JP2014195014A - サーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子 - Google Patents

サーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子 Download PDF

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Abstract

【課題】 25℃での抵抗率ρ25が3000Ωcm以下、かつ、B定数(25℃−50℃)が4000K以上であると共に、高温域のB定数が低温域のB定数より大きいサーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子を提供すること。
【解決手段】 サーミスタに用いられる金属酸化物材料であって、一般式:(MnCo(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、その結晶構造が、スピネル構造であり、かつ、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものである。本発明のサーミスタ素子は、上記サーミスタ用金属酸化物材料で形成されたフレーク状のサーミスタ素体と、サーミスタ素体の両端面に形成された一対の電極とを備えている。
【選択図】図1

Description

本発明は、低い抵抗率かつ高B定数を有すると共に、高温域のB定数が低温域のB定数より大きくなるサーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子に関する。
温度センサ等に使用されるサーミスタ材料は、高精度、高感度のために、高いB定数が求められている。従来、このようなサーミスタ材料には、温度に対して抵抗値が指数関数的に減少するNTCサーミスタ材料などが用いられている。例えば、NTCサーミスタ材料としては、遷移金属元素を用いたスピネル酸化物(Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn)等が従来から使用されている材料系である(特許文献1及び2、非特許文献1及び2参照)。
このようなサーミスタ材料に関する技術として、高い抵抗率をもつサーミスタ材料に対して、内部電極構造により低抵抗値を実現する技術が知られている(特許文献3参照)。
一方で、高温域より低温域のB定数を大きくすることで、低温域から高温域にわたって温度検出精度を高めることができるが、そのような思想で提案された技術が既にある。例えば、特許文献4に記載されているように、チタン酸バリウム系半導体を用いることにより、低抵抗で、かつ、立方晶から正方晶への相転移温度以上の温度におけるB定数が、相転移点以下の温度におけるB定数よりも相当に大きい負の抵抗温度特性を実現することができる。しかしながら、室温近傍の温度域のB定数が1000K以下で、十分な温度検出精度を確保することが困難である。
特開2005−150289号公報 特開2009−188179号公報 特開2004−63572号公報 特開平05−299207号公報
二木久夫、日立製作所中央研究所創立二十周年記念論文集、30(1962) 横山隆、目黒竹司、日本材料科学会誌、48巻5号(頁237−246)、2011/10
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
NTCサーミスタ材料は、温度に対して抵抗値が指数関数的に減少していく振舞いを用いて、温度センサ用途として用いられている材料であり、抵抗値の温度係数であるB定数を用いて抵抗値が以下のように表される。
R=Rexp(B×((1/T)−(1/T)))
(R:抵抗値、B:B定数、T:温度(K))
近年、温度検出の高精度化の要求があるが、NTCサーミスタ材料では抵抗値が指数関数的に減少するため、特に、高温域(100℃以上)の抵抗値が小さく、かつ、温度に対する抵抗値変化が小さくなるため、温度検出精度が劣る問題点があった。高B定数材料を用いれば高温域の温度検出精度が向上するが、B定数の温度変化が一定の場合、低温域の抵抗値が大きくなってしまい、低温域の抵抗値測定が困難となる場合がある。すなわち、低温域では微小電流測定となり、抵抗値検出が困難となってしまう不都合がある。低温域と高温域とのそれぞれの温度検出精度を確保する手法として、B定数が温度変化する材料を適用する手法がある。すなわち、この手法では、低温域のB定数が小さく、高温域のB定数が大きい材料を適用することが好ましい。
