以下に、本発明の実施形態に係る動力伝達装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[第1実施形態]
図1から図10を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、動力伝達装置に関する。図1は、本発明の第1実施形態の制御に係るフローチャート、図2は、第1実施形態に係る車両のスケルトン図、図3は、第1実施形態に係る車両の入出力関係図、図4は、第1実施形態に係る車両の作動係合表を示す図、図5は、単独モータEVモードに係る共線図、図6は、両モータEVモードに係る共線図、図7は、HV走行モードに係る共線図、図8は、実施形態のモード選択に係るマップを示す図、図9は、第1実施形態の制御に係るタイムチャート、図10は、第1実施形態の所定時間を示す図である。
本実施形態に係る車両100は、図2に示すように、動力源としてエンジン1、第一回転電機MG1および第二回転電機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両100は、外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)車両であってもよい。図2および図3に示すように、車両100は、エンジン1、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジン_ECU70を含んで構成されている。
また、本実施形態に係る動力伝達装置1−1は、エンジン1、第二遊星歯車機構20、第一回転機MG1、クラッチCL1およびブレーキBK1を含んで構成されている。動力伝達装置1−1は、更に、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジン_ECU70を含んで構成されてもよい。本実施形態では、第二遊星歯車機構20が、3つの回転要素を有する差動部として機能する。また、クラッチCL1およびブレーキBK1が、エンジン1のクランク軸を固定可能な固定手段として機能する。また、第一回転機MG1が、クランク軸にトルクを伝達可能に差動部に接続された回転機として機能する。また、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジン_ECU70は制御部として機能する。
機関の一例であるエンジン1は、燃料の燃焼エネルギーをクランク軸(出力軸)の回転運動に変換して出力する。エンジン1のクランク軸は、入力軸2と接続されている。入力軸2は、動力伝達機構の入力軸である。動力伝達機構は、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、差動装置30等を含んで構成されている。入力軸2は、エンジン1のクランク軸と同軸上かつクランク軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第一遊星歯車機構10の第一キャリア14と接続されている。つまり、エンジン1は、第一遊星歯車機構10を介して差動部としての第二遊星歯車機構20の回転要素に連結されている。
本実施形態の第一遊星歯車機構10は、エンジン1の回転を変速して出力可能である。第一遊星歯車機構10は、エンジン1と第二遊星歯車機構20とを接続する。第一遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第一サンギア11、第一ピニオンギア12、第一リングギア13および第一キャリア14を有する。
第一リングギア13は、第一サンギア11と同軸上であってかつ第一サンギア11の径方向外側に配置されている。第一ピニオンギア12は、第一サンギア11と第一リングギア13との間に配置されており、第一サンギア11および第一リングギア13とそれぞれ噛み合っている。第一ピニオンギア12は、第一キャリア14によって回転自在に支持されている。第一キャリア14は、入力軸2と連結されており、入力軸2と一体回転する。従って、第一ピニオンギア12は、入力軸2と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第一キャリア14によって支持されて第一ピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
クラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結可能なクラッチ装置である。本実施形態のクラッチCL1は、摩擦係合式のクラッチ装置である。クラッチCL1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは開放する。完全係合状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結し、第一サンギア11と第一キャリア14とを一体回転させることができる。完全係合状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する。一方、開放状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを切り離し、第一サンギア11と第一キャリア14との相対回転を許容する。つまり、開放状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を許容する。なお、クラッチCL1は、半係合状態に制御可能である。
ブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を規制することができるブレーキ装置である。ブレーキBK1は、第一サンギア11に接続された係合要素と、車体側、例えば動力伝達機構のケースと接続された係合要素とを有する。ブレーキBK1は、クラッチCL1と同様の摩擦係合式のクラッチ装置とすることができる。ブレーキBK1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは開放する。完全係合状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを連結し、第一サンギア11の回転を規制することができる。一方、開放状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを切り離し、第一サンギア11の回転を許容する。なお、ブレーキBK1は、半係合状態に制御可能である。半係合状態のブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を許容する。
クラッチCL1およびブレーキBK1がそれぞれ完全係合すると、入力軸2が固定され、入力軸2は回転不能となる。また、入力軸2と接続されたクランク軸も固定され、回転不能となる。つまり、固定手段としてのクラッチCL1およびブレーキBK1は、完全係合することにより、エンジン1のクランク軸を固定することができる。
本実施形態の第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と駆動輪32とを接続している。第二遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第二サンギア21、第二ピニオンギア22、第二リングギア23および第二キャリア24を有する。第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と同軸上に配置され、第一遊星歯車機構10を挟んでエンジン1と互いに対向している。第二サンギア21、第二リングギア23および第二キャリア24は、差動回転可能な3つの回転要素である。
第二リングギア23は、第二サンギア21と同軸上であってかつ第二サンギア21の径方向外側に配置されている。第二ピニオンギア22は、第二サンギア21と第二リングギア23との間に配置されており、第二サンギア21および第二リングギア23とそれぞれ噛み合っている。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24によって回転自在に支持されている。第二キャリア24は、第一リングギア13と接続されており、第一リングギア13と一体回転する。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第二キャリア24によって支持されて第二ピニオンギア22の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
第二サンギア21には第一回転機MG1の回転軸33が接続されている。第一回転機MG1の回転軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第二サンギア21と一体回転する。第二リングギア23には、カウンタドライブギア25が接続されている。
カウンタドライブギア25は、カウンタドリブンギア26と噛み合っている。カウンタドリブンギア26は、カウンタシャフト27を介してドライブピニオンギア28と接続されている。また、カウンタドリブンギア26には、リダクションギア35が噛み合っている。リダクションギア35は、第二回転機MG2の回転軸34に接続されている。リダクションギア35は、カウンタドリブンギア26よりも小径である。
ドライブピニオンギア28は、差動装置30のデフリングギア29と噛み合っている。差動装置30は、左右の駆動軸31を介して駆動輪32と接続されている。第二回転機MG2は、第二リングギア23と駆動輪32との動力伝達経路に対して接続されている。
第一回転機MG1および第二回転機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、インバータを介してバッテリ3と接続されている。回転機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリ3に蓄電可能である。第一回転機MG1および第二回転機MG2としては、例えば、三相交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
第一回転機MG1は、第二遊星歯車機構20、第一遊星歯車機構10および入力軸2を介してエンジン1のクランク軸に接続されている。すなわち、第一回転機MG1は、クランク軸にトルクを伝達可能に差動部としての第二遊星歯車機構20に接続されている。
図3に示す各ECU50,60,70は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。HV_ECU50は、車両100全体を統合制御する機能を有している。MG_ECU60およびエンジンECU70は、HV_ECU50と電気的に接続されている。
MG_ECU60は、第一回転機MG1および第二回転機MG2を制御することができる。MG_ECU60は、例えば、第一回転機MG1に対して供給する電流値を調節し、第一回転機MG1の出力トルクを制御すること、および第二回転機MG2に対して供給する電流値を調節し、第二回転機MG2の出力トルクを制御することができる。
エンジンECU70は、例えば、エンジン1の電子スロットル弁の開度を制御すること、点火信号を出力してエンジン1の点火制御を行うこと、エンジン1に対する燃料の噴射制御等を行うことができる。
HV_ECU50には、車速センサ、アクセル開度センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、出力軸回転数センサ、バッテリセンサ等が接続されている。これらのセンサにより、HV_ECU50は、車速、アクセル開度、第一回転機MG1の回転数、第二回転機MG2の回転数、動力伝達機構の出力軸の回転数、バッテリ状態SOC等を取得することができる。
