JP6304586B2 - アルミニウム合金スリーブ、及びアルミニウム合金スリーブの製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金スリーブ、及びアルミニウム合金スリーブの製造方法 Download PDF

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本発明は、エンジン部品などに利用されるアルミニウム合金スリーブ、及びその製造方法に関するものである。特に、摺動性に優れるアルミニウム合金スリーブ、このスリーブを高い歩留まりで製造できるアルミニウム合金スリーブの製造方法に関する。
自動車などのエンジン部品の一つにシリンダがある。シリンダは、エンジンの使用時、スリーブ又はライナと呼ばれる円筒体の内周面に、ピストン(スカート)及びピストンリングが高速で摺動する。そのため、従来、スリーブなどの円筒体には、高強度で耐摩耗性に優れる鉄系材料が利用されている。近年、軽量化のために、スリーブなどの円筒体の構成材料にアルミニウム合金が利用されてきている(例えば、特許文献1参照)。
アルミニウム合金スリーブの製造には、従来、(1)押出法、(2)後方押出鍛造法が利用されている。(1)押出法を用いた製造方法では、横型の複動押出プレス機などを用いて、素材である粉末成形体を押し出して長い押出筒体を作製し、この長い押出筒体を所定の長さに切断し(特許文献1の明細書の段落0002)、切断した短筒体に内周切削及び外周切削を行って、所定の内径及び外径にすることでスリーブが得られる。(2)後方押出鍛造法を用いた製造方法では、縦型プレス機などを用いて、素材である粉末成形体を鍛造して有底筒体を作製し、底部分を切断除去することでスリーブが得られる(特許文献1の明細書の段落0003、0006)。特許文献1は、縦型プレス機で作製したリング状の粉末成形体を直接押出又は間接押出によって押し出すことで、スリーブを製造する方法を開示している。
特開2008−126251号公報
アルミニウム合金スリーブの製造に対して、歩留まりの向上が望まれている。また、摺動性により優れるアルミニウム合金スリーブの開発が望まれている。
上述の(1)押出法を用いた製造方法では、一つの長い押出筒体から複数のスリーブを製造可能であるものの廃棄量が多く、歩留率はせいぜい70%〜75%程度であり、歩留りが低い。
押出の開始直後は、押出材の形状が安定せず、通常、押し出した押出材の先端部分は形状不良品として廃棄する。また、素材を完全に押し出すことは実質的に難しく、通常、押し出した押出材の終端部分及び素材の残部(ディスカードと呼ばれる部分)も廃棄する。更に、長い押出筒体を複数の短筒体に切断する場合、通常、切断代を設けることから、この切断代も廃棄材となる。一つの押出筒体から切り出す短筒体の数が多くなるほど切断代が多くなり、廃棄量が増大する。加えて、長い筒体を押し出す場合は、筒体の中空孔を形成する部材(マンドレル)の位置を精密に管理することが難しく、押出筒体の内径の中心と外径の中心とがずれ易い。ここで、シリンダ用スリーブは、摺動部材であることから高い寸法精度が求められるため、所定の寸法となるように短筒体の内周及び外周の双方を切削する必要がある。この切削時に生じる切削屑も廃棄材となる。このように長い押出材を用いた場合には、製造過程の各工程で廃棄材が発生し、廃棄量が多い。
上述の(2)後方押出鍛造法を用いた製造方法では、切断除去する底部が大きいため廃棄量が多く、歩留率はせいぜい70%程度であり、歩留りが低い。
特許文献1に記載される製造方法も、上述の(1)押出法を用いた製造方法と同様に、押出法を用いているため、ディスカードなどの廃棄材が生じ得る。
上述の廃棄材を再利用すれば、歩留まりを向上できる。しかし、上述の押出法や後方押出鍛造法を用いた製造方法の製造過程で生じる廃棄材はいずれも、原料に用いた粉末が、押出や鍛造といった塑性加工によって強固に結合された固化体となっており、原料に利用可能な粒子状になっていない。そのため、この廃棄材を粉末成形体の原料粉末にそのまま再利用できない。再利用にあたり、廃棄材を溶解などして新たにアルミニウム合金粉末を作製したり、成分分離したりする必要がある。従って、アルミニウム合金スリーブを製造する際に生じる廃棄材を容易に再利用可能なことが望ましい。
更に、上述の押出法や後方押出鍛造法を用いた製造方法で得られた従来のスリーブはいずれも、原料に用いたアルミニウム合金粉末がスリーブの軸方向に引き伸ばされる。そのため、上記従来のスリーブの内周面は、スリーブの軸方向に延びた縦長の粒子がスリーブの周方向に並列した組織(以下、この組織を縦長組織と呼ぶことがある)から構成されている。その結果、この縦長の粒子の延伸方向と、ピストンなどの摺動方向とが一致する。このことから、上記従来のスリーブは、一つの粒子におけるピストンなどの相手材との接触距離であって、上記摺動方向(縦長の粒子の長手方向に該当)に沿った距離(以下、摺動方向に沿った接触距離と呼ぶことがある)が大きく、摺動時の摩擦が大きくなり易い。従って、摺動時の摩擦の増大を招き難く、摺動性に優れるアルミニウム合金スリーブの開発が望まれる。
そこで、本発明の目的の一つは、摺動性に優れるアルミニウム合金スリーブを提供することにある。本発明の他の目的は、歩留りが高いアルミニウム合金スリーブの製造方法を提供することにある。
本発明のアルミニウム合金スリーブは、アルミニウム合金スリーブの縦断面において、アルミニウム合金の粒子が前記アルミニウム合金スリーブの軸方向に積層されて結合した組織を備え、前記粒子における前記アルミニウム合金スリーブの軸方向に沿った長さLhに対する前記粒子における前記アルミニウム合金スリーブの径方向に沿った長さLrの比Lr/Lhが1以上6以下である。
本発明のアルミニウム合金スリーブの製造方法は、以下の成形工程と、切削工程と、鍛造工程とを備える。
(成形工程)アルミニウム合金粉末を含む原料粉末を静水圧プレス(CIP)によって筒状に成形して、所定の内径を有するCIP筒体を作製する工程。
(切削工程)前記CIP筒体の中空孔に挿入された支持部材によって前記CIP筒体を内側から支持した状態で前記CIP筒体の外周に切削加工を施して、所定の外径を有する加工筒体を作製する工程。
(鍛造工程)前記所定の内径及び前記所定の外径を実質的に変化させることなく前記加工筒体の軸方向に熱間鍛造を行って鍛造筒体を作製する工程。
本発明のアルミニウム合金スリーブは、摺動性に優れる。本発明のアルミニウム合金スリーブの製造方法は、歩留りが高い。
実施形態のアルミニウム合金スリーブの概略斜視図、及び組織の模式拡大図である。 実施形態のアルミニウム合金スリーブの製造方法に備える成形工程を説明する説明図である。 実施形態のアルミニウム合金スリーブの製造方法に備える切削工程を説明する説明図である。 実施形態のアルミニウム合金スリーブの製造方法に備える鍛造工程を説明する説明図である。 左図(鍛造材組織)は、実施形態のアルミニウム合金スリーブ(試料No.1−1)の縦断面の顕微鏡写真、右図(押出材組織)は、押出法で作製した従来のスリーブ(試料No.1−101)の縦断面の顕微鏡写真である。 実施形態のアルミニウム合金スリーブの縦断面において、アルミニウム合金の粒子の抽出方法、及び径方向長さLr、軸方向長さLhの測定方法を説明する説明図であり、左図は、縦断面の顕微鏡写真をトレースした図、右図は、顕微鏡写真にトレース線を重ねた図である。 往復摺動試験の試験方法を説明する説明図である。 実施形態のアルミニウム合金スリーブと、従来のスリーブとについて往復摺動試験を行ったときの経時的な摩擦係数の変化を示すグラフである。
