JP2015016737A - 水害時避難用シェルター - Google Patents
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Abstract
【解決手段】剛体からなる水密な中空カプセル状の浮体2と、浮体2に周設される中空環状のチューブ体3aからなる緩衝構造3と、浮体2の底に配設される錘9と、を有し、浮体2は、その中空部2b内へ人の出入りを可能にするハッチ2aを備え、チューブ体3aは、剛体からなりその胴部に複数の孔4を備えて、浮体2が水に浮く際に完全に水没するとともに、チューブ体3aの中空部3b内も水で満たされることを特徴とする水害時避難用シェルター1Aによる。
【選択図】図2
Description
その中でも、水に浮くカプセル状の避難用シェルターで、その周囲に中空状のチューブ体からなる浮き構造を備えたものとしては、例えば、特開昭50−114795号公報(特許文献1)の「救難用浮遊函」、特開昭51−146094号公報の「円盤形および楕円盤形密閉救命ボート」(特許文献2)、特開昭57−66092号公報の「救命ボート」(特許文献3)、特公昭43−2265号公報の「海難救命具」(特許文献4)、実開昭49−86597号公報の「救命装置」(特許文献5)、実開昭57−33593号公報の「救命艇」(特許文献6)、実開昭58−44299号公報の「水安定化救命いかだ」(特許文献7)、実開昭58−80398号公報の「カプセル式救命装置」(特許文献8)等が知られている。
一般に、津波や洪水等の水害時では、水中又は水中に大量の障害物が存在しており、このような水に浮くタイプのカプセル状の避難用シェルターの場合は、その胴部に周設される浮き構造が水中の障害物に衝突して破損した際に、避難用シェルターの浮力が不十分となり、避難具として十分に機能しなくなる恐れがあった。
このような事態に対処可能な他の発明としては、以下に示すような特許文献9が考えられる。
特許文献9に開示される海難用救命器は、文献中に記載される符号をそのまま用いて説明すると、バルブにて空気吸入孔28,30をそれぞれ開閉自在に調整される主空気吸入筒26および補助空気吸入筒29を設けたハッチ25をハンドル32にて開閉自在に操作できるように本体1に装着し、該本体1には吊り上げ金具5、窓6と水平板2で結合された緩衝材3と、手摺24および重錘4を装着し、該本体1の内面2ヶ所に支持環7の上部対向位置に設けられた回転指示軸8を回動自在に装着し、該支持環7の内面2ヶ所に、飲料水タンク14を設けた内筒の上部対向位置に設けられた回転支持軸8を回動自在に装着し、該支持環7の内面2ヶ所に、飲料水タンク14を設けた内筒10の上部対向位置に保持し、該内筒10の内側に緩衝材11を内張し、海水排出孔15と飲料水注入孔16を穿孔し、安全帯13およびおりたたみ椅子12、酸素ボンベ22、緊急用各種小物入箱23を装着し、飲料水タンク14および本体1の底部には手動ポンプ21および18を設けた飲料用パイプ20および海水排出用パイプ17をそれぞれ装入したことを特徴とするものである。
上記構成の特許文献9に開示される発明は、船舶等における救命ボートの代用品である。このような特許文献9に開示される発明によれば、船舶に何らかの不具合が生じ、特許文献9に開示される海難用救命器で船員や乗客を避難させるために海難用救命器を船舶から投下する際に、海難用救命器が船舶に衝突しても本体1の周側面に設けられる緩衝材3によりその衝撃を緩衝して本体1の破損を防止できる。
このような緩衝材3としては合成樹脂製のものやゴム製のものが想定されるが、津波や洪水等の災害時は水中に様々な障害物(例えば、破損した建物等)が存在し、それらとの衝突が繰り返されることが予想される。この場合、弾性やクッション性を利用した緩衝材3を用いた場合はそれらの障害物との衝撃が起こった場合に緩衝材自体が破損して十分な緩衝効果が期待できない恐れがあった。
また、特許文献9に開示される発明において、仮に本体1を鋼鉄製とし緩衝材8が合成樹脂製のものやゴム製であると想定した場合は、建築物の残骸や剛体との衝突時に、緩衝材8による緩衝効果が不十分となる恐れや、本体1よりも緩衝材8が劣化しやすいという懸念があった。
上記構成の請求項1記載の発明において浮体はその中空部内に避難者を収容して水害時(津波や洪水など)に水面に浮くシェルターとして機能する。また、この浮体が水密なカプセル状とすることで、大きな浮力を生じさせて浮体及び緩衝構造を水面近傍に浮遊させるという作用を有する。また、錘は浮体が水に浮いた際に、浮体の底が鉛直下方を向くように浮体の鉛直上下方向の向きを一定にするという作用を有する。さらに、ハッチは浮体の内部へ人が出入りする際の出入り口となる。