HV_ECU50は、取得する情報に基づいて、車両100に対する要求駆動力や要求パワー、要求トルク等を算出することができる。HV_ECU50は、算出した要求値に基づいて、第一回転機MG1の出力トルク(以下、「MG1トルク」とも記載する。)、第二回転機MG2の出力トルク(以下、「MG2トルク」とも記載する。)およびエンジン1の出力トルク(以下、「エンジントルク」とも記載する。)を決定する。HV_ECU50は、MG1トルクの指令値およびMG2トルクの指令値をMG_ECU60に対して出力する。また、HV_ECU50は、エンジントルクの指令値をエンジンECU70に対して出力する。
HV_ECU50は、後述する走行モード等に基づいて、クラッチCL1およびブレーキBK1をそれぞれ制御する。HV_ECU50は、クラッチCL1に対する供給油圧の指令値(PbCL1)およびブレーキBK1に対する供給油圧の指令値(PbBK1)をそれぞれ出力する。図示しない油圧制御装置は、各指令値PbCL1,PbBK1に応じてクラッチCL1およびブレーキBK1に対する供給油圧を制御する。
車両100では、ハイブリッド(HV)走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。HV走行とは、エンジン1を動力源として車両100を走行させる走行モードである。HV走行では、エンジン1に加えて、更に第二回転機MG2を動力源としてもよい。
EV走行は、第一回転機MG1あるいは第二回転機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する走行モードである。EV走行では、エンジン1を停止して走行することが可能である。本実施形態に係る動力伝達装置1−1は、EV走行モードとして、第二回転機MG2を単独の動力源として車両100を走行させる単独モータEVモード(単独駆動EVモード)と、第一回転機MG1および第二回転機MG2を動力源として車両100を走行させる両モータEVモード(両駆動EVモード)を有する。
図4の作動係合表において、クラッチCL1の欄およびブレーキBK1の欄の丸印は、係合を示し、空欄は開放を示す。また、三角印は、クラッチCL1あるいはブレーキBK1のいずれかを係合し、他方を開放することを示す。単独モータEVモードは、例えば、クラッチCL1およびブレーキBK1を共に開放して実行される。図5を含む各共線図において、符号S1,C1,R1は、それぞれ第一サンギア11、第一キャリア14、第一リングギア13を示し、符号S2,C2,R2は、それぞれ第二サンギア21、第二キャリア24、第二リングギア23を示す。
単独モータEVモードでは、クラッチCL1およびブレーキBK1が開放している。ブレーキBK1が開放していることで、第一サンギア11の回転が許容され、クラッチCL1が開放していることで、第一遊星歯車機構10は差動可能である。HV_ECU50は、車両100を前進走行させる場合、MG_ECU60を介して第二回転機MG2に正トルクを出力させて車両100に前進方向の駆動力を発生させる。第二リングギア23は、駆動輪32の回転と連動して正回転する。ここで、正回転とは、車両100の前進時の第二リングギア23の回転方向とする。HV_ECU50は、第一回転機MG1をジェネレータとして作動させて引き摺り損失を低減させる。具体的には、HV_ECU50は、第一回転機MG1にわずかなトルクをかけて発電させ、第一回転機MG1の回転数を0回転とする。これにより、第一回転機MG1の引き摺り損失を低減することができる。また、MG1トルクを0としてもコギングトルクを利用してMG1回転数を0に維持できるときは、MG1トルクを加えないようにしてもよい。あるいは、第一回転機MG1のd軸ロックによってMG1回転数を0としてもよい。
第一リングギア13は、第二キャリア24に連れ回り正回転する。第一遊星歯車機構10では、クラッチCL1およびブレーキBK1が開放されたニュートラルの状態であるため、エンジン1は連れ回されず、第一キャリア14は回転を停止する。よって回生量を大きく取ることが可能である。第一サンギア11は空転して負回転する。
単独モータEVモードでの走行時に、バッテリ3の充電状態がフルとなり、回生エネルギーが取れない場合が発生し得る。この場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合することで、エンジン1を駆動輪32と接続し、エンジンブレーキを駆動輪32に作用させることができる。図4に三角印で示すように、単独モータEVモードでクラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合すると、エンジン1を連れ回し状態とし、第一回転機MG1でエンジン回転数を上げてエンジンブレーキ状態とすることができる。
両モータEVモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1およびブレーキBK1を係合する。図6に示すように、クラッチCL1が係合することで、第一遊星歯車機構10の差動は規制され、ブレーキBK1が係合することで、第一サンギア11の回転が規制される。従って、第一遊星歯車機構10の全回転要素の回転が停止する。出力要素である第一リングギア13の回転が規制されることで、これと接続された第二キャリア24が0回転にロックされる。
HV_ECU50は、第一回転機MG1および第二回転機MG2にそれぞれ走行駆動用のトルクを出力させる。第二キャリア24は、回転が規制されていることで、第一回転機MG1のトルクに対して反力を取り、第一回転機MG1のトルクを第二リングギア23から出力させることができる。第一回転機MG1は、前進時に負トルクを出力して負回転することで、第二リングギア23から正のトルクを出力させることができる。一方、後進時には、第一回転機MG1は、正トルクを出力して正回転することで、第二リングギア23から負のトルクを出力させることができる。
HV走行では、差動部としての第二遊星歯車機構20は差動状態を基本とし、変速部の第一遊星歯車機構10は、ロー/ハイの切り替えがなされる。図7において、一点鎖線は、ロー状態のHV走行モード(以下、「HVローモード」とも記載する。)を示し、実線は、ハイ状態のHV走行モード(以下、「HVハイモード」とも記載する。)を示す。