[本発明の実施形態の説明]
鍛造によって筒体を成形できれば、ディスカードや、上述の切断代、内周切削などによって生じる切削屑といった廃棄材が生じず、歩留まりを向上できる。ここで、エンジンのシリンダなどに利用されるスリーブは、厚さが薄く(概ね10mm以下)、軸方向長さが外径よりも長い縦長なものが代表的である。このような薄肉で縦長のスリーブを例えば縦型プレス機で成形すると、ダイとパンチとコアロッドとでつくられる成形空間におけるパンチ近傍領域では粉末を十分に圧縮でき、成形体におけるパンチ近傍領域で形成された部分(端面近くの部分)を緻密な領域にできる。しかし、上記成形空間における軸方向の中央領域では粉末に十分な圧縮力を伝達できず、成形体における上記中央領域で形成された部分が疎な(低密度な)領域になる。このような疎な領域を成形体の中央部分に有することで、脱型時の摩擦力(抵抗力)に耐えられずに成形体が破壊してしまう恐れがある。
そこで、本発明者らは、通常の金型成形の代替方法として、冷間静水圧プレス(CIP)を検討した。CIPによって所定の内径を有する粉末成形体を作製し、この粉末成形体に外周切削を施して所定の外径とし、最終製品の寸法に実質的に等しい内径及び外径を有する素材を鍛造に供することで、熱間鍛造後の切削量を低減、好ましくは切削自体を省略できる、との知見を得た。また、CIPによる粉末成形体を用いれば、この粉末成形体の外周切削時に生じた切削屑を再溶解などすることなく原料粉末に使用できる。そして、上述の熱間鍛造後に得られた成形体は、摺動性に優れており、かつ、上述の縦長組織ではなかった。代表的には、粒子が成形体の軸方向に押し潰されて成形体の径方向に延びた横長の粒子を有し、横長の粒子がスリーブの軸方向に積層されたような横長の組織を有する、との知見を得た。本発明は、これらの知見に基づくものである。以下、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1) 実施形態に係るアルミニウム合金スリーブは、アルミニウム合金スリーブの縦断面において、アルミニウム合金の粒子が上記アルミニウム合金スリーブの軸方向に積層されて結合した組織を備え、上記粒子における上記アルミニウム合金スリーブの軸方向に沿った長さLhに対する上記粒子における上記アルミニウム合金スリーブの径方向に沿った長さLrの比Lr/Lhが1以上6以下である。
上記アルミニウム合金の粒子とは、原料に用いたアルミニウム合金粉末の粉末粒子に基づく境界(旧粉末粒界)で囲まれる粒状の領域とする。上記アルミニウム合金の粒子におけるアルミニウム合金スリーブの径方向に沿った長さLr(以下、径方向長さと呼ぶことがある)、及び上記アルミニウム合金の粒子におけるアルミニウム合金スリーブの軸方向に沿った長さLh(以下、軸方向長さと呼ぶことがある)は、以下のように測定する。上記アルミニウム合金スリーブをその軸方向に切断して縦断面をとり、この縦断面に存在するアルミニウム合金の粒子を任意に30個以上抽出する。抽出した各アルミニウム合金の粒子についてそれぞれ、上記アルミニウム合金スリーブの径方向に沿った最大長さと、上記アルミニウム合金スリーブの軸方向に沿った最大長さとを測定する。上記最大長さとは、アルミニウム合金の粒子を内包する長方形であって、長方形の一辺を上記アルミニウム合金スリーブの径方向に平行な辺とし、他辺を上記アルミニウム合金スリーブの軸方向に平行な辺とする最小の長方形をとったときの上述の二辺の長さである(図6の左図、粒子を囲む二点鎖線の長方形参照)。各粒子における上記アルミニウム合金スリーブの径方向に沿った最大長さをその粒子の径方向長さLrとし、上記アルミニウム合金スリーブの軸方向に沿った最大長さをその粒子の軸方向長さLhとする。そして、各粒子について、軸方向長さLhに対する径方向長さLrの比(径方向長さLr/軸方向長さLh)を求める。30個以上の粒子における比Lr/Lhの平均(Lr/Lh)を、アルミニウム合金スリーブの比Lr/Lhとする。実施形態のアルミニウム合金スリーブでは、この比Lr/Lhが1以上6以下を満たす。
実施形態のアルミニウム合金(以下、Al合金と呼ぶことがある)スリーブは、比(径方向長さLr/軸方向長さLh)が1である粒子(代表的には断面円形状)、又は比(Lr/Lh)が1超である粒子、即ちスリーブの径方向に延びた偏平で横長の粒子を主体とする。代表的には、偏平な粒子がスリーブの軸方向に積層された組織(以下、横長組織と呼ぶことがある)を有する。このような特定の断面形状のAl合金の粒子を主体とする組織を有することで、実施形態のAl合金スリーブは、摩擦係数が小さく、摺動性に優れる。この理由は、以下のように考えられる。実施形態のAl合金スリーブの内周面は、上記断面円形状の粒子や偏平な粒子の積層によって構成される。偏平な粒子は、その長手方向(粒子の径方向に該当)と、ピストンなどの摺動方向とが直交するように存在している。このような実施形態のAl合金スリーブでは、一つのAl合金の粒子におけるピストンなどの相手材との摺動方向に沿った接触距離が上述の縦長の粒子に比較して小さくなり易く、摩擦係数が小さい、と考えられる。
また、実施形態のAl合金スリーブでは、上記Al合金の粒子が、上述の縦長の粒子に比較して、摺動時にピストンなどの相手材の摺動方向(スリーブの軸方向)に沿ってより剥離し難い形状といえる。そのため、実施形態のAl合金スリーブは、その内周面にキズがつき難く、キズに起因する摺動性の劣化を招き難い。従って、実施形態のAl合金スリーブは、長期に亘り、摺動性に優れると期待される。
更に、実施形態のAl合金スリーブは、後述する実施形態のAl合金スリーブの製造方法によって製造することで、歩留りが高い。
(2) 実施形態のアルミニウム合金スリーブの一例として、上記比Lr/Lhが2以上6以下である形態が挙げられる。
上記形態は、上述の偏平な粒子を主体とする組織を有するといえ、この組織は上述の横長組織といえる。横長組織を有する上記形態は、摩擦係数がより小さく、摺動性により優れる。
(3) 実施形態のアルミニウム合金スリーブの一例として、上記アルミニウム合金スリーブの厚さが8mm未満である形態が挙げられる。
上記形態は、薄いことから、軽量化が望まれる自動車のエンジン部品などに好適に利用できる。また、上記形態は、薄いことから、後述する実施形態のアルミニウム合金スリーブの製造方法によって製造する場合に脱型時の摩擦を低減でき、この摩擦に起因する表面荒れを低減できて表面性状に優れる。上記形態は、表面性状に優れる点からも、摺動性に優れる。
(4) 実施形態のアルミニウム合金スリーブの一例として、上記アルミニウム合金スリーブの外径Dsに対する上記アルミニウム合金スリーブの軸方向長さHsの比Hs/Dsが1以上である形態が挙げられる。
特に比Hs/Dsが1超であるAl合金スリーブは、端的に言うと縦長である。上記形態は、このような縦長のスリーブを含むものの、上述の特定の横長組織を有することで、摺動性に優れる。また、後述する実施形態のアルミニウム合金スリーブの製造方法を利用することで、このような縦長のAl合金スリーブであっても、高い歩留りで製造できる。