例えば、−40℃から200℃の温度範囲用の温度センサとして使う場合、通常、温度検出精度を加味すると、B定数が4000K〜4500K程度のサーミスタ材料を用いられる。このうち、既知のスピネル構造をもつ(Mn0.7Ni0.3Al0.1のような、非常に高い抵抗率をもつ材料を選択すれば、結晶構造相転移することなく、上記指針に従って低温域よりも高温域のB定数を大きい材料系を得ることができる。すなわち、このような材料では、B定数の温度変化が、ある温度で急激に変化することなく、B定数が大きくなる。なお、サーミスタ材料(Mn0.7Ni0.3Al0.1:25℃での電気抵抗率ρ25=10kΩcm,B(25℃−50℃)=4250K)について、温度に対する25℃基準の各温度におけるB定数のグラフを図14に示す。
なお、B定数算出方法は、上述の式を用いており、例えば、B(25℃−50℃)は、25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
表1の比較例1の上記Mn−Ni−Alで構成される材料のように、測定温度域において結晶構造相転移することなく、かつ、B定数4000K以上であり、かつ、高温域のB定数が高い材料を実現する材料は、電気抵抗率ρ25が10kΩcm以上であることがわかる。これは、例えば、1mm×1mm×0.5mm角のフレークサイズにすると、25℃での電気抵抗値R25が50kΩ以上になってしまう。
一般的に家電製品に使用される温度センサの25℃の抵抗値は1〜10kΩ程度であることがしばしばであり、50kΩ以上あると低温域の抵抗値が非常に小さくなり、抵抗値検出が困難となり、低温の温度を測定が困難となる。そこで、抵抗値を小さくするために、内部電極を使ったチップサーミスタが使用される。このような内部電極構造タイプのチップサーミスタは、焼成前のグリーンシート上にAg−Pd等の電極を印刷により配列し、シートを重ねて、プレス成形し、さらに焼成という各工程を経る。したがって、電極間の距離と断面積とで決まる抵抗値は、焼成前の印刷工程で決まってしまうため、焼成後に調整することが困難であり、また、印刷精度により抵抗値の歩留まりが決まってしまう。したがって、内部電極構造タイプは、内部電極が無いシンプルな構造タイプに比べて、歩留まりが高い高精度なサーミスタ素子を得るのが難しく、また製造コストも高い。
一方で、内部電極が無いシンプルなタイプのフレーク型サーミスタは、焼成後のフレークの切断精度で電気抵抗値の精度が決まるため、歩留まりが低い高精度なサーミスタ材料に適しており、そのためには、ρ25が100〜3000Ωcm程度の電気抵抗率の小さい材料が望まれる。例えば、表1の比較例13の(Mn0.4Co0.6であれば、ρ25が310Ωcm程度,B定数(25℃−50℃)が4115Kの材料を得ることができるが、高温域よりも低温域のB定数の方が大きくなってしまう。したがって、低抵抗かつ高いB定数をもつ材料で、さらに、高温域でB定数が大きくなる材料が望まれていた。
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、25℃での抵抗率ρ25が3000Ωcm以下、かつ、B定数(25℃−50℃)が4000K以上であると共に、高温域のB定数が低温域のB定数より大きいサーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子を提供することを目的とする。ここで、本発明において、高温域のB定数をB定数(25℃−125℃)とし、低温域のB定数はB定数(25℃−50℃)と定義する。
本発明者らは、MnCo系、MnCoNi系及びMnCoCu系スピネル酸化物材料に着目し、鋭意、研究を進めたところ、一定の組成範囲で特定の結晶構造にすることにより、低い電気抵抗率と高B定数とを有すると共に高温域のB定数が低温域のB定数より大きくなることを見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
すなわち、第1の発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料は、サーミスタに用いられる金属酸化物材料であって、一般式:(MnCo(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、その結晶構造が、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものであることを特徴とする。
