光反射体用熱硬化性樹脂組成物(以下単に「樹脂組成物」ともいう)は、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを含有するエポキシ樹脂と、硬化剤と、白色顔料と、を含んでいる。このトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、光学異性体比率において、(2R,2R,2S)体と(2S,2S,2R)体との合計量が、(2R,2R,2R)体と(2S,2S,2S)体との合計量に対して4倍以上である。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは下記の構造式に示す化合物である。トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの別名は、トリグリシジルイソシアヌレートである。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートには、不斉炭素が3つ存在する。各不斉炭素はエポキシ環を構成する炭素となっている。不斉炭素の立体配置が3つとも揃った、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートとして、(2R,2R,2R)体と、(2S,2S,2S)体とが存在する。(2R,2R,2R)体は、(2R,2R,2R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのことである。(2S,2S,2S)体は、(2S,2S,2S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのことである。
また、3つの不斉炭素のうち1つだけ光学異方性の異なるトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートとして、(2R,2R,2S)体と、(2S,2S,2R)体とが存在する。(2R,2R,2S)体は、(2R,2R,2S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのことである。(2S,2S,2R)体は、(2S,2S,2R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのことである。
(2R,2R,2S)体である、(2R,2R,2S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの構造式を下記に示す。
(2S,2S,2R)体である、(2S,2S,2R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの構造式を下記に示す。
(2R,2R,2R)体である、(2R,2R,2R)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの構造式を下記に示す。
(2S,2S,2S)体である、(2S,2S,2S)−トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの構造式を下記に示す。
ここで、光学異性体とは、本明細書では、エナンチオマーとジアステレオマーを合わせたものをいう。例えば、(2R,2R,2R)体と(2S,2S,2S)体とは、エナンチオマーの関係にある。例えば、(2R,2R,2S)体と(2R,2R,2R)体とはジアステレオマーの関係にある。例えば、(2S,2S,2R)体と(2S,2S,2S)体とはジアステレオマーの関係にある。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの光学異性体における3つの不斉炭素の立体配置は、例えば、(2R,2R,2S)や、(2S,2S,2R)と表している。上記の構造式から分かるように、括弧内の表記は、異なるエポキシ環中の炭素を表している。よって、不斉炭素の立体配置は、(2R,2’R,2’’S)、(2S,2’S,2’’R)などと表記してもよい。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートにおいて、(2R,2R,2R)体、及び、(2S,2S,2S)体は、(2R,2R,2S)体、及び、(2S,2S,2R)体よりも融点が高い。この融点の違いは、立体配置によるものと考えられる。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートにおいては、通常、光学異性体が混在したものが使用され得る。このとき、上記のように融点の異なる光学異性体が混在することにより、融点が複数個所(例えば二箇所)で測定される。融点は例えばDSC(示差走査熱量測定)によって測定される。
ところで、(2R,2R,2R)体と(2S,2S,2S)体とのラセミ混合物は一般にβ型と呼ばれている。β型は150℃程度の高融点型結晶を与えることが知られている。これはこの2種の鏡像異性体同士が一対で強固な6個の水素結合を持つ分子格子となり他の分子格子とも高度な水素結合を有する結晶格子を形成しているためである。また、(2R,2R,2S)体と(2S,2S,2R)体との混合物は一般にα型と呼ばれている。α型は上記β型のような結晶構造ではないために比較的低い融点を与える。α型の融点は100℃程度である。なお、α型及びβ型は結晶性に起因する分類分けであるが、本明細書では、便宜上、(2R,2R,2R)体及び(2S,2S,2S)体の少なくとも一つを含むものをα型といい、(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の少なくとも一つを含むものをβ型という。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートでは、(2R,2R,2R)体及び(2S,2S,2S)体の多いβ型にシフトすると高温の融点を示す異性体量が多くなり、全体としての融点は高くなる。一方、(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の多いα型にシフトすると低温の融点を示す異性体量が多くなり、全体としての融点は低くなる。
通常、従来の方法で得られるトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート中に存在するα型とβ型の比率は3:1である。すなわち、(2R,2R,2R)体と(2S,2S,2S)体との合計量に対する、(2R,2R,2S)体と(2S,2S,2R)体との合計量の比率は3である。
これまで、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、高融点型のものが望まれていた。高融点型のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、β型の含有量が比較的多く、融点が高いだけでなく各種溶媒に対する溶解性が、α型等と比較して低い。そのため、異種化合物や反応性高分子の架橋剤として一液型の反応性混合物として用いた際、強制的に加熱硬化するまで反応が進行せず、電気、電子材料用途などで有用であると考えられていた。
一方、光反射体用熱硬化性樹脂組成物においては、保存温度などの低い温度では硬化が進行しないことが重要ではあるが、光反射性と成形性を高めるために、原料が良好に溶融することや、比較的低い加熱温度において流動性を発揮させることも重要である。高融点型のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの比率が多いと、材料を混合する際に、高融点型のものが均一に混合されずに、溶融残りが生じ、反射率を低下させる原因となるおそれがある。例えば、樹脂組成物は混練により製造され得るが、混練のときの温度が低い温度では、十分に溶解されず溶融残りが生じてしまうおそれがある。トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの混合性を上げるために温度を高くして混合することも考えられるが、温度を上げると、混合中に硬化反応が進行し、流動性や保存安定性が低下してしまうおそれがある。また、高融点型のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの比率が多いと、加熱した際の流動性が低くなり、成形性が低下するおそれがある。ここで、α型:β型の比率が3:1のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの融点は100〜115℃である。そのため、100℃程度の混練では溶け残りが生じ、黒点の原因となることが多い。そこで、(2R,2R,2S)体と(2S,2S,2R)体との合計量が、(2R,2R,2R)体と(2S,2S,2S)体との合計量に対して4倍以上であるトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを含むようにしている。この比率は、従来の方法で得られる、β型に対するα型の比率3よりも高い。