(5) 実施形態に係るアルミニウム合金スリーブの製造方法は、以下の成形工程と、切削工程と、鍛造工程とを備える。
(成形工程)アルミニウム合金粉末を含む原料粉末を静水圧プレス(CIP)によって筒状に成形して、所定の内径を有するCIP筒体を作製する工程。
(切削工程)上記CIP筒体の中空孔に挿入された支持部材によって上記CIP筒体を内側から支持した状態で上記CIP筒体の外周に切削加工を施して、所定の外径を有する加工筒体を作製する工程。
(鍛造工程)上記所定の内径及び上記所定の外径を実質的に変化させることなく上記加工筒体の軸方向に熱間鍛造を行って鍛造筒体を作製する工程。
「所定の内径及び所定の外径を実質的に変化させることなく」とは、加工筒体の内径と鍛造筒体の内径との差、及び加工筒体の外径と鍛造筒体の外径との差がいずれも、製造上必要な尤度程度、具体的には加工筒体と鍛造金型との間に設ける若干の隙間程度であること、とする。具体的には、上記差が1mm以下、とする。
実施形態のAl合金スリーブの製造方法は、以下の理由(A)〜(E)によって歩留まりが高い。
(A)押出法や後方押出鍛造法を用いていないため、ディスカードや切断代、内周切削などに起因する切削屑といった再利用し難い廃棄材が生じない。
(B)高い寸法精度で成形可能なCIPを利用しているため、薄く、縦長の筒体であっても、CIP筒体を高精度に成形できる。特に、内径を高精度に成形できるため、内周切削を省略でき、内周切削に伴う廃棄材が生じない。
(C)支持部材によってCIP筒体を支持しながら外周切削を行うため、薄いCIP筒体であっても割れなどが生じ難く、不良品を低減できる。
(D)内径及び外径が高精度に仕上げられた加工筒体を、高精度な成形が可能な鍛造に供するため、鍛造筒体に対して寸法調整のための切削加工を省略できる、又は切削した場合でも廃棄材が非常に少ない。
(E)外周切削時に生じる切削屑は、容易に再利用できる。この理由は、静水圧プレスを利用することで原料粉末が等方的に圧縮されるため、粉末粒子同士が塑性変形して強固に噛み合うようなことがなく、上記切削屑は、原料粉末の組成及び大きさを実質的に維持しているからである。好ましくは、実施形態のAl合金スリーブの製造方法は、廃棄材をゼロとすることができる。
更に、実施形態のAl合金スリーブの製造方法では、主として外周切削のみを行えばよい上に、CIP筒体は押出材に比較して切削し易いことから、内周切削と外周切削との双方を行う製造方法と比較して、製造時間(切削時間)を短縮できると期待される。また、実施形態のAl合金スリーブの製造方法における熱間鍛造は、粉末成形体を圧縮するため、粉末自体を圧縮する場合に比較して短時間で行える。これらの点から、実施形態のAl合金スリーブの製造方法は、Al合金スリーブを生産性よく製造できるといえる。
そして、実施形態のAl合金スリーブの製造方法によって得られたAl合金スリーブは、上述の摺動方向に沿った接触距離が短い組織、代表的には上述の横長組織を有しており、摺動性に優れる。実施形態のAl合金スリーブの製造方法は、このような摺動性に優れるAl合金スリーブを高い歩留りで製造できるといえる。
(6) 実施形態のAl合金スリーブの製造方法の一例として、上記原料粉末は、上記切削工程で生じた切削屑を含む形態が挙げられる。
上記形態は、切削屑を再利用しており、歩留りを更に向上できる。好ましくは、上記形態は、歩留率を100%にすることができる。
(7) 実施形態のAl合金スリーブの製造方法の一例として、上記CIP筒体の相対密度が75%以下である形態が挙げられる。
上記形態は、CIP筒体の相対密度が低いため強度に劣るものの、上述のように支持部材によってCIP筒体を支持した状態で外周切削を行うことで、上記形態は、切削時に割れなどの発生を抑制できる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の詳細を説明する。
(アルミニウム合金スリーブ)
実施形態のAl合金スリーブ1は、図1に示すように、中空孔15を有する筒体である。代表的には、Al合金スリーブ1は、薄肉で縦長の円筒体である。
・組成
Al合金スリーブ1は、1種以上の添加元素を含み、残部がAl及び不可避不純物であるAl合金を主体とし、実質的にAl合金のみから構成される形態の他、Al合金に加えて添加材を含む形態とすることができる。添加材は、主として分散強化に機能する分散強化材、主として使用時(摺動時)の潤滑性を高める潤滑材などが挙げられる。添加材を含む場合、添加材の合計含有量は、Al合金と添加材との混合粉末の合計を100質量%として、10質量%以下、更に7質量%以下が好ましい。
添加元素は、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)などが挙げられる。公知のAl合金とすることができる。分散強化材は、アルミナ(Al)、ムライトなどの硬質なセラミックスが挙げられる。潤滑材は、グラファイト、硫化モリブデン(MoS)、ボロンナイトライド(BN)などの非金属無機材料が挙げられる。具体的なAl合金の組成、Al合金と添加材とを含む混合組成は、以下が挙げられる。
組成(α) Siを15.5質量%以上18.5質量%以下、Feを4.3質量%以上5.7質量%以下、Mnを0.3質量%以上0.7質量%以下含有する
組成(β) 組成(α)に更にMgを0.8質量%以上1.3質量%以下含む
組成(γ) 組成(β)に更にCuを3.1質量%以上3.8質量%以下含む
組成(δ) 組成(α)〜(γ)のいずれか1つの合金組成に、更にAlを2.5質量%以上3.5質量%以下含む
組成(ε) 組成(α)〜(δ)のいずれか1つの組成に、更に潤滑材を0質量%超1質量%以下(好ましくは0.2質量%以上0.8質量%以下)含む
・組織
Al合金スリーブ1は、図1の一点鎖線の四角内に拡大して示すように、旧粉末粒界10cに囲まれた粒状のAl合金の集合体、即ち、Al合金からなる複数の粒子10の集合体である。具体的には、Al合金スリーブ1の縦断面をとり、各粒子10についてそれぞれ、Al合金スリーブ1の径方向に沿った長さ=径方向長さLr、及びAl合金スリーブ1の軸方向に沿った長さ=軸方向長さLhを測定した場合に、各粒子10はそれぞれ、径方向長さLrが軸方向長さLhより長い偏平な粒子(Lr>Lh)や、径方向長さLrと軸方向長さLhとが実質的に等しい粒子(Lr≒Lh、例えば断面円形状の粒子)である。偏平な粒子は、スリーブの軸方向(図1では上下方向)に押し潰されてスリーブの径方向(図1では左右方向)に延びて偏平になった、いわば横長の粒子である。Al合金スリーブ1は、このような軸方向長さLhが短い粒子10がスリーブの軸方向に積層されて互いに結合した組織を有する。特に偏平な粒子に着目すると、その長軸がAl合金スリーブ1の径方向に概ね平行に並び、その短軸がAl合金スリーブ1の軸方向に概ね平行に並んだ横長組織である。
なお、図1は模式図のため粒子10間に隙間があるが、後述する実施形態のAl合金スリーブの製造方法によって製造することで粒子10間に隙間が無く、相対密度((実際の密度/真密度)×100)が100%を満たすことができる(図5の左図、鍛造材組織参照)。また、図1では、分かり易いように旧粉末粒界10cを真円、楕円といった滑らかな曲線で示すが、実際には複雑な形状である(図6の二点鎖線で示す閉領域参照)。Al合金スリーブ1が上述の添加材を含む場合には、粒子10間(旧粉末粒界10c上)に添加材が介在する。添加材が上述の硬質なセラミックスなどである場合、この添加材は、原料に用いた粉末の形状を実質的に維持しており、代表的には、Al合金スリーブ1内に粒子の状態で存在する。
