JP2014212255A - 希土類磁石の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】磁気特性に優れる希土類磁石を製造できる希土類磁石の製造方法を提供する。【解決手段】希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化材に以下の脱水素処理を施す。水素雰囲気で870℃以上の温度Thighにまで昇温し、温度Thighの到達以降に雰囲気の減圧を開始して、雰囲気中の水素圧が101hPa以下の所定の値P1になるまで減圧する。前記水素圧が所定の値P1から10.1Pa以下の所定の値P2に達するまで減圧しながら所定の降温速度で700℃以上850℃未満の温度Tlowにまで降温する。前記水素圧が所定の値P2以下の減圧雰囲気で温度Tlowに保持する。Vpを水素の排気速度、VHを水素の飽和吸蔵量、α=0.97〜3.0の定数とするとき、降温速度ΔT/ΔtはΔT/Δt=αlog10(Vp/(100?VH))を満たす。減圧の開始Spから保温の終了までの間、水素化材に4T以上の強磁場を印加する。【選択図】図1
Description
本発明は、永久磁石などに利用される希土類磁石を製造する希土類磁石の製造方法に関するものである。特に、Br/Bsや保磁力といった磁気特性に優れる希土類磁石が得られる希土類磁石の製造方法に関する。
モータや発電機などに利用される永久磁石には、希土類磁石が広く利用されている。希土類磁石は、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、硼素(B)を含む合金からなるネオジム磁石が代表的である。従来のネオジム磁石として、原料粉末を成形した後、粉末成形体を焼結した焼結磁石、原料粉末と樹脂とを混合して成形したボンド磁石がある。また、ボンド磁石では、Nd−Fe−B系合金よりも更に磁気特性に優れる材質として、Sm(サマリウム)−Fe−N(窒素)系合金が検討されている。
焼結磁石やボンド磁石以外の希土類磁石として、特許文献1では、Nd−Fe−B系合金粉末を水素化した水素化粉末を原料とし、この原料粉末を圧縮成形して得られた粉末成形体に脱水素処理を施した圧縮磁石(圧粉磁石)を開示している。特許文献2では、Sm−Fe系合金粉末を水素化した水素化粉末を原料とし、この原料粉末を圧縮成形して得られた粉末成形体に脱水素処理を施した後、窒化処理を施したSm−Fe−N系合金の圧縮磁石を開示している。また、特許文献1,2では、脱水素処理時や窒化処理時に強磁場を印加して結晶の配向性を高めることで、磁気特性に優れる希土類磁石が得られることを開示している。
希土類磁石の磁気特性の更なる向上が望まれている。
上述のように強磁場中で脱水素処理を行うことで、結晶の核生成や成長方向を制御することができ、磁気異方性によって優れた磁気特性を有することができる。また、脱水素処理時の保持温度を再結合温度(=脱水素反応の平衡温度。脱水素及び再結合反応が優先的に行われる下限温度)以上の温度であって高い温度とするほど、脱水素及び再結合反応を安定して行える。しかし、上記保持温度を高くすると、再結合反応によって生じた結晶が成長して粗大になり易い。例えば、500nm以上、更にはマイクロオーダーといった粗大な結晶の含有割合が高くなり易い。結晶組織中にこのような粗大粒が存在すると、保磁力の低下を招く。また、局所的に保磁力が低下すると磁化反転が起こり易くなり、残留磁束密度Brの低下を招く。残留磁束密度Brの低下は、飽和磁束密度Bsに対する残留磁束密度Brの比、即ちBr/Bsの低下を招く。
また、上記保持温度を高くすると、脱水素処理の対象の大きさによっては、結晶の大きさにばらつきが生じ得る。例えば、脱水素処理の対象が比較的小さいものや薄いものである場合、脱水素処理時の保持温度を高くしたとしても、結晶全体が粗大になる恐れがあるものの、結晶の大きさがばらつき難いと考えられる。しかし、脱水素処理の対象が大型のものであると、例えば、処理対象の任意の表面から内部に向かって厚さをとったとき、この厚さが5mm超である厚い部分を有する立体物であると、処理対象の表面領域を構成する結晶の成長状態と内部領域を構成する結晶の成長状態とが異なり易い。具体的には、高温に保持され易い上記処理対象の表面領域では上述のような粗大粒が多い組織となり易く、内部領域では表面領域に比較して微細な組織となり易い。結晶の大きさのばらつきによって、磁気特性の低下を招く。特に、Br/Bsの低下や、保磁力の低下を招く。
脱水素処理時の保持温度を低くすれば、結晶の過度な成長を抑制できる。しかし、本発明者らが調べたところ、脱水素処理時に特に4T以上の強磁場を印加すると、脱水素処理時に磁場を印加しない場合と比較して、脱水素反応の平衡温度が高くなる、との知見を得た。従って、特に4T以上の強磁場を印加した状態で脱水素化処理を行う場合に、脱水素処理時の保持温度を低くする、という単純な対処では、脱水素及び再結合反応を良好に生じさせながら、結晶の粗大化を抑制することが難しい。
脱水素処理時に結晶が過度に成長することを抑制するために、脱水素反応ができるだけ低温でも生じるように、例えば、雰囲気中の水素圧を低減することが考えられる。しかし、この場合も、脱水素処理の対象が上述のような大型のものや、小型や薄型でも非常に緻密なものなどであると、処理対象の全体から水素を均一的に排出することが難しい。ここで、処理対象内の水素は、処理対象の外表面近傍のものから排出されて、それから順次、処理対象の内部のものが排出されていく。従って、処理対象の表面領域では水素を容易に排出できるものの、処理対象の内部領域では同じ時期の表面領域と比較して水素濃度が高く、水素が多く存在する状態であるため、水素を排出し難いといえる。即ち、内部領域では脱水素及び再結合反応が生じ難いといえる。このように脱水素及び再結合反応にばらつきが生じることで、結晶の成長状態がばらつき、結晶の大きさにばらつきが生じ易くなる。
従って、特に4T以上の強磁場を印加しながら脱水素処理を行う場合に結晶の粗大化を抑制することができ、粗大粒の含有割合が少ない組織を有し、磁石特性に優れる希土類磁石が得られる希土類磁石の製造方法の開発が望まれる。
そこで、本発明の目的の一つは、磁気特性に優れる希土類磁石を製造可能な希土類磁石の製造方法を提供することにある。
本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、前記水素化材に脱水素処理を施して、前記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備える。
前記脱水素処理は、以下の昇温工程と、減圧工程と、降温工程と、保温工程とを備える。
昇温工程 前記水素化材を水素雰囲気で870℃以上の所定の温度Thighにまで昇温する工程。
減圧工程 前記所定の温度Thighの到達以降に雰囲気の減圧を開始して、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以下の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする工程。
降温工程 前記水素圧が前記所定の値P1から10.1Pa以下の所定の値P2に達するまで水素を排出しながら所定の降温条件に従って、700℃以上850℃未満の温度域から選択した所定の温度Tlowにまで温度を下げる工程。
保温工程 前記水素圧が前記所定の値P2以下である減圧雰囲気で、前記所定の温度Tlowに保持する工程。
前記降温条件は、降温速度をΔT/Δt(℃/min)とし、Vpを前記水素を排出するときの排気速度(L/min)とし、VHを前記水素化材における水素の飽和吸蔵量(L)とし、αを0.97以上3.0以下の定数とするとき、
ΔT/Δt=αlog10(Vp/(100×VH))を満たす。
前記減圧の開始から前記保温工程の終了までの間、前記水素化材に4T以上の強磁場を印加する。
前記脱水素処理は、以下の昇温工程と、減圧工程と、降温工程と、保温工程とを備える。
昇温工程 前記水素化材を水素雰囲気で870℃以上の所定の温度Thighにまで昇温する工程。
減圧工程 前記所定の温度Thighの到達以降に雰囲気の減圧を開始して、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以下の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする工程。
降温工程 前記水素圧が前記所定の値P1から10.1Pa以下の所定の値P2に達するまで水素を排出しながら所定の降温条件に従って、700℃以上850℃未満の温度域から選択した所定の温度Tlowにまで温度を下げる工程。
保温工程 前記水素圧が前記所定の値P2以下である減圧雰囲気で、前記所定の温度Tlowに保持する工程。
前記降温条件は、降温速度をΔT/Δt(℃/min)とし、Vpを前記水素を排出するときの排気速度(L/min)とし、VHを前記水素化材における水素の飽和吸蔵量(L)とし、αを0.97以上3.0以下の定数とするとき、
ΔT/Δt=αlog10(Vp/(100×VH))を満たす。
前記減圧の開始から前記保温工程の終了までの間、前記水素化材に4T以上の強磁場を印加する。
本発明の希土類磁石の製造方法は、Br/Bsや保磁力といった磁気特性に優れる希土類磁石を製造することができる。
[本発明の実施の形態の説明]
