JP2015026548A - 過充電防止剤及びこれを含む電解液、並びにリチウムイオン二次電池 - Google Patents

過充電防止剤及びこれを含む電解液、並びにリチウムイオン二次電池 Download PDF

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是史 久保田
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Abstract

【課題】過充電の際の電流遮断に至るまでの時間を短くして、電池の熱暴走を抑制し、過充電時の電池の安全性を高め得る過充電防止剤を提供する。【解決手段】一般式(1)で表される化合物を含む過充電防止剤である。Mn+([B(CN)4-mYm]-)n(1)(式中、Mn+はH+、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、Yは、有機基を表し、mは0〜3の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。)【選択図】図1

Description

本発明は非水二次電池に用いられる過充電防止剤に関し、より詳しくは、過充電状態において電流遮断効果を発揮する過充電防止剤及びこれを含む電解液、並びにリチウムイオン二次電池に関する。
携帯電話、パーソナルコンピューター用の電源、さらには自動車用電源等として、リチウムイオン二次電池等の電池が用いられている。また、斯かる用途に使用される電池では、安全性の確保、サイクル特性の改善等の各種特性の向上を目的とした研究が重ねられている。
特に、リチウムイオン二次電池においては、過充電が行われた場合、正極から過剰なリチウムが放出されると同時に、負極においてリチウムが過度に析出し、デンドライトが生じる。このため、正・負極の両極が化学的に不安定となると共に、非水電解液中のカーボネート類に作用して溶媒が分解し、急激な発熱反応が起きる。その結果生じるガスによって電池が異常に膨張したり、電池の熱暴走が止まらなくなって、電池が破裂や発火してしまうという問題があるため、過充電を防止して、電池の安全性を高めることが必要である。
電池の安全性を高める技術としては、電解液に添加した化合物(過充電防止剤)の電解重合により電極に被膜(抵抗膜)を形成させて、過充電時の発熱による電池の温度上昇や電池膨れを抑制する技術がある。例えば特許文献1には、過充電により電解液が高温状態になると、重合して内部抵抗を高めて電流を遮断することのできる過充電防止剤として、3−クロロ−チオフェン等の芳香族化合物を利用することが開示されている。また、特許文献2には、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族化合物を過充電防止剤として使用する技術が開示されている。
しかしながら、重合反応により電極に被膜を形成させる場合には重合熱が発生する。電池内部で発生した熱は、電池構成部材の熱分解、さらには、電池の熱暴走を生じさせる虞がある。また、従来の過充電防止剤は定格充電電圧に近い電圧で重合するため、定格充電電圧以下での使用でも若干重合反応が進行し、セパレータの細孔を塞ぐことにより、内部抵抗が上昇して、電池性能の低下を招くことがあった。また、特許文献2の過充電防止剤は、電流遮断に至るまでの時間が長く、過充電防止効果が不充分であり、さらなる改善が求められていた。
特開平9−106835号公報 特開2005−259680号公報
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、過充電の際の電流遮断に至るまでの時間を短くして、電池の熱暴走を抑制し、過充電時の電池の安全性を高め得る過充電防止剤を提供することにある。
上記目的を達成し得た本発明の過充電防止剤とは、下記一般式(1)で表される化合物を含むところに特徴を有する。
n+([B(CN)4-mm-n (1)
(式中、Mn+はH+、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、Yは、有機基を表し、mは0〜3の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。)
上記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
(式中、Mn+、nは、上記一般式(1)と同じ意味であり、Y’はH、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R14、−S(O)l14、−Z(R142又は−XR14を表し、R14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表し、pは0〜10の整数を表す。)
より具体的には、上記一般式(2)で表される化合物が、ジシアノオキサラトボレート塩であることが好ましい。
また、本発明の電解液とは、上記一般式(1)で表される化合物を含有する過充電防止剤を含むところに特徴を有している。さらに、本発明には、上記電解液を備えたリチウムイオン二次電池も含まれる。
本発明の過充電防止剤は電流遮断に至るまでの時間が短いため、電池の熱暴走が抑制される。また、本発明の過充電防止剤の分解が始まると、過充電防止剤が優先的に分解され、その結果、溶媒の分解が抑制されるため、ガスの発生等による電池の膨張も抑制される。したがって、本発明の過充電防止剤によれば、電池特性が良好で過充電時の安全性が一層高められた電池が期待される。
図1は、過充電試験の結果を示す図である。
1.過充電防止剤
本発明の過充電防止剤とは、下記一般式(1)で表される化合物(以下、シアノボレート化合物(1)、あるいは単に化合物(1)と称する場合がある)を含むところに特徴を有している。
n+([B(CN)4-mm-n (1)
(式中、Mn+はH+、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、Yは、有機基を表し、mは0〜3の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。)
本発明者等は、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの機能や安全性を高めるべく研究を重ねる中で、驚くべきことに、電解質塩として用いられる上記一般式(1)で表されるシアノボレート化合物が、過充電状態において電流遮断効果を有することを見出して、本発明を完成した。
シアノボレート化合物(1)はある電圧を超えると分解する。そして、このとき生成した分解生成物が正極および/または負極と反応することで、正極表面および/または負極表面に不動態被膜が形成され、これにより電池が抵抗体となり電流が遮断される。また、シアノボレート化合物(1)の分解開始後は、シアノボレート化合物(1)が優先的に分解されるため、電解液に含まれる溶媒の分解が抑制される。したがって、電池が本発明の過充電防止剤を含む場合には、電池が過充電状態となっても溶媒の分解によるガスの発生や、電池の膨張及び破裂が抑制される。
なお、従来の過充電防止剤は、現状の定格充電電圧(4.4V)付近で重合し電池が抵抗体になる。したがって、通常の使用状態においても重合物が生成し、電池の抵抗が上昇するため、徐々に電池性能が劣化する。これに対して、本発明のシアノボレート化合物(1)は分解電圧が高く、定格充電電圧では重合物の生成による電池性能の劣化低下が生じ難い点で、従来の過充電防止剤に比べて優れている。また、本発明のシアノボレート化合物(1)は、電流が遮断されるまでの時間が、従来のシクロヘキシルベンゼンといった過充電防止剤に比べて、極めて短いため、電池の熱暴走を抑制する効果が高い。さらに、分解や被膜形成時に発熱を伴わない点でも、分解、重合時に発熱する従来の過充電防止剤に比べて優れている。したがって、本発明の過充電防止剤を電池部材で公知の他の安全機構と組み合わせれば、電池の安全性を一層高めることができる。