粒子10の径方向長さLrは、原料に用いるAl合金粉末の大きさや後述する鍛造工程時の圧縮度合いなどにもよるが、軸方向長さLhと同等以上であれば、十分に圧縮されて粒子10同士が強固に結合されているといえ、緻密で高強度なAl合金スリーブ1とすることができる。径方向長さLrが長いほど、緻密化、高強度化を図ることができる。一方、径方向長さLrが軸方向長さLhの6倍以下であれば、鍛造工程の圧縮に起因する脱型時の摩擦の増大を抑制して、表面性状に優れるAl合金スリーブ1とすることができる。径方向長さLrが短いほど、鍛造工程で脱型し易く、表面性状に優れるといえる。以上の点から、比(径方向長さLr/軸方向長さLh)を1以上6以下とする。強固な結合と脱型時の摩擦の増大抑制とを考慮すると、比(Lr/Lh)は2以上6以下が好ましい。粒子10の径方向長さLr及び軸方向長さLhは、原料粉末の大きさや製造条件を調整することで変更することができる。
Al合金スリーブ1の比(径方向長さLr/軸方向長さLh)は、上述のように複数の粒子10の比(Lr/Lh)の平均とするため、Al合金スリーブ1の比(Lr/Lh)が1の場合、上記偏平な粒子を含み得るものの、断面円形状といった粒子によって実質的に構成される組織を有する。上記比(Lr/Lh)が1超である場合、Al合金スリーブ1は、上記偏平な粒子が多いといえる。例えば、Al合金スリーブ1の縦断面における偏平な粒子の面積割合が、50%超、60%以上、更には70%以上である形態が挙げられる。勿論、実質的に全ての粒子10が偏平な粒子である場合もある。また、各粒子10の比(Lr/Lh)は、必ずしも1以上6以下を満たさない。
・大きさ
Al合金スリーブ1の厚さts、外径Ds、内径ds、軸方向長さHsは、適宜選択することができる。軽量化などを考慮すると、厚さtsは、10mm以下が好ましく、更に8mm未満であると、後述する特定の製造方法によって製造する場合に脱型し易く、表面性状に優れるAl合金スリーブ1とすることができる。特に、厚さtsは、3mm以上7mm以下、更に3.5mm以上6mm以下であると、十分な強度を有しながら、軽量で表面性状に優れる。
Al合金スリーブ1の一例として、スリーブの軸方向長さHsがスリーブの外径Dsよりも長い、即ち比Hs/Dsが1超である縦長の形態((Hs/Ds)>1)が挙げられる。縦長のAl合金スリーブ1は、ピストンなどの相手材の移動長を十分に確保できながら、上述の特定の組織を有するため摺動性に優れる。比Hs/Dsが1.5以下であれば長過ぎず、製造し易く、表面性状にも優れるAl合金スリーブとし易い。その他、スリーブの軸方向長さHsとスリーブの外径Dsとが等しい形態、即ち比Hs/Dsが1である形態((Hs/Ds)=1)とすることができる。
・特性(摩擦係数)
Al合金スリーブ1の内周面15iは、軸方向長さLhが短い粒子10がスリーブの軸方向に積み重なって構成される。そのため、Al合金スリーブ1はピストンなどの相手材が内周面15iに摺動したときの摩擦係数が小さく、上述の縦長組織から構成される内周面を有する従来のスリーブよりも小さい。Al合金の組成や使用状態などにもよるが、例えば、使用時にAl合金スリーブ1の内周面に対して直交する方向に負荷される荷重が39.2N(4kgf)までの範囲では、Al合金スリーブ1の摩擦係数が、0.50以下、更に0.45以下、更には0.40以下を満たす形態とすることができる。摩擦係数が小さいほど摺動性に優れ、このようなAl合金スリーブ1は、シリンダといった摺動部材の構成要素に好適に利用できる。
(アルミニウム合金スリーブの製造方法)
実施形態のAl合金スリーブ1は、例えば、以下の実施形態のAl合金スリーブの製造方法によって製造することができる。実施形態のAl合金スリーブの製造方法は、所定の内径を有するCIP筒体を作製し(成形工程)、このCIP筒体に外周切削を施して所定の外径を有する加工筒体とし(切削工程)、この加工筒体に熱間鍛造を施してその軸方向に圧縮して緻密化する(鍛造工程)。この製造方法は、端的に言うと、鍛造前の工程でスリーブの内径及び外径を実質的に決定し、鍛造工程でスリーブの軸方向長さを決定する。以下、図2〜図4を参照して、工程ごとに詳細に説明する。
・成形工程
この工程では、図2に示すように、原料粉末20pとして、所望の組成・大きさのAl合金粉末、適宜添加材の粉末を用意して、鍛造に供する素材となる筒状の粉末成形体(CIP筒体20)を作製する。特に、実施形態のAl合金スリーブの製造方法では、粉末成形体を冷間静水圧プレス(CIP)によって成形すること、CIP筒体20の内径dcを所定の大きさにすることを特徴の一つとする。
図2に、CIP筒体20の成形に利用する成形型50の一例を示す。成形型50は、CIP筒体20の外周面25o(図3)及び一端面(ここでは底面)を形成する有底円筒状の本体型52と、本体型52の底部の中央部分に配置されてCIP筒体20の内周面25i(図3)を形成するコアロッド54と、本体型52とコアロッド54とでつくられる有底円筒状の成形空間の開口部を覆い、CIP筒体20の他端面(ここでは上面)を形成する蓋型56とを備える。コアロッド54の一端面及びその近傍は本体型52の底部に嵌め込まれ、他端面及びその近傍は、蓋型56に嵌め込まれることで、コアロッド54を上記成形空間内の所定の位置に精度よく維持できる。
成形型50は、本体型52及び蓋型56をゴムといった弾性変形可能な材料で構成することで、上記成形空間内に充填された原料粉末20pを等方的に加圧でき、均一定な密度を有する成形体を高精度に成形可能である。特に、コアロッド54を鋼などの金属といった硬く高強度な材料で構成することで、CIP筒体20の内周面25iを高精度に成形できる。即ち、CIP筒体20の内径dcを高い寸法精度で成形でき、内周切削を不要にできる。そこで、CIP筒体20の内径dcは、最終製品であるAl合金スリーブ1(図1)の内径ds(図1)に実質的に等しくする。より具体的には、CIP筒体20の内径dcは、後述する鍛造金型70(図4)への素材の収納及び鍛造金型70からの脱型を考慮して設けられる若干の隙間、といった製造上必要な尤度を加味した値に設計する。内径dcに加味する値は小さいほど好ましく、1mm以下、更に0.5mm以下、更には0.3mm以下、特に0.1mm以下が好ましい。
CIP筒体20の外径Dcについても、最終製品であるAl合金スリーブ1の外径Ds(図1)に実質的に等しくすることが好ましい。即ち、CIP筒体20の外径Dcも、内径dcと同様に製造上必要な尤度を加味して設計する。CIP筒体20の内径dc及び外径Dcの設計は、熱間鍛造に伴う素材及び鍛造金型70の熱膨張量、鍛造金型70への素材の挿入及び脱型に必要とされる製造上の尤度などを考慮して行うとよい。但し、CIP筒体20の外周面25oは、ゴムといった柔らかい材料からなる型で成形されるため、硬質材料からなる型で成形される内周面25iに比較して寸法精度が低くなり易く、成形誤差がある程度生じ得る。そこで、実施形態のAl合金スリーブの製造方法では、後述するようにCIP筒体20に外周切削を施す。外周切削を行うことから、外径Dcに加味する値は、内径dcに加味する値よりも大きくすることができるが、1mm以下、更に0.8mm以下、更には0.6mm以下が好ましい。