本発明者らは磁気特性に優れる希土類磁石を製造するために種々検討した結果、以下の知見を得た。脱水素処理を、水素雰囲気で所定の温度(代表的には脱水素反応の平衡温度以上)にまで昇温し、所定の温度に到達したら、所定の強磁場を印加した状態とすると共に雰囲気中の水素を排出して減圧雰囲気とする、という条件で行うと、処理対象を水素飽和した状態で、かつ十分に高い温度になった状態から脱水素及び再結合反応を行える。そのため、反応斑を抑制できる。また、強磁場の印加によって高い配向性を有する状態で再結合できる上に、再結合反応によって生じた結晶を高い配向性を有する状態で結晶成長できる。一方、脱水素処理時に処理対象を高温に保持する時間をできるだけ短くすれば、結晶の粗大化や結晶の大きさのばらつきを低減できるといえる。また、強磁場を印加した状態であっても、雰囲気中の水素圧を低くすれば、上記平衡温度をある程度低くすることができる。更に、雰囲気中の水素圧に応じて上記平衡温度を下回らない範囲で温度を下げていけば、ある程度温度が低くても、脱水素及び再結合反応を良好に行えるといえる。そして、上述のように平衡温度を下回らない範囲で保持温度を選択すれば、高温の保持時間を短縮できるといえる。その結果、結晶の過度な成長を抑制でき、粗大な結晶の含有割合が低く微細な結晶組織を有する磁気異方性磁石が得られるといえる。これらの事項に基づいて、上述の特定の脱水素処理を行う希土類磁石の製造方法を規定する。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明者らは磁気特性に優れる希土類磁石を製造するために種々検討した結果、以下の知見を得た。脱水素処理を、水素雰囲気で所定の温度(代表的には脱水素反応の平衡温度以上)にまで昇温し、所定の温度に到達したら、所定の強磁場を印加した状態とすると共に雰囲気中の水素を排出して減圧雰囲気とする、という条件で行うと、処理対象を水素飽和した状態で、かつ十分に高い温度になった状態から脱水素及び再結合反応を行える。そのため、反応斑を抑制できる。また、強磁場の印加によって高い配向性を有する状態で再結合できる上に、再結合反応によって生じた結晶を高い配向性を有する状態で結晶成長できる。一方、脱水素処理時に処理対象を高温に保持する時間をできるだけ短くすれば、結晶の粗大化や結晶の大きさのばらつきを低減できるといえる。また、強磁場を印加した状態であっても、雰囲気中の水素圧を低くすれば、上記平衡温度をある程度低くすることができる。更に、雰囲気中の水素圧に応じて上記平衡温度を下回らない範囲で温度を下げていけば、ある程度温度が低くても、脱水素及び再結合反応を良好に行えるといえる。そして、上述のように平衡温度を下回らない範囲で保持温度を選択すれば、高温の保持時間を短縮できるといえる。その結果、結晶の過度な成長を抑制でき、粗大な結晶の含有割合が低く微細な結晶組織を有する磁気異方性磁石が得られるといえる。これらの事項に基づいて、上述の特定の脱水素処理を行う希土類磁石の製造方法を規定する。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1) 実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、上記水素化材に脱水素処理を施して、上記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備える。
上記脱水素処理は、以下の昇温工程と、減圧工程と、降温工程と、保温工程とを備える。
昇温工程 上記水素化材を水素雰囲気で870℃以上の所定の温度Thighにまで昇温する工程。
減圧工程 上記所定の温度Thighの到達以降に雰囲気の減圧を開始して、上記雰囲気中の水素圧が101hPa以下の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする工程。
降温工程 上記水素圧が上記所定の値P1から10.1Pa以下の所定の値P2に達するまで水素を排出しながら所定の降温条件に従って、700℃以上850℃未満の温度域から選択した所定の温度Tlowにまで温度を下げる工程。
保温工程 上記水素圧が上記所定の値P2以下である減圧雰囲気で、上記所定の温度Tlowに保持する工程。
上記降温条件は、降温速度をΔT/Δt(℃/min)とし、Vpを上記水素を排出するときの排気速度(L/min)とし、VHを上記水素化材における水素の飽和吸蔵量(L)とし、αを0.97以上3.0以下の定数とするとき、
ΔT/Δt=αlog10(Vp/(100×VH))を満たす。
上記減圧の開始から上記保温工程の終了までの間、上記水素化材に4T以上の強磁場を印加する。
上記脱水素処理は、以下の昇温工程と、減圧工程と、降温工程と、保温工程とを備える。
昇温工程 上記水素化材を水素雰囲気で870℃以上の所定の温度Thighにまで昇温する工程。
減圧工程 上記所定の温度Thighの到達以降に雰囲気の減圧を開始して、上記雰囲気中の水素圧が101hPa以下の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする工程。
降温工程 上記水素圧が上記所定の値P1から10.1Pa以下の所定の値P2に達するまで水素を排出しながら所定の降温条件に従って、700℃以上850℃未満の温度域から選択した所定の温度Tlowにまで温度を下げる工程。
保温工程 上記水素圧が上記所定の値P2以下である減圧雰囲気で、上記所定の温度Tlowに保持する工程。
上記降温条件は、降温速度をΔT/Δt(℃/min)とし、Vpを上記水素を排出するときの排気速度(L/min)とし、VHを上記水素化材における水素の飽和吸蔵量(L)とし、αを0.97以上3.0以下の定数とするとき、
ΔT/Δt=αlog10(Vp/(100×VH))を満たす。
上記減圧の開始から上記保温工程の終了までの間、上記水素化材に4T以上の強磁場を印加する。
上記実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、以下の(A)〜(F)の点によって、結晶粒径が500nm以上といった粗大粒の含有割合が少なく微細な結晶組織を有し、かつ磁気異方性を有する希土類磁石を製造することができる。得られた希土類磁石は、上述の微細で、かつ配向性に優れる結晶組織を有することから、磁気特性に優れる。特に、高い保磁力を有しながら、残留磁束密度Brが高く、Br/Bsが高い希土類磁石とすることができる。
(A) 870℃以上の温度Thighにおいて減圧を開始する(水素を排出し始める)ことで、処理対象である水素化材は十分に温度が高い状態になっているため、脱水素及び再結合反応を良好に開始することができる。
(B) 870℃以上の温度Thighにまで昇温するものの、特定の降温条件で温度を下げて、保持温度を低い温度Tlow(<850℃<Thigh)とするため、処理対象を870℃以上という高い温度に保持する時間を短くすることができる。
(C) 雰囲気中の水素圧に基づいた特定の降温条件に従って処理対象の温度を下げることで脱水素反応の平衡温度を下回らないため、減圧工程だけでなく降温工程でも、脱水素及び再結合反応を良好に、かつ安定して行える。
(D) 4T以上という強磁場が処理対象に印加されているときには、雰囲気中の水素圧を十分に低い値としている。具体的には、少なくとも101hPa(0.1気圧)以下とし、最終的には10.1Pa(1×10−4気圧)以下とする。そのため、強磁場を印加した状態でありながら、上記水素圧の値に基づいて脱水素反応の平衡温度をある程度低くすることができる。従って、強磁場の印加時の温度が低い温度Tlow(ただし700℃以上)である場合でも、脱水素及び再結合反応を良好に行える。
(E) 温度Tlowでの保持工程を設けているため、脱水素及び再結合反応に必要な時間を十分に確保できる。
(F) 4T以上の強磁場の印加を減圧の開始から保温工程の終了までとしているため、再結合反応によって生じた結晶を十分に配向できる。
(B) 870℃以上の温度Thighにまで昇温するものの、特定の降温条件で温度を下げて、保持温度を低い温度Tlow(<850℃<Thigh)とするため、処理対象を870℃以上という高い温度に保持する時間を短くすることができる。
(C) 雰囲気中の水素圧に基づいた特定の降温条件に従って処理対象の温度を下げることで脱水素反応の平衡温度を下回らないため、減圧工程だけでなく降温工程でも、脱水素及び再結合反応を良好に、かつ安定して行える。
(D) 4T以上という強磁場が処理対象に印加されているときには、雰囲気中の水素圧を十分に低い値としている。具体的には、少なくとも101hPa(0.1気圧)以下とし、最終的には10.1Pa(1×10−4気圧)以下とする。そのため、強磁場を印加した状態でありながら、上記水素圧の値に基づいて脱水素反応の平衡温度をある程度低くすることができる。従って、強磁場の印加時の温度が低い温度Tlow(ただし700℃以上)である場合でも、脱水素及び再結合反応を良好に行える。
(E) 温度Tlowでの保持工程を設けているため、脱水素及び再結合反応に必要な時間を十分に確保できる。
(F) 4T以上の強磁場の印加を減圧の開始から保温工程の終了までとしているため、再結合反応によって生じた結晶を十分に配向できる。
(2) 実施形態の一つとして、上記水素化材が、4T以上の強磁場が印加された状態であって、かつ水素圧が203hPa(0.2気圧)以上大気圧未満である減圧雰囲気における脱水素反応の平衡温度が870℃超である形態が挙げられる。
上記水素化材とは、4T以上の強磁場が印加された状態では上述のような減圧雰囲気であっても上記平衡温度が高い材質のものである。つまり、通常であれば、脱水素処理時の保持温度を高くすることが望まれるものである。このような水素化材を処理対象としても、上述の昇温工程、減圧工程、降温工程及び保温工程を備える特定の脱水素処理を行う上記形態は、微細で配向性に優れる結晶組織を有することで磁気特性に優れる希土類磁石を製造できる。
(3) 実施形態の一つとして、上記希土類元素がNd又はSmである形態が挙げられる。