そして、剛体からなるチューブ状の緩衝構造が浮体の胴部の外側面に水平に一体に周設されることで、浮体が多数の障害物がある水面近傍を浮遊する際に、浮体に障害物が直接衝突するのを妨げるという作用を有する。
また、請求項1の発明において緩衝構造を剛体により構成することで、障害物が緩衝構造に衝突した際に、緩衝構造自体を変形させつつその衝撃エネルギーの一部を緩衝構造内部の水圧上昇に変換して緩和して、緩衝構造の内側に収容される浮体に衝撃エネルギーが伝わって破損するリスクを大幅に低減するという作用を有する。そして、緩衝構造に作用した衝撃エネルギーがチューブ体内の水圧の上昇に変換された際に、チューブ体に穿設される孔から排水が起こることで、水圧に変換された衝突エネルギーの一部を外部に放出するという作用を有する。
上記構成の請求項2記載の発明は、請求項1の発明と同じ作用に加えて、チューブ体の環状方向に対する垂直断面形状を円形にすることでチューブ体はシェル構造をなし、チューブ体に障害物が衝突した際にチューブ体を変形し難くするという作用を有する。つまり、チューブ体の強度に関する設計を容易にしながらその強度を高めるという作用を有する。
また、チューブ体の鉛直方向最上位部に穿設されることで、浮体が水に浮かせる際にチューブ体の内部の空気を速やかに外部に排出して、チューブ体の中空部内に速やかに水を侵入させるという作用を有する。
上記構成の請求項3記載の発明において、チューブ体の鉛直下方最下位にも孔を穿設することで、水面近傍に浮体を浮遊させる際に緩衝構造内部への水の侵入とそれに伴う空気の外部への排出を一層スムースにするという作用を有する。
さらに、請求項3ではチューブ体の鉛直方向最上位部と鉛直方向最下部の両位置に孔が形成されることで、チューブ体の外側面の水平方向から外力(衝撃)が加わった際に生じる水圧上昇により、チューブ体の鉛直方向最上位部と鉛直方向最下部の孔から中空部内の水が排出される。この結果、チューブ体の変形をゆっくりと進行させて、浮体に強い衝撃が伝わるのを好適に抑制するという作用を有する。
上記構成の請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のそれぞれの発明と同じ作用に加えて、浮き構造を備えることで、浮体に作用する浮力を高めて浮体内における避難者の収容人数を増加させるという作用を有する。
また、浮き構造を浮体と緩衝構造の接続部分に介設することで、緩衝構造により浮き構造を保護するという作用を有する。加えて、浮体は、緩衝構造に加えて浮き構造の変形によっても保護されるので、浮体の浮遊時に障害物との衝突で浮体が破損するリスクを一層低減するという作用を有する。
上記構成の請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4のそれぞれに記載される発明と同じ作用を有する。
浮体の形状として最も好ましい形態は球形である。しかしながら、浮体の形状が球形である場合は、浮体内に効率よく多数の避難者を収容することができない。
これに対して、浮体の形状を円筒状体、又は、複数の円筒状体を一体に連結したものとした場合は、浮体の強度を高めつつ、多数の避難者を収容可能にするという作用を有する。
加えて、浮体の形状を円筒状体、又は、複数の円筒状体を一体に連結した形態とすることで、浮体を建物や橋台、橋脚などの基礎に使用される円筒形をした鋼製杭を用いて製造可能にするという作用を有する。この場合、浮体の安全性について信頼性の高い製品を容易に量産可能にするという作用を有する。また、個々の円筒状体をユニット化することを可能にするという作用も有する。
上記構成の請求項6記載の発明は、請求項1乃至請求項5のそれぞれに記載される発明と同じ作用に加えて、避難者を収容しないで水に浮かべた際の水害時避難用シェルターの重心位置を水面下とすることで、避難者を収容した状態での水害時避難用シェルターの重心位置を常に水面下にするという作用を有する。
そして、水害時避難用シェルターの重心位置を常に水面下にすることで、水害時避難用シェルターの安定性を高めて、水面近傍を浮遊する際に横揺れが生じるのを抑制するという作用を有する。
また、この緩衝構造を、剛体からなり中空環状のチューブ体により構成し、このチューブ体に多数の孔を穿設して、チューブ体を水没状態にしつつその中空部内も水で満たしておくことで、緩衝構造に障害物が衝突した際の衝突エネルギーを中空部内において水圧上昇に変換するとともに、チューブ体内の水を孔から外部に排出して衝突エネルギーの一部を外部に排出することができる。この場合、緩衝構造の変形がスムースに起こるので、衝突エネルギーは緩衝構造の変形によっても緩和される。この結果、緩衝構造の内側に配される浮体に伝達する衝突エネルギーを小さくすることができる。