このサーミスタ用金属酸化物材料では、一般式:(MnCo(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、その結晶構造が、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものであるので、以下の3つの効果を得ることができる。すなわち、本発明のサーミスタ用金属酸化物材料は、
(1)25℃での抵抗率ρ25が3000Ωcm以下であること(以下、効果(1)と称す)、
(2)B定数(25℃−50℃)が4000K以上であること(以下、効果(2)と称す)、
(3)高温域のB定数が低温域のB定数より大きいこと(以下、効果(3)と称す)
の3つの特性を有している。
第2の発明に係るサーミスタ素子は、第1の発明のサーミスタ用金属酸化物材料で形成されたフレーク状のサーミスタ素体と、前記サーミスタ素体の両端面に形成された一対の電極とを備えていることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ素子では、フレーク状のサーミスタ素体が上記第1の発明のサーミスタ用金属酸化物材料で形成されているので、内部電極の無いシンプルな構造であっても、低い抵抗率及び高B定数が得られると共に高温域でB定数が大きくなる高精度なサーミスタ特性が得られる。
第3の発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料の製造方法は、第1の発明のサーミスタ用金属酸化物材料を製造する方法であって、MnCO、CoCO、CuO及びNiCOの各粉末のうち、少なくともMnCOとCoCOとの粉末を混合して混合粉末を作製する工程と、前記混合粉末を焼成してスピネル酸化物相からなる仮焼粉を作製する工程と、前記仮焼粉とバインダーとを混合した混合物でグリーン成形体を成形する工程と、前記グリーン成形体を焼成して焼結体を形成する工程と、前記焼結体を800℃から1000℃の間で大気中においてアニール処理する工程とを有していることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ用金属酸化物材料の製造方法では、所定組成の焼結体を800℃から1000℃の間で大気中においてアニール処理する工程を有しているので、スピネル正方晶の単相であった焼結体がアニール処理によってスピネル正方晶を2相含む結晶構造となってB定数が上昇し、B定数の温度変化(ΔB)も大きくなったサーミスタ用金属酸化物材料が得られる。
また、サーミスタ素子を作製する場合の電極焼付前にその温度域(800℃〜1000℃)でアニール処理をするので、アニール処理していないものよりも抵抗率及びB定数のばらつきの小さく、かつ、耐熱信頼性の高い材料が得られる。
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料によれば、一般式:(MnCo(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、その結晶構造が、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものであるので、25℃での抵抗率ρ25が3000Ωcm以下、かつ、B定数:B(25℃−50℃)が4000K以上であると共に、高温域のB定数が低温域のB定数より大きいサーミスタ特性を得ることができる。したがって、測定温度域において、結晶構造相転移することなく、低温から高温まで高い温度検出精度を得ることができる。
また、本発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料の製造方法によれば、所定組成の焼結体を800℃から1000℃の間で大気中においてアニール処理する工程を有しているので、アニール処理によってB定数が上昇し、さらに、B定数の温度変化(ΔB)も大きくなったサーミスタ用金属酸化物材料が得られる。
したがって、本発明のサーミスタ用金属酸化物材料を用いたサーミスタ素子によれば、内部電極の無いシンプルな構造であっても、低い抵抗率及び高B定数が得られると共に高温域でB定数が大きくなる高精度なサーミスタ特性が得られる。