上記形態は、磁気特性に優れるNd−Fe−B系磁石やNd−Fe−C系磁石、Sm−Fe−N系磁石といった希土類磁石を製造することができる。なお、Sm−Fe−N系磁石を製造する場合には、脱水素処理を施して得られた素材に窒化処理を施す。
(4) 実施形態の一つとして、上記再結合合金がNdと、Feと、B及びCの少なくとも一方の元素とを含む形態が挙げられる。
上記形態は、磁気特性に優れるNd−Fe−B系磁石やNd−Fe−C系磁石を製造することができる。
(5) 実施形態の一つとして、上記水素化材が希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化粉末を圧縮成形した粉末成形体である形態が挙げられる。
上記形態は、圧縮磁石を製造することができる。また、上記形態は、上記水素化材が成形されていない粉末である場合と比較して、水素化材を取り扱い易く、作業性に優れる。
上述の実施形態に係る希土類磁石の製造方法から製造された希土類磁石として、例えば、以下の構成を備えるものが挙げられる。希土類元素とFeとを含む合金を主体とする希土類磁石であって、上記合金を構成する結晶について、結晶粒径が500nm以上である粗大粒の含有割合が35%以下である。また、上記合金の平均結晶粒径が500nm以下である。更に、結晶粒径が200nm以上500nm以下である結晶の含有割合が60%以上である。
上記希土類磁石は、粗大粒が少ない微細な結晶組織を有することから、磁気特性に優れる。特に、上記希土類磁石は、保磁力が高い。かつ、上記希土類磁石は、配向性に優れることから残留磁束密度Brが高く、Br/Bsが高い。
上記希土類磁石の一形態として、表面から内部に向かう方向に厚さをとったとき、上記厚さが5mm超である部分を有する形態が挙げられる。この形態は、上記厚さが5mm超といった厚い部分を有する大型のものでありながら、微細で、かつ配向性に優れる結晶組織を有することから、磁気特性に優れる。
上記希土類磁石の一形態として、上記合金から構成される粉末が圧縮成形された圧縮磁石である形態が挙げられる。この形態は、結合剤が介在するボンド磁石と比較して上記合金の割合が高いことで磁気特性に優れる。また、この形態は、焼結磁石よりも微細な結晶組織を有することで、焼結磁石でないものの磁気特性に優れる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、実施形態に係る希土類磁石の製造方法、この製造方法によって得られる希土類磁石を説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例1について組成、処理対象である水素化材の形状、大きさなどを適宜変更することができる。
以下、実施形態に係る希土類磁石の製造方法、この製造方法によって得られる希土類磁石を説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例1について組成、処理対象である水素化材の形状、大きさなどを適宜変更することができる。
(希土類磁石の製造方法)
実施形態の希土類磁石の製造方法は、処理対象として、希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化材を準備する準備工程と、この水素化材に特定の条件の脱水素処理を施す脱水素工程とを備える。脱水素工程後、材質によっては、窒化処理を行う。脱水素処理後、又は窒化処理後などに得られた磁石素材に着磁を行う。
実施形態の希土類磁石の製造方法は、処理対象として、希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化材を準備する準備工程と、この水素化材に特定の条件の脱水素処理を施す脱水素工程とを備える。脱水素工程後、材質によっては、窒化処理を行う。脱水素処理後、又は窒化処理後などに得られた磁石素材に着磁を行う。
・準備工程
脱水素処理に供する水素化材は、脱水素処理を施すことで、脱水素及び再結合反応によって希土類元素とFeとを含む希土類−鉄系合金、代表的にはNd−Fe−B系合金やNd−Fe−C系合金、Sm−Fe系合金を形成可能なものとする。上記水素化材を構成する合金とは、希土類元素の水素化合物とFeとが独立した相として存在する水素化合金、換言すれば、水素不均化状態の組織を有する水素化合金が挙げられる。水素化材は、上記水素化合金からなる粉末や、この粉末を成形した粉末成形体などが挙げられる。
脱水素処理に供する水素化材は、脱水素処理を施すことで、脱水素及び再結合反応によって希土類元素とFeとを含む希土類−鉄系合金、代表的にはNd−Fe−B系合金やNd−Fe−C系合金、Sm−Fe系合金を形成可能なものとする。上記水素化材を構成する合金とは、希土類元素の水素化合物とFeとが独立した相として存在する水素化合金、換言すれば、水素不均化状態の組織を有する水素化合金が挙げられる。水素化材は、上記水素化合金からなる粉末や、この粉末を成形した粉末成形体などが挙げられる。
上記水素化合金中の希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、及びアクチノイドから選択される1種以上の元素が挙げられる。特に、希土類元素として、Nd、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、及びYから選択される少なくとも1種の元素を含むと、磁気特性に優れる希土類磁石が得られて好ましい。とりわけ、Nd又はSmを含むと、磁気特性に優れる希土類磁石を製造できて好ましい。また、Ndを含む組成では、Ndの含有量を28質量%以上35質量%以下とすることが好ましい。Nd2Fe14Bなどの化学量論比である28質量%以上とすると、水素化前の合金を構成する結晶の境界(粒界)や、脱水素処理後の再結合合金10(図1参照)を構成する結晶11(図1参照)の境界12(図1参照)に、希土類元素のリッチ相を存在させられる。好ましくは希土類元素のリッチ相が均一的に分散した結晶組織とすることができる。このような結晶組織は、結晶粒子が希土類元素のリッチ相によって磁気的に孤立された組織といえ、磁気特性に優れて好ましい。Ndの含有量を35質量%以下とすると、希土類元素のリッチ相が結晶の境界に極薄く存在できる。
上記水素化合金中の希土類元素の水素化合物は、NdH2,SmH2などが挙げられる。上記水素化合金中の希土類元素及びFe以外の元素は、特にNdを含む組成では、硼素及び炭素(C)の少なくとも一方が挙げられる。BやCは、代表的には、Feとの化合物、即ち、鉄硼化物や鉄炭化物として上記水素化合金中に存在する。上記水素化合金中のその他の元素として、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)及びニオブ(Nb)から選択される1種以上の元素が挙げられる。特に、Coを含有する場合、酸化による素材(磁石化合物)の不均化分解によって軟磁性材料のFeの析出を抑制できるという効果、Gaを含有する場合、結晶の境界の希土類元素のリッチ相を均質にするという効果などを期待できる。これらの効果によって、保磁力の更なる向上が望める。これらの添加元素は、Feなどに固溶して、又は適宜な化合物や単体元素の状態でFe中に析出して、又は水素と結合して水素化合物として、上記水素化合金中に存在する。上記水素化合金中の希土類元素の水素化合物の含有量は、10体積%以上40体積%以下が挙げられ、希土類元素の水素化合物を除く残部、即ち、Feや、Feを含む化合物などの合計含有量は60体積%以上が挙げられる。このような水素化合金は、希土類元素とFeとを含む希土類−鉄系合金、代表的にはNd−Fe−B系合金やNd−Fe−C系合金、Sm−Fe系合金に水素化処理を施すことで得られる。
上記水素化合金として、4T以上の強磁場が印加された状態であって、かつ雰囲気中の水素圧が203hPa(0.2気圧)以上大気圧未満である減圧雰囲気における脱水素反応の平衡温度が870℃超であるものが挙げられる。このような水素化合金は、4T以上の強磁場が印加された状態において雰囲気中の水素圧が203hPa程度であっても、870℃超の高温でなければ、脱水素反応が優先的に生じないものといえる。そのため、この水素化合金に上記強磁場を印加した状態で脱水素処理を行う場合、結晶が成長し易いとされる870℃超に加熱することが好ましいといえる。このような水素化合金を主体とする水素化材であっても、実施形態の希土類磁石の製造方法に規定する特定の条件で脱水素処理を行うことで、処理対象を870℃以上に保持する時間を低減できる。その結果、粗大粒が少なく、微細な結晶組織を有し、かつ配向性に優れる希土類磁石を製造できる。このような水素化合金として、NdH2,Fe,Fe−Bを含む組成のもの、NdH2,Fe,Fe−Cを含む組成のもの、SmH2,Feを含む組成のものなどが挙げられる。即ち、Nd−Fe−B系合金やNd−Fe−C系合金、Sm−Fe系合金といった希土類−鉄系合金に水素化処理を施したものが挙げられる。
上記水素化材を上記水素化合金からなる粉末(水素化粉末)とする場合、上記希土類−鉄系合金の溶湯を用いて、ストリップキャスト法やアトマイズ法などの公知の手法を利用して作製した原料粉末に、水素化処理を施すことで製造できる。上記原料粉末、又は水素化処理後の粉末に適宜粉砕を行って、水素化粉末の大きさを調整することができる。水素化粉末の大きさは、例えば、圧縮磁石に用いる場合、平均粒径が100μm以上500μm以下程度、ボンド磁石などに用いる場合はより微細なもの、例えば、1μm以上50μm以下、好ましくは20μm以下が挙げられる。水素化処理の条件は、材質にもよるが、例えば、水素雰囲気、又は水素とアルゴンや窒素といった不活性ガスとの混合雰囲気、処理温度が水素不均化温度以上(例えば600℃以上、更に650℃以上)1100℃以下、好ましくは700℃以上(更に750℃以上)900℃以下、保持時間が0.5時間以上5時間以下、が挙げられる。特許文献1,2に記載される条件やその他の公知のHD(Hydrogenation Disproportionation)条件を利用することができる。