本発明の過充電防止剤の使用方法は特に限定されない。例えば、電解質塩や添加剤等の電解液を構成する成分と共に溶媒に溶解又は分散させて用いればよい。
1−1.シアノボレート化合物(1)
本発明に係る電流遮断効果は、上記シアノボレート化合物(1)に由来する。シアノボレート化合物(1)は、Mn+で示されるカチオンと、シアノ基がホウ素に結合したシアノボレートアニオンとからなる。
1−1−1.カチオン;Mn+
式(1)中、Mn+はH+、有機カチオンまたは無機カチオンを示す。
本発明に係る化合物を構成する有機カチオンMn+としては、一般式(3):L+−RS(式中、Lは、C、Si、N、P、S又はOを表し、Rは、同一若しくは異なる有機基であり、互いに結合していてもよい。sはLに結合するRの数を表し、3または4である。なお、sは、元素Lの価数およびLに直接結合する二重結合の数によって決まる値である)で表されるオニウムカチオンが好適である。
上記Rで示される「有機基」としては、水素原子、フッ素原子、または、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。上記「炭素原子を少なくとも1個有する基」は、炭素原子を少なくとも1個有してさえいればよく、また、ハロゲン原子やヘテロ原子等の他の原子や、置換基などを有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル結合を有する基、チオエーテル結合を有する基、エステル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、ジスルフィド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホニル基などが挙げられる。
一般式(3)で表されるオニウムカチオンとしては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
(式中のRは、一般式(3)と同様)
上記一般式で表される6つのオニウムカチオンの中でも、LがN,P,SまたはOであるものがより好ましく、さらに好ましいのはLがNのオニウムカチオンである。上記オニウムカチオンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。具体的に、LがNであるオニウムカチオンとしては、下記一般式(4)〜(6)で表されるものが好ましいオニウムカチオンとして挙げられる。
一般式(4):

で表される10種類の複素環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
上記有機基R1〜R8は、一般式(3)で例示した有機基Rと同様のものが挙げられる。より詳しくは、R1〜R8は、水素原子、フッ素原子、または、有機基であり、有機基としては、直鎖、分岐鎖または環状(但し、R1〜R8が互いに結合して環を形成しているものを除く)の炭素数1〜18の炭化水素基、あるいは炭化フッ素基であるのが好ましく、より好ましいものは炭素数1〜8の炭化水素基、炭化フッ素基である。また、有機基は、上記一般式(3)に関して例示した置換基や、N、O、Sなどのヘテロ原子及びハロゲン原子を含んでいてもよい。
一般式(5):
(式中、R1〜R12は、一般式(4)のR1〜R8と同様)
で表される3種類の飽和環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
一般式(6):
(式中、R1〜R4は、一般式(4)のR1〜R8と同様)
で表される鎖状オニウムカチオン。
例えば、一般式(6)で表される鎖状オニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、メトキシエチルジエチルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジアリルジメチルアンモニウム、2−メトキシエトキシメチルトリメチルアンモニウムおよびテトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウム、N−メトキシトリメチルアンモニウム、N−エトキシトリメチルアンモニウム、N−プロポキシトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム類、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、オクチルアンモニウム等の第1級アンモニウム類、およびNH4で表されるアンモニウム化合物等が挙げられる。
上記一般式(4)〜(6)のオニウムカチオンの中でも、さらに好ましいものとしては、下記一般式;
(式中、R1〜R12は、一般式(4)のR1〜R8と同様である。)
で表される6種類のオニウムカチオンの少なくとも1種が挙げられる。
上記6種類のオニウムカチオンの中でも、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムおよびトリエチルメチルアンモニウム等の鎖状第4級アンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウムおよびジメチルエチルアンモニウム等の鎖状第3級アンモニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムおよび1,2,3−トリメチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム、N,N−ジメチルピロリジニウムおよびN−エチル−N−メチルピロリジニウム等のピロリジニウムは入手容易であるためより好ましい。さらに好ましいものとしては、第4級アンモニウム、イミダゾリウムが挙げられる。なお、耐還元性の観点からは、上記鎖状オニウムカチオンに分類されるテトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムおよびトリエチルメチルアンモニウムなどの第4級アンモニウムがさらに好ましい。
無機カチオンMn+としては、Li+、Na+、K+、Cs+、Pb+等の1価の無機カチオンM1+;Mg2+、Ca2+、Zn2+、Pd2+、Sn2+、Hg2+、Rh2+、Cu2+、Be2+、Sr2+、Ba2+等の2価の無機カチオンM2+;および、Ga3+等の3価の無機カチオンM3+が挙げられる。これらの中でも、Li+、Na+、Mg2+およびCa2+はイオン半径が小さく電池等に利用し易いため好ましく、より好ましい無機カチオンMn+はLi+である。
1−1−2.シアノボレートアニオン
シアノボレートアニオンは、ホウ素に、シアノ基:−CNと、−Yとが結合した一般式(1):[B(CN)4-mm-で表される。一般式(1)において、mは0〜3の整数であるので、化合物(1)に係るシアノボレートアニオンには、テトラシアノボレートアニオン(m=0):[B(CN)4Y]-;トリシアノボレートアニオン(m=1):[B(CN)3Y]-;ジシアノボレートアニオン(m=2):[B(CN)22-;モノシアノボレートアニオン(m=3):[B(CN)Y3-;のシアノボレートアニオン類が含まれる。なお、mが2又は3である場合、2以上のYは同一でも異なってもよく、また、2以上のYが互いに結合してB原子を含む環状構造を形成していてもよい。環状構造を有するシアノボレートアニオンとしては、後述する化合物(2)に係るアニオンが挙げられる。
Yは有機基であり、水素原子、フッ素原子、または、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。上記「炭素原子を少なくとも1個有する基」は、炭素原子を少なくとも1個有してさえいればよく、また、ハロゲン原子やヘテロ原子等の他の原子や、置換基などを有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル結合を有する基、チオエーテル結合を有する基、エステル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、ジスルフィド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホニル基などが挙げられる。
