以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)の製造方法は、非晶性樹脂、結晶性樹脂およびワックスを含有するトナー粒子よりなるトナーを製造する方法である。
<第1の実施の形態>
本発明のトナーの製造方法は、
(A)結晶性樹脂微粒子を水系媒体中に乳化分散させ、樹脂微粒子分散液を調製する工程、
(B)ワックスを融点以上の温度でビニルモノマーに溶解させ、モノマー溶液を調製する工程、
(C)前記樹脂微粒子分散液と前記モノマー溶液を混合し、前記樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を形成する工程、
(D)前記モノマー液滴を重合する工程、
(E)前記モノマー液滴を重合した後、さらに前記結晶性樹脂および前記ワックスの融点以上の温度で保持させ、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子を形成する工程、
(F)前記ワックス層形成結晶性樹脂微粒子、および非晶性樹脂からなる微粒子を凝集、融着させることによりトナー粒子を形成する工程、
からなり、具体的には、さらに
(G)前記トナー粒子の分散液から当該トナー粒子を固液分離し、当該トナー粒子から界面活性剤などを除去する濾過、洗浄工程、
(H)洗浄処理されたトナー粒子を乾燥する乾燥工程、
(I)乾燥処理されたトナー粒子に外添剤を添加する外添剤添加工程、
を経ることが好ましい。
以下において、結晶性樹脂と共にワックス層形成結晶性樹脂微粒子を形成するワックスを、「層形成用ワックス」という。
〔トナー粒子の構成〕
以下、図面を用いて説明する。図1は、本発明の製造方法で得られてなるトナー粒子(静電荷像現像用トナー)の構成の一例を示す模式断面図である。図2は、本発明の製造方法において、結晶性樹脂微粒子分散液とワックスを溶解してなるビニルモノマー溶液を混合し、結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を形成し重合しアニールして、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子を形成する様子(概要)を模式的に表した図面である。
以上のような本発明の製造方法を用いることにより、図1に示すように、結晶性樹脂による結晶性樹脂微粒子12が層形成用ワックスによるワックス層13に包含されてなる微粒子(ワックス層形成結晶性樹脂微粒子)15が、非晶性樹脂(マトリックス)16中に含有(分散)された構造を有するトナー粒子11が得られる。
詳しくは、結晶性樹脂微粒子(ドメイン)12を内包し、かつ該結晶性樹脂微粒子(コア部)12とビニル樹脂層(シェル部)14の界面にワックス層13が存在するコア・シュル型の多層構造の微粒子15が、非晶性樹脂マトリックス16中に含有(分散)された(マトリックス・ドメイン)構造を有するトナー粒子11が得られる。すなわち、結晶性樹脂微粒子(ドメイン)12と非晶性樹脂(マトリックス)16とがワックス層13、更にはビニル樹脂層14によって仕切られることによって当該非晶性樹脂(マトリックス)16および結晶性樹脂微粒子(ドメイン)12が互いに相分離された状態を有するトナー粒子11が得られる。
本発明の製造方法を用いることにより、図1に示すマトリックス・ドメイン構造のトナー粒子11が得られるのは、トナー粒子11のメインバインダーである非晶性樹脂マトリックス16中に、結晶性樹脂のドメインを形成する手段として、図2に示すように、結晶性樹脂微粒子12の表面に、ビニルモノマー14’にワックス13’を溶解してなるモノマー溶液17を用い、重合(シード重合など;工程(D))及びアニーリング(工程(E))を利用してワックス層13、更にはビニル樹脂層14を形成することで、非晶性樹脂マトリックス16中においても、ワックス含有樹脂層13、14がブロック層として機能し、結晶性樹脂微粒子12の非晶性樹脂マトリックス16へのマイグレーション(物質移行)を防止することができる。重合(工程(D))及びアニーリング(工程(E))時は、結晶性樹脂およびワックスの融点以上の温度で行うが、結晶性樹脂に対しワックスの粘度が低いことで、ワックスが外側に押し出され、結晶性樹脂による結晶性樹脂微粒子12とビニル樹脂層14の界面にワックス(層)13が存在する構造を形成すると考えられる。以上の観点から結晶性樹脂に対し(層形成用)ワックスの粘度が低いことが望ましい。
ここに、微粒子(ワックス層形成結晶性樹脂微粒子)15は、後述するように熱履歴を受けたときの結晶性樹脂微粒子(ドメイン)12と非晶性樹脂(マトリックス)16との相溶の程度が小さく抑制される効果を確実に得る観点から、ワックス層13が結晶性樹脂微粒子12を完全に被覆している形態を有することが好ましいが、結晶性樹脂微粒子12の一部を被覆している形態であっても上記の相溶の抑制の効果はある程度得られると考えられることから、このような形態を有していてもよい。言い換えれば、コア・シュル型の多層構造の微粒子(ワックス層形成結晶性樹脂微粒子)15は、結晶性樹脂微粒子(ドメイン)12を内包し、かつ該結晶性樹脂微粒子(コア部)12とビニル樹脂層(シェル部)14の界面全体(全域)にワックス層13が存在する形態を有することが好ましいが、界面の一部にワックス層13が存在する形態であっても上記の相溶の抑制の効果はある程度得られると考えられることから、このような形態を有していてもよいといえる。
このようなトナー粒子11の構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)などの公知の手段を用いて確認することができる。具体的には、まず、トナーを光硬化性樹脂に包埋し、必要に応じて染色処理を施した後、ウルトラミクロトーム「EM UC6」(LEICA社製)により加速電圧200kVで設定厚100nmの超薄切片を作製し、当該超薄切片について透過型電子顕微鏡(TEM)「2000FX」(日本電子社製)によって倍率10,000倍の断面写真を撮影することにより、確認することができる。
上記の製造方法において、結晶性樹脂微粒子12がワックス層13に包含された微粒子(ワックス層形成結晶性樹脂微粒子)15が形成される理由としては、以下のように考えられる。
すなわち、微粒子(ワックス層形成結晶性樹脂微粒子)15の内部においては、結晶性樹脂による相と層形成用ワックスによる相とがそれぞれ微細なドメインを形成して相分離した状態となっていると考えられ、そして、アニール工程(工程(E))において微粒子15が結晶性樹脂およびワックスの融点以上の温度に保持されることによって、微粒子15において溶融粘度が比較的高い結晶性樹脂が層形成用ワックスを押し出しつつ中心部に集合するよう移動して結晶性樹脂微粒子12が形成される結果、層形成用ワックスが結晶性樹脂微粒子12を包含する状態に微粒子15の外殻側に残り、これにより、ワックス層13が形成されるものと推測される。以上のことから、(層形成用)ワックスよりも結晶性樹脂の方が溶融粘度が高いことが望ましい。
従って、以上のような本発明のトナーは、ガラス転移点の低い結晶性樹脂(結晶性樹脂微粒子12の成分)がトナー粒子11の表面にマイグレーション(物質移行)することがないため、低温定着性が維持された状態で、長期保存安定性を得ることができる。また、トナーの製造工程における結晶性樹脂と非晶性樹脂との相溶の程度が小さく抑制されるので、トナーの製造工程において加熱条件(工程(F)の凝集・融着温度条件)が変動された場合にも結晶性樹脂と非晶性樹脂との相溶に起因するガラス転移点の変動が抑制されるために、優れた製造安定性が得られる。
工程(A);結晶性樹脂微粒子分散液調製工程
本工程(A)は、結晶性樹脂微粒子を水系媒体中に乳化分散させ、結晶性樹脂微粒子分散液を調製するものである。
本工程(A)においては、水系媒体に対して結晶性樹脂溶解液を徐々に添加することが好ましいが、結晶性樹脂溶解液に対して水系媒体を徐々に添加する転相乳化法を行ってもよい。
具体的な手順としては、まず、結晶性樹脂溶解液を調製する。次に、水系媒体を所定の温度に加温した後に、当該水系媒体に対して上記結晶性樹脂溶解液を添加する、または、水系媒体を所定の温度に加温した後に、上記結晶性樹脂溶解液に対して水系媒体を添加することが好ましい。これにより乳化液を調製する。その後、得られた乳化液に、必要に応じて更に水系媒体を添加し、所定温度に加温し、減圧することで、結晶性樹脂溶解液に用いた有機溶媒を除去(留去)し、更に常圧に戻して冷却することで、結晶性樹脂微粒子分散液を得ることができる。更に必要に応じて、結晶性樹脂微粒子分散液中の固形分濃度を調整するために、水系媒体を添加してもよい。
(結晶性樹脂溶解液の調製方法)
上記結晶性樹脂溶解液の調製方法としては、特に制限されるものではなく、適当な撹拌混合手段を有する容器に結晶性樹脂と有機溶媒を投入し、所定の温度、好ましくは結晶性樹脂の融点以上の温度に保持しながら、撹拌混合しつつ結晶性樹脂を有機溶媒に溶解させることにより、調製することができる。
〔結晶性樹脂〕
本工程(A)の結晶性樹脂溶解液の調製に用いられる結晶性樹脂(即ち、本発明のトナーを構成するトナー粒子11に含有される結晶性樹脂微粒子12の構成成分である結晶性樹脂)の融点は、40〜100℃であることが好ましく、より好ましくは56〜75℃である。結晶性樹脂の融点が上記の範囲にあることにより、十分な低温定着性および優れた保存安定性が得られる。
ここに、結晶性樹脂の融点は、具体的には、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用い、昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/minで200℃から0℃まで冷却する冷却過程、および昇降速度10℃/minで0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって測定されるものであり、この測定によって得られるDSC曲線に基づいて、第1昇温過程における結晶性樹脂に由来の吸熱ピークトップ温度を、融点とするものである。測定手順としては、結晶性樹脂3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ダイヤモンドDSCサンプルホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。
また、結晶性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量は、低温定着性と耐熱保管性の両立の観点から、7,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜25,000の範囲である。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量およびピーク分子量の測定は、具体的には、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出される。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いた。
結晶性樹脂のピーク分子量としては、3,000〜32,000であることが好ましく、より好ましくは3,200〜14,000の範囲である。
結晶性樹脂のピーク分子量が上記の範囲にあることにより、当該結晶性樹脂に層形成用ワックスと比較して高い溶融粘度が得られて確実に結晶性樹脂と非晶性樹脂との相溶の抑制の効果に有効なワックス層13を形成することができる。即ち、結晶性樹脂のピーク分子量が3,000〜32,000の範囲内であれば、結晶性樹脂と非晶性樹脂との相溶を十分に抑制することができる。そのため、得られるトナーは、耐熱保管性に優れ、また、十分な低温定着性が得られるものとなる。これは、工程(E)(アニール工程)において結晶性樹脂の中心部への集合を十分に行うことができ、得られるワックス層13が結晶性樹脂と非晶性樹脂との相溶の抑制の効果に有効なものとなるためと推測される。
本発明のトナーを構成するトナー粒子11において、結晶性樹脂は、非晶質樹脂16からなる結着樹脂(バインダー樹脂)と併用されるが、非晶質樹脂に対して相溶することもできるが、トナーの製造方法次第では相分離した領域を形成できるものであって、加熱定着時のトナーの溶融粘度をいち早く低下させる機能を有する。一方で離型剤と明確に相分離されて、本質的には離型剤としては機能しないものである。
ピーク分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されたスチレン換算分子量による分子量分布から得られるものであり、ピーク分子量とは、分子量分布におけるピークトップの溶出時間に相当する分子量をいう。分子量分布におけるピークトップが複数存在する場合は、ピーク面積比率の一番大きなピークトップの溶出時間に相当する分子量をいう。
結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリウレア樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリエーテル樹脂などが挙げられ、特に、結晶性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
本発明において、結晶性樹脂とは、上記の示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定されるDSC曲線において、明確な吸熱ピークを有するものをいう。
〔結晶性ポリエステル樹脂〕
結晶性樹脂として好適な結晶性ポリエステル樹脂は、2価のアルコール成分(ジオール成分)と2価のカルボン酸成分(ジカルボン酸成分)との重縮合物であることが好ましい。また、ラクトンの開環重合物や、ポリヒドロキシカルボン酸を用いることもできる。
(ジオール成分)
結晶性ポリエステル樹脂を得るためのジオール成分としては、結晶性が高く耐熱保管性に優れるため脂肪族ジオールを用いることが好ましく、特に炭素数2〜12の脂肪族ジオールを用いることが好ましい。また、直鎖型の脂肪族ジオールを用いることが好ましい。また、分岐型の脂肪族ジオールや脂環式の脂肪族ジオールを用いることもできる。
直鎖型の脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,2−エイコサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールを用いることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂を得るためのジオール成分としては、上記のもの以外にも、必要に応じてその他のジオールを用いることができる。
その他のジオールとしては、1,2−プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、テトラデカンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールなどの炭素数2〜12の分岐型脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−アダマンチルジメタノールなどの炭素数4〜12の脂環式ジオール;これらの脂環式ジオールのエチレンオキサイド(EO)付加物、プロピレンオキサイド(PO)付加物、ブチレンオキサイド(BO)付加物(付加モル数1〜3)などのアルキレンオキサイド(AO)付加物;ポリε−カプロラクトンジオールなどのポリラクトンジオール;ポリブタジエンジオールなどが挙げられる。
