種の公知の方法が適用されてよいため、ここではその詳細な説明を省略する。
電磁ブレーキコア162のX軸方向の幅W0、端部164のX軸方向の幅W2、及びX軸方向における端部164間の距離W3は、電磁撹拌装置150によって溶鋼2の所望の範囲に対して電磁力を付与し得るように、すなわち、コイル163が溶鋼2に対して適切な位置に配置され得るように、適宜決定され得る。例えば、W0は1600mm程度、W2は500mm程度、W3は350mm程度である。
ここで、例えば上記特許文献1、3に開示された電磁ブレーキ装置は、単独の磁極を有する。単独の磁極が鋳型の長辺面外側に設けられており、当該磁極は、幅方向(つまり、長辺面の長さ方向)の両端に亘って伸びている。このような磁極から発生する磁場は、磁束密度が磁極の幅方向中央部分で最大となる特徴を有する。したがって、電磁ブレーキ装置から発生する磁場の磁束密度を高めた場合、浸漬ノズル周囲の磁束密度が極端に高くなる。このため、浸漬ノズルの吐出孔近傍で、静磁場による制動力が過大となり、吐出流は幅方向に広がることなくノズル近傍で上昇流となりやすい。この上昇流は、上述したように、メニスカス付近で幅方向の流れとなり、この幅方向の流れ(すなわち反転流)が電磁撹拌装置による撹拌流を乱す可能性がある。この結果、電磁撹拌の効果と電磁ブレーキの効果とが打ち消しあい、鋳片の品質が低下する可能性があった。具体的には、溶鋼の温度変動及び湯面変動が促進され、結果として凝固シェルの不均一凝固が促進される可能性があった。
これに対して、本実施形態では、上記のように、2つの端部164を有するように、すなわち2つの磁極を有するように、電磁ブレーキ装置160が構成される。さらに、2つの磁極間の空間164aに対向する位置に浸漬ノズル6が配置される。かかる構成によれば、例えば、電磁ブレーキ装置160を駆動する際に、これら2つの磁極がそれぞれN極及びS極として機能し、鋳型110の幅方向(すなわち、X軸方向)の略中心近傍の領域の磁束密度が他の領域の磁束密度よりも低下するように、上記制御装置によってコイル163への電流の印加を制御することができる。したがって、浸漬ノズルの吐出孔近傍で、静磁場による制動力を低減することができるので、過剰な上昇流の発生を抑制することができる。この結果、電磁ブレーキによって電磁撹拌の効果が損なわれにくくなり、ひいては、電磁ブレーキの効果及び電磁撹拌の効果をより高めることができる。したがって、より幅広い鋳造条件に対応することが可能となる。さらに、電磁撹拌の効果をより効果的に得られることから温度変動がさらに抑制される。さらに、上昇流に起因する湯面変動及び温度変動が抑制される。したがって、凝固シェルの不均一凝固が抑制され、ひいては、鋳片の表面品質が改善される。
なお、図示する構成例では、電磁ブレーキ装置160は磁極を2つ有するように構成されているが、本実施形態はかかる例に限定されない。電磁ブレーキ装置160は、3つ以上の端部164を有し、3つ以上の磁極を有するように構成されてもよい。この場合、各端部164のコイル163に印加する電流量がそれぞれ適宜調整されることにより、電磁ブレーキに係る溶鋼2への電磁力の印加を更に詳細に制御することが可能となる。磁極が3つ以上存在する場合であっても、複数の磁極間の空間に対向する位置に浸漬ノズル6を配置することが好ましい。
(2-2.電磁力発生装置の設置位置の詳細)
電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160の高さ、並びに電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160のZ軸方向における設置位置について説明する。
電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160においては、それぞれ、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さが大きいほど、電磁力を付与する性能が高いと言える。例えば、電磁ブレーキ装置160の性能は、電磁ブレーキコア162の端部164のX-Z平面での断面積(Z軸方向の高さH2×X軸方向の幅W2)と、印可する直流電流の値と、コイル163の巻き数と、に依存する。従って、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160をともに鋳型110に対して設置する場合には、限られた設置空間において、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の設置位置、より詳細には電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さの割合をどのように設定するかが、鋳片3の品質を向上させるために各装置の性能をより効果的に発揮させる観点から、非常に重要である。
ここで、上記特許文献1、3にも開示されているように、従来、連続鋳造において電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を両方用いる方法は提案されている。しかしながら、実際には、電磁撹拌装置と電磁ブレーキ装置を両方組み合わせても、電磁撹拌装置又は電磁ブレーキ装置とをそれぞれ単体で使用した場合よりも、鋳片の品質が悪化してしまう場合も少なくない。これは、単純に両方の装置を設置すれば、簡単に両方の装置の長所が得られるというものではなく、各装置の構成や設置位置等によっては、それぞれの長所を打ち消し合ってしまうことが生じ得るからである。それぞれの長所が打ち消し合ってしまうと、溶鋼の温度変動及び湯面変動が促進され、ひいては、凝固シェルの不均一凝固が促進される可能性がある。上記特許文献1、3においても、その具体的な装置構成は明示されておらず、両装置の鉄芯(コア)の高さも明示されていない。つまり、従来の方法では、電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置を両方設けることによる鋳片の品質向上の効果を十分に得られるとは言えなかった。
これに対して、本実施形態では、以下に説明するように、高速の鋳造であっても鋳片3の品質が確保され得るような、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の適切な高さの割合を規定する。これにより、鋳片3の品質を確保しつつ生産性を向上させることが可能になる。