本発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子の一実施形態において、サーミスタ用金属酸化物材料の組成範囲を示すMn−Co−Cu系3元系相図である。 本実施形態において、サーミスタ用金属酸化物材料の組成範囲を示すMn−Co−Ni系3元系相図である。 本実施形態において、サーミスタ素子を示す断面図である。 本発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子の実施例及び比較例において、MnCoCu系の実施例を含む場合のB定数:B(25℃−50℃)と25℃抵抗率との関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例及び比較例において、MnCoNi系の実施例を含む場合のB定数:B(25℃−50℃)と25℃抵抗率との関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例及び比較例において、MnCoCu系の実施例を含む場合のMn/(Mn+Co)比とΔBとの関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例及び比較例において、MnCoNi系の実施例を含む場合のMn/(Mn+Co)比とΔBとの関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例及び比較例において、MnCoCu系の実施例を含む場合のMn/(Mn+Co)比とCu/(Mn+Co+Cu)比との関係を示すグラフである。 本発明に係る実施例及び比較例において、MnCoNi系の実施例を含む場合のMn/(Mn+Co)比とNi/(Mn+Co+Ni)比との関係を示すグラフである。 本発明に係るアニール処理の無いMnCoCu系の比較例において、X線回折(XRD)のプロファイルパターンを示すグラフである。 本発明に係るアニール処理をしたMnCoCu系の実施例において、X線回折(XRD)のプロファイルパターンを示すグラフである。 本発明に係るアニール処理の無いMnCoNi系の比較例において、X線回折(XRD)のプロファイルパターンを示すグラフである。 本発明に係るアニール処理をしたMnCoNi系の実施例において、X線回折(XRD)のプロファイルパターンを示すグラフである。 サーミスタ材料(Mn0.7Ni0.3Al0.1について、温度に対するB定数を示すグラフである。
以下、本発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子における一実施形態を,図1から図3を参照しながら説明する。
本実施形態のサーミスタ用金属酸化物材料は、サーミスタに用いられる金属酸化物材料であって、図1及び図2に示すように、一般式:(MnCo(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、その結晶構造が、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものである。
すなわち、このサーミスタ用金属酸化物材料は、図1に示すように、Mn−Co−Cu系3元系相図における以下の点A,B,C,Dで囲まれる領域内の組成(図1中の四角枠で囲まれた組成)、又は図2に示すように、Mn−Co−Ni系3元系相図における以下の点E,F,G,Hで囲まれる領域内の組成(図2中の四角枠で囲まれた組成)を有したものであり、800℃から1000℃の間でアニール処理した焼結体の結晶相がスピネル正方晶(空間群I41/amd)を2相含む金属酸化物である。
上記点A,B,C,Dの各組成比(x、y、z)は、A(57.0、43.0、0.0),B(53.0、47.0、0.0),C(51.94、46.06、2.0),D(55.86、42.14、2.0)である。
また、上記点E,F,G,Hの各組成比(x、y、z)は、E(57.0、43.0、0.0),F(53.0、47.0、0.0),G(51.94、46.06、2.0),H(55.86、42.14、2.0)である。
このように本実施形態のサーミスタ用金属酸化物材料は、正方晶のスピネル構造を持つ(MnCo(M=Cu,Ni)であり、Mn/(Mn+Co)(=y/(x+y))=0.53〜0.57、かつ、M(=z)=0.0〜0.02(M=Ni,Cu)を満たす組成域で、焼結温度域(1100〜1200℃)では、正方晶単相で、かつ、格子定数の比率(格子歪):c軸長/(√2×a軸長)が1.07程度であるが、電極焼付温度域(800℃〜1000℃)でアニール処理をすることにより、c軸長/a軸長の比率が異なる正方晶系の2相系を実現させたものである。なお、本実施形態において、スピネル結晶構造内の格子歪の量を、格子定数の比率:c軸長/(√2×a軸長)として定義することとする。
すなわち、格子歪であるc軸長/(√2×a軸長)が1.14程度の相で、高温域のB定数が低温域のB定数より大きいこと(上記効果(3))が得られ、c軸長/(√2×a軸長)が1.01程度の相で、抵抗率ρ25℃=3000Ωcm以下であること(上記効果(1))が得られ、さらにB定数(25℃−50℃)が4000K以上であること(上記効果(2))も得られる。