(ジカルボン酸成分)
結晶性ポリエステル樹脂を得るためのジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましく、特に直鎖型の脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸などの炭素数4〜12のアルカンジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸などの炭素数4〜6のアルケンジカルボン酸などが挙げられる。
これらの中でも、脂肪族ジカルボン酸、特に直鎖型の脂肪族ジカルボン酸を単独で用いることが好ましく、直鎖型の脂肪族ジカルボン酸としては、結晶性樹脂の結晶性の観点から、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸を用いることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸と共に芳香族ジカルボン酸を用いる場合は、テレフタル酸、イソフタル酸を用いることが好ましい。
(ラクトン)
結晶性ポリエステル樹脂を得るためのラクトンとしては、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどの炭素数3〜12のモノラクトン環(環中にエステル基数が1個)などのラクトン類が挙げられる。結晶性樹脂の結晶性の観点から、ε−カプロラクトンを用いることが好ましい。
ラクトンの開環重合物は、具体的には、上記のラクトンを金属酸化物や、有機スズ化合物、有機チタン化合物、有機ハロゲン化スズ化合物などの有機金属化合物などを触媒として用いて開環重合を行うことによって得ることができる。触媒の添加量は、通常0.1〜5,000ppmとされる。また、反応温度は100〜230℃とされる。ラクトンの開環重合は、不活性雰囲気下で行われることが好ましい。
ラクトンの開環重合物は、末端にヒドロキシル基を有するものであってもよく、このような開環重合物は、開環重合の重合開始剤としてエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類を用いることによって得られる。また、末端にカルボキシル基を有するものであってもよい。
(ポリヒドロキシカルボン酸)
結晶性ポリエステル樹脂を構成するポリヒドロキシカルボン酸は、グリコール酸、乳酸(D体、L体、ラセミ体)などのヒドロキシカルボン酸を直接脱水縮合することにより、得ることができる。ただし、グリコリド、ラクチド(D体、L体、ラセミ体)などのヒドロキシカルボン酸の二分子間もしくは三分子間脱水縮合物に相当する炭素数4〜12の環状エステル(環中のエステル数2〜3個)を金属酸化物、有機金属化合物などの触媒を用い、開環重合を行う方法を用いることが、結晶性ポリエステル樹脂の分子量の制御性の観点から好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を調整する観点から、L−ラクチトおよびD−ラクチドを用いることが好ましい。
〔結晶性ポリウレタン樹脂〕
結晶性ポリウレタン樹脂は、ジオール成分とジイソシアネート成分とから合成されるものであることが好ましい。
結晶性ポリウレタン樹脂を得るためのジオール成分としては、上述と同様のものを用いることができる。
(ジイソシアネート成分)
結晶性ポリウレタン樹脂を得るためのジイソシアネート成分としては、炭素数6〜20(ただしNCO基中の炭素は除く)の芳香族ジイソシアネート、炭素数2〜18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4〜15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8〜15の芳香脂肪族ジイソシアネート、およびこれらのジイソシアネートの変性物などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
結晶性ポリウレタン樹脂を得るためのジイソシアネート成分としては、上記のジイソシアネートと共に3価以上のポリイソシアネートを用いてもよい。
芳香族ジイソシアネートとしては、1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリアリルポリイソシアネート(PAPI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−およびp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどが挙げられる。
脂肪族ジイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジシアナトヘキサノエートなどが挙げられる。
脂環式ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−および/または2,6−ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、m−および/またはp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α、α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートが挙げられる。
ジイソシアネートの変性物としては、ウレタン基、カルボジイミド基、アロファネート基、ウレア基、ビューレット基、ウレトジオン基、ウレシイミン基、イソシアヌレート基、オキサゾリドン基による変性物などが挙げられる。具体的には、ウレタン変性MDI、ウレタン変性TDI、カルボジイミド変性MDI、トリヒドロカルビルホスフェート変性MDIなどが挙げられ、これらは1種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
これらの中でも、炭素数6〜15の芳香族ジイソシアネート、炭素数4〜12の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4〜15の脂環式ジイソシアネートを用いることが好ましく、特に好ましくはTDI,MDI,HDI,水添MDI,IPDIである。
〔結晶性ポリアミド樹脂〕
結晶性ポリアミド樹脂は、ジアミン成分とジカルボン酸成分との反応から得られたものであることが好ましい。
結晶性ポリアミド樹脂を得るためのジカルボン酸成分としては、上述と同様のものを用いることができる。
(ジアミン成分)
結晶性ポリアミド樹脂を得るためのジアミン成分およびポリアミン成分としては、脂肪族ジアミンまたは脂肪族ポリアミンを用いることが好ましく、芳香族ジアミンを用いることもできる。
脂肪族ジアミンおよび脂肪族ポリアミンとしては、以下のものが挙げられる。
(1)直鎖型脂肪族ジアミン
エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンシアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの炭素数2〜6のもの。
(2)脂肪族ポリアミン
ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどの炭素数2〜6のもの。
(3)分岐型脂肪族ジアミン
ジアルキル(炭素数1〜3)アミノプロピルアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサメチレンジアミン、メチルイミノビスプロピルアミン。
(4)脂環式ジアミン
1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、4,4’−メチレンジシクロヘキサンジアミン(水添メレンジアミン)などの炭素数4〜15のもの。
(5)複素環式ジアミン
ピペラジン、4−アミノエチルピペラジン、1,4−ジアミノエチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンなどの炭素数4〜15のもの。
(6)芳香環含有脂肪族ジアミン
キシリレンジアミン、テトラクロロ−p−キシリレンジアミンなどの炭素数8〜15のもの。
脂肪族ジアミン、脂肪族ポリアミンと併用することができる芳香族ジアミンしては、炭素数6〜20のものが挙げられ、具体的には、以下のものを用いることが好ましい。
(7)非置換の芳香族ジアミン
1,2−、1,3−および1,4−フェニレンジアミン、2,4’−および4,4’−ジフェニルメタンジアミン、ポリフェニルポリメチレンポリアミン、ジアミノジフェニルスルホン、チオジアニリン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)スルホン、2,6−ジアミノピリジン、m−アミノベンジルアミン、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリアミン、ナフチレンジアミンなど。
(8)炭素数1〜4のアルキル基により核置換された芳香族ジアミン
2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、エチルトリレンジアミン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ビス(o−トルイジン)、ジアニシジン、ジアミノジトリルスルホン、1,3−ジメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,4−ジイソプロピル−2,5−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジエチル−2,4,3,3’,5.5’−テトラメチルベンジジン、3,3’,5,5’−テトラメチル4,4’−ジメチルジフェニルメタン、3,5−ジエチル−3’−メチル−2’,4−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−2.2’−アミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルスルホンおよびこれらの異性体の混合物など。
上記(7)〜(8)の芳香族ジアミンのアミノ基の一部または全部が−NH−R1(ただし、R1はメチル基、エチル基などの低級アルキル基)により置換されたもの、4,4’−ジ(メチルアミノ)ジフェニルメタン、1−メチル−2−メチルアミノ−4−アミノベンゼンなど。
また、結晶性ポリアミド樹脂を得るためのポリアミン成分としては、以下のその他のポリアミン成分を用いることもできる。
(9)その他のポリアミン
ダイマー酸などのジカルボン酸と過剰(ジカルボン酸酸1モルに対して2モル以上)の脂肪族ポリアミンとの縮合により得られる低分子量ポリアミドポリアミン、ポリアルキレングリコールなどのポリオールのシアノエチル化物の水素化物などのポリエーテルポリアミンなど。
〔結晶性ポリウレア樹脂〕
結晶性ポリウレア樹脂は、ジアミン成分とジイソシアネート成分との反応から得られたものであることが好ましい。
結晶性ポリウレア樹脂を得るためのジアミン成分、ポリアミン成分としては、上述と同様のものを用いることができる。
また、結晶性ポリウレア樹脂を得るためのジイソシアネート成分としては、上述と同様のものを用いることができる。
〔結晶性ポリエーテル樹脂〕
結晶性ポリエーテル樹脂としては、結晶性ポリオキシアルキレンポリオールなどを用いることができる。
結晶性ポリオキシアルキレンポリオールの製造に用いられるアルキレンオキサイド(AO)としては、炭素数3〜9のものが挙げられる。
具体的には、炭素数3のアルキレンオキサイド(AO)としては、プロピレンオキシド、1−クロロオキタセン、1,2−ジクロロオキタセン、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリンなどが挙げられる。
炭素数4のアルキレンオキサイド(AO)としては、1,2−ブチレンオキサイド、メチルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
炭素数5のアルキレンオキサイド(AO)としては、1,2−ペンチレンオキサイド、2,3−ペンチレンオキサイド、3−メチル−1,2−ブチレンオキサイドなどが挙げられる。
炭素数6のアルキレンオキサイド(AO)としては、シクロヘキセンオキサイド、1,2−ヘキシレンオキサイド、2,3−へキシレンオキサイド、3−メチル−1,2−ペンチレンオキサイド、4−メチル−2,3−ペンチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
炭素数7のアルキレンオキサイド(AO)としては、1,2−へブチレンオキサイドが挙げられる。
炭素数8のアルキレンオキサイド(AO)としては、スチレンオキサイドが挙げられる。
炭素数9のアルキレンオキサイド(AO)としては、フェニルグリシジルエーテルが挙げられる。
これらのアルキレンオキサイドのうち、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイドを用いることが好ましく、特にプロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイドを用いることが好ましく、重合速度が高いことから、最も好ましくはプロピレンオキサイドである。これらのアルキレンオキサイド(AO)は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
結晶性ポリオキシアルキレンポリオールの合成方法としては、従来公知の種々の方法を用いることができる。具体的には、Journal of the American Chemical Society 78,18,p.4787−4792(1956)に開示されるキラル体のアルキレンオキサイド(AO)を通常アルキレンオキサイド(AO)の重合で用いられる触媒を使用して開環重合する方法、特開平11−12353号公報に開示される立体的に嵩高いランタニド錯体と有機アルミニウムとを接触させた化合物を触媒として用いる方法、特表2001−521957号公報に開示されるバイメタルμ−オキソアルコキサイドとビロキシル化合物とを予め反応させる方法、Journal of the American Chemical Society 127,33,p.11566−11567(2005)に開示される高いアイソクティシティのポリオキシアルキレンポリオールを得る方法などが挙げられる。
キラル体のアルキレンオキサイド(AO)を開環重合する方法においては、重合開始剤としてグリコールまたは水を用いることによって、末端にヒドロキシル基を有するアイソタクティシティが50%以上のポリオキシアルキレングリコールが得られる。アイソタクティシティが50%以上であるポリオキシアルキレングリコールは、その末端がカルボキシル基に変性されていてもよい。通常、アイソタクティシティが50%以上であると、結晶性のものとなる。