CIP筒体20は、後述する鍛造工程で緻密化するため、相対密度が低くてよい。例えば、CIP筒体20の相対密度は75%以下が挙げられる。相対密度が低過ぎると、後述する切削工程で割れたり、後述する鍛造工程における圧縮率を大きくする必要があり、脱型時の摩擦の増大を招いたりすることから、CIP筒体20の相対密度は、60%以上、更に65%以上、更には70%以上が好ましい。
CIP筒体20の軸方向長さHcは、最終製品であるAl合金スリーブ1の軸方向長さHs(図1)に基づき設定する。後述する鍛造工程で素材をその軸方向に圧縮することから、CIP筒体20の軸方向長さHcは、CIP筒体20の外径Dc及び内径dcの設定寸法、CIP筒体20の真密度に対する密度比、及び鍛造工程で得られる鍛造筒体の体積に基づいて設定するとよい。
なお、原料粉末20pに用いるAl合金粉末は、アトマイズ法などの公知の方法によって製造できる。原料粉末20pに用いるAl合金粉末の大きさは、例えば、平均粒径が40μm以上60μm以下程度が挙げられる。原料粉末20pとして、添加材を含む混合粉末を用いる場合には、分散強化材の粉末の大きさは、例えば、平均粒径が2.5μm以上3.5μm以下程度、潤滑材の粉末の大きさは、例えば、平均粒径が1.5μm以上2.5μm以下程度が挙げられる。
・切削工程
この工程では、図3に示すように所定の内径dcを有するCIP筒体20の外周面25oを切削して、所定の外径Dpを有する加工筒体30を作製する。特に、実施形態のAl合金スリーブの製造方法では、CIP筒体20をその内側から支持した状態で外周切削を行うことを特徴の一つとする。
CIP筒体20は、比較的疎であり、原料に用いた粉末粒子同士が完全に結合されていない部分を有することから、押出材や鍛造材などの比較的密な成形体よりも強度が低い。そこで、実施形態のAl合金スリーブの製造方法では、CIP筒体20の外周切削にあたり、CIP筒体20の中空孔25に支持部材62を挿入して、CIP筒体20を内側から支持する。こうすることで、切削時、比較的脆いCIP筒体20に割れが生じたり、最悪の場合破壊したりすることなく、安定して切削できる。
支持部材62は、CIP筒体20の内周形状に相似な中実体(代表的には円柱)とし、支持部材62の中心軸とCIP筒体20の中心軸とを一致させる。被削材であるCIP筒体20は、上述のように内径dcが高い寸法精度で成形されているため、内径dcの中心を基準としてCIP筒体20に外周切削を行うことで、加工筒体30の外径Dpの寸法精度をも高められる。支持部材62の外径は、CIP筒体20の内径dcに実質的に等しいと、具体的には径差が0.5mm以下、好ましくは0.2mm以下であると、支持部材62を着脱し易い上に、CIP筒体20を安定して支持できて好ましい。更に支持部材62の軸方向長さが、CIP筒体20の軸方向長さHc(図2)よりも十分に長いと、CIP筒体20を安定して支持できて好ましい。
支持部材62の構成材料は、CIP筒体20を十分に支持できるように鋼などの金属といった硬く高強度な材料が好ましい。例えば、支持部材62は、成形工程で用いたコアロッド54(図2)を成形工程から引き続いて利用できる。この場合、コアロッド54の抜き取り及び支持部材62の挿入という工程を別途設けなくてよく、生産性を向上できる。
図3に、切削加工に利用する装置の一例を示す。切削加工には、バイトといった切削工具60と、切削工具60を被削材(ここではCIP筒体20)の軸方向に進行させる移動機構(図示せず)と、被削材を支持する支持部材62と、支持部材62をその周方向に回転させる回転機構(図示せず)とを備える旋盤などが利用できる。公知の切削装置を利用してもよい。被削材をその周方向に回転させて外周切削を行うことで、被削材の全長に亘って、均一的な外径Dpを有する加工材(ここでは加工筒体30)を形成できる。
CIP筒体20の保持をより確実に行うためには、CIP筒体20の各端面25e,25eもそれぞれ支持部材64,65によって支持することが好ましい。こうすることで、薄肉で縦長な上に脆弱なCIP筒体20であっても、切削時の荷重を支持部材62,64,65で受けられ、切削時に割れなどが生じることを効果的に防止できる。支持部材64,65の形状、大きさは、端面25e,25eを支持できれば特に問わない。例えば、円盤体が挙げられる。
CIP筒体20は、上述のように比較的疎であり、CIP筒体20を形成する粉末粒子同士の結合も弱いため切削し易い上に、切削屑Pが粉状になる。この粉状の切削屑P(切粉)は、原料に用いた同種の粉末粒子同士(例えば、Al合金の粉末粒子同士)、又は異種の粉末粒子同士(例えば、Al合金の粉末粒子とアルミナなどの添加材の粉末粒子同士)が結合することなく独立した粉末である。即ち、切削屑Pは、原料粉末20pと実質的に同様な粉末であり、実質的にそのまま原料粉末20pに利用可能である。従って、原料粉末20pの一例として、切削屑Pを含む形態とすることができる。例えば、原料粉末20pを全て切削屑Pとすることができる。切削屑Pは、適宜な集塵機(図示せず)によって回収するとよい。特に、切削屑Pを空中で吸引するなどして回収すると、埃などの不純物を含み難い。CIP筒体20が添加材を含む混合粉末で構成される場合、Al合金粉末と添加材とが均一的に配合されるように、回収した切削屑Pを適宜混合するとよい。組成の異なる原料粉末を用いて複数種のCIP筒体を作製する場合には、集塵機は、CIP筒体20の組成ごとに異ならせると、再利用し易い。切削屑Pを原料粉末20pに利用することで、切削工程までの製造過程で生じる廃棄材を低減できる。好ましくは廃棄材をゼロにすることができる。即ち、歩留りを効果的に向上でき、好ましくは歩留率を100%にすることができる。
・鍛造工程
この工程では、図4に示すように、所定の内径dc及び所定の外径Dpを有する加工筒体30に熱間鍛造を施して、鍛造筒体(Al合金スリーブ1の一例)を作製する。特に、実施形態のAl合金スリーブの製造方法では、加工筒体30をその軸方向に圧縮して緻密にすること、この圧縮によって内径dc及び外径Dpを実質的に変化させないことを特徴の一つとする。端的に言うと、圧縮によって、実質的に軸方向長さだけを変化させる。
熱間鍛造には、例えば、縦型プレス機を用いることができる。図4に、鍛造筒体の形成に利用する鍛造金型70の一例を示す。鍛造金型70は、貫通孔を有し、鍛造筒体の外周面15o(図1)を形成するダイ72と、ダイ72内に挿通配置されて、鍛造筒体の内周面15i(図1)を形成するコアロッド74と、素材である加工筒体30を押圧して圧縮する上パンチ76及び下パンチ78とを備える。ダイ72の内径は、鍛造筒体の外径(例えば、Al合金スリーブ1の外径Ds)に等しく、かつ加工筒体30の外径Dpに実質的に等しい。コアロッド74の外径は、鍛造筒体の内径(例えば、Al合金スリーブ1の内径ds)に等しく、かつ加工筒体30の内径dcに実質的に等しい。加工筒体30の外径Dp及び内径dcは、上述のように、製造上必要な尤度を加味した値に設計している。例えば、加工筒体30の外径Dpとダイ72の内径との差、加工筒体30の内径dcとコアロッド74の外径との差は、0.5mm以下、更に0.4mm以下、更には0.3mm以下が挙げられる。鍛造金型70と加工筒体30との間にこのような径差を設けることで、素材である加工筒体30を鍛造金型70に容易に収納でき、鍛造工程の作業性に優れる。