より具体的には、Yは、H、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R14、−S(O)l14、−Z(R142又は−XR14であることが好ましく、R14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表す。
上記シアノボレート化合物(1)におけるYがハロゲンである場合、Yとしては、F、Cl、BrまたはIが挙げられる。ハロゲンの中でも、F(フッ素)がホウ素原子との親和性が高くB−F結合が安定なため、好ましい。
上記置換基Yが主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基の場合は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、メチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基等の炭素数1〜10のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、シクロヘキシルエチニル基、フェニルエチニル基等の炭素数1〜10のアルキニル基;フェニル基、ベンジル基、チエニル基、ピリジル基、イミダゾリル基等の炭素数6〜10のアリール基またはヘテロ原子含有アリール基;が挙げられる。
主鎖の炭素数が1〜10のハロゲン化炭化水素基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロクロロメチル基、フルオロジクロロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、フルオロクロロエチル基、クロロエチル基、フルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、フルオロクロロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、ペンタフルオロフェニル基、パークロロフェニル基、フルオロメチレン基、フルオロエチレン基、フルオロシクロヘキセン基等、上記炭化水素基の水素原子の一部または全てがハロゲン(F、Cl、BrまたはI)で置換されたハロゲン化アルキル基またはハロゲン化アリール基等が挙げられる。
上記ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基Yは、置換基(たとえば、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等)を有していてもよい。また、Si、B、O、N、Al等のヘテロ原子を含む官能基を有していてもよい。ヘテロ原子を含む官能基としては、例えば、シアノ基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメトキシアルミニウム基、−CH2CH2B(CN)3、−C36B(CN)3等が挙げられる。置換基Yにシアノ基等電気求引性置換基を含む場合はシアノボレート化合物(1)の耐電圧が高くなるため、好ましい。
上記の通り、Yがハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基である場合、シアノボレート化合物(1)の有機溶媒への溶解性が向上するため、過充電防止剤として用いる際に高性能な電解液とすることが可能となり、好ましい。
上記−C(O)R14、−S(O)l14、−Z(R142および−XR14中、R14は、H、ハロゲン、または、主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表す。ハロゲンとしては、F、Cl、Br、または、I等が好ましい。上記有機置換基は、直鎖状、分岐鎖状、環状の何れであってもよく、これらの内2以上の構造を併せ持っていてもよく、また、置換基を有していてもよい。さらに、有機置換基R14は不飽和結合を含んでいてもよい。有機置換基R14の主鎖の原子数は上述の通りであるが、有機置換基R14に含まれる炭素の数(置換基を含む)は1〜20の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜10の範囲である。有機置換基R14には、炭素および水素以外のヘテロ原子(O、N、Si等)やハロゲン原子(F、Cl、Br等)が含まれていてもよく、その数や位置にも特に制限は無い。従って、例えば、一般式(1)中のYについて、Yが−XR14の場合、Xに隣接する原子の種類は、特に炭素に限定されるものではなく、例えばSiやAl等のヘテロ原子であってもよい。また、有機置換基R14は、炭素以外の原子のみから構成されるものであってもよい。
具体的な有機置換基R14としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基、シアノ化炭化水素基、アルコキシ化およびまたはアリールオキシ化炭化水素基、アルカノイル基を含む有機置換基、エステル結合を有する有機置換基、含窒素有機置換基、チオアルコキシ構造を有する基、スルフィニル基を有する有機置換基、スルホニル基を有する有機置換基、ヘテロ原子を有する有機置換基、−CH2CH2OB(CN)3、−C36OB(CN)3;等を挙げることができる。上記有機置換基R14は、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せを含んでいてもよい。
上記Yが−C(O)R14で表される場合は、R14が、飽和または不飽和の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基、アルコキシ化またはアリールオキシ化炭化水素基、または、含窒素有機置換基であるのが好ましく、R14が、メチル基、エチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基であるものがより好ましい。従って、置換基Yとしては、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソブタノイル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基(−COCOCH3)、メチルマロニル基(−COCH2COCH3)、メチルスクシニル基(−COCH2CH2COCH3)等の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せを含むアルカノイル基を含む有機置換基、アセトキシメチルカルボニル基、アセトキシエチルカルボニル基、ベンゾイルオキシエチルカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、メトキシエチレンオキシカルボニル基等の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せを含むエステル結合を有する有機置換基;アミド基、N−アルキルアミド基、N−フェニルアミド基等の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せを含む含窒素有機置換基が挙げられる。
Yが−S(O)l14で表される場合は、R14が、ハロゲン、または、飽和または不飽和の炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基であるものが好ましく、より好ましくはハロゲン、ハロゲン化炭化水素基である。具体的には、−S(O)l14としては、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、ペンタフルオロエチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ペンタフルオロフェニルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等のスルフィニル基(l=1)、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロエチルスルホニル基、トリルスルホニル基、フェニルスルホニル基、ペンタフルオロフェニルスルホニル基等のスルホニル基(l=2)がより好ましいものとして挙げられる。
