JP2014195014A - サーミスタ用金属酸化物材料及びその製造方法並びにサーミスタ素子 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 サーミスタに用いられる金属酸化物材料であって、一般式:(MnxCoyMz)3O4(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、その結晶構造が、スピネル構造であり、かつ、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものである。本発明のサーミスタ素子は、上記サーミスタ用金属酸化物材料で形成されたフレーク状のサーミスタ素体と、サーミスタ素体の両端面に形成された一対の電極とを備えている。
【選択図】図1
Description
一方で、高温域より低温域のB定数を大きくすることで、低温域から高温域にわたって温度検出精度を高めることができるが、そのような思想で提案された技術が既にある。例えば、特許文献4に記載されているように、チタン酸バリウム系半導体を用いることにより、低抵抗で、かつ、立方晶から正方晶への相転移温度以上の温度におけるB定数が、相転移点以下の温度におけるB定数よりも相当に大きい負の抵抗温度特性を実現することができる。しかしながら、室温近傍の温度域のB定数が1000K以下で、十分な温度検出精度を確保することが困難である。
NTCサーミスタ材料は、温度に対して抵抗値が指数関数的に減少していく振舞いを用いて、温度センサ用途として用いられている材料であり、抵抗値の温度係数であるB定数を用いて抵抗値が以下のように表される。
R=R0exp(B×((1/T)−(1/T0)))
(R:抵抗値、B:B定数、T:温度(K))
なお、B定数算出方法は、上述の式を用いており、例えば、B(25℃−50℃)は、25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
一般的に家電製品に使用される温度センサの25℃の抵抗値は1〜10kΩ程度であることがしばしばであり、50kΩ以上あると低温域の抵抗値が非常に小さくなり、抵抗値検出が困難となり、低温の温度を測定が困難となる。そこで、抵抗値を小さくするために、内部電極を使ったチップサーミスタが使用される。このような内部電極構造タイプのチップサーミスタは、焼成前のグリーンシート上にAg−Pd等の電極を印刷により配列し、シートを重ねて、プレス成形し、さらに焼成という各工程を経る。したがって、電極間の距離と断面積とで決まる抵抗値は、焼成前の印刷工程で決まってしまうため、焼成後に調整することが困難であり、また、印刷精度により抵抗値の歩留まりが決まってしまう。したがって、内部電極構造タイプは、内部電極が無いシンプルな構造タイプに比べて、歩留まりが高い高精度なサーミスタ素子を得るのが難しく、また製造コストも高い。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)25℃での抵抗率ρ25が3000Ωcm以下であること(以下、効果(1)と称す)、
(2)B定数(25℃−50℃)が4000K以上であること(以下、効果(2)と称す)、
(3)高温域のB定数が低温域のB定数より大きいこと(以下、効果(3)と称す)
の3つの特性を有している。
すなわち、このサーミスタ素子では、フレーク状のサーミスタ素体が上記第1の発明のサーミスタ用金属酸化物材料で形成されているので、内部電極の無いシンプルな構造であっても、低い抵抗率及び高B定数が得られると共に高温域でB定数が大きくなる高精度なサーミスタ特性が得られる。
すなわち、このサーミスタ用金属酸化物材料の製造方法では、所定組成の焼結体を800℃から1000℃の間で大気中においてアニール処理する工程を有しているので、スピネル正方晶の単相であった焼結体がアニール処理によってスピネル正方晶を2相含む結晶構造となってB定数が上昇し、B定数の温度変化(ΔB)も大きくなったサーミスタ用金属酸化物材料が得られる。
また、サーミスタ素子を作製する場合の電極焼付前にその温度域(800℃〜1000℃)でアニール処理をするので、アニール処理していないものよりも抵抗率及びB定数のばらつきの小さく、かつ、耐熱信頼性の高い材料が得られる。