したがって、高融点型のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの割合が低くなり、エポキシ樹脂の融点が低くなる。そのため、混練時の溶融残りが抑制され反射性を高めることができるとともに、加熱時の流動性が高まり、成形性を向上することができる。つまり、α型比率の高いトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを用いることで黒点を解消することができるのである。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートにおける光学異性体の比率は、物質量の比であるモル比として表すことができる。また、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートにおける光学異性体の比率は、質量比として表してもよい。光学異性体であり、原子の種類と量が同じであるため、化合物自体の分子量は等しいからである。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートにおいては、(2R,2R,2R)体及び(2S,2S,2S)体の合計量に対する(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の合計量の比率は、高ければ高いほどよい。それにより、反射性を高めることができるとともに、成形時の流動性がより高まる。例えば、(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の合計量は、(2R,2R,2R)体及び(2S,2S,2S)体の合計量に対して、5倍以上が好ましい。この倍率(比率)は、6倍以上がより好ましく、7倍以上がさらに好ましく、8倍以上がよりさらに好ましく、9倍以上がもっとさらに好ましく、10倍以上がよりもっとさらに好ましく、15倍以上がよりさらにもっと好ましく、19倍以上がもっとよりさらに好ましい。ただし、光学的に純度の高い化合物を得ようとすると、製造が容易でなくなる可能性がある。そのため、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートにおいては、(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の合計量は、(2R,2R,2R)体及び(2S,2S,2S)体の合計量に対して、例えば、999倍以下であってよい。この倍率(比率)は、99倍以下であってよく、あるいは、50倍以下であってよく、もしくは、25倍以下であってよい。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートに含まれる(2R,2R,2S)体と(2S,2S,2R)体との比率は、特に限定されるものではない。例えば、この比率は、1:4〜4:1であってよい。この場合、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートをより容易に得ることができる。また、比率が1:1の等量の混合物であってもよい。なお、エナンチオマーが等量の混合物はラセミ混合物と呼ばれる。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートに含まれる(2R,2R,2R)体と(2S,2S,2S)体との比率は、特に限定されるものではない。例えば、この比率は、1:4〜4:1であってよい。この場合、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートをより容易に得ることができる。また、比率が1:1の等量の混合物であってもよい。なお、エナンチオマーが等量の混合物はラセミ混合物と呼ばれる。
(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の含有比率の高いトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを適宜の方法で調整した後、異性体を分離精製して比率を高めることにより得ることができる。異性体の分離方法は、溶媒分離法、再結晶法、カラムクロマト法、などの適宜の方法を用いることができる。ここで、上記のように、物質量でα型がβ型の4倍以上になるように精製すればよく、異性体を完全に分離することまでは求められなくてもよい。ジアステレオマーの分離は、エナンチオマーの分離よりも比較的容易に行うことができる。
溶媒分離法においては、α型に対して高い溶解度を持ちかつβ型に対して溶解度の低い溶媒に、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを混合することにより行うことができる。溶解したトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを収集すれば、(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の含有比率を高めることができる。
溶媒としては、例えばジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒、アセトニトリル、アジポニトリル等のニトリル系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、さらに酢酸エチルなどのエステル系溶媒、さらにベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒などを単独であるいは混合して使用することができる。
再結晶法においては、例えば、α型の結晶化が進む条件で再結晶し、再結晶された物質を採取するようにすれば、(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の比率を高めることができる。また、β型の結晶化が進む条件で再結晶し、再結晶された物質を取り除くようにすれば、(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の比率を高めることができる。再結晶の溶媒としては、例えば、メタノール等の溶媒を用いることができる。また、溶媒として、上記の溶媒分離法に用いたものを使用してもよい。
カラムクロマト法においては、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの異性体混合物をカラムに充填することにより、異性体を分離することができる。カラムとしてはシリカゲルカラムなどを用いることができる。カラムクロマト法では、異性体を精製度高く分離することが可能である。また、光学活性カラムを使用すると、鏡像異性体の分離も行うことができる。
光学活性カラムに用いる光学分割剤としては、例えば、アミロース又はセルロース誘導体が挙げられる。アミロース又はセルロース誘導体としては、アミロースやセルロースのトリエステル誘導体やトリカルバメート誘導体を用いることができる。芳香族系のカルバメートなどが好ましく用いられる。例えば、セルローストリフェニルカルバメート、セルローストリス−p−トリルカルバメート、セルローストリベンゾエート、セルローストリアセテート、セルローストリシンナメート、セルローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、セルローストリス(4−クロロフェニルカルバメート)、セルローストリス(4−メチルベンゾエート)、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、アミローストリス(1−フェニルエチルカルバメート)などが挙げられる。この中でも、特にセルローストリス−p−トリルカルバメート、セルローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、アミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、アミローストリス(1−フェニルエチルカルバメート)が好ましい。さらに、この中でもアミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)、アミローストリス(1−フェニルエチルカルバメート)が好ましい。
樹脂組成物においては、異性体比率の異なるものを適宜混合して、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの光学異性体比率を調整してもよい。それにより、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの融点を調整して好適な温度で溶融させることができるので、保存安定性に優れ反射性と流動性とが高い樹脂組成物を得ることができる。異性体の混合は、例えば異性体が溶融して混合するような温度に加熱して行うことが好ましい。例えば、120℃で溶融混合することができる。この混合は、硬化剤など他の添加剤が加えられる前に、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート同士で行うことが好ましい。硬化剤が含まれると硬化が進行するおそれがある。