ここで、c軸長/(√2×a軸長)に関して、立方晶の場合、その値は1.00である。しかしながら、本実施形態の正方晶単相および正方晶系の2相系においては、c軸長よりも、(√2×a軸長)の方が大きいため、格子歪であるc軸長/(√2×a軸長)は1.00よりも大きい値を示す。
次に、本実施形態のサーミスタ用金属酸化物材料を用いたサーミスタ素子1は、図3に示すように、上記サーミスタ用金属酸化物材料で形成されたフレーク状のサーミスタ素体2と、サーミスタ素体2の両端面に形成された一対の電極3とを備えている。すなわち、このサーミスタ素子1は、内部電極構造を有しないシンプルな構造タイプである。
上記サーミスタ用金属酸化物材料の製造方法は、MnCO、CoCO、CuO及びNiCOの各粉末のうち、少なくともMnCOとCoCOとの粉末を混合して混合粉末を作製する工程と、混合粉末を焼成してスピネル酸化物相からなる仮焼粉を作製する工程と、仮焼粉とバインダーとを混合した混合物でグリーン成形体を成形する工程と、グリーン成形体を焼成して焼結体を形成する工程と、焼結体を800℃から1000℃の間で大気中においてアニール処理する工程とを有している。
より具体的に上記製造方法の一例について説明すると、まず原料のMnCO、CoCO、NiCO、CuOの各粉末を秤量後にボールミルに入れ、Zrボールと純水とを適量入れて約24時間混合を行って混合粉末を作製する。次に、得られた混合粉末を取り出して乾燥させた後、900℃、5時間にて仮焼し、スピネル酸化物相からなる仮焼粉を得る。さらに、この仮焼粉をZrボールと純水とを用いてボールミルで粉砕、混合した後、乾燥させる。
次に、上記仮焼粉にPVA(ポリビニルアルコール、10wt%水溶液)を10wt%加えて混合し、乾燥させて造粒粉を得る。さらに、この造粒粉を一軸加圧成型することで、グリーン成形体を作製する。
次に、このグリーン成形体を脱バインダー処理した後、1100〜1200℃、5〜15時間の焼成を行い、焼結体ブロックを作製する。なお、この時点で得られた焼結体ブロックは、正方晶の単独相を有している。
この後、焼結体ブロックをウエハ状にスライス加工し、厚さ0.5mm程度の焼結体ウエハを作製する。次に、焼結体ウエハを、800〜1000℃、24h、大気中でアニール処理を実施する。なお、アニール処理の温度は、スピネル正方晶の2相を含む結晶相の生成と、酸素欠陥の補填と、その後の電極焼付工程における電極焼付温度を勘案して、800〜850℃とするのが好ましい。このアニール処理を行った時点で焼結体ウエハは、スピネル正方晶の2相を含む結晶構造となる。このようにして、本実施形態のサーミスタ用金属酸化物材料が作製される。
このように作製した本実施形態のサーミスタ用金属酸化物材料である焼結体ウエハの両面に、Agペーストを塗布し、ベルト炉において、800〜850℃で電極3を焼き付ける。次に、ダイシング切断することにより、サーミスタ素体2の両端面に電極3が形成された所定のフレーク形状のサーミスタ素子1が作製される。
このように本実施形態のサーミスタ用金属酸化物材料では、一般式:(MnCo(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、その結晶構造が、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものであるので、25℃での抵抗率ρ25が3000Ωcm以下、かつ、B定数(25℃−50℃)が4000K以上であると共に、高温域のB定数が低温域のB定数より大きいサーミスタ特性を得ることができる。
また、本実施形態のサーミスタ用金属酸化物材料の製造方法では、所定組成の焼結体を800℃から1000℃の間でアニール処理する工程を有しているので、スピネル正方晶の単相であった焼結体がアニール処理によってスピネル正方晶を2相含む結晶構造となってB定数が上昇し、B定数の温度変化(ΔB)も大きくなったサーミスタ用金属酸化物材料が得られる。
また、サーミスタ素子1を作製する場合の電極焼付前にその温度域(800℃〜1000℃)でアニール処理をするので、焼結時に導入された酸素欠損が補填され、アニール処理していないサンプルよりも抵抗率及びB定数のばらつきの小さく、かつ、耐熱信頼性の高い材料が得られる。
したがって、本実施形態のサーミスタ素子1では、フレーク状のサーミスタ素体2が上記サーミスタ用金属酸化物材料で形成されているので、内部電極の無いシンプルな構造であっても、低い抵抗率及び高B定数が得られると共に高温域でB定数が大きくなる高精度なサーミスタ特性が得られる。