鍛造工程における圧縮率は、鍛造筒体が所定の外径Ds及び内径ds並びに軸方向長さHs(図1)を有しつつ、相対密度が100%となる(真密度となる)ように設定するとよい。
鍛造金型70に供する素材(ここでは加工筒体30)の加熱温度は、組成に応じて適宜選択するとよい。特に、共晶点直上以上の温度に素材を加熱することで、素材の変形抵抗を低減して加工(圧縮)を良好に行える。その結果、相対密度を高められ、真密度を実現し易い。例えば、素材の加熱温度は、上述の組成(α)〜(ε)では、460℃以上540℃以下が挙げられる。鍛造金型70(特にダイ72及びコアロッド74)も加熱しておくと素材の温度が低下し難く、加工性を高められる。鍛造金型70の加熱温度は、例えば、200℃以上550℃以下が挙げられる。鍛造金型70の加熱温度は、素材の組成に応じて適宜変更してもよいし、素材の加熱温度よりも低くしても高くしてもよい。鍛造金型70の加熱温度を低くすると、金型寿命を長くできる。
鍛造時、潤滑剤を利用することができる。潤滑剤を利用することで、鍛造筒体を鍛造金型70から脱型し易い。潤滑剤は、水溶性のもの、油溶性のもののいずれも利用できる。公知の潤滑剤を利用できる。水溶性潤滑剤は、水を媒体とすることで除去し易い上に環境に優しい。特に、動摩擦係数が小さいグラファイトを含む潤滑剤は、潤滑性に優れることから好適に利用できる。潤滑剤の鍛造金型70への塗布は、刷毛などを用いた方法、スプレーガンなどを用いた噴霧方法などを利用できる。公知の塗布方法を利用できる。鍛造金型70における素材の収納空間は、代表的には薄肉で縦長の円筒状であるため、噴霧方法を利用すると容易にかつ均一的に潤滑剤を塗布可能である。
・その他の工程
上述の潤滑剤を用いた場合、鍛造金型70から抜き取った鍛造筒体の外周面には潤滑剤が付着している。この潤滑剤の除去を望む場合、実施形態のAl合金スリーブの製造方法は、上記鍛造筒体の表面を清浄にする表面処理を施す洗浄工程を備えることができる。表面処理は、例えば、ショットブラストなどの潤滑剤を除去可能な種々の処理を利用できる。
鍛造筒体は、CIPによる成形、切削加工、及び鍛造という、寸法精度及び形状精度に優れる成形や加工が可能な工程を経て製造されているため、内径ds及び外径Dsが高精度に形成されている。従って、鍛造筒体をそのままAl合金スリーブ1とすることができる。この場合、鍛造工程では廃棄材が生じず、歩留りが高い。必要に応じて、鍛造筒体に切削加工を施して、外径などの寸法調整を行うことができる。
上述の表面処理や鍛造後の切削加工を行うと、これらの工程では切削屑などの廃棄材が生じる。しかし、これらの工程で生じる廃棄材は、押出法や後方押出鍛造法を用いた製造方法に比較して非常に少ない。従って、これらの工程を行った場合でも、実施形態のAl合金スリーブの製造方法は、高い歩留りを実現することができる。
[試験例1]
種々の製造方法を用いて、同じ組成及び同じ大きさのAl合金スリーブを作製し、製造過程の各工程における歩留り、最終的な歩留りを調べた。
ここでは、原料粉末として、Siを17質量%、Feを5質量%、Cuを3.5質量%、Mgを1質量%、Mnを0.5質量%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるAl合金粉末(平均粒径50μm)と、Al粉末(平均粒径3μm)と、グラファイト粉末(平均粒径2μm)とを含む混合粉末を用意した。混合粉末を100質量%として、Al粉末の含有量は3質量%、グラファイト粉末の含有量は0.5質量%とした。この原料粉末は、市販品(登録商標スミアルタフ)を用いた。この試験では、外径Dsが72mmφ、内径dsが64mmφ、厚さtsが4mm(<8mm)、軸方向長さHs(全長)が75mm、比Hs/Dsが1.04(>1)であるスリーブを80個作製した。
そして、製造過程の各工程において、廃棄材が生じた場合には、その工程における歩留率を求めた。各工程における歩留率(%)は、(廃棄材が生じた工程で作製された80個分の中間製造品の合計質量/80個分の原料粉末の合計質量)×100で求めた。最終的な歩留率(%)は、(80個のAl合金スリーブの合計質量/80個分の原料粉末の合計質量)×100で求めた。その結果を表1に示す。なお、80個のAl合金スリーブの合計質量は、後述するいずれの製造方法を用いた場合でも同じであるが、80個分の原料粉末の合計質量は、製造過程で必要な切断代などを考慮して設定しているため、製造方法によって異なる。
試料No.1−1は、上述した実施形態のAl合金スリーブの製造方法を利用して、以下のようにAl合金スリーブを作製した。コアロッドを備えるCIP用成形型と上述の原料粉末とを用いて、外径Dcが72.0mmφ(目標設計値)、内径dcが64.1mmφ、軸方向長さHcが115mm、相対密度が約66%であるCIP筒体を作製した(成形工程)。得られたCIP筒体について、その内側を支持部材で支持しながら外周切削を行い、外径Dpが71.1mmφ、内径dcが64.1mmφである加工筒体を作製した(切削工程)。ここでは加工筒体の端面の精度を高めるために端面に切削加工を施して、加工筒体の軸方向長さを110mm、端面を切削面とした。この切削加工は省略できる。コアロッドを備える縦型鍛造プレス機を用いて熱間鍛造を行い、得られた加工筒体をその軸方向に圧縮して、上記外径Ds、内径ds、及び軸方向長さHsを有する鍛造筒体を作製した(鍛造工程)。ここでは、熱間鍛造に供する素材の加熱温度を480℃、鍛造金型の加熱温度を350℃とした。更に、得られた鍛造筒体にショットブラストを施して鍛造時の潤滑剤を除去して(洗浄工程)、Al合金スリーブを作製した。
試料No.1−1では、外周切削で生じた切削屑などの切削加工で生じた屑を原料粉末に用いた。そのため、ここでは、この切削屑を廃棄材としない。ショットブラストで生じた材料屑は再利用できるものの、溶解などの工程が必要であることから、ここでは廃棄材とみなす。従って、試料No.1−1では、ショットブラストを行った洗浄工程における歩留率と、最終の歩留率とを求めた。
試料No.1−101は、上述した(1)押出法を利用して、以下のようにAl合金スリーブを作製した。ここでは、公知のCIP法によって粉末成形体を作製し(成形工程)、この粉末成形体を公知の条件によって押出して、長尺な押出筒体を製造した(押出工程)。この押出筒体の軸方向長さは、75mmのAl合金スリーブを80個製造可能な長さ(6m)よりも長く、更には80個分の切断代を少なくとも含む。この長尺な押出筒体を75mmに切断して短筒体とし(切断工程)、この短筒体の内周面及び外周面を切削することで(切削工程)、Al合金スリーブを作製した。
試料No.1−101では、押出筒体の先端部分及び終端部分、素材の残部、及び短筒体に切断するための切断代、短筒体の内周切削及び外周切削で生じた切削屑は再利用できるものの、溶解などの工程が必要であることから、ここでは廃棄材とみなす。従って、試料No.1−101では、押出工程における歩留率と、切断工程における歩留率と、切削工程における歩留率と、最終の歩留率とを求めた。
試料No.1−102は、上述した(2)後方押出鍛造法を利用して、以下のようにAl合金スリーブを作製した。ここでは、公知のCIP法によって粉末成形体を作製し(成形工程)、この粉末成形体を公知の条件によって後方押出して、有底筒状の鍛造材を製造した(後方押出工程)。この鍛造材の底部を切断して(底部除去工程)、75mmのAl合金スリーブを作製した。
