以下に、本発明の実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る車両のスケルトン図である。図2は、実施形態に係る車両の入出力関係図である。図3は、実施形態1に係るハイブリッド車両用駆動装置の作動係合表を示す図である。図4は、単独モータEVモードに係る共線図である。図5は、両モータEVモードに係る共線図である。図6は、HVローモードに係る共線図である。図7は、HVハイモードに係る共線図である。図8は、実施形態1のモード選択に係るマップの一例を示す図である。図9は、実施形態1のハイブリッド車両用駆動装置における制御の一例を表すフローチャートである。図10は、実施形態1の要求駆動力ヒスに係るマップの一例を示す図である。図11は、実施形態1のハイブリッド車両用駆動装置における動作の一例を表すタイムチャートである。
本実施形態に係る車両100は、図1に示すように、動力源としてエンジン1、第一回転機MG1および第二回転機MG2を有するハイブリッド(HV)車両である。車両100は、外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド(PHV)車両であってもよい。図1および図2に示すように、車両100は、エンジン1、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジン_ECU70を含んで構成されている。
また、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン1、第一遊星歯車機構10、第二遊星歯車機構20、クラッチCL1およびブレーキBK1を含んで構成されている。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、更に、各ECU50,60,70等の制御装置を含んで構成されてもよい。また、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一回転機MG1および第二回転機MG2を含んで構成されてもよい。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、FF(前置きエンジン前輪駆動)車両あるいはRR(後置きエンジン後輪駆動)車両等に適用可能である。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、例えば、軸方向が車幅方向となるように車両100に搭載される。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10、クラッチCL1およびブレーキBK1を含んで変速部(変速機構)40が構成されている。また、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第二遊星歯車機構20を含んで差動部41が構成されている。クラッチCL1およびブレーキBK1は、第一遊星歯車機構10を変速させる係合装置である。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、これらエンジン1、変速部40、差動部41、クラッチCL1およびブレーキBK1を備え、クラッチCL1およびブレーキBK1により電気的無段変速状態を形成する。このハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン1の出力軸と同時軸に変速部40および第一回転機MG1が配置され、第二回転機MG2の複軸配置となっている。
機関であるエンジン1は、燃料の燃焼エネルギーを出力軸の回転運動に変換して出力する。エンジン1の出力軸は、入力軸2と接続されている。入力軸2は、動力伝達装置の入力軸である。動力伝達装置は、第一回転機MG1、第二回転機MG2、クラッチCL1、ブレーキBK1、差動装置30等を含んで構成されている。入力軸2は、エンジン1の出力軸と同軸上かつ出力軸の延長線上に配置されている。入力軸2は、第一遊星歯車機構10の第一キャリア14と接続されている。
第一遊星歯車機構10を含む変速部40は、エンジン1と接続され、係合装置(クラッチCL1、ブレーキBK1)によって変速する。変速部40は、エンジン1が入力要素としての第一キャリア14に接続される。変速部40は、エンジン1の回転を変速して出力可能である。変速部40を構成する第一遊星歯車機構10は、第二遊星歯車機構20よりもエンジン1側に配置された入力側差動機構である。ここでは、第一遊星歯車機構10は、シングルピニオン式であり、第一サンギア11、第一ピニオンギア12、第一リングギア13および第一キャリア14を有する。
第一リングギア13は、第一サンギア11と同軸上であってかつ第一サンギア11の径方向外側に配置されている。第一ピニオンギア12は、第一サンギア11と第一リングギア13との間に配置されており、第一サンギア11および第一リングギア13とそれぞれ噛み合っている。第一ピニオンギア12は、第一キャリア14によって回転自在に支持されている。変速部40の入力要素をなす第一キャリア14は、入力軸2と連結されており、入力軸2と一体回転する。従って、第一ピニオンギア12は、入力軸2と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第一キャリア14によって支持されて第一ピニオンギア12の中心軸線周りに回転(自転)可能である。
クラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結可能なクラッチ装置である。クラッチCL1は、例えば、摩擦係合式のクラッチとすることができるが、これに限らず、噛合い式のクラッチ等の公知のクラッチ装置がクラッチCL1として用いられてもよい。クラッチCL1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは開放する。完全係合状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを連結し、第一サンギア11と第一キャリア14とを一体回転させることができる。完全係合状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する。一方、開放状態のクラッチCL1は、第一サンギア11と第一キャリア14とを切り離し、第一サンギア11と第一キャリア14との相対回転を許容する。つまり、開放状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を許容する。なお、クラッチCL1は、半係合状態に制御可能である。半係合状態のクラッチCL1は、第一遊星歯車機構10の差動を許容する。
ブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を規制することができるブレーキ装置である。ブレーキBK1は、第一サンギア11に接続された係合要素と、車体側、例えば動力伝達装置のケースと接続された係合要素とを有する。ブレーキBK1は、クラッチCL1と同様の摩擦係合式のクラッチ装置とすることができるが、これに限らず、噛合い式のクラッチ等の公知のクラッチ装置がブレーキBK1として用いられてもよい。ブレーキBK1は、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは開放する。完全係合状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを連結し、第一サンギア11の回転を規制することができる。一方、開放状態のブレーキBK1は、第一サンギア11と車体側とを切り離し、第一サンギア11の回転を許容する。なお、ブレーキBK1は、半係合状態に制御可能である。半係合状態のブレーキBK1は、第一サンギア11の回転を許容する。
本実施形態の第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10を含む変速部40と駆動輪32とを接続する差動部41として車両100に搭載されている。第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10よりも駆動輪32側に配置された出力側差動機構である。第二遊星歯車機構20は、シングルピニオン式であり、第二サンギア21、第二ピニオンギア22、第二リングギア23および第二キャリア24を有する。第二遊星歯車機構20は、第一遊星歯車機構10と同軸上に配置され、第一遊星歯車機構10を挟んでエンジン1と互いに対向している。
第二リングギア23は、第二サンギア21と同軸上であってかつ第二サンギア21の径方向外側に配置されている。第二ピニオンギア22は、第二サンギア21と第二リングギア23との間に配置されており、第二サンギア21および第二リングギア23とそれぞれ噛み合っている。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24によって回転自在に支持されている。第二キャリア24は、第一リングギア13と接続されており、第一リングギア13と一体回転する。第二ピニオンギア22は、第二キャリア24と共に入力軸2の中心軸線周りに回転(公転)可能であり、かつ第二キャリア24によって支持されて第二ピニオンギア22の中心軸線周りに回転(自転)可能である。上述の第一リングギア13は、変速部40を構成する第一遊星歯車機構10の出力要素であり、エンジン1から第一遊星歯車機構10に入力された回転を第二キャリア24に出力することができる。第二キャリア24は、第一遊星歯車機構10の出力要素に接続された第一回転要素に対応している。
第二サンギア21には第一回転機MG1の回転軸33が接続されている。第一回転機MG1の回転軸33は、入力軸2と同軸上に配置されており、第二サンギア21と一体回転する。第二サンギア21は、第一回転機MG1に接続された第二回転要素に対応している。第二リングギア23には、カウンタドライブギア25が接続されている。カウンタドライブギア25は、第二リングギア23と一体回転する出力ギアである。第二リングギア23は、第二回転機MG2および駆動輪32に接続された第三回転要素に対応している。第二リングギア23は、第一回転機MG1あるいは第一遊星歯車機構10から入力された回転を駆動輪32に出力することができる出力要素である。
カウンタドライブギア25は、カウンタドリブンギア26と噛み合っている。カウンタドリブンギア26は、カウンタシャフト27を介してドライブピニオンギア28と接続されている。カウンタドリブンギア26とドライブピニオンギア28とは一体回転する。また、カウンタドリブンギア26には、リダクションギア35が噛み合っている。リダクションギア35は、第二回転機MG2の回転軸34に接続されている。つまり、第二回転機MG2の回転は、リダクションギア35を介してカウンタドリブンギア26に伝達される。リダクションギア35は、カウンタドリブンギア26よりも小径であり、第二回転機MG2の回転を減速してカウンタドリブンギア26に伝達する。
ドライブピニオンギア28は、差動装置30のデフリングギア29と噛み合っている。差動装置30は、左右の駆動軸31を介して駆動輪32と接続されている。第二リングギア23は、カウンタドライブギア25、カウンタドリブンギア26、ドライブピニオンギア28、差動装置30および駆動軸31を介して駆動輪32と接続されている。また、第二回転機MG2は、第二リングギア23と駆動輪32との動力伝達経路に対して接続されており、第二リングギア23および駆動輪32に対してそれぞれ動力を伝達可能である。