上記水素化材を粉末成形体とする場合、希土類元素の水素化合物とFeとを含む上記水素化粉末を所望の形状及び大きさの金型に充填し、圧縮成形することで製造できる。上記水素化粉末は、柔らかいFe成分を含むことで変形性に優れ、良好に成形できる。成形時の圧力は、例えば、588MPa(6ton/cm2)以上1960MPa=1.96GPa(20ton/cm2)以下が挙げられる。上記水素化粉末の表面に、酸素や湿気を透過し難い樹脂などから構成される被覆を設けると、大気雰囲気で成形した場合でも、粉末粒子の酸化を防止できる。この被覆は、脱水素処理時の昇温工程で除去する、又は脱水素処理前に別途熱処理を施して除去することができる。上記被覆を除去することで、脱水素処理時、水素化材から水素を十分に排出することができる。成形時の雰囲気を非酸化性雰囲気とすることもできる。また、成形時の潤滑性を高めるために、水素化粉末に潤滑剤を適宜混合したり、金型の内面に潤滑剤を塗布したりすることができる。
上記粉末成形体の形状、及び大きさは適宜選択することができる。特に、表面から内側に向かって厚さをとったとき、厚さが5mm以上である厚い部分を有する形状や大きさとすることができる。例えば、端面の直径が10mm超、高さが10mm超の円柱体、環の幅が10mm超、高さが10mm超の円環体、長さ及び幅並びに高さのいずれもが10mm超の直方体などの立体が挙げられる。
・脱水素工程
実施形態の希土類磁石の製造方法では、上述の水素化材に施す脱水素処理を、水素雰囲気中で昇温して、ある程度高い温度にまで処理対象を加熱し、この高い温度から所定の温度にまで降温する過程及び降温過程に引き続いて設ける過程(保温工程)を、雰囲気中の水素圧を低減した減圧雰囲気とすると共に、4T以上という強磁場を印加する、という条件で行う。特に、降温速度を雰囲気中の水素圧に応じて規定することで、上記強磁場を印加していながら、ある程度低い温度であっても、脱水素及び再結合反応を良好に行える状態を確保することができる。4T以上の強磁場を印加した状態において雰囲気中の水素圧と降温速度とを調整する理由を、図2を参照して説明する。
実施形態の希土類磁石の製造方法では、上述の水素化材に施す脱水素処理を、水素雰囲気中で昇温して、ある程度高い温度にまで処理対象を加熱し、この高い温度から所定の温度にまで降温する過程及び降温過程に引き続いて設ける過程(保温工程)を、雰囲気中の水素圧を低減した減圧雰囲気とすると共に、4T以上という強磁場を印加する、という条件で行う。特に、降温速度を雰囲気中の水素圧に応じて規定することで、上記強磁場を印加していながら、ある程度低い温度であっても、脱水素及び再結合反応を良好に行える状態を確保することができる。4T以上の強磁場を印加した状態において雰囲気中の水素圧と降温速度とを調整する理由を、図2を参照して説明する。
ここでは水素化合金として、Nd2Fe14Bに水素化処理を施して得られた、NdH2,Fe,Fe−B(例えば、Fe2B、Fe3B)を含むものを例に挙げる。図2のグラフでは、横軸が雰囲気中の水素圧(気圧、1気圧≒1013hPa)を示し、縦軸が脱水素反応の平衡温度(℃)を示す。また、図2の太線グラフは、強磁場(ここでは5T)を印加した場合の水素圧と脱水素反応の平衡温度との関係(反応境界)を示し、細線グラフは、磁場を印加していない場合の水素圧と脱水素反応の平衡温度との関係(反応境界)を示す。グラフエリアにおいて各反応境界を下回る領域(各反応境界よりも右下の領域)は、水素化合金が安定して存在する領域といえ、各反応境界を上回る領域(各反応境界よりも左上の領域)は、再結合合金が安定して存在する領域といえる。
図2の細線グラフに示すように、処理対象に磁場を印加しないで(無磁場で)脱水素処理を行う場合、雰囲気中の水素圧が低くなるほど、脱水素反応の平衡温度が低くなることが分かる。例えば、水素雰囲気で所望の温度になるまで昇温し、所望の温度に到達してから、この温度に保持しつつ、水素を排出して減圧することを考える。このとき、雰囲気中の水素圧に応じて上記平衡温度が低くなることから、上記水素を排出していき水素圧が十分に低くなることで、保持している上記所望の温度は、上記平衡温度よりも十分に高い状態にできる。そのため、上記所望の温度を保持することで、脱水素及び再結合反応を安定して行える。
一方、図2の太線グラフに示すように、強磁場を印加して脱水素処理を行う場合、脱水素反応の平衡温度は、任意の水素圧について、同じ水素圧における無磁場の場合の脱水素反応の平衡温度に比較して高いこと(太線グラフが細線グラフよりも左上に位置すること)が分かる。例えば、203hPa(0.2気圧)程度では、無磁場の場合の上記平衡温度は、800℃前後であるのに対し、強磁場を印加した場合の上記平衡温度は900℃弱まで高くなっている。このことから、強磁場を印加して脱水素処理を行う場合、同じ水素圧における無磁場の場合よりも、処理温度を高くしないと、脱水素及び再結合反応を安定して行えないといえる。しかし、強磁場を印加して脱水素処理を行う場合であっても、雰囲気中の水素圧を低減していけば、平衡温度を低くできることから、水素圧に応じて処理温度を低下させると共に、各水素圧における平衡温度を下回らないように処理温度を調整すれば、脱水素及び再結合反応を良好に行えるといえる。
他方、再結合時に870℃超に加熱された状態であると、再結合によって生成された結晶が成長して粗大になり易い。従って、上記結晶の過度な成長を抑制して、粗大な結晶が含まれ難くするためには、脱水素処理時に870℃超に保持する時間をできるだけ短くすることが望ましいといえる。
上述の点から、脱水素反応の平衡温度よりも十分に高い温度に保持しているときに減圧雰囲気とすると共に強磁場を印加して、脱水素及び再結合反応を行うのではなく、磁場を印加しない状態で昇温を行ってある程度温度が高いところから減圧を始めて減圧雰囲気とすると共に温度を下げ、この減圧雰囲気及び低温域にあるときに強磁場を印加する期間を設けて、脱水素及び再結合反応を行うことで、微細で、磁気異方性を有する結晶組織を形成できるといえる。そこで、実施形態の希土類磁石の製造方法では、以下の昇温工程、減圧工程、降温工程、及び保温工程を順に行って、温度及び雰囲気中の水素圧が高い状態から、温度及び雰囲気中の水素圧が低い状態に段階的に降温及び減圧する。以下、図1を適宜参照して、各工程を詳細に説明する。図1では、各工程に生じ得る組織の模式図も例示する。
<昇温工程>
昇温工程は、雰囲気形成ガスが水素(H2)である水素雰囲気で行う。雰囲気の圧力(雰囲気中の水素圧)は、大気圧=1気圧≒1013hPaと同等とする。水素圧を大気圧と同等程度とすることで、圧力の調整を容易に行えて、作業性に優れる。水素雰囲気は、水素のフロー雰囲気とすると、水素化材に対して水素を十分に供給できるため、水素化材の水素吸蔵量を飽和状態にできる。
昇温工程は、雰囲気形成ガスが水素(H2)である水素雰囲気で行う。雰囲気の圧力(雰囲気中の水素圧)は、大気圧=1気圧≒1013hPaと同等とする。水素圧を大気圧と同等程度とすることで、圧力の調整を容易に行えて、作業性に優れる。水素雰囲気は、水素のフロー雰囲気とすると、水素化材に対して水素を十分に供給できるため、水素化材の水素吸蔵量を飽和状態にできる。
昇温工程における到達温度Thighは、870℃以上とする。ここで、図2の太線グラフに示すように4T以上の強磁場を印加した場合では、雰囲気中の水素圧が大気圧=1気圧であると、脱水素反応の平衡温度は950℃以上と予測されるものの、上記水素圧が203hPa(0.2気圧)になると、上記平衡温度が870℃程度になる。上記水素圧が101hPa(0.1気圧)になると、上記平衡温度が830℃程度となる。従って、870℃以上の任意の温度を到達温度Thighに設定すれば、後述する減圧工程で上記水素圧を101hPa(0.1気圧)以下にすることで、到達温度Thighはこの水素圧における平衡温度を十分に上回っているといえる。そのため、次の減圧工程で脱水素及び再結合反応を良好に開始できる、又は反応を進行できる。到達温度Thighを高くするほど、次の減圧工程で脱水素及び再結合反応を良好に行い易い。また、処理対象が上述のような大型のものであったり、粉末の場合に大型の容器に粉末を収納して粉末が積層された状態であったりしても、処理対象の内部(上記粉末の場合、容器の内部に位置する部分)まで十分に高温にし易い。しかし、到達温度Thighが高過ぎると、次の減圧工程で所定の圧力P1に到達するまでの間、この到達温度Thighを保持することから、処理対象が高い温度に保持される時間が長くなる。その結果、再結合反応によって生じた結晶の成長を促進して、粗大粒の含有割合が増大する。従って、到達温度Thighは1100℃以下、更に1000℃以下、特に900℃以下が好ましい。昇温速度は特に問わないが、例えば、1℃/min以上150℃/min以下が挙げられる。
<減圧工程>
所定の温度Thighに到達してから、この温度Thighを好ましくは保持した状態で雰囲気中の水素の排出を開始する。即ち、所定の温度Thighの到達以降に減圧の開始時Spを設ける。こうすることで、比較的高い温度である温度Thighにおいて脱水素及び再結合反応を良好に、かつ安定して開始できる。例えば、処理対象である水素化合金50が、NdH2などの希土類元素の水素化合物51と、鉄52と、Fe−Bなどの鉄化合物53とを含む場合、希土類元素の水素化合物51から水素が除去されて、水素化合物51と鉄52及び鉄化合物53との間で相互拡散が起こり、水素化合物51と鉄52及び鉄化合物53との界面付近に希土類−鉄系合金の結晶核(初期結晶)31が生じる。