アイソタクティシティは、高シャープメルト性、耐ブロッキング性を得る観点から、70%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。
アイソタクティシティは、Macromolecule,35,6,p.2389−2392(2002)に開示された方法によって測定されるものである。
具体的には、測定試料30mgを直径5mmの13C−NMR用試料管に秤量、0.5mlの重水素化溶媒(重水素化クロロホルム、重水素化トルエン、重水素化ジメチルホルムアミド、重水素化ジメチルスルホキシドなど、試料を溶解可能な溶剤を選択)を加えて溶解させ、13C−NMRの三枝類のメチン基由来のシグナル、それぞれシンジオタクチック値:75.1ppm付近、ヘテロタクチック値:75.3ppm付近、アイソタクチック値:75.5ppm付近を観測し、下記式(a)から算出することができる。
上記式(a)中、I:アイソタクチック値の積分値、S:シンジオタクチック値の積分値、H:ヘテロタクチック値の積分値である。
以上の結晶性樹脂は、その2種以上がブロック共重合体として結合された構成を有していてもよい。
〔有機溶媒〕
本工程(A)の結晶性樹脂溶解液の調製に用いられる有機溶媒としては、結晶性樹脂を溶解し、その沸点が結晶性樹脂の融点よりも高いものであればよく、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコールなどを好ましく用いることができる。上記した有機溶媒は、所望に応じて、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、脱溶媒時における有機溶媒の留去の温度を実用的な減圧下に30〜50℃の範囲に制御することが好ましく、より好ましくは30〜45℃の範囲に制御することが望ましいために、酢酸エチルを用いることが特に好ましい。
結晶性樹脂を有機溶媒に溶解させる際の温度は、結晶性樹脂の融点以上の温度であればよいが、経済性ないし生産コストの観点から、結晶性樹脂の融点と同じ〜5℃高い温度であることが好ましく、より好ましくは結晶性樹脂の融点より2〜5℃高い温度で行うのが望ましい。
本工程(A)の結晶性樹脂溶解液の調製に用いられる結晶性樹脂の使用量は、生産性および溶媒に対する樹脂の溶解度の観点から、結晶性樹脂溶解液に対して10〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜60質量%の範囲である。
結晶性樹脂溶解液の調製に用いられる撹拌混合手段を有する容器(装置)としては、特に制限されるものではなく、例えば、コンデンサー、温度計、水滴下装置、アンカー翼を備えたジャケット付き3リットル反応槽(東京理化器械(株)製:BJ−30N)などが挙げられる。
(乳化液の調製)
本工程(A)では、水系媒体に対して結晶性樹脂溶解液を徐々に添加して乳化液を調製することが好ましいが、結晶性樹脂溶解液に対して水系媒体を徐々に添加する転相乳化法を行って乳化液を調製してもよい。
前者の乳化液を調製法では、水系媒体を所定の温度に加温した後に、当該水系媒体に対して、所定の温度に加温した結晶性樹脂溶解液を添加して乳化分散して乳化液を調製する。ここで当該水系媒体の温度は、結晶性樹脂溶解液と同じ温度で行うことが望ましい。なお、上記手順で乳化分散して乳化液を調製する期間中は、水系媒体を適当に撹拌混合しながら行う。かかる撹拌混合により、乳化分散されて形成される乳化液の中にある油滴(ミセル)を、所望の油滴サイズ(=結晶性樹脂微粒子サイズ)になるように調製することで、所望の粒子サイズを有する結晶性樹脂微粒子分散液を得ることができる。また、水系媒体に対して結晶性樹脂溶解液を徐々に添加するのが望ましい。具体的には、結晶性樹脂溶解液の添加(滴下)速度を、上記の通り油滴の粒径制御の観点から、水系媒体100質量部に対して0.1〜10質量部/分とするのが好ましく、より好ましくは1〜5質量部/分の範囲である。なお、乳化時に油滴の分散安定性を高めるために、中和剤としてアルカリを添加した方が良い。具体的には水酸化ナトリウム、アンモニアなどが挙げられる。
後者の乳化液を調製法(転相乳化法)でも、水系媒体を所定の温度に加温した後に、所定の温度に加温した結晶性樹脂溶解液に対して水系媒体を添加して乳化分散して乳化液を調製する。ここで当該水系媒体の温度は、結晶性樹脂溶解液と同じ温度で行うことが望ましい。なお、上記手順で乳化分散して乳化液を調製する期間中は、結晶性樹脂溶解液を適当に撹拌混合しながら行う。かかる撹拌混合により、乳化分散されて形成される乳化液の中にある油滴(ミセル)を、所望の油滴サイズ(=結晶性樹脂微粒子サイズ)になるように調製することで、所望の粒子サイズを有する結晶性樹脂微粒子分散液を得ることができる。また、結晶性樹脂溶解液に対して水系媒体を徐々に添加するのが望ましい。具体的には、水系媒体の添加(滴下)速度を、上記の通り油滴の粒径制御の観点から、結晶性樹脂溶解液100質量部に対して0.1〜10質量部/分とするのが好ましく、より好ましくは1〜5質量部/分の範囲である。なお、転相乳化時に油滴の分散安定性を高めるために、中和剤としてアルカリを添加した方が良い。具体的には水酸化ナトリウム、アンモニアなどが挙げられる。
〔水系媒体〕
本工程(A)の乳化液を調製に用いられる「水系媒体」とは、水50〜100質量%と、水溶性の有機溶媒0〜50質量%とからなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランを例示することができ、樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒を用いることが好ましい。
また、水系媒体には、必要に応じて、アミンやアンモニアが溶解されていてもよい。
〔界面活性剤〕
上記の水系媒体中においては、必要に応じて、通常のカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などの界面活性剤(乳化剤)が溶解されていてもよい。界面活性剤(乳化剤)としては、結晶性樹脂微粒子の分散安定性に優れ、また、温度変化に対する安定性が得られることから、アニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類;ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類;ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類;ポリエトキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩、およびその誘導体類などを挙げることができる。
以上の界面活性剤は、所望に応じて、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
界面活性剤を使用する場合において、界面活性剤の添加量は、結晶性樹脂微粒子の分散安定性の観点から、結晶性樹脂溶解液に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5.0質量%の範囲である。
上記した乳化液の調製において、乳化分散させる具体的な手段としては、機械的エネルギーを付与することが挙げられ、機械的エネルギーを付与するための分散装置としては、特に限定されるものではなく、例えば高速回転可能なローターを備えた撹拌装置や、超音波分散装置や機械式ホモジナイザー、マントンゴーリン、圧力式ホモジナイザーなどの装置を用いることができる。
上記した乳化液の調製において、結晶性樹脂溶解液の使用量は、生産性および乳化液の分散安定性の観点から、乳化液全量に対して、10〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜50質量%の範囲である。
(有機溶媒の除去)
本工程(A)では、乳化液を調製後、所定温度に加温し、減圧することで、結晶性樹脂溶解液に用いた有機溶媒を除去(留去)する。
次に、脱溶媒時における有機溶媒の留去(除去)の温度は、乳化液の分散安定性保持の観点から、実用的な減圧下に30〜50℃であることが好ましく、より好ましくは30〜45℃の範囲である。
また、脱溶媒時における有機溶媒の留去(除去)の圧力は、乳化液の分散安定性保持の観点から、実用的な減圧下であればよく、具体的には0.4〜50kPaであることが好ましく、より好ましくは0.5〜50kPaの範囲である。
上記した有機溶媒の除去において、有機溶媒を乳化液から除去させる具体的な手段としては、減圧下での沸点の差を利用して有機溶媒のみを分離回収(除去)することができる装置であればよく、特に限定されるものではないが、例えばロータリーエバポレ−ターなどの装置を用いることができる。
(結晶性樹脂微粒子分散液の調製)
本工程(A)では、乳化液から脱溶媒後、常圧に戻して冷却することで、所望の結晶性樹脂微粒子分散液を得ることができる。即ち、乳化液の中の油滴から有機溶媒を除去することで、当該油滴が結晶性樹脂から構成された結晶性樹脂微粒子として分散された分散液を得ることができる。
ここで、結晶性樹脂微粒子分散液に、必要に応じて添加される水系媒体としては、乳化液の調製に用いた「水系媒体」と同様のものを用いることができる。好ましくは、希釈の観点から、水(イオン交換水)である。
本工程(A)では、更に必要に応じて、得られた結晶性樹脂微粒子分散液中の固形分濃度を調整するために、水系媒体を添加してもよい。最終的に本工程(A)で調製された結晶性樹脂微粒子分散液中の固形分濃度(結晶性樹脂微粒子の含有量)が、トナー製造工程適合性の観点から、5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%の範囲であり、必要に応じて、水系媒体を添加すればよい。即ち、本発明のトナーを構成するトナー粒子11に含有される結晶性樹脂微粒子12の構成成分である結晶性樹脂(本工程(A)に用いられる結晶性樹脂微粒子の構成成分である結晶性樹脂)の含有量は、十分な低温定着性および優れた保存安定性を得る観点から、当該トナー粒子を構成する樹脂全体に対して10〜60質量%であることが好ましい。
本工程(A)で得られた分散液中の結晶性樹脂微粒子の粒径は、トナー性能および製造適合性の観点から、例えば体積基準のメジアン径で50〜300nmであることが好ましく、より好ましくは80〜300nmの範囲にある。
結晶性樹脂微粒子の粒径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて動的光散乱法によって測定されるものである。
また、本発明のトナーを構成するトナー粒子11に含有される結晶性樹脂微粒子の粒径については、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの公知の手段を用いて測定することができる。具体的には、まず、トナーを光硬化性樹脂に包埋し、必要に応じて染色処理を施した後、ウルトラミクロトーム「EM UC6」(LEICA社製)により加速電圧200kVで設定厚100nmの超薄切片を作製し、当該超薄切片について透過型電子顕微鏡(TEM)「2000FX」(日本電子社製)によって倍率10,000倍の断面写真を撮影することにより、結晶性樹脂微粒子の平均粒子径を測定することができる。但し、上記したTEMを用いた具体的な方法に何ら制限されるものではない。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、SEMやTEM画像中の結晶性樹脂微粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
上記した本発明のトナーを構成するトナー粒子11に含有される結晶性樹脂微粒子12の平均粒子径は、低温定着性と耐熱保管性両立の観点から、100〜900nmであることが好ましく、より好ましくは100〜800nmの範囲にある。
工程(B);ワックス含有ビニルモノマー溶液調製工程
本工程(B)は、層形成用ワックスを融点以上の温度でビニルモノマーに溶解させ、層形成用ワックス含有ビニルモノマー溶液(単に、モノマー溶液ともいう)を調製するものである。非晶性樹脂(マトリックス)中に分散させる離型剤(ワックス微粒子)と区別するために、本工程で用いるワックスを層形成用ワックスともいう。
(モノマー溶液の調製方法)
上記モノマー溶液の調製方法としては、適当な撹拌混合手段を有する容器にビニルモノマーを投入し、これに層形成用ワックスを添加し、該層形成用ワックスの融点以上の温度に保持しながら、撹拌混合しつつ該層形成用ワックスをビニルモノマーに溶解させることにより、調製することができる。
〔ビニルモノマー〕
上記ビニルモノマーとしては、スチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、(メタ)アクリル酸系モノマーなどを用いることができる。これらのモノマーを単独もしくは2種以上を混合して用いてもよい。ビニルモノマーとは、H2C=CH−構造を有するモノマーであればよく、上記モノマーに何ら制限されるものではない。
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、などが挙げられる。
上記ビニルモノマーの使用量としては、モノマーに対するワックスの溶解度の観点から、モノマー溶液に対して60〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜80質量%の範囲である。
〔ワックス〕
上記結晶性樹脂と共にワックス層形成結晶性樹脂微粒子を形成する上記層形成用ワックスとしては、具体的には、例えば、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスのような炭化水素系ワックス類;カルナウバワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニル、クエン酸ベヘニル、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラステアリン酸エステル、ジペンタエリスリトールテトラステアリン酸エステル、グリセリントリベヘン酸エステル、グリセリントリステアリン酸エステル、ジグリセリンヘキサベヘン酸エステル、セバシン酸ステアリル、トリメチロールプロパンベヘン酸エステル、コハク酸ジステアリル、グリセリン1,2ヒドロステアレート、グリセリンモノベヘネート、クエン酸トリステアリルなどのエステルワックス類を用いることができる。これらの中でも、耐画像保存性を得る観点から、特に、パラフィンワックスなどの炭化水素系ワックス類;ベヘン酸ベヘニル、グリセリンモノベヘネートなどのエステルワックス類を用いることが好ましい。
上記層形成用ワックスは、結晶性樹脂に比して溶融粘度が極めて低いものであるために、工程(E)(アニール工程)において、該層形成用ワックスの融点以上に保持したときに、該層形成用ワックスの外殻部への滲出を十分に進行させることができるので、結晶性樹脂と非晶性樹脂との相溶の抑制の効果に有効なワックス層13を確実に形成することができる(図1、2参照)。