試料No.1−102では、切断除去した底部は再利用できるものの、溶解などの工程が必要であることから、ここでは廃棄材とみなす。従って、試料No.1−102では、底部除去工程における歩留率と、最終の歩留率とを求めた。
表1に示すように、CIP筒体に外周切削を施した後、熱間鍛造を行った試料No.1−1では、最終歩留率が95%以上、更に98%以上と非常に高く、高い歩留りでAl合金スリーブを製造できることが分かる。また、試料No.1−1では、切削工程などで生じる切削屑を再利用するため、洗浄工程前までに廃棄材が生じていないことが分かる。この試験から、CIP筒体に外周切削を施した後、熱間鍛造を行う実施形態のAl合金スリーブの製造方法は、高い歩留りでAl合金スリーブを製造できることが裏付けられる。また、切削工程などで生じる切削屑は、原料粉末と実質的に同等な組成及び粉末状態であることから、容易に再利用でき、再利用性に優れる。
これに対し、押出法を用いる試料No.1−101では、成形工程以降、廃棄材が生じていることで最終歩留率が75%程度であり、歩留まりが低いことが分かる。後方押出鍛造法を用いる試料No.1−102も、鍛造材に占める底部の割合が高いことで最終歩留率が70%程度であり、歩留まりが非常に低いことが分かる。
作製した各試料No.1−1,No.1−101,No.1−102のAl合金スリーブについてそれぞれ、その軸方向に切断して縦断面をとり、組織観察を行った。その結果、いずれの試料のAl合金スリーブも、Al合金及び添加材によって形成されていた。但し、Al合金スリーブを構成するAl合金の粒子の形状が、試料No.1−1と、No.1−101,No.1−102とでは異なっていた。
図5は光学顕微鏡による断面観察写真であり、左図は、試料No.1−1のAl合金スリーブの縦断面における顕微鏡写真(鋳造材組織)であり、右図は、試料No.1−101のAl合金スリーブの縦断面における顕微鏡写真(押出材組織)である。図5の各顕微鏡写真において、灰色の領域がAl合金であり、黒色の粒が添加材(Al、グラファイト)である。原料に用いたAl粉末やグラファイト粉末は、原料に用いたAl合金粉末の各粉末粒子の表面に概ね存在し、Al合金スリーブ中では、旧粉末粒界上に存在する。従って、Al合金スリーブに存在するAl粒子やグラファイト粒子を仮想線でつなげてできる領域をAl合金の粒子として抽出することができる。つまり、この仮想線を旧粉末粒界とすることができる。図5の左図では、添加材の粒子が小さな閉領域を形成するように万遍なく分散している。図5の右図では、複数の添加材の粒子が上下方向に延びる直線状に並列配置しており、添加材の粒子がつくる縦筋が複数並列して見える。
図5の左図について、図6の右図(顕微鏡写真)に示すように添加材の粒子をつなぐ仮想線をとり、この仮想線を旧粉末粒界として、図6の左図(トレース図)に示すようにAl合金の粒子を抽出する。図6の左図において、二点鎖線で囲まれる閉領域がAl合金の粒子10であり、この閉領域をつくるに二点鎖線が旧粉末粒界になる。抽出した粒子は例示である。試料No.1−1のAl合金スリーブは、図5の左図、図6に示すように断面円形状の粒子や偏平な粒子を有し、これらの粒子がAl合金スリーブの軸方向(図5、図6では上下方向)に積層されて結合した組織を有することが分かる。抽出した各Al合金の粒子について、径方向長さLr、軸方向長さLhを測定した。図6の左図では、代表して、いくつかの粒子10についてのみにLr、Lhを付している。各粒子10の径方向長さLr、軸方向長さLhを用いて比(径方向長さLr/軸方向長さLh)を求め、30個以上の平均を求めた。その結果、試料No.1−1のAl合金スリーブの比(Lr/Lh)は、1以上6以下であった。なお、図6に示すように、粒子10ごとにみれば、比(Lr/Lh)が1以上6以下を満たす粒子と、満たさない粒子とが存在し得ることが分かる。
一方、試料No.1−101のAl合金スリーブは、図5の右図に示すように断面縦長の粒子が、Al合金スリーブの周方向(図5では左右方向)に並列した縦長組織であることが分かる。試料No.1−101の縦長の粒子について、径方向長さLr及び軸方向長さLhを調べたところ、軸方向長さLhが径方向長さLrよりも十数倍程度以上長くなっていた。試料No.1−102も、試料No.1−101と同様に、断面縦長の粒子がスリーブの径方向に積層した縦長組織であった。
[試験例2]
種々の厚さ及び種々の軸方向長さのAl合金スリーブを作製して、表面性状を調べた。
ここでは、原料粉末として、試験例1と同じ市販品を用いて、試験例1の試料No.1−1と同様に、CIP筒体の作製⇒CIP筒体の外周切削⇒熱間鍛造、という工程を経て、鍛造筒体を作製した。但し、この試験では、鍛造筒体の内径寸法を一定とし、鍛造筒体の厚さtsを4mm〜11mmの8種とし(試料No.2−X−1〜No.2−X−8、X=A,B,C)、鍛造筒体の軸方向長さHsが46mm(試料No.2−A)、75mm(試料No.2−B)、125mm(試料No.2−C)の3種とした。試料No.2−B−8は、試験例1の試料No.1−1に相当する。上記厚さts及び上記軸方向長さHsを有する鍛造筒体が得られるように、各試料No.2−X−Y(Y=1,…,8)のCIP筒体の外径Dc、内径dc、軸方向長さHcを調整してCIP筒体を作製し、外周切削及び熱間鍛造を行った。CIP筒体の相対密度は60%〜70%とした。また、外周切削などで生じた切削屑は、CIP筒体を成形するときに原料粉末に適宜利用した。鍛造筒体の内径寸法を一定とするため、厚さtsが大きいほど(厚いほど)、外径寸法が大きい鍛造筒体が得られる。
この試験では、試料No.2−X−Yごとに30個の鍛造筒体を作製し、各鍛造筒体について、内周面及び外周面を目視確認して、表面性状を評価した。その結果を表2に示す。かじりキズが見られない場合を「大変良い」(表2ではVGと示す)、かじりキズがみられるものの鍛造金型から脱型可能な場合を「良い」(表2ではGと示す)、かじりキズがひどく、脱型に支障がある場合を「悪い」(表2ではBと示す)と評価する。
表2に示すように、鍛造筒体の厚さ及び軸方向長さに係わらず、内周面はかじりキズなどの表面欠陥が生じておらず、表面性状に優れることが分かる。この理由は、鍛造金型から鍛造筒体を抜き出すときに、鍛造筒体の外径及び内径寸法が広がる方向に鍛造筒体のスプリングバックが作用することで、鍛造筒体の内周面とコアロッドの外周面とが実質的に擦り合わないため、と考えられる。一方、鍛造筒体の外周面は、鍛造筒体の厚さによって、表面性状が大きく異なることが分かる。具体的には、鍛造筒体が厚くなるほど、外周面にキズがつき易く、鍛造金型からの脱型も行い難いことが分かる。この理由は、鍛造筒体の厚さが厚くなるほど、鍛造筒体のスプリングバックの応力が大きくなり(強くなり)、脱型時における鍛造筒体の外周面と金型の内面との間の摩擦力が増大したため、と考えられる。また、鍛造筒体の外周面は、鍛造筒体が長くなるとキズがつき易いといえる。この理由も、長尺な鍛造筒体ではスプリングバックが大きくなり、脱型時の摩擦が増大するため、と考えられる。