これにより、障害物との衝突時に浮体が損傷するリスクを大幅に低減できる。すなわち、請求項1の発明を使用する際の浮体の耐久時間を長くでき、浮体内の避難者の安全性をより長い間確保することができる。
さらに、請求項1の発明において浮体の底に錘を備えることで、浮体の鉛直上下方向の向きを一定にできる。この結果、浮体の揺れを低減して浮体の乗り心地を良好にできる。
この場合、請求項3の発明を水に浮かべて使用する際に、緩衝構造3による緩衝効果を迅速に発揮させることができる。
したがって、緩衝構造を利用して効率よく浮体の損傷を防止することができる。
また、浮き構造が緩衝構造の内側に配置されることで、浮き構造を緩衝構造により保護することができる。この結果、請求項4記載の発明に外部から強い衝撃が加わった際に、浮き構造が損傷するリスクを低減することができる。
さらに、請求項4の発明では、浮体は緩衝構造のみならず浮き構造によっても保護されることになる。これにより、浮体の安全性も一層向上させることができる。
この場合、請求項6の発明の重心位置を水面上にする場合に比べて、浮体の横揺れを小さくできる。この結果、請求項6の発明の乗り心地を良くすることができる。
図1(a)は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの平面図であり、(b)は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの側面図である。また、図2(a)は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの軸方向断面図であり、(b)本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの軸方向に対する垂直断面図である。
より具体的には、図1(a)中のA−A線矢視断面図が図2(a)であり、図1(b)中のB−B線矢視断面図、もしくは、図2(a)中のC−C線矢視断面図が図2(b)である。
図1に示すように、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aは、例えば、鋼板等の剛体からなる水密な中空カプセル状の浮体2と、この浮体2の胴部に水平に周設される中空環状のチューブ体3aからなる緩衝構造3と、浮体2の底に配されて浮体2の鉛直上下方向の向きを調整する錘9(図2を参照)とにより構成されるものであり、浮体2にはその中空部内への人の出入りを可能にするハッチ2aが設けられている。
また、本実施の形態に係る緩衝構造3は、例えば、鋼板等の剛体からなる中空環状のチューブ体3からなり、例えば、溶接などにより浮体2の胴部に一体に固設されている。
さらに、このチューブ体3aには多数の孔4が穿設されており、水害時避難用シェルター1Aを水面近傍に浮遊させた際に、チューブ体3aは完全に水面下に水没する。そして、チューブ体3aの中空部3b内も水で満たされた状態となる。
なお、緩衝構造3により外部からの衝撃が緩和される仕組みについては後段において詳細に説明する。
また、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aでは、浮体2内に避難した避難者6が浮体2の外の様子を確認できるよう浮体2の胴部に窓2bを設けておいてもよい。
なお、浮き構造5の作用、効果についても後段において詳細に説明する。
このような事情に鑑み、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aでは、浮体2の強度を十分に高めるとともに、浮体2内の容積を大きくしつつ、その製造コストを廉価にするために浮体2の外形を円筒状体としている。
また、図2に示すように、浮体2の内部構造は、例えば、浮体2の軸方向と平行に、かつ、互いに向き合うように2つの長椅子状のシート8を設けておき、このシート8に避難者6が座った状態で避難できるよう構成してもよい。
また、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aによる避難は、救命ボートによる避難に近く浮体2に大きな揺れが生じることが予測される。
このため、シート8に安全ベルト7を設けておき、必要に応じて避難者6の体を固定できる構成としてもよい。
図3(a)は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの浮体の軸方向に対する垂直断面図であり、(b)は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの浮体の断片に作用する力を示す概念図である。なお、図1,3に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図3(a)に示すように、浮体2の軸方向に対する垂直断面形状を、例えば、円形とする場合のようにシェル構造とする場合は、その外部から浮体2に対して外力Pが作用した際に、図3(b)に示すような浮体2の断片(図3(a)中のn−n線、m−m線で切り取った浮体2の断片)の端面において、部材に作用する曲げ応力を無視して部材の伸長方向に作用する応力σsのみを考慮すればよいので強度計算を容易にできる。