所定の温度Thighに到達してから、この温度Thighを好ましくは保持した状態で雰囲気中の水素の排出を開始する。即ち、所定の温度Thighの到達以降に減圧の開始時Spを設ける。こうすることで、比較的高い温度である温度Thighにおいて脱水素及び再結合反応を良好に、かつ安定して開始できる。例えば、処理対象である水素化合金50が、NdH2などの希土類元素の水素化合物51と、鉄52と、Fe−Bなどの鉄化合物53とを含む場合、希土類元素の水素化合物51から水素が除去されて、水素化合物51と鉄52及び鉄化合物53との間で相互拡散が起こり、水素化合物51と鉄52及び鉄化合物53との界面付近に希土類−鉄系合金の結晶核(初期結晶)31が生じる。
この減圧工程では、少なくとも、雰囲気中の水素圧が101hPa(0.1気圧)以下の所定の値P1になるまで水素を排出していく(排出を続ける)。こうすることで、温度Thighは、到達圧力P1における脱水素反応の平衡温度を上回ることができる。また、温度Thighは、所定の値P1に到達するまでの減圧途中の平衡温度についても概ね上回ることができる。従って、減圧工程では、脱水素及び再結合反応をある程度進行できる。到達圧力P1が低いほど、その圧力における脱水素反応の平衡温度が低くなるため、脱水素及び再結合反応を良好に、かつ安定して行える。但し、到達圧力P1を低くし過ぎると、到達圧力P1になるまでの所要時間が長くなる。すると、再結合反応によって生じた結晶が870℃以上の温度Thighに保持される時間が長くなって成長し、粗大になり易くなったり、排気設備が、排気量の制御を精密に行うために複雑な構成となる上に、高価になり、コストの増加を招いたりする。また、減圧工程で結晶が成長し過ぎると、後述するように強磁場を印加しても、結晶を配向し難くなると考えられる。従って、到達圧力P1は、50hPa(0.05気圧)以上が好ましいと考えられる。水素の排出には、真空引きに利用されるポンプなど、公知の排気装置を利用できる。
なお、減圧工程では、所定の温度Thighを保持することが好ましいが、温度Thighの到達後、ある程度の温度まで(例えば、800℃以上)であれば、温度を低下させることを許容する。
かつ、減圧の開始時Spには、処理対象に4T以上の強磁場を印加した状態とする(減圧の開始時Sp=強磁場の開始時Sm)。減圧の開始時Spに4T以上といった強磁場の印加状態とすることで、上述のように結晶核31が生成されると、結晶核31を磁場の印加方向に応じて配向させることができる(図1では磁場の印加方向を白抜き矢印で示す)。具体的には、結晶の磁化容易軸(代表的にはc軸)を磁場の印加方向に平行するように配向させることができる。印加磁場は大きいほど、配向性を高められるが、(1)5T以上10T以下程度の範囲であれば磁場の大きさに起因する配向性の向上効果に格別大きな差が無いこと、(2)印加磁場を大きくすることで磁場の形成エネルギーが大きくなり製造コストが増大すること、を考慮すれば、10T以下程度が利用し易いと考えられる。このような強磁場の印加には、常電導コイルを備える常電導磁石を利用することができるが、高温超電導材などの超電導材を用いた超電導コイルを備える超電導磁石を好適に利用することができる。特に、高温超電導磁石は、強磁場を長時間にわたり安定して形成できる、励磁速度が速く磁場の変動を高速で行えて制御し易い、といった利点がある。
磁場の印加を開始してから4T以上の所望の磁場に到達するまでにある程度時間がかかる場合には、到達磁場までの所要時間を考慮して、磁場の印加開始時は、減圧の開始時Spよりも先にすることができる。減圧を開始するとき、即ち雰囲気中の水素圧を大気圧未満にし始めるときに、4T以上の強磁場になっていればよい。4T以上の強磁場の印加期間は、上述の減圧の開始から、雰囲気中の水素を排出していき、雰囲気中の水素圧が所定の値P2である期間、かつ後述する降温を行っていき、温度が所定の値Tlowである期間とする。より具体的には、強磁場の終了時E=後述する保温工程の終了とする。保持温度をTlowとし、雰囲気中の水素圧をP2以下とする後述の保温工程を終えるまで、上記強磁場を印加することで、減圧工程で配向した結晶核31を、その配向性を維持したまま、希土類−鉄系合金の結晶21や結晶11に成長させることができる。従って、配向性に優れる希土類磁石を製造することができる。温度Tlowから更に温度を下げた場合、上記水素圧が低くても、脱水素及び再結合反応が生じ難くなる、又は実質的に生じない。そのため、保温工程以降に上記強磁場の印加を行わないことで、磁場の制御を不要にできる上に、強磁場の形成に伴う製造コストの増大も招かない。なお、雰囲気中の水素圧が10.1Pa(1×10−4気圧)に達した時点、又は所定の温度Tlowに達した時点のいずれかの時点で上記強磁場の印加を停止することができる。しかし、減圧の開始時Spから保温工程が終了するまでは強磁場を印加すると、上述のように結晶11,21の配向を十分に行える。
<降温工程>
所定の温度Thighであって、かつ雰囲気中の水素圧が所定の値P1である状態から、降温を開始する。また、雰囲気中の水素圧を、降温開始時の圧力P1から更に低下させて、10.1Pa(1×10−4気圧)以下の所定の値P2に達するまで減圧を行う。降温を始めても、上記減圧工程に引き続いて水素を排出して雰囲気中の水素圧をより低い状態とすれば、降温過程の各温度のそれぞれについて、減圧過程の各水素圧のそれぞれに対応した脱水素反応の平衡温度を上回る状態にすることができる。かつ、降温工程の到達温度Tlowを脱水素及び再結合反応が十分に行える程度の温度にすれば、降温過程の全温度が、上記平衡温度を上回る状態にすることができる。そのため、降温過程であっても、脱水素及び再結合反応を良好に行える。そこで、降温工程では、雰囲気中の水素を排出し続けていても、降温過程の各温度が上記平衡温度を上回ることができるように、降温速度ΔT/Δt(℃/min)をΔT/Δt=αlog10(Vp/(100×VH))と規定する。上記Vpは、雰囲気中の水素を排出するときの排気速度(L/min)とする。上記VHは、水素化材における水素の飽和吸蔵量(L)とする。上記αは、0.97以上3.0以下から選択される定数とする。
所定の温度Thighであって、かつ雰囲気中の水素圧が所定の値P1である状態から、降温を開始する。また、雰囲気中の水素圧を、降温開始時の圧力P1から更に低下させて、10.1Pa(1×10−4気圧)以下の所定の値P2に達するまで減圧を行う。降温を始めても、上記減圧工程に引き続いて水素を排出して雰囲気中の水素圧をより低い状態とすれば、降温過程の各温度のそれぞれについて、減圧過程の各水素圧のそれぞれに対応した脱水素反応の平衡温度を上回る状態にすることができる。かつ、降温工程の到達温度Tlowを脱水素及び再結合反応が十分に行える程度の温度にすれば、降温過程の全温度が、上記平衡温度を上回る状態にすることができる。そのため、降温過程であっても、脱水素及び再結合反応を良好に行える。そこで、降温工程では、雰囲気中の水素を排出し続けていても、降温過程の各温度が上記平衡温度を上回ることができるように、降温速度ΔT/Δt(℃/min)をΔT/Δt=αlog10(Vp/(100×VH))と規定する。上記Vpは、雰囲気中の水素を排出するときの排気速度(L/min)とする。上記VHは、水素化材における水素の飽和吸蔵量(L)とする。上記αは、0.97以上3.0以下から選択される定数とする。
ここで、降温速度は、最も単純には、雰囲気中の水素圧に応じて変化させればよいことから、上記Vp/(100×VH)は、雰囲気中の水素圧に置換することができる。しかし、処理対象が上述のような大型のものである場合や緻密なものである場合、処理対象全体の水素の含有量が多くなることから、処理対象の内部領域と外表面近傍とでは、排気途中において水素濃度が異なる場合がある。そのため、処理対象の表面から内部に至る全域の水素圧と、雰囲気中の水素圧とが必ずしも一致せず、ずれる恐れがある。また、排気速度によっても、処理対象全体の水素圧と、雰囲気中の水素圧とがずれる恐れがある。従って、雰囲気中の水素圧ではなく、処理対象の大きさなどに応じて変化し得る水素の含有量(水素の吸蔵量)と、水素の排気速度とを考慮して、降温速度ΔT/Δtは、Vp/(100×VH)の関数として表わす。また、Vp/(100×VH)は、1×10−4気圧といった指数関数的に変化する数値であることから、降温速度ΔT/Δtは、Vp/(100×VH)を真数とする常用対数で表わされる関数とすることが妥当であると考えられる。そこで、ΔT/Δt=αlog10(Vp/(100×VH))と規定する。
排気速度Vpは、排気装置を調整することで適宜選択することができる。所望の排気速度Vpが得られるように、排気装置(排気能力)を選択するとよい。水素の飽和吸蔵量VHは、組成及び処理対象の大きさ、緻密度合などによって異なる。従って、組成と、処理対象の大きさ(質量や体積など)とを求めて算出するとよい。
定数αは、後述する試験例の結果から、0.97以上3.0以下から選択される値とする。αを0.97以上、更に1.0以上とすることで、降温速度を大きくできるため、処理対象を高い温度に曝す時間を短くできる。従って、結晶の粗大化を抑制することができる。αを3.0以下、更に2.5以下とすることで、脱水素反応の平衡温度を上回る状態を十分に確保できるため、配向性を高められる。