次に、本発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子について、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、図4から図13を参照して具体的に説明する。
本発明の実施例及び比較例として、表1及び表2に示す様々な組成比で、上記製造方法に基づいて焼結温度1150℃で焼結体ブロックを作製し、厚さ0.5mmの焼結体ウエハにスライス加工したものを、さらに850℃,24h,大気中でアニール処理をした。このように作製したサーミスタ用金属酸化物材料の焼結体ウエハの両面にAg電極を850℃で焼き付け、さらに所定の大きさにダイシング切断してサーミスタ素子を作製した。このように作製した各サーミスタ素子について、電気測定を実施した結果を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2では、各組成比(x,y,z)をmol%で記載している。
なお、サーミスタの組成比は、EPMA(電子プローブ微小分析器)にて調査し、x,y,zそれぞれ、±0.5mol%の定量精度内で、仕込みの組成比と同等であることを確認した。なお、EPMAの分析条件は、15kV、50nAであり、30μmφの領域を組成分析している。結晶構造の異なる2相の材料に対しては、30μmφの領域における平均の組成比として定量している。
上記実施例及び比較例について、B定数(25℃−50℃)と25℃の抵抗率との関係を、図4及び図5に示す。これらの図からわかるように、本発明の実施例では、低い電気抵抗率(上記効果(1))であると共に、高いB定数(上記効果(2))が得られている。また、これら実施例では、高温域のB定数が低温域のB定数より大きい(上記効果(3))。
なお、図4及び図5中の低抵抗かつ高B定数の範囲にプロットされている比較例は、上記効果(3)が実現されていない。これは、図8及び図9に示すように、Mn/(Mn+Co)比が0.53よりも小さいことに起因する。
また、上記実施例及び比較例について、B定数の温度変化とMn/(Mn+Co)比との関係を、図6及び図7に示す。これらの図からわかるように、本発明の実施例では、Mn/(Mn+Co)比が0.53〜0.57(53mol%〜57mol%)の組成時に、高温域のB定数が低温域のB定数より大きく(上記効果(3))、上記効果(1)〜(3)を同時に達成している。
なお、図6及び図7中の、ΔB>0%が実現されている比較例のデータのうち、Mn/(Mn+Co)比が0.57よりも大きいデータについては、電気抵抗率が3000Ωcmよりも大きく、上記効果(1)が実現されていない。これは、Mn/(Mn+Co)比が0.57よりも大きく、スピネル酸化物中の電子の電気伝導が小さくなっていることに起因する。
また、図6及び図7中の、ΔB>0%が実現されている比較例のデータのうち、Mn/(Mn+Co)比が0.53〜0.57の範囲内のデータについては、B定数が4000Kよりも小さく、上記効果(2)が実現されていない。これは、Cu/(Mn+Co+Cu)比、もしくは、Ni/(Mn+Co+Ni)比が0.02よりも大きいことに起因する。
次に、上記実施例及び比較例について、Mn/(Mn+Co)比とCu/(Mn+Co+Cu)比との関係を図8に示すと共に、Mn/(Mn+Co)比とNi/(Mn+Co+Ni)比との関係を図9に示す。なお、これらの図では、分かり易くするために上記効果(1)(2)(3)の各達成の有無についても図中に表記している(達成できていない効果は取消線により消している。)。
これらの図からわかるように、Mn/(Mn+Co)比が0.57(57mol%)よりも大きい領域では上記効果(2)(3)を達成できるが、上記効果(1)は達成できず、Mn/(Mn+Co)比が0.53(53mol%)よりも小さい領域では上記効果(1)(2)を達成できるが、上記効果(3)は達成できない。また、Cu,Ni量が0.02(2mol%)よりも大きい領域では上記効果(1)(3)を達成できるが、上記効果(2)は達成できない。しかしながら、本発明の実施例で示した領域では、3つの上記効果(1)(2)(3)を全て達成している。
次に、850℃、大気中でのアニール処理の有無による電気特性変化を調べた結果を、表3に示す。