第一回転機MG1および第二回転機MG2は、それぞれモータ(電動機)としての機能と、発電機としての機能とを備えている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、インバータを介してバッテリと接続されている。第一回転機MG1および第二回転機MG2は、バッテリから供給される電力を機械的な動力に変換して出力することができると共に、入力される動力によって駆動されて機械的な動力を電力に変換することができる。回転機MG1,MG2によって発電された電力は、バッテリに蓄電可能である。第一回転機MG1および第二回転機MG2としては、例えば、3相交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。
本実施形態の車両100では、エンジン1と同軸上に、エンジン1から近い側から順に、ブレーキBK1、クラッチCL1、第一遊星歯車機構10、カウンタドライブギア25、第二遊星歯車機構20および第一回転機MG1が配置されている。また、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1は、入力軸2と、第二回転機MG2の回転軸34とが異なる軸上に配置された複軸式とされている。
図2に示すように、車両100は、HV_ECU50、MG_ECU60およびエンジン_ECU70を有する。各ECU50,60,70は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。HV_ECU50は、車両100全体を統合制御する機能を有している。MG_ECU60およびエンジン_ECU70は、HV_ECU50と電気的に接続されている。
MG_ECU60は、第一回転機MG1および第二回転機MG2を制御することができる。MG_ECU60は、例えば、第一回転機MG1に対して供給する電流値(以下、「MG1電流」とも記載する。)を調節し、第一回転機MG1の出力トルクを制御すること、および第二回転機MG2に対して供給する電流値(以下、「MG2電流」とも記載する。)を調節し、第二回転機MG2の出力トルクを制御することができる。
エンジン_ECU70は、エンジン1を制御することができる。エンジン_ECU70は、例えば、エンジン1の電子スロットル弁の開度を制御すること、点火信号を出力してエンジン1の点火制御を行うこと、エンジン1に対する燃料の噴射制御等を行うことができる。エンジン_ECU70は、電子スロットル弁の開度制御、噴射制御、点火制御等によりエンジン1の出力トルクを制御することができる。
HV_ECU50には、車速センサ、アクセル開度センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、出力軸回転数センサ、バッテリセンサ等が接続されている。これらのセンサにより、HV_ECU50は、車速、アクセル開度、第一回転機MG1の回転数(以下、「MG1回転数」とも記載する。)、第二回転機MG2の回転数(以下、「MG2回転数」とも記載する)、動力伝達装置の出力軸の回転数、バッテリ状態SOC等を取得することができる。
HV_ECU50は、車速やアクセル開度等、取得する情報に基づいて、車両100に対する要求駆動力や要求パワー、要求トルク等を算出することができる。HV_ECU50は、算出した要求値に基づいて、第一回転機MG1の出力トルク(以下、「MG1トルク」とも記載する。)、第二回転機MG2の出力トルク(以下、「MG2トルク」とも記載する。)およびエンジン1の出力トルク(以下、「エンジントルク」とも記載する。)を決定する。HV_ECU50は、MG1トルクの指令値およびMG2トルクの指令値をMG_ECU60に対して出力する。また、HV_ECU50は、エンジントルクの指令値をエンジン_ECU70に対して出力する。
HV_ECU50は、後述する走行モード等に基づいて、クラッチCL1およびブレーキBK1をそれぞれ制御する。HV_ECU50は、クラッチCL1に対する供給油圧(PbCL1)の指令値およびブレーキBK1に対する供給油圧(PbBK1)の指令値をそれぞれ出力する。図示しない油圧制御装置は、各供給油圧PbCL1,PbBK1の指令値に応じてクラッチCL1およびブレーキBK1に対する供給油圧を制御する。
図3は、本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1の作動係合表を示す図である。車両100では、ハイブリッド(HV)走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。HV走行とは、エンジン1を動力源として車両100を走行させる走行モードである。HV走行では、エンジン1に加えて、更に第二回転機MG2を動力源としてもよい。つまり、HV走行は、エンジン1を動力源として走行する機関駆動を実現する走行モードである。
EV走行は、第一回転機MG1あるいは第二回転機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する走行モードである。EV走行では、エンジン1を停止して走行することが可能である。つまり、EV走行は、エンジン1を停止し第一回転機MG1あるいは第二回転機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する回転機駆動を実現する走行モードである。本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、EV走行モードとして、第二回転機MG2を単独の動力源として車両100を走行させる単独モータEVモード(単独駆動EVモード)と、第一回転機MG1および第二回転機MG2を動力源として車両100を走行させる両モータEVモード(両駆動EVモード)を有する。