上記層形成用ワックスとしては、融点が結晶性樹脂の融点よりも10〜40℃高いワックスを用いることが好ましい。結晶性樹脂の融点よりも10〜40℃高い融点を有するワックスを用いることにより、結晶性樹脂と非晶性樹脂との相溶の抑制の効果に有効なワックス層13を確実に形成することができる。
上記層形成用ワックスの使用量は、モノマーに対するワックスの溶解度の観点から、モノマー溶液に対して5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜40質量%の範囲である。更に、本発明のトナーを構成するトナー粒子11のワックス層13を構成する層形成用ワックスの含有量は、トナー粒子11の結晶性樹脂微粒子12を構成する結晶性樹脂との質量比で、結晶性樹脂:層形成用ワックスが9:1〜6:4であることが好ましく、より好ましくは8:2〜7:3である。層形成用ワックスの含有量が、上記の範囲にあることによって、結晶性樹脂と非晶性樹脂との相溶の抑制の効果に有効なワックス層13を確実に形成することができる。本発明のトナーを構成するトナー粒子11のビニル樹脂層14を構成するビニル樹脂(=上記ビニルモノマーの重合体)の含有量は、トナー粒子11の結晶性樹脂微粒子12を構成する結晶性樹脂との質量比で、結晶性樹脂:ビニル樹脂が9:1〜5:5であることが好ましく、より好ましくは8:2〜6:4である。ビニル樹脂の含有量が、上記の範囲にあることによって、結晶性樹脂と非晶性樹脂との相溶の抑制の効果に有効なビニル樹脂層14を確実に形成することができる。
上記モノマー溶液の調製時の温度は、上記層形成用ワックスの融点以上の温度であればよいが、経済性ないし生産コストの観点から、上記層形成用ワックスの融点と同じ〜5℃高い温度であることが好ましく、より好ましくは層形成用ワックスの融点より2〜5℃高い温度で行うのが望ましい。
上記モノマー溶液の調製に用いられる撹拌混合手段を有する容器(装置)としては、特に制限されるものではなく、例えば、コンデンサー、温度計、アンカー翼を備えたジャケット付き3リットル反応槽(東京理化器械(株)製:BJ−30N)などが挙げられる。
工程(C);結晶性樹脂微粒子含有モノマー液滴形成工程
本工程(C)は、前記(A)の工程で得られた結晶性樹脂微粒子分散液と前記(B)の工程で得られた層形成用ワックス含有モノマー溶液を混合し、前記結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を形成するものである。本発明においては、モノマー液滴が結晶性樹脂と比較して溶融粘度が低くなるために、形成されたモノマー液滴に高い分散安定性が得られる。従って、モノマー液滴を重合、アニールして形成されたワックス層形成結晶性樹脂微粒子の中心に存在する結晶性樹脂(ドメイン)が、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子を内包する非晶性樹脂(マトリックス)からなるトナー粒子の表面までマイグレーション(物質移行)することが抑制され、その結果、優れた保存安定性が得られるものと推測される。
(結晶性樹脂微粒子を含有するモノマー液滴の形成方法)
本工程(C)においては、前記(A)の工程で得られた結晶性樹脂微粒子分散液に対して前記(B)工程で得られた層形成用ワックス含有モノマー溶液を徐々に添加すること(前者のモノマー液滴の形成方法)が好ましいが、前記(B)の工程で得られたモノマー溶液に対して前記(A)工程で得られた結晶性樹脂微粒子分散液を徐々に添加する(後者のモノマー液滴の形成方法)ようにしてもよい。
このうち、前者のモノマー液滴の形成方法の具体的な手順としては、適当な加熱手段と撹拌混合手段を有する装置(容器)に前記(A)工程で得られた結晶性樹脂微粒子分散液と、必要に応じて水系溶媒を仕込み、撹拌しながら、所定温度まで加熱した後、これに重合開始剤溶液を添加し、さらに前記(B)工程で得られた層形成用ワックス含有モノマー溶液を徐々に添加(滴下)することで、前記結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を形成することができる。
まず、前者のモノマー液滴の形成方法では、予め仕込んでおく結晶性樹脂微粒子分散液中の固形分濃度を調整するために、前記水系媒体を添加してもよい。具体的には、結晶性樹脂微粒子分散液中の固形分濃度(結晶性樹脂微粒子の含有量)が、重合安定性の観点から、5〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量%の範囲でとなるように、必要に応じて、水系媒体を添加すればよい。
ここで、必要に応じて添加し得る(仕込み得る)水系溶媒としては、前記工程(A)の乳化液の調製に用いた「水系媒体」と同様のものを用いることができる。好ましくは、希釈の観点から、水(イオン交換水)である。
次に、前者のモノマー液滴の形成方法では、装置(容器)内に仕込んだ結晶性樹脂微粒子分散液を前記加熱手段を用いて、所定温度に加熱する。該加熱温度(分散液温度)としては、結晶性樹脂およびワックスの溶解性の観点から、前記結晶性樹脂および前記ワックスの融点以上の温度が好ましく、前記結晶性樹脂および前記ワックスの融点と同じ〜5℃高い温度であることがより好ましく、さらに好ましくは結晶性樹脂および前記ワックスの融点の融点より2〜5℃高い温度で行うのが望ましい。ここで、前記結晶性樹脂および前記ワックスの融点以上とは、前記結晶性樹脂の融点と前記層形成用ワックスの融点のうち、高い方の融点以上を指すものとする。同様に結晶性樹脂および前記ワックスの融点よりも2〜5℃高い温度とは、前記結晶性樹脂の融点と前記層形成用ワックスの融点のうち、高い方の融点よりも2〜5℃高い温度を指すものとする。
前記加熱手段としては、例えば、コンデンサー、温度計、滴下装置、アンカー翼を備えたジャケット付き3リットル反応槽(東京理化器械(株)製:BJ−30N)等を利用することができる。
次に、前者のモノマー液滴の形成方法では、装置(容器)内の結晶性樹脂微粒子分散液を所定温度まで加熱した後、重合開始剤溶液を添加する。
前記重合開始剤としては、ビニルモノマーの重合に用いられる重合開始剤であれば特に制限されるものではなく、例えば、油溶性の重合開始剤としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ系またはジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンペルオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキサイド、t−ブチルヒドロペルオキサイド、ジ−t−ブチルペルオキサイド、ジクミルペルオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、2,2−ビス−(4,4−t−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルペルオキシ)トリアジンなどの過酸化物系重合開始剤や過酸化物を側鎖に有する高分子開始剤などが挙げられる。また、水溶性の重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくは、過硫酸カリウムなどが好適に利用可能である。
前記重合開始剤溶液を調製するために前記重合開始剤を溶解させる溶媒としては、特に制限されるものではないが、結晶性樹脂微粒子分散液との相溶性の観点から、水系溶媒が好ましい。該水系溶媒としては、前記工程(A)の乳化液の調製に用いた「水系媒体」と同様のものを用いることができる。好ましくは、水(イオン交換水)である。
前記重合開始剤溶液中の重合開始剤の含有量としては、1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量%の範囲である。
前記重合開始剤の添加量としては、残留モノマー成分なく重合を完了させるために、モノマー溶液中に含有されるモノマー100重量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜3質量部の範囲である。
次に、前者のモノマー液滴の形成方法では、装置(容器)内の結晶性樹脂微粒子分散液を所定温度まで加熱し、重合開始剤溶液を添加後、前記(B)工程で得られた層形成用ワックス含有モノマー溶液を徐々に添加(滴下)する。これにより、前記結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を形成することができる。
前記モノマー溶液の添加量としては、装置(容器)内の結晶性樹脂微粒子分散液中に含有される結晶性樹脂100重量部に対して、20〜400質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜300質量部の範囲である。
前記モノマー溶液の添加速度(滴下速度)としては、モノマー油滴の粒径制御の観点から、装置(容器)内の濃度調整後の結晶性樹脂微粒子分散液100質量部に対して2〜30質量部/分とするのが好ましく、より好ましくは10〜30質量部/分の範囲である。
添加(滴下)に用いる前記層形成用ワックス含有モノマー溶液の温度(液温)も、結晶性樹脂およびワックスの溶解性の観点から、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点以上の温度が好ましく、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点と同じ〜5℃高い温度であることがより好ましく、更に好ましくは結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点の融点より2〜5℃高い温度で行うのが望ましい。
前者のモノマー液滴の形成方法により形成される前記結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴(図2参照)の平均粒径としては、0.1〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.8μmである。モノマー液滴の粒径は、例えば、界面活性剤量のほか、撹拌速度(撹拌力)やモノマー溶液の添加速度などにより、制御(調整)することができる。
モノマー液滴の平均粒径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)により測定することにより算出することができる。
また、後者のモノマー液滴の形成方法の具体的な手順としては、適当な加熱手段と撹拌混合手段を有する装置(容器)に前記(B)工程で得られた層形成用ワックス含有モノマー溶液を仕込み、所定温度に加熱した後、前記(A)工程で得られた結晶性樹脂微粒子分散液を添加、混合することで、前記結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を形成することができる。
まず、後者のモノマー液滴の形成方法では、装置(容器)内に仕込んだモノマー溶液を前記加熱手段を用いて、所定温度に加熱する。該加熱温度(溶液温度)としては、結晶性樹脂およびワックス溶解性の観点から、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点以上の温度が好ましく、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点と同じ〜5℃高い温度であることがより好ましく、さらに好ましくは結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点の融点より2〜5℃高い温度で行うのが望ましい。
前記加熱手段としては、前者のモノマー液滴の形成方法と同様の加熱手段を用いることができる。
次に、後者のモノマー液滴の形成方法では、装置(容器)内の層形成用ワックス含有モノマー溶液を所定温度まで加熱した後、前記(A)工程で得られた結晶性樹脂微粒子分散液を添加、混合することで、前記結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を形成することができる。
前記(A)工程で得られた結晶性樹脂微粒子分散液中の結晶性樹脂微粒子の添加量としては、装置(容器)内の層形成用ワックス含有モノマー溶液中に含有されるモノマー100重量部に対して、30〜600質量部であることが好ましく、より好ましくは100〜600質量部の範囲である。
添加に用いる前記結晶性樹脂微粒子分散液の温度(液温)も、結晶性樹脂およびワックス溶解性の観点から、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点以上の温度が好ましく、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点と同じ〜5℃高い温度であることがより好ましく、更に好ましくは結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点の融点より2〜5℃高い温度で行うのが望ましい。
後者のモノマー液滴の形成方法により形成される前記結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴(図2参照)の平均粒径としては、前者のモノマー液滴の形成方法と同様である。モノマー液滴の粒径も、前者のモノマー液滴の形成方法と同様の方法により、制御(調整)することができる。
モノマー液滴の平均粒径は、前者のモノマー液滴の形成方法と同様の方法により測定することができる。
工程(D);モノマー液滴重合工程
本工程(D)は、前記(C)工程で形成された、前記結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を重合(シード重合等)するものである。詳しくは、前記(C)工程で用いた装置(容器)内で、形成された結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴の形成後、容器内の温度(液温)を保持して、所定時間にわたって加熱撹拌することにより、重合を行う。加熱撹拌しながら重合することで、モノマー液滴の外殻(最外層)部分にビニルモノマーの重合物であるビニル樹脂層が形成される。重合物であるビニル樹脂層は固体状態であるため、重合過程でモノマー液滴内の層形成用ワックス含有ビニルモノマーから固体状態の重合物(ビニル樹脂層)と層形成用ワックスとが相分離状態になる。こうして、結晶性樹脂および層形成用ワックスの融点以上の温度で加熱撹拌しながら重合することで、モノマー液滴の外殻(最外層)部分にビニルモノマーの重合物であるビニル樹脂層が形成され、その内部に層形成用ワックスと結晶性樹脂が溶融状態で存在する。この際、アニール温度が結晶性樹脂および層形成用ワックスの融点以上であることによって、結晶性樹脂を中心部に集合させることができると共に層形成用ワックスがその溶融粘度の低さによって、中心から外側に滲出するよう移動する。即ち、結晶性樹脂に対し、層形成用ワックスの粘度が低いことで、層形成用ワックスがモノマー液滴の中央(結晶性樹脂内部)に存在せず、その外側(中央部の結晶性樹脂と外殻部のビニル樹脂層との界面)に押し出され、中央の結晶性樹脂(12)と外殻部のビニル樹脂層14との間に、層形成用ワックス(13)が存在する構造が形成されると考えられる(図2参照)。