(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の含有比率の高いトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを製造する際に、光学純度を調整して得るようにしてもよい。トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、例えば、原料としてイソシアヌル酸とエピハロヒドリンとを用いる方法で製造することができる。具体的には、例えば、イソシアヌル酸と3倍量のアルカリ金属水酸化物を反応することによって得られるイソシアヌル酸3アルカリ金属塩とエピハロヒドリンとを溶媒中で加熱し、脱塩化を起こす方法などがある。エピハロヒドリンは不斉炭素を1つ有する化合物である。エピハロヒドリンは、通常はラセミ体が用いられる。このとき、エピハロヒドリンの光学純度を調整することによって、製造されるトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの異性体比率を調整することが可能になる。
エピハロヒドリンは、例えば、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられる。
エピハロヒドリンは、R体及びS体が存在する。そのため、R体とS体との比率が適宜のものとなったエピハロヒドリンを用いることにより、異性体の比率を調整することが可能である。例えば、エピハロヒドリンとして、光学活性エピハロヒドリンを使用すると、光学活性なトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得ることができる。したがって、エピハロヒドリンの光学純度を適宜調整することにより、適宜の光学純度及び異性体比率のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得ることができる。そのため、(2R,2R,2S)体及び(2S,2S,2R)体の比率が高まったトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを得ることができる。
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの調製には、イソシアヌル酸とエピハロヒドリンを反応させ、ここで得られたイソシアヌル酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルに、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加する方法を用いることができる。
イソシアヌル酸とエピハロヒドリンの反応では、エピハロヒドリンをイソシアヌル酸1モルに対し3〜60モル、好ましくは6〜60モル、さらに好ましくは10〜30モルの割合で添加する。その際、触媒として第3級アミン、第4級アンモニウム塩、トリ置換ホスフィン及び第4級ホスフォニウム塩よりなる群の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することが好ましい。触媒の使用量としては、イソシアヌル酸1モルに対して0.001〜0.1モル、特に好ましくは0.01〜0.05モルである。
イソシアヌル酸とエピハロヒドリンとの反応では、反応混合液全体の水分量を1%未満で行うことができる。水分量は、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは100ppm以下である。反応温度は40〜115℃で行うことができる。反応温度は、好ましくは60〜100℃である。
中間物であるイソシアヌル酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステル1モルに、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加することによって、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを製造することができる。この方法では、副反応も抑えることができる。アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートの添加量は、好ましくは3.0〜6.0モル、より好ましくは3.0〜4.0モルである。
上記反応はエピハロヒドリン以外に他の有機溶媒を併用しても差し支えないが、光学純度を調整する場合には、エピハロヒドリンを単独で反応試剤兼溶媒として使用することで目的物を分解する副反応が抑えられ、反応速度を高めることができるので好ましい。
通常のトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを工業的に製造する際に使用するエピハロヒドリンは、回収再利用するために水が混入する。また、反応混合液に対して水を添加することでイソシアヌル酸に対しエピハロヒドリンを付加する反応が促進されることから、一般に反応混合液全体に対して水を1〜5%程度添加して反応が行われる。
エピハロヒドリンは、イソシアヌル酸と反応させる際に高い温度で反応させると光学異性化反応(ラセミ化など)することがある。そのため、反応を穏和に進行させるために触媒として第3級アミン、第4級アンモニウム塩、トリ置換ホスフィン及び第4級ホスフォニウム塩よりなる群の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を加えることが好ましい。例えば第3級アミンとしては、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N’−ジメチルピペラジン等が挙げられる。また、トリ置換ホスフィンとしては、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン等が挙げられる。また、第4級アンモニウム塩としてはテトラメチルアンモニウムハライド、テトラエチルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド等が挙げられ、そのハライドとしてはクロライド、ブロマイド、アイオダイド等が挙げられる。さらに、第4級ホスフォニウム塩としてはテトラメチルホスフォニウムハライド、テトラブチルホスフォニウムハライド、メチルトリフェニルホスフォニウムハライド、エチルトリフェニルホスフォニウムハライド等が挙げられ、そのハライドとしてはクロライド、ブロマイド、アイオダイド等が挙げられる。ここで挙げた化合物のうち、なかでも第4級アンモニウム塩、第4級ホスフォニウム塩は、より穏和な条件下で副反応が少なく効率的に反応が進行するので好ましい。さらに好ましくは第4級アンモニウム塩であり、中でもテトラエチルアンモニウムハライドが最も好ましく、そのハライドとしてはクロライド、ブロマイドを用いることによって副反応がより抑えられ、反応後の触媒の除去も水洗によって容易に取り除けることから好ましい。
イソシアヌル酸とエピハロヒドリンとの反応では、エピハロヒドリンの光学異性化反応を抑える為に反応混合液全体の水分量を1%未満に抑えるようにしてもよい。もちろん、得られるトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの異性体率が所望の量となるのであれば、水を混合した系で反応させることも好ましい。
アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートは、イソシアヌル酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステルから脱ハロゲン化水素を起こさせる為に添加される。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、金属水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。アルカリ金属アルコラートとしては、例えば、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラートなどが挙げられる。
イソシアヌル酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステル形成後、そのままアルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加することができる。その際、過剰量使用したエピハロヒドリンを、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加する前に留去法によって回収してもよい。回収後に溶媒を加えて希釈した後、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコラートを添加することができる。また、過剰量使用したエピハロヒドリンを留去法で回収後、安価なラセミ体のエピハロヒドリン又は水に対する溶解度が5%以下の有機溶媒を、イソシアヌル酸の2−ヒドロキシ−3−ハロプロピルエステル1質量部に対して1質量部以上加えて希釈してもよい。その後、アルカリ金属水酸化物を脱水還流下に添加することができる。ここで用いる溶媒としては、ラセミ体のエピハロヒドリンにすることによって、反応生成物の分解を低減できることから特に好ましい。