図3の係合表において、クラッチCL1の欄およびブレーキBK1の欄の丸印は、係合を示し、空欄は開放を示す。また、三角印は、クラッチCL1あるいはブレーキBK1のいずれかを係合し、他方を開放することを示す。単独モータEVモードは、例えば、クラッチCL1およびブレーキBK1を共に開放して実行される。図4は、単独モータEVモードに係る共線図である。共線図において、符号S1,C1,R1は、それぞれ第一サンギア11、第一キャリア14、第一リングギア13を示し、符号S2,C2,R2は、それぞれ第二サンギア21、第二キャリア24、第二リングギア23を示す。
単独モータEVモードでは、クラッチCL1およびブレーキBK1が開放している。ブレーキBK1が開放していることで、第一サンギア11の回転が許容され、クラッチCL1が開放していることで、第一遊星歯車機構10は差動可能である。HV_ECU50は、MG_ECU60を介して第二回転機MG2に正トルクを出力させて車両100に前進方向の駆動力を発生させる。第二リングギア23は、駆動輪32の回転と連動して正回転する。ここで、正回転とは、車両100の前進時の第二リングギア23の回転方向とする。HV_ECU50は、第一回転機MG1をジェネレータとして作動させて引き摺り損失を低減させる。具体的には、HV_ECU50は、第一回転機MG1にわずかなトルクをかけて発電させ、第一回転機MG1の回転数を0回転とする。これにより、第一回転機MG1の引き摺り損失を低減することができる。また、MG1トルクを0としてもコギングトルクを利用してMG1回転数を0に維持できるときは、MG1トルクを加えないようにしてもよい。あるいは、第一回転機MG1のd軸ロックによってMG1回転数を0としてもよい。
第一リングギア13は、第二キャリア24に連れ回り正回転する。第一遊星歯車機構10では、クラッチCL1およびブレーキBK1が開放されたニュートラルの状態であるため、エンジン1は連れ回されず、第一キャリア14は回転を停止する。よって回生量を大きく取ることが可能である。第一サンギア11は空転して負回転する。なお、第一遊星歯車機構10のニュートラル(中立)状態は、第一リングギア13と第一キャリア14との間で動力が伝達されない状態、すなわちエンジン1と第二遊星歯車機構20とが切り離され、動力の伝達が遮断された状態である。第一遊星歯車機構10は、変速部クラッチCL1あるいは変速部ブレーキBK1の少なくともいずれか一方が係合していると、エンジン1と第二遊星歯車機構20とを接続する接続状態となる。
単独モータEVモードでの走行時に、バッテリの充電状態がフルとなり、回生エネルギーが取れない場合が発生し得る。この場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。クラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合することで、エンジン1を駆動輪32と接続し、エンジンブレーキを駆動輪32に作用させることができる。図3に三角印で示すように、単独モータEVモードでクラッチCL1あるいはブレーキBK1を係合すると、エンジン1を連れ回し状態とし、第一回転機MG1でエンジン回転数を上げてエンジンブレーキ状態とすることができる。
両モータEVモード(両駆動EVモード)では、HV_ECU50は、クラッチCL1およびブレーキBK1を係合する。図5は、両モータEVモードに係る共線図である。クラッチCL1が係合することで、第一遊星歯車機構10の差動は規制され、ブレーキBK1が係合することで、第一サンギア11の回転が規制される。従って、第一遊星歯車機構10の全回転要素の回転が停止する。出力要素である第一リングギア13の回転が規制されることで、これと接続された第二キャリア24が0回転にロックされる。
HV_ECU50は、第一回転機MG1および第二回転機MG2にそれぞれ走行駆動用のトルクを出力させる。第二キャリア24は、回転が規制されていることで、第一回転機MG1のトルクに対して反力を取り、第一回転機MG1のトルクを第二リングギア23から出力させることができる。第一回転機MG1は、前進時に負トルクを出力して負回転することで、第二リングギア23から正のトルクを出力させることができる。一方、後進時には、第一回転機MG1は、正トルクを出力して正回転することで、第二リングギア23から負のトルクを出力させることができる。
HV走行では、差動部41としての第二遊星歯車機構20は差動状態を基本とし、変速部40の第一遊星歯車機構10は、ロー/ハイの切り替えがなされる。車両100は、HV走行では、エンジン1が作動し、第一回転機MG1で反力をとりながら直達トルクとMG2トルクで走行する。
HVローモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1を係合し、ブレーキBK1を開放する。図6は、HVローモードに係る共線図である。クラッチCL1が係合することにより、第一遊星歯車機構10は差動が規制され、各回転要素11,13,14が一体回転する。従って、エンジン1の回転は増速も減速もされず、等速で第一リングギア13から第二キャリア24に伝達される。この直結時の第一遊星歯車機構10の変速比は、1となる。
一方、HVハイモードでは、HV_ECU50は、クラッチCL1を開放し、ブレーキBK1を係合する。図7は、HVハイモードに係る共線図である。ブレーキBK1が係合することにより、第一サンギア11の回転が規制される。よって、第一遊星歯車機構10は、第一キャリア14に入力されたエンジン1の回転が増速されて第一リングギア13から出力されるオーバドライブ(OD)状態となる。このように、第一遊星歯車機構10は、エンジン1の回転を増速して出力することができる。オーバドライブ時の第一遊星歯車機構10の変速比は、例えば、0.7とすることができる。