前記(C)工程で用いた装置(容器)内で、形成された結晶性樹脂微粒子を含んだモノマー液滴形成後の容器内の重合温度としては、結晶性樹脂およびワックス溶解性の観点から、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点以上の温度が好ましく、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点と同じ〜5℃高い温度であることがより好ましく、更に好ましくは結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点の融点より2〜5℃高い温度で行うのが望ましい。
モノマー液滴の重合時間は、前記(C)工程で加えた重合開始剤の重合温度による半減期から算出される。
工程(E);ワックス層形成結晶性樹脂微粒子形成工程(アニール工程ともいう)
本工程(E)では、前記(D)でのモノマー液滴の重合後、さらに前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点以上の温度で保持(=加熱撹拌)させ、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子を形成する(アニールする)ものである。こうしてモノマー液滴重合後に前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点よりも高い温度で保持(アニール)処理することで、図2に示すように、得られるワックス層形成結晶性樹脂微粒子の粒子形状を制御することができる。詳しくは、重合完了時点で、結晶性樹脂(12)が中央から外れて偏在していたり、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子が楕円形状しているものを、アニール処理(加熱撹拌処理)により、球状粒子の中央に結晶性樹脂(12)が位置し、その外側にワックス層、ビニル樹脂層が順に被覆した構造をとるように、粒子形状を制御することができる。なお、アニール処理後、結晶性樹脂および層形成用ワックスの融点より低い温度(常温)まで冷却することで、粒子内部に溶融状態で存在していた結晶性樹脂および層形成用ワックスが固形化することで、粒子の中央に結晶性樹脂微粒子12が位置し、その外側にワックス層13、ビニル樹脂層14が順に被覆した構造のワックス層形成結晶性樹脂微粒子15が形成される。即ち、本工程(E)では、アニール処理後、常温まで冷却することで、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子の分散液が得られる。次工程(F)では、このワックス層形成結晶性樹脂微粒子の分散液をそのまま利用することができる。
本工程(E)でのアニール温度(液温)としては、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点以上の温度であればよいが、経済性および生産コストの観点から、前記結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点と同じ〜5℃高い温度であることが好ましく、より好ましくは結晶性樹脂および前記層形成用ワックスの融点の融点より2〜5℃高い温度である。
本工程(E)でのアニール時間としては、ワックス層形成に要する時間の観点から、1〜6時間であることが好ましく、より好ましくは2〜6時間の範囲である。
本工程(E)で得られるワックス層形成結晶性樹脂微粒子の粒径は、トナー性能および製造適合性の観点から、例えば、体積基準のメジアン径で30〜500nmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは80〜300nmの範囲である。ワックス層形成結晶性樹脂微粒子の粒径は、モノマー液滴の粒径により決定されることから、当該モノマー液滴の粒径を上記したような方法で適宜制御(調整)すればよい。
ワックス層形成結晶性樹脂微粒子の粒径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて動的光散乱法によって測定されるものである。また、図2に示すように、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子15の構造が、結晶性樹脂微粒子12とビニル樹脂層14との間に、ワックス層13が存在する構造であることの確認は、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)などの公知の手段を用いて確認することができる。特にガラス転移点の低い結晶性樹脂(結晶性樹脂微粒子12の成分)がトナー粒子11の表面にマイグレーション(物質移行)することなく、低温定着性が維持された状態で、長期保存安定性を得るためには、ワックス層13の存在が重要であり、かかるワックス層13が十分な厚さの層(膜厚)を形成するためには、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子中の質量比で、結晶性樹脂:層形成用ワックスが9:1〜6:4であることが好ましく、より好ましくは8:2〜7:3とするのが望ましい。
工程(F);トナー粒子形成工程
本工程は、前記工程(E)で得られたワックス層形成結晶性樹脂微粒子、および非晶性樹脂からなる微粒子(以下、「非晶性樹脂微粒子」ともいう。)を凝集、融着させることによりトナー粒子を形成するものである。
この工程においては、前記工程(E)で得られたワックス層形成結晶性樹脂微粒子および非晶性樹脂からなる微粒子(以下、「非晶性樹脂微粒子」ともいう。)を凝集、融着させることによりトナー粒子が形成される。
ワックス層形成結晶性樹脂微粒子および非晶性樹脂微粒子を凝集、融着する具体的な方法としては、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子および非晶性樹脂微粒子が分散された水系媒体(分散液)中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度(℃)以上の温度に加熱することによって、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子および非晶性樹脂微粒子の塩析を進行させると同時に融着を並行して進め、所望の粒子径まで成長したところで、凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させ、さらに、必要に応じて粒子形状を制御するために加熱を継続して行う方法が挙げられる。
ワックス層形成結晶性樹脂微粒子の添加量としては、低温定着性と耐熱保管性両立の観点から、非晶性樹脂微粒子とワックス層形成結晶性樹脂微粒子とが分散されてなる分散液100質量部に対して5〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量部の範囲である。
非晶性樹脂微粒子の添加量としては、低温定着性と耐熱保管性両立の観点から、非晶性樹脂微粒子とワックス層形成結晶性樹脂微粒子とが分散されてなる分散液100質量部に対して50〜95質量部であることが好ましく、より好ましくは70〜90質量部の範囲である。
非晶性樹脂微粒子とワックス層形成結晶性樹脂微粒子の添加比率(非晶性樹脂微粒子:ワックス層形成結晶性樹脂微粒子の比)は、質量比で、95:5〜50:50であることが好ましく、より好ましくは90:10〜70:30の範囲である。
〔非晶性樹脂〕
本発明のトナーに係る非晶性樹脂としては、公知の種々のものを用いることができ、具体的には、例えば、非晶性ポリエステル樹脂、スチレンアクリル樹脂などを用いることができ、低温定着性および耐画像保存性を得る観点から、非晶性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。非晶性樹脂としては1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。非晶性ポリエステルとしては、2価および3価のカルボン酸と多価アルコール成分からなる縮合物等を用いることができる。スチレンアクリル樹脂としては、スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体からなる共重合体等を用いることができる。但し、本発明では、これらに何ら制限されるものではなく、従来公知の非晶性樹脂を利用することができる。
本発明において、非晶性樹脂とは、上記の示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定されるDSC曲線において、明確な吸熱ピークを有さないものをいう。
本発明に係る非晶性樹脂は、ガラス転移点が25〜60℃であることが好ましく、さらに好ましくは35〜45℃である。
非晶性樹脂のガラス転移点が上記の範囲にあることにより、十分な低温定着性および優れた保存安定性が得られる。
非晶性樹脂のガラス転移点は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定されるものである。
測定手順としては、試料(非晶性樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。測定条件としては、測定温度0℃〜200℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分で、Heat−cool−Heatの温度制御で行い、その2nd.Heatにおけるデータをもとに解析を行い、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移点として示す。
また、非晶性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量は、低温定着性と耐熱保管性両立の観点から、7,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜25,000の範囲である。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量およびピーク分子量の測定は、具体的には、装置「HLC−8220」(東ソー社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ−M3連」(東ソー社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出される。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いた。
非晶性樹脂微粒子は、分散液の形態で用いるのが望ましい。
非晶性樹脂微粒子(の分散液)を作製する方法としては、生産時のエネルギーコスト削減の観点から、水系媒体において適宜の重合性単量体を用いて乳化重合またはミニエマルション重合を行う方法を用いることが好ましい。こうして得られた非晶性樹脂微粒子の分散液をそのまま、トナー粒子の形成に利用することができる。
非晶性樹脂微粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とすることもでき、この場合、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)により調製した第1樹脂微粒子の分散液に、重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する多段重合法を採用することができる。
非晶性樹脂微粒子の粒径は、トナー性能および製造適合性の観点から、体積基準のメジアン径が50〜300nmであることが好ましく、より好ましくは80〜300nmの範囲である。
非晶性樹脂微粒子の粒径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて動的光散乱法によって測定されるものである。
〔凝集剤〕
凝集剤としては、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を用いることができる。
凝集剤を構成するアルカリ金属としては、例えばリチウム、カリウム、ナトリウムなどが挙げられ、凝集剤を構成するアルカリ土類金属としては、例えばマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。これらのうちでは、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましい。
また、これらのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の対イオン(塩を構成する陰イオン)としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオンなどが挙げられる。
非晶性樹脂微粒子およびワックス層形成結晶性樹脂微粒子が分散している分散液中に凝集剤を添加する際の当該分散液の温度は、非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以下であることが好ましい。
凝集剤を添加するときの分散液の温度が、非晶性樹脂微粒子のガラス転移点を超える場合には、粒径の制御を行うことが困難となり巨大粒子が生成されやすい。
このように、本工程(F)においては、非晶性樹脂微粒子とワックス層形成結晶性樹脂微粒子とが分散されてなる分散液の温度が、当該非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以下のときに、当該分散液を撹拌しながら凝集剤を添加し、その後速やかに当該分散液の加熱を開始して、非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以上の温度とすることが必要である。
このトナー粒子形成工程における加熱温度(上記凝集後に凝集粒子を融着させるための温度)の範囲としては、非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、(非晶性樹脂微粒子のガラス転移点+10℃)〜(非晶性樹脂微粒子のガラス転移点+50℃)とされ、特に好ましくは(非晶性樹脂微粒子のガラス転移点+15℃)〜(非晶性樹脂微粒子のガラス転移点+40℃)とされる。
凝集剤の添加量としては、水系媒体中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加すればよいが、非晶性樹脂微粒子とワックス層形成結晶性樹脂微粒子とが分散されてなる分散液100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部の範囲である。
本発明のトナーを構成するトナー粒子は、結晶性樹脂および層形成用ワックスを含有するコア粒子と、当該コア粒子の表面を樹脂(非晶性樹脂)によって被覆するシェル層とよりなるコアシェル構造を有するものであってもよい。トナー粒子がコアシェル構造を有するものであることにより、高い製造安定性および保存安定性を期待することができる。
ここに、コアシェル構造とは、シェル層がコア粒子を被覆していればよく、シェル層がコア粒子を完全に被覆している形態のみならず、コア粒子の一部を被覆しているものであってもよい。また、シェル層が組成の異なる樹脂よりなる2層以上の多層構造を有するものであってもよい。