降温操作は、700℃以上850℃未満の温度域から選択した所定の温度Tlowになるまで行う。降温工程は、上述のように4T以上の強磁場を印加した状態とすることから、降温工程の到達温度Tlowを700℃以上とすることで、脱水素及び再結合反応を十分に生じさせることや進行させることができる。また、結晶21を十分に配向させることができる。到達温度Tlowを850℃未満、更に830℃以下とすることで、処理対象の温度を脱水素反応の平衡温度に近い温度にすることができる。この点からも、処理対象が高温に曝される時間を低減でき、結晶の粗大化を抑制することができる。到達温度Tlowは、700℃以上850℃未満の範囲において温度が高いほど脱水素及び再結合反応を進行し易く、温度が低いほど結晶の粗大化を抑制できることから、730℃以上800℃以下がより好ましい。処理対象が上述の厚い部分を有する大型のものの場合、脱水素反応時の吸熱量が増大して処理対象の温度が上がり難くなるため、到達温度Tlowを上記範囲で高めにすると(例えば、800℃以上830℃以下)、処理対象全体を十分に加熱できる。
<保温工程>
上述の特定の降温速度ΔT/Δtで温度を下げて所定の温度Tlowに到達したら、到達温度Tlowを保持する。また、保温工程における雰囲気中の水素圧は、上述の所定の値P2以下の減圧雰囲気とする。温度Tlowは700℃以上であることから、圧力P2=10.1Pa以下の減圧雰囲気とすることで、上述のように脱水素反応の平衡温度を上回った状態を維持できる。従って、保温工程でも、脱水素及び再結合反応を十分に進行できる。また、温度Tlowは850℃未満であるため、結晶11が過度に成長することを抑制できる。かつ、保温工程も、上述のように4T以上の強磁場が印加された状態であるため、結晶11を十分に配向できる。また、減圧工程や降温工程で配向した結晶を、その配向性を維持したまま、成長させることができる。このように保温工程は、上記強磁場が印加された状態でありながらも、雰囲気中の水素圧が十分に低いことで、保持温度を比較的低い温度Tlowにしていても、脱水素及び再結合反応を良好に行える上に結晶11を配向でき、磁気異方性を有する再結合合金10を形成できる。
上述の特定の降温速度ΔT/Δtで温度を下げて所定の温度Tlowに到達したら、到達温度Tlowを保持する。また、保温工程における雰囲気中の水素圧は、上述の所定の値P2以下の減圧雰囲気とする。温度Tlowは700℃以上であることから、圧力P2=10.1Pa以下の減圧雰囲気とすることで、上述のように脱水素反応の平衡温度を上回った状態を維持できる。従って、保温工程でも、脱水素及び再結合反応を十分に進行できる。また、温度Tlowは850℃未満であるため、結晶11が過度に成長することを抑制できる。かつ、保温工程も、上述のように4T以上の強磁場が印加された状態であるため、結晶11を十分に配向できる。また、減圧工程や降温工程で配向した結晶を、その配向性を維持したまま、成長させることができる。このように保温工程は、上記強磁場が印加された状態でありながらも、雰囲気中の水素圧が十分に低いことで、保持温度を比較的低い温度Tlowにしていても、脱水素及び再結合反応を良好に行える上に結晶11を配向でき、磁気異方性を有する再結合合金10を形成できる。
保温工程における雰囲気中の水素圧は、10.1Pa(1×10−4気圧)であれば処理対象中の水素を排出できるが、更に小さくすると、水素をより排出し易い。従って、保温工程における雰囲気中の最終到達圧力は、1.01Pa(1×10−5気圧)以下にすることができる。
保温工程における保持時間は、処理対象の大きさなどを考慮して適宜選択することができる。例えば、5分以上3時間以下程度が挙げられる。
・その他の工程
上述の脱水素処理を施して得られた再結合合金が、例えば、Sm−Fe系合金である場合、更に窒化処理を施すことで、Sm−Fe−N系合金を形成することができる。窒化処理の条件は、窒素雰囲気や、アンモニア(NH3)といった窒素元素を含む雰囲気、処理温度が200℃以上(好ましくは300℃以上)550℃以下、保持時間が10分以上600分(10時間)以下、が挙げられる。公知の窒化条件を利用することができる。また、窒化処理時に強磁場(特に3.5T以上)を印加することもできる。
上述の脱水素処理を施して得られた再結合合金が、例えば、Sm−Fe系合金である場合、更に窒化処理を施すことで、Sm−Fe−N系合金を形成することができる。窒化処理の条件は、窒素雰囲気や、アンモニア(NH3)といった窒素元素を含む雰囲気、処理温度が200℃以上(好ましくは300℃以上)550℃以下、保持時間が10分以上600分(10時間)以下、が挙げられる。公知の窒化条件を利用することができる。また、窒化処理時に強磁場(特に3.5T以上)を印加することもできる。
処理対象に上述の粉末成形体を用いた場合、脱水素処理後の処理材に加圧熱処理を施すことができる。この加圧熱処理によって、より緻密な磁石素材(例えば、空隙率が5体積%以下)を製造することができる。
処理対象を成形していない水素化粉末のみとした場合、上述のように粗大粒が少なく、微細な結晶組織を有し、配向性に優れる再結合合金からなる合金粉末を製造できる。また、大量の水素化粉末に上述の脱水素処理を施すことで、上記合金粉末を量産することも可能である。得られた合金粉末は、例えば、樹脂などの結合剤と混合して成形することで、ボンド磁石用素材が得られる。例えば、上記合金粉末を成形して焼結することで、焼結磁石用素材が得られる。ボンド磁石用素材の製造工程では、合金を構成する結晶の成長を促すような温度の加熱を行わないため、微細な結晶組織を維持でき、磁気特性に優れるボンド磁石を製造できる。
脱水素処理後、又は窒化処理後、又は加圧熱処理後、又は成形後や焼結後などに、得られた磁石素材(例えば、処理対象に上述の粉末成形体を用いた場合では圧縮物、ボンド磁石用素材では樹脂を含む成形体、焼結磁石用素材では焼結体)を着磁することで、希土類磁石(例えば、圧縮磁石、ボンド磁石、焼結磁石)が得られる。
(希土類磁石)
上述のようにして得られた磁石素材や希土類磁石は、上述したNdやSmなどの希土類元素と、Feとを含む希土類−鉄系合金を主体とする。例えば、磁石素材や希土類磁石が上記圧縮物である場合、空隙率が1体積%以上15体積%以下(更に10体積%以下、5体積%以下、3体積%以下)、残部が希土類−鉄系合金から構成される。希土類−鉄系合金の具体的な組成は、Nd−Fe−B(例えば、Nd2Fe14B)、Nd−Fe−Co−B、Nd−Fe−C、Nd−Fe−Co−C、Sm−Fe−N(例えば、Sm2Fe17N3)、Sm−Ti−Fe−N(例えば、Sm1Ti1Fe11N2)、Sm−Mn−Fe−N、Y−Fe−N、Y−Ti−Fe−N、Y−Mn−Fe−Nなどが挙げられる。
上述のようにして得られた磁石素材や希土類磁石は、上述したNdやSmなどの希土類元素と、Feとを含む希土類−鉄系合金を主体とする。例えば、磁石素材や希土類磁石が上記圧縮物である場合、空隙率が1体積%以上15体積%以下(更に10体積%以下、5体積%以下、3体積%以下)、残部が希土類−鉄系合金から構成される。希土類−鉄系合金の具体的な組成は、Nd−Fe−B(例えば、Nd2Fe14B)、Nd−Fe−Co−B、Nd−Fe−C、Nd−Fe−Co−C、Sm−Fe−N(例えば、Sm2Fe17N3)、Sm−Ti−Fe−N(例えば、Sm1Ti1Fe11N2)、Sm−Mn−Fe−N、Y−Fe−N、Y−Ti−Fe−N、Y−Mn−Fe−Nなどが挙げられる。
上記磁石素材や希土類磁石を構成する希土類−鉄系合金は、微細な結晶組織を有し、粗大な結晶の含有割合が少ない。具体的には、結晶粒径が500nm以上である粗大粒の含有割合が35%以下である形態が挙げられる。上述の脱水素処理の条件によっては、上記粗大粒の含有割合が、32%以下、更に30%以下である形態とすることができる。粗大粒の含有割合の測定方法は後述する。また、上記希土類−鉄系合金の平均結晶粒径が500nm以下である形態、更に450nm以下である形態が挙げられる。更に、上記希土類−鉄系合金を構成する結晶のばらつきが小さい形態が挙げられる。具体的には、結晶粒径が200nm以上500nm以下である結晶の含有割合が60%以上である形態が挙げられる。上記磁石素材や希土類磁石を構成する希土類−鉄系合金は、配向性にも優れる。
上述のように微細な結晶組織を有し、かつ配向性に優れることで、上記希土類磁石は、磁気特性に優れる。具体的には、保磁力が高い上に、残留磁束密度Brも高く、飽和磁束密度Bsに対する残留磁束密度Brの比Br/Bsも高い。例えば、Nd−Fe−B、Nd−Fe−Co−BなどのNdを含有する希土類−鉄系合金を主体とする圧縮磁石では、保磁力が1100kA/m以上、Br/Bsが0.87以上を満たす形態が挙げられる。
その他、上記磁石素材や希土類磁石は、表面から内部に向かう方向に厚さをとったとき、上記厚さが5mm超である部分を有するといった大型のものである形態が挙げられる。
[試験例1]
Ndを含有する希土類−鉄系合金の圧縮磁石を作製し、結晶の大きさ及び磁気特性を調べた。
Ndを含有する希土類−鉄系合金の圧縮磁石を作製し、結晶の大きさ及び磁気特性を調べた。
ここでは、水素化材として、水素化粉末の粉末成形体を用意し、この粉末成形体に表1に示す種々の条件で脱水素処理を施し、NdとFeとを含む再結合合金を主体とする圧縮物(磁石素材)を作製した。