このように、クラッチCL1およびブレーキBK1からなる切替装置は、第一遊星歯車機構10の差動を規制する状態と、第一遊星歯車機構10の差動を許容する状態とを切り替えて第一遊星歯車機構10を変速させる。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10、クラッチCL1およびブレーキBK1を含む変速部40によってHVハイモードとHVローモードとの切り替えが可能であり、車両100の伝達効率を向上させることができる。また、変速部40の後段には、直列に差動部41としての第二遊星歯車機構20が接続されている。第一遊星歯車機構10がオーバドライブであるため、第一回転機MG1を大きく高トルク化しなくてもよいという利点がある。
HV_ECU50は、例えば、高車速ではHVハイモードを選択し、中低車速ではHVローモードを選択する。図8は、本実施形態のモード選択に係るマップを示す図である。図8において、横軸は車速、縦軸は要求駆動力を示す。HV_ECU50は、車速と要求駆動力とに基づいて定まる動作領域に応じて機関駆動であるHV走行と、回転機駆動であるEV走行とを切り替え可能である。
図8に示すように、低車速かつ要求駆動力が小さい低負荷の領域は、モータ走行域である。モータ走行域では、EV走行が選択される。モータ走行域では、例えば、低負荷時(単駆動領域)は単独モータEVモードが選択され、高負荷時(両駆動領域)は両駆動EVモードが選択される。HV_ECU50は、充電状態SOCがあるとき、すなわち、MG駆動ができる状態では、基本的にはエンジン駆動よりMG駆動を優先する。上記単駆動領域と両駆動領域とを含んで構成されるモータ走行域は、回転機駆動とする動作領域に相当する。HV_ECU50は、車速と要求駆動力とに基づいて定まる動作点がモータ走行域内にある場合には、基本的には、EV走行(単独モータEVモード、又は、両駆動EVモード)を選択する。
モータ走行域よりも高車速や高負荷の領域は、エンジン走行域である。エンジン走行域は、更に、直結(ロー)領域とOD(ハイ)領域に分割されている。直結領域は、HVローモードが選択されるエンジン走行域である。OD領域は、HVハイモードが選択されるエンジン走行域である。OD領域は、高車速の領域であり、直結領域は、中低車速の領域である。直結領域は、OD領域よりも高負荷側に設定されている。高車速かつ低負荷時に変速部40をオーバドライブとすることで、燃費の向上を図ることができる。上記直結領域とOD領域とを含んで構成されるエンジン走行域は、機関駆動とする動作領域に相当する。HV_ECU50は、車速と要求駆動力とに基づいて定まる動作点がエンジン走行域内にある場合には、基本的には、HV走行(HVローモード、又は、HVハイモード)を選択する。
本実施形態では、HVハイモードとHVローモードとの切り替えによりエンジン1の回転を変速して出力することで、メカニカルポイントが2つとなり、燃費を向上させることができる。なお、メカニカルポイントは、遊星歯車機構10,20に入力される動力が電気パスを介さずに機械的な伝達によって全てカウンタドライブギア25に伝達される高効率な動作点である。
本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10がエンジン1の回転を増速して第一リングギア13から出力することができる。従って、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、第一遊星歯車機構10を備えずに第二キャリア24に対して直接エンジン1が接続されている場合のメカニカルポイントに対して、更にハイギア側にもう一つのメカニカルポイントを有する。つまり、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、ハイギア側に二つのメカニカルポイントを有する。よって、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、高速走行時の伝達効率向上による燃費の向上を図ることができるハイブリッドシステムを実現できる。
また、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、変速部40のクラッチCL1およびブレーキBK1を係合することで、第二遊星歯車機構20の入力要素の回転を規制することができ、両モータEVモードによる走行を可能とできる。このため、両モータEVモードを実現するために別途クラッチ等を設ける必要がなく、構成が簡素化される。本実施形態のレイアウトでは、第二回転機MG2の減速比を大きく取ることができる。また、FFあるいはRRレイアウトによりコンパクトな配置を実現できる。
(後進走行)
後進走行をする場合、エンジン走行中は、第一回転機MG1がジェネレータとして発電を行い、第二回転機MG2がモータとして力行し、負回転して負トルクを出力して走行する。バッテリの充電状態が十分であるときは、単独駆動EVモードで第二回転機MG2が単独で逆回転してモータ走行するようにしてもよい。また、第二キャリア24を固定して両駆動EVモードで後進走行することも可能である。
(協調変速制御)
HV_ECU50は、HVハイモードとHVローモードとの切り替えを行う場合、第一遊星歯車機構10と第二遊星歯車機構20とを同時に変速させる協調変速制御を実行することができる。HV_ECU50は、協調変速制御において、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20の一方の変速比を増加させ、他方の変速比を減少させる。
HV_ECU50は、HVハイモードからHVローモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をハイギア側に変化させる。これにより、車両100のエンジン1から駆動輪32までの全体での変速比の不連続な変化を抑制または低減し、変速比の変化の度合いを低減することができる。エンジン1から駆動輪32までの変速比の変化が抑制されることで、変速に伴うエンジン回転数の調節量を低減させ、あるいはエンジン回転数の調節を不要とすることができる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をロー側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