−C(O)R14や−S(O)l14は、シアノ基同様電子求引性の置換基であり、中心元素に帯電した負電荷を非局在化させる。そのため通常の電圧で使用しているときの耐電圧の向上が期待できる。
上記Yが−Z(R142で表される場合は、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基等のZがNであるアミノ基;ジフェニルホスフィノ基、ジシクロヘキシルホスフィノ基等のZがPであるホスフィノ基;が挙げられる。
上記Yが−XR14で表される場合は、XがOであって、R14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基)である基;XがOであって、R14がアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等)である基;XがOであって、R14が1価の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せから選択されるアルカノイル基(例えば、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソプロパノイル基、イソブタノイル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基等)である基;XがOであって、R14がスルフィニル基(例えば、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等)、または、スルホニル基(フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、トリルスルホニル基等)である基;XがSであって、R14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である基(例えば、メチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基等);等が挙げられる。なお、Xは、OまたはSであるが、原料の入手のしやすさ、コストの面から、XはOであることが好ましい。
シアノボレート化合物(1)に−Z(R142や−XR14を導入すると、高耐電圧はもちろん、溶媒への溶解性に優れた塩となり、添加する電解液の選択の幅が広がる。この場合、R14に電子吸引性の置換基が含まれていると、シアノボレートアニオンの耐電圧性が上がり、添加する電解液の耐電圧性も増すため好ましい。具体的には、R14にアルカノイル基、スルフィニル基、スルホニル基が含まれていることが好ましい。同様に、R14はフッ素、または、フルオロアルキル基等フッ素を含む基であることも好ましい。
これらの置換基Yの中でも、シアノ基、ハロゲン、−XR14が特に好ましい。
1−1−3.シアノボレート化合物(1)の具体例
上記化合物(1)に含まれるものとして一例を示せば、アンモニウムテトラシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラシアノボレート、フェニルジメチルアンモニウムテトラシアノボレート、テトラエチルアンモニウムテトラシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、p−メチルブチルピリジニウムテトラシアノボレート、トリチルテトラシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノフルオロボレート、p−メチルブチルピリジニウムトリシアノフルオロボレート、テトラメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、テトラエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、テトラブチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、N−ブチル−N−メチルピロリジニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノイソプロポキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノブトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノフェノキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメチルチオボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメトキシボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメチルボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメチルボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−n−ブチルトリシアノボレート、トリメチルスルホニウムメチルトリシアノボレート、メチルジフェニルスルホニウムメチルトリシアノボレート、トリフェニルスルホニウムメチルトリシアノボレート、ジフェニルアイオドニウムメチルトリシアノボレート、2,4,6−トリフェニルピリリウムメチルトリシアノボレート、トリフェニルカーベニウムメチルトリシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビニルトリシアノボレート、ブチルメチルピロリジニウムトリシアノメチルボレート、テトラブチルアンモニウムトリシアノメチルボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウトリシアノハイドライドボレート、1−ブチル−3−メチルピロリジウムトリシアノハイドライドボレート、N,N,N−トリ−n−ブチル−N−メチルアンモニウムトリシアノハイドライドボレート、テトラ−N−ブチルホスホニウムトリシアノハイドライドボレート、トリエチルスルホニウムトリシアノハイドライドボレート、テトラブチルフォスフォニウムトリシアノメトキシボレート、テトラエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、N−n−ブチル−2−ピコリニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリブチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノジメトキシボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノジフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノジフルオロボレート、p−メチルブチルピリジニウムジシアノジフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノメトキシメチルボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロモメチルメトキシジシアノボレート、テトラフェニルホスホニウムブロモメチルエトキシジシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノエトキシメチルボレート、テトラブチルアンモニウムジシアノエトキシメチルボレート、N−ブチル−N−メチルピロリジウムジシアノエトキシメチルボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアノメチルジシアノメトキシボレート、1−エチル−3−メチルジハイドライドジシアノメトキシボレート、トリエチルスルホニウムジハイドライドジシアノボレート、テトラフェニルフォスホニウムジエチルジシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビニルジシアノイソシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチルジシアノフルオロボレート、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムメチルジシアノフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアノメチルジシアノフルオロボレート、1−ブチル−1−メチルイミダゾリウムジエチルジシアノボレート、N−ブチル−N−メチルピリジニウムジエチルジシアノボレート、N−ブチルピリジニウムジエチルジシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムシアノトリメトキシボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアノトリフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムシアノトリフルオロボレート、トリメチルプロピルアンモニウムシアノトリフルオロボレート、トリチルシアノトリス(トリフルオロメチル)ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアノメチルシアノジフルオロボレート等の有機カチオンの塩;リチウムテトラシアノボレート、カリウムテトラシアノボレート、ナトリウムテトラシアノボレート、リチウムトリシアノメトキシボレート、カリウムトリシアノメトキシボレート、カリウムメチルトリシアノボレート、ナトリウムトリシアノメトキシボレート、ナトリウムトリシアノエトキシボレート、ナトリウムトリシアノ(トリフルオロエトキシ)ボレート、ナトリウムジシアノビス(トリフルオロエトキシ)ボレート、マグネシウムビス(トリシアノメトキシボレート)、リチウムトリシアノイソプロポキシボレート、リチウムトリシアノブトキシボレート、リチウムトリシアノフェノキシボレート、リチウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、リチウムトリシアノメチルチオボレート、リチウムジシアノジメトキシボレート、ナトリウムジシアノジメトキシボレート、リチウムシアノトリメトキシボレート、カリウムジシアノジフルオロボレート、カリウムブロモメチルメトキシジシアノボレート、カリウムブロモメチルエトキシジシアノボレート、カリウムメトキシメチルジシアノメトキシボレート、カリウムシアノメチルジシアノメトキシボレート、カリウムメチルジシアノフルオロボレート、カリウムメチルジシアノイソシアノボレート、カリウム−n−ブチルジシアノイソシアノボレート、カリウム−n−ブチルトリシアノボレート、カリウムアリルトリシアノボレート、カリウムシアノメチルジシアノフルオロボレート、カリウムジエチルジシアノボレート、カリウムシアノトリス(トリフルロメチル)ボレート等の無機カチオンの塩;が挙げられる。これらの中でも、トリエチルメチルアンモニウムテトラシアノボレート、リチウムテトラシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、リチウムトリシアノメトキシボレート、リチウムトリシアノフェノキシボレート等が好ましい。
1−2.シアノボレート化合物(2)
本発明では、化合物(1)のうち、特に下記一般式(2)で表される化合物(シアノボレート化合物(2))が過充電防止剤として好ましいものとして挙げられる。
(式中、Mn+、nは、上記一般式(1)と同じ意味であり、Y’はH、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R14、−S(O)l14、−Z(R142又は−XR14を表し、R14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表し、pは0〜10の整数を表す。)
上記シアノボレート化合物(2)は、この化合物(2)を構成するシアノボレートアニオンが、ホウ素に結合する置換基のうち、2つがエステル結合であり、たがいに結合して環状となっている点に特徴を有する。すなわち、シアノボレート化合物(2)は、ホウ素にシアノ基と、エステル結合、置換基Y’が結合した構造を有している。この置換基Y’を適宜選択することで有機溶媒への溶解性が向上することが予想され、電解液の選択の幅が広がるというメリットを有する。また、ホウ素に結合したエステル結合が適度に分解するため、電流遮断に至るまでの時間を短縮化できたものと考えられる。さらに、通常電圧での使用段階では、リチウムイオン二次電池の電極表面に被膜を形成し、溶媒や支持塩(電解質)等の分解を抑制し、支持塩の性能を損なうことなく安定した容量維持作用(高サイクル特性、保存容量維持)を発揮することができる。
1−2−1.シアノボレート化合物(2)のカチオン
シアノボレート化合物(2)のカチオンは、シアノボレート化合物(1)で例示したカチオンがいずれも採用可能である。
1−2−2.シアノボレート化合物(2)のアニオン
シアノボレート化合物(2)のアニオンは、下記一般式(2)のアニオン部分である。
(式中、Mn+、nは、上記一般式(1)と同じ意味であり、Y’はH、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R14、−S(O)l14、−Z(R142又は−XR14を表し、R14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表し、pは0〜10の整数を表す。)
このpは、ホウ素に結合する2つのエステル結合を互いに結合させている直接結合またはメチレン基の炭素数を示す。pは、好ましくは0〜4であり、より好ましくは0〜2である。
従って、本発明のシアノボレート化合物(2)のアニオンとしては、シアノオキサラトボレート(p=0)、シアノマロナトボレート(p=1)、シアノスクシナトボレート(p=2)、シアノグルタラトボレート(p=3)、シアノアジポラトボオレート(p=4)等が挙げられる。
上記シアノボレート化合物(2)におけるY’は、上記シアノボレート化合物(1)のYと同じ基が好ましいものとして挙げられる。上記置換基Yの中でも、シアノ基、ハロゲン、XR14、主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、主鎖の炭素数が1〜10のハロゲン化炭化水素基が特に好ましい。より好ましくは、シアノ基、ハロゲン、XR14であり、XR14の中でも、XがOであって、R14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基)である基;XがOであって、R14が1価の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せから選択されるアルカノイル基(例えば、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソプロパノイル基、イソブタノイル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基)である基;XがOであって、R14がスルホニル基(フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、トリルスルホニル基等)である基;であることが好ましい。
また、本発明のシアノボレート化合物(2)のアニオンとしては、下記一般式(8−1)、(8−2)で表されるシアノボレートアニオン類等であってもよい。
(一般式(8−1)、(8−2)中、XはOであり、pは0〜10の整数を表す。好ましくは、pは0〜4であり、0〜1であるのがより好ましい。)