すなわち、本発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料によれば、一般式:(MnxCoyMz)3O4(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、その結晶構造が、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものであるので、25℃での抵抗率ρ25が3000Ωcm以下、かつ、B定数:B(25℃−50℃)が4000K以上であると共に、高温域のB定数が低温域のB定数より大きいサーミスタ特性を得ることができる。したがって、測定温度域において、結晶構造相転移することなく、低温から高温まで高い温度検出精度を得ることができる。
また、本発明に係るサーミスタ用金属酸化物材料の製造方法によれば、所定組成の焼結体を800℃から1000℃の間で大気中においてアニール処理する工程を有しているので、アニール処理によってB定数が上昇し、さらに、B定数の温度変化(ΔB)も大きくなったサーミスタ用金属酸化物材料が得られる。
したがって、本発明のサーミスタ用金属酸化物材料を用いたサーミスタ素子によれば、内部電極の無いシンプルな構造であっても、低い抵抗率及び高B定数が得られると共に高温域でB定数が大きくなる高精度なサーミスタ特性が得られる。
また、上記点E,F,G,Hの各組成比(x、y、z)は、E(57.0、43.0、0.0),F(53.0、47.0、0.0),G(51.94、46.06、2.0),H(55.86、42.14、2.0)である。
ここで、c軸長/(√2×a軸長)に関して、立方晶の場合、その値は1.00である。しかしながら、本実施形態の正方晶単相および正方晶系の2相系においては、c軸長よりも、(√2×a軸長)の方が大きいため、格子歪であるc軸長/(√2×a軸長)は1.00よりも大きい値を示す。
次に、このグリーン成形体を脱バインダー処理した後、1100〜1200℃、5〜15時間の焼成を行い、焼結体ブロックを作製する。なお、この時点で得られた焼結体ブロックは、正方晶の単独相を有している。
したがって、本実施形態のサーミスタ素子1では、フレーク状のサーミスタ素体2が上記サーミスタ用金属酸化物材料で形成されているので、内部電極の無いシンプルな構造であっても、低い抵抗率及び高B定数が得られると共に高温域でB定数が大きくなる高精度なサーミスタ特性が得られる。
なお、サーミスタの組成比は、EPMA(電子プローブ微小分析器)にて調査し、x,y,zそれぞれ、±0.5mol%の定量精度内で、仕込みの組成比と同等であることを確認した。なお、EPMAの分析条件は、15kV、50nAであり、30μmφの領域を組成分析している。結晶構造の異なる2相の材料に対しては、30μmφの領域における平均の組成比として定量している。
なお、図4及び図5中の低抵抗かつ高B定数の範囲にプロットされている比較例は、上記効果(3)が実現されていない。これは、図8及び図9に示すように、Mn/(Mn+Co)比が0.53よりも小さいことに起因する。
また、上記実施例及び比較例について、B定数の温度変化とMn/(Mn+Co)比との関係を、図6及び図7に示す。これらの図からわかるように、本発明の実施例では、Mn/(Mn+Co)比が0.53〜0.57(53mol%〜57mol%)の組成時に、高温域のB定数が低温域のB定数より大きく(上記効果(3))、上記効果(1)〜(3)を同時に達成している。
なお、図6及び図7中の、ΔB>0%が実現されている比較例のデータのうち、Mn/(Mn+Co)比が0.57よりも大きいデータについては、電気抵抗率が3000Ωcmよりも大きく、上記効果(1)が実現されていない。これは、Mn/(Mn+Co)比が0.57よりも大きく、スピネル酸化物中の電子の電気伝導が小さくなっていることに起因する。
また、図6及び図7中の、ΔB>0%が実現されている比較例のデータのうち、Mn/(Mn+Co)比が0.53〜0.57の範囲内のデータについては、B定数が4000Kよりも小さく、上記効果(2)が実現されていない。これは、Cu/(Mn+Co+Cu)比、もしくは、Ni/(Mn+Co+Ni)比が0.02よりも大きいことに起因する。