このような構成を有するトナーにおいて、シェル層を構成する樹脂(シェル樹脂)の含有割合は、トナー全体に対して5質量%以上であって30質量%以下であることが好ましい。
また、シェル樹脂としては、コア粒子を構成する結晶性樹脂以外の樹脂と非相溶性を有し、ガラス転移点の高いものが用いられる。
ここに、シェル樹脂としては、そのガラス転移点が45℃以上であって60℃以下であることが好ましい。また、その重量平均分子量が8,000以上であって50,000以下であることが好ましい。
このようにトナー粒子がコアシェル構造を有するものである場合は、まず、非晶性樹脂微粒子およびワックス層形成結晶性樹脂微粒子を凝集させてコア粒子を形成し、次いで、シェル樹脂よりなる微粒子をコア粒子に対して凝集させるシェル化工程を行うことにより、製造することができる。
本発明のトナーを構成するトナー粒子は、必要に応じて、着色剤、磁性粉、荷電制御剤および離型剤などの内添剤を含有するものであってもよい。
このようにトナー粒子が着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉などの内添剤を含有するものである場合は、非晶性樹脂微粒子をこれらの内添剤を含有するものとして形成することにより、トナー粒子に導入することができる。また、内添剤微粒子の分散液を調製し、これをこのトナー粒子形成工程において添加して非晶性微粒子およびワックス層形成結晶性樹脂微粒子と共に凝集、融着させることにより、トナー粒子に導入することもできる。また、これらの方法を組み合わせてもよい。
〔着色剤〕
着色剤としては、公知の無機または有機着色剤を使用することができる。以下に、具体的な着色剤を示す。
黒色の着色剤としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどのカーボンブラックや、マグネタイト、フェライトなどの磁性粉が挙げられる。
また、マゼンタもしくはレッド用の着色剤としては、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222などが挙げられる。
また、オレンジもしくはイエロー用の着色剤としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138などが挙げられる。
また、グリーンもしくはシアン用の着色剤としては、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントブルー62、C.I.ピグメントブルー66、C.I.ピグメントグリーン7などが挙げられる。
これらの着色剤は、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
着色剤の添加量としては、非晶性樹脂微粒子とワックス層形成結晶性樹脂微粒子とが分散されてなる分散液100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量部の範囲である。
着色剤の添加時期としては、凝集剤を添加する前の、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子および非晶性樹脂微粒子が分散された水系媒体(分散液)中に添加すればよい。
着色剤は、着色剤微粒子分散液の形態で添加するのが望ましい。この際の着色剤微粒子の粒径としては、トナー性能および製造適合性の観点から、体積基準のメジアン径が50〜300nmであることが好ましく、より好ましくは80〜300nmの範囲である。また、着色剤微粒子の含有量は、着色剤微粒子分散液に対して1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%の範囲である。また、着色剤微粒子分散液の分散媒体としては、界面活性剤を含む水系媒体が好ましく、より好ましくはイオン性界面活性剤を含む水(イオン交換水)である。該界面活性剤の含有量は、水系媒体(界面活性剤含まず)100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部の範囲である。尚、水系媒体及び界面活性剤については、前記工程(A)の乳化液の調製に用いた「水系媒体(界面活性剤を含む)」と同様のものを用いることができる。
〔離型剤〕
離型剤としては、公知の種々のワックスを用いることができ、層形成用ワックスと同じワックスを用いることもできる。
離型剤に用いるワックスの具体的としては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス;マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘニル、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、マレイン酸ジステアリルなどのエステル系ワックス;エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
離型剤の添加量としては、非晶性樹脂微粒子とワックス層形成結晶性樹脂微粒子とが分散されてなる分散液100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量部の範囲である。
なお、非晶性樹脂に、コア部/中間層/外層の3層構造のスチレンアクリル樹脂であって、中間層に上記離型剤と同様の働きをするワックスを内包するものを用いる場合には、当該離型剤を用いなくてもよいが、併用してもよい。一方、非晶性樹脂に、非晶性ポリエステル樹脂を用いる場合には、離型剤(ワックス)を内包できないため、別途、上記した離型剤(ワックス)が必要となってくるため、上記した範囲内で離型剤を添加するのが望ましい。
離型剤の添加時期としては、凝集剤を添加する前の、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子および非晶性樹脂微粒子が分散された水系媒体(分散液)中に添加すればよい。
この際の離型剤微粒子の粒径としては、トナー性能および製造適合性の観点から、体積基準のメジアン径が50〜300nmであることが好ましく、より好ましくは80〜300nmの範囲である。また、離型剤微粒子の含有量は、離型剤微粒子分散液に対して1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%の範囲である。また、離型剤微粒子分散液の分散媒体としては、界面活性剤を含む水系媒体が好ましく、より好ましくはイオン性界面活性剤を含む水(イオン交換水)である。該界面活性剤の含有量は、水系媒体(界面活性剤含まず)100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部の範囲である。尚、水系媒体及び界面活性剤については、前記工程(A)の乳化液の調製に用いた「水系媒体(界面活性剤を含む)」と同様のものを用いることができる。
凝集停止剤の添加時期としては、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子および非晶性樹脂微粒子が凝集、融解しることで、所望の粒子径まで成長したところ、添加すればよい。具体的には、所望の粒子径が、体積基準のメジアン径で3〜10μmであることが好ましく、さらに好ましくは5〜8μmである。なお、所望の粒子径に成長したか否かは、予め、予備実験などを行うことで、溶融時の加熱時間と粒子径との関係を求めておくことで十分に管理(制御)可能である。
凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させ、さらに、必要に応じて粒子形状を制御するために加熱を継続して行う場合の当該加熱温度としては、上記したトナー粒子形成工程における加熱温度(上記凝集後に凝集粒子を融着させるための温度)の範囲と同様の温度範囲で行うことができる。具体的には、非晶性樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、(非晶性樹脂微粒子のガラス転移点+10℃)〜(非晶性樹脂微粒子のガラス転移点+50℃)とされ、特に好ましくは(非晶性樹脂微粒子のガラス転移点+15℃)〜(非晶性樹脂微粒子のガラス転移点+40℃)とされる。
工程(G);濾過、洗浄工程、工程(H);乾燥工程
濾過、洗浄工程および乾燥工程は、公知の種々の方法を採用して行うことができる。
〔トナーの粒径〕
本発明のトナーを構成するトナー粒子の粒径は、例えば、体積基準のメジアン径で3〜10μmであることが好ましく、さらに好ましくは5〜8μmである。
トナー粒子の体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、転写効率が高くなってハーフトーンの画質が向上し、細線やドットなどの画質が向上する。
トナー粒子の体積基準のメジアン径は、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にデータ処理用のコンピューターシステム(ベックマン・コールター社製)を接続した測定装置を用いて測定・算出される。
具体的には、トナー0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナーの分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散処理を1分間行い、トナー粒子の分散液を調製し、このトナー粒子の分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が5%〜10%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を100μmにし、測定範囲である2〜60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径を体積基準のメジアン径とする。
〔トナーの円形度〕
本発明のトナーを構成するトナー粒子は、転写効率の向上の観点から、平均円形度が0.930〜1.000であることが好ましく、より好ましくは0.950〜0.995である。
トナーの円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)によって測定される値である。
具体的には、市販の専用シース液に界面活性剤を溶解させたものに試料(トナー)を添加して馴染ませた後、超音波分散処理を1分間行って分散液を調製し、この分散液について、「FPIA−2100」を用い、測定条件をHPF(高倍率撮像)モードとし、HPF検出数3000〜10000個の適正濃度にて測定を行う。ここで、この範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、この測定によって得られた測定値に基づいて下記式(T)で示される円形度を算出する。
また、平均円形度は、上記の円形度の測定対象である各トナー粒子の円形度の平均値、すなわち各トナー粒子の円形度を足し合わせ、全トナー粒子数で割り算することによって算出される。
工程(I);外添剤添加工程
この外添剤添加工程は、乾燥処理したトナー粒子に必要に応じて外添剤を添加、混合する工程である。
乾燥工程までの工程を経て作製されたトナー粒子は、そのままトナーとして使用することが可能であるが、トナーとしての帯電性能や流動性、あるいはクリーニング性を向上させる観点から、その表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの粒子、滑材を外添剤として添加することが好ましい。
外添剤の具体例としては、例えばシリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子などの無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子、あるいはチタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物微粒子などの無機微粒子が挙げられる。
これら無機微粒子は、耐熱保管性および環境安定性の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイルなどによって表面処理が行われたものであることが好ましい。
外添剤の添加量は、トナー100質量部に対して0.05〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部とされる。また、外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
外添剤の添加方法としては、乾燥されたトナー粒子に外添剤を粉体で添加する乾式法が挙げられ、混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミルなどの機械式の混合装置が挙げられる。
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
本発明のトナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄などの強磁性金属、強磁性金属とアルミニウムおよび鉛などの合金、フェライトおよびマグネタイトなどの強磁性金属の化合物などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散したバインダー型キャリアなどを用いることもできる。コートキャリアを構成する被覆樹脂としては、特に限定はないが、例えばオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、エステル樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。また、樹脂分散型キャリアを構成する樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えばスチレン−アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
キャリアの体積基準のメジアン径は、20〜100μmであることが好ましく、さらに好ましくは20〜60μmである。
キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
以上のような本発明のトナーの製造方法によれば、特定のピーク分子量を有する結晶性樹脂とエステルワックスとからなる複合微粒子を当該結晶性樹脂の融点以上の温度に加熱する工程を経ることによって、十分な低温定着性が確保されながら優れた長期保存安定性が得られて輸送時および倉庫における保管時の厳しい温度管理が不要となるトナーを製造することができる。
<第2の実施の形態>
本発明のトナーの製造方法の第2の実施の形態は、第1の実施の形態におけるワックス層形成結晶性樹脂微粒子形成工程(アニール工程)を行わず、トナー粒子形成工程において、モノマー液滴重合工程で得られたワックス層形成結晶性樹脂微粒子および非晶性樹脂からなる微粒子を結晶性樹脂の融点以上の温度において凝集させ、ワックス層形成結晶性樹脂微粒子を前記結晶性樹脂の融点以上の温度で再加熱(アニール)しながら融着させることの他は第1の実施の形態と同様の工程を有する方法である。