したがって、浮体2の側面が上述のようなシェル構造となるよう、円形、楕円形、放物線等の曲線状にすることが望ましい。また、特に浮体2の内部空間を広くしつつ、浮体2の製造を容易にするためには、浮体2を筒状体にするとよい。
同様の理由により、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aの緩衝構造3として、その環状方向に対する垂直断面形状が円形であるチューブ体3aを採用している。なお、言うまでもないがチューブ体3aの環状方向に対する垂直断面形状はシェル構造として機能するよう構成されるものであればどのような曲面であってもよい。
図4(a)〜(c)はいずれも本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの浮体が浮遊時に安定する原理を説明するための概念図である。
図4(a)に示すように、浮体10aの軸方向断面形状が矩形である場合、浮体10aが安定した状態では、浮体10aの重心位置Gにおいて浮体10aの重量Wが鉛直下方側に作用する一方で、浮体10aの浮心Cにおいて、浮体10aが水没している容積に比例して生じる浮力PVが鉛直上方側に作用する。そして、浮体10aの重量Wと浮力PVは、浮体10aの作用線(中心線S)上において互いに作用し合う。
図4(b)に示すように、このような状態から浮体10aが回転中心Oを基準に傾くと、浮体10aの浮心はC1の位置に移動し、この位置で浮力PVが作用することになる。これは、図4(b)中において破線でハッチングされた領域の浮力が消失する一方で、図4(b)中において実線でハッチングされた領域の浮力が新たに生じるためである。
そして、図4(b)に示すようなつりあい状態にあるときの浮体10aの重量Wの作用線(中心線S)と、浮体10aが傾いたときの作用線Pの交点がメタセンタMである。このメタセンタMと重心Gとの距離を「メタセンタの高さ」といい、メタセンタMが重心より鉛直上方側に位置する場合は、偶力は元のつりあい状態に戻そうとする向きに作用する。このような偶力が復元力である。
その一方で、図4(c)に示すように、浮体10bの軸方向に対する断面形状が円形である場合は、浮体の重量Wと浮力PVが作用線である中心線S上に常にあるため、偶力が発生することがなく浮体10bは常に安定する。
したがって、本実施の形態に係る浮体2の形状は円筒状体であることが望ましいのである。
さらに、浮体2の長さLが長い場合は、浮体2内に収容可能な避難者6の数も多くできるので、収容人数が多くてコンパクトで安定性の高い水害時避難用シェルター1Aを提供できるというメリットもある。
この場合、浮体2内に多数の避難者6を収容する必要がある場合で、かつ、浮体2の浮力が不十分になる恐れがある場合に、浮き構造5を備えることで浮体2の浮力を補うことができる。このような浮き構造5は浮体2の胴部に例えば溶接するなどして固設するとよい。
なお、図1,2では浮き構造5の環状方向に対する垂直断面形状が半月状である場合を例に挙げて説明しているが、この浮き構造5により大きな浮力を発生させる必要がある場合は、浮き構造5の環状方向に対する垂直断面形状を円形にしてもよい。また、浮き構造5の環状方向に対する垂直断面形状をシェル構造にすることで、浮き構造5の強度も高めることができる。
さらに、このように浮き構造5を、浮体2と緩衝構造3の間に介設することで、緩衝構造3により浮き構造5をも保護することができる。加えて、浮き構造5を備えることで浮体2は、緩衝構造3と浮き構造5の2つの構造物により保護されることになる。
この結果、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aが水面近傍を浮遊する際に、障害物と衝突して浮体2が破損するリスクを一層低減することができる。
もちろん、浮体2のみで十分な浮力を生じさせることができる場合は、必ずしも浮き構造5を備える必要はない。
この場合、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aの外部から緩衝構造3に衝撃が加わった場合に、それぞれの構造体を構成する弾性係数値の小さい順に変形の程度が大きくなる。すなわち、浮体2よりも浮き構造5が、浮き構造5よりも緩衝構造3がより大きく変形する。