ここで、連続鋳造における鋳造速度は、鋳片サイズや品種により大きく異なるが、一般的に0.6~2.3m/min程度であり、1.6m/minを超える連続鋳造は高速鋳造と言われる。従来、高い品質が要求される自動車用外装材等については、鋳造速度が1.6m/minを超えるような高速鋳造では、品質を確保することが困難であるため、1.3~1.4m/min程度が一般的な鋳造速度である。
そこで、本実施形態では、上記の事情に鑑みて、例えば、鋳造速度が1.6m/minを超えるような高速鋳造においても、従来のより遅い鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを具体的な目標として設定する。以下、当該目標を満たし得るような、本実施形態における電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さの割合について、詳細に説明する。
上述したように、本実施形態では、鋳型110のZ軸方向の中央部に電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160を設置する空間を確保するために、鋳型110の上部及び下部に、それぞれ水箱130、140を配置する。ここで、溶鋼湯面よりも上方に電磁撹拌コア152が位置してもその効果を得ることができない。従って、電磁撹拌コア152は溶鋼湯面よりも下方に設置されるべきである。また、吐出流に対して効果的に磁場を印加するためには電磁ブレーキコア162は浸漬ノズル6の吐出孔付近に位置することが好ましい。上記のように水箱130、140を配置した場合には、浸漬ノズル6の吐出孔は下部水箱140よりもの上方に位置することになるため、電磁ブレーキコア162も下部水箱140よりも上方に設置されるべきである。従って、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162を設置することにより効果が得られる空間(以下、有効空間ともいう)の高さH0は、溶鋼湯面から下部水箱140の上端までの高さとなる(図2参照)。
本実施形態では、当該有効空間を最も有効に活用するために、電磁撹拌コア152の上端が溶鋼湯面と略同じ高さになるように、当該電磁撹拌コア152を設置する。このとき、電磁撹拌装置150の電磁撹拌コア152の高さをH1、ケース151の高さをH3とし、電磁ブレーキ装置160の電磁ブレーキコア162の高さをH2、ケース161の高さをH4とすると、下記数式(1)が成立する。ここで、電磁撹拌コア152の高さH1は、電磁撹拌コア152の上端から下端までの長さ(すなわちZ軸方向の長さ(鋳造方向距離))であり、ケース151の高さH3は、ケース151の上端から下端までの長さ(すなわちZ軸方向の長さ)である。電磁ブレーキコア162の高さは、電磁ブレーキコア162の上端から下端までの長さ(すなわちZ軸方向の長さ)であり、ケース161の高さH4は、ケース161の上端から下端までの長さ(すなわちZ軸方向の長さ)である。
換言すれば、上記数式(1)を満たしつつ、電磁撹拌コア152の高さH1と電磁ブレーキコア162の高さH2との割合H1/H2(以下、コア高さ割合H1/H2ともいう)を規定する必要がある。以下、高さH0~H4についてそれぞれ説明する。
(有効空間の高さH0について)
上述したように、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160においては、それぞれ、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の高さが大きいほど、電磁力を付与する性能が高いと言える。従って、本実施形態では、両装置がその性能をより発揮できるように、有効空間の高さH0ができるだけ大きくなるように鋳型設備10を構成する。具体的には、有効空間の高さH0を大きくするためには、鋳型110のZ軸方向の長さを大きくすればよい。一方、上述したように、鋳片3の冷却性を考慮して、溶鋼湯面から鋳型110の下端までの長さは1000mm程度以下であることが望ましい。そこで、本実施形態では、鋳片3の冷却性を確保しつつ、有効空間の高さH0をできるだけ大きくするために、溶鋼湯面から鋳型110の下端までが1000mm程度になるように鋳型110を形成する。
ここで、十分な冷却能力が得られるだけの水量を貯水し得るように下部水箱140を構成しようとすると、過去の操業実績等に基づいて、当該下部水箱140の高さは少なくとも200mm程度は必要となる。従って、有効空間の高さH0は、800mm程度以下である。
(電磁撹拌装置及び電磁ブレーキ装置のケースの高さH3、H4について)
上述したように、電磁撹拌装置150のコイル153は、電磁撹拌コア152に、断面のサイズが10mm×10mm程度の導線を2~4層巻回することにより形成される。従って、コイル153まで含めた電磁撹拌コア152の高さは、H1+80mm程度以上となる。ケース151の内壁と電磁撹拌コア152及びコイル153との間の空間を考慮すると、ケース151の高さH3は、H1+200mm程度以上となる。
電磁ブレーキ装置160についても同様に、コイル163まで含めた電磁ブレーキコア162の高さは、H2+80mm程度以上となる。ケース161の内壁と電磁ブレーキコア162及びコイル163との間の空間を考慮すると、ケース161の高さH4は、H2+200mm程度以上となる。
(H1+H2が取り得る範囲)
上述したH0、H3、H4の値を上記数式(1)に代入すると、下記数式(2)が得られる。
つまり、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162は、その高さの和H1+H2が500mm程度以下になるように構成される必要がある。以下、上記数式(2)を満たしつつ、鋳片3の品質向上の効果が十分に得られるような、適切なコア高さ割合H1/H2を検討する。
(コア高さ割合H1/H2について)
本実施形態では、電磁撹拌の効果がより確実に得られるような電磁撹拌コア152の高さH1の範囲を規定することにより、コア高さ割合H1/H2の適切な範囲を設定する。