一方、HV_ECU50は、HVローモードからHVハイモードに切り替える場合、モードの切り替えと同期して第二遊星歯車機構20の変速比をローギア側に変化させる。これにより、車両100全体での変速比の不連続な変化を抑制または低減し、変速比の変化の度合いを低減することができる。HV_ECU50は、例えば、車両100全体での変速比をハイ側に連続的に変化させるように、第一遊星歯車機構10および第二遊星歯車機構20を協調して変速させる。
第二遊星歯車機構20の変速比の調節は、例えば、第一回転機MG1の回転数の制御によって行われる。HV_ECU50は、例えば、入力軸2とカウンタドライブギア25との間の変速比を無段階に変化させるように第一回転機MG1を制御する。これにより、遊星歯車機構10,20、第一回転機MG1、クラッチCL1およびブレーキBK1を含む全体、すなわち差動部41と変速部40を含む変速装置が電気的無段変速機として作動する。回生は、主に第二回転機MG2で行う。差動部41と変速部40を含む変速装置の変速比幅がワイドであるため、差動部41から駆動輪32までの変速比を比較的大きく取れる。また、HV走行モードの高車速走行時の動力循環が低減される。
(エンジン始動制御)
HV_ECU50は、例えば、EV走行モードからHV走行モードに移行する場合、停止していたエンジン1を始動する。HV_ECU50は、例えば、エンジン1の始動においては、第二回転機MG2を用いた単独モータEVモードからは、クラッチCL1またはブレーキBK1を係合して第一回転機MG1によってエンジン回転数を上げて点火しエンジン1を始動する。このとき、第二回転機MG2は、反力キャンセリングトルクを追加で出力する。この場合、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、クラッチCL1またはブレーキBK1を完全係合してから第一回転機MG1によってモータリングしようとすると、第一回転機MG1が過回転となる場合があるので、エンジン始動にはクラッチCL1またはブレーキBK1の半係合制御を行うことになる。
ところで、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1は、図8で例示したモード選択マップにおける領域Xのような切り替え設定では、少しの車速の相違で、モータ走行域が狭くなり、アクセル開度(要求駆動力)の変化に対してHV走行とEV走行とが頻繁に切り替わる可能性がある。例えば、図8中、矢印aでは矢印bに対し、切り替え頻度が増加する傾向にあり、よりビジーなHV走行とEV走行との切り替えが発生するおそれがある。
そこで、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1は、図8に例示した回転機駆動とする動作領域としてのモータ走行域の要求駆動力の幅が狭いほど切替ヒステリシスを大きくする。これにより、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、回転機駆動と機関駆動とが頻繁に切り替わることを抑制し、機関駆動と回転機駆動との切り替えによるハンチングを抑制している。
具体的には、HV_ECU50は、回転機駆動とする動作領域であるモータ走行域を設定する要求駆動力の広さに応じて機関駆動としてのHV走行と回転機駆動としてのEV走行との切替ヒステリシスを変更する。HV_ECU50は、モータ走行域の車速に対する要求駆動力の幅が狭いほど、当該車速でのHV走行とEV走行との切替ヒステリシスを大きくすることにより、頻繁な切り替えを避ける。
ここで、切替ヒステリシスとは、HV走行からEV走行に切り替える境界(閾値)とEV走行からHV走行に切り替える境界(閾値)との幅を設定するパラメータである。この切替ヒステリシスが大きいほどHV走行とEV走行との切り替え頻度が低減される傾向にある一方、切替ヒステリシスが小さいほどHV走行とEV走行との切り替え頻度が増加される傾向にある。本実施形態のHV_ECU50は、モータ走行域の車速に対する要求駆動力の幅が狭いほど、当該車速での切替ヒステリシスを大きくすることにより、当該車速域におけるHV走行とEV走行との切り替え頻度を低減することができる。
切替ヒステリシスは、例えば、より好適な例としては、モータ走行域を定める要求駆動力の幅に応じて設定される。またさらに、切替ヒステリシスは、より好適な例としては、HV走行とEV走行とを切り替えてからの経過時間に応じて設定されてもよい。ここでは、より好適な例としては、図8に例示したモータ走行域のように、当該モータ走行域を定める要求駆動力の範囲の変化は、車速方向に対して段差を有している。ここでは、当該段差は、より好適な例としては、図8に例示したモータ走行域において、第一回転機MG1と第二回転機MG2とで駆動される両駆動EVモードの動作領域である両駆動領域と、第二回転機MG2単独で駆動される単独モータEVモードの動作領域である単駆動領域との相違に応じた上記領域Xに基づいて形成される。図8に例示したモータ走行域は、低負荷側の単駆動領域のほうが高負荷側の両駆動領域より高車速側に広い領域となっている。これにより、単駆動領域の高負荷側、両駆動領域の高車速側のエンジン走行域において上記領域Xが形成される。この結果、図8に例示したモータ走行域は、領域Xに対応する車速域での要求駆動力域が、領域Xよりも低速側の車速域での要求駆動力域よりも急に狭くなっている。