以上のような第2の実施の形態に係るトナーの製造方法によれば、第1の実施の形態における効果と同様の効果を得ることができる。
以上、本発明のトナーおよびその製造方法の実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(結晶性ポリエステル樹脂の合成例1)
冷却管、窒素導入管および撹拌装置の付いた反応槽に、1,10−ドデカン二酸230質量部、1,9−ノナンジオール176質量部、触媒:チタンテトラブトキサイド0.5質量部を入れ、窒素気流下180℃で生成する水を留去しながら8時間反応させた。
次いで225℃まで徐々に昇温しながら窒素気流下、生成する水および1,9−ノナンジオールを留去しながら4時間反応させた。更に665〜2660Paの減圧下に反応を行った後、反応槽から取り出し、室温まで冷却して、結晶性ポリエステル樹脂〔PEs1〕を得た。この結晶性ポリエステル樹脂〔PEs1〕の重量平均分子量は23,000、ピーク分子量は20,000、融点は67.6℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂の合成例2)
1,10−ドデカン二酸230質量部の変わりにセバシン酸202質量部、1,9−ノナンジオール176質量部の変わりに1,10−デカンジオール192質量部を用いた以外は合成例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂〔PEs2〕を得た。この結晶性ポリエステル樹脂〔PEs2〕の重量平均分子量は18,000、ピーク分子量は16,000、融点は62.1℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂の合成例3)
1,10−ドデカン二酸230質量部の変わりにオクタン二酸172質量部、1,9−ノナンジオール176質量部の変わりに1,8−オクタンジオール161質量部を用いた以外は合成例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂〔PEs3〕を得た。この結晶性ポリエステル樹脂〔PEs3〕の重量平均分子量は20,000、ピーク分子量は19,000、融点は72.3℃であった。
(結晶性ポリエステル樹脂の合成例4)
1,10−ドデカン二酸230質量部の変わりにアジピン酸146質量部、1,9−ノナンジオール176質量部の変わりに1,6−ヘキサンジオール130質量部を用いた以外は合成例1と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂〔PEs4〕を得た。この結晶性ポリエステル樹脂〔PEs4〕の重量平均分子量は15,000、ピーク分子量は13,000、融点は57.4℃であった。
<結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C1)の調製;工程(A)>
コンデンサー、温度計、水滴下装置、アンカー翼を備えたジャケット付き3リットル反応槽(東京理化器械(株)製:BJ−30N)に、前記結晶性ポリエステル樹脂〔PEs1〕(融点67.6℃)300質量部と、酢酸エチル260質量部とを入れ、水循環式恒温槽にて70℃に維持しながら、100rpmで攪拌混合しつつ樹脂を溶解させた(結晶性樹脂溶解液の調製)。その後攪拌回転数を150rpmにし、10質量%アンモニア水(試薬)17質量部を10分間かけて投入した後、70℃に保温されたイオン交換水を7質量部/分の速度で、合計900質量部滴下し転相させて、乳化液を得た(乳化液の調製)。すぐに、得られた乳化液800質量部とイオン交換水700質量部とを2リットルのナスフラスコに入れ、トラップ球を介して真空制御ユニットを備えたエバポレーター(東京理化器械(株))にセットした。ナスフラスコを回転させながら、50℃の湯バスで加温し、突沸に注意しつつ7kPaまで減圧し溶剤を除去した(有機溶媒の除去)。溶剤回収量が1100質量部になった時点で常圧に戻し、ナスフラスコを水冷して分散液を得た(結晶性樹脂微粒子分散液の調製)。得られた分散液に溶剤臭は無かった。その後、イオン交換水を加えて固形分濃度が20質量%になるように調整し、これを結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C1)とした。得られた分散液(C1)中の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の粒径は、体積基準のメジアン径で165nmであった。
<結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C2)の調製;工程(A)>
結晶性ポリエステル樹脂として〔PEs1〕(融点67.6℃)の代わりに、〔PEs2〕(融点62.1℃)を使用し、結晶性樹脂溶解液の調製の際の水循環式恒温槽にて70℃に維持するのに代えて65℃に維持し、65℃に保温されたイオン交換水を用いたこと以外は、結晶性ポリエステル樹脂分散液(C1)の調製と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C2)を得た。得られた分散液(C2)中の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の粒径は、体積基準のメジアン径で144nmであった。
<結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C3)の調製;工程(A)>
結晶性ポリエステル樹脂として〔PEs1〕(融点67.6℃)の代わりに、〔PEs3〕(融点72.3.6℃)を使用し、結晶性樹脂溶解液の調製の際の水循環式恒温槽にて70℃に維持するのに代えて75℃に維持し、75℃に保温されたイオン交換水を用いたこと以外は、結晶性ポリエステル樹脂分散液(C1)の調製と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C3)を得た。得られた分散液(C3)中の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の粒径は、体積基準のメジアン径で172nmであった。
<結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C4)の調製;工程(A)>
結晶性ポリエステル樹脂として〔PEs1〕(融点67.6℃)の代わりに、〔PEs4〕(融点57.4℃)を使用し、結晶性樹脂溶解液の調製の際の水循環式恒温槽にて70℃に維持するのに代えて60℃に維持し、60℃に保温されたイオン交換水を用いたこと以外は、結晶性ポリエステル樹脂分散液(C1)の調製と同様にして、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C4)を得た。得られた分散液(C4)中の結晶性ポリエステル樹脂微粒子の粒径は、体積基準のメジアン径で153nmであった。
<ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC1)の調製>
撹拌装置を取り付けたフラスコ内において、スチレン165質量部、n−ブチルアクリレート59質量部、メタクリル酸12質量部、n−オクチルメルカプタン4.0質量部からなる単量体混合液に、層形成用ワックスとして、ベヘン酸ベヘニル(融点71.2℃)127質量部を添加し、75℃に加温して溶解させて層形成用ワックス含有モノマー溶液(単量体混合溶液)を調製した(工程(B))。
一方、撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C1)1450質量部と、イオン交換水1250質量部とを仕込み、80℃まで加熱した後、過硫酸カリウム3.0質量部をイオン交換水57質量部に溶解させた重合開始剤溶液を添加し、さらに上記層形成用ワックス含有モノマー溶液(単量体混合溶液)を2時間かけて滴下して結晶性ポリエステル樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を形成し(工程(C))、このモノマー液滴を80℃で2時間にわたって加熱撹拌することによってシード重合を行い(工程(D))、さらに、その温度のまま1時間保持(加熱撹拌)した(アニーリング処理を行った)。その後、28℃まで冷却することにより、ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC1)を得た(工程(E))。
<ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC2〜WC4)の調製>
結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C1)のかわりに結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C2〜C4)を用いた以外は、ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC1)の調製と同様にしてワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC2〜WC4)を得た。
<ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC5)の調製>
層形成用ワックスとして、ベヘン酸ベヘニルの変わりに、パラフィンワックスFNP−0090(融点89℃)に変更し、溶解温度/シード重合温度/アニール温度を90℃にした以外は、ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC1)の調製と同様にしてワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC5)を得た。
<ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC6)の調製>
層形成用ワックス含有モノマー溶液(単量体混合溶液)のスチレン165質量部を136質量部とし、n−ブチルアクリレート59質量部を67質量部とし、メタクリル酸12質量部を33質量部に変更した以外はワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC1)の調製と同様にしてワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC6)を得た。
<層形成用ワックスを含有せずビニルモノマーのみでシード重合による結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC7)の調製>
撹拌装置を取り付けたフラスコ内において、スチレン165質量部、n−ブチルアクリレート59質量部、メタクリル酸12質量部、n−オクチルメルカプタン4.0質量部からなる層形成用ワックスを含有しないモノマー溶液(単量体混合溶液)を調製した。
一方、撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(C1)1450質量部と、イオン交換水1250質量部とを仕込み、80℃まで加熱した後、過硫酸カリウム3.0質量部をイオン交換水57質量部に溶解させた重合開始剤溶液を添加し、さらに上記層形成用ワックスを含有しないモノマー溶液(単量体混合溶液)を2時間かけて滴下して結晶性ポリエステル樹脂微粒子を含んだモノマー液滴を形成し、このモノマー液滴を80℃で2時間にわたって加熱撹拌することによってシード重合を行い、その後、アニーリング処理を行うことなく、28℃まで冷却することにより、シード重合による結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC7)を得た。
<非晶性樹脂分散液A1の調製>〜非晶性ポリエステル樹脂〜
(モノマー成分)
・ビスフェノールAエチレンオキサイド2.2モル付加物: 40モル%
・ビスフェノールAプロピレンオキサイド2.2モル付加物: 60モル%
・テレフタル酸: 62モル%
・フマル酸: 40モル%
・トリメリット酸無水物: 3モル%。
攪拌器、温度計、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、上記モノマー成分のうちフマル酸とトリメリット酸無水物以外と、触媒としてジオクタン酸スズを上記モノマー成分の合計100質量部に対して0.25質量部投入した。窒素ガス気流下、235℃で6時間反応させた後、200℃に降温して、上記フマル酸とトリメリット酸無水物を投入し1時間反応させた。温度を更に220℃まで4時間かけて昇温し、10kPaの圧力下で所望の分子量(約2万)になるまで重合させ、淡黄色透明な非晶性ポリエステル樹脂を得た。得られた非晶性ポリエステル樹脂のGPCによって測定される重量平均分子量は12,000であった。
コンデンサー、温度計、水滴下装置、アンカー翼を備えたジャケット付き3リットル反応槽(東京理化器械(株)製:BJ−30N)を水循環式恒温槽にて40℃に維持しながら、該反応槽に酢酸エチル160質量部とイソプロピルアルコール100質量部との混合溶剤を投入し、これに上記非晶性ポリエステル樹脂を300質量部投入して、スリーワンモーターを用い150rpmで攪拌を施し、溶解させて油相を得た。この攪拌されている油相に10質量%アンモニア水溶液を、滴下時間5分間で14質量部滴下し、10分間混合した後、更にイオン交換水900質量部を毎分7質量部の速度で滴下して転相させて、乳化液を得た。
すぐに、得られた乳化液800質量部とイオン交換水700質量部とを2リットルのナスフラスコに入れ、トラップ球を介して真空制御ユニットを備えたエバポレーター(東京理化器械(株))にセットした。ナスフラスコを回転させながら、60℃の湯バスで加温し、突沸に注意しつつ7kPaまで減圧し溶剤を除去した。溶剤回収量が1,100質量部になった時点で常圧に戻し、ナスフラスコを水冷して分散液を得た。得られた分散液に溶剤臭は無かった。その後、イオン交換水を加えて固形分濃度が20質量%になるように調製し、これを非晶性ポリエステル樹脂分散液〔A1〕とした。また、分散液〔A1〕中の非晶性ポリエステル樹脂微粒子は、体積基準のメジアン径が150nmであった。
<非晶性樹脂分散液A2の調製>〜スチレンアクリル樹脂〜
(1)第1段重合
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン−2−ドデシルエーテル硫酸ナトリウム4質量部をイオン交換水3040質量部に溶解させた界面活性剤溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。この界面活性剤溶液に、重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)10質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、温度を75℃とした後、スチレン532質量部、n−ブチルアクリレート200質量部、メタクリル酸68質量部、n−オクチルメルカプタン16.4質量部からなる単量体混合液を1時間かけて滴下し、この系を75℃にて2時間にわたり加熱、撹拌することによって重合(第1段重合)を行って、コア部用樹脂微粒子〔A2−1〕の分散液を調製した。このコア部用樹脂微粒子〔A2−1〕の重量平均分子量は16,500であった。