アルカリ金属水酸化物で処理する反応は、アルカリ金属水酸化物水溶液を滴下しながら還流脱水下で行うことが好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液の添加量は、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは40〜55質量%である。反応温度としてはなるべく低い温度が好ましく、例えば、好ましくは10〜80℃であり、さらに好ましくは20〜70℃である。また、溶媒の還流量を多くできるように減圧度を調節することが好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液を滴下する場合、滴下量に対して5倍以上の還流量にすることによって、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを分解する副反応が抑制されるので好ましい。
以上に示すいずれかの方法により、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートは、光学異性体の比率が調整される。それにより、不斉炭素の光学異方性が揃ったもの(β型)に対する不斉炭素の光学異方性が一つだけ異なったもの(α型)の比率が4以上となったトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを製造することができる。もちろん、上記で説明した調製方法や精製分離方法は一例であり、光学異性体の比率が上記のようになるのであれば、適宜の調製方法及び精製分離方法によって得られたトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートを、エポキシ樹脂として用いることができる。
エポキシ樹脂は、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート以外のエポキシ樹脂をさらに含んでもよい。この場合、複数のエポキシ樹脂が組み合わされて用いられる。それにより、併用されるエポキシ樹脂によって機能性を高めることができ、例えば、成形性及び反射性を高めることができる。
エポキシ樹脂は、特に限定されることなく、エポキシ樹脂成型材料として一般に使用されている樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂として、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したものが例示される。エポキシ樹脂として、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換ビフェノール等のジグリシジエーテル、が例示される。エポキシ樹脂として、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂が例示される。エポキシ樹脂として、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、及び、脂環族エポキシ樹脂等が例示される。これらは単独で用いても、または2種以上併用してもよい。使用するエポキシ樹脂は無色または例えば淡黄色の比較的着色していないものが好ましい。そのようなエポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
エポキシ樹脂全量に対するトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの量は、特に限定されるものではないが、30質量%以上が好ましい。それにより、反射性と成形性とを効率よく高めることができる。エポキシ樹脂全量に対するトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの量は、より好ましくは40質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上であり、よりさらに好ましくは60質量%以上であり、なお好ましくは70質量%以上であり、なおさらに好ましくは80質量%以上である。エポキシ樹脂全量に対するトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートの量の上限は、特に限定されるものではないが、95質量%以下であってもよい。それにより、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート以外のエポキシ樹脂の機能をより発揮させることができる。もちろん、エポキシ樹脂の全てがトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートであってもよい。
エポキシ樹脂として、エポキシ樹脂のオリゴマー(エポキシ樹脂オリゴマー)を用いてもよい。エポキシ樹脂オリゴマーはエポキシ樹脂がオリゴマー化したものである。エポキシ樹脂オリゴマーは、100〜150℃における粘度が100〜2500mPa・sの範囲であることが好ましい。この粘度はトランスファー成形において特に好ましい。混練後の樹脂組成物の溶融粘度が低く流動性が高くなりすぎると、成型金型のエアベントが塞がれてしまい、金型キャビティ内に空気や揮発成分が残ってしまう可能性がある。キャビティ内に残存した空気や揮発成分は、成形ボイドやウェルドマーク等の外観不具合の原因となる。また、成型回数の増加に伴って、硬化物表面に残ったモノマー成分が成型金型に付着して金型を汚染することになる。金型にモノマーの付着物が堆積した結果、金型からの成型物の離型性が悪化する不具合が生じる。これに対し、上記のような特定の粘度を有するオリゴマーを使用することによって、混練後の樹脂組成物の溶融粘度を増加させ流動性を低下させることが可能である。また、そのようなオリゴマーの使用によって、金型の汚染原因となる残存モノマー成分を低減させることが可能である。その結果、溶融粘度が低い場合に生じる不具合を回避し、樹脂組成物のトランスファー成型性を向上させ、外観の優れた成型物を得ることが可能となる。
エポキシ樹脂オリゴマーは、熱硬化性樹脂組成物の調製に先立って、少なくともエポキシ樹脂および硬化剤、さらに必要に応じて硬化促進剤を配合することによって調製される。エポキシ樹脂オリゴマーに用いるエポキシ樹脂、硬化剤及び硬化促進剤は、それぞれ先に説明したエポキシ樹脂、後述する硬化剤および硬化促進剤と同様のものを用いることができる。
エポキシ樹脂オリゴマーは、より具体的には、例えばエポキシ樹脂および硬化剤を、当該エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、当該エポキシ基と反応可能な当該硬化剤中の活性基(酸無水物基や水酸基)が0.3当量以下となるように配合し、粘土状になるまで混練する工程を経て得ることができる。得られた粘土状混練物を、引き続き、温度25〜60℃の範囲で1〜6時間にわたってエージングする工程を設けることが好ましい。また、硬化促進剤を使用する場合には、エポキシ樹脂と硬化剤との総和100質量部に対し、0.005〜0.05質量部となるように配合することが好ましい。エポキシ樹脂オリゴマーにおいては、エポキシ樹脂中のエポキシ基が完全硬化しない程度で反応していてもよい。
エポキシ樹脂オリゴマーは、100℃における粘度が100〜2500mPa・sの範囲にあることがより好ましい。それにより、成型時のバリ長さを短く調整することがより可能になる。エポキシ樹脂オリゴマーの粘度が100mPa・s未満であると、トランスファー成型時にバリが発生しやすくなる。一方、粘度が2500mPa・sを超えると、成型時の流動性が低下し、成型性に乏しくなる傾向がある。なお、「粘度」は、ICIコーンプレート型粘度計を用いた測定によって得られた値であってよい。エポキシ樹脂オリゴマーは、その粒径が1mm以下になるまで粉砕し、温度0℃以下の環境で保存することによって、粘度の上昇を抑制または停止させることができる。エポキシ樹脂オリゴマーの粉砕方法は、陶器製乳鉢による粉砕等、適宜の方法で行うことができる。
エポキシ樹脂オリゴマーは、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのオリゴマーであってもよいし、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート以外のエポキシ樹脂のオリゴマーであってもよい。また、エポキシ樹脂オリゴマーは、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのオリゴマーと、それ以外のエポキシ樹脂のオリゴマーとの混合物であってもよい。