また、HV_ECU50は、より好適な例としては、運転者の燃費優先走行の意図を検出した場合(例えば、運転者による燃費優先スイッチのON操作を検出した場合)、運転者の燃費優先走行の意図を検出していない場合と比較して、当該切替ヒステリシスを相対的に小さくしてもよい。これにより、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、EV走行とHV走行との切り替えが頻繁になるものの、積極的にEV走行に移行することができ、燃料消費を抑制することができる。
また、HV_ECU50は、より好適な例としては、クラッチCL1やブレーキBK1等の係合装置の応答性が悪い場合には、係合装置の応答性がよい場合と比較して、切替ヒステリシスを相対的に大きくするようにしてもよい。例えば、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、図8に例示した領域Xに対応する車速域で、図4に示した単独モータEVモードからエンジン始動する際には、上述のようにクラッチCL1またはブレーキBK1の半係合制御を行うことになる。このとき、クラッチCL1、ブレーキBK1を作動させる作動油の温度(ATF温度)が相対的に低い等の要因から係合装置の制御性、応答性が悪化していると、エンジン始動ショックが目立つ場合がある。このため、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、係合装置の応答性が悪い場合には、切替ヒステリシスを相対的に大きくすることで、EV走行への切り替え頻度を低減して、エンジン始動頻度を低減する。これにより、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、エンジン始動ショックを抑制することができる。
次に、図9および図10を参照して、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1における制御の一例について説明する。図9に示す制御フローは、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、HV_ECU50は、図8で例示した領域XでHV走行中か否かを判定する(ステップST1)。HV_ECU50は、例えば、アクセル開度に基づいた要求駆動力と車速とに応じて定まる動作点が領域X内に位置するか否かを判定することで、領域XでHV走行中であるか否かを判定する。
HV_ECU50は、領域XでHV走行中であると判定した場合(ステップST1:Yes)、EV走行とHV走行とを切り替えてからのHV走行の経過時間Tをカウントし、当該経過時間Tが予め設定された所定値T1より長いか否かを判定する(ステップST2)。
HV_ECU50は、経過時間Tが所定値Tより長いと判定した場合(ステップST2:Yes)、要求駆動力ヒスTLLを設定し(ステップST3)、本制御フローを終了する。この要求駆動力ヒスTLLは、上述の切替ヒステリシスに相当する。HV_ECU50は、例えば、図8の領域Xに対応する車速域において、アクセルが踏み増された際にEV走行からHV走行に切り替える要求駆動力(例えば、モータ走行域とエンジン走行域との境界の実線)から、要求駆動力ヒスTLLを差し引いた要求駆動力を、HV走行からEV走行に切り替える要求駆動力(例えば、図8中の点線L1参照)とする。これにより、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、動作点が領域X内にある場合に、EV走行に戻りにくくすることができる。
HV_ECU50は、例えば、図10に示すような要求駆動力ヒスTLLに係るマップに基づいて、経過時間Tに応じて要求駆動力ヒスTLLを算出すればよい。ここでは、当該要求駆動力ヒスTLLは、経過時間Tの増加に伴って減少し、所定の経過時間T以上の領域では一定となるように設定される。これにより、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、EV走行からHV走行となってからある程度の時間が経過すると、EV走行に切り替わりやすくすることができるので、ビジー切り替えの抑制と燃費性能とを両立することができる。
HV_ECU50は、ステップST2にて経過時間Tが所定値T以下である判定した場合(ステップST2:No)、アクセル戻りによるEV走行を禁止し(ステップST4)、本制御フローを終了する。これにより、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、例えば、アクセル開度が全閉に戻ったとしても、一定時間は、EV走行への切り替えを禁止することができる。
HV_ECU50は、ステップST1にて領域XでHV走行中でないと判定した場合(ステップST1:No)、要求駆動力ヒスTLLより小さい通常領域用の要求駆動力ヒスTLSを設定し(ステップST5)、本制御フローを終了する。この要求駆動力ヒスTLSは、上述の切替ヒステリシスに相当する。これにより、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、図8に例示したモータ走行域の要求駆動力の幅が広いほど切替ヒステリシスを小さくすることができ、言い換えれば、モータ走行域の要求駆動力の幅が狭いほど切替ヒステリシスを大きくすることができる。
次に、図11を参照して、本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−1における動作の一例を説明する。図11には、動作点が図8に示した領域X内にありHV走行中の状態を表すタイムチャートが示されている。図11において、(a)はエンジン回転数、(b)はMG1トルク、(c)はMG1回転数、(d)はMG2トルク、(e)はMG2回転数、(f)はブレーキBK1に対する供給油圧(PbBK1)、(g)はクラッチCL1に対する供給油圧(PbCL1)、(h)はアクセル開度、(i)は車速を示す。