上述したように、電磁撹拌では、凝固シェル界面における溶鋼2を流動させることにより、凝固シェル3aへの不純物の捕捉を抑制する洗浄効果が得られ、鋳片3の表面品質を良化させることができる。一方、鋳型110の下方に向かうにつれて、鋳型110内での凝固シェル3aの厚みは大きくなっていく。電磁撹拌の効果は、凝固シェル3aの内側の未凝固部3bに対して及ぼされるものであるから、電磁撹拌コア152の高さH1は、鋳片3の表面品質をどの程度の厚みまで確保する必要があるかによって決定され得る。
ここで、表面品質が厳格な品種では、鋳造後の鋳片3の表層を数ミリ研削するという工程が実施されることが多い。この研削深さは、2mm~5mm程度である。従って、このような厳格な表面品質が求められる品種では、鋳型110内において凝固シェル3aの厚みが2mm~5mmよりも小さい範囲において電磁撹拌を行っても、その電磁撹拌により不純物が低減されている鋳片3の表層は、その後の研削工程によって除去されてしまうこととなる。換言すれば、鋳型110内において凝固シェル3aの厚みが2mm~5mm以上となっている範囲において電磁撹拌を行わないと、鋳片3における表面品質向上の効果を得ることができない。
凝固シェル3aは、溶鋼湯面から徐々に成長し、その厚みは下記数式(3)で示されることが知られている。ここで、δは凝固シェル3aの厚み(m)、kは冷却能力に依存する定数、xは溶鋼湯面からの距離(m)、Vcは鋳造速度(m/min)である。
上記数式(3)から、凝固シェル3aの厚みが4mm又は5mmとなる場合の、鋳造速度(m/min)と溶鋼湯面からの距離(mm)との関係を求めた。図7にその結果を示す。図7は、凝固シェル3aの厚みが4mm又は5mmとなる場合の、鋳造速度(m/min)と溶鋼湯面からの距離(mm)との関係を示す図である。図7では、横軸に鋳造速度を取り、縦軸に溶鋼湯面からの距離を取り、凝固シェル3aの厚みが4mmとなる場合、及び凝固シェル3aの厚みが5mmとなる場合における、両者の関係をプロットしている。なお、図7に示す結果を得る際の計算では、一般的な鋳型に対応する値として、k=17とした。
例えば、図7に示す結果から、研削される厚みが4mmよりも小さく、凝固シェル3aの厚みが4mmまでの範囲で溶鋼2を電磁撹拌すればよい場合であれば、電磁撹拌コア152の高さH1を200mmとすれば、鋳造速度3.5m/min以下での連続鋳造において電磁撹拌の効果が得られることが分かる。研削される厚みが5mmよりも小さく、凝固シェル3aの厚みが5mmまでの範囲で溶鋼2を電磁撹拌すればよい場合であれば、電磁撹拌コア152の高さH1を300mmとすれば、鋳造速度3.5m/min以下での連続鋳造において電磁撹拌の効果が得られることが分かる。なお、この鋳造速度の「3.5m/min」という値は、一般的な連続鋳造機において、操業上及び設備上可能な最大の鋳造速度に対応している。
ここで、上述したように、本実施形態では、例えば、鋳造速度が1.6m/minを超えるような高速鋳造においても、従来のより遅い鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等の鋳片3の品質を確保することを目標としている。鋳造速度が1.6m/minを超える場合に、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果を得るためには、図7から、電磁撹拌コア152の高さH1を少なくとも約150mm以上にしなければならないことが分かる。
以上検討した結果から、本実施形態では、例えば、比較的高速である鋳造速度1.6m/minを超える連続鋳造において、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果が得られるように、電磁撹拌コア152の高さH1が約150mm以上になるように、当該電磁撹拌コア152を構成する。
電磁ブレーキコア162の高さH2については、上述したように、当該高さH2が大きいほど電磁ブレーキ装置160の性能は高い。従って、上記数式(2)から、H1+H2=500mmである場合において、上記の電磁撹拌コア152の高さH1の範囲に対応するH2の範囲を求めればよい。すなわち、電磁ブレーキコア162の高さH2は、約350mmとなる。
これらの電磁撹拌コア152の高さH1及び電磁ブレーキコア162の高さH2の値から、本実施形態におけるコア高さ割合H1/H2は、例えば、下記数式(4)となる。
まとめると、本実施形態では、鋳造速度1.6m/minを超える場合であっても従来のより低速の鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを目標とする場合には、例えば、電磁撹拌コア152の高さH1と電磁ブレーキコア162の高さH2が、上記数式(4)を満たすように、当該電磁撹拌コア152及び当該電磁ブレーキコア162が構成される。
なお、コア高さ割合H1/H2の好ましい上限値は、電磁ブレーキコア162の高さH2が取り得る最小値によって規定され得る。電磁ブレーキコア162の高さH2が小さくなるほどコア高さ割合H1/H2は大きくなるが、電磁ブレーキコア162の高さH2が小さ過ぎれば、電磁ブレーキが有効に機能せず、電磁ブレーキによる鋳片3の品質、特に内質向上の効果が得られなくなるからである。電磁ブレーキの効果が十分に発揮され得る電磁ブレーキコア162の高さH2の最小値は、鋳片サイズや品種、鋳造速度等の鋳造条件に応じて異なる。従って、電磁ブレーキコア162の高さH2の最小値、すなわちコア高さ割合H1/H2の上限値は、例えば下記実施例1~3に示すような、実際の操業での鋳造条件を模擬した数値解析シミュレーション及び実機試験等に基づいて規定され得る。
以上、本実施形態に係る鋳型設備10の構成について説明した。なお、以上の説明では、上記数式(4)に示す関係性を得る際に、上記数式(2)からH1+H2=500mmとして、これらの関係性を得ていた。ただし、本実施形態はかかる例に限定されない。上述したように、装置の性能をより発揮するためにはH1+H2はできるだけ大きい方が好ましいため、上記の例ではH1+H2=500mmとしていた。一方、例えば水箱130、140、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160を設置する際の作業性等を考慮して、Z軸方向においてこれら部材の間に隙間が存在した方が好ましい場合も考えられる。このように作業性等の他の要素をより重視する場合には、必ずしもH1+H2=500mmでなくてもよく、例えばH1+H2=450mm等、H1+H2を500mmよりも小さい値として、コア高さ割合H1/H2を設定してもよい。
