JP2014214329A - シリンダライナ用原料粉末、シリンダライナ、及びシリンダライナの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】シリンダライナの原料に用いるシリンダライナ用原料粉末は、Al2O3からなる硬質粒子を3〜5質量%含有し、残部がAlを主成分とするAl合金粉末からなる。このAl合金粉末は、Siを18.5〜21質量%、Feを5〜9質量%、Mnを0.7〜3質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。このシリンダライナ用原料粉末は、Cuの含有量を実質的にゼロとすると共に、従来よりもSi及びMnの含有量を多くすることで、使用温度域(高温)において高硬度で耐摩耗性に優れるシリンダライナとすることができる。
【選択図】なし
Description
本発明のシリンダライナの主たる特徴とするところは、特定の添加元素を特定の量含有するAl合金粉末を主たる構成要素とするシリンダライナ用原料粉末からなる点にある。以下、詳細に説明する。
シリンダライナ用原料粉末は、Al2O3の硬質粒子を3〜5質量%含有し、残部がAlを主体とするAl合金粉末からなる。このAl合金粉末は、Siを18.5〜21質量%、Feを5〜9質量%、Mnを0.7〜3質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。
(Si:18.5〜21質量%)
Siは、製造されるシリンダライナの硬度を向上して耐摩耗性を向上するための元素である。また、熱膨張係数を調整するための元素でもある。この原料粉末を用いてシリンダライナを製造する際にAlマトリクス中にSi結晶として晶出させることで、高硬度で耐摩耗性に優れると共に、耐焼付性に優れるシリンダライナとすることができる。Siの含有量を18.5質量%以上とすることで、高温において上記効果を充分に達成できる。その上、Cuの含有量を実質的にゼロとすることに伴う常温での硬度の低下をも抑制できるため、常温においても高硬度で耐摩耗性に優れるシリンダライナとすることができる。一方、Siの含有量が21質量%以下であることで、高速押出し、具体的には押出速度を2mm/s〜5mm/sとすることができる。Siが多く存在することによる脆化を抑制できるため、高速押出しを行っても亀裂の発生を抑制できるからである。Siの含有量は、特に、19質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
Feは、Al合金の高硬度を維持するための元素である。Feは、多く含有することにより硬度は高まるが、含有量を多くしすぎると靭性が低下する傾向にある。Feの含有量が5質量%以上であることで、高硬度で耐へたり性や耐摩耗性及び耐焼付性を向上でき、9質量%以下であることで、高靭性を保持できる。Feの含有量は、特に、6質量%以上7質量%以下であることが好ましい。
Mnは、高温でのAl合金の硬度を向上させるための元素である。このMnを0.7質量%以上含有することで、高温で十分な硬度を有することができる。一方、Mnの含有量を3質量%以下とすることで、硬くなりすぎることによる靭性の低下を抑制して高靭性を保持できる。Mnの含有量は、特に、0.9質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
Al合金粉末は、さらに、Mgを含有することが好ましい。Mgは、硬度を向上するために含有される。Mgの含有量が0.5質量%以上であることで上記効果を充分に達成でき、2質量%以下であることで高靭性を保持できる。Mgの含有量は、特に、0.7質量%以上1.3質量%以下であることが好ましい。
(Al2O3:3〜5%)
Al2O3は、シリンダライナの耐摩耗性及び耐焼付性を向上するために含有される硬質粒子である。Al2O3の含有量は、3質量%以上であることで、耐摩耗性及び耐焼付性を向上でき、5質量%以下であることで、高靭性を保持できる。Al2O3の含有量は、特に、3質量%以上4質量%以下であることが好ましい。このAl2O3は、最大粒径が30μm以下で平均粒径が10μm以下であることが好ましい。
シリンダライナ用原料粉末は、さらに、固体潤滑剤を含有することが好ましい。固体潤滑剤は、相手部材(ここではピストン又はピストンリング)との間の潤滑性のために含有される。固体潤滑剤を含有することで、相手攻撃性を低下することができる。固体潤滑剤の含有量は、例えば、0.5質量%以下(但し、0質量%は含まない)とすることが挙げられる。この含有量を0.5質量%以下とすることで、シリンダライナの脆化を抑制すると共に、硬度と耐摩耗性を確保しつつ、相手攻撃性を低下できる。固体潤滑剤の含有量は、特に、0.3質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。この固体潤滑剤は、最大粒径が10μm以下であることが好ましい。
上述のシリンダライナは、高温において高硬度で耐摩耗性に優れる。Cuの含有量が実質的にゼロで、従来よりもSi及びMnを多く含有するAl合金粉末を主たる構成要素とするシリンダライナ用原料粉末を用いることで、高温での硬度を向上して耐摩耗性を向上できるからである。また、上述のシリンダライナは、常温でも高硬度で耐摩耗性に優れる。Al合金粉末がSi及びMnを多く含有量していることで、Cuの含有量をゼロにすることに伴う常温での硬度の低下を抑制できるからである。さらに、自動車用部品あるいは自動二輪用部品のエンジンの軽量化に寄与する。薄肉構造としても鋳込み時のへたりが発生し難いので、薄肉構造とすることができるからである。そして、生産性に優れる。2mm/s〜5mm/sの押出速度で押出しても割れや表面欠陥が発生し難いからである。
シリンダライナの製造方法は、以下の予備成形工程と押出工程とを備える。
予備成形工程では、上述のシリンダライナ用原料粉末を加圧成形して予備成形体を成形する。予備成形体の成形は、例えば、CIP(冷間静水圧プレス)により作製することができる。この成形により予備成形体の形状を最終製品形状(中空円筒状)とする。