水素化粉末は、以下のように作製した。試料No.1−14を除く試料については、32質量%Nd−5質量%Co−0.5質量%Ga−1.0質量%B−残部Feという組成の溶湯を用いて、ストリップキャスト法によって合金片を作製した。試料No.1−14については、32質量%Nd−1.0質量%B−残部Feという組成の溶湯を用いて、ストリップキャスト法によって合金片を作製した。得られた各組成の合金片にそれぞれ、水素のフロー雰囲気中、850℃×2時間の条件で水素化処理を施した。得られた水素化合金片を窒素雰囲気中(酸素濃度が体積割合で2000ppm以下)で粉砕した。粉砕には、市販の粉砕装置を用い、平均粒径が106μm以上355μm以下の粉末とし、この粉末を水素化粉末とした。平均粒径は、レーザ回折式粒度分布装置により、積算重量が50%となる粒径(50%粒径)を測定した。得られた水素化粉末を分析したところいずれも、Ndの水素化合物(NdH2)とFeとFe−B(Fe2B)とを含んでいた。組成の分析は、X線回折によって行った。粉末成形体はいずれも、作製した水素化粉末を種々の大きさ及び形状の金型に充填して圧縮成形した。いずれの試料も、加圧圧力を1.2GPaとした。試料No.1−15及びNo.1−118は、直径がφ5mm、高さが5mmの円柱体、質量が約0.6g、試料No.1−16及びNo.1−119は、直径がφ15mm、高さが15mmの円柱体、質量が約16g、試料No.1−17及びNo.1−120は、直径がφ20mm、高さが20mmの円柱体、質量が約40gとした。上記以外の試料は、直径がφ10mm、高さが10mmの円柱体、質量が約5gとした。
作製した水素化材(粉末成形体)を水素のフロー雰囲気中(雰囲気中の水素圧は大気圧と同じ)で870℃まで昇温する(昇温工程、到達温度Thigh=870℃)。昇温速度は、8.5℃/minとした。昇温途中、800℃以上の温度において磁場の印加装置を駆動して、磁場を発生させた。ここでは、870℃に到達した時点において表1に示す大きさの印加磁場(T)が水素化材に印加されるように、駆動開始から所望の大きさの印加磁場になるまでの所要時間を考慮して、磁場の印加装置の駆動開始時を選択した。磁場の印加装置は、高温超電導磁石を備えるものを用いた。
温度Thighに到達してから、雰囲気中の水素を排出して減圧を開始して、雰囲気中の水素圧が101hPa(0.1気圧)になるまで、水素を排出し続ける(減圧工程、到達圧力P1=101hPa)。この減圧工程の間は、温度Thigh(℃)に保持したままとする。また、この減圧工程では、減圧の開始時に表1に示す印加磁場(T)が水素化材に印加される状態とし、減圧中、表1に示す印加磁場(T)を印加したままとする。なお、水素雰囲気で昇温を行うことで、この減圧の開始時、各試料は、水素の吸蔵量が飽和した状態であるといえる。組成にもよるが、ここでは、いずれの試料も水素の飽和吸蔵量を0.02L/gとする。従って、各試料の水素の飽和吸蔵量VHは、0.02(L/g)×質量(g)で求める。例えば、質量が約5gの試料では、水素の飽和吸蔵量VHは0.1Lである。
雰囲気中の水素圧が到達圧力P1になってから、表1に示す降温速度(℃/min)で、表1に示す到達温度Tlow(℃)になるまで温度を下げる(降温工程)。この降温工程の間も、雰囲気中の水素を排出し続けて、到達圧力P2が10.1Pa(1×10−4気圧)になるまで減圧する。この降温工程における水素の排出は、表1に示す排気量Vp(L/min)になるように排出装置を調整して行った。この降温工程の間も、表1に示す印加磁場(T)を印加したままとする。
雰囲気中の水素圧を10.1Paの減圧雰囲気に保持して、到達温度Tlow(℃)に保持する(保温工程)。ここでは、いずれの試料も1時間保持した。温度Tlow(℃)を1時間保持した後、表1に示す印加磁場(T)の印加をやめた。つまり、表1に示す印加磁場(T)の印加期間は、上述の減圧の開始から、保温工程の終了までとした。1時間保持後、室温(20℃程度)まで降温した。
上述の昇温工程、減圧工程、降温工程、及び保温工程を順に行う脱水素処理を施した後、得られた各試料(磁石素材)を4000kA/mのパルス磁場で着磁して、各試料(圧縮磁石)の磁気特性を調べた。その結果を表1に示す。ここでは、飽和磁束密度Bs(T)、飽和磁束密度Bsに対する残留磁束密度Brの比Br/Bs、固有保磁力iHc(kA/m)、磁束密度Bと減磁界の大きさHとの積の最大値、即ち最大エネルギー積(BH)max(kJ/m3)を調べた。測定には、BHトレーサ(理研電子株式会社製DCBHトレーサ)を用いた。測定の評価方向は、着磁後の各試料において、成形時にパンチが接していた加圧面(ここでは円柱の端面)に直交する方向とした。この評価方向は、ここでは圧縮成形時の加圧方向に平行な方向でもある。なお、得られた各試料を調べたところ、試料No.1−14以外の試料は、Nd−Fe−Co−Ga−B合金からなる粉末が圧縮成形された圧縮物となっていた(上記合金の含有割合が88体積%程度、空隙率が12体積%程度)。試料No.1−14は、Nd−Fe−B合金からなる粉末が圧縮成形された圧縮物となっていた(上記合金の含有割合が90体積%程度、空隙率が10体積%程度)。即ち、いずれの試料も、脱水素処理によって再結合合金を生成していることが確認できた。なお、組成の分析は、X線回折によって行った。また、上記分析は、試料の表面部が自然酸化されている恐れがあるため、各試料について、表面から2mm程度を研磨した面について評価した。
得られた各試料(磁石素材又は圧縮磁石)を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、この観察像(2万倍)を用いて、結晶粒径が500nm以上である粗大粒の含有割合を求めた。その結果を表1に示す。粗大粒の含有割合は、以下のように求める。市販の画像処理ソフトを用いて上記観察像を画像処理し、視野内(200μm×200μm)の結晶粒子を全て抽出し、各結晶粒子の面積を求める。求めた面積と等価な面積を有する円の直径を各結晶粒子の結晶粒径とする。10個の視野をとり、10個の視野中に存在する全ての結晶について結晶粒径を求め、結晶粒径が500nm以上である結晶粒子の個数を求める。そして、(500nm以上の結晶粒子の個数/10個の視野中の全ての結晶粒子の個数)×100を粗大粒の含有割合(面積割合、%)とする。
表1に示すように、水素雰囲気で870℃以上の温度に昇温した後減圧を開始し、減圧下で、4T以上の強磁場を印加した状態とすると共に、特定の降温速度で降温してある程度の低温に保持する、という特定の条件で脱水素処理を行った試料No.1−1〜No.1−17はいずれも、粒径が500nm以上の粗大粒の含有割合が少なく、微細な組織を有することが分かる。具体的には、試料No.1−1〜No.1−17はいずれも、上記粗大粒の含有割合が35%以下である。条件によっては、上記粗大粒の含有割合が30%以下、更に20%以下の試料もある。また、これらの試料の平均結晶粒径(上述の10個の視野中の全ての結晶粒子の結晶粒径を平均した値)は、300nm〜400nm程度である。このように粗大な結晶が少なく、微細な組織を有する試料No.1−1〜No.1−1−17はいずれも、磁気特性にも優れる。特に、Br/Bsが高く、かつ保磁力も高い。具体的には、Br/Bsが0.87以上であり、固有保磁力iHcが1100kA/m以上である。また、試料No.1−1〜No.1−17はいずれも、飽和磁束密度Bsが1.10T以上、Br/Bsが0.87以上、固有保磁力iHcが1100kA/m以上、最大エネルギー積(BH)maxが155kJ/m3以上である。
このことから、4T以上といった強磁場を印加して脱水素処理を行う場合、ある程度高い温度に昇温してから減圧し、減圧下で、かつ降温過程で強磁場を印加すると共に、雰囲気中の水素圧に応じて降温速度を調整することで、脱水素及び再結合反応を良好に行えるといえる。また、このような特定の脱水素処理を行うことで、結晶の粗大化を抑制でき、微細な結晶組織を有しながら、配向性も高められるといえる。
表1の試料No.1−1〜No.1−3、No.1−101〜No.1−104、及び試料No.1−4〜No.1−6、No.1−105〜No.1−108、並びに試料No.1−7〜No.1−9、No.1−109〜No.1−111に着目すると、降温速度が大きいと、粗大粒の含有割合を低減し易いものの、降温速度が大き過ぎると、Br/Bsや(BH)maxが小さくなることが分かる。特に、Br/Bsが小さくなっており、ここでは、0.80以下の試料が多い。この理由は、降温速度が大き過ぎると、降温工程で結晶を十分に配向できず、配向性に劣るためと考えられる。逆に、降温速度が小さいと、粗大粒の含有割合が大きくなり易いことが分かる。この理由は、降温速度が小さ過ぎると、処理対象が高い温度に保持される時間が長くなり、脱水素及び再結合反応によって生じた結晶が成長し易くなったためと考えられる。また、粗大粒が多いことで特に保磁力iHcが低下していることが分かる。一方、降温速度を絶対値で同じ程度としていても、粗大粒の含有割合が多くなったり、少なくなったりすることが分かる。他方、降温速度を水素の排出状態(ここではVp/(100×VH)で表わされる値)に応じて特定の範囲で変化させると、粗大粒の含有割合を35%以下に低減できることが分かる。
そこで、粗大粒の含有割合が35%以下である試料No.1−1〜No.1−9と、これらの試料に対して降温速度を除いて同じ条件(印加磁場の大きさ=5T、Vp/(100×VH)=3,5,10のいずれか、保持温度Tlow=750℃)で脱水素処理を行った試料No.1−101〜No.1−111について、Vp/(100×VH)と降温速度との関係を調べた。図3に、これらの試料について、Vp/(100×VH)と降温速度との関係を示す。