また、以上の説明では、鋳造速度が1.6m/minを超える場合に、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果を得るための条件として、図7から、電磁撹拌コア152の高さH1の最小値約150mmを求め、このときのコア高さ割合H1/H2の値である0.43を、当該コア高さ割合H1/H2の下限値としていた。ただし、本実施形態はかかる例に限定されない。目標とする鋳造速度がより速く設定される場合には、コア高さ割合H1/H2の下限値も変化し得る。つまり、実際の操業において目標とする鋳造速度において、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果が得られるような電磁撹拌コア152の高さH1の最小値を図7から求め、そのH1の値に対応するコア高さ割合H1/H2を、コア高さ割合H1/H2の下限値とすればよい。
一例として、作業性等を考慮してH1+H2=450mmとし、より速い鋳造速度2.0m/minにおいても従来のより低速の鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを目標とした場合における、コア高さ割合H1/H2の条件を求めてみる。まず、図7から、鋳造速度が2.0m/min以上である場合に、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果を得るための条件を求める。図7を参照すると、鋳造速度が2.0m/minのときには、溶鋼湯面からの距離が約175mmの位置で、凝固シェルの厚みが5mmになる。従って、マージンを考慮すれば、凝固シェル3aの厚みが5mmになっても電磁撹拌の効果が得られるような電磁撹拌コア152の高さH1の最小値は、200mm程度と求められる。このとき、H1+H2=450mmから、H2=250mmとなるため、コア高さ割合H1/H2に求められる条件は、下記数式(5)で表される。
つまり、本実施形態において、鋳造速度2.0m/minにおいても従来のより低速の鋳造速度で連続鋳造を行った場合と同等以上の鋳片3の品質を確保することを目標とする場合には、少なくとも上記数式(5)を満たすように、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162を構成すればよい。なお、コア高さ割合H1/H2の上限値については、上述したように、実際の操業での鋳造条件を模擬した数値解析シミュレーション及び実機試験等に基づいて規定すればよい。
このように、本実施形態では、鋳造速度を増加させた場合であっても従来のより低速での連続鋳造と同等以上の鋳片の品質(表面品質及び内質)を確保することが可能なコア高さ割合H1/H2の範囲は、その目標とする鋳造速度の具体的な値、及びH1+H2の具体的な値に応じて、変化し得る。従って、コア高さ割合H1/H2の適切な範囲を設定する際には、実際の操業時の鋳造条件や、連続鋳造機1の構成等を考慮して、目標とする鋳造速度、及びH1+H2の値を適宜設定し、そのときのコア高さ割合H1/H2の適切な範囲を、以上説明した方法によって適宜求めればよい。
後述の実施例を踏まえると、H1/H2は以下の数式(101)に示す関係を満たすことが好ましく、以下の数式(103)を満たすことがより好ましい。
(3.連続鋳造方法)
次に、上述した連続鋳造機1を用いた連続鋳造方法について説明する。本実施形態では、連続鋳造機1を用いて高張力鋼用の鋳片の連続鋳造を行う。なお、高張力鋼は、例えば引張強さが490MPa以上となる鋼材であるが、これに限定されない。ここで、引張強さは、JIS Z2241「金属材料引張試験方法」に準拠して測定される値である。すなわち、溶鋼2は、C:0.05質量%以上0.5%質量%以下、Si:0.005質量%以上2.0質量%以下、Mn:0.3質量%以上2.5質量%以下、P:0.01質量%以上0.05質量%以下、S:0.015質量%以下、N:0.005質量%以下からなる元素群を含む。さらに、溶鋼2は、任意成分として、Ti:0.003質量%以上0.2質量%以下、Nb:0.003質量%以上0.1質量%以下、V:0.002質量%以上0.1質量%以下、Cr:0.1質量%以上0.8質量%以下、Cu:0.1質量%以上0.6質量%以下、Mo:0.05質量%以上0.6質量%以下、B:0.0004質量%以上0.005質量%以下からなる元素群から選択されるいずれか1種以上を含んでいてもよい。ここで、各成分の質量%は、溶鋼2の総質量に対する質量%を意味するものとする。溶鋼の残部は鉄及び不可避的不純物である。
(C:0.05質量%以上0.5%質量%以下)
Cは高張力鋼の強度を確保するために必要な元素で、その効果を得るため溶鋼2に0.05質量%以上添加する。一方、Cの含有量が0.5質量%を超えると溶接性の低下が顕著であるため、Cの含有量を0.5質量%以下とする。
(Si:0.005質量%以上2.0質量%以下)
Siは鋼を強化する作用があるため、高張力鋼の必要強度に応じて溶鋼2に添加される。Siの含有量は、0.005質量%以上となる。一方、Si含有量が多すぎると成形性が悪化するので、Siの含有量を2.0質量%以下とする。
(Mn:0.3質量%以上2.5質量%以下)
Mnは鋼を強化する作用があるため、高張力鋼の必要強度に応じて溶鋼2に0.3質量%以上添加する。一方、Mn含有量が多すぎると成形性が悪化し、合金コストも高価になるため、Mnの含有量を2.5質量%以下とする。
(P:0.01質量%以上0.05質量%以下)
Pは鋼を強化する作用があるため、高張力鋼の必要強度に応じて溶鋼2に添加される。Pの含有量は0.01質量%以上となる。一方、Pの含有量が多すぎると粒界偏析による脆化が発生するため、Pの含有量を0.05質量%以下とする。
(S:0.015質量%以下)
Sは不純物として鋼中に存在する。S含有量が多すぎると脆化の原因となるので少ないほど好ましく、Sの含有量が0.015%を超えると脆化が著しい。このため、Sの含有量を0.015質量%以下とする。
(N:0.005質量%以下)
Nは成形性を低下させるので少ないほど好ましく、Nの含有量が0.005質量%を超えるとNの影響が著しくなる。このため、Nの含有量は0.005質量%以下とする。