樹脂組成物は、硬化剤を含んでいる。硬化剤は、特に制限されることなく、エポキシ樹脂と反応可能な化合物であればよい。硬化剤は、その分子量は100〜400程度のものが好ましい。また、無色、または例えば淡黄色の比較的着色していないものが好ましい。硬化剤としては、具体的には、酸無水物系硬化剤、イソシアヌル酸誘導体、フェノール系硬化剤などが挙げられる。
硬化剤がイソシアヌル酸骨格を有する化合物を含むことが好ましい一態様である。イソシアヌル酸骨格を有する化合物は、イソシアヌル酸及びイソシアヌル酸誘導体である。
イソシアヌル酸誘導体としては、1,3,5−トリス(1−カルボキシメチル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3−カルボキシプロピル)イソシアヌレート、1,3−ビス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
硬化剤が酸無水物を含むことが好ましい一態様である。この場合、硬化剤は、35℃以上の融点を有する酸無水物を含むことがより好ましい。酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸、無水ジエチルグルタル酸、無水コハク酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。
酸無水物は、シクロへキサントリカルボン酸無水物を含むことがより好ましい。その場合、成形性と反射性が向上する。シクロへキサントリカルボン酸無水物は、35℃において、固体のタイプと高粘性液体のタイプとがある。タイプの違いは、異性体の比率などに由来すると考えられる。シクロへキサントリカルボン酸無水物としてはいずれのタイプを用いてもよい。好ましくは、35℃において固体のシクロへキサントリカルボン酸無水物を用いることができる。
フェノール系硬化剤としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類と、ホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂が例示される。フェノール系硬化剤としては、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルとから合成されるフェノール・アラルキル樹脂が例示される。フェノール系硬化剤としては、ビフェニレン型フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂が例示される。フェノール系硬化剤としては、フェノール類及び/又はナフトール類とジシクロペンタジエンとの共重合によって合成される、ジシクロペンタジエン型フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック樹脂等のジシクロペンタジエン型フェノール樹脂が例示される。フェノール系硬化剤としては、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、が例示される。さらに、フェノール系硬化剤としては、上記のフェノール系硬化剤の2種以上を共重合して得られるフェノール樹脂などが例示される。
先に例示した硬化剤の中でも、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸、無水ジエチルグルタル酸、およびシクロへキサントリカルボン酸無水物からなる群から選択される酸無水物、および1,3,5−トリス(3−カルボキシプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌル酸誘導体の少なくとも一方を使用することが好ましい。これらは、単独で用いるだけでなく、二種以上併用しても良い。なかでも、硬化剤として、ヘキサヒドロ無水フタル酸を用いることがより好ましい。
硬化剤の好ましい一態様では、硬化剤として、少なくともイソシアヌル酸誘導体を使用することが好ましく、それらを酸無水物、特に35℃以上の融点を有する酸無水物を組合せて使用することがより好ましい。イソシアヌル酸誘導体のトリアジン骨格は、通常の環状メチレン骨格と比較して、活性酸素によって酸化されにくい特徴を有する。そのため、イソシアヌル酸誘導体を使用し、先の特徴を樹脂組成物に付与することで、成型後の樹脂組成物の耐熱性を向上させることが可能である。また、トリアジン骨格と3官能性の反応基によって成型体の機械特性を向上させることも可能となる。さらに、イソシアヌル酸誘導体を酸無水物と組合せることによって、樹脂組成物の溶融粘度を増加させることができ、成型時に金型から張り出すバリ長さを抑制することが可能である。イソシアヌル酸誘導体と酸無水物との配合比は、1:0〜1:10の範囲で適宜調整することが可能である。コスト削減と、樹脂の黄変による反射率の低下を抑制する観点から、1:1〜1:3の配合比とすることが好ましい。
硬化剤の好ましい他の一態様では、硬化剤として、少なくともシクロへキサントリカルボン酸無水物を使用することが好ましい。シクロへキサントリカルボン酸無水物の使用によって、樹脂組成物の溶融粘度を増加させることができ、成型時のバリ長さを短くすることが可能である。また、樹脂組成物の硬化時間を短縮化できるため、成型効率を向上させることも可能である。シクロへキサントリカルボン酸無水物の具体例としては、下記に示す構造式で示される化合物が挙げられる。
シクロへキサントリカルボン酸無水物と共に硬化剤として先に説明した他の酸無水物、イソシアヌル酸誘導体およびフェノール系硬化剤等を併用してもよい。併用する硬化剤としては、成型時の流動性および成型物の着色の観点から、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸、無水ジエチルグルタル酸、または1,3,5−トリス(3−カルボキシプロピル)イソシアヌレートが好ましい。硬化剤におけるシクロへキサントリカルボン酸無水物の含有率は、特に限定されるものではないが、5質量%以上100質量%以下の範囲で調整することが好ましい。コストと性能とのバランスの観点から、上記含有率は25質量%以上75質量%以下の範囲であることが好ましい。
エポキシ樹脂と硬化剤との配合比は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、当該エポキシ基と反応可能な硬化剤中の活性基(酸無水物基や水酸基)が0.5〜1.5当量となるような割合であることが好ましい。上記活性基が0.5当量未満の場合には、エポキシ樹脂組成物の硬化速度が遅くなるとともに、得られる硬化物のガラス転移温度が低くなり、充分な弾性率が得られない場合がある。また、上記活性基が1.2当量を超える場合には、硬化後の強度が減少する場合がある。この割合は、エポキシ樹脂オリゴマーを使用しない場合、0.7〜1.2当量となるような割合であることがより好ましい。
エポキシ樹脂としてエポキシ樹脂オリゴマーを単独で使用する場合、またはエポキシ樹脂オリゴマーとオリゴマーでないエポキシ樹脂とを併用する場合には、エポキシ樹脂(オリゴマーを含む)と硬化剤との配合比は、他の好ましい範囲が設定され得る。この場合、エポキシ樹脂と硬化剤との配合比は、エポキシ樹脂オリゴマー中のエポキシ基1当量に対して、当該エポキシ基と反応可能な硬化剤中の活性基(酸無水物基や水酸基)が0.5〜0.7当量となるような割合であることが好ましい。上記活性基が0.5当量未満の場合には、エポキシ樹脂組成物の硬化速度が遅くなるとともに、得られる硬化体のガラス転移温度が低くなり、充分な弾性率が得られない場合がある。また上記活性基が0.7当量を超える場合には、硬化後の強度が減少する場合がある。この割合は、0.6〜0.7当量となるような割合であることがより好ましい。なお、エポキシ樹脂がエポキシ樹脂オリゴマーを含む場合の硬化剤の当量数は、エポキシ樹脂オリゴマーに含まれるエポキシ樹脂とオリゴマーでないエポキシ樹脂とのそれぞれに含まれるエポキシ基の総量を1当量として計算する。そして、硬化剤と硬化剤中に含まれる上記エポキシ基と反応可能な活性基の総和をエポキシ基に対する当量数として換算する。
樹脂組成物は、硬化促進剤として適宜の化合物を含有してもよい。硬化促進剤として、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミンおよびトリ−2,4,6−ジメチルアミノメチルフェノールなどの3級アミン類が例示される。硬化促進剤として、2−エチル−4メチルイミダゾールおよび2−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類が例示される。硬化促進剤として、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウム−o,o−ジエチルホスホロジチオエート、テトラ−n−ブチルホスホニウム−テトラフェニルボレートなどのリン化合物が例示される。硬化促進剤として、4級アンモニウム塩、有機金属塩類などが例示される。硬化促進剤として、前記に示した化合物の誘導体などが例示される。これらは単独で使用してもよく、あるいは併用してもよい。これらの硬化促進剤の中では、3級アミン類、イミダゾール類、リン化合物を用いることが好ましい。