表3に示すように、アニール処理前後で特性に差異がみられる。すなわち、アニール処理をすることで、B定数が上昇すると共に、B定数の温度変化(ΔB)も大きくなっている。また、後述するXRD回折実験の結果により、アニール処理することで結晶相が2相になり、そのことがΔBを大きくすることに効果的であることが判明している。
なお、表3において、アニール処理品は、予め大気中で850℃、24hのアニール処理を実施した焼結体ウエハに対して、850℃でAg電極をベルト炉で焼付したものである。また、アニール未処理品は、焼結体ブロックをスライス加工した焼結体ウエハを熱処理することなく、電極を取り付けたものである。なお、加熱することなく電極を接続する方法として、本実施においては、Auのスパッタにより電極をとりつけた。
次に、結晶相を同定するため、粉末によるX線回折をX線回折装置(Panalytical Empyrean)で実施し、電気特性との相関を調べた結果を、表3に示す。また、アニール未処理品(比較例)とアニール処理品(実施例)とにおけるXRD回折によるXRDプロファイルパターンを図10から図13に示す。
なお、このXRD回折では、管球をCuとし、2θ=15〜100度の範囲で測定した。また、Cu管球を用いた場合、Co,Mnは蛍光X線が励起しやすい物質であるので、蛍光X線除去モードにて、XRD回折データを取得した。
XRD回折を調べた実施例及び比較例は、スピネル立方晶(空間群Fd3m)の単相、スピネル正方晶(空間群I41/amd)の単相、スピネル正方晶(空間群I41/amd)を2相含む相のいずれかであった。このうち、上記効果(1)(2)(3)を同時に満たす組成の結晶構造は、スピネル正方晶(空間群I41/amd)を2相含む相であった。
ここでは、リートベルト解析を実施し、スピネル単相、スピネル2相それぞれの格子定数を算出した。スピネル2相を含む相については、第1相と第2相との比率も求めた。
ここでは、算出された格子定数を用いて、格子定数の比率:c軸長/(√2×a軸長)を求めた。本実施例においては、スピネル結晶構造内の格子歪の量を、この格子定数の比率として定義することにより、格子歪量を評価した。
格子歪=c軸長/(√2×a軸長)
なお、この格子歪が1.00のときは、立方晶であり、本定義における格子歪がないことに相当する。すなわち、立方晶は、a軸方向とc軸方向との格子定数が同じであり、正方晶(空間群I41/amd)よりも対称性の大きい、立方晶、空間群Fd3mとして指数づけられる。
この評価の結果、アニール未処理品(1150℃焼結後未処理品)と850℃でアニール処理を実施したアニール処理品(実施例)とにおいて、結晶相の差異がみられた。
すなわち、アニール未処理品(比較例)は、図10(MnCoCu系)及び図12(MnCoNi系)に示すように、スピネル正方晶(空間群I41/amd)の単相であり、格子歪は1.07程度であった。一方で、850℃でアニール処理を実施したアニール処理品(実施例)は、図11(MnCoCu系)及び図13(MnCoNi系)に示すように、スピネル正方晶(空間群I41/amd)を2相含む相であった。それぞれの格子歪は、1.14程度(第1相)と1.01程度(第2相)とであった。なお、上記第2相は、立方晶に近い格子歪であったため、リートベルト解析の際、第2相の結晶系を立方晶として実施したが、その結果、リートベルト解析評価に用いられるRwp値およびS値(=Rwp/Re値)が大きくなったため、本実施例は第2相も正方晶と結論付けた。
なお、リートベルト解析を実施した結果、第1相と第2相との比率は、50%(±5%):50%(±5%)であった。したがって、アニール処理前は格子歪が1.07程度であり、アニール処理後に格子歪1.14の正方晶と格子歪1.01の正方晶とに同程度の量に相が分かれていると考えられる。
参考データとして、アニール前後におけるスピネルの単位格子体積を算出した。単位格子体積は、リートベルト解析により得られた格子定数の値を用いて算出した。まず、アニール処理前のスピネル単相の単位格子体積と、アニール処理後のスピネル2相の平均の単位格子体積とが、定量精度の範囲内で同じであった。
実施例8(MnCoCu系)のアニール処理前のスピネル単相の単位格子体積=0.2947±0.0002nm
実施例8(MnCoCu系)のアニール処理後のスピネル2相の平均単位格子体積=0.2948±0.0002nm
実施例16(MnCoNi系)のアニール処理前のスピネル単相の単位格子体積=0.2945±0.0002nm
実施例16(MnCoNi系)ののアニール処理後のスピネル2相の平均単位格子体積=0.2946±0.0002nm
また、得られた単位格子体積と組成値とを用いて、理想密度を算出し、サーミスタの相対密度を評価した。アニール処理前、アニール処理後のサンプルともに、相対密度は97%以上あり、緻密なサーミスタ焼結体が得られていることを確認した。