(Ti:0.003質量%以上0.2質量%以下)
TiはCと結合して炭化物として析出することにより、高張力鋼の強度を高める効果がある。そのため、必要に応じて溶鋼2に0.003質量%以上添加してもよい。一方、Tiの含有量が0.2質量%を超えると連続鋳造中にTiがパウダーと反応して異物となりやすくなる。このため、Ti含有量を0.2質量%以下とする。
(Nb:0.003質量%以上0.1質量%以下)
NbはNbCとして析出することで高張力鋼の強度を高める効果がある。そのため、必要に応じて溶鋼2に0.003質量%以上添加しても良い。一方、Nbの含有量が0.1質量%を超えると耐力を上昇させ伸びが低下するため成形性が悪化する。このため、Nbの含有量を0.1質量%以下とする。
(V:0.002質量%以上0.1質量%以下)
VはCと結合して炭化物として析出することで高張力鋼の強度を高める効果がある。そのため、必要に応じ溶鋼2に0.002質量%以上添加してもよい。一方、Vの含有量が0.1質量%を超えると鋳片の表面割れが顕著となる。このため、0.1質量%以下とする。
(Cr:0.1質量%以上0.8質量%以下)
Crは高張力鋼の強度を高める効果がある。そのため、必要に応じ溶鋼2に0.1質量%以上添加してもよい。一方、Crの含有量が0.8質量%を超えるとその効果が飽和してくる。このため、Crの含有量を0.8質量%以下とする。
(Cu:0.1質量%以上0.6質量%以下)
Cuは高張力鋼の強度を高める効果がある。そのため、必要に応じ溶鋼2に0.1質量%以上添加してもよい。一方、Cuは希少金属であるためコストの観点からCuの含有量を0.6質量%以下とする。
(Mo:0.05質量%以上0.6質量%以下)
Moは高張力鋼の強度を高める効果がある。そのため、必要に応じ溶鋼2に0.05質量%以上添加してもよい。一方、Moは希少金属であるためコストの観点からMoの含有量を0.6質量%以下とする。
(B:0.0004質量%以上0.005質量%以下)
固溶Bは高張力鋼の強度を高める効果がある。そのため、必要に応じ溶鋼2に0.0004質量%以上添加してもよい。一方、Bの含有量が0.005質量%以上となると鋳片の表面割れが顕著となる。このため、Bの含有量を0.005質量%以下とする。
連続鋳造を行う際、電磁撹拌装置150(すなわち、電磁撹拌コア152)による交流磁場の磁束密度(以下、単に「電磁撹拌強度」とも称する)を0.05T以上0.2T以下とする。電磁撹拌強度が0.05T未満となる場合、撹拌流が不十分で溶鋼温度の均一化が図れない。このため、凝固シェルの不均一凝固が促進され、割れが発生する可能性がある。電磁撹拌強度が0.2Tより大きい場合、撹拌流による湯面変動が大きくなる。このため、凝固シェルの不均一凝固が促進され、割れが発生する可能性がある。このことから、電磁撹拌強度は0.05T以上0.2T以下が適正である。なお、特に断りが無い限り、電磁撹拌強度及び後述の電磁ブレーキ強度の単位「T」はテスラを意味するものとする。
一方、電磁ブレーキ装置160(すなわち、電磁ブレーキコア162)による静磁場の磁束密度(以下、単に「電磁ブレーキ強度」とも称する)を0.1T以上0.4T以下とする。電磁ブレーキ強度が0.1T未満となる場合、吐出流の制動が十分でなく、短辺側で発生する上昇流により湯面変動が起こる。このため、凝固シェルの不均一凝固が促進され、割れが発生する可能性がある。電磁ブレーキ強度が0.4Tより大きい場合、制動力が過大で吐出流がノズル近傍へ多く集まるため、ノズル近傍のシェル厚みが薄くなる可能性がある。すなわち、吐出流によって鋳片幅方向の凝固シェルの不均一凝固が促進され、割れが発生する可能性がある。さらに、吐出流が過度に制動されるので、幅方向中央での上昇流が形成される。この上昇流により、湯面変動が大きくなる。このため、凝固シェルの不均一凝固が促進され、割れが発生する可能性がある。このことから、電磁ブレーキ強度は0.1T以上0.4T以下が適正である。
ここで、電磁撹拌強度及び電磁ブレーキ強度は、鋳型110を溶鋼の存在しない冷間状態として測定されたコア中心部(すなわち、電磁撹拌コア152及び電磁ブレーキコア162の中心部)の磁束密度である。なお、電磁撹拌コア152による磁場は交流磁界であるので、磁束密度の時間変化の最大値を電磁撹拌強度の値とする。なお、電磁撹拌強度及び電磁ブレーキ強度と、電磁撹拌装置150及び電磁ブレーキ装置160への印加条件(電流、周波数)との相関は予め特定できるので、実際の操業では、各装置への印加条件を調整することで、電磁撹拌強度及び電磁ブレーキ強度を調整すれば良い。
上記の操業条件以外は従来の連続鋳造方法と同様に連続鋳造を行えば良い。後述する実施例で示される通り、本実施形態による連続鋳造方法によれば、高張力鋼用の鋳片の生産性を高めた場合であっても、安定的に鋳片の品質を確保することが可能となる。なお、上述したように、溶鋼2中には、Nb、Ti、及びVのうち1種以上が含まれることがあり、この場合、鋳片の結晶粒界にNbC、TiN、またはVN等の介在物が多く析出する。このような介在物が結晶粒界に析出した場合、結晶粒界に応力が集中し、割れが発生する可能性がある。なお、このような割れは、鋼の脆化温度域において歪みが加わることで発生する。そこで、溶鋼2にNb、Ti、及びVのうち1種以上が含まれる場合、曲げ、矯正時の鋳片温度を二次冷却時に調整すればよい。これにより、割れを抑制することができる。
本実施形態による鋳型設備10を連続鋳造に適用することにより鋳造速度を増加させても鋳片の表面品質が確保され得ることを確認するために、数値解析シミュレーションを行った。当該数値解析シミュレーションでは、図2~図5を参照して説明した本実施形態に係る電磁力発生装置170が設置された鋳型設備10を模した計算モデルを作成し、連続鋳造中における溶鋼内の当該溶鋼及びArガス気泡の挙動を計算した。数値解析シミュレーションの条件は以下の通りである。なお、実施例2も同様の条件で数値解析シミュレーションを行った。
(数値解析シミュレーションの条件)
電磁撹拌装置の電磁撹拌コアの幅W1:1900mm
電磁撹拌装置の電流印加条件:680A、3.0Hz
電磁撹拌装置のコイルの巻き数:20ターン
電磁ブレーキ装置の電磁ブレーキコアの幅W2:500mm
電磁ブレーキ装置の電磁ブレーキコア間の距離W3:350mm
電磁ブレーキ装置の電流印加条件:900A