硬化促進剤の含有率は、エポキシ樹脂に対して、0.01〜8.0質量%であることが好ましく、0.1〜3.0質量%であることがより好ましい。硬化促進剤の含有率が0.01質量%以上となることにより、十分な硬化促進効果を得ることができる。また、硬化促進剤の含有率が8.0質量%以下となることにより、得られる成形体に変色が発生することをより抑制することができる。
樹脂組成物は、白色顔料を含有している。白色顔料により、成形体となったときに光の反射率を高めることができ、反射性の優れた光反射体を得ることができる。
白色顔料としては、特に限定されるものではなく、適宜のものを使用することができる。例えば、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化ジルコニウム、無機中空粒子などを用いることができる。これらは単独でも併用しても構わない。無機中空粒子は、例えば、珪酸ソーダガラス、アルミ珪酸ガラス、硼珪酸ソーダガラス、シラス等が挙げられる。熱伝導性、光反射特性の点からは、少なくともアルミナまたは酸化マグネシウムを使用するか、またはそれらを組合せて使用してもよい。光反射性を高めるためには、酸化チタンを用いることが好ましい。
白色顔料の粒径は、中心粒径が0.1〜50μmの範囲にあることが好ましい。この中心粒径が0.1μm未満であると、粒子が凝集しやすく分散性が悪くなる傾向にある。一方、中心粒径が50μmを超えると、硬化物の光反射特性が十分に得られないおそれがある。
白色顔料の配合量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体に対して、10質量%以上であることが好ましい。それにより、反射率の高い成形体を得ることができる。白色顔料の配合量は、樹脂組成物全体に対して、20質量%以上であることがより好ましい。白色顔料の配合量は、樹脂組成物全体に対して、80質量%以下であることが好ましい。白色顔料の配合量は、樹脂組成物全体に対して、10体積%〜85体積%の範囲であることも好ましい。
樹脂組成物は、無機充填剤を含むことが好ましい。それにより、成形性を容易に調整することができる。無機充填剤は、特に限定されないが、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。熱伝導性、光反射特性および成型性の点から、少なくともシリカを含むことが好ましい。また、難燃性を高めるために、水酸化アルミニウムを組合せて使用することが好ましい。シリカとしては、多孔質シリカを用いることが好ましい。シリカとしては、多孔質球状シリカを用いることがさらに好ましい。
樹脂組成物の一態様では、無機充填剤として、多孔質充填剤または吸油性を有する化合物を含有することが好ましい。無機充填剤として、多孔質充填剤または吸油性を有するシリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することも可能である。また、多孔質構造を有し、さらに吸油性を有する化合物を用いることも可能である。多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の形状としては、特に限定されず、例えば、真球状、破砕状、円盤状、棒状、繊維状等のものを用いることができる。トランスファー成型時の金型内の流動性を考慮すると真球状、破砕状のものが好ましく、真球状のものがより好ましい。無機充填剤の一例として多孔質球状シリカが挙げられる。
上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物は、その表面が物理的または化学的に親水化処理または疎水化処理されていてもよい。表面が疎水化処理されたものであることが好ましく、吸油量(JISK5101に準ずる規定量)が50ml/100g以上となるように化学的に疎水化処理されたものであることがより好ましい。表面が疎水化処理された多孔質充填剤または吸油性を有する化合物を用いることで、エポキシ樹脂や硬化剤との接着性が増加し、結果として熱硬化物の機械強度やトランスファー成型時の流動性が向上する。また、吸油量50ml/100g以上となるように表面が疎水化処理された多孔質充填剤または吸油性を有する化合物を用いることで、エポキシ樹脂との接着性が向上するとともに、混錬後の樹脂組成物のポットライフ低下を抑制することができ、また、熱硬化時に着色を抑制することもできる。このような疎水化処理が施された多孔質充填剤としては、例えば、富士シリシア化学株式会社で販売されているサイロホービック702を挙げることができる。
上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の見掛け密度は、特に限定されないが、0.4g/cm3以上であることが好ましく、0.4〜2.0g/cm3であることがより好ましい。なお、見掛け密度とは、多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の素原料が占める密度と微細孔の占める空間(即ち細孔容積)とを考慮した密度のことである。この見掛け密度が0.4g/cm3に満たない場合は、充填剤粒子の機械的強度が小さく、ミキシングロールミルなどのせん断力を生じるような溶融混錬時において、粒子が破壊されてしまう恐れがある。一方、見掛け密度が2.0g/cm3を超える場合は、トランスファー成型のためのタブレットを成型する際に、臼型と杵型とからなる金型の表面に樹脂組成物が付着し易くなる傾向にある。
上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の平均粒径は、0.1〜100μmであることが好ましく、白色顔料とのパッキング効率を考慮すると1〜10μmの範囲であることがより好ましい。平均粒径が100μmよりも大きく、または0.1μmよりも小さくなると、トランスファー成型する際の溶融時に樹脂組成物の流動性が悪くなる傾向にある。
上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の比表面積は、100〜1000m2/gであることが好ましく、300〜700m2/gであることがより好ましい。比表面積が100m2/gよりも小さくなると充填剤による樹脂の吸油量が小さくなり、タブレット成型時に杵型に樹脂が付着し易くなる傾向にあり、比表面積が1000m2/gよりも大きくなると、トランスファー成型する際の溶融時に樹脂組成物の流動性が悪くなる傾向にある。
上記多孔質充填剤または吸油性を有する化合物の含有量は、特に限定されないが、無機充填剤全体に対し、0.1体積%〜20体積%の範囲であることが好ましい。溶融時の樹脂組成物の成型性を考慮すると、1体積%〜5体積%であることがより好ましい。この含有量が0.1体積%よりも小さい場合は、樹脂組成物の一部が臼型と杵型の成型金型の表面に付着し易くなり、20体積%よりも大きい場合は、トランスファー成型する際の溶融時に樹脂組成物の流動性が低下する傾向にある。例えば、上記多孔質充填剤として上記サイロホービック702を用いる場合には、その含有量を、樹脂組成物の溶融時の流動性や樹脂硬化物の強度の観点から5体積%以下とすることが好ましい。
上記無機充填剤と上記白色顔料との合計配合量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体に対して、10体積%〜85体積%の範囲であることが好ましい。この合計配合量が10体積%未満であると、硬化物の光反射特性が十分に得られない恐れがある。また、合計配合量が85体積%を超えると、樹脂組成物の成型性が悪くなり、光反射体の作製が困難となる傾向がある。
樹脂組成物には、カップリング剤を加えることができる。カップリンク剤は、必要に応じて用いられる。カップリング剤は、特に限定されないが、例えば、シラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤等を用いることができる。シランカップリング剤としては、例えば、エポキシシラン系、アミノシラン系、カチオニックシラン系、ビニルシラン系、アクリルシラン系、メルカプトシラン系及びこれらの複合系等を用いることができる。カップリング剤の種類や処理条件は特に限定されるものではなく、樹脂組成物にそのまま添加する方法や、無機充填剤または白色顔料と予め混合して添加する方法等、適宜の手法を適用してもよい。カップリング剤の配合量は樹脂組成物に対して5質量%以下が好ましい。カップリング剤の具体的な一例として、トリメトキシエポキシシランが挙げられる。