この結果、水害時避難用シェルター1Aに障害物が衝突した際に、浮体2から離れた位置に配設される構造物ほど大きく変形することになるので、浮体2に伝わる衝撃は大幅に減衰されることになる。この結果、浮体2の安全性を大幅に高めることができる。
なお、浮体2,浮き構造5,緩衝構造3の柔らかさを変える他の方法としては、浮体2,浮き構造5,緩衝構造3のそれぞれを構成する材質を同じにしつつその厚みを変えるという手段もある。この場合も同様の効果が期待できる。
なお、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aが浮き構造5を備えない場合は、浮体2の弾性係数E2,緩衝構造3の弾性係数E3のそれぞれが、E2>E3の関係を満たすように、あるいは、浮体2及び緩衝構造3を構成する材質が同じである場合は、浮体2を構成する材質の厚みよりも緩衝構造3を構成する材質の厚みが小さくなるように設計するとよい。
さらに、浮体2,浮き構造5,緩衝構造3を構成する材質の弾性係数と厚みの両者をコントロールして、浮体2から離れた位置に配置される構造物ほど柔らかくなるよう構成してもよい。
図5(a)は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの緩衝構造周辺の部分拡大図であり、(b)は図4(a)中のD−D線矢視断面図である。なお、図1乃至図4に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図5(a),(b)に示すように、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aの緩衝構造3は、例えば、鋼板等の剛体からなる中空環状のチューブ体3aに複数の孔4が穿設されてなるものであり、水害時避難用シェルター1Aの使用時に、つまり、水害時避難用シェルター1Aを水面近傍に浮かべて使用する場合に、チューブ体3aが水面下に水没するとともに、その中空部3b内は水(海水又は河水又は淡水等)により満たされた状態となる。
なお、図5では水害時避難用シェルター1Aの浮体2とチューブ体3aの接続部の間に浮き構造5が介設されている場合を例に挙げて説明しているが、先にも述べた通り、浮き構造5は設けなくともよい。
また、緩衝構造3を構成するチューブ体3aに穿設される孔4は、水害時避難用シェルター1Aを水に浮かべた場合に、チューブ体3aの中空部3b内が水で満たされるよう配置されるのであればどこに設けてもよい。
さらに、水害時避難用シェルター1Aを水に浮かべた際にチューブ体3aの中空部3b内にスムースに水を浸入させることができるよう、チューブ体3aの鉛直方向最上位部に加えて、チューブ体3aの鉛直方向最下部にもチューブ体3aを穿設しておいてもよい。
なお、チューブ体3aの環状方向に対する垂直断面形状については特に特定されないが、その強度を高めつつチューブ体3aの設計を容易にするためには先に述べたようなシェル構造を採用するとよい。本実施の形態では、最もシンプルなシェル構造の一例としてチューブ体3aの環状方向に対する垂直断面形状を円形とした場合を例に挙げて説明している。
このような事情に鑑み、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aの緩衝構造3では、先の図1(a)及び図5(b)に示すように、環状方向に対する垂直断面形状が円形であるチューブ体3aの鉛直方向最上位部及び鉛直方向最下位部に所望間隔毎に直列状に孔4を穿設している。
図6は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの緩衝構造の浸漬状況を示す部分断面図である。なお、図1乃至図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aを水に浮かべると、チューブ体3aに穿設される孔4から中空部3b内に水が浸入するとともに、孔4から中空部3b内の空気が排出されてチューブ体3aの中空部3b内は水で満たされ、緩衝構造3は水面下に完全に水没する。
また、水害時避難用シェルター1Aが浮き構造5を備えている場合は、浮体2と緩衝構造3との接続部に介設される浮き構造5も完全に水没した状態になる。このとき、浮き構造5による浮力は最大になる。
図7(a)〜(c)はいずれも本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの緩衝構造が外部からの衝撃を緩和する各プロセスを示す概念図である。また、図8は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの緩衝構造に作用する応力の経時変化を示すグラフである。さらに、図9は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの緩衝構造に作用する応力とひずみの関係を示すグラフである。なお、図1乃至図6に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