(2)第2段重合(離型剤(ワックス)を内包する中間層の形成)
撹拌装置を取り付けたフラスコ内において、スチレン101.1質量部、n−ブチルアクリレート62.2質量部、メタクリル酸12.3質量部、n−オクチルメルカプタン1.75質量部からなる単量体混合液に、離型剤として、パラフィンワックス「HNP−57」(日本精鑞社製)93.8質量部を添加し、90℃に加温して溶解させて単量体溶液を調製した。
一方、ポリオキシエチレン−2−ドデシルエーテル硫酸ナトリウム3質量部をイオン交換水1560質量部に溶解させた界面活性剤溶液を98℃に加熱し、この界面活性剤溶液に、上記のコア部用樹脂微粒子〔A2−1〕の分散液を固形分換算で32.8質量部添加した後、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス」(エム・テクニック社製)により、上記の単量体溶液を8時間混合分散させることにより、分散粒子径340nmの乳化粒子が分散されてなる分散液を調製した。
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を98℃にて12時間にわたり加熱撹拌することにより重合(第2段重合)を行って、コア部/中間層からなる樹脂微粒子〔A2−2〕の分散液を調製した。このコア部/中間層からなる樹脂微粒子〔A2−2〕の重量平均分子量は23,000であった。
(3)第3段重合(外層の形成)
上記のコア部/中間層からなる樹脂微粒子〔A2−2〕の分散液に、過硫酸カリウム5.45質量部をイオン交換水220質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、80℃の温度条件下に、スチレン293.8質量部、n−ブチルアクリレート154.1質量部、n−オクチルメルカプタン7.08質量部からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合(第3段重合)を行った後、28℃まで冷却することにより、非晶性スチレンアクリル樹脂微粒子〔A2−3〕(コア部/中間層/外層の3層構造の樹脂微粒子〔A2−3〕)の分散液〔A2〕を得た。この非晶性スチレンアクリル樹脂微粒子〔A2−3〕(コア部/中間層/外層の3層構造の樹脂微粒子〔A2−3〕)の重量平均分子量は26,800であった。分散液〔A2〕中の樹脂微粒子〔A2−3〕は、体積基準のメジアン径が220nmであった。
<離型剤微粒子分散液の調製>
離型剤としてパラフィンワックスFNP−0090(融点89℃)60質量部と、イオン性界面活性剤「ネオゲン RK」(第一工業製薬社製)5質量部と、イオン交換水240質量部とを混合した溶液を95℃に加熱し、ホモジナイザー「ウルトラタックスT50」(IKA社製)を用いて十分に分散した後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーを用いて分散処理することにより、体積平均径が240nm、固形分質量が20質量部である離型剤微粒子分散液〔W〕を調製した。
<着色剤微粒子分散液の調製>
カーボンブラック「リーガル330」(キャボット社製) 10質量部
C.I.ピグメントブルー15:3 40質量部
イオン性界面活性剤(n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム) 8質量部
イオン交換水 250質量部
を混合溶解させ、「ウルトラタラックスT50」(IKA社製)によって10分間分散処理した後、超音波分散機で20分間処理することにより、体積基準のメジアン径が310nmである着色剤微粒子が分散されてなるブラック着色剤微粒子分散液〔K〕を調製した。
<トナーの作製例1>
非晶性ポリエステル樹脂分散液〔A1〕(固形分換算) 560質量部
ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔WC1〕 340質量部
離型剤微粒子分散液〔W〕 65質量部
ブラック着色剤微粒子分散液〔K〕 80質量部
を丸型ステンレス製フラスコ内に投入し、300質量部のイオン交換水と共に撹拌しながら20℃に調整した。その後、「ウルトラタラックスT50」(IKA社製)により十分に混合、分散処理して分散液を調製した。次に、分散液中に凝集剤としてポリ塩化アルミニウム0.1質量部を添加し、「ウルトラタラックスT50」(IKA社製)により分散処理を継続した。分散処理後、フラスコを加熱用オイルバスに投入し、撹拌しながらフラスコを45℃まで加熱した(当該加熱により凝集が開始する)。フラスコを45℃で60分間保持し、さらに0.5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液で系内のpHを8に調整し、その後、ステンレス製フラスコを密閉して磁力シールにより撹拌を継続しながら90℃まで加熱し(当該加熱により溶融が開始する)、さらに0.5モル/リットルの硝酸を用いて系内のpHを7に調整し、30分間保持して反応を継続させ、これにより、トナー粒子〔1〕を形成した(工程(F);図1参照)。得られたトナー粒子〔1〕の体積基準のメジアン径は6.4μmであった。
反応終了後、多管式熱交換機を使用(冷媒は5℃の冷水)し、−25℃/分の冷却速度となるように冷水の流量を調整して30℃まで急冷却した。急冷却後、濾過処理してイオン交換水で十分に洗浄した後、ヌッチェ式吸引濾過により固液分離を施した。さらに、分離した粒子を43℃のイオン交換水3リットル中に再分散させ、300rpmの条件で15分間撹拌して洗浄処理した(工程(G))。その後、42℃で気流乾燥させた(工程(H))。乾燥させたトナー粒子〔1〕100質量部に、外添剤として、平均一次粒子径17nmの疎水性シリカ0.6質量部および平均一次粒子径80nmの疎水性シリカ1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーの撹拌羽周速を35m/秒に設定して20分間外添剤を混合し、その後、400メッシュのステンレス製篩を通過させて、トナー〔1〕を得た(工程(I))。得られたトナー〔1〕の体積基準のメジアン径は6.5μmであった。トナー粒子〔1〕の結晶性ポリエステルドメインのTEM観察を行なったところ、5個のトナーのそれぞれにおいて0.1〜0.9μmの結晶性ポリエステル(微粒子)ドメインが5個〜50個確認できた(図1参照)。また、トナー粒子〔1〕では、非晶性ポリエステル樹脂マトリックス中に、結晶性ポリエステル(微粒子)とは別に、離型剤微粒子、ブラック着色剤微粒子が分散した構造となっている(以下のトナー粒子〔2〕〜〔9〕についても同様である)。かかる構造は、後述する「評価」のトナー中の結晶性樹脂のドメイン径およびドメイン数の測定の際に、併せて確認(解析)することができる。
<トナーの作製例2〜6>
トナーの作製例1において、ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔WC1〕の代わりに、ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔WC2〕〜〔WC6〕を用いたこと以外は同様にしてトナー〔2〕〜トナー〔6〕を作製した。得られたトナー〔2〕〜〔6〕の体積基準のメジアン径はいずれも6.5μmであった。トナー粒子〔2〕〜〔6〕の結晶性ポリエステルドメインのTEM観察を行なったところ、トナー粒子〔2〕〜〔6〕のいずれも5個のトナーのそれぞれにおいて0.1〜0.9μmの結晶性ポリエステル(微粒子)ドメインが5個〜50個確認できた(図1参照)。
<トナーの作製例7>
トナーの作製例1において、非晶性ポリエステル樹脂分散液〔A1〕の代わりに非晶性スチレンアクリル樹脂微粒子〔A2〕(コア部/中間層/外層の3層構造の樹脂微粒子〔A2〕)を用い、離型剤微粒子分散液〔W〕を用いなかったこと以外は同様にして、トナー〔7〕を作製した。得られたトナー〔7〕の体積基準のメジアン径は6.5μmであった。トナー粒子〔7〕の結晶性ポリエステルドメインのTEM観察を行なったところ、5個のトナーのそれぞれにおいて0.1〜0.9μmの結晶性ポリエステル(微粒子)ドメインが5個〜50個確認できた(図1参照)。なお、離型剤微粒子分散液〔W〕を用いなかったのは、非晶性スチレンアクリル樹脂微粒子〔A2〕(コア部/中間層/外層の3層構造の樹脂微粒子〔A2〕)では、中間層に離型剤微粒子分散液〔W〕と同様の働きをする離型剤(ワックス)を内包するためである。一方、トナー〔1〕〜〔6〕の作製に用いた非晶性ポリエステル樹脂では、離型剤(ワックス)を内包できないため、別途、離型剤(ワックス)が必要となってくるため、離型剤微粒子分散液〔W〕を入れている。
<トナーの作製例8>
トナーの作製例1において、ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔WC1〕の代わりに、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔C1〕を用いたこと以外は同様にして、トナー〔8〕を作製した。得られたトナー〔8〕の体積基準のメジアン径は6.5μmであった。トナー粒子〔8〕の結晶性ポリエステルドメインのTEM観察を行なったところ、ドメイン径は確認できなかった。
<トナーの作製例9>
トナーの作製例1において、ワックス層形成結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔WC1〕の代わりに、シード重合による結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液(WC7)を用いたこと以外は同様にしてトナー〔9〕を作製した。得られたトナー〔9〕の体積基準のメジアン径は6.5μmであった。トナー粒子〔9〕の結晶性ポリエステルドメインのTEM観察を行なったところ、ドメイン径は確認できなかった。
<現像剤の作製>
得られたトナー〔1〕〜〔9〕に、シリコーン樹脂を被覆した体積基準のメジアン径が60μmのフェライトキャリアを、トナーの濃度が6質量%になるようにV型混合機を用いて混合することにより、現像剤〔1〕〜〔9〕を得た。
<評価>
(1)トナー中の結晶性樹脂のドメイン径およびドメイン数
トナー粒子中において結晶性樹脂のドメインが形成されていることは、四酸化ルテニウム等の重金属酸化物によって染色したトナー粒子の断面について透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより確認することができる。具体的には、例えば、結晶性樹脂が結晶性ポリエステル樹脂であって非晶性樹脂が非晶性ポリエステル樹脂である場合、結晶性ポリエステル樹脂は染色されず、非晶性ポリエステル樹脂は染色されるため、識別することができる。TEMにて観察するトナー粒子の断面は、当該トナー粒子の最大面積の断面であることが好ましい。四酸化ルテニウムによるトナー粒子の染色は公知の種々の方法により行うことができ、具体的には、例えばトナーを四酸化ルテニウム0.5質量%水溶液に接触させて染色することができる。
トナー中の結晶性樹脂のドメイン径は、上記の通り、TEMにおいて観察されたトナー粒子の断面画像(倍率1万倍)を撮影し、「ルーゼックス画像解析装置」(ニレコ社製)において取り込み、トナー断面における0.1〜0.9μmのドメイン観察を行なった。前記観察をトナー5個について同様に行った。
本発明に係るトナー粒子を構成する結晶性樹脂ドメインの径(ドメイン径)は、0.1〜0.9μmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5μmである。
ドメイン径が上記の範囲にあることにより、所期の低温定着性および長期保管安定性を確実に両立して得られる。ドメイン径が過小である場合は、トナーの保管時にドメインを構成する結晶性樹脂とマトリクスを構成する非晶性樹脂との相溶が進行することによってトナー粒子同士の凝集・融着が発生し、その結果、長期保管安定性が得られないおそれがある。また、ドメイン径が過大である場合は、熱定着時にドメインを構成する結晶性樹脂とマトリクスを構成する非晶性樹脂との相溶が十分に進行せず、所期の低温定着性が得られないおそれがある。
(2)低温定着性
画像形成装置として、市販の複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)において、熱ロール定着方式の定着装置における定着加熱部材の表面温度を80〜150℃の範囲で変更することができるように改造したものを用い、上記の現像剤〔1〕〜〔9〕を搭載して、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、秤量350gの紙上に画像濃度0.8のベタ画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度(定着加熱部材の表面温度)を80℃から150℃まで、5℃刻みで増加させるよう変更しながら繰り返し行った。
得られたベタ画像について、折り機でベタ画像に荷重がかかるように折り、これに圧力0.35MPaの空気を吹き付けた後、その折り目の状態を、限度見本を参照して、下記の評価基準に示す5段階にランク付けし、ランク3となる定着実験における定着温度を、下限定着温度とした。
120℃未満である場合が合格レベルと判断され、110℃未満である場合は極めて良好であると判断される。
−評価基準−
ランク1:画像に大きな剥離がある(折り目以外の部分にも剥離がある)
ランク2:折り目に従い太い線状の剥離がある
ランク3:折り目に従い細い線状の剥離がある
ランク4:折り目の一部にその折り目に従った剥離がある
ランク5:折れ目に全く剥離がない。
(3)長期保存安定性 −貨物船輸送を想定したヒートサイクルテスト−
上記のトナー〔1〕〜〔9〕について、それぞれ、トナー50gをポリエチレンボトルに充填し、蓋を閉めて振とう機「タップデンサー KYT−2000」(セイシン企業製)で50回振とうした。次に、トナー50gが入ったポリエチレンボトルを恒温槽に入れ、ドライコンテナ貨物船輸送(オンデッキ最上段積載)を想定したヒートサイクルテストを実施した。
具体的には、温度30℃の環境下に24時間保管した後、6時間かけて30℃から60℃に昇温し、次いで6時間かけて60℃から30℃にもどすヒートサイクルを90回繰り返し行った。
このヒートサイクルテストを行った後、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に解砕しないよう注意しながら載せて、その篩を「パウダーテスター」(ホソカワミクロン社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmの振動強度に調節し10秒間振動を加えた後、篩上に残存した残存トナー量を測定し、下記式(1)によりトナー凝集率を算出して評価した。
なお、トナーの凝集率が20質量%以下である場合が合格レベルと判断され、さらに15質量%未満である場合は、長期保存安定性が極めて良好であると判断される。