樹脂組成物には、溶融粘度調整を目的として増粘剤を添加してもよい。増粘剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ナノシリカを用いることができる。ナノシリカは、例えば、トクヤマ(株)で販売されているレオロシールCP−102として入手可能である。増粘剤の添加量としては、樹脂組成物の総体積の0.15体積%以下であることが好ましい。増粘剤の添加量が0.15体積%よりも多くなると、樹脂組成物の溶融時の流動性が損なわれるとともに、硬化後に充分な材料強度が得られなくなる恐れがある。また、増粘剤は、中心粒径が1nm〜1000nmであるようなナノ粒子フィラーであることが好ましく、中心粒径が10nm〜1000nmであるようなナノ粒子フィラーであることがより好ましい。中心粒径1nmよりも小さいフィラーは、粒子が凝集しやすく分散性が低下する傾向にあり、特性上好ましくない。このような増粘剤を用いる場合には、無機充填剤の一部としてナノシリカを用いてもよい。一方、1000nmよりも大きなフィラーを添加すると、バリ長さが低減しない傾向にあり、特性上好ましくない。
樹脂組成物は、酸化防止剤を含むことが好ましい。それにより、反射率の低下を抑制することができ、高い反射率をより長く維持することができる。また、酸化防止剤を含むことにより、樹脂組成物の保存安定性を高めることができる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などを用いることができ、これらは単独で使用してもよく、あるいは、併用してもよい。これらの酸化防止剤の中では、リン系酸化防止剤を用いることが好ましい。リン系酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、ジフェニルイソデシルホスファイト等が挙げられる。また、酸化防止剤として、ヒンダードフェノールを用いることも好ましい。
酸化防止剤の含有率は、エポキシ樹脂100質量部に対して、1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは、3〜18質量部である。酸化防止剤の含有率が、1質量部未満では、十分な酸化防止効果を得られない場合があり、また、20質量部を超えると、得られる着色体に変色が見られる場合がある。酸化防止剤の量が前記の範囲となることにより、反射率をより低下しにくくすることができるのである。酸化防止剤の含有率は、エポキシ樹脂100質量部に対して、5質量部以上であることがさらに好ましい。
樹脂組成物は、蛍光増白剤を含むことが好ましい。それにより、反射率を高めることができる。
蛍光増白剤としては、ベンゾオキサゾール系化合物などを好ましく用いることができる。また、蛍光増白剤として、ベンゾオキサゾール誘導体の他、クマリン誘導体、イミダゾール誘導体、スチルベン誘導体なども好ましく用いることができる。この中では、ベンゾオキサゾール誘導体を用いるのが望ましい
蛍光増白剤の含有量は、0.001質量%以上1質量%以下であることが好ましい。蛍光増白剤の量がこの範囲となることにより、反射率を効率よく高めることができる。
樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。離型剤を含むことにより、離型性を高めることができるため製造が容易になる。
離型剤としては、一般に熱硬化性樹脂に用いられる脂肪酸系、脂肪酸金属塩系、鉱物系等のワックス類を用いることができる。特に、耐熱変色性に優れた脂肪酸系、脂肪酸金属塩系のものを好適に用いることができる。
離型剤としては、具体的には、脂肪族エーテル、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウムなどを挙げることができる。これらの離型剤は単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
離型剤は、樹脂組成物全量に対して0.001〜1質量%の範囲で配合することができる。離型剤の配合量がこの範囲であると、良好な離型性と優れた外観をさらに両立させることができ、また、成形体の反射性を高めることができる。
樹脂組成物には、必要に応じて、その他の成分を加えることもできる。例えば、イオン補足剤、補強材、安定化剤等の各種添加剤を添加してもよい。
光反射体用熱硬化性樹脂組成物は、粒状、粉末状などの固体物として得ることができる。すなわち、樹脂組成物は、乾式の樹脂組成物として構成され得る。ここで乾式とは30℃以下の温度範囲において固体であり、粉砕加工や押出しペレット加工により粒状に加工できることを意味する。樹脂組成物が固体状になると、保存安定性及びハンドリング性を向上することができる。固体となった樹脂組成物は、50℃以下の温度で保存形状安定性を有することが好ましい。それにより、取扱い性や作業性をさらに高めることができる。
樹脂組成物は、無溶媒で調製することができる。無溶媒で調製することにより、容易に固体状の樹脂組成物を得ることができる。
樹脂組成物は、各成分を配合して、ミキサー、ブレンダー等を用いて十分均一に混合した後、加熱加圧可能な混練機、押し出し機等にて調製し、粉粒化することにより製造することができる。樹脂組成物の調製手段や条件等は特に限定されない。固体状の原料を用いることにより、粉体混合装置により簡単に混合することができる。混練機として、加圧ニーダー、熱ロール、エクストルーダー等を用いてもよい。粉粒化にあたっては、バルク体を形成した後、粉砕・整粒してもよい。また、適宜、造粒してもよい。光反射体用熱硬化性樹脂組成物は、粒状、粉末状、ペレット状などで得られる。
上記の樹脂組成物では、粉体混合方法を用いることができる。一般的な手法として、所定配合量の各種成分をミキサー等によって十分に均一に撹拌および混合した後、ミキシングロール、押出機、ニーダー、ロールおよびエクストルーダー等を用いて混練し、さらに得られた混練物を冷却および粉砕する方法を挙げることができる。なお、混練形式についても特に限定されるものではないが、溶融混練が好ましい。溶融混練の条件は、使用した成分の種類や配合量によって適宜決定すればよく、特に限定されない。例えば、15〜100℃の範囲で5〜40分間にわたって溶融混練することが好ましい。さらに、20〜100℃の範囲で10〜30分間にわたって溶融混練することがより好ましい。溶融混練時の温度が15℃未満であると、各成分を溶融混練させることが困難であり、分散性も低下する傾向にある。一方、100℃よりも高温であると、樹脂組成物の高分子量化が進行し、樹脂組成物が硬化してしまうおそれがある。また、溶融混練の時間が5分未満であると、バリ長さを効果的に抑制することができない傾向にあり、40分よりも長いと、樹脂組成物の高分子量化が進行し、成型前に樹脂組成物が硬化してしまうおそれがある。
ここで、樹脂組成物を調製する際、硬化剤として使用する化合物を、エポキシ樹脂の一部又は全部と予備混合することが好ましい一方法である。このような予備混合を実施することによって、硬化剤のベース樹脂に対する分散性をさらに高めることができる。その結果、硬化剤の分散不具合に起因する金型及びパッケージ汚れの発生をより効果的に抑制することが可能となる。なお、エポキシ樹脂の全量と硬化剤として使用する化合物との間で予備混合を実施しても差し支えないが、エポキシ樹脂の一部との予備混合であっても十分な効果が得られる。その場合、予備混合に用いるエポキシ樹脂の量は、成分全量の10〜50質量%とすることが好ましい。予備混合の方法は、特に制限されるものではなく、硬化剤として使用する化合物をエポキシ樹脂中に分散させることが可能であればよい。例えば、室温〜220℃の温度条件下で、0.5〜20時間にわたって両成分を攪拌する方法等が挙げられる。分散性及び効率性の観点からは、100〜200℃、より好ましくは150〜170℃の温度条件下、攪拌時間を1〜10時間、より好ましくは3〜6時間とすることが好ましい。ここで行う予備加熱混合は、例えば、エポキシ樹脂100質量部、及び硬化剤120質量部を耐熱ガラス製の容器に秤量し、この混合容器をシリコーンオイルや水などの流体を媒体とするヒーターを用いて、35℃〜180℃の温度範囲で加熱するなどの方法が挙げられる。加熱方法としては上記の方法に限定されるものではなく、熱電対、電磁波照射など公知の方法を用いることができ、さらに溶解を促進するために超音波などを照射してもよい。
樹脂組成物は、上記各成分を配合、混練した後、成型時の溶融粘度を上昇させることを目的として熟成放置(エージング)することが好ましい。より具体的には、エージングは0℃〜30℃で1〜72時間にわたって実施することが好ましい。エージングは、より好ましくは15℃〜30℃で12〜72時間にわたって、実施することが好ましい。エージングは、さらに好ましくは25℃〜30℃で24〜72時間にわたって、実施することが望ましい。1時間よりも短時間のエージングでは、バリ長さを効果的に抑制できない傾向にあり、72時間より長くエージングすると、成型時に充分な流動性を確保できないおそれがある。また、0℃未満の温度でエージングを実施した場合には、硬化促進剤が不活性化されて、樹脂組成物の三次元架橋反応が十分に進行せず、溶融時の粘度が上昇しないおそれがある。また、30℃よりも高温でエージングを実施した場合には、樹脂組成物が水分を吸収してしまい、硬化物の強度や弾性率などの機械的物性が悪くなる傾向が生じるおそれがある。