より具体的には図7(a)は水害時避難用シェルター1Aの緩衝構造3に外部から衝撃力P1が作用した瞬間を示す概念図である。また、図7(b)は緩衝構造3に衝撃力P1が作用した後時間mが経過した時点の様子を示す概念図である。さらに、図7(c)は緩衝構造3に衝撃力P1が作用した後時間nが経過した時点の様子を示す概念図である。
図6に示すように、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aの外部から緩衝構造3に衝撃力P1が対して加わった場合、衝撃力P1による衝突エネルギーは、緩衝構造3を構成するチューブ体3a並びにその中空部3b内に収容される水によって受け止められる一方で、チューブ体3aと水の抗力が衝撃力P1よりも小さい場合は、図7(a)、図9に示すように衝撃力P1が加わった箇所に変位δの変形が生じる。
そして、図7(a)及び図9に示すように、緩衝構造3において衝撃力P1が加わった箇所が変位δ変形することで、この部位に応力σsが発生するものの、チューブ体3aに形成される孔4が細孔であるため、チューブ体3aに変位δの変形が起こった際に、チューブ体3aの中空部3b内の水が孔4から外部に瞬時に排出されることはない。
このため、チューブ体3aの変位δの変形に伴って生じる応力σsは中空部3b内において水圧に変換されてチューブ体3a内の水圧がσだけ上昇する。(図7(a),図8を参照)
この場合、図8に示すように、チューブ体3aの中空部3b内に収容される水の水圧がピーク値に達する一方で、図9に示すように、チューブ体3aの衝撃力P1が加わった箇所における応力σsはピーク値には達しない。これは、チューブ体3aの中空部3b内の水圧上昇が起きたことで、チューブ体3aの衝撃力P1が加わった箇所における変形が抑制されるためである。
そして、チューブ体3aの衝撃力P1が加わった後、時間mが経過すると、図7(b)に示すように、チューブ体3aの中空部3b内の水が孔4から徐々に排出される結果、図8に示すように、チューブ体3aの中空部3b内の水圧はσからσmにまで低下する。つまり、チューブ体3aに衝撃力P1が加わったことにより中空部3b内の水の圧力上昇に変換された衝突エネルギーの一部は、孔4からの排水という現象により緩衝構造3の外部に放出されるのである。
さらに、孔4からの排水が起こることで、チューブ体3aの衝撃力P1が加わった箇所における抗力が低下するので、その部分のチューブ体3aの変形がさらに進んで変位はδmとなる。すなわち、図7(b)及び図9に示すように、チューブ体3aに衝撃力P1が加わった時点の応力σmは、時間mの経過後にσsmにまで増加する。
この結果、緩衝構造3に繰り返し衝撃力P1が作用する場合に、中空部3b内が水で満たされていない緩衝構造3を使用する場合に比べて、緩衝構造3の破損時期を遅くすることができ、これにより、浮体2の安全性を高めることができる。
つまり、緩衝構造3の内部を水で満たし、かつ、その水を外部にゆっくりと排水可能に構成することで、緩衝構造3を中実体により構成する場合に期待される外部からの衝撃力に対する抗力を高める効果と、緩衝構造3を中空材により構成する場合に期待される外部からの衝撃力をそれ自体の変形により吸収するという効果を同時に発揮させて、緩衝構造3の変形による破壊をゆっくりと進行させることができるのである。
すなわち、図9に示すように、緩衝構造3に対して複数回衝撃力(例えば、衝撃力P1,P2,P3,P4)が作用した場合は、その度ごとに永久ひずみ(例えば、永久ひずみε1,ε2,ε3)が生じ、最終的には緩衝構造3が破損する。なお、図9では、緩衝構造3に対して衝撃力が4回作用した場合に緩衝構造3の破壊が起こる場合を例に挙げて説明しているが、緩衝構造3の破壊が起こるタイミングは衝撃力の大きさや頻度により決まるので一概には説明できない。
しかしながら、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aによれば図5に示すような緩衝構造3を備えることで、外部から作用する衝撃力を効率よく緩和して、浮体2の破損を遅延させることができる。
なお、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aにおける浮き構造5を緩衝構造3と同様の形態としてもよい。すなわち、浮き構造5にも孔4を複数穿設しておき、浮き構造5が水面下に水没した際にその中空部5a内が水で満たされるよう構成してもよい。この場合、緩衝構造3は第1の緩衝構造に、浮き構造5は第2の緩衝構造となる。