シアノボレート化合物(2)に係るより具体的なアニオンとしては、下記式(2−1)〜(2−14)で表されるものが挙げられる(pは0〜2の整数であるのが好ましく、0または1がより好ましく、0がさらに好ましい)。好ましいアニオンとしては(2−1),(2−2),(2−3),(2−4),(2−7),(2−9)および(2−10)が挙げられる。
1−2−3.シアノボレート化合物(2)の具体例
本発明に係る化合物(2)には、上記カチオンとアニオンの組合せからなるものが全て含まれる。具体的な化合物(2)としては、トリエチルメチルアンモニウムシアノフルオロオキサラトボレート、トリエチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート、トリブチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート、トリエチルアンモニウムジシアノマロナトボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノオキサラトボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノスクシナトボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート(トリエチルメチルアンモニウムジシアノオキサリルボレート)、トリエチルメチルアンモニウムメチルシアノオキサラトボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリフルオロメチルシアノオキサラトボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアノフェニルマロナトボレート等の有機カチオンの塩;リチウムシアノフェニルオキサラトボレート、ナトリウムジシアノオキサラトボレート、マグネシウムビス(ジシアノオキサラトボレート)、リチウムトリフルオロメチルシアノスクシナトボレート、リチウムシアノフェニルオキサラトエトキシボレート、リチウムシアノペンタフルオロフェノキシオキサラトブトキシボレート、リチウムトリフルオロメトキシシアノマロナトボレート、リチウムシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)スクシナトボレート、リチウムシアノ(アセトキシ)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリフルオロアセトキシ)マロナトボレート、リチウムシアノ((メトキシカルボニル)オキソ)オキサラトボレート、リチウムシアノ(フルオロスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリフルオロメタンスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(メタンスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(p−トルエンスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(フルオロスルホニル)オキサラトボレート、リチウムシアノ(アセチル)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリフルオロアセチル)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリメチルシロキシ)オキサラトボレート、リチウムジシアノオキサラトボレート(リチウムジシアノオキサリルボレート)、リチウムシアノフルオロオキサラトボレート(リチウムシアノフルオロオキサリルボレート)等の無機カチオンの塩;が挙げられる。
1−3.過充電防止剤の使用条件
化合物(1)、特に化合物(2)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、化合物(1)、特に化合物(2)は、市販品を使用してもよいし、適宜合成した物を用いてもよい。なお、以下の説明では、便宜上、化合物(2)に含まれる化合物を化合物(2)とし、化合物(2)以外で化合物(1)に含まれる化合物を化合物(1)とする。
本発明の過充電防止剤に含まれる化合物(1)や化合物(2)の量は特に限定されない。なお、過充電防止剤に後述するその他の成分が含まれる場合には、より高い過充電防止効果を得る観点から、化合物(1)や化合物(2)の量は、過充電防止剤(化合物(1)、(2)とその他の成分の合計)100質量部に対して10質量部以上とするのが好ましく、より好ましくは15質量部以上であり、さらに好ましくは20質量部以上であり、99.99質量部以下であるのが好ましく、より好ましくは99.90質量部以下であり、さらに好ましくは99.00質量部以下である。化合物(1)と(2)の量は多いほど、過充電になった際の電流遮断に至るまでの時間を短縮化することができる。化合物(1)や(2)は、定格充電電圧内における使用では電解質塩としても機能するものの、化合物(1)や(2)の量が多すぎると、電解液の粘度が上昇して、イオン伝導度が低下し、放電負荷特性が低下する虞があり、一方、少なすぎると、過充電の際の電流遮断までの時間が長くなり、電池の安全性が低下する虞がある。
1−4.シアノボレート化合物(1)及び(2)の製造方法
シアノボレート化合物(1)や(2)は、特定のホウ素化合物と、アルキルシリル化合物、または金属シアニドを反応させることにより製造することができる。なお、上記反応には、必要に応じて、有機または無機カチオンのハロゲン塩を用いてもよい。より具体的には、国際公開2012/099259号の記載に従って製造することができる。
1−5.他の成分
本発明の過充電防止剤は、化合物(1)や(2)以外の成分(他の成分)を含んでいてもよい。
他の成分として用いることのできる過充電防止剤としては、シクロヘキシルベンゼン、イソプロピルベンゼン、t−ブチルベンゼン、オクチルベンゼン、トルエン、キシレン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、クロロベンゼン、アニソール、フルオロアニソール、ジメトキシベンゼン、ジエトキシベンゼン、ジブチルテレフタレート、ジ2−エチルヘキシルフタレート、メチルフェニルカーボネート、ブチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネート、プロピオン酸フェニル、ビフェニル等が挙げられる。
本発明の過充電防止剤に他の成分が含まれる場合、その含有量は、化合物(1)と(2)の合計100質量部に対して0.01質量部以上であるのが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは1質量部以上であり、90質量部以下であるのが好ましく、より好ましくは85質量部以下であり、さらに好ましくは80質量部以下である。
2.電解液
本発明の電解液とは、上記一般式(1)、特に、一般式(2)で表される化合物を含有する過充電防止剤を含むところに特徴を有している。
本発明の電解液は、本発明の過充電防止剤を含む限りその他の構成は特に限定されず、公知のリチウムイオン二次電池に備えられている電解液と同様の構成をとることができる。したがって、本発明の電解液には、過充電防止剤以外の他に、電解質塩、溶媒、必要に応じて添加剤等が含まれていてもよい。以下、本発明の電解液について説明する。
2−1.過充電防止剤
本発明の電解液は、化合物(1)、特に化合物(2)を含有する過充電防止剤を含む。過充電防止剤としては化合物(1)、特に化合物(2)を含むものであればよいが、上述した本発明の過充電防止剤を使用するのが好ましい。