電磁ブレーキ装置のコイルの巻き数:120ターン
鋳造速度:1.4m/min又は2.0m/min
鋳型幅:1600mm
鋳型厚み:250mm
Arガスの吹き込み量:5NL/min
表面品質の評価では、上記の条件の下で流体シミュレーションを行い、連続鋳造機1の溶鋼中における溶鋼の流速、溶鋼の凝固速度、及びArガス気泡の分布を計算し、凝固シェルに捕捉されるArガス気泡を評価した。具体的には、Arガス気泡が凝固シェルに捕捉される確率Pgを、下記数式(6)に示す関数によって算出した。ここで、C0は定数、Uは凝固界面における溶鋼流速である。
また、このときのArガス気泡が凝固シェルに捕捉される速度ηgを、下記数式(7)を用いて算出した。ここで、ngは凝固シェル界面におけるArガス気泡の個数密度、Rsは凝固シェルの凝固速度である。
そして、凝固シェル中のArガス気泡の個数密度Sgを、下記数式(8)を用いて算出した。ここで、Usは凝固シェルの鋳片の引き抜き方向への移動速度である。
上記数式(8)から算出された、凝固シェル内のArガス気泡の個数密度Sgを時間平均して、鋳片表層から4mmの範囲内に捕捉される直径1mmのArガス気泡の個数をピンホール指数として算出した。ピンホール指数が小さいほど、鋳片の表面品質が高いと言える。なお、以上説明した数値解析シミュレーションによる鋳片の表面品質の評価方法の詳細については、本願出願人による先行出願である特開2015-157309号公報を参照することができる。
なお、表面品質の評価においては、電磁撹拌コア152の高さH1及び電磁ブレーキコア162の高さH2については、上記数式(2)に示す関係性を踏まえて、H1+H2=500mmとなるような、下記表1に示す8通りの組み合わせでシミュレーションを行った。
また、比較のために、従来の連続鋳造方法の一例として、電磁撹拌装置150のみが設置された場合における鋳片の表面品質についても評価した。評価対象とした従来の連続鋳造方法は、図2~図5に示す鋳型設備10において電磁ブレーキ装置160が取り除かれたものを用いた連続鋳造方法に対応する。また、当該従来の連続鋳造方法についての計算では、電磁撹拌コア152の高さH1は250mmで固定した。従来の連続鋳造方法については、電磁ブレーキ装置160が設置されないこと及び電磁撹拌コア162の高さH1を250mmで固定したこと以外は、以上説明した計算方法と同様の方法によって、ピンホール指数を計算した。
表面品質についての数値解析シミュレーション結果を、図8及び図9に示す。図8は、数値解析シミュレーションによって得られた、鋳造速度が1.4m/minである場合における、コア高さ割合H1/H2とピンホール指数との関係を示すグラフ図である。図9は、数値解析シミュレーションによって得られた、鋳造速度が2.0m/minである場合における、コア高さ割合H1/H2とピンホール指数との関係を示すグラフ図である。図8及び図9では、横軸にコア高さ割合H1/H2を取り、縦軸にピンホール指数を取り、両者の関係をプロットしている。また、図8及び図9では、上記の従来の連続鋳造方法におけるピンホール指数の値を、横軸に平行な破線の直線で示している。
図8を参照すると、鋳造速度が1.4m/minである場合には、従来の連続鋳造方法におけるピンホール指数は40程度である。一方、本実施形態に係る連続鋳造方法においては、コア高さ割合H1/H2が0.82以上である場合には、従来の連続鋳造方法と同等以下のピンホール指数が得られている。特に、コア高さ割合H1/H2が1.0以上になると、ピンホール指数が従来の連続鋳造方法よりも低下する。そして、ピンホール指数は、コア高さ割合H1/H2の値が大きくなるほど低下する。すなわち、電磁撹拌コア152の高さH1が、電磁ブレーキコア162の高さH2に対して大きくなるほど、ピンホール指数が低下し、鋳片3の表面品質は良化すると考えられる。
図9を参照すると、鋳造速度を2.0m/minまで増加させた場合には、従来の連続鋳造方法におけるピンホール指数は80程度まで悪化する。一方、本実施形態に係る連続鋳造方法において、コア高さ割合H1/H2が約0.70~約2.70である場合には、ピンホール指数が従来の連続鋳造方法と同等以下にまで低下する。特に、コア高さ割合H1/H2が約1.0~約1.5である場合には、ピンホール指数が40程度まで低減しており、鋳造速度を2.0m/minまで増加させた場合であっても、従来の連続鋳造方法によって鋳造速度1.4m/minで連続鋳造を行った場合と同等の表面品質を得ることができることが分かる。
以上の結果から、上記数値解析シミュレーション条件に対応する鋳造条件において、コア高さ割合H1/H2を約0.70~約2.70の間のいずれかの値にすれば、少なくとも鋳造速度1.4m/min~2.0m/minでの連続鋳造において、従来の連続鋳造方法と同等以上の鋳片の表面品質を確保することが可能になることが分かった。特に、コア高さ割合H1/H2を約1.0~約1.5にすれば、鋳造速度を2.0m/minまで増加させた場合であっても、従来のより低速(具体的には、鋳造速度1.4m/min)での連続鋳造方法と同等以上の鋳片の表面品質を確保することが可能になることが分かった。
本実施形態による鋳型設備10を連続鋳造に適用することにより鋳造速度を増加させても鋳片の内質が確保され得ることを確認するために、数値解析シミュレーションを行った。内質については、上述した表面品質の評価時と同様のシミュレーション方法において、Ar気泡ではなく、鋳片の代表的な不純物介在物であるアルミナが、当該鋳片に残存する値を評価した。具体的には、垂直曲げ式の連続鋳造機1を仮定し、連続鋳造中におけるアルミナ粒子の挙動をシミュレーションによって解析し、その垂直部より下方まで沈降するアルミナ粒子はそのまま鋳片に残留するとみなして、鋳片の所定の体積中のアルミナ粒子の個数を内質指数として算出した。この際、連続鋳造機1の垂直部長さを3mとした。また、アルミナ粒子の直径は0.4mmとし、アルミナ粒子の比重は3990kg/m3とした。内質指数が小さいほど、鋳片の内質が高いと言える。
なお、内質の評価においては、電磁撹拌コアの高さH1及び電磁ブレーキコアの高さH2については、上記数式(2)に示す関係性を踏まえて、H1+H2=450mmとなるような、下記表2に示す4通りの組み合わせでシミュレーションを行った。