HVローモード(一点鎖線)では、HV_ECU50は、クラッチCL1を係合し、ブレーキBK1を開放する。クラッチCL1が係合することにより、第一遊星歯車機構10は差動が規制され、各回転要素11,13,14が一体回転する。従って、エンジン1の回転は増速も減速もされず、等速で第一リングギア13から第二キャリア24に伝達される。
一方、HVハイモード(実線)では、HV_ECU50は、クラッチCL1を開放し、ブレーキBK1を係合する。ブレーキBK1が係合することにより、第一サンギア11の回転が規制される。よって、第一遊星歯車機構10は、第一キャリア14に入力されたエンジン1の回転が増速されて第一リングギア13から出力されるオーバドライブ(OD)状態となる。オーバドライブ時の第一遊星歯車機構10の変速比は、例えば、0.7とすることができる。
このように、HV_ECU50は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する状態と、第一遊星歯車機構10の差動を許容する状態とを切り替えて第一遊星歯車機構10を変速させる。動力伝達装置1−1は、第一遊星歯車機構10を含む変速部によってHVハイモードとHVローモードとの切り替えが可能であり、車両100の伝達効率を向上させることができる。また、変速部の後段には、直列に差動部としての第二遊星歯車機構20が接続されている。第一遊星歯車機構10がオーバドライブであるため、第一回転機MG1を大きく高トルク化しなくてもよいという利点がある。
HV_ECU50は、例えば、高車速ではHVハイモードを選択し、中低車速ではHVローモードを選択する。図8は、本実施形態のモード選択に係るマップを示す図である。図8において、横軸は車速、縦軸は要求駆動力を示す。図8に示すように、低車速かつ要求駆動力が小さい低負荷の領域は、モータ走行域(両駆動領域、単駆動領域)である。モータ走行域では、EV走行が優先的に選択される。モータ走行域では、例えば、低負荷時は単独駆動EVモードが選択され、高負荷時は両駆動EVモードが選択される。モータ走行域にあって、充電状態SOCが不足していないとき、即ち回転機MG1,MG2による駆動が可能なときには、エンジン1による駆動よりも回転機MG1,MG2による駆動が優先される。
モータ走行域よりも高車速や高負荷の領域は、エンジン走行域である。なお、エンジン走行域は、更に、直結(ロー)領域とOD(ハイ)領域に分割されてもよい。直結領域は、HVローモードが選択されるエンジン走行域である。OD領域は、HVハイモードが選択されるエンジン走行域である。
本実施形態では、HVハイモードとHVローモードとの切り替えによりエンジン1の回転を変速して出力することで、メカニカルポイントが2つとなり、燃費を向上させることができる。なお、メカニカルポイントは、遊星歯車機構10,20に入力される動力が電気パスを介さずに機械的な伝達によって全てカウンタドライブギア25に伝達される高効率な動作点である。
本実施形態に係る動力伝達装置1−1は、第一遊星歯車機構10がエンジン1の回転を増速して第一リングギア13から出力することができる。従って、動力伝達装置1−1は、第一遊星歯車機構10を備えずに第二キャリア24に対して直接エンジン1が接続されている場合のメカニカルポイントに対して、更にハイギア側にもう一つのメカニカルポイントを有する。つまり、動力伝達装置1−1は、ハイギア側に2つのメカニカルポイントを有する。よって、動力伝達装置1−1は、高速走行時の伝達効率向上による燃費の向上を図ることができるハイブリッドシステムを実現できる。
また、動力伝達装置1−1は、クラッチCL1およびブレーキBK1を係合することで、第二遊星歯車機構20の入力要素の回転を規制することができ、両モータEVモードによる走行を可能とできる。このため、両モータEVモードを実現するために別途クラッチ等を設ける必要がなく、構成が簡素化される。本実施形態のレイアウトでは、第二回転機MG2の減速比を大きく取ることができる。また、FFあるいはRRレイアウトによりコンパクトな配置を実現できる。
(協調変速制御)
HV_ECU50は、HVハイモードとHVローモードとの切り替えを行う場合、第一遊星歯車機構10と第二遊星歯車機構20とを同時に変速させる協調変速制御を実行することができる。HV_ECU50は、協調変速制御において、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20の一方の変速比を増加させ、他方の変速比を減少させる。
HV_ECU50は、HVハイモードからHVローモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をハイギア側に変化させる。これにより、車両100のエンジン1から駆動輪32までの全体での変速比の不連続な変化を抑制または低減し、変速比の変化の度合いを低減することができる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をロー側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
一方、HV_ECU50は、HVローモードからHVハイモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をローギア側に変化させる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をハイ側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
第二遊星歯車機構20の変速比の調節は、例えば、第一回転機MG1の回転数の制御によって行われる。HV_ECU50は、例えば、入力軸2とカウンタドライブギア25との間の変速比を無段階に変化させるように第一回転機MG1を制御する。これにより、遊星歯車機構10,20、第一回転機MG1、クラッチCL1およびブレーキBK1を含む全体、すなわち差動部と変速部を含む変速装置が電気的無段変速機として作動する。差動部と変速部を含む変速装置の変速比幅がワイドであるため、差動部から駆動輪32までの変速比を比較的大きく取れる。また、HV走行モードの高車速走行時の動力循環が低減される。