図3において、横軸(x)はVp/(100×VH)の値を示し、縦軸(y)は降温速度ΔT/Δt(℃/min)を示す。Vp/(100×VH)を変数とし、αを定数とし、降温速度ΔT/Δtを、Vp/(100×VH)を真数とする常用対数の関数、即ちΔT/Δt=αlog10(Vp/(100×VH))で表わすことを考える。このとき、試料No.1−1〜No.1−9の降温速度ΔT/Δtの近似曲線は(切片は省略する)、y=3.20log10(x)と、y=0.96log10(x)とで表わされる。このことから、定数αは、0.96以上3.20以下の範囲から選択すればよいこと、尤度をみれば、0.97以上3.0以下が好ましいことが分かる。αをこの範囲で選択することで、水素の飽和吸蔵量VHが一定の場合に排気速度Vpを速くしても(例えば、100L/min)、遅くしても(例えば、30L/min)、粗大粒の含有割合が少ないものが得られることが分かる。
表1の試料No.1−10〜No.1−12、No.1−112〜No.1−114に着目すると、保温工程における保持温度は、700℃以上850℃未満であれば、粗大粒の含有割合が少なく、磁気特性に優れるものが得られることが分かる。一方、保持温度が低過ぎたり、保持温度が高過ぎたりすると、特にBr/Bsや保磁力iHcが低く、磁気特性に劣るものが得られることが分かる。この理由は、保持温度が低過ぎると、配向性を向上し難いためと考えられ、保持温度が高過ぎると、粗大粒の含有割合が多くなるためと考えられる。
表1の試料No.1−5,No.1−13、No.1−115〜No.1−117に着目すると、印加磁場は4T以上であれば、Br/Bs及び保磁力iHcが高く磁気特性に優れるものが得られることが分かる。印加磁場が低過ぎると、Br/Bsや保磁力iHcが低くなる。この理由は、配向性を十分に高められない上に、脱水素反応の平衡温度が無磁場の場合に近くなる(低めになる)ことから、生成された結晶が成長し易くなり、粗大粒の含有割合が多くなるためと考えられる。
表1の試料No.1−12,No.1−15〜No.1−17、No.1−114,No.1−118〜No.1−120に着目すると、小型のもの(ここでは直径φ5mmのもの)はもちろん、大型のもの(ここでは直径φ15mm、φ20mmの試料)であっても、上述の特定の条件で脱水素処理を行った試料No.1−12,No.1−15〜No.1−17はいずれも、粗大粒の含有割合が少なく、微細な組織を有し、かつ磁気特性に優れることが分かる。従って、上述の特定の条件の脱水素処理を行う希土類磁石の製造方法は、小型なものはもちろん、このような比較的大型のものに対して、良好に利用できると期待される。
この試験例1で得られた試料No.1−1〜No.1−17の圧縮物(着磁後)は、磁気特性に優れることから、永久磁石などに利用される希土類磁石(圧縮磁石)に好適に利用できるといえる。
(付記)
磁場を印加しないで脱水素処理を行う場合も、上述の強磁場を印加する場合と同様に、一旦、高い温度まで昇温した後、図2の細線グラフを下回らないように降温速度を調整して降温し、ある程度低い温度で保持する、という条件とすることができる。具体的には、以下の希土類磁石の製造方法が挙げられる。希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、前記水素化材に脱水素処理を施して、前記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備え、
前記脱水素処理は、
前記水素化材を水素雰囲気で800℃以上の所定の温度Thighにまで昇温する昇温工程と、
前記所定の温度Thighの到達以降に雰囲気の減圧を開始して、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以下の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする減圧工程と、
前記水素圧が前記所定の値P1から10.1Pa以下の所定の値P2に達するまで水素を排出しながら所定の降温条件に従って、600℃以上725℃以下の温度域から選択した所定の温度Tlowにまで温度を下げる降温工程と、
前記水素圧が前記所定の値P2以下である減圧雰囲気で、前記所定の温度Tlowに保持する保温工程とを備え、
前記降温条件は、
降温速度をΔT/Δt(℃/min)とし、Vpを前記水素を排出するときの排気速度(L/min)とし、VHを前記水素化材における水素の飽和吸蔵量(L)とし、βを0.5以上2.5以下の定数とするとき、
ΔT/Δt=βlog10(Vp/(100×VH))を満たす希土類磁石の製造方法。
磁場を印加しないで脱水素処理を行う場合も、上述の強磁場を印加する場合と同様に、一旦、高い温度まで昇温した後、図2の細線グラフを下回らないように降温速度を調整して降温し、ある程度低い温度で保持する、という条件とすることができる。具体的には、以下の希土類磁石の製造方法が挙げられる。希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、前記水素化材に脱水素処理を施して、前記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備え、
前記脱水素処理は、
前記水素化材を水素雰囲気で800℃以上の所定の温度Thighにまで昇温する昇温工程と、
前記所定の温度Thighの到達以降に雰囲気の減圧を開始して、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以下の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする減圧工程と、
前記水素圧が前記所定の値P1から10.1Pa以下の所定の値P2に達するまで水素を排出しながら所定の降温条件に従って、600℃以上725℃以下の温度域から選択した所定の温度Tlowにまで温度を下げる降温工程と、
前記水素圧が前記所定の値P2以下である減圧雰囲気で、前記所定の温度Tlowに保持する保温工程とを備え、
前記降温条件は、
降温速度をΔT/Δt(℃/min)とし、Vpを前記水素を排出するときの排気速度(L/min)とし、VHを前記水素化材における水素の飽和吸蔵量(L)とし、βを0.5以上2.5以下の定数とするとき、
ΔT/Δt=βlog10(Vp/(100×VH))を満たす希土類磁石の製造方法。
上述の希土類磁石の製造方法によれば、結晶粒径が500nm以上である粗大粒が少なく、微細な組織を有する希土類磁石を製造することができる。この希土類磁石は、高い保磁力を有する。
本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類磁石の製造に利用することができる。得られた希土類磁石は、永久磁石、例えば、各種のモータ、特に、ハイブリッド自動車やハードディスクドライブなどに具備される高速モータに用いられる永久磁石に好適に利用することができる。
10 再結合合金
11,21 希土類−鉄系合金の結晶 12 結晶の境界
31 希土類−鉄系合金の結晶核
50 水素化合金 51 希土類元素の水素化合物 52 鉄
53 鉄化合物
11,21 希土類−鉄系合金の結晶 12 結晶の境界
31 希土類−鉄系合金の結晶核
50 水素化合金 51 希土類元素の水素化合物 52 鉄
53 鉄化合物
Claims (5)
- 希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、
前記水素化材に脱水素処理を施して、前記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備え、
前記脱水素処理は、
前記水素化材を水素雰囲気で870℃以上の所定の温度Thighにまで昇温する昇温工程と、
前記所定の温度Thighの到達以降に雰囲気の減圧を開始して、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以下の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする減圧工程と、
前記水素圧が前記所定の値P1から10.1Pa以下の所定の値P2に達するまで水素を排出しながら所定の降温条件に従って、700℃以上850℃未満の温度域から選択した所定の温度Tlowにまで温度を下げる降温工程と、
前記水素圧が前記所定の値P2以下である減圧雰囲気で、前記所定の温度Tlowに保持する保温工程とを備え、
前記降温条件は、
降温速度をΔT/Δt(℃/min)とし、Vpを前記水素を排出するときの排気速度(L/min)とし、VHを前記水素化材における水素の飽和吸蔵量(L)とし、αを0.97以上3.0以下の定数とするとき、
ΔT/Δt=αlog10(Vp/(100×VH))を満たし、
前記減圧の開始から前記保温工程の終了までの間、前記水素化材に4T以上の強磁場を印加する希土類磁石の製造方法。 - 前記水素化材は、4T以上の強磁場が印加された状態であって、かつ雰囲気中の水素圧が203hPa以上大気圧未満の減圧雰囲気における脱水素反応の平衡温度が870℃超である請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記希土類元素は、Nd又はSmである請求項1又は請求項2に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記再結合合金は、Ndと、Feと、B及びCの少なくとも一方の元素とを含む請求項1又は請求項2に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記水素化材は、希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化粉末を圧縮成形した粉末成形体である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
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