次に、Mn/(Mn+Co)比と格子歪と上記効果(1)(2)(3)との関係について調べた結果を、表4に示す。なお、上記格子歪は、表4において「c/√a」と表記している。
この結果からわかるように、Coに対してMn量が多い単一相では、格子歪が1.14以上となっており、このとき、高B定数である(上記効果(2)を達成)と共に、高温域のB定数が大きくなっている(上記効果(3)を達成)。スピネル酸化物におけるBサイトのMnイオンに着目すると、a軸方向に比べて、c軸方向の結晶軸が大きくなっているため(本実施例にて定義した格子歪が大きくなっているため)、BサイトのMnイオンが中心に位置するBO6八面体(Oは酸素イオン)がc軸方向に伸びていると考えられる。いわゆるMnイオンのヤーンテラー効果が大きくなっていることを示唆し、このことが低温域よりも高温域のB定数が大きくなっている要因であると考えられる。また、Co量が少ないために、B定数が大きくなっていると考えられる。ただし、この場合、スピネル酸化物中の電子の電気伝導が小さくなってしまい、電気抵抗率が大きくなってしまう。つまり、格子歪が1.14以上の単一相であると、上記効果(1)を達成することができない。
一方で、Mnに対してCo量が多い単一相では、低い電気抵抗率である(上記効果(1)を達成)と共にB定数は4000K以上(上記効果(2)を達成)を確保している。しかしながら、格子歪が小さくなっているため、低温域に比べて高温域のB定数が小さくなる。すなわち、上記効果(3)を実現できていない。その理由は、Mnイオンの数が少なくなったためにヤーンテラー効果が小さくなり、その結果、格子歪が小さくなったためと考えられる。
これらに対して、本発明の実施例で示した正方晶2相の領域では、格子歪が1.14と大きい上記効果(2)(3)を含む相と、格子歪が1.01と小さい上記効果(1)(2)を含む相との両方の相が含まれるため、3つの上記効果(1)(2)(3)を同時に創出することができている。
次に、図8に示すMn/(Mn+Co)比とCu/(Mn+Co+Cu)比との相図と、図9に示すMn/(Mn+Co)比とNi/(Mn+Co+Ni)比との相図とからわかるように、Cu,Niを添加すると、B定数が減少して上記効果(2)が小さくなる。
B定数4000K以上を確保するには、Cu量(=Cu/(Mn+Co+Cu)比)、Ni量(=Ni/(Mn+Co+Ni)比)を、2%以内の添加に抑えなければならない。
Cu,Niを加えると、B定数が減少し、かつ、電気抵抗率が減少しており、MnCo2元系の結果より、上記効果(3)が小さくなると予想されたが、上記結果は、Cu,Niを2%以内の微量添加に抑えることで、特に上記効果(3)を維持しながら、上記効果(1)の抵抗率を小さくすることが有効であることが示された。
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
1…サーミスタ素子、2…サーミスタ素体、3…電極

Claims (3)

  1. サーミスタに用いられる金属酸化物材料であって、
    一般式:(MnCo(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、
    その結晶構造が、スピネル構造であり、かつ、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものであることを特徴とするサーミスタ用金属酸化物材料。
  2. 請求項1に記載のサーミスタ用金属酸化物材料で形成されたフレーク状のサーミスタ素体と、
    前記サーミスタ素体の両端面に形成された一対の電極とを備えていることを特徴とするサーミスタ素子。
  3. 請求項1に記載のサーミスタ用金属酸化物材料を製造する方法であって、
    MnCO、CoCO、CuO及びNiCOの各粉末のうち、少なくともMnCOとCoCOとの粉末を混合して混合粉末を作製する工程と、
    前記混合粉末を焼成してスピネル酸化物相からなる仮焼粉を作製する工程と、
    前記仮焼粉とバインダーとを混合した混合物でグリーン成形体を成形する工程と、
    前記グリーン成形体を焼成して焼結体を形成する工程と、
    前記焼結体を800℃から1000℃の間で大気中においてアニール処理する工程とを有していることを特徴とするサーミスタ用金属酸化物材料の製造方法。
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