(エンジン始動制御)
HV_ECU50は、単独モータEVモードからエンジン1を始動する場合、クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合し、エンジン回転数を上昇させて点火を行う。クラッチCL1あるいはブレーキBK1が係合すると、第一リングギア13から第一キャリア14にトルクが伝達され、エンジン1には正トルクが入力される。この正トルクにより、エンジン1が回転を開始し、エンジン回転数が上昇する。本実施形態では、MG1トルクによって、エンジンのクランキングがなされる。このときに、第二回転機MG2は、走行用のトルクに加えて、MG1トルクによってエンジン1を駆動することによる反力トルクに対して、当該反力トルクをキャンセルする反力キャンセルトルクを出力する。HV_ECU50は、エンジン回転数が予め定められた点火回転数以上となると、エンジン1の点火を行ってエンジン1の始動を完了する。
ここで、車両100では、エンジン1を停止するときに、ショックが発生したり、遊星歯車機構10,20で歯打ち音が発生してしまったりすることがある。例えば、HV走行モードから両駆動EVモードに移行する場合など、エンジン1を停止して入力軸2を固定する場合がある。この場合に、エンジン1の振動がおさまる前にクラッチCL1およびブレーキBK1を係合状態として入力軸2を固定してしまうと、ショックが発生したり、第一遊星歯車機構10等で歯打ち音が発生してしまったりする可能性がある。
本実施形態に係る動力伝達装置1−1は、エンジン1を停止するときに第一回転機MG1によってエンジン停止制御を実行し、エンジン1が回転停止状態となった後にクラッチCL1およびブレーキBK1がクランク軸を固定する。ここで、回転停止状態は、例えば、エンジン回転数が0となった状態や、エンジン1のクランク角度の変動幅が所定以下となった状態である。本実施形態の動力伝達装置1−1によれば、クランク軸を固定するときのショックの発生や歯打ち音の発生が抑制される。
図1および図9を参照して、第1実施形態の制御について説明する。図9のタイムチャートには、(a)エンジン回転数、(b)MG1トルク、(c)MG1回転数、(d)MG2トルク、(e)MG2回転数、(f)クラッチCL1の係合油圧、(g)ブレーキBK1の係合油圧、(h)充電状態SOCが示されている。図1の制御フローは、例えば、走行中に所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS10では、HV_ECU50により、エンジン停止するか否かが判定される。ステップS10では、エンジン停止判断が成立しているか否かが判定される。HV_ECU50は、例えば、充電状態SOCに基づいてエンジン1を停止するか否かを判定する。例えば、モータ走行域において充電状態SOCの低下によりHV走行モードが選択されることがある。モータ走行域で実行されるHV走行モードにおいて、充電状態SOCが所定値α以上に回復すると、エンジン停止判断がなされる。図9では、HV走行モードの走行中に充電状態SOCが所定値αまで回復してEV走行への切り替え判断がなされる。ステップS10の判定の結果、エンジン停止すると判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS20に進み、そうでない場合(ステップS10−N)にはステップS90に進む。
ステップS10で肯定判定がなされると、HV_ECU50は、第一回転機MG1によるエンジン停止制御(以下、単に「エンジン停止制御」と称する。)を開始する。エンジン停止制御は、第一回転機MG1のトルク制御および回転数制御によって、エンジン1の回転数を低下させる制御である。図9では、時刻t1にエンジン停止制御が開始される。本実施形態のエンジン停止制御は、エンジン回転数が共振帯に滞留する時間を短くし、エンジン停止時の振動や騒音を抑制する制御である。エンジン停止制御が開始されると、HV_ECU50は、MG_ECU60に対してエンジン停止制御の実行を指令する。MG_ECU60は、エンジン回転数の低下を促進するようにMG1トルクおよびMG1回転数を制御する。
ステップS20では、HV_ECU50により、アクセルが踏み込まれているか否かが判定される。本実施形態のHV_ECU50は、アクセル開度が所定開度以上である条件およびアクセル開度変化が所定変化速度以上である条件の少なくともいずれか一方の条件が成立するとステップS20で肯定判定する。ステップS20の判定の結果、アクセルが踏み込まれていると判定された場合(ステップS20−Y)にはステップS70に進み、そうでない場合(ステップS20−N)にはステップS30に進む。
ステップS30では、HV_ECU50により、エンジン停止が完了したか否かが判定される。ステップS30では、第一回転機MG1によるエンジン停止制御が終了したか否かが判定される。エンジン停止制御は、所定の終了条件が成立すると終了する。本実施形態では、エンジン停止制御中にエンジン停止位置制御(以下、単に「停止位置制御」と称する。)が実行される。停止位置制御は、エンジン1を所望のクランク角度位置やクランク角度範囲で停止させることを狙った制御である。
HV_ECU50は、エンジン停止制御中にエンジン回転数が所定回転数以下となると、停止位置制御を開始する。所定回転数は、エンジン1の共振帯よりも低回転側の回転数である。図9では、時刻t2に停止位置制御が開始される。HV_ECU50は、停止位置制御を開始すると、MG1トルクを負トルクから正トルクに切り替える。これにより、それまでよりもエンジン回転数の低下速度が緩くなる。HV_ECU50は、エンジン1のクランク角度位置が所定の角度位置となると、MG1トルクによるエンジン回転数の制御を終了する。所定の角度位置は、クランク角度位置を所望のクランク角度位置や所望のクランク角度範囲で停止させることができる値として予め定められているものである。図9では、時刻t3にMG1トルクが0とされて停止位置制御が終了する。