また、内質についても、比較のために、従来の連続鋳造方法の一例として、電磁撹拌装置150のみが設置された場合における内質についても評価した。評価対象とした従来の連続鋳造方法は、上述した表面品質の評価時と同様に、図2~図5に示す本実施形態に係る鋳型設備10において電磁ブレーキ装置160が取り除かれたものを用いた連続鋳造方法である。また、電磁撹拌装置150の電磁撹拌コア152の高さH1は250mmに固定している。
内質についての数値解析シミュレーション結果を、図10に示す。図10は、数値解析シミュレーションによって得られた、鋳造速度と内質指数との関係を示すグラフ図である。図10では、横軸に鋳造速度を取り、縦軸に内質指数を取り、上記表2に示す各コア高さ割合H1/H2の値に対応する、鋳造速度及び内質指数の関係をプロットしている。また、図10では、上記の従来の連続鋳造方法による結果を併せてプロットしている。
図10を参照すると、従来の連続鋳造方法では、一般的な鋳造速度1.4m/minの場合における内質指数は約40であり、当該内質指数は、鋳造速度が増加するにつれて著しく増加している(すなわち、鋳造速度が増加するにつれて鋳片の内質が著しく悪化している)。
一方、本実施形態に係る連続鋳造方法では、コア高さ割合H1/H2が1.5以下である場合には、鋳造速度を2.0m/min程度まで増加させても、内質指数が40よりも小さく抑えられており、従来の連続鋳造方法において鋳造速度が1.4m/minである場合よりも良好な内質を得ることができる。コア高さ割合H1/H2が2.0の場合でも、鋳造速度が2.4m/minの場合には,内質指数が約60であり、従来の連続鋳造方法において鋳造速度が1.6m/minである場合と同等の内質が確保できる。以上の結果から、鋳造速度を高速にしても従来と同等以下の鋳片の内質を確保するためには、コア高さ割合H1/H2を2.0以下、より好ましくは1.5以下とすればよい。
以上の結果から、上記数値解析シミュレーション条件に対応する鋳造条件において、コア高さ割合H1/H2を約1.5以下のいずれかの値にすれば、鋳造速度2.0m/minでの連続鋳造において、鋳造速度1.4m/minでの従来の連続鋳造方法と同等以下の鋳片の内質を確保することが可能になることが分かった。また、コア高さ割合H1/H2を約2.0以下のいずれかの値にすれば、鋳造速度2.4m/minでの連続鋳造において、鋳造速度1.6m/minでの従来の連続鋳造方法と同等以下の鋳片の内質を確保することが可能になることが分かった。
本実施形態の効果を更に確認するために、実機試験を行った。当該実機試験では、実際に操業に用いている連続鋳造機に、図2~図5を参照して説明した本実施形態に係る電磁力発生装置170を設置し、当該連続鋳造機1を用いて、コア高さ割合H1/H2、及び鋳造速度を様々に変化させながら、実際に連続鋳造を行った。鋳型110は銅製水冷式(水冷銅鋳型)で高さ(鋳型の上端から下端までの長さ)が900mmであり、矩形断面を有する。連続鋳造機1は垂直曲げ式とした。二次冷却の比水量は1.5~2.5L/kg-steelとした。浸漬ノズル6のアルゴンガスの吹き込み量は7NL/minとした。電磁撹拌コア152の上端を鋳型の上端から100mmの位置に配置し、電磁ブレーキコア162の上端を電磁撹拌コアの下端から150mmの位置に配置した。そして、鋳造された鋳片の表面品質及び内質を目視及び超音波探傷検査によってそれぞれ調査した。具体的には、鋳片表面を探傷可能なように平滑に研削し(1-2mm程度)、表面に存在する気泡欠陥や介在物欠陥を目視で調査した。また、超音波探傷検査では、鋳片の表面から厚み中心に向かった超音波のエコーから気泡欠陥や介在物欠陥を検出した。また、比較のため、電磁撹拌装置のみを設置した従来の連続鋳造方法についても、連続鋳造を行い、その鋳片の品質を同様の方法によって調査した。従来の連続鋳造方法は、上述した数値解析シミュレーション時と同様に、図2~図5に示す本実施形態に係る鋳型設備10において電磁ブレーキ装置160が取り除かれたものを用いた連続鋳造方法である。また、従来の連続鋳造方法における鋳造速度は1.4m/min、電磁撹拌装置150の電磁撹拌コア152の高さH1は200mmとした。
また、浸漬ノズルについては、本実施形態及び従来の連続鋳造方法とも、その吐出孔が下向き45°のものを用い、吐出孔上端の溶鋼湯面からの深さは270mmとした。
結果を、下記表3に示す。表3では、鋳片の品質については、従来の連続鋳造方法における品質を基準として、当該従来の連続鋳造方法よりも良い品質(つまり、欠陥が少ない)が得られた場合には「○」、当該従来の連続鋳造方法と同程度の品質(つまり、欠陥の数が同程度)が得られた場合には「△」、当該従来の連続鋳造方法よりも悪い品質(つまり、欠陥の数が多い)が得られた場合には「×」を付すことにより表現している。
本実施例では、鋳造速度を2.0m/minまで増加させた場合であっても、従来のより低速(具体的には、鋳造速度1.6m/min)での連続鋳造方法よりも優れた鋳片の品質(表面品質及び内質)を確保することが可能なコア高さ割合H1/H2の範囲を調査した。表3に示す結果から、上記実機試験に対応する鋳造条件においては、コア高さ割合H1/H2の値を約0.80~約2.33にすることにより、鋳造速度を2.0m/minまで増加させた場合であっても、より低速での従来の連続鋳造方法よりも優れた鋳片の品質を確保することが可能になることが分かった。換言すれば、本実施例の結果から、本発明を適用し、コア高さ割合H1/H2の値を約0.80~約2.33にすることにより、鋳片の品質を確保しつつ、鋳造速度を2.0m/minまで増加させ、生産性を向上させることが可能になることが示された。また、同様に、表3に示す結果から、上記実機試験に対応する鋳造条件においては、コア高さ割合H1/H2の値を約1.00~約2.00にすることにより、鋳造速度を2.2m/minまで増加させた場合であっても、より低速での従来の連続鋳造方法よりも優れた鋳片の品質を確保することが可能になることが分かった。