この試験から、CIP筒体に外周切削を施した後、熱間鍛造を行う実施形態のAl合金スリーブの製造方法は、特に、厚さが8mm未満(好ましくは5mm以下)、軸方向長さが125mm以下程度のAl合金スリーブの製造に好適に利用できるといえる。なお、内周面及び外周面の評価がVGである鍛造筒体について、その縦断面の組織を調べたところ、試料No.1−1のAl合金スリーブと同様に、比(Lr/Lh)が1以上6以下である組織を有していた。
[試験例3]
試験例1で作製した試料No.1−1のAl合金スリーブと、押出法を用いて作製した試料No.1−101のAl合金スリーブとについて、摺動性を調べた。
摺動性は、往復摺動を行ったときに経時的に摩擦係数を測定し、摩擦係数で評価した。具体的には、以下のようにして摩擦係数を測定した。図7に示すように各Al合金スリーブから薄い平板状の試験片100を切り出す。この試験片100は、その長手方向がAl合金スリーブの軸方向に平行になるように切り出し、幅10mm、厚さ3mm、長さ70mmとする。この試験片100をその軸方向(図7の双方向矢印で示す方向、左右方向)に往復運動させた状態で、試験片100の表面(幅10mm×長さ70mmの面)に相手材81を押し付ける。相手材81を押し付けるときの荷重は、9.8N(1kgf)〜39.2N(4kgf)から選択する。相手材81にロードセル83を取り付けておき、ロードセル83によって摩擦係数μを測定する。ロードセル83は、摩擦係数の測定が可能な市販品を利用することができる。ここでは、相手材81は、窒化鋼によって作製し、試験片100との接触部分が図7に示すように滑らかな半球面(半径15mm)で構成される中実体とした。上記荷重は、試験片100の表面に対して垂直(図7の白抜き矢印で示す方向)に負荷する。ここでは、一定の荷重を負荷した状態を所定の時間保持し(この間、試験片100は往復運動を行っている)、所定の時間経過後に一定の割合で荷重を増大し、増大した荷重を所定の時間保持する、という操作を繰り返し、経時的に摩擦係数を測定する。ここでは、60秒ごとに9.8N(1kgf)ずつ荷重を増大する。その結果を図8に示す。
図8に示すグラフは、横軸が測定時間(sec)、縦軸が摩擦係数を示す。図8に示すように、上述の比(Lr/Lh)が1以上6以下である組織を有する試料No.1−1のAl合金スリーブは、上述の縦長組織を有する試料No.1−101に比較して、いずれの荷重においても摩擦係数μが小さいことが分かる。この試験では、試料No.1−1の摩擦係数μは、概ね0.40以下であり、0.30〜0.40の間をとり、摩擦係数の変動が小さい。この理由は、試料No.1−1のAl合金スリーブでは、試験片の表面に並ぶAl合金の粒子のそれぞれが、相手材との摺動方向に沿った接触距離を低減できたため、と考えられる。特に、偏平な粒子に着目すると、その長手方向(この試料ではスリーブの径方向=試験片100の厚さ方向に等しい)と、相手材の摺動方向(試験片100の運動方向)とが実質的に直交していることで上記接触距離を低減できる、と考えられる。従って、上述の比(Lr/Lh)が1以上6以下である特定の組織を備える試料No.1−1のAl合金スリーブは、その全長に亘って、上記接触距離を低減できる、と期待される。
一方、試料No.1−101のAl合金スリーブは、試料No.1−1よりも摩擦係数μが大きい。この理由は、試料No.1−101のAl合金スリーブでは、試験片の表面に並ぶAl合金の粒子のそれぞれについて、その長手方向(この試料ではスリーブの軸方向=試験片100の長手方向に等しい)と、相手材の摺動方向とが実質的に平行しており、相手材との軸方向に沿った接触距離が大きくなったため、と考えられる。この結果、試料No.1−101のAl合金スリーブは、その全長に亘って、上記接触距離が大きくなり易いと考えられる。
この試験から、Al合金の粒子におけるスリーブの径方向に沿った長さ(径方向長さLr)と、粒子におけるスリーブの軸方向に沿った長さ(軸方向長さLh)との比(Lr/Lh)が1以上6以下である組織を有するAl合金スリーブは、摺動性に優れることが確認された。また、このような摺動性に優れるAl合金スリーブは、CIP筒体を外周切削した後、内径及び外径を実質的に変化させることなく熱間鍛造を行う実施形態のAl合金の製造方法によって製造できることが確認された。
本発明は、上述の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、上述の試験例1〜3について、アルミニウム合金の組成、スリーブ及びCIP筒体の外径・内径・厚さ・軸方向長さなどを適宜変更することができる。
本発明のアルミニウム合金スリーブは、自動二輪車や自動四輪車といった自動車などのエンジン部品、特にシリンダの構成要素に好適に利用できる。本発明のアルミニウム合金スリーブの製造方法は、アルミニウム合金スリーブ、特に、上述した摺動性に優れる実施形態のアルミニウム合金スリーブの製造に好適に利用できる。
1 アルミニウム合金スリーブ
10 粒子 10c 旧粉末粒界
15 中空孔 15i 内周面 15o 外周面
20p 原料粉末
20 CIP筒体 25 中空孔 25e 端面 25i 内周面 25o 外周面
30 加工筒体 P 切削屑
50 成形型 52 本体型 54 コアロッド 56 蓋型
60 切削工具 62,64,65 支持部材
70 鍛造金型 72 ダイ 74 コアロッド 76 上パンチ 78 下パンチ
81 相手材 83 ロードセル 100 試験片

Claims (7)

  1. アルミニウム合金スリーブをその軸方向に切断した縦断面において、アルミニウム合金の粒子が前記アルミニウム合金スリーブの軸方向に積層されて結合した組織を備え、
    前記粒子における前記アルミニウム合金スリーブの軸方向に沿った長さLhに対する前記粒子における前記アルミニウム合金スリーブの径方向に沿った長さLrの比Lr/Lhが1以上6以下であるアルミニウム合金スリーブ。
  2. 前記比Lr/Lhが2以上6以下である請求項1に記載のアルミニウム合金スリーブ。
  3. 前記アルミニウム合金スリーブの厚さが8mm未満である請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金スリーブ。
  4. 前記アルミニウム合金スリーブの外径Dsに対する前記アルミニウム合金スリーブの軸方向長さHsの比Hs/Dsが1以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金スリーブ。
  5. アルミニウム合金粉末を含む原料粉末を静水圧プレスによって筒状に成形して、所定の内径を有するCIP筒体を作製する成形工程と、
    前記CIP筒体の中空孔に挿入された支持部材によって前記CIP筒体を内側から支持した状態で前記CIP筒体の外周に切削加工を施して、所定の外径を有する加工筒体を作製する切削工程と、
    前記所定の内径及び前記所定の外径を実質的に変化させることなく前記加工筒体の軸方向に熱間鍛造を行って鍛造筒体を作製する鍛造工程とを備えるアルミニウム合金スリーブの製造方法。
  6. 前記原料粉末は、前記切削工程で生じた切削屑を含む請求項5に記載のアルミニウム合金スリーブの製造方法。
  7. 前記CIP筒体の相対密度が75%以下である請求項5又は請求項6に記載のアルミニウム合金スリーブの製造方法。
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