HV_ECU50は、停止位置制御の終了と同時にエンジン停止制御を終了させる。つまり、本実施形態では、停止位置制御が終了すると、エンジン停止制御が終了し、ステップS30で肯定判定がなされる。図3では、時刻t3にエンジン停止制御が終了したと判定される状態となる。ステップS30の判定の結果、エンジン停止が完了したと判定された場合(ステップS30−Y)にはステップS40に進み、そうでない場合(ステップS30−N)にはステップS30の判定が繰り返される。
ステップS40では、HV_ECU50により、振動終了の判断がなされる。ステップS40では、エンジンの停止時に発生する振動が止まったか否かが判定される。図9に示すように、エンジン停止制御が終了した後も、エンジン回転数はわずかに変動し続ける。HV_ECU50は、振動が止まったと判断した場合にステップS40で肯定判定を行う。本実施形態では、エンジン停止制御の終了を起点とした経過時間に基づいて、エンジン1の振動が停止したか否かが判断される。
HV_ECU50は、エンジン停止制御の終了からの経過時間をタイマによってカウントアップしている。HV_ECU50は、経過時間が所定時間T1以上となると、エンジン1の振動が停止したと判断する。図9では、時刻t5に所定時間T1が経過したと判断される。本実施形態の所定時間T1は、図10に示すように、エンジン1のクランク軸系のイナーシャに応じて可変である。図10において、横軸はクランク軸系イナーシャを示し、縦軸は、所定時間T1の長さを示す。クランク軸系のイナーシャは、エンジン1のクランク軸と、クランク軸に接続されている部品とを含むイナーシャである。
クランク軸系イナーシャが大きいと、クランク軸系イナーシャが小さい場合よりも、エンジン停止時のエンジンの振動が大きくなりやすい。また、クランク軸系イナーシャが大きいと、エンジン停止時の振動が終了するまでの所要時間が大きくなりやすい。図10に示すように、クランク軸系イナーシャと、所定時間T1とは線形関係を有する。クランク軸系イナーシャが増加するに従い、所定時間T1は長い時間となる。HV_ECU50は、図10に示す関係に基づいて予め定められた所定時間T1によって、ステップS40の判定を行う。
ステップS40の判定の結果、エンジン1の振動が終了したと判定された場合(ステップS40−Y)にはステップS50に進み、そうでない場合(ステップS40−N)にはステップS40の判定が繰り返される。本実施形態では、ステップS40で肯定判定がなされると、エンジン1が回転停止状態となったと判定される。
ステップS50では、HV_ECU50により、エンジン1のクランク軸を固定する制御が実行される。ステップS50では、両駆動EVモードの為のクランク軸の固定制御が実行される。HV_ECU50は、ブレーキBK1の係合油圧を増加させて、ブレーキBK1を係合させる。HV_ECU50は、ブレーキBK1を係合し、ブレーキBK1およびクラッチCL1によってエンジン1のクランク軸を固定する。
なお、本実施形態では、エンジン停止制御の終了後、所定時間T1が経過する前の時刻t4に、ブレーキBK1に対する油圧の供給が開始される。このときにブレーキBK1に供給される油圧は、例えば、ブレーキBK1の油圧室に作動油を充填させ、かつブレーキBK1においてトルクが伝達されない程度の油圧である。これにより、所定時間T1が経過してから、ブレーキBK1を完全係合するまでに要する時間を短縮することができる。
図9では、時刻t5からブレーキBK1を係合させるための係合油圧の上昇が開始される。時刻t5の時点では、エンジン1の振動が低減しており、ブレーキBK1を係合することによるショックの発生や第一遊星歯車機構10等における歯打ち音の発生が抑制される。また、ブレーキBK1の係合油圧が増加してブレーキBK1が係合し始めると、エンジン1の振動がブレーキBK1によって吸収される。ステップS50が実行されると、ステップS60に進む。
ステップS60では、HV_ECU50により、両駆動EVモードが実行される。HV_ECU50は、時刻t6にブレーキBK1が完全係合すると、第一回転機MG1に走行用のトルクを出力させる。これにより、第一回転機MG1および第二回転機MG2を動力源とする両駆動EVモードが開始される。第一回転機MG1は、負回転しながら負トルクを出力し、駆動輪32に前進走行用の駆動力を発生させる。図9では、時刻t6に両駆動EVモードが開始される。ステップS60が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS70では、HV_ECU50により、スリップ制御が実行される。アクセルが踏み込まれている(ステップS20−Y)場合、両駆動EVモードへの早期移行が優先される。HV_ECU50は、アクセルが踏み込まれていない場合よりも、エンジン停止時のショックを抑制することの優先度を下げる。HV_ECU50は、エンジンの振動が終了したか否かの判定(ステップS40)を経ずに、ブレーキBK1を係合させる。HV_ECU50は、ブレーキBK1の係合油圧を増加させていき、スリップ状態を経てブレーキBK1を完全係合させる。ステップS70が実行されると、ステップS80に進む。
ステップS80では、HV_ECU50により、両駆動EVモードが開始される。HV_ECU50は、ブレーキBK1が完全係合すると、第一回転機MG1に走行用のトルクを出力させる。ステップS80が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS90では、HV_ECU50により、エンジン走行が継続される。HV_ECU50は、エンジン1の運転を継続し、HV走行モードによる走行を継続させる。ステップS90が実行されると、本制御フローは終了する。