このように緩衝構造(第1の緩衝構造)に加えて、第2の緩衝構造を備える場合は、緩衝構造3及び浮き構造5を備える場合に比べてより高い緩衝効果が期待できる。ただし、第2の緩衝構造は浮体2の浮力の向上には寄与しないので、浮体2により十分な浮力を発生させることができる必要がある。
先の図1,2に示すように、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aにより避難する場合は、避難者6は浮体2の例えば上部に形成されるハッチ2aから浮体2内に乗り込み、シート8に座った状態で必要に応じてシート8に設けられる安全ベルト7により体を固定して救助されるのを待つことになる。
このため浮体2の高さHは少なくともワゴンタイプの大型乗用車程度の大きさがあれば十分である。このような浮体2は、例えば、建物や橋台、橋脚などの基礎に使用される円筒状の鋼製杭(最大径2.6m)を用いて製造することができる。このように、浮体2を性能が明確な規格品を利用して製造することで、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aを設計する際の強度計算を容易にできる上、その製造も容易になり、さらに十分な安全性も確保できる。
さらに、本実施の形態に係る水害時避難用シェルター1Aの緩衝構造3や浮き構造5あるいは第2の緩衝構造を構成する中空環状体にも建物や橋台、橋脚などの基礎に使用される円筒状の鋼製杭で性能が明確な規格品を用いることが望ましい。この場合も同様に、信頼性の高い水害時避難用シェルター1Aを量産できるというメリットがある。
なお、先の図1,2には特に示さないが、浮体2の内壁面に断熱材等を貼設して浮体2の内部空間温度が適度に保たれる構成としてもよい。さらに、浮体2の内部に設けられるシート8の内部に、避難時に使用可能な備品、例えば、ライト、水、食糧、防寒具、救急用品、簡易トイレ等を収納しておいてもよい。
図10は本発明の実施の形態に係る水害時避難用シェルターの変形例を示す断面図である。なお、図1乃至図9に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
多数の避難者6を収容可能な水害時避難用シェルターを製造する必要がある場合は、例えば、図10に示すように、円筒体状の浮体2を複数個その中心軸を平行にかつ水平に配しながら一体に連結し、その周囲に緩衝構造3及び、必要に応じて浮き構造5や第2の浮き構造(図示せず)を周設した構造にしてもよい。
このような本実施の形態の変形例に係る水害時避難用シェルター1Bにおいては、浮体2を構成する複数個の筒状体の内部空間を一体に連結してもよいし、浮体2を構成する複数個の筒状体の内部空間をそれぞれ独立させてもよい。あるいは、浮体2を構成する複数個の筒状体の内部空間をそれぞれ独立させつつ、扉等を備えて必要に応じて他の内部空間への移動を可能にしてもよい。
このような本実施の形態の変形例に係る水害時避難用シェルター1Bによれば、多数の避難者6を同時にかつ安全に収容して避難させることができる。
Claims (6)
- 剛体からなる水密な中空カプセル状の浮体と、前記浮体に周設される中空環状のチューブ体からなる緩衝構造と、前記浮体の底に配設される錘と、を有し、
前記浮体は、その中空部内へ人の出入りを可能にするハッチを備え、
前記チューブ体は、剛体からなりその胴部に複数の孔を備えて、前記浮体が水に浮く際に完全に水没するとともに、前記チューブ体の中空部内も水で満たされることを特徴とする水害時避難用シェルター。 - 前記チューブ体の環状方向に対する垂直断面形状は円形であり、
前記孔の少なくとも一部は、前記チューブ体の鉛直方向最上位部に穿設されていることを特徴とする請求項1記載の水害時避難用シェルター。 - 前記孔は前記チューブ体の鉛直方向最下位にも穿設されていることを特徴とする請求項2に記載の水害時避難用シェルター。
- 前記浮体と前記緩衝構造との接続部分に、浮き構造が介設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水害時避難用シェルター。
- 前記浮体は、円筒状体、又は、複数の円筒状体をそれぞれの軸を平行に配しながら一体に連結してなるものであり、
前記円筒状体の軸は水平に配されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の水害時避難用シェルター。 - 避難者を収容しないで水に浮かべた際の前記水害時避難用シェルターの重心位置は水面下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の水害時避難用シェルター。
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