光反射体用熱硬化性樹脂組成物は、無溶媒で成形を行うことができる。上記の樹脂組成物は、加熱により軟化して溶融するため、無溶媒であっても、熱により液状となった樹脂組成物を適宜の形状に成形することができる。もちろん、成形性を考慮し、適宜、溶媒を加えてもよい。ただし、成形容易性の観点からは無溶媒が好ましい。
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂であるため、熱硬化性樹脂を硬化させるための適宜の硬化条件により、硬化物を得ることができる。また、成形型などを使用して加熱成形することにより、硬化物からなる成形体を得ることができる。この成形体が発光素子用光反射体となる。すなわち、光反射体用熱硬化性樹脂組成物を成形して、発光素子用光反射体が製造される。
発光素子用光反射体を製造するにあたっては、樹脂組成物を材料として、適宜の熱硬化性樹脂組成物の成形方法を用いることにより製造することができる。固体状の樹脂組成物では、乾式で成形を行うことができる。成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、トランスファー成形法等の溶融加熱成形法を好適に用いることができる。これらの中でもトランスファー成形法が好ましい一態様である。トランスファー成形法により、複雑な形状であっても外観の優れた成形体を得ることができる。また、射出成形機を用いた射出成形法も好適である。射出成形法により成形時間をより短くすることができ、複雑な形状であっても、光反射体を精度よく容易に製造することが可能となる。
光反射体用熱硬化性樹脂組成物は、溶融時の熱安定性が良好であるため、これらの成形方法に適している。加熱条件は、樹脂組成物が軟化して流動する条件であってよい。例えば、50〜300℃の範囲にすることができる。上記の樹脂組成物では、流動性が高いため、成形が容易である。加熱温度は、好ましくは100〜200℃の範囲である。
ところで、液状の組成物、すなわち、粘性を有する樹脂組成物を用いた成形では、成形材料をペレット状などにすることができない。この場合、湿式の条件での成形となる。そのため、ハンドリング性が悪く、射出成形機で成形する場合にはホッパーにプランジャー等の設備を設ける必要があり、製造コストがかかる。一方、固体状の組成物を用いた場合には、保存安定性に優れ、射出成形機のホッパーから投入するのみで成形が可能であるためハンドリング性に優れている。また、製造コストを低く抑えることができる。
成形後に、成形体のフレーム上にバリが発生した場合には、バリを除去することが好ましい。上記の樹脂組成物であれば、バリの密着性が低いため、容易にバリを除去することができる。発生したバリの除去は、適宜の方法により行うことができる。カッティングや切削などであってもよい。作業性の観点からは、バリの除去はブラスト処理により行うことが好ましい。ブラスト処理としては、バリ取りに用いられるブラスト処理法を用いることができる。これらのものとしては、例えばショットブラスト、サンドブラスト、ガラスビーズブラスト等を挙げることができる。
成形によって得た光反射体は、熱劣化による変色が抑制される。光反射体は、LED電球等のLED照明器具用のLEDリフレクターとして使用することができる。光反射体用熱硬化性樹脂組成物から得られる光反射体は、寿命が長い安価なLEDリフレクターを構成することができる。
図1に、光反射体用熱硬化性樹脂組成物を成形して得た光反射体を用いたLED照明装置の一例を示す。この光反射体はLEDリフレクター1である。光反射体は枠状に形成されており、中央部に凹部2と穴部3とを有している。凹部2は、壁面が傾斜した面となって設けられている。凹部2の壁面が光を反射させる反射面となる。穴部3は、凹部2の底部においてLEDリフレクター1を貫通するように設けられている。この穴部3には、発光素子であるLED5が搭載されたリードフレーム4が嵌め込まれている。リードフレーム4には、LED5に電気を供給するための配線が設けられていてよい。凹部2の発光面側(図の上部)は、透明なカバー6により覆われている。それにより、LED5が保護される。カバー6は凹部2の開口縁部においてLEDリフレクター1に接合されている。LEDリフレクター1は、LED5の発光を効率よく反射するための反射板として機能する。LEDリフレクター1の形状は、図1の形状に限られるものではなく、実装されるLED5の光量や色、指向性特性等を考慮して適宜設計することができる。上記の光反射体用熱硬化性樹脂組成物では、成形性が良好なため目的とする形状の成形体を容易に得ることができる。
[光反射体用熱硬化性樹脂組成物の調製]
表1に示した配合割合に従って各成分を配合し、ミキサーによって十分に混練した後にミキシングロールによって所定条件下で溶融混練して混練物を得た。さらに、得られた混練物を粉砕することによって、実施例及び比較例の光反射体用熱硬化性樹脂組成物を各々調製した。なお、表1に示した各成分の配合量の単位は質量部である。表における空欄は該当する成分の配合が無いことを意味する。
ここで、実施例1〜6及び比較例1については、予備混練せずに、各成分を一度に配合して樹脂組成物を調製した。比較例2については、予備混練を行った。予備混練においては、下記の成分のうち、エポキシ樹脂のうちの30%及び硬化剤をまず150℃、3時間で混練し、その後、それ以外の成分を加えるようにした。
各実施例および各比較例で使用した成分の詳細は以下のとおりである。
<エポキシ樹脂>
*トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート(エポキシ当量100、日産化学社製、「TEPIC−L」)。光学異性体の含有比は、〔(2R,2R,2S)体と(2S,2S,2R)体との合計量〕:〔(2R,2R,2R)体と(2S,2S,2S)体との合計量〕=95:5である。
*トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート(エポキシ当量100、日産化学社製、「TEPIC−S」)。光学異性体の含有比は、〔(2R,2R,2S)体と(2S,2S,2R)体との合計量〕:〔(2R,2R,2R)体と(2S,2S,2S)体との合計量〕=75:25である。
<硬化剤>
*ヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化製「リカジットHH」)
<硬化促進剤>
*テトラ−n−ブチルホスホニウム−o,o−ジエチルホスホロジチオエート(日本化学製「PX−4ET」
*エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド(北興化学製「TPP−EB」)
<白色顔料>
*酸化チタン(タイオキサイドジャパン製「RTC−30」)
*酸化チタン( 堺化学製「FTR−700」)
<無機充填剤>
*多孔質球状シリカ(富士シリシア製「サイロスフィアーC−150」
<シランカップリング剤>
*トリメトキシエポキシシラン(東レ・ダウコーニング製「A187」)
<離型剤>
*脂肪族エーテル(東洋ペトロライト製「ユニトックス420」)
<酸化防止剤>
*ヒンダードフェノール(アデカ製「AO−80」)
*9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(「HCA」)
<蛍光増白剤>
*ベンゾオキサゾール誘導体(日本化薬製「Kayalight OS」。
[光反射体用熱硬化性樹脂組成物の評価]
<成形物の作製>
実施例および比較例の各樹脂組成物を、成型金型温度180℃、成型圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件下でトランスファー成型した後、150℃で2時間にわたって後硬化することによって、厚み1.0mmの試験片をそれぞれ作製した。この成形物について、以下の手順に従って、初期及び加熱後の光反射率を測定した。また、加熱後の成形物の外観について観察を行った。
<初期の光反射率>
各試験片について、反射率測定器(日本電色製 SD6000)を用いて、波長460nmでの光反射率を測定した。
<加熱後の光反射率>
上記によって得られた試験片を加熱放置し、熱履歴後の反射率を、反射率測定器(日本電色製 SD6000)を用いて、波長460nmで測定した。加熱放置は、150℃、1000時間の条件で行った。この条件は実使用における熱負荷を想定した加速試験の温度条件である。
<加熱後の外観>
上記によって得られた試験片を加熱放置し、熱履歴後の外観を目視にて観察した。加熱放置は、200℃、100時間の条件で行った。外観観察では、試験片に黒点が一つ以上観察された場合は、「黒点有り」とし、試験片に黒点が観察されなかった場合は、「黒点無し」として判定した。
<結果>
結果を表1に示す。
表1によれば、実施例の各樹脂組成物は、優れた光反射特性を示し、加熱後の光反射性も高かった。比較例1では、(2R,2R,2R)体及び(2S,2S,2S)体の比率が高いため、反射率が低かった。比較例2では、予備混練を行うことによって反射率の向上が認められるものの、加熱後に黒点が観察された。なお、別途、実施例の各樹脂組成物で成形物を作製したところ、トランスファー成型時のバリ形成が抑制され、ワイヤボンディング性に優れていることが確認された。