以上説明したように、本実施形態の動力伝達装置1−1は、エンジン1を停止するときに第一回転機MG1によってエンジン停止制御を実行する。よって、エンジン回転数が低下するときの共振が抑制される。また、動力伝達装置1−1は、エンジン1が回転停止状態となった後にクラッチCL1およびブレーキBK1がクランク軸を固定する。よって、エンジン1を停止してクランク軸を固定するときのショックの発生等が抑制される。
また、好適には、動力伝達装置1−1は、エンジン停止制御が終了した後、更に所定時間T1の経過後にクラッチCL1およびブレーキBK1によってクランク軸を固定する。よって、クランク軸を固定するときのショックの発生等がより確実に抑制される。
また、好適には、動力伝達装置1−1は、所定時間T1を停止時のクランク軸系イナーシャに応じて定める。よって、クランク軸を固定するときのショックの発生等がより確実に抑制される。
また、好適には、動力伝達装置1−1は、エンジン停止制御の終了後のトルク振動が収まった後にクランク軸を固定する。よって、クランク軸を固定するときのショックの発生等がより確実に抑制される。
また、好適には、動力伝達装置1−1は、アクセル開度ないしはアクセル開度の変化で制御を切り替え、所定値以上のアクセル開度やアクセル開度の変化である場合、スリップ制御を行う。これにより、停止位置制御をスキップし、トルク応答性を向上させることができる。
また、好適には、動力伝達装置1−1は、エンジン1と差動部との間に変速部を有し、クランク軸を固定する固定手段は、変速部の複数の係合要素を係合させることで固定する。よって、クランク軸を固定するために変速部の係合要素とは別にブレーキ等を設ける必要がなく、構成が簡素化される。
[第1実施形態の第1変形例]
第1実施形態の第1変形例について説明する。第1変形例では、第一回転機MG1によりエンジン1の筒内の気体を圧縮した状態でクランク軸を保持し、固定手段としてのクラッチCL1およびブレーキBK1によってクランク軸を固定した後で第一回転機MG1のトルクを低減させる点で、上記第1実施形態と異なる。図11は、第1実施形態の第1変形例に係るタイムチャートである。
図11では、時刻t11にエンジン停止判断がなされ(図1のステップS10−Y)、エンジン停止制御が開始される。時刻t12に停止位置制御が開始される。第1変形例の停止位置制御において、目標とするクランク角度位置やクランク角度範囲は、エンジン1の圧縮反力トルクが高い位置である。以下の説明では、停止位置制御における目標とするクランク角度位置やクランク角度範囲を単に「目標クランク角度」と称する。目標クランク角度は、MG1トルクによってエンジン1の筒内の気体を圧縮する角度位置や角度範囲である。また、目標クランク角度は、MG1トルクを低減させると、エンジン1の圧縮反力トルクによってクランク軸が回転し、クランク角度が目標クランク角度から外れてしまうものである。
第1変形例では、HV_ECU50は、停止位置制御において、エンジン1のクランク角度が目標クランク角度となると、停止位置制御を終了する。HV_ECU50は、停止位置制御が終了すると、MG1トルクを維持したままでブレーキBK1を係合させる。図11では、時刻t13に停止位置制御が終了し、ブレーキBK1の係合油圧が上昇する。HV_ECU50は、ブレーキBK1が完全係合した時刻t14からMG1トルクを低減させる。図11では、HV_ECU50は時刻t14にMG1トルクを0まで低減させているが、MG1トルクを漸減させるようにしてもよい。
本変形例によれば、クラッチCL1およびブレーキBK1によって入力軸2およびエンジン1のクランク軸が固定されてからMG1トルクが低減される。よって、エンジン1のクランク角度位置が目標クランク角度から外れてしまうことが抑制される。圧縮状態に維持された筒内の気体は、次第に筒内から抜け出る。これにより、次回エンジン1が始動されるまでの間に、筒内の圧力が低下する。よって、次回エンジン1が始動される際の始動性が向上するという利点がある。HV_ECU50は、ブレーキBK1が完全係合した後の時刻t15に両駆動EVモードを開始する。
好適には、本変形例の動力伝達装置1−1は、エンジン停止時にエンジンの回転を規制する保持トルク(MG1トルク)が残っている際には、クランク軸を固定した後に保持トルクを低減する。これにより、保持トルクを低減した後にエンジン1が回転してしまうことが抑制される。よって、クランク軸の回転によって歯打ち音が発生してしまうことや、エンジン1の停止位置がずれてしまうことが抑制される。
[第1実施形態の第2変形例]
第1実施形態の第2変形例について説明する。第2変形例では、停止位置制御中にブレーキBK1によるダンピングトルクが付与されるように油圧制御タイミングが変更されている点で上記第1実施形態および第1変形例と異なる。図12は、第1実施形態の第2変形例に係るタイムチャートである。
図12では、時刻t21にエンジン停止制御が開始される。HV_ECU50は、停止位置制御を開始する時刻t23よりも前の時刻t22にブレーキBK1の係合油圧を上昇させる。本変形例では、MG1回転数が正回転から負回転に切り替わる時刻t22にブレーキBK1の係合油圧が上昇し始める。停止位置制御の開始前の係合油圧は、ブレーキBK1が係合する油圧よりも低い油圧である。HV_ECU50は、時刻t23に停止位置制御を開始するとともにブレーキBK1を係合させ、ブレーキBK1によってダンピングトルクを発生させる。ダンピングトルクは、エンジン1とダンパスプリングによるバネマス振動を制動するトルクである。エンジン1のクランク軸と入力軸2とを接続するダンパスプリングとエンジン1とによるバネマス振動に対して、ブレーキBK1は、ダンピングトルクを付与して振動を制動する。これにより、騒音や振動が低減するという利点がある。
なお、ブレーキBK1の油圧制御系は、製造ばらつき等により同一の油圧指令が与えられても実際の出力トルクは製品ごとにばらついてしまう。このばらつきは、プラネタリメンバの回転数Nの変化率から補正可能である。プラネタリメンバは、第二遊星歯車機構20の回転要素に接続されたメンバであり、具体的には、エンジン1、第一回転機MG1および第二回転機MG2である。プラネタリメンバの運動方程式は、下記式(1)である。