実施例4では、高張力鋼の連続鋳造方法に関する実機試験を行った。当該実機試験では、実際に操業に用いている連続鋳造機に、図2~図5を参照して説明した本実施形態に係る電磁力発生装置170を設置し、当該連続鋳造機1を用いて、電磁撹拌強度及び電磁ブレーキ強度等を様々に変更して高張力鋼の連続鋳造を行った。ここで、鋳型は銅製水冷式(水冷銅鋳型)で高さ(鋳型の上端から下端までの長さ)が900mmの矩形断面を有する。連続鋳造機1の形式は垂直曲げ式とした。Cの質量%が0.12~0.17質量%、Siの質量%が0.1~0.2質量%、Mnの質量%が0.5~0.8質量%、Pの質量%が0.02~0.025%、Sの質量%が0.007~0.009質量%、Nの質量%が0.002~0.0035質量%、Tiの質量%が0.01%~0.02質量%、Nbの質量%が0.01~0.02質量%、残部が鉄及び不可避的不純物となる溶鋼を用いた。二次冷却の比水量は1.5~2.5L/kg-steelとした。浸漬ノズルのアルゴンガスの吹き込み量は7NL/minとした。電磁撹拌コア152の上端を鋳型110の上端から100mmの位置に配置し、電磁撹拌コア152の高さH1は250mmとした。電磁ブレーキコア162の上端を鋳型110の上端から500mmの位置に配置し、電磁ブレーキコア162の高さH2は200mmとした。したがって、コア高さ割合H1/H2は、250/200=1.25となり、数式(101)の条件を満たす。
さらに、連続鋳造後の鋳片を冷間で目視観察し、鋳片表面の割れの有無を調査した。割れがなければ◎、圧延時に疵にならない軽微な割れがある場合は○、圧延時に疵となる割れがあるが手入れ可能な場合は△、圧延時に疵となる割れが多数あり手入れできない場合は×と分類した。
(発明例1)
発明例1は、以下の各発明例、比較例のベースとなるものである。発明例1では、鋳片厚み、鋳片幅を薄板向け連鋳機で一般的なサイズである250mm厚、1250mm幅とした。鋳造速度は、湯面変動が鋳片の表面割れに影響を及ぼし始める1.5m/minとした。電磁撹拌強度、電磁ブレーキ強度はあらかじめ実施した流動解析(実施例1に示した数値解析シミュレーション。条件も実施例1と同様とした)を基に設定し、鋳型内の湯面変動および温度変動が小さくなる条件である電磁撹拌強度0.1T、電磁ブレーキ強度0.15Tとした。電磁ブレーキコア数(すなわち、長辺面に対向する磁極の数)は、吐出孔付近の静磁場強度を効果的に小さくできる2個(長辺面の片面あたり2個。すなわち、両面で2対)とした。これらの条件はいずれも本実施形態の範囲内であり、鋳片の表面割れも無かった。
(発明例2)
発明例2では、発明例1に対し鋳片幅を大きくし、電磁撹拌および電磁ブレーキ強度を発明例1と同様とした。発明例2の条件は、スループットの増大により湯面変動が大きくなる条件であるが、鋳片の表面割れはなかった。
(発明例3)
発明例3では、発明例1に対し電磁撹拌強度および電磁ブレーキ強度を本実施形態の範囲内で共に大きくした。発明例3では、発明例1よりも電磁撹拌による湯面変動と電磁ブレーキによる温度変動がやや大きくなっており、軽微な割れが見られたが圧延には影響ないレベルであった。
(発明例4)
発明例4では、発明例1に対し電磁撹拌強度および電磁ブレーキ強度を本実施形態の範囲内で共に小さくした。発明例4では、吐出流の影響により湯面変動がやや大きくなり軽微な割れが見られたが、圧延には影響のないレベルであった。
(発明例5)
発明例5では、発明例1に比べ鋳造速度が大きくした。さらに、本実施形態の範囲内で電磁撹拌強度および電磁ブレーキ強度を強くした。発明例5ではスループットが増加しているが、電磁撹拌強度および電磁ブレーキ強度を高めることにより湯面変動および温度変動は抑制されており、表面割れは見られなかった。
(発明例6)
発明例6では、発明例1に比べ鋳造速度と鋳片幅を大きくした。さらに、本実施形態の範囲内で電磁撹拌強度および電磁ブレーキ強度を強くした。発明例6では、スループットが増加しているが、発明例5と同様に電磁撹拌強度および電磁ブレーキ強度が高くなっているので、湯面変動および温度変動は抑制されており、表面割れは見られなかった。
(発明例7)
発明例7では、発明例1に比べ鋳造速度をさらに大きくした。発明例7では、スループットが大きく増加しているため吐出流による湯面変動の影響がやや出ているが、表面割れは軽微で圧延には影響のないレベルであった。
(発明例8)
発明例8では、発明例1に比べ鋳片幅を大きく、鋳造速度をさらに大きくした。発明例8では、スループットが大きく増加しているため発明例7と同様に吐出流による湯面変動の影響で軽微な割れが見られたが、圧延には影響ないレベルであった。
(比較例1)
比較例1では、電磁撹拌装置150のみを鋳型に設置した。つまり、電磁ブレーキ装置160を鋳型に設置しなかった。比較例1では、吐出流による湯面変動が大きくなり割れが多数発生した。
(比較例2)
比較例2では、電磁撹拌装置150と電磁ブレーキ装置160を鋳型110に設置した。ただし、電磁ブレーキコア162を両面で1対とした。つまり、各長辺面に単極の電磁ブレーキコア162を設置した。比較例2では、幅方向中央部分での磁場が大きいため、吐出流が過度に制動され幅方向中央での上昇流が形成された結果、湯面変動が大きくなり割れが発生した。
(比較例3)
比較例3では、電磁撹拌装置150と電磁ブレーキ装置160を鋳型に設置した。ただし、電磁撹拌強度を本実施形態の範囲未満の0.04Tとした。このため、撹拌力が不十分で、温度変動の抑制が十分でなかったため割れが発生した。
(比較例4)
比較例4では、電磁撹拌装置150と電磁ブレーキ装置160を鋳型に設置し、電磁撹拌強度を本実施形態の範囲内の値とした。ただし、電磁ブレーキ強度を本実施形態の範囲より小さい0.08Tとした。比較例4では、電磁ブレーキ強度が本実施形態の範囲より小さいため、吐出流の制動が不十分で、湯面変動による表面割れが多数発生した。
(比較例5)
比較例5では、電磁撹拌強度を本実施形態の範囲より大きい0.3Tとした。比較例5では、撹拌流が強すぎて湯面変動が大きくなった結果、割れが多数発生した。
(比較例6)
比較例6では、電磁撹拌強度を0.25Tと比較例5に比べ低下させたが、依然本実施形態の範囲より大きい。このため、撹拌流がやや強く湯面変動による表面割れが発生した。
(比較例7)
比較例7では、電磁ブレーキ強度を本実施形態の範囲より大きい0.5Tとした。比較例7では、比較例2と同様に吐出流が過度に制動され、幅方向中央での上昇流が形成された結果、湯面変動が大きくなり割れが発生した。
結果を表4にまとめて示す。発明例1~8では鋳造の品質が良好となったが、比較例1~7では鋳造の品質に問題が見受けられた。
(4.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。