図11に示す例では、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、動作点が領域X内にありHV走行中の状態で、領域XでHV走行を開始してからの経過時間Tをカウントし、予め設定された所定値T1より長いか否かを判断する。そして、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、時刻t1にてアクセルが戻されてアクセル開度がθ1に向って低下している。ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、時刻t2で経過時間Tから要求駆動力ヒスTLLを設定し、現在の動作点に基づいてEV走行に切り替えるか否かを判定する(ヒス要件クリア判断)。そして、ハイブリッド車両用駆動装置1−1は、時刻t3でEV走行に切り替えると判断すると、MG1トルクを0としMG1回転数を低下させるとともに、MG2トルクを増加させて、時刻t4から第二回転機MG2によるEV走行に切り替わる(MG2駆動切り替え)。
以上で説明したハイブリッド車両用駆動装置1−1によれば、回転機駆動(EV走行)とする動作領域(モータ走行域)の要求駆動力の幅が狭いほど切替ヒステリシスを大きくするので、回転機駆動と機関駆動(HV走行)とが頻繁に切り替わることを抑制することができ、回転機駆動と機関駆動との切り替えによるハンチングを抑制することができる。
[実施形態2]
図12は、実施形態2に係る車両のスケルトン図である。図13は、HV走行モードに係る共線図である。図14は、EV走行モードに係る共線図である。実施形態2に係るハイブリッド車両用駆動装置は、上述の変速部を備えない点で実施形態1に係るハイブリッド車両用駆動装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略する。
図12に示す本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1−2は、図1で説明した第一遊星歯車機構10、クラッチCL1およびブレーキBK1を含んで構成される変速部40を備えず、これにかえてブレーキBcrを備える。ここでは、第一回転機MG1の回転軸33は、中空であり、その内部にエンジン1の出力軸と接続された入力軸2が挿入されている。入力軸2は、エンジン1とは反対側の端部にオイルポンプOPが設けられている。第二遊星歯車機構20の第二サンギア21には第一回転機MG1の回転軸33が接続されている。第二リングギア23には、カウンタドライブギア25が接続されている。そして、本実施形態の第二キャリア24には、入力軸2が接続されており、入力軸2と一体回転する。
ブレーキBcrは、エンジン1の出力軸(クランク軸)固定用の係合装置であり、入力軸2の回転を規制することができるブレーキ装置である。ブレーキBcrは、入力軸2に接続された係合要素と、車体側、例えば動力伝達装置のケースと接続された係合要素とを有する。ブレーキBcrは、クラッチCL1等と同様の摩擦係合式のクラッチ装置とすることができるが、これに限らず、HV走行時の引きずりを低減するため、噛合い式のドグクラッチ等の公知のクラッチ装置がブレーキBcrとして用いられてもよい。ブレーキBcrは、例えば、油圧によって制御されて係合あるいは開放する。完全係合状態のブレーキBcrは、入力軸2と車体側とを連結し、入力軸2の回転を規制することができる。一方、開放状態のブレーキBcrは、入力軸2と車体側とを切り離し、入力軸2の回転を許容する。なお、ブレーキBcrは、半係合状態に制御可能である。半係合状態のブレーキBcrは、入力軸2の回転を許容する。この場合、HV_ECU50は、図2中、点線で示すように供給油圧(PbCL1)の指令値および供給油圧(PbBK1)の指令値にかえて、ブレーキBcrに対する供給油圧(Pbcr)の指令値を出力する。
そして、車両100では、HV走行あるいはEV走行を選択的に実行可能である。図13の共線図は、エンジン1を動力源として走行する機関駆動を実現するHV走行モードを表し、図14の共線図は、エンジン1を停止し第一回転機MG1あるいは第二回転機MG2の少なくともいずれか一方を動力源として走行する回転機駆動を実現するEV走行モードを表している。
ハイブリッド車両用駆動装置1−2は、図13のHV走行モードでは、ブレーキBcrが開放され、エンジン1が作動し、第一回転機MG1で反力を取りながらエンジン1からの直達トルクとMG2トルクとで走行する。一方、ハイブリッド車両用駆動装置1−2は、図14のEV走行モードでは、ブレーキBcrが係合され、エンジン1の出力軸をブレーキBcrで固定することにより、第一回転機MG1と第二回転機MG2とを作動させてそのトルクで走行する。
HV_ECU50は、例えば、車速と要求駆動力とに基づいて定まる動作点が図8で例示したモータ走行域内にある場合には、基本的には、EV走行(EV走行モード)を選択する。HV_ECU50は、例えば、車速と要求駆動力とに基づいて定まる動作点が図8で例示したエンジン走行域内にある場合には、基本的には、HV走行(HV走行モード)を選択する。なお、本実施形態においては、モータ走行域は、単駆動領域と両駆動領域との区別はなく単一の領域であり、また、エンジン走行域は、直結領域とOD領域との区別はなく単一の領域である。
上記のように構成されるハイブリッド車両用駆動装置1−2も、回転機駆動(EV走行)とする動作領域(モータ走行域)の要求駆動力の幅が狭いほど切替ヒステリシスを大きくすることで、回転機駆動と機関駆動(HV走行)とが頻繁に切り替わることを抑制することができ、回転機駆動と機関駆動との切り替えによるハンチングを抑制することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本実施形態に係るハイブリッド車両用駆動装置は、以上で説明した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせることで構成してもよい。