表3に示すように、アニール処理前後で特性に差異がみられる。すなわち、アニール処理をすることで、B定数が上昇すると共に、B定数の温度変化(ΔB)も大きくなっている。また、後述するXRD回折実験の結果により、アニール処理することで結晶相が2相になり、そのことがΔBを大きくすることに効果的であることが判明している。
なお、このXRD回折では、管球をCuとし、2θ=15〜100度の範囲で測定した。また、Cu管球を用いた場合、Co,Mnは蛍光X線が励起しやすい物質であるので、蛍光X線除去モードにて、XRD回折データを取得した。
ここでは、算出された格子定数を用いて、格子定数の比率:c軸長/(√2×a軸長)を求めた。本実施例においては、スピネル結晶構造内の格子歪の量を、この格子定数の比率として定義することにより、格子歪量を評価した。
格子歪=c軸長/(√2×a軸長)
なお、この格子歪が1.00のときは、立方晶であり、本定義における格子歪がないことに相当する。すなわち、立方晶は、a軸方向とc軸方向との格子定数が同じであり、正方晶(空間群I41/amd)よりも対称性の大きい、立方晶、空間群Fd3mとして指数づけられる。
この評価の結果、アニール未処理品(1150℃焼結後未処理品)と850℃でアニール処理を実施したアニール処理品(実施例)とにおいて、結晶相の差異がみられた。
参考データとして、アニール前後におけるスピネルの単位格子体積を算出した。単位格子体積は、リートベルト解析により得られた格子定数の値を用いて算出した。まず、アニール処理前のスピネル単相の単位格子体積と、アニール処理後のスピネル2相の平均の単位格子体積とが、定量精度の範囲内で同じであった。
実施例8(MnCoCu系)のアニール処理前のスピネル単相の単位格子体積=0.2947±0.0002nm3
実施例8(MnCoCu系)のアニール処理後のスピネル2相の平均単位格子体積=0.2948±0.0002nm3
実施例16(MnCoNi系)のアニール処理前のスピネル単相の単位格子体積=0.2945±0.0002nm3
実施例16(MnCoNi系)ののアニール処理後のスピネル2相の平均単位格子体積=0.2946±0.0002nm3
また、得られた単位格子体積と組成値とを用いて、理想密度を算出し、サーミスタの相対密度を評価した。アニール処理前、アニール処理後のサンプルともに、相対密度は97%以上あり、緻密なサーミスタ焼結体が得られていることを確認した。
これらに対して、本発明の実施例で示した正方晶2相の領域では、格子歪が1.14と大きい上記効果(2)(3)を含む相と、格子歪が1.01と小さい上記効果(1)(2)を含む相との両方の相が含まれるため、3つの上記効果(1)(2)(3)を同時に創出することができている。
B定数4000K以上を確保するには、Cu量(=Cu/(Mn+Co+Cu)比)、Ni量(=Ni/(Mn+Co+Ni)比)を、2%以内の添加に抑えなければならない。
Claims (3)
- サーミスタに用いられる金属酸化物材料であって、
一般式:(MnxCoyMz)3O4(但し、MがCu及びNiの少なくとも一種を示す。0.53≦y/(x+y)≦0.57、0.0≦z≦0.02、x+y+z=1)で示される金属酸化物からなり、
その結晶構造が、スピネル構造であり、かつ、a軸長/c軸長の比率が異なる正方晶系の結晶を2相含んでいるものであることを特徴とするサーミスタ用金属酸化物材料。 - 請求項1に記載のサーミスタ用金属酸化物材料で形成されたフレーク状のサーミスタ素体と、
前記サーミスタ素体の両端面に形成された一対の電極とを備えていることを特徴とするサーミスタ素子。 - 請求項1に記載のサーミスタ用金属酸化物材料を製造する方法であって、
MnCO3、CoCO3、CuO及びNiCO3の各粉末のうち、少なくともMnCO3とCoCO3との粉末を混合して混合粉末を作製する工程と、
前記混合粉末を焼成してスピネル酸化物相からなる仮焼粉を作製する工程と、
前記仮焼粉とバインダーとを混合した混合物でグリーン成形体を成形する工程と、
前記グリーン成形体を焼成して焼結体を形成する工程と、
前記焼結体を800℃から1000℃の間で大気中においてアニール処理する工程とを有していることを特徴とするサーミスタ用金属酸化物材料の製造方法。
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