押出工程では、上記予備成形体を押出加工することでシリンダライナを成形する。具体的には、熱間押出成形用装置のコンテナ内に装填し、コンテナ内の中空円筒状の予備成形体の中心孔にマンドレルを挿入した状態で、ラムにより予備成形体の後端部を押圧してダイスを通過させることで押出する。この押出により、マンドレルの外径に相当する内径と、ダイスの内径に相当する外径を有する押出材を得ることができる。
後工程として、上記押出材に対して、適宜、切断加工、機械加工、仕上げ加工などを施すことが挙げられる。それにより、所望の寸法精度のシリンダライナを得ることができる。
上述のシリンダライナの製造方法は、高温において高硬度で耐摩耗性に優れるシリンダライナを生産性よく製造できる。Cuの含有量が実質的にゼロで、従来よりもSi及びMnを多く含有量するAl合金粉末を主たる構成要素とするシリンダライナ用原料粉末を用いることで、2mm/s〜5mm/sの押出速度で押出しが可能だからである。
複数のシリンダライナ用原料粉末を用意し、これら原料粉末からなる複数のシリンダライナを作製して、以下の特性を評価した。
本発明のシリンダライナ用原料粉末として、表1に示すように、試料No.1〜試料No.4を用意した。具体的には、まず、エアアトマイズ法によって、Al合金粉末を急冷凝固して形成した。これらのAl合金粉末の平均粒径は50μmであった。そして、各Al合金粉末に、硬質粒子として最大粒径5μmで、平均粒径3μmのAl2O3を3質量%と、固体潤滑剤として単位質量当たりの表面積(比表面積)が150〜250m2/gのグラファイトを0.5質量%とをV型ミキサーにて均一に混合し、シリンダライナ用原料粉末を作製した。
比較例として、表1に示すように、試料No.101〜試料No.104のシリンダライナ用原料粉末を上述の試料No.1〜No.4と同様にして用意した。
[薄肉・高速押出性]
各試料の薄肉・高速押出性の評価として、各シリンダライナの押出し時の外周表面のムシレ具合を目視にて調べた。その結果を表2に示す。ここでは、ムシレ具合が良好の場合を○、不良の場合を×で示している。
上記シリンダライナについて、引張試験用の試験片を作製し、500℃での引張強度(500℃UTS)を測定した。この温度は、シリンダブロックにシリンダライナを鋳込む際の同シリンダライナの温度を想定している。そして、この500℃UTSにより試験片のへたり性を評価した。これらの結果を表2に併せて示す。表2に示すように、この500℃での試験片のへたり性を判定した結果を良好な方から順に◎、○、△、×で示している。
上記シリンダライナについて、摺動試験用の試験片を作製し、室温でのHRB(ロックウェル硬度 Bスケール)を測定した。また、焼付性、自己摩耗、及び相手摩耗を以下に示すチップオンディスク摩耗試験により評価した。これらの結果を表2に併せて示す。
原料粉末の主たる構成要素であるAl合金粉末が、Siを18.5〜21質量%、Feを5〜9質量%、Mnを0.7〜3質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる試料No.1〜4は、ムシレが小さく、それぞれ室温でのHRBが80、83、81、82であった。一方、Al合金粉末が上記範囲を満たさない試料のうち、No.101及びNo.102は、ムシレが大きく室温でのHRBが76以下であり、No.103及びNo.104はムシレが小さいものの室温でのHRBが70以下であった。このように、試料No.1〜No.4が、試料No.101〜No.104よりもムシレが小さくかつ室温での硬度が高い結果となったのは、Al合金粉末におけるCuの含有量をゼロとすると共にSi及びMnの含有量を多くすることで、硬度を向上できたからだと考えられる。また、500℃での引張試験より、試料No.1〜No.4は、試料No.101〜No.104に比べて、500℃UTSが高く鋳込みへたり性に優れる結果となった。さらに、試料No.1〜No.4は、試料No.101〜No.104に比べて、焼き付きが発生し難い上に、自己材及び相手材共に摩耗痕が小さく、耐焼付性、自己摩耗及び相手摩耗のいずれも優れる結果となった。試料No.1〜No.4、No.101〜No.104はいずれも、試験片に対して熱処理を施していないので押出成型後から状態変化していない。そのため、常温での摺動特性の結果が、高温での摺動特性に結果に反映されると考えられる。つまり、試料No.1〜No.4は、常温において試料No.101〜No.104に比べて摺動特性に優れるため、高温においても同様に摺動特性に優れると考えられる。
Claims (5)
- シリンダライナの原料に用いるシリンダライナ用原料粉末であって、
前記原料粉末は、Al2O3からなる硬質粒子を3〜5質量%含有し、残部がAlを主成分とするAl合金粉末からなり、
前記Al合金粉末が、Siを18.5〜21質量%、Feを5〜9質量%、Mnを0.7〜3質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるシリンダライナ用原料粉末。 - 前記Al合金粉末は、さらに、Mgを0.5〜2質量%含有する請求項1に記載のシリンダライナ用原料粉末。
- 前記原料粉末は、さらに、固体潤滑剤を0.5質量%以下(但し、0質量%を含まない)含有する請求項1または請求項2に記載のシリンダライナ用原料粉末。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のシリンダライナ用原料粉末からなるシリンダライナ。
- シリンダライナ用原料粉末を加圧成形して予備成形体を成形する予備成形工程と、
予備成形体を押出加工することでシリンダライナを成形する押出工程とを含むシリンダライナの製造方法であって、
前記原料粉末は、Al2O3からなる硬質粒子を3〜5質量%含有し、残部がAlを主成分とするAl合金粉末からなり、
前記Al合金粉末が、Siを18.5〜21質量%、Feを5〜9質量%、Mnを0.7〜3質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、
前記押出工程における前記予備成形体の押出速度が、2mm/s〜5mm/sであるシリンダライナの製造方法。
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