化合物(1)、特に化合物(2)の使用方法は、特に限定されないが、例えば、電解液構成材料の一つとして化合物(1)、特に化合物(2)を使用し、従来公知の方法で電解液を調製すれば、化合物(1)、特に化合物(2)を含む電解液が得られる。具体的には、有機溶媒を電解液の媒体とする場合は、化合物(1)、特に化合物(2)を有機溶媒に混合した後、撹拌して均一に溶解させる方法等が挙げられる。一方、ポリマーゲルを媒体とする場合は、非プロトン性溶媒に電解質塩および化合物(1)(又は化合物(2))を溶解させた溶液を、従来公知の方法で成膜したポリマーに滴下して、電解質塩と化合物(1)(又は化合物(2))と非プロトン性溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質塩とを溶融、混合した後、成膜し、ここに非プロトン性溶媒と化合物(1)(又は化合物(2))を含浸させる方法;予め、電解質塩と化合物(1)(又は化合物(2))を有機溶媒に溶解させた電解液にポリマーを溶解させ、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、有機溶媒を揮発させる方法(以上、ゲル電解質);ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質塩および化合物(1)(又は化合物(2))を溶融し、混合して成形する方法(真性ポリマー電解質);等が挙げられる。
また、例えば、電極構成材料の一つとして化合物(1)、特に化合物(2)を使用し、従来公知の方法で電極を製造すれば、化合物(1)、特に化合物(2)を担持した電極が得られる。具体的には、化合物(1)、特に化合物(2)を、後述する電極活物質や、導電助剤、バインダー等の電極材料と混合して、電極材料組成物を調整し、これを集電体に塗工して乾燥する方法(このとき、電極材料組成物の粘度上昇を抑えるために、電極活物質、導電助剤、バインダーを混合した後に、シアノボレート化合物を混合するのが好ましい);化合物(1)、特に化合物(2)を含む電極材料組成物を混練成形し、乾燥して得たシートを、集電体に導電性接着剤を介して接合し、プレス、乾燥する方法:電極材料組成物を集電体に塗工し、乾燥して得たシート状の電極に、化合物(1)、特に化合物(2)を含む溶液を塗布又は噴霧し、乾燥する方法;液状潤滑剤を添加した液状又はスラリー状の電極材料組成物(化合物(1)、特に化合物(2)を含む)を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する方法;等が挙げられる。
過充電防止剤は電解液100質量%中(電解質塩、溶媒及び任意に用いられるその他の成分の合計)、0.01〜10質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.05〜7質量%であり、さらに好ましくは0.1〜4質量%である。過充電防止剤量が多すぎる場合には、電解液濃度の粘度上昇が顕著となってイオン伝導度が低下し、電池性能(放電負荷特性等)が低下する虞がある。一方、過充電防止剤濃度が低すぎる場合には、過充電防止効果が得られ難くなることがある。
なお、過充電防止剤の効果を一層効果的に発揮させる観点からは、電解液に含まれる化合物(1)と(2)の合計濃度が0.001mol/L以上、0.8mol/L以下となる範囲で使用するのが好ましい(より好ましくは0.004mol/L〜0.6mol/L、さらに好ましくは0.01mol/L〜0.35mol/L)。化合物(1)と(2)の濃度が高すぎると、電解液の粘度が上昇し、イオン伝導度が低下する虞があり、一方、化合物(1)と(2)の濃度が低すぎると、化合物(1)と(2)に由来する効果が得られ難くなる場合がある。
2−2.電解質塩
本発明の電解液に含まれる電解質塩は特に限定されず、従来公知の非水電解液に用いられる電解質塩はいずれも使用することができる。電解質塩としては、電解液中での解離定数が大きく、また、後述する非水系溶媒と溶媒和し難いアニオンを有するものが好ましい。例えば、WO2011/049184やWO2011/099259に記載の電解質が使用できる。上記電解質塩の中でも、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が好適である。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましいのはリチウム塩である。非水系溶媒中での溶解性、イオン伝導度の観点からは、LiPF6、LiBF4、LiAsF6が好ましい。
本発明の電解液における電解質塩の濃度は、0.5mol/L以上であるのが好ましく、より好ましくは0.8mol/L以上であり、さらに好ましくは1.0mol/L以上であり、2.0mol/L以下であるのが好ましく、より好ましくは1.8mol/L以下であり、さらに好ましくは1.5mol/L以下である。電解質塩濃度が少なすぎると所望の伝導度が得られ難い場合があり、一方、電解質塩濃度が高すぎると、イオンの移動が阻害される虞がある。
なお、過充電状態になる前においては上記化合物(1)及び(2)も電解質塩として働く。したがって、本発明では、化合物(1)及び(2)と電解質塩との濃度の合計を上記濃度範囲とすることが好ましい。
化合物(1)及び(2)に対する電解質塩の使用量は、化合物(1)及び(2)と全電解質塩との合計100モル%中、17.5モル%〜95モル%とするのが好ましく、より好ましくは25モル%〜90モル%であり、さらに好ましくは30モル%〜90モル%である。
2−3.溶媒
本発明の電解液に用いることのできる溶媒としては、電解質塩及び過充電防止剤を溶解、分散させられるものであれば特に限定されず、非水系溶媒、溶媒に代えて用いられるポリマー、ポリマーゲル等の媒体等、電池に用いられる従来公知の溶媒はいずれも使用でき、WO2011/049184やWO2011/099259に記載の溶媒、媒体が使用できる。
2−4.その他の成分
本発明の電解液は、電池の各種特性の向上を目的とする添加剤を含んでいてもよい。例えば、WO2011/049184やWO2011/099259に記載の添加剤が使用できる。
3.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池とは、正極と負極とを備え、電解液として、本発明の電解液(好ましくは、本発明の過充電防止剤を含む電解液)を備えているところに特徴を有する。より詳細には、上記正極と負極との間にはセパレータが設けられており、本発明の電解液は、上記セパレータに含浸された状態で、正極、負極等と共に外装ケースに収容されている。
本発明に係るリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等、リチウム二次電池の形状として従来公知の形状はいずれも使用することができる。また、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に搭載するための高電圧電源(数10V〜数100V)として使用する場合には、個々の電池を直列に接続して構成される電池モジュールとすることもできる。
本発明のリチウムイオン二次電池を構成する正極、負極、セパレータ、外装部材等に関しては、従来公知の各部材を用いることができ、例えばWO2011/049184やWO2011/099259に記載の各部材を適用することができる。
本発明の過充電防止剤を用いると、後述する実施例で検証したように、一定電流を流し続けた結果、内部電圧が12Vに達して電流が遮断されるまでの時間が、過充電防止剤として公知のシクロヘキシルベンゼンを用いた場合の半分程度になる。
4.用途
本発明の過充電防止剤は、非水電解液に添加されるものであり、本発明の過充電防止剤を用いた本発明の非水電解液は、リチウムイオン二次電池を始めとする各種蓄電デバイスの電解液として使用可能である。蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池の他、燃料電池、溶融塩電池等の充電および放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、太陽電池等が挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
[NMR測定]