dNx/dt=k1×Tmg1+k2×Tbk1+k3×Tmg2…(1)
ここで、Tmg1;MG1トルク、Tbk1;ブレーキBK1の伝達トルク、Tmg2;MG2トルク、k1〜k3;第二遊星歯車機構20のギア比ρと各メンバのイナーシャで決まる定数である。なお、回転数Nの添字x={MG1,ENG,MG2}である。例えば、エンジン1の運動方程式は下記式(2)で示される。
dNENG/dt=k1×Tmg1+k2×Tbk1+k3×Tmg2…(2)
HV_ECU50は、上記式(1)の運動方程式から、ブレーキBK1の油圧指令値を補正することができる。
停止位置制御においてブレーキBK1が係合されることにより、エンジン1の振動が抑制され、エンジン1の振動が終了するまでの時間が短縮される。よって、本変形例によれば、ドライバビリティの向上が可能である。時刻t24に停止位置制御が終了し、時刻t25にブレーキBK1の係合が終了する。HV_ECU50は、時刻t26に両駆動EVモードを開始する。
以上説明したように、好適には、本変形例の動力伝達装置1−1は、エンジン停止制御中にブレーキBK1をスリップ制御する。よって、エンジン1を停止するときの振動継続時間が低減される。また、動力伝達装置1−1は、ブレーキBK1のスリップ制御において、プラネタリメンバの回転数の変化率により、ブレーキBK1による付与トルクを推定し、供給油圧を変更する。よって、動力伝達装置1−1は、製品製造ばらつきによる油圧変化を補正することができ、車両性能のばらつきを低減することができる。上記第1実施形態で説明したスリップ制御は、例えば、本変形例のスリップ制御と同様の制御とすることができる。
[第2実施形態]
図13を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図13は、第2実施形態に係る車両のスケルトン図である。本実施形態の動力伝達装置2−1において、上記第1実施形態の動力伝達装置1−1と異なる点は、変速部に代えてブレーキBcrが設けられている点である。
ブレーキBcrは、入力軸2の回転を規制する。ブレーキBcrは、供給される油圧によって係合あるいは開放する。HV_ECU50は、ブレーキBcrに油圧を供給する油圧制御装置に対して、係合油圧の指令値を出力する。供給される油圧によってブレーキBcrが完全係合すると、入力軸2およびエンジン1のクランク軸の回転が規制される。HV_ECU50は、HV走行モードを実行する場合、ブレーキBcrを開放させる。一方、HV_ECU50は、両駆動EVモードを実行する場合、ブレーキBcrを係合させる。ブレーキBcrが係合して入力軸2の回転がロックされることにより、第二キャリア24はMG1トルクに対する反力受けとして機能し、MG1トルクを第二リングギア23から出力させる。
入力軸2におけるエンジン1側と反対側の端部には、オイルポンプ4が配置されている。オイルポンプ4は、入力軸2の回転によって駆動されて作動油を吐出する機械式のポンプである。
本実施形態の動力伝達装置2−1は、上記第1実施形態、上記第1実施形態の第1変形例および上記第1実施形態の第2変形例の制御をそれぞれ実行可能である。HV_ECU50は、上記第1実施形態および第1実施形態の各変形例の制御と同様の制御を実行する場合、ブレーキBK1に代えて、ブレーキBcrを係合あるいは開放するようにすればよい。
[上記各実施形態の変形例]
上記第1実施形態および第2実施形態の変形例について説明する。充電状態SOCに基づいてエンジン停止判断をすることに代えて、バッテリの温度に基づいてエンジン停止判断がなされてもよい。例えば、EV走行域でバッテリ3の温度が低いためにHV走行が選択されていたところ、バッテリ3の温度が高くなってEV走行モードへの切り替え判断がなされた場合に、エンジン停止制御が開始されてもよい。
上記各実施形態では、好適には、タイマによってエンジン1の振動が終了したか否かが判定されたが、これに代えて、MG1回転数等に基づいて検出される実際のエンジン1の振動に基づいて、振動のおさまりが判断されてもよい。例えば、MG1回転数の変動量や変動率が所定値以下となった場合に実際のエンジン1の振動が収まったと判定されるようにしてもよい。このように、トルク振動の収まりを第一回転機MG1の回転変動に基づいて検出することで、実際のトルク振動のおさまりに基づいてクランク軸を固定することができる。
上記各実施形態のバッテリ3に代えて、あるいはバッテリ3に加えて、キャパシタ等の蓄電装置が用いられてもよい。固定手段は、上記第1実施形態のクラッチCL1およびブレーキBK1や、第2実施形態のブレーキBcrには限定されない。例えば、クラッチCL1、ブレーキBK1の少なくとも1つが、噛み合い式のクラッチ装置とされてもよい。また、ブレーキBcrは、噛み合い式のクラッチ装置とされてもよい。また、クラッチCL1、ブレーキBK1,Bcrは、油圧以外の力によって係合あるいは開放するものであってもよい。
差動部は、第二遊星歯車機構20として例示したシングルピニオン式の遊星歯車機構には限定されない。差動部は、例えば、ダブルピニオン式の遊星歯車機構や、その他の差動機構であってもよい。
また、上記第1実施形態では、クラッチCL1が係合した状態から、エンジン停止制御がなされたが、これに代えて、ブレーキBK1が係合した状態から、エンジン停止制御がなされてもよい。この場合、HV_ECU50は、エンジン停止制御を実行してエンジン1が回転停止状態となった後に、クラッチCL1を係合してエンジン1のクランク軸を固定する。
以上説明した各実施形態および変形例によれば、以下の動力伝達装置が開示された。「機関と、機関のクランク軸を固定する手段と、差動部とからなり、第一回転機(電動機)および第二回転機(電動機)により電気的無段変速部を形成する動力伝達装置において、機関停止制御完了後にクランク軸を固定する」。
上記の各実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。