Varian社製「Unity Plus」(400MHz)を用いて、1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRスペクトルを測定し、プロトン、カーボン、フッ素のピーク強度に基づいて試料の構造を分析した。11B−NMRスペクトルの測定には、Bruker社製「Advance 400M」(400MHz)を使用した。
なお、NMRスペクトルの測定は、重ジメチルスルホキシドに、濃度が1質量%〜5質量%となるように反応溶液または得られた塩を溶解させた測定試料を、ホウ素元素を含まない酸化アルミニウム製のNMRチューブに入れ、室温(25℃)、積算回数64回で測定した。また、1H−NMRおよび13C−NMRスペクトルの測定では、テトラメチルシランを標準物質とし、19F−NMRスペクトルの測定では、トリフルオロメチルベンゼンを標準物質とし、11B−NMRスペクトルの測定では、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボランを検量用標準物質として定量した。
合成例 リチウムジシアノオキサラトボレート(LiB(CN)2(C24))の合成
LiB(CN)2(OC(O)C(O)O)
構造式を下記式に示す。
攪拌装置を備えた容量200mLの3つ口フラスコに、リチウムジフルオロオキサラトボレート(リチウムジフルオロオキサリルボレート)5.75g(40.0mmol)を加え、フラスコ内を窒素ガスで置換した。ここに、40mLのバレロニトリルを加えた。得られた混合溶液を攪拌しながら、トリメチルシリルシアニド14.9mL(120.1mmol、ホウ素化合物に対して3.0当量)を室温(25℃)で滴下して添加した。その後、オイルバスにより反応溶液を120℃に加熱し、同温度で6時間攪拌を続け、反応させた。
その後、得られた黄色溶液から有機溶媒を減圧留去して濃縮し、シリカゲルカラム精製(カラム溶媒:アセトニトリル・トルエン)を行い、薄黄色固体(リチウムジシアノオキサラトボレート)を得た。(収量:3.14g(19.9mmol)、収率:50%)。11B−NMR(d6−DMSO)δ−6.9(s)
実験例1
<電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、3:7(体積比)で混合した非水溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6、キシダ化学株式会社製、電解質塩)1.0mol/Lを溶解させた。これを電解液Aとする。この電解液Aに、過充電防止剤としてシクロヘキシルベンゼン(CHB)が4質量%となるように溶解させ、電解液Bを調製した。また、電解液Aに上記合成例で得られたLiB(CN)2(C24)を4質量%溶解させ、電解液Cとした。
<ラミネート型リチウムイオン二次電池の製造>
正極活物質(三元系:LiNi1/3Co1/3Mn1/32)、導電助剤A(アセチレンブラック:電気化学工業社製)、導電助剤B(グラファイト;粒度D50=3.2μm、比表面積245m2/g)、及び結着剤(ポリフッ化ビニリデンKF1120;クレハ社製)を、92:2:2:4の質量比で混合し、溶媒(N−メチルピロリドン)に分散させた正極合剤スラリーをアルミニウム箔(正極集電体)上に塗工し、乾燥して、正極シート(2.0mAh/cm2)を作製した。
上記正極シート1枚と市販の負極シート(負極活物質:グラファイト、2.4mAh/cm2)1枚とを対向して積層し、その間に1枚のポリエチレン製セパレータを挟んだ。この積層体を、アルミニウムラミネートフィルム(ポリエチレン樹脂層/アルミニウム層/ポリエチレン樹脂層)2枚で挟み込み、上記非水電解液A、B、Cのそれぞれで中を満たした後、真空状態で密閉し、ラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した(長さ50mm、幅40mm、厚み1mm)。
<電池の評価>
電解液A,B,Cを備えたラミネート型リチウムイオン二次電池それぞれについて、定電流定電圧電源(「PMC−35−2A」、菊水電子工業株式会社製)を使用して、25℃の雰囲気下、2.75V〜12Vまで電流値3C(定電流モード)の条件で過充電試験を行った。過充電状態になるまで充電したときの電圧・電流の変化、過充電前後の電池の厚み、及び過充電後のOCV(開回路電圧)を測定した。なお、OCV測定は、充放電試験装置(「ACD−01」、アスカ電子株式会社製)を使用して実施した。
過充電試験時の充電時間と電圧及び電流との関係を図1に、電解液の組成を表1に、電流遮断時間、過充電試験前後の電池の厚み及び過充電試験後のOCV測定結果を表2に示す。
図1から、どの電池も通電を続けることで抵抗体化が始まっていることがわかるが、本発明例である電解液Cを有する電池は、電流遮断に至るまでの時間が30分程度と短いものであった。荷電防止剤を含まない電解液Aを有する電池や、従来の過充電防止剤であるシクロヘキシルベンゼン(CHB)を添加した電解液Bを有する電池に比べても、有意に電流遮断までの時間が短く、優れた過充電防止効果を発揮することがわかる。
また、表2に示した電池の厚みも、電解液Aを有する電池や電解液Bを有する電池が、過充電試験前後で厚みが3倍程度に膨張したのに比べ、本発明例である電解液Cを有する電池は厚みが試験前後でほとんど変わらず、電解液中の溶媒の分解を抑制して、ガスの発生を防止できたことが確認できた。また、過充電後のOCVの値も本発明例が最も小さく、正極への充電が抑制されていることがわかる。メカニズムは定かではないが、ある電圧以上でシアノボレート化合物が優先的に分解し始め、溶媒の分解を抑えつつ、正極あるいは負極を不働態化し、電池を抵抗体化させて電流を遮断したものと推測される。
本発明の過充電防止剤は、電解液が過充電になったときに、いち早く電流を遮断して、その後の電池の熱暴走を効果的に抑制することができる。本発明の過充電防止剤は、非水電解液に添加されるものであり、本発明の過充電防止剤を用いた本発明の非水電解液は、リチウムイオン二次電池を始めとする各種蓄電デバイスの電解液として使用可能である。蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池の他、燃料電池、溶融塩電池等の充電および放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、太陽電池等が挙げられる。

Claims (5)

  1. 一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする過充電防止剤。
    n+([B(CN)4-mm-n (1)
    (式中、Mn+はH+、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、Yは、有機基を表し、mは0〜3の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。)
  2. 上記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1に記載の過充電防止剤。

    (式中、Mn+、nは、上記一般式(1)と同じ意味であり、Y’はH、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R14、−S(O)l14、−Z(R142又は−XR14を表し、R14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表し、pは0〜10の整数を表す。)
  3. 上記一般式(2)で表される化合物がジシアノオキサラトボレート塩である請求項2に記載の過充電防止剤。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の過充電防止剤を含むことを特徴とする電解液。
  5. 請求項4に記載の電解液を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
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